[[狸吉]]作『からたち島の恋のうた・豊穣編』 ~波乗りNight☆Stage~ &color(red){※注意書き}; &color(red){・本作は官能作品です。本番、性器描写、口戯などを含みます。}; &color(red){・本作は、作者の甚だしい虚栄心が多分に含まれています。見苦しい点がありますがご理解ください。}; &color(red){・本作品はフィクションです。実在する水族館、海洋生物及びそのパフォーマンスとは一切関係ありません。もし本作に登場するポケモンと似たような名前の動物をどこかで見かけた場合、あくまで偶然の一致ですので変な目で見ないであげてください。}; ---- #contents ---- *☆01☆ [#ob953ddd] まだ夏の香りを残した風の吹く中、澄み渡った秋空に微かに茜が射し始めた時刻。 潮騒さざめく港の奥、華々しい彩りに飾られた遊園地の一角から、高らかな旋律が鳴り響いた。 青く水を湛えた、広大な、テニスコートならおよそ3つ分((ちなみにモデルにした某水族館のメインプールはテニスコート5.4個分の広さがある。))にはなろうかという楕円形のプールの上に響き渡る、それは勇壮なファンファーレ。 それを合図に、プールの南側にそびえ立つスタンド((モデルの水族館とはスタンドの向きが異なっている。あしからず。))に押し詰めた観客たちが熱い視線をプールへと注がせる。 と、その水面上に、2つの人影が波を揺らして現われた。 濡れ羽色に光るウエットスーツに身を包んだその女性たちは、飛沫巻き起こる水の上にすっくとその身を立たせたまま滑るように進み出す。 一人は、左からスタンドの目の前を横切るように。 もう一人は、右から向こう正面沿いを。 巧みに腰を使ってバランスを取り、観客たちの声援に手と笑顔を振り撒きながら、徐々にスピードを増し、風を切っていく。 互いにプールの中央を通過したところで緩やかに右に進路を変え、大きく真円を描くようにUターン。 行く手に横たわるのは相手が残した引き波。泡立って盛り上がった白い波を2人同時に乗り越えたその瞬間―― ふわり、空中へと浮き上がって、跳んだ。 彼女達はどちらも、小麦色のポケモンの背に足を乗せていた。 右手前に跳んで来たのは全長70cm程、左奥へ跳んで行ったのは1m強程のスマートな流線型。 小さい方は首の周囲の、大きい方は肩から脇を通って腰の上へと襷のように繋がっている浮袋を大きく膨らませながら、どちらも2本の尻尾をスクリューの如く回転させ、水中に渦を立てて推進している。 海鼬ポケモン、ブイゼルとフローゼルだ。 不安定に逆巻く波を踏み台にしながら、すらりと延ばした滑空姿勢を全く崩す事なく滑らかに着水。背中のトレーナーたちがさっと両手を振り上げて決めると歓声と拍手が沸き起こる。 間を置かず、弾みをつけてひらりと水中に飛び込むトレーナーたち。ポケモンたちも後を追って水面下へと身を踊らせる。 深く潜って行くトレーナーの足を追いついたポケモンたちが捕らえ、抱きかかえるようにしながら尻尾の回転を強めて加速。 水底近くまで潜ったところで向きを変え、プール中央付近の水面へ向けて浮力に乗って急上昇、一つになって波を突き抜ける。 相方のコンビと空中ですれ違いざまに、ポケモンが両手を解き放ってトレーナーを虚空へと投げ上げた。 ロケット・ジャンプ! 鮮やかな大技が決まり、2人のトレーナーと2頭のポケモンがプール上にVの字を描く。 右に飛んだフローゼルが、観客に向けて指を発てた前肢を突き出す。 左に飛んだブイゼルが、観客に向けてウインクを飛ばす。 この日の水中ポケモンパフォーマンス午後の部は、こうして幕を開けた。 ☆ トレーナーとのコンピネーション・プレイを見事にこなし終えると、フローゼルはスタンドの右翼席の前へ、ブイゼルは左翼席の前へと分かれて泳いで行く。 やがて右翼席の観客の目前で、盛大な水柱と共にフローゼルの身体が雄々しく跳ね上がった。 飛沫を身に纏いながら、浮袋を羽衣のように靡かせて、錐揉みを打ちながら宙に舞う。 滑らかに水が踊る毛並みの下で、引き締まった筋肉を逞しく躍動させ、豪快なスピンジャンプを繰り返すフローゼル。鋭く精悍な顔立ちの中で熱き瞳が燃え上がり、額の白い星((〝星〟とは動物の体(主に馬や牛などの顔)に付いている白斑のこと。))の上に飾られた、王者の印たる金色のティアラが燦然と輝く。 名を『&ruby(セナ){瀬波};((名前は某水族館のバンドウイルカ、イニシャル〝X〟ちゃんから拝借。ただし芸風としては〝M〟ちゃんや〝B〟ちゃんの方が近い。))』。長年このプールに籍を置き、多くの人々の目を釘付けにし続けている花形スターだ。 名を『&ruby(セナ){瀬波};((名前は某水族館のバンドウイルカ、イニシャル〝X〟ちゃんから拝借。ただしモデルは♀。執筆開始後フリスビーキャッチや自ら吹いたバブルリングをくぐる芸などを習得して芸風が近付いた。……ここ、彼女に見られてないか?))』。長年このプールに籍を置き、多くの人々の目を釘付けにし続けている花形スターだ。 盛り上がった頃合いを見計らうと、瀬波は悪戯な微笑みを頬に浮かべ、両腕の鰭の上にたっぷりと水を乗せてスピンジャンプ。 飛び散った水の帯は観客席まで降り注ぎ、突然のサービスを受けた観客たちに賑やかな悲鳴を弾けさせた。 ★ その頃、左側の観客席前では、ブイゼルが水面に腰から上を出し、立った状態でクルクルと回っていた。 尻尾と後肢の動きだけで身体を浮き上がらせての回転。瀬波のスピンジャンプに比べると一見地味に見えるが、浮袋を使わず下半身の動きだけを使って上体を浮かせ、尚且つバランスを取りながら同じ位置で回り続けるのは極めて高度な技量を要する。 広げた手を風の中でひらひらと泳がせる余裕のポーズで、しなやかな体躯をくねらせて回り続けるブイゼル。あどけない顔立ちの中に涼やかな眼差しを揺蕩わせ、首元で花のように広がる浮袋に飾られた、神秘の滴を宿したネックレスが青く絢爛と煌めく。 名を『&ruby(エイル){泳流};((名前は某水族館のバンドウイルカ、イニシャル〝Y〟ちゃんから拝借。本人もトリオのコンビネーションとフリップジャンプが得意。これに花形の〝J〟ちゃんの芸も加えてある。))』。つい一月程前にこのプールに移籍し、瀬波とのデュエットで話題沸騰中のスーパールーキーだ。 名を『&ruby(エイル){泳流};((名前は某水族館のバンドウイルカ、イニシャル〝Y〟ちゃんから拝借。本人もトリオのコンビネーションとフリップジャンプが得意。))』。つい一月程前にこのプールに移籍し、瀬波とのデュエットで話題沸騰中のスーパールーキーだ。 観客達の手拍子の雨が降りしきる中で泳流はすいすいと回転を速め、さながらフィギュアスケートのスピンのように優雅に舞い踊る。 そのまま絶妙のタイミングで観客に向けて投げキッスの仕草を繰り出し、熱烈な声援を炸裂させた。 瀬波の動のスピンと、泳流の静のスピン。二つの回転が、水面に艶やかな花を咲かせていた。 ★ スピン演技を終えると共に、BGMのメロディラインが山へと差しかかる。 いよいよパフォーマンスのハイライト、ジャンプ技の披露の始まりだ。 最初に動いたのは泳流の方だった。プールの左端から勢いよく潜航し、奔流を巻き起こして急上昇。 両腕の鰭を正に&ruby(Aile){翼};((仏語。Aileで「エール」と読む。ただし本来泳流の名前の元ネタからすれば、声援を意味するyellが正しい。))のように広げながら空へと躍り出す。 高々と飛び上がった小さな身体で、大きく円を描いての&ruby(フリップ){宙返り};。頭と尾の位置が入れ替わる度に、背筋の上に白く閃く一つ星が瞬く。 1回、2回、3回。 トリプルフロントフリップ!((前方三回宙返り。)) 美しき虹色の軌跡を虚空に残し、拍手の嵐に送られながら、泳流は再び水中へと戻って行った。 ☆ 代わって瀬波もプール右下の水中から、ルーキーに負けじとばかりに驀進する。 