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時渡りの英雄第28話:愛をこめて花束を の変更点


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**411:グラシデアの高原 [#g545824c]
**411:グラシデアの高原 [#udce5bc6]

 そびえる霊峰。雪の降りつもる白峰の山並みを超えてみると、その頂には極楽浄土と見まがうような花畑と、下界を見下ろす俯瞰が広がる。
 そびえる霊峰。雪の降りつもる白峰の山並みを越えてみると、その頂には極楽浄土と見まがうような花畑と、下界を見下ろす俯瞰が広がる。
 冷え冷えとした空気は喉に一切の抵抗なく飲み込めるほどに澄み渡り、肺を満たす感覚はどんなタバコよりも、清流の傍よりも極上だ。少し前までは雲海に覆われていた下界は飛び降りても安全とさえ思わせるように柔らかな色合いを示している。そして今、眼下に広がる晴れ渡る山並みは精巧な箱庭のよう。高いところまで上ってきたのだと自覚させる。
 足元に広がる薄紅色の花の名はグラシデア。冷たい風に揺られる釣鐘型の花弁は五つに分かれ、子孫を残す蘂に近い中心へ向かうにつれて薄っすらと白が混ざり、甘く柔らかなグラデーションを呈している。
 凛とした風情を周囲に振りまいて香るこの花の花言葉は、『Gracias』という。アンノーン語の派生の一つで、感謝を意味する言葉である。

「ホントに詳しいのですね、ドゥーンさん……グラシデアのお話は知っていましたが……そのほかの植物については、私何も……」
「私はそれしか能がないからな」
 照れ気味にドゥーンは頭を掻く。
「全く、あれだけ強いくせに物事に詳しいことが取り得だなんてよく言う。それに、お前は話が長すぎるんだ」
「全く、あれだけ強いくせに物事に詳しい事が取り得だなんてよく言う。それに、お前は話が長すぎるんだ」
「話が脱線するのは私の専売特許なものでな」
 それ以上会話が続かず、全員が沈黙してしまう。そもそも、ここに来るまでに今後について十分すぎるほどに話し合ったせいであまり話題は残っていない。
「それにしても……こんな場所があるとはな。思えば、ここもトキの力なしには荒れていたんじゃないのか?」
「かもしれませんね……今思えば、氷山で交わした約束は行き当たりばったりの計画でした……ふふ、でも、そんな計画でさえ、貴方たちは付き合うと言ってくれたんですよ? あのときの私の嬉しさと言ったらそりゃあもう……生まれ変わったらここに来れるような気がして心が温かくなりました。
「かもしれませんね……今思えば、氷山で交わした約束は行き当たりばったりの計画でした……ふふ、でも、そんな計画でさえ、貴方達は付き合うと言ってくれたんですよ? あのときの私の嬉しさと言ったらそりゃあもう……生まれ変わったらここに来れるような気がして心が温かくなりました。
 約束したとおり、貴方と……ここに来られて本当に良かったわ、コリンさん」
「お、おい……くっ付くな」
 シャロットはコリンのほうを向き、その言葉が偽りでないことを示す表情を見せて見せる。見せびらかすように強引に引っ手繰ったコリンの腕を組む。
 シャロットはコリンのほうを向き、その言葉が偽りでない事を示す表情を見つけるべく、見せびらかすように強引に引っ手繰ったコリンの腕を組む。
 周囲が溜め息をつくほど仲の良い二人を見ていると、傍にいるドゥーンはなんとなく居た堪れない。
「トキ様が言っていたな……」
 苦笑して、ドゥーンは言う。
「何をだ?」
「何がですか?」
 二人の声が重なったことを、当人は照れあいドゥーンは笑う。
 二人の声が重なった事を、当人は照れあいドゥーンは笑う。

