#include(第二回短編小説大会情報窓,notitle) ※この作品には、官能的表現が含まれます。ご了承ください。 昔、『ロケット団』という組織がポケモンのクローン実験を行っていたということは有名な話である。その産物として、『ミュウツー』という究極のポケモンが生まれたという記録もある。 そのクローン技術は一般の研究者からみても、遥かに高い技術をもっていた。ロケット団のそのクローン計画はとある一人の少年によって阻止されたが、そのクローン技術をどこから手に入れたか、数々の大手医療企業も裏でクローンの研究をしていた…… 「脈拍、正常。脳波、正常。全部問題ありません」 「身体構成率100%に到達。こちらも問題ありません」 学校の体育館程の大きさの部屋の中で、十人ほどの白衣を着た男女が慌しくキーボードを叩いていた。 「よし、情報を覚えさせろ」 部屋の壁一面に備え付けられた大量のコンピューター。そのコンピューターから伸びる無数の長いコードは、部屋の中央の大きな円柱状のものの横の端末に繋がっている。その画面は無数の文字を上から下へと流してく…… 「了解、情報記憶フェイズ001始動。速度、毎秒2.76GBを維持。問題ありません」 俺はその大きな円柱状の物体の中に、何が入っているかは詳しく教えてもらってない。ただ、何かのポケモンのクローンであることは知ってる。もちろん、そんなことが警察に知れたら只じゃすまないことは分かってる。でも、俺はこの悪行に手を染めてしまってる。何が起こるのか、知りたいがために。 「情報記憶フェイズ001終了。続いて002始動。秒速2.81GBを記録。速度が早くなっています」 「コンピューターの予測では、あと一時間で全てのフェイズが終了すると出ています」 俺の仕事は、コンピューターや実験体にエラーや異常が出たときの報告と解除。そして原因究明。 「何をさぼっている!常に状況を確認しろ!」 「ぇ、あ、すみません!」 つい考え事をしてしまった。慌てて画面に目を落とす。相変わらず、異常無しという緑の文字が並ぶばかり。正直この仕事はつまらない。何もかもが順調にいきすぎて仕事が無いんだ。そのうち、とんでもない異常がみつかるかもしれない…… 「よし、情報記憶フェイズはコンピューターに任せて休憩に入れ。クラーク、お前はそのまま異常が無いか見てろ。記憶フェイズが終了したら呼べ」 「……わかりました」 計画責任者と俺以外の研究員が、ぞろぞろと研究室を出て行く。ここは地下八階。厚い岩盤に天井を覆われてて、あらゆる電波やエコー探査機を欺く。だったか?とにかく、ここはこの計画に携わる人間以外には知られていない、まさに秘密研究所だ。 「異常なし、異常なし、異常なーし。やってられっか!」 背もたれをギリギリ言わせながらリクライニングさせ、そのまま仮眠しようと目を閉じた。 『情報記憶フェイズ002終了。003起動……』 感情の無いコンピューターの音声が部屋に響く。その聞きなれた音声が子守唄になって、俺はそのまま深い眠りに落ちていった…… …………………………。 ………………。 ……。 なんだ、五月蝿いな……。 もうちょっと静かにできないのかこのクソコンピューターは……何?異常?そんなもんほっとけ、俺は寝たいんだ………… ……。 あれ……? ……。 異常!? 慌てて飛び起きると、目の前のコンピューターの画面を睨んだ。そこには、無数の赤い文字が。それも大量の黒と黄色の縞模様のウィンドウの中に。 俺は迷わずデスク横の赤いスイッチを押して皆を呼んだ。皆が来るまでの間、俺は原因を探していた。 「どうしたってんだよ!そのまま覚えてくれればいいんだよっ!」 その警告ウィンドウを閉じて、その異常箇所を探す。そこは、実験体に記憶を送り込むコンピューターだった。情報の移動は行われているみたいだけど、何がおかしいんだろう…… 「…………」 その文字をみたときは背筋が凍るかと思った。寝る前は毎秒3GB前後だった。コンピューターの計算でも、今の時間なら15GBになるだろうと表示してた。なのに、今は……測定不能。コンピューターがハッキングを受けているかのように、何者かに操られているかのように、凄まじい速さで情報が実験体に流れ込んでる! 「どうした!状況を説明しろ!」 ようやく責任者と研究員達が慌てて帰ってきて、それぞれの持ち場についた。 「コンピューターが……変なんです!」 「クラーク!何も弄ってないよな!?」 「俺のパソコンからは無理ですよ!」 