#include(第八回短編小説大会情報窓,notitle) [[作者>リング]] 魅惑の花畑。この場所は、色とりどりの花が咲き乱れる風光明媚な土地である。この場所には長い間住人の憩いの地として好かれていた場所で、数年前からビークインの群れが越してきた。彼女らはこの場所に巣を作って蜂蜜を集め、時折をそれを持ち寄って、物々交換をしながら周りの住民と共存をしていた。 ある日、その巣の女王様がお触れを出した。『わらわの婿はミツハニーではなく、一般の男性諸君から選ばせてもらう』と。その婿を選ぶ方法とは、単純明快。戦いによって選ぶというもので、しかもそれはシンプルなトーナメント戦。美しい女王様を見て一目ぼれした僕も、その戦いにエントリーをした。 僕の種族はウルガモスで、虫タイプでありながら虫タイプに有利な炎の技を持っている。有利であるとは思っていたが、まさかその力を活かして優勝までこぎつけられるとは、自分でも思っていなかった。流石に決勝でのアイアントは強敵で危なかったが、相手がはりきり過ぎてストーンエッジを外してしまい、なんとか後手で攻撃を決めて生き残ったのだ。 そうして、運にも助けられつつも、なんとか強きオスとして認められた僕は、憧れの女王様に謁見を許される。周りに整列する従者。雄のミツハニーに見守られながら、むせ返りそうなほどに甘い香りに満ちた巣を歩く。六角形の模様に囲まれた室内は幻想的で、土とも砂とも岩とも違う、不思議な感触の床に心躍が踊る。ひらひらと翅を舞わせながら、はやる気持ちを押さえて巣の最深部に行くと、彼女は巣の奥で大きな腹を床に置いて待ち構えていた。 女王様の周りには近衛兵なのだろう、他のミツハニーよりも戦い慣れしていそうなミツハニーが羽音もやかましく飛び回っている。しかし、僕はそんな羽音など気にならないくらいに緊張する。僕の足取りはいつもより重く、こんなに甘い香りに満ちていても、食欲がわかない。なんという事だろう、巣の奥にいる女王様の気配がここまで伝わってくるようであった 歩みは重いが、それでも少しずつ歩みを続けて玉座の前に立つ。そこにいた彼女は、美しい山吹色の体に黒の縞模様をあしらった警戒色。細い手の先には鋭い爪が付いていて、その鮮やかな色の爪の綺麗な事。まだ何者も穢していない、無垢な美しさがそこにある。赤い目はまるで透き通るガラスのように美しく、額についた赤い珠も、眩しいほどに煌めいている。 何よりも特徴的なのは、普通の虫タイプにあるような腹を囲むように付いている六角形の空間である。あれは従者のミツハニーを収納し、有事の際に攻撃や回復を命じて身を守るためにあるそうだ。子作りの際には、あの大きな下半身を重なり合うのだと考えると、何だかワクワクしてくるではないか。 「お初にお目にかかります、女王陛下。今宵は、わたくしめを子作りの相手に選んでいただき、至極恐悦にございます」 彼女の前にひざまずいてそう言うと、女王様は控えめに羽ばたいて近寄り、僕の前に立つ。 「固くなるでない、顔を上げい。気楽にする方が、わらわとしても嬉しいぞ」 女王様は、かぐわしいフェロモンを漂わせながら、緊張して熱を放つ僕の顔を近づける。何ともったいない、あの高貴でいい匂いで、多くの子を産む役目を帯びた偉大なる女王様が、ここまで顔を近づけてくれるだなんて、数日前までは思いもしなかった。あまりに光栄なその状況に、周りのミツハニーは、僕へ嫉妬と祝福をないまぜにした視線を向けている。 女王様に釘付けの僕は、その真っ赤な目にすべての心を見透かされているような気がする。腰をかがめて、細い腕をそっと添えられると、全身が強張るほどの緊張感が僕の体を支配する。心は、今すぐにでも女王様の体にかぶりつきたいほどなのに、体が地面に縫い付けられたように動かず、僕は女王様を火傷させないように体温を低く抑えるだけで精いっぱいであった。 「大丈夫、そう不安げな顔はなるでない。かたっ苦しい事は抜きにせい。お主はわらわを孕ませてくれればそれでよいのじゃ。それとも、皆に見られていると恥ずかしいか?」 「そうですね。個々ではそんな心配をする必要はありませんが、無防備なところを晒していると襲われる可能性もあるので……見られていると落ち着きません」 そう言って、女王様はにこやかにほほ笑み、そして体を起こすと、周囲の従者に目を向ける。 「そうか、心得たぞ。聞いたな、皆の者? ここからはわらわと彼だけのひと時じゃ。この部屋から退散してくれんかのう? やっこさんも皆に見られたままでは、落ち着いて話も出来ないようじゃ」 女王様の言葉に、従者たちは疑いを持つことなどなく。