作者:[[28×1]] 月下翡翠 第九話 -------------------------------------------------------------------------------- 第九話 8日目 黒雲。雨は降ってはいないが、曇天は明るい空さえ遮り、光をも通さない。夜は明けても、ただ暗い空が続いている。 太陽さえ、その闇を突き破ることが出来ずにいた。それを覆うほどに厚い雲が闇を貫いている。 その闇の中、鳥は囀りを始めず、未だ闇が暗躍していた。 ――その中、一際大きな影。額に大きな二本の角、闇に溶ける漆黒の体、禍々しく浮き出た鉛色。 其れは幾度も幸せを奪った者。闇に生き、悪を司る黒を身に纏い、幾度も禁忌を犯してきた者。 闇を見計らい、大きく一度首を擡げる。その大きく開いた口から牙が覗き、低い咆哮が静寂を満たした。 未だ煩悩を捨てきれず、彼の頭の中は――陰謀に溢れていた。その陰謀を実行するために、今も尚刻々と準備を進めている。 自らの野望は一度消えかけた――しかし、それは完全ではなく、小さな火種が白煙を上げていたのだ。 僅かな白煙に押し当てた燐は徐々に燃え広がり、消そうとする水をたじろがせようと。 その口が、不意に歪む。あと少し。あと少しだ。執行猶予はもう直ぐ終わる。 と、その時、背後の茂みが軽く揺れる。その中に混じった低い声をその敏感な耳は感じ取り、返事をするようにより低く唸る。 茂みの奥、遜りながら、その影に似たもう一つの小さな影。同じ漆黒の影、額に生じる鉛の仮面。 小さな影は大きな影の前に一度平伏し、拝顔する。 「――どうだ、準備は」 大きな闇が問うた。風の音よりも深く、低く、其れでいて落ち着いた、単調な声。 もう一つの小さな影は一度頷き、その問いに答えを返した。 「あと少しです。・・・後は、調達のみです。其れを終えれば、準備は完璧です」 小さく、だがその裏には大きな闇を抱いている。陰謀――膨張を続け、そして漸く完成が見えてきた。 仕上げは近い。自らを満たすためのフィナーレ。あわよくばそのまま、其れを支配するつもりだった。 全ては待ち望んでいた。強く長く願い、幾度もしくじって来たそれは、今度こそ完成する。今度こそ、満たされる。 もう一度、閉じた口の端が綻び、その瞳に邪念が灯る。それは赤い血の色にも似た、暗黒、悪の光。その光は瞳に灯ったと同時に、異様な輝きを放つ。 それは炎の色。赤すぎる赤の、燃え盛る火炎。出口の見えぬ、炎の渦。 そう、それは――消えかけた野望は、既に時を満し、燻りの白煙は、真紅の猛火と化す。 唸り声は群れ、集まり、盛大な森を包み込むほどの遠吠えになりつつある。壮大な陰謀は、月下、完成に迫っていた――。 それから数時間は通り過ぎた。既に黒雲は太陽と擦れ違うが如く消え去り、日本晴れが包んでいる。 嘗てそこに在った二つの大小の闇は既にその場を去り、闇に身を隠していた。溶けたように消えた後に、今は光が満ちている。 ――そのことを知る由も無く、リーフィアは未だその柔らかな瞳を瞼の奥に隠したままだった。温かく深い息は、安らかな眠りを物語っている。 柔らかな感触の毛に包まれた腕に凭れている彼女は、急に体中に生えた植物を逆立たせる。耳が小刻みにゆれ、うっすらと瞼が開いていく。 鳥たちの声を捕らえると、リーフィアは前足で目を擦った。鈴を転がすような、種族独特の鳴き声を少々漏らすと、後ろ足を立たせた。 開いたカーテンの奥には、緑色の風景が広がっている。いつもと変わらぬ朝の到来に安堵して、彼女は腰を下ろした。 改めて思えば、此処に住まうのも今日で8日目。長いようで、短く全て過ぎていったことに、改めて彼女は驚く。 濡れた栗色の瞳を閉じ、記憶を思い改めてみた。――いろいろな思いがそこには詰まっている。 一日目――いや、その前日。住処を火炎に包まれ、死ぬことを覚悟して――そのときの交渉に答えて彼女は此処に来た。 はっきり言って、その時リーフィアはマグマラシを憎んでいた。交渉に応じたのも――それは一重に、他のみんなを守るためだった。 