その時、全ての研究員が悲鳴のような声をだした。 「こ、コンピューターから情報が吸い出されてます!」 「実験体が……コンピューターをハッキングして情報記憶プログラムには入っていない情報まで取り込もうとしてます!!」 責任者はその皺の多い顔をさらに顰めて、叫んだ。 「全てのコンピューターの接続をカットしろ!」 「無理です!実験体からロックがかかってます!こんなこと、生命体である実験体に出来るはずがありません!」 「物理的にカットだ!コードを抜け!」 研究員全員が慌てて席から立ち上がり、コンピューターのコードを抜いていった。。コンピューターの端子を壊してしまってでも情報を守らなければならない。必要以上の情報を与えては事故に繋がりかねない。俺のは抜かなくてもいい。むしろ抜いてはいけない。このコンピューターは状況確認のためのプログラムしか入っていないし、他は何も無い。だからこそ、最後まで状況を把握するために必要なんだ。 「か……各種ロックが解除されていってます!最初に解除されるのは……インターネット外部接続ロックです!解除まであと三十秒!マザーのファイアーウォールがもう耐え切れません!」 最後の一台。この地下研究所のマザーでもある巨大なスーパーコンピューターだ。そのコードは抜けないようにネジで固定され、更にそのコードは直径3cmもある。それが何本も伸びていた。 「非常用の斧を使え!ぶった切れ!!」 研究員の一人が斧取りに行った。その間に一本、また一本とコードが抜けていく。その度にハッキング速度が遅くなっていく。 「ハッキング速度落ちました!ロック解除まであと十秒!」 「間に合えぇぇっ!」 斧を手にした一人の男研究員が、物凄い形相で走ってきた。 「6…5…4…3…2…1…」 「こんちくしょーっ!」 その斧の刃が、太いコードを簡単に切断した。これで、情報閲覧用の端末である俺のコンピューター以外は全て切断された。 「……どうだ?」 その直後、責任者がこちらにやってきて、画面を覗き込んだ。 「…………異常無し。ロックは……未解除。外部接続を回避しました」 すると、研究所の皆は安堵と歓喜の声を上げた。 「……私はこのことを局長に報告しなくちゃならん。皆、ごくろうだった」 「俺はまだ残って原因究明します。お先にどうぞ……」 「ん、そうか、では頼んだぞ」 俺は皆を先に帰らせた。そして、研究室には俺と正体不明の実験体だけになった。円柱状のそれは、おそらく巨大なカプセルなんだろう。今はカバーのようなもので覆われていて中が見えない。そのカプセルの横には、俺のコンピューターとは別に外部と隔離された端末が一台。それはカプセルそのものの制御をする端末だ。これだけは実験体と連結されていないようで、いつもどおり画面にはこの研究所のロゴマークが表示されたままだった。 「…………」 翌日、実験体にはもうすでに必要最低限どころか莫大な情報が注ぎ込まれているということで、会話用の端末が新たにカプセルに接続された。その端末にはパソコンの基礎であるマザーブレインと会話用のチャットプログラムの記録された基板しか入っていない。これで単純に会話だけができるというわけだ。 「クラーク、お前がやってみろ」 「ええっ?こ、こんな重大なこと俺に任せていいんですか?」 「この研究所で一番人間らしさのある奴だからな。頼む」 「……なんか釈然としませんが……わかりました」 その端末の前の椅子に座って、キーボードを叩く。すると、普段俺が通ってるチャットサイトのように、発言欄の中に文字が打ち込まれた。そして、『発言ボタン』を押した。 「…………どうだ?」 俺の打ち込んだ、『よぉ、元気か?』という文字が表示されている。もし向こうが発言してきたら、その俺の発言文字の上に更新されて表示されるはずだ。 しばらくの沈黙。他の研究者も静かにその画面を睨んでいる。数十秒後、返信してきた。 「…………『貴方は誰?』……か」 あたりから驚きの声があがる。確かに、情報を教えただけなのに違和感の無い返答が帰ってきたのだ。驚かないはずが無い。 俺はそのまま会話を続けた。 『クラーク・レイだ。よろしく』 『クラーク・レイ。クラークと呼んでもいい?』 『好きにしていいぞ』 『私は名前が無いから、そちらこそ好きに呼んでね』 『わかった。でも、俺は勝手に君の名前を決められない。しばらくは君、と呼ばせてもらう。このチャットには君と俺しか存在しないからな』 『ありがとう』 『今回は自己紹介だけで終わろう。