勢いで書いてしまった作品です。 作者名はその内明かしたいと思います。 作者は[[私>ピカピカ]]でした ---- これはとある友人から聞いた話で、ある地方ではポケモンを自分の後ろで歩かせて、一緒に旅をするのが流行っているらしい。 そうすることで自分のポケモンと触れ合い、コミュニケーションを取ることが出来て、尚且つ互いにパートナーとしての絆が芽生えるのだそうだ。 実際に博士に頼まれてそれを検証した少年がいて、その少年はポケモンと共にチャンピオンリーグを目指して旅をしていたらしく、いつも仲の良い自分のポケモン達の配列を入れ換えては、楽しそうに話をしてパートナーとしての絆を確実に深めていったそうだ。 だからこそ彼はポケモンでバトルをしては常に負けなし。かの有名なR団の再結成を目論んでいた輩を事々く打ち負かしたとかなんとか。 そして旅の目的の一つである全てのジムリーダーをも破り、ついにはトレーナーなら誰もが夢見る栄光の地へと足を踏み入れ、辛く苦しい戦いをパートナーと乗り越えていき、四天王、そしてチャンピオンをも打ち負かし、少年は見事その地方の新しいチャンピオンとなったのだった。 しかし不思議なことに、彼の旅のある一部の記録だけが謎に包まれている。いつ、どこでポケモンと出会ったのかや、ジムリーダーとの熱い戦いの記録、道中出会ったトレーナーのことや、出来事は事細かに記されているのだが、肝心のポケモンとのコミュニケーションのことがある一匹のポケモンの部分だけが全くと言っていいほど記されていないのだ。 色々な人から聞き出した情報によると、その少年が常に変えることなく大事に育て持っていたポケモン達は、メガニウムの♂、ピジョットの♂、オオタチの♀、デンリュウの♀、そしてバンギラスの♀だったそうだ。もう一匹は謎に包まれており、少年は表には全く出さずにいたという。噂によれば、彼は海の神を従えていたのではないかという説があるらしいが、定かではない。 さて、少し話がずれてしまったようだ。話を戻すと、彼はある一匹のポケモンとのコミュニケーションだけを全く記していない。そのポケモンが先程情報の中に入っていたバンギラスだ。 詳しく調べてみたところ、このバンギラスはなにやら親しい友人から貰ったものらしく、本来シロガネ山と言う場所に棲息している結構珍しいポケモンらしい。 彼は生まれたばかりの当時ヨーギラスだった彼女を友人から貰い受け、大切に育てていたようだ。さらに彼は他のポケモン達と同じように彼女には「ヨモギ」というニックネームを与えていたらしく、そのことから彼がどれだけポケモン達に愛情を持って接していたか分かる。 ヨーギラスをバンギラスまで育てるというのはとても大変であると聞くが、それでも彼は諦めずに彼女を立派に育てあげたのだろう。残念ながらその詳しい過程は記されていないのだが。 彼は何故彼女、バンギラスとのコミュニケーションを記録に残さなかったのか。謎に包まれている彼の心情を彼と同じ境遇に立ってみて理解しようと、私は今回この実験に及んだ次第である。 調度都合が良いことに、私の手持ちのポケモンに♀のレントラーがいる。彼女は私がまだ若く情熱的であった頃からの馴染みであり、大切なパートナーである。彼女もまた、少年のバンギラスと同じように私の親しい友人から受け取ったものだ。勿論受け取った時はコリンクだったが。 とにかく彼女は今回の実験には持ってこいの逸材だろうと私は考える。だが彼女は既に進化を終えてしまっているので、完全に少年がヨーギラスからバンギラスまで育てていった事と同じことを出来る訳ではない。元よりどう育てていたかさえ詳細は知られていないのだから、どっちにしろ同じことではある。 しかし私も昔は地方は違えど、彼と同じくチャンピオンを目指していたトレーナーの一人。彼女は勿論のこと、他のポケモン達にも限りない愛情を持って接していたのだ。その中でもずっと傍にいてくれた彼女ならば十分過ぎる程だろう。 私は現時刻を持ってして、少年とバンギラスとのコミュニケーションの真相を探るべく、彼女との実験を始めようと思う。 「ふむ、今日はここまでにしておくとしよう。文には今からなどと書いてはいるが、流石に夜も遅い。実験は明日から行うとしよう…」 そう一人ごちるように言ってからパソコンの電源を落とし、軽く伸びをする。自分で言うのもなんだが、まだ私は若いほうではある。とは言ってもさすがに長時間のデスクワークともなると結構体にこたえるのだ。 時刻は深夜2時を少し過ぎたあたり。どうやら研究に熱を入れすぎてしまったようだ。こういう文などはある程度進めていくと、自然とモチベーションが上がっていって、いつの間にか時間を忘れてしまっているものだ。 それにある程度遅い時間まで起きてしまっていたせいか、書き始めの方にあった眠気が大方吹き飛んでしまっている。 さて、どうしたものか。 そういえば寝る前に軽いストレッチなどを行うと良く眠れると聞いたことがあるので、それを早速実践してみることにするか。 屈伸、三角屈伸、腕回し、腕捻り、アキレス腱伸ばし、はねるなどを思いつく限りのストレッチをやってみた結果。 「体が火照って眠れないな…」 誰が汗をかくほど必死にやれと言ったのだか。誰も言ってないな。 軽めのはずが、つい熱を入れすぎてしまったようだ。昔と変わらず私はどうにも一つのことに熱を入れると、夢中になりすぎてしまうようだ。 先程も言った通り、私が昔は情熱的で熱く燃えていた時期があった頃の名残がまだ残ってしまっているのかもしれないな。 「しょうがない、ベッドに入れば嫌でもそのうち眠気が来て寝てしまうだろう」 最初からそうすれば良かったなどとは言わないし、聞きもしない。ただ自分が恥ずかしくなるだけだからな。 とりあえずストレッチでかいてしまった汗を拭ってから、寝るときの服装に着替ることにした。だがそこで思わぬ来訪者が私の書斎にやってきた。 「がぅ…」 「ん? なんだ、お前だったのかリン」 眠たそうな目を何度も瞬かせながら私を見るリンと呼ばれたのは先程文にも記した私の大切なパートナーであるレントラーのこと。 リンという名前はコリンクの名前からそのまま抜き出しただけの安直なニックネームだが、私にとっても彼女にとっても大切な名前であることには変わらない。 名付けというのは疎かにしがちだが、神聖かつ大切な儀式の一つなのだ。呼ぶ名があるからこそポケモンはどんなに離れていても、必ず主人の元へと帰ってくることが出来る。