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自由と束縛 の変更点


written by [[美優]]&br;
自由が好き。何かに縛られるのなんて、絶対嫌。だから私は――そう、鳥になっていた。
空を飛んで、色んな場所を旅して――ただ、本当の鳥ではない。
最初は、空飛ぶお人形さん。ミュウだと教えるのに一苦労した。
次に会った時は、ミュウちゃん。次に会った時は――
――自由気ままに何も考えずにテレポートをして、同じ場所に到達する事はその時までなかったのに――
何故なんだろうとその度に考えたけれど、答えは見つからず――初めて目的を決めてテレポートした場所で聞かされたのは、驚くべき事実だった。
誰かとずっと一緒にいたいだなんて、そんなこと――私は自由が好きなのに――
運命ってこういうことなのかな、ラクト…?&br;
***自由と束縛&br; [#v6d7d696]
物心が付き始めた頃から世界中を旅していた私に、家なんてものはなかった。――必要がなかった。
どこかに住みたいとか、住んでいたいとか。――そんなことをよく聞くけど、何故そう思うんだろう。
雨に打たれたくないから?それとも寒いから?――雨宿りする場所なんてどこにでもあるし、寒さをしのげる場所だって――
家にいることが一番落ち着くだなんて言う誰かさんもいたけれど、私からすればそんなのありえなかった。
仕切られた空間にいて、どうして落ち着くんだろう。――果てしない空、広い草原……どこまでも行けそうな、そんな場所だからこそ落ち着けるんだ、と私は考えていた。
――たぶん、狭いところに慣れていなかったんだろうな。限られた空間に。――ただ、たまたまそういう場所に行ってしまう時もあった。
本当に何も考えずに飛ぶから、嫌な場所に着く時だってあった。――少なくとも、その日テレポートした場所は、明らかに自分が嫌うような場所だった。&br;
――下には人間のおもちゃが散乱していて、結構広い部屋だったけれど、それでも閉じ込められているような、そんな気がして――やはり、仕切られた空間に変わりはなかった。
嫌だ。――けれど、もう戻れないし、別の場所へ行く事もできない。――というのは、テレポートを何度もして使いきってしまったとか、そういうのじゃなくて――
――ポリシーというか……一度テレポートしたら、その日はそれで終わり。どんなに嫌な場所でもそこにとどまるんだ、ということを自分自身で決めていたのだ。
規則なんて当然大嫌いだけど、これは自分で決めたこと。――それ以外のことは……自身で定めた規則以外は守らない代わりに、と屁理屈を言ってみるが――
とにかく、テレポートはもうしない。――ただ、その場所を動かないというわけではないからという理由で、とりあえず辺りを見渡しながら散策し始めた。
――と、不覚にも、自らの気配を消していたはずなのに、そこにいた人間に見つかってしまう。
当然、見つかると思っていなかった私は、目を丸くして驚いたが――空飛ぶお人形さんだ、とはしゃぐ彼にむかっとくる。
そして、思わず人間語で、私はそんなのじゃないわよ、と怒ったような口調で言ってしまって。
それで、いけない、泣いてしまうかも、と焦ってしまうのだが、どうやらそれは無駄だった。――彼はけろっとしていて、何だか馬鹿馬鹿しくなった。
――彼は、私の言うことを聞こうとしてくれなかった。――みゅー?みゅーさん?とようやく理解し始めてくれた時は、涙が出そうな思いになった。
人間の相手をするのは苦手で――ましてや、彼みたいに幼い子相手となると、骨が折れる。
仕方がないから自己紹介、と自分のことを教えてもなかなか理解してくれない。――今回がいい例だ。
名前を教えるだけで一苦労。――ものすごく嫌になったのは言うまでもない。
――面倒臭い事この上ないけれど、ここに飛んできてしまったことを恨むしかない、と。――ただ、ポリシーを貫くために。
そこが自分のいいところであり、変なところで、悪いところかもしれないと思った。
――暇つぶしに彼の相手をしていると、その親らしき人間が現れる。
あれみて、あれ、と彼は親にそう訴えるが、何?何もいないじゃない、と。――さらに面倒になるのを避けるために、再び気配を消しておいたのだが――
彼には何か不思議な力があるに違いない、とその時改めて実感した。
