#include(第四回短編小説大会情報窓,notitle) ---- この作品に年齢制限はかかる要素はありません。ただし無駄なバッシングをかける内容ですので、不快に感じる方もいるかもしれません。後悔はしていません。 作者:[[オレ]] ---- 青い空に白い雲。見渡す限りの世界に染まらず、一匹のリザードンがそのど真ん中を突き進んでいる。 「イッシュにランセ……次の挨拶回りはあそこだな」 「ポケモンパラダイスですね。僕たちが不思議なダンジョンに入る日はだいぶ先になりそうですね」 年明け早々とあって少々風は冷たいが、リザードンはあまり歯牙にかけていない様子。リザードンの手にぶら下がる籠から、一匹の青いポケモンが顔を出している。横に広い顔立ちは誰がどう見ても蛙である。 「ケロマツ、お前たちだけじゃあない。イッシュに出自を持つ者たちの中にも、入ったことの無い者は大勢いるんだ」 「そういえば言ってましたね。僕たちにも機会が回ってくるかはわからないですよね」 ケロマツは見た目の通り落ち着いた様子だ。楽天家と言われたりしたこともあったが、それならそれでと気にしない様子である。恐らくそれが彼の性格なのだろう。リザードンも慣れた様子である。 「それよりも、今から行くポケモンパラダイスにいる者のことだが……」 「どうしました? なんだかさっきから気が進まなさそうですね」 むしろわからないのはこちらの方だと言いたげに、単にうめき声だけを返す。あまり上手く語れない、リザードン自身はその原因がよくわかっていないらしい。だいぶ前に向こうに発つ前に言われた悲嘆の言葉が、どのような意図なのかが未だにわからないのだ。 凍てつく無数の氷晶が美しい、宮殿のような氷山のような。その中枢と言える場所で、数匹の小さなポケモンたちがその圧倒的な存在と対峙している。 「まあ、いってみるといい。呼べばいつでも助けて進ぜよう」 「確かに、相性は圧倒的に不利だけどな……まずは自分たちでいってみる」 赤い小さな四足のポケモンは、勝ち誇った表情で緑の二匹の背中を送り出す。この場所の外観をそのまま凝縮したような、さながら氷山のごときいでたちの竜。キュレムは挑戦に名乗りを上げたキバゴとツタージャを確認する。 「敢えて相性が最悪の組で来るわけか。物好きなものだ」 「やせ我慢なんてするものじゃないと思い知ることになろう。ポカブの生きざま、ここに示さん」 しかしそれよりもキュレムを圧倒したのは、この世界に来た頃とは大きく変わってしまったポカブの態度である。居丈高な挑発はキュレムに向かったものではないというのに、一番驚いていたのは明らかにキュレムであった。 「いろんな場面で冷遇が続いてたからって、ここまで性格が歪むんだね?」 「キュレムが颯爽と『我からの褒美だ』って言って去って以来、すっかり変わっちゃったよね」 先陣を切ることを選んだキバゴとツタージャは流石に会話に参加していないが、次として控えることにしたミジュマルとピカチュウはどうしようもない呆れ顔である。結局今こうしてキュレムと戦う道に突入したわけではあるが、あの後のポカブの「見せ場を奪われた!」という絶望の様相は今なおまぶたに焼き付いて離れない。 「諦めろ……どうあがこうが、ポカブの扱いは変えられぬ」 「違う! 待遇は自分で……手に入れるものだ!」 現実逃避が進行した末期の様相で、命の消えたポカブの瞳には別の狂気が宿っている。戦いの直前に交わしたやり取りと多くの点で重なる内容だというのに、与えられる印象は正反対である。何故だろうか? 「小さな運命なら、その前足で変わることもあるだろう。しかし、大きな運命の中では……所詮は誤差。ポカブの扱いは、定められたものなのだ……」 「そんなことはない! 誤差が重なれば、大きな運命も変わる! 奇跡という名前に変わる!」 もしここでポカブに奇跡が起こるとしたら、まずは味方であるはずのキバゴとツタージャが撃破される必要がある。どこまでも利己的なそれを「奇跡」と呼ぶポカブに、キュレムはこの後に続くはずの言葉を出せなかった。 「行くぞ!」 キバゴはそんなやりとりを遮るように声を上げ、左右の手に力を込めて垂直に振り下ろす。ダブルチョップだ。ドラゴンタイプ同士だと互いが互いに弱点になるため、逆にキバゴも弱点を突くことはできる。