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画竜点睛壱の空 の変更点


上のほうから、奇妙な咆哮が聞こえた気もしたが、二匹には今それどころではなかった。
「どうしたどうした!?よけるばかりでは攻撃をすることも、逃げることもできないではないのか!?」
ボーマンダが好き放題言いながら口から"かえんほうしゃ"をボーボー吐いてくるが、完全に無視。場所と今の状態を把握して、どこまで行けば有利に戦えるのか、ウーゾは小さな頭を捻りこんで考えていた。
「ウーゾ君……どこまで逃げるんですか?」
「とりあえず、雲の多い場所で戦ったほうがいい。まずくなったら隠れることが出来るから」
「そうですね」
そんな会話のやり取りをしていたら、二匹の頭上を凄まじい炎が掠める。少しだけ、ウーゾの頭の毛が焦げた。
「うわぁっ!!」
「ひゃっ!」
ウーゾにいきなり抱きつかれて、よた、とポプリはバランスを崩した。相当嫌だったのか、それとも炎が恐いのか、とにかく、ウーゾは我に返ってばっと身を放した。
「ご、ごめん」
「謝るのは後にして、とりあえずこの辺でいいんでしょうか?」
ポプリはきょろきょろと辺りを見回した。雲が多く、空があまり見える状況ではないために、隠れて行動するのにはうってつけだった……ウーゾはこくりと頷いて、雲の近くまで身体を引っぱる。
すっかり顔を赤くして、俯いて黙りこくってしまったウーゾを見て、ポプリも知らないうちに顔が紅潮するのを感じてしまった。
抱き疲れただけなのに、どうしてこんなにドキドキしてしまったのだろうか、そもそも、いきなりあんな不意打ちをかますとは何をしてくれているんだろうと思いながら、ポプリは左右を見渡した。
いろいろ考えたいことは山ほどあるが、今は目の前の相手を倒すなり無力かなりしなければ、こっちが危ない。いろいろ考えるのは後にして、ひとまず雲の中に入っていった……
「うわっ、さむいっ!!」
「え?きゃっ!!」
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上空にそびえる雲の中は意外に寒かったのか、体毛がなく、寒さにはある程度の体性を持っているシャワーズのポプリには何ともなかったが、体毛が少なく、お日様の光を浴びて強くなるエーフィのウーゾには苛酷な環境だったのか、またもやポプリに抱きついたのだった。
「あ、あの、ちょっとウーゾ君……」
「あ、ごめん、でも、ポプリの身体、あったかい……」
「う、うん……」
二人は暫く零点の雲の中で体を抱きしめあっていたが、きん、と翼を動かしてこちらに向かってくるような音を聞いて、身体を密着させたまま雲からひょこっとかおを出した。
「ムゥ、先の二匹を見失ったか??」
きょろきょろとあたりを散策するあたり、どうやら自分達の居場所が分かっていないらしい。ポプリはウーゾに話しかける。
「どうします、相手が私達の居場所を分からないみたいですので、このままやり過ごすのもありかと思われますが??」
「ちょっとまって、おかしいよ……さっきまで普通に同じような速度でこっちを追ってきてたのに、いきなり俺たちの場所がわからなくなるって言うのはないと思う。多分、こっちを油断させるための罠じゃないかな?」
ウーゾが少し考えて、小さい声でポプリにそういった。その瞬間、こちらを探すフリをしていたボーマンダが、いきなりこちらを向いた。
「大正解だな、なるほど、さすがに騙されないか……だったら、そんなところに隠れるのも何の意味もないというのが分かるだろう!!」
「げっ!!」
「一瞬で気付かれましたね」
口からもう一度"かえんほうしゃ"を吐いてくる。ポプリとウーゾはとにかくかがんでそれをよけた。強烈な風と、炎が雲を貫いて、一瞬で二匹の視界に青空がいっぱい広がった。
「あ、あれぇ??」
「な、何で??」
はとが豆鉄砲を食らったような顔をして、二匹はぎょっとした。なぜ自分たちのいた場所の雲が散れてしまったのかまるで分かっていないようだった。そんな二匹にとてもよく聞こえるような声で、ボーマンダは高らかに種を明かした。
「勉強不足だな、強い炎というのは風を生む。風で雲を散らしたのだよ……」
そんな言葉を聞いて、二匹は少しだけ眉を歪ませた。ここまで着ておいて、隠れるという選択肢がなくなったこと、自分達の行動が全て徒労に終わったこと。何も言い返せなくて、ポプリは苦い笑い声を出すことしかできなかった。喉が渇いていたので、実際に出たのはつぶれたようなしわがれた声だった。
「ご丁寧にどうも」
代わりにウーゾはくすくす微笑んで、嘲るようなお礼を言葉にして相手に投げつける。辛辣な誹謗中傷よりも、嘲りを含んだお礼や感謝のほうが相手の心に響くときもある。ボーマンダは後者のタイプだったのか、少し眉を潜めて、怪訝そうな顔をした。まるで"お前なんて恐くないぞ"とでもいわれているようだった。
