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水沫の恋 の変更点


*&color(#1C5AC9){&ruby(みなわ){水沫};の恋}; [#f1d1c3eb]

※この作品には&color(red){GL、強姦に見受けられるかもしれない、特殊な官能表現};が後々含まれる予定です。官能表現自体はそこまで激しいものにならない予定ですが、官能ありの作品が苦手な方は下記のリンクからお戻り下さい。

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作者?いつか明かすかもしれません。また、不定期更新ですので気長にお付き合い頂けると助かります。

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雨。雨。雨。叩き付けるように降り頻る雨。
天を仰いでみても、鼠色の厚い雲が拡がっているだけ。

風。風。風。台風が如く吹き荒れる風。
何処に身を隠そうが、身体が重かろうが、全て吹き飛ぶだけ。

異常なまでに荒れ狂った天候は、海上を中心に拡がっていた。最早滝にすら見えてくる豪雨に水嵩は増し、ラプラスさえも吹き飛ばす暴風は海そのものを揉んでいるかのようだ。
そんなとてつもない暴風雨の中を、平然と動き回る者が2人。パルキアを裕に越える高波をものともせず、巨大な楕円形の形をした胸鰭で叩き付けるようにようにしながら泳ぐ青き深海の覇者。その上空で、自ら竜巻を生み出しつつ円を描くように忙しなく動く白銀の翼。双方、神として崇められる程の屈強な力を持つ者達である。

不意に、荒波の上に出ていた丸い頭が海中へと消える。海面は膨大な質量を持つものが勢いよく潜った影響で巨大な渦が出来、クレーターのように拡がっていく。それを見た宙を舞う怪鳥も大きく翼を羽ばたかせ上昇を始めた。
海面と垂直に一直線に泳いでいく巨大な身体。その逆叉((鯱のこと))のような身体の四方に張り巡らされた赤い模様が光輝くと同時に、その者は全身の鰭を身体に密着させ回転する。身体から溢れ出した力は逆叉を包むように拡がり、更にそれを上回る速さで回転し始めた。(ギガインパクト)凄まじい回転に水が巻き込まれ、渦の勢いは更に大きなものになっていく。対する怪鳥は白銀の翼を羽ばたかせ尚も上昇を続けている。が、その身に力を宿しているのか、心なしか光を帯び始めているようだった。
それが延々と続くかと思われた矢先、潜水を続けていた逆叉は回転速度が己が出せる最高に達したところで瞬時に胸鰭を身体から離し大きく広げ減速、そして羽ばたくように鰭を振り下ろし海面に向かって一気に浮上した。浮上する事により渦の回転が逆向きに切り替わる。同時に、上昇を続けていた怪鳥が大きく旋回する。龍が暴れまわっているかのような旋風が新たに巻き起こり、海面の一部を叩き水飛沫を上げた。怪鳥はそのまま急降下の体勢を作り、一際大きい竜巻の中へと躊躇無く飛び込む。すると竜巻は白銀の翼と触れ合った途端に膨張し盾の様に身体に纏わりついた。それは吹き付ける強風を弾き飛ばし、怪鳥は高速で降下した。(ドラゴンダイブ)

水中から飛び出した逆叉と、高速で降下してきた怪鳥が激突する。

身に纏う力同士が爆発を起こし、双方を吹き飛ばす。衝撃で大気は震え、海面が大きく抉れる。荒れ狂う波も風も、圧倒的な力の前に押し飛ばされた。
その時、巻き上がる水飛沫に紛れ青く輝く珠が姿を現した。海とほぼ同じ色合いをしている為に内側ははっきりと透けて見えており、珠の中心には更に幾つか赤い珠のようなものが見受けられる。宙を舞うそれは水飛沫の中まるで宝石のように瞬き神秘的な輝きを放っていた。
しかし、怒りに我を忘れた2人の神はそんな小さな輝きには目もくれず、空と海それぞれの場で体勢を立て直し再度睨み合う。が、やはり気体と液体という抵抗する物質の違いか、先に体勢を整えたのは白銀の怪鳥であった。蒼き逆叉がその姿を視界に収めた時には既に、鋼をも斬り刻んでしまうであろう凄まじい風圧の竜巻が自身へと迫っていた。だが、仮にも神と呼ばれし者の1人である。逆叉は慌てた様子も見せず瞬時に水流を打ち出した。否、撃ち出したという方が正しいであろうそれは、後からの攻撃とは思えない程の凄まじさを放っている。彼方が鋼を斬り刻む凄まじさならば、此方は分厚い鉄板を容易に撃ち抜いてしまうであろう凄まじさ。その威力はカメックスのそれとは桁違いである。

