作者 [[雪大福の部屋]] 館に入ったせいで私達は…。 ――――――――――――――――――――――――――――― もう、何年前のことだろうか。楽しかった私達の旅が突然の終わりを告げることとなったあの日は。 全てが崩落してしまったあの日は決して忘れることは無い。 全てを語ろう…。あの日の事を…。 そう。それは突然訪れた。私達は9人という大人数のメンバーで旅をしていた。時には複数に分かれ、それぞれの目標へと向かって行っていた。中には幼き者も…。皆の共通点は、一つの個体から複数の進化先があること。これだけ聞けば絞られるのは1つ。そう、イーブイの進化系だ。ある日の事、予想もしなかった大雨に、私達は雨宿りができるところはないかと探していた。私はシャワーズという事であり、濡れても平気だったのだが、他のメンバーがダメだということで求めている。しかし、場所が悪く、近くに村すらもない草原だった。木々も無く、木の傘による雨宿りすらもできなかった。そうやって運良く迷い込んだ家があった。高く見上げられそうな豪勢な建物…丸で貴族が住んでいるみたいな…。しかし、使われていないのか、ところところ、古い木材が見えている。私達はその建物の中へと入っていった。悪夢の始まりとも知らずに…。 「うっわぁ!!ひっろーい!」 外見で見た者は中身にも関係しているように貴族っぷりが見られる作りになっていた。ランプが灯るシャンデリアが私達を出迎えていた。近くに小さなテーブルがあり、タオルが重ねてあった。そのテーブルの立派だが、本当に古いのか、ところところに雨漏りがわかる所がある。が、気にするほどでもないぐらいであった。その中、やたらとはしゃいでいるのは、この旅で2番目の後輩。種族はニンフィアで、年齢的にも下から2番目のフィアだった。 「こらこら、はしゃぐな。子供じゃあるま…いや、子供か。」 その後ろでタオルを顔に当て、雨で濡れた髪を拭いている、やや呆れ口調で言うのはこの旅のリーダーであり、種族はサンダース。名前はフラシュ。ただ、皆には呼びにくい名前とされて、呼びやすく『サン』という名前で言われていた。サンには閃光と言う二つ名がつけられていた。光の如く敵を瞬殺する意味合いでつけられたらしい。…今はどうでもいいのかな。 「こ、子供じゃないもんっ!」 「へぇー。13のどこが子供じゃないのか聞きたいわねぇ。」 頬を膨らまし、怒り丸出しのフィアを冷酷な目で見つめるグレイシア。名はグレイ。名前は男らしいが、れっきとした女である。…が、C以上はありそうな胸…。これに私は嫉妬を抱いていた。仲あまり宜しくない…っと周りから見えるがグレイとの連携プレーは人一倍すごいと私は思う。その隣にいるのはグレイの双子の妹。種族はリーフィア…名前はフローラと言う。周りから見ればボクっ娘っと言う萌えポイントと兼ね揃えた女の子。双子の姉のグレイとは違い、Bにも満たなそうな胸である。それに私は親近感を覚えていた。って言うよりも大の仲良しとも言えるべきだろうか、そのぐらいの仲だった。性格も明るく、世話好きで周りから好かれるタイプである。 「そんな事よりも早く部屋を見つけようか、眠くて仕方ない。」 フラシュが周りを誘導して歩く。がしかし、1人は動こうとしない。 その1人はつるやかな赤髪。種族はブースターだ。 「どうした?フレイ。」 皆一斉にブースター…フレイの方を見やる。顎に手を添え、難しそうや顔をしていた。何か予期せぬことを勘づいているように私は見え、そう捉えていた。 「ここを出ようよ。」 彼は戦略に長けており、そのおかげて無傷に…っと言う経験も幾つかある。とても頭が回る者で、見ただけですぐに物や相手の見分けがつくぐらい。 「…何故?」 「おかしな点がいくつかあって…。」 ただ、彼には大きな弱点がある。 メンタルの弱さと極度の人見知りである事。初めて会った時は一言喋らないくらいであり、声をかけようとすれば猛ダッシュで逃げていく。喋れたとしても本の一言ぐらい。旅に連れて数ヶ月というところでやっと普通に喋れた。 「…やっぱいいや…。勘違いだったら嫌だし…。」 ほんの少しの間、シャンデリアを見つめる。それにつられ私も釣られてみてしまった。シャンデリアのランプは問題なく辺りを照らし続けていた。フレイは首を振り、離れていた距離をすっと縮めていった。再び歩き出した私達。館を一通り周り、部屋という部屋はいくつもあった。その内、寝室にできそうなものが5つから6つ…微妙に足りないが寝れる部屋があった。足りないところは2人組ににしようという提案が即決に採用され、争いもなく分担される。1組目はフィアと旅のメンバーの最年少であるイーブイ、名はイブ。とある森の1件の廃墟にただずんでいた少女。基本無口の冷静な性格である。両親も姉妹も無く、ずっと一人で廃墟にただずんでいた。引き取るような形で旅のメンバーに入れ、こうして共にいた。この子もフローラと同じくボクっ娘である。2組目は双子だ。これは即決に決まり、2人自身も意義なく首を縦に振った。3組目は…未だ紹介していないブラッキーとエーフィである。ブラッキーの方は好戦的な性格であり、戦いに関しては戦闘をきる。名前はムーン。一言一言冷たいが仲間思いであり、率先して仲間の事を考えてくれる。性格の割には本当に頭がいい。エーフィ…名をサイネと言う。ムーンの彼女であり、科学者。…の見習い。世界を見る為、共に旅することを決心して、今、旅のメンバーとしてここにいる。第2の理由はムーンに恋に落ちたとか。そんな理由で決まっていた。ひとまず決まり、既に皆は散らばっていた。1人残されていた私は空いてる寝室へと入る。…と思ったがフレイのところへと向かっていった。さっきの言いかけたことについてが気になるから。を理由にしよう。ドアのノックをし、フレイが出てくる。彼は笑顔で出迎えてくれて、寝室へと入れる。 「どうしたんだい?アクア。」 「言いかけたことについて気になってね。つい。」 ぷいっと少し顔をずらすように傾ける。 フレイはなんのことかわからないような顔をして、すぐに思い出したのかパッと表情が変わる。 「あー。あの事だね。」 「うん。教えてくれるの嬉しいなって思ってたりして。えへへ。」 「教えてあげるよ。まぁ…ただの勘だからね。違ってるのかもしれないけど。」 それでもいいよと言わんばかりに手を振る。彼は頷き、座っていたベッドの横を手で叩く。そこに私は座った。彼は静かに喋り出した。 