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私のボディーガード の変更点


&color(#FF0000){※この作品には官能表現があります。};


作・[[ガルトル]]
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夕方、私は自宅である屋敷から外の景色を眺めていた。
外では元気にサッカーをしているポケモン達、友達と楽しそうに会話しているポケモンがいる。
羨ましい。勉強や習い事で自由を奪われている私にとって、この光景は羨まし過ぎる。
私の家庭は裕福だ。父親がこの付近の鉱山で新しい資源の発掘に成功したからだ。
裕福な家庭=不自由の無い生活という式ができているらしいけど、私の場合は不自由な生活だ。

「そろそろピアノの時間かぁ…」

そう呟いて私は深い溜息を一つ漏らした。全ては親の……お父さんの勝手な判断によるものだ。
事前に何も言わず、家庭教師や将来役に立つかわからない習い事を勝手に契約してしまうのだ。
そのお陰で私の自由はどのくらい奪われたのだろう。
最初は受け入れていた私だったけど、進学や就職の事を考えるようになると無駄な事をしていたと思えてきた。
それからだ、勉強や習い事の決まった時間に屋敷を抜け出すようになったのは。

「よ~し、今日も大丈夫かな?」

屋敷の裏口から外に出るまで両親、使用人達には見つかっていない。
大したもんだと自身を褒めたいくらいである。
外壁は高く、エネコロロである私では到底飛び越せそうにない。仕方なく正面の門へと向かった。
正面玄関から使用人達が急いで出てきて、既に私を包囲しているのは日常茶飯事だ。

「テナ様、お待ちください!」

そう言われて、このまま大人しく待つ私じゃない。
正面にいる使用人の隙間をすり抜け、全力疾走で外へ出て行った。

「えへへ…。今日も脱走成功~♪」

木々に囲まれた街道を歩きながら、私は脱走が成功した事に喜んでいた。
街には色々と楽しい事が待っていると思うとワクワクしてくる。持ってる財布にお金は入ってるし、携帯電話も持っている。
なのに何だろう、何かを忘れているような気が…。

「なるほど、脱走成功ですか」

驚いた私は警戒して辺りを見る。周りの草むらには誰もいない……が、確かに気配がする。
しばらくして、何もして来ないので警戒を解いた直後、突然私の体が押さえ込まれた。

「きゃっ!」

「捕まえましたよ、お嬢」

脱走した私を捕まえたのは雄のバシャーモ――ファイだった。
忘れてはいけない存在を忘れていた…。使用人達から逃れても、最後の番人であるファイがいるのだ。
ファイも使用人の1人で、脱走のほとんどは彼によって阻止されている。

「離してよ! 今日こそは、街の肉じゃがコロッケを食べに行くの!!」

「残念でした。お嬢、捕まったからには屋敷に連れ帰らせてもらいますよ?」

「今日こそは成功すると思ったのにぃ~~!!」

ファイの肩に乗せられ、私は強制的に帰宅する事になってしまった。
あぁ……至福の時が待っていたであろう港町がどんどん離れて行く……。



「さて、今日のレッスンはここまでにしようか。テナさん、結構上達してきたね」

「ありがとうございます」

ピアノの先生を見送り、自室へと戻った私は窓から薄暗くなってきた外を見て溜息をつく。
いつまでこんな生活なんだろう…。何にも縛られない自由な生活がしたい…。
側にあった財布を見て、机の引き出しにある預金通帳を思い出し、取り出して見てみる。
さすがお金持ちだと言われても仕方無いくらいの額が入っている。

(脱走が駄目なら……家出した方がスッキリする)

そう思った私は紫色のリュックに必要な物を詰めていく。しばらくは家に帰らないつもりでいる。
預金通帳を見ても、余程無駄使いしなければ数ヶ月は持つはずだ。
ある程度荷物がまとまって一息ついていた頃、ドアをノックする音が部屋に響いた。

「ファイです。もう少しで夕飯ですけど、飲み物をお持ちしました」

「入って」

入ってきたファイの手にはサイコソーダが握られており、それを私に差し出して床に座った。
側にある椅子に座っていいのにと思うけど、それを言っても彼は遠慮するとわかっているので何も言わない。
もらったサイコソーダを飲む。シャンパンなどの高い酒より、こういうジュースの方が美味しくて私は好きだ。

「ピアノのレッスン、お疲れ様です」

ニッコリと笑うファイを見て、私はぷいっと顔を反らす。
飲み物を持ってきてくれた事は嬉しいけど、脱走の事はまだ許せていない。

「ファイが見逃してくれたら、やらずに済んだのに…。街で楽しい事して過ごせたのに…」

「そんな事言わないでくださいよ。俺は使用人ですから主人の命令は絶対なんです」

もう少し気の利いた言葉が聞きたかった。「次は特別ですよ?」とか「一緒に街に行きましょう」とか…。
ファイの言う通り、彼は使用人だからお父さんの意見を優先すべきなのはわかってる。
いつもは優しく接してくれるのに、何か納得いかない……余計に私は機嫌が悪くなった。

「まいったなぁ……あ、そうだ! お嬢、良い物があるんですよ!」

ファイがそう言うと白い袋を手渡し、微笑みながら私を見ている。
これが何だと言うのだろう。不思議に思って袋に顔を近付けてみると香ばしい匂いがする。
まさかと思いながら開けて見れば、そこには暖かいコロッケが3個あった。
これって、もしかして……。

「お嬢の友達が絶賛していたという、肉じゃがコロッケです」

これが噂のコロッケ…………美味しい!
驚いた。こんなに美味しい物を食べられなかったと思うと人生の半分を無駄にしていた気分になる。
今日の夕飯はこれに決定としたいくらいだった。