先程と違い、少々海面に近い位置で双方の力がぶつかり合う。その影響により周囲の海面は海底が露になるのではないかと思う程に抉れ、天にも届くような水飛沫が立ち上った。その上巻き起こる暴風は先程以上の勢いがあり、宙に無防備にくるくると回っていた蒼い珠はなすすべもなく遠くへと吹き飛ばされてしまった。
そんなことも、怒り心頭の神々にとっては関係の無いこと。この結果、後々後悔する事になるなど知る由もなく、争いを続けるのみであった。

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荒れ狂う風に揉みくちゃにされながら鼠色の空を横切っていく蒼い珠。それは刺激を受け過ぎた影響か、突如激しく光り輝いた。だがそれは一瞬の事で、すぐに輝きを失う。かと思えば、またしても激しい輝きを放ち出す。それが暫く繰り返された。明滅し、不自然な軌道を描きながら宙を舞う球体。地上から見れば非常に不可思議なものであろう。人間の観点から言えばUFOと呼ぶに相応しい物体が宙を飛んでいるのだから。しかし、勿論それはUFOなどではない。
明滅を繰り返していた珠が、何度目かになる輝きを放つと同時に、球体から2本の帯のようなものが伸び球状だった部分が変形し始めた。丁度真ん中にあたる部分が括れ、短いヒレのようなものが二対出来上がる。そうして、ある程度形が整ったところで左右に伸びた帯同士がぴたりとくっつき合った。
光が途切れる。球状の蒼い珠は、蒼い身体を持った生き物へと形を変えていた。

その生き物は固く閉じられていた瞼を開き、正しく生まれて初めて見る世界に驚きの声を漏らしていた。全身に感じている雨も風も、全てが初めてなのだから当然と言えば当然だろう。鼠色の空と碧の生い茂った陸地が交互に見える光景は、生まれたばかりで無くとも驚くことの方が多いだろうが。
…何より生き物が驚いたのは、自らが落下する先に巨大な岩があるということであった。高度は落ちてきているが未だ暴風に飛ばされたままの速度は変わっていない。このまま叩きつけられれば一溜まりも無いだろう。生まれたばかりと言っても命の危機が迫っている時には本能で分かるもの。生き物は鰭のような手と申し訳程度にある短い脚をばたつかせる。だがそんな事をしたところで状況が変わる筈も無く、小さな身体は徐々に岩へと吸い込まれるように落ちていく。生きとし生ける者に必ず備わっている生への執着の本能が呼び覚まされ、生き物は恐怖に泣き喚いた。
しかし幸いにもその行為が、生き物の命を救った。泣き声を上げると同時に生き物の小さな口から、何処から沸いたのかと思うほどの水が放たれ、間近に迫っていた岩に直撃した。流石に生まれたばかりの技の威力など高が知れている為砕く事までは出来なかったが、強力な水圧のお蔭で急激に減速し、そのまま岩にぶつかりはしたが額をぶつけてわんわん泣いた程度で済んだ。

