クリスマスなのでクリスマスをテーマとした長編を一筆…下手すぎです。 官能表現やグロ系はありませんが駄文を読みたくないかたはバックボタンをクリックしてください。 作者 [[フィッチ]] [[1>#part1]] [[2>#part2]] ---- &aname(part1); 夕方4時を過ぎ、辺りの薄暗くなってきた街に雪が降り始めた。 多くの子供は雪を見ると感情が高まる性質を持つ。それはまだ一人前になっていない親の元で暮らすポケモンも同じであり、街の子供のポケモン達は皆外に出て大はしゃぎしている。しかし今日はいつも以上に感情を昂らせ、道や空き地を駆け回っている。その子供ポケモンたちの中に、中に、赤鼻をつけ、ヤミカラスとコアルヒーをそりに乗せ引きずっている1匹のアーケンがいた。 「ほらほらもっと早く走れー! 全然進まねーぞ!」 「アヒー、遅ーい!」 「だ、だってそりが重くて……」 「言い訳無用! バトルに負けたんだから、今日の命令通りおとなしくトナカイ役をやってろー!」 「アヒヒ! そのとーり!」 「うう……」 ……どうやらアーケンは2匹とのバトルに負け、嫌々そりを引っ張る役をやらされているようだ。彼の名はブレイブという。しかし名前負けしているようで、ヤミカラスら2匹に毎日苛められているかのように命令を聞かされている。 「いやー、ほんとブレイブって弱いよなー、俺達と会って1年、一度も負けた事が無いぜ!」 「だ、だって今日だってあの時岩雪崩を使えば……」 「アヒヒヒ! どーせいつものように当たらなかった事とか考えてたんでしょ? そーいう弱気な考えだから負けるの! ほら、もっとスピードあげて!」 ブレイブはヤミカラス達と会ったら、バトルをしなければならないというルールになっている。勝ったら特に何も無いが、負けたら命令を聞かなければならないのだ。無論ヤミカラス達が勝手に決めた明らかに理不尽なルールだが、ブレイブはそれに従っている。彼はヤミカラス達に勝って逆に命令をしたいと考えているのだ。 しかし結果はコアルヒーの言った通りである。ただ、ブレイブが一度も勝った事が無いのは能力の低さや技が弱いといった訳ではない。むしろ能力値や技はヤミカラス達よりも上であり、普通にバトルをすれば負けないはずなのだ。負けている理由はただ一つ、特性の弱気である。 アーケンの特性弱気は、通常は体力が半分以下になると攻撃能力が半分になってしまう特性である。しかしブレイブの持つ弱気は、なんと上記の性質に加え常に心が弱気になってしまうのだ。彼はそのおかげでここぞというタイミングで、外してしまったらどうしよう、もし技が当たって打ち所が悪かったら……等と思ってしまい、技を使わずタイミングを逃してしまう。それが敗因になっているのだ。 バトルを初めて一年、彼はこの余計な心の弱気をとても嫌に思っている。そしてヤミカラス達に負け、命令されている間、いつも同じことを考えていた。 「僕の心の弱気……勇気に変わってくれないかなぁ……」と。 ちなみに今回の命令は「夜まで赤鼻をつけ、そりで2匹を引っ張り続ける」というものである。この命令の内容、とある人物を想像するだろう。そう、今日はその人物……いや、同じことをするポケモンがやって来る日であり、それが子供ポケモンの感情を昂らせる要因である。 「ロック警部! 今日はホワイトクリスマスになりましたね! 外で子供が嬉しそうにしてますよ!」 降り続ける雪を眺めながら資料とみられる書類を持ったバクオングが嬉しそうに言った。 「俺も外で叫びたくなってきましたよ! ホワイトクリスマスだーーーー!! って!」 「ノイズ刑事、お前の精神は外で遊んでいる子供と同じなのか? 私達大人にとっては雪なんてただ冷たい上、積もってしまえば出動の障害物になる、邪魔なものだ」 降ってくる雪を窓の外から眺めため息をつきながら、ロック警部と呼ばれたアーケオスは答えた。 「まあまあ、警部だって子供の時雪が降ればテンション上がりましたよね? クリスマスの時も! それが同時に起こるとか今の俺でも心の中で大盛り上がりしてます!」 「あいにく私が生まれ育った所は雪が降らない地域なんだ。