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次元を超えた出会い episode.0 の変更点


>>[[Plorogue>次元を超えた出会い Plorogue]]

この小説の原型ができたのはポケダン救助隊が出てしばらくしての頃になります。
新世代が出てくるたびに修正を加えつつ進めていたものですが、
このepisode.0に関しては下手に手を加えたくない為、ほぼ原形のまま転載を続けております。
作中に出てくる伝説ポケが第四世代までになっているのはそういった理由からによるものなのでご了承くださいませ。
なお、第五世代以降の伝説に関してはおいおい作品が進むうちに触れていくと思います。

作者[[ラプチュウ]]より
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 現在から数千年も前の話……この時代、人間とポケモンはお互いに話し合うことができ、今は伝説や幻と呼ばれているポケモンも含め、共にひとつの国を形成していた。

 ポケエデン――。

 人間とポケモンが共に力を合わせて築き上げた平和な国……そこでは人間もポケモンも、互いに笑いあったり力を合わせて仕事をしたり……楽しく暮らしていた。……だが、時代の波はこの平和を消し去ろうとしていた……。楽しいひと時はいつまでも続かないということなのだろうか……その時を示す運命の砂時計の砂は、刻一刻と流れ落ちる……。

――――――――――

 ポケエデンの中央に立てられた議会場。テーブルについているのは数名の人間と、後に伝説・幻と呼ばれるポケモンたちである。ここは人間の代表達と、ポケモンの代表達がポケエデンをよりよいものにしていくために設けられた話し合いの場であった。その日の話し合いの最中、人間側の代表が発した提案に、潜水ポケモンの名にふさわしい滑らかな白銀の体を持ったルギアが、人間の手のひらにも見える翼を大きく広げ、長い尾を振り上げながら声を荒げた。

「正気か! いくらなんでもひどすぎるだろ!」
「だが、ダラーグの影響が大きくなってきた今……彼らを全て処分しない限りはこの国の平和を守ることはできないんだよ、ルギア」

 人間の一人がルギアに語りかける。ダラーグとはここ数年の間に現れた盗賊集団の事である。最近になってその勢力は拡大し続けており、ポケエデンの中でも被害が出る者が少しずつ増え続けていた。このときに話し合われていたのはこのダラーグに関する事で、その議論の最中に人間側が提案したのが『ダラーグに所属しているもの、すべての処刑』であった。

「確かにダラーグ達の影響は日に日に大きくなっています。……ですが、すべて殺してしまうのはどうかと……」
 
 その提案に、大きな瞳と頭に二本の触角のような部位を持ち、草ポケモンらしく草木と同じ緑の体を持つ妖精のような見た目の時渡りポケモン、セレビィも背中に生えた小さな羽を震わせ、困惑した表情を浮かべて異議を唱える。セレビィに続いて口を開いたのは、虹色ポケモンの名に恥じない虹色に輝く美しい翼を持ち、大きなくちばしと円形状に広がった向日葵のような尾を持つ、ホウオウだった。

「私も反対ですね。ダラーグに所属しているものには何らかの罰を与えるべきでしょう。……ですが、全員を処刑してしまうのはどうかと……。それに、彼らは堅牢な砦を作って守りを固めていますから……下手に動けば、罪のない命まで消えてしまう事になりますよ?」
「……君はどう思うかね? ミュウよ」

 人間がテーブルを囲むポケモン達の中から、自身の体よりも長く伸びた尾を揺らしながら長い脚と頭に耳のような突起を二つ持った薄い桃色の体の新種ポケモン、ミュウへ意見を求める。しばらく腕を組んで議論を聞いていたミュウは、その問いかけにゆっくり目を開くと座っていた椅子の上からふわりと浮きあがった。

「……僕もホウオウやセレビィと同意見です。仮にダラーグに入ったとしても、説得すれば改心できる人もいるはずですよ」
「だが……ダラーグに所属するものは、そのすべてがポケエデンの栄光と繁栄を脅かす危険分子……そうとも考えられんかね、諸君」

 人間の一人が発した言葉に、人間の数名が同意するようにうなずいたり同調する声をあげた。そんな中、白と青を基調とした体を持ち、戦闘機のような三角状の翼と胸に赤い線でできた三角のマークを持つ夢幻ポケモン、ラティオスがテーブルを強く叩いて声を荒げる。