暫く泣いていた生き物だったが、突然降り注いだ細い光を顔に浴び驚いて空を見上げる。遠くまで飛ばされた為か風も弱まってきており、打ち付ける様な雨は嘘のように止んでいた。その為、雲の切れ間から顔を覗かせた太陽が眩しい光を大地に降り注ぎ始めたのだった。眩い光に、生き物は目を細める。
少しずつ増える雲の隙間から、真っ青な空が見え隠れし始める。目を細めたままぼんやりと空を仰いでいた生き物は、空の蒼色を視界に収めるとそのまま釘付けになった。幾ら雲に遮られようとも穢れることのない、何処までも澄んでいるかのような青。それは、生き物が生まれて最初に成し遂げなければならない使命を思い起こさせるには十分なきっかけになった。
「ぅ、う…?」
生き物は頭の中に引っ掛かりを感じて、鳴き声とも言葉とも違う小さな声を漏らして首を傾ける。少しするとすぐに思い出せないのがもどかしいのか、頭をぺちぺちと叩いて小さな声を断続的に上げてその場をぐるぐると走り回る。しかし、短い足では周りを岩に囲まれゴツゴツとした地面を上手く走れる筈もなく、両手を頭につけているという不安定な体勢も相まって生き物は躓いてコテンと地面に仰向けになった。雲はいつの間にかすっかり晴れ渡っており、鮮やかな蒼生き物はが空の大半を支配していた。二度目になる空を見上げた生き物は、漸く引っかかりの正体を暴くことに成功した。
「う…み…?」
先程までの暴風が嘘のように、清々しい風が岩場を吹き抜ける。その風は僅かだが、潮の香りがした。
「うみ…うみ、うみ!」
生き物は勢いよく起き上がると、嬉しそうに手をぱたぱたさせて喜ぶ。頭の中の引っ掛かりが外れた時の解放感はえもいわれぬものがあるのだから当然だろう。生き物は何度も何度もうみうみと繰り返し喋りながら、両手を上に持ち上げてぴょこぴょこと跳ね始めた。まるで空の青を求めているかのようにも見える。当然その手が届く筈も無いのだが。
「うみ…ちがう、の?うみ…どこ…?」
幾ら跳ねても届かないことで、生き物は空が海ではないと判断したようだ。本来ならこうもあっさり判断することは難しいだろうが、海に生まれ海に生きてきた種族にとっては、海の水の冷たさや感触等が本能に刻み込まれているのである。砂浜で生まれて間もないプロトーガが真っ直ぐに海を目指していくのも、自分達の生きる場所が海であると理解しているからである。そして、何より海を求める力が強いからである。生命の起源とされる海を求めるのは生を持つ者ならば大半が持ち合わせる欲求である。その中でも、生涯の殆どを海の中で過ごし続けて来た種族はより一層に海を求めるものだ。海で暮らしやすい姿に進化を遂げた種族ならば尚更だ。それは、この生き物も例外ではないらしい。
「うみ…さがす…」
じっと考え込んだまま硬直していた生き物はぽつりと呟くと、頭頂部から生えた2本の帯…触手を左右に開くと、何かを念じるように手を合わせて目を閉じた。すると、触手の先の丸く膨れた部分が赤く、何処か妖しげな雰囲気の光を放ち始めた。光はそこまで強くはないが、見ていると心を奪われてしまいそうな、そんな色だった。
数秒が経過するとその光はすぐに弱まり消えてしまう。畏まった姿勢をしていた生き物もぱっと目を開けると、確信づいた顔で南の方角を指差して声を張り上げる。
「うみ!うみ!」
この生き物の種族は海自体と繋がりが深いのだろう。集中するだけで海の位置を感知出来るらしい。生き物は言うが早いか短い足を動かして南へと走り出した。

