#include(第七回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle) *百八の鐘が鳴るときに [#3ZChX39] writer――――[[カゲフミ]] 慣れない山道の傾斜に戸惑いながらもエルバはどうにか段差を登りきった。連なった石段の距離や冷たさよりも、階段の高さが一定でないことのほうが膝に堪えていたかもしれない。綿密に設計された街中のものとは違う、山奥の寺院へ向かうときに使う階段だ。設計もざっくりしているようだ。それでも真ん中の部分にだけ落ち葉や苔が見当たらないことを考えると、案外通行はあることを伺わせていた。時刻は薄暗くなり始めた夕暮れどき。所々に人やポケモンの姿は見えるがまばらだった。エルバはきょろきょろと辺りを見回す。トレーナーに言われるがままこの寺に来たはよいものの、これからどうしたものか。 「こんばんは」 突然声を掛けられてエルバが振り返るとそこにはフローゼルの姿があった。この寺にいるポケモンだろうか。どこか落ち着いたその風貌はここへ初めて訪れた者ではなさそうな雰囲気がある。 「あ……こんばんは」 「参拝の方かい? 本堂ならここをまっすぐ進んで突き当たりを……」 「いえ、僕は自分のトレーナーに勧められてここで修行してくるよう言われたんですけど。具体的に何をすればいいのかさっぱりでして」 修行というエルバの言葉を聞いた途端にフローゼルの顔つきが変わる。両手を腰に当てて頭の先からつま先までじっくりと。エルバを念入りに眺め始めた。なんだか自分が値踏みされているみたいで居心地の悪さを感じたエルバは、何なんですかとフローゼルに訪ねていた。 「なるほどね。君の言う修行には心当たりがあるよ。一緒に来てくれるかい?」 「はあ。……分かりました」 トレーナーといいフローゼルといい、細かい説明不足感は否めない。だがフローゼルの妙に落ち着き払った態度や修行に関して知り尽くしているような感じは真実味を帯びている。釈然としないものを抱きながらもエルバは足早に歩くフローゼルの後に続いた。 エルバが案内されたのは大きな本堂と比べるとかなり小ぢんまりとしたお堂だった。木製の扉を開けて中に入ると古びた建物の独特の匂いが鼻にまとわりつく。部屋の四隅に設置された電灯で堂内は仄かに明るかった。足を踏み出すたびにぎい、と木造の床が軋む音。お堂の中央まで行き着くとフローゼルはくるりと振り返り、エルバに腰を下ろすように促した。最初は足を崩していたエルバだったが、フローゼルがきっちりと正座していたので慌てて足を組み替えて座り直す。冬の空気を含んだ木の床の感触が足の裏に冷たかった。 「紹介が遅れたね、私はミト。この寺で修行の手伝いをさせてもらってる」 「……僕はエルバです。よろしくお願いします」 ミトの言う修行が何を指すのか分からないまま、とりあえずエルバは自己紹介をしておいた。このフローゼルに世話になることは間違いなさそうだし、いきなり案内されたので挨拶もまともに出来ていなかったので。 「さて。この寺をトレーナーに勧められたということは、君に悩みがあるからだろう?」 「ええと、はい」 「ではまずはその悩みを話してもらいたいな」 「えっ」 いきなり踏み込んできたミトにエルバは思わず声を上げてしまう。最初の出会いからしても、どうにもこのフローゼルは唐突なことが多い。確かに悩みを抱いているのは事実ではあるが。それは初対面の相手、しかも異性であるミトに話すようなことではないとエルバは認識していた。同性である自分のトレーナーにはどうにか打ち明けることができたが、異性だったら抵抗があったかもしれない。 「悩んでいる事柄がはっきりしないと、修行も始められないんだが。言いづらいかい?」 「……はい」 「じゃあ、当ててみようか」 煮え切らない態度のエルバをよそに、妙に自信有りげに微笑むミト。静けさを湛えた黒い瞳にじっと見つめられると心の内側まで見透かされてしまいそうな感覚になる。彼女が自分の何を分析しようとしているのか。