「その考えは危険すぎます! ダラーグにいたからといってその方が完全なる悪人とは限らないでしょう! 無理やり服従されている可能性だってあります! そもそもダラーグ自体、穀物の不作などで苦しんでいる人間たちが飢えをしのぐために盗賊になったのが始まりともいわれています! ダラーグの事をどうこう言う前に、まずはそういった人やポケモン達を救う事の方が先なんじゃないんですか!!」
「ち、ちょっとお兄ちゃん落ちついて……」

 人間側に食ってかかるラティオスを、その横に座っていた、ラティオスと酷似した体を持つが体色は白と赤を基調としており、胸の三角のマークは青い線でできた、ラティオスと同じ夢幻ポケモンの名を持つラティアスがなだめる。ラティアスの呼びかけに我に返ったラティオスは、まだ何か言いたそうな表情を浮かべつつも不機嫌そうに再び席に着く。

「幹部クラスのものはともかくとしてもだ……全員を全て処刑するというのはやりすぎではないのか?」

 全身に風になびく黒い衣を覆ったような体に首の周りには赤い突起状の飾りを持ち、鋭い目と白く長い髪のような部位を頭に持つ暗黒ポケモン、ダークライも、腕を組んで人間側の提案に難色を示している。人間側とポケモン側、双方の意見は完全に対立していた。

「……とにかく、ダラーグによる被害を一刻も早く食い止めなくてはならないことは事実。至急、討伐隊を編成する必要はあるだろう」
「……またポケエデンを悲しみに包むつもり? 以前に編成された時だって完全になくすことはできなかったじゃないですか……向こうにも、こちらにも……多くの犠牲者を出しただけで……今、やっとあの悲しみから皆立ち直ってきているところなのよ?」

 流線形の体に三日月ポケモンらしく三日月状の飾りを頭に持ち、紫色の薄いベールのような翼を持ったクレセリアが、討伐隊の編成に対して難色を示す。実は、以前にもダラーグをどうにかしようという人間側からの提案で討伐隊が結成された事があったのだ。その時は、たしかにダラーグの勢いを一時的にとはいえ弱める事に成功はしたのだが、双方に多くの犠牲者を出す結果となっていたのだ。それ以降、ダラーグはしばらく表立って活動はしていなかったのだが、最近になってまた活動を始めた……以前にはなかった残虐性を持って。

「……今日の審議はいったん終了としよう。各自、次の審議までによく考えてほしい」

 人間側がそう言って、その日の審議は昼を待たずに終了した。ポケモン側はまだ続けるように申し出たが、その申し出は人間側に受け入れられる事はなかった。

――――――――――

 議会上から自分の家へと戻ったルギアは荒れていた。

「くそっ! 一体人間達は何を考えているんだ!」

 壁を叩き、今日の審議への不満をぶつぶつ呟いているルギアを見かね、ホウオウが自らの翼でルギアを包みながらなだめる。

「落ちついてくださいよ、ルギア」
「……お前だって今日の人間側の提案はいきすぎてると思うだろ? 特に最近は俺達ポケモン抜きで色々やってるんだぞ」
「たしかにそうですが……」

 ここ数年、人間とポケモンの話し合いの場は設けられるものの、ポケモン側の言い分が通ることは少なくなっていた。ひどい時にはポケモン側には何も伝えられず、人間のみで勝手に話を進めていたときもあったのだ。

「以前は……ポケエデンにいる人間もポケモンも……心やさしいものばかりでした。……ですが、最近は心が醜くなってしまったものが増えてきているのも確かですね」
「あぁ……ダラーグみたいな連中も、数十年前まではいなかったのに……どうしてこんなことに……」

 昔は犯罪など本当に数えるほどで、天災などで食糧が少なくなった時でも、人間とポケモンはお互いに限りある食べ物を分け合い、励まし合いながら辛抱強く乗り切っていた。……だが、最近は至る所で様々な事件が起きて住民を不安にさせている。

「俺達……どこかで、何か間違ってしまったのか?」
「分かりません……」

 今と昔の変わりようを思い、ルギアとホウオウはうつむいて沈黙する。しばらく静寂が続いた後、ルギアが思い立ったように立ちあがった。

「……よし! 町に行こう!」
「えぇっ、どうしたんですかいきなり……」

 ホウオウはきょとんとした表情でルギアの方を見つめる。

「気晴らしだよ、気晴らし。おまえも来いよ、ホウオウ」
「はぁ……」

 突然の提案に少々戸惑いつつも、ホウオウは入口に向かうルギアの後を追う。

――――――――――

「あ! ルギア様! ホウオウ様! こんにちわ!」
「おう」
「こんにちわ。皆さん」

 町へと姿を現したルギアとホウオウの周りに、人間とポケモンが集まってくる。挨拶を交わし、たわいもない会話で笑いあい、せがむ子供を背に乗せて空を飛んだり……一段落したときには日もだいぶ傾いていた。

