*紅き雫、伝う黒鎌 其の壱 [#y4f70999] ※かなりグロくする予定です。苦手な方はお控えください。 [[スペード]] [[紅黒 説明]] ---- **1 冷たい闇 [#jda49bb1] 天に輝く黄金(こがね)の月。月光は森、山、海──世界を優しく包み込む。寒々とした夜の闇を温める最大の力。 人間には月光以上に暖を取れるものを多く持つが、野生で生き抜く獣達にはなくてはならない存在だ。 そんな優しい光に包まれ、獣達は皆小さな寝息を立てている。──一部を除いては。 「ひいぃ…た、助けてくれぇぇ…」 草木生い茂る薄暗い山の中は、今宵は酷い臭気が漂っていた。噎せかえる様な血の臭いと、死臭。 震える声で救助を求める一人のライボルトは、惨劇に腰を抜かし動けなくなっていた。目の前に変わり果てた友人達…サンダースの頭部やズタズタに引き裂かれ臓物を晒しているレントラーが在れば当然の結果だろう。 しかし、ライボルトが恐れているのは無残な友人達ではなく、そうした張本人。血溜りの中心で漆黒の体毛を紅く染め上げた其は、常人にはさぞかし恐ろしいだろう。其が自分を見下ろしているのだから、失神しかねない。 ライボルトは不恰好な体勢のまま後退するが、黒い其もゆっくりと寄ってくる。暫し雷犬が地を擦る音が静まり返った山に響いていたが、背後の大樹に阻まれ小さな悲鳴と共に静寂が蘇る。 「止めてくれッ!どうか命だけはぁ…!」 大粒の涙を流し命を乞う犬に、黒い其は顔をぐっと近付ける。 「…彼奴の居場所は?」 落ち着いた声が空気を軽く揺らす。紅い眼に至近距離で睨まれ意識の飛びかけた犬は、恐怖に怯えながらも首を傾ける。 「だ、誰の事だ…?俺は何も知らねぇ…許してくれぇ」 「嘘も大概にしなさいねぇ…あんた知ってんだろ?」 黒い其は信用していないのか、血の付いた口の端を吊り上げ不気味に笑い、脅しをかける。犬はとうとうパニックになり頭を抱えて叫びだした。 「俺は本当に何も知らねぇ!!助けてくれ、たすけ──」 気色の悪い音、遅れて飛び散る紅き花びら。其れは辺りに美しい花を咲かす。 頭部を無くしたライボルトはゆっくりと自らの血溜りに倒れる。大樹には一層大きな紅い花が咲き、その中心にはひしゃげた桃色の脳味噌や妙な色の汁、砕けた頭蓋骨が付着していた。 「…素直に話せば良いのにさ、馬鹿な奴。」 更に紅く染まった其は腕に飛び散った脳味噌の一部を口に含む。 「…何処に…行きやがった…必ず見付け出して…殺してやる」 物騒な言葉とは裏腹に、其は実に幸せそうな表情をし、狂った様に笑い出す。紅い眼を剥き出し、裂けんばかりに口の端を吊り上げて。まるで悪魔のごとく。 「ウフフ…さて…次は誰の所に行こうかしらね…」 一頻り笑った悪魔は、倒れたライボルトの胴体を蹴り飛ばし、他の二匹の死骸の側にやると、凍てつく息を吐き三匹を凍り付かせた。 「じゃあねワンちゃん達、あの世でも幸せにね…」 黒い悪魔は凍り漬けの三匹の方を向いて小さく笑い掛け、山の奥へと消えていった。 天に輝く黄金の月は、いつの間にか怯えたように黒雲に隠れてしまっていた… **2 黒白の狂気 [#gf482c6b] 目の前に有るのは山積みになったモモンの実。生涯に一度、好物を鱈腹食べてみたいと感じ、毎日欠かさず集めてきたのだ。じゅる、と涎を拭い、モモンの山に一歩一歩噛み締めるように近付く一人の白い獣。 中々逞しい風姿だが、その魅力が薄れてしまう様な締まりの無い嫌らしい表情をしている。 「でへへ〜やーっと君達を食べてあげられるねぇ…」 もし実に感情が在ったとすれば今すぐ逃げ出したいほど気持ちが悪いだろう。