ポケモン小説wiki
湯の香広がる町へ の変更点


writer is [[双牙連刃]]

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 朝日を感じて目を開けると、まだ眠ってるガメさんやノルンの姿が目に入った。部屋の時計を見ると、朝6時23分。ガメさん達が起きてなくても納得だね。
 さて、二度寝って言う気分でもないし、朝の身支度を始めちゃおうか。なるべく、静かにね。
 シャワールームと一体になってる洗面所へ行って、先ずは顔を洗う。これで残ってる眠気はスッキリ。次は歯磨き! って、人ならなるだろうけど、僕はあるのが歯じゃなくて嘴だしね。嘴磨いても仕方無いから、手の爪の手入れに移る。これを怠ると、あっちこっち触るだけで傷付ける事になるから結構念入りに削って磨いておくんだ。

『よぉ、朝から精が出るな』
「あ、ガメさんお早う。ごめん、起こしちゃった?」
『いや、自然に目が覚めたらお前さんが頑張ってるのが見えただけさ。お姫様は、まだ寝てるけどな』

 確かに、朝なんだから皆起きて当たり前か。とは言え、気持ち良さそうに寝てるのを無理矢理起こす気は無いけどさ。
 よし、手の爪はオッケー。足の爪は……床とか傷付けない程度にはなってるから大丈夫でしょ。

『身嗜みって奴にも気を使わないとならんとは、トレーナーも面倒なもんだな』
「僕の場合は、より気を付けないと簡単に物とか傷付いちゃうし、人とか傷付ける事になりかねないからね。あ、ガメさん朝のシャワーとか浴びとく?」
『昨日の夜に浴びた分で十分だ。それより腹減ったな、何か食い物無いか?』
「あるよ。元々朝ご飯にしようと思って、パン買っておいたんだ」

 置いてあった鞄から、一つのビニール袋を取り出す。入ってるのは豆パン、アンパン、クリームパンの三種類。

「ガメさんはどれにする? 多分ノルンはクリームパンが良いって言うだろうから、豆パンかアンパンになっちゃうけど」
『そうだな……なら、アンパンの方くれるか?』
「アンパンね。はい、これ」
『悪いな』

 受け取った袋を開けて、ガメさんはアンパンを食べ始めた。ついでだし、僕も食べちゃおうかな。
 バシャーモの僕は、さっきも言った通り歯が無い。あるのは嘴だから、物を食べる時は嘴で物を食べ易い大きさに千切って、そのまま飲み込む。こればっかりは体の造り上そうするしかないしね、多少舌とかで潰したりって事は出来るけど、人の食べ方に似せるのはその辺までが限界かな。
 豆パンも例に漏れず、少し千切っては喉の奥に通す。水分の少ない物とかだと、あまり大きなままだと飲み込めなくて大変な事になるんだよね。
 流石にパンくらいじゃそんな事にならないけどさ。よし、ご馳走様っと。

『ん、ふぁぁぁ……ぅー、朝ぁ?』
「うん。朝だよノルン、お早う」
『パロ、おはよー……んー』

 寝惚け眼で近付いてきたかと思ったら、ベッドに腰掛けてる僕の太腿を枕にしてまた横になっちゃった。いつもの事だから、椅子じゃなくてこっちに居たって言うのもあるけどね。

『やれやれ……パロだけじゃなくて、俺も居るんだがな』
『ガメさんに隠す必要無いもん……パロあったかぁい……』
「……お前達、ゲン爺の家に居る時も聞いたが……出来てないのか? その調子で』
「そういう付き合いは無いったら。半ば、もう癖みたいな物なだけだよ」

 ノルンがこうやってくっ付いてくるようになったのは、僕がワカシャモになった頃からかな? それまでは僕がアチャモだったし、逆にノルンの側で寝ちゃうとかはあったかな。
 これが始まった切っ掛けは、どちらかと言うと僕の所為かな? 僕がお祖父ちゃんに拾われてからちょっとしてノルンが連れて来られたんだけど、最初は誰とも口も利かない状態でねぇ……進化前の僕はそれが凄く気になっちゃって、よく後ろをついて歩いたり、何かある度にノルンに話し掛けたりしてたんだよね。
 最初こそ無視したり私に近寄らないで〜なんてノルンも言ってたんだけど、僕があんまりにもしつこかったからか、ノルンが根負けして僕の話に相槌打ってくれたりするようになったんだ。
 それから仲良くなるのにそう苦労はしなかったかな? 僕とノルンが打ち解けて、ノルンの話を僕が他の皆に話して、皆がノルンと話をするようになって。気が付いたら、こんな感じで側に居るのが当たり前になってたっけな。

「ほらノルン、寛ぐのはいいけど、朝ご飯食べちゃってよ。それから少し休んだら出発するから」
『はーい。あ、これクリームパンだ! やった!』
『ま、これだと面倒見の良い弟と、手の掛かる姉ってとこが妥当かもな』
「それだと、ガメさんは見守ってくれるお兄さんってとこだね」
『バッカ、俺を照れさせたって得なんか無いっつうの』

 食べてるノルンを撫でてあげながら、手を伸ばしてテレビのリモコンを取った。番組は天気予報、知っておいて損は無いからね。

『天気か。今日は……雨は降らなそうだな』
「だね。降られると厄介だし、晴れるのは助かるよ」
『ご馳走様。今日は私も外に出られるんだし、雨なんか降られるのは勘弁ね』
「あはは……あ、そうだガメさん、今日の結果次第だけど、大丈夫そうならガメさんも一緒に歩いたりする?」
『気が向いたらな。お前達と違って、俺はそこまで足も速くないし』

 まぁ、ガメさんは頑丈な甲羅背負ったりしてるしね。けど、そう急がない時は誘おうかな。ガメさんだって、ずっとボールの中じゃ退屈だろうし。
 さて、ノルンも食べ終わったみたいだし、そろそろ出発しようか。目指すはフエン、アスナさんが居るフエンジムだ。

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 キンセツシティから歩き出して、現在は111番道路。隣のノルンと一緒にフエンを目指してるところです。