「あの出来事からみんなようやく立ち直ってくれたんだな。こっちも元気をもらえたよ」
「そうですね。人々のあの太陽の輝きのような笑顔をしっかり守ること、それが私達の使命ですよ」

 ルギアとホウオウは互いに並んで町の方を眺める。町にくる前とは違い、二匹の表情は和らいでいた。こんな穏やかな時がいつまでも続けばいいな……ルギアがそんな事を考えていた時だった。

「ルギア様ー!」

 上空から聞こえてきたその声は、どこか慌てた様子でルギアを呼ぶ。その声にルギアとホウオウが空を見上げると、水色の体に一組の長い翼と長い尾を持ち、青白い羽毛と頭には三つのひし形の飾りを持った冷凍ポケモン、フリーザーが血相を変えてルギアめがけて飛んできた。目の前に乱暴に着地したフリーザーの様子に、ただ事じゃないなと感じたルギアの表情が厳しくなる。

「フリーザーか。どうかしたのか?」
「い、今……海上で、突然大きな嵐が発生……し、しかもこちらに向かっていて……」

 よほど慌てていたのか、息を切らしつつも報告するフリーザーの言葉にルギアと共にホウオウの表情も険しいものになっていく。

「嵐だって? ……場所は?」
「み、南の海岸から……南南西に数十キロの沖合で……は、早ければ、明日未明にもポケエデンを直撃するかと……」

 フリーザーの言葉に、ルギアが改めて空を見上げる。先ほどより雲の流れが速くなっており、周囲の木々も風に吹かれて枝葉を鳴らしていた。

「たしかに風も強くなってきているな……フリーザー、おまえは念のために皆を議会場へ集めてくれ。私は現場へ向かう」
「分かりました!」

 ルギアからの指示を受け、フリーザーが翼を広げて町の方へと飛び立った。議会場は、なにかあったときには避難所としても使えるように作られていた。これまでにも大きな災害が起こったときには民衆は議会場へと避難し、難を逃れてきたのだ。フリーザーを見送ると、ルギアが南を向いてその翼を大きく広げる。

「ルギア、私も行きましょう」
「あぁ頼む」

 ルギアに続いてホウオウも翼を広げると、二匹が大きく羽ばたいて地面を蹴った。

――――――――――

 大空へと飛び上がった二匹が、南の海岸へ近づいていくにしたがい、どんどん風が強くなっていく。前方に見える黒く染まった空をにらみながら、二匹は海岸の上空へとやってきた。

「ルギア様、ホウオウ様。お待ちしておりました!」

 南の海岸に降り立ったルギアとホウオウを、翼や尾はその先端が鋭くとがっており、長く伸びたくちばしに黄色と黒を基調とした体を持った電撃ポケモンの名を持つサンダーと、たてがみと尻尾と翼は炎のように見える、薄い黄色の体を持った火炎ポケモンの名を持つファイヤーが出迎える。海岸にはかなり強い風が吹き付けており、普段は穏やかな海も荒れ狂っていた。体に吹きつける風には雨も混じっており、四匹の体を濡らしていく。もっとも、ファイヤーは濡れたその場で、自らの体から発する炎の熱気ですぐさま蒸発しているのだが。

「確かに……相当大きな嵐ですね……」

 ホウオウがぽつりとつぶやいた。海岸から見えるその嵐は、不気味に空を覆っている。時々、黒い雲の隙間から稲光が見えていた。

「……あの嵐は勢力を強めながら、この海岸めがけて進んでいます。そして、その進路上には町が……」

 サンダーの言葉に、ルギアが町の方角に顔を向ける。今いる海岸から町まではそれほど離れておらず、普通に歩いても1時間はかからない距離だ。

「このままでは今夜にも町を直撃してしまいそうだな……進路をそらすことはできないか?」
「これまでに前例がないほどの大きな嵐ですから……進路をそらすのは容易ではないかと……」

 ルギアの問いかけに、ファイヤーが険しい顔で返す。たしかに目の前に見える嵐はかなり大きく、ちょっとやそっとの事では進路など変わらないだろう。あれだけ大きな嵐を見るのは、ルギアもホウオウも初めてだった。

