Writer:[[&fervor>&fervor]] 別所で公開した"砂に霞む「異常」"のリメイク作です。盗作じゃないのでご安心を。 &color(red){*官能小説です。そういった表現がいくつも含まれておりますので、お気をつけ下さい。}; &color(red){*また、この作品は};&color(white){自慰};&color(red){を含んでおります。駄目な人はお帰りください。}; ---- 太陽が砂に霞む。青いはずの空も砂に埋もれる。白い雲も砂に紛れる。見渡す限り、どこまでも砂、砂、砂。果てはあるはず、とはいえ。今の私ではそこまで行くのに一体何日かかるのか。 砂塵が絶えることなく舞い上がるこの砂漠で私は生まれた。生きていくだけでも大変なこの環境に私は生まれた。進化するまでの間は、私だけでは到底生きていくことの出来ないこの場所に。 だから私は群れの皆と共に巣穴に隠れ、そのすり鉢状の、いわゆる蟻地獄に落ちてくる獲物を捕らえて生きていく。それが本来の私の生き方、のはずだった。 いつかは進化して羽を手に入れ、やがては皆と一緒に砂漠を飛び回って、皆と笑い合いながら、また新たな場所で生きていく、はずだった。 ――なのに。 何匹ものポケモンが、一匹のポケモンを囲んでいる。真ん中の一匹が私で、他は群れのポケモン達だ。隣には再び砂に埋もれかけている、私たちの作った罠。 小さなものは皆それぞれの巣穴だけど、この大きなものは皆で作り上げた、大きな獲物を捕食するための立派な仕掛け。その中には何も掛かっていない。 作ったところで掛かるかどうかは分からないのが罠というものだ。けど、今日は本当にあと少しのところで捕まえられそうだったのに。 私たちの誰かの姿を見たんだろうか、あるいは本能的に危ないと察知したのだろうか、擂り鉢の端に足を一歩踏み入れた瞬間、その獲物は別方向へと走り去ってしまったのだ。 そして彼らのイライラが、いつも通り私に向けられていた。慣れっことはいえ、やっぱり辛いものは辛い。強靱な顎を噛み締めつつ、私は彼らの、彼女の言葉を待った。 「また逃がした……っ! あんたのせいよ! どうしてくれんの?!」 群れの仲間の目線は一斉に私に集中する。もう獲物の姿は砂嵐の奥へと消えて行ってしまった。日はいつの間にか地平線と接するほどに傾いている。結局今日も獲物は捕らえられなかった。 私のせいじゃない、私のせいじゃないのに。そうやって誰かしらに救いを求めても、私に救いの手を差し伸べてくれる仲間はいない。目線はあからさまに逸らされている。 「一体あんたのせいでどれだけ私たちの群れが苦労してるか分かる?! ……ほんと、気持ち悪いのよっ!」 群れを取り仕切る一匹。雌にもかかわらず皆を引っ張っていくだけの力を持っている、強い奴だ。そんな奴に、ずっと前から私は目の敵にされてきた。だから今更何を言われようとも気にならない。 私は何も悪くないんだ。ただ、私は運が悪かっただけ。生まれたときからこの運命は決まっていたんだから。だから、どうしようもない。 もう慣れた。ずっとだ。元々友達なんて寄りついてくれなかった私。とくにここ最近、狩りを始める年齢になってからは誰からも邪魔者扱いされ続けている。 「……何とか言いなさいよ!!」 渾身の「すてみタックル」。彼女の苛立ちは頂点に達している。何度も何度も、気の済むまで私に身体をぶつけてくる。その度に私の身体は砂の上を転がって、口の中にも砂が入り込んできて。 群れの皆も止めようとはしない。もちろん彼女が怖いからという理由もあるかもしれない。けれどそれ以上に、きっと皆も少なからず私に侮蔑の意を抱いているはず。 いつもならこれで終わっていた。後はもう一度獲物を捕らえるまで私は待機。皆が獲物を食した後のおこぼれを頂いて終わり。結局はぎりぎり群れの一員として迎えられていた、のに。 今日は違った。昨日は一匹も獲物が捕れず、今日もそうなりそうだと分かった途端に皆の怒りは爆発した。散々溜まりに溜まっていたものが、皆の口から次々に溢れる。 お前のせいだ、お前さえいなければ、あんたがこの群れに生まれてくるから、さっさとどこかに消えてしまえ――。 言葉と暴力の矛先は全部私。失敗したのが私じゃなくても、逃がしたのが私じゃなくても関係ない。彼らにとっては、私という存在がお荷物なのだから。 身体を横に倒されて、砂までかけられて、上から叩かれて、あるいは体当たりで吹き飛ばされて、傷つけられて。 反撃も許されず、群れの皆に攻撃された私は動くことさえ出来なくなっていた。日の沈みかけた砂漠は急激に気温が下がってきている。砂は未だに焼けるように熱いというのに。 もしもこのまま倒れていたら、疲労と寒さとで間違いなく明日までは保たないだろう。駄目だ、早くどこかに住処を見つけないと。 そんな私には目もくれず、砂塵の霞の中へと離れていく群れの皆。オレンジ色は砂の黄土色と見事に混ざって溶ける。そう、こうやって身を隠して獲物を捕らえるのが私たち。いや、「彼ら」たち。 「今日であんたとはお別れするわ。一匹でやっていく事ね、『汚らわしい色の』ナックラーさん?」 声だけが残った。完全に姿は見えなくなった。砂しかないその場所に、私はひとりぼっち。結局私は最後まで認めてもらえなかった。誰にも。親にだって。 生まれてくる事が間違っていたのかな。それとも、生き方を間違えたのかな。どちらにせよ、私にとっては辛い選択しかなかったのかもしれない。 此の世に存在を得たそのときからずっと。私が選べるのは、辛い道のりだけだった。一つ一つの道全てが、到底辿れないような難路ばかり。ならいっそ、生まれてこなければ良かったんじゃないか。 ――生まれて来ちゃ、駄目だったのかな。 宙に向かってそう問いかけてみても、何の返事も帰ってこない。私はたった一匹だから。寂しく、孤独に、切ない一生を送るのが&ruby(さだめ){運命};なんだろうか。 だとしたら私は神様とやらを恨むべきなのか。こんな姿で、こんな場所に、こんな風に私を生まれさせた張本人に。 ――私だって、好きでこんな姿で生まれてきた訳じゃ、ないのに。 「青い」身体が急に重くなる。もう動かせない。節々が痛い。お腹が空いた。のども渇いた。地面が熱い。身体は急激に冷えていく。辺りが暗くなる。全てが私を見放していく。 もう、私を助けてくれる仲間はいない。群れから見放された私に、この状況を打破することなんか出来ない。待っているのは、ただただ一つの結果のみ。 死にたくはなかった。こんな状況でも、死ぬことだけは嫌だった。惨めに生きていくことも、辛く生きていくことも嫌だったけど、絶対に死ぬもんか、と今まで生きてきた、けど。 ここに来て思う。死んだところで誰にも迷惑をかける訳じゃない。寧ろ皆のためになるんだ。それならいっそ、この道を選んでみるのも悪くないんじゃないか。 私自身も楽になれる。逃げることだと言われればそれまでだ。だけど、逃げたって良いじゃない。こんな気持ちから解放してくれるのなら、死だって受け入れられそうだ。 一筋の涙が零れる。不思議と心は落ち着いていた、つもりだったのに。何が原因かは分からないけれど、とにかく涙が砂に染み渡って、あっという間に乾いていったのは確かだった。 その涙を感じた瞬間、私の心の中の何かが溶けて、全てが涙になって溢れてきた。堪えきれない涙を、砂が淡々と吸い取っては乾かしていく。 不思議と声は上がらなかった。すすり泣き、と言うわけでもない。涙だけが止まらなかった。心は穏やかで、平坦で、静かすぎる位なのに。 私自身も自分の心が分からなくなっていた。悲しい? 寂しい? 辛い? 苦しい? 悔しい? 怖い? いや、どれも違う。どれでもないけど、深い深い、暗い暗い気持ちだ。 そんな感情にどこか酔いしれていると、ふっと気が遠くなった。砂の舞う音が小さくなる。夕日の光が届かなくなる。静寂と闇が、私の意識をかき消していく。 ――どうして私は、皆と違うの? ---- 砂漠とは明らかに違う、堅く、冷たい地面。極寒、まではいかないけれども凛とした空気。呼気に混じる砂粒も感じられない。身体に吹き付ける砂嵐の感触もない。 一体何があったんだろう。皆と一緒に狩りに出かけて、捨てられて、そのまま砂漠の中で動けなくなって……それからの記憶がない。 ひょっとしたら自分でここまで進んできたんだろうか。いや、そもそも自分は動けなかったはずじゃないか。意識もないままに動けるだけの体力はなかった。 とすれば一体どうして今自分はここにいるんだろう。この砂漠の中で、この厳しい環境の中で、ひょっとしたら誰かが助けてくれたのか。 ゆっくりと目を開けると、そこにはごつごつとした岩肌と、明るい炎が灯ったオレンジ色の物体が。その質感から察すると、どうやら生き物の身体らしい。 「……起きたか」 その炎がくるりと回転して、今度はクリーム色のお腹とオレンジ色の身体が見える。顔を少々上げてみると、そこには遠い昔に見たことがあるような顔が。 そうだ、母親と一緒に一度だけ砂漠を出たときだ。確か……ヒトカゲ、リザード、リザードン。そんな名前のポケモン達の群れだった。 そして今私の目の前にいるこのポケモンには頭部に出っ張りがある。たしかこのポケモンはリザード、と言う種族……のはずだ。何か違和感が残りはする、けれど。 身体を起こして足で立ってみる。前足も後ろ足もややふらふらしている。これじゃあ当分外には出られそうにない。動くのはぐるっと部屋を見渡す程度にしておいた。 木の実の山、砂で作った寝床、そして木で出来た、見慣れない謎の物体。それが幾つも丁寧に並べられている。何かに使うのだろうか。 「とりあえずこれでも食っておけ。身体が楽になる」 一周して再びその場に座り込んだ私の目の前に、黄色い木の実が差し出された。群れの数匹が食べていたのを見たことがある。オボンの実、だったような。 無造作に差し出されたその木の実を私はしばらくの間見つめていた。このポケモンを信じても良いのだろうか。たとえばこれがもしも眠気を誘うような木の実だとしたら。 食べられるかもしれないし、あるいはもっとひどいことになるのかもしれない。けど本当に助けてくれるつもりなのかもしれないし……。 「安心しろ、毒なんて入れてない」 私があれこれと心配をしているのを鋭く見破ったのか、彼はそう一言付け加えた。未だに其の手は私の目の前に差し出されたままだ。 確かに変な匂いもしないし、そもそも私を食べる気ならもっと前にやっているはずだ。信用しても大丈夫なんじゃないか。 差し出された木の実を口で咥えて受け取る。顔を上に向けて口の中へ木の実を転がして、自慢の顎で一気にかみ砕く。溢れる果汁が乾いた口内に染み渡る。 甘酸っぱいけれども、どこかに渋みと苦みが残る味。悪くない、寧ろ熟していてとてもおいしい。さらに二、三度ガリガリとかみ砕いてから、全てを喉の奥に流し込んだ。 その様子を見届けたリザードは、私の目の前からすっと立ち上がって離れていく。向かった先はさっきの謎の物体の所だ。持てるだけ抱え込んでいるのが見える。 私のことは意にも介さない様子。一応助けてくれた……んだろうか。その割には特に何も構ってもらえてないし、まず何一つ状況が分からない。 「あ、あの、あなたは? どうして私を……それに」 「どうせ群れに追い出されたんだろう? ここに住むと良い。俺以外他には誰にも住んでないし、この洞窟はそれなりに広い。好きなところに寝床を作っておけ」 私の質問を遮って、彼はさくさくと物事を進めていく。