プール正面中程にあるステージよりトレーナーたちが掲げている、赤、青、緑にそれぞれ彩られた3つのリング((ポケモンのオフィシャルファンサイト『ポケモンだいすきクラブ』が、毎年夏にWeb上で行っているミニゲーム大会『夏休み大作戦』の、2008年度の人気ゲーム『キャニオン・ジャンプ』のゲーム内に登場した『タイプリング』を模したもの。))を目がけて。瀬波はそれを、まとめてくぐり抜けようというのだ。 これを決めるにはリングから離れた位置で大きく跳躍し、高低差が安定する上死点付近で3本のリングを捕らえればいいわけだが、これがそう簡単ではない。水面の屈折効果で、リングの位置は水中から見上げるとズレて見えてしまい狙いが定めづらいからだ。 しかもこのズレは横方向に離れれば離れるほど誤差が大きくなる。本来水中からの輪くぐりならリングの直前でジャンプするのがセオリーなのだ。 だが3本分の幅を跳ばなければならない以上この手は使えず、離れた距離から屈折を経験と勘で修正して跳ぶしかない。((水面に顔を出したまま狙いを定めて跳ぶのは急流の勢いなどを利用すれば可能だが、プールでは浮力による加速に頼らざるを得ない。)) そして瀬波というフローゼルは、それに挑める技量を持っていた。 怒涛の如く水面を切り裂き、秋の太陽に向かって舞い上がると。 飛沫の尾を引く矢へとその身を変えて、一文字にリングの中心を正確に貫く。 見事一つたりとも揺らさぬままに突き抜けて、左翼側の水上に煌めきを飛ばす瀬波。 立て続けに決められる高度な離れ技に、観客達の興奮のボルテージは激しく高まっていく。 ☆ そんな中、プールの遥か上空に張られていたロープから、紐に吊られた2つのボールが降ろされた。 この水中ポケモンパフォーマンス最大のクライマックス、デュエット・バックフリップ・テールキックだ。 天空高く吊るされたボール目がけて瀬波と泳流が同時に飛び上がり、尻尾で蹴ったボールをぶつけ合う大技である。 プールの右端にいた泳流と、左端にいた瀬波。2頭揃ってプールの底へ潜り、水中で背泳して水面越しの空を見上げながら、屈折の影響のないボールの真下へと移動する。 ボールを見据えて身を立たせ、互いに背中合わせの状態になると、尻尾の渦を爆発させてロケットの如く天を突く。 2本の水柱が、槍のようにボールへと繰り出された。 ボール間近まで跳んだ大小2つの影が、鏡映しの双月を描いて同時に反転する。 狙いを定めた頭上のボールへ。 バク転の勢いでしならせた2本の尻尾を。 開いた後肢の間から、オーバーヘッドキックの要領で振り抜き、そして相手が打つボールへと目がけて―― ☆ 瞬間、悲鳴のようなどよめきがスタンドを震わせた。 [[★>波乗りトリックルーム#d633bcd5]] 尻尾に蹴り出され、大きく振り子のように振れるボール。 その指し示す先に、ただ風に吹かれ静かに揺れているもう一つのボールがあった。 下方で水音が2つ、空しい響きを立てる。 空振り――テールキックに成功したのは、片方だけだったのだ。 無残に失敗してしまったパフォーマンスを前に観客達の顔に浮かんだのは、だが、失望でもなければ嘲りでもなく、驚愕だった。 失敗したのが左側……瀬波の方だったからだ。 「信じられない……」 「まさか、あの瀬波が……」 口々に驚きの声を漏らす観客達。 それも無理はない。彼らは皆、瀬波というフローゼルが単なるベテランというだけではなく、ことジャンプにおいては右に出るものなき腕前の持ち主だという事を知っているのだ。 額の王者の印も伊達ではない。昨年の夏、ハロバロ国立公園((『夏休み大作戦』の2008年度の舞台。))で行われた全国規模の渓流下りジャンプ大会((『夏休み大作戦2008』の人気ゲーム『キャニオン・ジャンプ』のこと。))に遠征し、最長飛距離記録199.45m((『キャニオン・ジャンプ』で実際に出た1位の記録より。))を含む数々の記録((『キャニオン・ジャンプ』は、大会に出場した4チームの1つ『ソラリス』が上位を独占している。瀬波はチーム・ソラリスのフローゼルだったらしい。))に貢献したことで一躍有名になった伝説級のポケモンである。 #ref(夏休み大作戦・DFハイスコア.jpg) &color(#808000){(最長飛距離記録達成直後の瀬波。数字が僅かに違うのは、0.001m単位での誤差だと思われる)}; このテールキックにしても、いくら高難易技だとは言え、瀬波にとっては泳流が出演するようになる以前にソロで蹴っていたころからの得意技。 今秋になって泳流とのデュエットパフォーマンスを始めて以降も、本番でキックに失敗した場面など誰も見たことがなかった。 勿論今日の午前の部と正午の部でも何ら問題なく尻尾でボールを打ち、泳流とボールをぶつけ合うことに成功している。 そんな瀬波に限って、ジャンプ技を失敗するなんてありえない。成功は予定調和――だと思っていた観客たちにとっては、目の前で起こった事態は正しく驚天動地の大事件であった。 「とんでもない場面に出くわしちまったな……」 「ねぇ、もしかして何か故障でもしたんじゃ……?」 観客達の剣呑な囁きが飛び交う中、パフォーマンスのトリを締める、2頭揃っての連続ジャンプが始まった。 先刻の失敗のためだろう、瀬波の表情にかなりの緊張が見えたが、それでも左、中央、右と3度のジャンプを泳流と共にそつなくこなし終え、心配していたファンたちに安堵の吐息を漏らさせたのだった。 最後に2頭揃って水面にその細身を立ち上がらせ、ステージ上のトレーナーたちと一緒に観客席に向かってぺこり、と一礼。 かくして、ハプニングの余韻を残しながら、この日のパフォーマンスプログラムは全て終了した。 *☆02☆ [#y7903f06] ☆ ★ ☆ 「瀬波、泳流、おつかれさーん」 モンスターボールに入れられ、ショープールから住処であるBOXへとトレーナーさんに運ばれる道すがら、すれ違った職員の人たちが暖かい声をかけてくる。 申し訳なさで一杯になり、俺はボールの中から頭を下げた。 「すみません、みっともないことをしてしまいました」 「ドンマイドンマイ。エイパムも木から落ちるしハスボーの葉からも水は漏れる。ドーブルが筆を間違うことだってあるって」 口々に笑いながら、俺を励ます声たち。トレーナーさんも俺のボールを取り、優しく笑いながら囁いてくれた。 「皆の言う通りよ。お客さんたちだって、ハロバロのチャンプの失敗なんていう珍しいものを見れたって喜んでいたしね。でも、次はあんなミスしないようにお願いね」 曖昧に俺が頷いておくと、トレーナーさんは俺たちの入ったボールをBOXに繋げ、中へと戻してくれた。 沈み込みそうな重苦しい足取りでBOX内の調整ルームの扉をくぐる。 王者の印を外して机の上にカラリと放り出すと、タオルを頭から被り込み、ぐったりとチェアに身を預けた。 全く、穴があったら入りたい気分とはこの事だ……。 と、柔らかな布地の向こうで足音が簀子を鳴らし、バタン、と扉がいらついた閉音を立てた。 「……何をやっているんですか? 瀬波」 冷ややかな視線と言葉が、タオルを貫いて俺に突き刺さる。 「面目ない……」 顔を拭いながらタオルから出した頭を、俺はデュエットの相方、ブイゼルの泳流に向かって深々と下げた。 立ったままの小さな身体にタオルを纏うようにして拭きながら、泳流はチェアの上の俺を不機嫌の冷たい日差しで照りつけた。 「全く、あと尻尾を振り抜きさえすれば確実にボールを捕らえられたタイミングで、一体どうして振り遅れたりするんですか!?」 「勘弁してくれ。あんな失敗は二度としないよ」 鋭い剣幕に身を縮ませた俺の弁解は、ハッ……と泳流の荒々しい溜息に吹き飛ばされる。 「よく言いますね。あなたほとんど毎日一度はミスキックしているじゃないですか。いつも僕がどれだけ合わせるのに苦労していると思っているんですか!?」 恥かしながら、泳流の言っていることは事実だった。 多少方向が狂う程度ではあったが、確かにこの一月というもの、俺はミスのし通しだったのだ。 それがこれまで観客にもトレーナーさんたちにも誰にも気付かれずにこれたのは、一重に泳流が上手くボールをコントロールして、俺のボールにぶつけてくれていたからに他ならない。 「いつも感謝しているよ。さすがはパッパの優勝メンバーだ」 そう、泳流はただのルーキーではない。 