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有心論 の変更点


[[チェック]]
は~い、[[チェック]]です!
死ネタ満載文章崩壊えふぃ♀×ぶら♂頼りとなっています。
大丈夫な方だけどうぞ~。

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今まで僕がついた嘘と、
   今まで僕が言った真実。
      どっちが多いか怪しくなって、
               探すのをやめた。

自分の中の嫌いな所と、
   自分の中の好きな所。
      どっちが多いかなんて分かりきってて、
                   悲しくなった――

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「じゃあなぁ、ラスナくぅん。また明日もたっぷりと遊んであげるからよぉ。ヘッヘッへ」
あぁ、まただ。
ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながらこちらを見つめる、6つの不気味な瞳。リーダーのグラエナと、奴の取り巻きのゲンガーとヤミラミ。詳しい名前は知らないのだが、高校に入学してからと言うものの、毎日毎日しつこくこうやって暴力を振るいに来る。
重たい音を響かせながら、鉄製の二枚扉が閉まった。
あいつらの高笑いも段々と遠くなっていき、冷たい静寂だけがあたりを包み込む。
「げほっ、ごほっ…いてて…」
あいつら、こんなにも僕を痛めつけて何が楽しいのか。ほんと、理解出来ない。
 今、右頬に感じているのは体育館倉庫の冷たい石床の感触。
 口の中には鉄の味が広がり、全身は黒い体毛の上からでも確認出来るほどに、くっきりと痣が浮かんでいる。
 くそっ、動かすたびに身体がギシギシと悲鳴を上げやがる。骨は…よし、折れてないな。流石は屈指の防御力を誇る種族だ。こうなったら月の光でも使いたいが、あいにく今は真昼でここは室内だ。たぶん、あいつらはこういう事も狙って昼間のうちに行動を起こすんだろう。
「っ!…うぅっ」
 襲い来る激痛に足腰を震わせながらも、何とか僕は立ち上がった。フラフラとして定まらなかった焦点も、段々と落ち着いてきた。昼間と言っても、もう放課後なので後は家に帰るだけ。
親?そんな物はとうの昔に居なくなった。
今僕は国からの支援だけで生活している。家も用意してくれているし、生活自体には特に不自由なんて無い。その代わり、高校卒業を条件付けられているのだが。
何で親が居ないかって?あれは小学校の頃だったかな。まだ僕がイーブイだった頃の事…
 あの時の父親はひどかった。毎日仕事もせずに酒に入り浸っていて、いろんな女を行ったり来たりしながら、帰って来る事なんてほとんどなかった。
 しかし、母親はそんな父の暴力に毎日耐えながらも僕の前では笑顔でいてくれた。
 そんな、そんな母が僕は大好きだったんだ。
そしてあの日の事。

酒に酔った勢いで父が母を殺した。

何であんなことをしたのかも分からない。しかも子供の、僕の目の前で…。めった刺しだった。グチャグチャの肉塊からはとんでもない悪臭が漂っていて…
鼻を貫く鉄の香り。
  目前に広がる赤、
        あか、
        アカ――
 ――僕の中で何かが崩れた
さらさらと。
がらがらと。
ごろごろと。
どろどろと。
僕が壊れてしまったのはあれを見たときからだった。
あれ以来僕はとんでもなく無表情になってしまった。心の中では楽しい、悲しい、と思っていても、それが顔には表れない。
あの時までは僕も普通だったのに、友達も多かったのに。その友達も僕のことを気味悪がり出した。
一人を除いて。
こわれたぼくは嫌われて、きらわれて、キラワレタ。
そのまま中学へと入学して僕はブラッキーに進化した。そして、小学校では哀れみの対象となっていた僕は、クラスメイト達のかっこうのストレス解消用「おもちゃ」にされた。
結局父は死刑となってしまい、そういうことも僕がいじめられる理由の一つになった。まぁ、父の事なんて興味ないけどね。
でも、月日はそんな僕に関係無くどんどんと流れて行って…僕は高校生になった。
そして3ヵ月後には、その高校も晴れて卒業できる。
「あっ、ラスナ…うわぁ、今日もこっぴどくやられたね…」
 再びガラガラと重たい扉が開き、ゆっくりと、慣れた動作で、すり抜けるように一人のエーフィが入ってきた。
美しい、うっとりと見惚れてしまいそうなほどの容姿をした彼女は、昔から変わらず僕に接してくれる唯一の人、幼馴染のレーナ。
クラスでも人当たりが良く、一番の人気者だ。
「うぅ…うるせぇな…大丈夫だよ。そんな事より、俺なんかにかまってていいのか?」
「いいのかってどういうことよ。いいに決まっているじゃない。さぁ、早く帰るわよ?」
 ハッキリ言ってとてもありがたい。毎日こんなにもボコボコにされて、心身共に傷つき続けて。
本当だったらもう心の中まで壊れていてもいいところを、なんとか無事で居られるのは彼女のおかげだから。
僕は、壊れたといっても表情だけで、他のところは無事なんだからな。
でも、そんな彼女もいくら幼馴染だからって、僕なんかにかまっていたら何をされるか分からない。そのうえ、ただでさえ打たれ弱いエーフィなんだ。もし、彼女に何かあれば、それこそ僕は僕じゃあいられなくなってしまうだろう。
だからこそ僕はあえて彼女にキツく当るようにしているのだが、その効果が出たためしは無い。
「しょうがないな…帰るか。…ありがとな」
 だから僕はまた彼女に甘えてしまうんだ。