「『ドゥーン……お前は私が山頂にある時の回廊へ逃げた後の野営の時は空気を読まなかったが……私を打ち破った時にはキチンと空気を読んで消えたな』と言って笑っていたのだ。その時は見ていなかったはずなのに、どうやって知ったのやら……
 私は、今までトキ様が冗談を言うような方だとは知らなかったな。自分には滅多なことでは色恋沙汰に縁がないせいか、私たち普通のポケモンの色恋沙汰にはやたらと興味を持って首を突っ込んでくる。それが本来のトキ様だということを知らなかった。
 やはり神もまた私たちと同じ生物として生きているのだと実感させる会話を、お前達がいないところで何度もしていた。トキ様はああやって共に話せる存在であり、闇に囚われていた時のような横暴な命令……」
 私は、今までトキ様が冗談を言うような方だとは知らなかったな。自分には滅多な事では色恋沙汰に縁がないせいか、私達普通のポケモンの色恋沙汰にはやたらと興味を持って首を突っ込んでくる。それが本来のトキ様だという事を知らなかった。
 やはり神もまた私達と同じ生物として生きているのだと実感させる会話を、お前達がいないところで何度もしていた。トキ様はああやって共に話せる存在であり、闇に囚われていた時のような横暴な命令……」
「ドゥーン、お前は相変わらず話が長い」
 コリンの一喝にドゥーンは苦笑した。
「すまん、また脱線した。要は、な……今、私がこの場に居たら邪魔だな。と、言うことだ……邪魔者は去るよ。
「すまん、また脱線した。要は、な……今、私がこの場に居たら邪魔だな。と、言う事だ……邪魔者は去るよ。
 食べられそうな野草や薪でも集めてくる……後は、野営する場所に目星をつけるとか」
 言うなり、ドゥーンは音もなく山を下って行った。確かに、野営の前にやるべき事は色々とあるから、そういう意味ではありがたい気遣いではあるが。
「馬鹿野郎……余計気まずくなっちまったじゃないか」
 状況はコリンの言った通りの事になる。
「いいじゃない……少しくらい冷めたってまた暑くなりますよ」
「そうかな? なんだかなぁ……」
 間の抜けた声を上げ、手足を広げてコリンは横になる。寝転んだまま胸いっぱいに澄んだ空気を吸い込むと、冷たい空気が肺を満たす感覚がなんとも心地よい。

「俺は……なんだか拍子抜けして眠くなってきた。結構寒いけれど、太陽が近いから光合成もしやすいし、少し眠るよ」
「え~……なんなんですか、コリンさん? せっかくドゥーンさんが気を利かせてくれたのに」
 シャロットは、そっけない態度のコリンに不平をもらす。 
「いいだろう? 山の楽しみ方は一つじゃないぞシャロット。こういうのも、楽しみの一つだ……俺はそれを学んできた」
「……つまんないの。もう、知らない」
 だが、その不平に応じることないコリンに愛想をつかせたのかシャロットはプンプンと何処かへ行ってしまった。
 だが、その不平に応じる事ないコリンに愛想をつかせたのかシャロットはプンプンという擬音でも聞こえてきそうな後姿を見せて何処かへ行ってしまった。
「ずいぶん聞き訳がいいじゃないか。シャロット」
 自分にだけ聞こえるように呟いたコリンは、薄目を開けてシャロットを目で追う。やがてその姿が消えるのを確認すると、むくりと起き上がってコリンは傍らに生えていたグラシデアの花を愛でる。二本の指で摘まんでその茎を撫でまわし、一つ一つを丁寧に摘み取った。