無理をさせたな』 『いいえ、初めて「チャット」というものをして楽しかったわ。またお願いね』 『じゃぁな』 『ええ、それじゃ』 そこで会話は終わった。目の前のカプセルに相手がいるのに、こうして端末でチャットをしなくてはならないというのがじれったくて仕方が無い。周りの研究員達はレポートを書いたり、驚いていたり、思い思いのことをしていた。 「クラーク」 責任者に名前を呼ばれた。椅子から立ち上がって、そちらに体ごと向けて目を合わせる。 「お前は記念すべきクローンとの最初のコンタクトをした男だ。これからも、「彼女」との会話をしてくれないか?」 「……わかりました。喜んで、その仕事をさせていただきます」 責任者は、そのボサボサと生えている髭を弄りながら研究所を後にした。 それからというものの、俺の仕事は毎日「彼女」と会話をすることだった。話をすればするほど、彼女が嬉しそうに返事をしてくるのが、俺も嬉しくなってきた。 『今朝、トーストを食べようと焼いていたら、焼きすぎて真っ黒になっちまったよ』 『それは災難だったわね?トースターは中古?壊れてるんじゃないかしら?』 『そうだよ。本当なら焼けたらカシャッって出てくるのに、ほっといたらいつまででも焼いてやがるんだ。んなもんだから、火災報知器まで反応して消防隊が来たこともあったんだぞ?』 『あらあら、それはもう買い換えたほうがよろしいんじゃないの?』 早く彼女の姿を見たい。直接口で会話がしてみたい。俺の思いは募っていった…… なのに、急に担当者を変えられてしまった。俺はまた別の研究所でつまらない薬品の管理と雑務をさせられてる。他の誰かが「彼女」と会話しているのかと思うと、俺と同じように彼女の姿を見たいと……会話をしたいと思っていると考えると、無性に腹が立ってきた。それからいくら待てども俺にその仕事が来ることはなかった。 ついに我慢できなくて、あのときの責任者に思い切って話をしてみた。 「それはお前が『彼女』と交流を深めすぎたからだ」 「……どういうことです?」 「実験体である『彼女』に、不穏な情報を植えつけたくないからな。それに、他のデータも欲しいから、別の人間とも会話をさせている。あと……」 「俺はそんなことを聞きたくて来てるんじゃない!!」 つい怒鳴ってしまった。まわりの職員が驚いてこちらを見ている。 「失礼しました。頭を冷やしてきます……」 「…………」 それから、俺は仕事の暇を見つけてはいつも彼女のいる研究室にやってきては他の研究員と会話をしているのを見てた。そのチャット画面には、相変わらず大量の文字が流れてた。でも、その彼女の発言はなんだか感情が無さそうな感じだった。 「フランク、調子はどうだい?」 今彼女と会話をしていたのは、俺と同期の友人だった。やや天然パーマのかかった長い髪を揺らしながらこっちを見た。 「クラーク?いいのか、こんなところに来て?」 「一応今やるべきことは全部済ませてる。だれにも文句は言われないさ」 「ならいいけどよ。はぁ……」 「どうした?」 「いや、なんで『彼女』を早く開放してやっちゃいけないのかなぁってさ。彼女はもうこのカプセルの中でしっかりと生きてて、心臓も動いてるし、こうして会話もしてる。全てが完璧なんだ」 「それは全部、最高責任者であるあのオヤジが決めることだ。俺達がどうこう言ったところで、彼女がカプセルから出てきて触れ合うことはできないだろうさ」 「そうか……あぁ、そうだよな……」 フランクはまたため息をついた。まるで初恋をした少年のように。 「クラーク、今だから言っちまうけどな……俺、彼女の姿見たんだ」 「何だって!?」 「誰にも言わないでくれよ!?このカプセルは他の端末から完全に隔離されてるから、隔壁を開いたところで何もばれないんだよ。だから……ちょっとだけ……」 「そうか……」 俺はそれだけ言うと、研究所を出た。なんだか、物凄く不愉快だった。 「このままだと……誰かに彼女が盗られる……」 俺はいつのまにか、「盗られる前に盗る」といういけない考えにとらわれていた。 俺は何をしているんだろう。俺は誰も居ない夜中の研究室にきていた。そこには、あのカプセルがある。あのチャット端末は電源が入ったままだ。 俺はその端末のキーボードを叩いてみた。 『起きてるか?』 『あら、夜中にどうしたの?』 『クラークだ。覚えてるか?』 『ええもちろん。貴方と話していて一番楽しかったんですもの。