それだけ言い残して本当に洞窟を出て行くつもりみたいだ。幾ら何でも酷すぎやしないか。助けてもらった身とはいえ。 とにかく引き留めないと。聞けることは今のうちに聞いておこう。このリザードが次にいつ帰ってくるかも分からないし、分からないことも多すぎる。 「ま、待って下さい、まずここはどこなんですか?」 ぴたり、と足を止めて振り向くリザード。若干目が怖い。たぶん彼はそんなに睨んでいるつもりはないんだろうけど、それでも初対面だとちょっと恐縮してしまう。 「お前が倒れてた砂漠の一角にある洞窟だ。入り口をほとんど塞いであるから、誰にも気づかれることは無いだろうけどな」 確かに彼が出て行こうとしている方向からもあんまり光が漏れてこない。数ある隙間から細々と光が漏れ込んできてはいるものの、大きく開いた場所が見当たらない。 私もそれなりに砂漠を回ったつもりだったけれど、こんな場所があったなんて驚きだ。岩の出っ張りがある場所は確かにあったけど、あのどこかに入り口があったのか。 「えっと、それから……どうして私を助けてくれたんですか? それに、群れに追い出されたってなんで……」 助けてくれたこと自体にも疑問はあった。群れ以外のポケモンを助けるなんて、この砂漠ではなかなか考えづらい。というのも、大きなオアシスが全くないからだ。 ここから遠く離れた砂漠では、大きなオアシスもあって、多少の植物もあって、こんなに殺伐とした生活を送らなくても良いらしい、けれど。 この砂漠で暮らす以上は、自分のことだけで精一杯になることが多い。私が捨てられたのも、邪魔になるから、と言う理由だ。生きる為には仕方なかった、のかもしれない。 ましてや彼は私みたいに砂漠で暮らす為の身体をしていない。きっと相当な苦労があるはずだ。それなのに彼は私をここまで連れてきてくれた。 私が群れを追い出されたところを見ていたのならなおさらだ。お荷物になりそうなポケモンを、好き好んで助けるなんて。どうも私には信じられなかった。 「それくらい分かるさ。お前が俺と同じだったからな。だから助けた、連れてきた。それだけだ」 何だか寂しそうな表情を一瞬浮かべるリザード。ほんの一瞬だったけど、それがとても印象に残った。さっきまでの彼からは想像も付かない表情。 彼も昔に何かあったのだろうか。それに、私と同じ、とはどういうことなのか。群れから捨てられたことを言っているのか、それなら辻褄は合う、けれど。 どうも違和感が残る。何だろう、何かが違う。昔の記憶と比べて、どこかが決定的に違うのに。……私と、同じ? 「同じ、ってもしかして……」 「じゃあな。そのうち戻る、好きにしててくれ」 私の質問にもそれ以上応じようとはせず、彼はすたすたと僅かな光の差す方へ歩いて行ってしまった。それを追いかけるだけの元気もないし、それ以上止められそうにもなかった。 けど何となく分かった。私の記憶の中のリザードと、今目の前にいたリザードの違い。私よりも分かりにくい違いだった所為で、気づくのが遅れたけれど。 ――彼も私と同じ「生まれ」なんだ。 そう思うと、何だか少し嬉しかった。群れの仲間みたいな、単なる繋がりじゃない。本当の仲間を得られたような気がしたから、かもしれない。 今までずっと独りだった。でももう違う。私の事を馬鹿にしたりしない、私の事を分かってくれる、そんな仲間に出会えたんだから。 一応身体の方は満身創痍。寝て体力を付けておこうと思ったのは良いけれども、仲間を見つけた嬉しさでなかなか寝付けない。 これから彼と一緒に、馬鹿にされない生活が始まると思うと。理解してくれる相手がすぐ側にいてくれるんだと思うと。全く寝られるような落ち着きは得られなかった。 そわそわしているうちにまた洞窟の中に足音が響く。いつの間にか大分時間が過ぎていたみたいだ。帰ってきたのはさっきのリザード。 「リザードさん、ありがとうございました」 両手一杯に謎の道具を抱えて帰ってきた彼に、私はさっき言えなかった感謝の言葉を伝えた。彼は、というと面倒くさそうな顔を見せて、私から目を背けてしまった。 「礼なんて要らない。お前が『その』生まれじゃなかったら助けてない」 彼は洞窟の奥、その道具が一杯に並べられていたところに行くと、抱えていたものを全部降ろして並べ始めた。こういう所は案外丁寧なのか。 その間も何かを話そうと思ったけれど、思いとは裏腹に言葉が出ない。気まずい空気と沈黙が続く。コトコトと次々にそれが並べられていく音だけが響いていた。 「あの、助けてもらったのは事実ですし……私に出来ることがあったら、何でもお手伝いさせて下さい。精一杯やって」 「別にそんなのを求めてる訳じゃないんだ。大人しく住んでてくれ」 せっかくの私の好意だったのに。彼はどうやらとことんまで私に無愛想を貫き通すつもりらしい。けど私だって引き下がれない。このまま頼ってばかりじゃ駄目だ、役に立ちたい。 今まで誰からも馬鹿にされていた分、私だって役に立つんだって証明したい。そのためには自分だけで出来ることを増やさなければ。 「じゃあ、勝手に付いていきます」 「……好きにしろ」 ---- 今日も水汲みと木の実探しを終わらせて帰ってきた。この砂漠は本当にオアシスが小さくて、木の実が見つからないことの方が多い。今日も例外じゃなかった。 木の実の山も大分少なくなってきた。この前は20個ぐらいあったのに、今は数えたら僅かに6個だ。このままじゃそのうち全部無くなる日も近い。 もう少し遠くに行くことが出来たら、砂漠の外で木の実をとったりも出来そうなのに。私の小さな身体ではどう考えても移動に不向きだ。 結局木で出来た水筒に水を汲むだけで帰ってきてしまった。ふたを閉めるのは彼の役目だし、私が行ったところで彼の負担が水筒二、三個分減るだけだけど。 それでも私にやれるだけの精一杯をやっている。彼も別に私を咎めたりはしてこないし、少しでも役に立ってるんだ、と信じることにしている。 水筒を作ったりするのは砂漠の外の森にいるポケモン達、らしい。もし私が飛べたら、水筒を増やしたり、木の実をとってきたり、色々出来るだろう。 飛びたい、という思いも日に日に強くなっていた。いつになったら進化できるのだろう、と幻想を膨らませつつ、彼が水筒を整頓するのを眺めていたら。 自分の身体が輝いている。急に身体の芯が、中がかあっと熱くなる。何かの力が、身体の外へ出ようと暴れているのが分かる。 「な、なに、これ……」 痛みはない。ただただ不思議な感覚だ。例えるなら、どこかにふわふわと浮かんでいる感覚。そしてお腹の中に熱いものを流し込んだ感覚。 ――この感覚はひょっとして。いや、間違いない。やっと、やっとこの時が来たんだ。 「進化、だな」 一層輝きは強くなる。自分の身体から発せられた光で、周りが全く見えなくなる。白いベールに包まれた状態で、何かが身体の外へと張り出していく。 身体の中の全てがはじけ飛んで、自分を包んでいた光も一気に拡散する。きらきらと舞い落ちるその光が洞窟の中を明るく照らしていた。 「これで見えるか?」 彼は水筒の一個を手に取ると、地面にあった窪みに流し込んだ。そして彼の尻尾の炎をその水面に近づけて私を手招きした。その水面を覗いてみる。 ちらりと見えるのは羽だろう。動かした感覚では四枚。群れから巣立っていったかつての仲間と一緒だ。長い尻尾もしっかり付いている。 そして何より特徴的なのは、目の周りのカバーだ。これで飛ぶときも砂埃を気にしなくて良いらしい。若干景色が色づいて見えるのもこれの所為だろう。 足は随分と変わった形だ。細い四本の足。けれど十分自分の身体を支えられる。ナックラーの頃とはどこもかしこも大違いだ。まるで自分の身体ではないみたいに。 ただやはり、かつて見たあの姿とは違う。夕焼け色に染まったカバーと羽。やっぱり私はそういう生まれなんだ、と再確認させられる。 「良かったな、これでお前も『ビブラーバ』、か」 彼はぱちぱちと拍手を送ってくれた。最初に会ったときと比べれば、随分と彼も丸くなった気がする。微かに笑う姿も時折見せるようになった。 けれどもまだ、私は一度も名前を聞いたことがない。そういえば聞きそびれていたし、いつの間にかそれが当たり前になっていたけれど。 「あの、私、ゼルア、って言うんですけど。……そう呼んでほしい、です」 「……そういえば名前を聞いてなかったな。俺はドラク。呼び捨てで良い。よろしくな、ゼルア」 こちらこそ、と返して右の前足を差し出す。その足をドラクは手で握り返してくれた。そういえばドラクに触ったことも無かった気がする。 何でだろうか、そう思った瞬間、少し胸がざわついた。ドラクの顔をじっと見つめることがどうしても出来なくて、目を逸らしてしまった。 「……さあ、今日は寝るぞ。木の実の残りも少ないし、悪いけど明日の朝まで飯は我慢してくれ」 こくり、と頷いて、私は足早に自分の寝床へと向かった。ドラクの寝床とは大分離れているから、夜にもなると真っ暗に近い。 辛うじて月明かりが差し込んでくるぐらいで、目が慣れるまでは本当に何も見えない。それでも暮らしていれば慣れるもので、特に躓くこともなく砂を敷き詰めた場所まで辿り着いた。 ドラクの姿は当然見えないし、ほとんど区切られているから多少の声も届かない。叫ばない限りは聞こえることもない、はずだ。 寝ようと思っても、どうも頭からドラクのことが離れない。彼とこうして生活を共にして以来、私は段々と彼のことを考えることが多くなっていた。 彼の態度も随分変わった。出会った最初はぶっきらぼうだったけど、今は違う。「よろしくな」の一言が、私にはとても嬉しかった。 「ドラクも私の事……少しは認めてくれてる、のかな」 ドラク。今までずっと気になっていたけれど、聞くことが出来なかった彼の名前。何度も聞こうとはしたけれど、言い出すタイミングが掴めなくて聞けずに終わっていた。 そして今日、ようやくここまでこぎ着けた。ずっと遠くだった彼が、幾分か近づいたような気がして。間に隔たっていた壁が、幾つか崩れ去った気がして。 ドラクを見ていると、私の心に何かもやもやしたものが生まれる。最初は好きだとか、愛してるだとか言う感情とはほど遠い、と思っていた。 きっと彼に対する感謝の気持ちが、なかなか素直に切り出せなくて溜まっているだけなんだと、そう思っていたけれど。今はそうじゃない。 紛れもなく恋だった。彼のことを考えるだけで胸が、頭がいっぱいになる。かっこよくて、強くて、物知りで、無愛想に見えて優しくて――。 そんな彼を思い浮かべたそのとき、ふっと頭にとある考えが浮かんだ。本能から来るものなんだろうか、それは分からないけれど。 身体が熱い。この熱を、押さえきれないこの欲望を吐き出してしまいたい。分からないけれど、とにかく我慢が出来ない。 「……ドラクにはばれない、よね」 たまたま寝床の近くにあった、丸みを帯びた出っ張りの付いた、股の下に置けるほどの大きさの岩。この高さならぴったりだ。 やったこともないし、群れの中の話題をちらっと耳にしただけだけど。やってみるのも悪くはない。というより、本能がやれと叫んでいる。 ドラクのことがまだ怖くて、最初に寝床を決めるときは離れたところにしてしまった。それを今では後悔していたのだが。 今はそれに感謝するしかない。ここなら何をやっても、少しくらいなら分からないだろう。大きな声なんて出すはずもない。 「んっ……あ……」 冷たい岩の感触が、お腹側にある割れ目をなぞる。