名というのは主とポケモンの絆そのものなのだ…と偉そうなことを言ってしまったが、これは私の師の受け売りなのだが。 「どうしたんだ、こんな夜遅くに…。寝られないのか?」 「がぅがぅ…くぉん……」 相変わらず何を言っているかは詳しくは分からんが、何が言いたいのかはおおよそ声のメリハリや顔の表情で分かる。要するにだ。 「私が何か物音を立てていることで起きてしまったお前は何事かと心配して来てくれたわけだな?」 そう勝手な推測をしてしまったが、彼女はいまだに眠たそうな顔をしながらも小さく頷いた。どうやら合っていたらしい。 やはり十年近く一緒にいれば大体の意思疎通は出来るのかもしれないな。現に彼女は俺の言葉を理解してくれているわけだが、残念なことに俺は彼女の言葉を大体しか理解してあげられない。 早く技術が進歩してポケモンと自由に話せる事とかが出来たら、どんなに嬉しいことか。 「まぁ、そんなことはまだまだ先の話なんだろうが…」 「がぁぅっ?」 「いや、こっちの話だよ。リンは気にしないでお休み」 「……」 彼女はしばらく俺を見てから、私にさらに近づき、服の袖をぐいっと引っ張った。少しよろけながらも踏み止まり、腰を丸めた状態で彼女を見る。 「こらこら、そんなことしたら服が伸びてしまうだろ?」 「ぐぅっ…くふっ…」 「? ……あ、そうか」 彼女が何を伝えたいのか分かった。 「分かった。私も寝るよ」 そう言えば彼女は引っ張るのをやめ、私に向かって一鳴きしてから寝床へと戻る。寝床とは言っても私の寝室なのだが。 彼女は昔から私に似たのか心配性なのだ。今だってそろそろ私が寝ないと体に悪いからと思ってしてくれた行為に違いない。私も寝ようと思っていたところだからタイミングが良かった。 そして寝室に着いてから私は彼女に言っておかなければならないことがあるのを思い出し、互いの目線が合うように床に座ってから彼女の顔を優しく掴んだ。 「リン、眠いだろうけど少し聞いてもらえるかな?」 「わぅ?」 依然として眠たそうな顔をしているが、どうやら話は聞いてもらえるようだ。 「明日…いや、もう今日になるか。私はある実験を始めることにした。それをリンにも手伝ってほしい。と言うよりはリンがいないと出来ない実験なんだ」 「…がぅ。わぅぅん…?」 「心配しなくてもいい。実験とは言っても普段通りに過ごせばいいだけだ。違うのは……大体の時間は私と一緒に外にいなければならないことかな」 その時、彼女の耳がぴくっと動いた。やはり動揺してしまうものか。いくら長い時間を共に生きてきたとしても、それは常にボールの中にいた彼女であって、外に出す時は戦いや眠る時ぐらいしかなかったからな。外で眠るようになったのはボールの中は窮屈と感じた彼女の意志であるが。 とにかく、いきなりこんなことを言ってしまって彼女には悪いと思っている。信頼しているからこその頼みであったのだが、彼女が嫌だと言うなら、仕方ないが別のボックス内にいるポケモンを使うしかない。 「すまない、リン。嫌なら他の子を使うから。お前は気にせずにこのことを忘れてくれ。まぁ、しばらくは別の子がお前と一緒にこの家にいることになるけど、そこは勘弁してくれ」 「わぅっ!? が、がぅ!!」 彼女は突然焦ったように首を左右に振り、私に向かって何かを訴えかけるように吠えた。 目を見てみれば、何かを拒んでいるような目つきをしていた。 「? もしかして引き受けてくれるのか」 「がぅっ!!」 一際大きく吠えたのを見ると、どうやら了承してくれたらしい。そんなに家の中で別の子が自分以外にいるのが嫌なのだろうか。 「ま、まぁ引き受けてくれるなら良かった。明日からよろしく頼むよ、リン」 私がそう言って頭を撫でてやると、彼女は尻尾を大きく振ってまた「わん」と声高く吠えた。 近所迷惑にはならないだろうかが少し心配になったが、そんな都心に住んでいる訳でもなく、むしろ田舎の分類であろう町に居住しているのであまり変な心配はしなくてもいいだろう。 「それじゃあお休み」 「わぅん」 互いにそう人と獣の言葉を交わした後、私はベッドに入ってシーツを体にかけ、彼女は私が作ったベッドの下の寝床へと入っていった。 私は寝相が悪い訳じゃないので、ベッドが軋む音などで彼女が目を覚ますことはない。いくら心配性の私でもそんな心配はしたことがない。 さて、ストレッチをしたことで疲れが出たからか微妙に眠気が来たようだ。瞼を閉じ、シーツを深く被る。 (それにしても……あの少年は何で……自分のパートナーでもある…彼女のことを……書かなかったのだろう……。単に記すのに飽きが来たからか……いや、だとしたら旅の記録は最後までは記されないはず……。だとしたら彼は何か人には知られたくないことを……?) いや、考えるのはやめにしよう。私の悪い癖だ。 実験をしてみれば何か分かるかもしれないのだから。もし分からなかったとしてもそれはそれで少年にとっては良いことなのかもしれないからな。 私はそこで襲ってきた急な睡魔に抵抗せず、そのまま受け入れて眠ることにした。 ---- 「がぅわぅっ!!」 「う~……何だ、リン…」 普通、漫画や小説の朝のシーンでお決まりなことと言えば、雀の囀りとかが聞こえてきて主人公が気持ちよく目覚めるとかそういうのなんだろうけど、それは間違いだ。たとえ雀が鳴いていたとしてもそれは掻き消される。私の場合は主に彼女の声によって。 「わぅぅん…」 「分かった。分かったから…起きるよ」 私にとっては既に日常茶飯事のことと化しているので、何も問題はない。彼女から鳴かれたら私はそれに応える。それだけのことなのだ。 「ふぁぁ…。うぅむ、やはりまだ少し…」 「わぉん?」 「いや、大丈夫だ。顔を洗ってくるからリンは少し待っててくれ。それから朝ご飯にしよう」 「わぅっ!!」 良い返事をしてくれた彼女はトトト、と小さな足音を立てて先に部屋を出ていった。さて、ああは言ったものの、正直まだ眠い。寝た時間が時間だからな。体も多少怠く、なんとなく重さを感じる。 そういえば彼女は私より早く寝て私より早く起きている。寝ている時間を合わせてみるとそんな変わらない気がするのに、何故彼女は朝からあんなにも元気なのだろう。人とポケモンだからと言う違いでもあるのだろうか。 いや、それは人とポケモンを平等に見ていないような意見にも繋がるから考えないでおこう。昔は人とポケモンが結婚していた時代だってあったぐらいだからな。 だからそんな時代を見習ったのかは知らんが、最近はポケモンと愛し合う人が増えているらしく、ニュースにもなっているそうだ。