Writer:[[&fervor>&fervor]] ---- 「おーいヴェレット、今日バトらないか? 休み明けで強くなったこの俺に驚愕するといいぞ」 ようやく休みも明け、再び新学年として大学の講義へと出席した俺に、開口一番降りかかってきた言葉だった。なぜだか上から目線の自信ありげなその態度。 だが、俺の手持ちだってそれなりに強くなったつもりだ。鞄の中に今日も連れてきたあいつらの力を見るいいチャンスかもしれない。 初めの授業ということもあってざわつく講義室、その後ろの席に鞄を置きつつ座る俺。もちろんそいつも俺の隣に鞄を置き座り込む。 「……分かった。その勝負受けて立とうじゃないか。何かやけに自信ありげだな、ニコート」 大学で出来た友達の中では恐らく最も仲のいい友達だ。いつもこの調子で勝負を吹っ掛けてきては負けているのだが、今日はなにやらやけに上機嫌だ。 俺の言葉を聞いて、待ってましたとばかりにニコートは鞄を漁り始める。やがて出てきたのは四つのモンスターボール。なるほど、こういうことか。 今までニコートが持っていたボールは二つ。ライチュウにヌオーという、俺に勝つ気を疑うような組み合わせだった。大分前からの付き合いらしいから、この巡り合わせは運命というべきか。 この春休みで恐らく俺に勝つために新しいメンバーを加えたのだろう。中身はもちろん確認させてもらえなかったが、単純なこいつのこと、そこそこ想像は付く。 「悪いが今回の勝負は俺の圧勝で決着をつけさせてもらうぜ、見てろよヴェレット!」 俺だってこの春休みにそれなりにバトルサークルには通ったし、俺の手持ちだって今まで通りというわけではない。ただ、全力で特訓に明け暮れたわけでももちろん無い。 あまり自信は無かったが、たまには危機感迫るバトルも悪くないかもしれない。一回くらいこいつに花を持たせてやってもいい頃合いだし。 しかしここまで自信たっぷりなこいつを見ると逆に不安になってくる。過去にも自信満々で野良バトルを挑んで、それはもう酷い返り討ちに遭ったのを見ているのだから。 確かあのときは相手が年下だと知りながら、大人げなく勝負をしかけ、さらに最終進化もしていないポケモン相手に二タテを食らっていた気がする。 「それはいいけど、あんまりフラグ立てない方がいいぞ。お前、いつか高校生相手にぼこぼこにされたときにも同じようなこと言ってただろ」 「あ、あれはだって、あのハクリューが馬鹿みたいに強かったからだろ! お前の強さは十分分かってるんだから、あの時とは違うっての!」 そうそうハクリューだ。あのすがすがしいまでに一方的な試合は見ているこっちが辛くなるほどだった。まあ、こいつは落ち込んでも数分あれば元通りだが。 もちろんこいつの言う通り、俺の今までの強さは知られている訳だし、そのままじゃもちろん勝ち目はないだろう。そのままだったとしたら、な。 俺たちだってそれなりに鍛えてきたんだぞ、と教えてやろうかとも思ったが、わざわざ相手に手の内を見せるなんて馬鹿のすることだ。こいつみたいな。 「わかったわかった、じゃあ授業終わったら、いつものバトルセンター……でいいんだよな?」 「おうよ、もう予約はばっちりだからな、それじゃあいつも通り後はよろしく!」 こいつも俺も、受ける授業はすべて一緒。ただこいつは俺より不真面目ということで、出席だけ取ってさくっと帰るのがいつもの光景だ。 そのくせ俺より遙かに成績がいいんだから恐れ入る。馬鹿と何とやらは紙一重、とはよく言ったものだ。あのときも再試に引っかからずに通り抜けてたな、あいつ。 そんなやりとりがあったため、俺たちは今、こうして市のバトルセンターの一室にいる。トレーナーとしての資格を持っていればただで入れるというすばらしい施設だ。 ポケモンセンターといいポケモン預かりシステムといい、トレーナーの資格を持っていないとこの世界は不便なことが多すぎる、と思う。 資格が無いと大体のサービスは有料になるし、身分の証明も一苦労。トレーナーカードをもらうのも案外難しいことではあるが、メリットがあまりにも大きすぎる。 公園にはそんな資格を持っていない人たちがよくバトルをしに訪れているが、彼らはポケモンの回復とか、一体どうしているんだろうか。 「おーい、準備はいいのか、ヴェレット。俺の方はばっちりだぞ、早くしろってー」 どうでもいいことを考えているうちに、ニコートの準備が終わったようだ。いつもの俺たちの対戦方式はシングルバトル、使用ポケモンは二体。 