#include(Wiki10周年記念祭情報窓,notitle) &size(20){歩きつづけて}; 作:からとり 作:[[からとり]] “ ゼルネアスに会いに行くのだ……そこに、次のリーダーがいる…… ” 私が忠誠を誓ったリーダーの、最後の言葉。 その言葉を胸の奥底に刻み、今私は歩いている。 今でも鮮明に覚えている。あれは、冬の訪れを告げる木枯らしが吹き荒れた夜のこと。 当時ポチエナだった私はその強い風に体毛をなびかせ、闇に覆われた森林の中を歩いていた。 しかし、今いる場所は何処なのか? 何故私は歩いているのか……何もかも、分かっていなかった。今思うと、何も知らなかったからこそ、種の本能に従って歩きつづけていたのだろう。 やがて、幼い体力にも限界が訪れ……突然その地へと倒れ込んだ。 このまま、深い闇の中へと消えていくのか。私の意識は薄れていった―― 私は生きていた。 倒れた私を見つけ出し、必死に看病をしてくれたポケモンのおかげで。 そのポケモンの名はトラフト――輝いてみえる程美しい、黒のたてがみが印象的な雄のグラエナだった。 私は、グラエナたちの住処である森林地域で意識を失っていたようで、その群れのリーダーであるトラフト様が私の姿を見つけ、目が覚めるまでお世話をしてくれていたのだ。 当時の幼い私にも、トラフト様に命を救われたことはすぐに理解できた。ただただ、ありがとうございますという言葉を繰り返していた私に対して、トラフト様はニコッと笑みを返してくれた。 しばらくして落ち着いた後に、トラフト様に名前と住処を聞かれた。途端に私は、暗い表情を浮かべてしまう。 私が元気よくタマゴから飛び出した時には、若い男の人が目の前にいた。この人が、私のリーダーなのだと。そう、思った。 しかし、気がつくとその人の姿はいつの間にか消えていた。周りを懸命に探したが、一向にその影を見つけることはできなかった。 捨てられた――脳裏に響き渡る、受け入れがたい現実であった。 こんな境遇であるため、当然ながら名前もなく、住処もなく。そして行くあてもなかった。 そのことを告げると、トラフト様は再び暖かい笑みを浮かべながら、 ”ここに暮らすとよい”と優しく声を掛けてくれた。 その時に、私の名前もトラフト様が決めてくれた。 “ランサ” 名前の由来は、当時の私には分からなかった。けれども、良い名前だなと素直に思っていた。 トラフト様から群れでの暮らし方を教えてもらい、私は立派に成長することができた。 最初はいきなり現れたポチエナに若干の警戒心を抱くグラエナたちもいたが、トラフト様が 懸命に説得をしてくれたおかげで、すんなりと群れへと受け入れてもらうことができた。 元々グラエナ族は、リーダーに強い忠誠を誓う種族だ。そうでなくても、トラフト様はとても強くそして優しい、カリスマ性を持っているリーダーだった。だからトラフト様が言ったことに関しては、余程のことがない限りは逆らうことはない。 それは無論、私も同様だった。私がグラエナへと進化を遂げた後も、いつでも私に気に留めてくれたトラフト様は、本当に偉大で素晴らしいリーダーだと心から思っていた。この方のために、一生を掛けて恩返しをする。それが私の大きな生きがいであった。 しかし……数週間前――トラフト様が突然倒れてしまい、その後寝たきりのような状態になってしまった。 辛うじて会話を交わすことはできるのだが、声は実に弱々しい。私は群れのグラエナたちと必死になり、看病を続けていた。一心不乱に、トラフト様を救おうとしていた。 だが――信じたくない、その時は来てしまった。トラフト様の魂は、天高く昇っていってしまった。 死の直前に、私は一匹、トラフト様に呼び出されていた。 “ランサ……私はもうダメだ……” 今にも消えそうな声で呟くトラフト様に私は ”そんなことないです! 今度は私がトラフト様をお助けします!” と半分泣き喚いて言葉を発していた。 そんな私の姿を見て、トラフト様は弱々しくも、いつもの笑みを浮かべていた。 “もう私はお前に随分助けられたよ……ありがとな。……最後に、私の我が儘を聞いてくれるか……?” 涙で視界が潤む中、私は勿論とばかりにブンブンと首を縦に振る。安心したような顔つきなったトラフト様は最後の言葉を残した。 “ゼルネアスに会いに行くのだ……そこに、次のリーダーがいる……” 私は哀傷に覆い包まれた住処をひっそりと抜け出した。 