とはいっても向こうの反撃の方が強烈であるはずで、復活の種が切れた時にどうなるのかという恐怖は拭えないが。 「覚悟しなさい!」 ツタージャはすぐに攻撃には移らなかったが、しかし挟み込むように一歩部屋の奥に入り込む。それはキバゴとの位置関係で挟み撃ちを狙わんとするポジショニングであり、それなりの作戦を感じさせる。ろくに通じない草の技と逆に弱点を突いてくる氷技……作戦は避けて通れない。 「グオォォォ……!」 対するキュレムは上体を大きく振り上げる。次の強烈な攻撃の力を蓄えているのは見ての通りであり、そうでなくても大きく身構えた巨体の迫力は筆舌に尽くせない。 「くっ! 次では倒せないよな!」 「とりあえず『けんこうだま』は使っておくね!」 キバゴは早く仕留めなければと、再び「ダブルチョップ」を振り下ろす。しかし倒れそうな様子の無いキュレムを見て、ツタージャは首から下げたバッグから青く輝く玉を取り出す。 この「けんこうだま」が放つ光は、氷技による凍結はじめあらゆる行動制限への防備をもたらしてくれる。しかし攻撃によるダメージまでは防げないので、あくまでも気休め程度のつもりらしい。 「来るか!」 「もうどうとしてくれていいよね!」 キュレムが動じることなく目線を下げたのを見て、キバゴとツタージャは歯を食いしばる。口から漏れる冷気の霧。まさに辺り一面を凍てつかせんという勢いに、二匹は身構える。 「うぐぅ……!」 「つ……!」 「なっ!」 相当な痛ようを受けた様子を隠せないキバゴとツタージャだが、しかしまだ倒れるには至っていない。奪われた体力は約四割といったところで、ここまでの戦いでは一度にこれだけということはなかった。ここまでの戦いでは。 「確かに痛烈だったけど、回復は間に合いそうだな」 「インターバルあるし、二回じゃやられる心配はないからね。とりあえずオレンは……」 もう一撃までなら喰らってもいいと回復時間を計算するキバゴの脇で、ツタージャは回復用のオレンの手持ちを確認する。凍てつく冷気を広範囲に撒き散らせる能力そのものは厄介だが、動きを阻むはずの凍結は「けんこうだま」の効果で完全に無効化されてしまっている。 「馬鹿な……」 「……ま、待て……!」 呆然とするポカブの隣で、キュレムもまた愕然とするほかなかった。時を越えて未来から響いてきたかのようなその声に、その先を見てみたいという気持ちは感じられない。遠慮なくポカブの必要性を否定する彼らへの驚愕だけであった。 キュレムはあっさりと撃破された。道中苦戦する場面も何度かあったため、彼らが特別強かったわけではないはずである。しかし相性の悪いはずの組でもそこまで苦労する相手ではなかった現実に、ポカブはまたしても絶望を一つ重ねていた。 「今度は、なかなか手ごわい……」 キュレムの後に控えた「氷触体」との戦いは、今度は本当に一騎打ちだ。先鋒として挑んだキバゴは、今度はかなりの苦戦を隠せない様子だった。体力を一気に奪うその攻撃に加え、敵の捕捉を妨害する混乱の攻撃が厄介なのだ。ダメージで「復活の種」までも消耗させられる上に、それで復活したらその前の「けんこうだま」の効力は切れてしまう。攻撃対象を捕捉できない状態ではいくら攻撃できてもろくに命中せず、それを防ぐ時間が無いというじり貧の状態。 「これは、僕も流石に……」 攻撃が当たらなければどうしようもない。キバゴは何とか思考だけでも動かして、反撃の手段を探りはじめる。後ろで難しそうな顔をするポカブに対し、ミジュマルとツタージャとピカチュウは「誰も最初から期待していない」と呆れ顔である。 「そうだ、これだ!」 キバゴは腕を大きく振るい、鋭い爪で氷触体斬撃を見舞う。異世界にいる仲間が発見した、マグナゲートの先のダンジョンから送られてきた機械。この「秘伝マシン」によって習得できた技「居合切り」は、自身をめがけて密集してきた敵を一掃するために覚えていた。本来一騎打ちに力を発揮するものではないが、敵を捕捉できない混乱中は別である。周辺に一斉に放つため、捕捉する必要はないのだ。 「凄い! 確かにこの手があったね!」 この技は多くのポケモンが覚えられる。使用した技の熟練を共有できるシステムも追い風で、多くの仲間で共有してより高い頻度で鍛えられた。ここから離れた場所で応援してくれている主要な仲間も使い手は多く、エモンガもビリジオンもブラッキーもエーフィもそうである。