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炎の音色に乗せて の変更点


[[紅蓮]]

注意:1 このページを&color(Red){作者で無断に編集・複製することを固くお断り申し上げます};。
    2 &color(Red){捕食・流血又はそれを連想させるような描写が含まれることが予想されます};。
     苦手な方は回れ右でお願いします。
     
 炎の音色に乗せて


今宵、闇へと消え行く私の呼吸音。
満天の星空をただ独り見上げる。
私は、元々ニンゲンのポケモンだった。
私の持ち主は、温厚でどこか間の抜けたところがあって、しょっちゅう何も無いところで転んでは
痛そうに体中をさすっていたのを今でも覚えている。
しかし、どういうわけだか、その人は若くして病に倒れ程なくして、帰らぬ人となってしまった。
その後、当然のことながら私の扱いは野生へと変わり、野生での生活が始まった。
凶暴な輩からの急襲を受けたり、食べ物が無くて飢え死にしそうになったりしながら、
死ぬギリギリのところを今まで生き抜いてきた。
その結果、流れ着いたのが今の群れである。
今、私はその群れから一人離れ程遠くない丘にて前述したことをしている。
私の群れは、炎タイプのみで構成された群れなので弱点属性をつかれたらそこまでなのだが、
今のところそのようなことは無い。
ポッ・・・ポッ・・・ポツポツ・・・
やばい雨だ。
急がないと、この季節の雨は体温を奪われて命を失いかねない。
私はすぐに起き上がり、背の炎を消し群れのいる方向に駆け出した。



バチャバチャ・・・ピチャ・・・バチャ
思ったより雨脚が強い。
あの星空から一転して、この天気である。
本当に空は気まぐれである。
そんなことはさておき、このままだと体温が下がりきる方が、群れに着くより確実に先だ。
どこかに雨をしのげる場所--。
あった。
走って1分程であろう場所に、おそらく洞穴だと思われる所がある。
あそこで雨をしのごう。

ハァ・・・ハァ・・・ハァ
危なかった。
正直この場所が見つからなかったら、私は雨に打たれながら倒れていただろう。
雨も、雪に変わる季節だ。
気温もそれなりに下がっていて、夜風が冷たい。
それにしても、この雨は何時になったら止むのだろうか。
背の炎を蘇らせ、冷え切った体を温めていく。
夜ももう遅い。
明日の事は明日考えれば良い。
そう思って、洞穴のさらに奥へと行く。
そして、壁に体を任せ目をすっと閉じた。




起きたのは、陽が昇って間もないころだと思う。
雨が上がったのはついさっきだったらしく、まだ洞穴の中が湿っぽい。
「起きましたか?」
そのときは、寝起きで頭が働いていなかったので、普通に返事を返してしまった。
通常なら、いきなり声をかけられれば相当驚いていたはず。
「あ、はい。おかげさまで・・・って」
そこには、赤い翼と青い体表が特徴のポケモン。
ボーマンダと通称されている種族がそこにいた。
あちらから見れば、私は格好の餌だろう。
自然と小刻な震えが全身に走る。
「そんなに怯えなくてもいいですよ。そこ、朝食用の木の実を用意しときました。
 それと、僕はどうも血の味というのが苦手でして。主食は木の実なんです」
朝陽がだんだんと強くなってきて、洞穴の状況がつかめるようになってきた。
割と広めな方で、かつ人間の手が加えられた様子は無い。
洞穴の奥には、今朝食べたであろう、木の実の蔕の部分が落ちていた。
視線を、下へと落とす。
奇遇なことに、私の好物のシュカの実だった。
「有り難うございます。朝食まで用意していただいて・・・」
まだ声が微かに震えているのが自分でも分かる。
「御礼なんていいですよ。あなたの好きな木の実だと思って、今朝採ってきたんです。美味しいと思い
 ますよ」
私はいつ味の好みを言ったのだろうか?
そんなことは、頭の片隅に置いておいて、今は新鮮な木の実をいただくことにしよう。




