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日影、温水、月光、暖氷。 1 の変更点


 日影、温水、月光、暖氷。
                         &size(12){―――Written by [[Å]]};
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 ――暗い。正直、"ボックス"って言うのは嫌いだ。
 俺は"ブラッキー"と呼ばれている。タイプがタイプだからなのか暗い所は慣れやすく、幾らか暗いところは平気ではある。でも、このボックスっていうのはただ暗いだけじゃなくて無機質独特の冷たさが漂っているから。
 …これだけはいつまで経っても慣れそうにはない。

 気分が暗くなってしまう前に、隣に居る猫又のような姿をした"エーフィ"に話しかける。
 少し前はよくバトルで一緒に戦っていた、かなり前からの友達。…とは言っても最近見ていなかったから少し話しづらい。
「最近どうだい?」
 当たり障りのないような言葉を選んだつもりだった。
 ところが、彼は少しいらついた様に口を開いた。
「お前は主人のことどう思う?」
 ―――なんだ、いきなり分からんことを聞いてくる。暗いため表情を捉えるのは難しい。そりゃあ人間とポケモンの壁はあるが、仕えているわけだからそれなりには信用してるに決まってる。進化できたのも主人のおかげ、命令に背くなんて自分は考えもしなかった。
「そうかねぇ・・・俺は信用できないけどな」
 心を読まれたのか………以前はそんなことしなかったのに?
 違うと思いたい。きっと雰囲気から察したんだ。
 それにしてもますます分からない。なんだ、何が原因だ。彼は黙ったままだ。今は話題を変えよう。少しは反応も変わるかもしれない。
 何が原因かということも知りたいのは山々だし、俺に何かできるならしてやりたい。が、今俺に出来る最善策がこれだろう。
「そうだ、お前彼女とはどうだい、―――ほら、"シャワーズ"さんのことだよ。うまくやってるかい?」
 彼と付き合ってる奴がいるのを思い出し、聞いてみる。比較的、明るくて少し浮ついた話だ。仲はよかったはず・・・アタリマエか。付き合ってる仲なんだし。
「その事だよっ!」
「うわっ!?」
 突然ぶち切れたような声を張り上げるもんだから情けない声を出してしまった。…本当に何なんだ!?耳が痛いじゃないかっ!
「……お前、好きなやつができたみたいだな?」
 少し間を置いて、いらついた顔で言う。二股に分かれた尻尾はばたんばたんと大きな音を立てていた。
「んなっ・・・」
 少ししてこっちに話しかけてきたと思ったら、ずばり隠していることを言い当てられる。
 ・・・今度こそ完璧に心を読まれたらしい。気分は害され、顔と頭は同時に熱くなった。
「そいつは『グレイシア』、俺らとたいして変わらないくらいにパーティー入り。最近になって惹かれ始めた。そうだろう?」
「そ、それは…そうだけどさ」
 また図星、か。やってられなくなってくる。平静を装うことがこんなにも難しいとは意外だった。顔面を見られていないことを祈る。
 それに何よりもこれ以上心を読まれたくない。

 ―――でも、だ。
 こんなになったのには絶対に何かあるはず。今のところ、"彼女"がその"何か"のキーワードらしい事まで分かっている。
 ……だとしたら二人の仲に何かあったのだろう。交際中のトラブル?主人はあまり暇をくれない。現に今、ボックスの中で待機させられている。外に出してくれてもいいのにな。
 と、ここまで考えいたところ、いきなり彼が口を開いた。
「考える必要も、詮索する必要もないよ。お前もすぐにこうなるさ」
 またですか。心を読まれるのはもううんざりだ。やめようかな、とささやくような小さな思考が頭を掠めるものの、ここまで首をつっこんだなら最後まで行く事にしようと決断する。最後に、一つ・・・これでまともな答えがなかったらやめよう。
「そんな物言いするってことはさ、それとそのこと、いや"彼女"は関係あるのか?」
 "彼らの間に何かあったのか"、それを聞く為の質問だ。はぐらかされたりしたら困る。となれば、こういう聞き方のほうがまともな答えが帰ってくるとみた。さて、どんな答えが返ってくるのか。
 しばしの静寂。
「…ああ、その通りだよ」
 今度は心を読まれたかはわからなかった。それでもまともな答えである。はぐらかされたりはしなかった。
「いったい何があったんだ、変だぞ、お前」
 もう少し深く聞いてみる。とたんにあたりが静まり返って、空気が水面の氷のように冷たく張り詰めた。
「……こないだ、さ―――」
 彼はゆっくり、陰鬱な声で話し始めた。
 ゆっくり、ゆっくりと、過去を――過ぎ去ってしまった時間を、惜しむように。