まだ見ぬ、美しくも恐ろしい、未知の世界へと…

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それから約一週間が経過した昼頃。あの日以来連日快晴が続き、荒らされた大地はポケモン達の手で元通りに戻され豪雨で点々としていた水溜まりも蒸発しきり、あの嵐の痕跡は見る影もなくなっていた。
秋も近くなってきた昼頃とはいえ、天高くからはまだまだ身を焦がすかのような光がジリジリと照り付けてきていた。そんな熱気の中、両脇を&ruby(たおも){田面};に囲まれた大きく開けた一本道をふらふらと歩いているのはあの蒼い生き物だった。
生き物は見て解る程に衰弱していた。頭の後ろへ真っ直ぐに伸びていた触手はだらりと左右に垂れ下がっており、身体の色も瑞々しく鮮やかな蒼色だったのが、干乾びて水分が不足し色が薄く落ちてしまったようにも見える。息も絶え絶えで、覚束無い足取りは今にも倒れてしまいそうである。元々生涯を海で過ごすポケモンは長時間地上にいること自体が命に関わる行為ともいえる。本来ならば一週間も命を繋ぎとめていられるだけでも奇跡といえるだろう。恐らく残っていた水溜りを上手く利用して生き永らえてきたのだろうが、この日照り続きでは流石に限界のようだった。今は使われていない田面の水に頼ろうともしたが、熱気でほぼ泥と化した水分を身体に取り込める程の器用さは生後一週間の生き物にはまだ備わっていなかったのである。
「ふぃ…み…ぅみ…」
うわ言のように海海と繰り返し呟きながら、生き物はゆっくりと道の真ん中でうつ伏せに倒れこんでしまった。完全に脱力してしまったようで触手も乾ききった土の上へ無造作に横たわる。そんな弱った身体に太陽は容赦なく光を浴びせ続け、更にその水分を奪っていく。生き物は朦朧とした意識の中で何とか日の当たらない所へ移動しようとするが、田面に囲まれた一本道には木など生えている筈もなく、ただ悪足掻きに這って前に進む事しか出来なかった。その絶望的な状況に、生き物もとうとう諦めかけた…。
その時だった。突然目の前が暗くなった。意識が遠のいたのではない。上から何かが光を遮ったのである。生き物が不思議そうにしていると、頭の上から声が降ってきた。
「ちょっと…大丈夫ですか?聞こえます?」
少し高めの、しかし落ち着いていて聞き取りやすい声だった。生き物は何とか身体を動かして仰向けになる。しかし、相手は後ろから日を浴びている上生き物自身意識が朦朧としていた為、顔が分からず青いっぽいシルエットがぼんやり見えるだけだった。
「ほ、本当に大丈夫ですか…?何か、私に出来ることは…」
「み…み、ず…」
「み、ミミズ!?そんなものがほしいのですか!?」
「ふぃ…みず…みず、ほしい…」
「あ…み、水ですね!ちょっと待ってください!」
突然現れた相手はぐったりとした生き物と少々間の抜けた会話を交わした後、少しだけ顔を離した。そこまで見て、生き物は目を開けているだけでも身体中の水分が奪われているような感覚に目を閉じた。身体が鉛になってしまったかのように動かず、ただただ地に身を委ねる事しか出来ない。そんな状態が何を意味するかも判らず、生き物の意識は段々と薄れていく…その刹那。
ぱしゃん、という音と共に冷たさが生き物の顔を打った。
「ふぃっ…」
驚いて声を上げた生き物。突然の冷たさに、薄れていた意識が呼び覚まされる。しかし、その冷たさは生き物が一番求めていたものだった。らゆっくりと目を開くと目の前には水飛沫。
「ひぃあっ」
続けて二度、全身に水が落ちてきた。ひんやりとした心地よさが生き物を支配する。乾いた肌に付着した水は瞬く間に全身に吸収され、生き物の活力を呼覚ましていく。
「ふぃ、ふぃ〜!」
高らかな鳴き声を上げながら、生き物は勢いよく起き上がる。身体に残っていた水が飛び、焼けた地面を僅かに濡らす。すっかり元気を取り戻した生き物は、相手が見ているのも気にせず両手をぱたぱたと動かし、よちよちとその場を駆け回った。影がなくなり熱い日差しが生き物の身体に当たるが、それでも生き物は生き生きとした表情を見せていた。
「は、はは…元気そうでなによりです」
いきなりの展開に付いていけず、数秒程キョトンとした表情で硬直していた相手はそんな生き物の笑顔を見てつられて笑い出す。少しばかり上の方から聞こえた声に、生き物は改めて目を向けた。
そこにいたのは、確かに水に生きる事を許された部位のある者だった。しかしそれにしては四肢が鰭ではなく脚として存在しており、水に巣くうポケモンの中では珍しく獣に近い姿をしたポケモンである。
「あっ、もう大丈夫ですか?」
「ふぃ、ありが、とうっ、ふぃ、ふぃっ♪」
そのポケモン、シャワーズは生き物と目が合うともう一度安否を確認する。しかし幼い生き物にはシャワーズが「助けてくれた」という理解が大きく、質問は全く耳に入っていないらしくつっかえながらも礼を言ってシャワーズの周りを駆け回り始めた。幼さ故の反応とはいえ流石に面食らったシャワーズだが、駆け回れるほどに回復した生き物を見てほっとしたようだった。その場に下ろしていた腰を上げ、優しく微笑みかける。
「それだけ元気なら、もう平気ですね。じゃあ、私はこれで…」
「えっ、えっ?いっちゃうの?いっちゃうの〜?」
その微笑みの意味は生き物にはまだ分からなかったようだ。歩き出そうとしたシャワーズの後ろ足にしがみ付き、懇願するような視線で見上げた。まさに駄々っ子のような行動にシャワーズはたじろぎどうすればいいか解らなくなってしまう。それだけではなく…シャワーズの目にはその純真無垢な瞳が酷く可憐に映っていたからである。シャワーズは無意識の内に頬が熱くなったのを感じて、思わず生き物から目を逸らす。それを見た生き物は無視されたと思ったのか、更に駄々を捏ねてシャワーズを困らせた。
「私が行ってしまったら…どうするんですか?」
「うー、なく、なくー!」
興味本位でそんな事を聞いたシャワーズは、泣くという言葉を聞いて心を揺り動かされる。泣かれるのは困るが、こんな可愛い子の泣き顔を見てみたい…そんな思いがシャワーズの頭で渦を巻き、何を考えてるんだ、と良心がそれを押しのける。だが、シャワーズの中に生まれた悪戯心は思いの他大きく、考えが纏まらない内に尻尾で軽く生き物を振り払うと、さっと走ってその場を離れている自分がいた。振り払われて尻餅をついていた生き物は慌ててそれを追いかけようとしたが、しっかりとした四肢を持つシャワーズのスピードに追いつける筈などなく、すぐにその背中は見えなくなってしまった。それでも諦め切れなかった生き物は尚も走り続けたが、やはり走るのは苦手だったか、途中で躓き転倒する。すぐにむくりと起き上がった生き物だったが、やはりシャワーズが戻ってくる気配がないとわかると、一時の間の後、少しずつ顔を歪ませ始めた。
「ふぃ…うっ、うっ…うわあああああんっ!!」
生き物は折角取り込んだ水分を大粒の涙にして流しながら泣き喚いた。驚いたことに涙は滝のように止めどなく流れ出ており、両手で目を押さえているがそんなものでは抑えきれず地面にどんどん水溜まりが出来ていく。目から逆叉が吐いていたような&ruby(ハイドロポンプ){大水流};が溢れてきているかのようだ。

