相変わらずの人♂×ポケ♀となっております。読みたい方だけどうぞ。 [[ピカピカ]] ちなみに前作の[[教えてほしいこと]]を読んでいるといいかもしれません。 ---- 「はぁ? パートナーを交換するだって?」 「そうそう。たまには自分のパートナー以外と過ごしてみるっていうのもいいと思うんだよ」 ある日の朝のこと、胡坐をかきながら向かい合って、いきなりそんな話題を持ち出してきた友人を侮蔑の眼差しで見る。 「いや、おかしいだろ!? 俺、なんか変なこと言った!?」 「微妙にいやらしい何かが感じ取れるんだよ、お前の言葉の中には」 「ひどぅい!! 俺だってたまにはまともなことを言うよ!?」 そう言う友人の目にはうっすらと涙が溜まりはじめていた。そんなことで泣きそうになるなよ。でも、いきなり自分のパートナー以外と過ごすことになると色々と大変だと思うんだけどな。餌とかの味だって好みの違いがあるだろうし、生活習慣だって違ってたりしたら、それもそれで面倒なことになりそうだしな。 俺のパートナーのグレイシアなんて、長く一緒に暮らしてもいないうえに、俺以外とだとかなり大変そうだし。友人の方のブースターは基本的に聞き分けのいい子だからあまり苦労しなさそうだけどさ。 「そもそも、なんでいきなりそんなことを思いついたんだよ? お前、ブースターに飽きたとかそういうことじゃないだろうな?」 「馬鹿野郎!! んなことある訳ねぇだろうが!! 俺のブースターへの愛はいつまで経っても変わらず燃え上がっているぜ!!」 だから泣きそうな顔でマジ切れするな。必死過ぎて見ているほうが辛いから。そして惚気るな。俺のグレイシアに対する気持ちもお前のそれに負けてはいないんだから。そこでチラッと部屋の窓から外にいるグレイシアを見るとブースターと何か話していたようだったが、すぐさまこちらに気づき、目線があった。すると、恥ずかしそうにしながらも顔をぷいっと背けてしまった。その顔は少し赤みを帯びていて可愛らしい。 一応あの一件から彼女の俺への対応は変わっていた。基本的にはいつもと変わらないツンツンした感じなのだが、二人っきりの時は本来の彼女の性格で接してもらっている。その二重の彼女を楽しんでいるのも中々乙なものだったり……と、惚気ている場合ではなかった。 「とりあえずさ、当の本人である二人に意見を聞こうぜ。俺達だけで決めたら二人が可哀想だろ」 「それなんだけどさ。この話題を最初に振ってきたのはブースターからなんだよ」 「へ? ブースターが?」 それはまた、いきなりどうしてそんな話を持ち出してきたのだろうか。たまにブースターの考えていることは分からなくなる。以前のあの時も… (じゃあ、今度は私とやってみない…?) ふとブースターに囁かれた言葉を思い出す。あれは冗談だと思っていたのだが、今回の話との繋がりをどうしても考えてしまう。そして、少し、ほんの少しだけ股座がずぐんと疼いたのが分かった。 いかんいかん。俺の愛している奴はグレイシアだけだ。他の奴、それも友人のパートナーである、あのブースターとなんて出来るわけがない。たとえ、ブースターのあの言葉が本気だったとしても、俺に応える道理はないはずだ。 「俺自身も色々と疑問に思ったが、ブースターの考えることだから何か思うこともあるんじゃないかと思って、全面的に信頼しておくことにした!!」 「この親バカめ。ブースターはいいとしても、グレイシアがどう言うか…」 「私はいいわよ。面白そうじゃない」 俺の言葉を遮るようにしてグレイシアとブースターが部屋の中に入ってくる。そして彼女が言った言葉に驚きを隠せなかった。 「なっ…いいのかよ、グレイシア?」 「何か問題でもあるの? たった一日パートナーが変わるだけじゃない」 「そ、そうだけどさ。