この町に配属して初めての冬、雪の冷たさに怒りを感じてな。何でこんな冷たいものが降ってくるんだ……と。とりあえず盛り上がっているのなら見回りに行って来い。年末は事件が多いからな」 ノイズと呼ばれたバクオングは不満の表情を見せた。 「それは嫌ですって。外は寒いじゃないですか。大人しくあったかい署内で仕事してます」 「やれやれ……言いたいことは色々あるが、まあいい。私が見回りに行って来る」 ロックは椅子から飛び降りた。そのまま部屋の入り口へと向かい、ドアを勢いよく開けた。 「さ、寒いいいいいい!! 凍え死にます早く閉めてください!!」 ノイズはそういったがロックはそのまま閉めずに行ってしまった。ドアから冷気が入り込む。 ノイズは急いで部屋のドアを閉めた。 ロックは警察内で凄腕の警部として知られている。といっても頭が切れるわけではない。彼は今までに多くの犯罪者と交戦を交え、その全てに勝利した。その中にはタイプ的に不利であったり卑怯な手を使ったり、逃亡して一時うまく逃げ切る者もいた。しかし彼はどんな困難にも心を折らず立ち向かっていく勇気を持っていた。また戦闘能力もトップクラスに近く、判断力や勘も鋭かっため、犯罪者たちに時には苦戦しながらも倒し、無事逮捕していった。 彼は警官になって以来、担当した事件を一度も未解決にした事が無く、たちまち警部へとなった。そんな彼の影響を受け、街では犯罪の件数が激減した。彼はこの事をとても嬉しく思い、将来は犯罪の無い平和な町にしたいと心から願っていた。 5時を回って街は暗闇になりかけていた。雪はうっすらと屋根や草むらを白く色づけた。ここから先は積もっていくばかりになっていくだろう。 「はぁ……明日は大変だな……。まあ、いざとなったら飛ぶしかないか……」 ロックは白い息を吐きながらつぶやいた。 アーケオスは飛ぶよりも走る方が得意である。また、彼は警察であり、飛びながら犯人を捜すとすぐ見つかってしまう。なので彼は飛ぶよりも歩くことを定着させている。 ロックは市街地ではなく住宅地を見回っていた。曲がり角に差し掛かった時、ふと子供たちの元気な声を耳にした。その声のする方向を見ると、奇妙な光景を目にした。 「おーい、誰も休めって言ってないぞ! 早く動けー!」 「ハァ……ハァ……、も、もう疲れた……」 「アヒヒ? 命令を破ったら二度と遊んでやらないよ?」 「わ、分かったよ……」 ヤミカラスがサンタごっこと称しブレイブにそりを引かせている光景である。 「やれやれ……。またやられているのか。しょうがない……」 呆れた表情でこう言ったため、もう何回もブレイブがこき使われているのを見たのだろう。ロックはブレイブ達に聞こえるように大声で言った。 「おーいガキども、またブレイブを苛めてるのかー」 その声にヤミカラスはびくっとした。 「げ、ブレイブの親父!!」 「パパ!」 ロックはそりから降りたヤミカラス達に近寄った。 「えーと、……名前は忘れたが、君達息子に変な事はさせないでほしいのだが。ハロウィンの時のような……、そう、一生忘れることのない……」 「ちょっとパパ! やめて、言わないで!」 あわててブレイブはロックの話を遮った。何があったのかは不明だがどうやらトラウマになっているようだ。 「いいじゃないすか、クリスマスですし。それにブレイブは今日も俺に負けたんすよ。パパさんも俺達のルール前にも話したから知ってるでしょ?」 ヤミカラスはそういって、身を震わせた。どうやら寒さに限界を感じているようだ。 「はぁ……分かったがくれぐれも万引きとか犯罪の類はするんじゃないぞ? さて、もう辺りは暗く、雪も強くなってきて、子供達だけだと危険だ。そろそろ家に帰りなさい。それに鳥ポケモンは寒さに弱い。君を見ればもう限界だってわかる、」 ロックがそう言うと、ヤミカラスは辺りを見回した。雪が降り始めた時よりも強くなっていて、視界も悪くなっていた。体を震わせながら何か言おうとしたが、出たのはくしゃみだった。 「は……はっくしょん! うう……その通り、俺はもう限界っす。もう家に帰ることにします。コアルヒー、帰ろうぜ」 ヤミカラスの言葉にコアルヒーは不満だったようだ。