一日目。そのときに見た悪夢は、明らかに彼女の憎悪を模したものでしかない。そしてこの日に、初めて彼女は夜伽に身を投じた。 初めての感覚、初めての快楽。他の人に見せたことの無かった秘所を弄られ、絶頂に達す――その感覚を忘れることは出来ない。 二日目。強姦される夢を見て、自分が淫欲に染まってしまうのではないかと、漠然とした不安を抱いた。そしてそれを反映するように、ヘルガーが現れる。 この日に彼女は媚薬を盛られ、壊れるほどの快感を得た。でもそれは――抱いていた不安など、消し飛ばすほどのもの。 三日目。テイルの畑――果樹園にて、媚薬を見つけた自分を戒めてみる。――その夜は、秘所とはまた一味違う感覚を味わった。 四日目。凍えた体をマグマラシの部屋で温めて、――改めてマグマラシのことを違う目で見るようになった。そしてその夜、いつの間にか距離が埋まっていて。 秘所を舐められて、突起を吸われて。恥ずかしいながら、そこに感じてしまって。彼女の中に新たな思いが生まれる。 五日目。デルビルたちに襲われ、瀕死に陥ってしまう。しかしテイルに救われ、なんとか逃げ延びた。 さすがにその夜は夜伽をすることは出来なかったけれども――。が、マグマラシの防衛意識が、逆に彼女を傷つけてしまう。 六日目。心に傷を負ったまま、ヘルガーに自慰を見つけられ、マグマラシのことを広めないという条件を突きつけられて交渉が成立してしまう。 その夜はヘルガーたちに強姦されるが、かろうじてマグマラシに救われた。そして――彼の罪を許すことを、認める。 七日目、つまり昨日。リーフィアは先日の恐ろしい悪夢を見て、マグマラシに縋り付いた。其れほどまでに、彼女はおびえていた。そして、同時に信頼していた。 昨日は――彼女は彼にお礼をした。それまでを思い出すと、彼女は胸の痛みに気付く。締め付けられるように、ちょうど胸の真中が軋む。 「好き、なのかな・・・」 嘗て呟いた言葉と、同じ言葉。でもそれは、暗いような、何処か切なげな口調だった。 彼女のマグマラシに対する感情は、憎しみから信頼へ、信頼から、――恋心へと、変わっていた。昨日あの行動に出たのも、この感情からだった。 ヘルガーから助けられたとき――その背に背負われて、彼女は安堵を覚えた。そして、同時に、彼への愛を抱いた。 愛しい。ただその思いが、彼女の中に渦巻いていて。 「マグマラシさん・・・」 切なげなその声が、細く静寂に溶けた。 リーフィアはベッドを降りると、そのまま隣の部屋へのドアをひらく。マグマラシの寝ている姿が目に入った。 その大きな濡れた瞳にそれを映したとき、一層彼女の心は締め付けられる。痛いほどに、それは心を貫いていた。 彼は深い眠りについている。その瞳は閉じられていて、彼女を映すことはない。 それでもなお、彼女は気にせずに彼のベッドに飛び乗る。柔らかくも確りとした感触が彼女の足に触れた。そしてそのまま、彼の隣に並ぶように横たわる。 彼女はその大きな耳を彼の体に触れた。さっ、と彼の温もりと鼓動の音が彼女に伝わってくる。生きている証を、彼女は身に感じていた。 こうして隣にいられるだけで――彼女は幸せだった。温かい、彼の隣にいられるだけで。でも、狂おしいほどに愛しさが彼女を襲い来る。 幸せな、はずだった――それなのに、満たされない彼女の心が高鳴っては痛む。軋む胸の奥、彼を見つめて、――唯、切ない。 それに耐え切れなくなったかのように、彼女は彼の腕を握り締めた。微かな温もりが、彼女に沁みていく。 嗚呼、此れほどまで近くにいるのに、彼女と彼の心の間には、まだ距離が開いていて。それを必死で埋めようとするのに、彼女は彼に追いつけなくて。 その切なさが込み上げてきて、彼女の瞳から溢れ、流れ落ちる。雫がマグマラシの腕に触れた。止まることなく、思いは透明な液体となって、次々と頬を伝う。 濡れた頬の冷たさよりも、胸に溢れる悲しさのほうが、彼女を苦しめていく。幾度も幾度も涙を拭くのに、またそれは零れていく。 