波導ポケモンであるルカリオが出会って間もないフローゼルに先に心を読まれてしまったのでは世話がなかった。 「君が悩んでいるのは異性のこと。……もっと生々しい言い方をすれば異性の体だ。違うかい?」 「ど、どうして……?」 思わず立ち上がって、後ずさりしてしまいたくなる気持ちを必死で抑えながら。震える声でミトに問いかけるのがやっとだった。 「そんなに怯えないでくれ。とって食ったりはしないさ。修行目的でここに来るポケモンとくれば大体はそうだからね」 本人は冗談のつもりなのだろうが、本当に食われてしまいそうなくらいエルバはミトが作り出した場の空気に飲み込まれそうになっている。一見自分より一回り年上のどこにでも居そうなフローゼルなのだが、彼女の笑顔の奥は底が知れない感じがした。エルバとは対照的にどっしりと構えて何事にも動じなさそうなミトは手馴れている感じがする。これまで何度も自分と同じようなポケモンを見てきたのだろう。下手に繕おうとするよりもここでは肩の力を抜いたほうが楽になれそうだ。 「続きは僕から話します。というか、話させてください」 「聞かせてもらうよ」 自身の抱えている問題をあれこれ指摘されるかのように言い当てられるのはあまり気持ちの良いものではない。もちろん小っ恥ずかしさは残るものの、まだ自分の口から喋ったほうがましだった。どこか吹っ切れた様子のエルバに、ミトの表情も柔らかくなったように見える。一度大きく息を吸い込んでふうと吐き出した後、エルバはゆっくりと話し始めた。 「リオルの頃はなんともなかったんですけど、最近ルカリオに進化してからというもの。どうにも他の雌のことが気になってしまうんですよね」 トレーナーと一緒に街を歩く機会があっても、異性とすれ違うとつい目で追いかけてしまっていたり。外で野生の雌ポケモンと出くわして、ぼうっと見とれていると技をくらって吹っ飛ばされてしまったり。雌に気持ちを乱されていると感じることが多々あったのだ。 「なるほど。それで気が散って物事に集中できない、と」 「はい……特に困るのはトレーナーとのバトルのときですね。相手が雌のポケモンだったりすると思うように戦えない時が多くて」 全身を使って技を繰り出すバトルは、激しい動きになることも多い。ふとした拍子に、相手のポケモンの体のラインが気になってしまったり、自分の技を受けて仰向けに転がった姿にどきりとしてしまったり、思い返していくときりがないくらいだ。どちらかというと肉弾戦よりも、念力にも近い波導の力を駆使した戦いを基本とするエルバにとってバトル中の精神の乱れはかなりの痛手だった。本来勝てていたはずの戦いで、自分が雌に心を奪われたせいで負けてしまったことも少なくなかったのだ。 「異性に興味を持つのは君くらいの年齢になれば自然なことだが……どうも君はその欲求がいささか強いみたいだな」 「自覚はしてます。僕はどうすればいいんでしょうか?」 「ふうむ。そんな欲求不満な気持ちは、ある程度自分で処理してるんだろう?」 呼吸をするかのようにぐっと間合いを詰めた質問を投げかけてくる。自分の領域に土足で踏み込まれているようで、エルバは戸惑いを隠せなかった。このお堂の中に入ってからというもの、躊躇いがないミトの発言に感情を揺さぶられっぱなしである。 「もし深い関係にある雌ポケモンでもいるのなら、そこまで他の子を意識しないだろうからね」 「え、えっと。はい」 エルバに恋人と呼べる相手がいないのは図星である。むしろミトの言葉は図星しかないような気さえしてきた。第一印象でも良いなと思える雌には何度も出会ってきたが、もともとトレーナーの元でバトルに明け暮れる日々。対戦相手としての関わりはあっても、そこから先に繋がらない。主人と交友関係が深いトレーナーの手持ちに同じ年頃の雌でも居ればまた話が変わってくるだろうが、なかなかそうもいかないのであった。仮に居たとしても、真面目で奥手気味なエルバに雌ポケモンとそつなく交流ができるとかと言われればそれもまた別問題になってくる。 