どうなのかは不明だが、白い獣は身を低くして山にダイブする体勢を取る。 「それじゃ、一気にいっちゃうよ〜!!」 そう言って今正に獣がダイブしようとした瞬間── &size(30){「こんばんはー!!お話を伺いたいのですがー!?」}; 鼓膜を破かんばかりの野太い声が響き、白い獣は寝床から落ち顔面を地に叩き付けられていた。 「痛ってぇ〜何だよ…折角最ッ高な夢見てたのに…」 痛めた頬を抑え、黒い鎌の様な角の生えた頭を振るう獣──アブソルはそんな事をぼやきつつ来客者に返事をしつつ寝床の扉を開く。 「ふぁ〜い、何でしょうか?」 アクビ混じりに戸を開くと、リングマやニドキング等パワフルな獣達が沢山居た。が、何故か皆驚きに固まっている。 「ふぇ?どうかなさいましたか?」 状況が把握しきれていないアブソルは首を傾け問い質す。すると熊達は何やら申し訳ない表情をし、恐る恐る口を開く。 「あの…睡眠中失礼致しました…」 「え?」 何故解ったのか、と思いおもわず身体を見ると全身の体毛はボサボサで、口に手を当てると涎まで垂らしていた。 「ッ──!!」 頬が熱を帯びるのを感じた。素早く熊達に背を向け前肢で涎を拭う。暫しの沈黙の後、アブソルは顔面にひきつった笑みを浮かべて振り返る。 「いやいや!まさかまさかこんな時間まで寝てる訳無いでしょ!?これは今日のメイクなんだよ〜これからちょっと出掛けるから、ビシィッと決めて行こうと思ってね!今は調度歯磨きしてたから、水が着いちゃってたんだな〜決して涎なんかじゃないから。うん。」 次々と言い訳を並べるアブソルに熊達は苦笑するのみだった。 「あの…そろそろ本題に入らせて頂きたいのですが…」 「でね…ってえ?あ、はい。」 未だに話に夢中になっていたアブソルは恥ずかしそうに頭を掻いた。すると熊達の背後からこの集団の主と思われる蒼い二足歩行の犬、ルカリオがやって来た。 「貴方がシクルさんですか?夜分遅くに失礼致します。私はこの携帯獣警察の指揮を取らせて頂いているリオスという者です。昨晩、また死体が上がりましてね…しかもこのすぐ近くで。一応、昨晩の活動内容を教えて頂きたいのですが」 「…ええ!?またですか!?」 衝撃を受けるアブソル、シクル。昨日は一日仕事で疲れていたからすぐ眠ってしまい、この時間まで熟睡していたので始めて知ったことだったからだ。 最近、惨たらしい獣の死体が多く上がっていて、世間を悩ませているのだ。死体は凍り漬けにされていて、死亡推定時間なる物が解らず、犯人の目撃情報等も取れない為、こうして割り当てることしか出来ない。手掛かりは皆身体を引き裂かれている事くらいで、決定的な証拠が見つかっていないのだった。 只、それは敢えて警察達だけの話。シクルはまたかと心の内で溜め息を吐いた。情報収集、と言っても殺りすぎだと考える。 ──まぁ、僕が言えることでは無いけどね。 シクルは警官達に気付かれないよう黒い笑みを浮かべた。 「あぁ、昨日は友人と飲みに行ってましてね。時刻は不明ですが帰ったのはもう夜中で、酔っていた自分はそのまますぐ寝てしまいましたよ。確かめたいなら、五郷目に居るグラエナに聞いてください。」 シクルは勝ち誇ったような眼でリオスを睨む。嘘の情報だが、策はある。彼奴は兎も角、自分も“あれ”を感付かれたら危険だった。 「…そうですか、解りました。ご協力有り難うございます。…行くぞ。」 リオスは少しの間シクルの目を凝視していたが、やがてシクルに向けて敬礼し、熊達を引き連れ山を登っていった。 