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朝の日差し の変更点


written [[Nike]]

処女作があまりにも酷かったのでリメイクしました。
最初はただ手直しの予定だったんですが、何故か話が全く違う話になってしまいました


この作品には官能描写やグロテスクな表現、中二病的な表現が含まれます。




*朝の日差し [#xe12f134]




『…ほら、早く起きて…』
太陽がそう囁いた気がした。
…カーテンの微かな隙間から朝日がこぼれ、眠っている僕の都合も気にせず、無理矢理夢の中から引きずり出す。
「…もぅ、……朝か…」
目を細めながらぼそりと呟く。
朝は大嫌いだ。早起きなんてとんでもない。
朝が来るぐらいなら永遠に目覚めないほうが楽でいい。最近よくそう思う。
僕はブラッキーというポケモンだ。やはり月光ポケモンだけあって朝が苦手だ。
僕はベッドから立ち上がり洗面所に行って顔を洗う。面白みの無い生活。
僕は今まで生まれてきてからこんなありきたりな動作を何度繰り返したか。興味も無い。
自分にとってそれが面白くないものだと分かっているから。
カーテンを開き窓から太陽を眺める。日は既に上っていた。大体10時くらいだろう。
僕をあざ笑うような眩しい日差し。僕は太陽から目を逸らした。
見続けていると目がチカチカするようだった。僕には薄暗い月明かりの方が似合っていると自分でも思った。
それでも僕は陽の光を浴びたかった。
ただ、彼女が僕のところに来てくれるんじゃないかと思って。

*****

私の朝は早い。
朝日が昇れば自然と目が覚める。理由は知らないけれど種族的なものなんだろうと思う。
とっくに目は覚めていた。そういえば進化してから朝寝ぼけた覚えが無い。
…自分が寝ぼけているから覚えていないのだろうか。
そう思い直す。寝ぼけていたことを忘れているだけかもしれない。
今日は天気がいい。大きく開けた窓から陽の光が燦々と差し込む。
朝は好きだ。太陽ポケモンというだけあって陽の光に当たるのも好きだ。
今日も日向ぼっこには持ってこいの日和。けれど私は外に出ようとは思わない。
私が今、外に出ても世界は色づいていないから。
世界はモノクロで活気の無い生き物たちがいる世界。少なくとも私にとってはそうだった。
こんな風に思い始めたのはいつからだっただろうか。
最近かもしれない。はたまた幼い頃からかもしれない。多分どちらでもないんだと思う。
彼は黒い。その黒い彼が私の面白みの無いこの世界に唯一色を与えてくれる存在。
「…掃除でもしようかな」
そう呟いてからかなりの時間がたった。掃除、洗濯、身支度、他にもいろいろやった。
その後はただ彼の家を見つめていた。何の意味も無いようでとても深い時間。
彼の家のドアが開いた。私のカラフルな一日はこれから始まる。

*****

僕は外に出た。空を見上げると今日はいくつか綿雲が浮かんでいる程度。
どうやら晴天らしい。誰がこんな天気を望んだのか知らないが嫌味に思えて仕方ない。
こんな日は誰かが意味もなく遊びに来るに違いない。
サニアなら大歓迎だけど…も。一度彼女の家に目をやる。
「おーい、カールナッ!カルナー!お~知らせだ~ぃ」
呑気な声とともに向こうからから走ってくる黄色い影。
なんだ、レボルトか…。
そのサンダースは僕の目の前までやってきて瞳を輝かせながら喋りだした。
「聞いてくれよ、カルナ。実は、明日の夜に森の住民たちがみーんな騒げるような
 盛大な宴会があるって、知ってたか?!」
言ってはいけないのかも知れないが顔が近すぎる。鼻息がくすぐったいくらいに。
「知ってるよ。朝からそんなハイテンションで喋らないでほしいんだけど」
「ちぇ、知ってんのかよ。つか今昼だろ」
む、そういわれてみれば確かに…昼だった。喋り終わったんだからそろそろ顔を離してもらってもよろしいでしょうか?
「おはよう!二人と…も…」
隣の家から出てきた主が固まった。なかなかタイミングが悪い。
「やぁ…サニア。おはよ」
「…二人ってまさか…そ…そんな関係、だった、の…?」
目の端に涙を滲ませながら消え入りそうな声でたずねた。
「そんな関係って?」
「あっ、これは違うって」
当の本人は全く気付いていない。離れろ。
「私、今までカルナのこと…」
恐ろしい誤解を生んでしまった。取り敢えず回転レボルトの前足に足払いをかける。
「…えっ…?」
その回転の勢いを利用してアイアンテールを打ち込む。そして止めとばかりにシャドーボールをお見舞いしておいた。
これで誤解は解けただろう。
「ふヴぇらバっ!」
断末魔が聞こえた。


「ホントごめんね?私が変な誤解しちゃったせいで」
「いやぁ、いいって、いいって~。俺もちょっと近かったかな~?って思うし」
森の中、僕たちは森で一番大きな木のある集いの広場へ向かっていた。
僕とサニアの間をボロボロになったレボルトが歩いている。焦っていた為にすこしやり過ぎてしまったようだ。
「僕も謝るよ」
「…いや、お前はいいや…」
サニアに聞こえないくらいの声で呟く。それにつられて僕も声のトーンを下げる。
「なんでさ…」
「いや、お前男だから。…こう…キュンとしない…」
アイアンテールで吹き飛ばした。


