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迷いながら、それでも… の変更点


writer is [[双牙連刃]]

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 青い空に前脚を伸ばして、軽く電気を集める。自分で腕枕なんか出来ればするんだが、生憎体の構造上無理だから体の横に片方は置いてる。
野良になって以来、こいつを使った事は一度も無い。あの薬事件の時に使ったのはこれじゃないからノーカンだな。
一分、それくらいを前脚に集めて放つだけで並みのポケモンなら倒す事が出来る。三分も集めてやればそこいらの普通の電気タイプ五匹に纏めて十万ボルトを撃たれても相殺出来る火力になる。
全力を開放すれば……止めよう、思い出しても良い事なんざ一つもねぇ。それにもう、俺は二度とこいつを解放しねぇ。

――君はね? 化け物なんかじゃないよ。誰よりも優しいから、神様も安心して君にその力を預けたんだよ……。

 ……神って奴が居るかは知らねぇ。が、居るとしたら一つだけ聞きたい。
何故、この力を生み出した? 俺に何をさせたい? ……はは、これじゃ二つか。

「全てを消し去る力、か……」

 全てを永劫に消滅させる異形の力……ポケモンが、いや、生きているもんが持っちゃいけねぇ禁断の力。それが、俺の中には確かに存在してる。
集めた電気を散らして、流れてきた雲を目で追う。野良でふらふらしてた時もこうして、一日中空を見続けた日なんてあったな。
最近のリィを見てると、俺がどれだけ臆病者なのかを痛感する。あいつは、自分の中のとんでもない力から逃げずに、一生懸命に自分の物にしようとしてる。そして、力を使わないでも強くなろうとしてる。
俺は……力の恐ろしさから逃げた。二度と使わないって決めたのも、他の誰かの前に、自分を守る為だった。とんでもない臆病者だ。

「なんなんだろうな、俺って」

 普通のサンダースにもなれないし、完全な化け物になる事も出来ない。中間をふらふらと彷徨ってる大馬鹿野郎、それが今の俺、か。
……はぁ、独りになりたくて屋根まで上ってきたが、なんか余計にもやもやしちまったな。良い天気なんだし、散歩でもしてくるかね?
庭ではリィがプラスと一緒に遊んでる。今日家に残ってるのは……レンとフロストだったか。ま、俺が居なくても何とかなるだろ。
一言言って、ちょいと出掛けるとするかいね。庭に下りると面倒だし、玄関の方から回り込んで入るか? いや、別にいいか。
あいつ等の上に降りないように……ほいっと、着地も完璧。

「うわぁ!? って、ライト?」
「うえぇ? 何処に居たのさー?」
「ん? 屋根の上。天気良いから日光浴ってな」

 嘘ばっか。ま、本当の事言う訳にもいかんし、許してくれや。

「……ライトなら普通に上れるか。うーん、僕も行ってみたいな」
「落っこちてもしらねぇぞ? 止めとけ止めとけ」
「そんなのずるいー、連れてけー」
「ったくしょうがねぇなぁ。怪我すんじゃねぇぞ?」

 リィとプラスを乗せて、また屋根の上まで跳び上がる。リィも居るし、馬鹿な事する心配は無いだろ。

「おー! 高いー!」
「気に入ったか? ま、暴れなきゃ落ちる事もねぇだろうし、しばらく楽しんでろよ」
「あれ? ライト何処か行くの?」
「散歩にな。降りるのは大丈夫だろ?」
「え? あ、うん……」
「んじゃ、ちっと行ってくるわ」

 二匹をそのまま屋根の上に残して、俺はそのまま降りる。そんで今度は家の中か。
おっ、レンもフロストもソファーに居たか。言付けて行くには丁度良いぜ。

「よぉ、俺、今からちょっと出掛けてくるわ。昼飯までに戻って来なかったら俺の事は待ってなくていいぜ」
「あ、そうなの? 何処行くの?」
「いや、ただの散歩さね。ただ、それなりにぶらぶらしてくるつもりってだけだ」
「散歩ねぇ……退屈だし、あたしもついて行こうかしら」
「ん? ついて来ても面白いもんはねぇぞ?」
「行きたくなったから行くだけよ」

 そう言ってフロストがソファーから降りた。乗ってこないって事は本当に散歩する気か。こりゃ珍しい。
とりあえずレンに行ってくるとだけ言って、横についたフロストと一緒に家を出た。そういや、こいつと二匹っきりになるのはこれが初めてだな。
出る時は10時ちょい過ぎだったから、町の中の通行人もそれなりに居る。こうして歩くのは……レンと出掛けた時以来かね?
あん時はレンについて歩いてたから目的地があったが、これはただの散歩だしなぁ、何処行くかな?
適当でいいか。迷ったら家の上とか行けばどの辺か分かるし、気にする事ねぇよな。

