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第三話 失われた姿、そして……旅立ち の変更点


writer is [[双牙連刃]]

第二話は[[こちら>第二話 砕かれる日常、砕かれる今]]

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 闇の中を一つの影が走り抜けていく。時折後ろを気にしながらだから何かから逃げているのだ。
今までずっと走ってきたのか、苦しそうに息をしながら、それでも走るのを止めはしない。
「はぁっ! はぁっ! はぁっ! はぁっ、はぁっ……」
 流石に限界だったのか、町外れまで来てようやく休むようだ。目の前には一軒の……家、か? いや、看板がある。元は宿屋だったであろう建物がある。
「あ、ここ……お化けが出るって言われてるとこだ……。僕、こんなとこまで走ってきちゃったんだ……」
 逃げてきた者はゆっくりとそこに近付く。ドアノブを捻ってみたが……ま、開く訳は無いよね。
「ここなら隠れられると思ったのに……。そうだ! 窓はどうかな?」
 ドアからの侵入を諦めて今度は窓に近付く。でも、窓は……。
「……こ、これが、僕……なの?」
 そう、見たくなくても映ってしまうんだよ。窓ガラスに自分の姿が。
窓に映った自分の姿に驚いてるね。それはそうか。今まで慣れ親しんできた自分はそこに居ないんだから。
皆さんお分かりだろうか? ここに居るのは一匹のポケモン。だが、人語を話せている。そうです、家から逃げ出してきたアツシ君ですよ。
皆さんはどう思うだろうか? 今まで自分が見てきた鏡等に映った自分が、急にそこから居なくなり、別の者が映るのだ。それはそれは驚くのではないだろうか。
それが今、アツシ少年には起こっているのだ。窓に映っているのは人間の自分の顔ではなく、見た事も無いポケモン。それが、自分が動くのと同じように動いているのだ。
「ほ、本当にポケモンになってる……。でも、こんなポケモン見た事無いよ……」
 自分の姿にただただ驚くしかないようだね。自分の手の爪を眺めてみたり、ひっかかないように自分の頬を突いてみたりしている。
そんな事をしていたら、後ろから急にライトの明かりが照らされた。まさか、追ってきてるであろう者に見つかった!?
慌てて建物の陰に隠れるアツシ。……近付いてくる人は居なかった。代わりに、自転車に乗った警官が横切っていくのが見える。パトロールみたいだね。
「お、お巡りさんか。なんだ……ビックリさせないでよ……。あ、でも、お巡りさんにも見つかったらいけないや。子供が一人でうろうろしてる時間じゃないもんね」
 ……それ以前に街中を正体不明なポケモンが居る事で追われる事になるのをアツシは気付いていない。まぁ、今まで人だったんだからしょうがないか。
とにかく、ここに居るってのはなかなかリスクが高い。そろそろ何処かに隠れないと危険だろうな。
「う~んと、そうだ。窓開くか試してみようとしてたんだった。えっと……んん! 駄目だ。開かないや」
 やっぱり無人だろうと戸締りはされてるよね~。となると困るのは隠れる場所が無い事。ここには居られないからね。目立っちゃうし。
「ど、どうしよう……あそこなら、隠れられるかな?」
 お、隠れられる所が思いついたんなら移動した方がいいと思うぞ。ポケモンには、街中は危険過ぎる。追手だけじゃなく、トレーナーと遭遇する危険もあるし。
また、闇に溶けるようにしてアツシが夜の街を駆けていく。今度は何処に辿りつくのだろうか……。

「……どうだアリス。探せそうか?」
「駄目ですね。もう近くには居ないみたいだし、広域モードにしたら反応が多すぎてどれがどれだか分からないです」
「反応の大小ではどうだ? 相手はゾロアークだ。それなりに分かりそうだが……」
「広域モードは力の大きさまでは分からないです。それも駄目ですね」
「そうか……」
 アツシが逃げた後の本城家です。ガレットとアリスが機械でアツシを探そうとしてるみたいですね。出来ないっぽいけど。
腕組みをして考え込んでしまうガレット。それを尻目に、アリスはリビングへと移動していく。
リビングにはロープで縛られた男女が背中合わせで座らせられてる。どっちも眠っているようだ。
もちろんこの二人はアツシの両親。父親の方は最後の抵抗の後眠らされたようだ。
「先輩、この二人はどうするんですか? まさかこのままには出来ませんよね?」
「このままにする訳がないだろう。報告と増員要請も必要だからな、アジトへご足労して頂こう」
「えっ! 連れて行くんですか!?」
「そうだ。あのゾロアーク……アツシ少年についても質問したいからな」
「……私、まだ信じられませんよ。あの子が、ポケモンだったなんて」
「俺もだ。それに……解せない事もある」
 腕組みして壁にもたれ掛かりながらガレットが続ける。解せない事? 何だろう?
「ゾロアークの特性、イリュージョンは確かに相手の力を真似る事が出来る。姿と同じにな」
「はい、さっき見ましたからね」
「いや、あれは……ただのイリュージョンには見えなかった。それに、ポケモンに戻った後もあの少年は人間の言葉を喋っていた。おかしくないか?」
「あ、そういえば……それに、真似した相手も分からないですよね。この家にはあの子しかお子さんが居ないみたいだし……」
「ああ。……あのポケモンは未知の部分が多過ぎる。それのあの体色では今日のこれ以上の追跡は不可能。情報収集が急務だ」
「だからこの二人を連れて行くんですね……」
 悲しそうな顔をアリスがする。本当はこんな事になる事を望んでいなかったんだろう。だが、こうなってしまった以上はどうしようもない。
「アリス、女性を頼む。客人だからくれぐれも気をつけろよ」
「分かりました。エルレイド、手伝ってね」
 アリスがボールを投げると、さっきのキレイハナとは別のポケモンが姿を現す。
手には刃のように見える物が付いた二足歩行のポケモン。確かに手伝わせるなら適任の姿だ。
「街の外に迎えが来るように手配する。誰かに気付かれる前に移動するぞ」
「了解です」
 本城家の明かりが消され、家からは家主達が運び出されていく……。
誰も居なくなった家でも時計だけはしっかりと時を刻み続けていた。時刻は、午後10時……全ては、一時間の間に起こった事であった……。

