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群黒の穴 の変更点


by[[ROOM]]


 鬱蒼とした森の中。一匹のポケモンが倒れていた。……かつて。その森の“山脈地帯”へ行く方向とは反対側の、森の出口の下の土の中に箱が埋めてあった。雨水が浸透することはない。箱の中には手紙があった。手紙にはこう書いてあった。



 イビル様へ
 貴方が失踪して数日がたち、貴方の捜索の打ち切りが決まりました。貴方に会うことができず、とても残念です。本当に。
 あなたもご存じかと思います。失踪した者の名前が書き記してある、群れの長に代々受け継がれる本、“群黒の穴”というものがあるのを。そこに貴方の名前が追加されました。
 ……あなたは生きていますか?
 イビル。私たちはずっといっしょだったよね。
 私は群れの長のドンカラスの娘だったし、イビルは群れにいるもう一人のドンカラス、群れで最強のドンカラスの子どもだったわ。私のお父様とあなたのお父様はすごく仲が良かったから、私たちもよく一緒に遊んでいたよね。
 いろんなことをしたような気がする。どこまで高く飛べるか競争したし、いっしょにきのみも探した。……もうずいぶん前に感じるような、つい昨日だったような、不思議な記憶。
 でもはっきり覚えているのは、イビルのあの笑顔。いっつもイビルは私をからかって遊んでいたわ。わたしのふくれっ面を見て、イビルはむじゃきな子ども(あのときは子どもだったけどね)のように笑っていた。
 私はあなたの笑顔がみたかった。それでからかわれたのを無理して笑って対応したりしたけど、イビルの笑顔を見たときのうれしさは最高だったわ。何よりイビルのお父様の口癖の「相手を信用しない限り相手に笑顔を見せてはいけない」って言うのをわざわざ真似してから笑ったのは、不器用なあなたができる最大の表現だったと思うよ。
 私たちのお父様たちもよくいっしょに笑ってたっけ。
 そして……イビルのお父様も「群黒の穴」だった。
 きのみ探しにいったきり、かれはもどってこなかった。
 あの時のイビルのふさぎこんだ姿は…見てられなかった。私はあなたのそばにいた。それしかできなかった。なんて声をかければいいかわからなかった。それで充分と、イビルは言ってくれた。
 うれしかったわよ。それはもう。無理して笑ってくれたイビルのすがたを今もはっきり思い出せるもの。それに…(なんだろう?字がにじんでて読めない)…よ。
 でもあれが最後だったのかもね。
 それからは、お互いに男と女というのをいしきしはじめた。大人になっていった。イビルはイビルでほかの男の子と遊んでたし、私は私で女の子とあそんでた。
 私はイビルがはなれていくのをしりながら、見てるしかなかった。まわりがそうしてたから。それで自分が後かいするとわかっていながら。あのときと同じ。それしかできなかったの。波に身をまかせることしか。
 そして、あなたがいなくなっ…(ここもにじんでいる)…。
 私はイビルが帰ってこないときいて、目のまえが真っ白になった。それでもうけとめて、だめかもしれないと思いながらもお父さまにおねがいした。
 そしたら……2、3日ここにいるっていってくれた。
 群れのおきてに背くんじゃないのか。そう聞いたら「私は“ここに滞在する”と言ったんだ。イビルは関係ない。さて2,3日いるならきのみがたくさんいる。群れ総出で“捜す”か」って。
 そしてしばらくして見つけたわ。…イビルのと思われる、血のあとを。
 …(ここも、か)…なった。
 私はイビルがお父さまをなくしたときのようにふさぎこんだ。なにもかも、どうでもよくなった。
 そんなとき、私に話しかけてきてくれた人がいた。わかるでしょ?イビルの友達の…(にじみが頻繁になっているようだ。)…って。
 私の心にあいたあなは“群黒の穴”なんて物理てきなものじゃない!そんなにかん単に埋められるなんて気やすくいわないで!
 彼はそれでも必ず埋めるっていった。
 ……私は迷ってるの、イビル。
 私は彼といるうちに段々心が落ち着くのを感じた。穴が小さくなるのがわかった。このままなら穴が埋まるんじゃないかと思った。
 一方で、穴を埋めたくないとも思っているの。イビルを忘れたくない。もう一度でいい。会って、なんでもいい、話がしたい。
 こんな手紙が自己満足なのはわかってる。でもこうするしかないの。こうするしか。
 どうしたらいいの?イビル。どうしたらイビルをずっと覚えていられるの?教えてよ!
 