あれから数10分経った。僕たちは、いつものように他愛も無い話をしながら帰路についていた。
「あのさ、ファスナー?」
「おい、俺のことをリュックやコートの口を閉じる為に使われるテープ状の開閉式留め具みたいな名前で呼ぶな。俺の名前はラスナだ」
「失礼、噛みました」
「わざとだ」
「噛みまみた」
「わざとじゃない!?」
「かみくだく!!」
「いってぇぇ!イーブイ族は『かみくだく』なんて覚えないはずだ!」
こんな他愛も無い話をしながら、ゆっくりと帰っていた。
心なしか歩調が遅くなっているのは、怪我のせいであって、別に下心は無い…はず。
確かに先ほどにもあったよう、彼女は美しい。それに―
「…あのさ、ラスナ?別にさ、辛かったら私を頼ってもいいんだよ?…一人でさ、全部抱え込まないでね?」
―それに、優しすぎるんだ。
 でも、だからこそ僕は彼女から離れなくてはいけないのだろう。
僕は所詮、彼女の長い人生の中では一人の幼馴染に過ぎない。僕が居なくなったところで、彼女には何も関係ないんだ。
だから、だから僕は彼女から離れるべき…彼女に嫌われるべきなんだ。
それが彼女の為だから。
もう、何ヶ月も前からそう思い続けていた。苦しむのは僕だけでいい。彼女さえ幸せであればいい。
彼女は――僕が愛した人なんだから。
「…せぇよ」
「…えっ?」
 丁度いい機会だ。とことん嫌われてやろう。だから僕の心、耐えてくれよ。ブラッキーだろ?
「だからうるせぇって言ってんだよ!!」
 ビクリ、と彼女の身体が一瞬縮んだ。
その顔は「分からない」とでも言いたげな、不安げな表情が覆っていて小刻みに震えている。
「…な…んで?私、何か気に障ること…」
「それがうぜぇって言ってんだろ!!いつもいつも俺なんかにかまいやがって!お前はそれで優越感に浸ってんのかも知れねぇけど、こっちからすればいい迷惑なんだよ!!」
 嘘だ、そんなこと思っていない。
本当はすごく感謝してるんだ。
でも、これが君のためだから…
「…そう…だよね。迷惑だったよね。ごめんね…今まで気付いてあげれなくて。じゃあ、私先帰る…ね」
 そう言った彼女の目からは雫がこぼれて。
でも、気丈にも笑っていた。精一杯僕に微笑んでくれた。
 どうして?あんなにひどい事言ったのに、ごめんだなんて…。
でも、それでも僕の表情は崩れることなく一定だった。
思いっきり泣きたいはずなのに。
君にこんなことしかして上げられない僕が、悔しくてしょうがないはずなのに。
 くるりと回転して、駆けていく君。後に残るのは壊れきった僕と、アスファルトに残る染みと、君の香りだけだった。
他には何も無い世界。静寂が辺りを包み込む。
「…くそっ、くそぉっ!」
 ねじの外れた心を抱えながら、ぼくは家路に再びついた。


 あれからさらに1ヶ月がたった。
以来、レーナとは話していない。たまたま学校で出会っても、顔を合わせると逃げてしまう。
主に僕が。

「今日は屋上な」
規則的なチャイムの音と共に、ガヤガヤと一気にむせ返った廊下。
すれ違いざまに、グラエナがぼそりと呟く。
ただ、屋上とは珍しいな。
気になって窓から外をうかがってみると――案の定、空には重たい鉛が広がっていた。
はっ、そういうことですか。
あぁ、めんどくさいなぁ。とりあえず、のろいでも積んでから行こうかな。
僕、のろい覚えて無いけど…


「おっ、来やがったぜ」
 屋上の扉を開けると聞こえてきた第一声。
 相変わらず、僕をイライラさせる響。
 でも、目の前に飛び込んできた光景は、そんな考えなんて一瞬にして吹き飛ばしてしまった。
「なっ…!!」
安易だった。
僕が馬鹿だった。
僕との関係を絶てば安全だなんて、誰も保証してなどいないというのに。
「んぅーーっ!んむぅーー!!」
 奴らの、3人の傍に転がっていたのは――
  
レーナだった。

 手足を縛られ、口を塞がれて、ぐったりと転がっていた。
「レーナァっ!!てめぇら、レーナに何してやがるっ!!」
「まぁまぁ、ラスナ君。落ち着けって。こいつがお前と仲良く帰っていたのを、大分前に見かけてなぁ」
「なっ…!」
背筋が凍りついた。
 まさか、見られていたなんて。
「でも、最近は別々に帰ってたみたいだけど。えっ、何?まさか襲おうとして嫌われたとか?うっわー、ダッセェー!」
 けらけらと笑い合う3つの影。
 何も頭の中に入ってこない。
 クラクラして吐き気が止まらない。
「あっ、でもよぉ、お前の態度次第でこいつは助けてやる」
 何…だって…?
「どう…すれば…どうすればいいんだよ」
「簡単さぁ。ただ、『私はこの世のゴミです。生きててすいませんでした』って言って、そこから飛び降りりゃあいいのさ。俺たちも鬼じゃねぇからなぁ、『それだけで』許してやるよぉ!」
 …『それだけで』?
「まぁ、できない様ならこいつがどうなっても知らねぇけどな!」
 オイオイ、ここ5階の屋上だぞ。運が悪けりゃ、ツボツボでも後遺症モンだって。
 僕なんかだったら、良くても死ぬ。
 こちらを見ながらニヤニヤとしている3人組。
 こいつら絶対に俺には飛べないって思ってやがる。
 そんで約束通りレーナに好き放題、か。ふざけんな。
 下心が丸見えなんだよ。
 でも、まぁいいや。
 『それだけで』レーナを守れるんだろ?
 ならば、あんたらの言う通りに飛んでやろうじゃぁないか。

 ゆっくりと僕はフェンスに向かって足を進める。
 そして身を乗り出し――
「俺は…「んぅーーっ!!んっ、んぅーーーっ!!」
  
「俺はこの世のゴミです…生きててすいませんでした」

「えっ、ちょ…おまっ、馬鹿っ!」
グラエナの声。
だが、もう遅い。
 身体が宙に浮かび、落ちてゆく
           落ちてゆく
            落ちて――    最後に見たのは彼女だった。