 つまるところ、話の内容はこんなところだ。

 事の始まりは、ついこの前のことだった。
 それは、エーフィの交際相手であるシャワーズ、彼女が主人に連れられていったことから始まったこととなる。
 主人に連れられていく彼女が去り際にエーフィに言った言葉、"すぐに帰るから"という、その言葉。彼はそのときの笑顔と、主人とを信じて、彼女の帰りを待ち続けた。
 また、いつもどうりの幸せだった生活が戻ってくるのを信じて。また、彼女と過ごせることを信じて。
 …一日経った。彼女は帰ってこない。
 ……二日経った。彼女は帰ってこない。
 ………三日経った。彼女は帰ってこない。
 一週間ほど経ったある日。ようやく彼女は帰ってきた。
 ―――その光を失った目から、涙を溢れさせて。
 泣き止んでくれることは無かった。理由を聞いても答えてはくれない。ただ、黙っているのみ。&ruby(シンクロさせる){特性を利用して心をのぞく};勇気なんてその頃にはありもしなかった。いつの間にか、彼女と話すとき、どこか怯えた様な表情になっていた。遂には、向き合ってもくれなくなった。
 逃げるように避けられた。助けてやりたいという気持ちだけが空回りしていく。だが、彼女は一体どうだろうか?
 ……いまだに一緒にいたいと思っているようには見えないのだ。
 結局、ただ、苦しいだけの日々が続いていった。
 ・・・距離がだんだん離れていく。心も、体も、何もかも。
 そして遂には、最後までずっと泣いたまま、別れの言葉を告げられた。

「―――なんていったと思う?」
 ここでエーフィがいったん話を中断させる。
 "泣きながら"?
 これがやけに気に掛かる。こんな状況だ。普通に仲たがいをしたようにも思えない。したとしても何らかの事情はあると見た。
 第一、彼と彼女は俺が見たときだがとても仲がよかった。傍から観ても恥ずかしくなってくる程に。少なくとも俺――ブラッキー――はそう思っていた。悪いがまったく分からない。むしろ、話を聞いたら余計わけが分からなくなった。
 エーフィが俺の思考に追い討ちを掛けるがごとく話を再開し始める。

「『ごめんなさい―――あなたのことが嫌いになったわけじゃないの。でもね、きいて。だからこそ、あなたと居るのがつらいの。・・・本当に、ごめんなさい』」

 彼女の台詞だろう。なにか、心に引っかかる。だがまだはっきりと分かったわけじゃない。
 ふと、頭の中に一つの考えが生まれた。しかしそれは、あまりにも幼稚すぎる。それゆえににわかには信じがたいものだ。どう考えても、普通起こりっこないじゃないか?
 俺は今も心を読まれているだろうか。心を読むのはもう止めたのだろうか。…妙な沈黙が場を支配していく。どんよりと重い空気が口を閉ざそうと圧力(プレッシャー)を掛けてくるのだ。それでも、なおお構いなしに彼は続けていく。
「・・・そんでさ、しばらくして彼女、タマゴできたんだとさ」
 やっとのことでその言葉を吐き出した彼から伝わってきた空気は、凄惨なものであった。その言葉が紡がれた瞬間、自分の背筋に氷水をめいっぱい掛けられた様な感覚に襲われる程に。
 そんなの、聞いたことも無かった。それが今、心に引っかかったものの自己主張の激しさを増してゆく。
 一方で、必死でそれをかき消そうとする。しかし勢いづいたそれは、とどまることを知らない、まるで化け物だった。"化け物の様"なんて生易しいものじゃない。本物の、化け物だ。化け物を打ち砕くべく、自身の最後の望みを託して彼に問いかける。
「それってもしかして・・・」
 化け物だなんて。たいしたことなんてないんだ、絶対に。そんなもの、自分で作り出した幻影に違いない。自分で作り出したものが自分を超えることなんて、早々無いことだ。
 ―――そうだ、それに押しつぶされそうになっているだなんて馬鹿らしい。
 必死に否定するが、恐怖というものはとどまるところを知らずどんどん湧き上がっていく。ボックスの暗闇の中から彼がこっちを見た気がした。向こうには自分が見えているのだろうか?
 今の自分のこの顔が。化け物を前に、今にも泣き出しそうな情けないこの顔が。
 会話は何も、自分達だけしているのではない。他のポケモンたちもしているはずなのだ。しかしその声は、やけに透明にボックスの闇にこだました気がした。
「そうだよ。強姦だよ。それも主人が黒幕らしい、な」