俺たちの手持ちの数に合わせて二体だったわけだが、あいつが四体もポケモンを持っているのだから、そろそろ変えてもいいんじゃないだろうか。 そのためには俺の方も準備しないといけないが、あいにく準備が整っているとは言い難い。もう少し育てたりする方に時間をかけるべきだったか。 とりあえず、一匹目を考えないと始まらない。あいつのことだ、恐らく氷タイプと炎タイプあたりでも入れてきたのだろう。一体どっちが先に出てくるか。 ただ、ここで草タイプを出せばどちらが出てきても不利になる。あいつには今回は待ってもらうとして、やっぱりシェリムに頼るしかないか。 「よし、俺も一匹目決まったぞ。ニコート、俺だって今までの俺じゃないってこと、見せてやるよ!」 お互いにボールを手に持つ。バトルフィールド脇にセットされたレコーダーが大きく音を鳴らすと同時に、一斉にボールを宙へと放り投げた。 パカッと開く二つのボール。手前のボールからは見慣れた緑の身体、長いしっぽに赤い目のカバー、フライゴンのシェリム。大きな翼で空を打ちつけ宙に浮く。 そして俺もシェリムも、奥のボールに目を向ける。そこから出てきたのは、茶色の大きな身体、二本の大きなキバ、目の周りは青くて……マンムーか。 相性で言えば全く良くないが、かといってここであいつに交代したとしても勝てるとは思えない。ここはシェリムで押し切るほかに方法がない。 「頼むぞ、シェリム。こうなったら早いとこぶち込んで落とすしかない。……りゅうせいぐん!」 「よりにもよって氷タイプか……ま、俺だってただでやられるつもりはないしな。ヴェレット、任せとけ!」 ニコートの指示は聞こえない。とはいえふぶきやれいとうビームが飛んでくるのは容易に想像できる。……ここで削り切れないと苦しい、か。 俺の指示を受けて、シェリムは集中を始める。向こう側に立つマンムーは、大きな口を開け、白いエネルギーをその口元に溜めている。……れいとうビーム、避けられはしないな。 天にエネルギーの塊が現れ、そしてそこからドラゴンの力を帯びた岩の塊が降り注ぐ。それと同時に、マンムーから放たれる白い光の矢。 岩の塊は次々とマンムーに直撃する。そしてマンムーのれいとうビームはシェリムの身体を凍り付かせ、その氷ががらがらと崩れていく。 本来ならば絶対に耐えられないであろう一撃を、何とかシェリムは持ちこたえてくれた。やっぱり、きあいのタスキを持たせたのは正解だったな。 「シェリム、頼む……後一撃、フェイントでとどめだ!」 このまま倒れてくれれば一番だったのだが、相手のマンムーもぎりぎりでこらえて立ち上がってきた。相手の足取りももはやふらふら、恐らくこの一撃で決着は付く。 マンムーも負けじとこおりのつぶてを作り出すが、それが放たれる前にシェリムは相手の目の前まで突撃し、急上昇して上からの一撃を加える。 茶色い巨体をなぎ倒す一撃。倒れたマンムーが立ち上がる様子も見られない。まずは一匹、といったところか。もちろんこっちももはや限界、だが。 「おい、きあいのタスキなんて手に入れてたのかよ! ずるいぞヴェレット、俺にそんなこと一言も――!」 あーだこーだ言い始めたニコートをよそに、俺は戻ってきたシェリムの様子を伺う。一度氷付けにされたのだ、氷が弱点のシェリムにとってはかなりの負担だ。 「大丈夫か、シェリム。……あとちょっと、頑張ってくれるか?」 「……ああ、もう一発、次の奴にたたき込んできてやるよ」 ぜえはあと荒い息をしながらも、そうやってシェリムはにやりと笑ってみせる。もうもたないことは恐らくシェリム自身が一番よく分かっているはず。 それでも倒れるまで戦ってくれるシェリムに感謝しつつ、俺は次に放り投げられたボールを注視する。中から出てきたのは、炎を頭に灯した白と茶色、ゴウカザルだった。 ---- あまりにもど直球なタイプの組み合わせ。いや想像通りといえば想像通りだけれども、それにしてもひねりがなさ過ぎやしないだろうか。 まあ、確かに狙いとしては悪くない。残りがイーヴだけの俺が相手なら、確実にここで決着が付くに違いない。イーヴじゃあどう頑張ってもゴウカザルには勝てないだろう。 けど、俺だってこの休みの間、ただ何もせずだらだらしてたわけじゃない。まだ育ては足りないし、経験だって浅いけれども。可能性があるなら、こいつに掛けたい。 「イーヴ、やっぱり今回はお留守番みたいだ。悪いな」 鞄の中をのぞき込んで、ボール越しにイーヴに話しかける。