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獣の島の章 の変更点


*獣の島の章 [#ac1e81b0]

#contents

**獣の島1 [#z087b73e]
                                                   作[[COM]]
ここは…何処だ…?

俺は…?…オレ?…

ただ、ただ頭の中に浮かび来る質問。
その答えを導き出そうと必死に頭の中を探るが一つとして答えが出ない。
何も思い浮かばないその頭の中はまさに新雪のように真っ白だった。
ゆっくりと目を開き周囲を眺めてみた。
そこに広がるのは美しく透き通った青空。
風に吹かれ囁くように鳴る木の葉。
そこに映る景色は全てが見覚えがないものに見えた。
ゆっくりと体を起こし、今度は自分を確認してみた。
長く鋭い赤い爪、暗い灰色の体毛。
自分の体であるはずなのにその特徴一つ一つが自分自身のものであると思えなかった。
何も分からない、何も思い出せない…そんな不安と混乱でだんだんと新雪のように白かった頭の中は、墨を一滴たらしたかのように困惑がはっきりとにじみ出ていた。
「俺は……誰だ…?」
その問いは決して自分という存在を思い出すためのものではなく、今自分が置かれている状況が把握できずに混沌としていく自身の脳内を少しでも紛らわせるためだけのものだった。
無論、答えが返ってくるはずもなく、ただただ美しい草原の真ん中で美しい白と青のコントラストで描かれた澄んだ空を眺めていた。
どこまでも続くような広く果てしない空をぼんやりと眺め、思い出すことも諦めていたそんな時、
「おーい!」
そんな声が不意にどこからか聞こえるてきた。
自分を呼ぶ声なのか、はたまたただ見かけたから声をかけただけなのか、そんな事を考えている間にその声の主はこちらへと走ってきていた。
かなりの距離を走ってきたためか、そのポケモンはかなり息を切らしていた。
荒い息を自分のところまでたどり着くと一度整え、何度か深呼吸をし、
「君、こんなところで何してるの?」
そうこちらを見て聞いてきた。
「何も…俺は特に何もしていない。」
ありのまま、その質問に対する明確な返答をした。
何もしていない…正確には何も出来ないだけである。自分という存在も分からず、此処が何処かも分からず、ただぼんやりと空を見つめ座っていただけだからだ。
「ふ~ん…じゃあ、なんで何もしてないの?」
そのポケモンは何もしていないと言った自分に対し、無理な問答を投げかけてきた。
何もしていないことに理由などない。それが普通だ。しかし、彼には何もしていないことに理由があった。
「何も出来ないからさ…今、俺は何者なのか、ここは何処なのか…そしてなぜここでこうしていたのか…それすらも分からないだけだ…」
ありのまま…しかし、普通に聞けばそれはおかしな返答だったのかもしれない。
初対面であるはずのそのポケモンに今自分が知り得る事を全て投げかけた。
記憶というものが根本から抜けている、そんなことが汲めるような言葉の内容にそのポケモンは必死に首をかしげ、眉間にしわを寄せながら考え、何かをひらめいたように
「君、記憶喪失なんだね!」
と決め付けにも似た強い口調でこちらを指さしながら言ってきた。
「恐らくな…」
記憶喪失という事も分からず、曖昧な返事をし、少し顔を俯かせると
「君、見た感じゾロアークみたいだけど…名前とか思い出せない?」
ゾロアークという単語の意味すらも分からず、俯いたまま首を横に振った。
「えっと…一応自己紹介するね。僕はザングースで名前はアカラ。とりあえずここにいてもしょうがないから一旦村に行かない?もしかすると何か答えが見つかるかもしれないし…」
そんな様子の彼を見捨てられないのか、アカラと名乗ったポケモンは自分の住んでいる村に来ることを勧めた。
「そうさせてもらう…よろしく頼むよ…ザングース。」
「僕はアカラ。ザングースは僕の種族の総称。」
彼の間違いを訂正しながらアカラは彼に手を出して起き上がるように促した。
「分かった。よろしく頼む、アカラ。」
その手をしっかりと掴み、引っ張る力に身を任せ、一気に起き上がった。
アカラと名乗ったポケモンは全体的に白い体毛で覆われており、稲妻形の赤いラインが目立つ二足歩行のポケモンだ。
瞳も赤く、やけにパッチリとした大きな瞳が印象的だった。黒く長い爪はよく手入れされているのか陽の光を浴びて綺麗な光沢で光を反射している。
耳の先の方の毛は若干散っており、細長い耳が見た目大きく見えた。
「僕達の住んでる村はサントウ村っていってね。みんな元気で明るくて仲間思いなポケモン達がいっぱい住んでるんだ!」
先を歩くアカラが少しだけこちらを振り返りながら楽しそうに話した。
恐らく、彼が不安な気持ちにならないようにという配慮なのだろう。
そのまま続けていろいろなことを村に着くまでの道中、話し続けていた。
自分の家族の事、村の細かな雰囲気、アカラの住んでいる村以外にも村があること、そして…
「僕達は今、大きな敵と戦ってるんだ…」
この世界で起こっている出来事(たたかい)を…
「戦っている?一体何と…」
彼がそうアカラに質問しようとした時、その言葉を遮るように
「着いたよ!ここが僕の住んでるサントウ村だよ!」
そういい、アカラは目の前に広がる村を指差して言った。

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&color(red){流血表現を含みます!苦手な方はご注意を!};おkな方はGO!