今年の夏、パッパ・ヴィレッジ((『夏休み大作戦』の2009年度『ルンパ・カーニバル』の舞台。))で開催された全国規模のマスゲームコンテスト『フレ!フレ!ポケライン』((『ルンパ・カーニバル』の人気ゲーム。4×4の16マスに、法則に従ってポケモンを並べていくというもの。オフィシャルの設定上では祭りのパレードの練習とされているため、マスゲーム大会とした。マス目ゲームの洒落にあらず。))で、最高得点13790点((『フレ!フレ!ポケライン』で実際に出た1位の記録より。))を獲得し見事優勝したチームの一員。それがブイゼルの泳流である。ダンスとコンビネーションの技に関しては、その腕は折り紙付きなのだ。 #ref(ポケライン.19コンボ01Ajpg.jpg) &color(#808000){(優勝時の演技。向かって右手前のブイゼルが『泳流』)}; 縁あってこの秋から我がパフォーマンス隊に参入。ハロバロのジャンプ王者である俺との2枚看板となった。 それまでついてこれる奴がいなかったためソロでパフォーマンスを演じていた俺にとっても、泳流は演技の幅を広げてくれた大切なパートナーである。 「始めのうちはあのミスキックは、僕を鍛えるためか、もしくは嫌がらせのためにわざとやっているのかと思っていたんですけれど」 「違うよ。ただのスランプなんだ」 「みたいですね。いくら僕でも、空振りまではフォローのしようがありませんから。それで」 どんっ! と前肢を傍らの机に突き、泳流は白い眉を吊り上げて俺に詰め寄った。 「スランプだと言い切るからには、当然原因は判っているんですよね?」 「ぐっ……」 脂汗が首筋を流れ落ちる。 確かに……原因はとてもはっきりしていた。 だがそれを泳流に言うことは出来ない。 とてもじゃないが言える事情ではなかったのだ。 「どうなんです? まさか、判っているけど言いたくないとかふざけたことは言いませんよね?」 「すまない……」 俯いた俺の態度を見て、泳流の語気が波立つ。 「呆れた。本当にそうなんですか。パートナーの僕にも話せないって言うんですか!?」 何も言いかえせず押し黙った俺に、レイピアのように鋭く指が突き付けられた。 「ここまで僕が判っている事を並べ立ててあげましょうか? 瀬波がミスをするのは、いつもその日の最後、午後の部のテールキックだけ。午前や正午の部ではいつも真っ直ぐボールを打てていますよね?」 視線を泳がせながら小さく頷いた俺を、追い込むように泳流は更に言葉を浴びせかけた。 「1日ミスキックなしで終わった日もあります。僕が加わってからこれまでに3度だけ。うち2回はかなり深い曇りの日で、もう1回は雨が降っていました」 眼差しが氷の刃となって、ザクリと俺を切り裂く。 「西日が眩しかった、ということですか?」 デュエット・バックフリップ・テールキックの時、俺は必ず観客席から見て左側、即ち西側から西を向いて跳躍している。その上昇中に西日に目を眩ませたのが原因だと言いたいのだろう。だが…… 「いや……」 「そうでしょうね。夏まであなたがソロで演技していた時のビデオを確認しましたが、どんな強い西日が射していた日でもあなたは見事にテールキックを決めていました。さすがはハロバロのチャンプです」 「それはどうも。しかし、随分詳しく調べてくれたんだね」 大した勉強熱心だと本気で感心して呟くと、急に泳流は睨んでいた視線を逸らした。 「……パートナーですから」 「それで、結論は出たかい?」 多少意地悪にも聞いては見たが、少なくとも泳流が真実には至っていないことは解っていた。もし解っていたら、間違いなくこんな追求では済んでいないだろうからだ。 案の定、しかめた顔が水平に振られた。 「まだはっきりとは。西日と……恐らくこの秋になって変わった何かが原因だとしか。でも、ここまで判っている以上、そのうち僕は自力で気づいてしまうかも知れませんよ?」 そうなった時の惨状に想いを馳せてゾッと身を振るわせた俺を、泳流は容赦なく逃れえぬ渦潮の中へと追い詰めようとする。 「その前にさっさと話してください。僕に出来ることであればちゃんとフォローしますから!」 それでも、俺は貝のように口を閉ざしたまま項垂れるしかなかった。 どれ程叩いても割れぬ貝と悟ったのか、泳流はすっくと立ち上がり、踵を返す。 「どうする気だ?」 「トレーナーの皆さんと相談して、午後の部のデュエット・バックフリップ・テールキックを他の演技に変更してもらいます」 「ま、待て、待ってくれ!」 狼狽して縋り付こうとした俺を、泳流は逆波の勢いで押し返した。 「このままにしておいてまた空振りでもされたら、お客さんに失礼であるばかりかパフォーマンス隊全体に迷惑がかかります! それに、あんな高難易度技を不安要素を抱えたまま続けるのは危険です。パートナーとしてそう判断せざるを得ませんよ!」 「分かった。分かったから待ってくれ」 降参だ。出来れば、特に泳流には知られないまま自力で克服したかった問題だったが、プログラムを変えられては意味がない。最早この期に至ってはやむを得なかった。 「全部話す。トレーナーさんたちに話すかどうかは、その後で考えてくれないか?」 数瞬、唇を噛み締めたまま、泳流は俺を睨みつけていた。 が、やがてやれやれとばかりに溜息を突くと、俺の座っていた席の前にもう一つのチェアを寄せ、仏頂面で座り込んだ。 *☆03☆ [#g2e1abf9] 「……察しの通り」 観念し、俺は失敗の理由を打ち明け始めた。 「原因は西日と、この秋になって変わったもの、だ」 「やっぱり……プールの西にあるものというと、観覧車かアミューズメントホールの辺りですか? あそこに何か変わった事でも?」 「いや、西側じゃない。問題は上昇中ではなく、バク転してボールを蹴ろうとした、その先にあるものなんだ」 「成程、ということは東側……僕が上昇する正面側というと……」 考えようと顎に当てられかけた泳流の指がピクッ、と止まる。 「あ……まさか……その……」 瞬きの下で、頬が朱に染まっていく。 どうやら真実に気が付いたようだった。 「……僕、ですか? 原因は」 「……そうだ」 肯定すると、泳流は息を飲み込んで顔を前肢で覆い、上目使いで俺を睨み付けた。 「やだ、瀬波、それって西日に照らされた僕に見取れていたってことですか? 困りますよ、そんなこと言われても……」 「仕方がないだろう」 躊躇いながらも、俺は更に話を核心へと進める。 「〝あんなところ〟を開いて見せられると、俺も雄だからね……」 ぎょっとした様子で、泳流が顔を上げる。その顔が見る見る怒りと軽蔑に染まっていく。 「……何ですか、それ」 ガタン! とチェアを蹴倒して立ち上がる泳流。 拳を握り締めて、白い牙を剥き出しにし、津波のような勢いで俺に食ってかかった。 「あっ……あなたときたら、演技中にどこを見ているんですか!? 見損ないました。最低です。テールキック中に脚が開くのなんて当たり前じゃないですか!?」 テールキックは、股間から尻尾をバク転の勢いに乗せて振るってボールを正面から打つ技。繰り出す瞬間に自然と後肢は開き、腰は突き出されることになる。 「そんなことに目を奪われるなんて、ハロバロのチャンプの名が泣きますよ! あなた一体……」 「〝脚〟が、じゃないんだよ」 怒涛の剣幕でまくし立てていたのを遮られ、泳流はキョトンと首を傾げた。 「あれ……違いましたか。失礼しました。でも、だったら何が……?」 恐らく泳流は、『股間を見られていたのではない』と言われたと思ったのだろう。残念ながら、それも違う。真実は、もっと残酷だった。 「開いていたのは脚ではなく……その間だよ。〝そこ〟が開いて、中身が西日に晒されて、見えたんだ」 全く、穴があったら入りたい気分とは、この事だ。 ☆ 「え゛……あ゛……お゛……」 効果は、抜群だった。 数瞬、10万ボルトの直撃を受けたかのように硬直し。 茫然と眼を見開いて。 顔色を赤く青く目まぐるしい極彩色に変え。 言葉にならない声で悶えながら。 泳流はワナワナと震える前肢で、白い産毛に覆われた股間を覆い隠してへたり込んだ。 やはり、そこが開いていたことを自覚していなかったか。 