「ごめん、ホントごめん」
さっきからレボルトが呪文のように謝り続けている。
「…ねぇ、カルナ。レボルト君どうしたの?さっきこけてからちょっと…」
先程までの並びとは変わり、左からレボルト、僕、ミカヤのならびに変わっていた。
耳元で囁かれたからすこしびっくりしてしまった。
因みにさっきの出来事はレボルトがこけたことにして処理した。
「さぁ、どこか打ったんじゃない?」
「そう?…カルナ、ほっぺた赤いよ?」
サニアが僕を見て笑う。その笑顔を間近で見れるのは嬉しかったけれどすこし恥ずかしい。
その時
バシャーッ!!
僕とレボルトの頭上から突然雨が、いや、水が降ってきた。
全身水浸しになる。
「ねぇねぇ、三人でどこ行くのぉ~?」
スタッっという着地の音と同時に背後からおどけたような口調の声が聞こえる。
「やっほ。ミストちゃんだよぉ」
振り向かえるといつもの不思議っ子のシャワーズがニコニコしながら座っていた。
「ねね、サニアちゃんどこいくのぉ?」
ミストはいつもどこからとも無く現れる。口調も態度も登場も全てが変わっている。
それもいつものことなのだが流石に水浸しにされたのは初めてだった。
「ミスト、明日あること知ってる?」
「あした?」
「明日集いの広場で宴会があるんだって。一緒に行かない?」
へぇ~と頷いて僕らを眺めすこし微笑む。
「サニアちゃんは行くのぉ?」
「うん、私は行くよ」
「そういえばサニアって、小さい頃からお祭りとか好きだよね」
なんとなく昔のことを思い出しながらそう言った。
「うん。だってたくさんのポケモンが集まるもん。たくさんいると楽しいでしょ?」
「そうだね。僕はちょっと苦手だけど…」
「変わってないね♪」
僕は物心ついたころにはサニアの家の正面に住んでいた。
昔からお祭りや珍しいことがあるたびに誰かと居ることの苦手な僕を誘って二人で遊びに行った。
サニアは僕にとても優しく明るく接してくれた。そんな彼女が僕は好きだった。
今はそれ以上に異性として意識しているからかもしれない。前よりももっと好きになっている気がする
「で、ミストは来るの?」
「うん、行ってみるぅ。サニアちゃんのいう通りたくさんのポケモンを見てみたいなぁ。
 あ、でもね、サニアちゃんとは一緒に行けないと思うのぉ」
サニアとミスト。二人で仲良く話している。
こうしてみるとサニアは誰にでも平等に振舞っている気がしてすこし悲しくなる。
「しけた面してると幸が逃げちまうぞー」
レボルトが話しかけてくる。
僕は周りかが気付くくらいに悲しそうな顔をしているんだろうか?
顔を真顔にしようと努力する。
「しけた面なんかしてないよ」
「そうか?だったらいいけど…」
レボルトは一旦区切ってから言った。
「なにか悩みがあるなら俺に言ってくれたら相談にのるぜ?特に恋煩いなんかは!ぶふっwww」
台詞の前半だけならいい奴だったのにとことん残念な奴だった。
その間ずっと話していたミストが僕を振り向き笑みを浮かべる。
「じゃあ、そろそろ行くねぇ~。今日もご用事があるの~」
待たしているのが悪いと思ったのか分からないがミストが世間話を切り上げる。
「じゃサニアちゃん、二人ともじゃあね~」
くるりと踵を返して2,3歩歩いて
「あ、そうだ!サニアちゃんに後一つ~」
と呟いて戻ってくるとサニアになにやら耳打ちする。
サニアはそれを聞いて恥ずかしいようなハッとしたような顔をした。

*****


私は月明かりが照らす夜道を一人で歩いていた。
夕方まで友達や知り合いの所に行って宴会の話をしたり世間話をしたりした。
そのあと二人には別れを告げ三人は別々の帰路についた。
『すこし用事があるから』
そう言うと彼は言った。
『けど、もうそろそろ暗くなるよ?一人じゃ危ないよ』
『大丈夫。心配しないで』
そう言って強がったものの本当はすごく嬉しかった。強がらなければよかった
今更そんな事を考えてもどうしようもないのだけど。
森の中は月の光が届かず夜の闇の中でもそこだけはとても暗い。私は道なき道を進む。ここの道順は把握していた。
私の行く手を木々の枝がさえぎる。そういえば前に来たときはいつだっただろう?
そんな事を考えながら歩いていると視界が開ける。
そこにあったのはボロボロになった木の小屋だった。
ドアはガタガタ。壁には穴があいていて、屋根も半分以上無い。壁の穴から中に入る。
中は広くなく畳六畳分くらいの空間。
あるものは部屋の隅に古びたベッドが一つと桶が一つ。
それ以外にはなにもない、殺風景で古くみっともない部屋。その部屋の真ん中に座り込む。懐かしい。
『ごめんね。僕、進化してるのに頼りなくて…』
私の目の前で申し訳なさそうにうつむくブラッキー。古い記憶が鮮明によみがえる。
「私ってバカだ…」
一人呟く。
なんて情けないんだろう。想いは口に出さなければ伝わらない。
でも口に出すのが怖くて仕方ない。もし、それを言ったことで彼がどうなるか分からない。
もしかしたら死んでしまうかもしれない。そうなったら私も生きる糧を失うことになる。
それが怖い。それでも…
『進んでみないと分からないよ。もしかしたらいい結果が待ってるかもしれない』
そう、自分から足を出して一歩ずつ一歩ずつ進まなければ。
『あの場所。そこならいい結果が待ってるような気がするよぉ?』
なぜ知っているのか分からない。ただ、今日ここに来てミストの言ったことは正しい気がした。
この空間を包む雰囲気が昔にもどっていた。以前は感じなかった何かを感じる。
それがいい結果になるのかわるい結果になるのか分からないけれど
明日、ここで私の何かが変わるような気がした。