少なくとも私は悪い傾向ではないと思っているが。 「…っと。また考え事をしてしまっていた。早く顔を洗わないとな」 何とかしなくてはな、私が勝手に命名したこの「考え症」というやつも。 洗面所へと向かい、蛇口を捻って水を出し、手で掬っては何度も顔にかける。冷たい水はまだ少しぼーっとしていた私に喝を入れてくれたようで、おかげで目が完全に覚めた。 タオルで顔を拭いてからキッチンへと向かい、先に行って待っていてくれたリンを見る。彼女も皿をカタカタと小さく鳴らしながらも私をじっと見ていたようだ。不意に目が合ったと思ったら何故か彼女から目を逸らされてしまった。怒らせるほど待たせてしまったのだろうか。 よくは分からないが、とりあえず彼女のご飯を出してあげないといけないので、ポフィンケースから作っておいたポフィンを取り出し、皿の上に乗せる。すると彼女はすぐに食らい付いた。 よっぽどお腹を空かせていたのだろうか。あっという間に食べ終えてしまった。ちなみに彼女が食べたのは苦い味のポフィン。何が美味しいのか知らんが、昔彼女がさも美味そうに食べるのを見て少し貰ってみたところ、大変な思いをしたことがあったのを今でも覚えている。 あの頃はまだ若かったからな。年齢的にも精神的にも。全くもって認めたくないものだな、若さゆえの過ちというものは。 そして食べ終えた彼女は私を見てへっへっと息を漏らしていた。 「まだ食べ足りないのだったら予備があるが……食べたいのか?」 「がぅっ!!」 「分かった分かった。ほら」 再び皿にポフィンを置いてから、私自身も食べはじめることにした。 何の変哲もない安い食パン一枚にバターを塗っただけの粗末な朝食だが。 私は一応仕事はしているものの、私がしている職業というのは儲かる時と儲からない時の高低差が激しいのだ。それゆえに彼女にも少し貧しい思いをさせてしまっているかもしれない。私自身の我が儘で彼女一人をここに住まわせているのに、これでは申し訳ない。 だからそこは私の食費を少し減らし、我慢すればいいだけのことだ。そうするだけで彼女の毎日の食事は保障されるし、貧しくやせ細ることもない。 私なんかは別に水と一日一食さえあれば生きていける人間だから大丈夫。別に極端に痩せているわけでもないから彼女に覚られる心配もない。 「ご馳走様」 「わぅん」 私の話をしているだけでいつの間にか朝食を食べ終えてしまったようだ。私が食べたのと同時に彼女も二度目の朝食をたいらげてしまった。 「さて、朝ご飯も食べたことだし、出かけるとしよう」 「うぅ? くぉん…」 「大丈夫、リンも一緒に連れていくよ。昨日(?)言っただろう。お前と実験をすると」 「……ぐるぅ」 喉を鳴らして椅子から立ち上がった私の足に擦り寄る彼女。そんなに外で一緒にいれるのが嬉しいのだろうか。 確かに今までは戦いの時以外、ほとんど外に出して一緒に景色や町を見ることなんてなかったからな。彼女にとってこの実験は新鮮なものなのだろう。 「よし、行くぞ。リンは私の後ろに着いてきてくれ」 「がぅ!!」 お腹も膨れたからか、さらに元気な声をあげる彼女。今日に限らずいつも元気なことは元気だが。 それから最低限必要な物などをトレーナーだった頃使っていたポーチなどに詰め、家のありとあらゆる窓などの戸締まりをしっかりとしたのを確認してから、私は彼女と共に外へと踏み出した。 本日の天気は快晴。最近は予報からも聞くことがなかった雲ひとつない爽やかな青空が広がっている。気温も高いわけでもなく、かと言って低いわけでもない。つまりは過ごしやすい気温なのだ。 「……」 「……」 会話がない。 いや、当たり前のことだ。そもそも日常の会話が通じる相手じゃないからな。 どうしたものか。こういう時、少年ならどんな対応をとったのだろう。いや、彼ならまずこんな気まずいムードにさえならなかったのではないだろうか。 噂によれば少年はポケモン達に話かける時、必ず立ち止まり相手の目をしっかり見て話しかけていたとか。ならばそれを実践しなければ少年の心情を察することなどまず無理なことだ。 「リン」 「あぅん?」 私は思い立ったがすぐに立ち止まり、振り返ってリンを見る。すると、あまりにも身長差がありすぎるのでしゃがむことにした。 一方彼女はというと、急に立ち止まった私の足に少しぶつかってから、首を傾げてじっと私の目を見ていた。 赤い目の中に金色の瞳が輝いている。別に充血しているわけではないが、レントラーという種族はその目の色から子供に少し恐がられているという話を聞いたことがある。かのイーブイの進化系であるブラッキーと似たような感じかもしれないが、レントラーというのは目つきも鋭いので更に恐さに拍車をかけてしまっているのかもしれないな。 別段私は彼女の瞳を恐いと思ったことなど一回もないのだがな。勇ましく元気の良い彼女によく似合った色だと、少なくとも私は思っている。 「くぅん…?」 「あ……す、すまない。えっと…何を言おうとしていたのだっけな?」 「わぅん? わぅっ」 しっかりしてよ、と言っているかのように彼女は私の肩に手を置いてぽふっぽふっと軽く叩いた。何故か彼女は変なところで人間っぽい動きをする。 「すまないな。思い出したらまた話かけるよ」 「わぅんっ」 そう一声鳴いて私に笑顔を見せる彼女に少し心が脈打つ。こうして笑うと人間と何ら変わりないように見える。 ふぅ、と小さく息を漏らしてから再び私と彼女は歩き始める。そうだ、近くの公園などに行ってみるとしようか。 今日のような休みの日には今の私達と同じようにポケモンと一緒に散歩をしている人などが結構いるのを聞いたことがあるから、悪くはない案だろう。 そう思い立ったが吉だ。早速私は走って公園に向かうことにした。それに慌ててついて来る彼女。 しかし公園に着く頃には日頃の運動不足が祟ったのか、彼女に簡単に追い抜かれてしまった。私を見る彼女の顔が苦笑いしているように見えたのは恐らく気のせいではないだろう。 「はぁっはぁっ…見ていろ、リン…。そのうち、お前を…あっと言わせて…いや、あっと鳴かせてやるから…」 「くふっ…わぉん♪」 わ、笑われた。彼女に鼻で笑われてしまった。ポケモンとは言え異性に笑われるというのは何とも情けない気持ちになる。しばらくはふさぎ込んでしまいたくなるような感じだ。 そこで本当にふさぎ込んでしまわないのは、ある程度歳を経たことで忍耐がついたというところか。一応言っておくが私はまだ二十代後半だ。 