「フフッ無駄だよ…」 シクルは去っていく警察の後姿を嘲るように笑った。そして扉を閉めると、テーブルの上に置いてある小さな機械を耳に付ける。 「こちら、シクル。ちょっと頼みたいことがあるんだ…」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 「…うん、じゃあ頼むね…ふぅ…」 機械越しに何者かと会話を済ませたシクルは溜め息を吐き、外へ出た。 今宵も月は優しく光を放っている。ほんの少し欠けたそれは昨晩とはまた違った感情が沸きあがる。 「今日も良い日和だ…久しぶりに自発で殺りに行こうかな…」 不気味に笑い始める彼の隠れた顔を、強風が純白の毛を靡かせ露にする。 其の顔は、誠実な白に隠された、黒き狂気の様だった… **3 有明の夜 [#l0a539d6] 戸の向こうから地を踏みしめる音が響く。時刻は午前2時中頃。普通の生物ならば大半が夢の中である。来たか、と寝床から身を起こしたのは、夜の闇の漆黒とそれを漂う灰色の雲を表したような体毛を持ち狼に似た種族、グラエナである。大きなあくびをしながら、戸を開き足音の主と対面する。グラエナのいい加減な態度に呆れたのか、背から月光を浴びる二足歩行の黒猫、マニューラは怪訝な顔をした。 「とんだご挨拶ね。少しは礼儀ってもんを弁えなさいよ。」 「ふぁ…何時もこんな時間に来るのが悪いんだろうが…」 眼に涙を溜め眠そうに答えつつ、グラエナはマニューラを部屋へ入れる。狭い洞窟に作った寝床の為あまり居心地は良くないが、周りからは見付かりづらく隠れ家にはもってこいだった。二人は小さなちゃぶ台に向かい合うように腰掛ける。 「で?何か解ったか?」 「全く。この前も命乞いしかしないから頭ぶっ飛ばしてきたわ。」 平然と残酷すぎる言葉を吐く黒猫に呆れる黒狼に対し、黒猫は言わない方が悪いのよ、と白を切る。 「レナ、復讐に燃えるのは解るがお前はもう少し常識を学べ。たかが情報収集でもがむしゃらにやってたら何も…」 「ハウンドは常識に囚われすぎなのよ、だから獲物を取り逃がすんじゃない」 レナというらしい黒猫に痛いところを突かれた黒狼…ハウンドはむぅと唸るしかなかった。 「だがあんまり派手に殺らない方がいい。三日前の晩、警察の犬どもがお前の殺った奴等について聞きに来やがったからな。まぁシクルの奴が知らせて来たんで上手く還せたがな。」 「ふぅん…まぁ見付かったところで私を捕まえることなんか絶対出来ないだろうけどね。」 ハウンドの警告をひと蹴りし、余裕そうにしているレナ。ハウンドは大きな溜め息を吐いた。 「ハウンドの言う通りだよ。レナは言動が中途半端。相手は何聞かれてるのか解ってないだけだよ。罪の無い奴等まで殺しすぎ」 戸の破壊音と共に現れた白い獣。しかしその美しい純白の体毛は所々赤黒く汚れ、鎌のような角には肉片が付着している。 「あんたみたいな殺人鬼に言われたかないわよ。それに理解出来ない方が悪い」 「そんな事より…毎回毎回人の家壊すの止めろ、それに身体洗って来い、部屋が汚れるだろ!」 「殺人鬼とは失礼だな〜僕が殺るのは衝動が起きた時とアイツだけだよぉ。それに“彼奴の居場所は”だけで理解出来る奴なんか殆どいないって」 「シカトしてんじゃねーよぉ!」 全身を血で紅く染めた白い獣、シクルは不機嫌そうに頬を膨らませ、完全に無視されたハウンドは突っ込みを入れる。これまた無視されるが。 「…あ、そう言えばさ、さっき殺った奴に興味本意で彼奴等の事聞いたら、音無しの森で見掛けたらしいよ。」 