「今更隠しても、もう遅いよ」 「分かって……ます……」 辛うじて声を絞り出した泳流を、俺は追い打ちの一言で海溝の奈落へと突き落とした。 「丸見え、だったからね。毎日」 たちまち―― ガラスが砕け散るようなけたたましい悲鳴を上げて、泳流はその場で無残に沈没した。 あぁ、こうなると思ったから話したくなかったのだ。 それにしても、いつもボーイッシュに構えていても、泳流はやっぱり雌の子。突っ伏して丸くなった背筋で震える〝一つ星((ブイゼル及びフローゼルの背中の〝星〟は、雄が背筋の両側に2つ、雌が背筋に沿って1つ。))〟が実に可愛らしい。 ☆ 「なるほど……そういうことでしたか……」 蹲ったまま、ひび割れた声で、泳流は哀れな呻きを上げた。 「まさかそんなところを開けて見せてしまっていたとは……どうもすみませんでした……じゃなくてぇ!」 涙でぐちゃぐちゃになった顔をガバッと振り上げ、血走った目で俺に吠え掛かる。 「結局色香に迷っていたんじゃないですか! この……スケベ!!」 「いやはや……お恥ずかしい……」 「恥ずかしいのはこっちです!! 見ないようにするとか、出来なかったんですか!?」 「そう努力しようとした結果が、昨日までのミスキックの連続だ。ボールを打つ先を視認しなければ、真っ直ぐ打つことなど出来はしない。それで今日は思い切って注視して見た訳だが、今度は魅入られた挙句に硬直してあの体たらくだ」 「魅入られたってあなたねぇ! 僕、まだブイゼルなんですよ!? 夏にはスボミーちゃんやププリンちゃんやムチュールちゃんたちと一緒に踊っていたんですよ!?((『フレ!フレ!ポケライン』出場種族。同ゲームにはこの4種類の他にそれぞれの進化系であるフローゼル、ロゼリア、プリン、ルージュラとメタモンが出場していた。)) いくら見えちゃったからって、硬直するなんて……あぁっ信じられない!!」 「待て待て、まるで俺をベイビィ好みの変態みたいに言うが、お前立派に発育しているぞ?((実際、『フレ!フレ!ポケライン』の進化前組の中ではブイゼルのみベイビィポケモンではない。)) 俺だってシェルダー程度なら見たところでどうということもなかったんだが、あそこまで見事なパルシェンの形に進化していられるとさすがになぁ……」 「そんなフォローはいりません! っていうか誰の何がパルシェンなんですか!? 今にも涎を垂らしそうな顔で回想するのも止めてくださいぃぃぃっ!!」 力の限り絶叫しまくっている内に、とうとう息を切らせてしまったらしい。ハァハァと喘いで肩を落とすと、泳流は倒れていたチェアを立てて座り直し、真っ赤に茹で上がった頭を机の上で抱えこんで掻き毟りだした。 「まったく……もう……どっちもどっちってことか……」 泣き笑いの中にぽつり、と呟かれた言葉に、俺は思わず問い返す。 「え?」 「!?……あ、その、ええと」 急に何か慌ただしく取り繕いながら、泳流は乱れまくった頭を上げる。 「そう、ほら、あの……僕のパッパでのコンダクターだった人の事! あの人がいつも連れていたリーフィアさんに聞いたんですけど」 「あぁ、あのリーフィア君だね。分かるよ」 俺は頷いた。 何故俺が泳流のパッパでのコンダクター、即ち『フレ!フレ!ポケライン』優勝者とその連れを知っているかと言えば、何を隠そうこの俺、フローゼルの瀬波が昨年大活躍して名を上げたハロバロの渓流ジャンプで、大会最高飛距離記録を出した時の騎手こそが泳流のコンダクターその人であり、その時もリーフィアの青年を連れていたからだ。 #ref(夏休み大作戦・DF1位.jpg) #ref(夏休み大作戦・FPハイスコア.jpg) &color(#808000){(両大会での上位ランキング。優勝者『たぬきち((この小説の作者『狸吉』本人であるwww))』が瀬波の騎手にして泳流のコンダクター。見ての通り、どちらの年もリーフィア((『永久の想いのバトンタッチ』の主人公、想矢。))を連れている)}; 「それで、そのリーフィア君がなんて?」 「頬を腫らしていたのでどうしたのか聞いて見たら、彼は同じ会場の縄跳び大会((『夏休み大作戦2009 ルンパ・カーニバル』のミニゲームの一つ『ポケなわ』。縄が一周するまでに、並んだポケモンの属性のボタンを順に押し、全部押すと出てくるジャンプボタンをタイミングよく押して縄を跳ばせるゲーム。))に参加していたんですけど、巧い指示が連続して来たので思わずコンダクターさんに微笑みかけた((『ポケなわ』では、10回ジャンプに成功するごとに、跳んでいるポケモンたちが前を向いて微笑むというサービスがあった。))途端、突然指示が遅れて縄を顔に当てられてしまったんですって」 「おいおい、それって……」 「えぇ。リーフィアさんの笑顔に見とれて指示を狂わせたらしい((実話。『ポケなわ』組の皆さんごめんなさい。))んです」 #ref(なわとびリーフィア.jpg) &color(#808000){(泳流のコンダクターを魅了したリーフィアの笑顔×2。この直後に悲劇が……?)}; 「あの温厚そうなリーフィアさんがカンカンになって怒っていましたよ。アハハ……」 話題をそらすことですっかり気を取り直したのか、泳流は首元の神秘の滴を揺らして笑っていた。 俺は笑うに笑えなかった。よりにもよって、あんな[[ヘタれたおっさん>波乗りトリックルーム#a47a79e2]]と同程度なのか俺は!? 仮にも2つの全国規模の大会で優勝した人間をつかまえて〝ヘタれたおっさん〟呼ばわりはどうかという気もしないでもないが、実際背中に乗せた俺からすればそうだったとしか言いようがない。 「さて、と。原因さえ判れば話は簡単ですね」 おもむろに泳流は立ち上がった。 「午後の部だけ左右のポジションを入れ替えればいいんですよ。西日にさえ晒されなければ、変なところは見えたりしないんですよね?」 念を押すように、泳流は鋭く釘を刺す。 「それは……まぁ、その通りだが」 「良かった。じゃあ、早速トレーナーさんたちに相談して来ます」 安堵して弾む足取りで扉に向かおうとした泳流を、だが俺は慌てて呼び止めた。 「待った! ちょっと待ってくれ!」 怪訝な表情を浮かべて泳流が振り向く。 「何ですか? また」 「いや……あのな、俺にとってお前は貴重なパートナーなんだ。泳流が来てくれたお陰で演技のレパートリーが増えてとても感謝している」 「……光栄です。だから?」 微かに頬を染めて聞き返した泳流に、俺は言った。 「つまりだ。俺の未熟が原因で起こった問題を回避するために、お前との演技に制限を付けるのは〝逃げ〟だと思うんだよ。今ここで克服をしておかなければ、いずれ他の演技でも、気を乱される度に対処しなければいけなくなるだろう? これは、俺が正面から乗り越えなければならない問題なんだ。今度こそ硬直せずに決めて見せるから、協力すると思ってこれまで通りに跳んでくれないか?」 しばらく黙って俺の話を聞いていた泳流だったが、急に眉をきつく細め、呆れたように吐き捨てた。 「要するに何ですか? 僕のを見てもミスしないようになりたいから、もっと見せろ、と?」 「そう!」 素直な気持ちのままに力いっぱい頷いた瞬間、俺の頬に軽快な音を立てて赤い&ruby(ヒトデ){海星};が張り付いた。 「今の妄言は聞かなかったことにしておきます」 「いや待て。してくれなかっただろうお前」 思いっ切り引っぱたかれてひりひり腫れた頬を摩る俺に、泳流は皺を寄せた眉間を指で押さえながら言い放った。 「ともあれ、この問題には正面から取り組むべきだというのは賛成できます。しかし、全てをあなたの自己解決に任せるわけにもいきません」 「どうする気なんだ?」 「特訓をします」 有無を言わさぬ、それは宣言だった。 「今夜0時、ショープールに来てください。トレーナーさんたちには僕達だけで練習をすることだけ伝えてきます。寝不足にならないよう、今から寝ておいて0時前になったら起きるのがいいでしょう。もうこんな恥ずかしい理由でミスをしなくなるよう、しっかり鍛練してもらいますからね!」 言い終えると、泳流は今度こそ身を翻し、憮然として頬を撫でる俺を尻目に自室へと向かう。 扉を閉じる直前、泳流は振り返って言い捨てた。 