[[無くしたもの、拾ったもの 4]]の続きです。 これでこの話は最後です。 #hr ・・・ 夢?・・・まただ・・・またこの空間・・・ 先生が目の前にいる・・・いや、先生の姿をした何かだ 「お前は、自分の大事なものが何か分かったみたいだな。」 ・・・何のことだ? 「今回、俺は時間をさかのぼってお前たちを見ていた。」 「お前は一体誰だ?」 「俺?俺か?俺を知らないのか。しかたないなあ。」 何か、は強い光に包まれて俺の前にその姿を現した。 ディアルガ?・・・まさか・・・ 「そう、そのまさかだ。俺はアルセウスの姿に化けて未来からお前たちを見ることにした。」 「なぜ?」 「ホウオウが焼き尽くした遺跡、あそこは数千年後に神聖な森になるからな。その過程をぜひ。」 「え・・・?」 「じゃあ、ホウオウは何をつかさどるポケモンなんだ?」 「あ・・・」 「そういうことだ。じゃあな小僧、お元気で。アルセウスにもよろしく。」 ディアルガは消えていった。 ・・・ 目が覚めると。自分は病院にいた。 「目が覚めた?」 看護師のラッキーさんだった。 「あの・・・」 ラッキーさんは俺の言葉を遮るように言う。 「お友達なら今さっき退院の手続きをしてましたよ。」 え・・・ホーちゃんに裏切られた? しばらくすると病室のドアが開いた。 「ルギア、目が覚めたんだ。」 ホーちゃん・・・ 「ルギアは2日寝てたんだよ。僕は丸1日寝てた。」 カレンダーを見ると遺跡に行ってから確かに2日経ってる。 「もう退院できますか?」 俺はラッキーさんに聞いた。 「とくにけがもないみたいだし、目が覚めたら退院して大丈夫だよ、って先生もおっしゃってたので」 そそくさと俺は荷物をまとめ始めた。 夢の話をホーちゃんにするべきか俺は迷う。悪夢を見せたディアルガの目的は何かわからずじまいだし。 「荷物まとめた?」 ホーちゃんがひょっこり顔を出す。 「終わったよ。帰ろう。」 寮への帰り道、俺は気になってることを素直に聞いた。 「あの火ってちゃんと消えた?」 「消えたよ。遺跡と公園の80%は焼失したらしいけど。町の消防団総出で消したんだって。1日半かかったってさ。」 え?80%?あの遺跡だけでも相当大きかったと思うんだが。どうせなら全部燃えたらよかったのにな。 「あのさ、お見舞い来てたよ。僕が目を覚ました後に。」 ホーちゃんはうれしそうに俺に言う。 「誰?フリーザー?」 「違うよ。あとで教える。」 気になる物言いだな。ってことは結構意外なヤツなんだろうな。 寮に帰ってきた俺たちは自分の部屋に入る。 「なんだこれ?」 ホーちゃんの声がキッチンのほうからしてきた。 俺はあわててキッチンへ向かう。 「ルギア、キッチン使ったでしょ?」 「あ・・・ああ・・・」 ホーちゃんはやっぱり、といった感じで片づけを始めた。 「ごめん、なんかやらかした?」 俺は心配で聞いた。 「ううん、ただね、木の実の類がほとんどないなあ、って思ってね。調味料の減り具合も変だし。」 ホーちゃんが記憶をなくして病院にいる間、俺は自分で料理を作ったが、大失敗した。 「いつも思うんだけど、ルギアってなんで僕が苦手なことがだいたい得意なのに、料理とかはダメなの?」 ううっ、痛いところを突かれた。 確かに勉強も運動も俺のほうが得意だし、ホーちゃんが苦手なこともたいていできる。 でも俺は万能じゃない。本当に料理とかはダメだ。 「そうそう、先生から伝言で、明日は必ず学校に来てって。」 ホーちゃんは俺にそういうと材料を整理し始めた。 「今日は具があんまりないから、適当に作るね。」 ホーちゃんはこういうところはすごいな。俺がホーちゃんの行動パターンを見抜いてても、すごいと思える。 まだ俺の知らないホーちゃんがいるな。 「できたよ、久しぶりのフレンチトースト。」 「おっ、いただきます。」 「料理の腕は落ちてないかな?」 「うん、旨いよ。」 「よかった。」 こんな風に晩御飯を食べるのはいつ以来かな・・・風呂の順番の戦いとかあったし・・・風呂? 「お風呂にもう入れる?」 俺はホーちゃんに聞く。 「入れるよ。お先にどうぞ。」 珍しいな・・・ホーちゃんが譲ってくれるなんて。 食べ終わると俺は風呂に入る。 「はあ・・・これでゆっくりできる・・・」 風呂場から出るとホーちゃんを捜す。 いた。キッチンで片づけをしてる。 「お風呂入りなよ。」 「もうちょっと待って。」 「何してんの?」 「明日の朝ごはんの用意。本当に何もないから、アイデア絞ってるの。」 