「自分の手だけじゃ物足りないわけだ」 身も蓋もないとはこのことか。顔を赤くして俯いてしまうエルバ。顔どころか、耳先から背中、足先まで全身が熱を持っているような感覚がした。今なら炎タイプの技を受けても効果抜群にならないかもしれない。 「ごめんごめん、どうも遠まわしな言い方は苦手でね。こういうことは腹を割って話すべきだと思ってるから」 「は、はあ。その……物足りないというほどではないんですけど。処理しても時間が経てば元通りなので、はい」 「なるほど。若いなあ」 「ああもう、茶化さないでください。僕は真剣に――――」 なんだか妙に嬉しそうなミトの様子に、さすがのエルバも苛立ちを覚えてくる。このフローゼルは本当に修行を行ってくれるのかも眉唾で、ただ自分をからかっているだけのように思えてきて。立ち上がりそうになったエルバを、ミトの右手が制していた。鼻先に水タイプ特有の少し湿った感触がする。彼女はいつの間に立ち上がっていたんだろうか。自分が膝に力を込めようとしている間に、瞬時に足を踏み出していたのだとすれば相当な身のこなしのはず。 「分かってる。君が本気でなんとかしたいと思ってることくらい。この時期に打って付けの方法があるんだ」 「……本当ですか?」 確かにこのフローゼルは只者ではない。普通のポケモンがちょっと特訓したくらいで得られる技術では軽く及ばない底知れぬ何かを持っている。それくらいはエルバも感づいていた。ただ、自分の悩みを真摯に受け止めて修行に付き合ってくれるかどうかはまだ信頼が置けていない状態だ。いつしかエルバが彼女に向けていたのは疑惑の視線だった。 「ああ。私は日を跨ぐ一時間くらい前にまた来るから、君はそれまでここで精神を集中させておくといい」 細かい説明はその時に、とだけ言い残してミトはお堂を出て行ってしまった。呼び止めようとしたエルバの声は扉がばたりと閉まる音にかき消されてしまった。 「何なんだよもう……」 はあ、とため息混じりに床に座り込むエルバ。本当にこんなことで修行になるのだろうか。ミトは自分の気持ちを掻き回しただけで、そのまま戻ってこないんじゃないだろうか。膨らみ始めたエルバの疑念は薄暗いお堂の中をふわふわと漂い始める。とはいえわざわざこんな山奥のお寺まで足を運んだのだ。このまま何もしないで戻るのは癪だった。日付が変わる一時間くらい前、とミトは言い残していった。辺りはもう真っ暗になっていたから彼女の言う時間まで大体四、五時間と言ったところか。実戦で使えるほど強力なものではないが、念力の心得も多少はある。気持ちを静めて瞑想するというのもそこまで苦ではなかった。外界の喧騒とは無縁なこの空間ならば、心を無にするには適していると言える。エルバは足を崩して胡座をかき両手を組んだ足の上にそっと添えると静かに目を閉じた。 足音がした。時間が経つにつれて徐々に増え始めた人やポケモンの気配とはまた別のそれ。静かにこのお堂へと近づいてきて、そして。 「待たせたな」 ぎい、と扉を開く音。エルバがゆっくりと瞼を持ち上げるとそこにはミトの姿があった。一応、ちゃんと来てはくれたのか。忘れられていたわけではなかったようだ。 「君の異性に対する悩みは、おそらく煩悩によるものだ。煩悩を上手く発散させてやればきっと心が軽くなると思うよ」 「煩悩?」 「そう。煩悩と一口に言っても怒りの感情や怠惰な心、あれもこれも欲しがる物欲だったり、色々とあるんだけれど。君が抱えている色欲もその一つとされている」 「じゃあ、その煩悩のせいで僕は苦しんでいる、と?」 初めてミトの台詞から説得力を感じたかもしれない。煩悩というのはとにかく良くない感情がたくさん詰まったもので、自分が雌に抱いてしまう劣情もそこからくるものだと彼女は言っているらしい。聞き慣れない単語ではあったが、言葉の響きから良いものではなさそうだとエルバも感じ取った。 「おそらくはね。実際、私を前にしても君の煩悩は時折現れて、君を支配しようとしてるようだし」 「えっ」 「ときどき私の腰周りに視線が泳いでいたような気がしたけれど、気のせいだったかな?」 