ポケモン小説wiki
春が運ぶは幸福か、或いは の変更点


#include(第十七回短編小説大会情報窓,notitle)

-読む前に
&color(red){成人向け};です。人間♀(トレーナー)が登場します。
産卵描写及びそれに関する&color(red){非公式・捏造設定};が満載です。

#hr

&size(22){春が運ぶは幸福か、或いは};


 花の季節の始まりに相応しい麗らかな陽気が降り注ぐある日の事。私は鏡の前で独り、浮かない顔をしていた。

「おはよう、リリーちゃん」
 それはほんのさっきの話。目を覚ました私のご主人様が笑顔で挨拶する。この春、晴れて女子大生になると心躍ってばかりのご主人様。そして私はリザードンのリリー。ご主人様と出会ってから色んな所を旅したり、ポケモンバトルを楽しんだりしてきた。私は明るく前向きな彼女と強い絆で結ばれていた。そんなご主人様の口から飛び出してきた突拍子もない一言。
「リリーちゃん、ちょっとふっくらした?」
「えっ!?」
 一瞬耳を疑う。これまで大きく体形が変わった事などないだけに、俄かに信じ難い言葉だった。成長期や思春期も過ぎてこの春から成体になる年頃で、むちっとしてはいるけどメスの標準体型から逸脱している訳でもない。別に沢山食べてもいないし、トレーニングとかで運動もしている私。リザードン特有の丸みのあるお腹に触れる。
「太ったように見える?」
 不安を滲ませながらご主人様に聞くと、彼女は反応に困る様子。
「横から見てお腹周りが前より大きくなってる気がする。気がするだけだけど」
「嘘……」
 あまりに大きなショックだった。私は俯きながら部屋を出ていく。謝るご主人様の声も聞かずに……。


 そして今に至る。鏡に映る真横の姿を凝視するが、私には今まで通りに見える。いや、気付いてないだけで実は徐々に太っていたかもしれない。体重計に乗ると、八二・三キロを示していた。高さ一五九センチの私なら標準範囲だが、十日前に量った時は八〇・一キロだったから、明らかに増えている。数字とは非情なものね、と溜息が漏れた。窓を見ると、華やかな季節の始まりたる光景が広がっている。こんな時にくよくよしてなんかいられない。ちょっと痩せよう!
 思い立ったら即実行。私は外に飛び出し、翼を羽ばたかせて、春の息吹を孕む少し冷たい風に乗る。思う存分飛び回ったら、今度は重い岩を只管押して動かす。その次は左右のステップで技をかわす練習、その次はランニング……

「あー疲れた」
 庭の草むらで仰向けになる汗だくの私。普段よりもハードな運動は強い疲労感をもたらす。青空を見る私を、ご主人様が見つめている。目が合うなり謝ってきた。私は首を横に振る。太っていたのは事実だから。寧ろ感謝したいくらい。
「ご飯の量減らそうか?」
「そうして」
 私は笑顔で答えた。こうして私のダイエット生活が始まる。

 普段以上に運動量を増やし、食事も見直して体重を減らす努力をしてきた。だが結果は芳しくない。最初は仕方ないと言い聞かせていたが、五日目に体重計に乗ると、八三・九キロを示していた。同条件で量って横這いか微増だったのに、今日になって明らかな体重増加。もしやと思い鏡に映すと、お腹が更に大きくなっているように見えて仕方ない。お腹周りを測るなんて心が折れそうでできなかった。半泣きでご主人様に訴えると、彼女も訝しんだ。私のお腹を見て、考え込む。
「ポケモンセンターに行ってみる?」
 私はこくりと頷いた。最寄りのポケモンセンターへの道中、曇り空でも周囲が春を謳歌する中で何かの病気じゃない事を只祈るばかりだった。到着して受付を済ませるなり、私は奥のフロアへ通された。回復コーナーまでは頻繁にお世話になっただけに、初めて入るその奥に緊張を隠せない。そこでよくわからない色々な検査を受けた。全て終えて出てくる頃にはすっかり気疲れした私を、ご主人様は優しく労わってくれた。広いロビーで往来を眺めつつ結果を待つ私たち。しばらくしてジョーイさんに名前を呼ばれ、緊張の面持ちで診察室に入った。心臓が張り裂けそうな程高鳴る中、ジョーイさんが検査結果を告げた。

