ポケモン小説wiki
才能なしのレベリオン~ ⅱ の変更点


&color(red){※注意 この話は前回と同じく流血の表現がなされています};




----
 無意味が広がる荒野。乾燥しきった冬の空気は地面にも広がり、土も水気を失ってひびが入ってきている。草木もここでは生い茂らず、木が生えていても肝心の葉が無くここで作物は出来ない。
 元々、夏以外は雨に恵まれず『見放された大地』として俺は見ている。何故俺がここの付近に住処を作ったのか、答えは簡単で明快な理由だ。
 誰にも知られず、俺はここにいることが出来る。それを発案した昔の俺は波導が無いことに恐れを抱いていた。皆と違うと言うことは偉い頭脳や力を持っている者なら虐げられることは無い。だが俺は劣っている。
 だから波導が無くても生きていられる死んだ大地でひっそりと暮らすことにした。では食料や水はどうしたのか、それらは全て子供の頃に出会ったクロカワの存在が全てであった。クロカワに生きる術を教えてもらい、二匹でよく実行していたから生き延びれた。
 思えばクロカワは俺が生きている理由そのものだったのかも知れない。クロカワが居てくれたからこそ俺は生き延び、今こうして痛みと共に戦っていける。
 思い返していると無意味の荒野には珍しい大きな岩があった。誰に見られることもなく放置された岩、それを見て堪えていた痛みがまた蘇る。波も無く、急に激痛が襲って進行にまでも影響が響いた。
 歩みを止めたくなる中で俺の嗅覚が何かを捉える。
 それは突然やって来た匂い、ポケモンには色んな種族があるがその中でも華やかな香りだろうか。甘ったるく鼻へべったりと染み付き、取れないくらいの匂いが染み付く。だが周りを見渡しても誰もいないし、物と言えば大きな岩が一つあるだけ。
 逆に考えれば岩だけが怪しい、俺は手で胸の毛を撫でる。必死で生きようと鼓動し続ける心臓が手に伝わる。そこに近い傷は浅かったが違った感触があった。這いずったことで砂と交じり合いざらついている。見た目を考えてしまうと背筋が突然凍り、すぐに傷口から放し、手から離した。
 青く汚れた体毛に黒く、砂と交じり合った赤い液体が毛に沿って留まっていた。カンクロウという男も厄介なことをしたものだ。手を別の場所で拭き、俺は頷く。
「まだ歩けるな、岩まであと少しだしな」
 傷口を覆うことの無くなった包帯を外し、傷口を露出させた。このまま着けていても傷口にいらぬ物が混じり、病を巻き起こす元ともなる。特にこういう場合は水で砂ごと洗い流すのが得策なのだが、水の存在すらここには無い。
 だが水の手がかりは掴めている。それは目と鼻の先で佇む岩、絶対あそこには甘い匂いとポケモンがいるはずだ。まずはそれを目的にすればいい。
 無意味から意味を見出し、俺の士気は少し高まる。期待が高まる俺に風は吹く、それは岩から追い返すような逆風。この程度では止まらぬと笑みが零れかける。 俺の体全てが生きろと訴えかけ、活力を与えてくれた。
 痛みは若干和らぎ、咽の渇きは若干潤いを取り戻して再び歩く気力を与えてくれる。また生きる気力を取り戻し、俺は再会のためへ再び一歩を踏み出した。
 一歩進めば、だいぶ二歩目が楽になり岩へと接近しているという実感を与えてくる。そう言えば、カレンは一体何をしているのだろうか。今までも帰り道にはカレンの心配をしながら帰っていた。例え仲がどれだけ悪かろうと腐っても妹だ。
 種族は違う、来た時期も俺が孤独より開放された少し後。妹だと確かな証拠は無かったが今はカレンの言うことを真実だ。
 いつもカレンは俺が帰ってきた頃は夢の中だ、そして無臭であった筈の住処には不確かな臭いが充満している。あるときは果実を砕いたような甘酸っぱい香料の匂い、また他には埃っぽく古い臭いもあった。
 一体何をしているのかも知らない、いや知る権利がないと自分で考えている。あいつはあいつなりで考えている事があるなら邪魔をすることはしたくない。
 結果的に受け身になってしまうのだろう。そして自分の殻へと閉じこもってしまい、避けたていた。どう考えても俺の我が儘だ。結果、自分の動機だけで無我夢中に動く俺がいる。
 悲観的になっても自分が歩いている音と呼吸だけは聞える。今もどんどん進んで行き、結果的に俺はこの岩を見上げている。
 何の変わりない肌色で呆然と立ち続けていた岩、しかし匂いはここから嫌というほど感じられた。元々、種族的に鼻は敏感な方であり、遠くから臭って来ても正確な場所を示す事が出来るほどだ。俺は匂いを辿り、更に周りを回ってみることにした。
「確かにここから匂っているが。しかし……」
 回って数歩の所で不自然な部分が発見できた。俺ほどの背丈でも屈まず入ることの出来る入り口が見つけられた。最近まで居たのか、居場所を分かりやすくする為に燃え盛っている火が中で仄かに照らし続けている。
 そして甘い匂いの元とされている果実が数個ばら撒かれてあった。そこにあるのは林檎やマゴと言ったここらでは手に入ることの無い果実ばかりだ。ここに居た奴は相当な金でも持っている。
 木の実を見て、我慢を知らない腹の虫は音を鳴らして求めていた。そう言えば朝から何も食わず飲まずで挙句の果てに怪我を作った俺だ。そんな俺が安心を隠し切れずに入られなかった。安心を露呈させてしまうと今まで甘んじれなかった部分が出てくる。
 当然痛みもこのうちに含まれ、俺は仕方なく岩の中へと入る。中をくり抜いて作り出された単純な住処。旅の為にわざわざこんな岩には居ない。俺は火の前に座り込む。そしておもむろに今日のことを感じるように手を見た。
 思えば長い一日が終わった。
 戦って、裏切られた。無念に終わり、自分と言う思想すらも切り裂かれて出た赤い汚れ。無能を知って、大切な友すら失った血として流れた汚れ。手を見返すだけでも今日を振り返ることが出来る。
「良いことは決して無かったな。しかし明日からだな」
 手を見るのを止めて、近くにあった林檎を取る。まるで磨き上げられたかのように赤と少し青みが残る底辺が光っていた。誰の物は知らない、食べる前に一つ頭を下げてかじる。
 体にみずみずしい甘みが乾いた口を潤わせ、果汁が手を辿って体や地面へと滴り落ちていく。数回林檎をかじると早くも芯へとたどり着き、物足りなさを覚える。少し腹に入れただけでは虫は挑発されたように空を訴えかけた。
 俺は飽き足らず、次に林檎を手にする。少ない食事にあり付き、ただ生活を保つだけの俺は味わった事の無い満足さを覚える。堅く引き締まった身を持ち、そこに甘みを持って来た林檎。そして一番匂いを放つ実、柔らかくて簡単に噛み砕けるマゴ。
 食べれるだけ今は幸せを感じる、腹は満たされないがこの状況が幸せであった。だがやることの無い俺は横になり、火に砂を撒く。火が消え去り、完全な暗闇となる。本格的に何かを考えるのは明日でも遅くない。それまでは今日のことを出来るだけ思い出さず眠りに着くことにした。