彼の姿を思い浮かべていただけだというのに、既にその割れ目はべとべとに湿っていた。 くちゅ、と淫猥な水温が響く。岩の出っ張りが割れ目を掻き分けて内部にほんの少し押し入り、絶妙な摩擦で敏感な内壁を撫でてきた。 そのまま身体を前後に揺すってみる。そのざらざらが前へ、後ろへ。少し左右にずれると、今度は外側をくに、とこねくり回してくれる。 初めての刺激。けれどもとても気持ちいい。口で荒く息を吐く。口元から涎がいつの間にか垂れていた。こんなにも夢中になれるものなのか。 だんだんと頭がぼんやりしてくる。ドラクの色んな姿が目の前に浮かぶ。快感に酔いしれながら、私は一心不乱に身体を揺すっていた。 「あ……やぁっ……ど、らくっ……っあ」 ドラクも私の事を優しく抱き締めてくれる。ドラクのクリーム色のお腹の下の方に、一本のピンク色の肉棒が。ドラクは恥ずかしそうな表情で私を見つめていて――。 訳が分からない。ドラクのそんな姿を見たことはないし、私は雄と何の経験もしたことは無い。けれどもなぜだか鮮明に脳裏に過ぎるその姿。 私を抱いて、ドラクは私の秘所にその雄を沈めていく。くちゅり、と粘りけのある音が響く。お互いに深く口づけを交わして、私の前足をドラクが握って。 「だめっ……もう……なんかっ……くるっ……!!」 滑りはますます良くなっていて。自分の出した粘液で岩はべとべとみたいだ。お腹にもそのべとべとは付いていて、岩に擦りつけるとまるでお腹を撫でられているかのような感覚が。 ドラクが私を抱いて撫でてくれる姿と重なって。ドラクが私の中に入ってくる感覚と重なって。私に限界を超えた快感が押し寄せてきた。 「どらくっ……やあぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!」 ぷしゅっ、と盛大に液体が吐き出される。割れ目から止めどなく溢れるそれは岩を伝って地面にちょっとした水たまりを作った。濃厚な匂いがこの寝床中に充満している。 若干の罪悪感が頭の片隅にあった。いくら頭の中とは言え、ドラクを穢してしまったのではないだろうか。けれどそんな思いも快感の余韻で薄れて消えていく。 「好きだよ……どらく……」 どばっと押し寄せる疲労と眠気。進化というのは意外と体力を使うのかも知れない。もうほとんど動ける気もしなかった。砂の上に寝そべるのが精一杯だ。 液体がぽたぽたと零れている秘所も、岩の側に出来た水たまりも、どうこうしようとは思わなかった。気を失うようにして、私はすっと夢の中へ旅立っていった。 ---- 「ちょ、ちょっと待ってくれ、ゼルア……」 地を滑るような風に舞い上がる砂。その間にふらりと浮かび上がる炎は、ぜーはーぜーはーという息遣いに合わせて上下している。 いつもなら高く上げられているその尾は、今にも地面を擦りそうなほど低い。もうさほど気力もないのだろう、灯った炎も若干小さいようだ。 その少し先をくるくると旋回する私。ナックラーの頃からずっと、進化したらどうなるのだろうと考えてみてはいたものの。これは想像以上に快適だ。 砂漠の中を平気で飛び回れる羽と、飛んでいる最中も砂埃から目を守ってくれるカバー。進化してから、生活がまるで一転してしまった。 これまでは必死に地面を歩いたり、あるいは地面の中を潜って移動していたけれど。今はそれよりも遙かに早く、空を飛んで移動出来る。 ナックラーの時は歩く速さが違いすぎて、ドラクをしょっちゅう待たせたりもしたのだけれど。今は立場がすっかり逆転してしまった。 今日もドラクをあっという間に置き去りにして、オアシスの方角へ進む。ただ、水筒は大した数を持てないから、その辺りはドラクに任せっきりではあるのだけれど。 あっという間に着くのも面白くない。だから最近ではこんな風にして、ドラクの少し先まで飛んでは待つ、ということも多い。先に飛んでいくと色々不都合なこともあるのだ。 たとえば変な輩に絡まれたりしたこともある。進化して間もない頃には、さもすれば大変なことになりかねない、と言ったところまで追い詰められたこともある。 とはいえ最近はそんなことも少ない。この辺りのポケモン達の大半からは上手く逃げおおせる自信がある。今なら特に不都合もない、けれども。 こうやってドラクと過ごす時間が欲しかった。自分だけで飛んでいっても面白くない。退屈な時間を過ごすよりは、ドラクとこうしてじゃれ合っていたい。 「じゃ、また先に行ってますね、ドラク」 ドラクが自分の所まで追いついてきたのを確認して、また自分は先へと飛び立っていく。忙しなく四枚の羽をはためかせて、尻尾を叩きつけるようにして宙へと舞い上がった。 飛ぶのも随分と慣れたものだ。尻尾と足で上手くバランスをとりながら、羽で空気を斜め下に押すだけ。最近では急旋回やターンも出来るようになった。 進化した次の日、飛ぼうとしたときも案外あっさり飛べたものだ。尤も、バランスをとるのは難しくて何回か落ちたりはしたけれど。 数日もやっていれば自然と身体が覚えてくれた。今では目を瞑っていても真っ直ぐに飛んでいける。これなら足の荷物をもうちょっと増やせるかもしれない。 すいすいと気持ちよく空を切っていると、ついつい飛びすぎてしまうものだ。気づけばオアシスは大分近い。目印である高い木の幹らしきものが砂霞の奥に見える。 もう少し戻ろうかな、なんて事を考えていた時、砂の舞う音に紛れて後ろの方から砂を踏む音が聞こえてきた。もうドラクが追いついてきたのか、いや、それにしては早すぎる。 「お、見かけない嬢ちゃんだな。どうしたんだこんなところで」 この砂漠は聞くところによるとさほど大きい砂漠でも無いらしい。行こうと思えば直ぐに砂漠の外へと行ける、なんて砂漠は早々無いそうだ。噂によると随分大きい砂漠が海を越えた先にあるとのこと。 そんな小さい砂漠でも、風が吹いているこの視界の悪さだと、案外他のポケモンに出会うことは少ない。オアシスの直ぐ周りならともかく、これぐらいの距離だともう他のポケモンが見えなくなってしまうのだ。 オアシスにいるポケモン達ではなく、こんなところにいるポケモンと出会うなんて。無かったわけではないにせよ、なかなか久しぶりの経験だった。 群れにいたときも、一日中外にいて一、二回獲物に出会えれば上等だった。あの洞窟に住み始めて以来、出会ったポケモンの大半、いや、皆とオアシスで出会っている気がする。 正直あんまり出会いたくはなかった。オアシスなら万が一があってもドラクが直ぐに来てくれるだろうけれど、こんな場所だとドラクが来てくれる保証はあまり無い。 それもこれも、飛び過ぎた自分が悪いのだけれど。一応真っ直ぐは飛んできたつもりだが、ひょっとしたら風に流された可能性も無い訳じゃない。 背中に生えた幾つもの棘と、手足の長い爪。友好的……というわけではなさそうで、明らかに下心が見え見えの声。戦うのはごめんだし、さっさと逃げてしまうべきだろう。 「いえ、別に……。私、これから帰るので。さようなら」 そういって足早に飛び立とうとしたそのとき、尻尾に鈍い痛みを感じた。どうやら尻尾を踏まれてしまったようだ。尻尾を押さえられたら、どう頑張っても飛ぶことが出来ない。 無理矢理振り払おうと努力はしてみるものの、羽で飛ぼうとする力だけでは尻尾を押さえるその力に到底対抗できない。じたばたと藻掻く私に覆い被さるようにして、彼は私を組み敷いた。 「は、放してくださいっ!」 「へへ、そう言うなって。こんな何もない砂漠じゃ、楽しい事なんてあんまり無いだろ? 俺が楽しませてやるからさぁ……」 お腹を抱いていた彼の手が私を掴んで持ち上げたかと思えば、荒々しく投げられて私は地面に仰向けに転がされた。こうなれば当然、私の大事な所も全部彼に丸見えだ。 精一杯叫んでも、砂の巻き上がる音の所為でオアシスの所までは声が届かない。ドラクもいないこの状況では、誰も私を助けてはくれないだろう。 おもむろに彼の手が私のお腹へ伸ばされて、優しく、舐るようになで回される。その手つきが不快で仕方ない。そんな状況から目を背けようと、私は自然と目を閉じていた。 「さあ、お楽しみの時間だなあ゙ぐあっ!!!」 ふっと私の身体が軽くなる。今だ、とばかりに私は勢いを付けて仰向けの状態から半回転して足を地面に付けた。隣にはさっきまで自分をなで回していたそのポケモンが。 そして反対を向けば、いつもの姿。尻尾に炎を灯して、今まで見たことの無いような恐ろしい形相をしながら棘のポケモンを睨んでいる、私のパートナー。 「おいお前、何やってるんだ? ……俺の一番大切なパートナーに手を出すってことは、それなりの覚悟は出来てるんだろうな?」 私に目線で下がっていろ、と合図をしてから、私とポケモンの間を分かつようにしてドラクは立った。背中からは並々ならぬ怒りの感情が伝わってくる。 そのポケモンもその鬼のような顔には流石に怯んだのか、立ち上がったかと思えば数歩後ろに下がって砂の中へと潜って消えていってしまった。 もう大丈夫だ、とドラクが私の方を振り向いた。はずだったのに、ドラクの身体は何故か私の視界を外れて宙を舞っていた。そしてその下には、先ほど潜っていったはずのあのポケモンが。 「じめん」の力を纏った一撃は、ドラクには相当なダメージのはず。ドラクは空中で体勢を立て直すこともままならず、そのまま地面に身体を強打する。 さらに間髪を入れず、そのポケモンは爪でドラクに襲いかかった。ドラクも自身の爪で応戦するものの、相手の爪のリーチと鋭さはドラクのそれを遙かに上回っている。 一見互角に見える爪のぶつかり合い。けれどもドラクの切り傷がみるみるうちに増えていく。かすり傷も積もれば相当なダメージだ。痛みで若干ドラクの顔が歪んでいる。 炎で間合いをとろうとしても、その炎を軽くあしらうそのポケモン。そもそものタイプ相性が悪すぎる。このままじゃ、ドラクが……。 爪同士の鍔迫り合いの一瞬の隙を突いて、そのポケモンが裏拳でドラクを吹き飛ばす。ドラクは盛大に吹っ飛んで、地面に背中から倒れ込んだ。 このままだとドラクが危ない。私がドラクの所へ飛んでいこうとしたその時、ドラクの身体が再び宙を舞った。いつの間にかそのポケモンはまた地面に潜っていたようだ。 「ドラクッ……!!」 宙へ吹き飛んだドラク。二度目の「じめん」の攻撃はドラクの体力を根こそぎ奪っていくのに十分すぎる威力だった。吹き飛んだドラクは抵抗もせずに力なく落ちてくる。 その下で爪を構えて立っているポケモン。ドラクを完全に捉えて、そのポケモンは勝利を確信して笑みを浮かべて――。 「言う割には案外弱っちいんだな。お前のパートナー、確かに頂いていくぜ……っ!!」 ---- ドラクの身体を背中に乗せつつ、私は砂の上に滑るように着地した。ほんの一瞬の出来事。無我夢中で飛んでいたみたいだ。 考えもなく即座に羽撃いて飛び上がり、自分の出せる限りの速度を出してドラクの下、そのポケモンの上へと滑り込んでドラクの身体を受け止めて空を滑空。 我ながら、急な思い付きにしてはよく動いた方だと思う。ただただドラクを助けたいという思いだけで飛び出してしまったが、結果オーライ、と言ったところか。 背中で呻いているドラクを、身体を傾けてそっと降ろす。本当はドラクを背中に乗せてずっと飛んでいけたら良かったのだが、生憎それほどの力はない。 ドラクをかばうようにして、今度は私がそのポケモンと対峙する。