「と、とにかく一度どこかに座ろう。疲れてしまった…」 そう彼女に言ってから近くにある椅子に腰掛けることにした。久しぶりに汗をかいて…あ、今日のストレッチでもかいていたな。 とりあえずこの実験を終えたら運動を習慣づけるようにするか。良ければ彼女も一緒に。 「ふぅ、何だろうな」 「がぅ?」 大体人が三人腰掛けられるような椅子に私と彼女は座っている。そして隣でお行儀よく座っていた彼女が私がそう言葉を漏らしたのに反応した。 「いやな…リンとあんな風に走ったのも、今みたいにこうして隣同士で座っているのも、何だか良いなと思ってな」 「………わん」 彼女も私の意見と同じようで、鳴き声や顔の表情でそれを読み取ることができた。 「なぁ、リン」 「?」 「リンが良ければだが、この実験が終わっても私と……」 その先は言えなかった。何故なら突如私達の目の前に一人の男性が現れたからだ。見た目からして私より少し年下ぐらいだろうか。彼が抱えている腕にはヨーギラスがいた。 「あ、すみません。良ければあなたのレントラーの隣に座らせてもらってもいいですか?」 「はい、構いませんが」 ありがとうございますと一言頭を下げてそう言うと、彼は椅子の端に腰掛けた。 彼の手の中のヨーギラスはじっと私とレントラーを交互に見遣っては何だか微笑んでいるようだった。 やけにその顔が可愛いらしくて、いつの間にか私の顔もつられて綻んでいた。 「あなたのレントラー、凄く綺麗ですね」 「はっ……あ、そうですか? あまりそういうのは気にしていなくて…」 「いえいえ、大事にされているポケモンは毛並みや顔つきでわかります。少し失礼しても?」 私は彼のペースに流され、つい「はい」と返事をしてしまった。了承を得ると彼はヨーギラスを頭の上に乗せてからじっと彼女の目を見つめた。彼女も彼女で彼の目を見つめ返していた。 「なるほど…。このレントラーはかなりあなたを信頼しているみたいですね。そして特別な感情をあなたに抱いているみたいだ……」 「特別な、感情…?」 「それに気づいてあげられるかはあなた自身です。おっと、そろそろ僕は帰りますね。何か一方的に話をしてすいませんでした」 「いえ…こちらこそありがとう」 互いにそう言葉を交わしてから、彼は再びヨーギラスを腕に抱える。そして私に背を向けて歩き出したかと思うと、顔だけをこちらに向けて私に言った。 「そのレントラーちゃん、大切にしてあげてくださいね」 彼のその問い掛けに私は言葉ではなく、手を振って答えた。それはもちろん言葉に出すまでもなかったからだ。 そして風のように現れて風のように去っていった彼の背中が見えなくなるまでずっと私達は椅子に座ったままだった。 「……私達も帰るか、リン」 「…がぅ」 少しだけ彼女の声に元気がなかったように思える。それは私にも同じことが言えるが、何かに落ち込んで元気がないわけではない。 先程彼が言っていたこと。あれが真実なら私はちゃんと彼女に主人として見てもらえているということだ。聞いた時は本当のことかと疑ってしまったが、彼女の反応を見るにどうやら間違いじゃないことが分かった。 気になるのは彼女が私に持っている特別な感情というやつだ。それは一体何なのだろうか。気づくか気づかないかは私自身と言っていたな。もしかしたらこの実験をやっていれば、それにも気づけるかもしれない。 「よし、リン。今日はなんかぎくしゃくしてしまったが、明日からは昔みたいにもっと自然に接し合おうな?」 「わ、わぅぅ? …がぅっ!!」 相変わらず言葉は分からないが、どうやら彼女もその気になってくれたようだ。 今日のところはとりあえず家に戻ってゆっくり休むとしよう。体の節々が痛いしな。 風呂から出たら彼女の足裏で肉球マッサージでもしてもらおうか。そんなことを考えながら私達は歩き出した。 それから家に帰ったのは色々とゆっくり歩いたり景色を眺めながらだったので、帰宅した時には既に夕日が落ち始めていた。 「うむ、やはり自分の家というのは安心出来るものだな」 「わぅっ」 家に入ってから誰に言うわけでもなくそう言ったのに対し、彼女は普通に返してくれた。それはそれで寂しさを感じないから有り難い。 そして帰る途中に考えていた、風呂を沸かすことを忘れずに私は早速行動し、風呂場の蛇口を捻り、熱いお湯を多量に、冷たい水を少量混ぜるようにして後は任せることにした。水の勢いから推測するに、20分か30分ぐらいで沸かさるだろう。それまでは今日のニュースあたりでも見て世の流れを知っておくとするか。 テレビのリモコンを手に取り、電源を入れる。すると少しテレビの映りが悪いことが気になった。 「リン、頼めるか?」 「がぅっ!!」 任せて、と言わんばかりに彼女はテレビに近づき両方の前足を乗せる。そして一瞬だけ電気を放出すると、途端にテレビの映りが良くなった。 有り得ない話に見えるが、意外とこれが効くのだ。初めて画面の映りが悪くなった時に困っていると、彼女が突然前足でぺしぺしと叩いただけで映りが良くなった。その時は単に叩いたことで治ったと思っていたのだが、実は違った。彼女は叩くその一発一発に微量の電気を送っていたのだ。そのことで、多少回線の電力の巡りが悪かったものに喝を入れたのだろう。一時的なものではあるが、私は多いに助かっている。これまでに幾度となく、彼女の放電(超微量)に助けられているのだから。しかも彼女の助けはテレビに限ったことでもない。そのことは話す機会があればその内することにしよう。とにもかくにも、もちろん彼女のそれでテレビが完全に治ったわけではない。先程も言ったように、これは一時的なものなのだ。応急処置程度に考えてくれていい。 しばらくはいつかテレビを買い替えるその日まで彼女の助けが必要になる。しかし頼ってばかりもいられないので、私は今回この実験に挑んだのだ。評価されれば次のための資金が得られる。だから私は今必死に頑張っているのだ。 見ていてくれよ、リン。必ず今回の実験を成功させてみせるからな。 そう心に誓い、私はテレビから足を離して近寄ってきた彼女の頭を撫でてあげた。 「いつもすまないな、リン」 「わぅぅん…くぅん…」 よほど私に撫でられるのが気持ちいいのか、彼女は悶えるように鳴き、自分の体と私の手をこすり合わせてきた。 私も私でそれを否定することなく、彼女のしたいがままに手を滑らせていた。 そしてそのまま、もう片方の手に持っていたリモコンでニュース番組に切り替えた。内容は人とポケモンの交際についてだった。