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旅は道ヅレ の変更点


*&color(orange,#26267f){旅は道ヅレ}; [#x20238bd]


※特に問題は無いですが、バトルメインです(微量の流血表現アリ)。甘い恋愛ものを期待されている方、素人アレルギーという方は速やかに下からお戻り頂きます様お願い致します。

[[&ruby(よはなさけ){世華酒};>トップページ]]

作者:[[トランス]]

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 荒れ果てた大地。雑草すら生えていない大地には、ごつごつした岩が転がっているだけ。枯れ木すらもすっかり朽ち果て、辺りには本当に何も無い。

 そこで2人は出逢った。どちらも住処を持たない、己が道をゆくさすらいの旅人。その2人が出逢ったのだ。ただで道を譲ることなど無縁である2人は、距離をおいたまま互いの出方を窺い、立ち尽くすのみ。

「……痛い目に遭いたくなければ、どけ。キサマに我を倒すことは出来ん」

 向きあう内の1人、身体に古傷の目立つガブリアスが痺れを切らしたように相手に言葉を投げかけた。その姿や威厳に満ちた声色からは、明らかに強者の風貌か漂っている。

 己が道をゆく旅人は、他の旅人に己の道を歩ませることは許さない。その為、旅人同士がはち合わせた場合には、どちらかが引き返すという選択肢しかないのだ。“弱き者が強き者の旅路を通ることは出来ない。”旅人達の間にはそういった掟があるのだった。
 そんな掟に縛られる中、こうも強気にものを言うことができるのも彼が数多の弱者を薙ぎ払ってきた“強者”であるからなのだろう。
 が、それは向かい合う者も同じことだった。

「オレがライチュウだからってなめんな。その言葉そっくりそのまま返してやんよ!」

 ガブリアスの言葉を軽く一蹴りしたもう1人、ライチュウは言い終えるより先に全身から電気を放出した。強力な電撃の帯は空中で1つに集結すると、矢のように真っ直ぐにガブリアスへと向かう。
 が、ガブリアスは種族柄あらゆる電気技を無効化する事が出来る。空気を裂くような音と共に向かってきた電撃を腕の一振りでかき消すと、大きな溜息を吐き呆れ顔でライチュウを見下ろした。

「我に電気が効かんことも分らん餓鬼とは。そんな調子で思い上がるのはやめておけ」
「ヘッ、オレのチャージビームはアイサツ代わりだ。効き目がなくたって関係ねーよ!」

 見下すようなガブリアスの視線にも動じず、ライチュウはニイッと歯を見せて笑う。自信たっぷりのライチュウに、ガブリアスも興味をそそられたようで口角を吊り上げた。
 やる気になったガブリアスは、もう話すことはないとばかりに四足で駆け出したライチュウに鋭い鉤爪を突き付けた。

「いいだろう。その顔を絶望に染めてやろうではないか!」

 彼が叫んだと同時に、凄まじい勢いで大地から砂が吹き上がった。渦をまく砂嵐は、ガブリアスに向かって走るライチュウをもあっという間に飲み込んでしまう。
 くっ、と声をだしてライチュウは立ち止まった。いや、止められたという方が正しいほどに、砂嵐の勢いは相当なものだった。
 吹き飛ばされないよう四本の脚にしっかりと体重をかけてガブリアスを探す。が、すっかり砂嵐に溶け込んだガブリアスを見つけ出すことは容易ではなかった。上も左も右も後ろも、何処を見ても砂に覆われている。耳にも砂同士がぶつかり合う音以外な何も聞こえない。鼻を頼ろうにも、乾いた砂の匂いがするだけだった。
 対するガブリアスは砂に紛れ、空中からライチュウを観察していた。ああも強い物言いをする彼が、この状況でどんな行動に出るかガブリアスは気になったのである。
 しかし、ライチュウは吹きつける砂によって徐々に体力が削られることを焦ってか、二本の脚で立ち上がるとシグナルビームや気合い玉をがむしゃらに放ちはじめた。デカイことを言うからどれほどの実力かと期待していたガブリアスは、その乱雑な行動に落胆する。呆れた彼は、こんな茶番などさっさと終わらせてしまおうと、右の爪を構えると一気にライチュウに飛び掛かった。何の力も込めていない何の変哲もない攻撃だが、ライチュウにはそれで十分だと思ったらしい。死角である背後からの攻撃にライチュウは気付く様子が無い。