それに比べて、他の方は硬い物腰で、会話していてなにも楽しくなかったわ。いつも質問ばかり』 その後、俺はずっと心に押し込んできた言葉を打ち込んだ。 『そこから出たいとは思わないか?』 いつもなら直ぐに返事が帰ってくるのに、妙に返事が来るのが遅い。 『 出 し て く れ る の ? 』 一文字一文字、時間差で一つずつ表示してきた。それは多分、彼女が驚きを表現したくてやったのだろう。俺は直ぐに返事を返した。 『もちろん。ここが研究所で、俺や他の奴が研究員だということも知ってるな?』 『えぇ』 『方法なら分かる。でも、今俺が君をそこから出してしまえば、俺もお前も追われることになる』 『そうでしょうね。私は「レシラム」のクローン。どこから入手したかは知りませんが、爪の一部を培養して作られた。貴方には、閉じているであろう隔壁で姿が見えません。私自身も今どんな姿をしているのか、ちゃんとレシラムの姿をしているのか、全くわかりません。「目」「鼻」「耳」「肌」、様々な感覚機能の停止しているわたしには分かりません。クラーク、貴方は私を出してくれるの?答えは二つに一つ。どちらかで答えて』 俺はそのキーボードに手を置いた。そして、たった三文字だけ入力した。 『Yes』 あらかじめ監視カメラにはダミーの映像を見せている。監視室から見ると、俺は透明人間だ。カプセルと外部のコンピューターは接続されていない。あの情報漏洩の事件があるからだ。まて、今のうちに彼女のそのことを聞いておこうか……? 『そういえば、お前、ここのコンピューターにハッキングを仕掛けたよな?あれは何でだ?』 『今の私にとって、この電子世界が私の世界だから。自分の世界を知りたがるのはおかしいことかしら?』 『そうか、下らないことを聞いたみたいだな。すまん。これから行動に移る』 『よろしくね、クラーク』 俺はまず、カプセルの横の端末のパネルを操作して、外壁のロックを外した。これで彼女の姿が見えるはず。ちょうど真ん中から横に隔壁がスライドしていった。丁度、ガラスでできた円筒状の自動ドアが開くように。その中には…… 「レシラム……にしては小さいな……」 そこには、培養液の中で浮かんでいるレシラムの姿があった。その毛並みは伝説通り穢れ無き純白だった。しかし、何か変だった。よくみると、首と大きな尻尾にあるはずのリングが一つ足りなかった。 でも、彼女の姿を見たのが二番目、いや、もしかしたらもっと後かもしれない。そんなことを考えると、無性に腹が立ってきた。 そのとき、チャット用端末から電子音が響いた。画面をみると、彼女の発言が更新されていた。 『私の姿はちゃんとしたレシラムになってる?』 『あぁ。でもクローンだからか、少し体が小さい。体高が俺と同じくらいだ』 『そう、良かった。私があの時に手に入れた情報だと、前回の失敗作は見たことも無いおぞましい姿だったそうだから。心配だったの』 『これからお前の身体機能をアクティブにして培養液を抜く。痛かったり苦しかったりしても、我慢してくれ。ここまでクローンが上手くいったのは初めてなんだ』 『うん、クラークと直接会えるなら我慢するわ』 その彼女の言葉が嬉しかった。彼女も、俺と会いたがっていたんだ。でも、それは他の研究員も考えていること。この研究をするにあたって、皆の間ではとある暗黙の了解があった。でも。俺はその了解を無視しようとしてる。いや、もうしてる。 彼女の姿を見る。彼女は今目を閉じて静かに培養液の中を浮いてる。口には呼吸器のようなものは見当たらない。代わりに、頭に数本のコードが繋がっていて、お腹には生命維持に必要な養分やミネラルを供給する……へその緒のような役割をするチューブが接続されてた。 端末のロックを解除、各種維持装置停止、実験体身体機能及び能力起動、各接続コード切断、培養液抜き取り、カプセル開放。それらのプログラムをすべて起動させた。すると、順にそのプログラムが実行されていった。 まず、何も食事を取らない彼女のために動いていた生命維持装置が、短時間の行動をするために必要な養分を彼女の流し込んでから停止、へその緒コードが彼女のお腹から外れる。次に、彼女の体に何かしらの刺激が与えられた。多分電気ショック。ビクンッと体が動くと、彼女はゆっくりと目を開いた。 「…………」 彼女の目が、俺を見た。すかさず、俺はチャット端末のキーボードを叩いた。 『俺の姿が見えるか?』 『ええ、見えるわ。プロフィールの画像よりも細いのね』 やっと、やっと彼女とお互いの姿を見せ合えた。