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災いを伝える者第惨話 死と幸福は紙一重? の変更点


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 アパラスト軍立兵器実験施設エリア-13、アパラスト帝国のトップであるアパラスト
 10世の命により設立された実験施設。ここの所長であった
 ハルパス・ディーゼルが同エリアに所属していたセエレ・シュークル小将、フラウロス・アンペア元帥と
 共に廃棄予定であった装甲車と最新型レールガンを奪い逃走した。
 1989年1月1日

もう二年も前のものだ、私の目の前で眼鏡を掛けたまま器用に眠っているブラッキー宛に届けられた裏切り者に関する大事な書類。
本当は二年前に目を通す筈だった、いや、通さねばならないものだ。
まずこの不祥事を問いただす為に眠っている間抜けの頬を引っ張る。

「起きろ間抜け!」
「ふぎッ!!」

身を包む鎧がうまい具合にくい込みかなりの痛みが襲ってきたようだ。暫く頬を押さえていた。
唸りながら眼鏡を掛け直しこちらを睨み付けてくる黒猫に先ほど書類の雪崩から発見した紙をみせる
鎧の下から睨むのを忘れずに。
ぽかーん、と口を開け二年前の紙を凝視し、我にかえったのかこちらから紙を引っ手繰ると
内容を音読し始め、読み進めるにつれて顔が青ざめていく。最後の日付を見て完全に動きが止まった。

「さて、この不祥事、どうする気だ? アスタロス・アクエリオス殿」
「……ホント、どうしよう…… 嗚呼、書類溜めなければこんな事にはならなかったのに何で目を通さなかったんだろ……」
「じゃあ、その面倒くさがりで救いようのないところを直せ、後書類を溜めて雪崩を頻発させるのも、お前一応ここの所長だろ?」

相変わらず唸りながら頭を抱え机にぶつけ始める。そういえばこんな話を聞いた事がある。
頭に衝撃を与えると脳細胞が少しずつ死滅するという話だ。この話が本当ならば奴はさらに馬鹿になった事になる。
今以上に馬鹿になったら言語が分からなくなるのでは?

「まあ、この事はこの際どうでもいい私がここに来た理由は別だ」
「ふえ?何?」
「簡潔に言おう、アーゲスが滅んだ 永闘兵を使ってヴィネがやったらしい」
「アーゲスって、マルチ共和国の領土よね レジスタンスに資金提供していた」
「嗚呼、近々私が派遣される予定だったが、奴が勝手に動いたようだ あと、アガレス爺さんもついていったらしい 鉄城の姫君を見つけたそうだ 多分ハルパスの事だろう」

私の発言に対しアスタロスは何かを考えるような動作をする。
ふと、近くに散乱していた書類の中に'"鉄城崩壊"'と書かれた新聞記事を見つけた。
こちらは10年程前のものだ、詳しい内容は分からないが一緒に掲載されている写真には首輪をはめられ
【元王族】と書かれた板を持たされているルカリオとアブソルが写っていた。