勿論私の中にも、深い哀しみは眠っている。 だからこそ忠誠を誓ったリーダーの、最後の言葉に従うことにした。 また、群れの仲間たちには黙って住処を出た。仲良くしているみんなに、迷惑はかけたくなかったから。 ゼルネアス……私でも、名前だけは知っている。 永遠の命を分け与えるという、伝説のポケモンである。 場所の見当はつかないが、ゼルネアスは必ずどこかにいるはず。何としても探し出して、次の群れのリーダーを見つけ出さなければならない。 群れの仲間たちのため、そしてトラフト様のため。私一匹で―― 「おいおい、歩くの速いよランサぁー! そんなに急がんでも、ゼルネアスは逃げたりしないってー!」 私の背後から、息を切らしながら語りかけてくる声。 「おいおい、歩くの速いよランサぁー! そんなに急がんでも、ゼルネアスは逃げたりしないってー!」 私の背後から、息を切らしながら語りかけてくる声。 そうだ。今は私一匹ではない。私は立ち止まり、後ろを振り返ってその声の主を見やる。 土色と白色の体毛を持ち、そして鋭い岩のたてがみが特徴的なポケモン――ルガルガンだ。 「もうへばったの、ヴォルル? 私は早くゼルネアスを探さないといけないの」 「気持ちは分かるけど、もうすぐ夜になって辺りも暗くなるよ。明日のためにも、今日のところはこの辺で野宿をしよう」 私の少し強い口調にも、動じずに休むことを提案するルガルガンのヴォルル。 「もうへばったの、ヴォルル? 私は早くゼルネアスを探さないといけないの」 「気持ちは分かるけど、もうすぐ夜になって辺りも暗くなるよ。明日のためにも、今日のところはこの辺で野宿をしよう」 私の少し強い口調にも、動じずに休むことを提案するルガルガンのヴォルル。 ふと周りを見渡すと、確かに夕焼けは終わりを告げており、辺りは薄暗い月明りに照らされていた。 私もヴォルルも夜に強いポケモンであるが、それでも暗闇の中ではいつも以上に危険な要素が多い。それに明日もあるように、旅はまだまだ始まったばかりだ。 決意で気持ちが昂っていた私も、ヴォルルの言葉で少し冷静になれたようだ。 彼の提案を受け入れて、安全で快適に休める場所を探すことにした。 ヴォルルとは、私が住処を抜け出した直後の、とある山の中で出会った。 いや、正確には斜面でお腹が空いて行き倒れていた彼を私が助けたといった方が正しいか。 正直、トラフト様の言葉に突き動かされていた私はそれどころではなく、そのまま無視して進もうとも考えた。しかし、助けを求めるように潤んだ瞳を向けてくるヴォルルを、私は放っておくことはできなかった。 周囲を嗅ぎわけて、いくつかの木の実を集めてヴォルルに食べさせる。2個ほど木の実を食べ終えると、彼は驚くほど元気になり私に向けてその凛々しい顔を向けた。 「いやーお嬢ちゃん、助けてくれてありがとう。お礼にぼくが、あなたの旅のお手伝いをしよう」 「気持ちは嬉しいけれども、あなたには無理よ」 それじゃ――そう言い残し、私はその場を立ち去ろうとした。 「ゼルネアス……を探しているんだろう」 「……!? どうして、知っているの!?」 「簡単だよ。ぼくは、エスパーだからね」 グラエナの群れの中でずっと暮らしていた私にとって、外の世界はあまり知り得ていない未知の世界でもある。 「いやーお嬢ちゃん、助けてくれてありがとう。お礼にぼくが、あなたの旅のお手伝いをしよう」 「気持ちは嬉しいけれども、あなたには無理よ」 それじゃ――そう言い残し、私はその場を立ち去ろうとした。 「ゼルネアス……を探しているんだろう」 「……!? どうして、知っているの!?」 「簡単だよ。ぼくは、エスパーだからね」 グラエナの群れの中でずっと暮らしていた私にとって、外の世界はあまり知り得ていない未知の世界でもある。 だが、それでも目の前にいるこの種族――ルガルガンがエスパーポケモンではないことは分かっていた。 「ぼくは普通のルガルガンとは違うんだ……それに、ゼルネアスの場所も知っている。どうだい、君にとっても悪い話じゃないだろう」 安易に信用してもよいものか……私は悩んでいた。 「ぼくは普通のルガルガンとは違うんだ……それに、ゼルネアスの場所も知っている。どうだい、君にとっても悪い話じゃないだろう」 安易に信用してもよいものか……私は悩んでいた。 