「ですが、やるしかないでしょう。私達で皆を守るのです!」
「あぁ。そうだな。やるだけやってみるとしよう!」

 ホウオウとルギアが嵐に向かって海岸を飛び立った。ほどなくして嵐の海域にたどり着いたが、姿勢を保つことさえ困難なほどの雨混じりの強風が吹き荒れている。気を抜くと、ルギアもホウオウも吹き飛ばされてしまいそうなほどの強い風が行く手を阻んでいた。

「くっ……これほどの風とは……」
「こんなに強い嵐……上陸させるわけにはいかないぞ……!!」

 これまでに体験した事のない風に、険しい表情で必死に抗う二匹。風に混じって体に打ちつける雨粒が、まるで針を刺されたように体に食い込む。

「ホウオウ! あまり長くここにいることはできない! 始めるぞ!」
「そうですね!」

 ルギアとホウオウは、この嵐をなんとかしようと技を撃ち出す態勢に入った。強風の中、姿勢を保ちながら力を貯めていく。二匹は、互いに視線で合図を送ると同時に技を放った。ルギアは大きく吸い込んだ空気を一気に撃ちだす[エアロブラスト]を、ホウオウは口から強力な炎をはきだす[せいなるほのお]を。嵐の雲にめがけて撃ち込まれた二匹の技は、互いに交差しあってルギアだけでもホウオウだけでも出せない強力な爆発を引き起こす。大きな爆発の後、一瞬風が止んだように見えたが、爆風はすぐに吹き荒れる強風の中へと取り込まれてしまった。少しは雲をちらす事はできたようだが、それでもなお衰える様子を見せない嵐は、雷鳴を響かせながら何かの生き物のように不気味に光る。

「くそっ、俺とホウオウの連携技でもこの程度か!」
「ルギア! もう一度……うわっ!」

 もう一度連携技を放とうとするルギアとホウオウだったが、風がさらに強くなり技を放つどころかその場にとどまるのも困難になっていた。容赦なく吹きつける雨風が二匹の体力を奪い続けている事も拍車をかける。

「なんて大嵐だ!!」
「これ以上ここにいると私たちまで危険です! 一度海岸に戻りましょう!」

 ルギアとホウオウは、一旦海岸へと戻ることにした。なんとか海岸にたどり着いた二匹は、海岸に降り立つと荒れた息を整える。少しして、ルギアとホウオウのそばへと駆け寄る3つの影が姿を現した。ホウオウが気配に気づいて振り返ると、エンテイ、ライコウ、スイクンの姿がそこにあった。

「ルギア様、ホウオウ様、大丈夫ですか?」
「俺たちなら大丈夫だ……それよりも、お前らなんでここに……」

 茶色い獅子のような姿と、火山ポケモンの名を象徴するような噴煙を思わせるたてがみを持ち、背中に薄くとがった岩のような部位と顔には仮面のような装飾を持つエンテイの問いかけに、ルギアが答えて問い返す。次に口を開いたのは、虎のような姿と模様を持つ黄色い体に、雨雲のようなたてがみに鋭い牙を二本とファーのような白い毛を顔のまわりに持つ雷(いかずち)ポケモン、ライコウだった。

「我々にも、何かできる事はないかとかけつけた次第です!」
「そうですか、頼もしいですね。ところで……議会場への避難はどうなっていますか?」

 ライコウの言葉にホウオウは少し心強く感じつつ、避難状況について聞き返した。その質問に、ヒョウのようなしなやかで透明感のある白いひし形模様のついた水色の体を持ち、額に水晶を思わせる部位と薄い紫色のたてがみに細く白いベールのような二本の尾を持つオーロラポケモン、スイクンが答える。

「民衆の避難は進んでますが……まだ全体の半数ほどしか……」
「そうですか……あの嵐の速度は思ったよりも早いようです……。上陸は避けられないにしても、なんとか避難する時間は稼がなければ……」

 スイクンの言葉を聞き、ホウオウが嵐を見つめながらつぶやく。嵐は先ほどよりも大きく見えていた。それだけこちらに近づいているという事だろう。

「我々も援護いたします!」
「とにかく時間を稼ぎましょう!」

 海岸で待機していたファイヤーとサンダーも士気を高める。

「よし! 最低でも皆が避難を完了するまでの時間は稼ぐぞ!!」
「エンテイ達は町に戻って皆を守ってください!」

 ルギアとホウオウが再び嵐に向かって飛び立つと、ファイヤーとサンダーがそれに続く。エンテイ、ライコウ、スイクンはそれを見送ると、町に向かって走り出した。再び嵐と対峙するルギアとホウオウ、そしてファイヤーとサンダーがそれぞれ技を嵐めがけて放つ。自らが吹き飛ばされそうなほどの強風と、体に突き刺さるような風雨と格闘しながらも、四匹の技は嵐の勢いを徐々にではあるが削いでいった。

