writer is [[双牙連刃]] この物語は、ノーティウィッシュスター! の流れを汲む作品となっております。出来ればそちらをお読み頂いてからお読み頂いた方が分かり易いと思われます。 大丈夫だ問題無い。という方は、↓から開始となります……お楽しみ頂ければ幸いです。 ---- 家の屋根に腰掛けて、のんびり日光浴。いやぁ、平和だねぇ。まぁ、同じ平和でも、願いの社なんかとは段違いに退屈ではないけどさ。 「ジラーチさーん。お昼出来ましたよー」 「ウィッス! 今行く行くー!」 ミミロップのラサンの願いを叶える為(って言うのを口実に)ラサンの村に暮らし始めて……半年くらいかな? 家も建てて、すっかりこっちの生活にも馴染んで来たかなぁ。最初こそ身バレした時は驚かれたけど、暮らしてる間にすっかり村の皆も僕、と言うか僕等が一緒に暮らしてるのにも慣れちゃったみたいだね。 「おっまたー。お、どれも美味しそうじゃーん?」 「やれやれ……何もしないで昼寝しているのなら、少しは村の仕事でも手伝ったらどうだ?」 「甘〜い、スゥイートゥだよダークライ。村の柵の直しから家の修繕、野菜畑と木の実林の手入れと、僕は朝からマッソゥに働いてたよ〜ん」 「マジでか」 「それがマジなんですよねぇ……と言うか、そこまでの真面目さをどうして自分の義務とも言うべき眠りに向けてくれないんですか。全くもう」 「やだーよ真面目に寝るとか、この溢れんばかりのパゥワフル&キューティクルな力を無駄にしてるだけじゃんじゃん?」 「あなたは何時から毛になったんですか? はぁ……」 盛大に溜息を吐いたクレセリアのツッコミの意味が分からない人は、今すぐウェブをチェックだ! とかなんとか巫山戯てないで食べようか。用意してくれたラサンに悪いし。 あぁ、ラサンは一緒に暮らしてる訳じゃないよ。けど、家に来て色々お世話してくれてるのには助かってるよ。ラサンも1匹で暮らしてるから、彼女の為って面もあるかな。僕の願い主でもあるしね、一応。 「やれやれ……いつも騒がしくて済まないな、ラサン」 「ううん、私も楽しいから。気にしないで、シェイド」 「おんやぁ? ついに名前呼びにまで発展しちゃったー? 僕だって降りてくるまでダークライの名前知らなかったんだけどなー」 こんな感じの通り、ダークライことシェイドとラサンがお付き合いをしてるって言うのも、此処に来てる理由の1つかもね。なんかダークライがラサンに手当てしてもらった時に、ラサンが脈有りになったみたい。リア充爆ぜればいいのにね。 「全くあなたも、色恋厳禁ではないとは言え、あまりそちらに現を抜かし過ぎないで下さいよ。私達はあくまでジラーチ様の従者なんですからね」 「いーじゃんいーじゃん。僕はラサンもダークライも幸せだって言うなら、とやかく言う気は無いよ。もちろんダークライがラサンを泣かすような事したら捻じ切るけど」 「何を!?」 「ナニかを、ね♪」 「ダークライ、ラサンさんの事は大事にしなさい。もしジラーチ様が言ったようにラサンさんの事泣かせたら、微塵切りですよ」 「お前ら応援してくれてるのは有り難いが、脅しが怖過ぎやしないか?!」 ま、こんなやり取りで恥ずかしがってる辺り、まだアツアツっぽいから大丈夫でしょ。僕としても、これがあるからか最近クレセリアが社に帰ろうって言わないから助かってるのもあるし。 ……そう言えば、クレセリアの名前は聞いた事無いなぁ。なんて名前なんだろ? 「ねぇ、クレセリアってどんな名前なの? ダークライもそうだったけど、今まで知らなかったし、教えてよ」 「私の名、ですか? 気になります? そんなの」 「そう言えば俺も知らんな。どうなんだ?」 