 太陽がまだ見えぬ世界、そこは死と隣合わせと呼べるような寒さが大地を冷やしている。水も無い大地では凍らせるものは存在しない。空気に湿気がなく、乾燥しきっており呼吸をするだけで白い息が天井へ昇っていく。
 俺が目覚めたのは冷え切った世界のせいだ。締め切るものが無く、空気に侵入されて体温を奪われた。鼻先は湿っているがこの湿りもいつ乾くかで問題だ。鋭利で突き刺すような寒さに俺は体を震わせていた。血は既に凝固され、痛みも消え去っている。
 しかし命の危険が次に待っていた。暖を取る手段も無く、毛を通り抜けて襲いかかる本格的な冬。冬眠という時期を設けている種族が存在しているのも頷ける。
 だが、俺たちのような種は冬でも休むことなく修行へ赴く。それでも暖を確保し、眠るのが普通なのだが灯されていた暖は恐らく、炭と化したこれだろう。自分で死を招いてしまったのだ。鋼の体を持つ種は自分で暖を取る手段が無くてもある程度は抵抗を持っているのだが、俺にあるのは体毛だけ。
 どうして鋼があるのだ、いつも疑問に思う。特にルカリオと言う種族は多くの謎を抱えている。波導もあり、近接格闘では類を見ない俺の親父でもこの鋼の部分を使いきれなかった。
 そんな疑問を考えている時、月明かりが降り注ぐ夜に住処の前に影が現れる。一応覗ける部分にいるので俺はゆっくりと歩き、入り口へ向かった。やはり誰かいる、だが見覚えるがある。
 俺を見るとため息を付き、顔を背ける分厚いフード付きコートを被ったポケモン。どうしてここにいるんだろうか、暫く試行錯誤していると呆れるように奴は住処へ入るたびにフードから手を出した。
 小さな手、その手首には長く垂れる毛だろうか分からないものある。何も唱えぬ間に手から小さな炎が生まれた。炎に照らされ、覆われたフードの中から顔が現れた。紫色の瞳を盛る赤で光らせ、白い毛を持ち、呆れた目で俺を眺めるポケモン。
「ここで何やってんのかしら?」
 ふうと手に現れた炎にそいつは息を吹き掛ける。すると炎は揺れて、空気を渡り燃えカスとなっていた木に再び炎が命を注ぐ。再び音を鳴らしながら燃え始め、凍りついた空気を溶かしていく。本人の手に炎は残っておらず、手をコートの中に入れる。そして顔を覆っているフードをおもむろに外す。

