作[[呂蒙]] セイリュウ国ではちょっとしたことがブームになっていた。 バショク=ヨウジョウは、その日も朝早くに目が覚めた。太陽がゆらゆらと昇ってくる直前の時間、空はまだ群青色である。 (ああ、腹減ったなぁ……) 着替えて、近くのコンビニエンスストアに出かけて、中華まんを2つ買ってきた。無論、全部自分で食べるために、だ。家に帰ると、ラプラスはもう起きていた。 「あ、やっと起きたか」 「最近珍しいね、早起きして」 何故かは知らないが、早寝早起きがブームになっているのだ。テレビのニュースでもやっていた。食事を終えると、お茶を飲んでから、薬を飲む。最近バショクは、朝食後と夕食後の2回、決まって薬を服用しているのだ。 しばらくして、バリョウが起きてくる。 「あ、おはよう。朝御飯、用意しておいたから」 「ん……」 バショクが指差した先には、シリアルとミルクが陶器の器の横に置かれていた。 (たまには作ってくれてもいいのに) 手抜きの極みではあるが、別に嫌いな食べ物ではないので、文句は言わなかった。 どこからか声が聞こえる。どうやら自分のことを呼んでいるらしい。が、頭がぼーっとしてしまい、体が言うことを聞かない。返事をしないでいると、氷水が頭上から降ってきた。 「わっ、冷めたっ! 何だ?」 「あ、起きた?」 バショクを襲っていた眠気は一瞬にしてどこかへと消え去った。バショクは何か言いたそうな目で、ラプラスの方を見たが、何も言わずに脱衣所へタオルを取りに行った。脱衣所からバショクのくしゃみが聞こえた。そもそも、ラプラスの発射する水はただの水に比べてかなり温度が低い。ああなるのも無理はない。もしかしたら別の原因かもしれないが。 その状況は、リクソンも同じような感じであった。彼もまたどちらかというと、夜更かししがちだったのが、最近は朝方の生活になっている。それ自体は健康的で体にとってはとてもいいことなのだが、一つ問題が起きていたのである。 「あーっ、くそぅ、まただ」 「ん?」 サンダースとブラッキーがパソコンの画面の前にいる。リクソンの家にはパソコンのゲームはあったがテレビゲームは無い。以前、サンダースがハードを間違って踏んでしまい、壊れてしまったのだ。それ以来、リクソンは極力、床に物を置かなくてもいいようにし、またその必要があるものは買わなかった。 「おーい、リクソーン」 「どうした?」 「『トモサダ』はゲームが始まってすぐに夜襲で死んじゃうだろ? 回避する方法ないのかよ」 「ああ、それなら兵を引かせるか引かせないか聞かれるから、引かせるを選べば、回避できるは……」 「ん?」 言葉を言い終わる前に、リクソンは大きなくしゃみをして、ちり紙を取りに行った。鼻をかむ音が聞こえる。強くかみ過ぎな気がしないでもないが、こうしないと鼻がつまって苦しいとリクソンは言うのだ。まあ、かまないでいられるよりはずっと清潔だが。網戸から春の暖かい風が吹き込んでくる。熱すぎず寒すぎない最高の季節と言いたいが、例外的にこの時期はつらい。 (くそぅ、今年は特にきてるな) 「やった、討死回避!」 リクソンは好奇心に駆られてパソコンの前に行った。するとまた、くしゃみが出てしまった。どういうわけかは知らないが、サンダースの近くに行くと、鼻がむずむずする。我慢するといっても限度がある。毎日風呂に入れて清潔にしているはずだが、万が一のこともある。もしや、ノミやシラミがサンダースの体についているのではないか、そう思って体中をくまなく探したが、そのようなものはいなかった。あらぬ疑いをかけられ、サンダースは不機嫌そうだった。 「いやぁ、悪かっ……たっ」 「わっ、唾が飛んだ!」 「悪い」 またもくしゃみ。実は、他のポケモンたちの側に行くと、似たようなことが起こるのだが、シャワーズの側ではほとんど起こらず、サンダースの側だと重症化する。無論わざとやっているわけではないし、それは皆も良く分かっている。が、ちょっとした謎であることに変りは無かった。 「ねー、リクソン。今日のお昼御飯は?」 「あ、今買ってくる」 やはりシャワーズの側では何も起こらない。やはり、いつも飲んでいる薬は効いているようだ。外は暖かい南風が吹いている。実に快適だ。あの脅威さえなければ。 その頃、ハクゲングループ会長のシュウユは様々な部門の担当者から報告を受けていた。 「と、いうことは、業績が伸びているのは、電機関係と薬、か……。今年はひどいって言うし、大体の想像はつくがな。あ、そうだ新製品の方の宣伝はどうなってるかな?」 「はい、テレビのCMをはじめ、様々なところで宣伝を行い、出だしは好調です」 「そうか」 あらかた報告が終わり、会長室にシュウユが一人残される。その部屋のゴミ箱には使用済みのティッシュがあふれんばかりに入っていた。シュウユにとってもこの季節はつらい時期であった。決算の事もあるが、どうも鼻がむずむずするわ、くしゃみが出るわで、仕事がはかどらない。新たに開発させた薬の方も売れ行きは好調だというが、効き目は強いが、眠気を催すという副作用があった。最近のはやりの事も耳にはしていたが、売れ行き好調の新薬との関連があるにしろ無いにしろ、あんまり素直に喜べなかった。 その夜、リクソンたちがテレビを見ながら晩御飯を食べていると、テレビCMが流れた。普段なら気にしないのだが、ハクゲングループ製の製品だとつい目が行ってしまう。 (空気清浄機の機能が付いているエアコンか) 『静電気の力で花粉を粉砕……』 「ん?」 「リクソン? どうかした?」 「あ、いや、別に」 そうは言ったものの、どうしてもさっきのCMの文句が頭から離れない。どうにも引っかかるところがあったのだ。 食器を片づけると、リクソンはある実験を行った。書道で使う半紙を小さくちぎったものをたくさん用意した。そして、7匹を呼んでくる。 「どうしたんですか?」 「どうしたの」 皆そう言うが、リクソンは何も言わずに、先ほどの半紙をおもむろに上に投げた。すると、多くの半紙はサンダースの方に吸い寄せられていった。 「やっぱり、そうか!」 「へ?」 つまりこういうことだ。花粉がサンダースの静電気で引き寄せられていた、と。このことを直接リクソンが責めることは無かったが、以後、念入りに部屋の掃除を行うようになった。花粉が飛ばないように部屋中を水ぶきし、極力窓は開けないようにした。午前中はそれに時間を費やす。短針と長針が頂上で重なる頃、リクソンはテーブルに突っ伏して寝ていた。その原因が薬によるものか、別の原因かは分からなかった。 しばらくしてシュウユは1匹のポケモンを雇うことにした。自社製品の花粉症の症状を抑える薬は社員たちの間でも、人気で服用する人が多いのはいいことなのだが、朝飲むと、午前中に眠くなってしまい、仕事の能率が落ちてしまう。かといって、眠気覚ましの薬を飲むというのも体の健康上好ましいものではなかった。そこでシュウユは新聞の求人欄というか求ポケ欄に広告を出した。 『目覚ましビンタができるポケモン募集中。容姿端麗なポケモンは基本給+20%にいたします。その他詳しいことは、ハクゲングループ本社人事部採用課まで』 #Pcomment