「……あんた、何かあったでしょ?」
「あん? なんだよ急に?」
「いつものヘラヘラした感じが無いし、明らかにうわの空になってるわよ」

 ありゃ、自分じゃ意識して隠してるつもりだったんだけどな。見抜かれるとは、俺もまだまだだな。
気付かれても話せる話じゃないし、誤魔化して終わらせるか。

「いつもこんなもんだろ? 特に変わってないぜ」
「ふーん、別にあんたが何を隠しててもいいけど、話したくなったら聞いてあげるだけ聞いてあげてもいいわよ?」
「おろ? なんだ、無理矢理聞き出そうとするかと思ったんだがな」
「今のあんたにそれやっても張り合い無さそうだからね、からかい甲斐がありそうな時まで取っておくわ」

 ちぇっ、なんか全部見透かされてる気分だぜ。それだけ俺が分かり易く凹んでるって事か。らしくねぇ、かな。
しばらくは何も話さずに歩いた。ただ、俺の中のもやもやが口を開くのを躊躇わせたからなんだが。
他愛の無い話も思いつかないくらいに今の俺は燻ぶってる。一発ガツンと発散させないとこりゃ駄目かもな。
……もしかしてフロストは、それをなんとなく感じて、俺と一緒に来たのか? まぁ、気晴らしには物珍しくていいけどよ。

「おっ、珍しいポケモンがうろうろしてんじゃん。サンダースとグレイシアか」
「ん?」
「トレーナーね」

 ふーん、茶髪のちゃらちゃらした奴が目の前に止まった。腰のベルトにボールが付いてるし、フロストが言う通りトレーナーだろうな。
いつもなら相手にしないが、今日は別に相手してやってもいいかな。どうせ負けるような気はせんし。

「近くにトレーナーも居なさそうだし、もしかして捨てられたポケモンって奴? うわ、マジラッキー」
「だとしてもお前みたいな奴の手持ちになるのは御免だ。失せるなら恥だけは掻かずに済むぞ?」
「あたしも同じね。ちゃらけたトレーナーを主人にするくらいなら新米トレーナーの手持ちになる方がまだマシよ」
「……カッチーン、俺マジ怒っちゃったよ。お前等捕まえてこき使ってやるからな」

 ……はぁ~、本当に格下を相手にするのは面倒だな。無駄な労力としか思えん。
いきなりボールを投げつけて捕まえる気だったんだろうが、浅知恵にも程がある。一個は俺が収束電磁波で撃ち落したし、もう一個はフロストが一瞬で凍らせた。ふぅん、氷の飛礫でコーティングした感じだな。

「下らねぇ……こんなもんで本当に捕まえる気あんのかよ?」
「相手するだけ無駄ね。実力も底が知れたわ」
「こ、この、後悔しても遅いからな!」

 お、ポケモンをけし掛けてくる度胸はあったか。そうじゃなけりゃ、おちょくった甲斐が無いっての。
ほう、ガブリアスにブーバーンか。なかなか悪くないポケモン持ってんじゃねぇか。

「ガブリ、お前はあのサンダースを狙え。ブーバはグレイシアだ」
「ですって。どうする?」
「聞く必要あるか?」
「無いわね。じゃ、任せるわ」
「あいよ」

 お互いに馬鹿だよな、向かってきた相手にそのまま相手する事にしてんだから。ま、格下相手には丁度良いハンデだ。
地面を滑る様に向かってきたガブリアス。へぇ、結構早いじゃねぇか。だが、俺を捉えるには遅過ぎる。
両腕に付いてる刃が当たる寸前に俺は目の前から消える。驚いてる暇は無いぜ?

「ほら、防御しろよ」
「何、上!?」

 気付いた時にはもう終わってんだよ。振りかぶった前脚をガブリアスの背の中心に振り下ろす。一割ってところだな。

「うごがぁ!? げばっ……ぐ……」
「へぇ、一撃じゃ落ちないか。タフだねぇ」

 立ち上がったのを賞賛しつつ、フロストのほうを見る。あぁ、完全に遊んでやがる。
多分氷の飛礫を固めて作ったと思われる板切れに乗って、ブーバーンの頭を上をひらひら飛んでやがる。フロストの氷支配ってあんな風にも使えるんだな。便利そうだー。
はは、ブーバーンの奴躍起になってフロストを撃ち落そうとしてやがる。掠りもしないんじゃ頭に来るわな。

「てめぇ、余所見してんじゃねぇ!」
「やれやれ、低脳の手持ちはやっぱり低脳か。面白いもん見れるんだ、楽しもうぜ?」

 俺を狙って突き出してきた爪を弾いて、体勢を崩したところに飛び込む。そのまま……腹のど真ん中に前脚を食い込ませた。

「うげぁっ!? う、ごぼぉ……」
「汚ねぇなぁ。ま、掛からなかったからいいか」

 びちゃびちゃ音を立てながら嘔吐して、ガブリアスはそのまま気絶っと。自分の吐いたもんの上に捨てるのは流石に可哀想か……横に捨てといてやろう。
さて、フロストはっと。お? どうやらブーバーンの奴、PP切れ起こしたな? 腕の噴射口からもうチロチロっとしか炎が出てねぇや。

「おーいフロスト。あんまり虐めてないでさっさと決めろって」
「そうねぇ。じゃあね、坊や」

 乗っていた氷の板からフロストは飛び降りて、板は無数の氷の粒に変わった。それがそのまま、ブーバーンに降り注ぐ。

「ぐぅ! はん、こんな氷が俺に効くか!」
「まぁ、それはそうでしょうね。でも、体は十分に濡れたでしょ?」
「ん? こんなもんすぐに乾いて……」
「乾く前にそれを凍らせたらどうなるかしら?」

 うぉ、フロストを中心に冷気が渦巻きだした。これは……吹雪と凍える風? 同時に二つの技を発動してんのか?