またひとしずく、新たな涙が生まれたと思えば、腕の冷たさに気付いたマグマラシが、その紅い瞳をうっすらと開いた。 その瞳を見つめて、彼女の胸は尚痛む。 「マグマラシさん・・・私・・・私・・・」 彼女が想いを口から零す前に、彼は彼女を抱きしめる。いきなりの抱擁に驚きながら、彼女はマグマラシの顔を見た。 マグマラシは微笑を浮かべて彼女のことを見つめていた。――それが例え、彼女の気持ちとはずれていたとしても、彼女の心には沁みるほど温かい。 「何も言わなくていいよ」 彼は柔らかく彼女にそう伝える。その言葉が、余りにも切なくて、彼女は彼の胸に突っ伏した。 悲しみは、切なさは、彼女の口から声として溢れだした。 ――声を出して泣いたのなんて、何時振りだろう。それほどまで、彼女は追い詰められていて、ただ、切なくて、悲しくて。 その彼女さえ、マグマラシは抱擁してくれた。炎を体に住まわせて、その温もりで彼女の心を暖めてくれた。 彼女の冷たくなった顔をマグマラシの体毛に押し当てると、言いようが無いほどに温かい。 初めての、純粋な優しさが、温もりが、彼女の内側から生まれていて、そしてそれは、途方も無い切なさで空っぽになった心を満たしていく。 「濡れた頬の冷たさなんて、生涯知らなくていい」 泣き止んだリーフィアは、暫く嗚咽を漏らしていたが、それもその内に息の元に消えていった。落ち着いた彼女は、唯マグマラシの紅い瞳を見つめている。 嗚呼、紅蓮の瞳。以前は火炎の色、恐ろしい悪魔の如く。でも今は、優しい、温もりの炎だった。冷たさに温もりを与えてくれる、優しい炎。 マグマラシは一度リーフィアを見てにっこりと笑うと、その腰を上げた。名残惜しそうにその顔を見つめて、リーフィアは息をつく。 その唇に、マグマラシの唇が宛がわれる。彼女を慰めるように当てられた其れは、すぐに離れたけれども、その温もりはまだ唇の上で生きている。 そのことを確かめている間――マグマラシは、開いたドアの奥に姿を消した。 リーフィアはその後も尚、まだその部屋にいたが、やがてベッドを降り、開いていたドアを潜り抜けて玄関に向かう。 「わぁ・・・」 緩い風が身を撫ぜていく。太陽は頭上から光を投げかけ、あたりの植物は陰影を確かなものとしていた。 外は快晴だった。雲ひとつ無い空というのはこの事だろう。体の植物が日光をさんさんと浴びて生き生きとしている。 流れていく水の音の涼しさと、陽光の暖かさが交じり合い、滑らかな空間を作り出していく。透き通るような翠の葉が、彼女の額で光合成をしている。 陽光が体に温かい。その昼下がりを、彼女は思い切り駆け出した。河原を颯爽と駆けぬく健脚は、果てることなく躍動を始める。 逆風だが、それさえ気にならない。軽やかに上下する足は、また石を蹴り上げる。 何度と無く走り抜けたこの河原を、今日も駆け抜ける。でも――その最中さえ、彼女は考えていた。 黄色の四肢を水に浸して、テイルはリーフィアを待っている。 昨日、一昨日と彼女は来ていない。だが、彼女が来ることを信じながらテイルはそこにいた。 浅瀬特有の緩やかな水の流れは陽光でほんのり温かく、その心地よさに身を任せ、ただ彼女は空を仰ぐ。 広い。そして、深く、果てしない。純粋に青と言えなかった。透明とも不透明ともつかない。思えば不思議だ。 ――と、急に彼女は耳を欹てる。水音、蹴り上げるように軽やかな。数日前に聞いたものと同じ、リーフィアの足音。 「リーちゃーん!」 テイルは立ち上がり、音のする方向に向かって手を振る。晴れやかな表情を浮かべた彼女は、陽光を浴びて輝かしかった。 緑色と亜麻色が見え始めた。と、彼女は手を下ろす。直ぐに影は近づき、表情が見えるようになった。 「リーちゃん、昨日大丈夫だった?」 そう問うたテイルに、彼女はにっこりと笑って頷く。と、テイルも鏡のように口端を上に上げる。 と、テイルはゆっくりと踵を返して畑のほうに向かう。が――彼女に見えぬところで、リーフィアは悩んだ表情を浮かべた。 