作者:[[COM]] 作者:[[COM]] ―――いつの間にか…目の前には美しい夜空、瞬く星々…鬱蒼と茂った木々が風に揺れ、ざわめく… あれ?そういえば前もこんな光景を見た気がする…何時だろう?…覚えていないや… 遠くから声が聞こえる…いや…すぐ近くで聞こえているんだ… でもなんで遠くに聞こえるんだろう… 「お願い…目を覚まして!こんな所で終わりだなんて絶対に嫌!!」 泣き叫ぶ声と共にそんな声が聞こえた…僕は大丈夫だよ…終わってなんかいないよ… 慰めようと手を伸ばすが、 右手しか動かない…それでもいいや…その人を慰められるなら… 「大丈夫…だよ…約束…は…必ず守る…から…待っててね…」 そう笑顔で言った…視界が緩やかに暗くなっていく…そんな中で声が響く… 「起きてよ!お願い起きて!」 駄目だ…意識が保てない…何で?おかしいな…元気なはずなのに… 「おきてー。おきてよー」 あれ?なんだ?この声… 「おにいちゃーんおきてー。」 誰の声だ?聞き覚えがない…わけでもない… 「レイのおにいちゃーん。あさだよーおきてー。おきないとつつくよー。」 ―――ゆっくり目を開けると…目の前にはポッポとマメパトが人の頭につつくを繰り出していた。 「あ!おきた!」 レイはゆっくりと起き上がり 「お前らか…お早う。てかあんまここに来ないほうがいいんじゃないのか?」 「だいじょーぶ!だっておにいちゃんほんとはやさしいもん!」 そんなことを言って部屋の中を自由に飛び回っている。 二匹の名前はポッポのほうがコッポ、マメパトのほうがパッチ。 かなり仲良しの二匹はいつも行動を共にしている。最近はレイの家に遊びに来ているようだ。 「そういえば、なんでおにいちゃんここでねてたの?」 とコッポ、続けざまに 「なんでいつもねてるばしょにキレーなおねえちゃんがねてるの?」 とパッチが尋ねてきた。あまりにも唐突な質問にあせりを隠せないレイ。 「え?いや、あのな!あれは…えーと…そう!寝かせてあげてたんだよハハハハハ!…」 完全に意味不明だが、小さな二人には十分通用した。 「やっぱりおにいちゃんはやさしいね!」 二人揃って言う。 『とにかくここはなんとか口を封じとかないと!…』 「お前ら、腹減ってるだろ?木の実やるよ!ほら」 そう言って戸棚から何個かのオレンの実とモモンの実を渡した。 「わーい!おにいちゃんありがと!」 「そのかわり、今日のことは絶対誰にも言うなよ?いいな?」 二人は元気良く返事をし、木の実を持って家へ帰っていった。 『とりあえずこれで一安心だな。』 と胸を撫で下ろした。 「へ~そんな一面もあったんだ~。」 と寝室の扉から顔を出していたキッシュがニヤニヤしながら言った。 「わぁー!!違う!これは!これは違う!!これはその…!そのぉ!!」 「焦ってるレイって可愛い♪」 そんなことを言いながらクスクス笑いながら出てきた。 『まったく…キッシュと一緒にいるとどうも調子が狂う…どうしたもんか…』 そうは思ったレイだったが、別に見られてはいけないものではなかったため そこまで気にもしていなかった。 レイはただ虐められたくないだけだったので、本当はこんな関係で話せば良いものを、 前世の仕返しと言わんばかりに気張っていることが原因で、 森のみんなとも打ち解けられずにいた。 「ねえ、わたしおなかすいた!朝ごはん作ってよ~」 とキッシュが催促する。が 「なんで奴隷のはずのお前が命令してんだよ!」 とレイがつっこむ。 「でも、おなかすいたんだもん。じゃあ何も食べさせてくれないの?」 と極普通にキッシュが切り返す。 「い、いや…そういうわけじゃ…」 流石に痛い所を突かれて口ごもる。 