*****

私の家の前に新しく誰かが引っ越してくるらしい。
どうやら噂では私と同じイーブイの家系だと聞いた。そこに引っ越してきてくれるのが誰なのかワクワクした。
数日後、お祭りがあった。そこに引っ越してくる家族が遊びに来ると聞いて急いで見に行った。
集いの広場、たくさんのポケモンたちがいたけれどすぐに分かった。みんな集まって挨拶をしている家族がいた。
その輪の中に小さな体をもぐりこませ中心の家族まで辿り着いた。
そこにいたのは雄のブラッキーと雌のブースター、そして小さなブラッキーの男の子。
その家族は私に気付くと近づいてきていった。
「こんにちは。君が向かいのおうちのイーブイちゃんだね?
 見たところうちの息子とあんまり年も変わらないみたいだし仲良くしてくれるかい?」
とても優しい口調と声だった。そしてお母さんだろうブースターがわたしの前に小さなブラッキーを連れてきた。
「ほら、カルナ。ごあいさつ」
「あ、は、はじめまして。僕カルナって言います。えっと…これからよろしくおねがいします」
たどたどしくそう言った。もちろん私も自己紹介した。そんな私たちを見ていたブースターはにっこり微笑んで私にこう言った。
「でね、サニアちゃん。カルナと遊んでもらいたいんだけどいいかしら?」
私は頷く。
「じゃあ、お願いするわね。カルナも迷惑かけないようにするのよ」
そう言って私たちを送り出した。
最初は二人でお店を回っていたけどお金が無くて何も買えなかった。
次は広場から離れて、森の中を案内した。
最初は村長の家。面白くないし行かなくてもよかったかもしれない。
公園。二人で滑り台なんかで遊んだ。楽しかった。
私の家。自分の家も分かるだろうから一石二鳥だと思った。実際作りかけだけど新しい家を見て嬉しそうだった。
森の石碑。行かなければよかった。
石碑は自分ひとりで行ったことがなかった。いつも誰かが居て付いていっていた。
調子に乗って石碑まで歩いたつもりだったけれど迷ってしまった。
ついには辺りは暗くなりまわりを照らすものは薄暗い月明かりと彼の輪の模様だけだった。
引き返そうにも道が分からない。悔しかった。寂しかった。怖かった。泣いた。
そんな時彼は言った。私を大丈夫と慰めながら。
「ねぇ、歩こう?もしかしたら近くに石碑があるかもしれないよ?」
首を振った。ここで誰か来るのを待つと言った。それでも彼は言った。
「でもここで待ってても誰も気付かないかも知れないし…。それに…」
私の涙ぐんだ瞳をしっかり見つめて言った。
「進んでみないと分からないよ。もしかしたらいい結果が待ってるかもしれない」
とても、同い年とは思えなかった。とてもしっかりしていて、カルナが居たら絶対に助かる気がした。
何故だか顔が火照って心臓の鼓動が速くなっていった。
まわりが見えなくなって彼だけが世界に居るような感覚に襲われた。
正直、恋をした。頷いて彼の後に続く。息が苦しい。
少し歩いたところでボロ小屋を見つけた。
壁の穴から中に入る。
中は広くなく畳六畳分くらいの空間。
あるものは部屋の隅に古びたベッドが一つと桶が一つ。
それ以外にはなにもない、殺風景で古くみっともない部屋。
その部屋の真ん中に二人で座り込んだ。
「ごめんね。僕、進化してるのに頼りなくて…」
彼は謝ったが首を振った。彼を励ましたかった。でも言葉が見つからなかった。
体力は限界だった。眠たい。でも寝たらダメ。
そんな葛藤を続け意識が朦朧とし舟を漕ぐ。そのとき背中に何かが当たった。
びっくりして体を強張らせる。
「大丈夫。寝たいなら寝ていいよ。僕が支えるよ」
後ろから抱かれ彼の体温が直接私に伝わる。緊張して逆に目が覚めた。
「ねぇ、カルナ君…」
無意識に口が動いていた。
「私、好きな人がいるの…」
「…そうなんだ…」
彼は嫌がらなかったが少し戸惑っていた。
「その人とは会ったばっかりなの。でもかっこよくて、優しいの」
「………うん」
くるりと体の向きを180度回転させ二人向き合う。カルナの顔がすこし恥ずかしそうだった。
「わたし、カルナ君が…カルナが好き…」
自然にそう言ったが自分自身驚いていた。彼はビクッっと体を震わせて黙りこむ。
私も何も言わない。静かな時間がいくらか続いた。
「僕もサニアちゃんのこと…好き…」
彼は目を逸らしながらそういった。代わりに私を抱く腕に力がこもった。
お互いに抱き合う。身体と身体がふれあいお互いの温もりを感じることが出来た。
「…チュー…して…?」
私は彼にキスをねだった。彼は顔を真っ赤にしながらもキスをしてくれた。
甘いような、優しいような、暖かくやわらかい感覚が心も身体も包み私はいつの間にか眠りについていた。

翌朝目が覚める。ちゃんと抱き合っていた。彼は眠っているが私の身体を離さない。
なんとなく嬉しかった。彼の寝顔を見つめる。可愛い。母性本能がくすぐられるような寝顔。
彼が目を覚ますまでずっと見つめていた。
その日私たちはたくさん歩いた。どれくらい歩いたか分からない。
お昼ごはんは私だけオレンの実を食べた。彼が無理やり私に食べさせた。
おいしかったけど申し訳なかった。その後も歩いた。夜になり暗くなる。
それでもあきらめずに歩いた。何処をどう歩いたか分からない。意識が遠のき
朝、目を覚ますとそこは私の家だった。
彼は泥だらけになって私の家の前で寝ていた。こんなになってまで私を家に送り届けてくれたらしい。彼の顔に自分の顔を近づけたがキスはしなかった。なんとなく今は恥ずかしかった。
私は彼をこのまま休ませてあげようと思い、家から毛布を引っ張り出しかけてあげた。

そして彼は私が目を放していた隙に居なくなった。号泣した。嫌われたんじゃないかと思って。

その後私は進化してエーフィになった。挨拶して回ったけれど森の誰もが気付いた。
『雰囲気変わらないね』『綺麗だよ』そう言ってもらえて嬉しかった。


一ヵ月後、私の家の前にある家にやってきた。一匹だけ。
笑っていたが目に光が宿っていなかった。代わりにあるのは寂しげな闇。心が酷く乱れている。
私と会って笑顔でこう言った。



『はじめまして』



*****


後から聞いた。両親が強盗に襲われ死んだと。そのとき彼は遊びに行っていたらしい。
家に帰って、扉を開けた瞬間。その純粋な瞳に何が飛び込んできたのだろうか。
想像したくない。かわいそう過ぎる。記憶を無くしていると聞いた。頭の中が整理できずに精神が不安定になっているとも聞いた。
一度、不意に昔のことを訊いた。精神が読み取れる私には分かった。その時彼の心は乱れ、混乱し、暴れた。あの時はとても怖かった。
あの日から記憶をなくす以前のことには触れていない。怖い。
それでも…好きだった。でも、愛し合ってはいけないと思った。彼の中のあの夜を思い出させることは両親への記憶へつながる。
だから勇気が出なかった。嫌な事から目を逸らして生きてきた。自然と涙がこぼれ頬を伝う。床に落ち黒いしみをつくる。
踏み出す勇気はないくせにそこで立ち止まっているのも嫌だった。
愛する人の言葉を思い出す。
『進んでみないと分からないよ。もしかしたらいい結果が待ってるかもしれない』
ミストの言葉を思い出す。
『あの場所。そこならいい結果が待ってるような気がするよぉ?』
信じたいと思った。ミストの言葉を。そしてカルナの心と自分の本心を。
私はカルナが好きだ。