「館に入ってまず疑問に思ったのは、シャンデリア。扉を開けて中を見た時既に明かりがついていた。」 「…あっ…そうだね…。ついてた。」 確かに今思えば疑問になる。けど、誰かいたのでは?っと考えが思いつく。 「僕自身も最初は誰かが住んでいるのかなと思ってたけど、その考えはあるものを見て完全に打ち消されてたよ。」 顎に手を当て、また難しそうな表情をする。 その隣からじっと見つめていた。 「家を回っても誰もいなかったってことさ。隅々まで部屋も残さず見て、誰もいないのに、ついているっておかしくない?」 「それもそうだね…。」 「後…入って近くにふわふわのタオル。真っ白で新品だったよね?」 「うん。…あっ。」 「多分疑問に思ったと思う。何故新品のタオルか。誰も住んでいないはずの館なのに。」 考えてみれば考えるほど疑問に思う。 明かりのついているシャンデリア…洗いたて…そして乾きたての様な新品のタオル。誰もいないはずのこの館。不気味に思って身震いをしてしまう。 「まっ、所詮は勘だからね。勘なんてものは大抵が外れさ。」 「…でも、その勘が当たったとしたら…?何が起こると思う?」 和らいでいたフレイの表情厳しくなる。 「…それは分からない。ただ、僕達に危険が及ぶってことは確かかもしれないね。」 それだけ言ってベッドに潜り込り、顔を枕に埋めるように押し付ける。 「あまり考えては明日に影響が出るよ。今日は寝て、明日に備えておくべきだ。」 寝息を立てて、すっかりと寝始めてしまった。寝たという状況を見て、私は部屋から出て行き、そして自分の寝泊まりする部屋へと進んでいく。その間にも刻々と魔の手がこちらに押し寄せていることを誰も知る余地はなかった。 ………………… ………… …… … 古い館の屋根上。そこに俺達は雨に濡れ浸っていた。 今見えるのは館の中へ慌てた様子で入っていく集団だ。旅の者なのだろうか。それにしても2桁並みの大人数である。 「大量大量っと。今日は絶好の日和だぜ。」 弾んだ口調。屋根上から下をじっと見る。種族はガブリアスであり、名前はリアスと言う。種族名からそのままとった様な名前だが、悪くは無い。 「…こんな大人数ではやられるかもしれない。」 「なぁに、心配すんな。的確に一人一人殺るからよォ…。」 不気味に思える顔をこちらに向けてくる。その顔を数秒間見ただけでも相当な吐き気がしてきた…が、ここは耐えるしかあるまい。 「おめぇも手持ちの道具の手入れとかしろよなぁ。」 不気味だった表情が通常に戻り、自分の手の中にしまい込んでいる刃物の手入れを始める。こいつの話によればほぼ毎日器用にやっているらしく、その証拠に真っ暗闇にも関わらず、微かな光だけでも反射する。 「お前は何のためにこんな事をする。」 「そうだなぁ…快楽とスリルかもしれないなァ。それに、何かと調達しなければならないしなァ。」 「そんなくだらないことに俺は付き合わされてるのか。死んだ方がマシだな。」 吐き捨てるようなセリフを言う。実をいえば、俺も旅の者だった。仲間もいた。だが、全てぶち壊された。…語るのはよそう。だるいしめんどい。 「死んだ方がマシねぇ…。会わせてやっても構わないんだぜぇ?あの時のやつと同じようにじわりと…ゆっくり痛みを味合わせながらなァ…。」 再び不気味な表情を向ける。次は吐き気よりも怒りの方が湧いたらしく、同じ刃物を喉仏目かけて突きにかかっていた。だが、相手は刃物の腹で受け止める。 「いいねぇその顔!大切な者を殺った時のと同じだなァ!」 「黙れっ!腐れ脳が!」 やたら高い笑い声が聞こえてくる。笑っているのは目の前のやつだと分かってるのに遠く聞こえる。あの時を思い出してしまいそうで怖い。醜い俺が見えてしまいそうで怖い。…弱い俺が…怖い…。 「フヒヒ…そうこうしている内にもう寝てるだろーな。さっさと殺りに行くぞ。サドラー。」 ばさりと屋根から飛び降りていく。 「ちっ…。てめぇをいつか殺す…!」 吐きゼリフを言い、俺も屋根から飛び降りる。 地面に着地するところで細い羽を背中から生えるようにだし、衝撃を無くしながら地面に足をつける。リアスは既に仕事をしているようだ。入口の扉にカンヌキを入れていた。 「これで準備は出来た。まずは赤髪から殺る。」 「何故だ。」 「あんたと言い争い中にどーやら違和感を悟ったらしいな。確信を持つ前に殺るぞ。」 そう言って館の壁を器用につたり、2階へと登る。やりたくないのにやらなければならない。やつの快楽とスリルの為に…。黒い雲と闇に覆われた空を一瞬だけ覗くように見上げ、後を追いかけた。 … …… ………… ……………… ガチャリ…。 その音が聞こえてフレイは目を覚ます。部屋の明かりは暗いままだが、明らかに寒く感じていた。ふと、窓の方を見れば、開いているようでそこから風が入ってきていた。 「あれ…?閉めたはずなのに…ちゃんと閉めてなかったのかな。」 そう呟き、窓を閉めて、鍵をかける。 何も無かったかのようにベッドへ潜り込もうとしていた時、空気の違和感を感じたのか周りを見渡す。 「誰かいるの…?」 喋ってみるが反応はない。気のせいと思い、再びベッドへ入ろうとする。 その途端に視界は遮され、口は閉ざされる。 「んんっ…!?」 「いるよぉ…。」 不気味すぎる声。フレイは咄嗟の判断で塞いでいた手の指を噛む、痛みに気が向いた一瞬を見逃さず、足を横に薙ぎ払い、地面に倒し、上から押さえつけるように乗りかかる。 「誰だ…。」 「ひっひっ。聞いたって無駄だろうよォ。もう時期死ぬからなァ。」 パニクった様子を見せず、余裕を見せていた。 「押さえつけられていてよく言えるね。」 「だってよォ…。」 後ろからした物音に瞬時に振り向いた。目の前に見知らぬ男性が刃物を持って迫っていた。 「俺一人じゃないからなァ!!!」 … …… 悲鳴が聞こえそれで目が覚め、何事かと思い、慌てて部屋を出る。既に私以外の者が部屋から出ていた。 「さっきの悲鳴は何…?」 悲鳴を聞いて怯えているフィアを宥めるような体制を取りながら声のした方向を向くグレイ。フローラは部屋で毛布にくるまって怯えているらしい。ムーンとサイネは立ちぼうけていた。フラシュは首を横に振る。 「わからない…ただこの悲鳴は…。」 やや駆け足で走っていく。何事かと思い、私自身も後を付いていく。 フラシュが止まったところはひとつの扉の前。 「ここからだな。」 それはフレイの部屋の前だった。フラシュは引きつった顔をしており、ドアノブに手をかける。