「これで脱走の際に捕まえた事は許してくださいね?」

「わかった、許してあげる」

先程まで怒ってたのに、コロッケ1つで許すって……自分で現金な奴だと思ってしまった。

「ありがとうございます。いや~、1時間も突っ立ってたかいがありましたよ」

1時間も突っ立ってた? そう言えば、結構人気の店だから行列ができてもおかしくはない。
私を連れ帰った後、私の為に買って来てくれたんだ…。
後でファイに対して冷たい態度を取ってやろうと考えてた私が恥ずかしくなる。
そうだ、私の事をちゃんとわかってくれてるんだと改めて思った。
ドアをノックする音が聞こえ、夕飯の準備ができたと使用人が言った。
私は部屋を出て、すぐに食堂へと向かって行った。



夕飯の時間、テーブルに出される料理を少しずつ食べていく。
あまり美味しくない。味に慣れて美味しく感じないだけなのかもしれない。
高級魚のムニエルとかって知らないけど、これよりも先程のコロッケが食べたい。
あれは高級料理を食べてきた私の中では一番美味しい食べ物だ。

「テナ、勉強や習い事の時間になると何で脱走するんだい?」

「…………」

ライボルトのお父さんが聞いてくる。私と同じエネコロロのお母さんは心配そうな目で私を見ていた。
何か言えばいいのだろうけど、あえて言わなかった。これまで反論して私の意見が通った事が一切ないからだ。

「使用人達も苦労するし、先生も時間を割いて来てくれるんだから…」

「私が決めた事じゃない。脱走しようと私の勝手でしょ?」

「お前の為なんだ」

またその言葉だ。何を言っても最後には「お前の為なんだ」って言葉で片付ける。
それが気に食わなかった。何回、何十回聞いたであろう言葉に私は我慢ができなかった。

「もう嫌! お父さんの話なんて聞きたくない!
 私の為にって思ってるなら、何で私の話を聞いてくれないの!? 信じられないよ!」

「テナ、待ちなさい!」

怒鳴って席を立ち、自室に向かう私をお父さんが呼び止めようとした。
でも私はその言葉に見向きもせず、自室のドアを勢い良く閉めて鍵を掛けた。
ドアを叩くお父さんを後から来たお母さんが何とか説得し、私の部屋に静けさが戻った。
今日はいつもよりも疲れた。もう何もしたくない。

「もう…嫌……」

そう呟いて、ベッドの上に仰向けになったまま目を瞑った。



「…んん…ふあ~ぁ……」

ふと目が覚める。現在の時刻――午後9時ということは、そろそろ入浴の時間だ。
ドアをそっと開け、誰もいない事を確認して私は浴室へと向かう。
いつもは湯船に入って体を温めるのに、今日はシャワーだけを浴びて浴室をさっさと出た。
備え付けのバスタオルで体を拭いて再び自室へと戻り、ベッドの上で家出の為に用意した荷物をじっと見つめた。
何でもっと早く家出を思いつかなかったのかと思う。早ければ早いほど、その分だけ自由でいれたはずなのに。
もう何回目かわからない溜息を漏らしたところで、ドアをノックする音が聞こえた。

「ファイです。お嬢、ちょっといいですか?」

鍵を開けてファイを部屋に入れた後、また鍵を閉めてベッドの上に横になる。

「今日の夕飯の時、何があったんですか?」

「…………」

家出の為にまとめた荷物をじっと見つめたまま、ファイの呼びかけに一切答えなかった。
彼と会話をしないのなら、どうして部屋に彼を入れたのか自分でもわからなくなっていた。
彼から話しかける事はなくなると、私の視線の先にあるリュックに近付いていった。

「あっ!」

ぼうっとしていた私が反応する頃には既に遅かった。
ファイがリュックの中身を見て、その後私に振り返った。彼は微笑んでいた。

「お嬢、家出するんですか?」

笑顔でそう言われ、私はどう言ったら良いかわからなくなった。
妙に深刻そうに言ってもなぁ……仕方無い、もう正直に話してしまおう。

「私が家出するって、そんなに可笑しいの?」

「いえ別に。お嬢も家出をするもんだなぁと思いましてね。それじゃ、失礼します」

ファイは笑顔で出て行く。一体、何だったのだろう?
とにかく今日は寝よう。明日の早朝に家を出るのだから、早めに寝ておいた方がいいだろう。
私は目を瞑った。妙にワクワクする気分を何とか抑えながら……。



目が覚めた私はぼんやりとする視界で時計を見た。午前5時――丁度良い時間に起きたと思う。
家出の為に用意した荷物を再確認し、即席の置き手紙を机に残していつもの脱走ルートで外に出た。
正面の門まで行き、私は振り返って屋敷を見た。どこの部屋も明かりが点いておらず、屋敷の周りは静まり返っている。
夜行性の鳥ポケモンの鳴き声もほとんど聞こえない。
街を見れば日が昇っている事により、暗い街に光が差し込んで徐々に街全体が明るくなっていく。

「私に対するお父さんの考えが変わるまで絶対に帰らない…!」

そう呟いて、私は住んでいた屋敷を出た。二度と戻ろうなんて考えなかった。
この屋敷では私の自由を奪う要素が満載で、戻れば不自由な暮らしが再び始まるとわかっていたから。
屋敷にいる私は不自由な事ばかりだ。自由に外へ出られないし、友達とほとんど遊べない。
そういう事については家出したのは正解だと思える。

気掛かりなのは優しいお母さんと使用人のファイだ。
自分の事よりも私を第一に考えてくれて、ちょっと天然な部分もあるお母さん。
正直、あの優しく微笑む笑顔が見れなくなると少し寂しい感じがする。
私の脱走を邪魔するけど、いつも優しく接してくれるファイ。
主人に絶対忠実な他の使用人と違って私の意見も尊重してくれた。
ずっと私の側で支えてくれて、彼に何回元気付けられただろうか。