俺はグレイシアと離れるのは…その……さみしぃって言うか…その…」 どうにも言葉がしどろもどろにしか出てこない。何だかんだで俺はグレイシアに依存しているのだ。昔からずっと一緒にいる彼女と一日でも離れて、別の奴と一緒になるというのが考えられないのである。接し方が分からないというのもあるのだが。 「はぁっ…馬鹿な主人を持って私は悲しいわ」 「…っ」 それは彼女も一緒ではないのかと思っていただけあって、そのショックは大きかった。だから今彼女に言われて何も言い返せなかったのである。両想いであったとしても依存していたのは俺だけだったという事実が少し心に響いた。 「……本当にしょうがない主人」 「えっ?」 そこでいきなりグレイシアが胡坐をかいていた俺の膝に座り、耳元で冷たい息を吐きながら、囁く。 「大丈夫。私のマスターはどんなことがあっても、あなただけなんだから…」 「グレイシア…」 「私も寂しいよ。少しでもあなたから離れてしまうのを考えると辛くてしょうがないの。だけど、今回は私にも思うことがあるの。だから…ね?」 横目でグレイシアの顔を覗き見ると、目を細め、尚且つ顔を赤らめていた。二つのグレイシアが混ざり合ったかのようなその顔と言葉に、少しだけ嬉しくなった俺はグレイシアの背を撫でて、とりあえず首を縦に振った。 「む~…見せつけてくれちゃって」 「なんつーか、ごちそうさん…」 そこで顔を膨らませたブースターと友人が、俺達を見ていたことに気づき、すぐさまグレイシアが離れる。依然として顔を赤く染め上げたままだが、その顔はどことなく嬉しそうに見えた。もちろん俺自身は彼女が場所を顧みずに本音を伝えてくれたことから有頂天になっていて、今回の話を勢いで受けることにした。 そこから話は瞬く間に進んでいき、なんと今日中に行われることにまでなった。俺の気が変わらないうちにってこともあったけど。 「そんじゃまぁ、早速交換をするとしますか」 「ボールとかはいいよな? 直接で」 「問題なし。本格的に交換って訳じゃないしな。たった一日だ。お前にとっちゃあ長く感じるかもしんねーけどな?」 うるさい、とあまり強く返せずに友人を軽く叱る。その様子にブースターがクスクスと笑っていた。 そして形だけの交換を終え、友人の家を出る際に、グレイシアの頭を軽く撫でた。恥ずかしそうにしながらも、その顔は満足気だった。 「じゃあ、グレイシアを頼むな」 「おうよ、ブースターのことも頼んだぜ?」 互いに頷き、手を振って別れる。そして自分の家への帰路を歩いていくのだった。 いつもと違うのは、隣にいるのがグレイシアではなくブースターだということ。これもまた新鮮な感じがする。 「ふふ」 「ん? どうしたブースター?」 「ん~ん、何でもないよ。ちょっと嬉しくなっただけ」 何に対して嬉しいのだろうか。あの変態から一日でも離れることができることか。いや、互いに想いあってんだからそれはないか。珍しく他の人の家に上がれることとか。だったら今まで何度も友人とブースターは俺の家に遊びに来たことがあるし、これも違うか。だとしたら、考えられるのは。 俺と一緒にいられること、とか。 いや、さすがに自惚れすぎだろ、俺。ブースターは友人のパートナーなんだから。万が一ブースターがそうであったとしても、それは恋慕の情などではなく、親しい間柄から発生する友情というやつだ。少なくとも俺はそうである。 「グレイシアのマスター?」 「うん、何だ?」 考え事をしていると、不意にブースターから声をかけられる。彼女を見下ろす形で目線が合うと、彼女は言葉を続けた。 「今日一日はグレイシアのマスターが私のマスターになるんだからさ、私がいつも呼ぶみたいにグレイシアのマスターのことをご主人って呼んでもいいかな?」 「別にいいけど。ブースターの好きなように呼んでくれて構わないよ」 「えへへ、やったぁ。