*****


「サニア、昨日帰ってきた時間遅かったでしょ」
「うん。夜中になっちゃった」
カルナが心配そうな顔を向ける。
「どこいってたの?」
二人だけで歩く黄昏時の森の道。集いの広場へ向かう道。
嬉しいけれど、悲しい気持ちにもなった。彼には隠し続けていた。私の本心も彼の過去も。
「大丈夫。後で分かるよ…。カルナがカルナならね」
意味深長な言葉を返し、広場へ歩いた。私の中の夜に微かな光が差す。

*****


集いの広場に着くとたくさんのポケモンたちが集まっていた。
ここ数年間は集いの広場で祭りをすることが少なかった。
こうやってたくさんのポケモンが集まっているのを見るとふと意識下に何かが蘇る。
それが何なのかわからないことに不快感を覚える。
それでも今日は気にしないことにした。せっかくの宴会だもの。サニアと一緒に楽しまないと!
そう思い隣のサニアを見る。彼女は一瞬どこかを見つめていたが、僕の視線に気付いて笑顔を向ける。
「どうしたの?」
「なんでもないよ。カルナ、早くどこかに座ろうよ」
集いの広場は直径30m程度の大きな円形になっていてその中心に森のシンボルの大木が立っている。
今日は宴会のためにか大木の周りに大きく円を描くように赤い布製のシートが引いてあった。
夕日が沈み空が暗くなる。と、同時に頭上にオレンジ色の光が灯る。大木にはたくさんの提灯がかけられており誰かが電源を入れたようだ。
空洞になっている木の根元からはおいしい匂いが漂ってくる。多分あそこで調理しているんだろう。
いかにもお祭りらしいセッティングにサニアが嬉しそうに尻尾をくねくねとくねらせている。
適当な場所を見つけて二人で座った。


「それでは皆さん、存分に楽しんでいってください!」
森の長のジュカインが始まりを告げた。それと同時に木の根元から食べ物を持ってポケモンたちがこちらに向かって歩いてくる。
左隣でレボルトがウキウキしている。右隣ではサニアが僕にぴったりくっついている。
こんなに近くにサニアが居ると興奮してしまう。隣でお酒の入ったコップを両前足で掴んで飲んでいる姿が可愛い。
しかし、左隣からレボルトがつついてくる。
『何の用だよ』
『あ、ごめん。別に二人の邪魔しようって訳じゃないぜ!?』
…ムカツク…!
「ロゼ、あのさ」
レボルトの隣に座って木の実を食べているリーフィアに話しかける。
「ん?何、カル?」
「この黄色い奴…もとい彼氏。
 この宴会に乗じてまた誰かナンパするみたいだよ?」
「え??」
「っ!レボルト!またアンタまた他の女の子に手ぇ出すつもり!?今度という今度は…」
「ちょ、違うって!それ誤解だってば、痛タタタタタタッ!!」
ロゼがレボルトの耳をグイグイ引っ張る。周りのギャラリーは「もっとやれー」や「がんばれー」などと叫んでいる。
いつ見てもこの画は面白い。多分この二人が結婚したらレボルトは絶対尻に敷かれる。そう確信した。
そんな事を考えていると隣から威勢よく何かを飲み干す音が聞こえてくる。
「ぷはぁー」
サニアがお酒を一気に飲み干していた。頬がほんのり赤らんでいて可愛いけれど…
「ちょっと、あなた。さっきから飲みすぎじゃない?もう3杯目よ?」
サニアの隣に座っていたグレイシアに忠告される。
サニアの足元には二つの大きなコップ。ちょっとペースが速すぎるような気が…。
「このとおり大丈夫ですよぉ~」
「全然大丈夫そうに見えないんだけど…程々にした方が」
「なにいってるんですかー。宴会なんてなかなか無いんれすから~。存分にたのしまないとそんですよ~?」
サニアの言っていることも一理あるけれど流石に飲みすぎだ。そう思っているうちに次のお酒をおかわりする。
既に呂律が回っていない。早くとめないと何が起こるかわからない。
「やっぱり飲みすぎじゃない?倒れるわよ?」
そう言ってグレイシアがサニアの手からコップをひょいと取り上げる。
「あっ、なにするんですか~。…名前はなんて名前れすか?」
「へ?私はフィンだけど…」
「フィンさぁん…?わたしといっしょにいっぱいのみませんかぁ?」
フィンと名乗ったグレイシアに体を寄せてそういうと、グレイシアは顔を真っ赤にする。
「おいおい、そこのお嬢さん。人の言うことは聞くものだぜ?こいつは医者だかんな」
サニアの二つ向こうから声がする。見えたのはヘルガーだった。
「…あなたは誰ですか」
ムッとした表情でそのヘルガーを見つめる。怒らせたら大変なことになることも彼女は分かっていないのだろう。
「こいつの彼だよ。文句あっか?」
「あります。フィンさんは私がもらいます」
あっけに取られる二匹。その間にフィンさんにもたれて顔をギリギリまで近づける。
「フィンさん…いっしょにたのしみませんかぁ?」
「え…!?え?!」
ついに完全暴走に入った。フィンさんは顔を真っ赤にして慌てており、
隣では同じく顔を真っ赤にしたヘルガーが自分のあの辺を見つめて
「わるい、トイレ!!」
と言って走り去っていった。自分の尻尾では隠せなかったのだろう。流石にそろそろ迷惑になっている。
「サニア、ちょっとこっちきて!」
そう言って尻尾を振っているサニアを無理やり引っ張り背中に乗せてその場を走り去った。