(ごめんね、お母さん…。そして……ファイ、元気でね…)

私は港へと向かって行った。



「いい天気~」

甲板で潮の香りがする風を受けながら、快晴の空を見上げてそう言った。
現在の時刻は午前9時。実は忘れ物を取りに屋敷まで帰り、探すのに手間が掛かってしまったからだ。
やっと見つけたと笑みを漏らす頃には皆が起きる時間になってしまい、朝食を食べてから再び脱走をした。
きっと今頃、屋敷全員で探し回っているだろう。
船の汽笛が鳴る。船の行き先であるヴェランが近付いているらしかった。
甲板の手すりから行き先の港町を一目見て、私は荷物を背負った。

「やっと着いた~!」

船から降りた私は背伸びをし、案内板にあった地図を取ってベンチに座っていた。
今日からはもう自由だ。誰も私を捕まえに来ないし、あの習い事もやらなくていいんだ。
喜びで頭がいっぱいの私に誰かが軽く叩いた。後ろを振り向くと見慣れたポケモンがいた。

「見つけましたよ、お嬢」

「ファイ!?」

行き先を告げていない筈なのに、何故彼がここにいるのか全くわからなかった。
驚きを隠せない私を見てファイは微笑むだけだった。
嫌な予感がした。彼がここにいるという事は一つしか考えられない。私の捕獲だ…!
そう思った私はすぐさま駆け出したが、ファイの運動神経の良さに敵う筈もなく簡単に捕まってしまった。

「何で急に逃げるんですか?」

「離して! どうせ、家出した私を連れ戻して来いってお父さんに言われたんでしょ!?
 私は本気なの! 今まで捕まったら諦めてたけど、今回はファイに抵抗してでも逃げるんだから!!」

「落ち着いてくださいって! 俺がここにいるのは、セルナ様に頼まれて来たんです」

「えっ…」

セルナ――お母さんの名前だ。お母さんに頼まれて来たというのは、どういう事なのだろう。
お母さんの頼みとは、私が自分の意思で屋敷に帰るまでの間、私を守るボディーガードとなってほしいと言う事だった。
ファイの話では、私が朝一番の船に乗ってヴェランに向かう事をお母さんは予想していたらしい。

「わかってくれました? 俺がここにいるのはセルナ様の頼みでもあるし、俺の意志でもあります」

それを聞いて安心し、私はファイをボディーガードとして同行する事を許した。
正直、私一人は寂しかった。家出した私にファイが一緒に居てくれるなら行き先は安心だし、楽しくもなる。
嬉しさのあまり、ファイに抱きついた。顔を赤くして照れるファイを見て私は笑い、そのままヴェランの街へと向かった。



港町・ヴェランの住宅街にある宿を転々としながら私は滞在していた。
港近くの宿より安い上に、この街には新しい発見が色々あってとても楽しいからだった。
ただ、とても人通りが多く、ちょっとでも気を抜くとすぐに逸れそうになってしまうくらいだ。

「そこのエネコロロちゃん」

私が人気の少ない裏道を歩いていた時だ。馴れ馴れしく呼ばれ、気付くと3匹のヘルガーが私を囲んでいた。
まるで極上の獲物を見つけたように不気味に笑っている。

「俺達と遊んでいかないか~? ぐふふ…」

「なぁなぁ、俺らを誘惑してみてくれよ~。メロメロでもいいんだぜぇ~?」

「道を通してくれる? 邪魔なんだけど?」

「このまま帰すわけにはいかねぇなぁ~。俺達の気が済むまで相手してもらうぜ?」

目の前の一匹が私に飛び掛ってきた。普通に闘えば圧倒的に私が不利なのは自分でもわかっている。
だから私は――何もせずに立っている。

「ぐあっ!」

「な、何だ!? お前は!?」

私を襲おうとしたヘルガーが叩き伏せられる。何もせずに平然としていた理由……私を守ってくれるボディガードがいるからだ。
突然の乱入者に戸惑いながらもヘルガー達は抵抗したが、1分もしないうちに全員叩きのめされた。

「お嬢、お怪我は?」

「私を『お嬢』って呼ぶのはやめてよ。私にはテナって名前があるんだから」

「わかっておりますが、それはできません」

家出をしてからもう3日が経つ。
私が自由に街を歩き回り、嫌な奴に絡まれるとファイが助けてくれる――というのは日常茶飯事になりつつあった。

「お嬢……まだ屋敷に戻る気はないんですか?」

「不自由な生活はもう嫌。私だって、他の友達と同じように過ごしたいのに……。
 とにかく、あの屋敷に戻るって事はまた嫌な生活をする羽目になるって思ってるから!」

ファイから返答はない。何を言っても変わらない事がわかったからだろう。
時計を見ると12時を指している――そろそろお昼だ。さっき見かけたレストランに行ってみよう。
私はファイの腕を握って走り出した。

「ちょ、ちょっと!?」

「黙って着いてくる!」

そうして私達はレストランへ入った。店員に番号の付いたテーブルへと案内され、メニューを見ていた。

「俺は結構ですよ…」

「遠慮しないの。たまにはいいじゃない?」

ファイは他の使用人と比べると雰囲気が全然違う。屋敷の使用人は父母優先で、私が嫌でも無理矢理言われた通りにしようとする。
一方、彼は私の意見を聞いてくれる。使用人だから立場は決して強く無いけど、それでも嬉しいものがある。

「私はこの『海の幸たっぷりドリア』にしようっと♪ ファイは?」

「俺は……お嬢のと同じもので…」

彼の素直な部分に微笑し、店員を呼んで料理を注文した。私は屋敷で食べていた高級キャビアや高級魚のムニエルよりも、
一般家庭やレストラン(高級料理店は除く)の料理が好きだ。
上品に飾っただけのまずい料理を食べてきた私にとって街のレストランはまさに天国。
煮たり焼いたりしただけのメニューの数々だが、味は絶品だからだ。