物足りなさそうな表情をしている。 「アヒー? ボクはまだ全然大丈夫だよ? 分かった、じゃあボク一人でサンタごっこを続けよーっと!」 「ま……まだやるの? 僕ももうこの寒さに耐えられないよ……」 ブレイブは辛そうな表情である。 「コアルヒー、今日はそこまでにしておかないと、サンタからプレゼントが貰えないぞ? 夜遅くまで遊んでる子は悪い子供になるからな」 息子ももう限界なのにまださせるのか……そう思ったロックは止めさせようと頭に浮かんだ間違っているかもしれない事を口に出した。しかしプレゼントを貰えないかもしれないというこの一言は、コアルヒーの考えを変えるのに十分な効果を発揮した。 「アヒイイイイイ!! そ、それは嫌だーーー! もう帰るよ!」 ロックとブレイブはほっとした。 「じゃあ親父さん、俺達は帰るんで! じゃあなブレイブ! 明日またバトルしようぜ!」 「じゃあねー! 明日の命令が何なのか楽しみにしててねー! アヒヒーー!」 「2匹とも、気を付けて帰るんだぞー! 寄り道はするなー!」 ロックとブレイブは、急いで帰っていく2匹をしばらく見送っていた。2匹が見えなくなり、先に言葉を発したのはロックだった。 「さて、ブレイブも帰りなさい。私は見回りの途中でな。歳末だから帰るのはいつもより遅くなる」 「うん、分かった、ママにも言っておくけど、晩御飯は帰ってくるまで待ってるね!」 今日はクリスマスだけあって、夕食は豪華なものになると既にブレイブは知っていた。普段は父であるロックが帰ってくる前に夕食は済ませて寝てしまうが、今日は豪華なので、家族全員で楽しく食べたいと思っているのだ。 「ははは、私も早く帰れるよう頑張ることにしよう。では、行って来る」 ロックは雪が強く降る暗い住宅地を再び歩きだした。その後ろ姿をブレイブは尊敬のまなざしで見ていた。 「パパ、この寒い中まだ頑張るんだ……。それに強くて勇気もある。僕もいつかパパのように……、はっくしょん!」 大きなくしゃみをし、寒さに耐えきれなくなったブレイブは急いで自分の家へと駆けて行った。 5時間もたてば、雪は外の辺り一面を白い世界に変える。9時になったところで、ロックの勤務する警察署は終業となった。 「警部、お疲れ様です! 今日の予定は、家族楽しくパーティですね!」 帰宅の準備をしているロックに、一足先に準備ができたノイズが話しかけてきた。 「ああ、パーティという訳でもないが、息子が私の帰りをずっと待っていてな、急がなければ。ところでノイズ君、君はこの後どうするんだ?」 ロックの問いかけに、間髪を入れずノイズは答えた。 「そりゃあ彼女がいない俺ですもん! ナンパ以外にする事なんてありませんよ!」 ロックはため息をし、聞いただけ無駄であったと確信した。 「やれやれ……大変だな。警察の特権は絶対使うなよ? この間もそれを利用して逮捕された警察の面汚しが1匹いたからな」 「知ってますよ、俺はそんなことしませんって! 大体なくたって俺にはたくさんの魅力が」 ノイズの返答にロックは割って入った。 「じゃあなんで一度も成功してないんだ? 君確か先月25歳になったって言ったよな?」 「け、警部、言わないでくれえええええええ!! うわああああ!!」 バクオング特有の地を震わせるほどの大音量の叫びが、署内に響く。 「ば、馬鹿! うるさすぎる! 迷惑極まりない! もう十回目だ!」 ロックは耳をふさいで大声で叫んだが、その叫び声にかき消された。見るとほかの刑事や警官たちは既に逃げ出した後のようだ。仕方がないと、ロックも耳をふさぎながら、自身の魅力の無さを責めるよう叫び続け、暴れまわっているノイズを一匹残し、一目散に部屋を出た。 こんな悪天候な夜に住宅街を歩く者は、そういないだろう。実際、早く家へ帰ろうと傘を差しながら急ぎ足で向かうロックはまだ警察署を出てからすれ違ったポケモンは1匹も見ていない。 「足が冷たい……。これだから雪は……」 などとロックが呟いていると、ある家で彼の足が止まった。自分が暮らす家である。 ロックは傘にたまった雪をすべて落として閉じた。そしてドアを開けた。 