「全く兄貴ながらの馬鹿っぷりよね。本当にどうやって生きてきたのか分からないわ」

 俺へ罵倒する存在、カレンが目前に居た。
 そして思い出したかのような心配と憤りが積み上げて声になる直前、カレンの手が口を塞ぐ。実の妹がどこか分からない場所にいるなら兄が怒るのは当たり前だ。口を塞ぐ手を除けて俺は立ち上がる。
「心配していたんだぞ! お前の事を――」
「それ、私の台詞だから。兄貴こそ何してたの?」
 力押しで負けたカレン、今度は口で俺を被せてくる。思わず口が閉じて、疑問を投げかけたカレンを見た。紫の瞳は俺を突き刺すような視線を放っており、コートからは手を抜き出して開く。カレンは相当な怒りを募らせている。それは見放し続けた結果だろうか、広げた手には既に炎に負けず劣らずと光り輝く青いオーラが溢れている。余裕そうな表情で口元に笑みを零す。
「反論があるなら言ってみればいいじゃない。あと注意なんて御免だから」
 妹相手に手が出せず、歯を食いしばって俺は立ち止まる。俺の悔しさはカレンに伝わったかのように手から青いオーラが溢れていた。オーラは赤に劣らず、カレンの顔を青に照らす。そして手を俺に押し当てようと近づく。
 手が触れようとしている場所は胸、そこは傷跡だ、本気で殺す気なのかと危機を感じ取った瞬間、動こうとするが足に根が生えたように動かない。成すがままをなそうにも何も出来ない体、視界で興味を寄せ付ける青いオーラが段々近づいている。
 そしてオーラが胸に触れると蒸発したような音がくり抜かれた空間で発せられる。覚悟してたより痛みは無いが生温かい感触は胸を触れていた。カレンは首を傾げて傷口をなぞっていく。
「思った以上に深い……」
 次に逆の手で傷口へ触れる。こちらの手は痛覚が反応し、俺は声を漏しかけるが堪えた。情けない姿はもう見せたくない。
「自分自身で傷口を拡大させるなんてね。やっていることが無茶苦茶ね」
 オーラが傷口をなぞり終えると痛みは消え去っていた。傷口を見てみると血に塗れた泥はまだ毛に付着していたが、切り裂かれた傷は塞がれている。顔を上げるとカレンの表情は変化していなかった。まだ呆れた顔をしており、手をコートに仕舞っていた。
 そして一息おくと「さて」とカレンは俺の手に触れた。冷たい俺の手とは正反対で温かくじんわりと広まっていく。思えば妹とここまで近づけるのは就寝時くらいしかない。その他は妹から離れられるばかりだ。
 そんな妹が俺へ近づく理由が分からなかった。温かさによる安堵、妹は呆れから目を開き、下から俺の手を挟む。肉付きがよい小さな手に俺は我に返る。
「……兄貴、クロカワのことってどう考えてるの?」
 カレンの言葉で頭に映像が流れ込む。黒くて月の模様を持つクロカワ、共に戦いの場を過ごしていた。だが現実はまだ暗闇に覆われたままだ。どうしてあそこまで冷たくなってしまったのだろうか。
 考えた所で何かが解決することはない。問題は深まるばかりで手がかりすらない状況。そんな手探りな状況へ簡単には口に出せない。
 カレンは俺の顔を直視していた。答えを待っているのだろうか、しかしカレンは俺を待たずに息を吸い込んだ。
「私が兄貴なら疑問だと思う」
 心を読んだかの回答に不意を突かれた俺は一歩後ずさる。
「悩んでも仕方ない。けれどもやり方が見つからない。多分兄貴もそんな状況でクロカワのことを諦めきれないのかもしれないの」
 妹の口調が少し乱れて俺を見返す。紫の瞳が本物の宝石のように輝いている。言葉が出てこない俺を代弁した答えに俺は口を出せなかった。言えたとしても同じような回答だろう。しかし妹の言い方には引っ掛かる部分もある。
 まるで俺が裏切られたのを知っているような言い方、クロカワとは認識はあったが喋っているような場面には一度も無かった。これまでクロカワのことは一切触れていない、見ていたのだろうか。少しの間、カレンの瞳に見とれていると何故か掌や甲を小さな手が良く動いていた。表情には出ないのに体は正直だ。
 納得の行かない疑問に俺は空気を食らった。
「確かに合ってる。けど、一つだけ聞きたい。どうしてクロカワが離れたような言い方が出来る?」
 揺らがなかったカレンの目が揺らぐ。ハッと見開き、カレンの手の動きが止まった。