「送っていきましょう。どちらまで?」
「いや、悪いですよ。第一、私はあなたの住処を荒らしたも同然なんですから・・・」
心が広すぎるような気がする。
「いやいや、これも何かの縁ですよ。さ、乗ってのって」
ここは御言葉に甘えることにした。
「それでは、北のほうにある丘までお願いします」
そういうや否やふわっと浮き上がり、地上が玩具のように感じるまでそう時間はかからなかった。
ボーマンダの皮膚は硬さはかなりのものだけれど、ところどころ柔らかい部分がある。
柔らかい部分に触れると、くすぐったそうな反応をしていたが、
「そんなことしてると、バランス取れなくなって落ちちゃいますよ」
といわれてからは、さすがにやめた。
「油断させて、食べちゃおうってことは無いですよね?」
声の震えが、また強くなる。
次の返答は、一瞬だけ私の背を凍らせた。
「あるかもしれないですね・・・。なんてそんなこと、しませんよ。
 久しぶりに話した人にそんなこと。第一に、僕ってこんな身体してるからここら辺のポケモンに会うと逃げ
 られちゃうんですよ。それだから、人と話す機会が無くて・・・」 
「それで、私があなたの住処へ・・・わっ」
風に吹き飛ばされそうになったところを、ギリギリこらえる。
絶えず風が吹きつけ、それが時折強風へと変わる。
バランスをとり続けることが難しい。
「大丈夫ですか?速度落としますね」
速度が緩み、それに伴って風の強さも幾分弱まる。
「それにしても、びっくりしました。起きてみれば目の前にマグマラシがいるんですから」
「それはお互い様ですよ」
あの時寝ぼけていなかったら確実に気絶、もしくは絶叫していただろう。
時の運に感謝したい。
「あ、見えてきました」
徐々に速度を落として下降し、地面との焦点が合い始めた。
上昇するときと同様に、ふわっと着地した。
「有難うございます。あと、その・・・」
「何ですか?」
「機会があればまたお邪魔してもいいですか?」
「そりゃもちろん、あなたさえ良ければいつでも。歓迎しますよ」
そう言うと、ボーマンダは空へと舞い上がりもと来た道を帰っていった。
不思議と、恐怖心はなくなっていた。




群れに帰ってから、色々と言われたのは言うまでも無い。
一晩中、ずっと出かけていれば無理も無いのだが。
それでも、長からのきついお咎めを食らうのはさすがにきついものがある。
「全く、あなたの行動がいかに群れに迷惑をかけているのか分からないのですか?」
「すいません。道中、雨に降られまして、途中雨宿りをしていていたら寝てしまって・・・」
「それがいけないのです、大体あなたは・・・」
火に油を注いでしまったらしい。
その後も、散々言われこの時間だけで体重が激減したような錯覚に陥った。
長は、ゴウカザルという種族で私にてを差し伸べてくれた張本人だ。
感謝の念は持ち合わせているつもりだが、あれだけ言われると落ち込み具合が非常に大きい。
長は、同種族とは違い物理攻撃ではなく、精神攻撃が得意ではないかと思ってしまうほどだ。
「こってり絞られたな」
「あれには毎度参るよ。どうして長は物理で来てくれないのかな?」
「そりゃ、仲間を傷つけるわけには行かないだろ。
 それに第一に、何時までに帰ってくるか言えば長だって納得するのに」
「そんな、子供みたいなことするわけ無いよ」
「それでもしなきゃいけないだろ」
「うぅ・・・」
彼は、相談相手のブースターだ。
非常に気さくでいい奴なのだが、能天気過ぎるのがたまに傷だったりする。
「まぁ、良かったじゃん。外出禁止とかにならなくて」
それはそうだが、二時間もきつい直立状態を続けさせられた私の身にもなって欲しい。
「おっ、もう着いたか。意外と早かったな」
この群れは、各地を移動はしているが固まって寝るわけではなく、個々に仮の寝床を決め、寝泊りする。
彼は、木の洞を寝床にしている。
彼と別れた後自身の寝床である、ここから数十秒のところの木の洞へ向かおうとすると、
何かが私の足を止めた。
気付いたときには、私の足はあの洞穴へと伸びていた。



「というわけで来ちゃいました」
外は、冬の短い夕焼けが綺麗に木の緑を彩っている。
「歓迎しますけど、群れの状況を聞く限り危なくないですか?」
「大丈夫ですよ。長には、朝まで出掛けて来ますと言ってありますから」
長は、群れのみんなを守ろうとする一心なのだろうが、どこか過保護なところがある。
でも、適当な理由をつけて出かけることは、案外容易だ。
私は悪いことをしているのではない、と思いつつもやはり嘘をつくのは好きになれない。
とはいっても、長への報告を忘れなかった自分を褒めてやりたい。
「あの、今日は星を見に行きませんか?送ってもらった丘で」
「良いですよ。冬は星が綺麗になる時期ですから」
そういうと、身を屈めて私が乗れるようにしてくれた。
彼の背中は、非常に温かい。
迂闊に、気を抜いていると眠ってしまいそうなくらい心地よい。
「眠らないでくださいよ。落ちたらさすがに助けれませんから」
どうやら全てお見通しのようだ。