その日はそれ以来、彼に会うことはなかった。――私は適当に寝る場所を見つけて、そこで一夜を過ごした。
そして、もうこんなところには二度と来たくない、とそんな思いを抱きながら、次の朝、いつものように何も考えずテレポートをしたのだった。&br;
嫌いな場所のはずなのに――二度と行きたくないような場所だったのに。
二度目にその場所を訪れた時、彼は一段と大きくなっていた。
といっても、まだ幼さが残っていて――同じ場所のはずなのに、部屋の雰囲気や彼の容姿が変わっていた所為で、しばらくそれが理解できなかった。
理解しようとしなかったのかもしれない。――考えられないミスを犯してしまったような、そんな気持ちだった。
もしかして、昔見たみゅーちゃん?と聞かれて、ようやく事を理解し始めた私は、何故またここに――僕の部屋になったんだ、と自慢するからには彼の部屋なんだろうが――
――とにかく信じられなかった。――人生で初めての出来事に戸惑うばかりで、頭が真っ白になった。
また会ったね、と言われて思わず、いや、会ってない、と即答するが――じゃあ何で君の名前を知っているの、と聞かれて言葉に詰まってしまう。
図星ってやつだね、と続けて満面の笑みを浮かべながら言われた時は、怒って殴りたいような衝動に駆られた。
だが、怒りっぽい性格だと思われたくなかったから、あはは、そうだね、と笑顔でそう返した。
未練のかけらもない場所に何故再び来てしまったのだろうか――考えれば考えるほど余計にわからなくなって、何だか悔しかったが、仕方がなく諦めるのだった。
――その日も彼の相手をして一日を過ごした。一緒に寝たいとしつこかったので、初めて人間の横でベッドに入って眠りについた。
温かみだとか嬉しいだとかは、まだその時感じる事はできなかった。――ただ、早く夜が明けることをひたすら願っていた。
何だか落ち着かなくて、なかなか寝れなくて――時計を見ていたら深夜を回っていたかもしれないと思うほど、長い時間目が冴えていたような気がした。
――次の日の朝、挨拶もなしで寝たままの状態からテレポートをし、別の場所へと飛び立った。&br;
三度目にそこにテレポートした時は、彼は見違えるほど大人になっていた。
甲高かった声もある程度低くなり、雄らしく――男性らしくなっていて。
その時はまだ、彼に魅力なんてものは感じなかったけど――さすがに三度目ともなると、運命的な何かを感じる事ができた。
前に会ったの、いつだっけ――はぁ……あんたがまだ、こぉんなに小さい時だよ、ったくもう――
私は、また来てしまったものは仕方がない、と半ば諦め気味で、その後も彼とのたわいのない会話を嫌々進めるのだった。
ポケモンを持てる年になったんだけど、しっくりくるポケモンがいなくてさ――そこら辺にさ、あんたにお似合いのポケモンがたくさんいるでしょうに。贅沢なんだね――
彼は手持ちにしたいポケモンが見つからないらしくて、探し続けて2年になると言った。
もちろん、色んなところを巡ってポケモン探しをしたらしいが――それでもしっくりこないなんて、よっぽど顔とか性格が悪いポケモンばっかりに出会ってきたんだね、と――
そういうわけじゃないんだ……ただ、しっくりこなくて――そう落ち込む彼に、いつか見つかるといいね、といかにも他人事のように、そっけなくそう言った。
そして、そんなのどうでもいいのに、と言ってしまいそうになったが、そしたら彼が余計に落ち込んでしまいそうだったので止める。
そして、ま、頑張ってね、と同じような口調でそう言うのだった。
――それからしばらくして彼から、買い物に行こう、と誘われて、それに嫌々ついて行った私は、愚痴をこぼしながら彼の周りを、意味なくぐるぐると回り続けていた。
もちろん気配を消していたため、虚空に話しかけ続けていた彼は白い目で見られていたが、私はそんなのお構いなしだった。
わざわざテレパシーを使って彼と会話していた。――ほとんどが愚痴だったが。
人ごみが嫌いだからついて来るのは嫌だっただとか、こんなにまずい空気の街中をあんたと一緒に歩きたくなかっただとか――
彼は、文句も言わずにむしろ楽しそうに私と話してくれていたが――その時まだ礼儀を知らなかった私だからこそ、そんな事が平気でできた。
――今つけているペンダントを買ってもらったのは、その時だった。――彼と入ったアクセサリーショップで、好きなのを選んでいいから、と言われて買ってもらった。