怯えているのか自然にフラシュの体に私の体を近づけていた。フラシュが私を見てこくりと頷くと、ドアノブを回し、音を立てながら一気に開く。 「…っ…!?」 目の前にまず見えたのは壁一面、床一面にコップに注いでいた水が零れたかのように見えている赤い液体。フレイの姿が見当たらず、ただ持ち物が散らかっていた。 「フレイ…フレイは…?」 私はフラシュに問う。フラシュは何も答えない。っと言うよりも答えが見つからないでいたように見える。突然の光景に脳の回転が間に合っていないようだ。 「少なくとも。」 後から来たムーンが誰にも見せられないような赤い液体だらけ部屋に入る。 「悲鳴から考えるにこれは血だ。」 私達の方に向き、両手を広げ、立証しているかのように見せている。いや、実際に立証しているのかもしれない。 「それに…。」 ムーンは何かを指で掴む。それはそれは何とものグロい…。 赤い液体に浸って、なお浴びたかのように真っ赤になっていた、手首より下がない手だったからだ。 「ひっ…」 「怯えるのも無理はないだろうよ。手なのだからな。」 ムーンは鼻の近くに手を持ってきさせ、臭いを嗅ぐ。 野生児の血を持っている的な事を話していた上に血の匂いで誰なのかを判定できる。そういうスキルみたいなのを兼ね揃えていた。 「…フレイだな。この手は。」 「…え?」 「フレイだ。」 真面目な顔で、こちらに向けてきた時、第二の悲鳴が聞こえた。 それにずく様反応したフラシュは光のごとく走り出す。来たのはグレイとフローラがいた部屋。今はフローラしかいない。フラシュはドアを蹴り開ける。 「フローラ!」 フローラは何者かに引っ張られている様子だった。ベッドの柱に掴まり、引きずられないようにしている。フローラの足を先をたどるとひとつの穴があった。 「サンっ!助けてっ!」 サンは穴めかけて技を放とうとした時、別の方向から技が吹っ飛んできた。それをモロにくらい、吹き飛ばされる。必死に耐え抜いていたフローラに疲れが生じていた。後から追いついてきたグレイは1目で状況を判断しフローラの腕を掴み、引っ張っていた。フラシュはすぐさま立ち上がり、被弾した方向を見やる。そこには黒い布を被せた長身の何者かが立っていた。 「誰だ!」 長身の者は無言のまま。後から交流してきた私達は臨時の戦闘態勢をとる。サイネはグレイと共にフローラの救出へと向かっていっていた。長身の者は無言のまま、フラシュに向けて一気に攻めかかる。間を詰め、キラリと輝く刃物を横振りに切りかかる。それを難なく回避した。その回避先にムーンはシャドーボールを飛ばす。見事に被弾したが、怯む様子は見せず、反撃を仕掛けてきた。ビーム型の技を繰り出し、ムーンは回避する、そこにフラシュはボルトチェンジで突進を仕掛けるが腹に猛烈な蹴りを繰り出し、さっきよりも遠くへと吹き飛ばす。私はハイトロポンプで一気に攻め落とそうとするが、難なく回避され、ビーム型の技をモロでくらい、大きく怯む。その状態の私の頭を掴み、壁にめり込ませるように頭部を当てる。その衝撃で倒れた。シャドーグローで近接戦を持ち込もうとしたムーンだが、横ステップでかわされ首の後ろを思いっ切りぶっ叩かれる。そのまま地面へと倒れ込み、動かない。気絶している様だ。 「…雑魚だったな。」 長身の者はグレイとサイネに近づく。グレイはそれに気づき、戦闘態勢を取ろうとしたところで先手を取られ、撃破された。サイネは後ろからムーンの同じように首の後ろを叩かれ、気絶する。 「や、やめて…。何をする気…?」 長身の者は刃物を向け、そして振り上げる。 「やだ…ボクは死にたくないよ…。助けて…。助けてお姉ちゃん…。」 涙目で助けを求める。体力という体力を使い果たしているフローラの手を柱から離すことは用意である。 「フローラっ!」 「フローラっ!」 グレイが叫び、手を伸ばすのと、刃物が振り下げられるのとほぼ同時だった。刃物はフローラの手を深く切り、フローラは痛みで思わず離してしまう。ズルズルと引き込まれていくフローラにグレイは痛みを忘れフローラの腕に掴む。 「お姉ちゃんっ…!」 「離さない…!助ける…!」 垂れていく血が、手を少しずつ手を滑らせていく。次第に掴まっている部分が五本指の先だけだった。 「お姉ちゃん…嫌…死にたくない…。」 「死なせないっ…!」 護身の力で引っ張っていく。…が、血で手が滑り、すり抜けるように離れていく。フローラの体は勢いよく、穴の中へと吸い込まれていく。 「嫌っ!嫌ァァァ!!」 悲鳴を出しながら穴の中へと吸い込まれて行ったフローラ。フローラの声が聞こえた後に穴の中から吹き出る血と何かをむしる音が聞こえてくる。その他にも物を飲み込んでいく音が聞こえてきた。助けようとしていたグレイそのまま固まっていた。 「あ…あぁ…。」 後ろの足音に気づき、グレイは恐る恐る振り向く。そこには先程と同じように刃物を振り上げている長身の者がいた。グレイは目から涙を零し、死を拒むように後退りをする。 「ムーンフォースっ!」 技名を叫ぶ声が聞こえた後、桃色の球体が長身の者にぶつかり、そして小さな爆発を起こす。長身の者は舌打ちの後、後ろを振り向く。せーはと疲れた様子で息を荒くしているフィアがいた。長身の者は一瞬固まった後、部屋から飛び出し、逃げていく。 「間に合ってよかった…。グレイ…大丈夫…?」 「フローラが…フローラがぁ…。」 フィアの体にしがみつき、大声で泣き始める。吹き飛ばされていたフラシュが息切れをしながら元の場所へと戻った。フラシュはグレイの様子を見て、状況を判断した。 「クソっ!!」 壁にヒビが入る勢いで叩く。 「俺がもう少し強ければっ!クソっ!!クソォォォ!!!」 「サン。自分を責めないで。まだ…まだ生きている者がいるんだ。今は生きることに専念しよう。」 フィアは落ち着いた様子で話す。その事にフラシュは言おうとしたが、フィアの頬に涙のあとがあることに気づき、口を固く閉じる。その後、気づいたのはいつだろうか。ただまだ夜深い時間帯ってことはわかる。グレイが泣いているということ、それと私の隣に気絶しているムーンとサイネの二人がいた。 「ここは…?」 「今使っている俺の部屋だ。奇跡的に傷ついていないこの部屋なら大丈夫だろう。」 扉に背中を預け、胸のあたりで腕を組んでいるフラシュがいた。いつもの穏やかな顔は消え、険しい表情が見て取れる。フィアは窓の外をじっと眺めていた。 「…フローラは?」 