しばらくそのニュースを見ていると、インタビューを受けている男性が映し出された。しかもその場所が先程私と彼女が訪れた公園であった。 質問に対し、インタビューを受けた男性は近々ポケモンと式を挙げるなどと答えた。 「ほぅ。この地域でも人とポケモンが結婚するようになったのか…」 「ぐる…ぐるぅ…」 私はそう呟き、彼女の喉を優しく弄りながら、気持ち良さそうに鳴いているのを見る。 …………。 少しの沈黙の後、私は不意に彼女から手を離した。すると寂しそうな表情で私を見つめ、鳴く彼女がいた。 「がぅ? くぉん…」 「すまないが、リン。お風呂の様子を見てきてくれないか?」 「わぅ……」 渋々ながらも了承してくれた彼女は相も変わらず、小さな足音で風呂場へと向かっていった。 ……少し考えてしまったのだ。 彼女が私に持っている特別な感情というものを。 もしも、それが私に対する愛情なのだとしたら……私は彼女にどう答えればいいのか。思い返せば昔から私と彼女は離れたことなど一度もなかった。たとえ戦いに負けたとしても、彼女を手持ちから外すことなど考えたこともなく、ずっと私の良きパートナーとして近くにいてほしい。そう思っていた。 彼女が私についてどう思っているかを幾度となく考えたことがある。しかし私に対して人と人が愛し合うような感情を持っているなどとは考えたこともなかった。精々、自らの主としてそれなりの忠誠心を持って接しているぐらいにしか思っていなかった。 本当に彼女が私に好意を抱いていたとしたら……。 私は今までに何度彼女の気持ちを踏みにじったか知れない。知らず知らずのうちに彼女の心を何度も傷つけてしまっていたか知れない。 途端に私は後悔と自責の念に追われてしまったのだった。公園で出会った彼から聞いた言葉、それに今ニュースで聞いた人とポケモンの交際。この二つを聞いていなければ私はここまで考えることはなかったであろう。 だが、もう一つ腑に落ちない点があった。それは私自身がどうしてここまで彼女のことについて悩んでいるのか。 最初は彼女が私にとって大切なパートナーであるからだと思っていた。しかしそれの他に私自身も彼女に対し、特別な感情を抱いているからではないか。そういう風に考えるようになった。 だけれど何度考えようとその答えは出ない。今でもそうだ。 分からない。 分からない。 分からない。 「がぅぅ? がぅっがぅっ!!」 「リン……」 頭の中で様々な思考を張り巡らしている間に彼女はいつの間にか私の傍に戻ってきていた。何食わぬ顔で。私に対して何も特別な感情など抱いてはいないような顔で。 その表情が私に向けられるだけで今は苦しくて、辛くて、私は彼女を拒絶したくなってしまう。 「すまない。一人にしてくれないか……」 「わぅぅ? がぅっ!!」 いつもは言うことを聞いてくれる彼女も、何故か今は拒絶した。私が悩んでいるのを察してくれたのか、その赤い目の中に輝く金色の瞳が私を心配そうに映し出していた。 そして私の服の袖を引っ張ってはぐるるっと喉を鳴らしている。 私が悩んでいるのは彼女が原因なのに、何故彼女は分かってくれないんだ。 そんな思いから私は彼女を乱暴に払いのけた。否、私としてはそんな風にするつもりはなかったはずなのだが、彼女にとっては私に拒絶されたように思えたらしく、今まであった瞳の輝きをふっと失い、体は小刻みに震え、しばらくの沈黙があった後、彼女は別の部屋へと走って行ってしまった。 「リ、リン……」 私は彼女を止められなかった。声をかけることが出来なかった。私にはその権利さえなくなってしまったからだ。 只その場に立ちつくして…。 時間は残酷にも過ぎていった。 私がしばらくして動けるようになったのは、辺りが真っ暗になり家の中で水が激しく流れる音だけが聞こえた時だった。 ---- 何をしていたのだろう、私は。 勝手に一人で考えこみ、彼女を傷つけ、呼び止めることも出来ずに。あれから私は考えるのを止め、拒絶された時の彼女の顔を思い出した私はすぐさま気づいた。 そう、私が彼女に抱いていた想いは愛情だった。彼女の今にも泣いてしまいそうな顔を見た時、私は心底嫌だと思った。彼女には笑っていてほしい。ずっとそう願っていた理由も愛情から来るものだと思えば納得がいく。 私はいつからか彼女の自身にはない魅力に惹かれていた。時には笑い、怒り、悲しみ、苦しみ、だけれど一緒に楽しく過ごしてきた中で、どうしようもなく彼女を愛してしまっていた。それに今まで気づかなかった私はとんでもない大馬鹿者だ。 私は何を考える必要があったのだろうか。こんなこと考えるまでもなく、人としてすぐ出せる当たり前の言葉だったのだ。それを無駄に考えて勝手に悩み、私と彼女の関係を悪くしてしまった自分に嫌気がさす。 「謝らなければ…」 自然と私の口からそう言葉が出た。 彼女は私に嫌われたと思っているはずだ。その誤解を解かなければいけない。むしろ逆なのだから。私が彼女を嫌う理由なんてどこにもない。 今ならはっきり言える自信がある。彼女に私の想いを。 「リン…?」 私が行った部屋は寝室。そこで物音がしたからだ。声を出してからさらにガサガサ物音がしていた。 音のする方向はベッドの下。つまりは彼女の寝床だ。覗いてみれば案の定彼女はいた。時折体をぴくぴく動かして。 「リン、おいで。さっきはすまなかった…」 「…ぐぅっ……ぐっ…」 彼女はこちらを見てくれない。当然と言えば当然か。私は彼女に酷いことをしたのだから。 許してもらえるとは正直思っていない。今までのことを思い返せば尚更だ。 だが、私のこの想いは伝えたい。そのあと彼女がどうするかは彼女自身が決めることであり、私には皆目見当がつかないが。 だけれど彼女が決めたことに私はどんなことであっても従いたいと思う。それが精一杯の謝罪の意を込めた私からの不器用な謝り方だ。 私はベッドを背もたれにして腰掛けるようにして床に座った。そしてあまり高くはない天井を見上げながら言った。 「そのままで良いから聞いてくれないか? 昔話みたいなものなんだがな…」 「……」 やはり彼女からの返答はなし。 だが私は構わずに話を続けることにした。 「昔と言ってもつい数十年前のことだ。ある一人のトレーナーが色々なポケモン達と共に旅をしていた。そのトレーナーの一番のパートナーは雌のコリンクだったようで、初めて譲り受けたポケモンだからか、そのトレーナーはコリンクを大層大切に育てた。親が子を育てるかのように。どんなに他の手持ちを増やそうとも、トレーナーは一度たりともコリンクを外すことはなかった。