『やっぱり外は良いねー。ボールの中は疲れないけど、私はこうして歩いたり話し出来た方が良いわ』
「そう? まぁ、特定の一匹を常に出して一緒に旅をするトレーナーとか、ボールに入るのを極端に嫌って常に出してなきゃいけないポケモンが居る、なんて話を聞いた事もあるから、意外と連れ歩いても、暴れさせたりしなければ大丈夫なのかもね」
『それに、ポケモンだけどトレーナーになっちゃって、堂々と街中を歩いてるポケモンも居るらしいしね〜』
「いやそれ居るらしいじゃなくて僕の事でしょ?」

 こうやって話しながら旅をするのも良いかもね。一人でただ黙々と歩いてバトルしてって言うのは、僕が目指すトレーナーとはちょっと違うし。
 ……僕がトレーナーになりたいと思った切っ掛けは、一つの古惚けたビデオの映像だった。その中に残った、たった一度のバトルの記録。お祖父ちゃんが懐かしそうに見ていたそれを、僕は一緒に見た。何の事は無くて、その時はお祖父ちゃんが何をしてるのかと思って傍に行ったんだったかな。
 熱心にポケモンに指示を送るトレーナーと、それに全力で応えるポケモン。バトルは一進一退を繰り返して、最後はお互いの手持ちのポケモンが同時に倒れて引き分け。勝負としてはそれでお終いだった。
 でも、その中でトレーナーはポケモンに何度も声を掛けて、励ましたり褒めたり。本当に一緒に戦ってる、傍に居るんだって、内容が分からないなりにも感じたのを、今でもはっきり覚えてる。
 そこで、僕は疑問に思ったんだ。この人は何をしてるんだろう、あのポケモンはどうして指示されて戦ってるんだろう、どうして……あんなに一生懸命で、終わった後にトレーナーもポケモンも、笑顔になれたんだろう。そんな風に。
 疑問は僕の中で燻って、やがて知りたいって気持ちに燃え上がる。トレーナーってなんなのか、ポケモンバトルってなんなのか。トレーナーのポケモンってどんな気持ちなのか……。
 その知りたいが、僕がトレーナーを目指す……ううん、トレーナーってなんなのかを知る始まりの一歩だった。アチャモだった僕に芽生えた、小さな小さな好奇心。それはやがて、僕の夢へと変わっていくなんて、その頃の僕は考えてもいなかったなぁ。

「ふふっ……」
『ん? どうしたの突然笑って?』
「いやね、なんだか不思議な感じだなーと思ってさ。アチャモの頃に憧れたトレーナーってものに、今自分が本当になったんだって事がね」
『あぁ、そういう事。アチャモの頃から、パロは変わり者って言われてたもんね〜。まさか、本当にトレーナーになっちゃうとは思わなかったけど』
「本当にね。まぁ、まだあの頃に憧れたトレーナーみたいにはいかないけどね」

 バトルは数回したけど、正直まだ未熟だって言われる程度だって自覚はあるよ。そもそもメンバーが自力で捕まえたんじゃなくてついて来てくれた2匹だしね……自力で交渉なりバトルなりして、手持ちのメンバーも増やさなきゃ。とは言え、タイプバランスなんかも考えなきゃだから、無節操に増やしてもいけないか。食費なんかの問題も発生するし。

「んー……増やすならどんなポケモンが良いかなぁ……」
『増やす? あ、そっかトレーナーって6匹までポケモンを連れてられるんだっけ。でもさ、私とガメさんだけで充分じゃない? 今だって私達だけで勝ててるし』
「でもさ? それだと最悪の場合だけどさ、ノルンに格闘タイプのポケモンと戦ってもらう事とかになる可能性もあるけど、いい?」
『……最低、エスパータイプと地面タイプのポケモンは仲間にしよ。私も全力で協力するから』

 ですよね。確かにノルンもガメさんも強いのは僕も分かってるよ。ノルンのレベルは32、ガメさんに至っては46だからね。駆け出しトレーナーが連れてるポケモンではまずないよねぇ。
 けど、ポケモンにはタイプとその相性がある。幾ら2匹が強くても弱点を突かれた場合、その受けるダメージは大きくなる。それこそ、レベル差を埋められる位ね。
 そういう相手とのバトルに備えるとしたら、当然こっちから相手の苦手とするタイプを出すのがベスト。となると、臨機応変に対応するには、偏らないタイプのポケモンを6匹揃えるのが良いよねってなる訳。
 まぁ、各所にあるポケモンジムは、それぞれに決まったタイプのポケモンを使うようにしてるみたいだけどさ。確か、各種タイプへの対応を試す為にそうなってる、らしい。単にそのタイプのポケモンが好きだからとか、結構私情が入っとるもんじゃがな! なんてテッセンさんは言ってたけどね。

「んー、地面タイプはどうにかなるかもだけど、問題はエスパーかなぁ? 強力だけど、そう数が居ないのがねぇ」
『ミライさんとか一緒に来てくれてればねー……そう言えば、なんでミライさんって野生に戻ったんだっけ?』
「お祖父ちゃんに拾われた命を、自分なりに考えて使いたいって言ってたかな? それでもし、また会う事があれば必ず力になってやろうって言い残して行っちゃったんだよね」
『ミライさんらしい謎発言ね……』

 お祖父ちゃんが亡くなってから、一緒に暮らしてたポケモンは大体三つの選択肢から一つを選んでそれぞれ散り散りになったんだ。一つは、今話してたネイティオのミライさんみたいに野生に帰るって選択。これが一番多かったよ。
 もう一つが、お祖父ちゃんの奥さんであるフナお祖母ちゃんと一緒に暮らすって選択。まぁこれは、お祖父ちゃんが居なくなってお祖母ちゃん一人になっちゃってるし、そこまで多くのポケモンの面倒が見れないって問題もあって、限られたポケモンだけが残った感じかな。
 で、最後が最少数の僕達ね。実はもう1匹、本当は一緒に行きたいって言ってくれたポケモンが居たんだけど、なんと言うか……他のポケモンに拉致されて、済し崩しに野生に帰っちゃったポケモンも居たんだよね。今頃元気にしてるのかな? サジンもララも。