私が問い立てても誰も返答はしない。グレイの状況を見ただけで確信とは言えないが、結果はつき、皆に問いかけることによって本当の確信へとなっていた 「…聞いた私が悪かったよ…。」 大人しく引き下がり、体を毛布にくるめる。 「ここから脱出しないと。」 「そうだな。ムーンとサイネが起きたら行くとしようか。」 二人は冷静だった。…いや、冷静を『装って』いるのかもしれない。大切な仲間を失った悲しみがないわけがない。それは誰だって一緒だ。私だってフレイやフローラがいなくなって悲しい。寂しい。グレイのように泣いてしまいそうだけど耐えなければいけない。あの二人の為にもここから脱出しないといけないと思ったからだ。私は部屋を一通り見渡す。 「…あれ?」 「どうした…?」 「イブは?」 『イブは?』という言葉にグレイとフィアは即座に反応する。表情はどちらとも変わってないにせよ、緊迫している空気は変わりない。グレイはそっと立ち上がり、扉の前にいるフラシュの近くまで来た。 「どこへ行く気だ。」 「…そんなの決まってるじゃない。イブを探しに行くわ。」 グレイのその目は本気の目だった。ただ、フラシュは譲ろうとしない。彼の目は何かに怯えているような彼じゃない様子をしていた。 「今出たら危険だ。アイツらがいるかも知れない…。」 「だからといってイブを見捨てるわけには行かない!」 「俺だって大切な仲間をこれ以上失いたくない!」 互いに高く声を上げる。グレイは歯を食いしばり、フラシュは額から顔を覆うような形で手のひらを置く。 「俺だってイブの状態が気になる…だからって俺の判断でお前たちを死なせるわけにはいかないんだ…。」 若干…僅かだけど涙混じりの声になっている。私はそっと顔を背け、2人の顔を見ないようにした。 「なら…自己判断なら文句はないってことね…?」 私のすぐ横からふと声がした。バサりと言う音と共に起き上がったのはサイネだった。彼女の目はフラシュの方へ向いている。鋭い、睨みつけるような目を。 「…まさかお前…。」 「『自己判断』でイブを探しに行くわ。私達も子供とは言えど、あの子はまだ本当に幼い子供よ。放っておけないわ。」 フラシュのサイコキネシスで退かし、ドアノブに手をかける。 「待って!あたしも行く!」 グレイがサイネの腕を掴み、声を紅潮させながら言う。それに続いてフィアも「私も行くよ。」っとグレイが掴んでいる腕をフィアも掴む。 「…命の保証は無いよ。タフなムーンやシャルルが一瞬でやられていたからね。」 「それでも行くわ。これ以上、仲間を減らさないためにも。」 「私も同意見さ。命の保証は無いって分かり切っている。それでも行く。」 サイネは2人の顔を確認すると、コクりと頷く。 「…待て…。」 またしても声がする。今度はムーンが目を覚ました。目は瞑っているままだが、様子を見る限り、大丈夫そうだ。 「俺も行く。男手が必要だろ…?それに瞬殺されたのは俺の隙から生まれたミスだ。自分のミスは自分でなんとかしたいからな。ついて行かせてもらう。」 寝ていたベッドから起き、サイネの元へと向かっていく。これで4人。生存率は高くなるがそれでも心配になっていく。 「わ、私も行く。」 だから私自体も行く事にした。もし、襲われたとして返り討ちにできるかもしれないっと単純だがそう思いついたからだ。 「…残るはサンだけ。ついて行くか、ついて行かないかは自己判断で頼むよ。」 それだけ言って一斉に部屋から出る。ふと、出ていく時、フラシュの顔を覗いた。彼の顔は髪のせいであまり見えなかったが歯を食いしばって何かを悔しがっているのだけはわかった。そして部屋は閉ざされた。 「イブの部屋はどこだっけ?」 「イブと一緒だったから分かるよ。ついてきて。」 フィアを戦闘にあとに続く。最後尾…集団の後ろに男手としてムーンがいた。 「襲ってきた相手…まともに戦って勝てると思う?」 後ろを振り向かず、前を向きながらサイネが口を開く。 「…恐らく難しいだろう。それはシャルルも思っただろ?」 「え、えぇ…。一撃が重すぎるよ…。下手すればあそこで私も死んでたかもしれない…。」 軽く頭を抑え込む。思いっきり頭を壁に当てられた時の痛みが未だに残っている…っと言うよりも激痛にも近い痛みを放っていた。 「アクアの言う通りだ。一撃が重すぎる。俺が耐えたとして限度は二撃三撃ぐらいだろうな。」 ムーンで二撃三撃ならば他は一撃でダウンだろう。下手すれば即死かもしれない。とにかく相手は馬鹿みたいに強い。それに戦ってみて感じたのが手慣れていることだ。私達の前に何十人…何組とも相手していたのだろうか。 「もうすぐよ。…部屋は閉めているはずだけど…。」 口元に手を添えながら言う。そうしているうちにひとつの扉がみえてきた。廊下から部屋へと扉が空いている。 「…開いてる…?…!イブ!!」 開いていることに違和感とそして、嫌な気配を感じとり、部屋の中へとフィアは駆け込む。部屋は酷い惨状だった。家具という家具は壊され、辺りには血だらけだった。半分壊れているベッドに寄りかかって倒れていたのは血だらけのイブだった。目は閉じてあり、口からは血が垂れて、目からは血混じりの涙が出ていた。腹部には深い切り傷があり、他にも切られていたところが少なからずあった。 「イブ!イブっ!」 フィアは自分の体に血が付く事を恐れずイブを抱きしめる。フィアが感じ取ったイブの体温は無かった。ただただ冷たかった。 「ごめんね…ごめんねぇ…。私が置いていったばかりに…うぅ…。」 あとから入ってきた私達はただその様子を見るしかなかった。私の隣にいたグレイはまた泣きそうな目をしている。それを宥めるように優しくサイネがグレイを抱きしめる。フィアはもう既に目から涙が溢れだし、声を上げて泣いていた。ムーンは周りの様子を伺い、異変がないか調べていた。ただ、体が震えているのを目視できたから涙をこらえるために様子を伺っているのかもしれない。 「…もう…行こう。嫌な予感がする。」 ムーンの忠告にフィアは首を横に振る。 「…ここに長居しては危険だ…。」 「分かってる…分かっているけどぉ…。」 フィアはイブから離れたくないようだった。それもそのはず…フィアはイブを妹のように大切にしていたから。イブもフィアに懐いていて、『お姉ちゃん』と言うまでの仲だった。そんなイブを無くして悲しいわけがない。 「…無くなったものは二度と戻らない。」 「イブを…見捨てろと言うの…?」 