ケルディオも使い手らしいのだが、まだ会ったばかりで共有はしたのことがない点を別に考えるべきだろう。 「うーん……私だったらどうするかな?」 「ピカチュウなら10万ボルトがあるよ。エモンガと一緒に共有してたしね」 他の仲間たちだけでなく、彼らの中にも使い手は多い。ツタージャやミジュマルも一緒に頑張って鍛えてきていた。ピカチュウは習得できないが、同様の性能の技を共有できる仲間がいる。Vウェーブの恩恵にあずかれる仲間もそれぞれにいるのは、それぞれ心強い。 「僕は……僕は!」 「あ……」 ただしポカブだけはそうはいかなかったが。技の「居合切り」を習得することができないだけでなく、Vウェーブの恩恵他共有できる要素は非常に少ない。ポカブは自らに科された不毛なハードモードを目の当たりにし、わなわなと体を震わせる。 それでも氷触体との戦いは苦労を強いられたが、キバゴは何とか突破してくれた。崩れゆくグレッシャーパレスからはキュレムの協力により脱出し、今はポケモンパラダイス手前の交差点にいる。 「帰って来たね」 「帰って……来ちゃったね」 パレスに突入した一行は、自分たちの無事の生還に息をつく。しかし直後のポカブの呆然自失の声に、そこはかとない罪悪感を感じてしまっている。何故であろうか? 「いいんだ、パラダイスの発展に汗を流すことにすれば……」 「まあ、とにかく前向きに気持ちを持とうね」 宙を仰いで大きく息を吐いた後は、ポカブは悟ったかのような開き直った表情を見せるばかりだった。ポカブの一言に沈黙したままでいてはい辛くなりそうだと、思わずエーフィは励ましの言葉を掛ける。だが言ったら言ったで変な引き金に触れそうであると気付き、ブラッキーは慌てて止めようとする。 「そうだ! 前向きに気持ちを持っていれば、この世はパラダイス……楽園なんだ!」 遅かった。エーフィは愕然と、疑問や突っ込みは口から出す前に誰かに訊くように反省する。ブラッキーもろくなことにならないことが予想される発言は、事前にしっかり釘をさすことを決める。 「なにがパラダイスだ? パラダイスはお前の頭の中だろう?」 そんなポカブの狂ったような絶叫の隣で、いつの間に現れたのか見たことの無い青いポケモンがあまりにも凄惨な突っ込みを繰り出していた。青いポケモンは左前足でターバンをポカブの方に差し出し、右前足でコインをはじいてトスする。 「な、なななななな! お前は誰だ! どうして『あの会社』の回し者がここにも!」 「ポカブ、発売が同じだけの偶発的な事故だ。それに知っている者もこの界隈ではあまりいないだろう? もう少し落ち着いたらどうだ?」 四つ足の指は器用さを感じさせる長さを持っており、しかしガマゲロゲとも違う。リザードンはそんなポケモンを追いかけるように現れ、目線と言葉でポカブに制止を促す。 「何を言うか! この台詞を言われたのも同じ豚野郎なんだぞ!」 「どっちかって言うと『妄信の酷い奴』でしょ? そいつは金であるように、今のあんたは被害妄想が酷過ぎよ」 そんなリザードンを見るや永遠の宿敵という思いを込めて、ポカブは精いっぱい睨みつける。横からツタージャにまで呆れ交じりに痛烈な一言を浴びせられると、ポカブはぶつぶつと呪詛のような言葉を呟き顔を背ける。病的も末期的である。 「まったく……これからの新しい仲間の挨拶廻りでこれか。確かに今のケロマツは何かが酷かったのかもしれないがな」 「機嫌が悪そうなポカブに受けるのを狙った冗句のつもりだろうけど、バックグラウンドが悪すぎだろう」 仲間の挨拶廻りというのもそうだが、久しぶりの再会でいきなりこのような態度でこられるとは思わなかった。リザードンは相も変わらず事情を知らないようだ。一方で事情をずっと見てきたため、キバゴは仕方なさそうにケロマツと呼ばれたポケモンをたしなめる。 「気に障ったのなら申し訳ありません。改めまして、僕はケロマツといいます。特にミジュマルさんは同じ水タイプなので、今後ともよろしくお願いします」 「ええ。よろしくね」 色合いからして大体察していたのだろう、ミジュマルはすぐに嬉々として挨拶を返す。ポカブは相変わらず背を向けたままなのは気になるが、ミジュマルは相手が謝ったのを見て必要以上に気にすることはやめにすることにした。 「で、あとはハリマロンとフォッコなんだが……もう着いたぞ? 出てこい?」 「ああ。