「ま、きっと皆元気によろしくやってるだろうし、また会えた時にでも改めて誘ってみよっか」
『そうね。ミライさんやサジンなら、きっと声掛けたら来てくれるだろうし』
「でもあれから一月経ってるし、それぞれに事情が出来てるかもだけどね」
『あー……それもそっか。サジンなんか、ララと番いになっただろうし、難しいかもね』
「サジン、死にたくなーいって泣きながらララに拉致られていったけどね……」

 どっちも一緒に来てくれてたら凄い助かったけどねぇ。なんて言っても、サジンはフライゴンでララはボーマンダだったから。ドラゴンタイプはエスパー以上に貴重な戦力だったろうし、そう考えると惜しい事したかなぁ。
 ま、過ぎた事を言っても仕方ないか。別れた事よりも、これから出会う事を大事にしていかないとね。別れても、思い出はちゃんと残っていくんだしさ。
 っと、話しながら歩いてきて、112番道路への入り口に差し掛かった。このまま北に向かえば砂漠かぁ……ひょっとしたら、さっき話したサジンなら砂漠に居たりするかもね。ララが嫌がらなければだけど。

『パロ、どうしたの? フエンはこっちだよ』
「あぁ、うん、分かってるよ。行こうか」

 居るかも確定してないし、砂漠なんて広範囲を探索してたら幾ら時間があっても足りないし、今は後回しだ。112番道路に入っちゃおう。
 ここはフエンタウン以外に、煙突山へのロープウェイもあるから観光目当ての人も結構居るんだよね。煙突山はホウエンで一番大きな活火山で、なんでも奥底で伝説のポケモンが眠ってるなんて言い伝えもあるので有名かな。

「さ、後少しでフエンだよ。バトルを挑まれる事も無かったし、ちょっと早く着いちゃったかな」
『そだねー。……』
「ん? どうしたのノルン? そっちはロープウェイ乗り場だよ?」
『あ、いやその……ね? たまに一緒に来て横目に見てたけど、その……』

 ……あぁ、そういう事か。そう言えば、僕もロープウェイには乗った事無いんだよね。ノルンも興味あるみたいだし、まだ時間も早いし……少しくらい寄り道してもいいかな。

「折角ここまで来たんだし、ついでに煙突山も見に行こうか。寄り道も旅の楽しみだしさ」
『い、いいの? あ、でもあれに乗ってる間は、私はボールの中だよね……』
「んー……あ、でもポケモンを出したまま乗り場で待ってる人も居るみたいだし、少し確認してからになるけど、ノルンも乗れるかもね」
『ほ、本当!? なら早く行こう!』

 ノルン、相当乗りたかったみたいだね……走って行っちゃった。置いてかれる前に僕も行かなきゃ。
 乗り場に着いて、まずは身分証明。これをしないと、何処に行ってもコート着たバシャーモだしね。
 かなーり驚かれたけど、なんとかロープウェイの切符を入手。ついでに、暴れないのなら1匹くらいなら同乗しても良いらしいから、ノルンもそのまま乗る事にしたよ。乗りたがったのは元々ノルンだしね。
 それを伝えて上機嫌なノルンと一緒に乗り場で待ち列に混ざってるよ。一緒に待ってる人達に話し掛けられたり、一緒に写真撮ろうなんて言われるのは……まぁ、珍しいのは当然だろうし、快諾してる。
 しばらくそんな事を続けつつ、僕達が乗れる番になった。席の都合上、ノルンは僕が抱っこしてる事になったけどね。いや、ただ乗るだけなら座席の横に座ってて貰えばいいんだけど、窓の外が見れないんじゃ楽しさも半減だろうし。

『わぁー♪ 動いてる動いてるー♪』
「あまり動かないでよノルン? 抱っこしてるの大変なんだから」
『分かってるってば。でも凄ーい、どんどん登っていくよ』

 そりゃ、煙突山の山頂にまで行くんだからね。まだまだ登っていくさ。
 今はこうしてロープウェイがあるからいいけど、前はデコボコ山道しか無かったから山登りも大変だったみたい。……帰りはそっちから下山してみようかな。
 何事も無く山頂に到着。と言っても、火口と売店があるだけなんだけどね。

『楽しかったー。パロ、ありがと』
「どういたしまして。それにしても……火口まで来たのは初めてだけど、結構暑いね。ノルン、大丈夫?」
『暑いのは暑いけど、まだ我慢出来ない程じゃないよ。パロこそ、そんなコート着てて暑くないの?』
「そこは炎タイプの恩恵だね。暑さ寒さは大抵平気だよ。暑さでへばってたら、バシャーモの名折れってね」

 まぁ、幾ら炎タイプのポケモンとは言え、限界はあるだろうけどさ。それでもこのくらいならまだ大丈夫大丈夫。
 さて、登ってきたのはいいけど、何か目的があって立ち寄った訳じゃないしなぁ。何しよう?

『んー……なーんか、ロープウェイに乗りたくて来たけどさ、何にも無いね、ここ』
「観光地と言っても、火口があるだけだしねぇ。ロープウェイ乗り場の横の建物でお土産買ったりとか食事は出来るけど、行ってみる?」
『止めとく。お金だって使えるのに限界あるでしょ? ロープウェイに乗るのにだって払ってくれたのに、それ以上何かお願いするのは悪いもん』
「そう? まぁ、手持ちのお金もそんなに無いし、ロープウェイは楽しめたもんね」
『うん! また、一緒に乗りに来ようよ。約束!』
「ははっ、ある程度落ち着いたらね」