そのまま森に向かおうとしたとき――決心したように、リーフィアは強い声でテイルを呼び止める。 「ねぇ――テイル」 真剣そうな、彼女の上げ調の声に気付くと、テイルはその顔を後ろに向ける。そこには、迷いを切り捨てたリーフィアの顔があった。 そこに何処と無く寂しさを見つけ出して、テイルは一度目を瞬かせた。 「相談したいことがあるんだけど――いい?」 テイルは直ぐに頷く。その顔の真剣さを確かめると、日陰に腰を下ろした。その直ぐ横に、リーフィアが並んで座る。 河原も、日向も、此処から全てが望める。リーフィアは、テイルの顔を覗き込んだ。 「話せば長くなるけど、・・・簡単に言っちゃうとね、好きな人が出来たの」 真剣に切り出した言葉に、一瞬テイルは戸惑う。耳を立てて、一、二度揺らした。だがそれも、すぐに笑いで消し飛ばした。 テイルのその様子を見て、今度は逆にリーフィアが戸惑う番だった。 「なんだ、相談ってそんなことだったの」 あっけからんと笑顔を浮かべるテイルは、そう優しくリーフィアに言う。それはからかっている様な顔ではなく、かえって祝うような顔だった。 その顔を見て戸惑いを乗り越え、安心したリーフィアは、一度軽く息をつく。そして小さく笑顔を作る。 「どうしたらいいかな、って思って・・・」 「いやー、リーちゃんには言ってなかったけど、あたしずっと前に彼氏が出来てね」 聞いたことのないその話に、リーフィアはまた戸惑いの表情を表す。 「・・・っと、どうすればいいかだったっけ。――とりあえず告白してみたらどうかな?あたしもそれやられた口だし、それしかアドバイスしようがないんだなー」 朗らかに笑うテイルの助言を聞いて、リーフィアは決心したように頷き、笑顔を浮かべた。其れを見てテイルも頷き返す。 と、テイルが急に何かに気付いたようにぴくっ、と反応した。 「あっ!!リーちゃんに伝えそびれてたんだった!」 いきなりの大声に驚きながら、リーフィアはテイルの顔を見つめた。焦ったようなその横顔を見つめながら、驚きと同時に呆れをも感じる。 が、その内容が気になって、リーフィアは改めてテイルの顔を見つめた。 「――あのね、本当なら一昨日に話す筈だったんだけど――引っ越すことになったんだ、ディアと一緒に」 突然明かされた衝撃の事実に、リーフィアは唖然とするしかなかった。――引っ越す、つまり森から離れるということに。 テイルは本当に申し訳なさそうな顔をしていて、例えようがなく、静寂が満ちる。 「寂しくなるな・・・何処に引っ越すの?」 「街だよ。彼がトレーナーのポケモンだから・・・」 リーフィアの少し伏せ気味の顔には悲しげな表情が浮かんでいた。其れを見て、繕うようにテイルは微笑を浮かべた。 でもそれは慰めにはならず、かえって切なさが溢れていく。 「そっか・・・じゃあもう会えないかな・・・」 小さくつぶやいた彼女の声は細いけれども、確実にテイルとリーフィアをつないでいる。と、テイルは重い腰を上げた。 その顔を捉えようとしたリーフィアの顔が上に上がる。 「さて!じゃあ心残りだけど・・・畑に行こうか!」 明るくそういった彼女の声に、しっかり笑って頷いた。最後の思い出のために。 マグマラシは結局、一日中家の中に居た。どことなく出かけづらいし、どことなく出かけたくない。 ――昨日のせいかとも思ったが、その度薄く笑いながら、今も尚ここに寝そべっている。紅蓮の目が段々空が青からオレンジへと変わっていることを確かめた。 空のグラデーション。何度これを仰いだことだろうか。その度に違う気持ち抱き、違う夢を描いて。 ふとリーフィアの顔が浮かぶ。それと同時に、胸が高鳴り始める。・・・やはり外に出るべきだったろうか、ボルトに相談しに。 そんなことを思いながらも、マグマラシは外を見つめ続ける。段々日は落ちてきて、それでも尚鳥たちの声は止まない。 「ただいま」 と、ドアが開く音がした。そしてその中にリーフィアの声が。 その声に安堵して目を瞑ったかと思えば、その耳に微かな、戸を叩く音が聞こえる。その音に反応するかのように体が持ち上がり、ベッドを降りる。 