二人きりにすることを心配しながらも。羽音を立てながらぞろぞろと退室していった。 「さて、と……邪魔者もいなくなったことじゃ」 女王様は、すっかり静かになった玉座の間を見渡して、満足そうに僕を見た。 「もっと近くで顔を見せい」 言うなり、彼女は先程よりももっと顔を近づけて、その匂いもより強く僕を惑わしていく。 「これが、数々の男を下し、王者となったものの顔か。激しい戦いのせいか、体中に傷跡が残っていて、ボロボロじゃのう。痛々しい傷じゃ」 「こんな傷だらけの体なんて、じろじろ見るものじゃないですよ。女王様にお見苦しいところをお見せしたくはありません……」 ここに来る前に温泉に入って体を清めてきたが、こんなにじろじろと見つめられると、それでも汚れがあるんじゃないかとドギマギする。しかし、その心配は無用だったようで、女王様は特に目ざとく何かを見つけるでもなく、微笑んでいた。 「いやいや、良いのじゃ。確かに、お主が無傷ならばそれはそれで、お主がそれほど強いという証明にもなる。じゃが、それは不可能というものじゃろうて。じゃが、こうして傷跡が残るという事は、逆に言えば深い傷を負っても戦い抜いた証拠。それが好印象にならず、どうなるというのじゃ? お主の傷は、醜い傷ではなく誇らしい傷じゃ」 女王様はそう言いながら、尖った爪の先で優しく僕の体を撫でる。 「あぁ、愛おしい。わらわの魅力に心奪われ、そして命をも失いかねない戦いを乗り越えて、こうしてわらわの傍に立ってくれたのか。それまでどんな努力をしたのか、聞かせてはくれないか?」 「いや、努力だなんて……恐縮です。僕はただ、自分の食糧を守ったり、仲間を外敵から守ったりしているうちに、皆に頼られて、それで強くなって……そんなある日、女王様が婿を募集しているというから、興味を持って見に来たんです。そしたら、こんなにも美しくて、そしていい匂いで、いわゆる一目ぼれと言うわけでして。 男として、それに応えないわけにはいきませんもの! ですから、あんな……戦いに身を投じたんです。それもこれも、新女王様があまりに魅力的過ぎるから」 「そう……皆からそう言ってもらえて、嬉しい気もしたけれど、今では若干半信半疑じゃ。皆、わらわに仕える立場だからこそ、お世辞で言っているのではないかとのう。しかし、こうして二人きりになっても、面と向かってそう言ってくれるのならば、もしかしたら従者の言葉も本物なのかもしれんのう」 「そりゃもう、言葉通りですから。それで、その……不躾ではありますが。肝心の、その、子作りは……いつごろに?」 「そう慌てるでない。まずはわらわの母が寄こしてくれた従者が作ってくれたロイヤルゼリーを召し上がるがよい。わらわがいただく物は、従者が食べる甘い蜜とは比べ物にならぬほどに栄養満点な特別性じゃ。もちろん、甘い物が好きなら甘い蜜も用意しておるぞ」 「お、お気遣いどうも……」 今までこの方、僕は女の子に困ったことはなかった。メラルバのころは、女を侍らす大人の男性に憧れたりもしたけれど、進化を経て自分の戦いの才能に気付かされてからは、いつの間にやら雌たちに囲まれ、子作りを申し込まれたりもしたものだ。 だから、女性には困っていない。慣れっこのはずだというのに、どうして僕はこんなにも女王様の前で緊張しているのか。せっかくの美味しいロイヤルゼリーでさえ、ほとんど喉を通らない始末。巣の内装と同じ素材で作られたテーブルに案内されても、まるでくつろげなかった。 そんな僕を見かねてか、女王様は世間話を始める。 「今でこそこうして、お主を迎えておるが……本来は、わらわは多数の従者とともに子作りをする予定だったのじゃ」 「そ、それは……それが普通ですよね。しかし、それならばなぜ、貴方は子作りの相手をミツハニー以外からも募集したので?」 「……わらわがあまりにも高貴だからかのう? 母親の代まではこんなことはなかったのじゃが、わらわが見守っているだけで、従者は甘い蜜すら喉を通らなくなるのじゃ。故に、従者の食事の際はわらわが退室しなければ、皆蜜集めに支障が出てしまいそうなほどに食が細くなるのじゃ。 そしてそれは子作りにもおよび、彼らはわらわのフェロモンを前にしても、そのイチモツが役立たずになってしまい、にっちもさっちもいかず……従者の言葉が嘘ではないかと思うようになったのも、それが原因なんじゃよ。 元々従者達は性的な経験は薄いの。じゃから、わらわがもたらす雰囲気に耐えられないのではないかと考えたのじゃ。