「うおっと!」

 が、爪が背を切り裂くすんでのところでライチュウは身を横に逸らした。短い体毛だけが切り落とされ、砂嵐の中に消える。ガブリアスは防御は兎も角まさか避けられるとは考えていなかったのか、僅かだが驚きの表情を見せた。
 身を逸らした反動を利用したライチュウはそのまま振り返ると、気合を込めた拳で思い切りガブリアスに殴りかかる。一瞬硬直したガブリアスだが、すぐに危険を察知すると素早く左の爪で拳を受け流し、地を蹴り上げまた砂嵐の中へと飛び込んだ。空を切った拳の追い風によって、まわりの砂が一気に吹き飛んだ。

 右の爪で左の爪をさすりながら、ガブリアスは怪訝な顔でライチュウを見据える。死角からの攻撃に何故気付くことが出来たのか、彼には疑問だった。しかしライチュウは先程と同じように見当違いの咆哮に攻撃をし始めただけで、変わった動きはみせてこない。
 さっきは気を抜きすぎて音を立ててしまったのだろう。やがてそう結論を出したガブリアスは今度こそはと、両の爪に龍の波導を纏わせる。波動が溢れ発光する一歩手前まで力を高めると、鋭さを増した爪を構え再度ライチュウに突撃した。素早く、しかし静かに、ライチュウの背中を狙い真上から左の爪を振り下ろす。

「その手にゃ乗らねーよッ!」

 だが、ライチュウは振り下ろされた鉤爪を尻尾の先で弾いた。鋼鉄のように硬化した尻尾と龍の力を宿した鉤爪がぶつかった拍子に、赤い火花が散る。

「ならばこれはどうかなッ!?」

 また攻撃を読まれたことに、ガブリアスは歯噛みする。が、今度はそうはいかないと、先程よりも力を込め右の爪を振るった。刃の如く鋭い爪は弧を描きながら砂を裂き、ライチュウの背へと突き進む。
 だがライチュウも負けてはいなかった。尻尾の長さを生かし、両腕を地面に着くと身体を大きく横に動かすことで尻尾を撓らせ、曲線を描くニ撃目をも弾き返した。これにはガブリアスも動揺し、僅かながら動きを止める。その隙を、ライチュウは見逃さなかった。

 下半身が左側に寄っている状態のライチュウは後脚で大地を蹴り、両腕を軸に身体を右側に振るった。例えるならば二度蹴りに近い動きだ。すると左に撓っていた尻尾が体に引っ張られ、下から右上へ鞭のように動く。ヒュッと音を立て、鋼鉄の尻尾はガブリアスの顎を捉えた。

「ぬぅっ……」

 思わぬ攻撃にガブリアスはふらつき、2、3歩後ろに下がる。また隠れられる前に勝負を着けてしまおうと考えたか、ライチュウは2本の脚で立つと振り返り気合玉を投げつけた。
 しかしガブリアスもそう簡単には倒れない。脳を揺らされながらも危険を感じ取ったガブリアスは瞬時に龍の波動を撃ち放ち、気合球を相殺。衝撃で爆風が吹き荒れ、ライチュウは思わず怯んでしまう。ガブリアスは攻めるべきか退くべきか少々悩んだが、ここは攻めるより退くべきと考え、すぐに砂嵐の中に隠れた。

 攻撃を喰らうなど全く想定していなかったガブリアスは砂嵐の向うで辺りを窺うライチュウを睨みつける。攻撃を受けただけでも大きいが、ダメージも、あれだけのことを言うだけはあると認めざるを得ないほどのものだった。砂嵐の中でも相手の気配を感じ取る洞察力の高さも、ライチュウがやり手であるからこそのもの。ガブリアスはそれを思い知らされた。
 普通に攻撃をしたところで意味が無いことを理解したガブリアスはすぐに次の行動に出る。砂嵐の中で両腕を激しく振り回すと、大地に転がる岩の一部が削れて浮き上がった。唯でさえ鋭利な岩の破片は砂に削られ更に鋭さを増し、一つひとつが&ruby(やじり){鏃};のようになっていく。ガブリアスはそれらを砂の勢いに乗せ、ライチュウに撃ち出した。最早凶器と化した岩がライチュウに飛来してゆく。
 気配にはやはり敏感に反応し岩の飛んでくる方を向くライチュウ。だが、向かってきたのが岩だとは思っていなかったらしく慌てて避ける。続けて飛んできた岩もアイアンテールで数個破壊することに成功するが、荒地故に岩は幾らでもあった為破片の数も多い。破壊し切れなかった岩はライチュウの身体を掠め裂傷をつける。
 ガブリアスは畳みかけるように岩を撃ち続ける。ライチュウの身体には細い傷が幾つも出来、血が滲む。だがライチュウは適応能力も高いらしい。砂嵐の回転の仕方や岩の弾道を徐々に把握し、全身から電気を迸らせることで全ての岩を撃ち落としてしまった。
 ならば、とガブリアスは今度は岩を撃った直後にその反対側へと周り込み龍の波動を放つ。ガブリアスの動きにも気付いたライチュウだったが、岩を撃ち落した上で電撃の効かない彼に攻撃するほどの余裕は無かった。