**412:感謝の気持ち [#x549abb8]
**412:感謝の気持ち [#a4012f6d]

「シャロット……おはよう」
 一人座って風景を眺めていたシャロットの背後から、コリンが笑い掛ける。
「な、なによ今更……」
 素直になれないシャロットをコリンは小さく笑う。素直になれないのは自分もなのだが、他人のそれを見ているとそれがなんだか面白い。
「いや、なに……もう、目が覚めてしまったものでな」
 コリンはシャロットの左隣に座り、ちょこんとした小さな頭に自身の手を置く。
「な、なんなのよ!?」
「少し……ゆっくり話したくってな。少し寒い、くっ付いても構わないな? 過去の世界では、アグニとよくやったんだ」
 コリンが言いながら右肩に手を回しを寄せ合わせても、シャロットは文句を言わなかった。
「やけに素直だな……」
 小さく笑うと、シャロットは桃色の顔にもはっきりと分かるほど頬を赤らめる。
「か、勘違いしないでよ。私はただ……ほら、寒いし」
「そうなのか……ありがたいな。こんだけくっつき合っている今なら、風邪なんて引かないだろうよ」
 素直じゃないシャロットの言葉を素直に受け取り、コリンは無邪気に笑う。
「でな、シャロット……話したい内容ってのはな……」
「うん」
「愛のことだ」
「愛の事だ」
 気配を忍んだ暴漢に、背後から鈍器で殴られたに等しいくらいの衝撃に、シャロットは思わず唾液を噴き出した。笑いではなく、ただ驚きで。
「ちょっと、今日はどうしたのですか、コリンさん?」
「今まで、そんな事考える余裕がなかっただけだ。俺だって、こういうことを考えたい時はある……」
「今まで、そんな事考える余裕がなかっただけだ。俺だって、こういう事を考えたい時はある……」
 コリンは肩を抱くだけでは足りないのか、余った左腕でシャロットの左腕に触れる。
「『愛する』なんて、結構気軽に使う言葉だけれど……本来はどういう意図で使うものなのかなって、ずっと考えていた」
「愛の形なんて人それぞれじゃない……」
「そうだな。だが……」
 コリンは、花びらを一枚摘み取って風に乗せる。揺られるがままに山を下り、優雅に空を泳ぐそれを見つめながら、コリンは言う。

「愛の形なんてものは手段に過ぎない。愛すると言うのは目的……ならば、愛するってのは具体的にどういう事なんだろうな?」
 それっきり、コリンが沈黙してしまったので、シャロットは固めていた答えを口に出す。
「愛すると言う目的は……愛される対象を、幸福にしてあげることなんじゃないかなって、そう思います……あはは」
「愛すると言う目的は……愛される対象を、幸福にしてあげる事なんじゃないかなって、そう思います……あはは」
 自分で言った意見の何かが面白かったのか、シャロットは自嘲気味な笑いを付け加えた。
「正直に言うとね、私は……私は貴方が好きでしたし、今も大好き。でも、貴方を愛してはいなかったんです……」
 シャロットがコリンの左腕を抱きかかえ、コリンの胸に顔を押し付けた。逃げ場のない息遣いがコリンの胸に生暖かく吹き付ける。
「そうか……じゃあ、俺も正直に言うとな……俺は、お前の定義で言うと、今までシデンやアグニのような過去の住人のことばかり愛していた。そして、その他の身近なものを愛していなかった……最も身近な例では、自分だ。俺は、自分の幸せを全く考えずに生きてきた気がする。自分を愛するなんて言うとナルシストみたいだが、それも大事な事なんじゃないかって、今になって思ったんだ」
「そりゃあ、そうですよ。自己犠牲精神はご立派なことですけれど……それで自分を愛さないなんて、見ていて辛いです」
「あぁ。だからこれからは、自分の幸せについて考えたいと思っている……世界もこんな感じになったことだし、自分の幸せのために生きてみたいんだ。それともう一つ、シャロット。お前のこともだ」
 コリンの告白に、シャロットは驚きはしなかった。ふ~ん、と当然のことのようにその言葉を受け入れる。
「そんな話をするってことは……貴方は、私のこと、好きでしたか?」
「嫌いじゃなかったが……愛しているかと聞かれれば微妙だった。それに気付いちゃうと、自分はちょっと寂しかったな。過去には愛する人を残していたのに、こっちにゃ誰もいないから……それに、下手すれば誰にも愛されていないお前のこともなんだか哀れに思えて。朝日の中で消えようとした時、俺は……
「そうか……じゃあ、俺も正直に言うとな……俺は、お前の定義で言うと、今までシデンやアグニのような過去の住人の事ばかり愛していた。そして、その他の身近なものを愛していなかった……最も身近な例では、自分だ。俺は、自分の幸せを全く考えずに生きてきた気がする。自分を愛するなんて言うとナルシストみたいだが、それも大事な事なんじゃないかって、今になって思ったんだ」
「そりゃあ、そうですよ。自己犠牲精神はご立派な事ですけれど……それで自分を愛さないなんて、見ていて辛いです」
「あぁ。だからこれからは、自分の幸せについて考えたいと思っている……世界もこんな感じになった事だし、自分の幸せのために生きてみたいんだ。それともう一つ、シャロット。お前の事もだ」
 コリンの告白に、シャロットは驚きはしなかった。ふ~ん、と当然の事のようにその言葉を受け入れる。
「そんな話をするって事は……貴方は、私の事、好きでしたか?」
「嫌いじゃなかったが……愛しているかと聞かれれば微妙だった。それに気付いちゃうと、自分はちょっと寂しかったな。過去には愛する人を残していたのに、こっちにゃ誰もいないから……それに、下手すれば誰にも愛されていないお前の事もなんだか哀れに思えて。朝日の中で消えようとした時、俺は……
 最後の最後で、お前だけを愛していた……と、思う。多分、きっと」
 この言葉はお世辞というか、社交辞令ではあったが、コリンがシャロットを気遣っているのは、本心であった。
「最後の最後でキスしようとも……したっけか」
 流石に、消える瞬間は思うことが多すぎて記憶が曖昧になっているし、確証を得られないという事でコリンは曖昧にしか口にしない。煮えきらぬ告白に申し訳無さそうにしているが、シャロットの機嫌は悪くならない。
 流石に、消える瞬間は思う事が多すぎて記憶が曖昧になっているし、確証を得られないという事でコリンは曖昧にしか口にしない。煮えきらぬ告白に申し訳無さそうにしているが、シャロットの機嫌は悪くならない。