「私としては、誰に付けて貰ったのかも気になりますけど……シェイドは確か、他のジラーチの従者から呼ばれるようになったんだっけ」 「あぁ、まぁな」 「そう言う時しか他のポケモンに会う機会なんてありませんでしたからね……今はこの通りですけど」 呆れ気味にクレセリアはそう言って、ご飯食べ始めちゃった。はぐらかされたのかな? これ。 ま、言いたくないなら無理に聞くのも悪いか。話す気になったら話してくれるでしょ。多分ね。 なんかダークライとラサンも話に華を咲かせてるようだし、僕も食べよっかな。冷めたご飯を好む程の食通でも無いし。 ご飯も食べ終わって、片付けてくれてるラサンとクレセリアの様子を眺めながら休憩中。ごごからはなーにしようかな? 「そう言えば、明日だな」 「んぁ? 何が?」 「おいおい……本当だったらお前に関わる重要な時期だろう。まぁ、眠りについてないお前には、あまり関係無いかもしれんが」 「んー? ……あ、あー? なーんか出て来そうなような、そうでもないような?」 「しっかりして下さいよジラーチ様。明日は七夕、何処かのジラーチが目を覚ます日でしょう」 ……おわぁお、そうだった。ヤバい、すっかり忘れてた。そっか、明日か。 僕も詳しい事は知らないけど、確か千年の眠りで十分に願いを蓄えたジラーチがその願いを放出するのに一番適した日が七夕で、それがその日に願い事をすると叶うって勘違いされてから特別な日になったんだよね。織姫彦星なんて尾鰭は付いてるけど。 ともすれば、ちょっと気合い入れて備えといた方が良さげかな? ま、他のジラーチが起きなければ取り越し苦労だけど、それで済めばモウマンタイだし。 「ねぇダークライ、どっか他の社のジラーチが起きそうとかって話、聞いてない?」 「来るだろうと思って、少し調べてきた。……明日、願いを蓄え終わって目覚めるジラーチが居る。包んでる願いの力の色は……赤、らしい」 「赤……まだ黒よりはマシでしょうけど、危険ですね」 「だーねぇ。そこの守護者はどんな感じだったの?」 「守護者は三鳥、命に代えても止めるとは言ってたが、代替わりをしたばかりらしく正直なところを言えば、かなり厳しいだろう」 マジか……まぁ、うちみたいにずっと同じポケモンが守護者をやってるところなんてレアだからなぁ。寿命が来れば当然代替わりするし、悪いタイミングが重なっちゃったかな? 最悪の事態も視野に入れとかないとヤバいかもね。 「あの……立ち入ったお話でしょうか? 私、外した方が?」 「あぁ、別に聞いてちゃダーメって話じゃないから大丈夫だよー。ただ、明日僕じゃないジラーチが目を覚まして、溜め込んだ願いを解放するって話なの」 「そうなんですか? 聞いた限りだと、なんだか良くない事が起こるようなお話でしたけど……」 「それはあくまで可能性の話ですね。ジラーチ様、まぁうちのは眠りについてないので無変化ですけど、基本眠りの中にあるジラーチは、蓄えた願いの力でその身を包まれているのです。一種のバリアみたいなものですね」 「バリア、ですか?」 「眠っていると言っても、外部からの影響は受けてしまう状態ではあるからな、変な妨害を受けない為の備えと言ったところだな」 まぁ、願いの社に居てかつ守護者に護られてるって時点で大体盤石なんだけどね。体に収まり切らなくなった力が、勝手にバリアになってるって考えてくれるのが一番分かり易いかもね。 「なるほど……でもそれがどう危ないんですか?」 「危ないのはその力そのものじゃなくて、力の色、願いの性質の方だね。クレセリア先生、お願いしまっす」 「どういうノリなんですか……まぁいいですけど。願いの性質についてでしたね。ラサンさんは例えば、願い事をするならどういった事を願いますか?」 「え? えっと、村の皆が元気で居られますように、とかでしょうか?」 「と、建前を言いつつ、本音はダークライことシェイドと末永く一緒に居られますように、と。