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果て無き冒険の導き 第一話~第二話 の変更点


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writer is [[双牙連刃]]
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''第一話 闇を駆ける影二つ''

……冒険の始まりに特別なことがあるとは限らない。
ちょっとした散歩や誰かからの頼みごと、
そんな他愛のない日常の一部にも冒険が隠れてる。
今を退屈だと思う人は冒険に気づいてないだけなのかも。
そう……冒険は、彼方の胸がドキドキした時、始まっている……のかもしれない。



薄暗い道を二つの影が走り抜けていく。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……」
「ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、……」

呼吸は荒く、限界はもう、そう遠くないようだ。
なぜ二人はそんなに走り回っているのだろうか?

「何とか、はぁ、逃げ切れたかな?」
「分かんない、けど、そうとう差は出来たんじゃないかな」

二人はどうやら何かから逃げているらしい。
息を整えながらしばらく辺りの様子を伺っている。

「……! この感じは!」
「まだ追ってきてんの!? 勘弁してよぉ」

一人が何かに感付き、もう一人がその様子を見て情けない声を上げる。
二人を追い掛け回している者が、どうやら近くに居るようだ。

二人が通ってきた道を振り返ると
二人の身長を足しても足りないほどの大きな身体が二人に向かってきていた。
ゴーストタイプポケモン・ヨノワール
どうやら此処の番人をしているようだ。

「出ぇたぁぁぁぁあぁぁあ!!!」
「叫んでないで早く走って!」

ヨノワールの姿を確認するやいなや、二人は身を翻して走った。

「何でこんな所に、ぜぇ、あんな奴が、はぁ、居るんだよぉぉぉ!」
「走りながら喋ったら舌噛むよ!」

相手の身体が大きいせいか、素早さなら二人に分があるようだ。

「マテ……ニガサナイ……」
「なんか言ってらっしゃる~、なんか言ってらっしゃるよ~」
「もう怖すぎて涙も出ないよ……」

二人がヨノワールとの全力鬼ごっこを始めてすでに30分経過している。
いくら素早さが勝っていても、相手は肉体的疲れが存在しないであろうゴーストタイプだ、
このままではいずれ確実に捕まるだろう。
そうなったら何をされるか分かったものじゃない。
二人は後ろから来る大きなプレッシャーに耐えながら走り続けていた。

何個目になったか分からない曲がり角を曲がった先で一人が何かを見つけた。

「あそこ、あそこ! 部屋がある! あんなか入ろう!」
「賛成! もう走るのも限界だよぉ」

涙声になりながらも、もう一人が返事をした。
滑り込むように部屋の中に入り、二人は入り口横の壁に張り付き息を殺す。

「……? ドコエ……キエタ?」

ヨノワールがすぅ~っと部屋の入り口を通り過ぎ、奥の闇へと消えていく……。

「助かった……かな?」
「もうヘトヘトだよ……」

安心感からか、二人は部屋の真ん中へ来てへたり込んだ。
「まったく……あんなのが居るんなら誰か教えてくれても良いと思うんだけど!」
「しょうがないよ。他の人は誰も此処に入ったことないって言ってたでしょ?
此処にヨノワールが居るなんて誰も知らないんだよ」
「そりゃあそう言ってたけどさ? あれは流石に無いと僕は思うよ?」
「まぁ、ね。走ってる間に頭クラクラしてきたよ」

二人は疲れ切った身体を休めながら今の出来事の愚痴を漏らす。

「これからどうしよっか? また見つかって追いかけ回されるのは嫌だけど……」
「入り口探そう! 入り口じゃなくてもどっか出れる場所! 早く家に帰って休みたい!」
「うーん、それしかないか。よし、賛成。此処もいつ見つかるか分からないしね」
「うん! じゃあ、行こうよ!」

二人は入り口の方を向いた。

と、同時にピシッと言う音が床から聞こえてくる。

「!!? なんの……音?」
「おとぉ~? 音なんて聞こえた?」

ピシッ! ピシピシピシッ!
音がドンドン増えていく。

「聞こえた……よね?」
「聞こえなぁ~い、なんにも聞こえなぁ~い」
「涙目になってるってことは聞こえたんだね」

ピシッ! ベキッ! バキバキバキバキッ!