 走って、走りぬいて、アツシはここにたどり着いた。いつもの公園、そこの中のちょっとした林の中に身を隠していた。
「入っちゃダメってなってたけど……ちょっとだけ休むならいいよね?」
 そう言った後、一本の木の根元にへたりこんでしまった。無理もない。ここまで走り通しなんだ、疲れてしまって当然だ。
辺りは夜の闇、それにかなりの疲労。自然とアツシの目は眠りへと誘われていた。
だが、眠らない。首を横にブンブンと振って一度眠気を振り払う。
「お父さんとお母さん、どうなったんだろう……」
 落ち着いてきたのか、そんな事を口にする。今までは自分の事、逃げる事でいっぱいいっぱいになってたから両親の事を考える余裕なんて無かったんだろう。
そして一息ついた事で、その目からは涙が溢れそうになっていた。
突然の襲撃。襲われて倒れる両親。自分に襲い掛かってくる攻撃。そして……変わってしまった自分の姿。10歳の少年の心には、とてもじゃないが重過ぎる。
焦りによってせき止められていた苦しさが、涙が、その目から溢れてくる。
「あっ、ふぐっ、う、うぇぇぇ……」
 涙が頬の毛を濡らし、止まる事無く流れ落ちていく。
林の中に響くアツシの啜り泣き。だが、それを慰めてくれる者は居ない。治まるまで泣き続けなければならない。
仮に誰かがここに居たとしても、今のアツシを慰めてくれるだろうか? どんなに悲しんでも、泣いていても、その姿は……ポケモンなのだから。
独りぼっちで泣いているアツシの声も、やがて大人しくなってきた。どうしたのか?
……泣きつかれてか、それともただ単に疲労からか、眠ってしまっている。風邪は……大丈夫かな? 結構毛があるポケモンみたいだし。
今は、静かに眠らせてあげよう。今夜は、いろいろな事があり過ぎた……。

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「ん、んん~、ふぁぁ……あれ、ここ……どこ?」
 お目覚めですかアツシ君。寝ぼけてますね。
「あ、そっか……僕ここで寝ちゃったんだ……」
 やっとはっきりしてきたみたいですね。周りには……ふむ、木と草しかない。誰にも気付かれずに済んだみたいだな。
ゆっくりと体を起こして、一つ伸び。それなりにスッキリとした目覚めのようだ。まだ、太陽は昇ってきてはいないが。
「今何時なんだろう……ここ、出ても大丈夫かな?」
 そろ~っと林を進んでいって、公園の様子を探る。足音なんかは聞こえないようだし、見れる範囲には人は居ないみたいだね。
林から慎重に出てくる。きょろきょろして……おっと時計を発見。時間は4時。道理で日も昇ってない訳だ。相当早起きですぞこれ。
「4時……あ、タクとの練習……でも、今は……」
 ブツブツと呟きながらも歩を進めていくアツシ。行く先はきっと、いや、絶対そうなんだろうな。
トコトコと歩いてきた先は……やっぱりここだった。サッカーコート。そこに入っていく。
コートの中央、センターサークルの中でアツシが止まった。そこに足を投げ出して形でぺたりと座り込む。
「僕……もう皆とサッカー出来ないの? タクとも……そんなの……ヤダよぉ……」
 ……自分がポケモンになってしまったのが相当ショックなんだろう。二足歩行が出来たのは、不幸中の幸いでしかない。でも、手足には鋭い爪がある。そこがネックだな。
また、アツシの目に涙が光る。姿が変わろうが心は変わらない。子供に今の状況は辛過ぎるな……。
ん? サッカーボールが転がって……アツシの背中に当たった。今まではボールなんて無かったのに、何処から?
アツシが振り返る。そこには……一人の少年が立っていた。呆然としてアツシを見ている。
「おわぁ! ぽ、ポケモン!? 何でサッカーするところにポケモンが居るの!?」
 見覚えがある! この子は……タクミだ!
「しまった! ショック達連れて来てないよ! ここは……逃げる!」
 決断早っ! 踵を返して全力ダッシュの準備に入ったようです。
「ま、待って!」
 ふぉ!? ちょっとアツシ君!? 君今ポケモンなんですから声なんか出したら……。
「へぁ!? ポケモンが……喋った!?」
 ほ~ら驚かれた。でも、タクミを引き止めるのには成功ですよ。でも、そこからどうする?
おっと、ボールを……リフティングし始めた! おぉ、姿は変わってもやっぱりアツシ君ですね。流石のボールコントロールを発揮しております。
その様子に驚くのはもちろんタクミ。ポケモンがサッカーを始めたのにはもちろん、そのリフティングの上手さにも仰天でしょう。……その技術を持ってる人物を知ってる訳だし。
アツシはリフティングしていたボールをタクミにパスする。絶妙な力加減でパスされたそれをタクミは難無く受け取った。
「これって……アツ? でも、アツはポケモン持ってないし……よし!」
 何を思ったかタクミ少年はセンターサークルの中に入ってきた。そして、アツシをちょっと下げて、中央にボールを置く。
これはまさか、アツシと勝負する気なのか? ……どうやらそうみたいだ。手をクイクイッっと曲げて、来いってゆう合図を出してる。
それに気付いて、アツシもその気になったみたいだ。二人の、サッカー勝負が始まろうとしている……。