「大丈夫でしょうか。通常、あなたたちから僕は敵としてみなされます。戦いは嫌いなので」
「大丈夫です、この場所は私しか知りません。それと、その言い方は私が異状みたいに聞こえます」
夜風は珍しく冷たくも無く、星で地面が照らされているのではないかと思うほどに、無数の星が輝いている。
空を見ていると、まるで自分自身がその一部になったかのような感覚に陥りそうである。
ボーマンダは足を折り曲げた姿勢で、マグマラシは腰をつけて座り、この澄んだ空気と星との音色に
耳を傾けているようである。
おもむろに、ボーマンダが口を開いた。
「あなたは、心を懸けれますか?」
突然の質問ゆえに少々驚いたこともあったけど、それ以上に質問の内容がいまいち良く分からず首を傾げてしまう。
「すいません。
 つまり、よく命を懸けて何かをやり遂げると言いますよね。
 確かにそれだけの覚悟だということは分かりますが、誰でも実現可能なんです。
 僕は昔、ニンゲンでした・・・と言っても信じてもらえないでしょうけど。 
 それでも、このことは本当のことです。
 僕はその頃、丁度君みたいなマグマラシと一緒に暮らしていたんです。
 ですが、呼吸器官に原因不明の病を患ってしまいまして、結果一度死んでしまったんです。
 マグマラシは、僕に付きっ切りでできるだけのことをしてくれました。
 それでも、今はたぶんこの世には居ないでしょう。
 無理もありません。
 ニンゲンのポケモンがいきなり野生に放り出されて生き残って行けるはずが無いのですから。
 今も思うんです。
 あの時僕は、マグマラシに何をしてあげられたのかなと。
 心を懸けることは、命を懸けることよりも難しいです。
 心は、そこまで生きてきた過程が肥やしとなって出来る、いわば結晶のようなものです。
 その結晶を懸けるのですから、重みが人によって違います。
 僕の場合は、とても重みなど無く彼女につらい思いばかりさせてしまいました。
 なんか悲しい話をしてしまいましたね、ごめんなさい」
話がかみ合いすぎている。
もし、このボーマンダが私の御主人だったら。
その願いを込めて、私は聞いた
「そのマグマラシのニックネームは『カノン』でしたか?」
一瞬だけ、ほんの一瞬だけその場の空気が固まったような感覚に襲われた。
「まさか、あなたがカノンなんですか」
私は、静かにでも、深く頷いた。
するとボーマンダの顔が、綻びそして泣き顔へと変わっていった。
「カノン・・・生きていてくれたんですね」
にわかには信じがたい話だ。
ニンゲンがポケモンに姿を変えて転生することなど、聞いたことが無い。
でも、今ここに私の御主人がいる。
そう思ったとたんに、今までの溜め込んできた思いのダムが決壊してしまった。
「御主人のバカ。どれだけ寂しかったと思ってるの。どれだけ怖かったと思ってるの。
 タクト、私がカノンだよ。
 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん・・・・・・・」
久しぶり泣いた。
でも、涙は冷たくなくほんのり暖かった。




両者ともに泣き止むのに少々の時間がかかった。
それくらいに信じられないことである上、
また姿は違えどこうして出会えた喜びが合わさったのだから、無理も無いのである。
月の傾きも、頂に向かって少しづつ動いている。
「綺麗ですね。月もまともに見ていませんでしたから余計に・・・」
私はタクトの脇腹に身を任せ、焦点の合わない目で漆黒の空を見渡す。
普段、炎タイプとしか接してないせいかもしれないが、この柔らかい弾力が心地よくて眠りそうになってしまう。
背中の皮膚は硬質化していたが、おなかの辺りの皮膚は比較的柔らかいらしい。
「驚きました。何せ、僕がこの世を去って早4年が経とうとしているのですから」
「そうですね、あなたが居なくなってこれが4度目の冬です」
「落ち葉も散り終わって、冬目前と言うときに僕の呼吸は止まりましたから・・・そうなりますね」
私は、半分夢の中でその話を聞いていた。
衝撃的なことが続きすぎて、心身ともに疲れていたのだろう。
知らないうちに、寝てしまった。