 嘘だ。絶対に信じられない。主人が黒幕の、強姦なんて。そんな趣味はないはずだ。
 だけども、もし万が一エーフィの言うことが正しいとなるとこの先どうなるか。彼の会話の中の言葉から推測するには―――次の被害者は間違いなく、グレイシア、自分が思慕の情を寄せているその人である。まだ告白こそしていないものの、惹かれていることには変わりない。
 その彼女が被害にあうのだ。こっちにとって信じたくないのも当たり前である。・・・頭が混乱してくる。
「そんなの信じられない!」
 考えていたことが思わず口に出てしまった。今もほぼ確実に彼は俺の心を読んでいただろう。つまり、そんな事分かりきっているのだ。彼から見れば。いや、彼でなくとも分かるか。
 ―――そうなれば、返って来る言葉は一つしかない。
「信じなくてもいい。だが、次の犠牲者は言ったはずだ。どうなろうと俺の知った事ではない。好きなようにすればいい」
 しばしの静寂。周りが見えない。冷たい空気という外套。押しつぶされそうになる。
「でもっ!」
 ・・・明らかに空気が新たに怒気を含み、こちらへ雪崩れ込んで来る。それでも、ボックスを支配する無機質の冷たさは減るどころかせせら笑うかのようになお増している。
「・・・お前がどれだけ主人を信用しきっているか分からないが、信じないと言うのならお前が知りたがってたものを身をもって知るがいいさ!」
 空気中の怒気をすべて込めた様な怒鳴り声。反論しようとする、まだ信じたくなくて。言葉が出なかった、否定できなくて。
 気持ちが乱れる。頭痛までしてきた。まるで腐った木の実を口に含んだような酸味が喉をついてくる。まるで、自分で自分の毒に当てられたかのような感覚。耐え切れずにボックスの壁にもたれかかった。
「・・いや、身をもって知るのはお前じゃなかったなぁ」
 空気中の怒気が消えてきて、入れ替わりに哀しさのようなものが漂い始める。どういうことだろう。もしや、これは奴が俺を哀れんでいるのだろうか。わざわざ忠告してやったのに。大馬鹿者だ、と。
「一番かわいそうなのは誰だか、考えてから者を言え。馬鹿」
 間違いなくかわいそうなのは彼女。ああ、何たることだろうか。
 頭の中ではぐるぐるぐるぐると思考が掻き回される。その渦の只中でもただ一つだけ言える正しい事。それは彼が俺の心を読んでいるというなら、俺の心を読み。そして、これを行っているなら。
 もしも、拒絶されたためにこんな事をしてるのなら。何も行動を起こしてないなら。
 ・・・お前も馬鹿者だ。
 だんだん体が震えてくる。本当に毒に当てられたのだろうか。心も体も限界に近づいてきた。もう、なんだかんだ考えるのは止めよう。疲れ果てたのだ。特別なことをしたわけでも無いというに。
 ここらで少し寝るとする。
 ―――目が覚めたらすべてが夢であることでも願いながら、ね。
 ・・意識が朦朧とする中で何か、エーフィがつぶやいた気がした。

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 五ヶ月ぶり・・・?まだかなり少ないですけれど復活してみました。
 なにか一言やらアドバイスやらもらえると作者が喜びます。
- お……おかえりなさいÅ様  つ……疲れたら休みましょう  か……考えることが大切です  れ……練習の繰り返しです  さ……三度の飯より小説好き  ま……またの更新をお待ちしています --  &new{2008-10-23 (木) 22:53:04};
- お……おお、コメントを下さる方が……あ……有難う御座います……お……お互い精進しましょう……そして休みましょう……更新、がんがります -- [[Å]] &new{2008-10-26 (日) 01:28:54};
- ↑↑のコメントよくできたなぁ…… それはともかく執筆ガンバです^^ -- [[Fロッド]] &new{2008-11-07 (金) 05:51:33};

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IP:61.22.93.158 TIME:"2013-01-14 (月) 18:12:21" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%97%A5%E5%BD%B1%E3%80%81%E6%B8%A9%E6%B0%B4%E3%80%81%E6%9C%88%E5%85%89%E3%80%81%E6%9A%96%E6%B0%B7%E3%80%82%201" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"

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