「正面から乗り越えたいと言った、その言葉を忘れないように。それでは今夜までお休みなさい!!」 激しく扉を閉ざす音に気圧されて、俺は脱力して天井を見上げながら、ひとり呟いた。 「特訓て……一体何をするつもりなんだよ……?」 *☆04☆ [#z6d3d370] ★ 「おはようございます、瀬波」 「……こんばんは。おはようは早いにも程があるだろう、泳流」 深夜11時50分。 いつも通り王者の印を身につけてショープールに行って見れば。 煌々とプールを照らす照明の光の中に、先に入っていたブイゼルの泳流の顔と、その首元の神秘の滴の青い光が浮袋の上で揺れていた。 「待たせたかな?」 「予定より10分も早いじゃないですか。それより、体調の方は大丈夫ですか?」 「俺もプロだよ? 11時には起きて、軽く食事をして身体もしっかり慣らしてある」 軽快な動作でプールへと身を踊らせて、俺は泳流の側へと颯爽と泳ぎ着く。 「それで、特訓って具体的に何をするんだ?」 俺の問いに泳流は黙ったまま、すぅっと水面に腰まで浮かばせて、パフォーマンスでやる時のように水面に立つ姿勢を取った。 泳流の白い腹が俺の目の前で迫り上がる。 「――!?」 陰毛の濃いフローゼル((公式絵のフローゼルの下腹部には、体毛の違う箇所がしっかりと書かれている。))とは異なり、ブイゼルの下腹は淡い産毛が生えているだけなので、間近で見ただけで魅惑の一筋が透けて見えてしまう。 もっとも茂っていたらいたで、その下にあるものを意識せずにはいられないが―― とか考えている間にも、その黒いラインは見る見る眼前に昇ってくる。 「おっ……おまっ!? 何をやって……っ」 慌てふためく俺に構わず、泳流は立たせた身体をのけ反らせて、バチャリと水面上に仰向けに倒れ込む。 泳流の可愛らしい尻が、 完全に露になった一筋の裂け目が、 その下にある窄まりまでもが……俺の眼前で、広がった。 「のわあぁぁぁぁぁぁっ!? やばいよ! やばいだろこれはっ!?」 狼狽えて跳び退ろうとした俺に、泳流の厳しい叱責が飛ぶ。 「目を背けないでください!」 「そ、背けるなったって……」 躊躇いながらも言われるままに見返すと、水面に揺れる白い恥丘の向こうで、擡げられた泳流の双眸が、爛々とこちらを睨みつけていた。 「ちゃんと見なけりゃ失敗するって言ったのは瀬波でしょう! そんなざまで、よく今度は決めてみせるなんて言えましたね。このままじゃ明日も失敗必至ですよ?」 「それは……言ったが……だけどっ……」 「大体硬直するほど覗き込んでおいて今更何ですか!? 正面から乗り越えるんじゃなかったんですか!?」 「ぐっ……まぁ……確かに……」 「こんなものは、欲求があるから気を乱したりするんです。満たされてしまえば見ても平気になるでしょう。ですから望み通り、僕の身体に慣れてください。これが特訓です」 と、特訓って、そういうことだったのか!? 余りにも嬉し恥ずかし過ぎる〝特訓〟の内容に、思わずゴクリ、と唾を飲み込んでしまう。 「ほ……本当にいいのか? お前、恋ポケとかいないだろうな? 後で恨まれるのは……」 御免だぞ、と言いかけた俺の顔を、盛大な波飛沫を纏った泳流の尻尾が襲った。 「わぷっ!?」 「変な勘違いしないでください! これはあくまでも、演技のための特訓です。どの道そういう相手もいませんからお気遣いなく!」 「そ、そうか……」 「これは、僕のための特訓でもあるんです」 言いながら、泳流は赤く茹で上がった顔を俯かせた。 「テールキック中にこんなところを見られているなんて知らされて、僕だってまともな精神で跳べると思いますか? 正直、見えていないと言われた午前や正午の部だって、怖くて後肢を開けませんよ」 恥じらいに潤んだ眼差しが、再度キッと俺を射貫く。 「だから僕も、瀬波の視線になれないといけないんです。お願いします。触ってください!」 その訴えはどこまでも真剣で、深い覚悟が込められていて、もう頷く以外の選択を俺に許してくれそうにもなかった。 「……分かった。ありがたく触らせてもらうよ」 勿論、俺自身の欲求的にも異論の余地はない。据え膳食わぬは雄の恥、だ。 「それでは、これを渡しておきます」 泳流は水面に寝そべったまま、上腕にベルトで括り付けていた小さなポーチを俺へと投げてよこした。 途中でポチャリと落ちたが、水に浮く材質で出来ていたようで容易く回収できた。 ファスナーを開いて中を覗いてみると、そこにあったのはストラップ付きの小型ペンライトと、四角いビニールに包まれた輪らしき形状のモノが数枚。 「……これって」 「照明の明かりだけだと見えにくいでしょう?」 「いや、ペンライトは分かるんだが、なんか、その……避妊具が入ってるみたいだけど」 「我慢出来なくなったら使っていいですよ」 ざぶん。 衝撃の余り一瞬沈んでしまい、素で溺れかけた。 「ちょ! ちょ! 待て! い、いくら特訓だからってそこまでさせてもらうわけには……ぷ☆」 再び水撃と泳流の尻尾が顔面に炸裂し、俺の言葉を遮る。 「そこまでしなくたって、興奮したら漏らしちゃうでしょう!? プールを汚さないようにっていうことです! 雌の子にこんなこと、いちいち説明させないでください!」 「……すみません。戴いておきますです。はい」 やれやれ、なんか俺、謝ってばかりだなぁ…… と自嘲気味にぼやきながら、俺はポーチを持ち上げて上腕に付けようとする。 照明の光が、ポーチのエンブレムを閃かせた。 「……あれ?」 〝operations summer vacation 2008〟((〝夏休み大作戦2008〟の意味。)) そこには、そう書かれていた。 「これ、去年のハロバロの大会の時、現地で限定販売された奴じゃないか。泳流、あそこにいたのか!?」 「……えぇ。瀬波が優勝した大会と、僕が優勝したパッパのお祭りは主催者が一緒((勿論『ポケモンだいすきクラブ』の事。))なのは知っていますよね? 僕は去年はアシスタントとして参加していたんです。その時チームリーダーをされていた運営のアキヨシさん((『ポケモンだいすきクラブ』の各イベントの進行役キャラの一人。ちなみに狸吉のチーム・ソラリスのリーダーはナツ。))にスカウトされて、今年は選手権の方に出させて頂いたんですよ」 「へぇ……そういう経緯があったんだ」 アキヨシさんがリーダーということは、泳流はチーム・ルナーのアシスタントだったのか。ならチーム・ソラリスに所属していた俺とは顔を合わせていなくても仕方ないな…… とぼんやり考えていると、コホン、と泳流が咳払いをした。 「そろそろ……始めてもらえますか? 丁度約束した時刻ですし」 時計を見ると確かに、長針と短針が真っすぐ上を向いて重なっているところで。 その様が、フローゼルとブイゼルが重なって交わっている姿を、想起させて。 ジン、と水の中で、俺の銛((銛=男性器。))が熱くなるのを感じた。 ハァ……。 この分じゃ、泳流の用意してくれた避妊具、早めに付けておかないといけないかもしれないなぁ。 &color(red){☆注意・口戯シーンがあります。★}; 「そ、それじゃあ、失礼ながら……」 心臓をドキドキ波打たせながら、俺は泳流が差し出した股間へと前肢を伸ばした。 指先でツン、と恥丘の頂きに触れると、 「ひゃあうっ!?」 まるで電撃でも受けたかのように泳流の身体が跳ね上がり、驚いた俺は思わず前肢を引っ込める。 「だ、大丈夫か!?」 「へ、へいき、です。特訓ですから、耐えます」 「そう、か……」 泳流の声は喘ぎ交じりで、掠れていて、 俺もうまく言葉が綴れない。呼吸が、激しい。 「じゃあ、続き、行くぞ……」 泳流が頷いたのを見て取り、俺は今度は掌を使って、泳流のそこに触れた。 掌一杯に掴まえた、海綿のようにすべすべと柔らかな感触。優しく揉みしだき、ゆっくり撫でてあげると、心地よい弾力を掌の中に返してくる。 「んぐっ……!」 恥ずかしげに指を咥えている泳流の口から、押し殺した嬌声が涎と共に漏れ、下腹の柔らかな毛並みが荒い息と共に波打つ。 反応に気をよくした俺は前肢を放し、露になったその場所を覗き込んだ。 俺を惑わした主原因たる秘貝((貝は花と並んで、古来より女性器の隠語として知られている。