「…そうだ。」 ムーンはグレイの方は一切向かず、背中を向けながら言う。仲間思いのムーンがこんな事一切言わない。 「…所詮は悪タイプ…。だから仲間思いのムーンでもそんなこと言えるんでしょ…!」 ムーンの背中越しから睨みつける。睨みつけているフィアの顔は今まで見たことが無かった。険しい表情が見て取れる。 「…俺だって、ホントはこんなこと言いたくねぇよ。だけどよ、生きる為に見捨てる事だって…人生必要なんだ…!」 身体を震わせ、握り拳を作っている。ポロリポロリと涙が零れていくのが見えた。 「…イブの分まで生きればいいと思う。あの時聞いたイブの願いをフィアが代わりに叶えればいいと思うわ。」 「あの時の…願い…。」 あの時の願い…イブが旅の仲間になって間もない頃の話…。空に輝く星の下で、イブが話した願い事…。 ……………… ……… …… … 「さっきの街で泊まれば良かったのにぃ…。」 フィアが頬を膨らませながら、怒っている様子を見せる。イブと出会ったのは何の変哲もない普通の森の中だった。木々の間から月の光が明るく差し込む。それに照らされ一行は森の中を歩いていた。 「全く…その通り。誰よ、日が暮れる前には森を抜けるから行こうって言ったの。」 グレイに鋭い目線を向けられ、フラシュは「げっ…」っと言わんばかりの反応を見せる。確かにそう言ったのはフラシュだ。 「ただ、それに賛成したボクらも悪いと思うよ…?」 グレイに寄り添っていたフローラは目をハチハチされながら言う。グレイはフローラに目線をやり、一行の一部もフローラに向けていた。 「まぁ、確かに私たちも悪いと思うけれども…。」 言葉が返せなく、目線をフローラからずらす。フラシュはホッと息を吐いていた。 「でも、言い出しっぺのサンが悪いのは変わりないからね!!反省してよね!」 「へ、へぇい…。」 今度はため息を含めた息を吐く。 「た、たまには照らされながら歩く森も悪くは無いと思うよ…?」 フラシュの味方につくわけでも無いが、フォローという形で私も助けるように話す。ムーンはコクリコクリと頷く、ムーンの種族はブラッキーで月光ポケモンと言われている。だから、私の言ったことに頷いたのだろう。 「私は明るい方が好きだけどね。」 サイネが割あって言う。それにフローラは頷いた。フローラの体は植物に似たようなもので太陽に照らされると光合成を勝手に行い、酸素を生成する。彼女の周りはいつも新鮮な空気で保たれる。夜になると他の者と同じく呼吸を行うから二酸化炭素を出す。彼女にとって新鮮な空気が良いからサイネの意見に頷いたのだろう。 「…どちらにせよ、遭難したら元の子もないけどね。」 フラシュの隣を歩いていたフレイが言う。フレイの何気に放ったこの言葉で周りは少し凍りついた。確かに遭難は生死に関わる。なんせ、今歩いている道は舗装すらもされていない道だ。ちゃんとしたルートはあるのだがらこれまたフラシュの意見でショートカットをすることになっていた。だから舗装されていない道を歩いていたのだ。 「…今日はここでもうテントを立てましょ。」 「えぇ。あたしも賛成だわ。」 「ボクも異論なし。」 サイネが言った言葉にグレイ、フローラの順に肯定の言葉を述べる。 「…ん?」 ムーンが目を細め、1つの方を見やる。それに釣られ、皆もその一方を覗くと、ひとつの一軒家があった。 「あそこ…家だな。」 「丁度いいわ。お願いして泊めてもらいましょ。」 「男性相手ならボクとお姉ちゃんなら得意だよっ!」 グレイとフローラは家の方へと向かう。あの二人は売春の経験がある身…らしい。私も詳しくないからわからないけど、とにかく非処女ということらしい。少し時間が経った頃、2人はせっせと戻ってきた。一人の女の子と共に。 「この子以外誰もいなかったよー?それに、奥にあった家…すんごくボロボロだった〜。」 「フローラの言う通り、確かに古びてたわ。廃墟並みぐらいよ。」 じゃあ、何故その廃墟に女の子が…?私の一番の疑問はそれだ。なぜこんな森の中の廃墟なんかに幼女がいたのか…。 「その女の子は?」 「廃墟の中にいた子だよ。ポツンって1人座ってたよ。」 改めて幼女を見る。服がところところ破けており、ボロボロの状態に肌も薄汚れていた。髪だけは整われていたもののあまり綺麗とは言えなかった。 「今回は廃墟ので1泊するとしましょ。」 サイネが廃墟の中へと進んでいく。それについて行くように私達もあとを追いかける。廃墟の中はフローラの言う通りボロボロだ。実際廃墟を見るのは初めてのことだが。床が一部抜けているところがあり、天井は壊れて二階が見え、そして空が見えている。この家に置いてあったと思うであろう家具は破壊されたが如く、倒れて使えないものへとなっていた。 「廃墟ってこんなにボロボロなんだー…。」 「廃墟を見るのは初めてかしら?私は何度か見てきた経験はあるけど。」 「私は見たことないんだ。」 しばらく中を探索する。ギシギシと音を鳴らし、今にでも崩れそうな雰囲気を醸し出している。一通り回って戻ってくる。 「本当にボロボロなんだねー。今にでも壊れてしまいそうだよー。」 「なんでこんなところにこの子が?」 全員、幼女を見る。少女は微動だにせず、こちらを見つめるばかりだ。 「何故、君はここに?」 幼女は喋らない。無口な性格かもしれない。 「…名前は?」 「…。」 やはり幼女は喋らない。これでは…ちょっと頭を悩ませてしまう。 「…無い。」 「ふぇ?」 いきなり幼女から発せられた声。可愛らしく、そして透き通ってる。 「ボク…名前なんてない…。」 一人称がボク。フローラと同じだ。…だけど、名前が無いとはどういうことだろうか。 「…捨てられた…?」 「…物心着く前に…だろうね。…ただ、生きる術は自然に身についてたようだけど。」 フレイがマジマジと見つめながら言う。 「…だろうね。服の汚れとか破け具合とか見て僕もそう思う。」 確かに服の破け方が擦り切れたのではなく、切り開かれたような切り方になっている。それに服も泥と言い、汚れに汚れていた。言葉も自然に身についてるのだろう。 「貴方達は誰…?」 首をかしげながら言う。 「俺達は旅の者だ。」 「旅の者…?」 幼女は首を傾げる。やはり、知識が少し欠けているようだ。 「あぁ。簡単に言えば家を出ていろんな所へ行くということだな。一種の旅行と考えた方が手っ取り早いかもしれない。」 説明はするが、やはり首を傾げる。 「…うーん。…説明しようが無いな。」 