writer is [[双牙連刃]] 前の更新から……約半年? 大分更新が滞っておりました。新光、第16話にございます。 ---- 静かな林の中を進むポケモンが一匹。ここに何が居るのかも知らずに入り込み、辺りの様子を伺っている。 それの様子はもう監視されていた。……友が来たかと思い様子を見に来た者によって。 恐らく、監視者が動けばこの侵入者はあっと言う間に物言わぬ屍に変わるだろう。が、それを監視者は特に望んでいる訳ではない。 「やれやれ、なんのつもりか……何もしないならそれに越した事は無いんだけどねぇ……」 そう漏らす監視者とは裏腹に、侵入者はその場に座り込み休む姿勢に入った。……どうやら、この場を荒らすつもりは無いようだ。 「はぁ……害は無さそうだけど、どうしたもんかねぇ……」 そうは言っても、得体の知れぬ相手が自分の縄張りに居れば落ち着かないのは当然の事。寝入ってしまった侵入者を見て、監視者……ジルは溜息を一つ。 恐らく相手は放浪の野生ポケモン。見た事が無い種族である事から、強さ等も分からないので手が出せない。 そこでジルは何かを閃いたようだ。耳と尻尾を立てて、ニヤリと笑った。 「こういうのは……同じ輩に任せちまうのが1番楽だねぇ……くくく……」 上機嫌そうに尻尾を振りながら、林の暗がりの中に姿を消すジル。空には、眩く星の輝く夜のことだった……。 ---- あ、あっちぃ……なんで朝からこんなにあっちぃんだよ。勘弁してくれ。 そりゃあ夏が近付いて暑くなるのは分かるが、朝は多少涼しくあってほしいもんだぜ。 「ふー、あっついねぇ」 「まったくだ。野良の時はこういう時、一日中川に浸かってたりしたがここじゃそうはいかんもんなぁ」 「あ、それ涼しそう。まぁそれほど涼しくはならないだろうけど、アイスコーヒー入れてみたよ」 「おっ、サンキュー」 ふむ、氷が浮かんでるコーヒーってのも不思議なもんだな。味は……ふむ、冷たい方が少し苦く感じるかね? ……ん? なんだ? こんな朝っぱらから呼び鈴鳴らされてるぞ? 「あれ、誰だろ?」 「配達……にしても早すぎるし、奴のダチでも来たか?」 「うーん、こんな朝からって言うのは少し考え難くないかな?」 「確かに。ま、とりあえず出てみるか」 「そうだね。はーい、今出ますー」 レンが玄関に向かったんで俺も一緒に行く事にした。妙な奴なら瞬時にフルボッコだ。 鍵を開けて玄関のドアを開けると……は? なんだぁ? 「あら、やっぱり起きてたわねぇ。野良の感覚は健在ってとこかしら?」 「ライトとレン姉ちゃんおはよー」 「お早うございます」 「ジルさん? それに、ウェス君にグリ君も」 「んぁ? どしたよこんな朝っぱらから」 「あんたと違って、こっちは堂々と人間の町の中をウロウロなんて出来ないんだよ。だから人の少ない筈の朝を狙ってきたのさ」 まぁ、そりゃあ野良のポケモンならそれが普通だわな。って、俺が聞いてるのはそういう事じゃねぇんだよ。 「じゃなくて、なんの用があって来たかって話だっつの」 「まぁ立ち話もあれだし、入って話しようじゃないかい」 「あ、そうだね。どうぞー」 「お邪魔しまーす」 「いやまぁ……どうでもいいか」 なんつーか、一度来た事あるにしても人の家に慣れ過ぎだろ。暮らしてる俺が言えた義理無いが。 リビングに来ると、三匹の鼻が飯の匂いに反応したようだ。分かりやすいのぉ。 「うーん、時間があればご馳走になってくんだけどねぇ」 「なんだ、食ってかないのか」 「この家の人間に会うのも面倒じゃないか。今用があるのはあんたにだし、そんなに長く居ないでお暇するよ」 「あん? 俺にか?」 「なんか僕達が居るところに変な奴が入ってきたんだ」 「それが見た事無いポケモンで、母さんもどうすればいいか分からなくて……」 「放浪者のあんたなら何か知ってるかと思ってね、手を借りにきたのさ」 ほーん、なるほどねぇ。まぁ、俺も色んなところをフラフラしてたから、大抵のポケモンについては知ってるが。 「そんで、どれくらいの実害が出たんよ?」 「食料を奪っていくとかそういう事は無いんだけど、夜な夜な縄張りに入ってくるのがこれで三日目でね。安眠妨害ってところさね」 「あー、そりゃ地味にきついな。今までそいつに接触した事は?」 「如何せん相手の力量も分からないから、迂闊に手も出せないんだよ。