私たちが水炎草で三すくみを言われるのと同じで、やっぱり草と炎もいるのね?」 リザードンは胸に巨大な袋を抱えており、大きさやふくらみもあと二匹の存在を暗示している。リザードンはその袋の口を開けると、中にいるポケモンたちに声を掛ける。 「今度はケロマツのジョークじゃない?」 「ケロマツ、なんだか相当えげつないジョークをしでかしたみたいね?」 ミジュマルは即座に、ケロマツが謝った姿を否定する。空中で「もう着いた」と冗談を言って、寒く高い空に飛び出させでもしたのだろうか? 「はい! 草タイプのハリマロンです! よろしく!」 「あ、確かに悪いからかわれ方しそう……」 リザードンの声に颯爽と言って欲しいとばかりに飛び出した、緑のポケモン。ネズミか何かの類と思われ、色から草タイプともわかる。着地と同時に両手を広げて口を開けて、やたらテンションが高いのは分かるが。茶化し文句で迎えたツタージャに、罰が悪そうに顔をしかめる。 「そう言わないでください。あ、私は炎タイプのフォッコです。よろしくお願いします」 「へえ、今度はすごく可愛らしい子が来たね」 そんなツタージャをたしなめながら、おもむろに出てきたポケモンが挨拶をする。炎タイプを前面に出した狐は、気品をまとった可愛らしさを見せている。ピカチュウはこの「ハリマロンと比べた」気品ある可愛らしさに思わず感嘆の声を上げる。 「うん、まさに『今度は』ね?」 「あ……」 その脇でポカブの反応が無かったのに、ここまで全く気付かずにいた。振り向くまでも無い。振り向きたくもない。ポカブはえも言えぬ空気で周囲を震わせ、全ての想いを具現化させる。 「どこまで僕を絶望させれば気が済むんだ!」 「え? あの……?」 狂ったようなポカブの怒声に、その場の誰もが身じろぎした。特にリザードンとフォッコはどうしようもない様子である。 「……なんだか、あいつは今も相当苦労しているらしいな」 「時々可愛らしい顔も見せてただけに、なんだか可哀そうな気もするわね」 狂ったような声を上げて立ち去るポカブ。その後ろを呆然と見送りながら、リザードンはどうしてもわからないと首をかしげる。この挨拶廻りは、思わぬ形でポカブにその末路を告げることになった。 時は2013年1月8日のことだった。 ---- 遠慮しないでと思って突撃したところ、随分えげつない作品を書いてしまいました。新御三家が挨拶廻りをする以外は、随分と前から固まっていた設定です。しかし内容があまりにも悪意たっぷりに見えてしまい、お蔵入りにするか迷ったほどでした。無茶しやがって。 他にも書いている作品があったさなか、突然の短編大会。テーマの挨拶に上手いネタが出てこずに、今回こそ断念して読んで楽しもうと思っていました。ところがあるとき降ってわいたように「新御三家に挨拶廻りさせようか?」と思い立ち、そのままこのような形になりました。どうしてこうなった。 この内容を見れば普通に作者などわかるとは思いました。下手したら一行で見抜かれるとすら思いました。そもそも自身の別作品で使っているキャラを出して参加とかどうよとすら思っていました。とはいえそういう方は過去にもいたので、気にする必要はないと判断しました。駄目だこいつ、早く何とかしないと。 とはいえ最近ポカブは可愛いと思い始めました、純粋に。このところポケダンのおかげでミジュマルにエモンガにブラッキーにサザンドラときてついにポカブです。正直自分の中で今一つパッとしなかったポケモンたちのイメージを次々と打ち破る、チュンはどこまでも恐ろしい魔力を持っているようです。くぎゅううううう! 得票は「来たら嬉しいけど流石に来るわけないよな」と思っていただけに、一票入れてくださった方がいたことに感謝感激です。途中のケロマツの台詞の元ネタを突っ込んでくれるとかは期待しすぎでしたが、笑っていただけたようで何よりです。やめたげてよぉ! はっちゃけるのもこの辺にして、そろそろ次の作品に行こうと思います。現在書いているものは今度は全く違ったテイストになると思います。 ---- #pcomment(コメント廻り,10,below) IP:122.26.78.114 TIME:"2013-07-03 (水) 21:24:52" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/6.0)"