「……卵ですね!」

 上がった声のトーンと対照的に、私たちは頭が真っ白になる。
「……卵……!?」
「えっ、なんで? どうして?」
 私は途端に動揺する。だってオスと交尾した事すらないのに、お腹の中に卵があるなんて!
「落ち着いて、リリーちゃん!」
 ご主人様に窘められ、深呼吸で少しずつ冷静になっていく。
「鳥ポケモン、爬虫類系のポケモンの一部は、体が成熟すると交尾の有無に関わらず卵を産むことがあるんですよ。人間でいう生理みたいな感じでね」
 ジョーイさんがご主人様に、卵について詳しく説明してくれた。同じ種族でも個体によって産んだり産まなかったりするらしい。そしてエコーとかいう私のお腹に押し当てた何かで撮った白黒の画像で、でき掛けの卵の像を見せてくれた。最後に、卵ができた時の栄養面や生活面の注意点を説明して診察が終わる。ナースのラッキーが診察室を後にする私たちを笑顔で見送った。病気じゃなくて安心……という訳にはいかなかった。
「どうした?」
 帰り道、浮かない顔をする私に首を傾げるご主人様。溜息混じりに、心情を吐露した。
「なんで私が……。いつも卵を産んでるラッキーやハピナスじゃないし、どうせ孵らない卵をなんで産まなきゃいけないの……?」
 そしたらご主人様は笑顔で頭をそっと撫でた。
「あたしからしたら羨ましい。初めてで不安だろうけど、ここで経験すれば、いざ好きな人の子供を産むときに役立つじゃん? 人間はそれができないから」
 そうは言うけど、今の私はそんな気持ちを抱けず、しゅんとしたまま視線を落とす。力なく垂れた私の手を、彼女は強く握った。
「って言ってもやっぱり不安か……でも大丈夫、何があってもいいように、ずっとついててあげるから。約束する! だからあんたも、遠慮なくあたしを頼って!」
「ご主人様ぁ……」
 堪え切れずに涙が零れた。彼女はそっと私に寄り添ってくれた。どんよりした空から降り出す小雨。持って来ていた傘を差し、これ以上濡れないようにと私に向ける。そんな細やかな気遣いが心に染みて、頬ばかりが濡れた。僅か五日で終わったダイエットの代わりに、心休まらない生活が始まりを告げた。

#hr

 ご主人様は入学の準備やらで色々と大変そうにしていたが、それでも片時も離さずに私を傍に置いてくれた。出先でもボールに入れた私を常に気に掛け、時折気晴らしに色々としてくれた。家ではジョーイさんに教わった通り栄養面に気を付けてご飯を作り、体に合わせて寝床を整え、健康に過ごす私を見ては喜んだ。結局彼女に甘えっぱなしだけど、不安だらけの中で少しでも気の安らぐ時間を作ってくれた事は、私には救いだったし感謝し切れない程だった。日に日に大きくなっていたお腹も一旦落ち着いたようだった。