 タクミがボールを蹴り初め、アツシを抜こうとする。だが、アツシも簡単にやられる訳は無い。
タクミの前に立ってブロック。そのままボールを狙っていく。爪を当てないようになるべく爪先をタクミに向けないようにしているようだ。
技術が拮抗している二人が向き合えばこうなるだろうとは思ってたけど、ボールは二人の間を行ったり来たりするだけで、センターサークルから出ることさえしない。
「だー! じれったいなぁ! これでどうだ!」
 タクミが大きくボールを蹴り上げる。……これって、あれだよね? 多分。
蹴り上げを見てアツシが下がった。そこから始まるであろう事を見越してのバックである。
「行っくぞー! オーバーヘッド、シュートー! ……イデッ!」
 やっぱりね~。それにもちろん失敗。……もう、木に吊るしたボールなんかで当てる練習をした方がいいんじゃないかな?
それを見ていたアツシは失敗した瞬間に動き出す。あの、試合の時と同じように。
その場で痛がっているタクミの上を黒い蹴撃が真一文字に通り過ぎる。的確にボールを捉え、振り抜かれた足からは真っ直ぐにボールが撃ち出された。
ボールはゴールネットを揺らし、トサリと落ちる。これぞアツシのボレーシュート。姿が変わろうと何一つ変わらないシュートだ。
「やっぱり……アツと同じだ……って事は……もしかして、アツなの? そうなんだよな?」
「……タク、信じてくれる? 僕が……アツシだって……」
 不安そうな顔に、うるうると涙がまた瞳に溜まっていく。
「その声! やっぱりアツだ! え~!? なんでポケモンになっちゃってんの!?」
「! ……ダグゥ~~~~!!!」
「どわっ! ちょっ、アツ、苦しいよ~!」
 安心した所為で涙が溢れ出したまま、タクミに抱きついちゃったよ。よっぽど自分の事が分かってもらえたのが嬉しかったんだねぇ。
で、アツシと分かったとはいえ、見た事無いポケモンに抱きつかれるタクミはビックリですよ。でも、引き離そうとしないのはやっぱり友達だからかな。
時間にして朝5時。やっとアツシにはちょっとした安心できる場所が出来たみたいです……。

 一先ずサッカーコートを後にした二人。(正確には一人と一匹だが……)近くのベンチに座って休んでおりますよ。
タクミにしげしげと見つめられて少し恥ずかしそうにしているアツシ。そんなのもお構い無しにタクミは、へ~とかすげ~とか言ってますよ。
「ねぇ、なんでアツそんな事になっちゃった訳? 昨日最後に会った時はいつものまんまだったよね?」
「僕にもよく分かんない……でも、昨日の夜ね?」
 アツシはタクミに昨日の夜起こった事を説明中です。しばらくお待ちください……。
タクミは話を真剣に聞いている。本当なら嘘だと言われてもおかしくない話なんだけどね。目の前にポケモンになった親友が居る所為かな?
「それで、アツのお母さん達はどうなったの?」
「分かんないんだ……その二人、僕の事を捕まえようとしてるみたいだったし、父さんは僕に逃げろって言ってたしで、そこから逃げて此処まで来たんだもん」
「あ、そっか……じゃあ、今から行ってみようよ。アツの家」
「えぇ!? だって、まだその人たちが居るかもしれないんだよ!?」
「だから俺も行くの! 俺が先に様子見て、その後にアツが入ってくればいいんだよ!」
「そんな事したらタクが危な」「よし決まり! 行くぞ~!」
 人の話を聞かないねタクミ君。ベンチから急に立ち上がって、そのまま走り出しちゃったよ。
「あっ、タク! 待ってよ~!」 
 その後をやっぱり追いかけるアツシ。もうポケモンになってる事はそっちのけで道を真ん中を走っていきます。早朝なのが幸いだよ……。
まだ目覚めていない街をタクアツコンビが駆けていく。目指すは本城家。でも、その家にはもう……。