彼女はぎこちなく顔を引きつらせながら笑顔を作った。まだうまく表情が作れていないけど、彼女が笑っているのが俺にはわかる。他の人が見たら、ちょっと恐ろしい顔に見えるかもしれない。でも。俺は違った。 その時、彼女の顔が歪んだ。培養液の中で暴れて物凄く痛がってる!何事かと端末のパネルを見る。そこには、『各接続コード切断』とあった。 彼女の頭や背中、あちこちに接続されてたコードが全て抜ける。完全に彼女は機械からのサポートを断たれた。するとどうだろう、今度は何かに苦しみ始めた。そうか、へその緒コードが抜けた所為で呼吸が出来ずに苦しんでいるんだ!パネルを見る。その画面はすでに『培養液抜き取り』となっていた。 「早く……!」 やっとカプセルの上の方に空気が入ってきた。ホラ、その空気を吸うんだ!彼女は情報として知っていたようで、その空気の層に顔をだして呼吸を始めた。よかった。いきなり溺死、なんてことはなかったか。次第に培養液は無くなっていき、カプセルの底に彼女がぐったり座り込んだ。全ての培養液がなくなると、カプセルが開いた。 「大丈夫……か?」 「クァァ」 その彼女の鳴き声は高くて透き通るような美しい声だった。間近で見る彼女の瞳は吸い込まれそうな綺麗な青色をしてる。彼女も、俺の目を見つめ返してくる。 「…………」 「…………」 震える手を、そっと彼女に伸ばす。彼女はそのままじっとその俺の手を見ている。 そしてその穢れの無い純白の毛並みに手が触れる。それは体毛ではないかのような柔らかさと艶やかさを持っていた。そっとなでれば、まるで水面を撫でているかのようにスルリと指をすり抜けていく。ついに、俺は誰も触れることの無かった禁断の果実に触れてしまった。それを今、持ち去ろうとしている。この世の全ての罪を背負ってでも、彼女と一緒に居たい、そんな感情が芽生えていた。 「……ここを出よう。ここの監視カメラの機能が戻るまで時間が無い」 手を離すと、俺は腕時計を見た。今は二時半過ぎ。カメラに流してるダミーが終了するまであと十分しか無い。急がないと…… 俺はカプセルを元に戻して、隔壁をおろす。すると、見た目は何も異変が無いように見える。あとは、チャット端末に自作のAIプログラムをインストールする。そうすれば、また誰かがチャットを始めても、何事も無かったかのようにAIが自動で返事をする。旧式のUSBメモリを接続してインストールを始める。最近普及しているマイクロHDDでは記録が残ってしまうから、こうしてわざわざ旧式のUSBメモリを調達してきた。でも、旧式故に情報の移動速度は遅い。 「早く……早く……」 残り時間があと三分になったところでやっとすべての処理が完了した。USBを引っこ抜くと、レシラムを見た。彼女はじっと、その俺の作業を見てた。 「さて……」 レシラムをダンボールに入れて隠しながら狭い自宅に帰ると、レシラムを俺のベッドに寝かせた。どうやら、あのカプセルの中で身体機能が停止してたとはいえ、ちゃんと夜には寝て昼には起きているらしい。今はまだ早朝四時。眠たくて当たり前だろう。でも、俺は興奮して眠れなかった。 目の前に、自分がずっと対面を待ち望んでいた彼女がいる。しかも、俺の家にいる。 「…………」 起さないようにそっと、彼女の横に寝る。培養液のツンとした匂いが漂ってくる。でも、その中にフワリと柔らかい甘い香りがする。これが彼女の匂いなんだろうな……。彼女の毛並みをそっと、肩から腰まで優しく撫でる。サラサラと気持ちのいい毛並みが俺の手を流れてく……。 ふと、俺は思った。皆、俺も含めて、このレシラムを『彼女』などと呼んでいたが雌……なのかな? それを確かめるのに手っ取り早いのが……まぁ、股間を見る事なんだけど……。レシラムの股間には大きな毛の束がある。それを優しく掻き分けていくと、奥にピンク色を帯びた綺麗な秘裂が見つかった。秘裂は毛束の尻側からやや出ていた。場所的に言えば、この毛束は人間でいう陰毛なんだろうな。 「クゥ……ゥ……」 くすぐったかったのか、レシラムが声を漏らした。慌てて手を離す。どうやら、目を覚まさずにいてくれたようだ。そして、雌だと分かれば、もちろん胸にはそれなりのものがある筈。やはり、胸にもフカフカの毛並みがある。そっと、その毛並みに手を優しく押し付ける。ある程度は毛並みで沈むけど、直ぐに彼女の体に触れた。でも、他の部分とは比較にならないくらいに柔らかかった。そう、乳房だ。