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情事の事情 下 の変更点


#include(第三回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle)


*情事の事情 [#ee437b64]

&color(red){♂×♂の表現と若干の残酷描写があります。};

#contents

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  作者:[[COM]]

**アタシの初恋をアンタに捧ぐ [#vb3ba28d]

 次の日、アモルはいつもよりも早めに起きて机に向かっていた。
 昨晩もなんだかんだで仕事を終わらせきれていないのだ。
 さらにいえば真っ白、手をかけてすらいない状態だ。
 横でスヤスヤと天使のような寝顔で眠っているシオンを、起こさないように頭を優しく撫でてからゆっくりとベッドを降りた。
 イツカほど激しくはなかったので体に疲労は残っていなかったが、一度の濃厚さは失礼ながらシオンの方が上だった。
 そしてそのまま大体アモルがいつも起きて活動を始める頃までには昨晩の分の仕事を終わらせる事ができた。
 丸い銀縁眼鏡を外して大きく伸びをすると
「お早うございます」
 そんな声が後ろから聞こえてきた。
「おはようシオンちゃん」
 どうやら彼女も起きたようだ。
 にっこりとほほ笑み、彼女にそう声をかけると彼女は寝ぼけ眼を擦って伸びを一つし、ベッドからぴょんと飛び降りた。
 彼も机から離れ、シオンとともに部屋を出て行った。
「お早う御座います、ご主人様」
「おはよう。いつもありがとうね」
 廊下に出ればいつものようにメイドたちは忙しなく動き回っていた。
 ちょうどこの時間帯が彼女たちにとってはピークの時間だろう。
 工場で働いている者たちも大体このぐらいの時間に一斉に起き、仕事に取り掛かるため部屋がもぬけの殻となる。
 そうなれば彼女たちとしてはとても掃除がしやすいため、メイド総動員で全ての部屋を掃除にかかる。
 そうやってみんなパタパタと走り回っているが、アモルを見つけると絶対にみんな挨拶を忘れずに行う。
 彼女たちからすれば恩師であり、雇い主。
 日の挨拶には感謝の言葉も含まれている。
「ねえアモルさん。折角だし一緒に朝食食べましょう?」
 横を歩くシオンがそう提案してきた。
 確かにここ最近は一人での食事が多かったため話し相手が欲しかったところだ。
 さらに言えば彼女は年に似合わずしっかりしている。
 十分な話し相手になるだろう。
 そうやって久し振りに食堂で団欒の一時を過ごしていた。

 一方、ルカリオの方は――

「フッ! フッ! あの野郎! 次は確実に殺す!」
 そんな物騒なことを言いながらトレーニングルームで体を鍛えていた。
 現在彼女はウェイトリフティングの真っ最中。
 持ち上げている重さは200kg。
 余裕でアモルを掴み上げたり吹き飛ばしたりできるわけだ。
 しかし、あの時は奴隷として売られていた状態。
 あまり体力が有り余っていれば(襲いかかってきたが)襲いかかることもできる。
 そのためわざと食事に制限を設け、最大限の力は出せないようにしている。
 あの時に絞め殺すことができなかった。
 およそMAXから見て30%程の力しか発揮できていなかったであろう存在が、此処に来てきちんと食事を摂り、トレーニングもこの二日間欠かさず行っていた。
 その日から見れば恐らく120%の力が出せるだろう。
 虚言ではなく間違いなくアモルを殺せる。
「フー……よし!飯だ。疲れたら体に栄養! 食ったらまた運動! あんなデカイだけのワン公ぶん投げてやる!」
 汗を拭い、機材の汗も拭き取り、そう独り言を言って彼女はトレーニングルームを後にした。
 彼女にとって基礎鍛錬と食事はとても楽しいものだ。
 鍛えれば鍛えるほど自分が強くなっていくのがよく分かる。
 そして疲れきってお腹の空いた状態なら食事はとても美味しく感じられる。
 愛用のタオルを肩にかけ、鼻歌混じりで食堂に入っていった。
「うっす! スタミナが付く料理作ってくれ!」
 食堂に入るなり彼女が放った言葉は料理長に届いたようだ。
「あいよ! いっつも美味そうに食ってくれるからこっちも作りがいがあるよ!」
 彼女と料理長のやり取りを見る限り、男性全てが嫌いというわけではないようだ。
 ならばこの状況は尚更まずい。
「あっ」
「あっ」
 殆どお互い同時に気付いてしまった。
 楽しそうに食事を摂るアモルの横にはシオン。
 そして昨日は一日中アモルと行動していた。
 さらには昨晩、彼女を見たものがいない。
 全ての条件が整い、彼女の中で何かが弾けた((種的な。キラキラバシューン!))。
「ぶ っ 殺 す ! !」
 彼女の瞳には炎が灯っているようにも見えた。
 流石にこの状況、タイプ的にはアモルの方が有利だが気迫で負けている。
「待って! お願いだから待って! 色々と誤解だから! 多分……多分、誤解だから!!」
 焦るアモルに向かって真っ直ぐに走り出した。
 まさに神速、アモルが動き出すよりも早く目と鼻の先まで迫った。
「うるせぇ!! ドタバタするんなら外でやれ!! 埃が舞うだろうが!!」
 拳がアモルの顔面に当たるすんでのところで止まった。
 一気に力が抜けるアモルを尻目に、彼女はすぐ横に座り
「腹減ったから飯食って後で殴る」
 そう言って食事が出てくるのを待っていた。
 この血気盛んな、女性かどうかも怪しいルカリオの名はエイリーン。
 生まれつき体格が良く、父親からも将来格闘家として生きていけるように指導を受けていた根っからの武闘派だった。