だが、口走ってもいない私の旅の目的を知っているのは嘘でも何でもなく、紛れもない事実。 そして、今の私にはゼルネアスの居場所を知りうる手掛かりは何も持っていない。ここは、彼と一緒に行動する方が得策なのかもしれない。 こうして私は、エスパーポケモン(?)であるルガルガンのヴォルルと共に、ゼルネアスを探す旅に出ることになった。 ヴォルルの言う話だと、ここから遠く離れた北東にアルバート海という、とても広大な海があるらしい。その海を渡った先にある、小さな島の大きな木にゼルネアスが静かに暮らしているという。 まずはアルバート海を目指す――輝かしい太陽の光で目を覚ました私たちは、再び歩き始めていた。微かに吹く向かい風が、私とヴォルルの体毛を揺らす。 「うーん、しかし海なんて中々見えないわねぇ……」 「安心してよ。もう少しで雪山に着くから」 「雪山!? 何で海じゃなくて雪山なのよ!」 「アルバート海への一番近いルートが、雪山なのさ」 私は、歩きながら思わず頭を垂れ下げてしまっていた。そんなに離れている場所なのか……これからたどり着くまでのことを想像すると、少し気が遠くなってしまう。 「うーん、しかし海なんて中々見えないわねぇ……」 「安心してよ。もう少しで雪山に着くから」 「雪山!? 何で海じゃなくて雪山なのよ!」 「アルバート海への一番近いルートが、雪山なのさ」 私は、歩きながら思わず頭を垂れ下げてしまっていた。そんなに離れている場所なのか……これからたどり着くまでのことを想像すると、少し気が遠くなってしまう。 群れの仲間のため、そしてトラフト様のためのことを考えれば、勿論乗り越えられることではあるが、それでも辛いことであるということは本能的に感じているようだ。 「まぁまぁ、旅の中でも色々な出会いもあるだろうし……あ、ほら」 妙に明るい口調のヴォルルが右前脚で示したのは、草むらの茂みから現れた二匹のポケモンの姿。 「まぁまぁ、旅の中でも色々な出会いもあるだろうし……あ、ほら」 妙に明るい口調のヴォルルが右前脚で示したのは、草むらの茂みから現れた二匹のポケモンの姿。 一方は身体に見合わない、とても大きな鋼のアゴを持ち合わせているクチート。もう一方はクチートの4倍以上の高さを持つ、頭の角と首の爪が圧巻のペンドラーだった。 「こんにちは。おっ、そちらのペンドラーさんは色違いなんですね」 ヴォルルは気さくに、その2匹のポケモンに挨拶を交わす。 「おっす! そうなんだよー。こいつは色違いで珍しいんだぜー」 「ど……どうも」 堂々とした口調で胸を張るクチート。そして、言葉少なに大きな身体を丸くするペンドラー。パッと見ただけでも、対照的な二匹であると感じた。 「お二方も、旅をしているんですか?」 疑問に思ったことを、私は口に出していた。 「そうなんだよ。最初は俺一匹で世界を歩き回っていたんだけど、ある時こいつと出会ってねー」 そう言葉を返すと、続いてクチートはペンドラーと一緒に旅をするようになった理由について話をしてくれた。 「こんにちは。おっ、そちらのペンドラーさんは色違いなんですね」 ヴォルルは気さくに、その2匹のポケモンに挨拶を交わす。 「おっす! そうなんだよー。こいつは色違いで珍しいんだぜー」 「ど……どうも」 堂々とした口調で胸を張るクチート。そして、言葉少なに大きな身体を丸くするペンドラー。パッと見ただけでも、対照的な二匹であると感じた。 「お二方も、旅をしているんですか?」 疑問に思ったことを、私は口に出していた。 「そうなんだよ。最初は俺一匹で世界を歩き回っていたんだけど、ある時こいつと出会ってねー」 そう言葉を返すと、続いてクチートはペンドラーと一緒に旅をするようになった理由について話をしてくれた。 茂みの深い山の中でばったり二匹は出会ったそうだ。自分より遥かに大きいペンドラーの存在に、クチートは一瞬怯んでしまった。 しかし、それ以上にペンドラーの方は、クチートの姿を見ただけで激しく狼狽してしまい、逃げ出してしまったそうだ。 只事ではないと感じた彼は、すぐに追いかけてペンドラーを捕まえたのだそうだ。 ペンドラーに問い正すと、昔からの特徴であった色違いの姿によって群れから追い出されてしまい、一匹でずっと怯えながら生きていたのだという。そして、不意に姿を見かけたクチートの姿を見て、昔の群れにいじめられた過去を思い出してしまったそうだ。 