「じゃ!よろしくお願いね~」 と元気なキッシュの声。 「だーもう!分かったよ!作りゃいいんだろ!作りゃ!少し待ってろ!」 そう言ってキッシュをソファに座らせ、キッチンで調理を始めた。 それから数分後… 「ほらよ。トーストとハムエッグ、あと適当にサラダ作ったから先食っとけ。」 となんとも手際良く朝食を作ってしまった。そのまま洗い物をしている。 「驚いた…こんなに料理が上手だなんて…」 と目を丸くするキッシュに対し 「俺を舐め過ぎだぜ。オスの一人暮らしは器用な奴が多いんだよ。」 そう言いながら器用に後ろ足だけで支えながら、前足でフライパンを洗っている。 「しかもおいしい…ねえ、他にはどんなのが作れるの?」 と質問すると完全に天狗になっているレイが 「他か?大体、メニューには困らないくらいのレパートリーは持ってるぜ。後は…デザートとかも作れるぜ。」 と言いながら洗い物を済ませ、食卓についた。 「デザートってどんなのが作れるの?」 キッシュはすでに興味津々で聞いている。 「う~ん…オレンの実のジャムとか、モモンの実のムースとか、あ!あとポフィンも作れるぜ!」 するとその言葉にキッシュが少し反応した。 「ポフィン…?作れるの…?」 何故か少し嬉しそうに聞く。 「あぁ。最近作ってなかったから竈がイカレちまってるけど、新しく買い直せば作れるぜ!」 「食べたい!レイの作るポフィン食べたい!」 と何故か恐ろしく食いついてきた。 「あ、あぁそうか…でもなぁ…竈は広場に買いに行かないといけないし…」 と少し困り気味のレイ。それもそのはず、なぜなら昨日、あんな感じで帰ってきたので、 元々招かれざる客であるレイがさらに冷遇を受けるのは目に見えていたからだ。 しかしそんなレイの感情そっちのけで 「じゃあ一緒に買いに行こう!今すぐ買いに行こう!」 となにか鬼気迫るほどの勢いでレイにお願いしていた。 「なんでわざわざ一緒に行くんだよ!なおさら面倒なことになるわ!」 とつっこんだレイだったが 「わたしがいたら疑いが晴れるでしょ!行くったら行くのー!!」 と可愛らしく頬を膨らましている。 『だからその表情やめれ!反則だ!』 「分かった分かった、分かりましたよ!買いに行けばいいんでしょ!じゃあさっさと飯食い終わらせるぞ。」 そう言ってさっさと食事を済ませ、森の広場に行くことになった。 森や山、川や海。そういった人がなかなか足を踏み入れない場所には、 人目に付かない様にひっそりとポケモンだけが知っている広場がある。 そこではそこでしか通用しない通貨を使って買い物をしたり、 広場でバトルの練習をしたり、お店を出したり…などいろんなことがポケモン同士の 間で行われている。レイの家から広場までは遠く、かなり時間はかかったが ようやく広場に着いた。するとやはり視線が集まった。 『やっぱし見られてるな…だから来たくなかったのに…』 そう思っていたレイだったが、その行く手を遮るように一体のポケモンが立ち塞がった。 「ブレイズか…そこをどきな。別に今回はけんかしに来たわけじゃね…」 言い切る前にそのブレイズと呼ばれたバシャーモは 「ハッハッハ!いやぁ!見直したぞレイ!やはりお前はいい奴だったんだな!ハッハッハ!」 そう言ってレイの肩をバシバシ叩いていた。 『どうなってんだ?俺なんかしたっけ?…身に覚えがねぇぞ?』 すると一気に周りの見ていただけのポケモンたちも集まってきた。 「いやぁ!まさか本当に看病してたとはな。見直したよ!」 「それでバトルも強いんだろ?今度俺にも教えてくれよ!」 と一気に喋りかけられ、かなり驚いていた。 「ちょ、ちょっと待て!俺が何時そんなこと言った!」 