――――



「まただ! 脇を締めろと言っただろ! だから大振りになって見切られるのだ!」
 その日も父の厳しい指導が続いていた。
 相手は門下生、彼女はその指摘された大振りな攻撃を見事見切られ逆にカウンターを浴びていた。
 負けたくなかった。
 父にも将来は有望な選手になれると後押しされ歩み始めた格闘家への道。
 女だからと、娘だからと舐められたくない一心で必死に己を磨いていた。
 勿論、父親も彼女が娘だからという理由で贔屓しなかった。
 父は道場に居る間はただの師であり、倒したい目標であった。
 一心不乱に戦っていた。
 道場に来る者は大半がかくとうタイプ、相性は必然と悪くなる。
 そんな中で彼女が勝ち抜くためには相手よりも早く動き、相手の動きを波動の力で読む事が必須だった。
「それまで! 敗者は全員、基礎鍛錬を二倍にする」
 彼女にとって負けは悔しいものではなかった。
 確実に明日の自分を強くするためのものだから。
 道場ではそうやって日々、自分を鍛え上げ、何者にも追随できないほどの早さを手に入れようとしていた。
「お疲れ様。今日は負けたが良い動きになっていた。その調子だ」
 門下生が次々と帰っていく中、父親は彼女の頭を撫で、賛辞の言葉を送っていた。
 修行が終わればそこにあるのは優しい父の顔。
 甘えるのは恥ずかしくて、いつも顔をそらして誤魔化していた。
 家に帰れば食事までの間精神鍛錬、波動を使いこなせるようにするためだ。
 『心技一体』父から常に聞かされた武道の基礎を心に刻み、毎日欠かさずに行っていた。
 彼女はこんな日々が好きだった。
 そしてそんな自分を好いてくれる人が……。
「よう! 今日も元気そうだな!」
 次の日の修行中、そんな声を掛けてきた人がいた。
「当たり前だろ? アタシは最強の格闘家を目指してるんだからな!」
 その声に応えるように型を見せ、今日もキレのある動きを披露していた。
 その動きを見て彼は拍手をしていた。
 その相手こそ彼女の初恋の男性、ザングースのフェアトだった。
 彼とは街でばったり出会った時、フェアトの方が一目惚れし告白したのだという。
 彼女の返事は勿論イエス。
 今まで格闘家として修行に明け暮れていたため、自分の周りにいた男性は全て自分の対して向ける視線は尊敬や仲間意識だったからだ。
 自分の事を女性として見てくれた彼の事が嬉しすぎたのだ。
 特に可愛らしいこともできなかった彼女をひたすらに愛してくれた。
 技を磨くことに精一杯で女を磨く時間なんてなかった。
 だから彼女は彼の前でもひたすらにありのままの自分を晒していたが、それでも彼は可愛いと言ってくれた。
 何処の世界にバットを難なくへし折り、鉄板すらへしゃぐ女性を可愛いという人がいるだろうか。
 彼女でなくてもそんな道に生きている人なら自分を愛してくれる人に全力になる。
 それが彼女を盲目にさせた。
「そういえばアタシ、もうすぐ試合があるんだ。見に来てくれるか?」
 そう言うと彼は笑って
「俺は格闘技は分かんないぞ? でもさ、試合なら勝ったら俺と結婚でもするか?」
 そんな事を言いだした。
 唐突過ぎてびっくりした。
 顔を真っ赤にして彼女は自分の赤面を誤魔化すように空気を相手に熾烈なバトルを始めた。
「ば、ばばば馬鹿!! そ、そういうのはアタシから言い出すものであって……。何言わせるんだ!!」
 そんな様子のエイリーンを見て彼はただ笑うだけだった。
 恥じらいを持った彼女は彼でなくてもとても可愛い女性にしか見えなかった。
 そして試合当日、彼女は約束があってかなくてかいつもよりも調子が良かった。
 あっという間に対戦相手を倒してしまい、驚く程にあっさりと優勝してしまったのだ。
 この優勝を一番喜んだのは父ではなく、フェアトでもなく、自分自身だった。
「強くなったな。まさかこの私が負かされるとはな」
 大会決勝はずっと目標にしてきた父を倒すこと。
 大会優勝の最大の障壁であり、同時に彼女は全てを叶えることができた。
 弱い自分に打ち勝ち、忘れていた女の幸せも手に入れた。
 彼女にとってこれ以上の幸せはなかっただろう。
 だが、その幸せに悪魔が潜んでいれば足元から簡単に崩されてしまうのだ。
「借金……!?」
「ああ、だからお前とは結婚できない。それでも優勝おめでとう。これからも頑張れよ」
 彼から放たれた一言は信じられなかった。
 結婚すると言ってくれた人が、借金ができたせいで彼女との結婚はできないと言い出したのだ。
 愛するからこそなのだろう、だからこそ
「そんなものどうにでもなる! これからは私はプロの格闘家としてやっていけるんだ! そうやってお金を稼げば!」
 彼女は必死にそう言って宛があることを伝えた。
 彼と離れ離れになりたくなかった。
 彼女は今まで父によってプロとして活動することを控えさせられていた。