「うあっ!!」

 左側から龍の波動を喰らったライチュウは踏ん張りがきかず横倒しになってしまった。追い打ちをかけるように落とし切れなかった岩が降り注ぐ。背中や肩に岩が突き刺さり、ライチュウは悲鳴をあげた。

「どうした? もう終わりか? ならばさっさと失せろ」

 ガブリアスはライチュウに歩み寄りながら彼を見下し、勝利を確信した。自分の龍の波動をモロに受け、ストーンエッジまで喰らったのだ。体力も砂嵐で殺がれた状態、もうまともに戦うことは出来ない筈だと。
 しかし。ガブリアスが考えているよりも、ライチュウはずっとタフだった。

「……まだまだぁ! くらいやがれええぇぇ!!」
「なっ!? ぐあぁぁあ!!」 

 ライチュウはガブリアスが近付いてきたところを狙い、ばっと身体を起こすと両腕の拳でガブリアスの腹を殴った。大ダメージを負った状態での起死回生。強烈な威力に流石のガブリアスも思わず膝を折った。畳みかけるように、蛍光を放つ光線がライチュウの両掌から放たれガブリアスは呻き声を漏らしつつ後方へと吹き飛ばされる。ガブリアスが大地に倒れ込むると同時に砂嵐も漸く収まった。

「オメーこそ終わりか!? ならとっととかーちゃんのとこに帰りやがれ!」

 息を切らしながらもライチュウは自信たっぷりな笑顔でガブリアスを挑発した。それは思い上がっているだけの弱者の姿ではない。紛れもない、強者の姿だ。
 ライチュウの言葉を聞き、ガブリアスはゆっくりと身体を起こした。起死回生が余程効いたらしく口の端から血が垂れていたが、その目には闘志の炎が燃えていた。

 睨み合う2人。
 強者は2人もいらない。

 どちらが弱者か。決めなければならないのだ。

「それだけのクチを叩くだけのことはあるようだな。キサマが強者であることを認めてやろう。そんなキサマには敬意を評し、この技で終わらせてやる!」
「ふんっ、今からその上からの物言い出来なくしてやんよ! オレのとっておきでな!!」

 2人は互いに気合の篭った声を張り上げ、全身にありったけの力を纏わせ始める。互いが持つ本質の力が溢れ出し、その凄まじさは僅かに大地が震えるほどだ。
 充分に力を蓄えた2人はもう一度だけ互いに目を合わせる。そして、ニヤリと不適に笑った。

 直後、2人は相手に向かって駆け出した。青白く美しい龍の波動に包まれたガブリアスは途中で大きく跳ね、ライチュウに狙いを定める。
 対するライチュウは陽光に負けないくらいの光を放つ電気を纏い、電気の弾ける音を辺りに響かせながらガブリアスへと向かってゆく。

 一定の距離感で、1人は跳躍し、1人は急降下。
 
 その瞬きの間の後、互いの力が炸裂した。


 とてつもない衝撃が辺りに一面に広がり、大地は抉れ、雲は彼方へとかき消される。ゴローニャ大の巨大な岩でさえ吹き飛んでしまうほどの衝撃。其々の輝きが混じり合い直視出来ないほどの明るさが辺りを包み込んだ。弾ける電気の音も激しくなり、荒れ狂う電撃は蛇のように蠢いては大地を焦がし、砕いてゆく。