いやいやお熱いねぇ〜」 「はいそこ相手の願いを見通さない!」 「はい、リア充は恙無く爆発四散して頂くとして、前者のような他者を思いやっての願いなら青、後者のような自分と対象の幸せのような願いなら緑と、願いにも対象やどんな事を願うかで様々に変化があります。これが、願いの性質というものですね」 なるほどって納得しつつ、恥じらいで内心ドキドキなミミロップが一匹。かーわいいのー。 さて、クレセリアが説明してくれた通りなのが願いの性質って訳。青や緑ならそう心配する事はナッシング。もっと安全な、善意の塊みたいな願いは白になる。滅多に無いけどね。 で、危険なのがこれから。人に不幸になれ〜とかを願っちゃうと黄色、更にそれが怪我しろ〜とか死んじゃえ〜なんて願いに変わると赤。そして……世界滅びろとか、絶望しながら願った願いは真っ黒、この三色の願いをジラーチが溜め込んじゃうと、願いにジラーチ自身が蝕まれて……所謂闇落ちってのをしちゃうのさ。 「闇に、落ちる……」 「そ。そうなったジラーチが叶えてしまうもの、それが……破滅の願い。千年も溜め込んだ力で発動する、世界を終わらせかねない力さ」 「守護者は、自らの仕えるジラーチがそれをしてしまわぬよう、もしジラーチが闇落ちをしてしまった場合は主を討ち、破滅の願い発動を阻止するって仕事もあるのさ」 「一度発動してしまった願いを打ち消すのは、それこそ奇跡でも起こす必要があるでしょう。故に、守護者は失敗する訳にはいかないのです」 「ま、僕はそんな心配の無いウルトラホワイトなジラーチだけど♪」 「無職、もとい無色が正解だろうが。願いを集めてすらいないんだからな」 「あぁん、ダークライひどぅい。僕グレて闇落ちしちゃうぞ〜?」 「止めて下さいよ、暴走したあなたの相手なんて、勝ち目が無さ過ぎます」 ごめんねぇ、僕が強過ぎてさぁ! とか言いながらドヤ顔で二匹を踏み付けながら破滅の願いを発動する僕を想像してしまった……やだ僕カッコイイ。 なんて冗談は砲丸投げの要領で明後日の方向に投げておいて、ここまで説明すれば何がヤバいかは分かって貰えたんじゃないかな? 今年目覚めるジラーチは、現在赤の願いに蝕まれてるらしいしね……。 「そうか、今のお話から行くと、今年目覚めるというジラーチは……」 「闇落ちしている可能性がビーックマグナァァァム! って言う事さ。赤だから、確定じゃなくて高確率ってところだけど」 「もし闇落ちラーチを守護者が止められなかった場合、事情を知っている俺達が最悪止めなければならない、か……」 「闇落ちラーチって、また無茶な略し方しましたねダークライ。けど、破滅の願いを発動させる訳にも行かないから、やるしかありませんね」 「もし、もしもですよ? その願いが発動してしまったら……どう、なるんですか?」 「……あんまり怖がらせたりって言うのはナンセンスだから言わないようにしてたけど、破滅の願いが発動した場合、空からの災いが地上に落ちてくる事になるだろうさ。一番手っ取り早くて、確実に破滅をもたらせるだろうし」 空からの災い……即ち、隕石を地上に落とす。七夕の夜に流れ星、なんてロマンチックかもだけど、それがそのまま降ってくるなんて笑い話じゃ済まないっしょ。 「そ、そんな……」 「ま、それをさせないように気を付けようかってのがさっきの話って訳ね。だーい丈夫だよラサン。そんな事、僕が起こすのを許さないからさ。安心してお願い事しちゃってよ」 「……ま、起こってもいない事に怯えても仕方ないしな。折角の七夕だ、笹なんか、探してきてみるか」 「そうですね……あまり暗い事を考えるのもあれですし、村の皆にもふれ回って、簡単なパーティと言うのも悪くないですね」 「え、あ、あの、いいんですか? そんな悠長で」 「実はさ、発動した破滅の願いは超絶ヤバいけど、発動する方のジラーチは悲しくなるほどヘナチョコなのさ。