**獣の島2 [#fc4b6afc]

そこには生い茂る樹木の間にひっそりと大小さまざまな大きさの茂る木をそのまま家に加工したような不思議な家がいくつも建っていた。
茂った木々の枝の間から漏れる木漏れ日が家々の青々とした葉の屋根や若草の並ぶ地面に落ち、小さな日溜りをあちらこちらにつくっていた。
多種多様なポケモン達が互いに談笑したり子供達が楽しく遊びまわっている極平凡な光景。
そのままアカラは若干の戸惑いを顔に浮かべた彼の手を引き、中央の広場までまっすぐ歩いていった。
「ちょっとここで待っててね。今から僕が君のことを知ってそうな人たちを集めてくるから。」
とだけ言い残し、広場から人混みの出来ている辺りへとまっすぐ歩いていき、人混みの中に消えていった。
有無も言わさず勝手に一人で次々と行動するアカラに呆気にとられ、結局何もすることができないため彼は渋々、広場の隅にあった倒木でできたベンチに腰を下ろして待つことにした。
少し状況が変わったため、もう一度ゆっくりと自分の記憶を手繰り寄せようとするが…
『まずは…俺の名前……だめか…俺があそこに居た理由…分かる訳もないか…』
そんな自問自答を繰り返し、答えが出ない度に深いため息をついていた。
半ば思い出せない自分自身を諦め、周囲の賑わいに耳を傾けていた時、カラーンカラーンとけたたましい鐘の音が鳴り響き、
「竜だー!!『竜の翼』が攻めてきたぞー!!」
そんな声が広場に、賑わいを見せていた街角に、アカラの消えた人混みに飛び込み、賑わいの声は瞬時に不安や恐怖のざわめきに変わっていった。
広場にいた子供達や談笑していた女性達は姿を消し、逆に怒りに血走ったとも、虎視眈々と獲物を見据えている獣ともとれるような目をしたポケモン達が次々と現れた。
「来やがれ…!今日こそ目にもの見せてくれる!!」
そんな声が集まったポケモン達から漏れ出し、広場の空気は一瞬にして張り詰めたものになっていた。
その時、そのポケモン達の向く顔の方向から怒号にも似た雄叫びが聞こえ、
身構える彼らのど真ん中に槍が突き刺さるかの如く一匹のポケモンが飛び込んでいった。
それを口火に広場に集まったポケモン達、そしてその先陣を切った槍の後を追うように飛び込んできたポケモン達によって美しい広場は一瞬にして合戦場のど真ん中へとなり果てた。
『なんだ…?何が起こっているんだ?』
そんな凄惨ともいえる光景の中、彼は眉一つ動かさずその乱戦を眺めていた。
「次だ!次次ー!!俺が一番殺すぜー!!」
そう言いながら乱戦の中から一人のポケモンが彼に向かってまっすぐに走っていった。
ズンズンと距離を詰めるそのポケモンに対しても彼は意にも介さず、ただベンチに座っていた。
「ひゃっはー!もう一匹俺が仕留めたぜ!!」
そう言いながら鋭い爪を彼に対して振り下ろしたその次の瞬間、
ズンッ!と鈍い音と共に鋭い爪が左胸を突き刺していた。
「ガッ…!!な…何故…俺が……こんなところで…」
そう言いながら倒れたのはその襲いかかったポケモン。
倒れる拍子にそのポケモンの胸から彼の鮮血に染まった、鈍い輝きを放つ彼の爪がすり抜けた。
足元で瀕死になっているそのポケモンを見た後、自分の爪を見て、
『俺は一体…何をしたんだ…?何故体が勝手に動いた…?』
そう、口には出さず、心の中で自問自答した。
「てめぇぇぇ!!ガルの仇ぃぃ!!」
そう言いながらさらに一人、乱戦の中からまっすぐに彼に突き進んでいった。
その鋭利な爪が彼に届く範囲に入った時勝利の確信にも似た表情をし、腕を振り抜いた。
が、それはただ虚空を引き裂き、彼の勝利の確信に満ちた表情も一瞬で砕いた。
「ど、何処に…!」
そのポケモンが消えた彼を探そうと周囲を見渡そうとした瞬間、彼の頭になにかしろの圧力がかかったのも確認する間もなく、彼の視線は明後日の方を向かされていた。
首を捻りながらそのままそのポケモンから飛び降り、再度彼は自分のした事を確認していた。
「な…なんだあいつ!」
「い…一瞬にしてガルとウェリドを殺りやがった!」
しかし、今度は彼に自分のした事を確認させる時間を与えてくれはしなかった。
戦場は一瞬にして敵、味方共に凍りついていた。
そこから湧き上がる響めきは、まさに彼に向けて突きつけられていた。
「クソッ!奴は手練だ!遠距離から一斉に攻撃しろ!」
その凍りついた戦場から我を取り戻した一人のポケモンがすぐさま周りのポケモン達に指示を出し、距離を開けて五人一斉にかえんほうしゃやれいとうビームを繰り出した。
その一発一発がほぼ同時に彼に命中し、彼の居た一帯は凄まじい爆音と共に土煙に包まれた。
「やったか!?」
五人の内の一人がそう言いながら土煙を見ていると。
晴れた土煙の中からは無傷の彼と彼に当たる寸前で止められた各々の攻撃だった。
「な!?全て受け止めただと!!」
彼はそれらの攻撃をまるで埃でも叩くかのように撫で、すべての攻撃をそのまま弾き返した。
「ぐあぁぁ!!」
そんな悲鳴が聞こえる中、彼はただそこに立ち尽くしていただけだった。
周囲を見てほくそ笑む訳でもなく、自身の力を見せつけ相手を恐怖の虜にするわけでもなく、ただ立っていた。
「お、おい…誰かあいつ知ってるか?」
「あんな強い奴、いままでいなかったぞ…?」
と次第に味方からもざわめきが生まれ始めた。
当たり前、といえば当たり前の光景。文字通り戦場を一瞬にして凍てつかせたのだから味方といえど、それはまさに恐怖の対象だった。
「ど、どうする…」
「勝てるわけねぇ…」
恐怖はすぐに伝染し、戦場を一色に塗りつぶした。
「久しいな…シルバ…」
そんな中からその一声と共に一人のポケモンが彼の前に立ちはだかった。
「ドラゴ隊長!」
そのドラゴと呼ばれたポケモンはリザードン。
燃える火のような朱の色の体、深緑の翼、尾の先に灯った揺らめく炎、そして左目には縦に大きな傷が入っていた。
「死んだと聞いていたが…こちらにしては好都合だ…あの時の因縁、忘れもせん!貴様に付けられた傷が疼くわ!」
まっすぐに彼を見据え、低く、地鳴るような声でそう言った。
「シルバ…?」
「もしかして…!彼があのシルバ…!?」
広場に集まったポケモン達はその名を聞き、驚愕していた。
「ド、ドラゴ隊長…!まさか奴が!」
「シルバ…『狂神シルバ』なのか!!」