*****


彼の背中で揺られながら思う。ちょっと酔って調子に乗りすぎた。自分で頭を叩いて反省しておく。
それにしても私が行動することなくこんなに上手く彼と二人きりになれると思ってなかった。
予定の時間より少し早いけれど問題ないだろう。
「カルナ、降ろして。自分で歩くから」
「えっ?大丈夫…?」
「うん、少し酔いも覚めたみたい」
彼はそっと私を地面に降ろす。少しふらつくけれど大丈夫だろう。
もしあのお酒が薄められてなかったら危なかったかもしれない…
「私ね、カルナを案内したい場所があるの…。付いて来てくれる?」
「うん、いいよ。それに一人には出来ないよ」
彼がこう言ってくれるのは分かっていた。ここからは私がしっかりしないと…
私はあの小屋へ歩をすすめる。自身を持たなくちゃ。もし彼に何かあったら私が守らないといけないんだ。
進んだ先に何があろうとも私は受け止めていかなくちゃいけない。
もしかしたらいい結果が待ってるかもしれない。いや、どんな現実もいい結果に変えてみせる。そう決めた。
しばらく歩いて昨日来た場所に着く。私の後ろには彼。暗い闇の中へ足を踏み出した。そして崖になった坂道に差し掛かったとき。
ズルッ
「きゃあっ!」
足を踏み外してしまった。ただでさえ狭い道だったのに何故かそこだけ濡れていてドロドロになっていた。
右側には下に落ちる急な斜面。左側は壁になった斜面。運悪く右側にこけた。
体が空に舞い、次の瞬間斜面を転がる。視界が真っ暗になった。


*****


目を開けると葉の間からきれいな月が見える。気絶していたようだ。
背中が痛む。背中のいろんなところを怪我したようだ。斜面を転がり落ちる彼女を必死抱き寄せた。
どうやら二人とも助かったらしい。見たところ目立った外傷も無い。今は気絶している。
今、こうやって元気に生きていたからいえるけど彼女の匂いが心地よかった。
これで大怪我していたら笑い事じゃない気がするが。
周りは見渡す限り気が生い茂る。迂闊に動けば迷ってしまうだろう。サニアを残したままにするのも心配だ。
取り敢えずある程度近くの場所を歩き回る。こんな所で寝ていては風邪を引いてしまう。
そう思いまわりをもう一度見回したときだった。キラリと何かが少し遠くで光る。
何だろうと思い目を凝らす。光を発した誰かがサッと走り去る。誰かは分からないが僕のことを誘っている。
敵意は感じられないが付いていって悪いことが起きるかも知れない。
しかし、自然と僕の足は動いていた。風が吹いて木の葉がざわついた。前に進んでいく。

光の主は僕の動きに合わせるかのようなスピードで前を行く。かなり遠くまで来てしまった。
一直線だから180度向きを変えれば難なく帰れるけれど道を間違わない保障も無い。
光はあるところで止まった。光の主はその場で三回ほど回って僕を急かし、そのまま何処かへ走り去っていった。
光が最後に止まった場所は、少しだけ開けた場所。
そこにあったのはボロボロになった木の小屋だった。
ドアはガタガタ。壁には穴があいていて、屋根も半分以上無い。
見たことがあるはずの無い小屋。それでも知っていた。
壁の穴から中に入る。
中は広くなく畳六畳分くらいの空間。
あるものは部屋の隅に古びたベッドが一つと桶が一つ。
それ以外にはなにもない、殺風景で古くみっともない部屋。
その部屋の真ん中に座り込む。懐かしい。
ほっと一息ついてからビックリした。何故かこの場所を知っている。
記憶の中から引きずり出そうとすると何かが引っかかって思い出せない。何故か僕の体は震えていた。
ここに一人きりで居るのが怖かった。逃げるように小屋を飛び出しサニアの元へ走る。
走って戻ると彼女はさっきと同じ場所でまだ気絶していた。なんにせよ、こんな所に寝かせておくと風邪を引いてしまいそうだ。
サニアを背中に乗せるとさっきの小屋までゆっくりと歩き出した。背中の彼女の体温が温かい。
しばらくすると彼女は目覚めた。
「…うぅ…ここ…どこ?」
背中の上でうなりながら僕にそう聞く。気分が悪いのだろうか。背中に乗せたまま会話をする。
「森の中だよ。何処にいるかわからないんだけどさっき小屋を見つけたんだ。そこで一旦休もう」
「小屋!?」
彼女はビックリして背中から飛び降りる。
「どんな小屋だった?」
「古くてボロボロの小屋」
「そう…」
それだけ言うと彼女は黙り込んでしまった。何かを必死に考えているようだった。


壁の穴から中に入る。
中は広くなく畳六畳分くらいの空間。
あるものは部屋の隅に使い物にならないベッドが一つと桶が一つ。
それ以外にはなにもない、殺風景で古くみっともない部屋。
その部屋の真ん中に二人で座り込んだ。
「ごめんね。僕、男なのに頼りなくて…」
僕は自分が情けなくてサニアにそう言った。サニアは首を振った。とても疲れているような表情をして目を閉じている。
そんな彼女の背中に後ろから抱きつく。サニアはびっくりして体を強張らせる。なんとなく知っているこの感覚。
「大丈夫。寝たいなら寝ていいよ。僕が支えるよ」
後ろから抱き彼序の体温が直接僕に伝わってくる。すこし緊張した。
「ねぇ、カルナ…」
しばらくの沈黙の後、そっと彼女の口が動いていた。
「私、好きな人がいるの…」
「…そうなんだ…」
戸惑っていた。心が落ち着かない。サニアは誰が好きなんだろう?考えたことはあった。
それでもその時はサニアが好きになったんだったら僕は許せると思っていた。
しかし、今は違った。サニアは誰にも渡したくない。他の男になんてのはもちろん、運命にさえ彼女が奪われるのが許せないと思った。
こんな幸せを誰にも、何にも、渡したくなかった。
「その人とはとても小さい頃から知り合いなの。かっこよくて、優しいの」
「………うん」
「でもかわいそうな人。自分を見失っている。本当の自分に気付いて欲しい」
「…どういうこと?」
彼女の言っていることの意味が分からずに聞き返す。
「残酷だけど、今思い出さなくてはダメ…」
くるりと体の向きを180度回転させ二人向き合う。
「カルナ、カルナのお父さんとお母さんは病気と事故で死んだんじゃないよ。
あなたのお父さんとお母さんは強盗に殺されたのよ。あなたは死んだ二人とおなかの中にいた妹を見たはずよ」

サニアの言葉が頭の中で何かが渦を巻き何かを。

お父さん…お母さん…強盗…殺された…?殺された…死んだ…死…血…真赤…肉…内臓…部屋…僕…妹…お父さん…お母さん…強盗?