「や、そ、そんなことは……はい」 気のせいです、と胸を張って言えるほどエルバの心は強くなかった。別にずっと凝視していたわけではない。こう、会話の間で一瞬彼女の腰の方へ目が行ってしまったことが数回あっただけのこと。日々この寺で鍛錬しているからなのか、ミトは腹や足腰の筋肉も引き締まっているようで。健康的な肉体がエルバの目には魅力的に映ってしまい、つい釣られてしまっただけ。やましい気持ちはそこまでないつもりだった。まあ、ちょっとはあったかもしれない。何かと鋭そうな彼女のことだし、エルバの不自然な視線に気づかないはずがなかったのだ。 「正直でよろしい。私もまだ捨てたもんじゃないな」 そうやって笑って流してくれた方がまだエルバも気が楽だった。ミトが自負するくらい彼女の肉体は本当に年齢を感じさせないというか、そこそこ年の離れているであろうエルバも十分釘付けにしてしまうくらいの魅力は確かにある。あんまりこんなことを考えているとまた、腰の方に目が行きそうになってしまうのでほどほどにしておいた。 「では、本題に移ろう。除夜の鐘は知っているかい。年の暮れの夜、鐘を鳴らす音を君も一度は聞いたことがあるだろう?」 「なんとなくは。意識してなかったんで、曖昧ですけどね」 年の区切りとしてそうした行事があることはエルバも知っていた。しかし自分のトレーナーは割とそれらに無頓着で暦に沿って何かを行うタイプではなかった。新しい年を迎えても特にかしこまった挨拶もせず、普段通りに過ごす。それが当たり前になっていて、エルバもトレーナーの振る舞いに疑問を抱いたことはなかったのだ。 「あと数分もすればうちの寺でも鳴り始めるよ。年が明けるまでに鐘を百八回鳴らすんだ」 「……多いですね。回数には何か意味が?」 「百八は煩悩の数と言われている。年明け前の夜から一つずつ鳴らしていく。一つ鳴らすたびに、一つ煩悩を打ち払うんだ。そして、新しい年を迎える瞬間に百八回目の鐘を鳴らして、心身共にすっきりした状態で新年を迎えようというわけさ」 遠くで響いていた鐘にそんな意味が込められていたとは初耳だ。トレーナーの影響もあってエルバも行事ごとには無関心であったが、ちゃんと成り立ちを学んでみるとなかなかに興味深い。ただの迷信だと切り捨ててしまえばそれまでだが、多くの人々に拾われているからこそ年の瀬にあちこちで鐘の音が聞こえてくるのだろう。 「なるほど。ではその音をここで聞く、と?」 「話はそんなに単純じゃない。君は本当に音だけで問題が解決すると思うかい?」 「……いいえ」 エルバは首を横に振る。確かに独特の響きがある鐘の音を間近で聞けば、一風変わった空気を投げ込んでくれるかもしれない。それでエルバの心が一時的に落ち着いたとしても、時間が経てば元通りではここへ来た意味がないのだ。心が乱れるからといって常に鐘を聞きながら生活するなんて不可能である。 「その通りだ。もっと根本的なところを片付けねばならない」 ミトの視線がすっと下へ向けられる。その先にあったのはエルバの下半身。確かに目の動きに違和感があった。ミトの腰に目を奪われていた時の自分もこんな目つきをしていたのだろうかと思うと居た堪れないな、などと呑気に分析している場合ではなかった。 「だから、私がこれから鐘の音に合わせて君の煩悩を処理してあげよう」 すっと腰の方へ手を伸ばされて、思わずのけぞるエルバ。腰、と表現はしたもののあと少し位置がずれていれば完全に。ミトの言う煩悩とやらが何を指していたのか理解できないエルバではなかった。 「あ、あああの、こういうのはちょっとっ!」 「ふふ。私じゃ年上過ぎて物足りないかい?」 にやり、と微笑むミト。意地悪な質問だな、とエルバは思った。もともとミトが彼の好みから外れていれば、最初から彼女の腰周りを目で追いかけたりしないというのに。ミトは自分がエルバの目にどんな風に写っているか分かった上で問いかけている。 「そ、そういうわけでは……」 「なら問題ないだろう。