 一晩ぐっすり眠ってたタクミはともかく、全然しっかり休めてないアツシにはこのダッシュは辛かったんだろう。アツシは今、肩で息をしている状態です。ポケモンが人に負けたと言えなくも無いかな。
タクミの姿は無い。現在地が本城家前であるという事を考慮すれば、もうすでに家の中に居ると考えるのが妥当だろうな。
息を整え終えたアツシが心配そうに家の玄関を見ている。心配しているものは二つ。まずは言わずもがな、両親。そして、今しがた入っていったタクミの事ですね。
お、タクミが出て来た。んじゃなかった。玄関からアツシに手招きをしている。
「アツ、来ても大丈夫だと思うよ」
「ど、どう、タク? 父さんと母さんは?」
「……見れば分かるよ。ほら早く」
 促されるがままに家へと入っていくアツシ。見たらどう思うかなぁ……。
家の中に入ってすぐに目に付いたのは……サッカーボール。そう、昨日フーディンなんかを気絶させたあれです。
「僕のボール! だから、この辺りに父さんが居たんだ! で、母さんがリビングに居て……二人とも、どこ!?」
「あっ、アツ……」
 家の中をくまなく見ていくアツシ。でも……そこに両親の姿は無い。
先に入っていたタクミは分かっていたんだろうね。でも、必死なアツシを見ていると言えないんだろうな。何にも言わずにアツシについて行ってる。
家の中を一周して玄関に戻ってきたところで、アツシは崩れるようにその場に膝をついた。
「父さんも……母さんも……居ない……」
「うん……俺が見た時、もう居なかった」
「あの人達に……連れて行かれたんだ……」
 力を失った両腕は上がる事は無い。流れる涙は拭われることも無く、床へと静かに流れていく。
この少年は一晩の出来事でどれだけ悲しまなければいけないんだろう。あまりにも……可哀想過ぎる……。
隣に居るタクミは呆然としていた。こんな時、どんな風に声を掛けるかなんて知らないんだろう。それはそうさ、両親も自分の姿もいっぺんに失くすなんて事、そうそう出来るもんじゃない。
それでも、タクミは言葉を探す。そして導きだす。一つの提案を……。
「アツ、俺の家、行こう」
「えっ……駄目だよ……僕、人間じゃないんだよ? タクのお母さんに何て言うの?」
「アツがどんなカッコでも関係無いよ! アツはアツだもん! 母さんが何て言っても俺がなんとかする! だから、行こ!」
 無理矢理アツシの手を取り、引っ張るようにして立たせてタクミが歩き出す。アツシは、それに逆らう事無く歩いていく。抵抗する元気が無いだけかも知れないけど……。
やっと動いた手で涙を拭いながら、タクミの背中を見つつアツシは歩く……。

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 やってきましたタクミ宅。表札には『早川』の文字が彫られています。タクミの本名は早川タクミか……。
「母さんただいま!」
「お帰りタクミ。早かったわ……ね……」
 玄関口、タクミママは固まった。自分の息子が見た事無いポケモンと手をつないでる様子を見て。
「あ、あんた……何? そのポケモンは……」
「あ、うん。これ、アツ。俺の友達の」
「……はぁ? あんた熱ある訳じゃないわよね? アツシ君は人間。あんたが今手をつないでるのはポケモン。よね?」
「うん。だから、これがアツなの」
 タクミママ、額に手を当て悩み出しております。自分の息子はどうしてしまったのか、と。
「ぐすっ、おばさん、おはよう……」
 アツシも泣いてても挨拶はするのね。でもね、君は今ポケモンであるという自覚を少し持とうか。だから何にも知らない人に君が話しかけると……。
「へぁぁ!? ぽ、ぽぽぽ、ポケモンが喋った?!」
 こんな反応をされるでしょう。……親子な所為か、驚き方がさっきのタクミに似ているな。
「アツ、いきなり喋ったら誰でもビックリするって。母さんもビックリしてないで家の中に入れてよ。アツ目立っちゃうから」
「あ、ごめん……」
「そ、そうね」
 タクミ少年こういう時は冷静なのね。まとめてるよ……。
アツシが目立つのは認めよう。夜なら完璧なステルスになる毛並みも、朝日の中じゃ逆に存在感がある。寧ろ際立っている。
通されたのでタクミと共に家の中に入るアツシ。だが、玄関で止まった。
「あの、おばさん。拭く物くれませんか?」
「はい? 拭く物?」
「えっ、どしたのアツ?」
「だって、僕がこのまま家の中に入ったら床汚しちゃうし……」
 それもそうだな。その足でひたすら走り回ってたし、靴なんか履いてないし。
こんなに礼儀正しいポケモンなんていないだろうな。アツシ少年ならではだろう。
「……そうね、少し待っててね?」
 少しぽかんとした後、奥に戻ったと思ったら、今度は濡れタオルを持っていらっしゃった。
それをアツシに手渡し、アツシは足を拭いていく。……これがポケモンと人とのやりとりなのだから驚きだ。
拭き終わってやっとアツシが家に上がった。因みに、タクミはもう上がっています。待ってはいるけどね。
「……説明、してくれるわね?」
「分かってるよ。アツ、こっちこっち」
「うん」
 促されてリビングへと入っていく。内装はもちろん違うが、あるものは大して変わらない。皆ソファーへと腰掛けた。
さて、これからはまた昨晩の説明なんかが始まるだろうから、少しだけ時間を進めてみようか。