驚愕、そしてその驚愕はそのままどよめきとして広場にいるポケモン全てに伝わった。
「今すぐにでも決着をつけたいところだが…今は分が悪い…撤退だ!&ruby(ヘッド){本部};に伝えるぞ!」
そう言い、すぐにドラゴを含む攻め込んできていたポケモン達が全て退いていった。
そうなればその広場に集まったポケモン達の視線は去りゆく敵ではなく、全てシルバと呼ばれた彼自身に向けられることになった。
僅かに聞こえるざわめき、そして自分に付いていた通名、様々な情報から彼は自分が何者であるのかようやく理解した。
『そうか…俺は……』
「よかった!君がシルバだったんだね!!」
敵が去り、幾分か静かになった広場にアカラの声が響いた。
一目散にシルバの元に駆け寄り、シルバの手を取って喜んでいた。
だが…そんな嬉しそうなアカラとは打って変わってシルバは静かに周囲を眺めていた。
そして…
「悪かったな…アカラ…わざわざ俺のために世話焼いてくれて…じゃあな…」
そう言い、まっすぐにその広場を後にしようとした。
が、
「え!ちょっと待ってよ!どこに行くの!」
アカラが戸惑いながらシルバにそう問いかけた。
「ここではない何処かだ…短い間だったが世話になった。」
必死にその場を去ろうとするシルバをアカラは
「なんで…!せっかく名前が分かったのに…!記憶を取り戻すチャンスなのに!」
必死の思いでシルバを引き止めようとしていた。
その表情は曇り一つ無い本気の思いだった。
「悪いが俺が狂神(どんな存在)か分かった時点で俺はここに居ていい存在ではないことぐらいは理解できる。むしろ俺の記憶が無かった方が幸いだったほどだ。」
その言葉には自分自身が狂神と呼ばれるほどの強さを持っており、そして《狂神》と呼ばれる片鱗をたった今、自分自身で味わったという強い思いも込められていた。
「違うよ!あの通名は敵に付けられたものだから!僕達には関係無いよ!」
アカラはそれでも必死にシルバを止めようとしていた。
「悪いが俺も馬鹿じゃない。周りの状況を見れば俺が本当はどんな奴なのかぐらい…」
そこまで言いかけたシルバの言葉をかき消すほどの歓声が一気に湧き上がった。
先ほどまでの張り詰めた空気は何処にもなく、シルバが現れたことを祝福する、凱旋する騎士達に送られるような心からの賛辞にも似た明るい雰囲気に変わっていた。
一斉にポケモン達がシルバを囲み、期待と希望の眼差しで彼を見ながら質問攻めにしていた。
そんな展開になると予想していなかったシルバは戸惑い、何をしていいのか分からず、ただその取り囲むポケモン達の気迫に押されるだけとなっていた。
「なんだ?やけに騒々しいな。」
広場の状況が理解できず、まさにたった今帰ってきたことがわかる三人のポケモンがそんな言葉を漏らしながらその輪に近づいてきた。
それに気付いた広場のポケモンのうちの一人が
「あ!ジオ様、ラキオ様、バルト様!お戻りになられていたんですね!」
その広場に戻ってきたポケモン達はビリジオンのジオを中心に、左にテラキオンのラキオ、右側にコバルオンのバルトだった。
「一体どうしたというのだ。何故皆ここに集まっている?」
ジオがその話しかけてきたポケモンに事情を訪ねた。
「見てくださいよ!シルバが帰ってきたんです!」
そう、嬉々としてジオに報告し、人の波を分け入り輪の中心にいたシルバを引っ張り出してきた。
その引っ張り出されたシルバを見て、驚きを隠せなかったのか驚嘆の声を漏らし、
「シルバ殿か!久方ぶりだな!姿を消して幾日も経っていたため諦めていたが…やはりシルバ殿にもしもはないということか!」
ジオはそう言いながらシルバをまっすぐ見据え、彼であることを確認するように頭の頂辺から足の先まで舐めるような目で確認していた。
「当たり前だろうジオ。彼ほどの者にもしもなどあるはずがないのだ。」
驚きを隠せないでいるジオを諭すようにラキオが話に割行った。
「しかし…シルバ殿。今しがたまで何をなされていたのだ?」
続くようにバルトがシルバに質問を投げかけた。
「すまないが、今の俺には記憶が無い。それに俺がその『シルバ』という確信もない。あまり期待しないほうがいい。」
シルバと信じてやまない皆に自分の今の状況を遠まわしに伝え、尚且つ自身の情報を聞き出そうとシルバはあえてそう返した。
が、返答を聞くよりも先に
「ジオ!ラキオ!バルト!貴様ら今の今まで一体何処に行ってきたのだ!!」
そんな怒号が彼らに向かっててんで来た。
「なんだフレア。悪いが今は貴様の小言を聞く暇はない。」
ジオはその怒号の主であるフレアというポケモンに対して、呆れたように返答していた。
まっすぐにジオの元へ歩み寄り、聞く耳を持たない彼に対しさらに苛立ちも含まれた怒りを言葉にしてぶつけていた。
「フレア様!アクア様!エレキ様!見てください!シルバさんが…」
そう三人に、輪のポケモンの内の一人が喋りかけようとしたが、怒りの矛先は完全にジオ達に向いておりその声は耳に届いてはいなかった。
「分かっているのか?貴様らの軽率な行動が原因でまた貴様の村には易易と敵の侵入を許したのだぞ!」
三人に怒鳴っているフレアというポケモンはエンテイ、そして彼のすぐ横に並ぶように左側にアクアと呼ばれるスイクン、右側にエレキと呼ばれるライコウが立っていた。
「それでも貴様らは敵を討ち滅ぼすことを選ぶか!!守ることを放棄してまででも!!」
そのまま続けてフレアは彼らに怒りの言葉を投げつけた。
「何を言い出すのかと思えば…貴様らのような《逃げ回ることしか出来ない》者に我々のような身を挺して戦う者の思いなど到底分からんだろうな。」
その言葉を聞き、流石に聞き流すことができなかったのか、ジオが嘲笑しながらフレアに対し言い返した。
勿論、そんな事を言えば誰が見ても分かるほどの犬猿の仲の六人はそのまま睨み合ったまま口喧嘩を始めてしまった。
ようやく自分に関する情報を獲れそうだったが、それも叶わないことが雰囲気から薄々分かり、シルバは目を閉じて小さく諦め混じりのため息をついた。
そんな彼を後ろからチョンチョンとつつく人がいることに気付き、振り返るとそこにいたのはアカラ。
「ちょっと着いて来てくれる?もしかするとシルバの過去を詳しく知ってるかもしれない人が見つかったんだ。」
そう言い、人混みの中から彼をこっそりと連れ出した。