さっきウェスが言った通りね」 ふむ、つまりはそいつの正体を調べて、縄張り内に入ってこないようにすればいいと。ま、そんくらいならなんとかなるかね。 しかし夜な夜なってのが気になるところだな。昼間は何してんだそいつ? ……それは俺の考える事でも無いか。どうせ侵入してこないようにすればそれまでだしな。 「んー、そんならちょいと様子見に行ってやるとするか。今はまだあの林に居るのか?」 「こっちに来る時は居たけど、どうだろうね? 日が昇ったら動き出してるみたいだから、もう居ないかもしれないねぇ」 「そんなら今日の夜に様子見に行けばよさそうだな。分かった、引き受けてやるよ」 「助かるよ。これ以上長居されるとこっちが参っちゃうところさ」 話がついたところで……キッチンでレンが飯作ってるところを尻尾振りながら眺めてる二匹に声掛けるとするか。 「おーいお前等、レンの邪魔するなよー?」 「じ、邪魔なんかしてないやい!」 「ただその、お、美味しそうだなぁって見てただけだもん」 「ふふっ、ありがとう。簡単なものにはなっちゃうけど……ジルさん、皆で食べてください」 んや? なんだレン、おにぎりなんて作ってたのか。しかも妙にデカイ。普通のおにぎり二個分くらいあるだろ。それを三つも……。 「あら、すまないねぇ。ありがたく頂くよ」 「やれやれ、こんなに人も食う飯にありつける野良も珍しいな」 「ふん、あんたに言われたくないね。こんな可愛い子が作る食事をいつでも食べれるんだから、野良にしちゃあ恵まれ過ぎさね」 「自覚はありますよーだ」 あだ、舌出して馬鹿にしてたら尻尾ではたかれた。んで振り返ってニヤッとするなし。 でも言った通りジル達はもう帰るみたいだ。もうちょい居ればリィ辺りも起きてきて喜ぶだろうが……そうなると帰り難くなるだろうから仕方ないよな。 しかし、おにぎり咥えたグラエナ親子なんて目立たないか? いや、ジルならそんなヘマしないか。 「うーん、ジルさんがライトを頼ってここまで来るなんて、縄張りに入られるのってやっぱり大変な事なの?」 「簡単に言えば空き巣みたいなもんだって思ってくれれば話は早いかね。誰だって自分の家に勝手に上がりこまれて勝手されるのは嫌だろ?」 「あ、なるほど」 「まぁ、縄張りにゃあ家程明確な線引きはされてねぇから、俺達みたいな放浪者はちと気を付けないとならないんだがな」 適当にフラフラしてる奴が居ると、今回みたいな問題が起こっちまう訳だ。放浪者やるのも結構大変なんだぜ? 「なるほど~……そう言えば、ライトってそういうの誰かに教わったの? ライトって、元々そうだった訳じゃないよね?」 「あぁ、野良での生き方を教えてくれた奴が居るんだ。ちっとお節介焼きで気の良いリザードン、名前はラルゴだったな」 「へ~、ライトが誰かから何か教わるって、ちょっと意外かなぁ」 「俺だってハナから色々出来た訳じゃないったらよ。あいつが居なかったら、俺は今頃また人間に捕まってたか野垂れ死んでたろうさ」 そういう点で言えば、今の俺があるもう一つの要因は間違い無くあいつだろうな。空っぽになった俺を掬い上げてくれたんだから……。 なんだか懐かしくなっちまったな。あいつ、元気してるかねぇ? なんせもう大分前に別れたままになっちまったからな。 理由は……察してくれ。俺の今までが全てさ。 「ねぇ、もっと聞いてみたいなライトの野生での話。どんなところ行ったの?」 「そりゃあ色々さ。有名どころの地方にも行ったし、あまり知られてないようなところにも随分行ったぜ」 「例えば例えば?」 「そうさな、ジョウト地方のエンジュシティってとこはそりゃあ綺麗な紅葉が観れる頃に行ったな。そこには焼け落ちた塔があって、そん中で妙な三匹のポケモンと一勝負した事もあったっけな」 「あ、そこ前にテレビで見た事ある! ライトは本物を見た事あるんだ、いいなぁ。……ん? 妙な三匹のポケモンって?」 「あぁ、確か……ライコウ、エンテイ、スイクンとか言ったかな? いきなり襲ってきやがったから適当にあしらってやったっけ」 「……ライトさん、今の名前って……ジョウト地方に伝わる地を駆ける伝説のポケモン達の名前じゃないですか!?」 ん? あら、いつの間にかリーフが起きてきてリビングに入ってきてたのか。気付かなかったぜ。 