「白い抱擁、包まれて眠りなさい」
「な、ぐぁぁぁぁぁぁ!」

 逆巻く冷気が白い竜巻になってブーバーンを包んだ。こうしてフロストが戦うところは初めて見たが、なかなかどうして、滅茶苦茶強ぇじゃねぇか。
頭の水晶から出てる飾りをふわりと払って、白い竜巻は治まった。中央に、ブーバーンの氷像を残して。

「あら、ちょっとやり過ぎたかしら?」
「そん、へぁ、に、ほぁ」
「あらら、あまりのショックでおかしくなったか? まぁ、ほっとけば正気に戻るか」
「でしょうね。あ、あの坊やだけ出してあげて。あのままだったら溶けるまでに永眠するだろうから」
「へいへい」

 どついて氷を割ったら、凍ったそのままの姿でその場に倒れこんだ。炎タイプなのに凍らされるとは思ってなかっただろうし、前脚だけ合わせといてやろう。
終わってみればあっという間だな。放心したトレーナーにダウン状態のポケモン二匹、完成だ。

「しっかし、二つの技の同時発動か。とんでもない威力だな」
「あら、分かったの? ハヤトと一緒に居ると使う機会が無いから滅多に使わないけど、こういうバトルなら別に遠慮する必要も無いでしょ」
「違ぇねぇ。さて……放心してるから聞こえてるが知らんが、喧嘩売った相手が悪かったと思って諦めろや。そんじゃ~な~」

 どっちも掠り傷一つ無く戦闘終了。ん~、久々にちっと戦闘らしい事したから息抜きくらいにはなったかね?
しかし、本来は天敵と言っても過言じゃないタイプの相手を涼しい顔して蹴散らしてるんだから、俺もフロストも大したもんだよな。

「……なーにちょっとすっきりした顔してるのよ」
「ん? そうか?」
「何のこと悩んでるか知らないけど、あんた勘違いしてるわよ。多分」
「勘違い?」
「あんたは特別だけど、皆それぞれ特別なの。大なり小なり、誰かに出来ない事を別の誰かは出来る。そんなもんよ、特にポケモンはね」
「……そうかもな」
「かもじゃなくてそうなの」

 ははっ、まったく慣れない励ましなんかするなっての。早足で歩かれたら、置いてかれちまうじゃねぇか。
そっか、こいつなりに俺の事を気にしてくれたんだな。そっか……。

「……なぁ、フロスト」
「何よ?」
「ちっとだけ、面白くない話に付き合わないか?」
「……さっき聞いてあげるって言ったからね。良いわよ、何処か静かなところでも行こうかしら」
「おぉ、そうするか」

 誰にも見せない事で、俺はこの力に鍵をした。でもそれは、俺自身が前に進む為の道を閉ざす事にもなった。
何時まで、逃げ続ける? ……俺は、ケリをつけなきゃならないんだ。自分の力と、過去に。

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「ほぉ、こんな所があったのか」
「家から結構離れてるからあまり来ないんだけどね。静かだし、話をするなら丁度良いでしょ?」

 俺達が居るのは小さめの公園。シーソーや何やらの遊具で子供とポケモンが一緒に遊んだりしてるが、十分に静かな部類に入るだろ。
今から始めるのは、俺の昔話。俺の、始まり。
その前に、俺の力がなんなのかをフロストに種明かししちまうか。多分、家の奴等皆が知りたい事だろうし。

「それで、話って?」
「……お前は俺の身体能力の高さ、どう思ってる?」
「はっきり言っておかしいわよね。サンダースなのに怪力だし、幾ら脚の早い種族だと言っても限度を超えてるし」
「ずばり言ってくれるな……まぁ、言いたい事は分かるがな。今から話すのは、これの種明かしだ」

 この身体能力、実はサンダースになる前からあった物だ。つまり、生まれたてのイーブイの頃からな。
俺は、ある研究施設で産声を上げる事になった。ポケモンの能力を調べ、より向上させる研究を行っていたな。
勘違いしないでほしいが、俺はそこの研究の成果って訳じゃない。研究に使われていたイーブイ系のポケモンが作ったタマゴ、それから孵ったに過ぎない。
で、その親は研究用のポケモンを増やす為に連れて来られた奴で、研究の成果とやらで弄られてはいなかったんだと。ま、俺も聞いただけだからなんとも言えんがな。

「ちょっと待って。そんな研究許されるの?」
「もちろん許されたもんじゃなかっただろうな。もう跡形も無いから、調べようも無いが」
「跡形も無い? それって、どういう事?」
「一匹のポケモンの暴走によって、文字通り消し飛んだんだ。そこの研究者達は、そいつの力を自分達なら制御出来るって勘違いしてな」