 言葉によって動かされたカレンはゆっくりと手を放す。普通なら「関係ない」と話を断ち切ってしまうが今回のカレンは違い、離れた手に疑問を持ったように動かなかった。叩きもせず、行き詰る手。
 そしてカレンは頷き、戸惑いすら感じさせず俺の手を握る。その目にあった輝きは変わらなかったが筋が通っているようにも見えた。後、いつもは遠くに居たカレンはここまでも近い距離は慣れない。どうしても俺のほうにも緊張が感染ってしまう。 
「私が知っているのは兄貴がクロカワにやられたって事だけ」
 カレンの回答は違っていた。第一、クロカワがあのような切り傷を作れるわけが無い。俺は真剣すぎるカレンを笑った。内心は俺を嫌っておらず、心配してくれる妹を愛でるように頭を撫でた。
「残念だがそれは事実じゃない。じゃあ、俺は行って来るさ」
 カレンから離れようと俺は出口へ向かおうとする。
 しかしカレンの意思も強い。挟まれた俺の手を引いてもカレンは放そうとせず、俺を食い止める。俺が知っている答えは間違っていないだが、ここまで意固地なカレンに不思議と謎が形成された。
 確かに俺はカンクロウに負けた。それはカンクロウの意思によるものでクロカワは居ない。だが、危険なら告げ口する筈なのに何故かクロカワは何も言わなかった。少なからずクロカワが糸を引いている説があるのだろうか。
 冷風と暖気がぶつかり合い、何とも言えない空気を俺を吸い込む。そして吐く息は見えなかった。体が温まる中で暑さを覚え始める。引き止めるカレン、どうしてこんなに見捨てた兄にまで気持ちをぶつけて来るか。
 いや、着眼点を間違っているのだろうか。
 どうしてこんなくり抜いた住処を所持しているのだろう。最近まで生活してたように木の実までも落ちていたし、火だって点けられていた。聞くべき事が沢山ある、まだ分からないことだらけだ。それらの真実を開放させるには、カレンと向き合わなければならない。
 考えるよりも意思が先に動いていた。意志が導く答えにより足は重く、思考さえも征服された。だから、カレンの方へ振り返ってありったけの疑問をぶつけたい。
「クロカワは向かっている場所は恐らくディナトよ」
 疑問をぶつけるより先にカレンが口を開いた。引き止める手は既に無く、再びフードに手を潜り込ませていた。顔は至って嘘すら見いだせないくらいに凛々しく、答えよりもカレンに驚く。
 しかし言った答えには聞き覚えがある。ディナトは最近出来、支配すらまだ行き割っていない。そこへ向かい何をするのか、先が知りたくてカレンを見つめると通じたのか頷き返してくれた。
「しかし、クロカワでは恐らく城門で詰められる。それで今日の夜に奴は侵入する為に味方を呼ぶ」
「……その味方は誰か分かるのか?」
 目前の敵が裏切ったクロカワなだけにあまり気分も乗らない。しかし、止める事すらしなければクロカワは何でもやるはずだ。そして私事、友である奴を止めないのは俺が腐る。その為ならどんな手を使ってでも奴を止めるのがクロカワへの答え。
 ふと耳に突風でも吹いているような荒れた音が入る。砂を撒き散らし、荒野を駆けていく風は何かを急かすように進んでいる。岩の住処にはそういった砂嵐を防いでくれるが俺は謎の鋼により砂はどうと言う事は無い。外の状況を気にしつつもカレンの話にも集中を向けなければならない。こういった時間帯が危険は降りかかるからだ。
 カレンも砂嵐に気付いたのか、表情を少し崩して外を心配そうに覗いていた。
「ええ、その傷よ」
 カレンの指は俺の胸を指す。縫い合わせたような傷跡が残る胸、確かやったのはエアームドのカンクロウだ。俺はあの時の戦いをもう一度頭で張り巡らせた。
 クロカワは回避はあっても攻撃は無かった。またカンクロウもクロカワに攻撃せずに俺との接近戦へと持ち込んだ。二匹を繋がる話は見つかったがクロカワの目的は何だ。
 クロカワがカンクロウと手を組んだとしてもディナトは強者が揃う国だ。とても制圧できるような場所ではない。それがディナトでの支配傘下に置かれない理由である。力に力を上乗せする為にいくら王であっても怯えなければならない。正に疑問が上乗せさせられている。
「しかしクロカワとカンクロウ二人で何をしようと言うんだ? 城門攻略でさえも――」