「うわわっ!」
「気をつけろサンダー!! 気を抜くと吹き飛ばされるぞ!」
「ファイヤー! 同時にいきますよ!」
「はい!」

 ルギア、ホウオウ、サンダー、ファイヤーはそれぞれ支え合い、連携しながら着実に嵐を弱らせていく。だが、まだその勢いはすさまじいものがあった。そんな嵐との格闘を続ける四匹の元に、フリーザーもかけつける。一緒に、ラティアスとラティオスも応援に駆け付けた。

「ルギア様! 大丈夫ですか!」
「フリーザー、それとラティアスにラティオスか!」
「町の方はダークライやクレセリア達に任せてきた! 僕たちも加勢する!」
「私も手伝います!」

 フリーザー、ラティアス、ラティオスもルギア達に並んで嵐へと技を撃ち込んでいく。嵐との格闘はその後、数時間にも及んだ。

――――――――――

「はぁ……はぁ……」

 海岸で大きく息をするルギア達を、すっかり暗くなった空から月が照らす。ルギア達の努力の結果、嵐を完全に四散させることに成功したのだ。海も穏やかな表情を取り戻し、風もやさしくルギア達をなでるように吹き抜ける。

「な……なんとか……嵐を……止められましたね……」
「で……でも……疲れた……」
「うぅ……おなかすいたぁ……オボンの実が食べたいよぉ……」

 嵐を四散させることにすべての体力を注ぎ込んだ七匹は完全に疲労困憊していた。フリーザー、サンダー、ファイヤーに至っては力を使い果たして眠ってしまっている。

「ホウオウ様ぁ~!」

 体を砂浜の上に投げ出して休んでいる七匹の元へ、スイクンが駆け寄ってきた。その姿を確認したホウオウがゆっくりと起き上がる。

「スイクン……嵐は……もう無くなりました……避難している皆さんにもう心配しなくても大丈夫だと伝えてください」
「本当ですか! お疲れさまです、皆さん!」
「私達はもう少し休んで、体力を回復させてから戻りますので……」
「分かりました。では失礼します」

 スイクンは連絡の為に町へと一足先に引き返す。それを見送っていたホウオウの横で、ルギアが起き上がっていた。

「しかし……でかい嵐だったなぁ……」
「えぇ……とにかく疲れましたよ……」

 少し海岸で休んだ後、町へと戻ったルギア達は疲れからか、家に着くなりすぐに深い眠りへと落ちた。町のほうでは、無事を喜ぶ人間とポケモンが朝まで騒いでいた。

――――――――――

 数日後、ルギアの家にフリーザーがたずねて来ていた。そのフリーザーの言葉にルギアが驚く。

「なんだと! どういうことだ、ダラーグの捕縛のために今朝討伐隊が出動したって!」
「わ、わたしにも分かりませんよ。私自身も今朝報告を受けたので、ルギア様に確認しようと……」

 ルギアに揺さぶられながら、フリーザーが話す。 

「俺もそんな話は聞いて……くそっ! また人間達か!」

 怒りに震えたルギアが家を飛び出した。議会場に向かう途中、同じく報告を受けたようで血相を変えたホウオウと合流する。

「ルギア! 今朝ダラーグ討伐隊が……」
「あぁ、俺もさっき聞いた。……今回ばかりは我慢ならん!」

 議会場についたルギアとホウオウが広場に降り立つ。議会場の扉をルギアが勢いよくあけると、すでにミュウやセレビィなどの他のポケモンたちがすでに集まっていた。皆一様に複雑な表情を浮かべている。