「ただいま、今帰ったぞ」 彼がそう言った時、奥のドアが開き、ブレイブが一目散にロックめがけて突進してきた。 パパーっ!! おかえり! 僕ずーっと待ってたんだ! 早く来て食べよう! お腹空いたよ!」 不意打ち気味だったブレイブの突進をロックはなんとか受け止めた。ブレイブの頭を撫でていると、1匹のチルタリスがブレイブが出てきたドアから姿を現した。 「あなた、お帰りなさい! 準備は出来てるわ」 「ああサニー、ご馳走のようだな。楽しみだ」 サニーと呼ばれたチルタリスはにこっとして、戻っていった。ブレイブも後に続く。ロックは傘を傘立てに置き、ブレイブたちのいる部屋へと入っていった。 サニーはロックのことを「あなた」と言った。つまり彼女はロックの妻である。勿論ブレイブも彼女が産んだ。 彼女がロックと出会ったきっかけは、まだ彼女がチルットであった、8年前に起きたある立てこもり事件だった。彼女は凶悪犯の人質にされ、いつ殺されるかわからないという恐怖を味わっていた。しかし、彼女を救ったのはロックの勇気ある行動だった。 「勝負だ! 私が負けたら好きに逃げるがいい。だが人質の彼女は解放するんだ!」 相手は既に3匹の警官を殺していた。それだけ強く凶悪な犯人に何も恐れもなく、人質を救うため勝負を挑んだことは異例だった。周りの仲間は持久戦に持ち込めば確実に被害も少なく救出できるのになぜそんなことをするのかと言った。その質問に彼はこう答えた。 「持久戦だと犯人の精神は疲労し、危険な行動を起こす可能性が大きくなる。そうなれば人質のチルットは殺されてしまうかもしれない。また人質である彼女の精神も耐えられないだろう。何より、負けても私の命で彼女を救えるのなら安いものだ。心配するな……私は、人質を取るなど卑怯な事をするポケモンなんかには……負けない!」 犯人は彼の提案に乗った。理由は立てこもることに精神がきつくなってきたこと、彼を見くびっていたことである。しかし、ロックはその強さを負けたくない気持ちと共に存分に見せつけ、無事倒した。サニーを無事助け出した時、彼女はロックを好きになっていた。 そしてロックとサニーはすぐに結婚した。彼女は進化してすぐにブレイブを産み、今も家族円満に暮らしている。 「いただきまーす!」 ブレイブの、聞いただけで彼は最高の気分であると分かる声が響いた。 「ブレイブ、よく噛んで食べなさい。野菜もきちんと食べるんだぞ」 「たくさんあるから、食べるのに急がなくてもいいのよ。ほら、こぼさない!」 そう言いながら、ロックとサニーも肉の味を堪能している。 「パパ、ママ、分かってるよ! この肉美味しいね!」 「うふふ! 奮発して高い肉を買ってきたの! え、お金? それは……あなたの机の奥の箱にある……」 「待てサニー! それって私のへそくりではないか!」 楽しそうに食べるブレイブ、それを見て微笑むサニー、……なぜか暗い影を背後に黙々と食べ続けるロック。 雪の降る中、ブレイブ達でなく、たくさんの家族がそれぞれの家でクリスマスイブを楽しんでいた。 しかし、その次の日に全く逆の雰囲気となってしまうことを彼ら、いやポケモン達は誰も知らなかった。 その「計画」を実行する者達以外は……。 「さあ、もう寝なさい。サンタが来なくなるわよ」 ご馳走をすべて食べ終わり、満足感に浸っていたブレイブにサニーはこう言った。 「うん、お休みなさーい」 ブレイブは自分の部屋へと戻っていった。しかしまだ眠くないという表情をしている。 部屋のドアを閉めるまで見ていたサニーは、部屋の隅で縮まっている暗い影に話しかけた。 「ほら、いつまで落ち込んでるの? 過ぎたことなんだからくよくよしないの。それよりあなた、ブレイブについて話があるんだけど……」 暗い影……いやロックは元気のない声で言った。 「こ、これが落ち込めずにいられるか……。へそくりのほとんどが無くなっているではないか……。人がここまで溜め続けてきたものを……。ところで、ブレイブがどうした?」 ロックはよいしょと起き上がり、椅子に座った。サニーも向き合うように座る。 「実はこの間の定期検診の結果が返ってきたんだけど、ブレイブの特性による心の弱気……もう治ってるみたいなの」 「な、なんだと!?」 