「今更だけど、私のボディガードがファイで良かった~」

「そうですか? お嬢を思う気持ちは皆同じですから、あまり変わらないと思うんですが…」

「使用人の中でまともに話せるのって、貴方しかいないの。他の使用人だったら気まずいと言うか、
 あまり話せないと思うの。それだったら一人で家出するのと変わらないのよ…」

私の言葉に「なるほど」と言って目の前のドリアを頬張る。結構とか言ってたくせに、もりもり食べてるじゃないの…。
味はもちろん美味しく、こんなに美味しいのに値段が安かった。

「お嬢、ご馳走様でした」

「それじゃあ、次はどこに行こうかな~?」

「頼みますから危険な場所に行くのはやめて下さい。俺の体力が持ちませんよ…」

「大丈夫! 今度はちゃんと人通りが多い所を歩くから」

私は街を見て回った事がない。それは住んでいた所でも言える事だった。
屋敷で勉強と習い事に追われる毎日で友達と出かけるなんてできなかったからだ。
家出して自由な身だからこそ、色んな街を見て回りたいって思っている。
遠慮しがちなファイを半ば強制に連れまわして、街で観光と買い物を楽しんだ。
楽しい時間は早いもので、いつの間にか薄暗くなっていた。

「お嬢、宿は取ってあるんですか?」

「あっ、忘れてた!」

今日に限って宿を取るのを忘れてしまった。ファイと一緒なのが楽しくて、肝心の泊まる場所を考えてなかった…。
今から宿に行って空いてる部屋は見つかるだろうか……。

「全く…。念のために予約しておいて良かったです」

「ほぇ? ファイ、どこかで予約してたの?」

「はい。お嬢は楽しい事をしてると大切な事をすぐに忘れますからね」

何だか痛い所を突かれちゃったなぁ~…。



ファイの案内で向かった場所はこの街では安いホテル。ファイを先頭にフロントに向かう。

「すみません、予約をしたファイですが」

「ファイ様とテナ様ですね? お待ちしておりました。お部屋はどうしましょうか?」

この言葉使い…屋敷の使用人達を思い出しちゃうな。
決して使用人さんは悪い人達ではないんだけど、やっぱりまだ屋敷には戻りたくない。
部屋をどうするかを聞かれ、少し悩んだファイを見たところ、部屋は特に決めていないようだった。

「じゃあ……」「すみません、二人一緒の部屋ってありませんか?」

「ございますよ。それで宜しいですか?」

ファイが口を開いたのと同時に私が話しだした。フロントのプクリンはニッコリ笑って答えた。

「はい!」

「お、お嬢…!?」

私が勝手に決めるとは思っていなかったのだろう。ファイは焦りながら顔をほんのり紅潮させていた。その反応に私は笑った。
フロントから鍵を受け取り、指定された部屋へと向かう。

「お嬢、俺とは別の部屋にした方が…」

「えっ? 何で?」

「いや、何でと言われても……」

「ファイは私のボディガードなんだから、部屋が一緒なら守りやすいでしょ?」

「それは…そうですけど……」

ファイが言いたい事は私でもわかっているつもりだ。ボディガードとはいえ一緒に泊まる相手は異性。
異性のポケモンが一つの部屋で二人っきり。それにファイは戸惑っているのだろう。
でも私はどうってことはない。だって私は……。

「お嬢、どうしました? もう部屋の前ですけど?」

ファイに声を掛けられ、気付くと指定された部屋を通り過ぎていた。
全く何を考えてるんだろ、私……。いくら何でもこれは私の片思いなんだろうなぁ……。

フロントからもらった鍵を使い、部屋に入る。当たり前だけど綺麗に整理された部屋だった。
奥のベットの側に荷物を置いて早速ベッドに横になる。フカフカしてて、とても気持ちが良い。
ファイもやれやれと言った感じでベッドに腰を降ろす。

「私とファイが一緒の部屋で寝るのは、あの時と合わせて2度目かぁ…」

「そう言えばそうですね。確か、お嬢が俺と寝たいって騒いだ頃でしたよね? あの時は苦労しましたよ…」

あの時――私がまだエネコだったある冬の日。夜寝る時に一人じゃ寂しい、寒いからという理由でファイと一緒に寝たいと言った。
私に優しく接してくれるファイと一緒なら寂しくないし、彼は炎タイプだから暖かくて心地良く眠れるだろうと思っていたからだ。
そんな事は、お父さんと使用人のリーダーであるサーナイトのルミさんが断固として許さなかったけど…。
それでも私は諦めず、皆が寝静まるのを待って使用人の寝室に忍び込み、ファイのベッドに潜り込んだ。
予想以上に暖かくて、私はついつい寄り添って心地よい眠りについた。

「翌朝にはファイが縄で縛られていて、ルミさんに怒鳴られてたんだっけ?」

「笑い事じゃないですって!」

思い出し笑いした私に困った表情でファイが答えた。当時は説得に苦労したけど、今思えば良い思い出である。
ファイと眠った事も、ファイが私の話し相手になってくれた事も……思い出と言えば、私にはファイとの思い出しかない。
どんな時でも一緒にいてくれて、支えてくれるファイ。ボディーガードとなった今でも彼の優しさは変わらない。
そんな彼に私は……密かに好意を寄せている。
わかってる。使用人である彼と結ばれる事が許されない事だなんて……そんな事はわかってる。
わかってるけど……。
夕食を終え、シャワーを浴び、私とファイは就寝の準備をしていた。
夕食を食べている時、シャワーを浴びている時、私は彼に何と言おうかずっと考えていた。
意を決し、ファイに話しかける。