そう質問したレイだったが、皆が口をそろえて 「コッポとパッチだ。しかもあいつらの相手もしてるんだってな。」 と返答が来た。 『コッポォォ!!パッチィィ!!!てめえら約束が違げぇじゃねえか!!』 そう思い、二匹を睨んだレイだが、二匹は笑顔で羽をレイに向かってに振っている。 『はぁ…子供相手に通用するはずがないか…』 そう思ったレイだった。 その後も質問攻めに合い、なかなか買い物を進められないでいた。 ようやく、今回の目的である竈を買いに来れた。 「なあ、この竈、いくらだ?」 そう聞くととんでもない答えが返って来た。 「5000ポケだね。」 「5000!?そんな大金持ってねえよ!」 あまりの金額に声を張り上げるレイ。すると店主がニヤリと笑い、 「そうだね…じゃあブレイズさんと戦って、勝ったらタダにしてやるよ。」 そう言って来た。 「はぁ!?なんでそんな面倒なことしないといけないんだよ!」 とレイは店主に食って掛かるが、何食わぬ顔で 「じゃあ5000ポケ払えるのかい?」 と言ってきた。もちろん払えるはずが無い。 「だいたいなんでそんなに高いんだよ!」 是が非にでも戦いたくない相手のため、必死のレイ。 それもそのはず、ブレイズはこの森の長。 森の長を務めるものは強いことが前提であるため、強いのはもちろん、 さらに自分よりも強いことを知っているブレイズはレイを執拗に長にしようと 勝負を挑んでいたため、基本的にブレイズとの勝負は避けていた。 負けたことはないものの、確実に苦戦する相手であることはレイ自身が一番知っていた。 「高いものは高いんだ。どうする?」 続けてそう聞いてくるジグザグマ。 「はっ!やってられるか!」 そう言って店を出ようとしたレイの背中に向かって 「あ、そうか!レイじゃブレイズさんには勝てないもんな。悪かったな。」 そう言って来た。それにピクッと反応するレイ。 「今、何つった?」 その場を一歩も動かずに聞くレイ 「いやいや…レイじゃブレイズさんには勝てないだろうからね。やっぱり半額の2500ポケで売ってやるよ。買うかい?」 そう続けたジグザグマ。しかし顔はにやけている。 「だーれが誰に勝てないって?あ?言っとくが一度も負けたことがねえからな!」 完全に頭にきたレイは応戦態勢。それに気付いたジグザグマは 「じゃ、どうする?ブレイズさんと戦うかい?やめとくかい?」 そう聞いてきた。 「戦うに決まってんだろ!ブレイズもてめーも泣かせてやらぁ!」 そう言って店を飛び出した。それを見たキッシュが 「ねえ。なんでレイはブレイズさんと戦うなんて言って飛び出したの?」 そう聞くと 「500ポケの竈を5000と偽って売りつけ、戦って勝てばタダにしてやると言った結果だ。単細胞は扱いやすいよ。ハハハハハハハ!」 そう言って店の中に戻っていった。 人海を掻き分け、一直線にブレイズの所へ向かうレイ。 その目はもう、炎でも灯ってそうなほど、怒りにも似た何かで満ちていた。 「オラァ!ブレイズ!今すぐ決着つけるぜぇ!」 そういきなり言い放ったレイだったが、 「ハハハ!やっとその気になったか!今日こそお前をこの森の長に…」 そこまで言いかけていたのに、その言葉を遮るようにレイが 「だーれがなるかそんなもん!俺は竈が欲しいだけだ。そして、ゼッテーてめぇより強えぇことを証明するだけだ!」 一体、レイが何を言っているかは分かっていないようだったが、 とにかく戦う意思があることだけは分かっていたので 「ならば、ワシが勝った時はお前をこの森の長にする!いいな?」 そう言ってブレイズは上手いこと挑発した 「誰が負けるって?ありえねぇんだよ!」 そう言って体に薄く電流を流すレイ。 