「ねぇ、僕もう全力で泣いていい? 堪えられそうにないんだけど?」
「いいんじゃないかな? 僕も泣きそうだし」

ドゴォン! と言う音と共に部屋だった場所は、穴へと姿を変えていく。

「いぃぃぃやぁぁぁだぁよぉぉぉぉ…」
「やっぱりぃぃぃぃぃぃ…」

泣き叫ぶ二人を穴は容赦なく吸い込んでいった。
まるで二人を嘲笑うかのように…。
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''第二話  きっかけ''

暗い……真っ暗だよ……。
身体は……痛いなぁ……。
どうして、此処に居るんだっけ?
どうして、こんなことに……。
考えなきゃ、ここに居る理由。
考えなきゃ……暗闇に押し潰されちゃいそうだよ……。
思い出そう、僕は……昨日……。



ふぁぁぁ、ちょっと眠いなぁ……でもこの時間が僕は好きなんだよねぇ。
朝六時、太陽がゆっくり昇ってきて周りが明るくなってく。
家が、草が、大地が、キラキラ光っていくみたいだよ。

「おばさんおはよう! パンとりんご二つずつちょうだい!
あ、それとこれが昨日の分だよ」
「おはようレイブ。いつものだね、ちょっと待ってておくれ」

そう言っておばさんは僕が差し出した木の実を数え始める。
毎日そうなんだけど昨日は大漁だったし、数えるのも大変かもなぁ。

僕の名前はレイブ。
雄のリオルで、この村に居るのは今年で五年目、
というか生まれて五年て言ったほうが早いかな?。
力仕事はそれなりに出来るんだけど、大人が危ないからってやらせてくれない。
だから、木の実を集めてきておばさんに換金してもらって生活してます。

「ふぅ、ずいぶん頑張ったねぇ……木の実五十八個、痛んでるのも無いしこのまま買い取るよ」

自分で言うのもなんだけどこれだけの数はそうそう集まらないんだよね。
でもちょっと頑張りすぎたかな?おばさん数えるのに疲れてるよ……

「えっと…木の実一個20ポケで……パンとりんごの代金引くと……
待たせたね、1060ポケとパンとりんご、確かに渡したよ」
「いつもアリガトおばさん」
「レイブが頑張ってるんだ、これ位しないとねぇ」
「僕一人じゃこんなに集められないけどね。でも、明日持ってくるときはもう少し少なめだと助かるわぁ
朝から疲れてしまうからねぇ」
「あはは、うん、そうするよ」

僕はおばさんに手を振りお店を後にする。

毎朝の朝食の調達と木の実の出荷が僕の日課。
いつもやってることだからもう慣れちゃった。

ゆっくりと動き出す村の時間、さぁ、一日の始まりだ。

さてと、家に帰る間退屈だし、ちょっと村のことの説明でも考えよう。

僕の村……名前はアス、小さな島のたった一つの村。
名前の由来はアス島にある村だからアス……そのまんまだな。
暮らしてるのは僕も含めて15人、皆いい人だよ。
で、村を治める村長はフローゼル、僕の育ての親だったりする。ちなみに雄です。
名所としては村から少し離れた所に開かずの遺跡ってところがあるね。
誰がやっても開いたことが無い扉がある、ちょっと……というかかなり変な遺跡だね。行った事は無いけど。

こんなところかな? 前に旅人さんに聞かれてしどろもどろになっちゃったんだよね。
自分の村のことぐらい分からないと恥ずかしいしね。

そんなことを考えてる内に自分の家に到着~
さてと、まずすることは……

「カルクく~ん、朝だよ~、起きて~」

一緒に暮らしてる住人を起こすことだったりする。

「ん~? もう朝なの? もう少し寝さ……」
「おはようカルク、ほらほら起きて朝ご飯食べよ? 僕お腹空いたよ」
「ん~……おはようレイブ。そんじゃおやすみ……」

今日の寝起きは一段としぶといねカルクさん。
昨日木の実探してて結構遅くなっちゃったからな、僕も眠かったし……
よ~し、最終手段発動だ。
僕はカルクの寝ているベッドの上に飛び込む。

「ゴホォウ!」
「起きないと僕もこのままゴロゴロするけど?」
「起きる! 起きるから! レイブごめんて!」

ここまですれば誰でも起きるよねぇ。カルクの驚いた顔が面白いよ。

彼はカルク。
ピカチュウの雄で、僕とは同い年。
僕と一緒に村長様のところで育てられたんだ。
今は村長様の家から出て、僕と一緒に暮らしてる……のはさっき言ったっけ。