トレーナーにとって彼女は一番信頼できる大切な親友だったからだ」 「……くぅ…ん」 少しは話を聞いてくれているのか、ベッドの下から鼻の先だけがひょこっと顔を出してひくひく動いていた。 私は時折彼女の鼻が手に触れる感覚を感じながら、話を続けた。 「それが何年も続いたある日、成長したトレーナーは旅を終えて普通に生活することにした。その時、コリンクから進化に進化を重ねてレントラーにまでなった彼女と一緒に暮らすことを決めた。何でだと思う?」 「……」 「そのトレーナーは…彼はそのレントラーを誰よりも信頼し、深く愛していた。有り得ないくらいに、どうしようもなく……言葉では言い表せれないほどに」 次第に思う想いは、重く、彼の心の中に募るばかりだった、と。 その時、手に触れていた鼻がぴくっと大きく反応し、ついには彼女の顔が丸ごと出てきて、私をじっと見つめた。 彼女の目にはうっすらと涙が溜まっていて、瞳が滲んでいるように見えた。 「彼はそのことにさっきまで気づかずにいた大馬鹿者だ。愛しい人まで泣かせてしまった最低な人間だ。だけれど、彼が彼女を想う気持ちには恐らく誰も勝てないだろう……とまぁ、お話はここまでなんだけれど、どうだった……」 話を終えた私の体は突如倒れた。いや、倒された。彼女の手によって。天井が見えたと思いきや、ふっと彼女の顔が私の視界を覆う。 彼女の顔はいまだに泣き顔のままだ。だけどどこか悲しそうで、また嬉しそうでもあった。私は彼女の顔に左手を添えてやって頬のあたりに触れる。 「すまなかった、リン」 「…わぅ」 「今、言った通りだ。私の気持ちは昔から一つも変わっていない。それどころか私はお前以外、愛情という感情で好きになったことがない。いや、なれないんだ」 私は久方振りに情熱的なことを言ったような気がした。 頬を触れていた手を彼女の首に回し、もう片方の手を背中の辺りに置いて、胸の辺りに抱き寄せる。 こうすることで知ってほしかった。私の心を。彼女を想うだけでどれほど私が胸を高鳴らせているかを。 「リンが私をどう思ってくれているかは分からない。だけれど、私の気持ちは未来永劫変わることはないから。それだけは覚えておいてほしい」 「……」 「でも、もし…。お前が私を愛情で好いてくれているのなら、教えてほしい。言葉は通じなくとも、今の私にならお前の気持ちが分かるような気がするから。厚かましいかもしれないが、私達は昔から言葉ではなく互いを思う心で通じ合っているだろう…?」 そう言った時には彼女の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。必死で涙を止めようと私の胸に顔を擦り寄せているその行動が何とも愛おしく感じれたのだった。 そうやってしばらくは彼女のしたいようにさせてあげた。彼女が泣き止むのを待って私が頭を撫でていれば、やがては彼女の方から顔を上げてこちらを見た。 「それで、リン…? おさまったのなら聞きたいのだが……その、お前の答えを」 「わぅっ…」 彼女はどことなく恥ずかしそうで、ほんのりと頬が紅潮しているように見えた。 告白をする側とされる側というのは一体どちらの方が恥ずかしいのだろうと考えてみたりする。だが、すぐにやめた。今考えても何の意味もないからだ。 今の私にはそんなことよりも大切なことが今目の前で起きているのだから。 「…いや、答えが出ないなら今すぐにというわけではない……。リンにはじっくり考えてほしい。それでお前が出した結果なら私はどんなことでも受け入れる覚悟は出来ている」 「わぅぅ? …がぅっ!!」 一瞬、ほんの一瞬だが彼女の顔がニヤけたような気がした。気のせいだとは思ったのだが、それもつかの間。私の気のせいは確かなものへと変わったのだ。 彼女は突如私の口と自身の口を重ねてきたのだった。本当にいきなりのことだったので、私は反応することも出来ずに、彼女が口を離した後もぽーっとしていた。 それでも首を左右に振って意識をはっきりさせてから上半身だけを起こし、彼女に問う。 「リ、リン…? これが答え、か?」 「わぉん♪」 凄く機嫌が良さそうな声を出したところから察するに、答えはおそらくイエスと捉えていいのだろう。 とにかく良かった。ノーと答えられていたら、しばらく私は飯も食わずに丸三日は落ち込んでいただろうな。それほどまでに緊張していたと思ってほしい。 「ありがとう、リン」 「…わぅっ。きゅう…ん?」 口を離した後も依然として顔が赤くなってきている彼女。切なそうに鳴いてから、少し私から距離を取り、お座りの姿勢になる。それから体をもじもじさせ始めた。 そして何かを求めるような顔で、首を傾げながら、私の顔を覗き込むように見た。 「? どうしたんだ?」 「くぉん…」 切なそうな声音を変えず、私にじわじわと距離を詰める彼女の瞳がトロンとしている。 少しドキッとしたのもつかの間、彼女は私の股間に片足を乗せ、摩るように肉球で刺激を与えてきた。 「うっ…! リン、何を……むぐっ」 股間を弄るのを止めないまま彼女は不意に私の口を塞いだ。しかも先程の軽いキスなどではなく、舌を絡めて口内の唾液を舐め取るような深いキス。これが俗に言うディープキスであり、フレンチキスなのだろうか。 だが不思議と嫌な気分はしなかった。彼女としているからなのかは定かではないが、しばらくは彼女と舌を絡めて甘い時間を過ごしていた。ざらついた彼女の舌と獣と比べればかなり滑らかな人の舌が絡み付く度に激しさを増し、唾液は口の端から零れる。しかしそんなことも気にせずにひたすら私達は口で繋がっていた。 そしてしばらくしてから彼女は名残惜しそうにしながらも口を離す。その際に二人で混ざり合わせた唾液が糸を引いて、口の間に橋が出来ていた。 互いの息も荒く、私の股間はいつの間にか彼女の手によって、テントを張っているような形になっていた。キスのせいもあるが、私自身もかなり興奮してしまっているようで彼女を自然と欲してしまっていた。 「リン、今更だが…。いい、のか…?」 「…くぅん」 はっはっと息を漏らす彼女自身も私同様、興奮しているようで、先程からしきりに私の愚息を前足でぐにぐにと求めるように刺激してくる。 こういう時、男はどうすればいいのだろう。経験というものが一切ないので正直勝手が分からないのだ。それでもとりあえずは痛いばかりに膨張し続けている愚息を取り出すためにズボンやパンツを脱ぐことにした。すると、押さえ付けるものがなくなったことで私の愚息は天高く反り返る形となった。 