 互いの力量はほぼ互角。しかし、重力上や種族柄の定理はどうにもならない。

「ぐああぁぁああ!!」

 押し切られたライチュウは悲鳴を上げながら大地に叩き落とされた。ガブリアスは満足そうにそれを見届けると、衝突の衝撃を受け流すようにくるりと旋回し大地に降り立った。

「ふん、電気はきかないというに……懲りないヤツだ。結局はパワーバカだな。力があったところで、それを使いこなす能がなければ意味がないのだ」

 ライチュウへと近付きながらそう言い放つガブリアスだが、彼も完全に無傷という訳ではなかった。起死回生やシグナルビームのダメージは甚大であり、捨て身で放たれたボルテッカーの衝撃はしっかりとガブリアスの身体に圧し掛かっていた。
 が、それでも彼は笑った。今度こそは決着が着いたと確信した。やはり自分に勝る者はいる筈がないと、自らの力に喜びを感じたのである。

「さあ、弱者は失せるがいい。命が惜しかったらな」

 勝負の終了を告げるように、力強く言い放つガブリアス。



 しかし、勝負は最後の最後まで油断してはならない。

「……まだ」
「──!?」

 倒れたままのライチュウが突然してやったりな表情を見せたと思った次の瞬間、その身体は透き通り、跡形も残さず消えてしまった。
 驚きを隠せず、目を見開くガブリアス。その彼の背後に現れた影。

「おわっちゃいねえええぇぇぇええ!!」

 振り返ったガブリアスの目の前には、傷を負いながらも瞳に闘志を宿したライチュウの姿があった。彼の大きく引き絞られた拳を見て、考えるよりも先に防御体勢を整えようと両腕を上げる。だが。

「くっ──!?」

 びくりと身体が勝手に震え、瞬間全身を何かが駆け抜けていく感覚がガブリアスを襲う。一瞬の出来事だったが、彼の身体は硬直し動かなくなってしまった。

 状況が把握出来ないガブリアスの脳裏に、1つの答えが過ぎる。

(静電気──!!)

「おりゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 一瞬。本当に一瞬だったが、防御が遅れたガブリアスの左頬に、ライチュウ渾身の気合パンチが炸裂した。

「がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

 凄まじいその威力にガブリアスはなす術無く吹き飛び、身体を大地との摩擦で傷付け、ズタボロになったところで漸く停止した。

 予め身構えたライチュウだったが、ガブリアスはもう動く様子を見せなかった。


 この勝負、ライチュウの勝ちである。



「……身代わりとはな。餓鬼にしては考えたではないか」
「オレだって、不利な相手に無鉄砲ににぶつかり続けるほどバカじゃねーってぇの。それに、オメーがさっき近付いてきてなかったらオレは負けてただろーしな」

 ライチュウが身体に纏わりついた砂を払いながらガブリアスのところへ辿り着くと、ガブリアスはそう漏らした。そう、ライチュウはガブリアスが気付かない間に身代わりを使い、地中に隠れて反撃のチャンスを窺っていたのだ。彼の性格を考えてもそんな手を使ってくるとは思いもしなかったガブリアスはまんまと騙されてしまったということである。
 しかしライチュウにとってもその手は賭だった。ガブリアスの行動次第では身代わりを発動することも出来なかったかもしれない。また、あのタイミングで静電気の効力が発揮したこともある。ライチュウは運さえも味方につけていたのだろう。

「……弱者は去らねばな」

 僅かな沈黙の後、起き上がりながらガブリアスがそう言った。勝負に負けた者は、弱者。彼が今まで倒してきた弱者からすれば強者であることには変わりない。だが、今目の前にいるライチュウからすればガブリアスは弱者。弱者は、強者に道を明け渡さなくてはならない。

「……待ちな」

 背を向けて歩き出そうとしたガブリアスを、何を思ったのかライチュウは引き止めた。まだ何かあるのか苦い顔をしながらガブリアスは振り返る。

「道を明け渡すのと、オレの頼みを1つ聞くのと、どっちか選べ」

「なに?」

 思わぬ申し出に、ガブリアスは再び声を漏らした。
 そう、旅人の掟には“弱者が強者の要求を飲むことのみ、道を明け渡すことと同じ条件とみなす”という例外があった。しかし、元々敵対する者同士である旅人の間ではあまり使われない掟であり、要求をしてくる方が珍しい。散々自分のことを蔑んだ自分に対しいったい何を要求するつもりなのか……ガブリアスには不思議でならなかった。

「なんのつもりだ?」
「だから、弱者としてオレの前から消えるのか、オレの頼みを聞いて強者としてやっていくか選べっていってんだよ。何度も言わせるな」
「……我を奴隷にでもするつもりか?」