 あれ?いつまで経っても身体に痛みが来ない。
 なに?僕ってもう死んだはず…生きてる?
 恐る恐る目を開けると、浮いていた。
 そう、僕の身体が浮いていた。
 そのままふわふわとレーナの元へと運ばれて、ゆっくりと降りる。
「う…嘘…だろ」
 3人共の顔が驚愕で震えていて滑稽だった。
 そっと僕はレーナの拘束を解く。
 途端に彼女が泣きながら抱きついてきた。
「ラスナァっ!!馬鹿、バカァっ!!もう二度とあんなことしないでっ!!」
「…ごめん」
 ギュッと抱きしめた彼女は温かくて、暖かくて。
 僕の心にそっと染み込んでいった。
「私、ずっとラスナのこと好きだった…だから、ラスナが私のことを想って私を避けてたのも、ずっと知ってたんだよ…?」
「僕もだよ、レーナ。今までごめんな。もう、放さないからな…」
 抱き合うのをやめて、お互いの瞳を見つめる。
 もう、レーナの涙は乾いていた。
「「愛してる…」」
 目の前に広がるレーナの顔。
 少し甘いような香り。
 力強い鼓動の音。
 全てが彼女の味だった。
 口を離し、再び見つめ合う。
「ふふっ、ラスナ…やっと笑えたね」
 そんなはずは無い。
 そっと自分の顔を触ってみた。
 指に感じる、自分。
 久々だった。
 嬉しかった。
 僕が――
   僕が笑っていた。
「あぁ、ありがとな」
 しかし、僕もかなり驚いた。まさかエスパータイプのサイコキネシスで、僕の身体を浮かばせるなん
て誰が信じるだろう。
 でも、実際に起こったことだから。
 これが僕たちの絆なんだ――
 どこかで聞いた事がある。愛の力でタイプの壁は乗り越えられる事があるらしい。
「お…おいっ!ふざけるな!お前ら、こいつら二人ともやっちまえ!」
 あぁそうだ。まだこいつらがいた。
「えっ、いいんですか?あの女は後で遊ぶ予定じゃ…」
「馬鹿やろう!女は取っとくんだよ!とりあえずラスナの野郎をボコれ!」
 かっ、やっぱりかよ!
丁度良い、こいつらに今まで散々にしてくれた借りを返しておくとしよう。
 言っておく。今から俺は怒(いか)るぜ…


 まず飛び掛ってきたのはヤミラミだった。こいつは前肢(うで)の横一振りで一閃、一撃のもとに屠る。
数メートル吹っ飛びながら何度か床をバウンドした後、フェンスにめり込み完全に機能停止。
 自分でも信じられないほどのパワー。
「なっ…!」
 じりっ…
 残りの二人が少しだけ後ずさった。
 人は守りたいものがあると、ここまで強くなれるのか。
「う…うわぁぁぁぁぁ!!」
 叫びながら飛び掛ってきたのはゲンガー。馬鹿は死なないと治らないというが、しょうがないから僕が治してあげよう。
自分でも驚くほどの速さで相手の懐に潜り込み、だましうちで思いっきり鳩尾を殴る。
硬いものが折れるような嫌な感触を感じたが、まぁ死にはしないだろう。
「がふぅぅ…ぐぼぁ…」
 そのまま白目をむいて、ゲンガーさんご退場。
 口から吐き出された鮮血や汚物、それらを要領よく避けていく。
 残ったのはグラエナただ1人。
 少しずつ、少しずつ奴との間を詰めていく。
「ぁ…ぅぅ…た、助け…」
 当のグラエナは、腰を抜かして後ずさるのみ。
「す…すいませんでしたもうしませんゆるしてくださいおねがいしま―」
「黙れよ」
 ひっ、と息を呑む声。
 黙れ
 もういいから二度と僕らに関わるな

 バコリ

 と、僕の足元の床がひび割れた。
 わぁお。実は僕って本当に強かったみたい。
「ひぃぃ…わぁぁぁぁぁぁ!!!」
 絶叫を残し、一心不乱にグラエナは逃げていった。
 校舎へと降りる階段から、転がり落ちるような音が響く。
 実に、実に情けない。
 あぁ、僕は今までこんな奴らにコケにされ続けてきたのか…
 すげぇ脱力感。

「…ラスナ?えっと…大丈夫?」
 はっと意識がレーナに戻る。
 そうだ、レーナを保健室に…
 あいつらに何されたか分からないのに。
「レーナ、一応保健室へ――」
 ぐらりと体が傾いた。
 そうか、さっきのありえないパワーの反動…か…

「ラスナッ!ラスナ、大丈夫!?ラスな…らす…な…

――僕は意識を手放した


ふと意識の戻った僕の目に飛び込んできたのは、見慣れない天井だった。
身体の下の御世辞にも質がよいとは言えないスプリングの感覚と、少々懐かしく香る薬品の匂いから察するに、僕はどうやら保健室のベッドに寝かされているらしかった。
視線を横の方へと移し、状況把握に努めようとした僕だったが―
「―――っ!ラスナァっ!!」
 それは、僕を危うく夢の世界へとリターンさせるような衝撃により、強制的に中断された。
 いやいや。起きて早々タックル受けるとか、身体がもちません。
「っててて…おい…とりあえず放してくれないか?目覚めにレーナからのハグはとても嬉しいんだけど、身体がボロボロ…」
「お願い、少しだけ我慢して…しばらくこうしていたいの」
 そう言って僕の胸に顔を押し付けてきた。しっとりと濡れていく胸周りの体毛。
「……ごめん、レーナ。もう二度とあんな無茶しない」
 幸せなひととき――
「…あのぉ、私の存在忘れないで…」
「ぅわぁぁぁっっ!!だ、誰!?」
 レーナの後ろからぬっと姿を現したのは、一人のレントラー。口調や姿からするにどうやら20代後半の
女性らしいが…
 うん、なかなかの美じ…って何を言っているんだ僕は。
「えっと…保健の先生、だけど」
 保健の先生でした。すっかり忘れてた。
「いつからここに?」
「…最初から」
「僕が起きた時から?」
「…うん」
 つまり、
「……」
「……」
「ウソだぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
 つまり、スゲェ恥ずかしいという事だった。