ドラクを放って逃げるわけにはいかないし、こんな奴の言いなりにもなりたくはない。 となれば当然、戦う以外の選択肢はない。さっきは不覚をとったものの、きちんと戦えば私だってやれる。守られてばかりの私じゃないんだ。 「おい嬢ちゃん、俺は今ちぃっとばかし頭に来てるんだ。そいつに邪魔されたからなぁ。……どかねぇと痛い目見るぞ?」 先ほどの厭らしい目つきではない。私を突き刺す鋭い視線と、構えられたその爪。どうやら相手はもう、私にも手加減はしてくれないらしい。 その鋭い視線に私は怯むことなく、隙を作らないようにしながら相手がじりじりと近づいてくるのを待ち構える。ドラクを守る必要がある私は、左右にも後ろにも行くことは出来ないのだ。 相手の間合いに持ち込まれるわけにはいかない。けれども間合いをとることは出来ない。今できることは、相手に攻撃される隙を与えないこと。 「駄目だゼルア……俺のことは良いから、逃げろ……」 ドラクは倒れたまま、何度も私に逃げろと呟いている。それでも私は逃げなかった。ここでドラクを捨てて逃げられるような私じゃない。ドラクは私の――。 彼は私を助けてくれた。それなら今度は、私が彼を助ける番だ。今の私には、それが出来るだけの力があるのだから。 「大丈夫です。……私だって、そんなに弱くはないんですから」 オアシスで雄のポケモンに絡まれることはよくあった。ドラクは知らないだろうが、私は結構な数のポケモンを相手にしてきたのだ。 最初は私の身体目当てのポケモンも多かったし、難癖付けて木の実やら水筒やらを要求してくるポケモンもいた。そんな奴らと片っ端から戦ってきた経験は伊達じゃない。 今ではオアシス内でもちょっとした評判が立っている。手合わせをお願いされるくらいには、そして私を見て結構な数の雄達が怖がるくらいには強くなったつもりだ。 勝負のけりはいつもドラクが来る前に付いていたから、ドラクは私の戦いを、その強さを知らない。いつかドラクを驚かせたい、そんな思いもあった。 今こそ絶好のチャンスだ。今まで積んできた経験、溜めてきた力。あの時と同じ感覚が身体に溢れてくる。私がドラクを、守ってみせる。この力で――。 自身の身体が眩く光る。間合いを詰めていた相手の目を眩ませながら、私はそのポケモンを尻尾でなぎ払う。身体がぶるぶると震えだして、体中が何かに包まれて。 ふっと光が消えたときには、私の身体は大きく変貌を遂げていた。緑を基調として、所々が水色の身体。長い尻尾に、二本の足と二本の手。 頭は見えないけれども、どうやら長く伸びた角のようなものがあるらしい。カバーの色も薄いオレンジに変わったようで、辺り一面が茜色よりも薄い色に包まれている。 手も足も尻尾もきちんと動く。羽も良い具合に動かせそうだ。慣れない身体とはいえ自分の物。きっと上手く戦えるはず。 身体が動かせることを確認した私は、直ぐに目の前の相手に飛びかかっていく。低空飛行から相手の頭上を飛び越え、振り向きざまに爪の一撃を加える。 「ドラゴン」の力を帯びた爪が、相手の背中の棘を数本折り取った。続けて反対側の手でもう一撃をたたき込めば、背中側は無残な状況に。 しかしどうやらそこには神経が通っていないらしい。痛みに呻くこともなく、そのポケモンは私に向かって爪を振り回してきた。 その爪をとんぼ返りで避けると同時に、サマーソルトの要領で、尻尾を相手の胸の辺りに打ち付ける。相手の不安定な体勢も味方して、そのポケモンは仰向けにひっくり返った。 立ち上がろうともたついている間に、私はまたドラクの方へと舞い戻る。私の姿を呆気にとられた様子で見ているドラクを背中にして、もう一度そのポケモンの方へ向き直った。 「っそ野郎ぉぉぉぉぉぉ!!!」 怒り心頭、と言った様子で私の方へと突っ込んでくるそのポケモン。叫び声を上げながら、空中の私へ向かって飛びかかってきた。今なら隙だらけだ。 大きく息を吸い込んでから、体内に眠る「ドラゴン」の力を吐き出す"りゅうのいぶき"。飛びかかってきたそのポケモンの腹部にそれがクリーンヒットして、そのポケモンは勢いよく吹き飛んだ。 砂地に仰向けに崩れ落ちるそのポケモン。どうやら流石にもう起き上がっては来ないようだ。完全に気を失っているらしい。ふぅ、と一息吐いて、私は地面に降り立った。 進化しても技の使い勝手は変わっていないようで一安心だ。進化のおかげだろうか、今までより遙かに威力も高かったような気がする。 「ゼ、ゼルア……お前、強いんだな……」 その言葉に振り向いてみれば、開いた口がふさがらない、と言った様子で私の方を見つめるドラクが。立ち上がってはいないものの、起き上がれるくらいには回復したようだ。 ドラクの側まで寄っていって、ドラクの背中に手を回す。幸いそこまでひどい怪我ではないみたいだ。疲労が回復すれば立ち上がることも出来るだろう。 「まあ、群れでいたときからずっと、自分だけで生きていけるくらいには強くなろうって決心してましたから。……でも」 自分だけでも生きていける程の強さを身につけたつもりだった。けれど、今回は自分だけでは絶対に無理だったはずだ。少なくとも、ひっくり返されていたあの状況の時は。 それでも今こうやって、傷一つ無くいられるのは私の強さのおかげではない。紛れもなく、ドラクの勇気と強さのおかげなのだ。 「ドラクが助けてくれなかったら私はどうなってたのか……。ドラクのおかげです。それから……」 伝えたい言葉を伝える前に、ドラクはその言葉に照れたのか、頬を爪で掻き毟りながら私から目を逸らしてしまった。ドラクでもこういう風に照れたりすることがあるのか。 続きを言うタイミングを無くしてしまって、そうして暫くの沈黙が続く。そういえばドラクは私の強さをどう思っているんだろうか。ひょっとしたら、ドラクのプライドを傷つけたりしたかもしれない。 そうだとしたら、なんと言葉を掛ければいいのか。あれこれと思案しながら、足下を見つめて俯く私。先に口を開いたのはドラクだった。 「……俺の方こそ助かった。ありがとう、ゼルア」 ドラクの顔は笑っていた。本当は気にしていたのかもしれないけど、それでも微笑んでくれた。私も思わず嬉しくなってしまう。――ようやくドラクに認められたんだ。 「どういたしまして。……それから、ドラクが私を助けてくれて。私の事、一番大切なパートナーだって言ってくれて……嬉しかったです」 危険も顧みず突っ込んできてくれたドラク。苦手な相手だったにもかかわらず、私のために戦ってくれたドラク。 そして何よりも、私のことを認めてくれた。私のことを、一番大切なパートナーだと宣言してくれた。今までずっと言えなかった言葉も、今なら言える。 「私、ドラクの事が……好きです。大好きです」 ドラクはそんな私の顔をじっと見つめて。私の真剣な表情で、ようやくドラクも状況を理解したようだ。爪で顔を掻く癖が出ているということは、やっぱり照れているんだろうか。 目線はどこか横の地面を捉えて動かない。尻尾の炎が砂塵に霞んで不規則に揺れる。ふらり、とその一片が宙に千切れて消え去っていった。 「……俺もゼルアの事が好きだ。ずっと前から。……愛してる」 ---- ドラクの持っていた容器を抱えて、そしてドラクを背中に乗せて、いつもと同じ砂漠の上を、住処に向けて飛んでいく私。 手が使えるようになったことで、今まではほとんど運べなかった容器も大量に抱えて飛ぶことが出来る。その上ドラクを乗せて飛んでもすいすい進めるのだから驚きだ。 ナックラーからビブラーバに進化したときも驚いたけれど、こうやって進化すると力も全然違うことに改めてびっくりしてしまった。 その気になればもっと色んなことが出来そうだ。例えば今まで飛んだことのない、砂も飛んでこないような遙か上空まで飛び上がることも出来るかもしれない。 今は怪我をしているドラクを乗せているから不味いだろうけれども、ドラクが治ったら一度くらいその高さまで飛んでみても面白い気がする。 流石にドラクを乗せたままこの砂漠から出ていく、なんてことは出来ないだろうけれども。それでもかなり行動の幅は広くなったんじゃないだろうか。 「ドラク、身体は大丈夫ですか? 乗り心地が悪かったら言って下さいね」 一応気を遣っているつもりではあるが、それでも多少の揺れは仕方ない。ドラクの傷ついた身体には多少負担が大きすぎるのではないか、と先ほどから心配してばっかりだ。 「大丈夫だ。それからゼルア。その……敬語はやめてくれないか? そんなに堅っ苦しいのも、な」 「あ、うん……分かり、じゃなくって。分かった、ドラク」 ドラクの声が若干風を切る音に紛れて聞こえづらい。最後の方は何を言っているか分からなかったけれど、とりあえず敬語はやめて欲しい、と言うことだけは聞き取れた。 ただ、今までの癖が直ぐに抜けるかと言われるとそういうわけではない。暫くは意識して敬語を使わないようにする必要がありそうだ。 あれがきちんとしたプロポーズだったのか、と言われると疑問だけれど。少なくとも恋仲ではあると分かったのだから、やっぱり敬語じゃ可笑しいだろう。 しかしそういうことを意識し始めると喋れないのが私のいけない所だ。もちろん今の状況では声が届きづらくて喋りにくい、というのも原因の一つ。 でも何よりもまず、敬語を使わずに喋ろうとするとどうもむず痒い感覚を覚えて言葉が喉の辺りで詰まってしまう。喋りたい気持ちはあるのに、どうにももどかしい。 ドラクはもともと話をするのが苦手な方。結果としてはどちらも黙ったまま時が過ぎてしまうことになる。砂の舞う音と風を切る音以外は何も聞こえなかった。 そんな気まずい空気を読んでか、ようやく私たちの住処が姿を現した。入り口の前に優しく着地して、ドラクを背中から降ろす。どうやら立てるくらいには回復したようだ。 入り口の岩を頭で軽くずらしてから、手に大量の容器を抱えて私が、続いてドラクが洞窟の中へ。やっと帰って来られた。いつもの匂いに安心感を感じる。 洞窟の奥の、ドラクの部屋に容器を乱雑に転がして、ようやく私は腰を下ろす。そしてドラクも私の隣に腰を下ろして、大きな息を一つ吐き出した。 「今日は本当に色々あったな……無事帰ってこられたのもゼルアのおかげだ」 「そんなことないよ、ドラクがいなかったら、私……」 今日水筒に汲んできたばかりの水は、まだ若干冷たさが残っている。それをちびちびと飲みながら、私はドラクと今日の出来事を振り返る。 考えてみれば昼前から夕方まで、そんなに長い時間じゃなかったというのに。随分と色んなことがあって、随分と長かったような感じがしていたけれども。 戦って、進化して。簡潔にまとめてしまえばそれだけで済む。今日のことを振り返ってみると割と直ぐに終わってしまった。 そこから先は私の話だ。一体これまでにどんな相手と戦ってきたのか、どんな風にして、どれ位戦ってきたのか。一つ一つ説明する度にドラクが驚きや感心の声を上げる。 ドラクにとっては、私よりも弱いのはやっぱり我慢できないんだろうか。なんだか驚きと同時にがっくりと肩を落としているようにも見える。 粗方説明し終えると、ドラクはぼそっと、これからは俺ももうちょっと経験を積まなきゃな、と呟いた。傷だらけの身体で早くも戦いのことを考えているみたいだ。 ドラクはまだ進化していない。とっくに進化してもいい頃だとは思うのに、一体何が足りないんだろうか。戦いの経験だけなら私と同じくらいだと思うのだけれど。 「焦らなくってもいいんじゃない、かな。ドラクだって進化すればきっと……」 「……だな。