じゃあ、ご主人」 「うん、ブースター」 「今日一日よろしくね?」 こちらこそと返した後は、ブースターといつものように他愛ない話をして家まで帰った。普段の友人のこととか、ブースターは何をしているかとか、グレイシアとはどんな遊びをしているかなど話のネタは尽きなかった。最初は少し不安だったけど、これもブースターのおかげかな。いつもの変わらない笑顔で、いつも俺と接するように、いつものブースターで話してくれた。それがあまり俺に気負わなくていいと言ってくれているような気がして。 ただただ、そのブースターの言葉には出さない優しさが有難かった。 ---- 「ただいま~っと。ブースターも遠慮せずに入ってきてくれ」 「うん、お邪魔しま~す」 家に帰ってきてから、母親に事情を説明してとりあえずはブースターを一日だけ家の子にしてもらうことを承諾してもらった。母親も何度もブースターを見ていたので、快く受け入れてくれた。それからは、俺とブースターで自分の部屋に行き、くつろぐことにした。何度も見ているはずなのに、ブースターは興味津々な感じで、まるで初めて見たかのような顔つきだった。 「ここがご主人の部屋かぁ…」 「そんな珍しくもないだろ? 何度か見てるだろうし」 「いつもはグレイシアがあまり見ないでって念を押してくるんだもん。こんな時でもないとじっくりと見られないよ」 「そんな物珍しくもないと思うけどな」 てかグレイシア、そんなこと言ってたのか。自分以外に主人の部屋をじろじろ見られたくないとかいう独占欲の現れ、なのかな。それとも、グレイシアとの行為の後でも見つからないようにとか。ちゃんと掃除はしているから問題なさそうだけど。 ブースターは部屋の中をぐるぐる回ったり、時たま部屋のどこかの匂いを嗅いだりしていた。 「な、なんか変な匂いとかする?」 「ん~ん。大丈夫だよ~? 嗅いだことのある匂いばかりだから特には気にならないなぁ…」 「それならいいんだけどさ…。どうにもそんなに色々やられてるとむず痒いっていうか…」 「私ももう十分堪能させてもらったから、そろそろやめるね?」 そう言ってブースターは部屋のベッドに座り込んだ。今まで立ち尽くしだった俺も、その隣に座ることにした。すると、ブースターが俺の体に寄り掛かった。温かい彼女の体温に少しドギマギしながらも彼女を見る。 「ご主人、緊張してる?」 「そりゃあ…グレイシアとは違うんだから」 「む、そこでグレイシアを比較に出しちゃうんだ…」 「あ~、えっと、悪い…。どうしても相手がブースターだとしても緊張しちゃうんだよ」 ふーんとブースターは寄りかかったまま少しだけ膨れっ面になった。 それから少しだけ沈黙が続いた。しまったとも思ったが、次にどう話していいかわからず、黙ったままだった。 「今は私がパートナーなのに……」 「え…何か言ったか?」 「何でもないよっ。ちょっとした独り言!!」 ちょっとだけ怒りが混じったようなそんな声に少し驚く。 「ほ、本当ごめんな…。こういうの全然慣れてなくてさ…」 「うぅ、そんな風に謝られたりしても私が困っちゃうよ…。何もご主人は悪くないんだけどさ…」 そこでブースターが耳を垂らして、落ち込む様子を見せた。まずいぞ、これじゃあ何のためにパートナーを交換したのか分からない。ブースターを落ち込ませるためにやった訳じゃないのだから、ここは今だけはブースターのパートナーとして何かしてやらなくちゃ。 俺のできる範囲でだけど、少しでもそれでブースターが満足してくれるならやるしかない。 「何かさ、ブースターは俺にしてもらいたいこととかないのか?」 「私がご主人にしてもらいたいこと?」 「おう、俺のできる範囲なら何でもいいぞ」 そういった瞬間ブースターの顔がぱっと明るくなった。 