 そこで研究員達によって俺は育てられた。不安定な遺伝子を持つ特異なポケモンだからな、イーブイは。
だが、俺には他のイーブイには存在しない遺伝子パターンがあった。それまでのどんなポケモンにも見つかってない、な。
不安定でありながらも、イーブイという個体を作り出すための遺伝子配列は確かに存在する。でも俺には、余計な遺伝子パターンが他に存在していた。

「オリジナルパターン、ナンバー0。明らかに他のイーブイと違う遺伝子を持っていた俺に付けられた、最初の名だ」
「ナンバーって……他にもそんなイーブイが居たの?」
「いや、後続のナンバーは存在しない。……皆、ある実験で死んでいったからな」
「死ん、え?」
「遺伝子操作……」

 俺と同じ遺伝子を持った個体を生み出せるか、それを奴等は知りたかったらしい。結果は散々たるものだったのは言うまでも無いな。
どんなイーブイにも、果てはどんなポケモンにも、俺と同じ遺伝子を組み込む事は出来なかった。そもそもそんな存在が生まれる事自体がイレギュラーなんだ。
誰にも適合しないその遺伝子が俺に与えたもの……それが、この高過ぎる身体能力だ。

「……え? おかしいじゃない。その遺伝子って、生き物の設計図っていうのよね? 前にテレビで少し見ただけだからよく分からないけど」
「あぁ、そういう事で間違ってないぜ」
「じゃあ、あんたの親にも同じものがあったんじゃないの? 確か、親の設計図の一部が子供に引き継がれるのよね?」
「博識じゃねぇか。あぁ、その通りだ。が、俺の親になったポケモンからはそんなものは見つからなかったそうだ」

 そう、この遺伝子は俺にのみ突然現れた。遺伝子って奴の定義を無視してだ。
俺に備わった力が見つかったのは、多くのポケモンが犠牲になった後だ。馬鹿だよな、どんなものか分かってもいない遺伝子を無理矢理他のポケモンに入れようとするなんてよ。
そして……一人の研究員が、俺の中にあったもう一つの力を目覚めさせる行為をしちまったんだ。

「……まさか、進化?」
「ご名答。そいつは進化によって俺の力がどう変化するのかが知りたかっただけだったみたいでな、今の姿を見れば分かるとおり、強制的に俺には雷の石が使われた」

 進化をする時、俺の中で何かが断ち切れるような感覚がした。そして……。

「何が、起こったのよ」
「急な開放によって俺の中の力が溢れ出した。……消滅の光がな」

 俺を中心に発生した力場は、俺以外の全てを飲み込み、研究所があった場所にはクレーターみたいな跡だけが残される事になった……。
話はこれで終わり。後は、実際に見せてやるだけか。
手頃な石を前脚の先に載せて、電気を溜め始める。溜めれば溜めるほど密度は増していき、電気は……光へと変わる。
前脚の先の僅かな空間だけに力場を生み出すと、載っていた石は跡形も無く消えた。これが俺の電気の完全解放、消滅の光。

「本当に消えたわね……」
「手品でも何でもねぇ。これが、俺の真の力だ」
「消滅……規格外にも程がある力でしょ」
「おっかねぇだろ? 俺自身、怖くて仕方ねぇよ。だから俺は、二度とこれを使わねぇって決めて、今日まで生きてきた」
「それを、なんであたしなんかに急に話したのよ?」
「……自分の中で、ケジメをつけたかった。使わない誓いは変わらないが、それを隠したままお前達と、これからも暮らしてていいのかと思ってよ」

 流石に、重い話だったよな。今までこんな力を持つ化け物と、同じ屋根の下に居たんだから。
でも、今しか話せない気がしたんだ。他の奴にはきっと、話す事が出来ねぇから。

「やっぱり俺は、誰かの傍に居ちゃいけねぇんだよな。この力がある限り」
「ライト」
「……え?」

 目を閉じたフロストの顔が、真横に見える。ひんやりとしたものが、体に触れてる。
結論を言うと、俺がフロストに抱かれる状態になってる。

「フロ、スト?」
「……安心したわ。あんたもちゃんと悩んだり迷ったりするのね」
「そりゃ俺だって、何にも考えてない訳じゃないからな。っていうかどうしたんだよ?」
「消滅の光、だったわよね。あれって、あんたが自分で使おうとしない限り出ないんでしょ? こうやって触れられる事が、その証拠よね?」
「あ、あぁ」

 フロストの体が離れて、俺の前に笑いかけてくるフロストが居る。今のは、なんだったんだ?

「まったく、リィに力は使いようだとか何とか教えながら、あんた自身がそれをやってないんじゃない。呆れるわ」
「うっ、そりゃそうだけど、俺のこれはおいそれと使えるもんじゃねぇだろ」
「リィの空間の力だってそうじゃない? 神様なんて呼ばれてるポケモンと同じ力なのよ?」
「まぁ……確かに」
「……寂しい事は言いっこ無しよ。あんたが居なくなったら、誰があんたの代わりをするのよ?」

 俺の、代わり? いや、俺が居なくなっても、俺が居なかった頃に戻るだけだろ?