夢を見た。
タクトが最期を迎える瞬間の夢。
何度も何度も、繰り返し見たその夢。
しかし今回は少し違った。
タクトの死ぬ直前の場面のとき、
「何かを手に入れるためには、何かを失わなければならない。
 カレンも主を失うんだ。きっと何か手に入れられるよ。
 そうだカレンに詩を教えてあげる。つらいときには、これを思い出すんだよ。
 
 遥かなる命の灯火
 
 今ここにて・・・」
夢はここで途切れた。

目を覚ましてみると、なぜか呼吸が出来ない。
唇に何か暖かい感触があるし、目の前にはタクトの顔。
すぐに状況が理解できたらたいしたものだと思う。
ゆっくりと、タクトの顔が離れる。
タクトの頬が翼のそれよりも赤いのではないかと言うほど紅潮している。
少しずつ状況がつかめては来たが、驚きで声が出ない。
「すいません。主人がこんなことしちゃいけないとニンゲンの時は、そう思っていました。
 それでも、カレンのことが好きでした。
 それは今でも変わりません。
 しかし、カレンの気持ちを無視した行為です。
 でも、この気持ちを・・・君に・・・伝えたかったのです」
嗚咽が漏れる。
「泣かないでください。タクト、あなたの気持ちちゃんと受け取りましたよ」
嗚咽が止む。
「主従の関係ではなく、その、恋人として見てくれますか。体格差はありますけど・・・」
タクトは、顔を上げまだ濡れた顔をほころばせた。
次の朝、私は早朝に別れをつげ群れへと戻ったのだった・・・。




時は、日も高く上った昼ごろ。
「あなたを、危険因子と判断しました。よってここであなたを始末します」
衝撃的な言葉の意味を理解するには、私が群れについてからのことを話さなければならない。

話は、朝まで遡る。
早朝、群れに戻るなり長の呼び出しを食らった。
きちんと報告はしたし変だと思いつつも、長の元へと向かう。

私はここで、最大の過ちを犯していたことに気がつく。

長の姿が目に入ったと同時に、ブースターの姿が目に入った。
しまった、ブースターはあの丘に一回だけ連れて行ったことがあったんだった。
悪い予感は的中率が高い。
彼は別れてすぐ、出かけて行き遅くなっても帰ってこない私を心配して、予想通りあの丘まで行ったらしい。
当然のごとく、タクトと一緒に居るところを見られてしまった。
天敵と仲良くするなんて、自分から餌にしてくださいと言っているようなものだ。
ブースターは、即座に長に報告し今に至る。

重苦しい雰囲気が辺りを包む。
「ブースターの言った事に偽りは無いですね」
私は静かにうなずいた。
「あのボーマンダと、今後一切会わないと言う約束は・・・」
「出来ません」
「悲しい事ですが、あなたのような者が以前にもいました。その者は、危険因子と判断され
 群れ全員で始末しました。あなたも例外ではありません。分かっていますね。
 あなたを、危険因子と判断しました。よってここであなたを始末します」
そういうなり火炎放射を長は放った。
間一髪避け、身を翻し走り出した。
やっと会えたのに、やっと互いの思いが伝わったのに、どうしてこんなところで死ななければならないんだ。
その思いが私の足を、体を突き動かした。

どれくらい走ったのだろうか。
もはや足は、自分の言うことを聞いてくれない。
近くにある木の幹に、その身を任せた。
自分の選択は間違ってはいない、そう思い辺りを見回す。
どうやら、知らず知らずのうちにタクトの住処である洞穴の周りを追いかけられていたようだ。
ここで叫べば、タクトが来てくれるかもしれない。
でも、私の声は上がった息によって音声となってはくれない。
近くでは、私を探す方向を指示する声が聞こえる。
不意に横から声が聞こえた。
「ごめんな、マグマラシ。でも、長の命令には逆らえない。長の命令は絶対なんだ。楽しかった」
冷たい視線を向けるブースターが、そこにはいた。