「え……えぇ!? 伝説のポケモン!?」 「そうだったのか? 三匹相手でも、そんなに大した事無かったぞ?」 「大した事無かったって! 本来対峙する事すら難しい相手ですよ!?」 「そう言われてもなぁ?」 「も、もうライトさんの強さは常識で当てはめちゃいけないような気がしたです……」 「伝説ったって相手もポケモンだろ? やってやれねぇ事はねぇよ」 って言うかなんでリーフがそんな事知ってるんだ? あ、リーフの出身ってジョウトだったのか。なるほど。 「そんならあいつもそうだったんかね?」 「え? ライトまだ何かと会った事あるの?」 「ホウエンって地方に行った時なんだけどよ、そこに空の柱っちゅうかなりデカイ塔があったんだわ。面白そうだなーって興味本位で登ったら滅茶苦茶デカイ奴が最上階に居てな、来たついでだから下界の話を聞かせろだかでしばらくそこに居た事もあったなぁと思ってよ」 「う、うーん、ホウエン地方の事は私には分からないですね」 「……空の柱空の柱……あ、あれかな? 海を創ったポケモンと陸を創ったポケモンが争う時に現れる、空の調停者が居る場所って言われてるところ」 「あぁ、そういや周りの奴がそんな事言ってたっけな」 おぉ、リーフが口をあんぐりと開けて、レンが苦笑いしてる。そんな顔されても、俺は面白そうだと思ったら何処にでも行くタチなんでな。 「ライトさんって……もしかして自分の知らない内に伝説のポケモンと出会いまくってるのでは?」 「さてな? なんかそれっぽいのが居たところの名前とかなら覚えてっけど、調べてみるか?」 「私も興味あるし、やってみようよ! 面白そうだね♪」 「それならば! 私ちょっとリサーチしてきます!」 ぬぉ!? 凄い勢いでリーフが、多分部屋へ戻っていた。うーむ、まさか俺が放浪中に伝説クラスと出会ってたとは知らなんだ。 これも放浪の賜物かねぇ? ま、夜までの暇潰しになるんなら、俺の昔話も有意義に使うとするかね。 ---- 「ライトさん、空の柱で話したってポケモンはこれですか?」 「おー、こいつこいつ。レックウザとか言ってたっけ、ちと堅い奴だったが話してみるとなかなか面白い奴だったぜ」 「ほ、本当に伝説のポケモンと知り合いなのか!? 普通のポケモンなら恐れ慄いて近寄る事をしない存在では無かったのか!?」 「レオ、よく考えなさい。こいつよ?」 おいこら一同納得すんな。そりゃあ、俺だから行けたんかもしれんけど。 「でも、調べてみたらこの空の柱って場所、現在閉鎖されてるってなってましたけど、ライトさんどうやって登ったんですか?」 「なんもはめ込まれて無い窓はあったから、そっから普通に入れたぞ?」 「ライト……それ絶対普通のポケモンとか人じゃ入れないところにあったでしょ?」 「んー……5階建ての建もんくらいだったかね?」 「流石師匠ッス! 誰もやれない事を平然とやってのけるッスね!」 「変態だー」 「やかましいわい!」 とまぁこんな感じで、朝飯中に話をしたら皆食いついてきて話に参加し始めたっちゅう訳。 あぁ、因みにハヤトの奴は居ない。今日はトレーナースクールの終業式らしく、午前中だけだが学校へ行った。休んで俺も話聞く! とか駄々捏ねようとしたが、最後は泣く泣く諦めて……というか諦めさせて学校へ行かせた。 因みに奴以外の全員が居る事から分かるだろうが、今日は奴に誰もついて行ってない。まぁ、結局半日帰りだしな。 「んで、他は?」 「あ、じゃあ……このポケモンは?」 「なんぞいな? んー……あ、居たなこんな奴。月見ながらぼーっとしてる時に、こいつから話しかけられて事あるぜ」 「話しかけられたって、伝説のポケモンですよ? そんなまさか~」 「そいつの名前、クレセリアだろ? んで、そいつの羽には夢見を良くする効果があるんだったかな?」 「……」 リーフが印刷してきたであろうクレセリアの説明を読んで、絶句しとる。あぁ、俺が嘘を言ってないか確かめる為に、わざわざ写真と説明を分けて持ってきてたんだよ。 停止したリーフからレオが説明文を預かって、それを全員で見てる。ま、これくらいならちょこっと調べたら出てくるわな。 「本来は他のものと関わらないで静かに暮らしてるんだけど、三日月の夜だけは気分が良いから散歩に出るんだとさ。