しかし、強く、そして女性を何度も獲得してきたお主のようなオスであれば、わらわと共に食事を楽しみ、そして子作りを行うことも出来るのではないかと考えたのじゃ。そうすれば、ようやく次代の女王を産み育てることも出来るというわけじゃ」 「な、なるほど……」 寂しげにそう語る女王の瞳は美しく。あの瞳を輝かしい笑顔に変えて上げられたらと、僕の心は熱く燃え上がる。なのに、僕の体は差し出された蜜を受け入れることを拒む。仕方なく無理やり体の中に注ぎ込むと、むせ返ってしまいそうになり、僕は無理して飲み下す。 「幾多の戦いを乗り越えたお主でも、やはりわらわの前では緊張するか?」 「は、はい。でも、このロイヤルゼリーと言う者はとてもおいしいものですね。添えられた甘い蜜も、五臓六腑にしみわたるような甘さで、こんな状態でなければいくらでも食べたくなるような……」 「そうじゃろう? わらわもこれを食べて育ったのじゃ。母は本当に良い子を生み落し、わらわの従者に付けてくれたものじゃ! こんなものを毎日食べられるのじゃからな」 蜜の味を褒めると、女王様は人が変わったように喜び、自慢する。 「そんなに美味しいと言うのなら、お主にはいくらでも差し上げようぞ。なんせ、わらわの夫となる男性じゃ、体は健康を保たんといかんのう」 「は、はい……恐縮です」 褒められれば褒められるほど、僕の体は縮こまる気分だ。こんな気分で、子作りに臨めるのだろうか、それが気がかりだ。 「そうだ、お腹がいっぱいなら、無理して食べる必要はないぞ? 実はわらわ、まだ処女なもので……今度こそ子作りに励めるのではないかと思うと気が気ではなく、年甲斐もなく興奮してしまって……恥ずかしい限りじゃが、このはやる気持ちを鎮めることに、協力してはいただけぬか……?」 「ぜ、ぜひ!」 はやる気持ちなら、僕だって抱えている。それを押さえるという事は、つまり女王様の欲求にこたえるという事。男がそれを頼まれて断るだなんて無粋もいいところ。震える声で答えた僕は、その場で女王様に体重を預けられた。 「もっとお主の体をよく味わいたい。このまま抱きしめていてよいか?」 そのまま女王様が、滑りるように体をなぞり、そしてその尖った指が僕の顔に触れる。その指にこびりついたフェロモンの匂いは、女王様自身も興奮しているおかげか、虫である僕たちには耐え切れなくなるほど濃厚た。いままで、どんな雌に対しても抱いたことがない欲求が、僕の中に芽生えるのであった。 間髪入れずに僕の前足をいつくしむように女王様が触れ、気付けば僕は引き寄せられて、口付けを受けていた。彼女の口付けは、蜂蜜を薄めたような味で、さらりとして飲みやすくなったそれは、べたついた甘い蜜よりは幾分か飲み干しやすい。 緊張で蜜すら喉が通らなくなる中、頑張って体の中に流し込み、口付けを終えた女王様の顔は、今まで僕が相手をしたことがあるメスがそうしてきたように、ひどく色っぽい顔を。そしてその色っぽさを、今までの雌とは比べ物にならない美しさで輝かせている。 「さぁ、そろそろお待ちかねじゃ。もはや前戯など不要じゃろう? わらわの体は、お主を受け入れる準備は出来ておる」 そうして、フェロモンを放つ下半身をごろりと投げ出されてしまえば、僕はもう交尾の体勢に入るしかない……と、言いたいところだが、いまだに僕のイチモツは勃たないのである。 「どうしたのじゃ?」 「いや、女王様の体をいたわることなくいきなりなどと言うのは、やはり失礼に当たりますゆえ……」 「あらあら……そんなの気にせずともよいうのに。じゃが、わらわを楽しませてくれるというのならば……それに甘えてみるのも良いかもしれぬな。世の男女は、そうやって楽しみながらやっておるのじゃろう?」 「ええ。女王様が新しい群れを作る責務があるとはいえ、そうした義務感だけでこんなことをしても楽しめないと思います、どうせなら義務だとかそんな事は忘れて楽しみましょう」 僕は見苦しく言い訳をして、横たわる女王様に手をかける。ハサミを使って、彼女の従者を収納しておく六つの穴や、中心の腹をちょいちょいと撫でる。痛くない程度につまみ、蜜を掻きだすようにこすり。最初はその感覚に戸惑い、快感よりも違和感に翻弄されて、苦しそうな、不快そうな、くすぐったそうな声を上げる女王様だったけれど。どうすれば快感に変えられるかを心得たように、途中から少しずつかわいらしく甘い声に変わっていく。 「ふぅん……なんというか、最初はよくわからない感覚じゃが……お主を受け入れようと思うと、すごく……心地よいものなのじゃな」 「はい、その……わらわが今まで相手にしていた女性たちと違ったらどうしようと思っていましたが、満足してくれたようでうれしいです」 僕の口調は緊張してたどたどしい。