「まったく……いきなり飛び乗られるこっちの身にもなってよ? 無防備だからかなり辛い!」
「最初に素直に起きないからでしょ! さ、朝ご飯食べよ?」
「はぁ……分かった、行くよ」

僕は買ってきたパンとりんごをテーブルに並べる。

「ふぁぁ……昨日遅かったんだしさぁ、もうちょっと寝てても
良いんじゃないの~レイブ~」

椅子に腰掛けてもまだ眠いのねカルクは、

「毎日の習慣で起きちゃったんだからしょうがないでしょ。
……あんまり眠そうだからこっちもまた眠くなりそうだよ」
「因果な習慣だ~ね~」
「誰かさんがたまには早く起きて交代してくれれば
もう少し眠れると思うんだけど!」

皮肉も言いたくなるくらい寝覚めが悪いよねぇ……

「ゴメンゴメン、さぁ! 朝ご飯朝ご飯!」
「食事になると元気になるねぇ……それじゃ!」
「いっただっきまーす!」
「……挨拶ぐらい合わせようよ……」

きまぐれな性格のカルクが時どき羨ましいよ……僕ももう少し気楽に考えられたらなぁ……

「ところで、今日はどこ行こうか? 昨日大体島の周りは歩き回ったよね」
「んぐ? そうだなぁ……今日は休んじゃおっか!」
「……休むんだったら起きる意味ないでしょ! せめて技の訓練とかさぁ……」

はぁ……なんか疲れた……いや、いつもそうなんだけど……
育ての親が一緒だとは思えないほどの違いだよなぁ。

「あーーーー!」
「な、何!? どうしたの!?」

会話の途中で急に叫んだからビックリしたよ。
何か思い出したのかな?

「じ、じじじ、じいちゃ、い、いせ、いせ!」
「落ち着いてよカルク! 何言ってるか全然分かんないよ」
「じいちゃんから頼まれたことすっかり忘れてたーーーー!」
「………ハイーーーーー!? 村長様からの頼みごと!? 僕知らないよ!?」
「ヤバイヤバイヤバイ! どうしよう……何とかしないとこの世から消される……」
「大げさすぎる気も……しないな。どうするの! ていうか頼みって何!?」

村長様は僕らの育ての親であると同時に戦い方を教えてくれた人でもあるんだ。
別に厳しいわけじゃないんだけど鍛え方の次元が違いすぎるんだよ。
前見たときは自分の三倍くらいある木を引っこ抜いて笑顔で振り回してたっけ……
僕らが村長様の家を出たのも、八割は迷惑掛けたくなかったからなんだけど、
もう二割は、鍛えてるのを見て、若干、命の危険を感じたからなんだ……

「遺跡行って、前に植えたモモンの実の様子を見てきてくれって!」
「それくらいのことかぁ……なんだ、脅かさないでよ」
「二日前だったりするんだけど……」
「すぐ行こう! 支度出来てるよね!?」
「部屋からゴーグル持ってくれば行ける!」
「OK! 急ごう!」

まったく……大事なことは忘れないでほしいよカルクくん……
二日も経ってるのか……モモンの実の無事を祈るしかないな。
とにかく急いで遺跡まで行かなくちゃ!

「う~……モモンの実~……モモンの実は何処だ~……」

怖いってカルク……必死に探してるのは分かるけど。
普段の木の実探しもこれ位真面目にしてくれればなぁ。

「レイブなにしてんの! 早く探してよ!」
「わ、分かった分かった」

目が血走ってる……そんな顔で見ないでよ……

「あぁ、これで見つからなければ僕もレイブも大変なことに……」
「ぼ、僕関係無くない? 第一頼まれたのカルクだし」
「しょんな~、冷たいこと言いっこ無しでしょ? 僕ら、運命共同体でしょ?」
「同時に生まれたからって運命共同体って……」
「ねぇ~、見つからなかったら一緒に謝りに行こうよ~」
「はぁ、見つからなかったらね……って探してる内に見つからない時の相談してる場合じゃないでしょ!」