「てつじょーほーかい?」
「「!?」」

突然上から声がする。顔を上げてみると尻尾をゆらゆらと左右に振りこちらを見ているポチエナがいた。

「アミィか、何時からそこにいた?」
「えっとね、アスタロスお姉ちゃんが机に頭ガンガンしてる所から」
「アミィ、私は部屋から出るなって言ったわよね?」

私の問いに対して楽しそうにアスタロスが醜態をさらしていた頃からいたと教えてくれた。
というよりこいつはどうやってこの書類室(本当は所長室だがもはやそうとは呼べない)まで来たのだろうか。
出入口は一応あるが、ドアを比較的静かに開けたにも関わらずバベルの塔が倒壊した為、出入口を使ったとは考えにくい。
となるとダクト等から入ったのだろうか。あれならこの&ruby(ごみべや){塵部屋};へ安易に侵入が可能だ。
それによく見てみればアミィの身体のあちこちに埃がついている。
アスタロスの方は苛立ちと焦りの混じった表情を浮かべながら
アミィから視線をずらしている。先程から散々な目にあっているからというのもあるだろうがやはり
思惑とは別に&ruby(////////アミィ){生まれてしまった純粋};に血で汚れきった自分が接して良いのだろうか?という葛藤も抜けきっていないようだ。
私も未だにその葛藤はある。ここで、アミィ以外に自分の手が血に&ruby(まみ){塗};れていないと言える者は存在しない。
皆、殺しに加担してきた、ある者は兵士としてまたある者は研究者として少なからず汚れている。
唯一存在するイレギュラー、完全な純粋、それを保って育って欲しいがこの願いは叶うことは無いだろう。

何故ならここは最前線の基地なのだから。

「なーに難しいこと考えてるの?」
「ん?嗚呼、すまない ちょっとな……そういえばアミィは何処へいった?」
「とっくに飽きて別なとこいったわ  それより、どんな事考えてたの? やっぱりアミィのこと? 暇だから深くまで追求するわよ」
「そんなことより永闘兵の数はどうなってる」

黒猫はおどけた様子で、そう来たか、と言い舌をぺろりとだした、そのあとリストを読み始める。

「昨年の12月、新たに280機の鋼タイプに永闘兵システムを埋め込んだわ  5月に埋め込んだ128機中100機が完全破損で使用不可能になった」
「そうか……」
「これで永闘兵の数は12867機、予定もあわせると13000機よ」

予想よりも減っていない。どうやら国は戦争をやめる気など更々無いらしい。
いつまでこの無差別な殺戮を行えばよいのだ……?

今では永闘兵の不足により鋼タイプ補給のため永闘兵生産工場などというふざけた物が本土に存在する。
その工場内に設置された&ruby(///){生産機};に使用されているのは
その作りたい種の女とその種の男の精液、やり方は簡単だ。ただの生体パーツと化した女に必要最低限の栄養と精液を送り続ければいい。
そうすれば勝手に卵ができる。その存在が無くならない限りこの戦争は終わらない。
もはやこの戦争の意味はとうの昔に無くなっている。戦争の始まった当初、国には目的があった。

創造者アルセウスの獲得

冥界の管理者ギラティナ、歴史の記録者ディアルガ、空間制御者パルキア、これらの存在は宗教団体に神として崇められ、信仰されてきた。
だが、実際のところ彼ら、いや彼女らは我々と何ら変わらないポケモンだ。
だが、度々起こる津波や地震といった大規模な自然災害によって弱りきったポケモン達は何かに縋る必要があった。
その当時、たまたま知識などに長けていたディアルガ、パルキア、ギラティナ、そしてアルセウスは
その知識の豊富さ故にそういった自然災害の予兆となるものを知っていた。
それが災いして彼女らは『災害を予知出来た』ということだけでポケモン達に縋られ、神として祭り上げられ、さらに実際には無い力をでっち上げられた。
その中でも創造者とされてしまったアルセウス、ヤハウェの信仰は厚く、彼女を獲得できれば絶対的国際地位を獲得できる。
そのためどこの国も彼女の獲得のために戦い、この戦争が始まった。

だが自分が火種だと知ったヤハウェは自ら命を絶ってしまった。

けれども彼女が死んでも戦争は終わらなかった。
彼女の気づいたときにはどの国も、もう止めるにやめられなくなってしまっていたのだ。
ここで止めれば国際的地位が下がる、不利になる。どの国も自分の首を絞めていたのだ。

「目的の無い戦争……か」
「ん? なにか言った?」
「いや、何でもない 暫く出かけてくる」
「そう、行ってらっしゃい」

眼鏡を外し、長椅子に寝転がりながら無気力に返事をしてくる。
少し歩いたところで後ろから魘されているような声がしたが特に気に止めず目的の場所へと急いだ。

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住宅街を抜け、入り組んだ路地を突き当たりまで進むとシンプルに情報屋と記されたベニヤ板が立てかけられた
古びた小屋がひっそりと佇んでいた。
すっかり歪み、役目を果たしていない様に見えるドアを軽くノックする。少ししてから静かにドアが開いた。
やはり不気味な所だ。歪んでいる様に見える扉が静かに開く、此ほどおかしな事はないだろう。