「なるほどね……あまり現実味は無い話だけど、大体は分かったわ」
「母さん信じてよ~。今ここにポケモンになっちゃったアツが居るんだよ?」
「あのねぇ、普通はそこが一番信じられないのよ? アツシ君、で、良いのよね? 少し目を見せてもらえる?」
「へ? あ、うん」
 説明が終わりアツシも泣き止んだ。現実に起きたにしても、昨日の一晩の事は体験しないと嘘みたいな話なのは事実。タクミはすぐに信じたけどね。
タクミママはアツシの目をじっと見ている。不思議そうにしているアツシを余所に、しばらく見つめた後に自分が座っていた場所に腰掛け直した。
「優しい目……でも、少し疲れてるわね。大変だったわね、アツシ君」
「母さん! 信じてくれたの!?」
「ええ。この子がアツシ君だって事は信じてあげる。アツシ君と同じ目、してるしね」
 なんと目を見て分かるとは……目は口ほどにものを言うとは言うが、それを読み取れるかどうかは他人次第になるからな。アツシの母さん、なかなかの人物だねぇ。
「う~ん、もう少し話を聞きたいところだけど……アツシ君疲れてるでしょ? 体も所々汚れちゃってるし、お風呂入ってきなさい」
「ふぇ? あ、本当だ! ご、ごめんなさい!」
 慌ててソファーから立ち上がったアツシ。そりゃあ何も無しに木の下で眠ったりしてるからね。それなりに草やらなにやら毛に付くよね~。
「気にしなくていいわよ。掃除すれば良いだけだし。タクミ! お風呂一緒に行って体洗うの手伝ってあげなさい。その手じゃ少し不便でしょ」
「分かってるって。行こ、アツ。こっちだよ」
「う、うん……本当にいいの?」
「いいっていいって。母さんが入ってきなさいって言ってるんだから気にしなくていいの!」
 そのままタクミに風呂場へと連行されていく。優しい親子だねぇ。面識があるにしても、こうまで親切にしてくれる所なんて珍しいんじゃないかな。

さて、風呂場ではタクミが裸にタオル一枚の姿に着替えております。……タクミが着替える必要、あるのか?
「えっと、なんでタクが裸になってるの?」
「ん? いや、さっきアツとサッカーしたりして汗掻いたから俺も入ろうかなって」
「ふ~ん……僕は……このままでいい、のかなぁ?」
「いいんじゃない? 別に服とか着てる訳じゃないんだし」
「うん……」
 脱ぐ動作をしないで風呂に行くのが違和感があるんだろうね。毛が何となく服みたいな効果を持ってるし。
タクミが腰にタオルを巻いて準備完了。風呂の戸を開けると、そこには湯が張られた浴槽がある。二人ぐらいなら問題無く入れるサイズかな。
「よ~し。まずは……アツを洗っちゃおう。はい、座って座って」
「いや、ある程度は自分で出来るよ。この手も、爪は気になるけど結構普通に動かせるし」
 そう言って三本の爪をちょうど手を握るように動かして見せる。その後はシャワーを手に取って、自分に熱過ぎないお湯を掛け始めた。それほどの不自由は感じてないみたいだ。
タクミもその様子を見て感心した後、スポンジにシャンプーを馴染ませていく。
「じゃあ、俺が背中洗うから前はアツ自分でやってね」
「分かった」
 濡れた毛にスポンジが当てられ、その部分が泡立っていく。人間だと髪の毛だけだが、全身が毛であるアツシは動く泡の固まりと化すことが出来る。これは凄いな……。
「お~、アツがモコモコになった~」
「も~、僕で遊ばないでよ」
「ごめんごめん。それにしても、カッコいいポケモンだよね、アツ。でも、何てポケモンなんだろう……俺アツみたいなポケモン見た事無いよ」
「僕もだよ。あっ、でも名前は確か……ゾロアークって呼ばれたかな。襲ってきた人達に」
「ゾロアーク……名前もカッコいいじゃん! ……その人達は知ってるんだ。今のアツの事」
「みたいだったよ。よし、洗うの終わり。流さないと変な感じだなぁこれ。次はタクの背中洗ってあげるね」
 シャワーで泡を流してタクミとバトンタッチ。タクミの背中を洗って、湯船に浸かって体を温めて……入浴終了~。
その後、アツシの毛を乾かすのに若干の苦労があったのは言うまでも無いよね~。