「こっちを見つめて言うのも困るのぉ…。フラシュ…。」 すまんと言わんばかりにふぅっと息を吐き、幼女に向き変える。 隣ではフローラが私とフラシュを交互に見つめる。 「…はは〜ん…。」 意味深しげな声を出す。 何か悟ったような雰囲気だ。 「…な、なんだよ。」 「なるほどね。うんうん。あっ、なんでもないよ。」 若干遅れて返事をする。…もしかして…。いや、違うだろう。 もしそうだとしても違うといえばいいし。問題は無いよね。うん。 「…取り敢えず、どうする?この子。」 フラシュに問う。けど、彼は首を傾げる。考えているフラシュがなんかかっこよく見えた。 「どうすると言われてもなぁ…。本当にどうしようか俺も悩んでいるところなんだが。」 「だよねぇ…。」 「その前に私は泊まりたいんだけど…。」 おすおすと手を挙げて主張するフィア。確かにもう外は真っ暗。薄らかと月の光で皆の姿が見えている感じだ。 「…今日はここにしよう。テントを張る手間が省ける。」 「そうだね。僕も賛成だよ。アクアも賛成だよね?」 「う、うん。」 「ボクもお姉ちゃんも異論はないよ。」 「私とムーンも異論は無い。」 それぞれ異論は無いと確認を取る。 フラシュはこくりと頷き、幼女に目を向ける。 「今日はここにいさせてもらってもいいか?」 幼女は縦に頷いた。 「いいよ。悪い人じゃなさそうだし。」 ありがとうと一言言う。皆はほっと一息つく。 「ねぇ、近くに湖とかある?」 「みず…うみ…?」 フィアが聞くが、首をかしげながら逆に聞かれた。どうやら湖の事も知らないようだ。ほんの少しの知識しかないみたいだった。 「お水がいっぱい溜まっているところ。」 フィアがわかりやすく言うと幼女はわかったかのように笑顔になる。 「あるよ。着いてきて。」 フィアは幼女の後ろからついてくる。 「…女子は水浴びでも行ってな。男子で食料を集めてくるからさ。」 ムーンの提案に皆が頷く。フィアは既について行っていないが。 「水浴び〜!お姉ちゃん行こー!」 フローラはグレイの手を取り、駆け足でフィアのあとをついていく。 「ちょっ!引っ張らないでっ!ちぎれるからぁぁ!!」 グレイの悲鳴がだんだんと遠のいていく。サイネと私は苦笑いだけし、あとをついていった。ふと、振り向くとフラシュ達は話し合っていた。恐らく食料回収の役割分担だろう。私は気にせず前だけ向いて早歩きでついていった。 草をかき分けてたどり着いた先はまさに幻想的だった。 丸でくり抜かれたかのように空を見あげれば月が私達を照らし、月の光で湖は光り輝いて美しさを出していた。 「綺麗…。」 私は思わずそう呟く。あまりにも美しすぎて見とれてしまう。 「…後でサンを誘えばどう?」 耳元で囁かれて思わず声を上げて驚く。声の主を見ようと顔を振り向かせたその先にはフローラが悪戯を仕掛け、成功して喜んでいるような表情をしていた。その後ろでグレイはぜぇぜぇと声を荒らげて疲れていた。 「な、な、な、何をっ!?」 「何もこうも誘えばって言っただけだよー?」 「な、なんでよ。誘う理由が無いじゃない。」 フローラはニコニコと笑っている。もしかしてだけど…本当にもしかしてだけどバレてるのでは? 「…好きなんでしょ?サンが。」 「なーー!?」 バレてたー!?なんでよ!?なんでバレるのよっ!? 「前々から疑問に思ってたのねー。呼び名だってさ、みんなあだ名で言ってるのに、アクアだけ本名で言ってるしー。やたらサンの方を見るしー。ベタベタしてるように見えるしー。」 ベラベラと喋っていく。羞恥心で顔が真っ赤になっていく。 そんなにもフラシュと一緒にいたのが長かったのかと…。 「…ち、違うもん…。私…す、好きなんかじゃ…「えー?嘘つきー。これ見てみー。」」 2枚の写真を見せる。私がフラシュに抱きしめている姿の写真だ。 もう1枚は寝ているフラシュに…。えぇぇ!? 「こ、これ…何処で…!?」 「いつだっけなぁ…。まだ四人旅の時、どっかの街の大きい宿で泊まってた時の写真。」 「あ…ああ…。」 「これで言い逃れはできないよー?」 「ふぇ…」 「フローラ、早く入ろう。冷たくて気持ちいいよー。」 少しムスッくれた顔をしたがすぐに笑顔になって、はーいだけ言う。 「とにかく!1週間以内に本音を言わないとバラすからね!」 それだけ言って、グレイのところへ行く。着ていた服を全て脱ぎ捨て、湖へダイブしていく。1回ため息を出すし、私も湖へ向かい、服を脱いでダイブしていく。 「…いい水だね。浄水すれば飲水にもなりそう。」 フローラ達の方を向く。奥でフローラとフィアがきゃっきゃっとはしゃいでいた。グレイと幼女は静かに湖に浸かっていた。 「…そういえばタオルは…?」 「「「あっ…」」」 皆一斉にポカーンとなる。もしかして…全員持ってきてない…? 「…今なら男子いないはず…。」 「そうね…。誰か全員分取りに行って欲しいところね…。」 「わ、私は行きたくない…。」 怯えた口調で行きたくないと主張する。他の者達も行きたくないと主張した。残るのは私だけになった。 「アクア…行ってくれるね?」 フローラがニヤけた顔をする。 「行きたくな「行かないとみんなにばらまくよ。」」 「うっ…。」 更ににやけている。今にでも取りに行ける体制をとっている。 「行きます…。行きますからぁ…。」 渋々と湖から出ようとする。…がグレイに止められた。 「フローラ。あなたが行きなさい。」 「な、なんでー!?」 「…どんな秘密を持ってるかは分からないけど、脅すのは良くないわ。信頼に害する行為よ。…罰をとしてあなたが行きなさい。」 「…うっ…。分かったよぅ…。」 私と同じく渋々と湖から出る。何も着てないまま、せっせとタオルを取りに行った。草をかき分け、来た道を戻る。 「…いないよね…。絶対にいない…。」 涙目で道を歩いていく。 ―うぅ…。お姉ちゃん酷い… っと心の中で思いながら、しょんぼりしながら歩いていく。 たどり着いたのは無人の廃墟。フローラはふっと安心の吐息を出し、中へと入り込む。せっせと女性陣のタオルを取り出す。 「よかったぁ…。いないいない。」 っと完全に安心した様子で廃墟から出たその都度、目の前に木の実を腕いっぱいに持ったフレイがいた。 「…フロー…ラ…?」 互いに硬直している中、フローラは怯えた様子で一歩たじろぐ。 その次の瞬間。 「き、きゃああああああああ!!!!」 大きな悲鳴とだし、フレイの頬に平手打ちをした後、泣いてその場から離れていく。 