ありゃあ綺麗なポケモンだったなぁ」 「……そ、それは、自分で調べたという訳ではないんだよな?」 「んな面倒な事俺がすると思うか? する意味もねぇし」 「確かにあんたはそういう調べ事とかするタイプじゃないわよねぇ」 「ま、俺が知ってるのはこの辺かね。後のは……会ってても覚えてねぇや」 「いや、五匹も会ってれば十分過ぎると思うが!?」 「どれか一匹に、一生の内に出会える人やポケモンがどれくらい居るかしらね……」 あらら、全員で溜め息ついてら。会ったからどうって事もねぇと思うけどな? それに、ここにもうニ匹程俺が出会ってない伝説のポケモンと話をしてる奴らが居ると思うんだがな。まぁいいか。 「ま、野良やってればこんなこともあるさぁな。間違い無く毎日退屈とは無縁だぜ」 「なんというか、師匠って放浪者って自分の事よく言うけど、なんかもう冒険家みたいッスね」 「おまけに密航者、でしょ」 「おぉ、よく分かったな。他の地方なんか行くには、やっぱり船とか飛行機が楽だよなー」 「ちょっと待て、船ならまだ密航と言われてなんとなくイメージ出来るが、航空機なんてどうやって忍び込むんだ?」 「知りたいか?」 そりゃあお前、ランディングギアに発進直後に飛び乗って、そのまま格納庫の方に入り込むに決まってんだろ。間違ったらアウトだがな! 「いや……なんとなく言おうとしてる事は分かったからもういい……」 「なんていうか、野良のポケモンが色々な所へ行くのって、思ってたよりずっと大変なんだね」 「そうだぞ、リィ。食料探して寝床探して飲み水探して。いつでもなんかを探して進んで行くのさ」 「そう聞くと……こう、心の奥を揺さぶられるというかなんというか」 「レオ、分かるか!? 牡なら分かるはずだぞ、この飽くなき冒険心が!」 「ぼ、冒険心……!」 「師匠! なんだか俺っちも旅に出たいッス!」 「僕もー!」 「……あんたうちの牡の何を刺激してんのよ」 「いや、思わずノリでつい」 あ、リィもうずっとしたのをフロストが喋った事で堪えたようだ。俺が見てるのに気付いたのか、恥ずかしそうに視線を逸した。 いいんだぞ、リィ。冒険心はな、誰の心にだって、いつだってあるもんなんだから! ってのが俺の野良師匠からの受け売りだ。 とりあえず一息つこうって事になり、レンとレオがキッチンへ向かった。レンが茶、レオが菓子でも持ってきてくれんのかね。 「まったく、男の子っていつも何処かでそういう冒険に憧れてるって事かしらね? あのレオがあんな反応するなんて」 「そうッスよ! まだ見ぬポケモン、町、お宝! それを想像するだけでワクワクするじゃないッスか!」 「んー、まぁ俺の場合は風景の方がもっぱら目的だったけどな」 「風景ー? なんかつまんないー」 「そう言うなって。ま、ちょっと目を閉じて俺の話だけ聞いててみ」 今居る面々が目を閉じたのを確認して、俺も目を閉じる。そうだな……よし、ここにしよう。 「……そこは、見渡す限りの草原。緩やかな風が体を撫でていって、その風によって草原中の草がさぁっと音を立てるんだ。その音を聞きながら、その草原に一つだけ、地面から生えてきたように突き出た岩に寝そべる。あったかい太陽の光と、草の音、風の匂い。それを感じながらの昼寝は本っ当に最高だったぜ」 「あ……」 「風が……」 「草が、揺れてるです……」 おっ、伝わったかね? 俺の話術もまんざらでもねぇ感じかな。 「こうやって、自分が感じた何かを誰かに伝えてやれる。これはその場に行って、自分自身が体験しねぇと絶対に出来ねぇよ」 「あ、あれ? なんか俺ッチ、目が熱くなってきたッス」 「むー、なんか僕もー」 「ば、馬鹿ライト、こういう事急にやられると心が準備出来てないじゃない!」 「は? おぉ!?」 なんか皆さん落涙してらっしゃった!? なして!? 「皆ー、お茶だよ……って、どうしたのぉ!?」 「な、なんだ!? なにがあったライト!?」 「いやまぁその……感情のオーバーフロー、的な?」 「的なって、大丈夫なのか?」 「えっと、なんか懐かしくなっちゃったっていうのかな? 多分、皆大丈夫だよ」 「そうですね……風が渡る草原。それがきっと、皆の心の何処かに懐かしさとしてあるんですね」 ……まぁ、元々ポケモンは自然と共に生きるもんだからな。それが懐かしさとしてあっても間違いではないわな。 