 この掟があまり使われない理由はもう1つある。過去にこの要求を飲むという条件を悪用し、相手に暴行を加えたり奴隷として扱う他、異性間での強姦などの被害が出たことがあった。その被害を無くすため、今では掟を悪用する旅人は旅人を取り仕切る強者達によって処刑されるという規制が出来たのだ。
 その為要求が規制に引っ掛からないかと恐れる旅人が増え、今では殆ど利用されていないのである。それを使うというならば、やはり疑うのは当然のことだ。
 しかしライチュウは、警戒するガブリアスを余所に突然高らかに笑い出した。きょとんとするガブリアスの背中をばんばん叩き出す始末だ。このライチュウ、随分とツボが浅いらしい。

「ははは……オレはそんなことしねーよ。つーか、オメーくどいからもう要求飲むってことでいーな」
「おいっ! 選べなどと言って結局無理矢理従わせているではないかッ!」

 なりふり構わず進めようとするライチュウに流石のガブリアスも抗議する。そんなことしない、と言っても、遠回しにほぼ同じ要求をしてくる悪どい連中もこの世には幾らでもいる。ガブリアスとしては慎重に選びたいのである。
 しかし、ライチュウはそんな言葉には耳を貸そうともせず、ガブリアスを脛を蹴って黙らせるとその要求を一気に口にした。

「オレのお婿さんになりやがれっ!」







 ……静寂の訪れた荒地を、冷たい風が吹き抜ける。

「……すまん、もう一度お願い出来るか? どうも耳の調子が悪」
「オレのお婿さんになりやがれっ!」

「……」

 ……ガブリアスには、どう答えていいのか検討もつかなかった。聞き違いかと&ruby(願った){疑った};が、それも&ruby(ことごと){悉};く否定され、頭が真っ白になってしまう。

「……い、いや、その……だな。我とキサマでは生理的に結ばれることは出来ぬのだぞ……?」

 何とか言葉を絞り出すことに成功したガブリアス。これで諦めてくれればいいのだが……と冷や汗を流すガブリアスだったが、現実は彼が考えている遥か上をいっていた。

「なに言ってんだよ。雌雄で結ばれんのは普通だろーが。まさか!オメーはひょっとして薔薇((BLのこと))なのか!?」
「誰が薔薇だ!! む……? ちょっと待て、雌雄が結ばれるのは普通……ということは」

 ライチュウの発言を聞き、ガブリアスはふと彼の耳に視線を向ける。よくよく見れば……彼の耳は、どちらかと聞かれれば短い。彼の発言と照らし合わせても、その答えは1つしかなかった。

「雌……だと……?」
「……なんだよ。まさかオレが雌だって気づいてなかったんじゃねーよなぁ」

 彼──否、彼女は相も変わらない強気な態度でガブリアスに詰め寄った。その口調や容姿からしても殆ど雄でしか無い筈なのだが、雌だと言われるとどうしても意識してしまう。紳士の心を大切にしているガブリアスには尚更だった。

「ま、そんなことはどーでもいーや。つーことで、これからよろしくな♪」

 たじろぎ何と答えればいいのか分からないガブリアスを無視し、話を終えようとするライチュウ。このままではまた流されてしまうと焦ったガブリアスは、歩き出そうとしたライチュウの肩に抑えて引き止めた。

「はうっ!? 何しやがるこの変態紳士!!」
「肩抑えただけではないかこのアバズレ鼠! だから勝手に決めるなといっているだろう! そもそも何故我を婿にしようなどと」
「へ? オメー強いし、顔もいいなって思った。それじゃダメなんか?」

 当たり前のように語るライチュウに、ガブリアスは面食らいっぱなしだった。婿を儲けるという意味を本当に理解しているのかと疑うほどだ。

「よく考えてみろ! 結ばれるということは生涯旅路を共にするということなのだぞ!? 相手がどのような者かも知らずしてそんなことをしてもいいのか!!」
「構わねーから言ってんだっての。そんなモン旅の間に知って仲深めてきゃーいーだろー」
「なん……だと……!?」

 ライチュウの異質な恋愛観に、ガブリアスもとうとう言葉を失ってしまった。驚愕を露にしたまま立ち尽くす彼に、ライチュウは「さっさとしろよ」とだけ言い残し何事もなく道を歩んでゆこうとする。