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**獣の島3 [#sa2bd897]

ここでは既に定番の光景のようで、戦うために集まったポケモン達もいつの間にか散っていた。
広場はいがみ合う彼らを除けば先ほどとなんら変わりない平和な光景に戻っていった。
「アカラ、君がここに来る前に言っていた戦っている相手というのはあの三人組なのか?」
そんな賑わい始めた広場から少し離れたところで、シルバは数ある質問からひとまず一番気になったことをアカラに聞いてみた。
「ううん。えっと…あの人達がさっき言ってたこの村とは別の村の長だよ。」
「そうなのか?なら戦っている敵というのは?」
シルバの顔には見事に『?』を浮かべた顔が刻み込まれ、一人迷走しそうになっていた。
「えーっと…とりあえず最初から説明するよ?まず…」
アカラは腕を組み、小首を傾げるシルバのために最初から詳しく説明し直すことにした。
まずこの世界は八つの島々からなる世界であること。
そしてそれぞれの島には獣、鳥、魚、虫、竜、大地、還らず、幻と簡単な島に住む主なポケモンによって名前がつけられている。
そのうちの獣の島が現在シルバ達がいる島であると教えてくれた。
続いてこの世界の状況。
現在、この世界は竜の島に住むポケモン達の中の、『龍の軍』というポケモン達の侵攻によって戦争状態にあるということ。
『竜の軍』には竜の体の部位にもじった、頭、腕、脚、翼と呼ばれる部隊が存在すること。
そして、先程攻め込んできたポケモン達が『龍の軍』の中の侵攻部隊、『竜の翼』であると教えてくれた。
最後に、この島に関する詳細な事情を教えてくれた。
元々この島にあった村は一つで六人で治めていたということ。
そして、多くなり出したポケモン達を効率良く守るために村を二つにし、互いが互いの村を守ることにした。
その際、三帝は守ることを、三闘は攻めることを主とし村を治め出した。
そして戦争が激化しだしてからは互いの情報交換ができず、次第に志のズレからいがみ合うようになったこと…
「ひとまず、僕が教えられることはこれくらいかな?何か思い出せそう?」
一通り話し終わり、話した内容でシルバに記憶が戻っていることに期待しているのかそんな希望も含んだような質問をしてきた。
話してもらった情報を整理し、今一度空白となった頭の中から思い出せることがないか探ることにした。
当たり前だがその程度で記憶が舞い戻ってくれば記憶喪失に悩まされなくて済むだろう。
諦めて返事をしようとしたその時、
「ようやく目覚めたか…シルバよ…」
そんな声が何処からともなく聞こえた。
「誰だ…?何処にいる…」
声の主を探し周囲を見回すが何処にも見当たらなかった。
「今私はお前の心に直接語りかけている。姿を探してもそこにはない。」
俄かには信じ難かったが事実、その姿はどこにもなかった。
「どうしたの?シルバさん。」
急に周囲を眺め出したシルバが気になり、アカラはそう訪ねてみたが彼の耳には届いていなかった。
「私の元へ来い…シルバ…お前の記憶はこの世界に関わる重要な記憶だ…」
「どういう了見だ?俺の記憶と、俺がお前の所に行かなければいけないことになんの関わりがある。」
頭の中に響く声に対しシルバも心の中でそう唱え、質問を返した。
「お前の記憶は思い出せない訳ではない…『記憶の欠片』となりこの世界に散らばったのだ…」
それはあまりにも核心を突き、突拍子もない話だった。
「つまり…要するに俺の『記憶の欠片』をお前が持っているということか?」
だが、それでも今のシルバにとっては信じうるに値する情報だった。
「その通りだ…この世界を救いたいのであれば、お前は『記憶の欠片』を集めるために世界を旅せねばならん。」
「なぜだ?世界に恐ろしい異変でも起きているのか?」
その声が綴ることは全て断定的な、むしろ予言と呼んだほうがいいような言い回ししかしなかったので、あえてそう聞き直した。
「私が語れることはここまでだ…あとは己で思い出すがよい…『神の社』で待っているぞ…」
そうとだけ言い残すと、頭に響き続けていたその声は聞こえず、こちらの呼びかけにも答えなくなっていた。
「…シルバさん!どうしたんですか?シルバさん!!」
そこでふと我に返り、必死に自分の名前を呼び続けるアカラにようやく気がついた。
「あぁ、すまない。必死に思い出してただけだ。」
そう言うとアカラはホッと胸を撫でおろすような安堵の表情を見せた。
「本当にびっくりしましたよ。急に上の空になって全く僕の声が聞こえてなかったんですからね。」
心底心配してくれているアカラのことは嬉しかったが、
「なあアカラ。敬語を使うのはやめてもらえないか?」
そこまで自分を思ってくれているアカラだからこそ、そんなよそよそしい喋り方をして欲しくなかった。
「はーい!実は僕もあんまり慣れてなかったんだよね。」
さっきとはうって変わり明るい返事をしてくれた。
「それで、何か思い出せたの?」
とアカラは先ほどの質問の続きをした。
実際のところは思い出していたわけではなく、自分の心に直接語りかけていた謎の声の主と喋っていたわけなので何も思い出してなどいない。
しかし、その時その声が言っていたことを思い出した。
「なあアカラ、『神の社』という場所を知らないか?」
「『神の社』?う~ん……聞いたことないなぁ…」
首を捻り、眉間に皺を寄せ必死に思い出そうとしてくれた。
少し黙り込んだ後、何かをひらめいたように顔を上げ、
「神の社って場所じゃないけど、この島の奥にある樹が『神の依代』って呼ばれてるよ。」
「神の依代…駄目でもともとだ、アカラそこまでの道案内頼めるか?」
似た名前であったためなにかしろの関連性があるとシルバは思い、早速そこに向かうことにした。
「え?今すぐ?せめてシルバの記憶を知ってそうな人に…」
「悪いな、俺の記憶はどうやらそう言った枝葉じゃ戻らないらしい。」
シルバがそう言うと、アカラは少し残念そうな顔をして耳を垂らした。
「大丈夫だ。今から行くところに俺の記憶が戻る手掛かりがあるんだ。」
そう優しく話しかけながら頭を撫でてあげた。
「さあ、行こう。ここでじっとしてても始まらない。」
そう言うとアカラは少し元気を取り戻し、コクンと頷いて村の出口の方へと歩き始めた。
「お!おぉ!シルバ殿ではないか!戻られていたか!」
街を出ようと歩いていた二人の元に、そう言いながらフレア達が歩み寄ってきた。
「シルバ殿がいれば安泰だ。我々と共に民を守ってはくれぬか?」
「狂神と恐れられるほどの力量、それは敵を討ち滅ぼすことのためだけにあるものではないはずだ。」
「我ら三帝と共に龍の軍と戦おうではないか。」
そう、彼らは口々に言った。
「なんだ?貴様ら臆病者がまだ何かこの村に用があるのか?」
シルバに話しかける三帝達を見て不愉快に思ったのか、話に割り入るようにジオが三帝達をそう罵った。
「悪いがシルバ殿は我々と共に龍の軍を全て討ち滅ぼすのだ。お前らのような臆病者と一緒にするな。」
「残念だが臆病者を守るための剣はない。村に戻って我ら四人が戦う姿を眺めていればいい。」
続けるようにラキオ、バルトがそう罵った。
勿論そんな犬猿の仲の者同士が集まればまたいざこざが起きるわけで、シルバをそっちのけで口論を始めてしまった。
「悪いが、今の俺にそんな暇はない。先に終わらせなければならないことがある。」
口論に夢中で周りが見えなくなっていた六人をシルバがその一言で止めた。
「シルバ殿。その終わらせなければならないこととは?」
そう聞いてきたフレアに対し、
「神の社という場所に行かなきゃならない。アンタらは知ってるか?」
その問いかけに対し皆、首をかしげるか横に振るだけだった。
「まあいい、俺はそこに用事がある。それが終わるまでは悪いがどちらにも加勢できない。」
シルバがそう言うと我先にと
「ならば早くその神のなんとかという場所に&ruby(おもむ){赴};くべきだ。」
「そして一刻でも早く我らと敵を…」
「まだ言うか!シルバ殿は戦う為にある訳ではない!」
言うが早いかすぐに口論に発展する彼らを見ているといい加減見飽きるものがあるほどだ。
深くため息をつき、顔を上げて
「悪いが今からでさせてもらう。後はアンタらで勝手にしてろ。」
そう吐き捨てうるさい彼らから離れるように村を出た。
「昔は…もっと仲が良かったのにな…」
そのまま歩きながらアカラがぼそっと呟いた。
「そうなのか?俺にはどうしてもそうは見えんが。」
今の彼らしか知らないため、到底予想ができなかったが、
「僕がもっとちっちゃかった頃なんだけどね。みんなで仲良く話したりとかしてるのをうっすら覚えてるんだ。」
納得したような、してないようなそんな顔でシルバは最後に彼らを振り返り、未だに飽きずに口論を続ける六人を流し見、村を後にした。