「それ本当!?」 思い出したようなシクルの言葉に、レナは過剰に反応した。そして突然立ち上がりそのまま疾風のごとく速さで出て行こうとする。そんな黒猫の前に咄嗟に立ちはだかる黒狼。 「待て待て。迂闊に動いたら相手の思う壺だ。ここは作戦を練ってから行こう。それに俺達にも彼奴には礼をしなきゃなんねぇ事が有るんだ、付き合うぜ。」 「それは僕も同感。彼奴等には何回か死んで貰わなきゃならないからね。聞いた話だと他にも何人かいたそうだし、単独で行くのは危険だよ。」 黒猫を説得する獣達。彼等は互いの事情を知っているからこそ、彼女を止めようとしている。 しかし── 「…な時に」 「ん?」 &size(20){「こんな時に、落ち着ける訳ないじゃない!!あんた達には関係無い!!彼奴は、私が殺してやるんだ!!!邪魔するならあんた達でも容赦はしないッ!退きなさい!」}; 顔を上げ怒鳴り散らす黒猫の顔は、まるで鬼だった。眼は憎しみに見開かれ充血し、蛇の様な細い瞳は見ているだけで身の毛が弥立った。 黒猫は二人を突き飛ばすと闇の中に消えていってしまった。取り残された二人はレナが消えていった方を向きながら溜め息を吐く。 「全く…レナは彼奴の事になると周りが見えなくなっちまうからなぁ…」 「仕方無いよ…レナはあの“薔薇咲きの黒鎌”の娘なんだから。」 二人の獣達は、そう言葉を交わし暗い天を見上げた。 何故彼等は人の心を失ってしまったのだろうか。 淡く光を放つ彼等の満月はは、何故欠けてしまったのだろう。 彼等に降りかかった運命は一体何なのだろうか。 そして、薔薇咲きの黒鎌とは── 天に佇む三日月は、そんな彼等を嘲るように、今宵も美しく輝いていた。そう、昔と変わらぬままに… to be continued… ---- 猫(R)「密かに修正したの、気が付いた?まぁお初で来てくれた人は気にしなくていいんだけどさ」 白獣(S)「この度はあの[[春風]]様が僕らを出演させて下さるという事で、可笑しな部分を訂正したそうだよ。根本的に修正すべきなんだけど。」 狼(H)「取り敢えずは彼奴(駄目作者)が復活するまでの辛抱だな。俺達もさっさとちゃんと決着つけてぇし。」 犬(L)「ハウンドさん、軽くネタバレですよ。それはさておき… こんなグロテスクなものを閲覧下さり有り難うございました。宜しければ続きもご覧になって頂ければ恐縮です。」 猫「あ、あと余談。復帰後はトランプから名前変えるそうよ。密かにコラボをするつもりらしいわ。作品名明かしてるからすぐバレるのにね」 [[紅き雫、伝う黒鎌 其の弐]] ---- 宜しければアドバイスやコメントをお願いします。 #pcomment(コメント/紅き雫、伝う黒鎌其の壱,,above); &counter(total); IP:125.192.34.95 TIME:"2014-10-09 (木) 04:42:02" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E7%B4%85%E3%81%8D%E9%9B%AB%E3%80%81%E4%BC%9D%E3%81%86%E9%BB%92%E9%8E%8C%20%E5%85%B6%E3%81%AE%E5%A3%B1" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Linux; 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