「……人間達は? まだ来ていないのか?」
「あぁ……我々も先ほど集まったところなんだが……」
「お兄ちゃん! ……ひゃんっ!」

 ルギアの問いかけにダークライが答えていると、議会場に飛び込んできたラティアスがルギアの背中にぶつかってひっくり返る。

「うおっと……大丈夫かラティアス?」
「いたたぁ……あ、ルギア様ごめんなさい」
「気にするな」

 ラティアスが謝りながら、差し出されたルギアの手をとって立ち上がる。

「どうした、ラティアス。そんなに慌てて……」
「あ、そうだった! 皆さん聞いてください!!」

 ラティオスの言葉に、思い出したようにラティアスがその場にいるポケモン達に呼びかける。一旦呼吸を整えてから、ラティアスが話しはじめた。

「さっき出動した討伐隊なんですが、代表になっている人間が直接指揮しているらしいんです!」
「なっ……! 僕たちに説明もなしに行くなんて……!」
「私たちに問い詰められるのが面倒だったんでしょうか」

 ラティアスの言葉に、ルギア達がざわつく。この前の話し合いの様子からすると、また以前のような状況になりかねない。むしろもっと悲劇を呼び込む可能性だって少なくなかった。

「私達も向かいましょう! このままでは……」
「あぁ、急ぐぞ! とにかく討伐隊を止めるんだ!」

 ルギアとホウオウを先頭にポケモンたちは議会場を飛び出す。太陽は一番高い位置から、少し傾いていた。

――――――――――

 ルギア達は、町から離れた山間の盆地を見渡せる小高い丘の上に降り立つ。その盆地がダラーグの砦のある場所である。ルギア達がたどり着いた時には、すでにその場所はひとつの地獄絵図と化していた。

「これは……」

 丘の上で、ルギア達はただ茫然としていた。討伐隊とダラーグが盆地の中で血みどろの戦いを繰り広げている。人間とポケモンが入り乱れての乱闘は、地面に無数の屍を築き上げていった。丘の上でその様子を見つめるルギア達は、見ていることに耐えられない様子でうつむいたり、後ろを向いたりしている。

「なんてことを……」
「私達はこんなことを望んでなんかいないのに……。どうして……」

 目の前の盆地は狂気で満ちていた。なんとか止めようとして飛び出そうとしたホウオウを、ルギアが翼で行く手をさえぎり制止する。

「……無駄だ……ああなってしまっては止められん……」
「なぜ、彼らはここまで愚かな選択を……」

 手を出そうと思えば出せた。だがルギア達は落胆しながら、ただ時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。

――――――――――

 討伐隊とダラーグの戦いの様子を見守っていたのはルギア達だけではなかった。神と呼ばれるポケモンたちも別の次元から見ていたのだ。彼らはしばらく戦いを見守っていたが、やがて深い藍色の体に青白く光るラインが走り、全身を包むように白銀の装甲を身にまとう、胸にダイヤモンドのような結晶が輝く時間ポケモン、ディアルガが静かに口を開いた。

「人間の進化のスピードは、我々の想像をはるかに超えていたということか……。ここまで複雑な思考を持つ生き物になるとは……」

 ディアルガの横で、薄く紫がかった白色の体に円盤状になった両肩にはパールのような結晶を輝かせ、背中から翼のような二対のヒレ状の部位を持った空間ポケモン、パルキアも腕を組んで考え込んでいた。

「ポケモンには、人間にはないさまざまな能力や特性がある。……だが、一方でポケモンには持ちえない何かを持っているのも人間だ……」

 銀色の体の至る所に金色のリング状の装飾を持ち、首の前面に赤と黒の縞模様と赤いトゲの生えた黒い翼を持った六本足の反骨ポケモン、ギラティナも、パルキアの言葉に続けるように口を開く。

「嫉妬、憎悪、怨恨、欲望……それらの感情はポケモンよりもはるかに強い。だがその一方で、相手に対する思いやりや愛情が強いのも人間だ。……ここまで複雑な感情を持つ生き物は今までに例がない」

 少し、沈黙が空間を包む。その沈黙を破ったのは、白馬を思わせるような細くしなやかな純白の体に、頭にはたてがみ状の長い突起と胴体には緑色の宝石を埋め込まれた車輪のような金属的な質感の装飾を持った創造ポケモン、アルセウスだった。

「人間とポケモン……両者は共に生きるべきではないのだろうか……皆はどう思う?」

 アルセウスの問いかけに、ディアルガが口を開いた。

「……今回のことで、人間にもポケモンにも……お互いを見限るものたちが出てくるのは確実だと思う」
「だが……それでもお互いに信じようとするものたちもいるだろう」
「いずれにしても、このままでは世界そのものが危うくなるのは目に見えているのではないだろうか」