「ファイ、あのね……」

私の声に「何ですか?」と言って彼は私を見る。私は自分の想いを彼に伝えようとした。
けど、急に今の関係が崩れてしまうんじゃないかと心配になって口を噤んだ。
伝えたい。たとえ結ばれないとしても私の想いを彼に伝えたかった。
けれども……私の思いに反して口が開いてくれない。言葉が見つからない。

「お嬢?」

「ううん…。やっぱり何でもない……」

自分が情けなかった。
あれだけ決心したのに、ファイに自分の想いを伝える――その時になると頭の中が真っ白になってしまう。
予め用意していた簡単な言葉さえも思い出せないくらいに。
照明を消し、「お嬢、お休みなさい」と言ったファイに小さく「お休み」と答えた。
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眠れない。何故こんなにも眠れないのだろう。
照明を消した夜の部屋は当然暗い。だが、窓から入り込んでいる月の光が部屋を照らしている為、思ったよりも明るい。
隣のベッドではファイが静かな寝息を立てて眠っている。私はそっと側に寄り、彼の顔をもっと近くで見る。
すると眠れない原因がやっとわかり、「あぁ、そうか…」と小声で呟いた。
自分の想いをファイに伝える事ができなかったからだ――と。
心の中で不安な気持ちが募っていたのかもしれない。私が彼に告白したせいで、私と彼の関係が崩れてしまうのが怖い。
でも……だからって、いつまでも自分の心に秘めていてはいけない。彼に告白しなくちゃいけない。
このまま想いを伝えられずに後悔するより、今の関係が崩れるとしても彼に想いを伝えた方が良い。
自分の気持ちを言おうとしても言えないなら、一番簡単な方法がある。
言葉で伝えるのが駄目ならば――行動で伝える。それは多少強引になりそうだけど、今の私にはそれしか思いつかない。

私はファイを踏まないように気をつけてベッドに飛び乗り、ファイの胸辺りでゆっくりと圧し掛かる。
起きる様子はまだない。ファイの顔に自分の顔を近付けていき、互いの唇が軽く触れ合った。
たったそれだけで私を火照らせるには十分だった。これは私にとって……ファーストキスでもあるのだから。



今の私は既に体が火照り、息を少し荒げている。先程の軽いキスだけでこんな状態なのだ。
最早、どんなに理性が駄目だと訴えかけても私は止められなかった。理性を上回る欲望が生まれつつある。
彼の少し開いた口を見て私は再び顔を近づける。ファイを起こしてしまうかもしれないのに私は求めていた。
さっきの唇を触れ合わせるだけの軽いキスではなく、もっと濃厚で甘い――ディープキスを。

「……んんっ……」

ファイの口内へ舌を侵入させる。自分の口内よりも暖かく、何よりも甘いように感じる。
彼の舌が触れ、私はそれに絡むように舌を動かした。ファイの口内に溜まっている唾液を舐め、自分の唾液を少しずつ流し込む。
口内に収まらない私と彼の唾液は口の間から漏れ、シーツにポタポタと落ちていく。
これだけでも1分ちょっとしか経っていないはずなのに、私には長い時間しているような感覚に陥っていた。

「……っ……お嬢…?」

このまま続けられるだけ続けようと決めた途端、ファイが顔を少し歪ませ起きてしまった。
あんなに荒げていた息がピタリと止まり、火照っていた体から熱が一気に引いていく。
驚いた様子で話しかける彼の反応は当然だと言える。
寝る前は隣のベッドに寝ていたはずの存在が、目が覚めると自分の目の前にいるのだから。

「これは……その……ご、ごめんなさい!」

私は謝る以外の言葉が見つからなかった。
寝ている間に彼と淫らな行為をしていた事。好きだったとはいえ、自分の淫らな姿を見せた事。
嫌われる…。
きっと嫌われる…。
こんな淫らな雌なんて……ファイが好きなはずがない。

「お嬢、どうしたんですか?」

「……ごめん……。何でもないから…」

視界が涙でぼやける。何度も拭っても止まることなく、目から涙が溢れてくる。
すると突然自分の体が持ち上げられ、気が付くとファイが私を抱きしめていた。

「俺、いつでもお嬢の事を心配してるんですよ? 何があったのか言ってもらわないと困ります」

さっきは嫌われてしまうショックで泣いていたのに、今は彼の優しい言葉が嬉しくて泣いていた。
だいぶ涙も治まり、彼に「ありがとう」の笑顔を向けた。私の笑顔に彼も笑顔で「どういたしまして」と答える。
心のもやもやが全て取り払われたように清々しい気分だった。



「私は、貴方の事が……好きなの! 冗談とか嘘じゃなくて、本心から好き…!」

私は言い切った後、瞼をぎゅっと瞑って顔を背ける。
ファイの気持ちがわからなくて不安になる。彼の答えを聞く事に恐怖を感じた。

「俺も…お嬢の事が好きでした……」

彼の答えを待っていた私にとっては数秒という時間は長く感じた。
ファイが呟くように、けど私に聞こえるように答える。私が顔を上げると、私に目を合わせず頬をポリポリと掻いている。
嬉しくて飛びつきそうになった私を遮るように「でも…」と続けた。

「俺は使用人です。そして今は、お嬢が自分の意思で屋敷に帰るまでのボディーガードなんですよ? そんな立場にいる自分がお嬢と
結婚…いえ、お付き合いなんてできるわけがありません。お嬢が俺を好きだと言ってくれた――俺にとってはそれだけで十分ですよ。
自分もお嬢の事が好きでしたから…。付き合う事はできなくても、お互いが好きであれば……」

「お父さんの事だから近い将来、私はお見合いする事になると思う。相手はお父さんが選んだ見知らぬ相手。私が好きでもない相手と結婚
する事にファイは耐えられるの? それでいいと思えるの?」