 卵があると判明してから一週間余り。止まったと思っていたお腹がまた膨らみ出した。卵が上手く作られてないかと心配していたご主人様は安堵したが、当事者の私は憂鬱。だって、大きくなるって事はそれだけ卵が大きい、つまりその分産むのが大変って事じゃない?
「リリーちゃんの初めての卵、楽しみだなー」
 ウキウキしているご主人様。無精卵なのに、ちょっと喜び過ぎな気もするけど。
「軽く飛んでこようかな」
 いくら傍にいると言っても、お腹を触ってばかりだと流石にちょっと煩わしい。そんなご主人様から離れるべく、私は外へ歩き出す。
「気を付けてよ」
「うちのすぐそばだから大丈夫」
 玄関から外へ出るなり、翼を大きく羽ばたかせて飛び立つ。でもこの体だと、普段よりも翼に力を込めないと浮かない。体が浮いた所で、今度は丸く飛び出したお腹のせいで気流が変わってしまい、いつもの感覚で滑空ができなくなっていた。私は諦めて地面に降り立つ。嗚呼、このお腹が憎い。どんどん花開いて暖かくなる季節なのに、今は春の象徴である薄桃色の花が見頃に向かっている時なのに、それすら満足に味わえないなんて。気が気でない様子のご主人様に連れられて、私は家に戻った。
 部屋に戻るなり、ゆっくり寝床に突っ伏した。お腹が閊えないように敷かれた藁のお陰で、少し楽になる。こんな気の滅入る春は初めてだ。今まで生理の時は、黄色っぽい何かが混ざった卵白みたいなものが性器から流れ出るだけだったのに、よりにもよって、こんなにいい季節にこの体は無意味に卵を作ってしまうのだから。大きな嘆息の中、窓から覗く麗らかな世界に目をやった。
「いたた……!」
 突如お腹が軽く痛み出す。皮膚が強く張ってるような、そんな感覚。いや、お腹に当たらないように敷かれている筈の藁に少し当たっているから、間違いなく膨らんでいる。このまま産んじゃうのかと強い不安に駆られたが、十分程経つと再び藁に触れなくなり、痛みが消えた。怖くなった私はご主人様に事の顛末を話し、ポケモンセンターに行って診てもらった。診断結果は異常なし。エコーに写った卵は心なしか大きく見えた。
「ちゃんと殻も形成されてますし、あともう少しで産まれると思いますよ」
 にっこり笑うジョーイさん。その横に佇むラッキーも釣られて笑顔を見せる。だからその「産む」行為自体が私は不安なんだけど。そんな気持ちも知らないでよく言う、と心の中で愚痴を零す。ご主人様がお腹の膨らみが一旦止まって再開した件について聞くと、止まっている間に殻が作られ、それができると、産卵時の滑りをよくするための卵白が分泌され、溜まる事で再び膨らむと説明してくれた。エコーにもその空間がはっきり見える。時折お腹が張るのは産卵が近い&ruby(しるし){徴};。筋肉の動きによるもので緊張するとなりやすく、一度起きてもリラックスするとすぐ治まる事が多いらしい。他にもリザードンの産卵について色々教えてもらい、ポケモンセンターを後にする。
「あーやだなー」
 溜息混じりに重い体を引き摺るように歩く。
「そんなんじゃまたお腹痛くなるよ?」
「わかってるけど……あいたた!」
 こんな時に強く張る私のお腹。苦笑いを浮かべつつ、ご主人様はお腹を優しく摩ってくれる。そのお陰かすぐに痛みは消えた。
「ちょっと人間みたいなところもあるんだね」
「そうなの?」
「聞いた話だけど、妊婦もお腹が張ることがあるんだってさ」
「そうなんだ……」
 種族的に全然違うのに、似てる所があるなんて。ふと思い出した、ご主人様が教えてくれたシンオウ神話の一節も強ち間違いではないのかもしれない。
「ま、今の私は生理の頃におっぱいが大きく張って痛いから、あんたのもそんな感じじゃない?」
「全然違う!」
 むすっと膨らませた頬をご主人様が撫で、それは下顎へと移る。不機嫌だった筈なのに、表情が緩んだ。家に着くなり、私の手を大きな胸に押し当てるご主人様。
「うだうだ考えてるより、おっぱい揉めばいいと思うよ」
 優しい笑顔のご主人様。私にはない大きな膨らみは指が沈む程柔らかく、下着越しの頂にある丸い突起がアクセントになる。魅惑の揉み心地は一時でも不安を掻き消してくれた。
 日が暮れて用意したご飯を食べる。食欲はあるけど、お腹のせいで多く食べられない。残した分は冷蔵庫に入れ、部屋に戻る。満腹も手伝って丸く飛び出した黄色い風船を、ゆっくり撫でる。足元が更に見えなくなるのは困ったもので、昨日はトイレの照準を外すなんていう恥ずかしい失敗もしてしまった。鏡に映る姿もその大きさが際立ち、真横から見れば一層強調される。体重計に乗ったら八八・七キロ。満腹時だから参考程度だけど、これなら納得だ。再び真横の姿を鏡に映す。今後沢山見る事になるだろうけど、記念に目に焼き付けよう。そう思った瞬間、またお腹が張る。その変化は鏡越しに見て取れ、徐々に走る痛み。部屋に入ったご主人様が即座に気付いてお腹を撫で、少しして痛みが消えて膨らみも少し小さくなる。彼女の手は、只でさえ強く張っている黄色い皮膚を堪能しているようだった。
「もうすぐみたいね」
 軽く叩かれたお腹は、中身の詰まったカイスの実のような音を立てる。この中に大きな卵とたっぷりの粘液があるのか。だけど私の性器はオスどころか玩具すら嗜んだ事がないのに、そこを果たして卵がちゃんと通って行けるのか。私はご主人様に大胆なお願いをしてみる。
「私のアソコ……拡げてみて」
 恥ずかしさに顔が熱くなる。彼女は顔色一つ変えず、自分の部屋からローションを持って来て指に付け、傷付けないようゆっくり膣に挿入して、本数を増やしつつ徐々に拡げていく。それは五本全て呑み込んで思いの外大きく開き、限界が来たら合図する。指を抜いたご主人様が、にんまりしながら私に開いた大きさを見せ付けた。完全に開いた手を見て、吃驚と羞恥がごちゃ混ぜになる。
「驚いた。すごいね! あと中はすっごくきれいなピンク!」
「言わなくていい!」
 赤面して声を荒げた。彼女のこういう&ruby(ひょうきん){剽軽};な所だけは唯一嫌いな点だけど、お陰で結構大きく開くとわかって、少し不安が薄れた。無精卵だけれど、どんな卵が産まれてくるのか。ご主人様に撫でられ続け、時に写真を撮られる丸く張ったお腹を見ながら、ようやくそんな事を考えられるようになった。