「だから、私はあの時……消えようとする時に幸せを感じられたのですね……そっか。貴方のお陰ですよ。多分、きっと……」
 胸に埋めた顔を離して魅せる。コリンが見たその顔は、百合のように可憐な笑顔だ。
「なんだか照れるな」
 コリンは自分が嘘をついていることに負い目を感じつつも、シャロットが喜んでくれたことに微かな達成感を抱いた。
 コリンは自分が嘘をついている事に負い目を感じつつも、シャロットが喜んでくれた事に微かな達成感を抱いた。
「だから……私を幸せにしてくれてありがとう。そういう気持ちを伝えたかったんだけれど……私不器用だから……こんな形でしか、貴方に感謝を伝えられない」
 ひっそりと佇む岩の陰に置かれた花束。コリンの腕を解いてから念力で引き寄せたそれを腕に抱き、シャロットはコリンの胸に押し付ける。その花の名前はグラシデア。この花の花言葉は『Gracias』。アンノーン語の派生の一つで、『感謝』と言う意味である。
「私は、本当に不器用だから……ありがとうも言い出せずに甘えていた……今日、ここに来るまでは。
 でも、今は言える。私の気持ちのすべてを込めた花束……ちょっと大げさかもしれないけれど、受け取ってくれないかな?」
「え、あ、おう……」
 押しつけられたそれを、はにかみながら、コリンはそれを受け取った。
「照れていないでっ」
「そんな、無茶を言うな……まぁ、いいか」
 めったに赤らまないコリンの顔が赤く上気する。その顔を俯かせながら、コリンはシャロットに背を向けてすたすたと歩き始める。
「俺からも……お前に向けて」
 グラシデアの花を編んで作られた冠を、シャロットの頭に被せる。

「花を贈るよ……似合っているぞ」
 上目使いにその冠を見つめるシャロットの目は大きく見開かれていて、素直に驚嘆を表したその顔はもみくちゃにしてやりたくなるほど可愛らしい。お互い、『ありがとう』とは言わなかった。その言葉を全て花言葉に託してその温もりを抱きしめさせるのに言葉は不要だから。
「もう……コリンさんは器用すぎます。私の贈り物が……全くありがたみがなく見えるじゃないですか……」
「知るか、不器用なのが悪い」
 得意げに言ってコリンはシャロットの翅を撫でる。