 『せめて優勝してから』それだけの実力が付き、もしもの事ができる限り起きないようにしたかった。
 父親としてやはり娘は可愛い存在だ、格闘家として生きるにしても簡単なことで死んで欲しくはない。
「いいのか? 絶対に楽な人生じゃないぞ? 俺も今の仕事をもっと頑張らなくちゃいけなくなる。多分、今までよりも会えなくなる。それでもいいのか?」
 何度も釘を刺したフェアトの言葉に彼女はただ首を縦に振るだけだった。
 その後、二人は結婚した。
 彼の言う通り、生活は貧しかったが父の援助もあり格闘家として他の追随を許さぬ快進撃を繰り広げた。
 そうやって得たお金は半分を父に返し、もう半分を借金の返済に当てていた。
 生活は一向に変わらないがそれでも彼女は幸せだった。
 『彼女は』幸せであった。
 そしてその時が訪れる。
 それなりに格闘家としても売れ、名がそれなりに知れ始めた頃、彼女は奴隷商に捕まってしまった。
 どうやって? という疑問が残りそうだが簡単だ、力ではどうしようもない状況なら彼女も成す術なくなる。
「えっ……! い、今なんて」
 状況が理解できなかった。
 家に帰ると見知らぬ男たちがいる。
 そしてそいつらが言うには
「だから! お前は奴隷として売られたんだよ! 殴るなよ? 俺だってファンなんだからもっとあんたの活躍見たかったけどさ!」
 『売られた? 誰に? そもそも何故奴隷商が家に?』
 様々な疑問が脳裏をよぎった。
 そして最後にその奴隷商は非情な現実を突きつけた。
「あんたの旦那が借金を返しきれなくなったんだよ。
それでお前を売るんだと。
正確にはお前のこの先の人生を奴隷として送らせる代わりにあいつの借金はチャラ、その全てをお前が稼いで返しきればあんたも晴れて自由の身。
最強の女格闘家、エイリーンは多分もう見られないんだろうな。
なにせ借金の返済額、多分あんたがこれから116年間、一日も欠かさず働き続けれたら返せる額だ。
まあ、要するに無理な額押し付けられて逃げられたって事だ。
全く……ヒデェ話だよ。格闘技ぐらいしか趣味のない俺の楽しみを奪うあんたの旦那はどうなってんだ?」
 聞いていなかった。
 売られたことがではない、借金が最初に話した頃よりも増えていることだ。
 そもそも彼は嘘を付いていた。
 初めからその額が有り、首が回らないどころか自分の首すらも担保になっているような状況だった。
 そこで狡猾な彼は目を付けた。
 『元世界チャンプ、将来有望な世間知らず、どう転んでもこいつらに擦り付けられる』と……。
 隙を生じぬ二段構えで彼は借金の返済計画を立てた。
 まず彼女と恋仲に落ち、うまく擦り寄って結婚する。
 その時点で彼女から父親に金をせびるようにお願いをした。
 婿ならまだしも実の娘なら金を出すだろうと。
 だが、実際は彼も既にその私財の殆どを貧しい人々に渡し、残りも道場の建設費と維持費に当てていた。
 彼女の父も根っからの正直者で善人だったのだ。
 それが仇となった。
 狡猾な者ほど爪を隠すのが巧い。
 格闘技も知らぬ、ただの貧しい人を演じきり、彼女が賞金をどれほど稼ぐのか品定めした。
 まだ結婚する前に打算しただけでも一日一度、試合で買ったとしても足りない。
 ならば、信頼させて彼女自身を変わり身に使えばいい。
 そこまでが彼の計画だった。
 大会では彼女が勝つように裏で暗躍していた。
 道具の使用が禁止されている大会であったのにも関わらず、彼は普通のハチマキの中にきあいのタスキを縫い付け、バレないように彼女に渡した。
「これはお守りのハチマキだ。絶対に優勝するんだぞ!」
 そう言って。
 律儀な彼女はよく確認もせずにそれを付け、元々耐久力のない彼女の耐久力を補わせた。
 元々彼女がしんそくを使い、早さを上げて速攻で終わらせる型だというのは盗み見た情報で知っていたからだ。
 案の定、彼女は父親にも勝ち、優勝をその手にした。
 ならば後のお膳立てはいらない。
 彼女自身を売りに出し、自分は遠い街へと夜逃げをすれば晴れて自由の身だった。
 初めから彼女の事などどうでもよかった。
 自分さえ生きていられたのであれば。
 しかし、一つだけ計算外があった。
 彼女は奴隷に身を落としても気高いプライドを保ったままだったことだ。
 女性は大体の場合、性奴隷か食事などの軽い物を運ばせる役に使われるが、彼女を買った富豪をことごとくコテンパンに叩きのめしていっていたのだ。
 そのため彼女の価値が暴落、労働力として使われだすようになる頃には二束三文になっていた。
 彼女を買い取った奴隷商たちも大損、血眼でフェアトを探しに向かい渡した金の8割を回収して来いとのことだった。
 その後、なんとか金を取り戻したが、それでも彼女の借金は少し残っていた。
 その状態で彼女はアモルに買われ、奴隷の身から解放された。
 勿論、フェアトがどうなったかは言うまでもないだろう。