ここでは泳流の女性器の各所を貝の部位になぞらえている。))は、まだ恥じらいの殻((殻=大陰唇。))に覆われてよく見えない。 ペンライトを腕に装着し、殻口((殻口=陰裂。本来は巻貝の貝の入り口の事。))に当てがって奥へ光を射す。 黒く陰ったラインの中に、鮮やかな珊瑚色が浮かび上がった。 指先をほんの先端だけ光の中にくぐらせて、煮えたぎるように熱い秘貝に触れると。 そっ……と、殻口に沿って動かしてみる。 たちまち内側から沸き出した愛汁を指先に絡みつかせ、滑らせるように殻口の上端まで撫で上げると、真珠((真珠=陰核。))の硬い感触を捕らえた。 それを指先で挟み込み、コリコリと弄くってあげると。 「んくあぁあああぁっ!!」 堪え切れず、堰を切って迸った嬌声と共に、泳流の全身が痙攣し。 俺の目の前で、秘貝の殻が、弾けるように開いた。((発情した牝馬などに見られる現象。陰部を開閉し、その蠢きと彩りで牡を誘惑する。)) 鮮やかな彩りの&ruby(がいとうまく){外套膜};((外套膜=小陰唇。本来は貝の身を覆う皮膜の事。))が大きく開いて見えたのも一瞬、俺の視線に晒されたのを恥じらうかのように再び貝殻は閉ざされる。 だがその瞬間だけで俺の網膜には、珊瑚色の閃光が熱く焼き付けられてしまった。 なんて、美味しそうな貝だったろう。 もっと見たい。 早くその味わいを貪り尽くしたい……! 雄の本能から来る衝動に突き動かされ、俺は泳流の恥丘を押し開いた。 くぱぁっ……と糸を引いて暴かれた泳流の秘貝。照明に照らされて淫靡に輝く外套膜の間で、ねっとりと粘り着く愛汁の泉が懇々と湧き出している。 とろり、と思わず漏らしてしまった涎の滴が、頬を撫で下ろす。 水面下では、俺の股間の銛が、秘貝の肉を突き破りたいとばかりに激しく疼いている。 もう、我慢出来ない。 俺は上腕に付けたポーチのファスナーを慌しく下ろし、避妊具を探り当てて取り出した。 袋をもどかしげに引き裂いて無我夢中で銛にあてがい潜らせると、片腕で泳流の腰を抱え寄せる。 意を決した俺は唇を舌で拭うと、鼻面を彼女の、柔かく熱い外套膜の間へと、突っ込ませた。 「きゃあっ!? ちょ、ちょっと待っ……駄目……あはぁっ!」 驚いた泳流が身を捩って抵抗しようとするが、最早俺にも止めようがない。 荒々しく吐き出した息が泳流の真珠を撫で、乾きかけた磯のような臭気が鼻孔をくすぐる。だが海水の匂いと交ざると臭みも気にならず、ただ、ただ泳流の温もりが顔を包み込んで行く。 そのまま口を開き、舌先で愛汁を嘗め、啜り、更に狭い秘貝の奥へと差し込んで行く。 と同時に自由な方の手で、己が銛を握り締め、秘貝の感触が伝わるように揉み扱く。 あぁ……たまらない―― 強烈な快楽に包まれながら、俺は泳流の中で舌を蠕動させ、更に奥を、奥を求めてまさぐって…… ふと、舌先にある感触を感じ、俺は慌てて舌を引き抜いて顔を上げた。 今のは……まさか!? 片手で外套膜を開かせたまま、ペンライトの光で、今し方こじ開けた秘貝の奥を覗き見てみる。 愛汁を嘗め取られた泳流の秘貝は、&ruby(えら){鰓};((鰓=膣前庭。貝は身の開口部のすぐ内側に鰓を持つ。))の向こうで小さく窄まっていた。 これは。 奥を窄めている、この〝貝柱〟は。 [[「ひーめ、んっ……!」>波乗りトリックルーム#m24de105]]((貝柱=処女膜。)) 呟き、知覚して、俺は。 「いやあああああああああぁぁぁっ!!」 その瞬間、羞恥の臨界を突破した泳流の尻尾を横っ面にまともに食らい、真っ白な飛沫を上げながら吹き飛んでいた。 *☆05☆[#kfd6ff35] ぷはっ! 水面に顔を出し一息吐く。 ぐったりと弛緩した身体を浮かべてみれば、白濁に膨らんだ避妊具が、褐色の陰毛の向こうに嵌まったまま力無く揺れていた。 やれやれ、着けていなかったら今頃大惨事になっているところだ。 縁で拭うようにしながらゆっくりと避妊具を外し、零れないように入り口を括っていると、たどたどしい声が横から聞こえてきた。 「ごっ、ごめん……なさい……つい……僕……ひくっ」 しゃくり上げた声に振り向けば、丸められた背中が一つ星をこちらに向けて漂っていた。 その背中が断続的に波打っている。余りのショックで横隔膜が痙攣してしまっているのだろう。 「ひくっ……続き……特訓を続けないと……こんなことじゃ、また……くっ……」 しゃっくりの合間にうわ言のように吐き出された言葉とは裏腹に、肩をブルブルと震わすばかりで振り向くことも叶わない様子。どうやら前肢で股間を抱え込んでしまっているらしい。 「少し、休憩しよう。泳流」 「だ、だめですっ……もう叩いたりしませんから……大丈夫ですから……ひくっ!」 「全然大丈夫じゃないだろう。そんなガチガチに緊張してしまっては特訓にならないぞ。落ち着いてから再開した方がいい。それに……」 「……?」 言葉を切った俺を怪訝に思ったのだろう。浮袋を傾けてこちらに眼を向けた泳流に、俺は手の中の物を見せた。 「……~っ!?」 途端に再び俯いて縮こまる泳流。湯気が上がるほどに頬が染まっているのがこちらからでも判る。 「ね?」 最早まともに答えることも出来なくなった泳流は、小さく頷いてがっくりと水面に身を預けた。 ひっく。 ひっく。 繰り返されるしゃっくりの音を聞きながら、俺は縛った使用済み避妊具をポーチの中にしまい、泳流の傍らに静かに身体を並べた。 空を仰げば、泳流の一つ星にも似た月が照明の向こうで円く輝いている。 その灯りをぼんやりと眺めつつ、俺は先刻舌先で触れた、秘貝の中の薄く儚い感触を思い起こしていた。 あれは確かに、純潔の証しだった。泳流は紛れも無く、処女……だったのだ。 ぎんっ! と俺の銛が天を突いて張り詰める。 ……さぁ、もう休憩はいらない。早く隣を漂う乙女を力いっぱい掻き抱け。嫌がるようなら無理矢理にでもいい。貫いて、引き裂いて、まだ誰も知らない未開の地を踏み荒らし、俺の全てを刻み付けてしまえ……!! いきり立った銛が強烈な衝動を訴え、俺の心を掻き乱す。深い呼吸を繰り返し、必死に劣情を夜風へと押し流した。 ああ、それにしても、 「意外だったな……まだ処女だったなんて……」 「……すみませんね。処女なのにふしだらで。ひっく」 無意識に漏らした独白に、不満げな感情のこもった文句を返された俺は頭を掻いて苦笑した。 「いや、随分無理をさせてしまっただろうと思ったんだ。元はと言えば俺の気の迷いが原因なのにな。すまない」 「謝らないでください、瀬波」 向こうを向いたままの姿勢で、泳流は言った。 「その原因を、招いてしまったのは……っく、僕の、方なんですから」 「おいおい、何を言っているんだ? あれは俺が勝手にお前に気を取られただけだ。いつもテールキックを完全に決めていたお前には何の責任も……」 「僕なんです」 ようやくしゃっくりも治まってきたらしい。ふぅっ……と溜め息を吐いた後、微かに潤んだ瞳がこちらに向けられた。 「泳流、僕のここ……テールキックのポーズだけで自然に開いたと思っていたでしょう?」 「違うのか?」 「違うんです。瀬波に開いていたことを教えられるまで気付いてはいませんでしたが、確かに僕は……反応……してしまっていたんです」 「反応って、何に?」 首を傾げて戸惑う俺を見て、泳流は悪戯っぽくクスクスと笑い出した。 「分りませんか瀬波? 僕はあなたと一緒に、いつも、テールキックを完全に決めていたんですよ? さぁ、何をしなければ、ちゃんと決められないってあなたは言いました?」 「それは……『ボールを打つ先を、視認しなければ』……!?」 おい。ちょっと待て。 つまり、いつもキックを成功させていた泳流がその時見ていたのは……それに反応していたというのは……!? 気が付けば、咄嗟にその場所を覆い隠してしまっていた。 「今更隠しても遅いです。さっきから丸見えです」 「うぐ」 ものの見事に昨日の仕返しをされ、俺は湯立った顔を沈めてぶくぶくと泡を立てた。 「ご心配なく。演技中にはみ出したりしてはしていません。出てもいないのに、正面からそこを見ているうちについ意識してしまっていたようで……すみません。