 パルキア、ディアルガも続けて意見を述べていく。その意見を受けて、アルセウスは少し考え込むとディアルガ達を見渡して口を開いた。 

「……ではこうしよう。世界を二つに分かち、一方の世界にはポケモンだけを、そしてもう一方の世界はこれまで通り人間とポケモンを共存させるのだ」

 世界を二つに分ける……アルセウスの提案にディアルガ達は少し戸惑いを見せる。彼らの力をもってすれば、今の世界を二つにわけることは可能ではあるだろうが。

「だが……なぜ二つなのだ? ポケモンのみの世界を作るのであれば、人間のみの世界を作らなくていいのか?」
「……人間のみの世界を作ると、おそらくその世界は長くは持たない……今の人間を見ているとなぜかそういう気がしてならないのだ。……今回は二つに分け、人間だけの世界を作るのはまた次に問題が起こったときに考えればよい」

 ギラティナの問いかけに、アルセウスが返答する。ディアルガ達も、根拠はないが心のどこかで納得したようだった。

「人間とポケモン……互いに分かりあう事はできるはずだ……我々はもう一度、人間とポケモンが上手く共存できると信じよう……」

 アルセウスの言葉に、三匹はゆっくりとうなずいた。

――――――――――

 ただただ茫然としているルギア達の上空が急に明るくなる。その光は、柱となってまっすぐにルギア達へと降りてくる。突然の事に、ルギア達は我に返って空を見上げた。

「……え?」
「なんでしょう……この光は……」

 その光の柱を通るように、三匹のポケモンが現れる。何が起こっているのか分からないルギア達を空から見下ろしながら、天空から降りてきたポケモンが語りだす。

「ポケエデンに住む皆さん、こんにちわ。私たちは世界を作った神、アルセウス様よりあなたたちにメッセージをお伝えに来ました。私はエムリット、一緒にいるのは右がアグノム、左がユクシーです」
「神の……メッセージだと……?」

 薄い水色の体と桃色の頭部から四つの突起状の部位が伸び、額に赤い結晶体と先端が中央に赤い結晶を埋め込んだカエデのような形状の尾を二本持った妖精のような容姿の感情ポケモン、エムリットの言葉に、ルギアが空に浮かぶエムリット達を見てつぶやいた。ホウオウも、ルギアの横に並んでエムリット達を見上げる。

「それで、エムリットさん。神のメッセージとは一体何でしょうか」

 ホウオウからの問いかけに答えたのは、額の赤い結晶体と体つきはエムリットと同じだが、頭部は青く三角状の突起が頭上と顔の左右に出ている意思ポケモン、アグノムだった。

「アルセウス様は、この世界を二つに分けることを決められた。ひとつはこれまで通りポケモンと人間が共存する世界。もうひとつはポケモンだけの世界。二つの世界は見えない壁によってへただれる」
「世界を……二つに……?」

 ルギア達は、アグノムの言葉に戸惑いをかくす事が出来なかった。突然世界を二つに分けるといわれても思考が追いつかない、ほとんどのものがそうだった。思考が追いついていないルギア達を余所に、額の赤い結晶体と体つきはエムリットやアグノムと同じで、頭部は黄色くヘルメット状の部位が覆う知識ポケモン、ユクシーが淡々と続ける。

「基本的に二つの世界を行き来する事はできなくなります。ですが、あなたたちには二つの世界を行き来できる力を与えます。そして、人間とポケモンは互いに会話する能力を失います。ポケモン側からテレパシーを使って会話を交わす事はできますが……」
「……なぜ、私達なのですか? それに、会話する能力を失うというのは……なぜでしょう……」

 ユクシーの言葉を受けて、ようやく思考の追いついたホウオウが言葉を投げかける。なぜ自分たちに特別な力が与えられるのか、なぜ人間とポケモンが会話できなくなるのか、素直に疑問に思ったからだ。

「人間とポケモン……あなたたちには二つの存在が上手く共存していけるのか、見守る立場になってほしいのです。そして、会話を出来なくするのは人間とポケモンが共存していくためには邪魔になるとアルセウス様が判断されたからです」

 ホウオウの疑問に、エムリットが単調に答えていく。少し間が空き、エムリットが「何か他に聞いておきたい事は?」と聞くと、ルギアが口を開いた。

「俺達はこれまで、いい意味でも悪い意味でも人間と共に暮らしてきた。ポケモンだけの世界を作るのは結構だが、ポケモン達だけで解決できないような事態が起こったらどうするつもりなんだ?」