「わ、我は認めんぞ……正式な付き合いもすらもなしに雌を抱く気にはなれんッ!」

 苦しいながらに、ガブリアスは叫ぶ。彼としては弱者と認め、去る方が断然いい仕打ちだった。己の人生にまで手を出されるのは御免だと、必死にライチュウに反抗する。
 すると彼の必死な思いが通じたのか、ライチュウは足を止めた。それから、背を向けたまま腕組みし、悩んでいるようなポーズを取り始めた。

 暫しの沈黙が流れる。荒地を風が吹き抜けてゆき、砂埃が巻き上がる。

「……まったくしっかたねーなー。そんじゃー……」

 漸く返ってきた彼女の言葉に、ガブリアスの表情が明るくなる。彼の頭には、もう強さに関することはどうでもいいようだ。なんだ、と答えを求めるように、ライチュウの元へ歩み寄るガブリアス。

 しかし……ライチュウの答えはガブリアスには想定外のものだった。

「むぐっ──!?」

 ガブリアスには、振り返ったと思ったライチュウの顔が目の前にあった。体格上下半分はよく見えないが、それでもただ振り返ったにしては近すぎる。更には、強気な性格がそのまま反映されたかのような吊り目を閉じ、 妙にうっとりとした表情をしていた。唐突過ぎるライチュウの変わり様に、ガブリアスは混乱するばかりだ。
 それだけではない。ライチュウの異変と同時に、ガブリアスは息苦しさを感じていた。首を締められた時とも、体調を崩した時とも違う、僅かな息苦しさ。

 そして、口元に感じる違和感。
 その意味を理解するのに、そう時間は掛からなかった。

「……ぷはーっ! キスなんざ初めてだーっ! でも将来婿になる雄だから譲ってやった! 感謝しろよっ!」

「な……な……」

 楽しそうに振舞うライチュウに対し、ガブリアスはただただ呆然とすることしか出来なかった。あのながれでまさかキスをされるとは考えてもみなかったこと。しかし、段々と正常な思考が出来るようになると、腹の底からふつふつと怒りが込み上げてきた。

「ふざけるなぁあッ!! おのれぇ我の、初めてをッ! 我の初めてをキサマなどにーッ!!」
「おーオメーも初めてだったのかー。ごっそさん」
「ごっそさん、じゃないわッ!! どうしてくれる!!」

 青い顔を真っ赤にして怒るガブリアス。そのなの通り今にもライチュウに喰らいかかりそうだ。お堅そうに見えても、随分とピュアな心を持ってるようである。
 そんなガブリアスをみていたライチュウの頭に、ふと名案が舞い降りてきた。自分の頭のよさ((ライチュウが勝手に思っているだけ))に惚れ直した彼女はガブリアスに一度背を向けゲンガーのような笑みを作る。そうして持ち物の中にあった古びた紙に、木炭で何やら文字を書き綴る。

「そんなら、オレが責任とってやんよ。コイツのオレの手形の横にオメーの&ruby(サイン){爪痕};つけてくれや」

 少しした後、彼女はそう言いながら持っている紙をガブリアスに見せる。息を荒くしているガブリアスは半ば乱暴に紙を引っ手繰り、目を通し始める。

 ──何処からか、1羽のマメパトが現れた。


                   &ref(証明書.png); 

「よし! いいだろう! きっちり責任取ってもらうぞッ!」

 彼女から受け取った紙を一通り見たガブリアスは初めてを奪われたことに対する怒りで冷静さを欠いていたこともあり、書類の隅々を確認しないままにサインをしてしまった。自分に返された紙を見て、ライチュウ……基、エレクはニヤリと笑った。

「よぉし! んじゃ、さっさと行くぞ、えーっと……マハティール!!」
「おぉおッ!!
……む? いや、待てぇッ! どさくさ紛れに要求を飲んだことにするでない!」

 エレクに言われるがままについて行こうとしたガブリアス……マハティールは、そこで漸く乗せられていることに気付く。乗せられた彼も彼なのだが、幾ら言っても自分のルールで進めていこうとするエレクに怒るのも無理は無い。
 況して、自分の生き様に関わることだ。そうそう認めることなど出来る筈も無い。


 だが、彼の拒否権は、彼自身の手で既に失われているのであった。

「ははっ、何言ってんだ。ちゃーんとサインしてもらったじゃねーか。ほら」

 喰らいついてきたマハティールを嘲るように笑うと、エレクは手に持った紙をもう一度彼に見せ付けた。それに応じて再度目を通すマハティール。そんなもの関係ないではないか、と思った彼だが、紙の下の方を見てあることに気付いた。
 2人分のサインがある更に下に、小さく文字が書かれていた。