……運命共同体、か。
村長様から聞いた話が全て正しいって前提だとそうなるのかなぁ。
でも信じられないよ……突然目の前に僕らが現れたなんて……
正確に言えば僕らの卵だけどさ?
で、「この子達を守ってくれ」って聞こえて僕らを育て始めたって言ってたけど、
こんな話聞いたら僕も不安になるよ。
それまで親として慕ってた人がそんな話をしてきたんだ。
嘘だとしてもたちが悪い……本当だとしたら凄く迷惑な話……もちろん村長様が。
そんなこと生まれて一年の僕でも分かったよ。
だから僕たちは村長様の家を出た。
育ててくれたから……大事なことたくさん教えてくれたから……迷惑を、掛けたくなかった。

「あったーー! レイブ~見つけたよーー!」

あぁ、見つかったんだ、よかった。

カルクは村長様の話を聞いても嘘としか思わなかったみたい。
僕もそうだと思いたかった。
そうだったら何の問題も無く僕たちは村長様の子供で居られた。
僕たちのどちらかがブイゼルだったらね。
リオルとピカチュウ、それがフローぜルから生まれる訳が無いんだ。
仮にもう一人の親がルカリオなら僕は生まれる。
でも、カルクは、生まれてこれない。これる訳がない。
その逆もまた……
僕たち二人が同時に生まれたことが僕の信じたい気持ちを塞いだ。

「……? レイブどうした? なんで泣いてんの?」

気づかないうちに泣いちゃってた。
考えるのはやめよう。
僕とカルクが兄弟…みたいなもので村長様が育ての親、
そのことは変わらない。

「なんでもないよ、モモンの実も見つかったんだしちょっと休もうか」
「? うん……」

突然泣いてたから変な空気にしちゃった……なんか話題は……

「お、そうだ! 折角遺跡まで来たんだし、ちょっと見てこうよ!」
「あ? あぁ、いいけど……」

流石マイペースカルクくん、あっという間に空気を換えてくれるよ。
遺跡かぁ……興味はあったけどカルクがめんどくさがったから来たこと無かったんだよね。
大きな扉がある以外はボロボロになってて分かんないや。
これが……開かずの遺跡……の開かずの扉ね。
扉には……模様かな? 何かびっしり掘り込まれてるな。

「やっぱり開かないのかな? なんか普通に開きそうだけど」
「村の人も村長様も開かないって言ってたしね、そうなんじゃないかな」
「レイブ冷めてるねぇ~、こういうのにわくわくしないの?」
「そりゃあ、ちょっとはするけどさ……」

開いてるところを見たこと無いなんてやっぱり変だよ。
開けたらいけないから閉めたままなら分かるけど開いたことが無い?
じゃあ此処はいつからこのままなの?
大体誰が何の理由で開かなくしたの?
色々考えると開けちゃいけない気がするんだよね。
……でもそういうところって、どーしてもワクワクしちゃうんだよねぇ
開けてみたいなぁ……

「やっぱりちょっと開かないか試してみようか」
「んふふ~、やっぱりレイブも気になるんでしょ? じゃないと勇敢な性格がもったいないよ」
「言えてる」
「それじゃ、僕から試してみようかな~♪ 開いたら僕って[選ばれし者]!? カッコいい!」
「そういうお決まりみたいのは無いと思うけど……」

カルクが扉に挑戦しだした。
これで開いたら凄いよね!? 見てる僕としては詰まんないけど。




どの位経ったかな? 太陽がちょうど真上に来たよ。
カルクはまだ頑張ってる……飽きっぽいのに。
まぁ、ピクリともしてないんだけどね……扉は。
第一にこの扉取っ手みたいな物が無いから出来ることが少ないんだよね。

「ん! んんんん! ぬぅおぉぉぉををを!」
「カルク~諦めたら? そろそろお昼だよ?」
「くはぁ! ……無理無理! 押しても引いても横に開くのも全部無理!」
「見てれば分かるよ。やっぱり開かないか」
「第一、僕は力が並のポケモンより低いし……レイブやってみなよ!」
「え~? なんか無理な予感しかしないよ? お腹も減ってきたし……」
「やってみてよぉ、一人だけ疲れたら僕馬鹿みたいジャン! レイブは力強いし」

村長様が開けられなかった時点で力は関係ないと思うんだけど……

「ふぅ、分かったよ」

扉に手を当ててみると思ったより全然すんなり開きそうだよ。
石造りだけどところどころヒビ入ってるし、最悪、殴ったりしたら壊れるんじゃないかな?
僕は並のリオルより力……素早さなんかも総じて高いって村長様言ってたっけ、特功以外は……