その話を聞いて、クチートはペンドラーを旅に誘うことにした。ペンドラーの話や今までの行動を見て、とても優しいポケモンであると感じたからだ。 ペンドラーも突然のクチートからの誘いに一瞬戸惑ってしまったが、今まで感じたことのない嬉しさを覚え、彼の旅に同行するようになった。 「こいつは背も高いから、木に茂っている木の実も簡単に取ることができるからな。それに、思いやりもあって本当に最高の、俺の相棒だよ」 「わ、わたしも。クチートさんに色々と教えてもらって……。それに強いし、本当にカッコいいパートナーだと思っています」 照れくさそうにお互いを褒め称える二匹の姿を見て、私はとてもなごやかな気分になれた。 「こいつは背も高いから、木に茂っている木の実も簡単に取ることができるからな。それに、思いやりもあって本当に最高の、俺の相棒だよ」 「わ、わたしも。クチートさんに色々と教えてもらって……。それに強いし、本当にカッコいいパートナーだと思っています」 照れくさそうにお互いを褒め称える二匹の姿を見て、私はとてもなごやかな気分になれた。 隣を見ると、ヴォルルは少し瞳が潤んでいた。結構、情に厚いところもあるんだな。 程なくして二匹と別れた私たちは、アルバート海へと向かうべく最初の難所である雪山へと再び歩き始めた。 「さむっ……!」 「まあまあ、ここの雪山はそんなに標高はないから。頑張れば半日ほどで抜けられると思うよ」 足元に積まれる大雪を一歩一歩踏みしめながら、私たちは歩を進めていた。 「さむっ……!」 「まあまあ、ここの雪山はそんなに標高はないから。頑張れば半日ほどで抜けられると思うよ」 足元に積まれる大雪を一歩一歩踏みしめながら、私たちは歩を進めていた。 幸いにも天候は良かったが、とてつもなく寒いという事実は変わらない。 半日ほどで抜けられる……その言葉に安堵することはない。そもそも半日で絶対に抜けなければいけない。こんな極寒の地で野宿など、できるはずもないのだから。 雑念を捨て、素早く雪山を抜けるべく急ぐ。と―― 「あっ、サンドパンがいる。いつもは雪に隠れているのに、珍しいなー」 ……こんな状況でも、呑気な声を挙げるヴォルルを、私は軽く睨みつける。随分と彼は余裕みたいだ。半日ほどで抜けられることも知っている訳だし、彼は何度もこの雪山を通ったことがあるのだろうか。 「あっ、サンドパンがいる。いつもは雪に隠れているのに、珍しいなー」 ……こんな状況でも、呑気な声を挙げるヴォルルを、私は軽く睨みつける。随分と彼は余裕みたいだ。半日ほどで抜けられることも知っている訳だし、彼は何度もこの雪山を通ったことがあるのだろうか。 ひとまずヴォルルの向いている方向へ、私も顔を覗かせる。その体つきや目つきは確かに、サンドパンの姿そのものであった。だが、私の知っているサンドパンとは、少し違う。身体の色といい、背中のトゲといい…… 「これは、リージョンフォームといってね。自然環境に適応して、微妙に姿が変わっていったんだよ。ここに生息するサンドパンは雪山で暮らすために、生態を氷へと変化させていったんだ」 「……随分と詳しいのね」 「まあ、ぼくはエスパーだからね」 「エスパー関係ある!? それ?」 「ははは、冗談だよ。……エスパー能力を持っているのは本当だけど。ぼくは冒険家なんだよ。だからこの辺の地理も、周囲のポケモンの生態もある程度分かっているんだ」 なるほど。ヴォルルはこの辺りを旅慣れているようだ。半日ほどで通り抜けられるという彼の言葉も真実だったようで、日が暮れる前に何とか私たちは雪山を抜けることができた。 「これは、リージョンフォームといってね。自然環境に適応して、微妙に姿が変わっていったんだよ。ここに生息するサンドパンは雪山で暮らすために、生態を氷へと変化させていったんだ」 「……随分と詳しいのね」 「まあ、ぼくはエスパーだからね」 「エスパー関係ある!? それ?」 「ははは、冗談だよ。……エスパー能力を持っているのは本当だけど。ぼくは冒険家なんだよ。だからこの辺の地理も、周囲のポケモンの生態もある程度分かっているんだ」 なるほど。ヴォルルはこの辺りを旅慣れているようだ。半日ほどで通り抜けられるという彼の言葉も真実だったようで、日が暮れる前に何とか私たちは雪山を抜けることができた。 