感覚がずれていく   あれ?このへやはこんないろだっけ?   どうしてここにいるんだろう

頭の中がぐるぐる渦巻いて世界が切り替わっていく。


あの日は友達にお別れ会を開いてもらっていた。そして僕は帰ってきた。
「ただいま」
いつものそう言って扉を開く。僕はいつもどおりに帰ってきたのに家はいつもどおりじゃなかった。
割れた花瓶。荒れた玄関、そしてリビング。机が倒れていた。家具も倒れていていろんなものが散らかっていた。
家の中を嵐が去っていったみたいだった。
床が赤黒かった。僕の家の床は水色だったよね?壁には赤黒いしみがたくさん出来ていた。壁の色はきれいな白だったんだから。へやにいたのは…

わかっていた。精神に限界が近づいていること。
たくさんの人がやってきた。僕のお父さんとお母さんだったものに手を出した。ボクは途端に噛付いた。
大人は僕の気持ちが分かる?嘘だ。何も分かっちゃいなかった。今日はしっかり休むんだ。明日になれば犯人だって捕まるよ。寝なかった。
少し離れたところでずっと見ていた。お父さんはいくつ?お母さんは長いんだね。そうだ、引っ越したらどうするの?
森の人に挨拶して回らないとね。知らない人ばかりだから大変かもしれないね。肉片を覗き込む。見える。生き物だったもの。
―悪いな…。何も守れなかった。もし、家にいたらお前も死んでしまうところだった。自分に力が無かった。すまない。誰も守れなくて。―
―ごめんなさい。私がしっかりしていればこんなことにはならなかった。私が取り乱したから、こんなことに。ごめんなさい。私のせいで。―
そんな声も聞こえない。
動き出す。最早口にさえなっていないもの。
  お
          に        
       い      ちゃ
                    ん        
                    ?


!目が覚めた。夜。家の前の草むらで眠っていた。
「夢か…よかった…」
大きなため息をついて流れるいやな汗を前足で拭う。そうか、僕はお父さんに怒られて反省のために外に出されたんだ。もうすぐお母さんがドアを開けてくれる。

一向に開かない。どうしたんだろう。お母さんはいないのかな…。悪い夢が頭の中をいっぱいに埋め尽くす。
一向に開かない。そろそろお父さんなら許してくれるだろう。お母さんは出かけているんだ。
一向に開かない。お父さんはうたた寝してしまったんだ。そろそろ気付いてくれるはず。
一向に開かない。そうだ、お父さんは出かけているんだ。出張に。
一向に開かない。僕は家に入れないの?返事は無い
一向に開かない。誰かいないの?返事は無い
一向に開かない。誰もいないの?返事は無い
一向に開かない。お父さん!返事は無い
一向に開かない。お母さん!返事は無い
一向に開かない。…誰がいるの?返事は無い
一向に開かない。返事してよ…。返事は無い
一向に開かない。体当たりする。ビクともしない。
一向に開かない。早くあけてよ!お父さん!お母さん!シャニ!誰でもいいから僕を家に入れてよっ!!!

…扉がゆっくりと開く。細い隙間から誰かが覗く。暗くてよく見えない。それでも手招きしているのが分かる。

…コッチヘクレバ…

そっとその中に入ろうとした瞬間。

!目が覚めた。朝。ある家の前の草むらで眠っていた。
その家の玄関の前には変な形の岩が一つ。気になって触ろうとすると
「ケケケケケ!ツイテネーナ!」
そう言い残して逃げるように去っていった。
すぐさま大人がやってくる。僕を何処かへ連れて行くつもりらしい。大人しくしている。都合のいいときはこうしていればいいんだ。
長い間。狭い部屋に入れられていた。犯人は捕まった。ただの強盗でないことは分かっていた。精神が崩壊している人だった。
へんな薬も飲まされた。苦かった。大人が話しかけてきた。何かされた。気持ち悪かった。
そしてある日
知らない場所についた。あの時も気絶させられて箱に入れられていた。
新しい家はここらしい。向かいの家から誰かがやってくる。明るい笑顔でこう言った。
「おはよう。久しぶり、カルナ君」
僕は知らない。それでも他人と触れ合うのは久しぶりだった。僕は今でも覚えている。会ったことのない人に出会ったらする挨拶は


『はじめまして』



*****


桶の中に吐いた。気持ち悪い。恐い。怖い。闇が迫る。今外に出たら闇に喰われる。
僕の知っている闇とは違う。悪意と憎悪、恨みと嫉みに満ちた禍々しい闇。
僕は悪くないのになんで僕が責められるのか分からなかった。
だって、僕は家にいなかったじゃないか。それでも収まらない。
記憶が戻る。頭に鈍痛が走ったような感覚。あの時の記憶が鮮明に。
僕のお父さんとお母さんは死んだんだ。
そういえばお葬式を見た記憶が無い。お父さんたちはちゃんと葬ってもらっただろうかと頭を過ぎる。
僕の背中を心配そうになでているサニアと目があった。
その瞬間、この記憶を忘れていたことに気付いた。でも今はちゃんと胸の奥にある。
そうだ、僕はまだ一人じゃない。もう一人じゃない。心の仲に何か熱いものが湧き上がった。
小屋の外から声が聞こえた。寂しい声が。真実を受け止めることは本当に、
「辛い」
「辛いの?」
「すごく辛いし怖い。でも受け止めなくちゃ。『前に進めばいい結果が待ってる』って
僕はサニアに言ったんだから。自分が出来なくちゃ意味ないよね」
少し無理して笑顔を見せて立ち上がる。目眩がするけど大丈夫。



外ではミカルゲが待っていた。誰に聞いてもらうでもなく喋った。
「オマエノカゾクガオマチカネサ…」
何処からとも無く溢れ出した闇が僕を覆う。近づこうとする彼女を無言で見つめその場に留まるように促した。
闇は僕に重々しく覆いかぶさる。
悔しい。悲しい。妬ましい。恨めしい。そんな負の感情が僕を取り巻き僕の心を乱そうとする。
『アタシは憎かった。私を殺した奴が。仇をとろうとしない兄が』