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**獣の島4 [#i295ecb5]

鬱蒼とした木々の間をこの村に来た時のように二人で色々話しながら歩いていた。
まず、彼ら六人の過去について教えてもらおうとしたが、アカラ自身もまだとても幼く&ruby(おぼろげ){朧気};にしか覚えていないと言った。
次に今向かっている神の依代について話しだした。
「アカラ、その神の依代というのはどんな場所なんだ?」
「えっとね…場所っていうよりもこの島の真ん中にある御神木の別名なんだ。」
聞けば聞くほど自分の目指している場所が分からなくなっていくような気がしたが、それでもシルバは
「御神木?いいのか?そんなところに俺が勝手に入っても…」
御神木などという島に祀られているものに自分がズケズケと入っていいか気になり念のためにそう聞き直した。
「よく分かんないけど、大丈夫なんじゃない?その御神木の洞に集まってお祭りをしたりとかもするし。」
「よく分からないって…まあいいか。」
予想以上に適当な返答にびっくりしたが、祭りをする場所なら恐らく入っても大丈夫だろう。
「しかし…木の洞に集まれるということは相当でかい木なのか?」
そう聞くとアカラは頷き、
「村の人達がみんな集まれる広さだったよ。最近は戦いが原因で集まってないけど…」
そう言うとまた寂しそうな顔をし、耳も力なく垂れ下がった。
「大丈夫だ。よくは分からないが俺が記憶を取り戻すことは世界の平和に関わってるそうだ。」
アカラの頭を撫でながら慰めるように優しく喋りかけた。
「関わってるそうだ…って、誰から聞いたの?」
自分のことではないかのようにしゃべるシルバを不思議に思ったのかアカラは覗き込むように見ながら聞いてきた。
「誰と聞かれると俺も分からん、けど知っているような知らないような…まあ、そいつが俺の心に直接話しかけてきたわけさ。」
そんなことを言えば尚更分り難くなるのも当たり前で、アカラは頭の上に沢山の?を浮かべてそうな表情をしていた。
「えーっと…?つまりその人がシルバを助けてくれてるの?」
「助ける……恐らくな。そいつが神の社に来いと言った張本人だからな。」
そんな話をしながら歩き続け、森の奥深くまで分け入り、ついに神の依代までたどり着いた。
ほぼ島の中心、村の周りに生えていた樹木とは比べ物にならないほどの荘厳な樹が一本、まっすぐに天を衝くように生えていた。
「これが御神木だよ。」
それは樹と呼ぶにはあまりにも大きすぎて、一目見た時にそれが樹であると理解することができなかった。
幹は幹と呼べる太さではなく、そこにポッカリと空いた穴は洞窟と見まごうほどの深さと広さになっており、それが樹であることを忘れさせるほどだった。
神の依代…その名が相応しいほどに悠久の時を生きた樹であり、既に人が踏み込めぬ領域となっているような気がした。
「アカラ、本当にここに入ってもいいのか?」
「いいもなにも、もしかするとここにシルバの記憶があるかもしれないんでしょ?迷ってる暇なんてないよ。」
その荘厳な光景を目の前にして気が引けるシルバと、特に気にしていないアカラの姿が深い森の深緑の中に映えていた。
しかし、樹の洞の奥へ進むにつれて二人の姿は森の中へと消え入るように馴染んでいった。
洞に降りていくに連れてその深さが尋常ではないことを思い知らされた。
外から見ていた時はよく見えなかった奥の方は、ただ暗がりになっているわけではなく、さらに奥へ奥へと続いていた。
進む程に辺りが暗くなり、次第に足場も悪くなっていった。
一寸先は闇、そんな言葉が生易しく聞こえるほどの暗闇の中、互いの声を頼りに下へ下へと降りていった。
ほとんど何も見えなくなってきたその時、ホゥと美しくも幻想的な明かりが急に現れた。
「明かり?なぜこんなところに。」
「ヒカリダケっていうきのこなんだって。なんでも暗闇ではランプの代わりになるし、美味しいらしいよ。」
アカラは既にこの光景に慣れているようで、その光を見て驚くシルバに説明していた。
降りるに連れて光の量が増え始め、ついには外にいた頃となんら変わりないほどの明るさになっていた。
「すごいな…たかがきのこでここまで明るくなるものなのか…」
「このきのこがあるおかげで僕達はここでお祭りが開けたんだよ?」
たかがという言動は流石に気になったようで、アカラがそう訂正してきた。
「いや、素直に感心してるだけだ。こんなにも小さな光が寄り集まって外の明かりに負けないほどに照らしていると思うとな…」
その後も2,3会話をしていたが、ついに
「着いたよ。ここから先には僕達でも入ってない空間があるんだ。」
樹の洞の最深部、以前は祭りが行われていたことがわかる痕跡のある部分の少し離れた壁に、そこから先には進めないように鎖が蜘蛛の巣のように貼られていた。
「いかにも、という場所だな。ここまで来て帰るわけにもいかんな。」
錆び付いた鎖に手をかけ、シルバはそれを一気に引き剥がした。
剥がれる鎖がジャラジャラと金属同士がぶつかる音を立てながら崩れていった。
「入ろう。心の準備はいいか?アカラ。」
「もちろん!」