 話を遮るように不自然な音が外に響く。
 堅いものが砕け散る音、どうやらすぐ近くで落とされた音らしい。そのせいかこちらの方に砂煙が舞っている姿が見えた。カレンは俺を避けて外へ出ていく。俺もカレンについて外へ出ると災厄は目に見えぬ場所で起きる。
 嫌悪感にも似た音が後ろから地上へと鳴り響かせていた。金属を擦り合わせた音が鼓膜から拒絶を訴えかけてくる。耳を塞ぎたくなる音の後に轟音が後に続く。
 だが、すぐにも轟音は消え去り目の前にはカレンが上を見上げていた。すぐ後方、俺も後ろへ振り返ると元凶がそこに居る。
 剣のような羽を合わせて、ゆっくりと擦らせて音を作る鋼で包まれた奴。鎧のような体にも関わらず、とんでもない速さで陸地を駆け巡り、俺の胸を裂いて戦いを知らぬと吐いたポケモン。羽が先端まで鳴り終えると、急に翼を広げた。
 風を制する男、カンクロウがこの場に現れてしまったのだ。
「良き着眼点よ、何時ぞやの小僧! 私に切り裂かれても生きているとはな」
 カンクロウは出会い頭に気分が良さげに叫ぶ。その声は荒野一体を響き渡らせるほど大きな声量が鼓膜を震わせた。同時に体にも力が入り、心拍が高鳴り体には無性な熱さで火照り始める。一度目の戦いで圧倒的な差を見せ付けられる形で終えた戦いだが、今回も勝てる確率は低い。
 綺麗に切り裂かれた住処の上で笑うカンクロウ、火照りとプレッシャーから来る緊張感で足が震え始める。一度休んで勝てるような相手ではない。しかも正攻法でカンクロウの速さに翻弄され、手中へ落とされるパターンへ連れて行かれる。
 だが、カンクロウはその場から動かない。強者の余裕だろうか、カンクロウは音を鳴らして翼を畳む。それでも油断は出来ない敵、体の力は入ったままだ。
「貴様らの話、聞かせてもらった。この私がクロカワと組んでいるか、否か……」
 カンクロウは悠長に話を始める。力の抜けない俺の傍ら、隣にいるカレンはまだコートから手を出していない。しかし、仄かにコートは黒に焼け付き始めていた。表情を変えずにコートの中で何かが始められている。
 それを知らないカンクロウは無知にも話を続けた。
「お前がまさかクロカワと組んでいるとは、余程気に行ったのか?」
「そう、奴は優秀だ。お前とは違い、戦いを知っている。才を生かす場所を与えるのは、私の仕事だ」
 カンクロウは高い場所から俺らを見下している。何もかもが圧倒している奴の慢心、カレンの表情は少しずつ無心から怒りが滲み出てきていた。そうやって蹴落とそうとするカレンのコートは燃え始めている。だが、それは余計に目立ってしまう。
 カレンから炎が立って煙までも現れ始めた。その異変に察知したカンクロウの切っ先と同じような鋭い目つきはカレンを捉える。鋭い眼光を真に受けるカレンはコートを脱ぐ。端が燃え続けるコートはカレンの肌から離れると勢いが増した炎に塗れた。そこに現れたものに俺は驚き、少し後ずさる。
 隠れていたカレンの手から燃えカスへ点火した炎が見られた。炎は火球と化し、出来上がった火球をカレンは放つ。狙いは勿論、カンクロウ。
 鋼を燃やす炎の一撃、カンクロウには耐えられないはずだ。しかしカンクロウはその場から動かず、近づきつつある火球をじっと見つめていた。そして火球はカレンの狙い通り、不動のカンクロウへと直撃する。火球はカンクロウへ直撃すると赤くて視界を聞かせなくする爆発を起こす。
 そして変色していき黒い煙が判定への時間を惑わせる、確かにカンクロウへ吸い込まれるように向かっていった。煙は時間を経つとその場に留まれず、空中へと色を褪せていき、視界を元へ戻していく。しかしそこにカンクロウの姿は無く、あったのはすさまじい火力により砕け散った住処。
 肝心の敵の影すら見えない爆心地に、俺は左右へ首を振る。それでもあったのは見渡す限りに広がる荒野。カンクロウの暗闇でも目立つ鋼の色は無い。勝ったのか負けたのか判断が取れない俺に対してカレンは次の攻撃準備を行っていた。
 目を瞑って肺から空気を追い出すように口から息を吐く。そして数秒した後、取り替えるように口と鼻から空気を吸い込む。そしてカレンは呼吸を止めて見開くように活目をすると手に先ほども見物し、味わった青いオーラを宿した。しかし今回は出力は前回より違っている。
 覆うオーラの色は鮮やかさが更に増し、カレンの両手を覆っていた。カレンに纏うのは炎でもない、あれは俺には扱うことのできない波導だ。
 波導とは言わばそのポケモンの生命力だ。そして纏う事も出来て、極限にまで戦闘力や五感を高めてくれる。特にルカリオの場合、波導は命であり過度な使用は自らを死へと導く可能性だってある。しかし波導は使用者の危険に応じることがある。
 カレンの波導はどうしてかルカリオの波導と全く同じで使いすぎれば命だって簡単に削り落としてしまう危険も持ち合わせている。だがら俺にとってはいい気がしない。
 波導を開放したカレンは眼にまでも青へ染めていた。しかし戦いにとっては強すぎる力が毒だと理解していても使用しなければならない時がある。カレンは両腕を伸ばしてもう一度眼を閉じた。
 あのカンクロウが普通に倒されるほど弱くはない、直撃を受けたカンクロウが何処にいるか。悔しいが今は妹便りということになる。足を引っ張る俺が出来るのは精一杯に前後左右に首を振ることのみだ。
 開拓されない荒野の前後左右と言っても広大で、何処から来ても対応できない。波導が無い俺はここは指を咥えてカレンの反応を見守るしかないのか。悔しくて拳を握り締めた所で解決にも至らない。ただの悪あがきだ。