次の瞬間、ブースターは右前足をさっと振り上げ私の額をえぐった。
鋭い痛みと、決して少ないとは言えない紅の液体が全身を伝う。
「ブースター・・・あのボーマンダはタクトなんだよ。理解できないかもしれない。それでも・・・」
ブースターには、一度だけタクトのことを話したことがある。
群れになじめずにいた私に、声をかけてくれたのがブースターだった。
その彼が、今私の目の前に障害として立ちはだかる。
「そんなことを・・・お前は口車に乗せられたんだ。大体、あいつから見た俺たちなんてただの・・・」
「ただのなんですか?」
空には、雄雄しい姿を舞わせるタクトの姿があった。
ブースターは、何かに取り付かれたかのように顔をこわばらせ、動かなくなってしまった。
フワリと着地すると、ゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。
タクトが通り過ぎると、ようやく呪縛が解けたように、身を翻し茂みの中に消えた。
「だから危なくないですか、と聞いたんです。なってしまったものはどうしようもないですが・・・」
なぜ私がここにいると判ったのだろうか、聞きたかったが今はそれどころではない。
見ると、すでに茂みに隠れてはいるが群れの大半が集まっていた。
「選択肢は二つです。
 まず一つは、僕たちが素直にここから立ち去る事。
 もう一つは、それが叶わなかった場合、僕たちは殺されるでしょうから、戦います。
 よろしいですね」
私は、深く、覚悟を決めた表情で頷いた。
「僕たちは、ここから即座に去ります。ですから、もう無駄な労力を・・・」
「それは出来ません。あなたにはお仲間がいるかもしれませんので」
タクトがこちらに視線を向ける。
私は、再度頷いた。
タクトが身構えた。
ほぼ同時に、かつての仲間が襲い掛かってきた。




意識を取り戻したとき、当たり一帯は血の海と化していた。
私自身もあちこち傷だらけで、深手こそ負っていないものの出血の量はそれなりだ。
異様な静けさと、血の臭いが辺りを包んでいる。
咳き込む音が聞こえる。
すぐ前方には、まだ息のあるブースターがいた。
「おまえ、確か主人の前以外では戦わないって言ってたよなということは・・・ゴホッ」
少量の血があたりに飛び散る。
「これが、仲間を疑った報いって奴かな」
忘れようとした、罪悪感がふつふつと蘇ってくる。
「もうそれ以上何も言わないで。お願いだから・・・」
そうそれ以上は・・・。
上空から翼の音が聞こえてくる。
「食べてください。あなたは急所をはずしましたから、助かるはずです。
 種族だけで中身まで判断するのはどうかと思いますけどしょうがないです、僕たちはそういう種族ですから」
そういうとブースターの前に、オボンの実をおいた。
ブースターは、力なしににゆっくりとそれに口をつける。
タクトゆっくりと、この惨事の中心へと歩みを進める。
空をゆっくりと見上げた後、目を閉じあの時の唄を歌い始めた。

遥かなる命の灯火

今ここにて消える静かな炎

今このときまでどんな音色を奏でたか

命は永遠(とわ)に燃え続ける物

例え迷い苦しんでも、今を生きることが出来たのか

誰かに心を懸けることが出来たのか

できたのなら、あなたは綺麗な音色を奏でられる

炎の音色、今ここにて----



あの衝撃的な日から一夜経ち、私たちは新たな住処を探すために小旅行に出かけた。
ブースターは、自身で生活すると言って私たちが朝起きたときにはもうその前に姿が無かった。
こうしてタクトと会えたのは偶然だろう。
あらば、その偶然を起こした奇跡に感謝したい。

冬は近い。
でも、今年の冬は暖かそうだ。



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〈あとがき〉
今回[[赤いツバメ]]様、ポケルス様のリクエスト作品として執筆させていただきました。
一回だけ、バッドシーンが入る小説を書いてみたかったのですが、どうにもうまくいかず・・・。
最後になりましたが、お読みいただいた方に感謝を申し上げます。
誤字・脱字等随時の報告は随時受け付けております
ありましたら、ご連絡ください。

〈簡易のベルチェッカーの結果〉

【作品名】	炎の音色に乗せて
【原稿用紙(20×20行)】	30.5(枚)
【総文字数】	8052(字)
【行数】	374(行)
【台詞:地の文】	37:62(%)|2989:5063(字)
【漢字:かな:カナ:他】	31:61:3:2(%)|2541:4981:322:208(字)
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#pcomment(コメント/炎の音色に乗せて,10,below);


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