 翌朝、目を覚まして寝床から起き上がる。鏡でお腹を確認すると、昨日よりも大きくなっている。寝ている間にも着実に産卵の準備を進めていたんだなと実感する。そして早速お腹の張りで痛みを覚える。自分で撫でながらゆっくり呼吸すると治まってくる。でも昨日までと違うのは、子袋の下のほうで膨れた感じがした事。私の心を乱した水風船も、いよいよ割れちゃうのかと考えると、途端にドキドキしてきた。目を覚ましたご主人様に今日産むかもしれないと答えると、全ての予定を延ばして私に付き添ってくれた。大袈裟にも思えるけど、生理現象とはいえ初産だから彼女も不安が付き纏うのかもしれない。普段通りご飯を食べる間に、彼女は壁際にタオルと藁を広く敷き詰めて、いつ産気付いても大丈夫なようにしてくれた。強い張りによって鈍く艶めくお腹はすぐ痛みが出て、その度にご主人様が摩ってくれた。著しく気が重い中、目前に迫ったその時を待ち続ける。
「あいたたたた!」
 突如お腹に走る強めの痛み。それは今までのはち切れそうな痛さではなく、逆にきゅうと締め付けられるようなものだった。これが産卵の痛みで間違いなさそう。心配するご主人様に連れられ、壁際の藁の上に立ち、両手を壁に押し付けて、いよいよ初めて果たす成熟した雌の役目に臨む。とうとう見納めになる大きな膨らみを撫でながら、頑張ってと励ましてくれるご主人様。痛みの中、子袋が下がるような感覚がする。私はお腹に力を込めた。下腹部に圧力が集中していく。汗を滲ませ息を乱しながら四肢で踏ん張り、歯を食いしばっていきみ続ける。
「ぐうぅぅぅぅ!」
 今まで出した事のない呻きを発する私。何とも言葉にし難い産みの苦しみという物を否応なく味わっていた。やがて下腹部に覚える不快感。藁を濡らす卵白のような粘液。
「人間みたいに破水するんだ……」
 目を見張るご主人様を見て、これを破水と呼ぶことを知った。それも束の間、激しく痛むお腹の中で生じる強い異物感。とうとう山場に差し掛かる、私は牙を剥き出していきみを強めた。卵が出口を大きくこじ開ける。
「いっ……痛いっ!」
 脂汗が流れ、目が濡れる。子袋の収縮とは違う痛みが容赦なく襲い掛かる。やっぱり思った以上に私の体に対して大きいみたい。
「リリーちゃん!」
 叫ぶ彼女の顔にも不安が強く表れている。汗を拭きつつ、ジョーイさんから教わったマッサージをお腹に施して、卵が下りやすいようにしてくれた。そのお陰か、ゆっくりと膣内を拡げながら卵が移動していく。同時に膣全体が下がっていくような感覚。
「いやっ! やだよぉ!」
「管が出てきたよ。もう少しだからがんばって!」
 痛みに耐えかねて泣き叫ぶ私を必死に励ますご主人様。そして直接は見えないけど、私の秘所から膣の一部が飛び出して管状になっているようだ。産み落とした卵が割れないようにそうなっているらしいが、圧迫と拡張の激痛にそこまで意識を向ける余裕は微塵もなかった。卵が秘裂の手前に差し掛かり、徐々にこじ開けて通過しようとする。それが昨日そこを拡げたご主人様の手の大きさを上回っている事は、見ずとも明らかだ。秘めたる肉を大きく押し退ける苦痛を伴いながら、卵は本来の体内を脱する。垂れ下がる膣管の中をゆっくり下りていくが、出口の手前で完全に止まってしまう。残った粘液を押し出す圧に任せ、痛むお腹に鞭打って力を込める。脂汗を滴らせる必死のいきみも虚しく、卵はその場を動かない。
「卵が……出ない……! 助けて……!」
 終わらないかもしれない苦痛に心が押し潰されそうになり、声を震わせてご主人様に訴えた。
「ちょっと待ってて!」
 彼女は即座に手を洗い、その手で飛び出た私の膣に触れる。丸く膨らんでいるであろうその部分を、上から握ってゆっくり下へ押し出し始めた。ここまで来ても逃れられない拡張の痛みに激しい呻きを発する。彼女は私の膣が裂けないよう時間をかけて絞り出す。私は早く終わらせたいけど、裂けて傷付いたら後が悪いからとそれを一切聞かない。治まらない痛みに気が遠くなりかけた頃、ようやく出口が卵によって少しずつ開き出す。
「殻が見えた! あとちょっとだよ!」
 必死に声を掛けて励まそうとするご主人様。私も彼女にばかり頼ってられないとお腹に力を込めた。大きく拡がり痛みも増すが、ここさえ乗り切れば苦悶から解放される。いくらご主人様が傍について手助けしても、結局産むのは私なんだから。
「出てきてる! もう一息!」
 彼女の声にも力が籠る。手による押し出しとお腹の圧迫によって、とうとう最も太い部分が空気に晒される。
「あぁぁぁぁぁっ!!!」
 声を張り上げ、最後の一押しとばかりに全力で踏ん張った。じりじり動いていた卵が徐々に滑り出し、とうとう膣口から解放された! 真下から聞こえた落下音の直後、拡がった性器から大量の粘液が流れ落ちる感覚がした。
「出た!! 産まれた!!!」
 歓喜に湧き上がるご主人様。事を遂げたと理解すると、いきんだ反動で脱力して、汗と粘液に汚れた体が崩れ落ちる。
「しっかりしてリリーちゃん!」
 ご主人様が私の体を支えて仰向けの状態で藁の上に寝かせる。整わない呼吸としつこく残るお腹の痛み、止まらない汗の中、初めてこの体が産んだ卵を目にする。体色にそっくりな橙色と黄色の模様の入ったそれは、私の中から出てきたとは俄かに信じ難い大きさだった。広範囲に汚れた藁が、出てきた粘液の多さを物語り、これがお腹を大きく膨らませていたのかと思い知った。引っ込まない膣と汗だくの体をご主人様がきれいなタオルで拭いて、藁の上に大きなタオルを並べて敷いた寝床で楽な姿勢を取った。
「卵、持ってみる?」
「うん……」
 彼女は卵を私の傍らに置いた。ねっとり体液に塗れ、私のアソコの臭いがするのは、産みたてである何よりの証拠だ。そっと両手で持ち上げてみる。ずっしりとその重さが伝わってきた。再び優しく置いた。途端に色んなものがこみ上げてきて、溢れる涙が止まらない。
「リリーちゃん……」
「痛くて……苦しくて……それでも必死に、なって、産んだのに……温めても……孵らない、なんて……どうして、どうしてぇっ!」
 泣きじゃくる私を、只何も言わずに抱擁したご主人様。その柔らかさとぬくもりに包まれた私は、火が点いたように彼女の胸で慟哭した。私の頭に一粒、二粒、滴り落ちる雫。部屋に響く泣き声が、春の陽気に酔いしれる鳥ポケモン達の声を掻き消した。