 よっぽど気に入ったみたいだね。なら、約束もしちゃったし、今度またゆっくりしに来ようか。
 よし、のんびりした事だし、改めてフエンへ向かおうか。と言っても、下山したらもう目と鼻の先って言ってもいい距離だけどね。
 ノルンを促して、山道の方へ進んだ。確か、この山道には炎タイプのポケモンが多く居て、それを目当てにここに来るトレーナーも居るって聞いた事があるかな。
 上から見てると、確かにそれっぽい様子があちこちに見えるかな。炎タイプか……僕自身はバトルに出れないんだし、1匹居ても悪くはないかなぁ。
 なんて考えながら、とりあえず下山開始。あ、これは結構足腰の鍛錬になるなぁ。ジムのトレーナーも鍛えるのにここに来る事があるってアスナさんが言ってたっけ。なんか納得。

『おっ、とと……もう、歩き難いなぁ。もう少し整備されててもいいんじゃないの、ここ』
「あまり整備し過ぎちゃうと、ここに暮らすポケモンが減る事に繋がりかねないからね。わざと自然なまま残して、代わりにロープウェイがあるんじゃないかな」
『なるほどねぇ……』

 ノルンの歩くペースに合わせて、気持ちゆっくりめに下りていく。それでも十分に明るい内にフエンに着けるし、転んでノルンが怪我とかするのも嫌だもんね。
 そのまま進んできて、大体中腹くらいまで来た。ここまでは順調だったけど……あ、ちょっと足止め食らっちゃうかな。

「そこのトレーナー、待てぃ!」
「はい、なんでしょう?」
「俺とバトルし……おわっ!? ば、バシャーモ!?」

 まぁ、驚かれるのにも段々慣れてきたよ。けど、いつもみたいに説明の流れにはならなかった。僕の姿に気付いた途端、なんかぶつぶつ言い始めちゃったんだもん、目の前の子。
 歳は、中学生くらいかな? 僕も14だし、同年代かな。いや、僕が人間換算だと何歳かは分からないか……生まれて14年経ったのは確かだし、14って言っても大丈夫でしょ。多分だけど。

「……とにかくこれはラッキー! そりゃあ!」
「うわっ!? いきなり何するの!」

 ばってこっち見たかと思ったら、突然モンスターボールが飛んできた。避けれたからいいけど、危うく当たるところだったよ。

「ちぇっ、やっぱり弱らせないとダメか」
「いやいや、ちょっと。なんでいきなりボールなんか投げてくるの。君、バトルをしようとして話し掛けてきたんでしょ?」
「いやだってお前バシャーモじゃん。何処で拾ったか知らないけど、そんな服と帽子被ったってお見通しだ」

 ……と言うか、僕が喋ってる事についてはスルーなの? しかもお見通しって言ったけど、最初トレーナーだと思って思い切り話し掛けてきてたし。

「さぁ、大人しく俺のポケモンになれ! 行け、ドンメル!」
「うーん……あんまり良くはないけど、こういう流れになっちゃったら仕方ないか。ノルン、下がってて」
『バトルね。そのまま私がやろうか?』

 相手のドンメルを見る限り、ノルンのゴリ押しでも倒せる。けど、折角水タイプのガメさんが居るんだし、ここはガメさんの力を借りようかな。

「いや、ここは……力を借りるよ、ガメさ……じゃなかった、カメックス!」
「は? な、なぁぁぁぁ?!」
『ん、出番か。丁度退屈してたし、一丁やるか』

 僕の前に現れたガメさんは、すぐに臨戦態勢に入る。この辺りは、流石元々トレーナー付きのポケモンって感じだね。

「ば、バシャーモがボールを使った!? って言うか、喋ってる!?」
「今更だなぁ……とりあえず、僕を捕まえたいって言うなら、先ずは僕とバトルしてもらうよ。それで僕が負けたら、考えるよ」
「ぐ、ぐぬぅ……け、結果としてこっちから仕掛けたバトルを逃げるなんてジム生の名折れ! や、やってやる! 行くぞ!」

 ジム生? って事は、ひょっとしてフエンジムの? 場所的に近いのはフエンだし、多分そうだよね。

「ドンメル、火の粉だ!」
「カメックス、鉄壁! 甲羅で火の粉を弾いて、水の波動で追撃!」
「ちょ、うぇぇ!?」

 何も指示は一つ一つしなきゃならない訳じゃない。指示をしたポケモンが混乱しない程度になら、流れとして出した方がポケモン側としてもスムーズに動く事が可能になる。
 まぁ、指示を出すポケモンと相手のポケモンの素早さとかの影響で、後の行動が出来なかったりする事もあるけどね。けど、今の場合は大丈夫。なんせ、指示を出すトレーナーの方が混乱しちゃってるからね。

「ど、ドンメル攻撃中止! 水の波動を避け……」
「無理だと思うよ? もう攻撃の態勢に入っちゃってるし」

 ドンメルが放った火の粉は、ガメさんが向けた甲羅の一部に当たる。けど、その火の粉はその一部に焦げ跡すら残さないで消えた。まぁ、こうなるであろう結果そのままだけどさ。
 最小限の防御で火の粉を防いだガメさんは、その構え中にも既に水の波動を用意してたみたいだ。防御を解いた直後に動いて、背中の砲台から輪の形をした水弾が勢い良く撃ち出された。あ、でもこれ大分手加減して撃ってるな。これなら大した怪我とかダメージを与えずにダウンさせてくれそうだ。

『んにゃぁぁぁ!?』
『と、加減はしたが、やり過ぎたか?』
「大丈夫……みたいだね。ガメさんのダメージも無し、か」
「つ、強い……」

 まぁ、カメックスとドンメルじゃ相性的にも能力的にも負ける要素は無いか。
 流石に力量差が大き過ぎるって感じたのか、相手は完全に動揺したかな。フエンジムに通ってるって言った辺り、手持ちは殆ど炎タイプでしょ。で、こっちにはタイプ優勢で実力もあるガメさんが居る。大勢は決したかな。

「まだやる? 僕としてはここでお終いにしてもいいよ。まだ続けるとしたら、僕も負けられないからこのまま押し切らせてもらうよ」
「ぐっ、ぐぬっ、うぅぅー……」
『……戦意喪失、だな。やるじゃないかパロ、交渉でバトルを終わらせるなんて』
「うーん、あんまりスッキリした終わり方じゃないけどね。出来れば多用したくないかな」

 ダウンしたドンメルを回収して、相手の子は俯いちゃった。やり過ぎたかな?