間もなく始まる。一回鳴るたびに音に合わせて手を動かしていく。タイミングよく百八回目に合わせて煩悩を吐き出せば、きっと君は新たな境地に立てるはずだよ」 至って真剣な表情で語るミト。ひょっとするとこれは自分が知らなかっただけで、古くからある決め事なのではないかとエルバは信じてしまいそうになる。そこへやらしい気持ちを介入させてしまうこと自体、愚かな行いなのだろうか。 「まあ、君がどうしても嫌だというなら無理にとは言わないけど」 伸ばしかけた手をすっと引っ込めるミト。僅かでも名残惜しさを感じて、引き下げられた手を目で追いかけてしまった時点でエルバは既に手遅れだったのかもしれない。ただでさえ心に隙ができれば次から次へと雌を求めてしまう状態のところへ、こんな誘いかけをされて断れようか。 「……わ、分かりました。お願いします」 ミトに選択肢を与えられてから、エルバが返事をするまでにそれほど時間は掛からなかった。想像していたのとは違う形ではあったが、これで少しでも自分の迷いを晴らせるのなら。羞恥心なぞすべて飲み込んでしまうような意気込みで。 「良い返答だ。さ、力を抜いて……」 今度は遠慮なくエルバの肩と腰に手を当てると、ミトは彼をあっという間に床へ転がしてしまう。もちろん彼自身の意思もあったが、半分くらいはミトの力が働いていたような気がする。なんだか自分を床へ寝そべらせたときの手つきがひどく熟練されていたように思えたことは深く考えないようにした。 冬の夜の空気に当てられた床の冷たさも徐々に感じなくなってきている。仰向けになったエルバの隣にはちょうど彼の腰のあたりで待ち構えているミトの姿。最初の鐘が鳴り響くのを待っているこの間は、一人で瞑想していた時間の何倍にも思えてきた。鳴るならいっそのこと早くという気持ちと、まだ心の準備が出来ていないから待ってくれという気持ちがエルバの中でひしめき合っている。そんな彼の心情を知る由もなく、無情にも始まりの鐘が響き渡った。一種の試練の開始を告げる音でもある。ミトの手がすうっとエルバの股間を撫でていった。馴染みのある自分の手ではなく、他の者に触れられるのはもちろん初めてのこと。触れられた箇所と時間は僅かであったにも関わらず、彼の股間の煩悩はむくむくと頭をもたげ始めていた。 「少し、気が早いんじゃないかい?」 これにはさすがのミトも苦笑い。エルバは彼女の顔を直視できずに微妙に目線を逸らしている。僕の煩悩はすごいんですよなどと開き直る図太さは彼にはなかった。そんなに最初から反応しないで、というエルバの意思も虚しく撫でられた一物はじわりじわりと大きくなっている。 「私が手加減して触れる回数を稼いだのではあまり意味がない。出来るだけ一定の力加減でいく」 「……はい」 少なくともあと百回以上は彼女の手から来る刺激に耐えなければならない。耐えるのが難しそうだからといって力を抜いていたのでは修行の効果が出ないということなのだろう。この行為の是非はともかく、ミトがこの修行に真摯に取り組んでいることはエルバにも理解できた。 「これは君の精神的な鍛錬にも繋がっていくはずだ。頑張ってくれ」 「分かりました……んあっ」 二回目の鐘。再びぬるりと伝わってきたミトの手の感触にエルバは思わず甘い声を上げてしまう。まだまだ先は長そうだった。 「まだ、やれそうかい」 「は、はい……どうにか」 ようやく中盤に差し掛かり始めたくらいのところ。鐘の回数が二桁になった辺りで既にエルバの煩悩は完全に臨戦状態。薄明かりの中でも分かる健康的で張りの良い桃色の肉棒がぴんと直角くらいの角度で上を向いている。見た目としてはいつ煩悩を吐き出してしまってもおかしくないくらいであったがエルバはよく耐えていた。異性のフローゼルに股間を弄りまわされていると考えると余計に興奮してしまうので、エルバは極力何も意識せずにぼんやりと天井に視線を送っていた。今のところはそれでやり過ごせているが、今後もこの手段がまかり通るかどうかは怪しい。何しろまだ半分も越えていないのだ。