その時は感謝どころか、むしろ文句を言っていた。――こんなことをして何をさせるつもりだとか、あんたがしつこいから仕方なく選んであげたんだとか――
他に買いに来たものはないの、と彼に聞くと、君のそのペンダントで僕の全財産を使っちゃったよ、と笑顔でそう答えて――
何故その時感謝できなかったのだろう、と今では思うが――過ぎ去った過去を悔やんでも仕方がない。
――結局、嫌々ながらも、ずっとそのペンダントを肌身離さず見に付けていた。
次の朝――別れ際に皮肉たっぷりに、今度こそ会わないように願ってるよ、と言う。
そして、わざわざ早起きしてくれた彼にさよならを告げて、別の場所へテレポートしたのだった。&br;
四度目にそこにテレポートしたのは、風邪を引いたわけでもないのに、乾いた咳が突然出続けて止まらなくなるという症状に悩まされ始めて、約1ヵ月後の事だった。
咳は最終的には止まるのだが、比較的長く続くのでとても苦しかった。
――また一段と大きくなった彼に少し驚かされながら、口調や性格はほとんど変わっていない事に安心し、少し遠慮しながらも前のような口調で話し始める。
どうしたの、と質問され、何だか分からないけど咳が止まらないんだ、と――
当然のように、その後風邪を引いたんじゃないかと聞かれたが、鼻水とか熱っぽさはなくて、ただ乾いた咳が出て、というのを説明すると、ポケモンセンターに行くことを進められた。
テレポートを使っても良かったが、長年守り続けてきた決まりを、ここで破ってしまうわけにはいかないと――
そう思った私は、近くにポケモンセンターはないということだったので、行くのを断るのだった。
しかし彼は、そんなことより体のほうが大事だ、と言って、それを断るごとにそんなことを推し進めて来るのだった。
私はとうとう癇癪玉が破裂し、彼を怒鳴りつけてしまう。が――彼も同じく私を怒鳴りつけ、説教をし始めた。
命に変えれるものなんてあるか、何がポリシーだよ馬鹿野郎、と――
ただの咳だ、と何度も言い逃れようとしたが、全て無駄だった。――その度に彼の言う事は尤もだったため、私は完全に丸め込まれてしまう。
そして説教が終わった時には、私は泣いていた。――痛くもないし辛くもないのに――丁度、全然違うようだけれど、とても美しい景色を見たときに自然と出る涙のような、そんな感じで。
しかし、すっと一筋の涙が頬を伝うとか、そんな程度ではなくて――私は泣きじゃくっていた。
何が何だかわからなくて、彼に言われた事を全て受け止めようとしたけど、全然出来なくて――
――今日はお前に、とことん色々と叩き込んでやるぜ。…まずは礼儀作法からだ。――その言葉をきっかけに、私は彼から本当に色んな事を教わったのだった。
彼の成長を間近で見てきた私は――と言っても、好きで見てきたわけではないし、それは偶然というのが等しいが――背丈とか見た目以上に、心が成長していたことを嫌でも実感した。
その日から、彼を見る目が変わったような気がする。
――誰かに感謝したのは、その時が初めてだったかも知れない。――だが、正直にありがとうとは言えなかった。
まだしつこく見栄を張っていた私は、彼に感謝の気持ちを伝える事が出来なかった。
感謝する気はないのか、と聞かれて、別に、と――その後、乾いた咳が出続けて止まらなくなる。――そして最後に、がはっ、と一際大きな咳が出た、その瞬間だった。
手で口の前を覆っていて良かったと思ったのだが――血を吐いてしまった。
私はそれをぎょっとした目で見たのは言うまでもないが――間もなく、言わんこっちゃない、と言いたげな表情でこちらを見つめる彼の視線を避けるので精一杯になった。
大丈夫などとは当然言えず、明日絶対にポケモンセンターに行くと約束して、その場を取り繕った。
それ以来、乾いた咳が立て続けに出る事はなかったが、私の心は不安の色一色に染まってしまうのだった。&br;
次の日。――約束通り、私はポケモンセンターに行き、ジョーイさんに症状を見てもらった。
目的を決めてテレポートをしたのは、その時が人生で初めてのことだった。――飛び立つ前の、彼のものすごく心配そうな表情が頭から離れなかった。
――見たことがないポケモンだという事と、ポケモン自らがポケモンセンターに。&ruby(ひとり){一匹};で足を運んできたという事にものすごく驚かれて、色んな質問をされて正直鬱陶しかったが――