にしても、こんなに効果があるとは……我が語り恐るべし。 っていうか、こいつ等の感受性が高いって事かね? それ俺の語りスキル関係ねぇじゃん。……気にしないでおこう。 何はともあれ一息つくかね。泣いてた皆ももう落ち着いてきたし、大丈夫だろ。 あ、お茶って冷蔵してたペットボトルの緑茶か。そりゃ熱いのを暑いのに持って来ないわな。 レオが持ってきたのは……水羊羹? いつの間に作ってたし? 「少し固めに作ってあるから形は崩れん。まぁ、食べてみてくれ」 「ついにそんなアレンジまで出来るようになったのか……進歩しまくりだな」 「やるのならば、皆が心ゆくまで楽しめる一品を作れるまで極めたいのでな」 「それ、極めたらもう職人ってレベルじゃねぇか」 ふっ、って笑ってる辺り、やる気だ。レオの奴やる気だよ。美味い物食えるのはいいが、いいのか? いいのか。 俺やリィ、フロストは固めって言われても楊枝なんか使える訳も無し。結局そのまま行くんだけどな。 ふむ、確かに餡子の感じがしっかりしてる。が、美味い。茶にも合う。完璧過ぎるだろうが。 これがレオの隠されてた才能か……侮れん、侮れんなぁ。 「ねぇライト、もっと色々なところの話聞かせてよ。僕、もっと聞いてみたい」 「俺ッチもッス! ……あれ? そういや師匠って何処で生まれたんスか?」 「俺? シンオウだぜ。そっからフラフラしながらここに来たって訳だ」 「なら、クレセリアに会ったのはお前の放浪が始まった頃の話だったのか」 「ま、そういうこったな」 「ち、ちょっと、さっきのをまたいきなり始めるんじゃないわよ!」 分かっとるっちゅうに。まさかフロストまで泣かすとは思わなかったもんなぁ、よっぽど恥ずかしかったんだろうさ。 しゃあねぇ、皆が満足行くまで……語り部になるとするかいね。 ---- あー、喉痛っ。結局奴が帰ってくるまで話してたし、奴が帰ってきた後も話してたし、一日中喋ってたんじゃねぇかと思うぜ。 んで、やっと開放されて晩飯も済ませたところ。……から、一匹で夜道を歩いてるところなんだが。 理由はもちろん朝のジルとの約束だ。あんまり面倒な相手じゃないといいんだがなぁ。 ま、何が相手でもやる事はあんまり変わらんがな。面倒な奴なら蹴散らして、話を聞く奴なら原因を除外してやればいいんだ。 しかし、昼間は暑いが夜は夜風で良い感じだぜ。夏の夜はこれがいいんだよ。 ま、代わりに変なのも居るんだがな。町でも外でもそりゃ変わらんか。 「おい見ろよ。こんなところにサンダースが一匹で彷徨いてるぜ」 「トレーナーは居なさそうだな。居たとしても、一匹でこんなところウロウロさせてるようなら大したトレーナーじゃないだろうし……」 なんか話してるが無視してさっさと進む。早く終わらせて俺も休みたいんだ、ちょっかい出してくるなっての。 「お~っとちょっと待て。逃がさんぞ?」 「……はぁ~、なんでこう馬鹿が寄ってくるかなぁ。目障りだ……失せろ」 戦うのも面倒だから威圧だけで終わらせた。蛇に睨まれた蛙みたいに動かなくなったかと思ったら、冷や汗掻いてへたりこんだ。これが効かないのはよっぽどの馬鹿か実力者だけだ、そうなるのも当然だろうよ。 そういやこの威圧を使うのも久々な気がすんなぁ。リィやソウなんかに悪影響が出ないように自重してたもんなぁ。 まぁ、前もよっぽど機嫌が悪かったり面倒じゃなかったら使わなかったが。ま、今なら別にいいだろ。 町を抜けて林へ。いつも来るのは昼間だが、夜はこの辺もその姿を変える。昼間人間を警戒してるポケモンが、逆に姿を現す時間だしな。 だからジルも俺を迎えに町の傍まで来てたって訳だ。待たせちまったかな? 「よぉ」 「あら、思ったより早かったね。抜け出すのに苦労しなかったのかい?」 「ま、昼間の種撒きが芽を結んだってとこさ」 「? なんかしてきたのかい?」 「俺の昔話をちょいとな」 俺のした話に触発されたかしらんが、なんか皆やる気になって夕方辺りから組手してたからな。あいつもあの組手を実際に自分で見るのは始めてだろうから度肝抜かれてたし、抜け出すのは容易だったぜ。 一応事情を知ってるレンには言付けてきた。待ってるって言ってたが、あまり長引くようなら先に寝ててくれって言ってあるから大丈夫だろ。 「なるほどねぇ。それなら、あの子をあまり待たせるのも可哀想だから行くとしようかい」 「了解。