さあ、今日はもう飯にしてさっさと寝よう。ゼルアも疲れただろ?」 そういえば確かにさっきから眠気が襲ってきている。たぶん住処の安心感と戦いでの疲労が一遍にやってきたからだろう。日もどうやらほとんど落ちているみたいだ。 「そう、だね。……あ、私が木の実取ってあげる。右腕、痛いんでしょ?」 帰ってきたときからずっと気になっていたこと。いつも右利きだったはずのドラクが、容器のふたを開けるのにも、容器を持って飲むにも、ずっと左手しか使っていなかった。 それによく見れば右腕が左腕に比べて太くなっている。たぶん、落下の時に強く打ったんだろう。それをかばっている様子は私にも直ぐ分かった。 「……すまない、ありがとう」 木の実の山まで歩いてきて、私は立ち止まって考える。ドラクの好きな木の実は基本的に辛い木の実だ。けれど固い木の実も多いから、食べるのには苦労するはず。怪我をしている状態ならなおさらだ。 少し悩んだ末に、私は手に取った木の実を地面において、尻尾で軽く叩いてみた。砕けない程度、潰れない程度に加減して叩けば、若干表皮が割れた木の実の出来上がりだ。 それを数個作って、さらに自分の分も手に抱えてからドラクの右隣に再び座り込む。私が目の前に木の実を降ろすと、わざわざ左手を伸ばしてそれを取ろうとするドラク。 「はい、ドラク。口開けて」 「だ、大丈夫だ、別に……ん……」 それを遮るようにしつつ、柔らかくした木の実を一つ手に取る私。ドラクの目の前に木の実を持っていくと、結局ドラクは口を開けた。恥ずかしいんだろう、相変わらず目はどこかを向いているけれど。 口の中へそれを入れて手を放す。もごもごと口を動かして、やがて喉が大きく動く。どうやら良い具合に柔らかく仕上がっているようだ。 私も自分用のモモンの実を口の中へ放り込む。柔らかいその果肉はすっと解れて、口の中には甘い果汁が広がる。ドラクはこれがあんまり好きではないらしいが。 私は逆に辛い木の実はあんまり好きではない。よくそんなもの食べられるなあ、とドラクが辛い木の実をゆっくり味わっているのを見ながら思う。 二つ目の木の実も私が手で口元まで持っていく。今度はドラクが私の手から木の実を口で咥え取ってから、雛鳥がするような仕草でそれを口の奥へと入れ込んだ。 辛い木の実は匂いまで辛い。恐らくは何か独特の刺激成分でも入っているんだろう、さっきそれらを叩いた尻尾の一部分と手も少しひりひりしている。 私の甘い木の実の風味を若干邪魔してはいるけれど、ドラクの隣で一緒に食事できることには替えられない。今度からは辛い木の実にも慣れていくべきか。 またもや口の動きが収まったドラクを見て、私はまた木の実を一つ取ろうと手を延ばす。目の前のクラボのみを手に取ろうとしたその瞬間。 「あ、ゼルア。……その、次、マトマのみが……欲しいな」 いつものドラクとのギャップが激しすぎる。ドラクのそんなおねだりに、私は思わず口の中のモモンのみを吹き出してしまったのだった。 ---- ようやく食事を終えた私たち。ドラクもいつもの量を平気で平らげていたし、きっと数日もすれば怪我は治るだろう。大事に至らなくて本当に良かった。 他にすることもないし、今日は疲労もあることだし、もう寝たほうがよさそうだ。ドラクのことが心配だから、出来るなら隣で。 「それじゃ、そろそろ寝るか……お休み、ゼルア」 「あ、ドラク、えっと……私も今日はここで寝て良いかな? ほら、ドラクのこと、心配だし……」 「ああ、もちろんだ。ちょっと寝づらいかもしれないけど……すまないな」 確かに砂が盛ってある寝床は狭い。大きくなった私の身体だと、寝るだけで場所が無くなってしまいそうだ。ドラクだけが寝るために作ってあるんだから当然といえば当然か。 となればやっぱり、硬い岩の上で寝るのは私だ。私はそのつもりだったけれど、ドラクが私に自分の場所を譲ろうとしてきたので慌てて止めた。 「私は地面で大丈夫。ドラクは怪我してるんだから、安静にしなきゃ」 暫くドラクは考えて、そうだな、とようやく頷いてくれた。こんな風に私に甘えてくれるドラクもなかなか可愛い所がある。ドラクも大分私に心を開いてくれた、ということだろうか。 出会った頃とは大違いだ。よく言えばクール、悪くいえば突慳貪、だった性格も、随分と丸くなったような気がする。――ドラクも私といて変わってくれた、のかな。 ふとドラクを見ると、もう横になってすーすーと寝息が聞こえている。恐らくよっぽど疲れていたんだろう。私も疲れていることだし、あれこれ考えるのは止そう。 尻尾の炎が明るいけれど、そんなことも大して気にならない。くるりと丸くなって、尻尾に頭を乗っけて枕代わりに。こんな体勢が出来るのも進化のおかげだ。 頭は地面に当たっていないから冷たくも痛くもないし、これなら直ぐに眠れるはず。ずっと昔、群れで聞いた話。フライゴンになるととっても快適だ、という意味が何となく分かってきた。 目を瞑れば、今日の出来事が頭の中に浮かんでは消えていく。何から何まで濃い一日だった。大変だったし、辛かったけれど、同時に一番幸せな日でもあった。 ドラクが私の事をきちんと想っていてくれた。ドラクは私の事を見てくれていた。認めてくれただけでも十分だったのに、まさか私の事を……。 そう考えただけで胸が熱くなる。本当にこれが現実なんだろうか。夢じゃ……違う、夢なんかじゃない。本当のことだ、全部。 どうにも興奮が収まらない。ドラクの寝顔がちょうどこちらを向いている。その顔から目線をずらせば、柔らかそうなクリーム色のお腹が。 ううん、とくぐもった声を出して今度は仰向けに。目を瞑るまえとは随分と寝ている体勢と位置が変わっている。たぶん寝相が悪いんだろう。 それにしても、尻尾を下にして眠りにくくはないんだろうか。気持ちよさそうに寝ているから、きっと大丈夫ではあるんだろうけれど。これじゃあまるで……。 脳裏に過ぎったドラクの姿は、時折夢に見る、そして夜の興奮の糧となっていた、あられもないあの姿。私を迎えるドラクのお腹の少し下には、そそり立つ雄があって――。 ドラクは私の事を好きだと言ってくれた。私もドラクのことが好きだ。少しくらいなら良いんじゃないか。仮にも恋仲なんだ、これくらいは当然のこと、のはず。 「……いい、よね」 自分で自分を納得させるようにそう呟いて、私はドラクの横へ立つ。お腹を眺めれば、少し下の方には細い筋が。これだ、これがドラクの。 どくんどくんと心臓が脈打っているのが自分でも分かる。爪を立てないように、慎重に、落ち着いて。そっとその筋に合わせて指を添える。 そのまま指を這わせると、その動きと共にドラクの身体が微かに動いた。もう一度筋をなぞってみる。またドラクの身体がぴくりと動く。 その反応を見つつ、私は何度も何度も指を動かす。その動きは段々とエスカレートして、少しずつ速く、強く。私が自分の割れ目をなぞるときと同じように。 ドラクの息遣いも段々と乱れてきた。まだ目は覚ましていないが、時折苦しそうに声を漏らす。私の興奮をかき立てるその声に、いつしか私は夢中になっていて。 優しく、けれども激しいその動きに、とうとうドラクの雄が顔を覗かせ始めた。手を止めても止まる様子はなく、むくむくと大きくなるドラクのそれ。 あっという間に大きくなって、その姿は完全に外に晒された。クリーム色のお腹とは色味の違う、ピンク色のその肉棒は、快感を求めて揺れ動く。 ただ、想像していたのよりは少し小さめ、かもしれない。もちろん私が大きくなった、と言うのもあるのだろう。まあこれはこれで可愛いし、何よりもドラクの実物なのだ。文句はない。 その雄にそっと手を伸ばして、三本の指を使って優しく包む。初めて見たけれど、上手くやれるだろうか。小耳に挟んだ雄の自慰の方法。この状態で上下に扱けばいい……らしい。 触った感触は案外柔らかい。もちろん芯はあってしっかりと形は保たれているけれど、くにくにとした肉の質感もしっかりある。これが最終的に私の中に入る、のか。 「っぁ……は……ゼ、ゼルア……?」 それを握ったまましげしげと観察していると、ふと聞こえてくるドラクの声。荒い息遣いをしたまま、まだ状況が飲み込めていないのか私の顔をじっと見つめるだけ。 不味い、つい夢中になってしまった。今更になって今までの行動を後悔する。もし嫌われでもしたらどうしようか。言い訳を考えてみても全く浮かんでこない。 「あ、ご、ごめん……つい、その……」 雄を握っていた手をぱっと放して、ドラクの顔から、身体から目を外す。他に何か焦点を当てられる物を探して目が泳いでいくが、どれだけ見渡しても岩、岩、岩。 どうすればいいのかと慌てるばかりで、結局何も出来ない私。何かを言おうとしても口ごもってしまってドラクには聞こえない。 「……ゼルア、あの……俺で良ければ、続けてくれ……」 慌てる私にドラクは一言。すっと飛んできたその言葉の意味が分からず、ドラクの顔をぱっと見てしまった。いつもの顔を掻く癖だ。恥ずかしがりながら、私に……。 どうやらそういうことらしい。頭の中でその言葉を反芻してみてもやはり同じ。ドラクは私の行動を受け入れてくれたのか。その上さらに、続きまで。 「……う、うん」 物欲しそうなドラクの顔を見て、私は顔を近づける。考えるよりも感じたままに。初めての事だから勝手は分からない。ただ、本能がそうしろ、と叫んでいるような気がした。 ドラクの口と私の口が重なる。続いて舌をドラクの口の中へ滑り込ませて、お互いの舌を絡ませ合う。ドラクの口の中はドラクの味。ドラクの匂いも直ぐ近くだ。 お互いの唾液を交換し合えば、自分の口の中にもドラクの味が広がる。さながら媚薬のようなその味と匂いに、私の興奮はさらに高まっていく。 今度は寝ているドラクの顔に跨るような形に。触ってもいないのにドラクの雄はぴくぴくと震えている。ドラクも私と同じくらいに興奮しているのだろうか。 その雄を少しきつめに握って、まずは軽く上下に扱いてみた。特にドラクは何も言わないけれど、脚が少し震えたからきっとこれで合っているんだろう。 そのままの強さで、今度はさらに早く上下に手を動かす。これ以上大きくなることはないだろう、と思っていた雄もさらに大きく張り詰める。 ぎんぎんに猛ったその雄の先端からは、何やら透明な液体が。少し指で触ってみると、ねっとりとした感触が。手を離そうとすると糸を紡ぐほどの粘り気だ。 よく分からないが、きっと私の割れ目を濡らすあれと同じような物だろう。少しずつ染み出すそれが垂れて指と棒との間に纏わり付く。 私の愛液よりも粘り気が高いようだ。けど役目は大して変わらない。滑りも良くなった私の手はさらにその動きを早める。心做しかドラクの雄が震え出した、気がした。 「は……っぁ……ゼルア、もういい……次は俺が、な」 ドラクが震える声で私に呼びかける。どうやら思ったよりも効果覿面だったらしい。初めての割には上手くできた、のだろうか。聞いてみたいがやめておいた。 ここでドラクだけが果ててしまったら後が続かない。ここはお楽しみに取っておくべきだろう。次は私がしてもらう番だ。一体どうなるんだろうか。 ---- ドラクの顔を跨いだ状態で、私は尻尾を上げてその付け根がドラクにもよく見えるように。恥ずかしい、けれど、ドラクにやってもらえるなら。 ドラクは私のこの様子を見て、躊躇無く手を私の割れ目に添えて、優しく撫でてきた。触られて初めて気づいたが、どうやらもう大分濡れているらしい。 