「…………」

ファイは黙ってしまった。彼にとっても私は大事な存在なんだと思えた。
黙ったままのファイに近付き、私はファイの口に2度目のキスをした。
キスというのは不思議だと改めて思う。好きな相手の唇と自分の唇を少しの間だけ触れ合うだけなのに、体が内側から熱くなってくる。
キスをしている時間は数秒くらいなのに、何故かすごく長い時間のように感じるのだから。
口を離すと、ファイがふふっと微笑した。

「どうしたの?」

「お嬢は積極的ですよね。俺が寝ている間にこっそり隣に来て寝たり、決まった時間に屋敷を飛び出したり……今回は俺が寝ている間に
ディープキスまでしてきて……」

「えっ!? ちょ、ちょっと待ってよ!」

ファイが言っている事はおかしい。だって、目を閉じて寝息を立てて……どう見ても寝ていたはずだ。
どうしてファイは、自分が寝ている間に私がキスをしていた事を知っているのだろう。
もしかして……寝たふりだったのだろうか? そうでなければ、私がしていた事を知るはずがない。

「凄く嬉しかったですよ~。俺の口内にお嬢が舌を入れてきた時、反応して舌を動かさないようにするのは大変でしたけど、小さくて
可愛らしいお嬢の舌が俺の舌に絡もうとしてる時なんてもう…」

「その先は言わないで!! そんな事言ってると、こうするよ!」

胡坐をかいているファイの目の前に座り、自分の体をファイに擦り付ける。すると、さっきまで陽気に笑っていたファイが頬を染めながら
私を見ており、はっとしたように私から目を逸らす。ファイの反応からして成功したようで安心した。
エネコ、エネコロロの特性である『メロメロボディ』の効果だ。

「ファイ、顔が赤いよ? どうしたのかな~?」

私はファイをからかうように話しかける。
さっきは言わなくていい恥ずかしい事を嬉しそうに話してたから、これで相子のようなものだろう。

「いえ……何でも……」

「じゃあ、これは?」

確実にメロメロが効いているはずだけど思っていたよりファイは精神力が強いようだった。
次に私はファイの目の前で仰向けになり、尻尾を左右にゆっくりと揺らしてみた。
これをしている私自身が恥ずかしいのだが、これが異性に対して確実に良い方法だと聞いたのを思い出した。

「あぁもう! お嬢、ずるいですよ……。メロメロボディに誘惑なんて、耐えられるわけがないじゃないですか……」

「引っ掛かったファイが悪いのよ。さて、ファイはどうするの~?」

さすがのファイでも、メロメロにされた上に誘惑されたんじゃ我慢できるわけがなかった。
何か反論でも考えているのだろうけど、股間が少し出てきてしまったモノを私が発見したために何も言えずにいた。
私も余裕があるように言葉を発したが今の体勢は恥ずかしいとしか言えない。相手が好きな異性だから余計に恥ずかしい。

「………………お嬢……お願いします……」

「こちらこそ♪」



ファイの雄の象徴であるモノに唾液を絡ませながら舐める。最初は亀頭を舐め、徐々に根元を舐めていく。
舐める度に体がピクリと反応するファイ。雄としてのプライドなのか分からないけど、決して甘い喘ぎ声を出さないようにしている。
防音設備は完璧だと聞いているから、お互いの荒い息と淫らな水音が部屋に響いていても全く気にならない。

「お嬢…その、舐めるだけじゃなくて……口に含んでもらっていいですか?」

私の唾液が彼の肉棒に程良く絡まった頃、申し訳なさそうにファイが言った。
改めて見ると、十分に肥大したこんな大きなモノが私の口に収まるようには見えなかった。でも私は「いいよ」と答え、ファイのそれを
何とか口に含んでみようと試みる。
やはり肥大化したそれは大きい。けれど、その大きな肉棒は以外にも私の口内にすっぽりと納まってしまった。
口に含んだ後は大きな飴を舐めるように舌を僅かに動かし、再び唾液をしっかりと絡ませる。

「どう? 気持ちいい?」

「気持ち、いいです…。お嬢、結構上手いんですね…」

正直初めてで自信がなかったんだけど、ファイに褒められて上手くできたんだと自覚する。
私は嬉しくなり、ファイをもっと気持ちよくさせようと顔を前後に動かしながら肉棒全体を舐め始める。
最初はゆっくりと――次第に速度を早めていくと、ファイの両手が私の後頭部に添えられる。

「……うっ…くぁ…!」

ファイの甘い声が私の耳に届く。私の後頭部に添えられた手は震えている。
手に力を込めない所から、残っている理性で何とか抑えているのだろう。さらなる快楽を得たいが為に、私の頭を掴んで無理矢理舐めさせる
わけにはいかないと。早く楽に出させてあげようと思った私は、限界まで早くした。

「お嬢、口を……離してください…!」

ファイの言葉の意味はすぐにわかった。けれども、既に口に受け取る準備ができている私は一心不乱に舐め続け、そして吸い出す。
やがて、熱の篭った彼の吐息を聞きながら肉棒から放たれる白濁とした液体を私は飲み込む。
尿道に残っているであろう白濁の液体を吸い出し終わった頃、上半身だけ起こしたファイが笑顔で「美味しかったですか?」と聞いてきた。

「…不味い」

私は率直にそう答えた。
こんな液体を「美味しい!」と言えるポケモンがいるのだから驚きだ。
まぁ、確かに味としては不味いわけなんだけど……何ていうか、拒絶するほど嫌いな味ではなかったと思う。

「お嬢なら、不味くても美味しかったと言ってくれるかなぁって思ってたんですけど」

残念そうに言いながらもファイは後ろから私を抱きしめ、「今度は俺がお嬢を気持ちよくする番ですね」と言うと愛撫を始めた。
右手は秘所をなぞり、左手は胸を撫で、その愛撫で感じて背を反らした私の首筋に舌を這わせて攻めてくる。
触れられる度、体中に電気が駆け巡るような感覚がする。私にとって初めて体験する感覚だった。
当然、その感覚に慣れてすらいない私は