分かる事は、時々乾いた咳が出てそれが止まらなくなるという事と、昨日初めて血を吐いた事――精密検査を受けて、明らかになった事は驚くべき事実だった。
――病名を知らされる前に、どこぞの研究者のように、私のような珍しい(らしい)ポケモンを精密検査出来て光栄だなどと言われたが――そんなことはどうでもいいことだった。
暗い表情で言われた事は、私が不治の病に侵されているという事と、これが一番重要なことで――余命が後1ヶ月だということだった。
もちろんそんなことは信じられなかったし、受け入れたくなかった。
大声で泣きたい気持ちになったのだが、残された余命の短さに驚愕してしまい、その気持ちは掻き消されてしまうのだった。
後一ヶ月。それで何ができるというのだ。――それを必死に考えた時、思いついたのは、自らが定めた掟さえをも破る事だった。
――やり残した事がたくさんありすぎる。そんな気がして、世界各地を時間が許す限り飛び回り始めた。
何も考えずにテレポートしてた日々が――自分だけの規則に縛られていた日々が、何だか馬鹿馬鹿しくなって――
しかし、いくら綺麗な場所に飛び立っても、もう一度行きたかった場所に再度訪れてみても、伸び伸び出来る場所に行ってみても――何をしてみても。
――生き甲斐だった事をいくらし続けても、私の心が満たされる事はなかった。
彼の、どのポケモンも手持ちにするにはしっくり来ない、というのがようやく理解できたような気がした。
どんな場所へ行っても満足できない。――それならどうすればいいんだ、と考え始めた時には、すでに体中がぼろぼろになってしまっていた。
無理をしてテレポートをし続けた結果だった。――ただ、いい思いをしたいという一心で、何かを悔いて死にたくないという一心で――私は自らを犠牲にして、世界中を飛び回り続けたのだ。
そして、血を吐くたびにポケモンセンターに通っていたのだが――とうとう、テレポートすることを禁止されてしまう。――何とか頼み込んで、それでも後三回だけだと警告されて――
――その三回は何も考えずに飛ぼうと思ったのは、自分で定めた掟への未練が残っていたからなのか、はたまた何か別の感情があったからなのか――自分でもよくわからないが。
その内の一回で、私は小高い丘の上に降り立った。――排便と食事以外でそこを動く事はなく、雲の流れやそこから見える街の風景を存分に楽しんだ。
そして二回目。――私は再び不思議な何かに引きつけられて、彼の部屋に着いたのだった。&br;
人生で五度目の彼の部屋。――初めて、嫌気が差さなかった。むしろ、何だか嬉しいというか、安心したというか――ここに来れて良かった、とまで思った。
以前訪れた時からあまり年月が経っていなかった為、相変わらずおっとりとした彼を見て、何だか癒されるような気持ちになった。
相変わらず元気そうで何よりだ、とにこやかに言うが、その笑顔には暗い何かが宿っているように見えた。――彼は私の事を心配してくれているに違いないと思った。
私の顔は青ざめていただろうし、目にくまができていただろうから余計に――案の定その後、本当のところどうなんだ、と聞いてきてくれた。
私は今の状況と、今までしてきたこと、今の心情――そして、偶然再びここに来れたのを嬉しく思うという事を、正直に言った。
こんな気持ちは初めてだということを言った後、何だか小恥ずかしくて嫌になるほど顔が熱くなってきて、火照って来た。
ありがとう、と彼は一言。――そして、ゆっくりこちらに近づいてくると、頭を優しく撫でてくれた。
その時初めて、彼の温もりを感じる事ができた。――体全体が、温かい何かで包まれているような、そんな感じ。――すごい心地が良かった。
素直になったんだな、と言われ、そうかな、わからない、と――本当に素直になったのかは、自分でもよくわからなかった。――ただ、今なら素直に何でも言えそうな、そんな気がした。
今まで一度も言えなかったけどさ。……ありがとう。――そして、彼に初めてお礼を言った。何度言っても言い足りないくらいだが、一度だけ、本当に心を込めて。
――無意識に浮遊しているのが無性に疲れてきて、彼のベッドに腰を下ろす。彼は、ベッドの側の青いじゅうたんが敷いてある床に腰を下ろして胡坐をかいた。
彼は大きな欠伸をすると、何をしようか、と私に問いかけてくる。――彼の真似をするかのように欠伸をしながら、さあ、と答えた。
――死ぬってどういう事かな、ラクト?