「はたしてどうかな?」 それに対し、構え、指をクイックイッと動かし挑発するブレイズ。 横から見ていたキッシュが一言、 「馬鹿ねー。ホントにオスって戦うことしか考えてないのねー。」 そう言いながら、二人が戦うために引いた、周りの野次馬の中に混ざった。 しばらくの間、周りはうるさかったが、二人は沈黙を保っていた。 『向こうから仕掛けて来る気は無いか…なら…先手必勝だ!』 「十万ボルトぉおお!!」 体から一気に大量の電気を放出するレイ。 それを綺麗に避けながら一気に間合いを詰めるブレイズ。 『このスピードは…でんこうせっかか…なら少し下がればこちらの物!』 そう思い、後ろに飛ぶが、ブレイズはそのままでんこうせっかを途中で止め、 「隙あり!ブレイズキック!」 そう言って、燃え上がる脚で凄まじい威力の蹴りを繰り出してきた。 もちろん、レイは避けられるはずが無い。見事直撃。 『くっそぉお!!なんだ!?あの動きは!…』 そう思いながらも体勢を崩さないように着地し、戦闘態勢を取り直した。 「言ったはずだ…どうかな?と…」 そう言いながら、軽いフットワークで身構えているブレイズ。 『チィッ!どうするか…』 そんなことを考えさせる暇も与えずに、ブレイズは再度、間合いを詰めてきた。 『チィ!!厄介な動きをしてきやがる!!』 「隙だらけだ!ぜりゃあ!!」 もう一度ブレイズキックが繰り出されるが、これは紙一重で避わしたレイ。 しかし、そこから反撃を当てようとするものの、反撃のモーションに入る前に 一度距離を空けられてしまう。 「こんの…!ちょろちょろ動くんじゃねぇ!!だぁあ!!」 そう言って十万ボルトを繰り出すが、掠りすらしない。 そうやってレイは技を無駄打ち、ブレイズは着々とダメージを与えていくという戦いが 続いていた。その時 「なんだ?結局大口叩いてその程度なのか?レイちゃんは。 技はただ相手に向かって打つだけじゃないんだよ!!」 そう言って突っ込んできた。が、その時レイを激しい頭痛が襲う。 『くそっ!…なんだってんだこんな時に…!!』 「いいかい?みんな、技っていうものはね、単体で使っても確かに効果はある。 でも、それじゃ、見切られてしまえば終わりなんだ。だから、わざと技を途中で やめたり、相手に向かって打たなかったりするのも手の内の一つなんだ。いいかい?…」 『今のは…トレーナーだった頃の記憶…?』 「もらったぁ!!ブレイズキック!!」 ブレイズの放った攻撃は、ぼーっとしていたレイをきっちり捕らえ、 腹部を抉るように蹴り上げた。 「がはっ!!」 クリーンヒットしたレイは、口から血を吐きながら宙を舞っていた。 そしてそのまま地面に叩きつけられ、動かなくなった。 「フッ…流石に終わりか…」 そう言い放ち、その場を去ろうとしたブレイズに 「待ちな…誰が…終わりだって…?」 そう言ってよろよろとレイが立ち上がった。 「まさかまだ立ち上がれるとはな…ならばきっちりとどめを刺そう!」 「ブレイズ…お前には感謝しねえとな…」 不意にそんなことを言われ、少し驚いたブレイズだったが、 「どういう意味だ?蹴られたせいでおかしくなったか?」 そう聞くと 「頭に血が上ったままじゃあ、勝てるもんも勝てねえからな…」 とレイは答えた 「ボロボロの今のお前に勝機は無い!とどめだ!」 そういってブレイズが突っ込むよりも早く、レイが十万ボルトを放ってきたため、 後ろに一つ飛んだ。するとその十万ボルトはそのままブレイズを追いかけるわけでもなく。 そのまま地面に落ち、凄まじい粉塵を巻き上げた。 「フッ…何をするのかと思えば…貴様のあてずっぽうの攻撃など…」 「誰がお前を狙って打ったって言ったよ。」 