人間のように大きくはないけど、それはしっかりとそこに存在してた。ちょっと指を立てて毛並みに指を入れると、乳首に触れることができた。 「キュァ?」 しまった、起してしまった。寝ぼけた目で俺を見てくる。何をされていたのかは分かってないみたいだ。 「すまん、起しちまった」 「クゥ」 するとどうだろう、彼女はその大きな翼で俺を抱き寄せると、そのまま抱きしめてきた。 「……レシラム?」 なぁに?とでも言いたげな顔で首をかしげた彼女。お互いの吐息が顔にかかる。彼女は只単に一緒に眠りたいだけみたいだけど、俺にはどうしても誘ってるようにしか思えない。 「いや、駄目だ……俺は人間だ……」 「?」 俺は無理やり目を閉じて、朝を待った。 翌日、俺はレシラムを家に残して仕事に向かった。彼女は寂しそうな目で俺を見送ってくれた。なんだかその様子が可愛くて、強く優しく抱きしめてから家を出てきた。 「…………」 バレてないだろうか……昼休み、俺はあの研究室に向かった。そこでは、また違う研究員がチャットをしていた。よし、どうやら俺のAIはうまいことごまかしてくれてるみたいだ。 「彼女の調子はどうだ?」 「あ、クラークさん。彼女は……まぁ、いたって普通ですよ。最近面白いことを言うんですよ?」 「へぇ」 「今朝なんて、『好き』だなんて言ったんですよ?やったーって思ってたら、何を勘違いしてるんだ好きなのは寝ることよ?って……」 物凄く楽しそうに話す研究員。だがそこには彼女は居ないのだよ。俺はついつい顔が緩んでしまった。でも彼にはそれが話が面白くて笑っているように見えるようで、そのまま話を続けてる。 でも、この安心は長くは続かない。実験が進んで彼女をカプセルから出そう、ということになったら即バレる。でも誰が連れ出したのかはわからないはず。それに気がついた俺は仕事の効率が落ちてしまっていた。急に、家に残した彼女が心配になった。 気分が悪いと仮病をつかって早退した。直ぐに家に帰ると、そこには美味しそうにジュースを飲むレシラムの姿があった。あのジュースは俺のお気に入りで、冷蔵庫から無くなることのないようにいつも買い足している。水にモモンの実の香りと味をつけただけのようなものだけど、飲みやすくていいんだよな。 「ただいま、レシラム」 「キュゥン」 コップをテーブルに置くと、ドタドタと走って飛び込んできた。 「え、ちょ、レシラム!うぉぁっ!」 そのまま俺はレシラムの飛び掛りに耐え切れなくてしりもちを付いた。よほど寂しかったのか、彼女は俺のやや薄い胸板に顔を埋めてる。 「……ったく」 俺はレシラムを抱き上げると、さっきまで彼女がジュースを飲んでた椅子に座った。 「レシラム、一つ、話があるんだ」 「クァ?」 彼女はまたあの瞳で俺を見上げた。 「近いうちに必ず、研究室の職員達がお前が居ないことに気がつく」 「…………」 それは彼女も分かっていたのか、静かに俺の言葉を聞いてる。 「もしそうなったら、お前は連れ戻されて、俺は何かしらの拘束をされる。どうしたらいい?」 「…………」 「いや、ごめん。お前に聞いても駄目だよな」 まず逃げないと。でも、どうやって逃げる?こんな彼女を連れて空港なんかに行けば、即刻通報されるに決まってる。 「ごめん、こんなことをした所為で……」 あの研究所で大人しくこのレシラムを研究していればよかった。まさか、後からこんな大事なことに気がつくなんて。 誰にも触れることが出来ない、ということが余計に俺の独占欲を増大させた。 誰も姿を見ることが出来ない、ということが余計に俺の知的欲求を増大させた。 それだけじゃない……ということは分かってる……。 いつの間にか、俺は姿も声も知らない彼女に、恋をしていたんだ。 俺は人間なのに。 彼女は神のクローンなのに。 「レシラム、好きだ」 考え事から意識が戻ってきたときには、俺はその言葉を口から吐き出してた。自分でも何を言ってるんだろう。なんて思った。けど、しばらく考えてみると、それは正直な俺の気持ちなんだと分かった。 「…………クァァン…………」 レシラムはそれに答えるように俺を抱きしめてきた。本物のレシラムはこうも人懐っこくはないだろうけど、凄く嬉しかった。 「レシラム……」 もう彼女の名前しか言えなくなってた。キュゥッ、と抱きしめると……あのツンとした培養液の匂いが消えてた。シャワーにでも入ったのかな?今はソープのいい香りと彼女の甘い香りしかしない。 「レシラム……」 俺は何をしてるんだろう。