キッチンに食材がない状況を作り出した張本人の俺は少し申し訳ないな、と思った。 俺は布団に横たわると、今までのことを思い出していた。 「なんかいろいろ大変だったな。でもあの時のホーちゃんは強かったな。ホーちゃんとうっかり喧嘩できないじゃん。」 ホーちゃんはやりたいことが一通り終わったらしく、風呂場に向かった。 俺はホーちゃんの布団に目をやると、無造作に服が置いてあった。 「そっか、明日学校だっけ。辛いねえ。」 ホーちゃんが身体を乾かしているが、すごくねむそうだ。すでにふらふらしている。 「うー眠い眠い。眠いよ。」 ホーちゃんは布団にダイブする。 「あ、そうだルギア、お見舞いに来てたやつのことだけど、言うの忘れてた。」 「おう、誰なんだ?」 「ミロカロスだよ。じゃお休み。」 え・・・えー!マジで?なんで?ちょっと!気になる!ホーちゃん! 「寝るな!」 ホーちゃんはすでに夢の世界へ行ってしまっている。俺はもやもやを抱えたまま眠ることに。 ゆさゆさ・・・ゆさゆさ・・・ 「んーもうちょっと寝させて・・・」 「ルギア!遅刻するよ。」 俺は時計を見る。 「げ、もうこんな時間だ。」 飛び起きた俺はホーちゃんがすでに用意していた朝ごはんを食べて急いで着替える。 あわてて寮を飛び出した俺たちはギリギリで間に合う。 「ホーちゃん、先に行っててくれてもよかったのに。」 「僕はそんなことできないよ。」 ホーちゃんは優しいな。ホーちゃんじゃなかったら俺だけ昼まで寝てたな。 先生が教室に入ってくる。 「じゃあ授業始めるぞ。」 相変わらず退屈だ・・・眠い。寝るか。 ばしんっ! 「痛っ!」 「寝るなぁ!」 先生は教員日誌で俺をたたいた。もうちょっと優しく起こしてよ・・・ 「なんだ?もうちょっと優しく起こしてほしい、みたいな顔は?」 うっ、また見抜かれてる?なぜだ? ホーちゃんは俺のほうを見てあちゃー、ってな感じの顔をしている。そんなに顔に出やすいのか?俺。 授業の終わりを告げるチャイムが鳴る。 「昼休み、ルギアとホウオウは職員室まで来るように。以上。」 一生の終りきたーっ・・・って洒落になってない。 俺とホーちゃんは一緒に職員室の先生のところを訪ねる。 先にホーちゃんが呼ばれ、俺は外で待たされることになった。 すごい不安そうな顔をしたホーちゃんは職員室の奥に消えていった。 ちらりと時計を見ると、ホーちゃんが消えてから10分たつ。 職員室の扉が開いた。ホーちゃんが出てくる。そんなに疲れてるようには見えない。 「ルギアの番だよ。」 俺は恐怖に震えながら職員室の奥にある応接スペースへ向かう。 先生がすごい形相でこちらを見た。俺に気付くと完全な作り笑いを浮かべている。 「さて、座っていただきましょうか。」 逃げたい。マジで。殺されるんじゃないかな? 俺は先生に全ての経緯を説明した。遺跡での出来事。ホーちゃんの記憶のこと。 バンっ! 「ひゃあ!」 先生はおもむろに机をたたく。 「あ、ごめん。虫がいたから気になって。続けて。」 もはや混乱して言葉が出てこない。俺の口から言葉が出尽くすと、先生は言った。 「別に責めてるわけじゃないんだな。ただ、遺跡の8割が焼失、再建のめども立たない。レジスチルもポンコツになったし。」 責めてるわけじゃなくても十分怖いです。 「で、ホウオウはどうなんだ?なんか変わった?ある程度元通りになった?」 「そうですね・・・一応元通りになったかな・・・性格も全て。」 「そりゃ、良かったな。お前にとって最高の友達に見えるぞ。」 俺は照れる。そんなこと直接言われると・・・恥ずかしい。 「ホウオウくらいなもんだぞ、楽しそうにお前の飯を作ってくれるのはな。ちゃんと感謝してるのか?」 相次ぐ先生の尋問?に俺は恥ずかしくなって精神的に疲れてくる。 始業のチャイムが鳴る。しかし、一向に話は終わらない。むしろ長くなってくる。 先生はあることないこと言って適当に話を伸ばしてるだけのような・・・ バシッ! 「痛っ!」 「話聞いてなかっただろ。まだまだ終わらないんだけど。」 先生は次の授業の教科書で俺を軽くたたいた。 そういえばホーちゃんって外で待ちっぱなしなのかな・・・教室に戻ったかな・・・ 「もういいぞ。俺の話は終わり。教室に戻りなさい。」 やっと終わった。長い。俺は廊下に出る。するとホーちゃんがまだ俺を待っていた。 「ホーちゃんまだ待ってたんだ。」 「うん・・・だって先生が出てこないと授業始まんないし。待っててもいいかなって。」 俺たちは教室に戻る。 