千年寝てて早々にバトルなんかムーリ無理、でしょ? だからラサンも安心して、明日の準備とか皆にお願いしてきてくれないかな」 「わ、分かりました……じゃあ、行ってきます」 微妙な顔してたけど、ラサンは行ってくれた。……流石の僕も、隠し切れてなかったかな。 「やはり、気取られたな、ラサンに」 「やっぱり? ダークライもクレセリアも手伝ってくれたし、行けるかなーと思ったんだけどなー」 「闇に飲まれたジラーチ、それが弱いのであればどれだけ良かったか……ジラーチ様、戦闘になると想定して、勝率はどの程度で?」 「前に止めた黄色闇落ちは余裕だったけど、相手は赤だからね、溜め込んだ負も段違いだろうし、はっきりとは言えないかなぁ」 実は僕達、前にも闇落ちラーチを止めた事があるんだ。その時は黄色の願いの力だったけど、それでも大分手こずらされたんだよね。 んで、闇落ちラーチの強さって、どうも溜めた願いの強さに比例するっぽいんだよ。黄色で手こずる程度だとすると、赤はもっとヤバい、寧ろヤヴァイくらいだと思う。間違ってもヘナチョコなんかではないだろね。 「黒じゃないのがまだ救いがある点かもしれないな。完全な闇……抑えられる気がせん」 「それを言うのが、暗黒ポケモンのダークライって所がまた皮肉だよねー」 「まぁ、ダークライの場合は暗黒は暗黒でも、安国の方でしょうけどね」 「どういう事だそれ?!」 なんかダークライが凄く有り難みのある存在になったところで、明日に備えてやる事はやりますか。出来ればのんびりしたいけど、呑気してる場合じゃなくなるかもだしね。 ---- 天気は良好、ダークライが取ってきた笹も村の真ん中に据えられて、風に揺られてサワサワ音を立ててるよ。風流だねぇ。 「笹見上げて黄昏てる場合か? 皆クレセリアに教えられながら、短冊書いてるぞ」 「いやさ、ふと思ったんだけど、本来なら願いを叶える側の僕が願いとか書いちゃっていいのかなーって」 「……今更だろ。千年の眠りに付かない……いや、千年の眠りに付けない、世界で唯一のジラーチなんだからな、お前は」 「ありゃ珍しい。前に絶対にもう口にしないってクレセリアと約束したんじゃなかったっけ?」 「今日だけは特別さ。……あれから、もう何百年経ったんだったかな」 「さぁてね。数えるのも面倒になっちゃって止めちゃったよ」 千年の眠りに付かない、か……本当はそんな事、出来る筈が無いんだ。僕、ジラーチの存在理由の否定だからね。そんな事したら、3日と保たずに僕の存在は消えてしまってるよ。 そんな僕が今もこうして存在して居られるのには、遠い昔に叶えた願いと、一つの約束があるから。……止めた止めた! 湿っぽいのは僕らしくないし、折角楽しげな雰囲気に水を差すのも空気読み人知らずだもんね。折角お祭り規模にまで発展したんだから、楽しまなきゃ損だよ。 「ほらダークライも、折角お祭りにまでなったんだからラサンと過ごしてきなよ。……!」 「いや、俺はそんなつもりじゃ……どうした?」 「いやぁ、ちょーっと野暮用が出来ちゃったっぽいだけさ」 ……予想では夜に目覚めるかと思ったけど、昼間に起きちゃったか。まぁ、仕方ないよね。 同じジラーチだからか、分かっちゃったんだよね。遠くの方で、強い暗い物を抱えたジラーチが目を覚ましたって。そしてそれは、並大抵のポケモンじゃあ太刀打ち出来ないってさ。 だから、僕が行かなきゃならないんだ。『世界に暮らしてる皆が、これからも幸せで居られますように』って言う願いで此処に居る、僕が。 「まさか……! 来たのか?」 「うん、どうやらそうっぽい。だから僕、行ってくるよ」 「待て、なら俺やクレセリアが」 「ダメ。今回はきっと、僕もかなり本気でやらないとならない。