ポケモン小説wiki
私が彼にされたこと の変更点


#include(第十三回短編小説大会情報窓,notitle)
第十三回短編小説大会のエントリー作品でした。

作者[[ラプチュウ]]より
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 ゼブライカのお父さんとギャロップのお母さんを持つ私は、タマゴからかえってしばらくすると、ある場所に連れていかれた。自然豊かなその場所には、何匹ものポニータやシママがいてお友達ができるかもと少しうれしくなったのを覚えている。そこで私は彼に出会う。私を連れてきた人は、彼としばらくお話したあと、私を預けていなくなった。初めての場所に置いて行かれて不安になる私に、彼は優しく話しかけてくる。

「今日からよろしくな」

 初めて会ったその日、私はそう言った彼に身体の隅々まで調べられた。あちこち触らたり見られたりしてすごく恥ずかしかったのを覚えている。そのうち、急にお尻に違和感を感じた。何かは分からないけれど、お尻の中に何か冷たさを感じるものが入れられているように思う。突然のことに驚きはしたけれど、どうしたらいいのか分からずに身動きはできなかった。しばらくそうしていると、その何かは抜き取られてお尻の違和感はなくなる。何だったんだろうと考えはしたけれど、恥ずかしさでそれ以上考えるのをやめることにした。結局のところ、毎日のようにその何かをお尻に入れられるようになるわけなんだけど。

「さぁ、一緒に頑張っていこう」

 私の身体をじっくりと調べたあと、私は彼にいろんなことをさせられた。最初は、光を反射してたまに光っている見たことのない道具を口につけられる。それはひんやりしていて、とても硬くて、口もうまく閉じられないしですごく違和感を覚えた。それでも、ずっとつけられているうちに私の体温が伝わったのかそれはぬるくなって、私の唾液でべとべとになっていく。なんでこんなものをつけられなきゃいけないのかは分からなかったけど、次第に違和感は薄れていって私の口に馴染んでいく。
 次に彼は、私の身体にいろいろなものを巻き付けていく。幅の広い布みたいなものだったり、ひもみたいなものだったりいろいろあった。お腹を押さえつけられて少し苦しかったり、身体に食い込んだひもがこすれて痛かったり、あまり気分のいいものじゃなかった。それでもしばらく着けられたり外されたりを繰り返しているうちに身体も慣れてきて、着けられ始めて三日ぐらい経った時には気にならなくなった。 縄をくくり付けられて外を歩かされるようになったのはそれからだった。私にくくり付けられた縄を、彼が引っ張りながら歩いていく。私が別の方向へ行こうとすると、彼は縄を引っ張って歩いていた道に戻してくる。急に引っ張られるから縄がぴんと張って身体に少し痛みが走る。時々休みながらそんなことを繰り返していくうちに、縄をどう引っ張られたらどうしたらいいのかが何となく分かるようになってきた。

「お前は覚えがいいな」

 彼はいつもそう言いながら笑顔で私の身体を撫でてきた。実際よくわからないものを色々つけられたり、縄をつけられて引き回されたりと戸惑っていたんだけど、彼の笑顔を見ているとなんだか胸が熱くなってくる。そんなある日、わらを敷き詰めた床の上に座らされた私がいつもと何か違うなと感じていると、彼は突然私の上に乗っかってきた。驚いて振り落とそうともがいたが、彼は暴れる私の上で絶妙なバランスを取りながら静かにおとなしくさせてくる。徐々に落ち着きを取り戻しておとなしくなった私の身体を、彼はいつものように優しく撫で上げてくる。

「大丈夫、怖がらないで」

 いつも以上に胸の鼓動が高くなるのを感じながら、私の上に乗ったままの彼がかけてくる声を聞く。恐怖なのか、羞恥なのか、よくわからない感情が頭の中をぐるぐると回っていた。だけど、これまでよりもずっと近くに密着している彼の身体のぬくもりがくすぐったくて……暖かくて……気持ちよくて……そう感じていることが、余計に頭の中をぐちゃぐちゃにしていく。最初は嫌だったことなのに、繰り返しさせられているうちに身体が受け入れてしまうのに、気持ちは恥ずかしさが残ってちぐはぐになる感覚が考えることを止めてしまう、そんな体験を何度も繰り返させられる。――上に乗られることも、そのうちに身体が慣れてしまうのかな……―― 複雑な感情の中でかろうじて頭をよぎったのはそんな考えだった。その日は彼が何度も私の上に乗ってくるたびに、やはりというべきなのか身体は少しずつ慣れてきた一方で、胸の高鳴りは一向に収まってはくれなかった。

「将来のためにも、しっかりと覚えないとな」

 彼はいつも優しい笑顔で接してくれる。彼にさせられることはどれも最初は嫌なことだったけど、その笑顔が嫌悪する気持ちをなぜか恥ずかしさに変えてしまう、かといってそれをさせられる事をどこか期待している自分がいることが理解できなかった。なぜそんなことを考えてしまうんだろう……私が雌で、彼が雄だからなのかな……最近は自分の時間ができるとそんなことをいつも考えるが、その答えはいつも分からない。そんな私が気分転換できるのは、彼を背中に乗せて一緒に外を走ることだった。