教室に戻ると皆が俺たちを見た。そりゃそうだよな・・・長いもん。 先生はあわててやってきた。 「授業時間が半端なんで自習な。」 みんなは大喜びだ。 「だからって騒ぐなよ。」 教室は静かになる。 自習だと授業はあっという間に終わってしまう。何もないし暇だし。 「今日はここまで、また来週。」 ホーちゃんを待っていたがフリーザーと何やら話に教室の外に出て行ってしまった。 「あの・・・ルギア・・・くん・・・」 振り返るとそこにはミロカロスがいた。 「あ、ミロカロスさん・・・」 「あの・・・あの・・・」 ミロカロスはなかなかその先を言おうとしない。何だろう・・・ 「初めて見たときから、好きでした。私と、付き合ってくれませんか?」 えーっ!なんだろうこの至上の喜びは・・・しかしいまさら一目ぼれとは。 「え・・・こんな俺でもよければぜひお願いします。」 ミロカロスはとたんに笑顔になる。俺もめちゃくちゃうれしい。 「あの・・・気が早いかもしれませんが明日公園にでも行きませんか?」 勇気を振り絞って声を出す。 「いいですね!行きましょう・・・行こう!お互い弁当持参で。」 え・・・弁当? 俺たちは約束を交わす。 フリーザーが戻ってきた。 「どしたの?」 「何でもないよ。」 フリーザーはニヤニヤしている。嫌な笑みだな。 「ホーちゃんどこ行ったの?」 「ホウオウなら図書室言って雑誌読んでるよ。」 「ホウオウなら図書室行って雑誌読んでるよ。」 図書室・・・すぐそこだ。俺たち3匹は荷物をまとめて図書室へ向かう。 図書室で雑誌を読んでるホーちゃんを見つけた。 「ホーちゃん、ホーちゃん。」 ホーちゃんは振り返って俺のほうを見た。 「ルギア、どうしたの?」 「ふっふっふ、実は彼女ができました。」 そう言うと俺はミロカロスのほうをじっと見つめる。 「え、ええぇ~!」 この反応、やっぱりホーちゃんは面白いな。 あれ、でもいまのリアクションは俺が彼女を作ったことに対するものなのか、それともミロカロスに対する反応なのか・・・ 「おめでとう。これで僕は独り身の友達がいなくなるね。」 ホーちゃんは自分のことのようにうれしそうだった。 ちらっとホーちゃんがフリーザーのほうを見たような気がするが・・・まあいいや。 俺たちは寮に戻る。 「あの・・・ホーちゃんすごく頼みにくいんだけど・・・」 「なに?デートにお弁当でもいるの?」 え・・・なんで見抜かれてるんだ? 「え?」 「いやね、ルギアが頼みごとするっていうことはデートでお弁当がいるのかなあってね。」 「実はそうなんだ。」 「わかった。お弁当の件は僕に任せて。」 なんだか情けないなあ。自分で作れたら文句ないけどな。 晩御飯を食べたホーちゃんはゴソゴソと棚を探っている。 「べんとうばこ~。べんとうばこ~~。あ、あった。」 「ごめんな、ホーちゃん。」 「いいよ。いいよ。僕もちょっと楽しみなんだ。他の人にお弁当みてもらうことなんてないから。それより早くお風呂入ったら?」 疲れてた俺は風呂に入り、もうそのまま寝る。 ん?まだ明るい・・・ 「あ、起しちゃった?ごめんね。まだ夜中の2時だもんね。」 ホーちゃん・・・まだ起きてたんだ。眠い。再び俺は眠りに落ちる。 「おはよう。」 俺は珍しく早く起きて服装をあれやこれやと決めかねていた。ホーちゃんは眠そうにお弁当を入れている。 「できた。ふああ・・・朝ごはんはお弁当のおかずのあまりです。」 「ホーちゃん徹夜?」 「違うよ、3時間くらいは寝たから。」 「全然寝てないじゃん。」 ホーちゃんは弁当を風呂敷で包んでいる。その風呂敷に俺は見覚えがあった。 「あれ?この風呂敷・・・」 「憶えてた?これ、僕たちが二人で暮らすってなったときにルギアのお母さんが勝負の時はこれ使え!って言ってくれたやつだよ。」 ホーちゃん、そんなこと憶えてたんだ。俺はうれしくなってホーちゃんに抱きつく。俺の翼がホーちゃんの首周りに垂れる。 「ちょっ・・・ルギア・・・」 「あれ?ホーちゃんってこんな身丈小さかったっけ?」 「そうだよ。一緒にいると案外わからないでしょ。それより待ち合わせの時間大丈夫なの?」 ホーちゃんを放した俺は、時計を見る。 「あ・・・早めに行くか。待たせると悪いし。」 俺は準備を済ませると、玄関でホーちゃんの見送りを受けた。 「はい、お弁当。」 「ありがと。」 「じゃあがんばって。くれぐれもへましないように。」 「ああ。行ってくる。」 励まされたり、落とされたりして俺は寮を出た。 おしまい [[青浪]]