くちゅ、とそれらしい音が洞窟に響く。先ほど肉棒を撫でていたときも多少の音はしていたけれど、どうやら雌の方が音は大きいらしい。 手つきは確かに慣れたものではない。きっとドラクも初めてなんだろう。ただ、誰かにやってもらうのは私も初めてだ。自分でやるのとは全然感覚が違う。 自分では予想できないような所に手が伸びたり、急に速度が変わったり。何より好きな人にこうやって弄られて、興奮しないはずはなかった。 「ぅ……ん……あっ……」 ドラクの指の動きが先端を捉える。豆の部分が弱いというのは誰でも知っていることなのだろうか。とにかくそんな場所をずっと刺激され続けては堪らない。 果ててしまいたい気持ちを抑えて、もう少しで、と言うところでドラクの手を掴んで止める。その意味はきっちり伝わったのか、ドラクは私の雌から手を離した。 こうなれば次にやることは一つしかない。怖くない、と言ったら嘘になる。けれどもそれ以上に、ドラクと契りを結びたい、一つになりたいという思いが大きかった。 「……本当にいいんだな、俺で」 私は反対向きに跨る。今度はドラクの雄が私の秘所の直ぐ下に。ぽたり、と愛液がドラクの雄に垂れる。まるで涎を垂らしているかのようだ。 分かっている。私はドラクのこれが欲しいんだ。期待と不安が入り交じる。――ドラクとなら、大丈夫だよね。……よし。 「うん。……ドラク、愛してる」 そそり立つ雄をドラクが手で押さえながら。私はその先端を、濡れそぼった秘所の入り口に重ねて、ゆっくりと腰を下ろしていく。 中を撫でるドラクの雄。指しか入れたことの無かったその秘所は、それよりも遙かに大きな雄を包み込んで、きつく締め上げる。 私の意志とはまるで正反対だ。ドラクの雄を拒むかのような締め付け方。けれどもこんなところで終わるわけにはいかない。じっくりと慣れさせていけば大丈夫なはずだ。 滲み出る愛液を潤滑液にしながら、少しずつ、少しずつドラクの雄を包み込んでいく。きつきつの内壁を撫でる肉棒の刺激だけで、あっという間に果ててしまいそうだ。 しかしここまで来たら、まだ果てるわけにはいかない。さらに深く腰を下ろせば、ようやく何かにドラクの雄の先端が触れた。これがいわゆる初めての証、だろうか。 もう言葉は要らなかった。こくり、と頷く私とドラク。ふう、と一息ついてから、私は一気にドラクの雄を秘所で包み込んだ。 痛い、と言えば痛い。けれど思ったほどの痛みでもない。ドラクが心配そうに私を見てくるので、首を横に振って大丈夫、とアピールする。 完全にドラクの雄は私の秘所に覆われてしまった。それでも先端が当たる感触がしないのは、やっぱりドラクと私の身体の大きさが釣り合ってないのだろう。 入れるときは流石にきつかったが、入ってしまえばこっちのもの。痛みも引いたし、この雄の大きさにも大分慣れてきた。もう動いても大丈夫だろうか。 試しに、とまずは腰を上まで持ち上げてみる。途端に中がドラクの雄と擦れて、ちょうど良い感じの快感が。こんなにも気持ちいいものなのか。 けれどもそこで油断したのが不味かった。あまりの快感に耐えきれず、私は身体を支えていた足の力を抜いてしまった。 となればいきなり腰が下ろされることになる。急激な速度で扱かれたドラクの雄も、急激な速度で貫かれた私の秘所も、その快感に耐えることは出来ずに。 「うあああぁぁぁぁぁっっっ!!!」 「んぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」 内壁は吐き出される雄の白濁を逃さないように搾り取る動きを。肉棒は精をより奥まで飛ばせるようにびくびくと大きく振動を。 中に熱い液体が吐き出されるのがはっきりと分かる。身体も支えられずにドラクに完全に覆い被さるように崩れ落ちてしまった。 未だに中で精を吐き出すドラクの雄。未だにそれを搾り取ろうと蠢く私の秘所。荒い息をしながら、快感の余韻に浸る私たち。 けれどまだ大丈夫なはず。少なくとも私はまだやれそうだ。ドラクの体力は分からないけれど、もう一回ぐらいならいけるんじゃないだろうか。 早い話が物足りないのだ。これだけじゃない、せめて後もう一回だけさっきの快感が欲しかった。手に力を入れて再び起き上がり、腰を軽く浮かせて――。 「っあぁぁっ!! ぜる……あっ、もう、むりっ……だっ、てぇっ!」 腰を降ろした瞬間、悲鳴のような声を上げるドラク。けれど吐き出されるのは喘ぎ声。若干小さくなっていた彼の雄も、その快感には正直だった。 私も、そして恐らくはドラクも、絶頂を迎えたばかりのこの状態は性器がかなり敏感になっているはず。膣に残った彼の白濁の動きまではっきりと分かる。 それでも余裕を持っていたのは私の方らしい。ドラクは本当に辛そうな、けれども快感に溺れているような、なんとも複雑な表情。 どうやら夜の営みは私の方に分があるようだ、なんてそんなことまで考えながら、腰を上下させてはその快感を噛み締める私。 ――突然、彼の身体が光り始めた。 当然私も驚いて、まずはドラクの肉棒を解放してからドラクと距離を取る。一体何が起こるというのだろう。けどこの感じは、どこかで。 急いだ所為で、私の秘所はまだ肉棒を探してひくひくと蠢いている。垂れてきた液体は若干ピンク色に染まった、ドラクの白濁。 けれどもそんなことを気にも留めず、私はドラクを注視していた。――まさか、進化? こんなところで……。 そうこうしているうちに輝きはますます増して、私も目を開けられなくなってくる。やがてその光が一気にはじけ飛んで――。 そこには仰向けに寝転がっているリザードンの姿が。炎に照らされた黒い身体と赤い翼。今度は色の違いがはっきりしている。確か昔見たリザードンはオレンジ色だったはずだ。 黒いリザードン。全く不気味じゃなかった。寧ろかっこいいとさえ思う。何と言ったってドラクなんだ。姿がどう変わっても関係はない。 「おめでとう、ドラク……っ?!」 むくり、と起き上がったドラク。私と大体同じくらいの大きさだ。そしてクリーム色のお腹の部分には、そびえ立つドラクの雄が。 私の身体を掴んだドラクは、無言のまま私を押し倒してくる。訳も分からないまま、今度は私が仰向けにされてしまった。呆然とドラクを見つめる私。 一方のドラクも、私を見つめたまま顔を近づけて、私がさっきやったのと同じように口を重ねてくる。差し出された舌を私も絡め取って応じる。 上にばっかり集中していると、急にドラクの手が下の秘所に這わされた。べとべとに濡れたその秘所の中に指を入れてかき回される。むずがゆい快感が体中に走る。 「俺だってやられてばっかりじゃないからな。……今度はこっちの番だ、ゼルア……」 ドラクの雄は準備万端、とばかりに膨れあがっている。怪我をしていたからそんなに動けないだろうという予想をしていたのに。どうやら進化したときには怪我も治るようだ。 それどころか、体力まですっかり回復しているような気がする。身体の造りが変わると同時に、色んなことが起こるのか。 ともかく、こうなれば不利なのは私だ。性懲りもなくひくつく私の秘所に、ドラクの雄が宛がわれて、ゆっくりと進入してくる。 しかし先ほどとは太さも長さも違う。こんな物が私の中に果たして入るんだろうか。そんな不安を余所に、私の秘所はそれを締め付けながらも徐々に受け入れていく。 その圧迫感に快感を見いだしてしまった私。このままだとドラクの雄が一番奥に辿り着く前に果ててしまいそうだ。恐らくそれではドラクは満足しないはず。 膣の最奥部に先端が当たる感覚。ようやく全部入ったのか、と安堵する間も無く、ドラクは雄を一気に引き抜く。すっぽりと穴の空いたかのような感覚。 そして間髪を入れずに最奥まで一気に雄が突き込まれる。ぐちゅっ、と言う音と共に中を擦られた私は、またしても耐えることが出来ずに絶頂を迎える。 それでもドラクはまだ絶頂を迎えない。それどころか良い感じに秘所が収縮を繰り返している所へ、遠慮無くその大きなモノを突き込んでくる。 「ぜるあっ……あっ……くぁっ!」 「だめえっ……ど、らくぅっ……ひゃあああぁぁぁっ!!」 びくびくと震える私に、なおも激しい動きで雄が出たり入ったりを繰り返す。そのおかしくなりそうな快感に悶えて、なぜだか私も腰を動かしてしまう。 「うああああぁぁぁぁっっっ!!」 「ふああぁぁぁぁぁっっっ!!!」 ドラクの絶頂と共に、とんでもない量の精液が吐き出される。膣の中では収まりきらない分が、隙間を流れてこぷっ、と溢れてくる。 その熱さと、最後の大きな一突きに私もまた絶頂を迎える。秘所はドラクの雄を締め上げながら、勢いよく潮を吹いてしまっていた。 それでも何か物足りないのは「ドラゴン」の血なのか。そしてドラクもまた同じようだった。まだいける。まだ欲しい。それならば当然。 身体と身体がぶつかり合う音。湿り気を帯びたモノが擦れる音。洞窟の中でそれらが響いて、重なり合って。夜が更けていく中、私たちはその行為を、気の済むまで続けていたのだった。 ---- 床の硬さに違和感を覚えて目を開ける。鼻で息を吸ってみれば、私とドラクの行為の後の匂いが色濃く残っている。そしてなにより何故か口の中にもその味が残っている。 そんなことをしたのだろうか。いや、あの後は本当に夢中になっていたからやりかねない。割と色々な事をやったような記憶が微かに残っている。 隣を見れば、砂と液体の乾いた跡でぐちゃぐちゃになっているドラクが。自分の身体を眺めても同じような状態だ。これは一回きちんと洗いに行った方がいいか。 まだ自分の方はいいけれど、ドラクの黒い身体には白い液体の跡が割とはっきりと見てとれる。明かりの差し込み具合からしてまだ早朝だろうし、今のうちにオアシスへ行くとしよう。 「ドラク、もう朝だよ。ほら、起きて身体洗いに行かないと」 「……ああ、おはよう、ゼルア……」 起き上がったドラクの顔はまだ半分寝ているようだ。そんなドラクの身体も結構匂いが気になる。嫌な匂いではない、と思うのはたぶん私たちだけだろう。 昨日持って行けなかった容器を抱えて、オアシスに行く準備をする。ドラクと私とで一緒に持つと、単純に考えて今までの二倍の容器が持って行けそうだ。 ドラクの身体の調子も良さそうだ。怪我もすっかり治っているし、進化というのは便利な物だ。けれども私の時は寧ろ進化で結構な体力を使った気がしたのに。 と、よく考えてみればその後初めての自慰をしたんだった。私はてっきり進化の所為だと思っていたが、ひょっとして単に自慰で疲れただけだったのか。 現にドラクは進化の後、私と攻守逆転出来るくらいには元気になっていた。きっとそういう物なんだろう。性欲が回復する効果もあったかもしれない。 けれども一体どうしてドラクは急にあの時進化したのだろうか。進化には経験と気持ちが必要、と聞いたことはある。経験は十分だったはず。 ひょっとしたら進化したい、という気持ちが強くなったのだろうか。私よりも弱いことにコンプレックスを感じて、さらに行為でも負けそうになって……。 あり得そうだとは思う。けれどちょっとドラクには聞きづらい。聞いたところで教えてくれないだろうし、あるいは無意識のうちにそう思ってただけなのかもしれない。 あるいは昨日の経験が足りなかっただけ……いや、それはないか。私だって初めてだったし。きっとこんなこともあるのかもしれない。それで納得しておくことにしよう。 「さてと、それじゃあ行くか、ゼルア」 気づけばドラクはもう準備を終えて入り口の岩を少しずらしている。