こくり、とうなずくイーヴのボールを端に避けて、俺はもう一つのボールを見やる。 両肩と胸に燃える炎、手や腰は黒く、その上に黄色い文様を携えたその巨体。進化して間もない、俺が新たに手に入れた三匹目。 無理です無理です、と両手をオーバーに振りながら必死で訴えかけてくる彼に、若干心配を抱きながらも。負けても勝っても良いんだから、と俺はそいつに話しかける。 「おーいヴェレットー、なにやってんだよー!」 鞄をじっと見つめて動かない俺に業を煮やしたのか、ニコートが馬鹿でかい声で叫びだした。そんなに大きな声を出さなくても聞こえるっての。 とはいえこれ以上シェリムを放置しておくのもかわいそうだし、ここはさっさと勝負を再開するとしよう。正直なところ、勝ち目は薄い気がするが。 シェリムにフェイントを指示すると、ふらふらとしながらも再び宙へと浮き上がるシェリム。そしてこちらへと走ってくるゴウカザルに向けて、勢いよく飛び込んでいく。 ゴウカザルがその拳を伸ばし始めたその時に、シェリムは大きく羽ばたき宙へと舞い上がる。そしてそのままの勢いで突っ込んでくるゴウカザルの頭上で宙返り。 回転の勢いを載せた尻尾が、ゴウカザルの背中に叩き付けられる。地面とぶつかるゴウカザルだが、砂煙を巻き上げて今度はシェリムの視界を奪う。 鈍い音。高速の拳が、疲れ果てたシェリムの身体に叩き込まれた。大きな身体がぐらりと揺らぎ、崩れ落ちるところで俺は手元のモンスターボールのスイッチを押した。 「おつかれさん、シェリム。後は俺たちに任せてくれ」 もう一つ手に持ったのは、先ほど鞄から取り出したボール。恐らく最初の一撃で全部が決まる。ここで倒せなかったら、素早さで適わないあいつには勝てないだろう。 右手でそれを空へと投げると、現れるのは炎の巨体。天へと伸びる牙とその大きな身体が見るものに威圧感を覚えさせる……のが普通なのだが。 どうも俺のエンブオーは弱気な一面があるようで、自信なさげにおどおどと出てくるのが常日頃だ。決して弱くはないはずなのに、弱く見られることもままある。 「ほら、ジェラント。もっと堂々としてろよ。大丈夫、お前ならやれるって」 「で、でもご主人、だって僕まだそんなに対戦の経験もないですしそれにあんなの相手じゃ早さでも適わないしどうせ戦ったって負けるのは目に見えてるし」 とまあ、こうも後ろ向きだと見ているこっちが心配になってくる。まあ、今回は頑張ってもらうしかないわけだから、ここはなんとしてでも戦ってもらうけどな。 またしても聞いてないだの卑怯だだの騒ぎ出したニコートをよそに、俺はジェラントに指示を出す。まずはゴウカザルの攻撃を受けきって、それからだ。 ぐっと拳に力を込め、地面をにらむジェラント。ニコートのゴウカザルを見れば、なんとジェラントと同じモーション。動き的には相手の方がやはり早いか。 叩き付けられた拳によって、地面が大きく揺れ動く。地面の波導が流れ込み、ジェラントには大きなダメージ。それでもジェラントはそれをこらえ、そのまま拳を叩き付けた。 ぐらり、と再び大きく揺れる大地。迸る波導はゴウカザルの作り出したもの以上の大きさ。その波導に吹き飛ばされるゴウカザル。いける……か? 地面に倒れこんだゴウカザル。その動向を見守る俺とジェラント、そしてニコート。時折手に力を込め、立ち上がろうとする様子が見て取れる。 もう一撃叩き込めば終わらせられる。立ち上がっていない今のうちに勝負を決めるしかない。ジェラントにもう一度じしんを、と言おうとしたところで。 突如揺らめく巨体。崩れ落ちるその身体の向こうには、しっかりと立ち上がり、胴体を違い無く拳で突き込んだゴウカザルの姿があった。 「いやーもうあのときは無我夢中でさ、とにかく先手必勝だ、って事でソニパスにマッハパンチを指示したわけだよ」 カフェでコーヒーをすすりながら先ほどの戦いをまたしても振り返るニコート。もう何度同じ話を聞いたかは分からないが、遮るとそれはそれで面倒なので黙っておく。 まあこいつがはしゃぐのも無理はない。何せようやく俺に勝ったんだから。ジェラントをもっときちんと育てていればあるいは勝てたかもしれない試合。 とはいえ負けは負け。準備不足だろうとなんだろうと、こいつが俺に勝ったのは事実なんだ。それにジェラントもよく頑張ってくれた。もっと育てればきっと活躍してくれるはず。 今回出番のなかったイーヴにも、次はまた頑張ってもらうことにしよう。