手短に済ますとするかいね」 ジルの案内で林の中へ。流石に暗いな、明かりが欲しいところだが……目標に感付かれて逃げられても面倒か。このままでも別に歩けない訳でもないしな。 「……ライト」 「あれか?」 ジルが頷いたのを確認して、近くの木に身を隠した。……気付いてはいないな。 あれは、フローゼルか。確かにこの辺には居ないし、ジルが知らなくてもある程度は納得出来る。 実力は察する程度だが、ジルより力量が上とは思えんな。が、放浪者である事を考えると油断は出来ないか。 「どうだい?」 「種族はフローゼル。水タイプで、割と強い部類には入る種族だな」 「なるほど、水かい。濡れるのはあまり頂けないけど、どうにかなりそうだね」 「俺が行くか?」 「いや、そこまでさせるつもりはそもそも無かったさ。あたしだって自分でなんとか出来る問題をあんたに押し付けたりしないさ」 さいですか。が、来たついでだし、万が一って可能性も無くはない。俺もついて行ってやろうか。 二匹でフローゼルに近付いていくと、起きる素振りも無い。あ、こりゃ完全に寝てるな。 「……起きな、そこのフローゼル」 「……くぅ~」 「おぉ、起きねぇ起きねぇ」 「ぬぅ、さっさと起きな!」 「ふぇやぁぁ!?」 おぉ! 飛び起きたと思ったらこっちを確認もせずに逃げようとしやがったよ! 勇気あんなぁ。 が、逃がさんよ。ばひゅんと一発、俺の足は今日も絶好調なり。 「ほいストップだ。縄張り主を無視するとは、同じ放浪者として関心せんぜ?」 「いきゃあ!? ごめんなさいごめんなさいあたし悪いことなんかしてないんで許してくださいー!」 「残念ながら悪いことしてたんだよあんたは。まったく、毎晩毎晩あんたが入ってくる度にこっちは起こされてたんだ、勘弁してもらいたいもんだね」 「え!? じ、じゃあ、あの、あたしずっと……?」 「監視されてたんだよ。んで、いい加減面倒だからって俺が援軍に呼ばれたって訳」 まぁ、俺とジルに挟まれた状態になればバンギラスだってビビって泣き出させる自信があるが、ビビり過ぎて失禁とかは止めてくれよ? 別に見たくないし。 「まず、なんであんたはこの林に入ってきたんだい? 用件は?」 「ひぐっ、ぐしゅっ、づが、れで、ぞれで、ひぐっ」 「あー……ジル、3歩バック」 「はぁ~、しょうがないねぇ」 ジルと俺、それぞれに3歩ずつ下がった。このガチで泣かれてる状態じゃ何言ってるかさっぱり分からん。 かろうじて翻訳出来たのは、疲れてそれで、だな。休む為に入ったここがたまたまジルのテリトリーだったが、疲れててそれに気付けなかったと。 で、そのまま何も無かったからそれからもずっと使ってたんだろうな。やれやれ、思い込みってのは落とし穴だねぇ。 「ほら、もうあんたを襲う気は無いよ。だからとりあえず泣き止みな」 「ぼん、どう、でじゅが?」 「どっちみち何言ってるか分からん相手をいきなりは襲わんって……」 まぁ、俺に距離とか意味無いって言われたらそうだけどよ。 フローゼルの方も泣き止もうとはしてるっぽい。聞き分けはいいらしいな。この状態で逆らおうとするのは馬鹿だけだが。 「ぐすん……もう、大丈夫です」 「よろしい、で? さっきの返答は?」 「あの、訪ね事をして回ってて、疲れてここを使わせてもらってたんです。あなたの縄張りだって気付かなくて……ごめんなさい……」 「ははっ、気配消し上手の弊害だな、ジル」 「かもしれないね。じゃあ次、あんた、何しにここまで来たんだい? 何を訪ねてたんだい?」 それが分かって、ジルか俺がそれを知ってればこいつの問題も解決、こいつはここで休む必要も無くなって万事オールオッケーって訳だ。 「……あるポケモンを、探してるんです」 「ポケモンを? なんだ、そんなら見かけてるかもしれねぇな。名前は? もし知らねぇなら種族でもいいぜ」 「それが、どっちも分からないんです」 「「はぁ?」」 名前も種族も分からないって、探し出すアテがゼロじゃねぇか! こいつ、馬鹿にしてんのか? 「ただその、色々な場所を転々としてて、行く先々でその場所に居る困ってるポケモンを助けてるって事は分かってるんですけど……」 「なんだぁ? 進んで他のポケモンの厄介事に首突っ込むとは、物好きが居たもんだなぁ」 「あんたが言うんじゃないよあんたが」 そりゃそうだ。