「んんっ…! ふぁっ!」

と、堪えきれずに甘い声を発してしまう。ファイの愛撫が変わったのはここからだった。
秘所に右手の中指が侵入して中を掻き回し、胸を撫でていた左手が今度は揉むように動かされる。

「ファイ…! へ、変になっちゃ……ああんっ!」

「ふふっ…今のお嬢は、自分が見てきた中で最高に可愛らしいですよ…」

左右の手を時々入れ替えながら秘所に指を出し入れされ、両方の胸を強弱つけながら揉んでいく。
首筋と耳を舌を使って舐め、歯を立てずに軽く噛まれもした。
段々と激しさを増してきたファイの愛撫は狂ってしまいそうなほどの快楽を与え、次第に私も限界へと向かう。

「何か……で、出ちゃう…よぉ…!!」

最後に甘い喘ぎ声を発すると、私の秘所から透明な液体が勢いよく飛び出す。
秘所から出た液体はベッドのシーツとファイの右手を汚し、私を抱いたままでファイは自分の右手に付着した液体を一舐めする。
数秒後、微妙な表情を浮かべて首を傾げながらも舐めた液体を喉に通す。

「美味しかったの?」

「いえ、不味かったです。でも決して嫌な味では無いところが不思議ですね」

即答だった。やはり、性器を通して出てくる液体なんて美味しいわけがないのだ。
それでも私とファイは同じように感じている。不味い――けど嫌な味ではないと。
数分の休憩を挟み、私とファイは向き合っていた。

「お嬢……本当に、いいんですか?」

「いいの。ファイなら……喜んで受け入れるから…」

ファイは私を抱きしめ、お互いの唇が相手の唇に触れた。
これで4度目のキス。
私を組み敷き、ファイは肉棒を私の秘所にあてがう。

「お嬢……」

「いいよ…」

私の了解を得たファイは、先程の愛撫で十分に慣らされた秘所に自分の肉棒を埋め込む。

「ふぁっ…あぁ!」

熱く太いそれがゆっくりと、確実に入ってくるのがわかる。
これが口で舐めていた肉棒なのかと一瞬だけ疑った。かなりの質量と放っている熱は口に含んでいた時と感じが違っていたから。
秘所の中で、ファイのそれが私の処女膜に触れる。心配そうな顔で見つめてくる彼に私は頷いた。
ファイは膜を破り、やがて肉棒全体が私の中へ収まる。膜を破った事による痛さはなく、ファイと一つになれた事がとても嬉しかった。

「お嬢、大丈夫ですか?」

「ファイが優しく挿れてくれたから平気だよ」

この状態で会話するのはちょっと辛いけど、私を心配してくれるファイに笑顔で答える。
一息つき、ファイに「動いていいよ」と続きを促した。
奥まで入り込んだ肉棒が引き抜かれていき、出口付近で強く突く。

「ああんっ!」

肉棒の出し入れによる快楽は、手を使っての愛撫とは比べ物にならないくらいに刺激的だった。
今夜が初めての私は、だらしなく開けた口から零れる唾液と自然に発してしまう喘ぎ声を抑える事ができないでいた。
体が今まで以上に熱くなっている。この時は自分が炎タイプになってしまったような錯覚さえした。
一突き、二突き……。
さらなる快楽を得る為に自分からも腰を振り始め、体を突き抜けるような快楽に対してできることは、荒い息遣いと喘ぐだけ。
理性を失い、快楽という欲望に支配されている自分。今までの生活からは想像もできないほどだった。
ファイが腰を振るスピードをさらに早めていく。
肉と肉がぶつかる音。一定のリズムで刻まれていく水音。私の喘ぎ声。この部屋に3つの音が響いている。

「はぁ…はぁ…。お嬢…俺、もう……」

ファイの掠れたような声が耳に入る。どうやら限界が来ているようだった。
できるだけ強く抱きついた私をファイは優しく抱きしめる。
言葉はいらない。
抱き合った時点で、お互いが望んでいた事を叶えようとしていたから。
ファイが最後に力強く突き、私とファイは同時に果てた。

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「もう二度と戻らないって決めたのに、帰ってきちゃった…」

あれから私達はヴェランの定期船に乗り込み、私の故郷である港町・ディシスに向かった。
故郷の港に着いた私を迎えてくれたのは潮の香り。家出してから1週間ぶりだが、懐かしいとさえ思える。
私が通学路として使っている大通りを抜け、木々に囲まれた街道に沿って歩く。
私とファイは、既に屋敷の門の前に着いている。

「屋敷に帰って来た理由ですけど、まさか貯金が底をついたとかじゃありませんよね?」

「ち、違うわよ! お父さんがちゃんと考え直してくれているか確認するだけ!」

疑いの目で見てくるファイに背を向けて、屋敷の玄関の扉を数回ノックする。

「はい、どちら様で……テナ様!?」

「…ただいま」

私のノックに答え、扉から出てきたのはサーナイトのルミさん。
帰ってくるなんて連絡一つもしなかったし、余程驚いたのか口を両手で抑えてる。

「ルミ、大声を出してどうしたのですか?」

あ、お母さんの声だ。
元気そう……と思ったんだけど、聞こえてくるお母さんの声はどこか弱々しい。

「し、失礼しました…。たった今、テナ様が帰って来られましたので…」

「テナだって!?」「テナが帰って来たの!?」

お父さんの声も聞こえ、奥から二人が駆け寄ってくる足音がする。
ルミさんが半開きだったドアを全開にすると屋敷の広間が目に映った。
見慣れた赤い絨毯,豪華なシャンデリア,高級家具の数々。そして、お父さんとお母さん。