シルバの問いに元気なひとつ返事で返した二人はそのままさらに奥、その樹の洞の最深部へと進んでいった。
その道幅はポケモン一匹が通るのがやっとの狭さ、シルバにはいささか狭いようだった。
ある程度進むと道が開け、小さな小部屋のような空間に出てきた。
「ここで間違いなさそうだな。」
シルバがそう呟いた時、
「ようやく来たか…待ちわびたぞシルバ…」
そんな声が、自分の心に直接語りかけていた声が今度はその空間の何処からか響いてきた。
「お前の記憶を廻る旅、それは恐らく困難な旅になろう…しかし、その果てにこそ心の平和を得るための鍵がある。」
闇の中からスゥ…と現れたそのポケモンの姿はアルセウス。
「ア、アルセウス様!?僕初めて見た!」
アルセウスの登場に驚くアカラ、しかし今度は対照的にシルバの方は一切同じていなかった。
「我が名はアイル、シルバよ、お前の旅の途中私の名を口にせねばならぬことが多々あろう。そのためにも決して忘れぬことだ。」
アイルはシルバに向かってまっすぐにその言葉を告げた。
「分かった、アイル。それと…」
そのまま話だそうとしたシルバを遮るようにアカラが
「ダ、ダメだよ!シルバ!アルセウス様にそんな口聞いちゃ!」
とても慌てるアカラを見て不思議そうに思うものの、
「ハハハハハ…よい…シルバには我々と同等に話せるだけの事をしてもらっている。」
アイルは笑いながらその光景を見ていた。
その言葉を聞き、アカラは何度もシルバをまじまじとみつめていた。
「そ、そんなにすごい存在だったんだ…シルバって…」
しかし、当の本人も不思議そうな顔をしていた。
「アイル、さっきの続きだが、もしあんたが持ってるなら俺の『記憶の欠片』を返して欲しい。」
そのままシルバは話を続けた。
「よかろう。だがシルバ、お前には記憶の欠片を手に取るに相応しいか試さなければならない。」
アイルのその言葉を聞き、体勢を低く構え直したシルバを見て、
「フフフ…シルバよ、何も力を試すことだけが試練ではない。」
そう、続けて話した。
「そうなのか?ならその試練ってのを教えてくれ。」
何も知らないのか、シルバはそうアイルに聞き直した。
「んむ?もしやシルバ、お前は私の事についてどれほど知っている?」
何かを疑問に思ったのか、アイルはシルバにそう聞いた。
「えっと…今の話からするとあんたは偉い人なのかな?ってことぐらいだ。」
その言葉を聞き、アイルは大きな声で笑い出してしまった。
「フフ…アハハハハハ!いや、まさかそんな記憶まで持っていないとは、あいつもわざわざ面倒を増やしてくれる…」
そんなアイルを見て、ただ不思議そうに見つめる二人。
ただ一人納得しながら、ただただ笑っていた。
「シルバよ、お前が今から集めなければならない記憶は世界に関わる重大な記憶だ。故に私もお前の記憶の一部しか持ち合わせていない。」
「というと?」
要領を得ない言葉にそのまま疑問を投げ返したシルバ。
「もし今私が、私の持っている記憶の欠片をお前に返したとしても何も始まらないだろう。」
その言葉を聞き、驚きながら
「どういうことなんだ?」
シルバはそう言った。
「今のお前には生きるため、世界を巡るため、そして我々の試練に望むだけの記憶も持っていないのだ。」
その言葉を聞き、落胆しそうな表情を見せるシルバ。しかし、アイルはそのまま続けて、
「その程度の記憶なら私が今すぐ思い出させてやろう。そうしなければ何も始まらんからな。」
そう言い、シルバの方に歩み寄ってきた。
アイルが目を閉じ、しばらくすると薄い紫色の光がシルバを包み込んだ。
そのまましばらくし、光が消えると
「では、今度こそ試練を始める。準備はいいか?シルバよ。」
そう聞き直した。
「聞くまでもない。」
強気なシルバのセリフを聞き、少し含み笑いをしながら試練の内容を話し始めた。
「シルバよ。お前はここに来るまでの間に、世界で起きている事の一部を見てきたはずだ。」
その言葉に対し、シルバは無言で頷いた。
「逃げ惑う人々、流れる血、怒りと憎しみ、そして恨みと悲しみが連鎖して世界はまさに崩壊せんと歩みを変えている。
そしてその中、敵に勇猛果敢に立ち向かう三人の戦士と、民を守るため我が身を呈し守る三人の戦士の姿があったはずだ。」
それを聞き、アカラが
「それってもしかして…ジオさん達のこと?」
そう聞き直した。
しかし、その問いには答えず、
「シルバよ、貴様に問う。これらの者達を貴様は救うことが出来るか?攻める者、守る者。双方どちらともだ。」
そう、シルバに対して突きつけた。
「幾らかの時間を与えよう。考えるのだ、全てを救い、尚且つお前自身も旅を続ける方法を…」
アイルは続けてそう言い、シルバに考える時間を与えたが、
「簡単だ、答えなら既に出ている。」
考える間もなく、すぐにシルバはそう答えた。
そんなシルバをいささか厳しい目で見つめ、
「ならば答えを聞こう、貴様が前線に立ち、すべての敵を退ける等という腑抜けた答えでないことを期待しているぞ?」
あらかじめ釘を刺して、そう聞いた。
「そんなことよりもっと簡単な方法だ。」
そこまで言われても動じないシルバを見て感心したのか、アイルは
「よかろう、答えを…」
そう聞いた。
「俺の答えは……」