それでわくわくしたような顔で俺の膝に乗ってきた。そして俺を背もたれにするように座り、横顔を覗かせて言った。 「じゃあねじゃあね!! 私の頭なでなでして?」 「それくらいならお安い御用だ」 言葉を返してから、ブースターの頭をグレイシアにやってるのと同じように撫でてあげる。ひんやりとしたグレイシアの頭とは逆に、心地よい温もりが掌を通して伝わってきた。 「んふふ~♪ ご主人になでなでしてもらうと気持ちいいよ!!」 「そっか。それならよかった」 「もう少しお願いしてもいい?」 どうぞ、と一言。そうすると、先ほどよりもさらに目を輝かせてブースターが言った。 「じゃあ、私をぎゅって抱きしめて!!」 「お、おう…。まぁいいけどさ」 そして頭をなでていた手をブースターのお腹の辺りに置き、もう片方の手を重ねて引き寄せるように抱きしめる。 「んぅっ…」 「あ、ごめん。どこか痛かったりした?」 「大丈夫。結構力強かったから驚いただけだよ」 確かに言われてみれば、今引き寄せようとしたとき無駄に力が入ってしまったような気がする。無意識のうちに彼女の、ブースターの熱を求めてしまったような気さえした。現に、シャツ越しとはいえブースターの熱を感じていてとても心地よい。 「……」 「ん、ご主人? どうしたの、いきなり黙っちゃって…」 ブースターの心配をよそに俺は口の中に溜まった生唾をごくっと呑んだ。肌でこんなにも高い熱を帯びているなら、中は、彼女のあそこはどれぐらい熱いのだろう。そう疑問に思ったその時から俺はその疑問が頭から離れなくなってしまった。 ごくっ… もう一度唾を呑みこんでから俺はゆっくり、ゆっくりとお腹に添えていた右手をブースターの股座へと這わせた。 「ふぁっ…!? ちょ、グレイシアのマスター!?」 「はぁっ…はぁっ…はぁっ…!!」 ブースターの熱も絡み合い、額から、腕から、足から、色々な部位から汗がにじみ出ているのが分かった。呼吸は荒くなり、自我が保てなくなってきた。今は、今だけはブースターは俺の、俺だけのパートナーなのだ。 だったら、してもいいよな…。 「ひぁ…ダメぇ……こんなの、グレイシアにばれたら…っ」 「二人だけの秘密にしてしまえばいいじゃないか。ブースターは嫌か?」 「うぅっ。ずるいよぉ…こんなにしちゃってから聞くなんて…」 気づけば、あまり触れてもいないのに、ブースターの秘部から蜜が分泌され始めていた。 「準備は、いいみたいだな?」 「い、入れてぇ…っ。 私をご主人の物にしてっ…」 今、二人の禁断の行為が始まろうとしていた…。 ---- (…な~んてことにはならないよね、さすがに)どこからがブースターの妄想だったかは皆様にお任せします。 「おーい、どうしたブースター?」 抱きしめてからというものの、途端に無言になったブースターを心配する。 「ん、何でもないよご主人。ね、私の体あったかい?」 「そうだな、ぽかぽかしてて気持ちいいかも。冬の寒い日とかはアイツに毎晩こうされてるんじゃないのか?」 「あはは、ある意味抱きしめてもらってるかも」 聞かなきゃよかった。ちょっとだけアイツに制裁を加えたくなったのは言うまでもない。 でも、それを受け入れているってことはやっぱりアイツもアイツでブースターをすごく大事にしているんだということが分かる。ブースターもアイツのことを話すときは凄く嬉しそうに話しているし。 「ちょっと羨ましいな…」 「そう? 私はご主人とグレイシアの二人の方がよっぽど羨ましく見えるけどな~」 「なんで? いつも喧嘩してばっかりだろ?」 最近はブースターたちの前でもあまり喧嘩はしなくなったけどさ。 「ん~、だって喧嘩しあえる仲ってことはお互いに知り尽くしているからこそ出来るものってことでしょ?」 「そんなものかなぁ」 確かに俺は小さいころから彼女を知っている。