そうしている間にも、次の手を促す鐘の音が容赦なく鳴り響く。 「んぅっ……」 優しく、それでも緩すぎない力で絡みつくミトの指先。回数をこなすうちに彼女の手の動きもなんだかスムーズになってきたような気さえしてくる。エルバの煩悩の先端からはとろりと先走りの雫が零れ出て、自身の肉棒をぬらりと光らせていた。竿を刺激されれば果ててしまう、健康な若い雄としての一般的な生理現象。それを理性で押さえ込むのは下手なバトルより精神力も体力もずっと消耗する。確かにこれは修行と言っても差し支えないくらいの消耗はあった。 「正直、君のことを見くびっていたよ。四分の一くらいで脱落すると思っていたんだけれど」 「それって……褒めてるんでしょうか?」 「もちろんだとも。どこまでやれるか、見せてもらうよ」 「は、はいぃ……」 賞賛されているらしいミトの言葉もエルバは受け止める余裕がなかった。断続的でこそないとはいえ蓄積された刺激は着実に彼を射精へと促していく。一瞬でも気を抜いてミトの手つきに身を任せてしまえばあっという間にエルバの煩悩は爆発してしまうだろう。だからこそできる限り彼女の存在を意識しない方向で、自身に掛かる性的興奮を最小限に収めなければならないのだ。 「あぅ……」 次の音、そしてミトの手。エルバの背筋にぞわりとしたものが走る。精神的な部分は遮断できても、物理的な刺激は対処のしようがないのがこの作戦の欠点ではあったのだが。 「あ、はあっ……」 鐘の音は既に終わりへと向かい始めていることは、エルバにも何となく伝わっていた。彼の股間を中心にお堂の床に広がった染みは彼の精神力の証とも言えるだろう。留まりきらなかった我慢がいつしか床の色まで変えてしまっていた。 「こんなところまで来られるなんてな。もうすぐ百回に到達する、あと一息だ」 「そ、そうなんです……ねっ」 いつ達してもおかしくない状態で、何度も何度も繰り返し生殺しを味わったエルバの目は半分虚ろになっていた。声も上ずっており自分がちゃんと喋っているのかどうかの自覚もないくらいだった。 「辛いとは思う。だがちゃんと最後で煩悩を吐き出せるように意識するんだ、いいね」 「は、はひっ!」 少しでも気を抜くとここまで耐えに耐えてきた苦労が水の泡。残りの鐘の音はきっと数えるくらい。今まで通りでいい。最後まで持たせられるように集中して。エルバの返事とほぼ同時、に次の鐘が響き渡る。達成の可能性が近づいてきていてもミトの手は躊躇いを許さない。ぬるりと煩悩を撫でる手は今までと変わりなく。変わりないはずだったのに、エルバの目の前がぐらりと揺らいだ。十数回目の鐘の音で限界まで膨張しきった後は、そのままの大きさで平静を保っていた彼の肉棒がぴくぴくと震えだす。エルバが自覚している限りでは、自分の一物そこまで耐久力はなかった。自分で処理するときも雌のことを考えながら手を動かしていればそれなりの回数で達していたように思う。一般的な耐久性のところを、いくら官能的な意識を外へ外へ追いやって限界を引き伸ばしていってもどこかで誤魔化しが効かなくなる場面が来てしまうのだ。そしてそれは、きっと。 「ああぁっ……」 「た、耐えるんだエルバ。あと少し我慢すれば……!」 「で、すが、も、もうっ」 熱いものがぐんぐんと自身の下半身へと、煩悩へと集中しているのが分かる。一度決壊してしまった意識はもう止めようがない。荒れ狂う激流を貧弱な一枚板でせき止めるのは不可能というものだ。そこへ追い打ちを掛けるように、鐘を鳴らされるものだから。一瞬ミトの表情が歪んだように見えたが、それでもすかさず手を伸ばしてくる。彼女の手が触れて、竿の半分辺りまで行ったところで完全にエルバの煩悩は弾けてしまった。 「だ、だめっ、あ、ああっ!」 最後に鳴った鐘の音の反響に合わせて、エルバの肉棒はぶるぶると震えて煩悩を撒き散らしていく。彼自身のお腹や腰はもちろん、お堂の床やミトの手や顔にまで次々と。溢れ出た彼の煩悩は留まることを知らないようだった。