ドアノブをつかんで捻り、内開きのドアが開く―― 彼は何が起きたか、状況が掴みきれなかった。辛うじて掴めた物は、自分が横倒しになっていることと、唇に温かいものが触れているということのみ。 見開いた目に、リーフィアの顔が映る。どことなく真剣そうな顔を、ただ見つめることしか出来ない。熱い鼓動はますます高鳴るばかりだ。 と、リーフィアが不意に口を離す。栗色の瞳、マグマラシの顔が直に映し出され、その真紅の瞳にも彼女が映り、ただ互いにそれを見詰め合っていた。 一度リーフィアがマグマラシの上から離れる。呆然としているマグマラシを促すように、彼女はベッドの上に飛び乗る。 マグマラシも我に返って、起き上がり、彼女の横に並んで座った。そのまま、互いの顔を見つめあう。高鳴る鼓動は、未だ止まない。 そうしたまま時間がたつかと思われたとき、リーフィアがその口を開いた。そして、ぽつり、ぽつりと話し出す。 「私は・・・マグマラシさんと主従関係で一緒になりました。それで――今日で、八日目になります」 静かな中、落ち着いているようでも昂揚が隠されたその声は、夕日さえささぬその部屋の中、時が止まったかのように静寂が続いているのを切っていく。 これから何が話されるのか、予想さえできぬその出だしに、彼はただリーフィアの瞳を捉えることしか出来なかった。 「その間、いろいろなことがあって――。襲われたこともあって、それで、私は――」 彼女は高潮していくその心内で、声は様々な色彩に彩られている。其れと同時に、彼女はマグマラシの顔を見つめた。真剣な表情に、ただ怯むしかない。 その間に、時間が流れた。静寂は夕焼けの空から漏れる微かな光と共に、その時間のたつ感覚を削り取っていく。 「貴方が――マグマラシさんが―ー」 心苦しそうに零れていく言葉の欠片、彼女を見つめることしか出来ないマグマラシは、自分の名前が出てきたことに驚きを覚える。 だが、彼女の表情は真剣そのもの――強い意志を持って作られた、否、生み出された表情だった。 その文章の最後――黄昏時の緩やかな時間の中、シルエットは唯長く落とされて。 「好き――」 最後につぶやかれた言葉の響きの切なさに、マグマラシはただ驚くしかなかった。でも――それは、自分が望んでいること、だった。 彼の中では胸が早鐘を打っているが、彼女の瞳は切なさ以外の何者でもない。その表情に、彼は何も言えず、また静寂が生まれる。 それを破るように、リーフィアがその続きを話し出す。その瞳、濡れてはいても――しかと、紅蓮を捕らえて。 「――主従関係で一緒になったから、こうして出会うことも出来ました。でも――でも、主従関係で、愛し合うことは許されないから――」 彼女の目から、思いが透明な水となって流れ落ちていく。頬を伝い、ベッドに、透明なしみを作った。けれども止め処なく、涙は溢れていく。 それをただ見つめていただけのマグマラシは、――彼女の手を握った。その温かさに気付いた彼女は彼の顔を見つめる―― 次の瞬間、リーフィアは彼に抱きしめられていた。いつもより強く、いつもより深く。 彼女も彼の体に腕を回す。互いの思い、互いに伝わって、互いを確かめて、それを表すように、ただ抱きしめあう。 「マグマラシさん――私のこと――受け止めてもらえますか――?」 小さく呟いた彼女の戸惑いを、かき消すが如く彼の強い声が静寂を絶つ。 「敬語なんて使わなくていい――もう、主従関係なんかじゃない」 抱きしめられたその腕を互いに離すと、唇をつけ交わす。いつもよりもっと強く、もっと長く、押し当てられた唇に、不思議な感情が生まれていく。 互いを確かめようと、二つの舌が互いに触りあい、愛撫しあい、絡んでいく。触れた命の温もりを、ただ味わいながら。 愛情で結ばれたその二人の間、口を離しても透明な糸が繋いでいる。祈り、願ったものが、叶ったという証のように。 互いの瞳に互いの姿を映し、不意にマグマラシが話し出す。 「・・・今日は、どうするんだ?」 