ロックは暗い影を吹き飛ばし、とても驚いた様子である。 ロックとサニーも、彼らの子供であるブレイブの異常な特性を知っていた。それをブレイブがとても気にしている事もである。 「ブレイブに伝えたのか?」 「いいえ、医師によるとあの子にそれを伝えたらまた心の弱気が戻ってしまうらしいの。自分で気付くことで完治するって」 「そうか……。ブレイブ……息子はそれに気付くだろうか?」 ロックは不安気味にサニーに言った。 「大丈夫よ、あなたの子なんだから」 「そうだな……あの時の私のように、きっとなるはずだ。さて、私たちも寝よう」 ロックがサニーに言った。さらに去り際に、 「今夜は寒い。どうだ……一緒に寝ないか?」 「ふふ、分かったわ。洗い物したらすぐに来るから待っててね!」 サニーは目をウインクし、ロックもそれに応えるようウインクを返した。 「サンタさん、何くれるのかなぁ? 楽しみだなぁ……」 ブレイブはサンタのプレゼントが届くことに興奮し、眠れないようだ。 外は未だに雪が降り続いている。音も全く聞こえない、静かな夜だ。 「僕が欲しいものは、新しいゲームと、プラモデルと、あと……あと……」 ブレイブは悩んだ。すると、楽しく待っている表情から一転、暗い表情となった。 「僕が一番欲しいもの……、それは勇気……。でも、サンタさんじゃ叶えてくれないよね。はぁ……、弱気が勇気に変わってくれないかな……」 こう呟いてすぐに、ブレイブは深い眠りについてしまったようだ。 なのでブレイブは、隣の部屋で2匹のポケモンの快楽と欲望に満ちた声が真夜中の間響き続けたことを知らない。 一晩中振り続けた雪ですっかり白くなった街に陽の光が灯りはじめた。 「……ん……もう朝……かなぁ……」 ブレイブはゆっくりと目を開け、ふあ~と欠伸をした。横を見ると、昨日までなかった小さな箱が目に付いた。 「あーっ! サンタさんのプレゼント! やったあ!」 ブレイブの眠気は一瞬で消え、胸が期待に膨らんだ。小さな箱は綺麗な包装紙とリボンに包まれている。これをサンタのプレゼントではないと誰も言えないだろう。 「何が入ってるんだろう? 楽しみだなっ!」 ブレイブはリボンをほどき包装紙を綺麗に剥がした。箱は上箱を開けることで開くようになっている。 ブレイブは箱を開けた。 中から出てきたもの。それは光だった。箱を開けた瞬間強烈な光がブレイブを包み込んだ。 「え!? な、なにこれ……」 部屋はすぐそばに太陽があるかのような光に包まれた。 「う、うわぁっ!」 光が完全に消えた時、そこには箱もリボンも包装紙も、ブレイブの姿もなかった。 こうして子供達の一生記憶に残る、悪夢のクリスマスは始まった……。 &aname(part2); その異変に最初に気付いたのはサニーだった。 「た、大変よあなた! ブレイブがいないの!」 まだ布団で眠っていたロックをゆすりながら緊迫した声で言った。ロックは無理矢理起こされた。 「ふぁー……。なんだ、まだ昨日のが物足りないのか。じゃあ」 「寝ぼけてなーい!! ほらあなた、起きなさーいっ!!」 サニーの乱れ突きが炸裂する。 「痛っ! 痛たっ! お、起きた起きた! 完全に起きたよ!」 ロックは涙目で布団から飛び出した。 「で……、何だ? ブレイブがいない? 朝からもう遊びに行ったのか?」 彼は突かれた部分をさすりながら聞いた。 「それが……、玄関の鍵もあの子の部屋の窓も閉まったままなの!」 「な、何だと!?」 ロックは仰天した。そんな鍵のかかったこの家を出られるのは壁をすり抜けられる、液体に変化することができるポケモンなど、特殊な能力を持つポケモンではないと無理である。ブレイブはアーケン。そのような能力は一切持たず、家を壊さない限り鍵がかかったまま家を出ることはできない。 「家じゅう捜したのか!?」 「今捜しているところなの。あなたも探して!」 「わ、分かった!」 ロックはブレイブの部屋に入った。部屋を見回したが特に変わった様子は無かった。物が壊されたり、誰かが入ってきた形跡も無い。しかし彼はある事に気付いた。 「おかしい……。サンタのプレゼントが無いな……」 その時、家の電話が鳴った。