「……お」
「ん?」
「覚えてろよー! くそー!」
「……走って降りていっちゃった」
『で、結局なんだったの、あれ?』
『さぁ? まぁでも、そう気にする事も無いだろ。って言うか、なんで山道なんかに居るんだお前達?』
「まぁ、色々あったと言うかなんと言うか……フエンで落ち着いたら話すよ」

 分かったって言って、ガメさんはボールに戻った。ちょっと足止めされはしたけど、そこまで時間が経った訳じゃないし、今度こそフエンまで一気に行っちゃおうかな。

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 町の中に入ると、独特な温泉の香りが僕達を迎えてくれる。大分寄り道してしてきたけど、旅立ちからの目的地だった場所……フエンに着いた。

『ふぅ、到着だね。汗掻いちゃった』
「ノルンもお疲れ様。今日のシャワーの時にゆっくり流してあげるね」
『よろしくー。さて、どうするの? ジムに行ってみる?』
「そうだね。まずはアスナさんに挨拶したいし、行ってみようか」

 なんて話してたんだけど、なんかその必要も無くなったかも。だって、真っ直ぐにこっちに走ってくる人とポケモンが居るのに気が付いたし。

『あれ? パロ、あれって……』
「うん、間違い無いね。アスナさーん」
「パロー! もぉぉぉ、遅ぉぉぉぉい!」
「へっ? どぅわぁぁぁ!?」

 走ってきた勢いそのままにアスナさんは僕に抱き付いてきた……不意打ち気味だったから、そのまま押し倒されちゃった。

「フナお祖母ちゃんから旅に出たって聞いてからもう4日だよ!? 何処かで変なトレーナーに捕まっちゃったのかと思ったよ!」
「ちょっ、アスナさん苦しいったら。寄り道はしてきたけど、こうしてちゃんと着いたよ。まぁ、ちょっと遅くなっちゃってゴメンね」

 特徴的な赤い髪が揺れて、ちょっと涙目なアスナさんが目の前に居る。本当に心配させちゃったみたいだな。

『アスナには困ったもんだよ。あんたがフナ婆の所を出たって聞いてから、ずっとそわそわしてたんだから。飛び出して行こうとするのを引き止めるのも大変だったよ』
「あははは……ホムラさんもお久しぶりです」

 僕にすっと手を出して起こしてくれたのは、僕と同じバシャーモのホムラさん。僕の、僕自身が戦うとしてのバトルの師匠ってところかな。

『全く、あんたは筋が良いから強くなった筈なのに、結局はトレーナーになっちまったかい』
「それは……ごめんなさい。でも、どうしても夢を追ってみたかったんだ」

 ぽんぽんと僕の肩を叩いたかと思ったら、今度はホムラさんの腕の中に僕は収まる事になった。いや、道端でされるとかなり恥ずかしいんだけどな。

「とにかく、まずはトレーナーデビューおめでとう! ほらホムラ、道の真ん中で何時まで抱き合ってるのよ?」
『先にパロに抱きついたのはアスナだった筈なんだがな』
「ま、まぁまぁ……」
『相変わらずだけど、パロってアスナとホムラさんに気に入られてるねぇ……』

 呆れ気味にノルンがそう言うと、慌てたようにホムラさんは咳払いをして姿勢を正した。いや、そんなに慌てるような事でもないと思うけどな。
 でも、どっちも元気そうで良かった。お祖父ちゃんの葬儀の後、しばらく相当落ち込んでたみたいだったからね。

「さて、立ち話もなんだし、私のジムでも行きますか。いきなり飛び出して来ちゃったしね」
「そういえば、なんで僕が来たって分かったんですか? 特に連絡とかしてないのに」
「あぁ、うちのジムに通ってきてるトレーナーの一人が煙突山でおかしなバシャーモに負けたって言っててさ。詳しく聞いたらトレーナーみたいにボールを持ってたとか服を着てたなんて言うからひょっとしてと思ったのよ。で、見に出てきたらノルンを連れてるパロを見つけたって訳」

 あぁ、なるほど。聞いた服の条件とノルン、アブソルを連れてたって言うのが分かってたっぽいね。この事から察するに、話してたのは山道で会ったあのトレーナーの子か。ようやく話が繋がったよ。
 納得したところで、アスナさんに連れられてフエンジムに行く事になった。立ち話を続けてもいいけど、道端でって言うのも味気ないしね。
 それにしても、やっぱりフエンは静かで落ち着くなぁ……キンセツみたいな賑やかなのも嫌いじゃないけど、こういうゆっくり出来るところの方が僕としては好みだね。

「でもさ、パッと見パロだって最初は分からなかったよ。そのコートと帽子ってどうしたの?」
「これは、お祖父ちゃんが僕の為に用意してくれてたみたいなんです。旅に出る前の晩にお祖母ちゃんから受け取りました」
「そっかー……師匠はやっぱり、パロならトレーナーに成れるって確信してたんだね。パロの話をする時、凄く嬉しそうだったもん」

 お祖父ちゃん……。僕がこうして今居られるのは、まずお祖父ちゃんが僕を信じてくれたからだからね。本当、感謝してもし切れないよ。

『ゲンジお祖父ちゃんねぇ……私なんかを助けてくれたりした変わり者だけど、良い人だったよね』
「そう? そんなに変わり者って訳じゃなかったと思うよ?」
「え? パロ、誰と……って、そっかノルンと話してたのね」
「あぁ、はい」
「そっか、普通はそうだもんね。パロ、凄く自然に人の言葉で話すからつい忘れちゃうわ」

 確かに、僕も当然ポケモンだからポケモンの声が解るけど、喋ってる声は人の言葉で慣れ過ぎちゃった所為か、人の言葉の方で話しちゃってるんだよね。気を付けないと、盛大に独り言言ってるようにしか見えないか。
 それは気を付けるようにして、歩いてたらフエンジムに着いたよ。ここ、温泉の近くだからジムで汗を流したら温泉へ、なんて事も出来て温泉好きにも人気があるって聞いたなぁ。