 “同時に、%%ガブリアス%%マハティールは、エレクの将来の婿となると宣言した事を証明する”

「なっ……なんだと!!」
「これ、上の連中のところに送っとくぜ。もう使いにも来てもらってんだ」

 ご丁寧に名前まで書き換えられている紙を見て驚くマハティール。そんな彼のの横を、先程から2人の上を飛び回っていたマメパトが通り過ぎていった。はっとした時にはもう既に、2人のサインが記された紙はマメパトの元へと渡っていた。

 旅人の取り仕切り役である強者達は、伝書マメパトを使い情報を伝達し合うというシステムを設けていた。その為何らかの証明になる書類などを彼らに伝達することで、その決まりに逆うことを出来なくするという制度が旅人達の間で生み出されたのであった。強者達も、双方の同意があるのならば、とこの制度の存在を認めているのである。

 旅人として生きてきた時間の長い彼がそのことを知らない筈も無い。段々と遠ざかっていくマメパトの羽ばたく音を聞きながら、マハティールはエレクに詰め寄った。

「キサマぁ、汚い真似を……!」
「ふふん、サインしたのはオメー自身だろー? それに……」

 般若のような血相で怒りを露にするマハティールに、&ruby(勝ち誇った){悪戯っぽい};笑みを見せるだけ。それには流石に爆発しそうになったマハティールだったのだが、続けて彼女が言葉を紡いだ為何とか押さえ込む。
 彼女は一度彼に背を向けると、2、3歩前へと足を進め、再度振り返った。

「……絶対破れねーようにしてやるから、心配すんな!」

 ニッと笑って見せたエレクの言葉に、思わず先程のキスのことを思い出すマハティール。何故こんなことを考えているのだとすぐに首を振って忘れるが……一瞬だが、彼女を受け入れてもいいかもしれないと感じたことには、気付いていなかった。

「ほらほら、さっさといくぞー♪」
「じょ、冗談じゃないぞ……我は断じて! キサマの婿になどなりはしないからなぁ!!」

 慣れた様子で、呆然とする彼を置いてさっさと道へと歩き出すエレク。それを追うマハティールは、ただただ叫ぶのみなのであった。











 それから数日後、ツレを連れた旅人がいるという噂が世間に広まったのであった。


おしまい

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まず、最後まで読んで下さって有難う御座いました。いやはや、あまりにも酷い出来ですね……orz
最近中々筆が捗らず、どうしたものかと悩んだ末、「息抜きに何か書こう!」とリクエストでも積み上がった作品でもない物に逃げてしまった次第です……はい。(蹴 まぁ、私は今まで基本の書き方が出来ていなかったこともあり、それを直す練習としても書きたかったものではありますが……。
私はどうもギャグものばかり書くのが苦手なようですね(汗 そういった事もあり、今回がこんな酷いバトルものになってしまったのだと思われます。
そして、短編大会投稿開始日時と被っての投稿となってしまい、お目汚し本当に申し訳ないですo⌒lrz


作品の内容につきましては……あれですよ、ただ“旅は道連れ”にかけたかっただけなのですよ。それなのに何故か妙な方向に話が進んで……結果的に世にも奇妙な駄作になってしまった訳です。設定も無理矢理すぎて笑える(汗
エレク(雌)が前半は“彼”表記になっているのは、昔は女性に対しても“彼”と言っていたという事でしたので、使っちゃえといういい加減な考えからきたものなのです……。解り難くなってしまっていたらすみません。
ああ、私には物書きが向かないということがよく解りますな……(涙

しかし、たとえ駄文であっても。書ける内は続けていきたいと考えておりますゆえ、こんな私ですがこれからも冷たい目で見ていて下さればと思います(苦笑

ではではー。

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苦情や質問、誤字脱字の報告、コメントなど何かありましたら此方にお願いします。本当に描写下手なのでアドバイスをして下さると助かります。どうか宜しくお願いします。

#pcomment(コメント/旅は道ヅレ,5,above);

IP:122.133.232.247 TIME:"2014-01-03 (金) 04:01:19" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%97%85%E3%81%AF%E9%81%93%E3%83%85%E3%83%AC" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/6.0)"

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