 二人がリビングに戻る。タクミの母さんはまだソファーに居た。ソファーの前のテーブルにはサンドイッチなどの軽食が準備されている。
「あら、戻ったのね。湯加減はどうだったかしら?」
「凄く気持ち良かったです。ありがとうございます」
 お礼にお辞儀をする。一見すれば普通だが、ポケモンがするとどうも違和感がある。気にしないでおこうか。
その様子に軽く笑いながらタクミ母はアツシの頭に手を置いた。
「お礼なんていいわよ。いつも会ってるんだし、あまり堅苦しいのは無し無し。ご飯も用意したから食べてね」
「やったー! 練習行ったからお腹減っちゃった! 頂きまー……いてっ!」
「あんたは朝ご飯食べてるんだから後よ! さっ、アツシ君どうぞ」
「い、頂きます……」
 友達がはたかれて痛がってる横でものを薦められてもねぇ……。とりあえず一つのサンドイッチを手に取り、ほおばる。お味はいかがなんでしょう?
「あ、このサンドイッチ美味しい!」
「そう? よかった~。アツシ君ポケモンになっちゃってるからタクミのポケモン用のご飯のほうが良いかと思って悩んでたのよ~」
「母さん……アツに何食べさせようとしてんのさ……」
「だって……ねぇ?」
 チラッとアツシを見る。その姿はポケモン。迷うのも当然だよね~。
一方チラ見されてるアツシはそれに気付く事無くサンドイッチを次々に口へと運んでおります。よっぽどお腹減ってたんだねぇ。
「……アツシ君、食べながらでいいから少し聞かせてね? 昨日の夜の事」
「んぐっ、んぐっ、ふぁい」
 アツシ少年、口に物入れながら喋っちゃいけないよ。聞き取れないし。
「母さん、何も今聞く事は無いじゃない」
「そうは言ってられないわ。これはれっきとした事件よ? 街を護る警察官の一人として、見過ごせないわね」
 ワオ。タクミママ警察ですか!? あれですね、ジュンサーさんと呼ばれる人種ですね。
それならアツシ的にはさらに心強いではないですか。警察に助力を受けられるんだから、街中で追い掛け回される心配は減るし。
「そうね……アツシ君がポケモンになった経緯は分かったわね。他に何か分かった事は無い? 例えば、二人の名前……なんかが分かると助かるんだけど」
 アツシが口の中の物を飲み込む。……おぉ、テーブルにあった物は綺麗さっぱり無くなりました。完食です。
「えっと……男の人はガレット=ウォーレンさんって自分で言ってたし、女の人はアリスって呼ばれてました」
「凄いわアツシ君! 署のデータベースで調べられるかもしれないわ! 他には?」
「どっちも髪の色が金色で、ガレットさんがツンツンした髪型、アリスさんは髪が長かったです。あ、後、どっちも映画で見たことある軍人さんみたいな格好でした」
 アツシ君記憶力良いね~。本当にあんな状況になってそこまで覚える事、10歳の男の子には出来ないと思う。怖い方が先に出てくる筈だし。
ふんふんと言いながらタクミ母はアツシが言った特徴をメモしていく。お~、警察官ぽい。
「ここまではっきりしてると助かるわ。辛い事思い出させてゴメンね」
「大丈夫です。もう落ち着いたし」
 アツシが二人に笑ってみせた。……心配させないように、だよね。気丈だねぇ……。
「でもさ、これからアツはどうするの? ポケモンだし、それに家は……」
「タクミ!」
 タクミの言葉は遮られる。アツシに辛い事を思い出させないようにだよね。
「……ううん、これからどうするかは本当に考えなきゃ。僕がこのゾロアークっていうポケモンになっちゃってるのはどうしようもないし、それに……あの二人がまた僕を捕まえに来るかもしれない。タクやおばさんを危ない目には遭わせたくないよ」
「そんな! そんな事気にしなくてもいいのよ! アツシ君はなんにも悪くないんだから!」
 タクミのお母さんは声を大きくしてそう言う。そうだよ。アツシに悪い点は無い。襲ってきた方が、確実に悪いのだから。
でも、アツシは首を横に振る。どうしてさ……。
「……お父さんもお母さんも、僕を助けようとして連れて行かれちゃったんだ。僕は、もう僕の所為で誰かが酷い目に遭うのは……嫌だよ……」
 俯きながらそう一言。……子供とは思えない言動だ。下手な大人なんかよりよっぽどしっかりしている。
「アツシ君……!」
 何も言わずに、俯いたアツシを抱き締めるタクミ母。優し過ぎるアツシの心。でも、それは他人にしっかりと伝わっていく。
痛いくらいの悲しみと、その優しさを抱えてしまったアツシを黙って見ていられなかったんだね。
「……アツ、アツのお父さん達を探しに行こうよ! そんでもって、アツに酷い事した奴等も!」
「え?」
「タクミ、あんたは急に何を言い出すのよ?」
「だってさ、このままここに居たらまたそいつ等が来ちゃうかも知れないんでしょ? それならこっちから行ってやっつけちゃおうよ!」
 突然の提案だねタクミ少年。でも、一理あるな。居場所が知られてる以上、このミオシティの何処に居ても危険なのは変わらない。それならばいっその事こっちから出向いて奇襲でもしてやった方がいいかもしれない。
ただ、リスクも大きいがね。そのまま捕まってしまう可能性もあるし、何より……。
「探すにしたって……どうやって? 僕の家には何にも無かったし、何処に行くとか言うのも僕、聞いてないよ?」
 そう、それ。なんのヒントも無いのに探すなんて幾ら時間があっても足りません。
……おや? タクミ母が何か考え出した? いや、何か思い出そうとしてるのか……?
「……アツシ君、あなたを捕まえようとした二人、格好は確か……軍隊みたいな服、だったのよね?」
「え? は、はい」
 母親の顔から警官の顔へとシフトしました。は、犯人を追う者の目だ……。
しかし、何故に服装なんて聞くんでしょ? 心当たりがあるのか?
「最近の話なんだけど……マサゴタウンの駐在所からね、シンジ湖に妙な一団が現れるって話がここの署に報告されてきたの。その一団の格好も確か迷彩服……軍隊が使用しているような服装だったって話だったわ」
「軍隊みたいな服!?」
「母さん! それって……」
「……確かめてみる価値はありそうね」
 なんとヒントが急浮上!? シンジ湖といえば、感情の神と呼ばれるポケモン、エムリットが居る地だったな。
特別な力を秘めているポケモンを捕獲しようとしている彼等である可能性はかなり高いのではなかろうか!
「シンジ湖……僕、行きます! ここからそんなに遠くないし!」
「そうね……ちょうど明日、報告を確認する為に人員を割くって言ってたし、私がそれに立候補すれば、行けるわ!」
「母さん明日も休暇だって言ってたじゃん!」
「……あー! そうだったー! ……いや、ここは休暇返上してでも行くわ!」
「母さんは家に居てよ。シンジ湖へは……俺がアツと一緒に行く! これから!」
「へっ!? タク!?」
 タクミ少年発言がいちいち急だなぁ。そんなに遠くないといっても、子供二人じゃ危険過ぎるでしょ。
「馬鹿な事言うんじゃないの! シンジ湖へはコトブキシティを経由して行かないといけないし、何より子供だけなんて危険過ぎるわ!」
「行くったら行く! アツを泣かせた奴等、許せないもん!」
「タク……」
 ……熱いぞタクミ! 友達の為にそこまで言うとは……良い友達を持ったね、アツシ君。
タクミの熱心な目を見て、タクミの母さんも考え込んでいる。行かせるのか、それとも、自分が行くのか。
「おばさん……僕も、タクと一緒に行きたい! 早ければ早いほど追いつけるかもしれないし!」
「アツシ君も!? ……ふぅ、一度言い出したら曲げないのはあの人譲りね。分かったわ、行きなさい!」
 おぉ!? 許可しちゃったよ! ……あの人って言うのは、タクミのお父さんのことかな? 今は居ないみたいだけど……。
「ただし! 行くんだったらアツシ君を必ず助ける事! そして、必ず無事に帰ってくる事! いいわね!」
「うん!」
「アツシ君、この子も一応トレーナーだから、一緒にいれば街の中でもある程度は平気な筈よ。……タクミをよろしくね」
「はい!」
「よろしい! じゃあ、部屋で準備して来なさい! 荷物なんかは私が用意するから」
「分かった! 行こうアツ!」
「あ、待ってよタク~!」
 早川家が慌ただしく動き出す。旅立ちは……もうすぐ……。