「右から何かが来るわ」

 静寂に響き渡るカレンの叫び声で俺は右に首を振った。しかし、右に広がる荒野にはカレンが言っている事とは裏腹に何もやってこない。判断を間違えたのか、カレンは思い返すように左を向いた。同じように俺も左を振り向くがそこには音の無い荒野だけだ。
 波導は少しでも生命があれば過敏に反応する能力、それが間違えるはずが無い。故にカレンは間違えることは無い。青く放ち続ける波導、カレンはもう一度左右にその手をかざす。
 短い時間、置いた所でカレンは首を傾げる。
「どの方向からも奴の生体反応を感じ取れる……。まさか影分身を使っているの?」
「カレン、一番強く奴を感じる場所は探すんだ!」
 声に応じてカレンの手がその場から動かす。影分身は文字通りだが自らのエネルギーをそれぞれの分身に微量分け与えている。波導ならそれすらも見透かし、本物を探す事もできる。しかし万能さに対しての見返りは自ら、探知し続けるカレンの顔には苦しさが現れていた。手を覆っている波導は無情にもカレンの苦しむ姿に何よりも過剰に反応する。波導は更に色を鮮やかにしていき、出力を徐々に上げていた。体を青に染めていく波導には歯止めが利かない。だからカレンはまだ掌を荒野へ向けていた。
「駄目……分からない。奴の分身は全て平等に分け与えている!」
 カンクロウの芸当によりカレンの波導は弱まり、手から消えていく。カレンは膝を付き、息を切らしていた。頼る者は無くなり、再び全てが振り出しへ戻る。俺は奴が潜む荒野を見回し始める。だが、頭が恐怖を繰り返し映像化させてくる。