それをまじまじと見る彼女の顔が何とも硬直している様子で、おそらく初めて見たであろう雄をしっかりと目に焼き付けていた。 「あぁ~…その、あまりじろじろ見られると恥ずかしいのだが……」 「わ、わぅっ?!」 頬を軽く爪で掻いて、目を逸らしながら彼女にそう伝える。 無意識にそうしていたのだろうか、彼女は私の声を聞くなり、焦るように鳴いた。その反応が今は妙に愛おしく感じることが出来たのはこの二人でいることで作られる雰囲気があるからだろうか。 私は知識などはそこそこあるものの、経験と言ったものは皆無なので勝手は分からない。だが、そこは知識で何とか補いやっていくこととしよう。 まず最初にやることは確かお互いに「慣らす」ことだったか。 「よ、よし…。リン、悪いがお尻をこちらに向けてもらえるか?」 「わぅっ…? …わぅん」 彼女はよく分からないと言った顔をしながらも、私の言うことに従ってお尻を私の顔の方へと向ける。すると目の前には彼女の二つの穴が毛に隠れながらもはっきり見えた。一つは黒い毛に覆われているが、鮮やかなピンク色に開閉を繰り返している蕾。もう一つの方も毛に隠れてしまってはいるが、くっきりと綺麗な形をしている縦筋が彼女の呼吸に呼応しており、ちらちらと薄紅色の肉が見え隠れしていて、何ともいやらしかった。 対する彼女の方も私と同じく、自身の目の前に据えている愚息がぴくぴくと震える度に鼻に何度も当たり、雄の匂いがその愚息を通して、嗅覚が敏感な彼女の鼻腔へと通っていく。 その匂いに頭がくらくらしながらも、彼女は愚息をじっと見つめてから恐る恐る舌を出してぺろりと一舐めした。 瞬間--私の体に電撃が走ったような気がした。腰が浮き、彼女の顔に愚息を押し付けるような形になってしまった。そのことに驚いた彼女は思わず 「きゃんっ!!」 と鳴いた。 不覚にもその声に興奮を覚えてしまった私はさらに愚息を大きくする。この時、私はもしかしたら少しSの気があるのかもしれないと思った。 一方彼女はと言うと、驚いたはしたものの、ますますその大きさを増す愚息に 目が離せないようで、もう一度ゆっくりと顔を近づけて今度はその口で愚息を頬張った。 「うぅっ…!」 とても上手とは言えないものだが、彼女は牙で私のものを傷つけないように注意しながら、ねっとりと絡み付くような舌づかいでじわじわと快楽を与えてくれる。 時折愚息に伝わるぴりぴりしたようなものはおそらく彼女から放たれている微量の電気かと思われる。下手をすれば焦げてしまうかもしれないが、そこは流石彼女と言うところか。調度良い具合の量で調節をしてくれて、愚息は電気が流れてくる度に震え、私の体にも少しだけ痺れるような感覚が伝わった。 要は電気風呂に入っているようなもの、と言えば分かってもらえるだろうか。入ったことのない人は一度は経験することを勧めておく。 さて、話がずれてしまったな。 私も彼女にやってもらってばかりではいけない。私からも彼女に快楽を与えて、一緒に気持ちよくなる必要がある。それが愛のあるセックスだ、と依然友人に教えてもらったことがある。 下半身に休み無しに伝わってくる彼女からの攻めに堪えながら、私は両手を彼女のお尻に置き、指で秘部を開いてみた。先程まで僅かに見えていた薄紅色の肉は横に広がりを見せ、とても淫らに濡れていた。 「きゃうぅ…」 彼女は恥ずかしいのか、口に愚息を含んだまま横目で真っ赤な顔で私のことを見ていた。普段は絶対に見せないような彼女の顔を見れるのは、彼女から唯一好意を抱かれている私だけだ。 正直こんなチャンスは滅多にないことだと思う。だったら私は彼女のいつもと違う顔をもっと見たい。私にしか見せてくれないその彼女の姿をもっと見たい。 そんな気持ちから私は広げた秘部の肉に口をつけ、キスをする。ぴくっと体を動かす彼女のお尻を手で押さえ、口をつけた状態を維持し、舌で膣肉を舐める。 「きゃうんっ!?」 今までにない程大きく声をあげた彼女の目は見開き、体は痙攣しているようにぶるぶると震えていた。 味を占めた私は彼女の秘部を全体に舐め回し、舌でぐにぐにと愛撫し、中まで舌を突き入れてから出す激しい抜き差しをループさせて、ひたすら彼女を攻めた。 「きゃうっ…あぅぅ……きゃうんっ!!」 絶え間無い私からの攻めに、愚息への攻撃を止め、嬌声をあげつづける彼女。一旦愛撫を止め、気づけば彼女の秘部は最初に見たよりもたっぷりと濡れて、ひくひくと小刻みに動いていた。濡れている理由は私の唾液もあるのだろうが、その他にも彼女自身が感じてくれているのが一番かと思う。息は絶え絶えで舌を出しては、はぁはぁと喘ぐのだった。 「かふっ……くふぅ…」 「リン?」 私が呼んでも反応しない。よほど秘部への愛撫が効いたのだろう。ぺたんと力が抜けて、顔はベッドに突っ伏すようになって、下半身のお尻だけが突き出すように私の眼前に向けられていた。秘部の上にある蕾もしきりに開閉を繰り返していた。 もう一度私は秘部に口をつけて、彼女の愛液を音を出して飲みこむ。少し酸っぱいような味のする愛液は癖になってしまいそうだった。それはもちろん彼女のだからだが。 「くっ…ぅん…」 「リン……そろそろ欲しいか?」 切なそうな声で鳴く彼女の顔は完全に快楽でとろけてしまっているようで、試しに私は意地悪っぽく聞いてみた。 すると彼女は無言で頷き、秘部をさらに私によく見えるように突き出し、さらに不慣れな手つきで秘部をくぱっと開いてみせた。その彼女の行動だけで限界まで膨らんだと思っていた愚息はその大きさを真の限界までと膨張した。 上体を起こし、彼女の腰に手を置き、開かれている秘部へと脈を打つ愚息を押し付ける。ぬるぬると滑る彼女の秘部の愛液を愚息に満遍なく塗りたくってから、ぐちゅっと音がして愚息は彼女の秘部へと進入した。 「ぎっ……はぁっ…!!」 「うぅっ…! リンっ…そんなに締め付けたら奥まで入らないぞ……」 「くふっ……ひぃっ…」 入れた瞬間、彼女は獣の呻き声をあげ 、ベッドのシーツを爪で引き裂いた。瞳には涙が溜まり、痛みを堪えているようだった。無理はさせたくないので彼女の中が私のものに慣れるまで、小さく腰を動かしてくぷくぷと秘部をじっくりと味わうことにする。これでも十分愚息は締め付けられ、彼女の膣肉が容赦なく扱き上げてくれるのだ。 「あぅぅ…はっはっ…」 「大丈夫かリン?」 「わぅん……」 力無い声ではあったが、尻尾を左右に振っているところを見るとそれなりに元気はまだ残っているよう。