「えっと、とりあえず今の僕は顔以外の筋肉はほとんど動かせないという事ですか?」
「えぇ。まぁ2人も一撃で病院送りにする程のありえない力を、あれだけ使えばねぇ…」
 簡単に言うと、僕の顔以外の筋肉はさっきの力のせいでそのほとんどが一時的に麻痺しているらしく、
その証拠に起きてから一度も首から下を動かせないでいる。
 それこそ僕を病院に搬送するべきでは?とも思ったが、しばらくすれば治るらしかった。
「まぁ、私がキミ達の事は何とかしておいてあげるからさ。安心してね」
 『キミ達の事』とは多分、グラエナとの事だろう。
「し、しかし何でそこまで…」
 動かない身体の変わりに、必死になって首を動かす僕。
 四足なので、結構この動作は辛い。
「これでも私、結構話は通じる方なんだよ?大丈夫だから大船に乗ったつもりでいなさい!…それに、君は多分今まで凄く辛い思いをしてきたと思うから、せめてこれからは幸せになってほしいんだ」
「そ、そうですか…ありがとうございます」
 本当にありがたかった。もしかしたら僕は退学になっていたのかもしれないのに…
 そうなれば生きていくうえで本格的にヤバイ。
「じゃあ、動けるようになったら勝手に出て行って構わないよ。あ、でも2人きりだからってはしゃぎ過ぎないでねぇ、後片付けが大変だから。ベタベタするの嫌いなんだ」
「っ…!ななな何言ってるんですかっ!ぼ、僕達まだそんなっ!」
「そそそそそうですよ先生っ!ラ、ラスナとは別にそこまでっ!」
 レーナも焦ってる。まぁ確かにまだ2人とも貞操は失っていない身だから…
「あれぇ?じゃぁレーナちゃんはラスナ君と『そういうこと』するの嫌なんだ…?」
「ち、違いますっ!嫌なんかじゃ…っ!?」
 『しまった!』って顔をするレーナ。
 …すげぇ嬉しかったりする。
「まぁ色々分かったしぃ、キミ達をからかうのはここらへんにしておこうかな」
「…お願いします」
 この人はかなりのドSだったみたい。
 どちらにせよ、すごく体力を消耗した気がする。
「じゃあ2人とも、『さようなら』!」
「はい、ありがとうございました!」
「では先生、また」
 静かにとびらが閉まり、保健室に残されたのは僕とレーナだけになった。
 しかし、なかなか喋る気になれない。ただ、ひたすら気まずかった…


 さらにあれから小1時間が経ち、身体の痺れもだいぶ取れてきた。
 レーナとの会話もだいぶ落ち着きを取り戻し、スムーズに言葉が紡げるようになった。
 しかしまだ2人とも先ほどの先生の事が気になっているらしかった。
「なぁレーナ。そろそろ身体も本調子になってきた事だし、帰ろうか」
「うーん…私としてはまだお話しておきたいんだけど…まぁいいか。帰ろ」
 前肢を突っ張り、身体を反らしながら全身の筋肉をほぐす。
 久々に動かした筋肉は再稼動を喜んでいるようで、まだ少し痛みは感じるが同時に快感を脳に送り込ん
でくる。
「あっ!じゃあさ、私の家来る?」
「えっ!?い、いいのか?」
「うん、別にいいよぉ」
 思ってもいないレーナからのお誘い。
 ついつい帰りの準備が早くなってしまうが、決して下心は無い…いや、今回は絶対ある。
 くぅ~、我慢できん!さぁさぁ、早くレーナの家へGO!
 …いかんいかん、我ながらテンションがおかしい。
「じゃぁ、行こっか」
「うん、行こ」
 2人で首から荷物を提げて、保健室のドアを開け…ようとしたのだが、どうした事かドアの外から何か
ブツブツ聞こえる。
「…しばら…ラス…嫌われ…丈夫…なぁ?」
 あれ?この声は確か…
 思い切って開けてみると――
「うぅぅわぁぁぁぁぁっっっ!!」
 ――そこにいたのはルークだった。


 『ルーク』
少し内気なところもあるが、優しい心の持ち主。
小さい頃は仲が良く、いつもレーナとルークと僕とで一緒になって遊んでいた。
確か最後に3人で遊んだのは、僕の事件が起こった日だったと思う。その頃はまだルークはランプラー
だったっけ。
 今は姿こそシャンデラになってはいるが、オドオドした振る舞いと、優しそうな瞳に変わりはない。
 しかし、いくら優しくても過去に一度僕を見放した…なんてことはもう気にしてないけどね。
「…で、ルークはなんでまたこんな時間に?」
 本当に耳が千切れてしまいそうなほどの絶叫に何とか耐えた後((シャンデラはハイパーボイスは覚えません))、とりあえず思いついた一番の疑問を投げかけてみた。
「あ…名前覚えててくれたんだ」
「当たり前だろ?あんなに仲良かったんだから」
 そんな事よりも質問に…って、何故か泣き出したルーク。
「わわわ…な、泣くなって…」
「ひぐっ…だって…うぐっ…嬉し…嬉しくてぇ…えぐっ…あ、あのねラスナ…ぼ、僕君に謝りに来たんだ。君があの3人を倒したって聞いたから…だから…」
 涙を拭きながら必死になって喋るところ。
 変わって無いなぁ…
昔から泣き虫だったからなぁ…
「で、でも…昔君を裏切ったのは僕だから…あんなにも仲が良かったのに、君から離れてしまった事を僕凄く後悔してた…だから、どうしても君に謝りたくて…でも、許してもらえるか怖くて…自分勝手なのは分かってるけど、また昔みたいな関係に戻りたくて…ごめんなさい、ラスナ…そして、ラスナの事を任せっきりにしてごめんね…レーナ」
 やっぱり涙をボロボロこぼしながら謝る姿が、どうしても昔を思わせる。
 元々怒ってなんか無いのに、そこまで必死にならなくても…でも、凄く嬉しく感じる。
「…いいよ、ルーク。君の気持ちは十分伝わった。それに、そもそも怒ってないしね。また3人一緒に仲良くしよう」
「え…ほ、本当にいいの…?」
「当たり前でしょ?私たちの仲なんだから。あと、私になんて謝らなくてもいいのよ?好きでラスナには構っていたんだしね。おかげさまで今は幸せいっぱいなんだから」
 と、次の瞬間僕はラスナに引き寄せられるようにして頬にキスをされた。
 一気に目を見開いた後、みるみる顔を赤くしていく男2人。
 いくらなんでも不意打ちはまだ慣れていないので恥ずかしい…
「え、えと…つまり2人はそういう関係になったのか…いつから?」
「ついさっきから!」
 さらに嬉しそうにして頬を僕の首に擦り付ける。
 くすぐったくて、思わず顔がほころんでしまった。
「お、おい!くすぐったいって!や、やめてくれよ!」
「…あぁ、許してもらったのはいいけど、これからは大変になりそうだな…はぁ…」
久々に3人が集まって分かる、それぞれの大切さ。
なんとも言えない感動が全身を駆け抜ける。
そういえば、結局レーナの家にはいけなくなってしまったな…はぁ…
ま、いいか。