「はい到着。したのはいいけど……連れて来たけど、どうしよう? ジム、挑戦する?」
「そこは考えてから連れて来て下さいよ……まだジム挑戦は見送らせて下さい。ノルンとガメさんしか手持ちもいませんし」
『ガメ……あぁ、そう言えばちょっと捻くれたような目付きのカメックスが居たね。まぁ、実力はかなりのものそうだったけど』

 今のをガメさんに聞かれてたら厄介な事になってただろうなぁ。まずガメさんがホムラさんに突っかかってただろうし、そうなると僕がアスナさんとバトルする事になってただろうなぁ。出してたのがノルンで良かった。

「そっかー……そうするとどうしよっか? ジム、覗くだけでも覗いていく?」
「そうですね。折角だし、軽くお邪魔します」

 そのままアスナさんに促されてジムに入ったら、なんか異様に殺伐としたオーラを纏ってるトレーナーの皆さんが出迎えてくれた。何? 何なの一体?

「ちょっ、ど、どうしたの皆?」
「アスナさん! タイサクの奴がデコボコ山道で強いバシャーモに返り討ちに遭ったと言うんで、これから捕獲に向かうところなんですよ。野生のバシャーモなんて、相当珍しいですし」
『……これ、絶対にパロの事だろ』
「うん、多分……」

 多分、トレーナーだったって所が信じられなくて、強いとバシャーモってところが取り上げられてこうなったんだろうね。
 アスナさんが事情を説明して、僕が自己紹介したら何とか騒ぎは収まった。まぁ、代わりに僕が質問されたりバトルしたりする事にはなったけどさ。ノルンにも出て貰ったけど、大体はガメさんに頑張って貰う事になっちゃったよ。皆炎タイプだったorzから、なんとか凌げたかな。

「ふぅ……ガメさんもノルンもありがとう。助かったよ」
『何連戦くらいだった? これ以上は流石に一度回復しないとPPが持たんぞ』
『私も疲れちゃったわ……シャワーとか借りれないの?』
「パロも皆もお疲れ様。驚いちゃったわ、パロの指示も的確だし、二匹の指示への反応もスムーズだったし。うかうかしてたら、私なんかあっと言う間に抜かれちゃいそうだわ」

 うん、ジムのトレーナーの皆さんも満足してくれたみたいだし、一件落着だね。お金も結構貰っちゃったし、ノルン達の経験値も大分溜まったよ。

『ふむ、トレーナーとしての修練はかなりのものになったようだな。だか、ポケモンとしての修練はどうかな?』

 あー、ホムラさんが立ち上がってバトル用の スペースに出たと思ったら、ワクワクした目でこっち見ながら手招きしてる。これはあれだ、組手をするぞって催促だ。行かないと後が怖いなぁ。

「やるしかない、か。ガメさん、ちょっとバックをお願い」
『あいよ。気を付けろよ、パロ』
『パロ〜、頑張れ〜』
「あら、ホムラとパロがバトルするの? ホムラー、あまり無理するんじゃないわよー」

 あらら、何が始まるか興味深々のトレーナーさん達がまた集まって来ちゃった。そんなに面白いものじゃないと思うし、注目され過ぎるのも困るんだけどな。

『なんだ、荷物は置いたのにそれは脱がないのか?』
「脱げって言われたら脱ぎますけど、出来ればこのままでお願いします」
『まぁ、構わないが……着ていて動き難かったという言い訳は聞かんぞ! はぁっ!』

 このコートと帽子は、僕がトレーナーだって言う一種のトレードマークだしね。そうじゃなくても、これからもし僕自身が戦う場合、このコートを着てるだろうし、その感覚の確認も兼ねてって言うのが本音かな。
 さて、始まっちゃった事だし、集中しないとな。ホムラさんは突っ込んできての速攻を選んだか……なら、受けるとしようか。
 基本はポケモンバトルと一緒だ。相手の動きをよく見て、何をしてくるかを先読みする。現在の場合なら……右拳での突きだ。

「よっ、と」
『なっ!?』
「ふぅ、ドンピシャ。お返し……です!」
『かはっ!? くぅっ……』

 突きを受け流して、身体が流れたホムラさんのお腹に軽く掌底を当てた。軽くと言ってもカウンター気味に入ったしね、息は詰まったんじゃないかな。

『わ、忘れてたよ……あんた、攻め手より受け手が異様に上手いんだった』
「これもトレーナーになる為の特訓の賜物、ですかね」

 ホムラさんは下がって、体制を立て直した。なら、僕も本格的に構えようか。
 本格的にじゃないけど、健康の為だって言ってお祖父ちゃんがやってた合気道の技とかを、付き合ってやってる内になんとなく覚えちゃって、構えも合気道の半身って言うのを使ってるんだ。僕の知識とかって、今は大体お祖父ちゃんから教わったものが土台なんだよね。
 対するホムラさんは、片足を軸の足の膝くらいまで上げてるバシャーモとしてはポピュラーな構えだ。僕等って結構足技が主体だからね。

『十分に動けるようだし……少し、本気で行くよ』
「……アスナさ〜ん、最近ホムラさんってバトルとかしてます?」
「え? いや、ホムラが出なきゃいけないようなバトルは無かったけど」
「やっぱり……なんか妙に交戦的な感じだなぁと思ったら、バトルしてない鬱憤の解消も兼ねてたんですね」
『なっ! ば、馬鹿! そ、そんな事無く……なくも無いと言うかなんと言うか……』

 凄い勢いで威勢が無くなったなー。まぁ、ホムラさんはアスナさんの手持ちでも切り札レベルの実力だから、ジムへの挑戦者とかには出せないんだろうね。

『えぇい、問答無用! 行くぞ!』
「了解です。とりあえず、簡単にやられないよう頑張りますよ」

 上げていた足を一気に振り下ろして、その勢いで地面を蹴って距離を詰める。知らずにやられたら、まずこれで面食らって次の攻撃への対処が遅れる。
 距離を詰めながら用意してるのは、足に炎を纏ってのブレイズキック。勢いを載せてるから、普通に使うより威力は高い。