「む! んくぅ! とぉぉりやぁぁぁぁ!」」

……大体試せそうなことはカルクと同じようにやった。
壊せるかな? っていう疑問の通りに挑戦したけど……僕の手の方が壊れそうだよ。

「やっぱり駄目だね、開かないや」
「レイブも駄目か……なんかこう、冒険物語みたいにうまくいかないもんかな」
「物語は物語、現実はこんなものだよ」
「寂しいこと言わないでよレイブ……はぁ……」

カルクが僕の隣まで来て扉にもたれ掛かった。
僕としてもちょっと期待してたところがあるからカルクの気持ちは分かる。

「……ドキドキしたんだけどな……」

聞こえないように独り言言ってみた。
いざ開かないとなると中が気になるな。 
隙間から覗けないかなぁ。

「!? わっ……」

一瞬の事で何が起きたか分からなかった。
身体が……浮いてる? ……違う! 目の前にあった筈の扉が無くなってる!

「んにゃ! ……いてててて」

体重を支えてた扉がいきなり無くなったから思いっきり前のめりに転んだ……変な声付きで。
開いちゃったよ……でもなんで? さっきまでびくともしてなかったのに。
そういえば、僕がこうして倒れこんだって事は……

「カルク大丈……」

振り向いたらカルクが後頭部抑えてばたばたしてた。
無理もないか、僕と違って後ろ向きに倒れたことになるからね。

「カルク! しっかり!」
「いだい~、すんごくいだいよ~」

意識ははっきりしてる……よかった……
でもコブ出来てるな。痛そう。

「とりあえず起きてカルク! 扉消えたよ! 中に入れるよ!」
「うぅ~、もうちょっと心配してよ……」

凄い! 凄い凄い! 開かなかった扉が開いた!
中は暗いな! でもワクワクするよ!

「カルクどうしよう! 入ってみようか!」
「レイブ目が輝いちゃってるよ……こっちは痛い思いしたばかりなんだよ?」
「凄いなぁ! こんな風になってるんだ!」
「……聞いてない? こうなっちゃうとレイブ、しばらくこのままだなぁ」

中は薄暗くてよく分かんない! でも入れるってことが大事だよね! ワクワクするな~!

「! レイブあぶな……」
「へ? ……ぶっ!」

何々? 突然顔に何かぶつかって弾かれたよ。

「……いって言おうとしたけど間に合わなかったよ。レイブだいじょぶ?」
「……いだい」

は、鼻が……顔面が……潰れちゃうかと思った……
目の前には何にも無かったのに……

「うぅ、何が起こったの? ねぇ、カルク……」
「う~ん説明しても良いけど自分で見た方が早いよ。多分」
「ふぇ? 何を?」
「あれ」

カルクの指差した先は……遺跡の入り口
いや、カルクさん!? 僕はそこから弾かれたんですよ!?
何にも無いのは分かって……

「分かる……よね? レイブ」
「あぁ、そういうことだったんだ」

扉閉じてるーーーー!
で、僕は閉じる扉にぶつかった訳ね。
どれだけ扉閉じるの早いんだよ! 全然動いたの気づかなかったよ!
……開いたときのことをよーく思い出せば納得か。
あの時、扉は『消えた』んじゃなくてただ『開いた』だけだったのね……すんごく早く。

「え~、閉じちゃったのぉ? こういうのって一度開いたら開きっぱなしじゃないの?」
「ふっふっふ……現実と物語の違いだよレイブ」
「それさっき僕が言ったセリフ……」
「うん! ちょっとカッコよかったから言ってみた!」

カッコいい、かなぁ? 皮肉のつもりだったんだけど……
純粋なカルクの一言が僕の良心を傷つけていく……あんまり皮肉言わないでおこう……

で、問題は扉だよ。
折角開かずの扉が開いたのに何にも出来なかった。
正直悔しいな、入れたのに…

「扉閉じちゃったし、じいちゃんのところにモモンの実届けに帰ろうか?」
「え~!? それはないでしょカルク! 閉じちゃったけど……開いたのは事実だよ!?」
「そりゃそうだけどさ? 閉じちゃったのはどうしようもないじゃない?」
「だ~か~ら~、どうやったら開くか調べよ?」
「へ!? だって散々いろいろやったでしょ! 開いたのは偶然だって!」
「その偶然をもう一回起こしたいんだよぉ、ねぇ~お願い!」

此処で諦めたら絶対後悔する! 開け方さえ分かればいつでも入れるし!

