この作品は同作者作品の[[漸近]]シリーズの内容を含む作品となっています。ご存じなくても平気かと思われますがお時間があればぜひそちらからをお勧めします 作者:[[ユキザサ]] ---- どこかの地方の書物に書かれていた。人もポケモンも変わらないと。では神と人ではどうか?このような問、他の神からしてみれば鼻で笑われるようなくだらない問なのかもしれない。それでも、私はあの時の選択が間違いだったとは思わない。現に私の胸に残ったこの一点はとても鮮やかで、悠久のような私の時間の中で一番の幸福だった。 だからこそここに記そう。四季の彩りと共に過ごした私たちの不変の絆を。 いつの日か。そう私が消え去ったいつの日か、この絆が次の世代に受け継がれ、また新たな物語が生まれるのであれば、それもまた、一興である。 ---- 師走の最終日、大晦日と呼ばれる日を迎えたこの街もいたるところで年始に向けて様々準備が終わって後は年が変わるのを待つだけといった所だろうか。俺の店もそうだが商店街の店も少しずつシャッターに謹賀新年のポスターと年明けの開店日時を書いている。かく言う俺も店の大掃除を済ませて年越しに備えて食材だったり物資だったりの買い置きを済ませた所だ。 「ただいまと言ってもいないんだったな」 少し前から賑やかになったこの家だがその賑やかの原因はやはり年末年始は人間よりも忙しいらしい。数日前から神社にこもりっぱなしだ。 「そう考えると買いすぎたかもしれないな」 エコバッグに入った二人前の材料を見て苦笑いする。こだわらずに乾麺にしておいてよかった。残りの食材は返ってきた時に何か美味しいものでも作ってやろう。と冷蔵庫に食材をしまおうと思って冷蔵庫の扉を開いた時に突然窓が開いた。 「奏者様ですね?」 「誰だ?」 いや人間ではないのは分かる。そしておそらくアイツ関係だってことも分かる。 「ルギア様がお呼びです。一緒にお越しくださいませ」 やっぱりと思った矢先突然持っていたエコバッグごと光に包まれた。 そして突然連れてこられたのは恐らく神社の社殿の中目の前には見慣れた姿があった。 「こんなところに俺なんかを呼んでいいのか?」 「使っている者が呼んだのだから構わないだろう」 にっこりと笑みを浮かべるルギアに僅かにため息を吐く。嬉しくない訳ではないがそれこそ神社の人間に見られたら不法侵入どころではない。 「ご心配なく。ここは不可侵の領域です。作り自体は表の本殿と変わりませんが本質はまったく違いますので誰かに見られる心配はないかと」 先ほど俺をここに連れてきたポケモンがそう告げるとルギアもそういうことだと呟いた。 「手間をかけたな。下がっていいぞ」 「畏まりました。失礼します」 ペコリと頭を下げてスッと後ろの扉から出ていったのを確認すると突然抱き寄せられた。 「仕事中にこんな職権乱用しても良いのか?」 「神も少しくらい我儘を言ってもいいだろう?」 しばらくそのままだったが満足したのか抱擁から解放された。 「で目的は?」 「奏者のご飯が食べたい」 先ほど吐いたため息がより大きなものに変わった。 「し、しかたないだろう!ここ数日はここにあるものだけだったのだから!」 「そうだとしても突然呼び出されても材料は……あるな」 手に持っているエコバッグに視線を落とす。あぁこれを見越しての呼び出しだったのか。 「ご所望は?と言ってもこの中に入っている物でしか作れないが」 「そうだな」 ガサゴソとエコバッグの中を漁り始める海神。全国の真摯に努めている神職たちが見たら感動とは別の意味で涙を流すかもしれない。ひとしきり漁り終わったのか選んだのは蕎麦の乾麺だった。 「年越し蕎麦と言ったか、妾は食べたことがないからな」 嬉しそうな顔で乾麺の袋を振るルギアを見て、年越しには早すぎないかという無粋な言葉は飲み込んだ。ご所望の物が分かったのは良いが問題はどう作るかだ。 