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 二人(一人と一匹だけどね)の少年達が玄関に並んでいる。その前には……タクミの母が二つの機械を持っている。
「タクミ、行く前にこれ、あげるわね」
「ん? あ、これ! 俺が欲しいって言ってたポケッチだ!」
「本当は誕生日にあげるつもりだったんだけどね。あると便利でしょ?」
「やったー! 母さんありがとう!」
 早速腕に装着! シンオウのトレーナーは大体が持ってる物だからな。これでトレーナーらしくなったかな?
「そして、アツシ君にはこれ」
 持っていたもう一つの機械をアツシに手渡す。携帯型のディスプレイが付いた機械のようだな……。
「おばさん、これは?」
「これは、ポケギア。ジョウトっていう地方のトレーナーが使っている機械なんだけど、マップや電話が使えるからかなり便利よ」
「え? そんな便利な機械貰っちゃっていいの?」
「いいのよ。これもやっと使い手が現れてくれて喜んでる筈よ。なんせ、五年ぶりですから……」
 アツシの手の中の機械を見つめながら何やら考え込んでいる? ……いや、思い出しているってところかな。
その様子を見ながら、アツシはポケギアの電源を入れる。電気が機械を巡り、ディスプレイの息が吹き返される。地図や電話のアイコンが表示され、ポケギアは起動したみたいだな。
「ちゃんと動いたみたいね。その中には、私への直通のラインとこの家の電話番号が入ってるわ。何かあったらすぐに連絡してね」
「はい! ありがとうございます!」
「そして……これが、傷薬なんかの薬類と、ついでに、お昼ご飯」
 タクミ母はそれなりに膨らんだリュックを二つ、アツシとタクミに手渡す。
「大きなリュック! こんなの二つもあったんだ!」
「……タクミ、それね、父さんが使ってたリュックなのよ。きっと、あんた達を助けてくれるわ」
「これ、父さんの……」
「タクの……お父さんの? 僕が使っちゃっていいんですか?」
「いいのよ。物は正しく使われてこそなんだから。アツシ君、鬣……でいいのよねそれ。少し邪魔になっちゃうかしら? 大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
 返事をしてリュックを背負う。鬣を持ち上げるようにして背負えば問題無いようだな。
タクミはしばらくリュックを見つめた後、アツシと同じようにリュックを背負った。う~ん、少し顔が引き締まった気がするな。
「それで準備バッチリね! ……二人とも、必ず帰ってくるのよ! 約束、ね!」
「うん! 母さん、行ってきます!」
「おばさん、色々ありがとう! 行ってきます!」
 少年達が、扉を開けて昼の日差しの中へ歩み出す……。
タクミの母は、外まで見送る事はしなかった。見送っていると、危険の待つであろうそこへ行くのを止めたくなってしまうだろうから。
「あなた……あの子達を、見守ってあげて……」
 そう呟いて……扉が閉じられるまでその目を離す事無く祈り続ける。少年達が無事に帰ってくることを……。