一通り吐き出し終えてくたりと頭をたれてからもなお、先端からはとろとろと染み出した白が床の色を変えていった。 「あっ、はあっ……」 両手をだらりと投げ出して、お腹を上下させ激しく呼吸をするエルバ。焦らしに焦らしを積み重ねたのが精神的にも肉体的にも相当堪えてはいたが、その分達した瞬間の快感もひとしおだった。これまで自分が幾度となく繰り返してきたものとは比べ物にならないくらいの快楽の波がどっと押し寄せてきて。雌のことも修行のこともバトルのこともすべて投げ出して今はただただこの心地よさに身を委ねていたかった。 「君は、かなり頑張ったよ」 ぽつりとこぼすようなミトの声。新たに耳に入ってきた情報がエルバの意識を徐々に手繰り寄せてきてくれた。外では未だに残りの鐘が鳴り続けている。もうあれは意味がないものなんだなと思えるくらいには、彼は自分を取り戻しつつあった。むくりと上半身を起こして彼女と視線を合わせるエルバ。果てた直後の姿をずっと見られていたのだとすると恥ずかしさが頭を掠めたが、その感情も今更だなと開き直る。 「……いえ、ダメでした」 「どうしてそう思う?」 「百八回目まで僕は耐えることができなかった。煩悩に、負けてしまったんです」 鐘があと何回残っていたかは分からない。ミトの口調からすると惜しいところまで来るには来ていたのだろうけれども、失敗は失敗だ。 「確かにな。だが私個人の気持ちとしては、合格にしてもいいくらいだと思ってる。もしかしたら君が達成出来るんじゃないかって、久々に熱くさせられたよ」 「……恐縮です」 頑なに自身への厳しい態度を貫こうとするエルバに、ミトはやれやれと肩を竦めたようだった。ルカリオの種族は生真面目な性格の者が多くどちらかといえばエルバも種族の性質を備え持っている方。頑張ったのだから結果が芳しくなくても、と楽観的にはなれずにいた。 「まあ、修行の成否は置いておくにして、君の悶々とした気持ちは今までで一番無くなっているんじゃないか?」 「言われてみれば、確かにそんな感じはします。心がふわっと軽くなったというか」 自分で処理したあとに必ずまとわりついていたもやっとした罪悪感。一体自分は何をやっているのだろうかという迷い。もちろん、ミトの手を借りていたからというのもあるだろうが今回はそれらを全く感じなかった。お堂の中は薄暗いはずなのに、すっと目の前が開けたような感覚だった。 「それだけ君の煩悩は大きかったということさ」 少しにやり、としながら頬に飛び散った彼の煩悩をぬぐい取るミト。ふと冷静になって見てみると、自分の煩悩が暴れまわった惨状にエルバは頭を抱えたくなってしまう。咄嗟に謝罪しようとした彼を、ミトがやんわりと押しとどめていた。 「気にすることはない。これくらい覚悟の上さ。おや……」 鳴り響く鐘の音。エルバの意識が曖昧な間も止まることなく続いていた鐘。今まで聞いてきたものよりも一際大きかった。お堂のなかにいてもぐわんぐわんと響き渡るくらいの音。きっとこれが最後を告げる音なのだろうと、エルバも何となく理解した。 「今のが百八回目の鐘だな。新年あけましておめでとう」 「え、あ。お、おめでとう……ございます」 突然ぺこりとミトに頭を下げられて、エルバは面食らってしまった。トレーナーの元では全く馴染みがなかったが、どうやらこれが年を跨いだ時に成すべき挨拶らしい。見よう見まねで彼もミトに挨拶をする。 「よかったじゃないか。すっきりした気持ちで新年を迎えられて」 「はい……これからも煩悩に負けてしまわないよう頑張ります」 「そうだな。後は君次第、かな」 今は発散した直後だから良い。しかし時間が経てば再び煩悩はエルバに襲いかかってくるだろう。生きている限り無くなりはしない煩悩とどう付き合っていくかがエルバの今後の課題とも言える。 「まあ、もし君がどうしようもなく煩悩に苛まれることがあったらまたここに来るといい。もしかすると特別な修行を試してみる機会があるかもしれないからな」 「えっ」 「もちろん君と今年もよろしく、なんてことにならないよう願ってるよ」 「わ、分かってますよ!」 