そう何気なく質問したのには、訳があった。――死というものを彼はどう考えているのか――彼の意見がどうしても聞きたかったのだ。
その時、彼の名前を初めて呼んだ。が――そんなことは全く意識していなかった。――それは、私が彼を信頼し始めた証だった。
――誰でもいい。とにかく、人の記憶から自分の存在が完全に消えちまう事かな。
彼はほぼ迷いもなくそう答えた。――つまり、忘れ去られてしまう事こそが死だ、と。
記憶に生き続けている、って言うだろ、と相変わらず説得力のある彼の言葉に、私はうんうんと強く頷きながら熱心に耳を傾けていた。
彼の話を真剣に聞くのは初めてで――前まで適当に彼の言葉を流していた事を、私は今更後悔するのだった。
――それじゃあ私は死なないね。
彼ならこんな私でも、ずっと頭の中の記憶に残していてくれるはず。――そう心から信じて言った言葉だった。
そう思うと何故だか安心できて――これならいつでも死んでもいいかな、と縁起でもない事を考えてしまう。
――ああ。そういうことになるな。
期待通り、彼はほぼ悩まずにそう言ってくれた。――私は嬉しくなって、思わず笑顔になる。――その笑顔が見たかった、と言われてものすごく照れくさかった。
初めて体験する感覚――温かさであったり、恥ずかしさであったり、照れくささであったり――すべてを素直に受け入れようとせず、否定し続けてきた私にはとても新鮮なものばかりだった。
素直になるって、こんなにいいことなんだ。――そう感じれるようになったのは、すべて彼のおかげだった。そう、彼のおかげ――
――良かった。
安心したのも束の間、乾いた咳が立て続けに出始める。
抑えようとするけれど、どうしても――衰弱していた私には、もうどうにもできなかった。
血を吐いてしまい、いつもならそこで止まる咳も止まらず――苦しくて苦しくて、意識が朦朧としてきた。
しばらくしてようやく治まった時、初めて、彼に抱かれている事に気が付く事ができた。
――心配掛けてごめんね。――もうすぐ楽になれそうだからさ。
死が目前に迫って来ているような気がしたが、不思議と恐怖や戸惑いなどの感情は湧いてこなかった。
彼は、ああ、そうだな、と――何とか、悲しそうな表情をしている彼の顔を確認する事ができた。
目を開けるのも何だか辛くなってきて、彼に完全に身を任せてゆっくり目を閉じる。
さっきまでの苦しさなど一切なくなって、心地良い感情さえ湧いて来始める。
――テレポートはもう使わないのか?
もうそんな力が残ってない事は一目瞭然のはずなのに――しかし、彼のそんな心遣いが嬉しかった。
せめて最期にさ、一番のお気に入りの場所を見てきなよ。――私は、彼の言葉に甘える事にした。
――ここがいい。
満面の笑顔で彼に伝える。――とうとう限界が来て、意識が遠退き始める。
もう逝っちまうのか。――彼の震えた声が聞こえた。何だか弱弱しくて、彼らしくなかった。
――俺と一緒に世界中を旅しようぜ、なぁ?――ほんの少しの間でいいからさ。俺の手持ちになってくれないか、ミュウ。
彼は、私が自由が好きな事を知っているはずなのに。――束縛されることが嫌いだと知っているはずなのに。
知っているはずなのに――
――仕方がないなぁ。
私らしい言葉を最期に。――悔いはなかった。
意識も暗闇の中に消えて行き、それが二度と覚める事はなかった。&br;
今日はどうするんだ?――そうだね、今日は――
――たまには家でゆっくりしようよ、ね?&br;
なあ、ミュウ。――今度飛び立つときはさ。絶対に一緒に連れてけよ?――約束だ。
――うん、約束する。&br;
新たな人生が始まった時。
ずっと一緒。――それは、束縛だとばかり思っていた。
――限りない自由だった。&br;
これからもよろしくね、ラクト。&br;
おわり。&br;
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【原稿用紙(20x20行)】 26.6(枚) 
【総文字数】 8667(字) 
【行数】 190(行) 
【台詞:地の文】 0:100(%) 
【ひら:カタ:漢字:他】 62:2:30:3(%) 
【平均台詞例】 「」
一台詞:0(字)読点:0(字毎)句点:0(字毎) 
【平均地の文例】  あああああああああああ、ああああああああああああああああああああああああ、ああああああああああ。
一行:49(字)読点:25(字毎)句点:38(字毎) 
【甘々自動感想】
すごーい! 説明だけで小説って書けちゃうんですね!
短編ぐらいの長さですね。これぐらいの長さ、好きかも~。
三人称のこういうファンタジーっぽいの大好きです!
それぞれの文章がいい長さでまとまってますねぇ。尊敬しちゃう。
あとー、地の文での描写多くて雰囲気いいですね!
ってか、地の文だけだ!
これからもがんばってください! 応援してます!
- 票は入れなかったけど、それでもすごく良かったです。泣かせてもらいました。ようやく復活されたようで何よりです。これからも頑張って下さい。 --  &new{2009-04-02 (木) 05:12:14};
- 黒犬さんこれは、消さなくてよろしいんでしょうか? --  &new{2009-07-24 (金) 12:28:18};
- 加盟店
――[[美優]] &new{2010-03-31 (水) 17:13:23};
- どうして復活させた?
早く消しましょうね。
―― &new{2010-03-31 (水) 17:40:47};

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