 ルギア自身は、これからも人間とポケモンが共に生きていく世界であればいいと思っていた。そして、人間がポケモンの力を必要とするように、ポケモンも人間の力が必要な時が来るとも思っている。ポケモンだけの世界を作って、仮にそんな状況になったときにどうするのかだけは聞いておきたかったのだ。ルギアの問いかけに、エムリットが静かに答える。

「もし……ポケモンだけの世界に、ポケモンの力だけでは解決できないような事態が起こるようならば……その時は選ばれし人間がポケモンだけの世界へと現れるでしょう」
「選ばれし……人間……?」

 確かに、仮に人間が現れたとしても非協力的だったり、ポケモンを嫌っているような人間では困る。選ばれる基準はよくわからないが、それは神であるアルセウスが決める事なのだろう。だが、人間とポケモンはもうすぐ会話が出来なくなる……それに、いくら世界を分けたとしても絶対にお互いの世界を行き来できないとは言い切れない。どうやって選ばれし人間だと見分ければいいのだろうか。その疑問を察したように、エムリットが続ける。

「……選ばれし人間はその証として、ポケモンたちと会話ができるようになっているでしょう」

 まだ戸惑うポケモンも少なからずいたが、エムリット達のメッセージは理解していた。自分たちが世界を見守る役目を担う……数匹は緊張した様子を見せている。

「……では、これから世界は二つとなります。……世界を見守る役目……任せましたよ……」

 次の瞬間、世界が黄金色の光に包まれた。

――――――――――

 滝つぼへと、水が勢いよく流れおちる音が絶え間なく続いている。そんな大きな滝のある川岸で、緑色の体に黄色くふちどりされた大きな瞳を持ち、とがった鼻先を持つ顔と首から一対の黄色い触角状の突起、草のような両腕とカエデの葉を思わせる大きな尾を持った細長い体の草蛇ポケモンのツタージャが、青い体に黒い鎧状の甲羅を持つカメのような容姿を持ち、大きなヒレ状の腕にマスクのような殻を顔につけた古代亀ポケモン、アバゴーラから話を聞いていた。

「……こうして世界は二つに分かれ、今わしたちのいるこの場所には人間は一人もいなくなったのじゃよ」
「へぇ……」

 ツタージャは毎日のように川岸にやってきては、そこに住んでいる年老いたアバゴーラの昔話を聞くのが大好きで、今日も楽しみにしていた。

「ねぇ、アバゴーラのおじいちゃん。僕も人間に会いたいなぁ」
「ほっほっほっ、滅多な事をいうもんじゃないよリーセル。人間がこの世界に来る時は、この世界に危険が迫っているという事なんじゃから」

 リーセルと呼ばれたツタージャの頭をなでながら、アバゴーラは笑う。リーセルはちょっぴり残念そうに口をとがらせた。

「……それよりも、リーセル。お前さん、明日からギルドに入門するそうじゃないか」
「あ、聞いてたの? そうなんだ、僕だって皆の役に立ちたいからね!」

 最近この世界のあちこちには不思議なダンジョンがいくつも発見されており、それにあわせてわるいことをしておたずねものになるポケモンが増えてきている。そんな中で急速に増えてきていたのが探検隊だ。彼らはダンジョンを探検したり、おたずねものを捕まえたり、困ったポケモンを助けたりするのを仕事とするポケモン達で、最近は探検隊を作る事が周辺のポケモン達の夢でもあった。探検隊になるには、各地につくられたギルドに入門して住み込みで修行しなければならなかった。

「そうか……じゃあリーセルとしばらく会えなくなるのぉ……」
「うん……あ、でも会おうと思えばいつでも会えるからさびしがらないで!」
「あぁ、がんばりなさいリーセル。くれぐれも無茶はせんようにな」

 アバゴーラの言葉に、リーセルが大きくうなずく。それを見ると、アバゴーラが甲羅の中から何かを取り出してリーセルに差し出した。

「……じゃあ、少し早いが……わしからリーセルへギルド入門のお祝いにプレゼントじゃよ」
「うわぁ!! モモンスカーフだぁ! ありがとう、アバゴーラのおじいちゃん!」

リーセルはよろこんでモモンスカーフを受け取ると、早速自分の首に巻いてみる。よく似合ってるよとアバゴーラに褒められてリーセルは上機嫌になっていた。

「それじゃあ、明日は早いし今日は帰るね」
「あぁ、気をつけてな」

モモンスカーフを揺らしながら、鼻歌交じりに帰路につくリーセル……翌日、自分が大きな運命の歯車に取り込まれていくことになるのを、彼はこの時点で知る由もなかった……。

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