――――



 先程までの会話は何処へか、三人気不味い雰囲気のまま食事を摂っていた。
「御馳走様でした。一週間だったよな? その時までにアンタをぶっ殺す」
 そう言い、手を合わせて先に席を立った。
「ちょっと待った! 君の名前は?」
 今までの経験から何かが起きる前に相手の名前を聞いておくことにした。
 下手をすれば今度は名も知らぬ相手と夜のお相手ではなく、拳のお相手しなければならなくなりそうだ。
「エイリーン……。もう捨てた名だけどな。首洗って待ってろよアモル」
 そう言い、彼女は名乗ると中指を立てて食堂から出て行った。
 意外だが、彼女は初めてアモルの名を喋った。
 そのことが少し嬉しかったのか、アモルは微笑んでいた。
「素直じゃないのね。あの人」
 横で見ていたシオンはボソッとそう呟いたがそれは誰にも聞こえていなかったようだ。
 そして彼らも食事を終え、そのまま食堂で別れることにした。
 彼女は『もっと少女らしいことができるように今から勉強してくる』と言い、そのまま書斎へ向かったようだ。
 本の知識でどうにかなるとは思えないが、アモルは彼女なりの努力を止めたくなかったためそのまま送り出した。
 一人になればとりあえず向かわなければならない場所がある。
 アモルは深く息を吸い込み、そしてゆっくりと吐き出した後、重い足取りでトレーニングルームへと向かっていった。
 このトレーニングルームだが、これはアモルが必要で作ったものではない。
 以前に救った奴隷の内の一人が体を鍛えるスペースが欲しいと言いだした((料理長))ので作ったものだ。
 すると、彼以外にも使いたいと思っていた者が多かったのか色々と器材の追加をお願いして、いつの間にかそこらのジムと遜色ないほどに充実したトレーニングルームとなっていた。
 なんだかんだお金を返したがっているが、理由はこれだけではない。
 書斎にシオンが向かったが、書斎もそこらの図書館に引けを取らないほどの蔵書量になっている。
 その他の娯楽や教養施設、大量にある寝室さえもこの家に住んでいるアモルが、ここに居候として増えていく元奴隷たちのために元々あった小さな一軒家を増築していき、いつの間にか大豪邸となってしまっていたのであった。
 そのため彼が利用しているのは自分の書斎兼寝室と食堂、そして工場ぐらいだ。
 だからアモルはこのトレーニングルームを訪れたのは初めてだった。
「トレーニング中……ちょっとだけ失礼してもいいかな?」
 彼は別に襲われたことを恐れてもいないし後悔もしていない。
 それが彼らが今まで受けていた恐怖であり憎悪だからだ。
 そういった負の感情は必ず捌け口が必要なものだ。
 力で抑え込めばそれは必ず心に深い傷を残し、それは二度と治らない傷となる。
 どんな形であれ、それは必ずいつか暴走してしまう。
 だから自分が捌け口になりたかった。