「考えてるだろうから言うけど、あんたが居なかった頃よりかなり家の中の様子は変わってるの。今更元には戻らないわよ」
「ぬぅ、読まれたか」
「ソウもあんたを慕ってるし、リィにもまだあんたが必要。そしてなにより……ううん、これは直接当事者から聞いた方がいいわね」
「なんだよ、急に言うの渋って」
「今はいいの。帰ったら、誰の事だか分かるようにしておくから」

 帰ったら、か。今の話を聞いて、まだ俺を拒まないのか。

「フロスト、お前は、俺があの家に居てもいいって言うのか? 消滅なんていう危険性を持ってる俺を」
「そうねぇ、しばらく他の皆には話せないでしょうね。でもあたし的に言えば、居心地の良いところが減るのはごめんね」

 そう言って、フロストは俺の背に乗ってきた。居心地の良い場所ってそう言う事かよ。
……話した事でもやもやは無くなった、とは言い切れないか。結局、フロスト以外の奴とは何も変わった訳じゃないし。

「その分だと、あたしにとんでも発言してもすっきりしてないようね」
「まぁ、な」
「それなら、出て行くなんて言わないで自分の納得いく形にその力を持っていくしかないんじゃない?」
「俺の納得のいく形に、消滅の光を?」
「あんたが危惧してるのって、その力の暴走なんでしょ? なら、絶対に暴走しない力にしちゃえばいいじゃない」

 確かに、俺の不安要素はそれだ。今の話だけでそこまで分かったのか? 
暴走によって力が開放されない限り、消滅の光を使うのには大量の電気を溜める必要がある。つまり、よっぽどの事が無い限り任意でもこいつを使える機会は無い。
だからこそ、今まで使わないでこれたんだ。さっきみたいに小規模になら、割とすぐに発動出来るけどな。

「あんたも結構過去引きづってるのねー。その研究所を消したのがよっぽどのショックだったって事よね」
「……その時にどれだけの人間とポケモンを巻き込んだと思う?」
「あー……今のは軽率だったわ。よく考えればそう、よね」

 はぁ、なんかだんだん難しく考えてたのが馬鹿らしくなってきた。どれだけ力を使わないようにしても、消した者が帰ってくる事は無いんだよな。
あの人は、もう二度と還ってこない。俺の罪が許される事も……いや、俺自身が俺を許せる日も来る事は無い。それはもう変わらないんだ。
俺が逃げ続けてたのはその事実からだ。変わらないからこそ、何処かでそれを許される場所を探してたのかもしれないな。
許されないのなら、逃げるな。背負ったまま生き続けろ。そして、第二の俺を、生み出すな。

「俺は、消滅させるって形で多くの命を奪った。この力は、そういう力なんだ」
「あんた……」
「俺はもう、二度と命を消さない。だからこそこの力を使わないと誓った。話してみて、改めて何から逃げてたのか分かったぜ」
「……今度はあたしがもやもやしたじゃない。なんであたしがあんたの秘密でもやもやしなきゃならないのよ」
「はっはっは、さっき俺がどうしてああなってたのか分かっただろ? ついでだし、さっきの話にも付き合えよな」
「もう、変な事に巻き込まれるなら安請け合いするんじゃなかったわ。まぁ、あんたの秘密握ったと思って我慢しようかしら」

 らしくなく悩むのはもう止めた。開き直って、出来る事をやる。その方が俺らしいだろ。
この力を、二度と暴走させない。ったく、その方法を考えるのが何よりも先じゃねぇかよ。何やってんだかな、俺は。

「あーぁ、変に頭使って所為でお腹空いたわ。ほら、帰るわよ」
「そうすっか。ところでお嬢さん、帰りはこのままか?」
「面倒だからこのままよ」
「はいはい。……ありがとな」
「もう、慣れない事させないでよね」

 迷いが消えた訳じゃない。力への恐れが無くなった訳でもない。
それでも、話せる相手が出来た。ちょっと捻くれ者だけどな。
あんたはどう言うかな。俺が、前へ進もうと思い始めたって知ったら。もうそれを聞く事は、絶対に出来ないけど。
なぁ、ハル……。

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 なーんか、うじうじ悩んで頭使ってた反動で、ソファーの上で無心になってる。もう何にもする気が起きん。
帰ってきてすぐに、リィがちょっと心配そうに寄ってきたが、俺の様子を見たら安心したらしい。ま、勘の良いリィだから、俺の変化にも気付いたんだろうな。
だからか、今の俺の様子を見て苦笑いだ。でもこれはしょうがねぇんだ、反動だから。

「ライト大丈夫? なんか、色々抜けてるよ?」
「あ~、朝よりはマシだぜ。やる気とかが無くなってるだけだからな」
「それもどうかと思うけど、元気にはなったみたいだね。よかったよ」
「やっぱり変だったか? 俺」
「うん。今も違う意味で違和感あるけどね」

 割と普段からしゃっきりしようとはしてたからなぁ、完全にだらけてるのは、今が始めてかもな。
こんなとこあいつとかには見せられんよな。こう、培ってきたイメージというのもある訳だし……でも、これからはだれる時にはだれるぞ。
そういやフロストの奴何処行ったんだ? 一緒に飯食うまでは居たが、いつの間にか居なくなってたな?