 ――ゆっくり目を開く。泣き疲れで眠っていた私は、窓から射す光で日が傾き掛けている事を知った。私の横には置かれたままの卵。起き上がろうとするとお腹に痛みが走る。仕方なく、横になったまま手を伸ばし、卵を抱いた。
「どう? 調子は」
 ご主人様が部屋に入って来た。
「まだ動くとお腹が痛い」
「そっか。ご飯作るからそこでじっとしてるんだよ」
 部屋を出ようとする彼女を、咄嗟に呼び止めた。そして、手元にあった卵を、渡す。
「……いいの?」
「うん。これでおいしいご飯作って」
 目を丸くするご主人様に、とびきりの笑顔で答えた。
「このままダメにするより、おいしく生まれ変わったほうがいいと思うから……」
「わかった。これでおいしいご飯作ってあげるからね」
 ご主人様も笑顔を返し、台所へと持って行った。しばらくじっとしていると、おいしそうな匂いがしてくる。一体どう変身するのか、知らず知らず心躍らせていた。そしてご主人様が料理を皿に乗せてやって来た。とっても大きなオムレツだ。
「どうぞ」
 目の前に皿が置かれる。恐る恐る一口食べてみると、途端に濃厚な口当たりと優しい甘さが広がる。
「おいしい!!」
 疲れ果てていた体が文字通り喜び、途轍もない勢いで貪る。
「よかった! あんたのお陰で最高のオムレツができたよ!」
 隣で食べているご主人様も、満面の笑みを浮かべていた。そして私はふと思った。私が産んだのは「無」じゃなくて「&ruby(しあわせ){幸福};」なんだと――