そんな様子を、シャワーズは端の田面の中に身を隠しながら眺めていた。しかし走り去った筈のシャワーズが何故そんな所にいるのか。実は、シャワーズは生き物を払った一瞬の内に影分身を作っており、本体は田面に隠れ、分身はさも本体が走り去ったかのように見せかけたのであった。その表情から、随分と酷いことをするものだと自分でも呆れたようだが、どうにもシャワーズの悪巧みはとまらなかったらしい。シャワーズは不思議な感情に心を躍らせながら、幼さを振りまいて泣き喚く生き物の姿を見つめていた。
だが、改めてその生き物を見たことでシャワーズには何か引っ掛かるものが生まれた。小さく青い身体に頭頂部に生えた2本の触手、そして胸に輝く赤光りする宝石と、睫のような黄色い模様。その姿には何処かで見覚えがあったような気がしていたのだ。シャワーズは冷静になって自分の記憶の糸を手繰り始める。

最近で一番インパクトがあった話題といえば、一週間前の大嵐の話である。読者の皆さんはお分かりだろうが、ある2人の神の争いによって起こった暴風雨の話だ。一週間の内にその他の詳しい情報も解ったらしく、今や海一体に住む者は誰もが知りえる話題となっていた。何でも数億年前の古代に眠りに付いたとされる伝説のポケモン、カイオーガが目覚め、現代の海原の神として君臨している伝説のポケモン、ルギアと海の神の権利権争いが起こり、あのような状況になってしまったのだという。カイオーガは「己が海を創り出したのだから己の方が海の神に相応しい」と主張し、対するルギアは「その海を&ruby(おの){己};が眠り放棄している永きの時を護り続けてきた我が勤めるべき」と主張している為に、事が収まった後も尚、水を統べる神々の間ではどちらが海原の神に適任かという議論が続いているとのこと。因みにカイオーガが目覚めた理由は未だ解っておらず、当人も「魂が世にあるのだから時が経てば目を覚ますもの」といい加減な結論しか見出していないらしい。
一通り嵐の話を思い起こしたシャワーズは、しかし蟠りが残ったままであった。他にも何か、重大な話があった筈。俯いて考え込んでいたシャワーズハ一度顔を上げると、未だ泣き続けている生き物へと視線を移しながら絡まった糸を解いていく。