言い切る前にレイが割り込んできた。 「ならばなおさらだ。当てる気も無い技を無駄打ちするなど…」 「さっきお前が言ったろ?当てるだけが技じゃないって。」 さらにかぶせるように話すレイ。 「ならば何のために…」 そうブレイズが聞くとレイは 「お前、この土煙の中、俺が見えるのか?」 そう言われ、ブレイズははっと気が付く。目の前にいたはずのレイの気配が消えていた。 レイはこの粉塵による視界の制限のためにわざと地面に十万ボルトを打ったのだった。 「しかし!貴様にも見えていないはずだ!!」 そう大声で言うブレイズ 「確かに俺にも見えない。だが、分かるんだよ…」 そこまででレイの言葉が止まる。 「何故だ!見えていないのに何故分かる!」 そう言った次の瞬間レイが目の前に現れ、 「お前のその大声と、匂いだよ。」 そう言い、帯電した牙でブレイズに噛み付いた。 「ぐぁああああ!!」 丁度ブレイズの右肩あたりにヒットしたかみなりのきばによって ブレイズは悶絶していた。 「は、離れろぉ!!」 そう言って殴りかかろうとするブレイズだったが、それよりも先に その拳を避け、少し後ろにレイは着地した。 一撃、たった一撃だったがその戦局は大きく変わるほど反撃だった。 その後、立場は逆転。ブレイズが無駄に技を振り、どんどん体力を消耗していった のに対し、レイは効果的に技を使い分け、一瞬で追い詰めた。 「とどめだ!十万ボルト!!」 その声と共に電撃が放たれ、ブレイズはまだ意識はあったものの、 動けなくなってしまっていた。 「流石だな…ワシの負けだ。」 その言葉を聞くと同時に野次馬が一気に二人を取り囲んだ。 「すげえ!流石は最強のポケモンだ!」 『誰がそんなこと言った!!』 「ありえねぇ!あそこから挽回するなんて!!」 『記憶が甦ったおかげだけどな…』 心の中では返答していたが、レイは口には出さなかった。代わりに 「おい!約束だ!竈よこしな!」 そう、ジグザグマに言ったレイ。するとどうだろう、既に用意してあるではないか。 「あんたが勝つのは分かってたからね。」 そう言って竈を既に運びやすい形にしていた。 『こいつ…今更ながら俺をはめやがったな…』 そんなことを考えていると野次馬の一人が 「しっかし、ホントに化け物みたいな強さだな!!」 そんな言葉を聞いた瞬間レイは大声で叫んだ。 「ふざけんな!!てめえら俺から離れやがれ!!」 完全にレイの顔は動揺していた。しかし、あまりにも唐突に 大声を出されたせいで、みな驚いていた。しかしレイは続けて 「離れろっつってんだろ!!」 そう言い放ち、レイは体に電気を這わせた。 「どうしたん だよ!?レイ。落ち着け!」 そう言ってレイを落ち着かせようとするが効果は無く。 「黙れぇ!!言っとくが誰がおまえらなんかに優しくすると思うか? 馴れ馴れしく喋りかけんじゃねぇ!!」 そう言い、今度は電気を放出した。流石にこれには野次馬も引き、 ぽっかりとレイの周りに空間ができていた。 「キッシュ、この竈を持て。」 そうキッシュに言い放ったレイ。キッシュも素直にそれに従う姿を見て 「お、おい…なにメスに重いものもたせてるんだよ…」 そう言うが 「言っておくがキッシュは俺の奴隷だ、俺の好きなようにして何が悪い。行くぞ。」 最後にそう言い広場を出て行った、がブレイズがそれを止める。 「それは本当か?だとしたらただじゃ済まさんぞ。」 「お前に何かできるのか?言っとくがあれでも手加減してやったつもりだが?」 そう言うと次の言葉を失った。そんなブレイズをよそにレイはキッシュと共に 広場を後にした。 