再び3人が一緒に行動するようになってから約一週間。
みんなでカラオケに行った、その帰り道の事。
「ねぇ、レーナ…のど大丈夫?」
 ルークも僕もそのことが心配でならなかった。
 3人で歌っている途中、突然レーナがのどの痛みを訴えだしたのだ。
 幸いにも痛みはすぐにひいたらしくすぐにまた歌いだしたのだが、たまに咳をしている。
「う~ん…とりあえず痛みは無いけど…でも、最近なんだか疲れやすいし…風邪かなぁ」
「体調管理には気を付けておきなよ?今度病院に連れて行ってあげようか?」
「ありがと、ラスナ。でも、病院は一人で行ってくるね」
「…そう?どちらにせよ、気を付けてね」
「分かってるって」
 しばらくの沈黙。
 そうしている内に、ルークの家の前まで来てしまった。
「あ、そうだ!今度2人で遊園地にでも行ってきなよ!たまにはさ、2人っきりの時間も欲しいでしょ?」
「い、いいの?でも、ルークが…」
「僕はいいからさ!じゃ、また明日ね~!」
 嬉々としてルークは自宅のドアを閉めた。
…相変わらず優しいんだからなぁ。
「じゃぁ…今度2人っきりでどこか行こっか!」
「うん、じゃあ何処行くか考えておくね!」
「それまでに私も病院行っておくね」
 そんなルークの些細なプレゼントのおかげで、晴れて僕ら2人だけでの初デートは決まったのだった。


あれからなかなか2人の予定が合わず、結局遊園地へは約1ヶ月経ってから行く事になった。
 その間やはりいつもの3人組で遊んでいたのだが、ルークには申し訳ないことに早くレーナと2人きりで遊びに行きたくて、かなりストレスが溜まっていたりもした。
そんな中やっと迎えた初デート当日。
 しかし、もしもこういう風に2人だけで出掛ける日が増えてきたら、ルークとは今までのままでいられるのだろうか。勿論、そう簡単に今のこの心地良い関係を崩すつもりは毛頭無いのだが。
 だが、先ほども言ったように結構ストレスが溜まっていたりする事からして、少し心配になる。
 いっそのこと、ルークも早く相手を見つけてくれれば楽なのだが…
「…どうしたの?そんな難しい顔して…」
 そうでした。今はその遊園地からの帰り道でした。
 せっかくなんだし、もっとレーナとの会話を楽しまなければ。
 深いことを考えるのは、もっと集中のしやすい自室などでしよう。
「いや、何でもないよ。ちょっと考え事してただけ」
「ふぅん…ま、いっか。そろそろ家も近い事だしさ、そこのコンビニで…っ…けほっ、けほっ…ごほっ!」
 最近は治まっていたはずのレーナの咳。
 今日の疲れによって、ぶりかえりでもしたのだろうか…
「だ、大丈夫?やっぱりコンビニはやめてもう帰ったほうが…」
「…けほっ…うん、ゴメンね…」
「別に良いって。レーナの身体の方が大事だから。…そういえば、病院行ってきたのどうだった?」
「っ…!!え、えっと…」
 明らかにレーナの顔が強張った。
「…どうかした?」
「い、いや…!ただの風邪だって!お薬ももらってちゃんと飲んでるし、大丈夫だよ!」
 そんなはずは無い。ここまでレーナが慌てるなんて…
 もしかしたら何か大変な病気でも…
「本当に大丈夫なの?正直に…」
 ここでもっと周りに注意していればよかったんだ。
 レーナを心配しながら後ろ向きに歩いたりするから…
 だから――
  ――交差点の赤色にも気付かなかったんだ。

「ラスナッ!!危ないっ!!」
「――えっ?

 次の瞬間、大きな衝撃が全身を駆け抜ける。
 真っ赤に染まる視界。
 骨が砕ける音。
 感じたことの無いような吐き気。
 トラックの運転手のサンドパンも、その美しい顔を絶望に染めたレーナも、
 全てがスローモーションに感じる。
 痛くて、痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて――
 あぁ、僕はここで死ぬのだろうか――
 
  ――路上に転がった僕を抱え、彼女は雫を零していた。


 …ナ…ラ……スナ…
 どこかから聞こえる声。
 ここはどこ?僕はどうしたんだろう…?
 そうだ…確か…
「っ…!!」
 とっさに僕は起き上がった。
 清潔感ある白で塗り固められた部屋の内装や、僕の身体に繋がるたくさんのチューブたちが、ここが病
院であるという事を静かに物語っていた。
 規則的に鳴り響く機械音。
 部屋の薄暗さからして、多分今は夜中頃だろうか…
 しかし、いくら見渡しても誰の影も見当たらない。
 確かに誰かの声…いや、レーナの声で目覚めたはずなのだが…
 そのとき突然部屋のドアが開き、ゆっくりと部屋の証明が点いた。
 多分、患者の目に優しいようにと配慮されているのだろう。
「ラスナさん!意識が戻られたのですか!」
 入ってきたのは、若い1人のブースターの男性だった。
「だ、誰ですか…?」
「紹介が遅れました。この総合病院であなたの担当をしておりますフレイと言います」
「フレイ先生、ですか…先生が僕の手術を?」
「はい。なかなか大変な手術でしたよ」
 と、いうことは僕が今生きているのはこの人のおかげらしかった。
 この国では医療費は完全に国の負担だから、お金のことは心配ないだろうが…
 そういえばこの先生、この間テレビで紹介されていたような…
 確か、神の腕を持つとか。
うん、見るからに腕の良さそうな先生だ。
「あの…僕は一体どうなっていたのでしょうか?」
「ラスナさん、あなたは丁度2週間前トラックとの接触事故を起こし出血多量、肋骨を7本骨折、内臓の43%を損傷するなど、大変危険な状態でこの病院に搬送されてこられたのです。そこからは意識不明の状況が続いていましたが、見事なほどの回復力を見せ体のほうはほぼ完治に近づいています。なかなか目が覚めなかった時は脳死も疑いましたが、意識が戻ってよかったです…」
 ふぅ…と深く息を吐き出し、静かに目を瞑った先生。
 自分の仕事に一区切りを感じ、安心しているのだろう。
 …僕って2週間も眠っていたのか。
 種族によっても変わるが、僕たちはだいたい1週間で複雑骨折が直るので、それと比べても自分がどれ
ほど危険な状況だったか分かる。
 そういえば、レーナはどうしたのだろう。まだ夜中だが連絡が取りたい。
「そういえば先生、レーナはどうしたんですか?」
「っ…!」
 一瞬、先生の顔が強張ったように感じた。
 そこから短く溜め息をつくと、ゆっくり口を開いた。
「ラスナさん…今からあなたにはつらい現実を話さなければなりません。あなたは…それを受け止める勇気がありますか…?」
 つらい現実…一体なんだろうか。
 先ほど僕の身体はほぼ完治したと言っていたので、後遺症とかそういった類のものではなさそうだが…
 まさか…レーナに何か?
「つ、つらい現実…ですか」
「受け止める勇気がありますか?」
 心臓が早鐘を打つ。
 本能が聞く事を拒もうとする。
 なぜか、恐ろしく感じた。
 でも…
「…はい、お願いします」
「そうですか、では…」
 大きく息を吸い込み、意を決して先生は口を開き――