怒りに我を忘れた神々の争いを止めたのは同じく伝説に語り継がれているポケモンらしい。1人は空間を司るとされる伝説のポケモン、パルキア。見た目からではとても水の加護を受けているようには見えないが、水を司る神々の中では最高神と謳われる程である、列記とした水の神である。そして、伝説に登場しながら唯一神の称号を持たない、北風の生まれ変わりとされるポケモン、スイクン。だが伝説上での神という謂われがないだけで、今やスイクンは「湖の守護神」として多くのポケモンに崇められている。異空間からルギア達の争いを見ていたパルキアがスイクンを引き連れ乱入し、事を収めたのだという。
しかし、何故パルキアが飛び込んでいったのかシャワーズには引っ掛かっていた。パルキア達水の神々はあくまで水に関するものに危険が及んだ際に動くもの。今回の嵐により確かに海は荒れていたが、海に巣くう者達への危害は殆ど無かったという。荒れる海など日々経験している者達ならば、嵐の前に敏感に異変を察知してその場を離れる事も可能であろう。万が一巻き込まれたとしても海にいる以上溺れることは事はないし、陸地に打ち上げられた者がでたという話は全くもって無い。陸地への被害が甚大になれば、陸地の神々が対処を起こす為に大地が幾ら荒れようとも関係ない筈なのだ。本来ならば決着が着くまでやらせておいて、自分達でどちらが相応しいかを決めさせた方が神々としてはずっと効率がいいだろう。そういった、何分問題の無かった状況下で、何故パルキアは飛び込んでいったのか。
…生き物の姿を見ていたシャワーズは、その理由を漸く思い出した。そう、パルキアが飛び出していったのは、じきに「蒼海の王子」と謳われ深海の守護を務める者となり、空間の調整や創造主であるアルセウスらとの会議でパルキアが不在の際、代わりに水の神々の指揮を取ることを任され続けてきた神聖な種族、マナフィの卵が暴風によって行方知れずになってしまったから。パルキアは空間という、海原以上に膨大な領域を司るポケモン。その為実際は世界を支えているような、其方側の神であり、水の神々の話し合いに出てくる方が少ないという噂がある。いってしまえばマナフィこそが実質上の水の神々を統べる者といえるのだ。そのマナフィの跡継ぎの卵が消失したとなればただ事ではない。意地の張り合いでどちらが海の神が相応しいかなどとボカスカやりあっている場合ではないといえるだろう。一刻も早くマナフィを見つけなければならない、そんな理由で、パルキアは乱入したのであった。
そしてパルキアは、マナフィというポケモンの詳細を海を含む周囲一帯に流したのである。パルキア自身、空間を行き来すれば見つけられないことはなかったのだが、小さな卵もしくは動き回るマナフィを見つけるには時間が掛かってしまう。その間に空間の安定感が失われる可能性もないとは言い切れない。その為、パルキアは民の力に頼るという結論を出したのであった。既にマナフィは孵化が近かったという事で種族の詳細は厳密に伝えられた。…その情報は、今シャワーズの見る先でわんわんと泣き腫らしている、その生き物と全く一緒だったのである。