「よいしょ、っと」
『躱された!? いや、読まれたのか!』
「だってホムラさんの得意技じゃないです、か!」

 短所としては、回避されると隙だらけになる事。それに、飛び上がるようにして蹴りを放つから、着地地点に攻撃を合わせられると避けられないって点かな。
 着地しようとしてる足目掛けて足払いを仕掛ける。着地と同時に足を掬われたら、どう鍛えてたって体制は整えられないでしょ。

『わっ!? あいたぁ!』
「あ、ちょっと強過ぎたかな。大丈夫ですか?」
『いつつ……な、なかなかやるじゃないか』

 膝を着く程度にしようと思ったら、ホムラさん盛大に尻餅突いちゃった。

「ふぅん、なるほどね……ホムラー、直線的に攻撃しても、パロには当たらないわよー。しっかり見られて対処されちゃってるからね〜」
『分かってるつもりだったんだけど、ここまでしっかり目を鍛えてるとは思わなかったわ』
「トレーナーの基本は、しっかりとポケモンの事を見る事。言葉の通じないポケモンと接するには、ポケモンが出すサインを見逃さないようにするしかない。ですよ」

 お祖父ちゃんからの教えって言えばいいのかな。トレーナーになるに当たっての心得の一つさ。周りで聞いてたトレーナーの皆さんも感心して聞いてるみたいだよ。

『バトルでやられると、こうもやり難いとはな……だが!』
「ん? わっと?!」
『悠長に見ている暇が無ければ、どうかな?!』

 そう切り返してきましたか。ホムラさんはどうやら、一発の威力は捨ててコンパクトに突きや蹴りを放つのに作戦を変えたみたいだね。流石アスナさん、アドバイスも的確だ。
 これをやられると、僕としてはかなり不味い。先読みで誤魔化してはいたけど、はっきり言って純粋な実力で僕はまずホムラさんに勝てない。だって僕、自分のやるバトルの練習はそこそこしかしてないもん。体力作りは随分したけどね。
 で、案の定振りを小さくして次の攻撃への切り返しを早くしたホムラさんの攻撃を凌ぐので精一杯になっちゃった。威力は落としてるとは言え、受ければ確実にダメージになる。それに一度受けちゃったら後続の攻撃にも当たる事になるしね。
 これで僕がもうちょっと合気道を真面目にやってれば、攻撃の一つを選んで見切ったりって出来るかもしれないけど、生憎出来ないからなぁ。

「くぅっ……」
『ここまで防いだのは流石だが……足元がお留守になってるぞ!』
「しまっ、わっ!」

 足引っ掛けられて転んじゃった。……ここまでだね。

『はっ! と、私が一本だな』
「あはは……マウント取られたらどうにも出来ませんね。参りました」

 倒れた僕のお腹の上に乗って、顔先に拳を向けて勝ち名乗り。ま、僕もよくやった方でしょ。
 見てたトレーナーの皆さんからも拍手されちゃったよ。僕としては負けちゃった形だし、ちょっとだけ複雑な心境かなぁ。

「動のホムラと静のパロって感じね。パロもお疲れ様。ほらホムラ、何時までパロに乗ってるつもりよ」
『ふふん、最初こそ遅れを取ったが、まだまだ越えられてはいられないからな』
「最初のだって、言っちゃえば手品みたいな物ですしね。タネ明かしがされちゃったら、こんなものですよ」
『自慢気に言ってるが、一本取る前にパロが実質二本取ってるんだから威張れたものじゃないと思うがな。パロが手を緩めなければ、最初の掌底打ちで勝負が決まっていただろうによ』

 ガメさん……せめてホムラさんが僕から降りてから言って欲しかったなぁ。まぁ、確かにあの時、下がろうとするホムラさんに追従すればそのまま畳み掛ける事も出来たけどさ。

『パ〜ロ〜……まさかあんた、私相手に手を抜いたんじゃないだろうね』
「め、滅相も無いんで、襟首掴まないで頂けると嬉しいな〜なんて……」
『ガメさんも、こうなるって分かってるんだから煽らないの、もう』
『ふん、パロを負かして上機嫌になってるようだから、事実を言ったまでだ』
「……なんか喋ってるように皆鳴いてるけど、どうなってるの?」
「あ、あまり気にしなくていいと思いますよ、ははは……」

 あらぁ、ホムラさんはガメさんに詰め寄って行っちゃった。解放された僕としては助かったけど、大丈夫かなぁ? まぁ、ホムラさんがガミガミ言ってもガメさん気にしてないみたいだから大丈夫かな。
 とにかく疲れたし、まずは休ませて貰おうかな。来てから休み無しでこの調子だったもんね。

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「ふー……」
『気持ち良いねー、パロ〜』
『ポケモンも利用可能な温泉か、なかなか良いじゃないか』

 本当に、疲れが取れていくよ。歩いてバトルして、言うだけならそれだけだけど、回数が多かったからなぁ。
 まぁ、そんなリラックスした時間なんだけど、一匹だけムスーっとしたポケモンが一緒に入ってるんだよね。誰かと言うと……ホムラさんなんだけどさ。

「ホムラさ〜ん、そろそろ機嫌直して下さいよ〜」
『第一、突っかかってきて勝負を挑んできたのはそっちだろ? タイプ相性としても俺の方が優位だったんだし、負けたら俺こそ笑い者だぞ』
『煩い! 自分から勝負をけしかけておいて、何も出来ずにやられた私の気持ちなんか分かって堪るか!』

 そんな事がありまして、ホムラさんは不貞腐れちゃってるんだよね。止めといた方がいいよとは言ったんだけど、やるって言ってそのまま始めちゃって、ガメさんの容赦無い……いや、大分してたかな? な放水の中に、ホムラさんは敢え無く撃沈って感じだったね。