しかし、それだけじゃやっぱり分からんよな。 それに、そんな俺みたいな物好きがこの辺に来たなんて知ら……ん? 「しかしそれじゃ埒が明かないね。もっと何か無いのかい?」 「あ、はい! 実はあたしもそのポケモンさんに助けてもらって事があって、後を追うような形でそのポケモンさんを追ってるところなんです!」 「なんだ、なら姿を知ってるんじゃないかい」 「それが……あたし、まだ小さい頃だったんで、おっきな背中くらいしかはっきり覚えてないんです」 は、はぁ~……焦った、一瞬俺か!? とか思って損した。お世辞にも俺の背は大きいとは言えんからな! 「おっきな背中、ねぇ? そんな大きなポケモン、この辺には居なかったと思うよ?」 「やっぱりそうなんですか? じゃあ、パンチだけで沢山のポケモンを倒しちゃうようなポケモンは?」 「うーん、パンチだけで? そんなのも居なかったと思うがねぇ? ……?」 ぱ、パンチ? ち、ちげぇし、俺の徒手だし。前脚突きだし。たまにブローとか言うけどあれは言葉のあやだし。 ジル、今はこっち見んな。頼むから見んな。 「助けてもらったポケモンは皆、ふらりと現れて助けてくれて、お礼を言う前に影も形も無く居なくなっちゃったって言っててなかなか情報も集まらないんですよ」 はいそこのグラエナさん、フローゼルが溜め息した瞬間にこっち見んな。こっち見んな! 「あ、でも助けてもらった皆が呼んでる通り名があるんです。結構有名で、『白い陽炎』って言うんです、そのポケモンさん」 「白い陽炎、白い陽炎ですって。何か知らないのかいライトー?」 「い、今俺に話振んな」 「え? あ、あの、大丈夫ですかサンダースさん?」 「あ、あぁ、大丈夫、心配要らねぇよ」 だから俺に話を振らないでくれ。俺に話を振るなぁぁぁぁ! 知ってるその通り名、俺その通り名聞いたことある! うわぁぁぁぁ! 「でも、パンチで相手を倒すで、なんでそんな通り名なんだい? 陽炎の部分は、姿を消すって事で分かるけど」 「なんでも、毛が日の光で白く輝いてるように見えるからとか……見た事無いような綺麗な、白い電気を放てるなんて噂もされてます。その所為だって聞きました」 ダウト! はいそれ俺! 俺の電気、消滅の光の所為で白いの! んで、守りの雷の所為で黄色の部分も朝日とか浴びると白っぽく見えるの! 白い陽炎も、『白い陽炎、覚悟!』とか言って襲いかかって来た奴居たから聞いたことあったの! なんのこっちゃ? と思ったけどそういう事かよ畜生め! 最悪だー、厄介事が追ってきてやがったとは、立ち止まってみて始めて分かるこの問題。おぉ、神よ……。 「なるほどなるほど。で、あんた、なんの為にそいつを追ってるのさ?」 「そ、その……」 もう俺聞かなーい。だってフローゼルの反応で大体分かったもーん。 「つ……」 「つ?」 「番いになってもらいたいんです! もう、ずっと、ずっと一目惚れで……!」 ……誰か、俺を……化石になるまで埋めてくれ……。 ジル、笑いを堪えるなんて失礼じゃないか。静かに見守ってあげようじゃないか、そう、心静かに。 「な、なるほど、理由は分かったよ」 「え、あの、グラエナさん? あたし、何か変な事言いました?」 お嬢さん、変な事は言ってないけど大変恥ずかしい事を恥ずかしがる相手の目の前で言ってますよ。なんて口が裂けても言いませんよ、えぇ。 理解した、いつかは俺も分からないが、こいつは俺に小さい頃助けてもらったと言ってた。それが俺の背が大きく感じた理由だ。これで全てのワードが俺を示していると繋がった、ヤッタネ! ジーザス……どうしてこんな事になったんだ……。 「いや、済まなかったね。ここまで来たって事は、ここまではそのポケモンが来てたって事なんだね」 「はい……でも、ここから先、何処へ行ったかが分からなくて……」 「なら、この近くにいるのかもしれないね、ライト?」 「ははは、かもなぁ」 はーい、ここにいまーす。 「……分かった、気が済むまでここで休んでいいよ。ただし、あたし等の縄張りを荒らさないのが条件。守れるかい?」 「は、はい! ありがとうございます!」 「よろしい。あたしの名はジルで、そっちに居るのはライトって言うんだ。よろしくね」 「よろしく……」 「あ、えっと、あたし、ミナモって言います。