小声でミトが呟いた特別な修行、という言葉の響きになんだか穏やかでない気色を感じて思わず反応してしまったエルバ。彼女の言う修行の内容がどんなものかはともかく、どうやら今年も彼の煩悩は元気いっぱいなようである。 おしまい ---- ・あとがき %%ミト「あけまして、いや、イきましておめでとう、かな?」%% %%エルバ「やめてください」%% ・この話について ツイッターで見た鐘の回数と煩悩のネタがこのお話を閃いたきっかけでした。思いついてからは割とすんなり書き進めることができたように思えます。正月早々こんな話のプロットを書いていて何をやっているんだろうと自問自答したことは置いておきます。 ・エルバについて 煩悩に悩まされる役はルカリオが嵌り役だろうということで難なく確定。理性と本能の狭間で振り回されるのはルカリオ族の宿命なのでしょうか。これまでにも同じように苦悩するルカリオの作品をいくつも見てきたような気がします。余裕のある雌に振り回される雄はとても描写しやすくて、後半は勝手にキャラが動き回っているような感覚で書き進めておりました。リオルから進化してそれほど時間が経ってない、若さと性欲溢れる好青年です。 ・ミトについて エルバの相手役の雌は同じタマゴグループで、ルカリオが魅力を感じる可能性が高そうなポケモンということでフローゼルに。ミミロップやコジョンドも候補にありました。色気を前面に出す感じではなく時折大人の雌の魅力が垣間見える感じをイメージして描写しました。ミトはエルバよりも一回りくらい年上という設定ですが、十分彼の守備範囲なご様子。フローゼルの腰周りは性的。 以下、コメント返し >ルカリオは性欲で煩悶とする生き物なのだろうかと言いたくなるくらい、煩悩に苦しむ姿がはまっていました。百八回も抜き切ることなく途中で止めるプレイはかなりの鬼畜だと思いながら、多分この修行でも煩悩が収まることは無いんだろうなと感じました。 (2018/01/25(木) 22:30)の方 ルカリオの雄はやはりこういうキャラが似合います。今まで登場させていなかった人気ポケモンもやはりベタといえばベタなキャラに収まりました。おそらくこの修行で治まるほど彼の煩悩は小さなものではないでしょう。またミトの修行のお世話になったらそれはそれでおいしいかもしれません。 >ツイッターで見たことあるようなネタをこうして作品に昇華してしまうとはw 逆に煩悩が増えてしまいそうな気がしますが、それはそれで良しとしましょう (2018/01/27(土) 20:20)の方 良くご存知で。ツイッターでのネタを見たときにこの物語が閃きました。リプを返してくださった某氏には頭が上がりません。 性欲旺盛なエルバにとっては逆効果かもしれませんがエルバもミトも満更ではなさそうな感じなので問題ないと思いますたぶん。 >ミトの性技に感心した。 (2018/01/27(土) 23:58)の方 度重なる修行で鍛え抜かれてますからね!! >この真面目に変態を突き詰めていく感じが大好きです。 エルバの心情にもとても感情移入することができて、大変楽しく読ませていただきました! (2018/01/27(土) 23:59)の方 今回も内容は割とアホな感じのことやってますが登場人物は至って真面目なのです。ミトは若干修行を楽しんでいる気がしないでもないですが。 一応エルバ主観の三人称で書いていたつもりですが、最近はどうしても一人称寄りになってしまいますね……。 4票も頂き3位タイという結果に。投票してくださった方々、最後まで読んでくださった方々、ありがとうございました。 【原稿用紙(20×20行)】33.7(枚) 【総文字数】11741(字) 【行数】171(行) 【台詞:地の文】24:75(%)|2919:8822(字) 【漢字:かな:カナ:他】34:63:4:-1(%)|3992:7397:575:-223(字) ---- 何かあればお気軽にどうぞ #pcomment(百八のコメントログ,10,)