女王様はそんな僕に、一切物おじせずに接してくれるあたり大物である。初めてのメスはみんな緊張するというのに、オスである僕だって初めての時は緊張したのに、彼女には緊張が全くないのだもの。対照的に僕は、いまだに緊張しっぱなし。 「そうだ、わらわの方もお礼に、先に少しだけお主をもてなしてあげねばならんのう……じゃが、お主ずっとわらわの法に体を向けておるが、主のイチモツはあまり自己主張しておらんのう? 男性器と言うのは、こういうものなのか? 従者の皆が言うには、もっとこう、大きくなるものだと聞いたのじゃが……それとも、興奮せなんだか?」 「えっと、その……なんだか、緊張してしまって、中々勃たなくって……はは、たまにあるみたいなんです、緊張しすぎるとこうやって勃たなくなることが……」 正直にそれを告白すると、女王様は酷く失望した顔をする。 「お主もじゃと? わらわにあてがわれたミツハニーが軒並みそうだったように、お主もまたそうなのか?」 そう問うた女王様の声は、重い威圧感を放つ低い声で、思わず僕の体は強張ってしまう。 「え、いや、でも……まだまだ、女王様に触ってもらえば、元気が出るかも知れないから……」 「じゃあ、早ようするのじゃ!」 今までよっぽど同じような事態に直面してきたのか、彼女の失望は深い。女王様は泣きそうなくらいに悔しげな顔で僕の事を見ていたが、その突き刺すような視線のおかげで、さらに僕は緊張に縛られてしまう。 結局、その視線に射抜かれ続けた僕のモノは役立たずのまま、うんともすんとも言わずに、自慰すら空振りに終わるばかりである。女王様の失望は徐々に怒りに変わり、ついに女王様は声を張り上げる。 「帰れ!! 二度とその情けない顔を見せるな!!」 いつまでたっても役目を果たせない僕に、女王様は怒りと悲しみを綯い交ぜにした顔で叫ぶ。僕も泣きながら逃げ帰るしかなかった。 「あー、それ緊張感の特性のせいだねぇ……」 僕はその日のうちに、アーケオスと同居しているデンチュラに昼の出来事を愚痴ると、彼はそう言った。 「緊張感?」 「うん。普通は戦闘中にしか発揮されない特性なんだけれど……たまに無意識のうちにその特性を発している奴っているんだよねぇ。例えば僕がそうなんだけれど、僕の場合は普通の奴なら日常生活に支障は来たさない程度だね……ただ、相棒のアーケオスが弱気な奴だから、もろにその影響を受けちゃってさぁ。 多分、女王様も知らず知らずのうちにやっているんだろうねぇ……しかも俺よりもずっと強く。多分、女王様だから気を張っちゃっているんだろうねぇ、常に」 「じゃあ、僕どうすればよかったの?」 「胃液とか、仲間づくりとか、特性を変えてあげるしかないねぇ。僕の場合も自分に胃液を掛けるようになったら、今までの問題が解決したんだよ。君も出来ればいいんだけれど……君は胃液、使える?」 ウルガモスの僕には、胃液は出来ない。女王様との子作りは、僕にはどうしようも出来ない事であった。 ※後日、事前の戦いで二位だったアイアントと女王様が張り切って子作りに励みました ---- あとがき 今回は〇票とは……なにが悪かったのか。 今回のお題は『緊ちょう感』と言う事で、夢特性に緊張感を持つビークインと、虫タイプ(というかタマゴグループ虫)では最強クラスのウルガモスが主人公となりました。 もう最初の数行で落ちが分かるお話でしたが、それがいけないのか、それとも分かりにくい物語だったのか。反省する点は多くありそうです。 ちなみに、このお話は縁人のニンフィアと同じく温泉島を舞台にしています。最後のデンチュラは最初の依頼人で、ウルガモスが温泉に入っているあたりから推測できた人もいるかも知れません。 ---- #pcomment(,5,below); IP:218.110.2.108 TIME:"2015-09-22 (火) 21:51:41" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E7%B7%8A%E5%BC%B5%E6%84%9F%E3%81%AF%E7%94%B7%E3%81%AE%E6%95%B5" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.3; WOW64; Trident/7.0; MALNJS; rv:11.0) like Gecko"