彼女の背中にまわした手を、そのままお尻へと下ろしていって……秘所を弄ってた。その柔らかい膨らみに触れると、彼女は俺の腕の中でピクリと跳ねた。そのまま指で撫でていると、しっとりとした割れ目に指がはまった。 「キュァァアッ!」 レシラムはさらに強く俺を抱きしめた。感じてくれている。けど、怖いんだろうな。 「大丈夫だよ、レシラム……痛いのは最初だけだって聞いてるし、それは君も知ってるだろ?」 「クァゥ」 彼女はネットワークに接続してはいないけど、研究所のデータは全部頭に入ってるはず。そのデータの中には、マザーのデータも入っているから、其の手の情報も知っているはず。 そのまま何度も何度も弄っていると、指が濡れてきた。指を離すと、ネチャッと音を立てた。その秘所から指へと透明な橋がかかった。かと思うと直ぐに切れた。もう彼女は準備が完了してる。 「レシラム……いい、よな?」 一旦上半身を離して彼女の目を見つめる。恥ずかしさと興奮で純白の顔が真っ赤に染まってた。彼女はゆっくりと頷くと、俺から離れてベッドに横たわった。漂白剤で白くなってるベッドシーツよりも更に白い体。俺はこれから、その穢れ無き純白の果実を……禁断の果実を…… 彼女はじっと、俺を見てる。誰かに見られながら服を脱ぐのは初めてだ。ゴソゴソと白衣を脱ぎ捨てて、シャツのボタンを外していく。その薄い胸板と割れて無いお腹を曝す。元々運動は苦手だった俺はそんなに筋肉がある方じゃない。でも、知識はあるから、そこら辺の男よりは重いものを持ち上げることはできると思う。 次に、ズボンに手をかけた。ベルトを外してズボンを下ろす。その下にはよくありがちな青と白の縦縞トランクス。そのトランクスは大きなテントを張ってる。それが一体なんなのか、レシラムは痛いほどに理解しているだろうな。でも、彼女の視線はそこに注がれてた。 「…………」 ちょっと躊躇いながらトランクスを下ろしていく。すると、トランクスのゴムの部分で先端が引っかかってグイッと下げられていく。ある程度まで下がってくると陰毛が見えてくる。そして男の象徴の根元もみえてくる。そして、ブルンッと勢い良く振りあがったソレは俺のお腹を叩いた。ペチンと乾いた音が響く。ビクビクと震えるソレを目の当たりにしたレシラムは何かに取り付かれたかのように俺のソレを見てる。 「あ、あまり見ないでくれ……」 恥ずかしくてついつい手で隠してしまう。けど、これからもっと凄いことをしようとしているのに、俺は一体何してるんだろうな。レシラムの横に寝ると、彼女はうつ伏せになってお尻を突き上げ、尻尾を上げた。すると、彼女の大事な部分が丸見えになる、尻尾の付け根辺りには肛門、その下には綺麗な薄ピンク色の秘裂。その割れ目かえらはトロトロと透明な液体を垂らしてた。さっき、あれだけ弄ったのだから当たり前か……。 俺は思わず生唾を飲んだ。初めて見る異性の生殖器。それもポケモンの。見とれてしまった。そのあまりに綺麗な秘裂に。 「キュァン!」 貴方こそ見ないでよ。そう言いたいのか、不機嫌そうな声をだした彼女。 「ごめん」 ゆっくりと起き上がって彼女のお尻に両手を置いて、俺の息子を彼女の秘裂にあてがった。 「本当に……いいんだよな?」 「…………」 彼女は何も言わなかった。かわりに、恥ずかしそうな顔を向けて小さく頷いた。その可愛い彼女の顔を見た俺は、どこかで理性の飛ぶ音がした気がした。優しく、強く腰を突き出していくと、その先端が秘裂を押し開いて浸入していった。まだ亀頭が入っただけだというのに、凄まじい吸い付きだった。それに堪らず一気に押し込んでしまいたい衝動に駆られる。でも、そんなことをしてしまっては彼女を傷つけてしまう。 必死にその思いを僅かな理性で押し込むと、ゆっくりと、力を込めた。 「キュ……キュァ…………ン」 彼女のその喘ぐ顔は、恍惚とした淫らな表情だった。痛みなんて微塵も感じてなんか居ない。普通なら物凄く痛がっていいはずなんだけど……それはクローンだから微妙に膣の構造が異なるのかもしれない。もしかしたら、他にも異なる部分があるかも。でもそんなことより彼女と一つになりたかった。更に押し込んでいく……すると、呆気なく処女膜を突き破ってしまった。何の抵抗も無かった。 結合部から、鮮血が滴った。大丈夫なのかと彼女の顔を見る。でも痛みは無かったのか、もっと、と淫らな顔を向けてくる。 「は、激しくしても……いいか?もう、我慢できない」 彼女もじれったかったのだろう。コクリとはっきり頷くと、自ら腰を振って快感を得ようとしてきた。