正直、ダークライやクレセリアに気を回すのは無理だろうね」 「だが俺達は、お前を守る事が役目なんだぞ」 「うん、だから守って、この場所を。帰ってきた時にご馳走もお祭りも無くなってたーじゃ、僕割と本気で泣いちゃうよん?」 ありゃ、戯けてみせたら溜息吐かれちゃった。いや、睨まれないだけマシって事にしておこうか。 「……早く帰って来ないと、俺が直々に全部平らげてやるからな」 「そいつは困った。んじゃあ超特急で行って帰ってくるとするかな……シュワッ!」 ダークライに見送られながら、僕は飛ぶ。真っ直ぐに、一直線に、最短で。絶対に、破滅の願いは使わせない! 超速モードで飛んできて、見えた。僕等が居たのとは違う願いの社だ。うっわぁ、なーんか禍々しい光放っちゃってるなぁ。近付くにつれ、ビリビリするくらいに感じるよ。 「けど、この程度じゃあ……止まってあっげなーい! ゴォォォ、シュゥゥゥト! 但し弾は自分!」 って訳で、押し寄せるパワーウェーブを押し切って、着地。あらー、ファイヤーさん達が倒されて積まれてる。で、それを踏みつけるようにして見下してきてるのが……。 「やぁ、同類。まーた愉快でおかしな事になっちゃってるねぇ」 「……何故、此処にジラーチが現れるの? 僕がこうして目覚めたのに」 「みたいだね。お腹の目までパーッチリ開いちゃって、まるで恐怖の大魔王様だ。なら僕は、大魔王を倒しに来た勇者ってところかなーん?」 うわ、無視して空に力を送りだした。ノリが悪いなぁ、もう。 「はいそこ、僕を無視してお仕事始めない。困るんだよね、それをやられると」 「……邪魔」 「うぉっと!? 容赦無いなーもう。僕泣いちゃうぞー?」 今のは、銀色の光だったからラスターカノンかな。僕と違って特殊タイプの技を好むのかな? どっちにしろ、倒すけどさ。 「やられたらやり返す質なんだよね、僕ってばさぁ!」 「!」 「はっはぁ、冷や汗一滴! 怖かったかなー?」 「……何故、邪魔をするの。願いを叶えるのが、僕達の存在理由。僕は願いを叶える。……破滅の願いを」 「だーかーらー、それが不味いんだってば。あのね、破滅なんてだーれも本気で願ってないの。仮に願ってたとしても、いざそれが迫ったら死にたくなーい、死にたくなーい! とか言うに決まってるんだから」 思念の頭突きかーらーの説得をしてみたんだけど、こりゃダメっぽいかなぁ。やっぱりKOしてやるしかないか。 「だとしても、それは僕が集めた願いじゃない。僕の集めた願いは、誰かを蹴落とし、傷付け、命を奪いたいと言う願い。叶えるには、全ての命を消してしまえばいい……」 「全くもって勝手だね。確かにそういう事願っちゃう事もあるさ。けどそれが全てって訳じゃない。なのに全て同じだから消しますなんて、ただの暴力じゃないか。ちっとも楽しくない」 「何を言われようと、僕の結論は変わらない。この世界は……破滅するんだ」 ったく面倒だなぁ。これだから世の中に目を向けないでダラダラ寝てるだけの奴はダメなんだ。自分で見聞きしたものが無いから、集めた願いだけで世界を図ろうとする。馬鹿丸出しじゃん。 「話が通じないって面倒だなぁ。悪いけど、考えを変えないって言うなら……ぶっ飛ばす!」 「願いを妨げる者……消えて無くなれ」 「出来るものなら、やってみなぁ!」 弾かれるように、一気に距離を詰める。相手は特殊タイプっぽいし、距離を空けて調子付かせると厄介だ。 ふふん、距離を空けようとする辺り、予想的中だね。流石僕。 「くっ……」 「バトルなんて碌にした事無いでしょ? 無駄ぁ!」 「ぐぁっ!?」 なんて余裕ぶっこいてるように見えるだろうけど、これ全力で追い掛けて追撃してるからね。ちょっとでも気を抜いたら、鬼のように特殊技がとんでくるんだろうなぁ。僕だったら絶対にそうするし。 とりあえず、思念の頭突き一発当ててやった。