演技中に目を奪われていたのは、僕の方だったんです」 あ~、そういうことか。 ブイゼルとは違いフローゼルにははっきりと他所と色の違う陰毛が生えているから、その下を想起せずにはいられない――先刻泳流の恥丘を目の前にして、彼女がフローゼルだったらそうなるだろうと夢想したまさにその通りに、泳流は俺の雄を意識して本能的に秘貝を開閉させてしまった訳だ。 そしてそのことに自覚のないまま、『演技中に脚が開いただけで目を奪われるなんて!』と俺を罵ってしまった。俺に指摘された時彼女が感じた羞恥は、秘貝を覗かれた事だけじゃなかったんだな。 「……いや、でも、目を奪われても演技はしくじらなかったんだからなお前は。出さなくてもミスキックしていた俺の方が……ああ、そうか」 はっと気が付いて、俺は思わず笑い声を上げた。 「〝どっちもどっち〟なんだな。あれはこういう意味だったのか……」 「はい…………」 笑い合いながら、泳流は身体を仰向けにして桜貝色に染まった顔をこちらに向ける。 その視線に誘われるように俺は彼女へと前肢を伸ばした。 泳流の腕が、俺の腕を絡めるように取ってふたりで手を繋ぎ合う。((ブイゼル系のモデルである動物も、繁殖期にカップルで手を繋いで波間に漂うらしい。)) 零時の時計の針のように寄り添って波に揺蕩いながら、共に満月の空を見上げた。 「夢だったんです。あなたと跳ぶ事が」 おもむろに泳流は語り始めた。 「去年の夏、ハロバロ国立公園のドラゴンフォールで、200mも離れた滝の天辺から雲を突き抜け、滝壺の正面の観客席にいた僕の目の前に飛び込んできたあなたの姿を見てから、ずっと夢見ていたんですよ」 「やっぱり現場で見てくれていたのか……このポーチを見てそうじゃないかとは思ったけどね」 「ここに来て、その夢が叶って、すっごく嬉しかったんです。だからあなたと向かい合う度に夢中になって見つめてしまって……いつの間にか、秘めていたはずの想いを堪えられなくなっていたんですね、僕……」 恥ずかしげに目を伏せる泳流。触れ合った肩から、激しい鼓動の波紋が広がって伝わり、俺の波紋と交錯していく。 「昨日自分の状況を聞かされた時は本当、どうしようかと思いましたよ。反応を押さえるためにあなたを見ないようにしても、今度はこっちがミスキックしてしまうのは目に見えていましたし……でも、あなたが『正面から乗り越えたい』っていったから……僕は…………」 俺の肩に額を寄せ、微かな声で、しかしはっきりと泳流は囁いた。 「僕も……乗り越えたい、って思ったんです。だから……」 繋いだ掌に、ぎゅっ……と力が込められる。 月光と夜風と波の中、しばらく見つめ合ったのち。 俺は意を決し、もう一方の腕で泳流の身体を抱き締めた。 「そうだな。ふたりで、乗り越えよう」 俺の腕の中で泳流は幸せそうに微笑みながら頷き、腕を俺の胴に回して抱き合った。柔らかな温もりの中で、俺達の鼓動が荒波のようにぶつかり合う。 しばらく抱擁を交わし合った後、泳流は俺の胴にかけていた腕を肩のポーチへと伸ばし、避妊具の包みを取り出した。 「僕が着けます。……これも特訓ですから」 「お前のどこに着ける気だ?」 勿論、これは照れ隠しの冗談である。答えは顔面への裏拳突っ込みだった。 [[★>波乗りトリックルーム#w782c682]] *☆06☆ [#uf735dd4] 少し強く力を込めて、泳流の指が俺の勃起した銛を掴んだ。 乱暴な扱いに思わず声を上げかけたが、先刻泳流の処女をかなり激しく弄くってしまった事を思えばこれくらい、と歯を食いしばって耐える。 身体を曲げ、避妊具を片手に俺の股間へと上体を寄せた泳流が、ふと微かに眉をひそめた。 「やっぱり臭うか? さっき出したばかりだからな」 「えぇ、でも、磯みたいな匂いですから。海水の中ならそんなには……」 「あぁ、雌の子も雄の匂いをそう感じるんだ」 「え……っていう事は、僕のもですか? やだ……」 恥じらって顔を背けてしまった泳流の背中の一つ星を、俺は優しく撫でながら言った。 「生命の、匂いなんだな……」 「そうですね……」 生命の源は、海の中で産まれたという。だから生命を産み出すための箇所からも、その匂いがするのだろう。きっと。 しばらく手の中の銛を弄くっていた泳流だったが、やがておぼつかない手つきで避妊具を先端に被せて潜らせようとしてきた。 俺は毛を挟まれないように根元を整え、もどかしげに避妊具を広げる泳流の手を誘導する。 やがて、花嫁の指に指輪を嵌めるように厳かに、俺の銛は根元まで避妊具に包まれた。 「で、出来ました」 「上出来だ」 フッと笑うと共に、俺は背中の浮き袋に空気を送り込み、膨らませた。ふたり分の体重を、支えるために。 意図を察したのだろう、泳流が俺の胴にしがみつく。その身体を支えながら俺は身をひねって仰向けになり、泳流を腹の上に担ぎ上げた。腰を抱えて浮かせ、秘貝に向けて熱く滾った銛の狙いを定める。 「痛いぞ?」 「覚悟の、上です」 「特訓だから、か……」 溜息を吐いた俺に、泳流は静かに首を横に振り、俺の腕を掴む手に力を込めながら、呟いた。 「パートナーだから……」 避妊具の中で、硬く、鋭く、銛が張り詰める。 互いに見つめ合い、頷きを交わし合った。 もう躊躇いはない。俺たちがお互いを乗り越えるための、これは儀式なのだから。 力いっぱい泳流の腰を抱き締めて、愛汁を滴らせているその秘貝を、硬く尖った俺の銛へと―― 打ち下ろした。 「あうっ!!」 苦悶の悲鳴を上げ、泳流の身体がのけ反る。 銛は柔らかな殻を割り、珊瑚色の外套膜を押し開き、更に奥を求めて貪欲に疼く。 雄の本能の赴くまま、俺は一層の力を込めて、秘貝を銛へと叩き付けた。 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁっ!!」 ブチッ! と音を立てて泳流の貝柱が千切れ飛んだ。 身を引き裂かれる痛みに、泳流が全身を戦慄かせる。ああ、可哀想に……だけど、泳流を想えば想う程、彼女を穿たずにはいられない。もう、止められない―― 開かれた処女肉を味わいながら、俺は更に泳流の秘貝を打ち割り続けた。 やがて、俺の銛は根元まで深々と泳流の秘貝を貫き切った。 「あぁ……俺たち、一つになれたな……」 囁いた俺の腕の中で、神秘の滴の青い輝きが激しく揺れる。 泳流はもう息も絶え絶えで、瞳を虚ろにして俺の胸に上体をぐったりともたれさせている。 腹から胸へと柔らかな産毛を弄り、激しく動悸している胸の頂きを探り当てると、口に含んで軽く歯を当ててみた。 「ひゃあぁぁぁんっ……」 切なく喘ぎ、反応を取り戻した泳流。繋がった場所から血交じりの愛汁が漏れる。 滑りが良くなったと確認し、俺はジャンプで鍛えた腰を、水面下で勢いよく躍動させた。 「あっ! あぁっ! あぁあぁぁ~っ!!」 俺の陰毛と泳流の産毛ががぶつかり合い、擦れ合い、その度に泳流の2本の尻尾が宙を踊る。 腰をうねらせて何度も突き上げながら、俺は秘貝の内側の心地よい感触を銛一杯に味わっていた。 と、それまで力無く揺れていた泳流の両足が、突然俺の腰を挟み込んだ。 そのまま腰を押し付けるようにして、銛を深くまで胎内に飲み込むと。 きゅっ! っと、締め付けた。 「うあああぁっ!」 まさかの反撃にあわや達しかけ、歯を食いしばって持ちこたえる。 「泳流……お前……」 「瀬波ぁぁ……僕……ゾクゾクしてきた……」 自らなまめかしく腰を振り、恍惚の表情を浮かべて泳流は呻いた。まだ破瓜を迎えたばかりだというのに、早くも彼女は雌の悦びに目覚めようとしているようだ。 「もう……トんじゃいそう……」 「そうか……」 頭を上げさせ、互いの息がかかるまで顔を近づけ合い、俺は囁いた。 「じゃあ……一緒に、トぶぞ」 「ん……」 浮き袋の空気を尻の下に寄せて水面で上体を起こし、繋がり合ったまま向かい合って座る姿勢を取る。 泳流の尻尾が水中に入るや波を立てて、しなやかに、力強く、腰を突き出してきた。 俺も泳流の動きに合わせて腰を使い、ふたりの間で揺れるボールを打ち合う。何度も。激しく。 「はぁっ……はぁっ……、瀬波、どう……ですかっ……?」 「最高だよ……泳流っ……!」 