「レイブ……冒険心に火が点くとキャラ変わるんだ……普段の僕みたい……」
「いいでしょ!? ちょっとだけだから!」
「分かったよぉ、ちょっとだけね?」
「やった! ありがとうカルク!」

よし! カルクの許可も出たし調査開始!
と、言いたいけどカルクの言った通りさっき大体のこと試したしな。
開いたときは確か……
中覗こうとしたんだっけ? ……やってみるか。

「レイブ……突然扉に張り付いてどうしたの?」
「あ、いや、さっきも覗こうとしてるとき開いたし、もしかしたらと思って」
「あ~そっかそっか、開いたときと同じことすれば確かに開くかも」
「でしょ? ……でも覗くのは関係ないみたいだね」
「そういえば僕、開いた時頭思い切りぶつけたっけ! 思い出したらまた痛くなってきた……」
「後で手当てしてあげるよ。……ん?」

そう言えばあの時は扉に……

「カルク、ちょっとそっちの扉に触れててくれない?」
「……? いいけど、どしたの急に?」
「僕の予想が正しければ……」

そっと目の前の扉に触れてみた。
手から扉のひんやりとした感覚が離れ暗闇が口を開ける……

「ビンゴ!」
「開いちゃったよ……レイブ凄い! 扉の秘密解いちゃったよ!」
「さっきから一人ずつ調べてたから駄目だったんだ。最初から二人で調べてたら
もっと早く気づけたかもね」

これで扉の問題はクリア! 後は中を探検するだけ! だけど……

「開け方分かったし、村長様のところにモモンの実届けに行こうか」
「あ、あれ? レイブさっきと反応が違う? てっきり中に入ろうって始まると思ったんだけど」
「僕は約束は守るよ? それに何の準備も無しに入ったら危険だし」
「それはそうだけど……ま、いっか! じいちゃんとこ行こう~」
「うん」

冷静になったら鼻がジンジンしてきてすっごく痛い……
正直冒険どころじゃなくなったのはカルクには言わなくていい……よね?

「レイブ置いてくよ~」
「あ、ゴメンゴメン、すぐ行くよ」

冒険はまた明日……楽しみだなぁ。
さて! 気持ち良く明日を迎えるために今日することは……

1、村長様にモモンの実を届ける。
2、自分たちの手当てをする。
3、明日の探検の準備をする。

こんなところかな?
まずは村長様の所に行かなきゃね……
大丈夫かなぁ……二日も頼みごとすっぽかしてたんだよね……
まぁ、行ってみないと分からないか。

「じいちゃん家に居るかな? 散歩してたら何処にいるか分かんないよね」
「うん……多分居ると思うけど、昼寝してるかもね」
「あ~そういえば僕たち朝から何にも食べてないね」
「遺跡で大分時間使ったからね、しょうがないよ」

そんな話をしてたらもう目の前は村だ。
……大げさに言ったけど、遺跡と村はほとんど離れてないから大した距離じゃないよ。

さてと、村長様の家に行かなきゃ……て、あれ?
村長様が僕たちの家の前に居る……
なんで? いつものこの時間は木の実探ししてるの知ってるはずなのに。

「カルク、村長様何してるんだろう?」
「へ? 何処に居るの?」
「僕たちの家の前だよ! 気づいてなかったの?」
「あ、ほんとだ。じいちゃんボケたのかな? 僕たち居ないの知ってるのに」
「縁起でもないこと言わないでよ……村長様にはまだ恩返しもしてないんだから」
「丁度いいや、ささっとモモンの実渡しちゃおうよ」
「そうだね、何してるか聞きたいし」