「作るにしても台所が無いと流石に無理だぞ?」 「それなら問題ない。ここにはほとんどの物が揃っている。眷属に頼めば基本的には用意してくれるだろう」 「至れり尽くせりだな」 「では頼んだぞ。奏者」 ほとんど揃っているとは言っていたがここまで揃っているとは思わなかった。何なら最新鋭の調理器具もあるしコンロIHだし。色々と突っ込みたいが置いておこう。 「何かほかにお困りのことがあればお呼びください。それでは」 俺を連れてきた眷属のポケモンはそれだけ言うとすぐに部屋を出ていった。眷属もきっと忙しいのだろう。そんな中主の我儘で突然違う仕事を増やされたのだろう。僅かに感じる冷たい視線は気にしない方向にしよう。 「おいてある食材を勝手に使うのはまずいよな」 「構いませんよ。主のための物ですから」 「うわっ!びっくりした」 「先ほど主も仰っていましたがここにあるものは基本的に使っていただいて構いません」 「そ、そうですか。ありがとうございます」 再び消えた眷属を見送ってから漸く調理に入る。 「かえしまであるのか。じゃあ遠慮なく使わせてもらおう」 お湯を沸かしながら出汁の準備をする。ついでに油を張った鍋に火をかける。エビの背ワタを取ったり具材の準備をしたりしつつ炊飯器のスイッチを押す。 「お節介……かなぁ」 まぁこっちはほとんど俺が買った材料だし最悪持って帰ればいいだろう。てんぷら粉と水をボウルに入れかき混ぜておく。 「後は切れる物を切っておいてっと」 「お待たせしました」 「あぁ、随分と時間がかかったな」 「まぁ色々揃ってたから面白くなってな、すまん」 「構わん。我儘を言ったのは妾だからな」 「あんまり眷属に迷惑かけるなよ?」 「そうだな」 そんな話をしながら御盆の上に乗っけた蕎麦のお椀をルギアの前に出す。 「正直俺の作ったものの方が味のクオリティとかは低いと思うんだけどな」 「奏者の作った物は特別だ」 そう言って食べ始めたのを横で見る。あぁ本当にこいつは美味しそうに食べてくれる。作る側からしたらこの上なく嬉しい。 「ごちそうさま」 しばらく黙って待っていたがその声を聞いて食べ終わったお椀をお盆に戻す。 「これで残りも頑張れそうだ。本当にありがとう奏者」 「そうかまだ当分はこっちか」 「残念ながらな」 少しの苦笑からは込められたいろいろな感情を読み取れた。 「一応軽く食べられるものは何個か作っておいた。眷属の皆さんと分けてくれ。そっちにいらないって言われて食い切れなかったら。こっちに届けるかしてくれ夜食にする」 「ありがたいなあとで皆で分けることにする」 簡単なおにぎりぐらいしか作り置きはできないが、こいつにはそれでも十分だろう。 「ここがちょうどいい機会だと思うので先に言っておく」 突然神妙な面持ちになるからなにかと思ったが続けられた言葉はとても単純なものだった。 「今年も一年ありがとう。来年もよろしく頼む」 「こちらこそ。一足先に家で待ってるぞ」 最後にそう言って俺は自宅に戻った。 自宅に戻って最初に聴いたのは冷蔵庫のアラームだった。そう言えば出る前に開けっ放しだったと急いで怒りのアラーム音をならす冷蔵庫の扉を閉めた。 「正直に申します」 「?」 「私は貴方のことをあまり信用していませんでした」 直球だな。 「主の思い人とはいえ人は人。いつか主の力を利用することや、主を裏切るのではないかと」 まぁ普通に考えたらそう思うだろう。アイツ自身存在自体が珍しい部類に入る。それを利用すれば俺は一生遊んで暮らせるような金が手に入るかもしれない。だとしても楽しそうにそしてどこか儚そうに笑うアイツと長く過ごしてもそんな事は思わなかった。むしろ一緒に居ることが楽しくてそんな事を考える意味が無かったんだろう。 「ですが杞憂だったと、今日貴方と過ごす主を見て感じました。無礼をお詫びします」 「気にしてないですから謝らないでください。