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**獣の島5 [#q6b62d5c]

「ねえ…シルバ…本当にあんな答えでよかったの?」
アカラは不安そうにシルバにそう訪ねた。
「聞くまでもないさ。答えを言い、それを実現して来いと言われたならするまでだ。」
シルバ達は既に御神木の洞を出ており、今は村に戻っている途中だった。
アイルはシルバの答えに対し、それを成し遂げるように言った。
「それが私から与える試練、『真の護る心』だ。今お前が言った事、嘘偽りなく成し遂げてみせよ。その時に記憶の欠片を手に入れるに相応しい存在だと認めよう。」
それがアイルの試練だった。
「もうすぐ村に着くけど…僕は嫌だな。そんなこと…」
見覚えのある場所まで戻ってきた時にアカラがそう漏らした。
「大丈夫だ。何も問題ない。」
そう言いながら、耳の垂れたアカラの頭を撫でてやった。
茂る樹木の並木を曲がり、村の入口まで戻ってきた。
流石に口論を続けていた彼ら六人も何時間も顔を合わせていれば言い合うこともなくなったようで、静かにシルバの帰りを待っていた。
が、相いれることもなく互いに顔を合わせずにそっぽをむいていた。
入口に立っていた門番のポケモンがシルバの帰りに気付き、急いでジオ達に知らせに行った。
「ジオ様!ラキオ様!バルト様!それとフレア様!アクア様!エレキ様!シルバさんが帰ってきました!」
その知らせを聞き、皆欲しいおもちゃを我さきにと取りに行く子供のように押し合いへし合いしながらシルバの元に駆け寄ってきた。
「シルバ殿!よくご無事で戻られた!」
「五月蝿い!黙っていろフレア!さあ今こそ我らと共に…」
「貴様こそ黙らんかジオ!攻めてこぬ敵を追いかけるなど無意味だ、我らと共に…」
シルバの前に揃えば必ずと言っていいほど口論を始める六人に呆れながらも、シルバは大きな声で
「悪いが俺に提案がある。いや、むしろ決定事項というべきか…」
そう言い、六人の動きを止めた。
「して、その提案とは?」
ジオが代表するように聞くと
「まず、二つある村を一つにまとめさせてもらう。」
嫌そうな顔をしたものの、シルバの提案のため小さく頷きながら次の言葉を期待しながら待っていた。
「そしてその村を……俺がまとめる。」
一瞬、シルバが何を言ったのか理解できず、六人はきょとんとしていた。
「ハハハ…何を言い出すのかと思えば、確かにシルバ殿は強い。」
ジオがそう言い、続けるようにフレアが
「だが、村をまとめるのは強さだけでは務まらん。民の望みを叶えられる力が…」
「悪いが、今のあんた達より俺の方が村人の気持ちは分かれるつもりだ。」
シルバは聞き終わる前に言葉を遮り、自身の意見を挟んできた。
「少なくとも、互いに罵り合うことしかできないあんたらよりも今、皆が望んでいることぐらいは俺には分かる。俺が長を務める。」
そこまで言い切ったシルバに対し、
「シルバ殿…少しばかり戦が出来る程度でのぼせてはおらんかな?」
「そなたの言い草、我々では務まらぬと言っているようにしか聞こえんのだが?」
口々にそういう二人に対し、
「そういったつもりだが?それがどうかしたか?」
挑発にも取れる返答をさらりと返した。
「自惚れるな!たかだか狂神と呼ばれた程度で&ruby(まつりごと){政};((政治のこと))が務まるとでも思っているのか!!」
「一人で村をまとめるだと?貴様も我らの力を舐めすぎだ!」
例えそれはその六人でなかったとしても逆鱗に触れるであろう返答だった。
彼らの怒りは当然で、怒る彼らを見ても目の色一つ変えずに、
「たかだか三人ずつでしか戦えんあんたらより俺が弱いと思うか?力を舐めてると思うのなら…」
そこまで言い体制を低く構え、応戦体勢を取ってから
「試してみるか?」
そう言い、爪をチョイチョイと動かし、六人を挑発した。
完全に怒った六人は三、三に素早く別れ、
「その自惚れ、後悔することだ!我ら三闘神を甘く見るな!」
「貴様一人に我ら三帝を相手にまともに戦えると思うなよ?」
そう叫び、一気に飛びかかった。
双方の攻撃がシルバめがけ繰り出されるが、何事もないかのように風に吹かれる柳のように攻撃の隙間を掻い潜っていた。
そのまま流れるようにジオ達の方に一気に駆け寄り、とめどない連撃を繰り出した。
「ガッ…!くっくそ…!私がこの程度でやられる…など…」
動きが鈍ったのを確認するとそのまま素早く標的をラキオ、バルトに変え、次々に薙ぎ倒していった。
「あ…あっという間に…しかし!我々とて三帝!易易とはいかぬ!!」
結果はほぼ同じ、フレアを瞬く間に突っ伏させ、アクア、エレキも倒してしまった。
「所詮、あんたらの力なんてこんなものだ…」
地面に伏せた六人の真ん中で立ち尽くし、そう六人に向かって吐き捨てた。
「分かった…認めよう貴様の強さ…好きにするがいい…」
実力の差を嫌と言うほど思い知らされ、既に立ち上がる気力すらも彼らは失っていた。
「そうか…ならば村人は全て最前線で戦う兵士にする。戦えぬ者は俺が自らの手で皆殺しにする。それがたった今、俺が長になったことで決めたルールだ。」
その言葉はあまりにも唐突で、非道極まりない言葉だった。
「なんだと!!」
「そんなことは許さぬぞ!村を守るのが長の勤め!にもかかわらず、戦えぬ者も戦の駒にするなど我らが許さん!」
戦う気力を失っていた彼らも息を吹き返し、もう一度立ち上がった。
「だがどうするつもりだ?三人ずつかかってきたところで結果は見えているぞ?三人ずつでならな。」
立ち上がった彼らをシルバは挑発し、身構えた。
「今の我々では勝ち目はない…どうすれば…!」
必死に勝ちの道筋を模索するジオ、そんな彼に
「ジオよ!今は我々がくだらない意地を張っている場合ではない!力を貸してはくれないか!」
フレアが先にそう訴えた。
フレアのその必死の訴えを聞き、ジオは小さく笑った。
「忘れていた…我々の強さ…それは我々六人が力を合わせた時に真の力を見せるのだったな…」
そうジオはつぶやき、フレアをまっすぐに視界に捉え、静かに小さく頷いた。
しかし、その目は既にいがみ合う者の目ではなく、共に戦う者の強い目になっていた。
散開し、シルバを取り囲むように距離を置き、一斉に技を繰り出した。
しかし、シルバもそれを再度紙一重で躱していた。
そのまま攻撃に移ろうとするシルバにジオが急接近しインファイトを繰り出した。
その猛攻をシルバは全て受け止めそのまま反撃しようとしたところにフレアのかえんほうしゃが遮った。
攻撃を避けるため後ろに跳んだシルバをラキオがそのままとっしんで追撃。
流石のシルバも空中では急な方向転換はできず、まともにそのとっしんを喰らう羽目になった。
再度宙を舞うシルバは、空中で体制を立て直し着地した。
「流石にきついな…だがまだまだだ。」
そう言い、技を出し切ったラキオに殴りかかった。
はずだったのだが、足に痛みを感じ、シルバは自らの足元を見ると左足が辺り一面の氷と共に標柱に囲まれていた。
「バルト!エレキ!いまだ!」
不意を突き、れいとうビームを繰り出していたアクアが二人にそう呼びかけた。
「止めだ!せいなるつるぎ!」
バルトが角にエネルギーを集中させ、光り輝く角でシルバに連撃を浴びせ、さらに宙に浮かせると、エレキがそのままシルバめがけてかみなりを落とした。
雷は見事シルバを貫き、シルバと共に地面に降り注いだ。
「終わりだ。我らの本当の力その身でしかと味わえ。」
焼け焦げた地面に大の字で横たわる焼け焦げたシルバに対しそう言い放った。
するとシルバは薄く笑い、
「フフッ…そうだ…あんた達の本当の強さは六人で戦うことにある。」
そう言いながらシルバは飛び起きた。
未だ余裕の見えるシルバに対し、再度身構える六人。
「いや、もう大丈夫だ。俺に戦う気はない。それよりもあんたらも目が覚めたか?」
シルバにそう言われ、はっと六人は気が付いた。
今の今までいがみ合っていた六人はそこに肩を並べ、共にシルバと戦っていた。
「まさか…シルバ殿、これを気付かせるためだけに…」
シルバは再度薄く笑みを浮かべ、
「そうだ。あなた達の本当の実力は六人が揃った時にある。そうアカラが教えてくれた。」
「アカラが?あの子が…」
戦うシルバ達から距離を置いた場所で、静かに戦いを見守っていたアカラに六人はようやく気が付いた。