それから私はまたゆっくりと慣らしながら愚息を奥へと押し込んでいく。 「きゃぁん……」 「我慢はしないでくれよ…。痛かったら無理せずに言ってくれ」 「わぉぉん…」 瞳がトロンとしているのを見て、今のところは辛そうには見えない。このまま一気に行ってみるとしよう。 そう思った私はぐっと腰に力を入れて愚息を奥まで突き立てた。ぐちゅっと先程とはまた違う音が鳴り、彼女の体がのけ反った。 「がっ…! はぁっ…はふっ…!!」 「全部収まった…か。リンの中…凄く温かいな……」 「はっはっはっ……きゃうぅ…」 奥に到達したことで子宮口を強く突かれたようで少さな痛みに加え、膣の柔肉が全体に擦れ、下半身の力が抜けたようにお尻を下ろしたが、私がそれを持ち上げていた。そんな幾つもの事が重なり、彼女はしばらく息が整うのに時間がかかっていた。 だけれど私は 「すまない…私が、我慢出来そうにないっ……!!」 「ひゃうんっ!?」 抑えることのできない欲望が彼女の中を突く。彼女の淫らな姿をこれだけ見せられて理性を保っていられるはずがなかった。腰を強く掴み、乱暴に膣内を突く。 ぐちゅっぐちゅっ… ぬちゅっぬちゅっ… 今まで聞いたこともない音が部屋に響き渡り、同時に淫臭を漂わせていた。 「気持ち…いいぞっ…リン……」 「きゃんっ!! きゃいんっ!!」 「こんなに締め付けて……可愛いな…」 私はいつの間にか彼女の蕾に指を突っ込み、もう片方の手では彼女の陰核を摘んでは膣内の刺激を高め、快楽を分かち合っていた。 彼女は私からの刺激にひたすら喘ぎ、舌を出しては悦に浸っている。 「はっはっ……きゃぅん…っ」 「くぅっ……リンの中…良すぎて……もう限界だ…っ」 「ひゃうんっ…!! くぅんっ!!」 互いに息を荒げ、限界が近づく。 私は最後は彼女の顔を見ながらなどと思い、一度愚息を引き抜いてから彼女を即座に仰向けに寝かせてから、直ぐさま再び愚息を秘部へと突き入れた。 「きゃぉんっ!!」 「最後は……一緒に行くぞ…っ」 「く、くぅっ…ん…っ!!」 彼女の体に抱き着き、強く抱きしめては腰を打ち付け、膣内をひたすら力強く突く。ばちゅんっばちゅんっと音は次第に大きくなり、その分快楽も大きく、確かなものとして二人に供給されていた。 口が開きっ放しの彼女と舌を絡めながら突くのも気持ちよくて、つい夢中になる。私は何度も言ってしまうと効果が薄れる言葉を今だけは何度も彼女に伝える。 「リン…っ。好きだ…好きだ…っ!!」 「…私もっ…ご主人のこと大好きだよぉ……っ」 「えっ……リン?」 一瞬、彼女の声が…? いや、そんな訳ないか。行為による疲れが何かに聞こえただけかもしれない。本来ポケモンは人とは喋ることが出来ないのだから。 だけれど今は… 「…俺も……大好きだ…リンのこと…」 「……きゃうっ!! くぉん…っ」 そう、だよな。 やはりさっきのは空耳だったのだろうか。だがそれにしたって彼女の声が、私への気持ちがほんの一瞬だけでも聞けただけでも十分だ。 たとえそれが幻聴だったとしても。 「うっく……もう、限界だ…中に…リンの中に出すぞ……っ」 「くぅ…っ! わぅう…んっ!!」 彼女の了承を(おそらく)得て、私は一際大きく彼女の奥を突き、子宮内へと精を放った。 「きゃうぅぅんっ!!」 「うあぁぁ…っ」 私達は永劫の契りを交わした。 もう二度と迷わない。私は彼女と夫婦となり、一緒にこれからもずっと暮らしていこう。たとえ誰になんと言われようとも、これは私と彼女が決めたことだ。 「すまなかった、リン。少し激しくやり過ぎてしまった…」 「わぅぅん…」 彼女は私に対して愛おしそうに鳴いてから、舌で私の頬を舐めた。私もそれに応えるように彼女の口にキスをした。 「あっ……」 「がぅっ?」 「お風呂のお湯……出しっ放し…」 「……」 ---- 後日、あれから色々私は考えたのだが、少年に関する文を書くのを止めることにした。 答えはもしかしたらこうではないか、と言うのは実は既に公園に散歩に行っている時点で考えていた。 確かではないが、多分少年は…… バンギラスを…ポケモンである彼女を愛してしまったのだろう、と。 私が彼女を、リンをどうしようもなく深く愛してしまったのと同じように…。 もし私の行き着いたこの答えが正しいのであればこのことは彼のために触れない方がいいのだろうと私は考える。 誰にだって、どこの誰にも干渉されたくない自分の場所は存在するのだから。 かくゆう私も、彼女との時間は誰にも邪魔されたくない。変な言い方をするが私の時間を邪魔していいのは彼女だけだ。もちろん彼女の時間を邪魔していいのも私だけ。愛し合う権利と同じように存在する。 「わぉん♪」 「あぁ、すまない。今行くよ、リン」 話は変わるが、あの日から日課になっている彼女との散歩(兼、私の運動不足解消)。最初はやはりぎくしゃくしていたものの、最近は慣れてきて彼女とも散歩中でもよく会話をし、彼女の反応を見、彼女が拾ってくれたものを貰い、絆をさらに深めている。 そういえばあの日以降あの青年に会っていないな。たまたまこの地方に旅行にでもやってきていたのだろうか。だとしたらこの地方にはもういないのかもしれない。だが、もう一度会う機会があればちゃんと礼を言わなければいけない。 直接ではないにしろ、私と彼女の距離を縮めてくれたのは彼のおかげと言えるのだから。彼のあの一言がなければ、私達は多分今みたいな生活は送れていなかっただろう。だからこそしっかりと礼を言いたかったのだがな。 まぁ、生きていればそのうち会えることもあるだろう。礼はその時に言えば良い。 「くぅん」 「ん? どうした、リン」 リンのほっぺが赤くなってる! リンは嬉しくて、照れちゃってる! わ! リンがいきなり抱き着いてきた! そうだ。 次の文は、何故人はポケモンに惹かれるのかをテーマにしてみるとしよう。 ---- あとがき 今回のお話は久しぶりにソウルシルバーをやっていた時に偶然起きた出来事を勝手に想像して作ってみましたが、いかがでしたでしょうか? 最後のリンの行動は、ソウルシルバープレイ中に私の手持ちのバンギラス(ヨモギ)が実際にこの順番でやってきたものです。 これなんてフラグ?などと考え出したら小説にしたくて、つい書いてしまいました。 最後になりますが、実際に私のポケモンの成績は平凡です。対人戦でも勝率は4割弱です。お話の都合上、そこは大目に見てください。 読んでいただきありがとうございました。 ---- #pcomment