これでダウンする程やわじゃ無いみたいだけどね。 「くっ、調子に、乗るな」 「うぉっとぉ! あっぶなー……あんな力の塊まともに受けてたら、あっという間にもんじゃ焼きになっちゃうよ。あ、お好み焼き食べたいな」 「滅べ……滅べ滅べ滅べ! 全て、全て!」 「ちょっ、無茶苦茶するなってぇ! あ、やばっ!」 相手のジラーチがデタラメに撃った技の一発が、願いの社に直撃コースだ。まだあの島には、この子の守護者達が居る。気は失ってたけど、まだ息はあった。なのにあんなの直撃したら……考える前にやるしか無い。 多分サイコキネシスらしき光の玉を通り越して、回り込む。当てさせられないなら、受け止めるしかないよねぇ。 「くっ、ぬぅおぉぉぉ!」 「潰れて、しまえ!」 「ちょっ、追撃!? ぐぬぁぁぁぁぁ!」 「消えろ、消えろ消えろ消えろ、消えろ!」 容赦なさ過ぎぃ!? ダメだ、受けきれない! ……本当はしたくないけど、やるしかないか! 「消えてなんて……居られないっつうのー! はぁぁぁぁぁ!」 「!? 強大な、願いの力?」 僕の中にある、たった一つの願い。それを一時的に解放した。千年の眠りさえ超える、たった一つの、小さな祈り。 「馬鹿な……七色の、虹色の願い。禁断の、お前自身に向けられた願いか」 「あぁそうさ。遥か昔、僕の為に願ってくれた者が居た。争いを無くしたいって言う願いを叶えて、消え掛けた僕を救う為にね」 何があったかと言うと……まぁヘマしちゃってね。昔、大きな争いがあって、それを止めたいって願いを飛ばした願い主が居たのさ。 僕はそれを叶えた。けど、戦いが終わる寸前にドジって、願い主が襲われたんだ。ついでに、僕もね。 馬鹿な話だよ、争いが終わったら損をする連中から恨まれて、願い主共々討ち死になんてさ。 本当は、その時に僕は消えてしまう筈だった。願いである争いは小さいながらも消えず、願いが叶ったと判を押してくれる主も失って。何も出来ずに、ね。 けど、その時の主が僕を救ってくれた。……願いの上書きって言う、反則スレスレの方法でね。 その願いが今僕が此処に存在出来てる理由。『あなたが悲しい願いを叶えなくていい世界になりますように』……なんてさ。 願いは僕の中に入り込み、僕は助かった。僕は、ね。 ……願ってくれれば良かったんだ。僕の為の願いなんかじゃなく、自分を助けてって。そうしたら、僕は最期の力で主を助けられた。でも、僕には願われてない者を助ける力なんて無いし、願われたとしても、消えてしまった命を呼び戻す事は出来ない。出来ないんだ……。 「主が亡くなって、僕の中には主がありったけを込めて願ってくれたこの願いが残った。僕が悲しい願いを叶えなくていい世界って言う願いが」 「なら、その願いを叶えて消えてしまえ!」 僕に向かって放たれたラスターカノンは、虹色の願いに阻まれて霧散した。その程度じゃ、この願いは超えられないさ。 「ダメなんだよ……だってさ、君みたいのが出てきちゃうじゃない。世界を破滅させるとか言っちゃうさ」 「?!」 「願い、言い方を変えたら欲望さ。欲望って言うのはさ、絶対に消えないものなんだよ。だからさ、君のような破滅の願いを発動させようとする奴は後を絶たない。そうすると、破滅から世界を救ってって言う悲痛な願いも消えないんだ。そして……願いが叶ったって言ってくれる主を失ったこの願いもまた、ね」 「虹色の願い……永遠に叶う事が無い呪われた願い。叶え続けねばならない呪われたジラーチ……実在したんだ」 「サインなら、あげないよ」 そう、僕は主の今際の際の願いと共にある者。叶えきれない願いを、叶え続ける者。ダークライとクレセリアが社に連れ帰ってくれてからは他のジラーチや守護者達に気取られないように、めっちゃ長い期間社に引っ込んでたけどね。 