4本の尻尾が巻き起こす激流が、絡み合い、縺れ合って、ふたりの間を愛撫し、ボルテージはクライマックスへ向けて強烈に高まって行く。 「トんじゃうっ! 瀬波っ! 僕、本当にトんじゃうよぅっ!!」 「ああぁっ! 俺もだ……泳流っ! 泳流ぅぅっ!!」 互いの名を呼び合いながら、ふたり呼吸を合わせて、沸騰した身体を一際激しく打ち合わせる。 弾け跳んだ飛沫の中、俺たちは―――― 「あああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁっ!!」 ★ 一面真っ白に染まった世界の中、俺は……空を飛んでいた。 そうだ。ここはハロバロ国立公園、キャニオン・ゾーンの最深部、ドラゴンキャニオン。 スタートダッシュで勢いをつけて沢を下り、岩を掻い潜りながら早瀬の波となって谷間をぐんぐん加速。滝を目前にしたところで全身のバネを引き絞り、落ち口を越える瞬間に爆発的に弾かせて、滝壺の上空に立ち込める雲の中へと跳び込んだところだ。 跳躍の一瞬、全身に感じた浮遊感。あれは完璧に落ち際の角で踏み切って跳べた証拠。かつてない程の素晴らしい手応えだった。 行ける。間違いなくこれは190m超級の大ジャンプになる。 心地よい風を鼻先で切りながら、雲を突き抜け、虹を飛び越え、眼下に広がる滝壺の出口を目指して、鮮やかな放物線を描いて飛んで行った。 流れ星のように一直線に水面へと向かう俺を、渓谷の左右に設けられたスタンドに総立ちになった観客たちの声援(エール)が迎える。 流れ星のように一直線に水面へと向かう俺を、渓谷の左右に設けられたスタンドに総立ちになった観客たちの&ruby(yell){声援};が迎える。 その時、観客たちの中で一輪の紅い花が揺れるのが、俺の視界の端に止まった。 振り向けば、それを俺に向けて翳していたのは、幼いブイゼルの雌の子だった。 スタンドで背伸びしながら可憐な花を一所懸命に振って見せる何とも愛らしい仕草に、俺は思わず彼女の方へと手を伸ばし―― 次の瞬間、飛沫と泡沫が、俺を包んでいた。 ★ 滝壺直下より200m先の安全ラインまで、実にあと僅か50cm強。 前人未到の199,45mの水面に、俺が自身を刻み付けたあの瞬間。 あぁ、泳流、 お前は確かに、[[あそこ>波乗りトリックルーム#vadcad10]]にいたんだな。 さぁ、一緒に跳ぼう。 俺たちだけの大空を、これからも、どこまでも。 ☆ ★ ☆ プールから上がり、使用済みの避妊具2つを処分して、濡れた自身の身体を繕い終えると、俺は陶然と立ち尽くしていた泳流に頭からタオルをかけて、その上からそっと撫でて囁いた。 「泳流、今夜は……ありがとう」 「…………」 「お前のためにも、明日は……いや、もう今日か。絶対ミスなしで決めてやるからな」 と、タオルの下がビクッ、と跳ね、俺の手からタオルがもぎ取られた。 コホン、と一呼吸置いて、 「……当たり前です」 被ったタオルの下から聞こえてきたのは、いつも通りに取り澄ました泳流の声だった。 「お互い満足してパフォーマンスに専念するためにここまでしたんですよ? この上またスケベ心を出して無様な失態を繰り返したりしたら、僕、怒りますよ。本気でぶちますからね!」 ……昨日から既に5回ほど殴られているんだが。本気だともっと痛い目に会わされるわけか。 「肝に銘じておくよ。……あ~、それと、だ」 なるべく、何げない振りを装って、俺は言った。 「また、こんなふうに……デートして、くれるかな?」 バサッ、とタオルが激しく床に叩きつけられる。 現れた泳流の顔はマグマのように真っ赤に染まり、潤んだ切れ長の目尻は急勾配を描いて吊り上がっていた。 逆巻く渦潮の如き眼差しで俺を捕らえたまま、床を踏み割らんばかりの勢いで迫ってくる。 張り手か尻尾がまたまた俺の頬を打つのが先か。 それとも『あくまでも特訓だって言ったじゃないですかぁぁぁっ!』と怒声が俺の耳朶を打つのが先か。 いずれにせよ俺は覚悟を決めて、瞳を閉ざし、歯を食いしばった。 ☆ 頬を打ったのは、予想よりも遥かに軽く、湿った、柔らかな感触と、温かく甘い香りの吐息。 そして、耳朶を打ったのは、 「……スケベ」 照れ笑い交じりの、ほんの小さな囁き、だった。 ☆ ★ ☆ ポンッッ!! 遥か頭上で、二つのボールが音を立てて口づけを交わす。 今日3度目となるデュエット・バックフリップ・テールキック成功の瞬間。それはこれまでこのステージで決められてきた中で一番と思われるほど、見事に決まった演技だった。 お互いへ向けて真っ直ぐに跳んだボールの軌跡――それはまさしく、蹴ったポケモンたちの真っ直ぐな絆を象徴していた。 そして、その成功を祝うかのように。 飛沫の花が2つ、夕日に染められて紅く、大きく、鮮やかにプールの上で咲いた。 ☆ 波立つ水面を見上げて、会心の笑みを浮かべたフローゼルの瀬波。 昨日のミスキックが嘘のように、今日の瀬波は正しく絶好調であるようだ。 と、その笑みに向けて、プールの下方から大きなあぶくが一つ浮き上がってくる。 水底まで潜り込んでいたブイゼルの泳流が、可愛らしい唇に手を当てて、投げキッスの仕草で瀬波へと放ったあぶくだった。((元ネタはイルカが水中に漏らした鼻息の泡で遊ぶ行為。水族館では『エンジェル・リング』という芸として披露される事もある。)) 吹き出した直後に指で整えられ、奇麗なハートの形を保ちながら瀬波の眼前へと浮かんだ泳流の吐息。 それを見た瀬波は悪戯っぽくニコッと笑うと、水中で素早く口を開き、パクリ! と一呑みにしてみせた。 その様子はスタンド下の水中窓から覗いていた観客たちに丸見えで。 更にブール奥の大型スクリーンにも一部始終が映し出され。 たちまち口笛と拍手による囃し立てがスタンドの上下で大爆発して、プール内の2頭を祝福したのだった。 ☆ そしてトリを飾る連続ジャンプ。 寄り添って高々と跳ぶ瀬波と泳流は、空中で前肢を繋いでいた。 2頭は満ち足りた笑顔を虚空に並べて、仲良く輪を描くように跳び続けた。 いっぱいの幸福の飛沫を、スタンドの観客たちに振り撒きながら。 ――本日のパフォーマンスは全て終了しました。またのご来園をお待ちしております―― ---- *☆あとがき★ [#l425c9b6] 『夏休み大作戦2008』のキャニオン・ジャンプでまさかの優勝を果たした時、これをネタに小説を書けないかな、と思いましたがうまくネタに出来ませんでした。 『夏休み大作戦2009・ルンパ・カーニバル』のフレ! フレ! ポケラインで奇跡の2年連続競技優勝を果たした時もネタにしようと思いましたが、なかなか思いつきませんでした。 某水族館のイルカパフォーマンスも、見に行く度にネタに出来ないかと思っていたのですが、イルカのポケモンがいないこともあってずっと無理かな、と思っていました。 それが、2009年のシルバーウィークにその水族館に行った時。 勢いよく跳んだイルカが『キャニオン・ジャンプ』のフローゼルに見えて。 トリオでフリップを決めたイルカたちが『フレ! フレ! ポケライン』のポケモンたちに見えて。 「……これだ! ポケラインのメンバーの中にフローゼル系もいるから、キャニオンのチャンプとコンビで芸をさせるんだ。そして彼女に見取れたチャンプがまさかのミス。それをきっかけに夜のプールで2頭の秘密特訓……出来る、出来るぞ!!」 バラバラだった3本のラインが組み合わさって、一つの物語が出来上がっていきました。本作の誕生秘話でございます。 『ひとつのいのちは、ほかのいのちとであい、なにかをうみだす』小説にも言えることなんですね。 【作品名】 波乗りNight☆Stage 【原稿用紙(20×20行)】 78.1(枚) 【総文字数】 23663(字) 【行数】 718(行) 【台詞:地の文】 30:69(%)|7202:16461(字) 【漢字:かな:カナ:他】 33:52:6:6(%)|8038:12431:1625:1569(字) ---- 『ご来園、ありがとうございます。記念に一言を残したい方は、どうぞお使いください』 #pcomment(波乗りコメント帳) ---- [[歪んでいます……おかしい……何かが……物語のっ……>波乗りトリックルーム]]