だが私もヴォルルも、やはり慣れない寒さに体力は奪われていたようで……今日は早めに身体を休めることにした。寝床を探している際に、私はふと先ほど見たサンドパンのことを考えていた。 「そういえば私の住処にも、サンドパンが暮らしていたっけ。グラエナたちもそうだけど、あいつも、元気にしているかなぁ」 「そういえば私の住処にも、サンドパンが暮らしていたっけ。グラエナたちもそうだけど、あいつも、元気にしているかなぁ」 私の住処に暮らすサンドパン。これは、つい数ヵ月程前の話になる。 外出していたトラフト様が、サンドパンを連れて住処へと戻ってきたのだ。通常のサンドパンは乾燥した砂地を住処にすることが多い。 だが、この彼は新しい土地で暮らしてみたい! と思って砂漠を飛び出していったのはいいが、当てもなく森林を一匹で彷徨っていたらしい。やがてどうしようもなくなり途方に暮れていたところを、たまたまトラフト様が見かけたのだそうだ。 話を聞いたトラフト様は、ここの住処で共に暮らすことを提案したらしく、こうしてこのサンドパンは共に私たちと暮らすことになったのだ。 だが、これに関して群れのグラエナたちは珍しくトラフト様に反発をしていた。無理もない。この住処にはかなり長い歴史があるのだが、他種族のポケモンが群れの一員になったことは一度たりともない。よそ者は信用できないだとか、スパイなのではないかとか。根拠のないそんな噂が広がったものだ。 しかし、トラフト様は ”このポケモンはお前たちに危害を加えることはない。私がしっかり見極めたから安心してくれ” と説得を続けた。 そして “共存できれば、“お互いが幸せになるぞ” と群れのグラエナたちに訴えた。 “お互いが幸せになる” 正直なところ、最初はその言葉の意味がよく分からなかった。しかし、しばらく一緒に暮らしてみると、トラフト様の真意を理解することができた。 私たちグラエナ族は、匂いを嗅ぎわけることが大の得意だ。土の中に埋まっている食用のキノコなど、容易く見つけることができる。 ただ、その土を掘ることに関しては結構大変な作業だ。勿論鋭い爪もあるので、穴を掘ること自体は私たちにもできる。だが、かなりの時間と労力を消費してしまう。 しかし、サンドパンが私たちの一員に加わることでこの問題が解消された。私たちが匂いを見つけた場所をサンドパンが掘ることにより、地中深くにある食物も瞬時に入手することができるようになったのだ。 また、彼は非常に友好的で仲間思いな一面もあり、最初は拒否反応を示していた群れのグラエナたちも、今ではお互いに笑いあえるような関係へとなっていった。こんな彼の性格もしっかりと見抜いたうえで、トラフト様は群れに連れていく決断をしたのだろう。 私はより活発化した群れの様子を見て、トラフト様のカリスマ性に改めて感服することとなった。 だが…… もう、偉大な群れのリーダーであったトラフト様はもういないのだ。 私の中に忘れかけていた、哀しみの感情が再び渦巻いた。 ……いや、だからこそ、早く次のリーダーを見つけなければならない。 群れの仲間たちのため。そして、トラフト様のためにも……! 雪山を超えてからも、目的地を目指す私とヴォルルの旅は続き、様々なポケモンにも出会っていった。 ある平原では、ライボルトとレントラーの夫婦に出会った。元々、この平原はレントラー族の縄張りであったそうで、無断で入り込むポケモンに対しては容赦なかったそうだ。 どうやら過去に、突然見知らぬポケモンに襲われて大きな傷を負ってしまったらしく、 ” やられる前にやれ ” の掟が生まれたらしい。 だが、つい最近この地に迷い込んだ雄のライボルトによって、この掟が少し変わったようだ。重い熱にうなされていたこの縄張りのリーダーである雌のレントラーを、持っていた手持ちの木の実を調合して救ったのだ。 レントラー族の仲間が襲い掛かってくる中を、必死に耐えて。 以降、ライボルトはリーダーのレントラーと契りを交わし、一緒に暮らすようになった。掟もこの時に変わり、 ”侵入者を見つけたら、まずは話をする” ことになったそうだ。 この間の私たちの群れで暮らすことになったサンドパンと似ている――その話の後、私はそのように思った。 また、アルバート海を通る際にどうしても人間の町を通る必要があり、嫌々ながら歩いていた時だ。 シルヴァディと名乗るポケモンと出会ったのは。彼が発した一言が、私の胸には突き刺さった。 ”信頼されるだけではダメなのだ……己自身も相手を信頼しなければいけない” この言葉で、トラフト様のことを思い出したのだ。トラフト様はみんなに厚い信頼をされていた。 そして、みんなの性格や強さを見極めた上で信頼をしてくれていた。素晴らしいリーダーであったと心から思う。 そうして旅を進めていき、ついに私とヴォルルはアルバート海へと辿り着いた。 長い道のりであった。ようやくこれで、ゼルネアスの元へ行ける…… 海をぼんやりと眺めていると、ふとある疑問が頭をよぎった。 「そういえば、海を渡る手段はあるの?」 「いや。まだないよ」 「はぁぁ!?」 ヴォルルのあっさり過ぎる返答に、私は思わず大きな声を上げてしまっていた。 「どうするのよ! ここまで来たのに……」 「まあ、もうすぐ何とかなるよ」 「……どうして分かるの?」 「エスパーだから」 表情を変えずに、海を眺めながら彼は真面目に呟く。 「そういえば、海を渡る手段はあるの?」 「いや。まだないよ」 「はぁぁ!?」 ヴォルルのあっさり過ぎる返答に、私は思わず大きな声を上げてしまっていた。 「どうするのよ! ここまで来たのに……」 「まあ、もうすぐ何とかなるよ」 「……どうして分かるの?」 「エスパーだから」 表情を変えずに、海を眺めながら彼は真面目に呟く。 ……まだ信じられないけど、もう彼の言葉を信じるしかないか。私は黙って、広がる海を見つめていた。 しばらくすると、空から雨粒が一滴、静かに落ちていった。 それからはあっという間だった。激しい雨に雷、そして暴風が吹き荒れる。波は激しく荒れ果て、まさしく大嵐が起きたと言っても良いだろう。 「ちょ……これはどういうこと」 「あそこを見て」 ヴォルルが右前脚を向けた箇所。何てことはない。荒れ果てた一面の海が広がっているだけだ。 「ちょ……これはどういうこと」 「あそこを見て」 ヴォルルが右前脚を向けた箇所。何てことはない。荒れ果てた一面の海が広がっているだけだ。 いや……よく見ると、一か所。巨大な渦巻きが。その渦巻きはドンドン速度を上げる。そして―― 気がつくと、私たちの目の前を覆ってしまうほどの巨大なポケモンが姿を現した。 「我が名は、ルギア……お主たちが、我を呼んだのか?」 「そうだ。ぼくたちをゼルネアスの元に連れて行ってほしい」 呆気にとられている私をよそに、ヴォルルはルギアと名乗った大きな存在に怯むことなく答えた。 「……いいだろう。ゼルネアスの元へ連れて行ってやる。ただし……私を倒せたらな!」 ルギアは大きく口を開くと、その中からとてつもない空気の渦を私たちに向けて発射してきた。警戒をしていた私たちは辛うじて右へと交わすことができたが、その衝撃は計り知れないものだった。 「どうするのヴォルル! まともに戦ったら勝ち目はないわ!」 「うん……そうだ、ランサ。君はかみなりのキバが使えるね」 「ええ……」 そう。私は他のグラエナが使うことのできない、相手を痺れさせるわざを持っている。おそらく私が生まれる段階から……人が仕込んだのだろう。 「ぼくがルギアを引き付ける。だから君は、そのスキにやつに嚙みついて痺れさせてほしい」 「そんな! それじゃあ、ヴォルルが!」 「大丈夫だ。ぼくの力を知っているだろう。何回か攻撃を交わすことは十分できるさ。……ぼくを信じてくれ。ぼくも、ランサを信じるから」 そう言い終わると、ヴォルルはルギアを引き付けるために、再びルギアの正面に立ち塞がった。 「我が名は、ルギア……お主たちが、我を呼んだのか?」 「そうだ。ぼくたちをゼルネアスの元に連れて行ってほしい」 呆気にとられている私をよそに、ヴォルルはルギアと名乗った大きな存在に怯むことなく答えた。 「……いいだろう。ゼルネアスの元へ連れて行ってやる。ただし……私を倒せたらな!」 ルギアは大きく口を開くと、その中からとてつもない空気の渦を私たちに向けて発射してきた。警戒をしていた私たちは辛うじて右へと交わすことができたが、その衝撃は計り知れないものだった。 「どうするのヴォルル! まともに戦ったら勝ち目はないわ!」 「うん……そうだ、ランサ。君はかみなりのキバが使えるね」 「ええ……」 そう。私は他のグラエナが使うことのできない、相手を痺れさせるわざを持っている。おそらく私が生まれる段階から……人が仕込んだのだろう。 