   「…レーナさんは、亡くなりました。」



 彼女の病名。
 若くして、肺がんと心ファブリー病((心障害のみを認める非古典型のファブリー病のこと))との併発だったそうだ。
 今までに事例が無かったという。
 さらに軽い症状しかでていなかったのにもかかわらず、病気はかなり進行しており、4週間前彼女が病
院に出向いた時には、余命2ヶ月と宣告されていたという。
 どうせあと少しの命なら…と、かたくなに治療を拒み僕の傍に居てくれた彼女だったのだが、一体何を
想い、考えていたのだろうか…
 
『…けほっ、けほっ…ごほっ!』『最近なんだか疲れやすいし…風邪かなぁ』

医者でもない僕が彼女の病気に気付いてやるなんて無理な話なのだが、それでもやっぱり自分を責めて
しまう…
 どうして気付いてやれなかったんだ、と。
 

「――あなたがこの病院に運び込まれた時、早急に輸血をする必要がありました。しかし、輸血をするには同じ種族で同じ血液型の人からの血である必要があります。でも、あなたは数少ないイーブイ種である上、血液型がAB型です」
 そう、僕の血液型はAB型。
「そこで私達はまずあなたのご家族をあたったのですが、あなたに家族はいない…私の血液を、とも考えたのですがあいにく私はB型ですので…」
 確かに、ここまで近くにイーブイ種が3人も揃っているなど、滅多に無いことなのだ。
「そんなとき、レーナさんが…偶然にも、彼女も血液型がAB型でした。ですが、レーナさんは病気により輸血の手術に耐えられるほどの体力がありません」
 さらに、レーナも僕と同じAB型だった。
「彼女にはその事を説明しましたが、どうせ私は死ぬのだからあなたのためにこの命を使いたいと…」
 でも…でもそんな事いきなり言われたって…
 さっき僕の頭の処理が追いつかない…
 まだ、信じられない…
「あんたは…あんたは医者だろっ!どうしようもできなかったのかよっ!」
 どうしても、全てに対してささくれだってしまう。
 こんな事言っても無駄だと、大人気ないとは分かっているのに。
「医者でも…医者でも私だって1人の人間なんですっ!時にはどうしようも出来ない時だって…っ!いくら世界で腕のよさを認められていても、こんな時どうしようもないんじゃ自分が情けない…っ」
 ぐっと唇を噛みしめて、ただひたすら押し黙る2人。
 そのままどのくらい時間が経っただろうか。
 先生がゆっくりと口を開いた。
「…レーナさんの御葬式は明後日になっておりますので…」
 『御葬式』か。あぁ…本当にレーナは…
「…うぐっ…おえぇぇ…」
 もう吐き気がおさまらなかった。
 多分僕が吐き出す事を予想していたのだろう。
 先生は無言でステンレス製の器を差し出してくれた。
 胃の中には何も無いはずなのに、器には透明な液体だけが次々と溜まっていく。
 口の中がすっぱくて、しょっぱくて。
 絶望だけが僕の胃を満たしていった。


 無気力のまま1週間経ち、今日は卒業式。
 何とかレーナの葬式にも行ったし、退院も出来た。
 眼下にはたくさんの人々が広がっていたのだが、ここまで空が薄暗くなってしまってはもう誰も見当たらない。
本当は今頃レーナとルークとの3人組でここに集まっているはずだった。
僕が再び笑顔を取り戻したこの場所に…
しかし残念な事にまた僕の顔からは表情が消えてしまい、ルークとはずっと顔を合わせていない。
彼には非常に申し訳ないのだが、僕はもう心の中まで壊れてしまったらしい。
どうしているかな、ルーク。
僕、嫌われて無いかな…
でもさ、もう生きる気力が湧かないんだ…
だから僕はここに来た。

あぁ…死と言うものは小さい頃からことごとく、僕と僕の周りの大切な人とを引き離す。

ごめん、ルーク。
ちゃんと手紙は書いておいたからさ。
もうこの世には手紙を出すべき人なんて君くらいしかいないしね…
君は本当にいい親友だった。だから、最後の…僕の罪を許してくれ。
フェンスから身を乗り出す。
後は手を離すだけ…
さようなら。
今行くよ、レーナ…

「待って!ラスナ!」
 背後から、透き通るような声が響いた。
ずっと待ち望んだ声。どれだけもう一度この声を聞きたいと思ったことか…
でも、どうして…?
 恐る恐る振り返ってみると、やっぱりそこにいたのは――