#hr

 あれから丸三年。庭先で咲き乱れる花々を眺め、快いそよ風を翼で受け止めて、訪れた春を存分に謳歌していた。私のお腹はあの時と同様に大きく膨らんでいる。けど今の私に後ろめたい感情など微塵もない。あれから避妊や産卵抑制の話もあったけど、断ってこれまで数回産卵した。いつか現れる意中のオスとの子供を産み育てる気でいたし、何より私の卵をご主人様が喜んでくれるから。

 お腹を撫でながら家に入り、ご主人様の部屋に入る。彼女は机に突っ伏していた。
「あ~~~なんでうまくいかないかな~……」
 大きな嘆息と同時に将来を憂う。大学四年になる今、お仕事探しに難航しているらしい。
「私のお腹……空いてるよ?」
「貸して~」
 凭れ掛かるようにお腹に抱き着く。この丸みと張り具合と私の臭いが、最高の癒しみたい。
「今日辺り産まれるかも」
「え~もっと味わいたい~」
 溜息混じりに頬擦りする。どうやら相当重症だ。
「産んだらおいしいご飯が味わえるよ?」
「そうだけどさ~……」
 傷心の彼女のために、いつ破れるとも知れない艶めく水風船を差し出し続ける。三年前に支えてくれた恩返しにはまだまだ程遠いけれど。私はそっと彼女の頭と艶を失った長い髪の毛を撫でた。

 突然、お腹の中で何かが弾ける感覚と生じる強い痛み。
「ごめん産まれる!」
 慌てて私の部屋に戻り、予め敷いた藁の上で産卵に臨む。既に滴る粘液を確認して、私はお腹に力を込めた。


「大丈夫かい……えぇっ!?」
 振り向くと、部屋を覗き込んだご主人様が言葉を失っている。私の足元には大量の粘液を纏った大きな卵が転がっている。
「リリーちゃん、十分もかかってないよ……」
「もうそこは安産って言って!」
 三年前の何分の一の時間なのは事実だけど、遠回しにアソコがガバガバと言われたような気がして、思わず頬を膨らませる。確かにあれから体形も変わって、いわゆる安産型にはなったけれど。それはともかく、彼女が来てくれて丁度よかった。私は産みたてほやほやの卵を手渡した。
「ありがとう。でもせめてちゃんと拭いてからにして……」
 ぬめりが糸を引くのを見て苦々しくしつつも、それを受け取る。冷静に考えれば、下がった膣が露出したまま笑顔でベトベトの卵を渡す光景は常軌を逸しているだろうが、これ以上は考えるのを止めた。
「最近ちゃんと食べてないから、これでおいしいもの作って元気出して? なんなら手伝うよ?」
「うん。ありがとうねリリーちゃん。でもあんたはちゃんと寝てなさい」
「はーい……」
 じっと横になっていると、台所から段々いい匂いがしてきた。彼女が持ってきた料理は目玉焼き。黄身が二個入っていたらしい。早速食べると、ぷりぷりの白身と濃厚半熟な黄身の対比が際立ってとてもおいしい。
「あんたの卵……やっぱり一番大好き……!」
 隣で食べるご主人様は笑いながら泣いていた。抱き寄せると、色々我慢していたのか号泣する。
「大丈夫。ご主人様は頑張ってるから、絶対いいことあるよ」
 今度は私が、そっと彼女を包み込んだ――