それを理解すると同時に、シャワーズは田面を飛び出し一目散にその生き物…マナフィへと駆け寄った。兎に角今は泣き止ませなければならない。そんな偉大なポケモンを泣かせてしまったという事実が誰かに知られれば、神々や宗教の教徒達に何をされるか解ったものではない。想像するだけでも恐ろしい。シャワーズは必死で、泣き続けるマナフィに声を掛けた。
「も、申し訳ありません!ほんの出来心でっ、あっ、あっ…泣かないで下さい!ほらっ、私はここにいますよっ!ねっ?」
マナフィの目の前に躍り出たシャワーズは前脚を持ち上げて左右に振り、自分がここにいることをアピールしてみせる。何とも不恰好な体勢だが焦ったシャワーズは気にも留めず、ただただマナフィを泣き止ませようと躍起になっていた。全身の鰭を動かしてみたり、跳ね過ぎて陸地に打ち上げられてのたうつコイキングの真似をしてみたりと、本来子供をあやす為の行動ではないであろう行為もシャワーズは厭わずやってのけた。
そんな必死の思いが届いたのか、マナフィは漸くシャワーズが目の前にいることに気が付くと、ぱっと嬉しそうな笑顔を見せた。つまりは、シャワーズの行動自体は全く見ていなかった訳だが。
「ふぃ!ふぃ!もどってきた!もどってきた〜!」
マナフィはすっかり泣き止んでいた。しきりに「戻ってきた」と繰り返しては、シャワーズの脚にぎゅうぎゅう抱きついて喜びを露にしている。そんな姿を見たシャワーズは辺りを見回した後、ほっと一安心する。取り敢えず最悪の状況だけは脱する事ができたようである。シャワーズはもう一度大きく溜息を吐くと、足元ではしゃいでいるマナフィを見下ろした。
…妙な感覚が心を擽る。先程も感じた、普段は経験する事の無い感覚。頬が火照り、視界がぼやける。…目が離せなくなる。
「ふぃ?どうしたの?」
「えっ…あっ、いやいや、何でもありませんっ…」
自分の事を見つめられていると気付いたマナフィは純粋さ故に抱いた疑問を首を傾げるという仕草で表しつつシャワーズと目を合わせる。ぽやっとしていたシャワーズはこちらをじっと見られていたと気が付くと余計に頬が熱くなるのを感じた。直視できなくなり、思わず目を逸らす。この挙動が何を示しているのかはシャワーズ自身既に解っていたのだが、そんな事が許される筈がないと同時にそれを否定する。これ以上失礼な態度を取る訳にはいかない…と、必死になって高鳴る鼓動を押さえつけようとする。そんなシャワーズの顔に、ぱしゃんと音を立てて水がひっかけられた。
「ひぁっ!?」
大した衝撃でもなかったというのに、驚いたシャワーズはびくりと身体を跳ね上がらせる。驚愕の表情のまま視線を下ろすと、悪戯っぽい笑顔でマナフィが此方を見上げていた。
「これで、ゆるすっ♪ふぃ、ふぃ!」
戻ってきたことに対して喜んでいるだけかと思えば、先程の事をちゃんと根に持っていたようだ。心底嬉しそうな顔で笑いながら、マナフィはまたシャワーズの脚に抱きつく。水をかけられきょとんとしていたシャワーズは、そんな幼い仕草に何となく、癒される気がした。
だが、そんな事を考えている場合ではないのだと、シャワーズの意識が脳をちくりと刺激する。はっとしたシャワーズは、これからどうすればいいのかを考え始める。パルキアは見つけ次第、マナフィと共に海へ来るようにと言っていた。恐らく護衛としての役割と、見つけた者に礼を使わすということなのだろう。もっとも、護衛がいたとしてもマナフィの後ろにはパルキア達神々の目がある為、こんな幼い姿を晒していようとも、マナフィに手を出そうなどという不逞の輩は殆どいないであろうが。
だが、シャワーズ自身には僅かながら戸惑いがあった。マナフィを連れて行くことにも、もてなしを受ける事にも何ら問題はないのだが…海に行く、ということにシャワーズは抵抗を感じていた。過去の事はもう忘れた筈だったのだが、やはりそれでも海に近付くことはシャワーズにとって勇気のいる行為なのであった。
しかしマナフィがいなくなったままではあちこちで大変な事になる。自分の都合のせいで他人が迷惑を被るのを無視出来るほど、シャワーズハふてぶてしい性格を持ち合わせていなかった。
一度大きく深呼吸をしてから、下ろしていた腰を上げる。先程と違い、大きな決意をその目に宿して。
「えーと…貴方は海に行きたいんでしたよね?私でよければお供しますよ」
そして、口を付いて出た言葉に思わずひっくり返りそうになる。本当はちゃんと事情を説明して、改めてお供させてもらおうと考えていたのだ。まるで事の重大さを隠すかのような言い回しに、心底自分の意志の弱さに呆れるばかりであった。だが、そんなシャワーズの意図など知るよしもなく、マナフィはまたしても、花が咲いたような笑顔を咲かせて笑って返した。
「ふぃ!ふぃ!うみ!うみ、かえる!いっしょ!」
単語を声高々に言いながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねるマナフィを見ていると、シャワーズは心の中の戸惑いが消えていくのを感じた。自然に笑顔になり、こっちまで楽しくなってくる。マナフィにはそういう面で、不思議な力があるのかもしれない…そう思いながら、シャワーズは優しくマナフィの頭を撫でた。
「じゃあ、これからよろしくです、えーと…マナフィさん、でいいですか…?」