「なぁリィ、フロストって何処行ったんだ?」
「ん? さっきレン姉ぇと一緒に上行ったみたいだよ?」
「レンと? ふーん……まぁいいか」
「そういえば、フロスト姉ぇと一緒に散歩してきたんでしょ? 何処行ってたの?」
「ただブラブラしてきただけ、ってそういやトレーナーに絡まれてバトルしたな。あと、公園にも行ってきたか」
「へぇ~。ねぇ、今度また僕とも出かけようよ。ジルさん達にも会いたいし、もっと色々見てみたいな」
「そうだな、今度ゆっくり散歩でもするか」

 おっと、こんなに嬉しそうするとは思わなかった。そういや最近、リィと二匹っきりなんて事無かったもんな。いつもソウなんかがおまけで付いて来てたっけか。
頭を撫でてやると、尻尾がゆっくりと揺れる。ははっ、この辺はあまり変わってないみたいだな。
これからは俺も教えるだけじゃないんだし、リィからちゃんと学べるところは学んでいかないとな。ま、俺のは神の力なんて崇高なもんではねぇけど。
っていうか寧ろ邪悪っつーか凶悪っつーか、本当に表現にも困る力だよな消滅なんて。軽くひょいひょい使えるもんならまだいいんだがなぁ。

「あ、フロスト姉ぇだ」
「ん、おぉ戻ってきたか。何してたんだ?」
「後から分かるわよ。あたし今日は色々根回ししたから疲れたわー」
「根回しって……」

 一個は俺にだよな? って事は、レンにも何か吹き込んできたって事か?
分からんけど、後でってどういう事だ? なんか余計な事言ってきたんじゃねぇだろうな?

「ま、あんたにマイナスにはならないわ。深く考えないでいなさいな」
「さいですか……そんならそうさせてもらうか」
「? 何のこと?」
「ふふ、リィは気にしなくていいのよ。こいつの問題だから」

 ……今思えば、厄介な奴に秘密の公開をしちまったかもな。べらべら喋らんが、巧妙に利用してくるじゃねぇか。不味ったかね?
話しちまった後から後悔しても遅いか。あまりショックの大きい事が起きん事を願っとくか。
ん、レンも戻ってきたか。……明らかに意気消沈してんですけど、本当に何吹き込んできたんだこいつ? 耳と尻尾に全く力入ってないぞ?

「お、おいレン? 大丈夫か?」
「あ……う、うん……」
「いや全然大丈夫じゃないだろ。フロスト、マジで何したんだよ?」
「あっらー……ちょーっと効き過ぎたかしら」

 うぉぉ、よろよろしながらキッチンへ行ったぞ? 何があったし。こりゃ、様子見に行った方が良さそうだな。
そしてそれは俺の役目なんだろうな。話的に、俺に関わる事でああなったんだろうし。
フロストに目で行けと言われたので行ってきますよ。やれやれ……。
キッチンに入ると、包丁持ったまま何か考え込んでるレンが佇んでた。いや、それかなり怖いって。

「レーン、考え事するなら、とりあえず包丁は置いたほうがいいぜ?」
「へ? あ、ライト……」
「どうした? フロストが何か吹き込んだのは当事者から聞いたけどよ」
「うん……ねぇ、ライト。この家から出て行くって、本当なの?」

 んな!? いや、まぁそういう感じの発言をしたにはしたが、考え直したばっかりだぜ?
正直あの事を言ったのかと思ってたが、どうやらその辺は隠したみたいだな。あぁ、フロスト自身もそう言ってたか。
これは、余計な事を言わなくて良さそうだな。

「確かに似たような事は言ったが、まだしばらくは世話になるつもりだぜ」
「そ、そうなんだ、ふぅ……」
「でも、俺は元々遅かれ早かれここを出る事になるのは分かってるだろ? あいつのポケモンじゃないんだし」
「……あの、ここで話すのもなんだし……後で私の部屋でお話しない? ゆっくり、ライトとお話したいの」
「レンの、部屋でか? まぁ、うん、レンが俺を入れていいならそれでいいぜ」
「ありがとう。じゃあ、夕飯の仕込みだけやっちゃうから、ちょっと待っててくれる?」
「分かった。じゃ、リビングに居るからな」

 話か、今日はなんか俺話してばっかりだな。ま、体も動かしたし別にいいけどよ。
ふむ、耳も立ったし大丈夫そうだな。そんじゃあ言った通りにリビングで待つとするか。
当然どうだったかフロストが聞いてくるよな。嘘ついたって後でバレるだけだし、そのまんま言ったぞ。
そしたら意味深にニヤッとされたんですけど。おいおい、部屋に行くとは言ったが、何もやましい事は無いからな。
でも珍しく、それ以上の言及はされなかった。後は俺とレンに任せるだとさ。なんなんだかな?
そっからはリィも交えてテレビ見ながら喋って時間を潰す。夕方の四時なんて大した番組は無いしニュースくらいしか見るもんねぇけど。