だからこそ、喧嘩をするとき昔の話を持ち出したりもする。それはあちら側も同じことであって、喧嘩が終わった後はその話でまた話し合ったりする。そしてまた喧嘩したりしなかったりで。 「ははは、言われてみればそうかもしれないな」 「でしょ? 私にとってはそれが羨ましいな、なんて」 「アイツと喧嘩したりしないのか?」 「あっちのご主人は私をまともに叱ったことなんか数えられるぐらいしかなかったよ。だからこそ、叱られたときはとても反省するんだけど」 アイツが本当に怒るのを見たのなんか俺でも何年も前の話だ。 「ブースターが怒られるのなんて相当なことじゃないのか?」 「そうかな。私としてはもっと怒られてもいいことをしている気がするんだけどなぁ」 「俺に冗談言ったりとかか?」 俺がにやけながらそう言うと、ブースターはクスッと笑ってそうかもね、と答えた。 それから、少しだけ間をおいてからブースターは俺の方へと向き直す。それからいつになく真剣な表情で俺を見た。 「ご主人、私はね…嘘はつきたくないんだよ。ついてしまった嘘が後で自分に対してどう降りかかってくるかををよく知っているから。だけどその嘘をつかないように私は色々とズルはしてるかもしれない」 「ご主人、私はね…嘘はつきたくないんだよ。ついてしまった嘘が後で自分に対してどう降りかかってくるかをよく知っているから。だけどその嘘をつかないように私は色々とズルはしてるかもしれない」 「? ブースター、いったい何の話を…」 「私って欲しいものを我慢しちゃうタイプっぽいんだよね。それも本当に自分が求めていればいるほどのものを」 ブースターが自分に対して呆れるように溜め息をついた。 その様子を見て俺は何ともいたたまれない気持ちになって、ついブースターを再度撫でてしまった。しかし、そのことに対してブースターは嫌がるどころか、嬉しそうな表情を返してくれる。 「ありがと、ご主人。やっぱり優しいね」 「今は俺のパートナーはブースターだからな。パートナーのことを大事に思わない奴なんてそういないだろ?」 「そう、だよね。私は幸せ者だなぁ。二人のご主人から優しくしてもらってるんだから…」 それからまたブースターは黙る。長い長い沈黙の後、ずっと待ち続けている俺を時折見ては何か言おうとしてまた黙ってしまう。こんな状態を数分続けてから、ようやくブースターは俺に向かって声を出して言った。 「ご主人。今日一日だけ、一日だけでいいから……。私の我儘を、黙って聞いてもらえないかな…?」 「…我儘の内容にもよるな」 「うん…。多分聞いてもらえないだろうけど、言うね?」 ブースターは大きく深呼吸をしてから、またいつもは見せない真剣な表情で俺をまっすぐ見つめて言った。 「私を……抱いてください」 予想をはるかに超えたブースターの我儘に俺は思わず絶句する。口を半開きのまま、ブースターを見つめる。しかし今回の彼女はいつものようにふざけている感じではなく、真剣そのもの…のような気がした。 「やっぱり…ダメ?」 彼女からの言葉ではっとした俺はようやく言葉を紡ぐ。 「ダメも何も、ブースターはアイツのパートナーだろ? 何で俺なんかにそんなこと言うんだよ」 「もし、私を抱いても絶対にご主人には言わないし、グレイシアにも言わない。二人だけの秘密にしてもダメ?」 「そういう問題じゃないよ。ブースターはアイツのことが好きだろ? 俺だってブースターのことは嫌いではないけど、やっぱりグレイシアっていう大事な存在が俺にはいるわけだし…」 「…ふふ、もちろん今のご主人が一番好きだよ?」 今のはいったいどちらのことを指しているのだろう。彼女に問いたくても、問えない自分がいる。 何故ならそれを聞こうとしたその瞬間、俺はブースターに唇を塞がれてしまっていたから。