澄んだ声は、沈みかけの太陽の下で薄く聞こえた。細いけれども芯のある、その声にリーフィアは一度目を瞑り、それから微笑を浮かべる。 「マグマラシさんと・・・一つになりたい。結ばれた証に、繋がりたいの」 その返答を聞いて、彼は一瞬怯む。だがその表情の真摯さを見て、一度笑う。でも、それとなく不安は残っていた。 本当に――本当にいいのか、それが分からない。でも、彼女の言葉を信じて、リーフィアの柔らかな体を抱きかかえ、横たえる。 いつだって、いつだってこうしてきた。でも、今日の胸の高鳴りは、いつものことではない――。 彼はリーフィアの上に、天幕を被せるが如く、向かい合うような格好になったが、ここでもう一度問いかける。 「本当に、いいのか?だってまだ――」 その言葉を遮るように、彼女はにっこりと微笑んで、首を縦に振る。頷いたその仕草で安心を心に置き、彼は上半身を彼女の体の上に預けた。 温かな体が触れて、彼女はそれを確かめるように軽く啼く。 彼女は、嬉しかった。彼とこうしていられることが、彼とこうすることができるようになったことが。 それは――マグマラシも、同じだった。互いが同じ気持ちで、ただ、それが幸せだった。 「――いいかい?」 彼女にそう尋ねて、マグマラシは微笑む。彼女は彼の温もりをかみ締めつつしっかりと、深く頷いた。 「いくよ・・・」 彼は自分のモノの位置を確かめ、彼女の秘所に宛がう。その熱さを感じながら、彼女は彼の顔を見つめ続ける。 そのまま体を重ねるように、彼は腰を沈めていった。 「・・・ぃつっ・・・」 彼女が痛みにその顔を歪める。肉壁の小さな間に無理矢理入れているのだから無理もない。 少量の血が彼のモノを赤く染める。と、マグマラシは彼女を心配するように一度彼女の顔を見るが、大丈夫だということを伝えるために彼女は笑顔を作った。 マグマラシはなおも彼女の膣内にモノを埋め続ける。柔らかい肉質が、硬い肉質を包み込んでいく。 「はぁ、はぁ、・・・ぅっん・・・あ゙っ!・・・」 息を喘ぐ中に、痛さを表した声が漏れていく。彼女はマグマラシを心配させないように声は抑えているのだが、それでもはっきりと聞き取れる。 半分ほどが彼女の内側に入り、一度マグマラシが口を開く。 「大丈夫?辛くないか?」 その声にも挿入する側の辛さが含まれている。入れる途中の、締め付けられているモノは破瓜の血に塗られている。 互いに辛さを乗り越えようと、リーフィアは荒い息のもとに答えた。 「うん・・・もうすぐだもの・・・」 その返答を聞いて勇気付けられた彼は、彼女の体にしがみ付いて腰を下ろしていく。 少しずつだが、未だ何も受け入れたことのなかった肉壁を押し広げ、その度に血は出るものの、モノは確実に彼女の中に入っていく。 「うあ゙っ!あぅっん・・・あ゛っ・・・」 彼女の声は苦渋の声から次第に喘ぎ声に変わっていく。未知の快楽が、次第に内側に生まれていった。 もう少し。彼のモノが完全に彼女の中に埋まるのは、そう遠くない。彼女の負担を減らすためにも、彼はゆっくりと、だが確実に挿入していく。 ――コツッ―― 確かに、彼女は叩くようなこの音を感じた。彼のモノはすでに埋まりきって、彼女の最深部にたどり着いていた。 二人は、繋がった。 「マグマラシさん・・・繋がったね・・・」 未だ苦しい息の中、嬉しそうにそう話し出す。確かに、確かに彼女と彼は一つになっていた。 彼のモノも相当熱く滾っていたが、彼女の中も熱い。締め付けられるような快楽の中に、確かにその充実感を互いに味わう。 じっとしているだけで、快感は押し寄せてくる。リーフィアとマグマラシを繋いでいる彼のモノは、次第に彼女の内側で大きくなっていく。 「動いても・・・大丈夫かい?苦しくない?」 「ちょっと、苦しい感じがするの・・・もう少しこうしていたいな・・・」 今まで入ったことのなかった場所にモノが入れられたことによって、体は少し気分の悪さを訴える。 彼女はマグマラシの顔を見つめる。その顔には恍惚の表情が浮かんでいて、幸福を形容したような、そんな顔をしていた。 