よろしくお願いします!」 ミナモね、良い子そうじゃないか。はっはっはー、はぁーはっはっはっはー! 「それじゃミナモ、あたしはこいつを送っていくから、あんたは自由に寝てな」 「はい! それじゃ、お休みなさい!」 ……寝る体制に入ったって事は、俺がミナモの訪ねポケモンリストに引っ掛かってることは無いみたいだな。まぁ、サンダースなら当然だよな。 それを確認して、俺とジルは林から出た。気分は……海溝にダイブした感じだ。 「で、白い陽炎」 コケた。あまつさえ顔面から地面にいった。超いてぇし。 「そ、その名で俺を呼ぶんじゃねぇ!」 「やっぱりこれあんたの事かい。どうすんのさあの子?」 「ほとぼりが冷めて、諦めるのを待つしかねぇだろうが」 「そうだよねぇ、あんたにはもうレンが居るんだし」 「そうそう、俺にはもうレンが、って何言わせんだ!」 「否定しないって事は自分でも自覚してるんじゃないかい? え~?」 うっ、落ち着け俺、平常心だ。これ以上ジルにからかわれてはいけない。 「ま、フローゼルの方はこっちで様子見ておくから、あんたはあの子を大事にしてあげなさい」 「っと? 急に調子狂う返しをしてくるな」 「巻き込んだのはあたしなんだし、そんなにからかわないさ」 さいですか……大事に、か。どうすりゃいいんですかねぇ? 「別に何かしろとは言わないけど、あの子を遠ざけるんじゃないよ。なーんかあんた、危なっかしいんだよ」 「んなもん俺自身が1番分かってるっての。俺もそんな事もう望んでねぇよ」 あら? 俺の返答にめっちゃ驚いてる。目ぇ見開かんくてもいいじゃねぇか。 安心したような顔すんなって。まだ、望まなくなっただけなんだ。何かあれば、俺は結局独りに戻る事を選ぶしかない。 でも、今はあの家に居たいってはっきりと思える。その点だけは、俺が目に見えて変わったとこかもな。 「あt……んんっ、……グリ達の為にも、この町に居ておくれ。やっと、あの子達も思い切り笑えるようになったんだから」 「思い切り笑えるように、か。それに、俺も貢献出来てんのかね」 「なーに言ってんのさ。そんなの、当たり前さね」 町の入口まで来て、横のジルを見ると……優しく笑い掛けてくる顔が、そこにはあった。 俺が、誰かの為に何かをしてやれる……。放浪してた時には何も思わなかった、思おうとしなかった。 でもさ、やっとあんたがお節介焼きになった理由が分かったよ、ラルゴ。あんたはずっと、この笑顔を守ってたんだよな。 ……俺を、何もかもを失った俺を見つけてくれたのがあんたで、よかった。今は、心からそう思える。 「そ、そんじゃ、またな。……何かあっても無くても、また来いよ、こっちにも」 「程々にね。それじゃあね、……白い陽炎さん♪」 「ぶっ!? だ、だからその名で呼ぶなっちゅうに!」 クスクス笑いながら、ジルは林へ帰っていった。……俺を探してここまで来たフローゼル、か。 また妙な事が起きないといいが、今晩はこれで決着だ。多分レン、待ってるんだろうなぁ。 早く帰ろう。……今の、俺が居たい場所へ。 ---- ライトも段々と成長というか、自分の意思に素直になってきたといったところでしょうか。まだ凝りはありますが。 野良の頃のライトについてはまだまだ不明なところが多い……というか目的があって行動してるわけじゃないので掴めないと言うところでしょうか。今回出て来たミナモはどれだけ苦労してここまで来た事やら? ではでは、白い陽炎ことライトの物語、まだまだ続いて行きますが……よろしければお付き合い下さいませ。まぁ、次の話は主人公が違うのですがw 前話へは[[こちら>『強い』という意味]] 次話へは[[こちら>折れない、意思]] 脇道へは[[こちら>炎の風来坊]] 脇道へは[[こちら>脇道3 炎の風来坊]] #pcomment IP:119.25.118.131 TIME:"2013-08-06 (火) 15:13:17" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E7%99%BD%E3%81%84%E9%99%BD%E7%82%8E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.1; Trident/6.0)"