塞いだと思えば、すぐに舌を絡め、俺の口の中を蹂躙する。 「んっ…!? んぅ…っ!!」 「ぷぁっ。えへへ、グレイシアのマスターからキスもらっちゃった」 正確にはこちら側が奪われたんですけどね。と、そんなこと冷静に言ってる場合じゃないな。 ブースターはと言えば、少しとろんとした目つきでこちらを見ながら言った。 「キスは私の方が上手いと思うよ? グレイシアとは経験の差があるからね…」 「そ、そういうことじゃない!! ブースター…こんなことしちゃダメだって」 「ご主人に申し訳なく思う? それともグレイシアに?」 どちらもだ、と俺は強く言うが、彼女は口の両端をあげて言う。 「そう思うなら何でこっちはこんなにしちゃってるのかなぁ?」 ブースターは自分の股座を俺の股座とこすり合わせて挑発するように言う。確かに先ほどのキスだけで少しばかりの理性を持ってかれてしまっていたのか、俺の愚息はズボンの上からでも分かるぐらいの盛り上がりを見せてしまっていた。 「これは…そりゃあ、あんなことされたら意識しちまうだろ…」 「少なくとも私に興奮するくらいの意識はあったってことだよね? まぁ、知ってたけど」 「な、どういう…」 「この前、私が誘ったとき、少し反応してたものね…?」 この前と言われた瞬間、あの言葉が脳裏に甦った。そして甦ると同時に彼女は更にのしかかるように俺の首にその短い手を回して、見下ろすような位置まで顔を上げて、問う。 「今度は私とやってみない…?」 その彼女の顔に少し惹かれつつも俺はブースターの腰に手を回して布団の上に乗せる。そして再度ブースターに言った。 「ダメだ、ブースター。俺はお前とはできないよ…」 「どうして?」 彼女が首を傾げる。 「俺は…グレイシアが好きだから。もちろんブースターのことも好きだし、アイツも親友として好きだ。だから裏切りたくない。ブースターが何で俺にこんなに迫ってくるのかは本当のことは分からないけれど、でも…」 「でも?」 「どんなにブースターが魅力的に見えても、俺の一番はやっぱりグレイシアなんだ。アイツとじゃなきゃ俺はダメなんだ」 ありったけの本音を口に出して俺はブースターの目を見て言う。対する彼女は少しの間沈黙し、やがては笑みを浮かべて俺を見た。 「敵わないなぁ、グレイシアには…」 「ブースター?」 「ごめんね、グレイシアのマスター。ちょっとからかい過ぎたかも」 「…どういうことかな?」 ブースターはほんの少し溜め息をついてから、今回のことについて語り始めた。俺はそれを聞いて少し呆れた。 「テスト…ねぇ?」 「ご主人がどれだけ自分のパートナーを思っているのか再確認したかったんだ。やっぱり日々の営みだけじゃ分からないところもあるだろうし、ね? 僕のご主人は多分聞くまでもなく、グレイシアの誘いを断ってると思うけど…」 容易に想像できるな。アイツはブースター一筋過ぎるから。 「でも私からの誘いに少し反応はしたけど、やっぱりグレイシアのマスターもグレイシア一筋で安心したかな。あの子も何だかんだで心配してたし」 女の子としてはやっぱり不安になってしまうものなのだろうか。自分の雄がどこか別の雌の物になってしまうことに。 「私は全然心配すらしてないけどね。あのご主人だもの」 「だろうな。でも…そっか。グレイシアでも不安に思うことがあるのか…」 「あの子の本質は寂しがりやだよ? 姿が変わってもあの子はあの子のまま。それは一番グレイシアのマスターが分かってることじゃないの?」 そうだな。確かに言われてみればそうだ。昔から俺の傍にいないと泣き出すぐらいの寂しがりやだったアイツが進化して変わったところで、中身は変わっていないはず。思い返してみれば、あの日以前からだってグレイシアは何だかんだ言いながらも俺の傍を離れないように行動していた。