「ライト、お待たせ」
「ん、もういいのか?」
「うん。じゃあ、行こっか」
「あれ、レン姉ぇとライト、何処か行くの?」
「ううん、私の部屋でお話するだけだよ。それが終わったら、晩御飯にしようね」

 あっさりとリィは納得した。ちょっと首は傾げてたけどな。
レンの後に続いて、レンの部屋の前まで来た。ドアにはプレートでレンの名前が出てる。
な、なんか緊張してきたな……こう、牡が牝の部屋に入るって事自体あんまり無いことだし、しょうがないよな、うん。
レンに促されて入った部屋の中は、やっぱり当然の如く綺麗だった。物は全部棚なんかに納まってるみたいだし、ゴミの一つも無い。
カーテンとかカーペットは清潔感のある白で、ベッドは木製、オレンジの掛け布団。温かみがあっていいんじゃないか。
んー、でもやっぱりこの空間の中だと俺が浮いた存在なような感じがするな。こう、部屋の香りがそう思わせるんだろうな。言っとくが、俺は毎日シャワーと風呂は欠かさん。野良の時も川なんか見つけたら速攻で体洗ってたっけな。
レンがベッドに腰掛けたから、俺はその前辺りに座る。さて、どんな話が始まるかな。

「急にごめんね? でも、ちゃんとお話したくって」
「構わねぇよ。んで、話って?」
「う、うん……ライトは、どうしてもご主人のポケモンにはならないの?」
「……すまねぇ、それだけはレンに頼まれても俺の意見は変わらねぇ。俺は、人間に仕える事はしねぇって決めてるんだ」

 人間に振り回されるのも、人間の言いなりになるのも俺には許されねぇ。それは嫌って程にあそこで思い知らされたからな。

「それは……人間が嫌いだからなの? それとも、何か理由があるから?」
「具体的には言えねぇけど、後者だよ。そんなに好きってこともねぇけど、嫌いでもねぇな」

 俺が人間を憎まなかったのは、たった一人だけ、あの研究所にもポケモンが心底好きな奴が居たから。俺もよく世話になったよ。
きっとあの人に会ってなかったら、俺は消滅と破壊を撒き散らす本当の化け物……いや、悪魔になってただろうな。誰にも止められない、最悪の化け物にな。

「その理由って……消滅の光っていう力、なの?」

 ……あいつ、レンに話してたのかよ……。どうすんだこれ、どうやっても言い訳出来ねぇぞマジで!
あーもう、秘密にしとくんじゃなかったのかよ! うー、どうする、どうする!?

「な、なんでその名をレンが知ってる? 思い当たる答えは一つしかねぇけど」
「うん、フロストちゃんが話してくれたの。ライトが、その事を皆に秘密にして独りで悩んでるって」
「そんな事まで……はぁ~」
「ねぇ、今の話って、本当なの?」

 もう、こうなったらレンにも隠しておけねぇ。やっぱり誰にも話さないでおくべきだった。
レンに要らない物が無いか聞くと、部屋の隅に置かれた小さな屑ゴミ入れから丸まった紙を出してくれた。ま、これでもいいか。
そして、フロストに見せた通りに消滅の光を発動させる。この力は口で説明するよりこの方が分かりやすいだろ。

「き、消えちゃった」
「あぁ、これが俺の力。身体能力が高いのは、これのおまけみたいなもんだな」
「そうだったんだ……」
「……幻滅しただろ? こんなもん隠しながら、のうのうと今まで一緒に生活してたんだからな」
「そ、そんな事ないよぉ! だって、そうしなきゃならない事があったんでしょ? それなら仕方ない……あ」
「ふぅ、俺の昔話も知ってるか、やっぱり」
「ご、ごめ……あの……」

 ……別に泣かそうと思って言った訳じゃなかったんだけどな。俺もこれを思うの、やっぱりしんどいんだよ。
また耳が垂れて、レンは必死に涙を拭いだした。どうすっかな……。

「……これは、フロストにも話してない俺の昔話。ちっと、聞くか?」
「ぐすっ……うん」
「オッケ、俺が何処で生まれて、とかの話はフロストに聞いてるんだよな?」
「う、うん」
「そこにはな、研究者って奴ばっかりしか居なかった。でも、それ以外に人間が居なかった訳じゃあなかったんだ」

 ポケモンを相手にする以上、そのポケモンを世話する奴がどうしても必要になる。だから、所謂ブリーダーって奴等が必要だったんだろうな。そいつ等も、その研究所には集められてたんだよ。
ま、大抵の奴は研究者と同じで、ポケモンになんの興味も無いように世話をする奴ばかりだった。でも、たった一人だけ、そうじゃない奴が居た。
本当に楽しそうにポケモンと接して、研究で犠牲になったポケモン達に、本気で涙してやってる奴が、確かに居たんだ。