 強い存在に抵抗するのには強い心が必要だ。
 だが、彼らの一番の弱さは踏みにじられた心にある。
 だからこそ決して強くもならず、高圧的な態度をとったりもしないようにしてきた。
 それはこれからも変わらないだろう、自分の信念のためにも……。
「なんだ? 自分から殴られに来たのか?」
 彼女は彼の方に目を向けずに不満そうな声でそう言った。
 口ではそう言っているが先程までの荒々しさはなかった。
「『孤高の女格闘家、エイリーン』……だったっけ? 流星の如く現れて、突如その消息を絶った。奴隷になっていたのは知らなかったよ……。とりあえずごめんね」
 アモルはそう語り出すと彼女は初めて彼の方に怒り以外の目を向けた。
「まさか格闘技に興味があったとわね。じゃあなんだい? アタシに対する憐れみかい?」
 先程からどうしても言動と表情が合わない。
 恐らく彼女も探りを入れているのだろう。
「僕は格闘技には興味ないんだけどね。
昔居た人が偶々テレビを見ている時に変えたチャンネルに映っていたんだ。
筋骨隆々の男たちを薙ぎ倒す、可憐な女性がかっこいいって。
だからいつの間にか僕まで応援していたんだ。
そこに僕は決して憐れみの感情は持っていないよ。
だって、名前は知ってたけど姿とかはしっかり覚えてなかったからね。」
 アモルはそう、自分の思いをそのまま言った。
 するとエイリーンはフッと笑い
「だったら余計な事はしなくていいよ。
アタシは結局、この一週間が終わったらまた奴隷に逆戻りだからね。
ま、一週間だけでも自由の身を味わわせてくれてありがとう」
 そう言い、初めて彼にお礼を言った。
 そう、彼女はたとえここで彼に奴隷の身を解放されたとしてもまだ借金が残っている。
 借金は彼女と奴隷商たちとの約束、返済しきるまでは彼女に本当の自由は訪れない。
 だが、それは今まで誰にも話したことがない。
 これは彼女の償い、彼女の戒めだからだった。
「……ってことは、もしかすると君は借金があるのかな?」
 アモルの質問に対し彼女は答えなかった。
 しかし、それはうんと言っているのと差がない。
 そうなれば後はアモルには容易いことだ。
「なら僕がその借金を返してしまえば君は晴れて自由の身かな?」
 彼がそう言うと
「ふざけるな! 誰がお前なんかに頼るものか!!」
 怒りを露わにして反論した。
 さっきも言った通り、彼女にとっては戒めだ。
 これを他の誰かが終わらせるなど彼女にとっては言語道断だった。
「……ここじゃなんだから僕の部屋に来ておくれ」
「ふざけるなよ! この期に及んでアタシまで襲うつもり……か……?」
 そこまで言いかけて彼の表情に気が付いたのか、続きは何も言わなかった。
 そのままアモルとエイリーンはトレーニングルームを後にし、部屋へと移動した。
 彼女も気が付いたのだろう、決して彼が襲っていたわけではないということを。