こんな朝早くに電話が来るという事は事件が起こったに違いない。ロックはそう思いすぐ受話器を取った。 「もしもし?」 「ああっ! ロック警部! 俺ですノイズです! た、大変なんです!」 「事件だな? こんな朝早くからなんだ?」 ノイズはもう警察署内にいた。……理由は「ナンパに失敗し家で泣いていたが近隣住民からうるさいと苦情が入りやむなく署内で一夜を明かした」である。バクオングの叫びはそれほどの大きさを誇る。勿論署内は防音対策をしている。 ロックは小規模な事件ならノイズに任せ外にいるかもしれないブレイブを捜そうと考えていた。しかしノイズの荒立った緊急事態を思わせる声から無理だなと思った。しかし、次のノイズの発した言葉がブレイブの行方について予想外な展開を生み出した。 「署内に多くの家族から『朝起きたらウチの子供が消えた』という電話が相次いで掛かってくるんです! それも全てこの街に住む家族から!」 「な、何だって!?」 ロックはとても驚いた。朝目覚めたら子供が消えた――、それは彼の家でまさに起こっている状況だった。それが他の家でも起きていた、つまりブレイブだけが消えたわけではない。この時点でロックはある事しか浮かばなかった。 「そ、そういえば警部、ブレイブ君は……」 「……すぐ向かう! いいか、今すぐ緊急警報を鳴らせ! これは事件だ!」 「えっ!? でも緊急警報は本当に大事件の時しか」 「馬鹿! 今が大事件だ! 責任は私がとる! 早く鳴らして他の警官たちを飛び起こせ!」 「はっ、はいっ!」 ロックは電話を切ると同時に玄関のドアへと一直線に向かい、勢いよく開けた。午前7時、普段は夜明けの気持ちがいい朝だが、今日の朝は違った。 「あなた、もしかしてブレイブは……」 サニーが今すぐ走り出そうとしたロックに心配そうに言った。 「心配ない! これは大事件の予感がするが……、私が必ず消えた原因と居場所を探り、ブレイブを救ってみせる!」 ロックは太陽の光を背後に、堂々と言い放った。 「頼んだわ!」 サニーがそう言った直後、 &size(40){「バグオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」}; 街中にとてつもない大音量の声が響き渡った。その大きさで街中の建物は震え、窓ガラスにひびが入った。これで起きないポケモンは一匹もいないはずだろう。これがノイズの緊急警報である。思わずサニーは耳をふさいだが、鳴り響いた後めまいを起こしてしまった。緊急警報は甚大な被害を出すため本当に大事件が起こったときのみ使われる。勿論ノイズ自身が決めるわけではなく、ロック達警部以上の階級を持つポケモンが命令している。 街に響いた警報が、この事件の始まりを告げた。 ロックは警察署に向け風を切る速さで走り出した。しかし路面は雪が凍りつき非常に滑りやすくなっていた。 「これだから雪は……! うおおおおおっ!」 そのスピードを緩めることなく、彼は翼を羽ばたかせた。すると彼の体は宙に浮かび高く上がった。彼は飛んで向かうことにしたのである。 ロックは道行くポケモンを眺めると、多くのポケモンが外に出て何やら話し合っている。かなりのスピードで飛んでいてすぐ視界から外れてしまうため瞬間的にしか見えないが、多分消えた子供がお互い不安になり間際らそうとして話し込んでいるのだろう、とロックは思った。 彼は10分ほどで署に到着した。多くの警官が入り口から出たり入ったりしていた。彼が署内に入り自分が担当する刑事課に向かうと、部屋は慌ただしい動きを見せていた。 「あっ、警部! ……やはりブレイブ君は……」 最初にノイズが声をかけた。ロックは無言で暗い表情を見せた。 「そうですか……。しかし警部、ご安心ください! 俺達がついていればどんな怪事件もすぐに解決します! 共にがんばりましょう!」 ノイズが励ますように言うと、慌ただしく動いていた刑事や警官たちの動きが止まり、ロックを信頼しきった眼差しで見つめた。 「緊急警報を聞いてすぐ来ました! 警部の要望に応えられるよう、頑張っていきます!」 ワカシャモの刑事がそう言った。