今度からはきっと三対三のバトルになる。そのときはきっと戦ってもらうことになるだろう。 「おい、聞いてるのか? 俺に負けてふて腐れるのも分かるけどな」 「そんなんじゃないさ。準備不足だったとはいえ俺の負け。次のバトルまでにまた育てとくよ」 マンムーとゴウカザル、か。俺の手持ちたちでも上手くやれば勝てるとは思うけれど、特にマンムーを相手にするのはちょっと厳しいか。 かといってこれ以上仲間を増やすのもそう簡単にはいかない。鋼タイプじゃゴウカザルに負けるだろうし、炎や草はもういるし。さて、どうしたものか。 「どうせなら俺みたいにもう一匹育てたら良いんじゃねーの? ほら、お前水タイプ持ってないだろ」 「……ああ、持ってないけど」 水タイプ。マンムーにもゴウカザルにも相性の良いタイプ。普通のトレーナーなら大体一匹はもっているであろうポケモンを、俺は確かに持っていない。 持とうと考えたことは何度もあった。けれどそのたびに、あいつの顔が頭に浮かんできて、あいつの声が頭に響いてきて、どうしても踏ん切りが付かなかった。 「エンブオーにジャローダ。こうきたらやっぱりもう後一匹は決まりだよな。ダイ」 「ごめん。俺、そろそろ帰るわ。家の片付けもしたいし買い物も行かなきゃいけないし」 ニコートの言葉を遮るように、荒々しく机に手を突いて立ち上がる。驚いた様子のニコートに飲み物の代金を渡して、俺は逃げるようにカフェを後にする。 後ろでニコートがまたああだこうだと言い出したが、俺の頭には全く入ってこなかった。それ以上に俺の頭をいっぱいにする、ニコートのあの言葉。 エンブオー、ジャローダ、そしてもう一匹。イッシュ地方で、初心者トレーナーがもらうことの出来るポケモンの最終進化形。俺も最初はその一匹をもらったんだ。 イーヴとの付き合いは実はそんなに長くない。大学に入る頃に、親からタマゴをもらって孵したのが始まりだった。シェリムとはその後にリゾートデザートで出会ったんだったか。 ジェラントはこの春休みにポカブのタマゴを友達にもらって育てたわけだし、子供の頃から育てていたポケモンは今の手持ちには一匹もいない。 「あの、ご主人。顔色悪いですけど大丈夫ですか? それに、さっきの様子もなんだか……」 「いや、なんでもないよ。大丈夫」 俺の様子が気になったのか、開きっぱなしだった鞄の中からイーヴが俺を心配してくれている。イーヴもシェリムも、もちろんジェラントだって俺の昔の事は知らない。 いつかは話をすることになるだろう、とは思っていたけれど。どうしても話をする気になれなくて、どうしても思い出す気になれなくて、今もまだ黙ったままだ。 机の中には今も思い出とともにあのお守りが残っている。時折一人でそれを見つめながらじっと思いを馳せることもあったけれど、その度にどうしても悲しい気持ちが押し寄せてくる。 あのときにすっぱりと断ち切ったつもりだった。あのときから前に向いて歩いて行こうと決めたはずだった。それでもまだ、心のどこかにはあいつの影が残っている。 水タイプのポケモンを育てないのも、あいつの事を思い出すのが怖いからだ。本当なら、今もあいつと一緒にバトルしながら強さを極めていくはずだったのに。 ましてやニコートの言っていたあのポケモンは、俺には育てられる気がしなかった。どうしてもあいつと比べてしまう。どうしてもあいつの事を思い出してしまう。 悲しむのはやめようとして、心の奥底にしまい込んだあいつとの思い出。それがあのときのニコートの言葉で久しぶりにどっと噴き出してきて、胸が苦しくなってしまった。 克服したんじゃない。きっと俺はまだ、逃げているんだと思う。あいつ……オニヴィスとの思い出から。あいつが生きていた、あの日々の記憶から。 ---- -Writing now.... 大会とは何だったのか( もう七月終わりますね! ---- #pcomment(既往不咎/コメントログ) IP:126.29.216.175 TIME:"2013-07-31 (水) 22:48:50" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%97%A2%E5%BE%80%E4%B8%8D%E5%92%8E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.2; WOW64; rv:22.0) Gecko/20100101 Firefox/22.0"