広場から大分離れ、人気のなくなった所でレイはキッシュを呼び止め、頭を地面にこすり付けるほど深く謝った。 「ゴメン!!悪かった!!もう竈降ろしていいから!!」 流石に急にそんな謝られ方をして戸惑うキッシュ。しかし、返事を聞くより早くレイはキッシュの荷物を降ろしていた。 「ねえ、レイ。何であの時、あんなこと言ったの?あれじゃまるで…」 そう…まるで嫌われ者に自分からなっているような行為だ。 「それは…その……俺があいつらより強い位置にいたかっただけだよ…」 レイはとっさにそう言ったが本当の理由は他にもあった。それこそ、今度こそ自分が虐める番だという歪んだ思想のためだった。 「キッシュ…悪かったな…お前も…もう…自分の家に帰っていいよ…」 「どうしたのよ急に…大丈夫だよ?私はレイのそういうとこ知ってるから。」 心配して声をかけるキッシュ、 「いや、今日限り…いや、今この瞬間から奴隷じゃなくていい。帰ってくれ。」 レイは、少し俯いたままそう、小さな声で言った。 「いや…だから…別に…」 言葉に詰まっているキッシュにレイは 「なら奴隷として最後の命令だ。キッシュ、自分の家に帰れ。」 そう言うと、流石にキッシュもゆっくりその場を離れた…何度も何度もレイのほうを振り返りながら… そして、キッシュの姿が全く見えなくなったのを確認した後、レイは小さくため息をついた。 『何で逃がしたのかねぇ…勿体無い…』 そう思ったレイだったが…レイの心にはそう言った感情とは違う、心にぽっかりと穴が開いたような、 そんな感覚になっていることに気が付いた。 『確かにファーストキスだったし、可愛い奴だったけど…なんでこんなに切ないんだろう…』 そんなことを考えているうちに、いつの間にかポタリ、ポタリと涙がこぼれていた。 理由はもう、レイには分かっていた。 『俺は…本気でキッシュのことが…好き…だったんだな…』 今の今まで目の前にいた好きな人、それを自分の手で手放したのだから、レイの心は自然と そのことを察知していたのだろう。そして 『決めた…別にもう、俺が意地を張る理由もない。前世の記憶だかなんだかのせいで 今まで変に意地張ってきたが、もうどうでもいい。明日、みんなにきちんと謝って…この森を出よう… 俺なりのケジメだ。』 そう心に近い、そして最後に 『もし…またキッシュに会うことが出来たら…きちんと謝らないとな…』 そう思い、もう要らなくなった竈を背負い、ゆっくりと家へ帰っていった。 帰り着く頃には、もう大分暗くなり、夕日が差し込む森の中は不思議な静けさと不気味さが交じり合っていた。 いつも見るようなポッポやスバメなどの鳥ポケからいつの間にか、ヨルノズクやヤミカラスといった 夜の鳥ポケに移り変わっていた。 もう少しで自分の家に辿り着くという所で、レイは自分の家に明かりが着いていることに気付き、 少し焦った。 『やばっ!火ぃ付けっぱなで出てきちまった!燃え移っててくれるなよ!』 そう思い、家に駆けていく。そして勢いよく玄関を開け、火が燃え移ってないか部屋を確認したが、 「お帰り。遅かったわね。」 火は燃え移っていなかったが、火が燃え移る以上の驚きがそこにはあった。 「キ、キッシュ!?なんでここに?…」 なんとレイを出迎えたのはキッシュ。 レイが自分の家に帰るように言っていたはずなのにも関わらず、なぜかここにいた。 「だって家に帰るようにって言ってたでしょ?だから帰ってきたの。」 「いやいや、俺は自分の家に帰れって言ったんだよ。俺の家に帰ってきてどうする!」 「実はわたし、昨日この森に着いたばかりだったから家がなかったの。 それでレイがここにいろって言ってくれたから、一応ここがわたしの家。」 