 目指すはシンジ湖。……アツシを見てくる人は居るが、リュックを背負ってる、タクミと一緒に居る等の理由からか、あまり騒がれてはいないようだ。
「あ、タク。ちょっと、寄り道していいかな?」
「ん? いいけど……何処行くの?」
「僕の家。ちょっとね」
 この会話は小声で行われております。街中で堂々と喋るのが危険だという事はアツシも理解してるよね。さっきまでは余裕が無くて普通に喋ってたけど。
で、ミオの街を出る前に寄り道ですか。本城家に寄る事になるようだね。
そのまま二人で並んで歩いていく。住宅街だからか、昼間はあまり人がいないねぇ。本条家に着くまでも難は無し。
「ちょっと待っててね。すぐに済むから」
「うん、分かった」
 アツシが扉を押し開ける。鍵は掛けてなかったが、誰かが侵入したような形跡は無いようだ。
何も変わらないまま、中は時が止まったような感覚を覚える。玄関先に転がったままのサッカーボールにアツシが近付いていく。
「……一緒に、父さん達を迎えに行こう」
 ボールを拾い上げ、目を閉じて額に当てる。このボールが目的の一つみたいだね。
ボールを拾い上げた後、今度はリビングへと入っていく。食器棚を開けて、中を漁りだしたね。何が出てくるのかな?
お、何かが……あれは……鍵、みたいだな。
「必ず、ここに帰ってくるんだ。父さん達と、タクと、皆で!」
 鍵を握り締めながら決意を固めるアツシ。……出来れば、姿も戻れればなお良いんだけどね……。
アツシが家から出てきた。タクミは……ショックを出して暇潰ししてたみたいだな……。
アツシが器用に爪で鍵を扱い、扉の鍵を閉める。これで、戸締りの心配は無いだろう。無人である限り、完璧では無いだろうけど。
「お待たせ、タク」
「もういいのアツ? あ、サッカーボール! 持ってくの?」
「うん。僕、ポケモンの技って使い方分かんないし、あったら便利かなって」
「ふ~ん、よし! もういいんだよね。じゃ、行こうよ!」
「うん! ……行こう!」
 二人の少年が駆け出す。生まれ育った街を離れ、広き世界へと歩んでいく。
目的地はそれほど遠くないが、果たしてシンジ湖に両親は居るのだろうか……。

 少年達は駆ける。運命の歯車は、止まらず回り続ける。その回転は少年達を何処へ誘うのか。
アツシ少年に待つのは、人としての運命か。はたまた、ポケモンとしての運命か。それとも……。
人の心と、ポケモンの姿を持つ少年の旅路に待つものとは……。
駆け出した少年達の旅立ちに、暖かき太陽の輝きが降り注ぐ……。

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第四話は[[こちら>第四話 旅は道連れ水路を抜けて]]
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