『奴じゃなくてもよかった。誰でもいいから道連れが欲しかった。それは伝えたのに!
 怖かったの?弱虫。今まで散々逃げてきてこれから先も逃げ続ける卑怯者』
「シャニは間違ってるよ」
空気が固まった。
「確かに僕は今まで逃げていた。薬で忘れていたけど思い出そうとすれば思い出せた。
 でも今は違う。自分の過去と向き合って受け入れて生きていくんだ」
『綺麗事ばっかり』
「きれいごとでもいい。僕は前に進んでいく。シャニが言うとおり犯人を殺したら、負の連鎖は続いていく。誰かが逃げずに受け止めなきゃいけないんだ」
『何でも受け止めれると思うの?貴方はそんなに弱いのに』
「大丈夫、僕は一人じゃない。お父さんがいる。お母さんがいる。友達がいる。そしてサニアが傍にいる!」
『それで…それで何がどうなのよ!私のこの気持ちが分かるの!?』
「分からない。だからこそ受け止める」
僕はしっかり大地を踏みしめた。大丈夫!サニアが傍にいるならば。
僕は闇を受け止めた。

*****


彼の周りに漂っていた闇は彼の中に吸い込まれた。
何を話していたかは知らないけれど今目の前にいるのがカルナじゃないことは分かる。
彼の死んだ妹。以前あのミカルゲとは話したことがあった。
そのときはミカルゲが何を言いたいのか理解できなかったけど今ならわかる。ミカルゲも彼と彼女を助けたかったんだ。
闇が体を操っているのだろう。なぜかさっきまでは感じていた不安な感じを感じなかった。
彼ではない闇が口を開いた。
「これで私は自由よ!!私に体を貸すなんて本当にバカね。
 これからどうしようかしら?この体を私みたいに傷だらけにしようかしら?
 それともいっそ崖から飛び降りようかしら?私はもう死んでるものね。
 たくさんのポケモンを殺すのもいいわ。他には…」
彼とは違う声で一人大声を出していた。そして言葉が途切れる。
「他には…」
目じりに大粒の涙を溜めていた。その一粒が零れ落ちる。そしてダムが決壊したかのように止め処なく涙が零れ落ちる。
「なんで私は動けないの?体が熱い…」
心が見える。自分の気持ちに戸惑っていた。本当の気持ちに素直になれない。どうしていいのか分からなくなっている。
誰かに似ている、今日ほど他人の気持ちが見えたことは無い。
「今までこんな気持ちになったことなかったのに!どうして?」
「あなたが今まで執着していたのは生でもカルナへの恨みでもない。
 だれかから温もりが欲しかったの。分かるはず」
カルナの瞳が私をとらえる。
「今日まで貴方は恨み続けていた。ずっと何かにすがって、妬んで、悔しんで、悲しんで。
けどそれは誰かを殺すためじゃない。今まで空いていた心のスキマを埋めてもらいたかったから。私と同じでカルナに愛してもらいたかったから」
「私は愛されたかったの?」
ゆっくりと頷いてみせる。
「それじゃあ…」
闇はその場に尻餅をついて小さな声で呟く。その声は微かにしか聞こえない。しかし聞こえなくても言っていることは分かる。
「それじゃあ…私は受け入れてもらえたの?」
さっきよりもゆっくりと大きく確かめるように頷く。
闇は複雑な表情をした。そしてゆっくり立ち上がると涙を前足で拭って目を閉じた。
自身の中のカルナを感じているのだろう。しばらくして目を開き頭上高くに浮かんだ月を見てこういった。
『ずっと、これからも。ありがとう…』
カルナの体から闇の代わりに美しい光が出てきて月の夜空に少し輝いて、そしてすぐに消えてしまった。
カルナが言った。
「サニア、ありがとう」
彼には何が見えていたんだろう。きっと私とは違うものを見たんだと思った。


