ポケモン小説wiki
超平凡でもない日常生活 の変更点


#include(第八回短編小説大会情報窓,notitle)
#author("2024-06-30T08:39:51+00:00","","")

作[[呂蒙]]

 大学が休みの間は、時間がありすぎて困る。無論やらねばならないこともあるといえばあるのだが、それでも時間が余る。セミの鳴き声が響く中、扇風機の風にあたりながら、畳の上でごろ寝をし、ノートパソコンを弄ったり、本を読む。僕の家は、今時珍しい和を基調とした家なのだ。つまり家のほとんどが和室なのである。夏は涼しく、冬は暖かな空間なのである。そう書けば聞こえはいいかもしれないが、建ててからかなり時間がたっているため、あちこちにガタがきている。そのため、かなりの金額を家の修繕のために使っている。だったら、いっそのこと、全部壊してしまって、新しい家を建てればいいではないか、という人もいるが、父が反対しているため、当分は新しい家が建つことはないだろう。
 超平凡で、とても平和な時間が過ぎていく。変わったことなど起こりはしない。ちょっぴり物足りない気はするけれど、それはそれで贅沢なのだと今は思う。今年もそうなるはずだった。ところが状況は一変してしまった。
 事の発端は、父が中東のとある国で買ってきたという骨董品の壺だった。いや、壺自体は特に問題はなかったのだが、何故か、壺の中に大理石のかけらがあり、それが、大問題だった。とんだおまけが付いて、いや憑いてきたのである。どういう仕組みかは分からないが、そうとしか考えられなかった。恐らく、何らかの原因で封印が解けたのかもしれない。
 いつものように、昼食を済ませ、部屋でごろ寝をする。簾が直射日光を遮り、扇風機の風が実に快適な空間を作り出す。が、そういう時に限って、そいつはやってくるのだ。
「ぶえっ!?」
 寝ている時に氷水をかけられるからたまったものではない。
「きししししっ、驚いた?」
 無邪気に笑うそいつは頭上にいる。というか、浮いている。2つの不思議な輪っかを持つ生き物というか、こいつもポケモンらしいのだが、何分、今まで見たことがないので「かもしれない」という不確実なことしか言えないのだ。そして自分のことを「フーパ」という。多分、それが名前なり種族なのだろう。居心地がいいのか、それとも人懐っこいの性格のためなのなのだろうか、家に居ついてしまった。
 どういう仕組みなのかは知らないが「○○、おでましー」というと、自分の望んだものが輪っかから出てくるのである。一種の呪文のようなものだろうか。
「おやつ食べよう」
「一人で食えよ」
「一人じゃつまんない」
 言動から察するにまだまだ小さい子供なのだ。本当はとんでもない力が秘められているらしいのだが、全然そんな素振りは見せない。とりあえず、イチゴのショートケーキでも食べようか、コーヒーは自分で淹れるとして。
「フーパにまかせろ。イチゴのショートケーキ、おでましー」
 輪っかが光ったかと思うと、本当にショートケーキが出てくる。ただ、うまく、皿をあてがわないと、着地に失敗してケーキが悲惨なことになる。まぁ、今ではコツをつかんだが。
 コーヒーをすすっていると、フーパが自分もコーヒーが欲しいという。しょうがないので、一口飲ませてやるが
「べっ、苦い……」
「コーヒーってそういうもんだし」
 子供だからブラックコーヒーは飲めないのである。このフーパ、まだまだ子供で物を知らない。だから、いろいろと教えないといけない。ただ、救いなのが好奇心旺盛というか、学習意欲が盛んなのか、学ぶことを嫌がる素振りは見せない。ただそれでも一つ問題があるが、それは後述するとしよう。
 家に眠っているお宝を鑑定する番組で、昔の書物が出てくる。僕は、学校で学んだ知識があるから、それなりのものだということは何となく分かるが
「ヘタクソな字」
「いや、あれは草書体って言って、そういうもんなの」
「ふーん……」
 番組によっては、フーパにいちいち教えないといけないのが、面倒だ。何だか、子育てとあまり変わらない気がしてきた。
 ある日のこと、両親がしばらく家を開けるという。しかも10日も。しかし、自分だって休みたいのだ。助っ人として友人を呼ぼう。いくらかのバイト料を払うといえば誰かは来てくれるだろう。とにかく、ポケモンを持っている人であることが最低条件だ。あいつに頼むか……。ちょっと問題のあるやつだけど。頭はいいし、教養もあるんだが……。