「随分と余裕だな、それとも後がないのかな?」
「どんな風にとってもらっても構いません」
「なかなか顔に出さないやつだな……」
ポーカーフェイスは十八番です、などといってウーゾは笑った。馬鹿にしているのか、本当に後がないのか分からなかったが、そんなことも気にせずにボーマンダはもう一度"かえんほうしゃ"を吐き出した。もはや火炎というレベルで片付けていいものなのか、殆ど強力な熱の塊が二匹の眼前に迫る。空中で向きを変えるということが、念力の操作では一番難しいと思っていたウーゾは、回避するという概念を頭から捨て去った――
――その代わりに、ウーゾは自分の力で迎撃をするということを考えた。いまさらこんな状態で回避する必要はない。ナラバ、その回避の分のエネルギーを攻撃に使ってしまおう。
「"サイコウェーブ"!!」
空の景色が若干歪む、サイケデリックな色をした念力の衝撃波が目に見えるような波を打って"かえんほうしゃ"にぶつかった。強力なエネルギー同士がぶつかり合い、周りにパワーの逆流がおこる。バチバチとぶつかり合う炎と念力は、周りの空気を歪ませて、ごうごうと不自然な風を起させる。
「うぐっ、凄いパワーだ、こりゃ駄目だ、俺の力だけじゃ押し負けるっ!!」
「ふふん、どうした、顔に出ないから分からなかったが、どうやらジリ貧のようだな」
ボーマンダの勝ち誇った顔が見える、ウーゾは何ともいえないような感じだった。こんなことで熱くなってもしょうがないというのに。勝負事に熱くなってもいい目を見ないのは、大体においてその勝負に何の意味ももたないからだった。今現在の勝負はそれに近いものがあり、宝島につくまでの画竜点睛などと先程はかっこいいことを言っても、所詮は逃げ切ってしまえばいいのだが、逃げることが出来ないために、しょうがなく戦ったという感じだが、どうにもウーゾは思うように力を出せないでいた。
「ウーゾ君、力を貸しましょう!!"れいとうビーム"!!!」
「え?」
「なにっ!?」
ポプリが横から氷の光線を放つ、威力は"なみのり"に毛が生えた程度だが、それでも"サイコウェーブ"とエネルギーが連動して、ボーマンダの"かえんほうしゃ"を圧倒しだす。具ぐっと、押されていた力を押し返す。どんどん力の均衡が崩れていって、やがて"かえんほうしゃ"はぼすっと、氷とエスパーのエネルギー光線に押し込まれて消えてしまった。
「ぐあああっ!!」
悪役が間抜けな声を出すときはこんな感じなのだろうかとウーゾは思って、光線を身体に食らって悲鳴を上げたボーマンダを遠巻きに眺めていた。
すると、横からポプリがにこりと微笑んで、妙に饒舌にウーゾに話しだした。
「ごめんなさい、戦いは私に任せてくださいって行っておいたのに、結局ウーゾ君が攻撃してくれましたね、ウーゾ君が興味があるのは、宝島だけですから、あまりこういう非生産的なことはしたくないんでしたよね……」
すっかり忘れてましたなどといって笑うポプリを見て、何だかウーゾは悪いこといってしまったなと思った。なんだかんだで自分も戦わなければいけないのは事実なのに、他人に任せてばかりで、自分はいざというときに何もしない、そんな他力本願な自分を分かって、なおかつ一緒にいてくれたのは、ほかでもないポプリだったのだ。
「謝るのは俺のほうだな……悪かったよ」
珍しい友達の珍しい殊勝な態度を見て、ポプリはぽかんと口をあけた。面白い顔をしている。何だか見ていて飽きないな等と思っている。
「どうしたんですか?ウーゾ君が自分から謝るなんて、珍しいですね」
「さっきも謝ったじゃないか」
「あれは、だって殆ど自分の責任だって分かってたから謝ったんでしょう?それ以外に謝るなんて珍しいなと思っただけですよ」
「なに、たまには殊勝な態度になる日もあるさ。俺も少しは運動しないと……その、何と言うのか、太るしさ……」
そんなことを行ってぽりぽりと鼻を掻く。何ともいえない照れ隠しかもしれないが、ポプリはそれが分かっているのかいないのか、ただただ微笑んだ。
「そうなんですか、何だかウーゾ君らしいですね……」
「おう、俺らしいでしょ」
なんていうやり取りをして言ううちに、エネルギーの余波で出来た霧だか靄だかわからないものがもやもやとはれて、ボーマンダが姿を現した。
「クッ、子供だと思って油断した……」
「お、生きてた」
「でも、方翼は捻じ曲がってますし、方翼が凍り付いていますね、飛行するのでもぎりぎりくらいでしょう?」
「確かにね……」
ボーマンダは生きてこそするものの、二つの翼は凍り付いてたり、捻じ曲がっていたりしている辛うじて飛べているみたいな状況だったために、ボーマンダが何かをするという状況はこれ以上起きなさそうだった……