 ……あなたは生きていますか? 
 


 もう時間ね。群れが移動を始めるわ。この手紙は森の出口に埋めることにしたわ。ところどころ飲み物で汚して読めないけどごめんね。じゃあまた。


  追伸   さよなら   好きだったわ、イビル 



‐ ‐ ‐ ‐ ‐


 そうか…。お前はずっと俺のことを。
「どうしたの?イビル。」
 いやちょっと見覚えのあるもんが埋まっててな。掘り起こしてみたんだ。
「ふーん。まあいいけど。興味ないし。雨降りそうだから私先いくよ。早く着いてきてね。」
 ああ。行っててくれ。
 
 ……この箱は……俺があいつにプレゼントした箱だ。いや正確にいえばこれは箱じゃない。
 小物入れがついたオルゴール。あいつの誕生日にプレゼントした。そう、お父様(もうかしこまらなくていいか、父さん)がいなくなったあの日がちょうどお前の誕生日だった。それで祝ってやれなかったんだよな、その日は。
 それであとになってから俺は込み上がってくる悲しみに耐えて、これを渡した。手紙ではその部分は“飲み物”で読めなくなっているらしいが。
 大変だったんだぜ?お前の好きな歌でわざわざオルゴール作るの。時間もかかった。
 でもよかった。これをここにおいて、追伸で“さようなら”と書いたということは、俺を忘れる覚悟ができた、ということだから。そして俺を好きだったと、過去形だったから。
 俺はここにきてこの手紙を読むまでお前のことを忘れていた。グッドがいたから。
 忘れてくれ。過去を乗り越える方法は二つしかない。一つは過去を受け止め、すべてを受け入れること。もう一つは忘れること。
 ん?違うか。もしかしたらこの二つはイコールなのかもしれないな。過去を受け止めることで、過去を忘れられるのだとしたら。
 とにかくこれでいいんだ。俺もお前も過去を乗り越えた。もうすぐ忘れるだろう。(もう忘れたかな?)それでいいんだ。手紙はここに戻しておくとしよう。
 さようなら。俺もお前が好き、だったぜ。
 お~いグッド今行くぜ。待ってくれ。
「遅いよ。雨降ってきちゃうじゃない。それにしてもあれから一年、早かったわね。」
 そうだな
「そういえばさっきの……」


‐ ‐ ‐ ‐ ‐

 

 遠ざかっていく声を手紙は静かに聞いていた。手紙に耳などあるだろうか?多分あるんだろう。これはただの手紙ではないから。
 たった今降ってきた雨が箱の中へ入ってくる。蓋は開いたままになっている。手紙が濡れていく。字がぼやけていく。手紙から水がわいているようだ。手紙に涙を流すような目などあるのだろうか?多分あるんだろう。これはただの手紙ではないから。
 特別な想いがこもっているから。
 だが手紙は自身の涙に溺れ、跡方も残さなくなるまでそう時間はかからない。箱もまた、すぐではないにしろ土に還っていく。
 最後には土からも忘れられる。それが乗り越えるということだから。乗り越えた先にあるものだから。
 






















コメント、アドバイス等頂けると嬉しいです。
- やばい、グッと来た。 ラストが、かなり良いですね --  &new{2009-06-06 (土) 03:40:40};
- >名無しさん&br;ついにここにコメントきたっ!ありがとうございます!短い作品ですがそういっていただけるとうれしいです。 -- [[ROOM]] &new{2009-06-06 (土) 06:46:02};
- なんて言うか・・・いいなぁ・・・続きが楽しみ。 --  &new{2009-06-09 (火) 23:22:44};
- なんて言うか・・・いいなぁ・・・続きが楽しみ。 --  &new{2009-06-09 (火) 23:25:02};
- >名無しさん。コメントありがとうございます。ええと二つは同じ方ですよね?&br;この話はこれでおわりですね…しかし続き自体は… -- [[ROOM]] &new{2009-06-10 (水) 22:14:05};

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