 また同じようにカンクロウによって俺は負けてしまう。今度は妹であるカレンを巻き込んでしまう。
 前は生きていたが、今回はカンクロウからクロカワの味方を述べている。邪魔者である俺たちは恐らく、奴の掌中でもがく事も無く殺されてしまう。
 俺の足はそんな恐怖によって洗脳され、足から手の先へ力が入らなくなってしまった。誤魔化そうにも脳裏に焼きついた敗北の絵図がそれを拒み始める。また、カンクロウに負けてしまうのだろうか。絶望を感じたその時、散々惑わし続けたカンクロウは目の前にいた。炎が直撃したはずなのに焼け跡一つ無く、鈍い鋼の体が月夜で照らされていた。
 奴はカレンの後ろで翼を閉じて寂しそうな表情で直立している。カレンは波導の副作用により削れた体力により膝を付いて気付きすらしない。
「カレン!」
 するとカレンは声に反応したが、カンクロウの翼がカレンを軽々しく飛ばす。反撃しようにも恐怖により、足は根が生えたように動けない。勝てない、カンクロウは絶対に壊す事のできない壁のようなものだ。俺が反撃を考えても支配されたように脳が足を動かそうとしない。カンクロウは飛ばされたカレンを見て、鼻で嘲笑った。
「私に攻撃したところでこの程度の攻撃では、私は落ちない。それ以前に貴様に失望される」
 カンクロウは翼を伸ばし、話を続けた。
「他人に生き方を委ね、見なければいないものから逃げてばかり。お前が持っているのは勇気などではない。自らにしか見えない蛮勇だ!」
 カンクロウの話の後に俺はカレンを見た。カレンは相当な疲れとさっきの攻撃で意識を失い、倒れている。俺の視線にカンクロウは気付いたのか、翼を瞬時に畳んでもう一度開く。あの攻撃だが近くでは音すらなく、俺を切り裂いた。風を当てられた肩には鮮血が俺を嫌うように出て行く。俺は出血元の肩を抑えて再び視線をカンクロウへ移す。
「見たくないなら見なければいい。お前が目を背けているうちに私はお前の妹を殺す」
「止め――」
 叫ぼうとした所、カンクロウの鋭い目つきが行動を制止させる。
「お前が見たくないものは私が処分するぞ。見たくなかったんだろう? 妹など居て欲しくなったんだろう。お前は一匹で怯えていろ!」
 カンクロウの叫んだあとに刃のような翼から鈍さが消えた。輝きを増し、鋼としての色を取り戻した翼がカレンに近寄る。俺が止めねば、カレンの命は無い。そこで弱者としての意思は音を立てて崩壊した。残った頭は何かを理解したように体を動かし始めた。
 ここで退けばどうなるなど最早眼中に無い。カレンを嫌い続けるかなんて俺には出来なかった。自ら妹として来たときには疑問すら感じたけれども今はどうでもいい。
 アイツは妹、俺は兄だ。それ以上に理由は浮かばなかった。
 ぎこちない足が平らな地面を踏み込んで妹に駆け寄る。踏み込んだ地面は力によって崩れ、柔らかい質感が足裏に感じた。俺も相当に速いがカンクロウの速度はそれを上回っていた。飛び上がり、翼をかざしてカレンへ突撃する。この状況、圧倒的にカンクロウが有利だ。
 俺は奴の軌道を読みつつ、カレンを庇わなければならない。対してカンクロウは軌道を変えてでもカレンを殺せばいい。それを考えてたところで俺の足は止まることはなく、カレンへ向かっている。
 再び一歩進んだ所でカンクロウは随分距離を詰めていた。恐らく後一歩でカレンは翼の錆にされてしまう。それだけは避ける、いや俺が奴の攻撃を受け止めればいい。
 妹の痛みは俺が受ける。
 俺は進めるよりもそこから妹の場所へ全体の力で跳び込む。まるで獣が襲い掛かるように手を前足にして、前へと跳ぶよう意識した。カンクロウの斬撃まで少しと言った所か、俺の手はカレンへとたどり着こうとしている。ただカンクロウの翼も少しと言う所で柔らかい体を裂こうとしていた。
 絶対強者と弱い俺の目的への強さ。