これが村長様じゃなかったらこんな悠長に話してないよね。
無人の家の前に住人じゃない人が居る……
泥棒しか連想できる物が無いよ。

「村長様、僕たちに用ですか?」
「ほっ!!! ……なんだレイブとカルクか……驚かさんでくれ」

いや、家の前にあなたが居て驚いたのは僕たちなんですが……

「じいちゃんどうしたの? この時間僕たち居ないの分かってるでしょ?」
「いや、なに、ちょ~っと散歩中にお前らの家の前を通っての?」
「それで?」
「うむ、お前たちが苦労してないか気になったんじゃよ」
「な~んだ、それなら僕たちの居るときにくればいいじゃない」
「そうですよ、いきなり家の前に居られたらこっちがビックリしちゃいますよ」
「だって、カルクはともかくレイブはちっともわしの家に来ないじゃないか……
それなのにズカズカと入っていけんではないか」
「そんなの気にしなければいいじゃないですか! あなたは僕たちの親なんですから」
「それならおぬしもたまには家に来んか! そもそもわしは出て行けとも言っては
おらんし、ずっと暮らしてくれててもよかったんじゃよ」
「あんまり迷惑掛けたくないんです! それなりにいい歳なんだから自分の身体を
大事にしてくださいよ!」
「あいかわらず話し方が硬いのぉ、生まれたばかりの頃のおじいちゃんと
呼んでくれてた時が懐かしいワイ」
「その後大木振り回してるの見たりしてますからね、敬語にもなりますよ」
「なんじゃ、あれがしたいのか? わしと鍛えればあっという間じゃよ、
レイブは万能の素質もあるしの」
「あ~ひでぇなぁ、僕には素質無いみたいジャンその言い方」
「ん? カルクおぬしは特功の素質ならレイブ以上だと言ったではないか
素早さも高いし、レイブとは戦い方が違うんじゃよ」

話が脱線してるね……とりあえず渡すもの渡しちゃおっと。

「カルク、あれ渡さなくていいの?」
「あ、忘れるとこだった。ありがとレイブ」
「ん~? なんじゃあれって?」
「じいちゃんから頼まれたモモンの実だよ。はい、これ」
「おぉ! そういえばそうじゃった! ありがとの二人とも」

とりあえず大丈夫そうだね。
っていうか村長様も忘れてたっぽいね……

「それじゃ、僕たちちょっと休むんで入り口通してください」
「むう? こんな時間にか? どこか具合が悪いのか? 大丈夫か?」
「じいちゃん、そんなに心配しなくても……」
「いやいや、お前たちに何かあれば一大事じゃ、薬か何か……」
「あ、あ、大丈夫だから……んん、休めばすぐ良くなりますよ」
「そうか……おっと、通せんぼしていたの、すまんすまん
ゆっくりおやすみ、二人とも……」
「村長様も無理しないでくださいよ?」
「じいちゃんなら大抵のことは大丈夫そうだけどね」
「うむ。では、な」

帰っちゃった……心配させちゃったかな?
とりあえずモモンの実は渡せたし良しとしておこう。

「ふぅ、じいちゃんも心配性だよな~、あんなに慌てちゃって」
「それだけ僕たちのこと気にかけてくれてるんだよ」
「そんなもんかね? ……レイブも分かってるならもっと気楽に話せばいいのに」
「痛いとこ突いてくるねカルク……分かってるんだけどどうしても、ね」
「ふ~ん、よし! 家に着いたし、傷薬傷薬♪」
「切り替え早っ! まぁいいや、傷薬塗って寝ちゃえばこれくらい直るよね?
明日の準備は起きてからにしよう」
「さんせ~い! それじゃ、夜までおやすみ~」
「おやすみカルク」

さて、僕も鼻に薬塗ってさっさと休んじゃおっと。

ん……周りが暗いな……
どの位眠ってたのかな。
時間は……時計、見えないや。
明かりはカルクが点ける係りなんだよね。
つまりカルクが起きてくれないと夜は何にもできないんだよなぁ。
ええ、と横のベッドは……
!?
カルクが居ない?
……て言うか僕は何処に居るの?
自分のベッドの上?
暗くて何も分からない。

暗い

怖い

嫌だ

僕は……


誰?

「うわあぁぁぁぁぁ!!!」
「ふわあ! ど、どうしたのレイブ!」
「あ、カ、ルク? 僕は? 此処は?」
「ちょっ、しっかりしてよレイブ! 此処は家でしょ! ……なんかあったの?」
「夢が……暗くて……何も見えなくて……誰も居なくて……」
「夢…レイブが魘される夢? 大丈夫だよ、僕此処に居るし、レイブだって此処に
いるよ」
「カルク……あれ? 僕起きてる……いつ起きたんだっけ?」
「お~い、レイブ本当に大丈夫? 熱でもあるんじゃない?」