**413:未来に光あれ [#m62548e1]
**413:未来に光あれ [#nc48371c]

 心地よい沈黙が二人を包んでいた。滑らかな花弁を撫でながら花を愛でるシャロットと、貰った花束を抱きしめて香りを嗅ぐコリン。シャロットはは、ちらちらと横目で互いの体を見ていた。
 それを眺めれば眺めるほど、自分との体の違いは恨めしい。子供が産めない組み合わせというのが、大きな制約となって二人の間に立っている。しかし、その恨みも併せ呑んで付き合うことが大事なのだと、口にすればそう思える気がした。
 心地よい沈黙が二人を包んでいた。滑らかな花弁を撫でながら花を愛でるシャロットと、貰った花束を抱きしめて香りを嗅ぐコリン。シャロットは、ちらちらと横目で互いの体を見ていた。
 それを眺めれば眺めるほど、自分との体の違いは恨めしい。子供が産めない組み合わせというのが、大きな制約となって二人の間に立っている。しかし、その恨みも併せ呑んで付き合う事が大事なのだと、口にすればそう思える気がした。
「ねえ、コリンさん」
「なんだ?」
 花束を太陽に翳しながら、コリンは答える。
「私とセックスしてくれって言われたらどうします?」
「お前と俺とでは、タマゴグループが違う。例え、キノガッサやロズレイドのように一致していたとしても、伝説のポケモンとは滅多な事じゃ子を宿すことは出来ない。
「お前と俺とでは、タマゴグループが違う。例え、キノガッサやロズレイドのように一致していたとしても、伝説のポケモンとは滅多な事じゃ子を宿す事は出来ない。
 だから、俺はお前以外の誰かに自分の子を孕ませる事になるだろう。お前は、俺以外の誰かの子供を宿す事になるだろう……それでも、愛と生殖は必ずしも連鎖するものでは無い……」
 そういって、コリンはようやくシャロットの方を向く。
「過去の世界の価値観なんて、この世界の住人にとっちゃ馬鹿らしいと思うかもしれないが、子作りをするなら、将来寄り添おうと決めた相手とだけにした方がいいんじゃないかな……
 お前の事は嫌いじゃないし。愛することも出来るだろうが……だからこそお前の体を大事にしたいし、お前もホイホイと男を誘うもんじゃないと思う」
 お前の事は嫌いじゃないし。愛する事も出来るだろうが……だからこそお前の体を大事にしたいし、お前もホイホイと男を誘うもんじゃないと思う」
「そう……そうよね。ごめんなさい」
「こっちこそ、過去の背化の常識を持ち込んで済まないな」
 コリンが謝るが、シャロットは何も言うことをできず、自分の手を見つめながらこれから先どうすればいいのか考える。
「だったら、コリンさん……お互いの配偶者に嫉妬さえしなければ、私たちいつまでも上手くやっていけるかしら?」
「こっちこそ、過去の世界の常識を持ち込んで済まないな」
 コリンが謝るが、シャロットは何も言う事が出来ず、自分の手を見つめながらこれから先どうすればいいのか考える。
「だったら、コリンさん……お互いの配偶者に嫉妬さえしなければ、私達いつまでも上手くやっていけるかしら?」
 シャロットはコリンが抱きしめている花束を掴み、頭からはずした花の冠の輪を通す。花束と花の冠は、ちょうど♂と♀の輪が絡み合うような格好になった。
「こうやって、心と心で繋がるんです」
 その格好で、きっちり♂と♀の絡み合いをイメージしたシャロットは、自分でやっておいて赤面した。対するコリンは、ただ普通に心と心のつながりと解釈したのか、赤面はなかった。
「まぁ、俺はやっていけると思うが。……だから、お前こそ、俺が誰かつがいを見つけても嫉妬するなよ?」
「当然ですよ……私、貴方を独占していたシデンさんのことだって嫌いじゃなかったのですから……ですから」
「当然ですよ……私、貴方を独占していたシデンさんの事だって嫌いじゃなかったのですから……ですから」
 冠はコリンに預けたまま、シャロットはふわりと浮き上がってコリンと目線を合わせる。
「いつまでも……傍にいてください」
 不意に触れ合う口と口。シャロットは口約束を結ぼうとしたのにコリンの返答を待たずにキスをした。その口約束に対する返答は、いつまでも口から出ることはなかったが、コリンが顔を赤らめて微笑むだけでシャロットの口付けに抵抗しないが、結局何の約束も結ばれることはなかった。
 不意に触れ合う口と口。シャロットは口約束を結ぼうとしたのにコリンの返答を待たずにキスをした。その口約束に対する返答は、いつまでも口から出る事はなかったが、コリンが顔を赤らめて微笑むだけでシャロットの口付けに抵抗しないが、結局何の約束も結ばれる事はなかった。
 しばらくして口を離した後も、為すがままに口内を蹂躙したシャロットも、為されるがままだったコリンも味や感触の余韻に浸る。
 やがて、感触の反芻にも飽きたのか、コリンがふらりと立ち上がり、放置していたキャンバスを持ち出して絵を描き始める。割り込むように被写体になりたがるシャロットをコリンは拒む事をしなかった。
 しばらく経って、絵をほとんど完成させたコリンは、シャロットに筆を強引に握らせた。今度は俺が被写体になって、二人で一緒に描き上げたようとコリンは言う。
 シャロットが脂汗を掻きながら仕上げした絵は、セレビィと草花と山並みは息を飲む美しさで描かれている。反面、シャロットが描いたジュプトルだけが極端に下手に描かれていて、これではコリンだとわからない。絵に映る二人はなんとも不釣合いなカップルだ。
 けれども、コリンはそれを咎めることも無く、絵の具が乾いたその絵を大事そうに抱きかかえて画材道具入れに仕舞い込む。そうして二人は、ついさっき描いた絵のように寄り添いあった。
 気がつけば時間帯は夜になってい。寄り添う二人は、離れることなく立ち上がって待たせてしまったドゥーンと合流しに歩き出した。
 シャロットが脂汗を掻きながら仕上げした絵は、セレビィと草花と山並みは息を飲む美しさで描かれている。反面、シャロットが描いたジュプトルだけが極端に下手に描かれていて、これではコリンだと分からない。絵に映る二人はなんとも不釣合いなカップルだ。
 けれども、コリンはそれを咎める事も無く、絵の具が乾いたその絵を大事そうに抱きかかえて画材道具入れに仕舞い込む。そうして二人は、ついさっき描いた絵のように寄り添いあった。
 気がつけば時間帯は夜になってい。寄り添う二人は、離れる事なく立ち上がって待たせてしまったドゥーンと合流しに歩き出した。