 そこからどちらが勝ったか、カンクロウの斬撃は後ろで空を裂いて誰もいない土を掠めた。
 俺の両腕には、まだ息をしているカレンがいた。俺はカレンを地面に置いて深呼吸をする。逃げても良かったはずだ、崩壊した弱者が俺に訴えかける。逃げれば俺の命はあったが妹は死に、それ以上に威厳を失う。少し前ならそれで良かった。弱者のまま後悔さえなく固唾を飲んで承諾した判断。
 だが俺はまだ負け足りないようだ。
 カンクロウと正面から戦っても勝てる確率はない。ならどうやって勝つだろうか、俺は両腕を広げてカンクロウのほうへ向く。まだ肩は痛むがまずは奴の顔を窺いたい。白い息を吐き、こちらをにらめ付けるカンクロウの姿が怖いくらいに映っていた。掠めた土は抉れており、その威力を思い知らされる。
「怯えることに飽きたか、それとも考える脳を無くしたか……どちらにしようと私は殺すことすら出来ないぞ!」
 相変わらずの咆哮で周りの空気を震わせる。震えは完全に止まり、歩くことも出来るが俺は立ち止まる。視界は良好、だだっ広い荒野と草木すら宿らない乾ききった空気。息を吸うと肺には冷たい空気で満たされた。呼応するように肩から痛みが放出されている。けれども立っていられる、どうしてだろうか。
 急に考えが良くなる俺はその答えをある関心へと結びつけた。
「お前、鋼ってなんだと思う?」
 カンクロウは翼を広げたまま感情に任せた答えを口にした。
「私にとっては生命力だ。そして攻撃と守りを兼ね備えた最強の鉱物」
「確かに合っている。鋼はこの世界で最も貴重で最高の鉱物だ。けど俺は分からなかったことがあったんだ。それは俺の鋼だ。波導を持ち合わせているのに何故鋼が存在しているんだって親父はずっと考えていたらしい」
 すると胸にある棘が激しい光を包む。カンクロウの攻撃でも傷をつける事が出来なかったこの棘。俺はその棘に手を触れる。どうやら何かありそうな雰囲気だがそれよりも先に察知したカンクロウがさせまいと飛んで来た。
 土煙を起こし、翼を閉じて可能性を消し去る為に飛んで来るが今回は俺のほうが速い。
 俺は棘を握ると脆かったのか崩れ去り、新しい細長い鋼へと変わる。ゆっくりしているとカンクロウの突撃が迫っていた。あれを鋼に食らえば、恐らく可能性の種は尽きてしまう。俺が握っている鋼はどうやらぐら付いており、引き抜けるようになっていた。
 俺は躊躇いも無く、鋼を引き抜く。そこで前に気付くとカンクロウの突撃は俺の目前に近づいている。俺は鋼を握る手の逆で対応するも力差が激しすぎて吹き飛ばされてしまう。荒野の土は思った以上に硬く、踏みつけていた時に崩れたのとは大違いなくらいだ。しかし可能性は俺の片手にある。
「これが俺の鋼に対する答えだ」
 それは一振りの剣だ。剣身は細く、長さは恐らく1メートルはありそうな位長い。色は白く、全てが鋼で出来ている。俺はすぐに胸元を見た。棘は無く、青く汚れた毛がその部分を覆っていた。その剣を見たカンクロウは不思議そうに眺めていた。
「それがお前自身か……。いよいよ面白くなってきたではないか」
 カンクロウの笑みと共に何も無かった荒野の地面が揺れ始めた。地の唸り声のような音と共に住処よりも大きな剣山がいくつも斜めに生え、俺たちを囲む。そこは月明かりが差し込み、円形のスタジアムを作り上げる。恐らく分身していたときに隠し通していた岩の塊だろう。だからカンクロウだけが大量にいたが、隠している岩自体に何も感じなかったのだろう。
「さあ、一騎打ちだ。貴様が勝てば、ディナトへ向かったクロカワのことも教えてやる!」
「勝てるかどうか分からないがやってやるよ」
 俺は剣を構える。剣は冷たく、また体を覆う空気もひんやりとしている。熱した体を冷やすには最適な温度。最初の一歩としてコイツを越える。

----
前回と同じく後書き。
早く直して読みやすい文を書きたいものです。あと急ぎ気味な話をスロー走行させたい。

お読みして、感想を頂けると嬉しいです。

#pcomment(コメント/才能なしのレベリオン~ⅱ,,above);
 

IP:114.144.186.249 TIME:"2012-09-23 (日) 04:59:49" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%89%8D%E8%83%BD%E3%81%AA%E3%81%97%E3%81%AE%E3%83%AC%E3%83%99%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%B3%EF%BD%9E%20%20%E2%85%B1" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Linux; U; Android 2.3.4; ja-jp; IS11T Build/FGK400) AppleWebKit/533.1 (KHTML, like Gecko) Version/4.0 Mobile Safari/533.1"

トップページ   編集 差分 バックアップ ファイル添付 複製 名前変更 再読み込み   新規作成 ページ一覧 ページ検索 最近更新されたページ   ヘルプ   最終更新のRSS
This site is protected by reCAPTCHA and the Google Privacy Policy and Terms of Service apply.