なんなら我が儘に振り回させてしまって申し訳ない」 深々と頭を下げる眷属に申し訳なくなってそう告げるとスッと頭を上げた眷属は再び口を開いた。 「そして最後にお願いを」 「お願い?」 「できる限り主の隣にいてあげてください」 「もちろん」 俺がそう即答すると眷属は少し驚いたような顔をしてからすぐに今まで通りの表情に戻って再び一礼すると光に消えた。 「会いたいなぁ」 ついさっきまで一緒に居たのにもう寂しさを感じてしまう。今まで一人だったのに誰かと一緒に居ることになれたからだろうか。持っていた荷物を置いてベランダの鍵を開ける。僅かに昇り始めた初日の出を見ながら会いたい相手の事を想う。 ---- <ここから先は再び作者がただやりたかっただけのおまけコーナーです> ---- *『教えて!ルギア先生!』 [#05IEnqM] ※作者はある程度齧ってはいますが、ガチ専門家ではないのでそこの所はご容赦ください。 「実際の神話や神道に関わる話を妾が分かりやすく説明するコーナー。今回の議題は初詣と正月行事についてだ」 ツッコむことも許されないスピードで始まるのかと思いながら相も変わらず恐らくどの入っていない眼鏡をルギアはクイッと上げた。 「まず初詣という行事について奏者はどのように考える?」 「初詣か。その年の初めに神社に参拝して前年の感謝と今年度について願うってところかな」 「おおむね正解だ。正し奏者の言うような初詣がポピュラーになり始めたのは意外と最近なのだぞ」 「へぇ」 「初詣の由来や起源としてもちろん諸説あるがここでは『年籠り』について説明するぞ」 「年籠り?」 「まぁ簡単に言うと大晦日の夜から元旦の朝まで寝ずに氏神(地域ごと住んでる人によって祀られる神様)の祀られている社寺にこもることだな」 「そのまんまなのな」 「そしてその年籠りが大晦日と元旦の二つに分けられ。巡り巡って、結果今のような形に変化したというのが一説だ」 「へぇ」 「次に正月行事の一つに正月飾りや門松を飾ったりするだろう?」 「そうだな。俺も買って飾ってるし」 実際に神様がいる訳だが。そこをツッコむとまた話がややこしくなりそうなので黙っておくか。 「では、質問だ。どういった理由があって飾っているかわかるか?」 「……いや、正直わかんないな。伝統というかそういうものだった感覚だな」 「では教えよう!あの様々な飾りは主に歳神様が宿るとされているのだ!」 「歳神様?」 「先祖の霊と言われることもある。各家に毎年やってくる神様のことだな」 「ほーん」 「まぁもちろんそれ以外にも諸説あるとされているが基本的にはこういった理由だな」 「歳神様かぁ」 「まぁ色々と話したが一番大事なことを最後に伝えておこう」 突然まじめな顔になって落ちかけてた眼鏡をルギアは直した。 「氏神だろうと歳神だろうと大事なのは感謝を伝えることだ。神にとって人の子からの感謝の気持ちが何よりも嬉しいものなのだからな」 「感謝してるよ」 「少し軽い気もするが素直に受け取っておこう。皆も今年は様々なことがあったかと思うが来年度は幸多く健やかな毎日を過ごせるよう妾も願っているぞ」 「(皆……?)」 「それでは今回のコーナーはこれで終わりだ。次回(未定)をお楽しみに!」 「(まだ続くのか……)」 *後書き [#P00uoVi] 一か月更新といったなあれは嘘だ。それはそれとして一年間お疲れさまでした。今年度は本当に大変でした。正直前回の話を書いた時には今もこんな状態だとは考えていませんでした。その影響で現実でも色々な事が予定通りにいかなかったり何だったりで彼らの話を書く余裕が無かったのが本音です(本当だよ。ゲームとかの誘惑に負けたわけじゃないよ)まぁそれは置いといて今も変わらず外出自粛の状況ですが、新年度はこの状況がよくなることと皆様の無病息災をお祈り申し上げます。 *感想等何かございましたら [#0PHRG5N] #pcomment()