 あれから一週間後、庭で花を眺めていると、眩しい笑顔のご主人様が走ってくる。
「内定もらえた!!!」
「ほんとに!? やったー!!」
 春空の下、飛び上がって喜びを爆発させた。
「あんたの卵のおかげで頑張れたよぉぉぉ!!!」
「そんなこと言われたらもっと産んじゃうぅぅぅ!!!」
 歓喜に沸く私たちを、満開の花々が見守っていた。


 ――私はリリー。時々お腹に「幸福」を宿す乙女。


「もうあんたがラッキーでいいよ!」
「私って、ほんとラッキー……なわけあるかーい!!!」



#hr
【合計枚数】		30.9枚(20字×20行)
【総文字数】		9940文字(Wordでは9854文字)
【行数】		618行
【台詞:地の文】	17:83(%)|1698:8242(字)
【漢字の割合】		全体の約29(%)|2899(字)
#hr

*コメント返信 [#ZxEvhWR]
-疑似妊娠からの産卵というこれぞ小説wikiと思わせるフェチシズム! 生々しい身体感覚で描写されるリザードンの産卵の場面の官能はもちろん、突然無精卵を孕むことになった彼女の心の揺れ動き、そして彼女を支える心優しいパートナーとの温かい交流、こうしたテーマをしっかり1万字でピッタリと無理なく収めてくる貫禄ぶり。一票です。

ありがとうございます。ストーリー構築は自分のあまり得意でない部分ですが、どのようにすればリリーが大人になった体を受け入れてくれるか考えた結果、こうなりました。
その点苦労したのがご主人の行動や言動だったりしますが。リリーは''ご主人様LOVE''なので、どうすればそれに見合うか時間を割いた部分ではあります。%%フェチな部分はそこまで時間はかからなかったけど(%%
原稿で1万字未満という縛りを設けた作品を何度か書いたので、その経験が活きたと思います。逆に長編は絶対冗長になってしまうので手が出ずにいますが。


-いいお味に目覚めてしまいましたか……。

無精卵を産むことに関して救いを持たせるには、それなりのいい部分を持たせたかったので、考えた結果産んだ卵がおいしいという結論に至りました。もうね、ほんとそういうところラッキーだよね。
――私って、ほんとラッキー……なわけあるかーい!!!
ちなみに「・」を打つだけで予測変換に「……なわけあるかーい」が出てくる時期があってヒヤヒヤしてたのはここだけの話。


-オンナノコの見てはいけない神秘の園を覗いた気がw
 自らの肉体的生理を前向きに割り切ろうとする、リリーとご主人様の絆に心温められました。
 余談ですが、野生の蛇などは無精卵を宿した場合、高いところから飛び降りたりすることで胎内で割って処分しているそうですよ。

ありがとうございます。書き慣れない♀だったので不安はありましたが、新たな生命を産む神秘の一端を感じてくださればこれ幸いです。
最初のコメントでも触れた通り、ご主人の言動、行動は特に気を付けて書いた部分なので、きちんとそれが伝わって何よりです。ところで、

野生の蛇などは無精卵を宿した場合、高いところから飛び降りたりすることで胎内で割って処分しているそうですよ。

&size(20){野生の蛇などは無精卵を宿した場合、高いところから飛び降りたりすることで胎内で割って処分しているそうですよ。};

&size(30){野生の蛇などは無精卵を宿した場合、高いところから飛び降りたりすることで胎内で割って処分しているそうですよ。};

&size(50){''そんな情報、知りとうはなかった!!!''}; &size(8){By 三十路リザードンマニア店長};


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