「俺もな、そいつが来た時だけは少しだけ、話なんかもした。それ以外の奴には愛想すら振ってやった事も無かったな」

 励まされたり、笑わされたり、俺の支えをくれたのは、いつもあの人だった。俺を普通のイーブイと分け隔てなく扱ってくれたのも、な。
今は……あの笑顔を思い出すだけで、自分を消滅させたい衝動に駆られる。それでもそれは出来ない。俺の体を、消滅の光は決して消そうとしない。
俺の大切なものは、一瞬で消してみせるのにな。
そう、俺の力の暴走は否応無く全てを消したんだ。全てを……。

「それって……まさか!?」
「……全てが非公式だった研究所だったんだと。家にも帰してもらえないって、よくぼやいてたっけな」
「そんな、そんなのって……」
「俺は、俺の手でそいつを消した。間違いなく」

 レンの涙は収まるどころか、口に手を当てて更に勢いを増しちまった。うーん、話したのは失敗だったか?
俺はそいつから全てを奪ったんだ。夢も、命も、明日も。
だから余計に、俺はこの力を使わないと自分を呪った。呪わないと、耐えられなかった。
でも……あいつはずっと言ってたよ。君は化け物なんかじゃない、力だって一番上手く使える。諦めちゃ駄目って。
散々遠回りした、諦め続けた。この力はどうしようも無いんだって。俺は、あの人を裏切り続けてたんだな。
都合が良過ぎる、そう言われても仕方ない。でも俺は……あの人が信じてくれた俺になりたい。今はそう、強く思う。

「大切なものを自分の手で失ったからこそ、大切だった事から逃げちゃならないんだよな」

 逃げたらそれは、相手を否定してるのと、同じだから。

「……俺があいつの手持ちにならないのは、力を使わない為。そして……大切な繋がりを作らないようにする為だ」
「そんなの……悲し過ぎるよぉ」
「あぁ、そうだよな。今の俺が居るのはその繋がりのお陰だっつうのに、今日までそれから逃げ続けてたんだから。馬鹿だろ、本当に」

 涙を流しながら、レンの首は横に振られた。……優し過ぎだぜ、まったく。
誰かの為に流す涙、か。そういえば、レンはあの人に似てるのかもしれない。いつも自分よりも誰かの為に何かするところなんて、かなりそっくりだ。

「ライト……私、ライトにここに居てほしい」
「今の話を聞いてもか?」
「うん、だからこそ、やっぱり居てほしいって思った」
「どうしてだ?」
「教えたいから。ライトがもう、皆にとって大切になっていってるって」

 俺が、誰かにとって大切に?
そういや、フロストにも同じような事言われたな。俺がねぇ……。
俺が誰かを大切だと思う時、相手がどう思ってるのかを考えた事は無かったかもな。
誰かにとっての大切になる、か。俺にその資格はあるのか? 奪い消し去る力を持つ俺に。

「教えたいから……私が、ライトをどう思ってるのか」
「レンが、俺を?」

 涙が止まったレンの顔に、急に赤みが差してきた。熱があるって訳でも無さそうだけどな?

「え、あの、えっと」
「……聞いて、いいか? 俺をどう思ってるのか」
「え、えと、あぅ、その、ちょ、ちょっと待って! こ、心の準備がまだ出来てなくてね!?」
「そ、そうなのか? んなら、その……話せるようになったらでいいぜ」
「うん、必ず話すから、勝手に居なくなったら嫌だよ?」
「あぁ、分かった。ま、あいつの手持ちにはならねぇけどな」
「あはは、その方がライトらしいもんね」

 あの時に凍てついた思い出の中にある笑顔に、レンの笑顔が重なって見えた。
ハル……あんたの事を俺は、一生忘れない。『俺』をくれたのは、他の誰でもなくあんただから。
今度は、俺が『俺』を作っていくよ。立ち止まったままだった脚を、前に進める。
寄り道したり迷ったりするかもしれないが、心配しないでくれ。俺はもう……独りじゃない。

「レン、頼みがあるんだけどよ」
「うん、今の話は誰にも言わないよ。だからライトも、独りで悩まないで。私もフロストちゃんも、力になりたいって思ってるから」
「はは、頼りにさせてもらうぜ。しかし……フロストにはこれからがっつり釘刺させてもらうけどな!」
「フロストちゃんも考え無しに話したわけじゃないんだから、程ほどにしてあげてよ?」

 一緒に歩いてくれる奴が、二匹も出来たからな!

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 新光も第十話でございます。節目として、ついにライトの過去と真の力、お披露目です。
作者の特性として、作品を練れば練るほどおかしくなるというものがありますので、今回はかなり変なところがあるかも知れませんが…お許し下さい!
そして活躍させられないプラス君。いつか輝かせるよ!

そしていつものコメント欄です。 前話へは[[こちら>不思議な薬の恐怖]]
そしていつものコメント欄です。 前話へは[[こちら>不思議な薬の恐怖]] 次話へは[[こちら>変わっても、変わらないさ]]
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IP:119.25.118.131 TIME:"2013-07-17 (水) 20:55:30" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.1; Trident/6.0)"

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