「…ぷっ…あっはははは!」 「なんで笑うのよ!」 「いやな…あまりにも真面目にそんなこというから…あはははは!」 笑っているレイにキッシュが詰め寄るが、笑いが止まりそうにもない。 五分後… 「はあ…しかし、お前は俺の考えてる斜め上をいくな…ホントに調子を狂わされてばっかりだ。」 「なによもう!馬鹿にしてるの!」 キッシュが少し起こり気味でレイに言うと。レイは真面目な顔をして。 「キッシュ。俺はお前のことが好きだ。付き合って欲しい。」 そう唐突に言い放った。 「え!?えっと…」 流石にあまりのことだったのでキッシュも驚いていると続けて 「もちろん、お前に待ってる相手がいることも分かってる。だからそいつが 戻ってくるまででもいい。傍にいさせてくれないか?」 レイは極めて真面目な顔でそう言った。キッシュはずっと返事に困ったような顔をしている。 するとレイは 「そうか…悪かったな、いきなり変な話をして。この家は勝手に使ってくれていいから…それじゃ。」 そういってレイは家から出て行こうとした 「ちょ、ちょっとどこに行くのよ!」 「フラれたのにいつまでも居るわけにはいかないだろ?森を出て行くだけさ。」 「わたしは一言もいやだって言ってないでしょ!」 「じゃあいいのかい?」 あえてそう聞いてみたレイ。 「もちろん!わたしもレイのことが好きだから…って恥ずかしいわね…」 「へ?うそ!?マジで!?だったらなんですぐに返事してくれないんだよ!」 あまりにも唐突にOKをもらったため、かなり驚いている。と同時に聞き返した 「えっとね…実はわたしが待ってる人っていうのは…レイって人なの。」 ゆっくりとした口調で喋りだす。 「えっと…なんだ?要するに俺の名前が一緒だから付き合うってんならそんな御慈悲はいらないぞ?」 「そういうことじゃなくてね。前も言ったけど…その人は…遠い所…ううん、 死んじゃったの。」 レイはどんどんキッシュの話していることの意味が分からなくなる。 「でも、その時約束したの。生まれ変わっても、君に会いに行くって。僕の思いは変わらないって。」 「えーっと…要するに俺がその生まれ変わりなんじゃってことか?」 確かに、レイには前世の記憶がある。だが、キッシュに関する記憶は一切持っていない。 「やっぱり…思い出してくれないか…」 そう、小声でキッシュが呟く。 「ん?なんか言った?」 「う、ううん。なんでもない。」 「多分、その生まれ変わりは俺じゃない。それにオスがそこまで約束したんだ、何が何でも会いに来るさ。」 「そう…かもね…うん、分かった。それでもレイとは付き合いたいから…」 「いいな…キッシュは…心から思ってくれる人がいて…俺じゃ敵わないな。」 そう言い、キッシュの頬にキスをした。 「でも、俺も好きだ!俺はキッシュの幸せを望むから、そのキッシュが待ってるレイが来るまでの間 だけだ、そいつが来たら俺のことはすっぱり忘れてくれよ。」 「分かったわ…それじゃ、よろしくねレイ。」 そうして、少しギクシャクしながらも二人はやっと第一歩を踏み出した。 ---- [[絆〜遠い日の約束 一日目 夜]]に戻る [[絆〜遠い日の約束 二日目 夜]]に進む [[COM]]に戻る [[絆〜遠い日の約束 一日目 夜]]に戻る [[絆〜遠い日の約束 二日目 夜]]に進む [[COM]]に戻る #pcomment(絆〜遠い日の約束/コメント,10,below); IP:125.13.180.190 TIME:"2012-07-01 (日) 02:11:16" 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