まだ半分も入っていないというのに、グチュグチュと卑猥な音をたてて俺のアレが強烈に締め付けられた。 「くぁぁっ!」 その瞬間、俺は彼女の背中に抱きついて激しく腰を振ってた。すると、バック特有のパンパンという腰が打ち付けられる音が部屋に響き始めた。 「クァァァァァァァンンッ!」 レシラムが高くて綺麗な声で叫んだ。それは痛みでも、怒りでも、悲しみでもない。それは快感だった。初めてだというのに、お互いに痛みが無いし気持ちいい。激しく突いていると、それに答えるように彼女のネットリと熱い肉が締め付けてくる。 すると、レシラムはその長い首を曲げて俺にキスを求めてきた。下半身ばかり気持ちよくて切なくなってきたんだろうな。俺はその細いマズルに唇を当てた。 「んっ……ッ」 「クゥ……ッ」 下半身はケダモノのように激しく交わり、上半身は深く愛し合う恋人のように熱いキスを交わす。このギャップが彼女にはたまらないのだろうか、うっとりと目を細めて上と下の両方で体液を交換する。その二つの結合部からは透明な混合液をあふれ出させてシーツを汚していく。 「れ……レシラム!もう……!」 自分でも、彼女の中でビクビクと震えてカウントダウンを始めているのが分かった。 「クァァッ!クァァァァァァンッ!」 それが何を言っているのかは分からない、けど、彼女の表情を見れば分かる。ズンッズンッと彼女の体を貫通しかねない強さで膣を突き上げる。先端が子宮口を突いてるのが分かる。 「うぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」 下半身に何かが集まっていく感じがした。すると、彼女の中に灼熱の恋を注ぎ込んでいった。その瞬間、俺は物凄い脱力感に襲われた。ぐったりと彼女の背中に倒れこむ。それでも俺の下半身はまるで別の生き物のように彼女に恋をぶち込み続ける。 「クァ………………ァ………………ァン…………」 快感で彼女は気絶してしまったようだった。やっと射精の終わったモノを引き抜くと、その開ききってしまった彼女の膣から白いドロドロしたものが流れ出してきた。それは彼女の白い体毛を別の白で染め上げてシーツを汚した……。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 翌日、俺はレシラムを連れて逃げ出した。今日レシラムをカプセルから出すから、お前も来い、という内容のメールが今朝届いたからだ。 逃げるために、俺はまた罪を犯した。窃盗。研究所からキャンピングカーをレンタルして、そのまま国境を越えて逃げた。一旦出勤して、すぐに忘れ物をしたと言ってキャンピングカーを借りて帰宅。貴重品とありったけのお金、そしてレシラムを乗せて逃げ出したんだ。 国外ならば、そう簡単に手出しは出来ないはず。そもそも、レシラムがいるのでは、警察に頼むことも出来ない。だからといって研究所だけの力では捜索も出来ないだろうな。 アダムは蛇にそそのかされたイヴに進められて、神から禁じられていた果実を食べてしまった。 俺は、誰にそそのかされた訳でもなく、進められたわけでもなく、禁じられた果実に手を出してしまった。 でも、その果実は凄く甘かった。それを独り占めにすると、その果実は少し苦いことにも気が付いた。 それでも、俺はその果実を手にしたまま逃げ回る。その果実の本当の美味しさを知ってしまったから。 禁断の苦いようで甘い果実。それは罪な恋を芽吹かせる、危険な果実。 END IP:58.183.171.34 TIME:"2012-07-20 (金) 00:24:36" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E7%A6%81%E6%96%AD%E3%81%AE%E8%8B%A6%E3%81%84%E3%82%88%E3%81%86%E3%81%A7%E7%94%98%E3%81%84%E6%9E%9C%E5%AE%9F&refer=%E7%AC%AC%E4%BA%8C%E5%9B%9E%E7%9F%AD%E7%B7%A8%E5%B0%8F%E8%AA%AC%E5%A4%A7%E4%BC%9A%E3%81%AE%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; rv:13.0) Gecko/20100101 Firefox/13.0.1"