それに続くように、 「緊急警報を使ったのは今回は正解ですよ! さすが警部! ブレイブ君達は必ず救い出します!」 「警部が私たちに教えてくれたことはたくさんあります! 今そのことが発揮されます! 全力で早期解決に取り組んでいきます!」 この場にいる警官や刑事たち全てがが彼を全力でサポートしたいという思いを次々に口にした。 「さあロック警部! 始めましょう!」 ノイズが最後に締めた。彼の表情はすっきりとして、目は闘志に満ちていた。 「刑事課にいる私のとても信頼できる仲間のみんな、この気持ち、ありがたく受取ろう!……さあ、みんなで協力し、この怪事件の犯人、消えた子供達の居場所を早急に探し出し、この街の平和を取り戻そう!」 仲間達は全力でこの事件に取り組もうとしている。私も彼らに負けないよう、やっていかねばならない……! 息子よ、待っていてくれ! 彼らと共に必ず救い出す! ロックは心の中で誓った。 考えると単に大事件だからノイズ刑事達は全力で取り掛かる、と言えるかもしれない。しかし彼らは本当に全力でやっていた。手の空いているものは進んで家族の話を聞きに行ったり、届いた書類、データを集めたりしている。刑事課には刑事や普通の警官たちが15匹程いる。その中でサボっていたり休んでいる者は一匹もいなかった。これはロックに対する信頼のおかげである。 彼が配属する前のこの署内は雰囲気が悪かった。真面目に仕事をしない、警察の権限を悪用する、仲間同士の仲が悪い……、警察と言えない状況になっていた。これにより解決できない事件も幾つかあった。 しかし彼のおかげで署内は改善された。日々全力で取り組む彼を見て、最初は何とも思わなかったが日が経つうちに自分は何をしているんだろう、と思うものが増え始めた。 また彼は仲間の組み合った協力が犯人逮捕につながる最大の力という事を署内に説いた。そこで彼は警官達の友好関係を深めるため、様々な企画を立て実行した。それにより署内のポケモン達は強固な関係を築いていった。 なのでロックの警察署は日々が全力で取り組む、犯罪に対する模範らしい最高の場所となっていた。 「それで、今までに分かった事は?」 ロックが聞く。ノイズはすらすらと説明を始めた。 「はい、まず子供が消えたという報告は68件、この街で子供のいる家族は70組だそうです。今刑事達が状況を聞き込みに行っています。現時点では、消えた原因、関与した人物不明……。まだこのくらいしか分かっていません」 説明を終えたノイズの表情は暗かった。 「ノイズ君、まだ事件は始まったばかり。他の刑事達も俊敏に動いてくれているようだし、君も朝からよくやってくれた。悪くはない。さあ、もっと情報を集めよう」 「はいっ! 俺の総力をもってこの事件早急解決に尽くしていきます!」 説明を聞き現状を把握したロックは、一つあることを考えていた。朝ブレイブの部屋にプレゼントの箱が無かったことである。彼は何やら動いていたノイズを呼び止めた。 「家族の話で、プレゼントが消えていたという話はあったか?」 ロックの質問にノイズは一瞬分からないといった顔をしたがすぐ理解したようだ。 「えーと、クリスマスプレゼントですか? いや、聞いていませんが……」 「そうか……。実はブレイブの部屋にあるはずのプレゼントが無かったんだ。サンタが届け忘れるなどあり得ない。もしかしたらプレゼントが何か関係しているかもしれないんだ」 「うーん……。とりあえず家族達から詳しい聞き込みを終えた刑事が戻ってくるのを待ちましょう」 そうして対話が終わりノイズはあわただしい警官たちの中に入っていった。ロックは椅子に座り、運ばれてきたカップを手に取り、中のコーヒーをすする。 事件が進展する情報を持ってきてほしい……、ロックはそう願った。 この世界ではクリスマスにデリバードのサンタクロースがプレゼントを届けにやって来る。それも理屈は分からないがオドシシが引っ張るたくさんのプレゼントが詰まった袋が積んだそりが、空を滑るように走り、眠っている子供の家へと向かうのだ。そしてやはり理屈が分からいが、どこからか部屋に入り枕元にプレゼントを静かに起き、部屋に入っていないかのように立ち去り、次の家に向けそりを走らせる。