気がついたら目が覚めてる……
小さい頃に僕を見て村長様がそんなこと言ってたな。
村長様に僕自身が言ったんだったっけ。
僕には時々いつ自分が起きたか分からない時がある。
最近はそんな事起こってなかったのに……
気分の悪い夢……そういえば悪夢って奴を見たのも久しぶりな気がする。
僕はどうしたんだろう?
僕は……

「レ~イブ~、ホンとに起きてる? なんか夢見たみたいなこと言ってたけど」
「へ? 僕そんな事言った? 全然覚えてないや」
「あ、なんかノリがいつものレイブに戻った。大丈夫そうだね」
「心配させちゃった? ゴメン……」
「いいけど、いきなり叫びながらの起床はかなり心臓に悪いよ」

叫びながら起きた? 僕が? 何で?
自分でも自分が分からなくなる時があるよ……
大丈夫かな、僕……

「レイブ起きたし明日の準備済ませちゃおうよ」
「あぁ、うん、そうだね」

大丈夫だよね。
近くにカルクも居てくれてるし。
あれ?そういえばカルクが僕より先に起きてる。
今は……7時か……
寝たのが確か昼の2時位だから5時間も寝てたんだ。

「カルクが僕より先に起きてるなんて珍しいね」
「やっぱりそう思う? 実は僕もなんだ~」
「で、起きて何してたの? 準備は……してなかったみたいだけど」

テーブルの上には明かりの点いたロウソクだけ。
多分電気で点けたんだろうね、マッチ箱を動かした跡が無い。
時計も充電してくれたのかな? カルクがやってくれないと見れないし。
時計は木の実探してて見つけたんだけど、電気ぶつけないと動かないんだよなぁ。
でも、太陽の動きでどれ位時間経ったか計るより分かりやすいから楽なんだよね。
どういう仕組みか知らないけど。
……時計のことはどうでもいいか。

「ゴーグル磨いてたんだ。僕のトレードマークだし」
「へぇ~珍しいね、いつもは着けたらそのままだし、寝る前に外してもそのまま
置いたままにするのに」
「なんてったって明日は初の冒険だよ! いつ使うことになるか分かんないからね」
「村長様も冒険してた時そのゴーグルしてたんだっけね? 僕もそういうの貰えば
よかったかな?」
「レイブはそのバンダナ貰ったじゃない」
「そうだけどさ……」

僕の右腕には赤いバンダナが巻かれてる。
カルクのゴーグルと同じで村長様から貰ったもの。
冒険の時に着けておくと良い事があるとかないとか……
村長様の家を出るときにそれぞれお守りとして渡されたんだ。
僕の……大切な宝物。

ああっと思い出に感傷してないで準備済ませなくちゃ。

「必要なのって傷薬ぐらいでいいかな?」
「そだね、後は……マッチぐらい持ってってもいいね」
「あぁ、色々使えるしね」
「あ、ご飯どうする? 今、食べ物無いよね?」
「明日おばさんのところで買ってくるよ」
「オッケ~」
「これくらいで大丈夫かな……いいよね? カルク?」
「大丈夫でしょ! いけるいける!」

ふぅ、大体の準備は終わったな。
後足りなさそうな物は明日買いに行こう……多分僕一人だろうけど。
あ、遺跡開いたこと村長様に話してないや。
いいよね? 探検してから中の様子と一緒に話そっと。

「えへへ~、楽しみだねレイブ」
「うん! さ、今日のやること終わり! おやすみ~」
「明日はちゃんと起きてよレイブ? 朝からビックリはやだよ僕」
「分かってるよ……カルクだってちゃんと早起きしてよ?」
「は~い、おやすみレイブ」
「うん、おやすみ……」




……そうだ、そして今日僕たちは此処に居る。
追い掛け回されて……穴に落ちて……
穴に、落ちて?
今僕は遺跡のどの辺りに居るんだろう?
カルクは何処?
あの夢……此処の、事?
僕は……。
いやいや、考えちゃ駄目だ、
考えたらどんどん怖くなる。
でも考えなくちゃ、暗闇が迫ってくる。
僕はどうすればいいの?
誰か……カルク……おじいちゃん……。
身体……重いな……。
駄目……だ……意……識……が……
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後書き的な……
始めましてこんにちわ。覚えている人はいないでしょうが……。
通行不可となったwikiに上げた作品をこっちに持ってきました。
読んで頂けたら幸いです。ではでは……。
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感想等はこちらへ……次へは[[こちら>果て無き冒険の導き 第三話~第四話]]を……
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