「いてて…。」 「ふぇぇぇん!!お姉ちゃぁぁん!!」 タオルを岩に投げ、フローラは湖へとダイブしていく。 「…どうした?」 「もう…お嫁いけない…。えぐっ…。」 「み、見つかったんだね…。可哀想に…。」 フィアが呟く。フローラを宥めているグレイ以外の他のメンバーはただ、苦笑いをするしかなかった。唯一あの幼女だけは首をかしげていた。 「大丈夫?」 っとだけ、フローラに呟き、頭を撫でる。フローラは横に首を振り、泣きすすりをしている。 「タイミングが悪かっただけよ?もう忘れて水浴びでもしましょ?」 「うん…。」 フローラはフィアと共に水浴びを再開する。きゃっきゃっと水を掻き立てる音を鳴らしながら騒ぎ立て、まるで事がなかったかのような雰囲気をしていた。 「…私、潜ってるね。今は浅瀬だけど、深いところがあるかもしれないし。」 「そうね。安全な場所の確認をしなくちゃ。よろしく頼むね。アクア。」 私は頷き、少し離れたところで潜り込む。潜り続け、深そうな大きな穴を見つけ早いスピードで進んでいき潜っていく。シャワーズである私は酸素など関係ない。水の中で延々と過ごすことが出来る種族。これは水タイプ全体に言えることだ。 「深いなぁ…。」 潜っていく程、月の光が届かなくなっていく。やがては真っ暗な闇の世界となり、何も見えない。聞こえてくるのは水をかき分ける音、ただそれだけだ。 「どこまで続いているんだか…。」 数十分にも渡る長時間の潜水。流石にこれ以上もぐり続けていたら他の皆も心配するし、置いてかれてたとしたらもっと最悪だ。それにフローラの事だ。何をしでかすかはわからないが、大変なことをしでかすのには変わらないだろう。 私真逆の方向…、水面目指して再び泳ぎ出す。 だんだんと月の光が差し込んでいく。 「ぶはっ…。」 水面から顔を出し、大きく酸素を吸い込む。 周りを見渡す。フローラやグレイ、フィアがちゃんといた。寧ろ、元気にはしゃいでいる。 「あっ、アクア。危険なとこ見つけた?」 「うん。丁度私が今いるところ。相当深かったよ。そこまでたどり着けなかったし。」 「そうなのね。ありがと。そこだけかしら?」 「うん。簡単に見渡しただけだけど、ここだけだったね。」 遠くで水が弾くような音が聞こえる。二人で見てみると、幼女を含む3人が湖から上がっていた。 「お姉ちゃん!アクア!そろそろあがろー!」 すっかり元気を取り戻したフローラが、グレイと私を手招きで呼ぶ。 「そうね。出ましょ。アクア。」 私は縦に頷き、泳いで湖から出ていく。皆、水に濡れ、そして月の光で体についている水が照り輝いて美しく、そして大人っぽく見える。 しかしそれもつかの間。体についた水を丁寧に拭き取り、脱いだ服をまた着て来た道を戻っていく。見えた先はあの廃墟。男子達は揃って集めてきた木の実を食べていた。遠巻きでフレイの片方の頬が赤くなっているそれに手の形だ。 「…おっ。あがったのか。」 「まぁね。いい水だったよ。」 そうかと頷き、木の実を食べる。フラシュは自分の横の床に手で何度かぽんっと叩いた後、座れよ。木の実食べようぜっと言ってきた。私はお構いなく、隣に座り、きのみを食べる。横目でフローラを見てみたが、やはりニヤニヤしていた。他のメンバーも座りに座り、木の実を食べ始める。幼女も食べ始めた。 「…さて、残りは食っていいぜ。俺達は湖に入ってくるからさ。」 タオルを手に持ち、廃墟から出ていこうとする。 「…あっ、少しだけとっとけよ?明日の朝飯になるんだからな。」 っとだけ、足を止めて注意し、再び歩き始めて湖へ向かった。他の男性陣もタオルを持ち、廃墟から出ていく。 「…少しだけねぇ…。ここには大食いがいるんだけどなぁ。」 っと言ってフローラとフィアを見やる。2人は何?と言わんばかりの顔をしていた。 「…それにしても美味しいね。どれも甘みが強い。」 「特にモモンの実なんて、甘党が好きそうな甘みだね。手が止まらないよー。」 っとフローラがパクパクと次々食っていく。少しだけちゃんととっときなさいよっとグレイが注意を促し、フローラは返事をする。みんなできゃっきゃっと食べていた時、突如、幼女が立ち上がる。 「…どうしたの?」 「…誰かが来る…。」 何かを見つけたようだ。っと言うよりも聞き取れたようだ。水浴びをした後の幼女はとても可愛らしく見え、どこか頼もしかった。髪は茶色。瞳は黒だった。 「…声を出さないでおきましょう…。山賊かもしれないわ…。今、男が水浴びして全員いないし…。フィアやサイネがいたとしても少し力不足だわ。」 全員コクリと縦に頷き、息を殺して通り過ぎるのを待つ。 「…廃墟へ向かってる…。」 まるで千里眼で見えているような感じだった。廃墟へ向かっている…。偶然かもしれないが、どこか心配だ。嫌な予感もする。 「…ここは取らせない…仕留めるっ!」 幼女が飛び出していった。彼女は恐らく廃墟をとるために来たのだと勘違いし、早とちりで向かっているようだ。私達も続けて飛び出していく。幼女の素早さは凄まじかった。ぐんぐんと私達との距離を離していく。 「…私が先に行くわ!」 サイネが本気の猛スピードで幼女のところへと向かう。 あっという間に追いつき、幼女をサイコキネシスで動きを止めた。 ゆっくりと走るのをやめ、木に寄りかかる。幼女が必死に抵抗しようと動こうとするが、サイネのサイコキネシスの前では微動だにしない。 「な、何するのっ!?」 「まだ分からないじゃないっ!単に通り過ぎようとしてただけかもしれないじゃない!早とちりは良くないわっ!」 少し、息を荒らげて言う。走り疲れてるせいもあり、途切れ途切れになってしまっているが、本人は気にしてなかった。幼女はハッと我に帰ったように目を見開く。 「…ごめんなさい…。早とちりだった…。」 しょんぼりした表情をする。一息ついたサイネはサイコキネシスを解除し、幼女を抱きしめる。 「早とちりは誰にでもあるもの。大丈夫よ。」 あなたを撫でる。…撫でた瞬間、かさかさと草をかき分ける音がする。私達が来た方向から真逆だ。幼女の言っていた気配だろう。サイネ達は隠れ、様子を伺う。 「なぁなぁ。本当にいるのかぁ?単なる噂じゃないの?」 「それを確かめに来てるんだろうが。幼き死神…。それが本当ならば殺らなければならない。それが村の護衛の俺達の役目だろ?」 「そーだけどよぉ…。疑い深いんだよねぇ…。んな、幼いんだろ?ふつーいるか?」 「だーかーらー!