――――



「ごめんね。多分、君が一番来たくなかった場所だろうけど」
 そう言い、彼女をベッドに座らせた。
 というよりも、ベッド以外に座れるものがない。
「……やっぱり襲うことが狙いなんじゃないのか?」
 ベッドに彼女を座らせた途端にアモルの顔にはいつも通りのニヤケ面が戻っていたので彼女は少し不安になっていた。
「どちらかというと襲われてるんだけどね。まあそんなことはどうでもいいや」
 彼も本音を打ち明けながら苦笑いしていた。
 だが彼も言っているように話したいことはその事ではない。
「君はもしかして、僕に迷惑をかけたくない。とか思ってないかい?」
 そう言われ、彼女はドキッとした。
 一度も口に出していなかったが、全くもってその通りだったからだ。
 自分の問題だからこそ、彼のようないい人を自分なんかの問題に巻き込みたくなかった。
 やはり彼はエスパータイプなのではないだろうか? というほどよく当たる。
 それほど人を観察してきている彼なら普通だが、一般人から見ればネイティオなどに匹敵するような予知に聞こえなくもない。
「な、ならどうだってのよ……!? アタシの人生、アタシが好きなように生きて構わないだろ!」
 勿論彼女も動揺を隠せない。
 そしてそんな彼女の言葉を聞いた彼は至極真面目な顔をした。
「君が自由ならね。自分でその道を選んだとは僕には思えない。借金だって君が作ったものではないんじゃないの?」
 さっきから痛いほど自分の考えていることや隠していることが的確に指摘されているようで怖くなった。
 アモルからすればただカマをかけただけだ。
 当たればなんとか茶を濁そうとするだろうし、逆に外れていれば自分から答えになるような事を言ってくれる。
 今回の彼女の場合、ドンピシャで当たった時の彼女の反応がとても分かり易い。
 元々人を信頼しすぎるため騙されやすいタイプなのかもしれない。
 というのも、彼女は波動の力を使えるのにも拘らず、その力を封印していた。
 嫌になったのだ。
 戦い以外でその力を使いたくなかったのに、一番信用していた人から騙されてもう何も信用できなくなっていた。
 そこで心の奥底までも分かるかもしれない波動の力など使えばどうなるだろうか。
 恐らく、生きていくのが嫌になるほど人の心の悪い部分ばかり見えてきてしまうだろう。
「アモル。今から少しアタシの質問に答えてくれるか?」
 だが、彼女はそれでも彼の事を信用したかった。
 そのために今までずっと使わずにいた波動の力を使い、アモルに質問することにした。
 『質問ってどうしたんだろ? あんまり僕が問い詰めるせいかな?』
 この通り、たとえ口に出していなくても相手の考えが分かるのだ。
 更に言えば、相手が口からどんなことを言ったとしても心の声を聞けばそれが本心で言っていることなのか建前なのかが一発で分かる。
「アタシがエイリーンだって分かった時、どう思った?」
 だからこそ彼女にとっても最後の賭けだった。
 もしも、彼が建前だけの偽善者なら彼女は恐らくもう立ち直ることができないだろう。
「う~ん。さっきも言ったけど顔は知らなかったからね。嬉し半分悲し半分かな?」
 『試合はエラトが好きで見てたし、僕はいっつもその実況とか彼女の歓声を聞いてただけだしね。でも思ってたよりも細かったなぁ』
 どうやら彼の言っていることは本当のようだ。
 だが、アモルがどんな姿のエイリーンを想像してたかが分かってしまい、少しショックを受けた。
「悪かったね。筋骨隆々の漢女じゃなくて」
 そう言われ、アモルは少しドキッとする。
 口に出していないはずの感想の返答が来れば誰しもそうなるだろう。
「アンタがアタシをここに連れてきた目的は?」
 彼女にとっては一番気になる質問をアモルに投げかけた。
「人に聞かれたくないことだってたくさんあるだろうからね。誰も入ってこない場所の方が君も話しやすいかな? って思ってね」
 『彼女だって女性だし、奴隷として生きてきたなら聞かれたくないことはあるはずだしね。このことはあまり深入りしないようにしてあげた方がいいかもね』
 先程から逆にびっくりするぐらい心で思ったことしか言っていない。
 ここまで素直に自分の感情を言えるのならとても楽だろう。
「じゃあ最後に一つ。あの狐とイーブイの少女。アンタ襲ってないだろうね?」
 最後にそう質問するとアモルは慌てだした。
 この様子を見てエイリーンは少し身の危険を感じるが
 『うぇえ!? どうしよう……彼女たちのこと考えるなら襲われたとか言わない方がいいんだろうけど。殴られたくないしなぁ。素直に襲われたって言おうかなぁ。でもなぁ女の子が襲うって……』
 心の中を見て身の危険を感じた自分に笑いすらこみ上げてきた。