「いいぞ、きっとみんなも喜んでくれるだろう」

 彼と一緒に走っていると、難しいことを考えなくていい。彼の持つ手綱から、伝わってくる彼の意思をくみ取りながら前を見て走り続ける。そういえば、彼は一緒に走っている時に細い棒みたいなものでたまに私を叩いてくる。そこまで痛くはないし、叩かれる前に私の視界にその棒みたいなものを入れてくれるから身構えることもできるけど、あまり気分のいいものじゃない。でも、その棒みたいなもので叩かれて速く走ると彼はいつもほめてくれるから、叩かれるのも悪くはないと思ってしまう。そんな考えも、彼と一体になって走っている間はどこかに行っているんだけど。

 そして季節は巡り、彼に出会ってから二回目の春が過ぎた頃……。

「さぁ、第四コーナーを回って最終ストレート! 先頭はヒバリヒナタ、一馬身離れてモモアカネが続く!」

 その年のとある二歳牝馬のメイクデビュー戦、彼女はモモアカネという名前で芝生が敷かれたコースの上を数匹のポニータやシママと共に走っていた。背中にはこれまでずっと共に過ごしてきたトレーナーを乗せ、力強く大地を蹴って風を切る。彼女の上に乗るトレーナーが一度だけ鞭を入れた。会場の盛り上がりが一気に高まる。

「ヒバリヒナタ逃げ切れるか! モモアカネスパートをかける! モモアカネが上がってきた! その差は半馬身!」

 すぐ横を走るシママの姿を横目で見ながら、彼女は目前に迫るゴールめがけて疾走する。相手の横に並びかけた時、コースの外に立てられている縞模様の棒を通り過ぎた。

「残り二百を切った! モモアカネかわせるか! ヒバリヒナタ逃げる! モモアカネ並んだ!」

 頭を前に突き出すようにしながら、最後の力を振り絞って地面を蹴りだす。わずかにスピードが相手を上回り、彼女の鼻先が前に飛び出した。

「行くか! 行った! モモアカネ交わしてゴールイン!!」

 会場を歓声が一気に包みこむ中で、息を荒げながらも徐々にスピードを落としながらコースを駆ける彼女の身体を軽く撫でながら背中に乗ったトレーナーがねぎらう。

「やったぞ! デビュー戦勝利で飾れたな!」

 全力疾走から駆け足ほどまでになった彼女の上で、トレーナーが嬉しそうに笑った。コースを外れて検量室を抜け、厩舎に戻った彼女の上から降りたトレーナーが正面に回る。

「これからのレースも一緒に勝ち抜いていこうな、モモアカネ」

 いつもと変わらない笑顔で語りかけるトレーナーに、彼女は嬉しそうにすり寄った。


――……というわけで今日の二歳牝馬メイクデビュー戦、一着は三番モモアカネ、二着は七番ヒバリヒナタとなりました。さて、ここでお便りコーナーです。ペンネーム”競馬初心者”さんから、「この前のインタビューで、騎手の方が”テキ”って言ってたのですがどういう意味ですか?」……なるほど……”テキ”というのは競走馬の調教師の事を指す言葉で、元々騎手をやっていたトレーナーの方が引退後に調教師になる場合が多いことから騎手という字をひっくり返し、てき、と呼んだのが始まりと言われています。ちなみに調教師と騎手を兼ねるトレーナーの方もいらっしゃいますね。わかりましたか? ……そろそろお時間ですね、それではまた来週お会いしましょう、さようなら……――
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あとがき

小説大会には2回目のエントリーとなり、無事2票をいただくことができました。ありがとうございます。
「てき」というテーマを確認し、どうしようかなと思っていたところに競走馬の調教師のことを「テキ」と呼ぶことを知った瞬間にこの作品が降りてきました(ぁ
現実の調教の流れに沿った構築の中で、官能っぽく表現することに挑戦してはみましたがなかなか難しかったですね(対抗馬が強すぎた(笑))。
ちなみにですが、お尻に入れられている何かとは体温計のことです。馬の検温はお尻でするとのことでしたので。
以下、投票コメントへの返信です。

>>序盤の着エロに妙な興奮を覚えましたので。

コメントありがとうございます。今回は終盤になるまでは官能っぽく書くことを目指して書いておりましたので、そう言っていただけると書いた甲斐があります。
序盤の色々つけられていた場面は、ハミや鞍などの馬具をつけることに慣れさせるための馬装馴致訓練が元ネタです。

>>競馬用語のテキは知っていましたが、調教師の地道で裏方的な仕事内容を小説にするのは難しいと考えていました。一頭のポケモンを見出し、馴致、育成してデビューまで仕上げていく様子を、ポケモンの視点からちょっぴり恋愛ものっぽく描写することで面白くまとめられています。

丁寧なコメントをありがとうございます。実際の調教師のお仕事もいろいろ大変なんだなぁと、今回小説を書く上で調べている中で感じておりました。雌のポニータであれば、調教師であるトレーナーに恋愛感情を抱いたとしてもおかしくはないかなと思いましたが、結果的に何とかまとめ上げられたようなのでよかったです。

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