――紛れもなくレーナだった。

 あの美しい彼女が、もういないはずの彼女がそこにいた。
「…待って、ラスナ。まだ、死んじゃダメだよ…」
「レーナ…どうして…君は…」
 ゆっくりと踏みしめるように彼女のもとへと駆け寄る。
 そして、震える腕で彼女を抱きしめようとするが…僕の腕は虚しく宙をきっただけだった。
 思わず前のめりにつまづいて、顎をしたたかに地面に打ち付ける。
「…な…んで?」
「ごめんね、ラスナ。私は一度死んでいるから…この世界の人には触れられないの」
 …どういうことだ?
 なら、なぜここに彼女がいるんだ…?
「よかった、何とか間に合ったみたいだね。レーナ」
 階段から姿を現したのは、ルークだった。
「ルーク…これはどういう…」
 どうも、状況が飲み込めない。
「えっとねラスナ、まずは僕たちシャンデラの事について話さないといけない」
 今更シャンデラの事なんて、何を知る必要があるのだろうか…?
 話の流れが読めない。
「僕たちシャンデラは、昔からこの生命エネルギーの力((シャンデラのポケモン図鑑をご覧下さい))を利用して一度だけ、成仏しきれなかった死者の魂をこちら側の世界に呼び戻すことができるんだ。もちろん僕の生命エネルギーがもつ限りだけどね」
 成仏しきれていない魂…
 にわかには信じがたいが…
 つまり、レーナはまだこの世に未練があるという事なのか?
 思い当たる理由があるとすれば、僕のことだろう。
「このことはヒトモシ種にだけ代々教え込まれているんだけど、だからこそ他の種族には知っている人がとても少ないんだ。まぁ、僕たちからしても、あんまり話していい気分にはなれないからね…」
 それはそうだ。
 こうして実際に目の当たりにでもしない限り、確実に頭のおかしな奴だと思われて終わるだろう。
「そして、死者の魂を呼び戻すのには3つの条件があるんだけど、その条件は、太陽が沈んでいる事、空気の濁りにくいひらけた場所にいること、そして…死者の魂とこの世界の人がお互い会いたいと願っている事」
 つまり、レーナ僕と会いたかったという事…?
 でも、ルークは何でレーナの気持ちが分かったのだろうか…?
「僕たちシャンデラはね、死者の魂が見えるんだ。それに、意思の疎通もできる。だからレーナとも通じ合う事ができた」
 まるで僕の心を読んだかのようなルークの言葉。
「でも、それも成仏していない魂だけで、成仏した後の魂の行方は分からないんだ。それより、僕の生命エネルギーも尽きてきたし…そろそろ早くしないと…後10分ももたないよ」
 確かに、ルークの額からは汗がじっとりとふき出している。
「そうね、早く本題に移らないと…」
「本題って…?」
 僕はこうしてもう一度会えただけでも幸せだというのに…
「私はあなたにどうしても別れの言葉を言いたくて…」
 別れだなんて、そんな…
「何もあなたに伝えずに勝手に旅立ってしまった事、ごめんなさい…あなたといた日々はとても楽しかった…これ以上無いくらいに」
「僕だって!君がいない世界なんて…」
「だからっ!だからこそ私はこうしてここに来たの…あなたが間違った道に行かない為に…あなたにはまだ生きてて欲しいから…」
 すっかりあたりは暗くなっている。
 だんだんと目頭が熱くなってきた。
「…じゃあ、じゃあ僕にどうしろって言うのさ…」
「…私ね、今まで奇跡なんて信じた事なかった。でもね、一つだけ奇跡って思えることがあるの…ラスナ、あなたの事だよ…」
 視界がぼやける。
「あなたが生まれてきてくれた事、あなたと私が出会えた事、あなたと過ごした一秒一秒が、どうしようもないくらい奇跡だって信じてる…今もあなたの中で私の血が流れていること、あなたの中で私がずっと行き続けられること、すごく、すごく私嬉しいんだ」
 2人の目からはとめどなく涙があふれだし、しっとりと屋上に染みを作っていった。
「あのさ、手綱…?」
「…おい…僕のことを乗馬する際、馬とコンタクトをとるための道具の一つみたいな名前で呼ぶなよ…僕の名前は…ラスナだ…」
「失礼…噛みました…」
「…わざとだ」
「噛みまみた…」
「わざとじゃ…ないっ…」
「…かみつく!」
 小さくて可愛らしい口をいっぱいに開けながら、僕の首元に歯を立てるレーナ。
 だがそのキバは僕に痛みを与える事はなく、するりと身体が交差するだけだった。。
「…どうしたんだよぉ…またいつもみたいに噛み付いてくれよぉっ!」
 やっぱりもうレーナには触れられない…
 そのどうしようもない距離が悲しくて…
「…あのさ、ラスナ」
「…なんだよぉっ…!」
「私ね、ラスナとの今みたいなやり取りが一番好きだったんだ」
「…僕だって!」
 僕だって楽しくてしょうがなかったさ…
「私、何であんな体に生まれちゃったんだろうね…私…私まだラスナと一緒にいたかったよぉ…ラスナとルークと、3人でいっぱいいろんな所に行きたかった…もっといっぱい話して、いつかラスナとは幸せな家庭も築いて…まだまだみんなと一緒にいたかったよぉ…」
「僕だってレーナとまだまだ一緒にいたかった…!」
 その時だった。
 コトリ、と言う音と共にルークの身体が傾いた。
「…はぁ…はぁっ…もう、そろそろエネルギーがもたない…っ」
 その身体に浮かぶ炎も随分と小さくなっている。
 もう10分経ったらしかった。
 いや、もう10分以上経っているはず…
 ルークがずっと耐えていてくれたのか…
 ふと、ぼんやりとした明かりが漏れ出す。
 何事かと振り向くと、レーナの身体が光り始めていた。
 これで、これでもう本当にお別れなのか…
「ラスナ、ルーク…もうお別れだね。ルーク、最後の最後に無理させちゃってごめんね…」
「これで最後か…悲しいね…僕にはこれくらいの事しかできなかったけれど、君がラスナに思いを伝えた事で成仏できるなら良かったよ…さようなら、レーナ…僕の親友…」
 くるりとレーナがこちらを向く。
 その顔は涙でくしゃくしゃになっていた。
「ラスナ…どんなに離れていても、私はあなたの傍に居るからね…愛してるよ」
「僕も世界で一番君の事を愛してる…だから、行かないでくれよぉ…」
 どうして僕はこんなにも不幸なんだろう。
 どうして僕は何度も胸が張り裂けそうにならないといけないんだろう。
 どうして…どうして…
「ごめんね、ラスナ…そしてありがとう…なるべく遅く追いついて来てね…バイバイ――」
 一際明るい光があたりを包み込む。
 まるで、彼女のように温かい…優しい光だった。
 再び夜のとばりがおりたとき、もうそこには――
 