 友人はすぐに来てくれた。
「いいなぁ、こんな屋敷に住めて」
「あれ、連れのポケモンは?」
「うるさいから置いてきた。あぁ、飯の時は呼ぶけど」
 教養があるから、いろいろなことをフーパに教えてもらおう。一抹の不安は残るが、僕が監視してればいいか。友人は料理ができるから、飯は何か作らせて、その間にフーパに何か教えよう。あるポケモンの写真を見せる。
「じゃあ、このポケモンは? この葉っぱに特長あるよな? 葉っぱ」
「うーん……」
「8×8=64」
「はっぱろくじゅうよん」
 と、外野からの思わぬデッドボール。おい、邪魔をするなよ。友人が料理を作りながら邪魔をする。が、友人の悪ふざけは続く。
「7×7=49日」
「しちしちしじゅうくにち」
「変なこと教えんなよ! 真似するだろ! あと、縁起でもないから49に日をつけるな!」
 フーパには何が正しいのか、間違っているのかが判断できない。もちろん、冗談であるということも分からない。友人はこういう悪ふざけが大好きなのだ。連れのポケモンも大変だろうなぁ、これじゃあ。
 しばらくして、夕飯が運ばれてきた。
「鶏の唐揚げ。冷めないうちに食べようぜ。ビール買ってきたから、一緒に飲もう」
「あ、ああ……」
 友人の料理の腕は確かだ。何でも外で食べるとお金がかかるからという理由で、自分で試行錯誤の末に身につけたらしい。
 口の中にあふれる肉の旨みが、食欲を増進させる。グラスにビールを注ぎ、友人と乾杯をしてから、ビールを口に運ぶ。よく冷えたビールが喉を通る。アルコールと炭酸の刺激がのどに心地よい刺激を与えてくれる。
「フーパもビール飲みたい」
「大人になってからだな」
「どうすれば大人になれるの?」
「愛情持って育ててもらうことだな」
「あいじょうってどんなの?」
「愛情? おさわりしてもらうことかな?」
「ふーん、あいじょうはおさわりのことか」
「全く、下品な言葉を教えんなよ!」
「ふん、あまりクソ真面目すぎんのも考えもんだぜ」
 ううむ、確かにそうかもしれないが……。ただ、友人にすべて任せると、将来フーパがおげれつ魔神になりそうで不安だな……。やっぱり自分が頑張ろう。
 次の日から、友人がいろいろと教えてくれるが……。時々下品な言葉が「おでまし」するので、ひやひやする。でも、フーパは楽しそうなので、よしとするか。その他、昼間は野球に付き合うなど、友人は世話好きな一面がある。もっとも、野球といっても9人揃えるために、人間をかき集めたわけではなく、投げたボールを打ち、打たれたボールをピッチャーが探しに行くだけのものなのだが。
「もっと、大きいボールがいい」
 ボールが小さ過ぎて、打てないとフーパは家の中に入り、大きいボールを持ってきた。
「これがいい」
 だが、それはボーリングのボールだった。意外に力持ちのようだ。
「そんな重いもん投げられるか! バットだって折れちまうぞ」
「あ、そっか」
 しばらく汗を流した友人。フーパの輪っかからおでまししたジュースでのどを潤すと、食材を買ってきて夕飯づくりに取り掛かってくれた。非常に助かる。自分一人だったら、何から何まで自分でやらなければならないのだから。
 友人と連れのポケモンが来てから、家の中が賑やかになった。これ自体は全然嫌なことじゃない。
 けれど、あの去年までの生活も悪くないと思う。超平凡で刺激のない、退屈な日々を送っているあなたを、僕はちょっぴりうらやましく思う。




<後書きみたいなもの>
 短編大会ということで、駆け込みの出馬となりました。まぁ、票が入れば御の字かと思っていたのですが、僅差で2位(4票獲得)をいただき、投票してくださった方々には深くお礼を申し上げる次第です。
 実はまぁ、作者が誰であるかを避けるために元の作品からかなり削ったところもあり、何だか残骸のような作品になってしまい「不満は残るけど、時間もないし、まぁいいか」というのが今回の作品でした。今度はちゃんとしたやつを投稿できるようにしたいです、はい。匿名である以上、作者が特定できてしまうような書き方は避けなければならない、いやはやこれが難しいのです。まぁ、未熟ゆえですかね。今後も精進していきたいと思います。

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