「なら、世界が無くなってしまえば願いも消える。お前も解放される。何故邪魔をするの?」 「別に僕は解放されたいなんて思ってないのさ。悲しい願いを叶えなくていい世界? 最高じゃないか。僕達の力は、ただ誰かの欲望を満たす為にあるんじゃない。願いが叶った先に待ってる、笑顔を迎えにいく為のもの。その為なら、僕は何度でも幾らでも、この願いを叶え続ける!」 これが、主との最期の約束さ。泣きながら願ってる誰かの、笑顔を迎えに行ってあげてってね。 「さぁ、終わりにしよう。破滅の先に……笑顔なんて、ありはしないんだから」 「……そう、だね。でも……もう、手遅れさ。破滅の願いは……完成した」 はい? ってなんか見上げたら隕石降りて来てるー!? ちょっ、僕が慣れないシリアス展開してる間になんばしちょりますか! ヤバーいヤバーいヤバヤバーい! 「なんて事してくれてんの!? どーすんのこれ?!」 「だ、だって話が長くて……で、でも願いの力が全部出ちゃったから、君の話も凄く感動したし、今はこれを止めたいって思ってる! 本当だよ!」 「出来てからじゃ遅いじゃーん! ちょっ、なんかこう、キャンセル! キャンセル出来ないの!?」 「で、出来ないよー」 うわ、泣くこのタイミングで!? いやまぁ闇落ちの毒気みたいのでやられてたんであって、多分こっちが素なんだろうけどさ。 「うわーん! どうしよ〜!」 「どうしようったって……マジでどうしよう!?」 ーー諦めないで…… 「!? い、今のって……」 主の、声? いやいやまさかそんな。極限状態で、僕もどっかおかしくなってきたかな。 ーー諦めないで……デセオ! 「な、僕の名前まで……?」 デセオ……これは僕が主から貰った名前だ。何処かの言葉でそのまま、願いって意味だって聞いた事がある。 諦めないで、か……全く、こんな時にまで、応援してくれるとは、ね。 「くくく……なはーはっはっはっはー!」 「な、何!? どうしたの?!」 「いやいやー、どーも相手がちょーっとばかり大きいからって怖気づいちゃっておかしくってさ。僕に出来る事なんて一個くらいしか無いのに」 「ど、どうするの?」 体から出てる虹色の力を更に解放して、纏う。なんの事は無い、いつも通り全力で、全開で、真正面から堂々とぶち当たればいい。あんな石コロ、叩き割って終わりにすればいいんだ。 「ま、眩しい! けど、なんだろう……強くて優しい、不思議な感じだよ」 「それが、この願いの本質さ! 呪いなんかじゃない、友達を、世界を、明日を……」 そして、こーんなところまでついて来て、こっそり隠れながら励ましてくれた君を……。 「守る為の、希望って奴さ!」 勢い良く飛び出して、隕石へ向かっていく。 ……ははっ、折角隠れてたのに、慌てて出てきたら意味無いじゃん。安心してよ、願いは……必ず叶えるからさ。 「僕等の世界を……終わらせようとしてんじゃ、ねぇぇぇぇ!」 隕石にぶつかって、目の前が閃光で埋め尽くされる。けど、隕石は砕けてるから、多分大丈夫でしょう。 隕石はこれで大丈夫でしょう。なら、後の事は任せちゃおうかな。 ね……クレセリア……。 ---- パチコーンと目が覚めて、いきなり飛び込んできたのは満天の星空だった。ここって……? 「気が付かれましたか、ジラーチ様」 「村だ……って事は、上手くいったんだね」 「はい。破滅の願いによって生み出された隕石は粉々になり、大気との摩擦で燃え尽きたようですよ。全く、無茶のし過ぎです。帰って来れなかったらどうするつもりだったんですか?」 「そこはほら、クレセリアがなんとかしてくれるんじゃないかなーって」 よく見たら、ここって自分の家の屋根じゃないか。はぁ、帰って来れたんだなぁ。 下では村の皆が騒いでるのが見えるって言うか……なーんか僕以外のジラーチと、伝説の三鳥も居るんですけど。