離れたとしても俺を視界から逃さないぐらいの距離にいたことは間違いない。一人で買い物に行ってた時、帰ってきたら凄く怒っていたのも覚えている。 「俺、グレイシアに悪いことしてたかな…」 「そうでなきゃ、今回の私の誘いにあの子が乗ることはないと思うよ?」 「帰ってきたらうんと構ってあげなきゃな?」 ブースターは俺の言葉に笑顔を返してくれた。俺の気持ちの強さを確かめさせてくれる今回のことには少しは感謝しとくべき…なのかな。 「あ、でもブースター。いくらなんでもキスとかはやり過ぎじゃないか?」 「……ごめんね?」 「ん、まぁいいけどさ…。グレイシアには黙っとけよ?」 「うん。私とグレイシアのマスターだけの秘密ね」 分かったよ、と俺はブースターの頭を撫でた。ブースターは少し顔を俯かせた状態で撫でられていた。 (こうでもしないと…振り向いてくれそうになかったから……) そのあと、結局その日一日はブースターと夜遅くまで話し合って終わってしまったのだった。 ---- そしてパートナーが戻る日。 俺はグレイシアを抱きかかえ、帰路についていた。 「アイツとはどうだった、グレイシア?」 「良くしてもらいましたよ? いつもの変態さなんか感じられないくらい」 「そっか。なら良かったよ。変なことされてなくて」 「そっちはブースターとはどうでした?」 「ん…特に何もなかったよ。ただ、話し込んで終わりかな」 あのキスを除けば…ね。 ほんの数十分前、俺に抱きかかえられたブースターはアイツのもとへ帰る前の道で俺に聞いた。 「また、パートナー交換とかしてもいい?」 「たまにならね。ブースターなら歓迎するよ」 「えへへ、ありがと。ね、ご主人?」 「なに?」 「私のこと好きかな?」 唐突に聞いてくる彼女の質問ではあったが、俺は迷いなく答えた。 「勿論好きだよ」 「…そっか。私もね、ご主人のこと大好きだよ?」 「それはどうも」 それからはまったく会話がなかった。けれど、ブースターは俺の胸に顔を埋めていた。そしてグレイシアと入れ替わるようにしてアイツのもとへ帰ったブースターはいつも通りの彼女であった。 ブースターの本当はどちらかはいまだに分かっていないけれどね。 そんなことを思い出しているとき、ふとグレイシアが何かに気づいて俺に言う。 「あれ、マスター? 何かここの辺りやけに濡れていませんか?」 「え? あ、本当だ。一体いつ濡らしちゃったんだろう…。ま、そのうち乾くからいいよ」 実はその濡れ方に俺は一つ気づいていたことがあった。 そこは先ほど抱いていたブースターが顔を埋めていたところと一緒なことに…。 やっぱり彼女に関しては分からないことだらけだ。 多分これから先も俺が彼女のことを知ることはほとんどないのだろう。 もしかしたら知ってはいけない、のが正しいのかもしれないけど。 ---- あとがき的な何か 官能なんてほとんどなかったんです(爆) 今回は少し重い感じで書かせていただきました。 期間空き過ぎて、文章の書き方忘れているような気がするのも多分間違いない。 ---- #pcomment IP:153.172.75.124 TIME:"2014-11-30 (日) 19:06:11" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E7%86%B1%E3%81%84%E6%80%9D%E3%81%84%E3%81%AF%E8%83%B8%E3%81%AE%E4%B8%AD%E3%81%AB" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.3; WOW64; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"