 ここまで純粋な心を持った人が、奴隷として生きてきた人達を傷つけるようなことをするはずがなかったと、そう心から思った。
「いいよ。もう答えなくて。アイツらなら確かにこんな気弱な男を襲いそうだしね」
 アモルは何故か自分の置かれた処遇を理解してくれたエイリーンに対して、安堵の気持ちと感謝の気持ちが湧いていた。
 そのエイリーンだが、彼女の方は大粒の涙を零して顔を濡らしていた。
 初めて泣いた。
 物心ついた頃から母はおらず、父と二人で生きてきた。
 甘えることができなかったから、誰よりも心も体も強く生きてきた。
 泣くことは弱いことだと思って生きてきた。
 だがそれは違った。
 涙は……嬉しくても流れるのだと……。
 ほんの僅か彼女は泣いてすぐ元に戻った。
 目の前でオロオロとしているアモルがいれば泣いている自分を見せるわけには行かなかった。
 もう波動の力は使っていないため、彼の心は読めないが、それでも彼はまた自分のために心配してくれているのだろう。
「だ、大丈夫? 僕何かした?」
 『バーカ。何もしてないから嬉しくて泣いてるんだよ』そう言いたかった。
 だが、彼女はあえてニッコリと笑い
「そうだね。『女の子』を泣かせたんだから責任とってくれるよね?」
 自分の口から初めてそんなことを言った。
 案の定、アモルは慌てている。
 本当に分かりやすく、嘘でもいいからとれないと言ってしまえばいいものを彼は本気で考える。
 女性を傷つけたくないからなのだろうか、体力が持たないからなのだろうかは誰にも分からないが。
 それでもエイリーンは確信していた。
 『コイツがこんな奴だからこそ、多分他の二人もコイツのこと好きになっちゃったんだろうね』
 そう思いながら、今だにまごまごしているアモルの首根っこを掴み、押し倒すようにしてその唇を奪った。
 まだ焦っているアモルの口の中へと素早くかつ強引に舌を滑り込ませると、アモルも観念したのか舌を絡ませてくれた。
 そこからは彼の方が積極的だった。
 エイリーンの小さな舌を包むようにアモルの大きな舌が絡みつき、さらに彼女の口内にまで侵入していった。
 体格差のため少し辛かったが、彼女にとってはそれが逆に良い刺激になったのかさらに興奮していた。
 数分ほど経っただろうか、ようやく二人は口を名残惜しそうに離し、荒くも甘い吐息を漏らしていた。
 スウと伸びる透明の橋は窓から差し込む月明かりに照らされていた。
 いつものことだが、色々としている間に夜になってしまう。
 アモルも既に夜に自分の部屋に呼ぶのは何かと危険を孕んでいるような気がしてしかたがなかった。
 だが、それ以上に彼女たちの心の枷の方が心配なのだ。
 寧ろ、自分なんかでその枷から解き放たれるのなら喜ばしいことだ。
 『多分……明日は仕事を休まないといけなくなりそうだけどね……』
 そう心の中で呟きながら、もう一度、今度は唇の重なるだけのやさしいキスをした。
「なあアモル。その……そろそろ挿れてくれないか?」
 アモルの上でモジモジと目を横に逸らしながらそう言うエイリーンの姿は何処にでもいるただの可愛らしい女性になっていた。
 このシチュエーションで興奮しない者はいないだろう、アモルとてその例外にはならなかったのだから。
 彼女も方も既に濡れているようだが、流石に万全という状態ではなさそうだ。
「もう少し濡らしてからの方がいいんじゃないの?」
 アモルが気を遣ってそう聞くが、彼女は既にその気だ。
「焦らされるのも好きだけど、今は早く欲しいんだって! アタシのこと思ってるんなら分かるでしょ?」
 勿論、アモルの上に乗るエイリーンはアモルよりも一回りほど小さい。
 アモルのモノをあまり慣らしてもいない状態で挿れればそれなりには痛いだろう。
 だが恐らく彼女はそこまで承知の上で言っているようだ。
 なら、これ以上は愚問。
 アモルも彼女の体にできるだけ負担をかけないように壁に背をつけようとしたが
「そうだ!どうせならアンタ、私の上に乗ってよ! バックの方がアンタも辛くないでしょ?」
 電球でも頭の上に浮かんでそうだが、エイリーンはとんでもないことを思いついた。
 後背位、アモルのような四足歩行のポケモンで言う所の正常位だ。
 つまり一番体に負担がかからないが、彼が一番『頑張れる』体勢でもある。
「いやいやいやいや! 何考えてるの!? 体格差を考えようよ! 冗談抜きで死んじゃうよ!?」
 勿論これだけはアモルも猛反論。
 しかし、彼女は不敵な笑みを浮かべると
「それ位の方が丁度いいじゃん。 アタシに好きなだけ突っ込んでおくれ」
 と言い、いつの間にか彼女はベッドに四つん這いになっていた。
 いくら彼女が鍛えているといっても体自体の大きさが変わるわけではない。