「そういえばさ、最近思ったんだが……」
「はい、なんでしょう?」
 唐突に喋りだしたコリンの言葉にシャロットは反応する。
「シデンは、俺達とは別の世界から現れた存在だから、もしかしたらどこか別のところで……自分が守った世界のこの年代に、また生まれているかもしれないんだ……」
「はぁ……」
 コリンの話にピンとこないシャロットは、生返事でコリンに返す。
「自分たちが救い、そしてアグニが守ったその世界を……あいつは、その目で見ながら暮らすんだ。もう、俺ともアグニとも会えないだろうし……いくら超越者と言えど、記憶が全部そのままである保証はないけれど……
「自分達が救い、そしてアグニが守ったその世界を……あいつは、その目で見ながら暮らすんだ。もう、俺ともアグニとも会えないだろうし……いくら超越者と言えど、記憶が全部そのままである保証はないけれど……
 でも、シデンなら……きっと、どうあっても強く生きてくれると思う。俺と初めて会った時の、若々しい人間の姿で、今もどこかで……」
「アグニさんが守った世界……か。二度と会えないのは辛いかもしれませんが、その存在を感じられるだけでも幸せなのかもしれませんね……」
「俺もそう思う。アグニの生きた痕跡なんてないこの世界でも、あいつらがこの世界を救ってくれたという事はいつだって感じられる。特に、俺は炎タイプの奴とは縁が深かったからな……今でも、あの温もりを覚えているよ」
「アグニさんもシデンさんも羨ましいな。そんなに貴方に覚えてもらえるなんて」
「大丈夫だって、お前のことだって俺が忘れるわけはないし……この絵を見れば誰もが思い出すだろうよ。お前の苦労だって、俺は忘れていないから……」
「大丈夫だって、お前の事だって俺が忘れるわけはないし……この絵を見れば誰もが思い出すだろうよ。お前の苦労だって、俺は忘れていないから……」
 小脇に抱えた、ジュプトルだけが下手に描かれている絵をちらりと見やり、コリンは笑う。
「そうね」
 そう言ってシャロットがコリンの手を握ってきた。コリンは何も言わずにその手を取り、二人で手を繋いで歩いた。
(ドゥーンは、この世界の礎を作るには指導者が必要だと言っていた……それには、伝説のポケモンであるシャロットを神に、権力者に仕立て上げるのが最も良いとも言っていた……俺はまた、こいつに苦労を強いるのだろうかな?)
 コリンはシャロットを見る。恋人となることをはっきりと断ってしまった相手は、楽しそうにしているようだがどこか表情には陰りがある。
 コリンはシャロットを見る。恋人となる事をはっきりと断ってしまった相手は、楽しそうにしているようだがどこか表情には陰りがある。
(やっぱり、少しは甘やかしてやらなきゃ罰が当たるよな……)
 握った手から伝わってくる温もりを抱きしめながら、コリンは未来を憂う。まさか消滅するつもりがこんなことになるとは思っていなかった自分の浅墓さを呪いつつ、こうなった以上は何があってもシャロットを支えていこうともコリンは考える。
 握った手から伝わってくる温もりを抱きしめながら、コリンは未来を憂う。まさか消滅するつもりがこんな事になるとは思っていなかった自分の浅墓さを呪いつつ、こうなった以上は何があってもシャロットを支えていこうともコリンは考える。