「そろそろ来ると思ってましたよ大元帥殿 アーゲスその他諸々の情報はもう売れてしまいましたが、貴方のために非売品にしていた情報がありますので是非持っていって下さい」
「相変わらずだな情報屋 売れた情報はやはりもう無いのか」
「ええ、私は情報を一点物の商品として扱ってますので、売ってしまった商品はもう同じ店にも、勿論ほかの店にも置いて無いでしょう? それと同じ事です」

謎の持論のある情報屋。腕は確かだがイマイチよくわからない奴だ。
あいつの持論は一度客に売った情報は他の客には売らない、というものだ。
生き残り競争の激しい裏の仕事を行うものとしては少々……いや、かなり変わった奴だ。よくこんな持論があるにも関わらず生き残れたものだ。

「おや? 考え事ですか? まぁいいでしょう、貴方のために用意していた情報はもう貴方の鞄に入れておきましたから少し、私の戯れ言に耳を傾けてはくれませんか?」
「ッ! いつの間に…… いいだろう聞くだけ聞いてやる」
「おお、流石は大元帥殿聞いて下さいますか、では……」

そういうと近くにイスを二脚向かい合うように設置し、片方に座るよう言ってくる。
私が座るのを確認すると低めのイスの背もたれに腰掛け、鉄の杭のような突起の付いた手を片膝に重ねるように乗せる。

「さて、今からする話は偽りと真実の線引きはどれほど曖昧か、というものです ほんの余興ですがね」
「まず、偽りと言う物はその人が真実だと思っているが世間からみると間違っている物です。
 ですがそもそも世間の真実とは何か、ここに一つの例を出しましょうか、1+1は何になりますか?」
「2、だろう?」
「何故そうなるか、何故それが正しいのか説明出来ますか?」
「……ッ」
「説明、出来ないですよね 私が11になる、と子供に教えたとしても間違いではないのです 何故なら本当の答えは存在しないのですから」
「だが、それでは周りから間違っている、と言われるだろう」
「ええ、そしてその2になると言う回答をうけその子供はこう言うでしょう」

「『何故2になるの? 1が二つあるのだから11でも良いんじゃないの?』と、こう言われては対応に困ってしまいますよね」

そういうとイスの背もたれから降り、こちらに手を伸ばし頬を軽く撫でてくる。

「ふむ、そろそろ仕入の時間ですので続きはまた今度、と言うことで」

やはり……よくわからない奴だ。
私の頬に未だ触れている手を払いのけイスから立ち上がる。
例のドアまで歩みを進めていると後ろからダーツの矢が弾丸の如く頬を掠めドアを貫いた。
ダーツの矢が射貫いた箇所には『死と幸福は紙一重』と刻まれていた。

「死も幸福も結局は似通ったもの、ですが貴方の様な軍人さんにとっては死は終わらぬ悪夢の始まり……
 少しの油断が死を招く神の大鎌になってしまいます 先程のように……この先、生き残ってくださいよ?」
「嗚呼、分かっている &rudy(永闘兵){死ねぬ屍};の試験体なるのはごめんだからな」
「嗚呼、分かっている &ruby(永闘兵){死ねぬ屍};の試験体になるのはごめんだからな」

少なくとも今、死ぬ訳にはいかない。
私にはやらねばならぬ事がある。
私にはやらねばならぬ事がある

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[[第屍話>災いを伝える者第屍話 英雄を愛した龍]]に続く。
次話からふつーに主人公サイドが頑張ります。
次話からはふつーに主人公サイドが頑張ります。

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