『幾ら最近実戦が無かったとは言え、何も出来なかったなんて……うぅ……』
『参ったな……パロを見習って、もう少しなんとかしとけば良かったか』
「ほ、ほら、元気出して下さいよ。折角だし、背中流しますよ」
『……うん』
『ホムラさん、レベルで言ったら多分私達より上な筈なのにねぇ?』

 ホムラさんは感覚というか、ノリで攻めのリズムを作っていくタイプみたいだから、ノってくる前にリズムを崩しちゃえば案外勝てちゃうんだよね。僕がさっきの組手の最初にやったみたいにさ。
 つまり、様子を見合う初対戦の相手にはより強力で、僕みたいにある程度でもホムラさんの事を知ってる相手には弱点があるってところだね。

『一度、勘を叩き直さないと不味いね……水タイプに手も足も出ないなんて笑い話にもならないよ』
『それが普通なような気もするんだけどね』
『そうも言ってられないさ。アスナの手持ちは炎タイプだけ、水タイプには勝てないなんて言ってたらジムリーダーはやってられないよ』
『そんなもんかね……俺だったら電気タイプや草タイプとガチで戦れって言われたら投げるがな』
「ま、まぁ、そうならないように出来るのが挑戦側のトレーナーだからね。ジムリーダーはそうも行かない事もあるって事でしょ」

 なんて話しながら、ホムラさんを流すのは終わり。背中だけだよって言ったら何故か不満そうにされたけど、ホムラさんは普通に体洗えるんだから勘弁してもらうよ。只でさえノルンでかなり気を使うんだし。
 そのまま流れでノルンとガメさんも流して、後は自分を流して終わり。今日はアスナさんのところでお世話になる事になってるから、湯冷めする前に行こうかって運びになったよ。

「よし、と。お待たせしました」
『あぁ。ん? あれは……』

 ん? なんだろ、ホムラさんが見てる方に視線を向けたら、誰か居た。あれは……むぅ、夕方になっちゃってるから見難い。
 えーっと……あぁ、昼間に山道でバトルした子だ。確か、タイサク君。なんか隠れるような感じでこっち見てるけど、なんだろ?

「あれって、ジムに通ってる子なんですよね?」
『まぁな。筋は良いんだが、いかんせん経験不足でな、まだまだ未熟。手っ取り早く強くなろうとして、無茶なバトルを挑んだり強いポケモンを捕まえると言って飛び出そうとして窘められたりと、なかなか無鉄砲なところがあるのだよ』

 なるほどね。僕が会った時のあれもその一環だったんだ。なら、ひょっとして今もそうかな?

「ねぇ、君!」
「!? や、ヤバっ!」

 あっ、僕が声を掛けたら逃げようとして、思いっきり転んだ。足元も暗くなってきてるもんなー。

「だ、大丈夫?」
「いったぁ……」
「ん、肘のところ擦りむいてるね。ちょっと待ってて」

 傷薬は常備してるからね、これくらいは治療は出来るよ。擦り傷だって、放っておいていいものとは言えないし。
 薬を塗って、絆創膏貼れば出来上がりっと。

「これで良し。道が暗くなったら、気を付けないと危ないよ?」
「あ、ありがとう……じゃなくて! な、なんでバシャーモがそんな事出来るんだよ!」
「こういう手当てが出来ないと、ポケモンセンターを利用出来ない時に回復が出来ないしね。トレーナーとしては、出来ないとならないでしょ」
「……本当に、トレーナー……なんだな」

 立ち上がらせてあげたら、なんだかしょんぼりしちゃった。あー、そっか、僕を捕まえたかったのかな多分。

「ごめんね、これで僕がただ旅をするバシャーモってだけだったら、君の力になるよう考えもしたんだけど……」
「……いや、いいんだ。待ち伏せしてボール投げようって思ってたけどバレちゃったし、おまけに手当てまでして貰っちゃったし。なーんか何やってるんだろって気になっちゃったよ」

 顔を上げると、溜め息を一つ吐いた後に笑ってくれた。どうやら、なんとか納得してくれた感じかな。

「改めて、俺はタイサク。フエンジムに通ってるトレーナーだ」
『トレーナー見習いの間違いだろうに……まぁいいか』
「あはは……僕も改めて、ポケモントレーナーをやってるバシャーモ、パロです。よろしく」

 今度は落ち着いて握手出来た。山道では結局、挨拶もままならないまま別れちゃったもんね。

「にしても、こうして挨拶して見てみても……バシャーモだなぁ」
「それはね。メタモンでもなければ、こればっかりはどうしようもないしね」
「だなー。うーん、ゆっくり話したいけど、もう日も沈むしなぁ」

 僕としても、これ以上長引くとまたアスナさんが探しに来ちゃうかもしれないしなぁ……まぁ、今日はフエンに泊まるんだし、明日にでもまたゆっくり話そうか。

「なら、明日にでもゆっくり話でもしようか。僕も今後どうするか決めてないから、明日はフエンに居るだろうし」
「え、いいのか?」
「構わないよ。僕もジムの様子とか聞いてみたいし」

 なら明日絶対なーって言って、タイサク君は走っていった。うん……元気な子だね、一言で言うと。

『ふぅん、タイサクがあんなにトレーナーやポケモンに興味を持つのも珍しいな。普段はどうやったら強くなれるかしか興味無いのに』
「え、そうなんですか?」
『あぁ。でも、パロの特異性を考えれば分からなくもないがな』

 僕も自分が特異だって自覚はあるからね。とにかく今は帰って休もうか。アスナさん、晩ご飯作って待ってるからって言ってたしね。

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〜後書き〜
ゲームポケモン本編的に言えば、ようやくチュートリアル的な場面が終わったと言った進行でしょうか……特性:遅筆がバリバリ仕事をしておりますorz
ともかく、最初の目的地であったフエンに到着し、いよいよトレーナー、パロの旅が始まります。まだまだお付き合い頂ければ幸いです。
因みに、ジムリーダーの手持ちは基本本編やアニメ基準ですが、進行上必要なオリジナル等の理由で一部こんなの出してきたっけ? というポケモンも居ますがご了承下さい!

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