「ふぃ…?まな?ふぃは、マナフィ?」
「えっあっ…ど、どうせなら名前で呼んだ方がいいですかね…」
「なま?」
マナフィの反応に、シャワーズは早速、面を喰らってしまった。まさか自分がマナフィであることも知らなかったとは思ってもみなかった。その上名前もないとなると、随分とやり難くなってしまう。シャワーズはマナフィの名前を考える事にした。
「あ、貴方って雄…ですよね?」
「おす?」
「種族も解らないのに性別が解るわけないですよね…」
名前を考えるに当たって、性別は結構重要である。男の子と知らずに「はなこ」なんて名前を付けられたくは無いであろう。しかし、自分のことを全く解らないマナフィには、自分が雌か雄かなど解る筈も無い。
…一瞬、確かめるという選択肢がシャワーズの脳裏をよぎり、またしても顔が真っ赤になってしまう。馬鹿げた考えを振り払うように首を振ると、シャワーズは性別に支障の出ないような名前を考え始めた。
マナフィという種族の特徴から何か思いつかないかと、シャワーズは考えを巡らす。その中で、マナフィは回遊ポケモンであるという事を思い出した。マナフィという種族は元々帰巣本能があり、長期に渡って海を回遊し自らの故郷へ帰るのだという。つまりは海を「巡る」ポケモンというわけだ。巡る…メグル…メグリ…。
「じゃ、じゃあ今から貴方の名前は&ruby(メグリ){巡};です。いいですか?」
考え付いて、何とも簡単な名前だと思ったのだが他に思いつきそうもなく、気が付くと既に口に出して確認していた。
「め、ぐり…?ふぃ、めぐり?」
「そ、そうですそうです、それが貴方の名前ですよ」
「ふぃ、ふぃ!めぐり!めぐり!」
しかしマナフィは嫌な顔ひとつせず、あっさりとその名前を受け入れてしまった。そんなことよりも、名前がもらえた事が余程嬉しかったのか何度も繰り返しその名を声に出しながらはしゃいでいた。
ほっとしたのもつかの間。マナフィ…メグリは、シャワーズの襟巻きのような鰭をくいくいと引っ張りながら、好奇心旺盛な瞳でシャワーズを見上げた。
「ふぃ、ふぃは?なまえ、ふぃのっ」
「え、もしかして私のこと…?」
実際何を言っているのかは解らなかったが、メグリのその目がそう語っていた。やはりメグリには相手と心を通わせる事が出来るのかもしれない…とシャワーズは改めて感じた。だがそれよりも、自分の名を言おうか言うまいか、シャワーズは迷っていた。自分の名前が決して嫌いなわけではない。しかし、今の自分にその名前を使う資格があるのか、シャワーズには解らなかった。
…一時の間の後、シャワーズは少し焦りを帯びた声で答えた。
「わ、私は&ruby(ミダレ){海垂};。ミダレです」
「みぃ?ふぃ!みー!めぐり、みー、いっしょ!」
「えぇ!?…ま、まぁ、好きなように呼んでくださっていいですけど…」
シャワーズ、ミダレがぼそぼそと聞き取りづらい声で言ったせいか、メグリには上手く聞き取れなかったらしい。楽しげにみーみーと連呼しているところを見ると、今から教えたところで解らないだろう。ミダレは溜息を吐いて苦笑いしてみせた。そんなミダレの苦労など解る筈も無いメグリは、徐にミダレの前脚をぺちぺちと叩いて満面の笑み。
「みー、うみ、いくー!ふぃふぃっ♪」
「え?あっ、ちょっと待ってくださいよっ」
メグリは一言海に行くと告げると、ミダレをおいて元気よく一本道を駆け出した。その考えの転換の早さに呆気にとられていたミダレは、走っていってしまったメグリを慌てて追いかけた。

ミダレとメグリの、長い旅の始まりだった。



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何か色々とすみませんorzつっこみどころ多すぎますね(汗)
ルギアとカイオーガの技の表現が微妙だったので一応表記しておきましたが…いかがだったでしょうか(汗)因みに敢えて注釈にしておりません。技名で注釈はなぁ…と思ったので。
そしてマナフィが酷いですね。ふぃふぃ言いすぎw何このコw名前もw喧しかったらすみませんorz
とりあえず、だらだら更新していきますのでよろしくお願いしますです~



批難などありましたら…


#pcomment(コメント/水沫の恋,,above);


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IP:122.133.169.59 TIME:"2013-04-05 (金) 04:11:09" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%B0%B4%E6%B2%AB%E3%81%AE%E6%81%8B" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Linux; U; Android 4.0.4; ja-jp; F-04E Build/V14R31C) AppleWebKit/534.30 (KHTML, like Gecko) Version/4.0 Mobile Safari/534.30"

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