だが油断することなく、ウーゾは注意深くボーマンダに話しかけた。
「もう諦めて、お使いにでもいったらどうかな?宝物を探すんじゃなかったっけ??」
「その状態では、私達をこれ以上攻撃することは出来ないでしょう、私達は先に進ませてもらいますよ……それでもまだ邪魔をするというのなら、攻撃しますけど……」
脅したわけでも、勝ち誇っているわけでもなく、あくまで事実を伝えるような無感動な声が風と一緒に運ばれる。ボーマンダは暫く無言だったが、諦めたように息を吐き出した。
「やれやれ、まさかここまでとは思わなかった。降参しよう……」
「おお、潔くて助かるよ」
「私達も別に無駄な戦いをしたいわけではないですからね」
なかなか殊勝な態度のボーマンダじゃないかと思っていた。ボーマンダもこれ以上何かをする気もないのか、最後に一言、物騒な言葉を呟いた。
「これ以上近づくなといっても近づくだろう、私は一応警告だけはしておくぞ、中に入っても黄金等存在しないし、ましてやわくわくする出来事なんぞ微塵もない。あるのは憎悪と怒りと、そして深い悲しみだけだ……」
それだけを矢継ぎ早に話すと、ふらふらとした動きでのろのろと上空に上がっていってしまった。
ボーマンダの姿が肉眼で確認できなくなってから、ポプリとウーゾは先程の言葉について話し合った。
「どういうことでしょうね?」
「相手の言うことなんて真に受けないほうがいい、嘘かもしれないからね、でも、ちょっとだけ気になるな……」
気になるというのは、別段不思議な感情ではない。何と言うのか、知的好奇心と同じようで、どんどん頭の中がそれで満たされていくと、一つの結論に至るのだ。どういうことだろう?という意味になる。
「分からないことでもあるんですか?」
「うぅん、分からないことというよりかは、何だろうね、正体不明のものに推測を立ててもしょうがないし……おっと、飛びながら話したほうがいいかもね、上に行こう」
ウーゾはふわりと浮き上がる、少しだけ顔色がよくないような気もした。長時間の飛行に、短時間とはいえ戦闘を行ったので、恐らく念力の使いすぎだろう……大丈夫という言葉なんてかけても、大丈夫じゃないという返事が返ってきそうだったので、ポプリは黙っておいた……
そんな心配をするポプリとは対照的に、ウーゾの頭の中にはいろいろな考えが流れ星のようにいったりきたりしていた。
ボーマンダのいっていた言葉を反芻してみる。墓荒らしという言葉については、恐らくあの宝島のことを言っているのだろう……あの島が墓場ということについては、未確定なことが多すぎて断定が出来なかった。
そして、あの島にあるものは、深い悲しみと、怒りと憎悪という言葉を聞いた……怒りとは、憎悪とはどういうことだろうか?そして、深い悲しみというのはどういう意味であろうか?
恐らく、ボーマンダの言葉を鑑みると、あそこは宝島ではなく、墓場ということ、そして憎悪と、怒りと、悲しみの眠る場所ということだろう……そこまで考えて、ウーゾは眉を顰めた。
要するに、あの場所で何かがあったのは確かだろう。しかし、なぜ移動する島の中で何かがあったのだろうか、そもそもにおいて、なぜ悲しみが眠っているのだろうか?そして、コラッタが拾ったあの金貨は何なのか……
いろいろ疑問が生まれていく。少なくとも一つどころでは片付けられないだろう。
「いろいろ考えてます?」
「ばれた?」
「凄く険しい顔してますから」
ポプリは苦笑いして、上を見る、雲が多くなってきた。いろいろ考えているうちに。不思議なところに辿り着いてしまったのか、雲だらけだ……
「うぅん、まだ宝島が見えるから、このまま上に上ろう……いいかい?ポプリ」
「ええ、大丈夫ですよウーゾ君」
こくりと頷いたポプリを確認して、ウーゾはそのまま空を飛ぶ。現在高度17600m……なかなか近くて遠い距離で、雲の大群の中に体ごと突っ込む。
肌寒い空気を感じながら、ウーゾは考えるのをいったん中断した。何を考えても、それは推測や想像に過ぎない。やはり実際に見てみないと、わからないことが多いのは事実だ。
百聞は一見にしかず、宝島か、墓場かは、行って見ないと分からない……
少々の疑問を抱えながら、ウーゾとポプリは大きく上に上がっていった……

続く
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- かえんほうしゃが
"らかえんほうしゃ"になってますよ~
――[[名もない人]] &new{2010-08-04 (水) 12:26:58};

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