その入り口からは朝の日差しが少し入り込んでいて、薄暗い洞窟から見ると眩しい。 私も急いでドラクの所まで向かう。外に出てみれば、まだ朝の涼しい風が吹いている。砂漠の温まり具合と太陽の傾き具合からすると、やっぱり夜が明けてからそんなに経っていないようだ。 私は羽を広げて宙に舞う。昨日の疲れも残っていない。ドラクもようやく進化して飛べるようになったことだし、これなら直ぐにオアシスには着けるだろう。 「さあ、ドラ……ク?」 赤い翼を広げてはためかせ、空へと飛び上がるドラク。飛び上がって低く滞空したかと思うと、そのまま地面にどさっと落ちてしまった。容器がいくつか辺りに転がる。 「……なあ、ゼルア。飛ぶの……難しくないか」 砂に埋もれた顔を上げて、宙でばたばたと飛んでいる私に真顔でそんなことを。そう言われても、私は割と何ともなしに飛べてしまったから分からない。 ドラクは首をかしげながら水筒を拾い集めてもう一度飛び上がる。今度こそ上手くいったようだ、落ちる気配はない。滞空したまま頑張って翼を動かしている。 「それじゃあ今度こそ。頑張って付いてきてね、ドラク」 そのままスムーズに前進の体勢を取る。翼で少し後ろに空気を送るようにしながら、尻尾でバランスを取れば簡単に飛べるはずだ。 ドラクはふらふらとしながらも何とか私に付いてくる。私の時もたしかにバランスを取るのは難しかった。無意識に出来るようになるのは暫く掛かるか。 けれどもドラクを見失えばまたあんな事にもなりかねない。結局私がドラクに合わせるようにしながら、蛇行しつつオアシスを目指す。 「違う違う、尻尾をもっと上手く使わなきゃ。翼でもっと空気を押すような感じで、ほら、しっかり」 「わ、分かってるって……っとと」 こうしていると本当に私がドラクよりも強いような気がしてくる。実際今の段階では強いのかもしれない。少なくとも、空でなら。 もちろん飛べるようになって初日の飛行だから仕方ないけれど、それでもドラクなら……という思いはどこかにあった。でもドラクも万能じゃないか。 ドラクの印象は随分と変わったものだ。前は怖いけど優しい、そして強くて何でも出来る、そんなイメージだったけれど、今はちょっと違う。 「ドラク、大丈夫? 無理しなくてもゆっくり慣れていけば……」 「だ、大丈夫だって。俺は自分だけで出来る……うわっ」 何だか無理をしている子どもみたいだ。確かに頼れるところはあるんだけれど、どうも普段は空回り気味だ。寧ろ私が守ってあげたくなる。 ドラクにアドバイスをしつつ暫く飛んでいると、ようやく慣れてきたのか、ある程度は真っ直ぐ飛べるようになってきた。ただ、已然として尻尾へ集中していないと厳しいみたいだ。 その辺りは慣れれば無意識で出来るようになるだろう。もっと上手くなれば、もっと遠出も出来るようになるだろうか。ひょっとしたら、話に聞いた、あの砂漠へも――。 「ねえドラク、森を越えて、海を越えた先の砂漠の話、知ってる?」 「ん、ああ、あっちの砂漠は随分と暮らしやすいらしいな。けど、どうしたんだいきなり」 ドラクはあの砂漠のことを知っていたのか。それなら行き方も知っているんだろうか。そうだったら話は早い。私が言いたいのは、つまりはこういうこと。 「ドラクがもっと上手く飛べるようになったら、えっと……その砂漠に、住めたらいいなって」 争いのない、平和な砂漠。木の実もきちんと手に入る大きなオアシスがあるとなれば、ここよりも随分と住みやすいはずだ。 もちろん森や山の麓に住めれば言うことはないのだが、そういう場所はもれなく縄張り争いが酷い。おまけに私たちのこの身体を考えると。 本当は皆と仲良くしたいけれど、受け入れてくれないこともしばしばある。言いたくはないけれど、他のポケモン達が少ない場所の方が住みやすいのも事実。 それに砂漠で今まで暮らしてきただけあって、砂漠はもう随分と慣れたもの。ドラクはあんまり砂漠に住めるような身体はしていない、けれど。 砂嵐さえ無ければドラクもこうやって空を飛べるし、岩場さえ見つかれば夜も過ごせる。それなら話に聞くその砂漠は、絶好の場所、といってもいいんじゃないか。 「……ああ、そうだな。行き方も森の知り合いに聞けば分かると思う。……またいつか行ってみるか」 「うん。……ドラクと一緒に、楽しく過ごしたいな、って」 私が笑顔を見せると、ドラクはいつも通り恥ずかしがって頭を手で掻く。癖は直らないんだなあ、と思ったその瞬間、ドラクの身体が高度を下げて……落ちた。 「……だめだよ、慣れないのに別のこと意識しちゃ」 「ゼ、ゼルアの所為だろ? 俺はきちんと飛べてるって」 慌ててドラクの側に着地する私。砂の上に滑るように落ちていったからたいしたダメージは無いみたいだ。しかしこんな状況じゃ、一体いつきちんと飛べるようになるんだろうか。 飛べてないのに飛べてると主張して私の方を向いたまま何故か胸を張るドラク。その姿がどう見ても意地を張る子どもにしか見えなくて、つい私は笑い出してしまう。 「……ふふっ」 「わ、笑うなって!」 はいはい、と軽くいなしつつ。そろそろ見えてくるであろうオアシスに向けて、私たちはまた翼を大空へとはためかせた。 ---- 最後の小島を離れてからどれ位経っただろうか。飛び立つときには昇り始めだった太陽は、一周回って同じ所で輝いている。 私たちの目下には深い青色をした大量の水が。噂通り、実際に見るとやはりとても綺麗だ。塩っぱくてとても飲めた物ではないが。 もちろん森を越えて海を初めて見たときは、それはもうとても言葉には出来ないほど感動した。けれど今では見飽きてしまって退屈でしかない。 教えてもらったとおりに海に出て、転々とある小島で夜を明かしながら、少しずつ海を渡っていく。今回のように、時には一晩飛び続けたりもした。 道を間違えれば辿り着くことはない。そう忠告されたときは行こうかどうか迷ったが、それでも私たちは行くことに決めた。 あの砂漠には嫌な思い出も沢山ある。今度こそ私たちは自由に暮らしたい。そのためには、あの砂漠を出るしかなかったのだ。 後悔はしていない。確かに私たちはあの砂漠から逃げた臆病者なのかもしれないけれど。それでも、生きることは絶対に諦めないし、諦めたくはない。 困難な道を乗り越えて、絶対に幸せを掴んでみせる。その固い決意は何があっても変わりはしないし、全く揺らぐことがないほど確かなもの。 そう思ってここまで突き進んできた。海を飛び続けるのは大変なことだけれども、自らの思いを糧にひたすら飛んでいく。そして。 「見えた……あれだ。砂漠と海の境界。この先が……」 見えてきた陸地の際には植物も生えているみたいだが、少し先はもう砂だらけだ。この先に行けば、私たちが夢見たあの砂漠が。 しかしここからが問題でもある。住めそうな岩場を探しつつ、まずはオアシスを目指さなくては。残念ながらこの先の道のりまでは聞いても分からなかったのだ。 もし運が悪ければ何も見つからずに広い砂漠を飛び続けなくてはいけない。夜の砂漠は冷えるし、出来れば早めに見つけたいところ。 寝ている暇はない。朝日に照らされながら、私たちは海と別れて、砂の上を飛んでいく。寧ろここからが正念場だ。 誰かポケモンに出会えたらあるいはオアシスへの道を教えてくれるかもしれないが、このだだっ広い砂漠ではそれも期待はしない方が良いだろう。 幸い砂嵐は吹いていないから視界は良好。見渡す限りまだ砂しか見えない中、私たちはただひたすら真っ直ぐに飛んでいく。 私たちの住んでいた砂漠とは確かに違って、どれだけ飛び続けても一向に砂漠の端、といったものが見える様子はない。 やはり相当広いのだろう。これも噂でしかないが、三日三晩、延々と飛び続けても砂漠しか見えなかった、という話さえある。 気がつけば日も大分昇ってきた。上空の風が強かった事を考えると流されてしまっただろうし、たぶん海の方向ももう真後ろではないだろう。 今更海には戻れないし、何としてもオアシスか岩場を見つけるしかない。そうやって気持ちばかりが焦るけれども何かが見えてくる気配はない。 足跡くらいは、と期待してみても砂地は綺麗に模様を作ったままで、それが荒らされた形跡はどこにも見当たらない。 と、目の前を強い風が通り抜ける。かなりの突風だったから、ドラクは目を開けてはいられなかっただろうけど、私は確かに何かを見た。 「ドラク、今、誰かが通ったみたい。その方向に行ってみようよ」 ドラクは被った砂を払うように空中でくるりと宙返りをしてから、私の方を向いて頷く。私がドラクを誘導するようにして、さっきの風が通り抜けた方向へ。 流石にあの速さには追いつけないとはいえ。そのポケモンが真っ直ぐ住処に向かっているか、オアシスに向かっているかなら。 他に期待できるものはない。容器に入れた水もほとんど無くなってしまっているからのんびりとは出来ないし、手がかりの一つでもあればそれに縋っておくべきだろう。 今は朝と呼べるような時間を若干過ぎた頃だろうか。さっきよりも陽は上の方で燦々と光をまき散らしている。砂の温度もかなり上がっているはずだ。 と、水平線の境目に何かが見えてきた。あれは……何かの棒だろうか。いや、上には緑色の……葉っぱらしきもの。もしかしたらこれは、いや、間違いなく。 「……オアシスだ」 目の前に見えてきたのは、私たちの想像を遙かに超えた大きさのオアシス。これだけの水を携えて、これだけの植物を茂らせて。 小さな湖が幾つも連なっている。そのそれぞれにはポケモン達が仲良く群がって、そこにある木の実をかじりつつ談笑していた。 そのうちの一つに降り立つことに決めた私たちは、少し離れた場所へと遠慮がちに着地する。あんまりいきなり急いで入って、びっくりさせては悪いだろう。 何せ私たちはそういう身体をしているのだ。受け入れてもらえるかどうか、という不安も大きい。小さいポケモンだと、特にドラクの身体では怖がって逃げてしまいそうだ。 そんな中、オアシスのポケモン達の中に、さっきのポケモンらしき後ろ姿を見つけた私。どうやら水を飲んでいるみたいだが。大きな身体をしているし、これならドラクを見ても動じないか。 あれがさっきのポケモンだと思う、とドラクに伝える。私が話しかけても良かったが、前のあいつみたいな、あんまり良いポケモンじゃなかった場合を考えるとちょっと躊躇いがあった。 「なあ、ちょっと……」 とんとん、と水を飲んでいるそのポケモンの肩をドラクが叩く。くるり、と振り返ったそのポケモンは、ドラクの顔を見て、小さな悲鳴と共に慌てて蹌踉めいて……あ、落ちた。 壮大な水の音と共に水しぶきが吹き上がる。乾いた大地に降り注ぐ水の粒が、辺り一面をぱらぱらと潤す。そして落ちた当のポケモンは慌てた様子で水の中から起き上がってきた。 「わ、悪い、驚かすつもりはなかったんだが」 「こっちこそ驚いちゃってごめんね。君みたいなポケモン見るの、初めてで……」 顔に付いた水気を振り払いながら陸に上がるそのポケモン。紺色をした身体と、黄色と朱色のお腹。頭には二つの角のような突起……と、私の見たことのないポケモンだ。 だが見た目とは違って随分と頼りなさげなポケモンだ。初めて見た私が言うのもなんだけど、身体と性格が全然釣り合ってない気がする。驚くのは良いけれど、ちょっと驚きすぎ、のような。 そんな事は気にも留めず、ドラクはさっさと本題に入る。そうだ、オアシスが見つかったら次は住処だ。