しばらく、そのままの時間が続いた。群青色の外からは、月が二人の様子をのぞきこんでいる。 「マグマラシさん、もう大丈夫・・・。動いていいよ・・・」 息も落ち着き、リーフィアは静かに彼にそう告げた。と、彼は小さく頷いて腰を動かす。 引いたモノは彼女に肉壁の摩擦による快楽と同時に、痛みを齎す。それが混ざり合って襲い着て、彼女は声を上げる。 「ああ゙ぁっ!」 血が少量また染み出すが、それよりも愛液のほうが彼のモノを濡らしていた。 だが彼はその彼女の声に心配して、一度腰の動きを止める。そしてそのまま彼女の顔を見つめる。 が、彼女は無理にでも笑顔を作る。 「私は大丈夫だから・・・続けて・・・」 その言葉を聴いてマグマラシは少し心配になったが、彼女が望んでいるのなら叶えてあげたかった。彼はまたピストンに掛かる。 彼は腰を動かし始める。段々円滑油によって動きは滑らかになっていき、その度に動きは早くなっていく。 そして彼女の声の苦渋と喘ぎの割合も変わっていった。 ズリュッズリュッズリュン・・・ 「あぁっ!あぅっん!あ゙っぁっ!」 高潮していく雰囲気に、彼女の秘所から漏れる水音と、互いの喘ぎ声がデコレーションされていく。 彼女は彼のモノが肥大し終えたことが分かった。でもそのことさえ、快感の下に置かれた彼女にとっては何の関係もない。 何も考えられないほどに、二人は快楽を覚えていた。 「リーフィアっ・・・!外で出すぞ・・・」 絶頂を迎えそうになった彼はそう告げるが、その時彼女は悲しそうな顔をして、彼は動きを止める。 「いやっ・・・!お願い・・・中で・・・中で出して・・・」 「リーフィア・・・」 小さく呟いた彼は、少量の迷いを金繰り捨て、またピストンを始めた。少ししぼんだモノは、直ぐにまた元気になる。 彼がまた激しく動き出したとき、自分の中で彼のモノが大きくなったことを確かめた。 もはや体中が熱いが、それでも尚彼は腰を動かし続けている。それは彼のためでもあったが、彼女のためも大きい。 「イ・・・イくぞっ・・・!ぅあ゙っ!」 一度彼のモノが肥大し、一気にしぼんだ。其れと同時に、先端から精液が吐き出され、彼女は子宮の壁に、熱いものが大量に当たっている感覚を味わった。 それは熱いが、同時に柔らかく、絶頂はそのまま高揚を保ち続ける。体中が熱く滾っている。 彼女の中に納まりきらなかった白濁汁は溢れ、ロストバージンの血と混じって桃色となり、行き場を失ってシーツの上に毀れる。 暫くは双方がぐったりと横たわっていたが、そのうちに彼は力を取り戻して起き上がろうとした。それと同時に、モノは抜けそうになる。 「いや・・・まだ・・・こうしていて・・・」 小さく呟いたリーフィアの声を辛うじて聞き取ると、マグマラシは一瞬戸惑った表情を浮かべたが、それもすぐさま笑顔に変わる。 彼はまた腰を埋めた。体がぴったり彼女と重なる。繋がっているということが、互いの熱さから分かる。 「ずっとこうしていられたらいいな・・・」 そういって彼に体を預け、リーフィアは目を瞑る。恍惚の表情はまだ、彼女の上から消えていない。 二人の間は、愛情、幸福という絆で結ばれた。そのことが、ただただ、嬉しくて、 ――その時、外で暗躍していた影に、気付くことはなかった。 -------------------------------------------------------------------------------- #pcomment(月下翡翠:米ログ,10,) #pcomment(月下翡翠:米ログ) 以下↓旧コメント 期待してたのにwwwww -- Electronics (2007-07-19 11:53:12) み、みごとに釣られたwwwクマー -- 名無しの桜 (2007-07-19 13:22:14) いっそのことヘルガーを強姦(ry -- 名無しさん (2007-07-19 15:32:00) この釣りにこんなにコメントがw >Electronicsサマ 名無しの桜サマ ふっふっふ、それが狙いだw >名無しさん ぎゃくなr(強制終了 これからうpしますー。 -- 28×1 (2007-07-19 16:25:48) 最後はヤッパリヘルガー登場? -- 交差点 (2007-07-19 22:42:17) 最終回に超期待!イースタのリーフィア×マグマラシの絵はどうですか? -- eee (2007-07-19 23:47:46) ついに2匹が結ばれましたね!ヘルガーの行動が気になる最終回に期待大です!! -- こーが (2007-07-20 00:51:13) 本番キター!やっぱ28×1氏は上手すぎwww…………挿し絵無いn(ry -- Electronics (2007-07-20 11:30:10) 一日でこんなに来るなんて・・・ありがとう!ありがとう!!(泣 -- 28×1 (2007-07-20 16:28:58) ヘルガー(・∀・)キターーー!最終回、優秀の美を飾る作品を楽しみにしております -- aa (2007-07-21 01:33:04) ・・・ぬ?誰でしょう?アンケートに「オレは28×1氏の小説が読めれば幸せ」加えたの?まったく、嬉しいなぁ・・・(ぉ -- 28×1 (2007-07-22 21:15:02) 俺。ではないんだなこれが。…まぁそれに投票したんだけど。 -- 名無しさん (2007-07-24 09:57:22) ↑に同じく投票しました。でも、自分でもありませんね・・・。 -- 名無しさん (2007-07-24 19:26:14) リーフィアで毎日抜いてます(蹴 -- あおいオーダイル (2007-07-24 23:01:22) 次回で泣きそうな予感がしてならない。 -- S (2007-07-25 11:27:40) 私。でもないんですねぇ。これが。当然の如く「オレは28×1氏の小説が読めれば幸せ」に投票しましたが。 -- 名無しさん (2007-07-25 14:33:59) とりあえず返信しまふ。 >挿絵 描きたい気持ちはヤマヤマですが、相変わらずペンタブも使えませんで・・・。今はアナログでやるっきゃないですねぇ。 >「~読めれば幸せ」 でも、なんか加えてくれた人の気持ちとそれに投稿する人たちの気持ちで物凄く感動・・・(泣 >リーフィアで毎日抜いてます なんか物凄く嬉しかったりする。 >次回泣きそうな予感がしてならない 泣け!(ぉ -- 28×1 (2007-07-25 15:20:58) 「濡れた頬の冷たさなんて、生涯知らなくていい」 BUMP OF CHICKENのダンデライオンネタでおk? -- 名無しさん (2007-08-03 03:26:43) ↑おk。なんか「ダンデライオン」流してたら自然とそうなった漏れ。重症だな漏れ。 -- 28×1 (2007-08-03 04:12:29) 「この元気な声が 聴こえるか この通り 全然平気だぞ濡れた頬の 冷たさなど 生涯お前は 知らなくていい」BUMP OF CHICKENイイねー、ダンデライオンイイねー\(%)ノ -- 名無しさん (2007-08-04 01:30:51) ダンデいいねぇ -- ポスト (2007-08-17 16:44:10) これエロ小説だよな・・・? すごい感動・・・(涙 -- 名無しさん (2007-12-01 02:27:52) IP:61.7.2.201 TIME:"2012-12-06 (木) 22:12:55" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%9C%88%E4%B8%8B%E7%BF%A1%E7%BF%A0%E7%AC%AC%EF%BC%99%E8%A9%B1" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.11 (KHTML, like Gecko) Chrome/23.0.1271.95 Safari/537.11"