*****


僕たちはベッドの上でいつかのように静かに抱き合った。温かい温もりを二人で感じあう。
「あの時みたいだね」
そう言った。彼女は無言で頷き少し間を空けてからこう言った。
「私、好きな人がいるの」
すこし恥ずかしくて顔が火照った。目を閉じて次の言葉を待つ。
「わたし、カルナが…カルナが好き」
昔と同じ台詞。けど今はあの時とは違う。
二人ともいろんな物を手に入れてたくさんの事を学んだ。その分いろんな物を過去に置いてきた。
「僕は違う…」
僕は目を逸らしながらそういった。悲しそうな目を向け動揺するサニアを抱く腕に力をこめる。今自分は凄く恥ずかしいことを言おうとしている。顔から火が出るとはこういうことかとしかと感じた。
「僕はサニアのことを、愛している」
そういうと彼女は頬を真っ赤にして小さく「私も愛してる…」と呟き僕の体に自分の体を擦り付ける。
お互いに強く抱き合った。身体と身体がふれあいお互いの心を感じることが出来た。
「…キス…して…?」
僕は返事はせずにサニアの唇に自分の唇を重ね合わせる。いつかとは違う深く濃厚なキス。
甘いような、優しいような、暖かくやわらかい感覚が心も身体も包みとても長い間そうしていた。
そして自然と唇が離れる。二人の間に細い銀色の橋が架かる。お互い息が上がっていた。何も言わなかったけれど僕たちの意思は通じていた。
僕はサニアをそっと押し倒す。サニアは嫌がることなく仰向けになり少し恥ずかしそうに足を開いた。
「サニア。本当にいいの?」
「いいよ。カルナとならすごく嬉しい」
そう言って僕に催促する。それでもすぐにすると彼女に負担が掛かるような気がした。
顔を近づけて観察する。そこはとても綺麗な色でサニアの牝としての香りが漂っていた。舌で舐める。
「んっ…!」
反応してくれた。もう一度舐めてみる。
「ちょっと…カルナぁ…汚いよ」
「気持ちよかった?」
「………うん」
それなら良かったと呟いて再び舐める。今度は一回ずつではなく断続的に舐める。
サニアは小さな喘ぎ声を出し息を荒くしていく。そのうちに秘所からもヌルヌルした何かが出てきた。
それを前足でそっと掬い取る。サニアがビクッと身体を震わせる。
匂いを嗅いでみる。とても昂奮する匂いだった。そして口に運ぶ。独特な味が口に広がる。そうしてこれが愛液だと分かった。
その後はひたすらサニアの秘所を舐めていた。ただでさえ昂奮するのに愛液の味と匂いで更に気持ちが昂ぶり、サニアの喘ぎ声もそのうちの一つだった。
そしてそれまで気付いていなかったものに気付いた。舐めるのをやめて目の前にある小さな突起を撫でてみる。
「ん…ひゃふぅっ!!」
今までとは全く違う声を出す。その甘い喘ぎ声が僕の中の理性を野性に塗り替えていく。
消えていく理性を必死に繋ぎとめサニアを気持ち良くさせることに集中する。
今まで舐めていただけだった舌をサニアの中に少しだけ入れてみる。
「や、…やめてよぉ…」
「じゃあそのうっとりした表情は何?」
「これは…その…気持ち…いいから…」
数回舌を出し入れしてみる。少ししか入れていないのに動かすたびに舌に絡んでくる。
その度に恥ずかしそうな顔をしたサニアが甘い声を出す。
理性を繋ぎとめていたのも忘れ優越感に呑まれる。考えることが面倒になる。
ただ本能の赴くままにサニアの秘所に顔を近づけ吸い付く。その途端に彼女は身体をびくりと震わせる。卑猥な音を立てながら愛撫をつづけていると逸物の先端に突然快感が走る。
びっくりして顔を離しよく見るとそれはサニアの尻尾だった。
「カルナ…。舌ばっかりじゃ無くてカルナのもほしいよ…」
のぼせた表情で僕を見てそう言う。
「いいの?はじめてなのに…」
サニアはしっかり頷いた。僕は自分の逸物をサニアの秘所に宛がい腰をしっかり押さえ入れ始める。
そこはキツく僕もサニアも少し苦しかった。しばらくすると何かに突き当たり血が流れた。
「だっ…大丈夫?」
「っ…大丈夫…いっ…挿れて…?」
そう言いながら痛みに顔をゆがめる彼女が嬉しかった。
「ん、ふ…カルナのが私の中に…ンッ!」
サニアの中はとても温かかった。苦しそうな彼女のためにしばらくそのままでいた。
「サニア、いい?」
しばらくしてそう訊ねるとサニアは無言で頷いた。
ゆっくりと腰を動かし始める。今まで感じたことの無い、感覚が逸物に走り、何も考えられなくなる。
ズプズプと淫らな水音を小屋中に響かせ、だんだんとピストンのスピードを上げていく。
「はぅ…サニアの中すごイぃ…!まとわりついてきてる…!」
「んあぁ!…ひゃぅぅっ!か、カりゅナの、なかがガツガツしてりゅよぉ!!らめぇっ!」
そして、先に絶頂を迎えたのはサニアだった。
「あっ、らめっ!イく、イッちゃうぅぅうううぅぅぅ!!!」
サニアは僕に力強く抱きつき結合箇所から潮を吹く。そしてその締め付けに連鎖するように僕も絶頂を迎える。
「サニアァッ!!イくっ!離して!」
「イヤァ!カルナと一緒になる!!」
「サニアッ!!サニアァッ!!!!」
サニアは更に強く、僕もそれに応えるようにサニアを抱きしめサニアの中に自分の種子を撒き散らした。そして力なくもたれ掛かる
二人で繋がったまま床に倒れこみお互いに見つめあう。言葉に出さなくても僕たちの思いは同じ。最後にもう一度濃く甘いキスをして目を閉じた…。


*****


僕の顔に陽の光が当たる。ゆっくりと目を開くとそこにはサニアが優しい表情で眠っていた。
時間は既に正午が近い。起き上がろうとしたが体が疲れていて上手く動かなかった。
しょうがなくサニアに近づく。とても可愛い寝顔で眠っている。こんな顔は初めてだった。
その表情が昨夜のことが現実だったことを感じさせてくれる。
太陽の光に照らされながら僕はあることを決意した。
サニアと一緒に生きていこう。今度は僕がサニアを助けよう、と。
太陽が僕らに囁いた気がした。
『よかったね』と



―エピローグ―
僕たちが結婚して1年が過ぎた。今は子宝に恵まれ幸せに暮らしている。
あの時とはたくさんのことが変わった。それはとても幸せな変化。
今日も朝の日差しが僕を夢の中から連れ出してくれる。そしてそこには
「おはよ、カルナ♪」
そこにはサニアの笑顔がある。
「おはようサニア。いつもありがとう」
「何?改まっちゃって」
「…僕たちもう1年目なんだね」
「…そうね…。毎日楽しくてあっという間に過ぎちゃったけどね」
「これからもよろしく、サニア♪」
「こちらこそよろしくね、カルナ♪」
そっと二人の口が重なり合う。静かに離れるとサニアはにっこり微笑んだ。
「さっ!早く準備しないと遅れちゃうよ?」
「え?今日何かあったっけ?!」
「もぉー、みんながパーティ開いてくれるって言ったのカルナじゃない」
「あ、そうだった!」
ぷぅと怒った振りするサニアを見ていても心が満たされる。…なんていったらまた怒られるかな?
身だしなみを整えながら僕は思う。そういえば朝が嫌いだったなと。
けど今は違う。朝が好きになっている。サニアの笑顔があるからだろう。
永遠に目覚めない方がいいと思っていた朝が僕の宝物になっていた。
「おとーさん、みてみて~。おかーさんがこれつけてくれたの~」
娘のシャニーが僕の足元に擦り寄って頭につけた花の飾りを見せびらかす。
「お、似合ってる。いつも以上に可愛いよ」
「えへへ~」
「カルナ、準備できた?」
「うん、いいよ」
「おかーさん!おとーさんがかわいいってほめてくれた~」
「ほんと?よかったね~」
「えへへ~」
「じゃあ、サニア、シャニー。出かけよう」
「「うん」」
楽しそうな三人家族の笑い声が明るい森に響き渡る。
僕たちは朝の日差しに飛び出していった。







**コメント [#x045cb97]
感想やミスなどがあればどうぞよろしくお願いします

因みに旧作はこちらです
[[旧 朝の日差し]]



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IP:133.242.146.153 TIME:"2013-01-30 (水) 13:51:29" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%9C%9D%E3%81%AE%E6%97%A5%E5%B7%AE%E3%81%97" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"

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