けれど果たして住めそうな場所を教えてくれるかどうか。 「気にしてないさ。……それより、この辺りに、住めそうな洞窟ってまだあるか? ありそう、ってぐらいでも構わないんだが」 「うーん、洞窟かあ。そうだねえ……」 両手……というより両鰭を組んで考えるそのポケモン。悩んでいるのはそもそも場所がないのか、それとも教えるのを躊躇っているのか。 両手……というより両鰭を組んでそのポケモンは考える仕草を。悩んでいるのはそもそも場所がないのか、それとも教えるのを躊躇っているのか。 無ければ無いで仕方がない。そこまでとんとん拍子に全てが進むわけではないだろうし、オアシスだけでも見つかったんだから良い方か、ともう半ば諦めかけていたその時、彼は唐突に口を開いた。 「そうだ、ちょうどこの前一つ見かけたのがあるけど……案内しよっか? さっき驚いちゃったお詫びもあるし……」 予想外の事の運び方に私もびっくりしてしまう。ドラクもなんだか少し呆気にとられた様子。住処を争うようなことは、この砂漠ではきっと無いんだろう。 しかし、まさかこんなに上手く事が運ぶなんて思わなかった。偶然見かけたポケモンに付いていったらオアシスを見つけて、話してみれば住む処まで。ラッキーにも程がある。 ドラクはそのポケモンに案内を頼んだ後、手に持っていた容器に水を汲む。そうだ、もう水がほとんど無かったのか。ドラクとこのポケモンとの会話をぼーっと聞いていて忘れていたけれど、喉もカラカラだ。 冷たそうな水の中に首を突っ込んで勢いよく水を飲む。日光に照らされていた顔が冷やされて気持ちが良い。思うままに水を飲んだ後は水の補給だ。持っていた容器を私も開けて水を汲む。 「へえ……便利そうだね、それ。君たちひょっとして、遠くから来たの?」 「うん。私たち、ずっと海を越えてきたから……オアシスが見つかって本当に良かったよ。ありがとね、えっと……」 そういえばこれだけ話しているのに全く名前を聞いていなかった。というより、このポケモンは何というポケモンなのかも私はまだ知らない。少なくとも、あの砂漠にはこんなポケモンは居なかったはずだ。 ドラクも知らないのだろう、お互いに顔を見合わせて少し首を傾げる。その様子を見たそのポケモンは少し考えてから、納得した様子で私たちに自己紹介を。 「僕はガリア。見ての通りガブリアスだけど……遠くにいたなら知らない、かな」 「ごめんね、本当に見たこと無くって……。えっと、私はゼルア。こっちがドラク。あの、見て分かると思うけど、私たち……色違い、なんだ」 ガリアはそんな私たちを上から下までじーっと眺める。やっぱり色違いは珍しいんだろうか。それでも怖がる様子は見せないし、私たちを貶す様子も無い。 寧ろ何だか尊敬というか憧れというか、何か凄い物を見るような目だ。そんなに興味津々、と言った様子で見られると何だか恥ずかしい。 「あ、やっぱりそうだよね。……でも、別に色以外は一緒なのかな。僕の知り合いのフライゴンも同じ感じだし……」 なるほど、ガリアには知り合いのフライゴンが居るのか。……もしかしたら、そのフライゴンとも友達になれるかもしれない。今まで憧れていた、仲の良い友達に。 それにしても、最初に話しかけたのがガリアで本当に良かった。これが別のポケモンだったら、こうは上手くいかなかっただろう。自分の運に感謝しないといけないな。 ---- ようやく水も汲み終えて、おまけにオアシスに成っていた木の実を数個貰ってしまった。基本自由に食べて良いらしい。ただ、人気の木の実はあっという間に無くなるのが常、だそうだ。 ともかく腹ごしらえも終わった。寝不足だけは解消できていないが、それは住処を見つけてからゆっくり寝れば問題ないだろう。ガリアに一通りの準備が終わったことを知らせる。 「よし、それじゃあ準備はいいかな? 僕に付いてきて。そんなに遠くはないから」 言うが早いか、ガリアは地面を蹴って、砂地すれすれを飛んでいった。不味い、早く行かないと見失いそうだ。ガリアにとっては遅いのだろう。けれど私たちには結構なスピード。 ドラクも私も大急ぎで砂を蹴って飛び上がる。よくよく見ると、翼で飛ぶ私たちとはガリアの飛び方はちょっと違う。一体どうやって、あんな速度で飛んでいるのだろうか。 「ご、ごめん。速すぎた……かな」 さらに速度を落として、私たちの直ぐ目の前まで近づいてくるガリア。私たちはガリアに向かって大きく首を縦に振る。一晩寝てないこともあって、正直しんどかった。 さっきよりは楽な速度で少しの間飛んでいると、もう岩場が見えてきた。こんな近場の洞窟なら、とっくに誰かが住んでいそうなものだが。 「確かこの辺に……あった、ここだよ」 急にガリアは速度を上げて岩の周りを回り出した。かと思えば、何もない場所で降りたって私たちを呼び寄せる。行ってみてもやっぱり入り口は見当たらない。 ただ目の前にあるのは小さな岩の山。大きな岩に寄りかかるようにして出来たそれは、とても洞窟の入り口には見えないけれど。私たちには何となくその意味が分かった。 「……なるほど。ガリア、この洞窟、お前が見つけて隠してたんだろう?」 「……うん、本当は何かあったときにこの洞窟が使えるかな、って思って隠してたんだけどね。これも何かの縁だし、君たちに譲るよ」 小さな岩の山を少しどけると、そこには立派な洞窟の入り口が。中も結構広いから、これなら私とドラクが入っても楽々住めるだろう。ご丁寧にとがった岩は削ってあるようだ。 これだけの住処を譲って貰ったのだ、何もお礼をしないわけにはいかないけれど。何もお礼出来そうな物を持っていない。と、ドラクが水の入った容器を地面に降ろしてから、ガリアに向かってその一つを放り投げた。 「たぶんこの辺りじゃ、木を切って加工するなんて奴は居ないんだろう? ガリアのその手じゃ使いづらいと思うけど、お礼だと思って受け取ってくれ。悪いな、他に何も無くって」 そういえば最初にガリアに出会ったときも、この容器に興味津々だった。私だって初めて見たときは何かと思ったのだから、ましてや森なんてないこの辺りじゃかなりの貴重品になるだろう。 私も抱えていた容器を地面に転がしてから、その一つを手にとってガリアに渡す。まだあと十個以上は残っているから、渡しても問題はないだろう。ただ、ガリアの身体だと使えるかどうかは分からないが。 「い、いいの? ……木を切るなんてもったいなくって出来ないけど、別の場所ではこんな風にして使うんだね。ありがとう、ドラク、ゼルア」 どうやらガリアにも満足してもらえたようだ。ただ、あの爪だけで容器の蓋を外すのは至難の業だろうけれど。足も使って上手く固定すれば出来なくはないか。 その辺りはガリアに任せることにしよう。最悪仲の良い友達に開けてもらえば大丈夫だろうから、使えない……なんて事にはならないだろう、たぶん。 「それじゃあ僕は住処に帰るね。ここから西に真っ直ぐ進んだところの洞窟が僕の住処だから、何かあったらいつでもおいでよ」 じゃあね、と手を振ってガリアを見送る。颯爽と地を蹴って、あっという間に風を切って飛んでいくガリア。良い友達になれそうだ。私とも、ドラクとも。 やっぱり噂通り、この砂漠は随分と和やかな雰囲気がある。それもこれも全部、あの大きなオアシスのおかげなんだろう。あれだけ大きければ食料にも事欠かないはず。 これからの生活が楽しみだ。案外私たちをすんなりと受け入れてくれるポケモンも多いかもしれない。今まであまり作れなかった友達も、きっとたくさん。 そして何よりも、私の一番大切なパートナーが側にいる。似た者同士という縁で出会ってから、随分と長い間一緒に過ごしてきた、かけがえのない相手。 どちらもが「異常」を抱えていて、その所為で独りぼっちだったけれど、今は違う。友達もいるし、パートナーも居る。私はもう……独りぼっちじゃない。 「ねえ、ドラク。……今更だけど、これからもよろしくね」 「……ああ、こっちこそよろしくな、ゼルア」 お互いの顔を見つめ合って、改めて言葉を交わす私たち。夫婦って言うよりはまだまだ恋仲同士、という気分だ。お互いもっともっと打ち解け合っていけるはず。 ただ、まずはそのきっかけとして。お互いを認めて、お互いと共に暮らす、約束の証のような物を。言わずとも私の、そしてドラクの顔が近づいていって――。 ---- -あとがき 某所で投稿したときは一万字程度だったのですが、今回リメイクしてみるとなんと三万字オーバー。長ったらしくなっちゃったような。 色違いは人間には人気がある……といってもそれはそれでまた一つお話が書けそうなものですが。人気があるからこその問題もあるのです。 そして今回は寧ろその逆。集団と違う、というのは色々と辛い一面もあるはず。そんな中で仲良くなっていく二匹が書けていたらな、と思います。 ほとんど触れられていませんが、ドラクはドラクでまた辛い思いを沢山しているんです。それについてはまたいつか。 辛い思いをしてきたからこその幸せです。安住の地も見つかったようで、是非ともこれからは楽しく暮らしていって欲しいですね。 ふりゃーはやっぱり可愛いです。なによりえろい。リザードンも個人的には好きな仔なのでとっても書くのは楽しかったですw 残念ながらふりゃーの卵グループは違うんですが。ドラゴン入れてあげても良いと思うんですけどねー。 ドラクのキャラも今回揺れが激しいです。基本は冷静でかっこいいイメージですが、ゼルアの前だと途端に……。 まあ、全部含めてドラクらしさ、なんでしょう。見た目とは違って案外優しいところもあるんです。 そしてゼルアは強いです。とにかく強い。ふりゃーも舐めちゃ駄目なのです。なんかゼルアなら"りゅうせいぐん"打てそうですね。 さて、リメイクに当たってはラストを大幅に変えてみました。というか、ここがリメイクでの一番メインの場所のつもりです。 木の実もあるかないか分からない、他のポケモンとの厳しい競争を勝ち抜かなければならない砂漠からの移住。 海を越えて辿り着いた先には例のオアシスと、例のポケモンが……ということで、色々と理由があってこんな繋がりに。 まずは快く受け入れて下さった[[カゲフミさん>カゲフミ]]に感謝を。もちろんガリアの台詞もチェックしていただきました。 ただ書いたのは自分だったり。他人の仔を書くのは非常に大変。自分の中でガリアのイメージをしっかり作りつつ書いてみました。 書く間はずっと[[純朴の地]]とのにらめっこでした。ガリア可愛いよガリア。今回も湖に落としちゃってごめんなさいw そんなこんなで今回のお話はこれで終わりです。またそのうちこの二匹を書きたいものですね。 それでは、最後まで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。また次回作でお会いしましょう。 【作品名】 砂塵に霞む「異常」 【原稿用紙(20×20行)】 104.5(枚) 【総文字数】 36018(字) 【総文字数】 36022(字) 【行数】 611(行) 【台詞:地の文】 10:89(%)|3936:32082(字) 【漢字:かな:カナ:他】 33:62:4:-1(%)|12129:22585:1749:-445(字) 【台詞:地の文】 10:89(%)|3936:32086(字) 【漢字:かな:カナ:他】 33:62:4:-1(%)|12131:22587:1749:-445(字) ---- #pcomment(砂塵に霞む「異常」/コメントログ)