これが毎年行われている。全てのポケモン達が知っている事である。 9時になった時、刑事課のドアが大きな音を立てながら動き、一匹のポニータが駆け込んできた。息がかなり荒げている。 「はぁ……、はぁ……。皆さん、一通り聞き込みが終わりました!」 その言葉に一同全ての動きを止める。ポニータは聞き込みに行っていた刑事である。部屋の中は一気に静まり、ストーブの機械音がかすかに聞こえるだけとなった。 「それで……、何か分かった事は? ゆっくりでいい、話してくれ」 ロックがポニータに質問する。まだ呼吸の落ち着かないポニータは彼をまっすぐ見て、こう答えた。 「はい……。まず、自力で家を出たことは全く考えられないようです。どの家も外につながるドアと窓のかぎはかかったまま、部屋に荒らされた様子も、入った形跡も無いようです」 「そうか……。私の家と同じだ」 ポニータはさらに続ける。 「そして……、どの家も不思議な点が一つありました」 「不思議な点?」 「プレゼントが置かれていないそうなんです」 「何だと! という事は……」 ロックの頭にある考えが浮かんできた。消えたプレゼント、入った形跡のない部屋……。それは犯人があのポケモンしか考えられない……! 「……ノイズ君、早速行くぞ」 いきなり呼ばれたノイズはびくっとした。 「い、いきなりどこに向かうんですか、警部!?」 その質問にロックは一言、こう答えた。 「サンタクロース……いや、デリバードの家だ」 いきなりサンタクロースが出てきた事を理解しようとノイズはしばらく固まっていた。他のポケモン達もそれを考えていたが、最初に解くことができたのはワカシャモ刑事だった。沈黙状態の中口を開く。 「あ、分かりました! つまり子供達をさらった犯人はサンタクロースってことですか!」 「ああ、その通り。ボイル君、説明してみろ」 視線が一気にボイルと呼ばれたワカシャモに集まる。 「はい! いいですか皆さん、入り口のしまった家には普通のポケモンでは入れない。入ったとしても足音やドアの音ですぐ気付かれてしまいます。しかしサンタクロースは、気付かれることも侵入した形跡を残すこともなく、部屋に入って子供を連れ去る事ができるのです! プレゼントが無いのは、もともと用意してない上大きな袋に子供達を入れるのに邪魔だから! そういうことですね!」 「ああ、私の推測だとその通りだ」 ロックは頷く。これが彼の出した推理である。間違っていなければ事件はすぐ解決するはずである。 「す、すごいです警部! 完璧な推理です! 分かりました、すぐ向かいましょう!」 「ボイル君、君も同行してくれ。ついでに他のかにも連絡を入れて、警官達も向かわせる。他の刑事、警官達は待機! よし、行動開始だ!」 ロックの一声で素早く行動は開始された。警官が招集され、何台ものパトカーが道路に列をなす。 「いやー、大きな事件かと思いましたが、こんなに早く糸口が見つかるとは思いませんでしたよ!」 運転席でノイズが気分よくバックミラーを見て、座っているロックに話しかける。その隣でボイルが首を落として寝ている。 「ああ、私の推理通りならな。それより前をちゃんと確認しろ」 「はいっ!」 一行はサンタクロース、デリバードの家へとパトカーを走らせる。集団誘拐事件はこんなにも早く解決する。そう思っていたのだが……。 ---- …私の文章力の無さがとてもよくわかります。 初形式の長編小説なので、問題点を指摘してくれればありがたいです。遠慮なくどうぞ。 #pcomment() IP:114.49.12.238 TIME:"2013-01-10 (木) 20:47:47" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E8%81%96%E5%A4%9C%E3%81%8B%E3%82%89%E7%9B%AE%E8%A6%9A%E3%82%81%E3%81%97%E5%8B%87%E6%B0%97" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"