(うん……やっぱり、伴侶にはなってやれないが、こいつの傍にいられるように図ろう。支えてあげなきゃな……)
 ぎゅっと、しっかり手を握った。
 まだこの世界を立て直すために自分たちがやるべき事は果てしない。それでも、手を繋いだまま何もすることなく歩く時間だけはどうしようもなく手持ち無沙汰だから、二人は何となく空を見上げてやるべき事を探した。
 まだこの世界を立て直すために自分達がやるべき事は果てしない。それでも、手を繋いだまま何もする事なく歩く時間だけはどうしようもなく手持ち無沙汰だから、二人は何となく空を見上げてやるべき事を探した。
「あぁ、あれ見ろよシャロット。確か、時間が流れる世界では流星群って呼ぶんだ」
 コリンが空を指さして笑う。
「願い事でしたっけ? 消えるまでに三回願いを言う事が出来れば願いがかなうって」
「願い事でしたっけ? 消えるまでに三回願いを言う事が出来れば。願いが叶うって」
 シャロットも同じく空を指さして咲う。
 そうだな、とコリンが同意して、二人は空に向かって子供のような無邪気さで願い事を口にする。
「未来に、光あれ!!」
「この幸せが、ずっと続きますように!」
 コリンが、シデンと同じ願いを口にする。シャロットは、無邪気で無難な願いを口にした。
 空を仰いで並び立つ二人の足取りは結局止まっている。

 二人のやりとりに自分の居場所を失い、空気を読んで退散したドゥーンは今、腹を鳴らしながら作った料理の前で立ち尽くしている。
 まだ、彼が立ちつくす時間は長くなりそうだ。













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[[次回へ>時渡りの英雄第29話:ともに歩む世界]]

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**コメント [#gf1bdf67]



#pcomment(時渡りの英雄のコメントページ,5,below);





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