「ぼくがルギアを引き付ける。だから君は、そのスキにやつに嚙みついて痺れさせてほしい」 「そんな! それじゃあ、ヴォルルが!」 「大丈夫だ。ぼくの力を知っているだろう。何回か攻撃を交わすことは十分できるさ。……ぼくを信じてくれ。ぼくも、ランサを信じるから」 そう言い終わると、ヴォルルはルギアを引き付けるために、再びルギアの正面に立ち塞がった。 そうだ――彼がすばしっこいことは私がよく知っている。その力を信じよう。彼も私のことを信じてくれているのだから―― ルギアは彼に向かって空気の渦を発射し続ける。寸前のところで、彼はかわし続けている。 今まで奥底に眠っていた力が湧いてくるような感覚。私は咆哮しながらルギアの羽に向かって飛び込み――溢れんばかりの痺れるキバで噛みついた。 その瞬間――ルギアは激しく身体を悶えさせた。どうやら、上手く痺れさせることに成功したようだ。 「やった!」 私とヴォルルはお互いの元へと駆け抜け、自然とお互いを抱きしめあった。 「ありがとう。ランサ! 信じていたよ」 「あなたのおかげよ、ヴォルル……。こちらこそ、本当にありがとう」 「お主たち……よくやった。合格だ」 激しい嵐の中で続く抱擁の時を遮った、ルギアの言葉。 「やった!」 私とヴォルルはお互いの元へと駆け抜け、自然とお互いを抱きしめあった。 「ありがとう。ランサ! 信じていたよ」 「あなたのおかげよ、ヴォルル……。こちらこそ、本当にありがとう」 「お主たち……よくやった。合格だ」 激しい嵐の中で続く抱擁の時を遮った、ルギアの言葉。 合格……? この時の私は、ルギアが何を言っているのか。理解することができなかった。 あれから私たちはルギアの背に乗せてもらい、ゼルネアスのいる大きな木のある島へと辿り着いた。 お待ちしておりました。ゼルネアスはそう言った。どうやら私たちが来ることを知っていたらしい。そして、私の群れの、次のリーダーのことも。 「リーダーは……あなたですよ。ランサ」 「えっ、どういうことですか」 「……全ては、トラフトの意思だったのです」 「トラフト様の……」 そういうと、ゼルネアスは事の全てを話してくれた。 「リーダーは……あなたですよ。ランサ」 「えっ、どういうことですか」 「……全ては、トラフトの意思だったのです」 「トラフト様の……」 そういうと、ゼルネアスは事の全てを話してくれた。 元々、トラフト様は多くの種族が共存して暮らしていかなければならないとずっと思っていたらしい。というのも、今この世界は人の生み出すモノの影響もあり、急激に自然環境が変化していっている。 この変化に耐えて、それぞれの種が生き残るためにも、お互いに手を取り合い協力し合うことが必要になると考えていたのだ。 勿論、すぐに全てのポケモンが協力し合うことは不可能なことは、トラフト様も良く分かっていた。安易な協力が、逆に不幸を呼んでしまうことも……。 だからこそ、積極的に他の場所に赴き、時間をかけて様々なポケモンの元を訪ねて話をしたりしていたらしい。そんな姿が周りのポケモンたちにも徐々に伝わり、ついにはゼルネアスとも関係を持って、共存について色々と相談したりしていたらしい。地道な努力が少しずつだが形になりかけた矢先、トラフト様は自身の身体の異変に気付いた。 もう先は長くない……だから動ける間に、自分の意思を継いでくれる群れのリーダーを探し……そして、私が選ばれたのだそうだ。 それでも少し不安に思っていたことがあったようで……それは、私があまりにも世界を知らなさ過ぎたこと……そして、仲間を大事に思うあまり、必要以上に抱え込んでしまうことであった。 だから、トラフト様は最後にゼルネアスにお願いしたのだそうだ。私に世界を見て回り、なおかつ仲間のことを信頼して頼ることができるようになる試練を与えてほしいと…… そして、ゼルネアスはルギアに声を掛けたのだそうだ。そしてもう一匹……ヴォルルにも。 ヴォルルはエスパーなどではなかった。私の事情を知っていたのも、ゼルネアスの居場所を知っていたのも、ルギアの登場に関しても全てゼルネアスに聞かされていたからだ。 私が次の群れのリーダーへと成長を遂げるために、優しく近くで見守っていてくれていたのだ―― こうして私は、正式にトラフト様の後継として、グラエナの群れのリーダーとなった。 そして、私の隣には――ヴォルルの姿が。