「お父さん、お母さん……ただいま」

「お帰り。テナ、貴方が家出をしてからずっと心配していたのよ?」

「テナ、お帰り。そして…すまなかった…」

お母さんは飛びっきりの笑顔で、お父さんはすまなそうな顔で迎えてくれた。
私が家出をした事が余程衝撃的だったのだろう。
お母さんは私が家出をする事はわかっていたとはいえ、一日でも早い帰りを待っていたはず。
お父さんも私の帰りを待っていたはずだし、私が家出をする理由にも気付いてくれたようだった。

「テナ、荷物を自室に置いて食堂に来なさい。丁度、昼食の時間になったからね」

「うん、わかった!」

お父さん、私が家出する前と比べると雰囲気が凄く変わってる。
これだけ私を考えるようになってるなら……重要な事も話して大丈夫だよね?



「今日はお母さんの手作りハンバーグです。テナは高級料理よりも、こういうのが好きでしょ?」

私の好みを知ってくれているお母さんに感謝しながら、私は目の前に出されたハンバーグを一口食べる。
ハンバーグに掛かっているソースも手作りなのだろうか?
ソースがとても合っていて、ハンバーグの旨さとジューシーさを引き出してると思う。

私は港町・ヴェランに着いてから何をしていたのかを両親に話す。
収穫祭というお祭りを楽しんだ事。
3匹のヘルガーに取り囲まれたけれど、ファイが助けてくれた事など。
お母さんも私が出て行ってからの出来事を話してくれた。
私が出て行ったショックでお父さんが一時体調を崩した事。
子供の声がすると、どうしても私の声のように聞こえてしまっていた事など。
次第に学校の話,友達の話…と変わり、内容が『私の将来について』という話に変わった時だ。

「テナは学生とはいえ、もう20歳だったな。テナ、結婚の事を話し合っていかないとな?」

「う、うん…」

「貴方、テナの意見も聞いてあげないとまた家出しますよ?」

「わかってるさ。これについては、テナが決めた相手にしようと思ってるよ」

やっぱり、ここで話してしまうべきだろうか…?
ずっと内緒にしてても、いずれバレてしまうのではないだろうか?
だったら隠さず、素直に話してしまおうと決めた。

「あ、あのね…お父さん…。結婚の相手、もう決めちゃってるんだ…」

「それは初めてだな。相手は誰なんだい?」

「……ファイ……」

「えっ?」「ファイっていうと…?」

「使用人のファイ…だよ。ヴェランのホテルに泊まっていた時、両想いだった事が分かったの…」

数分の沈黙。
やっぱり……いくら私に選択権があるとはいえ、使用人を好きなっては駄目だったのかな。
心配になって両親を見ると、お父さんは呆れたような感じで溜息をついてる。お母さんは右前足で口を抑えながらクスクスと笑っている。
どうしたのだろうか? 私、何か可笑しい事でも言ったのだろうか?

「子は親に似る…と言ったところか?」

「貴方の自慢の娘ですよ? 一度決めたら絶対に曲げない所が特に似てます」

「どうしたの? 何の話?」

「昔ね、お父さんは有名な会社の御曹司で、お母さんはその世話係…使用人だったの。お父さんを世話する度に何だか好きになっちゃって、
お父さんも世話される度にお母さんを好きになったみたいなの。貴方とお父さんは、結婚相手が使用人というところが似てるのよ。
そして、一度決めたら他に候補者がいても絶対に意見を曲げなかったの。あまりに似てるから、お母さん笑っちゃった」

お母さんはにっこり笑いながら、私の質問に答える。
私はお父さんと同じ性格,それに結婚の相手も似てる……そこまで似てると考えると、つい笑ってしまった。

「今日は楽しそうな食卓ですね」

寝室で休憩を取ったファイが食堂に入ってくる。
気が付けば、1時間以上も食堂で楽しく話すだなんて久しぶりの事だった。

「ファイ、丁度良かった。テナが君と結婚したいそうなんだが…どうだい?」

「ええっ!? お嬢が自分と結婚!? そ、それについてディン様とセルナ様はどう思っているのですか?」

「私もセルナもテナが君と結婚する事を認めたよ。あとは…君がOKしてくれるか、だよ」

まさか自分に結婚話が舞い込んでくるとは予想もしなかったのだろう、こんなに慌てたファイを私は見たことが無い。
私と両親を見比べながら「えっと…あの…」と言葉がなかなか出て来ない様子だった。

「それじゃ、あの……お嬢、こちらこそ宜しくお願いします…」

その答えを聞いた途端、嬉しさのあまり私は自然とファイの胸に飛び込んだ。
お父さんとお母さんの目の前で、感情を抑えられずに。
ファイ、私の想いを受け取ってくれてありがとう。そして、これからもずっと私を守って。
貴方は私のボディーガードなのだから。

~END~

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あとがき

執筆開始から5ヶ月……話の序盤はスムーズに執筆できていましたが、後半(エロシーン辺り)から
続きが思いつかない状態でした。話の続きが思いつかない頭のせいで悪戦苦闘しながらも、
何とか完成させる一心で書き上げましたが……少し強引過ぎな展開でしたでしょうか?

さて、テナとファイがめでたく結ばれました。
バシャーモとエネコロロの体格は全く違うので、エロシーンで「次はどうしようか」と悩むばかり。
テナがリードするようにしたかったんですけど……やはり、自分では無理なのだろうか?
これにて『私のボディーガード』は終わりです。
また何か執筆する際に登場させようかなぁ…などと考えております。

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テナ「コメント、宜しくねー」
ファイ「感想・アドバイス,誤字・脱字等の指摘があればどうぞ。辛口批判も受け付けてますよ」

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