 レーナの姿はなかった

「レ…ナ…レェェェナァァァァァァッッッ!!……くそぉ…くそぉっ」
 ただひたすら虚しく響き渡る、僕の叫び。
 そこに残された悲しみは、重たく僕にのしかかる。
 嫌だった。
 全てを投げ出してしまいたかった。
 レーナの最後の言葉にも、もう耐え切れなかった。
「…もう…嫌だ…どうして僕だけこんな…死に…たいよぉ…」
 その時だった。
 突然僕の身体が横に吹っ飛ぶ。
 頬に走った痛みからルークに殴られたのだと判断するのに、そう時間はかからなかった。
「…いい加減にしろよ…ラスナ…ふざけるのも大概にしろ!!」
 まさか、あの温厚なルークがここまで激怒するなんて信じられない…
 ぽかんと口を開けた僕の顔はさも滑稽だったに違いない。
「な…んで?」
「レーナが…どれほどの覚悟で君に再び思いを伝えようとしたのか分からないのか!?君がつらいのと同じくらい、いや、それ以上に彼女だってつらいんだぞ!そんな事も分からずに自己中心的な考えに陥るほど、そして自ら命を絶とうとするほど君は馬鹿だったのかよっ!失望したよ…っ!」
「…そんなことお前に言われたくないっ!僕がどれほどつらいか、悲しいか…」
「だったら周りの人まで悲しくしても良いって言うのかよ!?」
 周りの人…だって?
「君が死ぬ事でも悲しむ人はいるんだよ!…ただでさえレーナが逝って、心がえぐられそうなほど痛いのに…君まで僕の前から消えてしまったら…僕…」
「ルーク…」
 考えてもいなかった。
 こんなにも僕のことを大切に思ってくれている人が、こんなに近くにいたなんて…
「…お願いだから死ぬなんて言わないでくれよぉ…」
 顔をくしゃくしゃにしながら必死に喋るルーク。
「…ごめん」
 僕の中で何かが変わった音がした。
 僕は、レーナからもルークからも愛されて…なんて贅沢物なのだろう。
 いつもみんなが傍にいるんだ…今はいくら悲しくても、きっと僕は立ち直れる。
 
 僕は一人じゃない――

「ありがとう、ルーク…お陰で正気に戻れたよ…僕は、悲しみのあまりどうかしていたらしい」
「良かった…ラスナ…君はやっぱりそうでなくちゃ」
 そうだ…瞳を閉じて耳を澄ませば、いつでもレーナと僕の鼓動が聞こえるんだ…
 これほど幸せな事は無い…
「さっきは強く叩きすぎてごめん…」
「別にいいよ。そのお陰で僕は戻って来れたんだからさ」
 自然ともう涙は乾いていた。
「そろそろ帰ろうか!」
「うん!」
 僕たちの友情。
 3人の絆。
 それは、どうしようもないくらいに僕の命を救ってくれた。
レーナ、聞いているかい?…僕は生きるよ。
 生きて、生きて、君との約束を果たしてみせる。
 そして、いつかまた3人で笑い合おう…?
 
 ――きっと、約束だよ?
 
 どこかでレーナが笑ったような気がした。


 あの日から1年が経った。
 吹き抜ける風はあたりの草をなびかせる。
「もう1年経ったね…なんだかあっという間だった気がするよ」
 目の前の冷たい石は決してその表情を変えない。
 でも、なんだかとても温かく、優しく、笑って感じたのは僕の気のせいではないはずだ。
「あれから友達も増えたよ。ルークなんて、今は彼女なんか作ってさ…考えられないよね」
 そう、1年で僕たちは随分と変わった。
「僕、今は全く寂しくないんだ。だってどんなにつらいときも、目を瞑って静かに息を止めれば君に会えるから…君が僕に送ってくれた白血球や赤血球、いろんな愛のカタマリがいつまでも僕の中で生きているから…」
 僕は静かに笑いかけた。
 目には見えないけれど、きっとレーナも笑ってるって分かった。
 遠くから声がする。
「おぉーい、ラスナァー!そろそろ帰ろうよぉー!」
 ルークの声。
 今も変わらず、一番仲のいい僕の親友。
「ごめんねレーナ。そろそろ行かないとだめみたい。また来るからね、じゃあ」
 僕はゆっくりと立ち上がり、駆け出した。

 ――ラスナ、幸せになってね

 もう一度、僕は微笑んだ。


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僕ら3人の絆を紡ぐこの物語。
僕と彼女の心を繋ぐこの物語。
また会えるって信じてる。
また3人で笑い合えるって信じてる。
だからこそ、こう名付けよう。

 3人で作った、世界に一つの――

  ――僕たちだけの『有心論』――


                                     ~fin~


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~あとがき~
 
 やぁぁっと終わったよぉ!
 執筆期間、約1ヶ月でした!
 うーん…後から読み直すと、最後の方とか展開が急すぎたり、作品全体を通して文がグチャグチャですね…ひどい…
 
この物語は、ある動画を見ているときにインスピレーションが降りてきたのです。
 まぁ、ピカ×ブラじゃないですけどね…
 とりあえずは、時間ができて、そのときに私の文章力に磨きがかかっていたら、一応リメイク…なんて考えてたりします。
 …あんまり期待しないで下さい。
 …えっ?ラスナが入院中のレーナの事について、もっと詳しく教えろ?
 まぁまぁ、そう焦らないで下さいな。
 あの時の事は、いずれ本人が語ってくれると思いますよ?
 そのときまで、しばしお待ちを。
 先に官能作品仕上げておきたいんで…
 
駄作でしたが、ここまで読んでくださりありがとうございました!
 では、また会う日までアデューでございます!




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