----

「よかろう、答えを…」
アイルのその問に対してシルバが出した答え…それは
「俺の答えは簡単なことだ。今現在、仲違いしているジオ達三闘神とフレア達三帝を仲直りさせるだけだ。」
そう、アイルに対し堂々と答えた。
答えを聞き、険しい表情を見せるアイル。
「確かにそれならば村を守りつつ、お前は旅を続けることができる。だが、話し合いで解決するほどの問題でもないぞ?」
長い間、いがみ合う六人を鶴の一声でどうにかできるものではないのはシルバも分かっており、
「そこでだ、俺が悪者になってあいつらをまとめさせる。」
そう、シルバは提案してきた。
「悪者?どういうことだ?」
いまいち要領がつかめないアイルはシルバに説明を求めた。
「まず、村に戻り、俺が長になると切り出す。そうすればあいつらも矛先が俺に向く。そこでまずあいつらは三人ずつで攻撃を仕掛けるだろう。」
そこまで言った時に
「待て、もしや六人と戦うつもりか?」
アイルは念のためにシルバに確認した。
「ああ、所謂ショック療法だ。三人ずつで戦いを挑む六人を適当にあしらって、その後、なにかしろの方法であいつらの闘争心を奮い立たせる。」
「シルバよ、確かにお前は強いが六人もの伝説級のポケモンを相手にするのは厳しいと私は思うぞ。」
シルバの淡々とした喋りに対し、そう割って入った。
「大丈夫だ、俺はあいつらよりも強い。」
そう言い切ったシルバを見て、アイルはまた笑い出してしまった。
「一体何処からそんな確信が沸くのかは知らんが…いいだろう。そこまで言い切るということはそれなりの自信があるということだ。」
その言葉を聞き、シルバはそのまま話を続けた。
「そして今度は六人全員で、同時に戦ってもらう。そして俺がわざとそこで負ければ問題は解決だ。」
そこまで言い終えたシルバに対し、
「よかろう。それがお前の答えなら今すぐ実行してもらう。それが私から与える試練、『真の護る心』だ。今お前が言った事、嘘偽りなく成し遂げてみせよ。その時に記憶の欠片を手に入れるに相応しい存在だと認めよう。」
その言葉を聞き、シルバ達は神の依代を後にした…

----

「ジオさんもフレアさんも…もうお互いにけなし合ったり、いがみ合ったりするのはやめてもらえませんか?」
アカラは必死に心の奥から出る声をそのまま口から言い放った。
「分かった。我々も馬鹿だった。互いに負担を減らすためにと思って行なったことが裏目に出るとはな…これからは皆で全ての民を守ろう。」
ジオが代表し、アカラにそう優しく言ってあげた。
「シルバ殿、度重なる無礼ここでしかと謝罪しよう。」
「いや、俺もあんたらには酷いことをしたからな。これでおあいこだ。」
謝ろうとした六人にそう言い、しっかりと互いに許しあった。
「シルバ殿、我々と共にこの村を…いやこの島を守ってはもらえぬか?」
フレアがシルバに対しそう切り出してきた。
「悪いが、俺には今から…」
「シルバには今から世界を救うための旅に出てもらう。そのためにお前達六人をまとめたのだ。」
そこまで言いかけた時に横からその言葉をアイルが付けてしてきた。
「ア、アルセウス様!!」
「アイル…」
アイルの登場にその場にいたポケモン達は驚きで身動きできずにあった。
「シルバは今、世界の命運を懸けた存在だ。そのためにここで長々と足を止められるわけにはいかぬ。」
アイルのその言葉に対し、
「かしこまりました。我ら六人でこの地を守り通してみせます。」
かしこまり、深く頭を下げながらジオ達はそう言った。
「うむ、しかしそこまでかしこまる必要はないぞ?私はただシルバに記憶の欠片を届けに来ただけの身だ。」
そう言い、シルバの方に向き直し、
「シルバよ、そなたの守る心しかと見届けた。受け取るがいい…これがお前の『記憶の欠片』だ。」
そう言うと、アイルとシルバの間にまばゆい光が現れ、次第にそれは欠けた石版のような形へと形成されていった。
仄薄く紫に輝くその石版をシルバは受け取った。
その途端、頭の奥、とても深いところから何かが浮かび上がってきたような気がした…
「シルバよ……の……定……めるか…?」
途切れ途切れに聞こえる誰かの声…そして
「お安い御用です。クロム様、その頼み引き受けます。」
聞き覚えのあるような、ないような誰かの声…
そこまででその映像は途切れた。
「今のは…?」
「その石版に宿りしお前の記憶の欠片だ。全ての記憶を取り戻した時、それが旅の終わりだ。」
石版に触れ、記憶を僅かに取り戻したシルバにアイルはそう告げた。
「この世界の全ての島にその記憶の欠片を持った者がいる。全ての石版を集め、私の待つ場所、神の社まで来るのだ。その時を待っている。」
そういうが早いか否か、つい先ほどまでそこにあったアイルの姿は既に何処にもなく、まるで幻だったかのように消えてしまった。
「ア、アルセウス様は!?」
突然煙のように消えてしまったアイルに六人は驚いていた。
「分かった。それが俺の旅だというのなら、近いうちにたどり着いてみせる。待っていろ、アイル。」
そう、消えたアイルのいた場所にシルバはつぶやいた。
しばらく時間が経ち、ようやく村は落ち着きを取り戻した。
ジオ達は近いうちに村人を全てそちらに移すと言い、村じゅうを駆け回っていた。
フレア達も迎える準備をするために一度村に帰っていった。
「それじゃアカラ、世話になったな。またいつかここに戻ってくる。その時にまた会おう。」
そう言い、シルバは村人の好意で貰った小さなリュックを片手に村を後にしようとしていた。
「シルバ!リュックを僕に渡して!」
そう言いながら、シルバのリュックをヒョイと取り、アカラがそれを背負った。
「こら!アカラ!シルバさんに迷惑かけちゃ駄目だろ!」
一緒に見送りに来ていたラッタがアカラを怒っていた。
「いいの!だって僕もシルバと一緒に旅に行くからね!」
そう言いながらシルバの方を見ていた。
「好きにすればいいさ。」
フッと小さく笑い、シルバはそう言った。
その言葉を聞き、アカラは嬉しそうにしていた。
「ということなんで!僕も行ってきまーす!」
そう言い、見送りに来ていたポケモン達を唖然とさせていた。
ポカンとしているポケモン達の中の先ほどのラッタが、
「なあアカラ。お前まだ自分のこと僕って呼んでるのかよ。」
そうアカラに対して言ってきた。
「なぁに?僕が僕のことを僕って呼んじゃいけないの?」
その表情にはなんの曇りもなく、当たり前のようにアカラはそう返していた。
「だってお前、女の子だろ?なのに僕っておかしいだろ。」
そう嬉しそうに言う、アカラにラッタはそう言った。
「お前女の子だったのか?えらく元気がいいから男の子かと思ってた。」
驚きにも似た表情でシルバはそう言った。
「えへへ~よく言われる。」
アカラは照れくさそうにそう言いながら、シルバの前を歩き出した。
「別にいいでしょ?僕は僕なんだもん!それじゃ!行ってきま~す!」
そう言い、シルバの手を引き駆け足で村を出て行った。
色々ありすぎて結局見送りに来たポケモン達はただただポカンとその様子を眺めるだけになっていた。
その賑わいよりもさらに後ろの方でその様子を眺めるポケモンが一人いた。
「シルバの登場と『記憶の欠片』…そして世界の安定に関わっている…これは&ruby(ヘッド){『頭』};に報告しないといけないわね…」
そう、呟いたそのポケモンは家々の影に消えていった。
シルバの旅は元気な女の子、アカラによって始まり、引っ張られるように次の旅へと歩を進め始めた。


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IP:125.13.184.58 TIME:"2014-12-28 (日) 00:02:25" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E7%8D%A3%E3%81%AE%E5%B3%B6%E3%81%AE%E7%AB%A0" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"

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