あの後に私とヴォルルは正式に夫婦としての契りを交わして、共に群れを守っていく立場になった。 次のリーダー探しは終わった。次のリーダーは、私自身であった。 でも、まだこれは始まったばかりなのだ。群れの生活をより良くしていくのは勿論、トラフト様の意思を継ぎ、多くのポケモンたちと共存して暮らしていけるようにしたい。 隣にはヴォルルが。そして、多くの仲間たちがいる。みんなで力を合わせて、少しずつより良い方向に進めたい。 だから私は――これからも歩きつづける。 ---- ノベルチェッカー 【原稿用紙(20×20行)】 33.6(枚) 【総文字数】 10242(字)※スペース含めず9958(字) 【行数】 272(行) 【台詞:地の文】 15:84(%)|1587:8655(字) 【漢字:かな:カナ:他】 32:55:9:2(%)|3294:5698:995:255(字) ---- ○あとがき 10周年管理人さん感謝祭大会、お疲れ様でした。 管理人さんへの感謝の気持ちを作品にできるということで、本当に素晴らしい大会でした。 今回の作品はプロットの内容から10000字で収めるのが無茶だったようで…… ※5000字くらい書いてから気がつきました() 駆け足気味になってしまったり、途中の内容も削ったりしてしまい消化不良な感じに……すみません。 そんな中でも2票いただけて、とても嬉しいです。ありがとうございました! ○作品について 開催概要を見てすぐに、rootさんの好きな10匹のポケモンを全部使おう! ということだけを決めました。 最初は群像劇のような、複数主人公で物語を展開して最終的に絡み合うような内容で考えていましたが、試したこともない手法で中々まとまらずに断念。 そこで思いついたのが、1匹のポケモンが様々なポケモンに出会うことで立派に成長していく物語でした。 グラエナのリーダー関連の設定は、以前の作品でも使ったこともあり好みだったのでその流れで主人公に。 他のポケモンたちも、ただ登場させるだけではなく何か主人公に影響を与えるような存在として描けるように意識してプロットを組み、執筆を行いました。 その結果……圧倒的に文字数が() 執筆している内にテーマや内容が広がりすぎて収拾がつかなくなってしまった感があり、文字数を考えて小さく、シンプルに構想すれば良かったと反省しています。 ですが、当初の10匹のポケモンを登場させるということは何とか実現できたので良かった良かった。 ……ルガルガン(まよなかのすがた)は出ていませんね。 ごめんなさい。プロットには勿論いたのですが、文字数の関係で登場シーンを丸ごとカットしてしまいました。 改めて書き直す機会ができれば、必ず入れようと思います。はい。 ○コメント返信 > 全部登場したんですねw面白かったです (2017/03/11(土) 18:09 さん) はい。自然な感じで出会わせるのが非常に大変でしたが、何とか登場させてあげることができましたw 楽しんでいただけたようで、とても嬉しいです。 投票ありがとうございました! > 10匹全員出てくる作品、あると思いましたがやっぱりでしたね。駆け足気味、文章構造が単調、「ランサ」の由来の伏線未回収など気になる点は多いですが、 様々なポケモンが共存する感じが多様な作者のいるこのサイトらしく、またバトンを引き継いだリーダーが歩きつづけるラストが管理人さん感謝祭を意識していてイイですね。 (2017/03/11(土) 22:03 さん) 他にも10匹全員が登場する作品があると予想していたので、私だけだったのが意外でしたね。 今回は特に気になってしまう問題点が多く、粗削りな形になってしまい申し訳ありませんでした。次にしっかり生かしたいと思っています。 1匹1匹のポケモンたちの多様な暮らしぶりを、少しでも伝わるように描きたかったのでそれができたのは良かったです。 ラストはかなり早い段階から決めておりました。これからもこれからも続いていくという願いを込めまして…… 投票ありがとうございました! 作品をご覧になってくださった皆様、投票してくださった皆様、管理人様、そして大会主催者様。 楽しい大会でした。本当にありがとうございました! ---- 感想、意見、アドバイス等、何かありましたらお気軽にどうぞ。 #pcomment(歩きつづけてコメントログ,10)