確かめに来てるんだろうがぁ!理解しろよぉ!」 さーせんと謝り、進み続けていく。私はコソコソと話しかけた。 「どれぐらい…倒したの?」 「たくさん。皆、取ろうとするんだもん。」 多分全部勘違いなんだろうなー。っと心の中で思っていた。 「何処にいるんだ?」 「廃墟にいるらしい。村から燃やして炙り出していいとの許可は得てる。」 その言葉に幼女は目を見開く。意味は分からなくてもなんとなく分かったようだ。 幼女は草を踏み締める音をさせながら立ち上がる。村の護衛人は何事かと振り向き、戦闘態勢を取る。 「取らせはしない!ボクのお家を取るなぁぁ!」 突如として襲いかかる。爪が真っ白に輝いていた。おそらく引っ掻く攻撃だろうか。 「たぁぁぁぁ!!」 護衛人は軽く流していく。護衛人は腰に着いている物を抜き取る。 「っ!?こいつの種族、ヒトツキだわ!避けてっ!」 「!」 サイネが忠告するのと、護衛人の斬撃のタイミングが同時だった。 斬撃に対処しきれなかった幼女はモロに喰らう。 「…おい。」 もう一人の護衛人はサイネの方を見る。サイネは怯えた様子で返事をする。 護衛人は剣を向ける。 「こいつの仲間か。」 素っ気ない問いにサイネは完全に怯える。横目で幼女の見る。 ぐったりと倒れ、血を流していた。 「…言え。さもなくは殺すだけだ。」 サイネは目を瞑り、覚悟を決める。そして、戦闘態勢を取った。 「…私は…この子の仲間よっ!」 目の瞳を青く光らせる。すると、護衛人の動きが止まった。 サイコキネシスを放ったのだ。 「…ぐっ…。しかし…。」 「!?」 「あまり効かないのだよ!」 あろう事かサイコキネシスを自力で解除し、斬撃を喰らわす。 思ってもいない出来事にサイネは硬直していた。そのせいがあり、モロに喰らう。 「うぐっ…。」 モロに喰らってもたじろぐだけで倒れない。 サイネは手のひらを護衛人に向ける。 「はぁっ!」 手から放たれた塊。サイコウェーブだった。しかし、護衛人はそれをこの如く斬り、サイネに近づく。 「たぁっ!!!」 近づかせまいと連続で放ち続けて動きを止めようとするが、微動だにせず、距離を近づかせる。 「…仲間なら…逝ね。」 目の前まで近づき大きく振り上げ、トドメをさそうとした時、遠くから塊が飛び、剣を弾く。 「サイネっ!」 私とグレイがサイネに近づき、フィアとフローラは幼女に近づく。 「…続々きやがった…。おい。どうする?」 「何。女だけだ。十分切り伏せる力はある。仲間なら構わず殺せ。」 「りょーかいっと。」 「…ボク達はしぶといよ。そう簡単に倒せるかな?」 両手を空にかざす。 「リーフブレード!」 フローラが叫ぶ。すると、周りに落ちていた落ち葉が一斉にフローラの両手にへと集まっていく。形状を作っていき、やがては鋭い刃になっていく。 「一応ボクも剣技は使えるんだからっ!」 斬りにかかっていく。フィアと私は頷き、フローラの援護へと回った。グレイはサイネと幼女を別の場所へと移す。自分の周りに氷の壁を作り、中で幼女の出血を塞ぐため、傷口を氷で防ぐ。サイネも同じように治療を行った。 「ここにいれば安全よ。私は援護しに行ってくる。」 「自分もいける…!」 「ダメよ。深い傷を負った状態で行ったとしても足を引っ張るだけよ。それに死にたいの?死にたくなかったらここでこの子を見てなさい。」 サイネは歯を食いしばる。グレイは高い氷壁を飛び越え、参戦する。 「アクア!フィア!いつもの!」 「いつものね!わかった!」「了解!」 先にフィアが空高く飛び、私は空にいるフィアに向かって、大きな水の塊を複数飛ばす。それをグレイが当たる寸前に氷漬けにする。空を飛び、事前にアイアンテールを準備していたフィアはそれをたたき落とすように敵を狙って撃つ。 「ふぅん!」 いかつい声と共に氷塊を切る。 一方、フローラはもう一人の護衛人と、戦闘を続けていた。 「そういう種族じゃないのによくやるねぇ!」 軽はずみな口調。フローラが放つ斬撃を軽く避けていた。動き続けていたフローラは既に荒い息になっていた。 「でもそんなんじゃ、勝てない…ぜ!」 剣の衝撃波を飛ばす。両方のリーフブレードで塞ぐが、その衝撃で折れた。 折れたリーフブレード枯葉になって消えていく。 「んな!?」 「なまくらの剣じゃ余計にな!」 剣を振り下ろす。 フローラは死を覚悟し、目を瞑る。 「フローラっ!」 グレイが叫ぶのと、振り落とされるのが同時だった。目の前まで刃が振り落とされたその時、護衛人の動きは止まる。 「ぐぬぬ…。」 氷壁の上でサイネがサイコキネシスを使っていた。瞳の色は青色に変わっており、額からは汗が出ている。 「今のうちよ…!フローラ…!」 「…うんっ!」 再度、リーフブレードを発動する為にもう一度手を空に掲げ、技名を唱える。再び木の葉が手のひらに集まり、形を作って強度を増していく。 「これでトドメだぁぁぁ!!」 リーフブレードを護衛人の胸へと貫く。 護衛人の口から血が垂れ、力なく体が地面に垂れていた。 「くっ…そ…。貴様らなんかに…負けるわ…」 最後まで言わせず、リーフブレードを上に切り上げる。 その途端、護衛人は物言わぬ骸と化す。 「…はぁはぁ…。」 「くっ…。これじゃ負けるな…。」 相手は一歩引く。逃げようと少しずつ動こうとするが、 「逃がさないわよ。」 グレイが動く足を氷漬けにする。 「お前ら…ただじゃ置かないぞ…!」 歯ぎしりを起こしながら言う。フローラが1歩前に出る。 「ただじゃ置けないのは君だよ。」 リーフブレードを喉仏に当てる。 「俺が死んでも他がいることを忘れるなよ…!」 「こっちにだってまだ味方はいる。仲間がどれだけ来ようとも勝てるわ。」 「あぁそうかい。…そんな戯れ言も程々にしな。はは…ははは!」 嫌味を見せ、高く笑い出す。 「…汚い笑い声なんて聞きたくないよ。」 そう言って喉を貫く。地面が赤く染まっていく。引き抜き、そしてリーフブレードを消す。地面にへたれるフローラをグレイが撫でる。 同じように疲れているサイネをフィアが近づく。 「…サイネ。」 「何…?」 「その子は一体何人殺してきたの…?」 「…本人が言うには…たくさん…。多分…皆自分の住処を狙われると思って…襲ったんだと思う…。」 「…そうなの…。このまま住処に居させるのも…危険だね…。」 「引き取る…?この子の世話は私がするよ」 ―――――――――――――――――――― 今後の更新をお楽しみに。 #pcomment()