なしたのあれ? 「クレセリア、あれはどったの?」 「いやまぁ、あのまま放っておこうかと思ったんですが、色々あったしそのままと言うのもなーと思いまして」 「連れて来ちゃったと。ははは、まぁいっか」 スッと料理が乗った皿が前に出てきた。やっぱり気が効くね、クレセリアは。 ……暫くは、何も言わずに風の音を聞いてた。なんか、話してもいいか分かんなくって。 本当、全然気付かなかったよ。けど、多分そう言う事なんだよね。 「えっと、あのさクレセリア」 「な、なんでしょうか?」 「最初から、だったの? その……ね?」 「……あれだけ盛大にネタばらししてから、今更なんの事ですかは無理、か。そりゃそうだよね」 ははっ、完全に砕けた喋り方は全然変わらないや。まっさかこんなに近くに居て、今の今まで気付かなかったとはね。 「最初はね、自分でも何が起こったのか分からなかったんだ。気が付いたらこの姿になってて、しかも君の守護者ですーなんて説明されてさ。何の事かと思ったよ」 「あー、そう言えば一度、僕が消え掛かった時に守護者の交代あったっけ。思えばクレセリアとダークライは、その時からの付き合いだったね」 「そう言う事。君はこの世の終わりみたいに落ち込んでたし、名乗っても信じてくれないだろうなと思って、あの『クレセリア』になったって訳」 なーるほど。なら、こんな体になってからはずっと、側に居てくれてたって訳だ。 あ、そうだついでに聞いてみようか。クレセリアが彼女と同一なら、可能かも知れないし。 「ならさ、今の僕を支えてる願い、それを君なら解除出来るの?」 「それは……だめみたい。やっぱり、幾ら記憶と心を受け継いでると言っても、やっぱり君に願った『私』はもう居なくて、今ここに居るのは『クレセリア』の私って事なんだと思う」 「そっかー。まぁ、僕も消えたい訳じゃないしね」 「うん、私ももし解除出来たとしても、しなかったと思う。だって……君の隣に居られる今が楽しくて、無くしたくないんだもん」 演技が無くなったクレセリアの笑顔を見て、ちょっと泣きそうになっちゃったよ。覚えてるあの子の笑い方と同じなんだもん。 「ははは、なんか、いっぱい話したい事があるのに、胸がいっぱいで上手く出て来ないや」 「大丈夫だよ。今まで何百年も一緒だったんだよ? これからだってそうなんだから、一緒にいっぱいお話しよう。ね?」 「……うん!」 ……彼女がこうなったのは、ひょっとしたら僕の所為なのかもしれない。だって、願っちゃったから。 彼女と一緒に居たい、これから先もずっと……なんてさ。 「昨日名前を聞いてはぐらかしたのってさ、そう言う事だよね」 「だ、だって名前なんて他に名乗った事無いし……」 「なら、こう呼んで大丈夫だって事だよね。……改めて、これからもよろしく、エスペル」 「うん! よろしく、デセオ!」 お互いの名前を確かめ合うと、空には一筋の流れ星が走っていった。……あの流れ星にも、幸せな願い事がされてると良いなぁ。 「……ところでさ、主がダウンしてたって言うのに、ダークライは何処行ったの」 「え、あーほら多分、ラサンさん……もう、言い難いなぁ。ラサンちゃんと一緒に、その、フィーバーしてるんじゃないかな?」 「恥ずかしいなら言わなきゃ良いのに」 「デセオが聞くから悪いんでしょー! もー!」 ははは、これからはもっと楽しくなりそうだよ。演技無しのエスペルは、からかい甲斐がありそうだしね♪ ---- 後書き! という訳で、うちのジラーチさんまさかの二回目の登場です。まぁ、今回ギャグは少なめですが。 七夕に何かそれらしい作品を書きたいなーと思って書き出して、出来上がったら2時間遅刻……思いつきだけで行動した結果にございますw とにかく、ここまでお読み下さいまして、ありがとうございました! #pcomment