「折角なら腕も押さえて全力でバックから突いてもらいたいね。アタシが壊れるのとかもう一切気にしなくていいから」
 彼女は勝手にどんどん自分に対する負荷が上がっていく方向に話を進めていく。
「いやいや……僕、体重何キロあると思ってるの? それに君、手にトゲ生えてるから腕なんか押さえようものなら僕が血まみれだよ……」
 アモルがそう言うとエイリーンは自分の手をまじまじと見つめ
「確かにそうだな。折るか」
「ちょっと待って!! 何その軽いノリ!? 身体の一部が欠損するのを『あー右の棒が少し長すぎたねー』みたいなノリでやらないでよ!!」
 ツッコミが追いつかないどころか彼女は本当に自分の手に生えているトゲを折ろうとしている。
 アモルの必死の制止もあってなんとか折るのは阻止できたがそこでアモルはようやく気が付く。
 『ヤバイ……この人ヤバイ人だ……僕が一番苦手なマゾっ気の子で、しかもドが付くほどのMだ……』
 奥手で優しいアモルが最も苦手とするのがこの手のMっ子。
 他人のために、優しくなることならいくらでもできるが、逆に非道になることはできない。
 相手が望んだとしても相手が確実に嫌がったり痛がるような事はしたくないのだ。
 とはいえ、彼女には既に責任を取ると言ってしまった以上、満足させるしかない。
 勿論、人体の一部をなんとか欠損させずに。
 ならば早い話が、彼女を交尾で満足させてしまえばいい。
 幸いアモルのモノはかなり大きいので、彼女も本気で突けばよがり狂うほどにはなるだろう。
 さっきも言ったように全力になるので死ななければいいが……大体こういう手の女性はなかなか死なないものだ。
「それじゃ挿れるから……一応、覚悟してよ?」
 そう言いアモルのモノの先端を宛がうと、彼女は静かに頷いた。
 アモルの方が体が大きいのでのしかかるというよりはエイリーンの上にアモルが立っているような状態だ。
 しかし、挿れるのであれば少し彼女に体重をかけなければならない。
 彼女の体を動かないように少し押さえ、先端を一気に膣内へと入れた。
「ンッ……!ア゛ァ!!」
 流石に大きすぎるモノに強引に膣内を押し広げられ、快楽とは程遠い声が聞こえるが、至って彼女は気持ちよさそうだ。
 彼女としてはこの無理矢理モノが侵入してきて内臓が押し広げられる感覚がどうしようもなく堪らないのだ。
 『犯されている』と錯覚してしまうほどのその感覚がたまらなく好きだ……が
「え!? ちょ……もしかして……」
 アモルは気が付いてしまった。
 なんだかんだ優しいアモルは流石に一番奥まで一気に突ききることはできなかった。
「そんなびっくりするほどのことじゃないだろ? 処女なんて探せば結構いるもんだぞ?」
 そのために処女膜でピタリと止まったのだった。
 こうなればさらにアモルは気まずくなる。
「流石に僕が処女を奪うのは……」
「初めては好きになった男に。そう心に決めて今まで守り通してきたけど、もうそんな機会なんてないと思ってたから……ね? 言いたいことぐらい分かるだろ?」
 口には出さなかったが、つまりはそういうことである。
 彼女の決心はとても嬉しかったが
「なら、僕は不釣り合いだよ。君がこれから出会うだろう運命の人に捧げるべきだ」
 アモルはそう言って引き抜こうとしたが
「運命ならもう訪れたよ。アンタが初めて愛した男性だよアモル」
 そう言い、横にあったアモルの前足を掴み、それを阻止した。
 本当はフェアトに捧げるはずだった。
 二人の明るい未来のために必死に戦って、何度も勝利して、借金がなくなった時、初めてしがらみがなくなった時に子供を作って静かに生きたい。
 そう願っていたが、その夢は叶う前に逃げていった。
 だからこそもう逃がしたくなかった。
 最初で最後かもしれない今のこの恋心に素直に従いたかった。
「ごめんよ。君と一緒には生きていけない……。きっと、きっともっと素敵な人が訪れるさ。だから一夜の戯れで君のその真剣な思いを汚して欲しくない」
 しかし、アモルは頑なに拒んだ。
 そして制止する彼女の手をするりと抜けるように膣からもモノを抜いた。
「なんで……なんでだよ! 他の女は抱けるのにアタシはダメなのか!? 面倒くさい女だからか!?」
「それだけは絶対に無い。君はとても魅力的だよ。でも、僕は絶対に恋人は作らない。妻もだ。だから君の信念とは反するからね。その時まで待てばいいさ」
 今にも泣きそうなエイリーンにアモルはゆっくりとあやす様に、しかし彼の偽りのない好きという感情も伝えた。
 その上で彼女を傷つけたくなかった。
「その時って……何時になるのよ……。もう二度と来ないかもしれないのに……」
 しかし、彼女も真剣だ。
 遂には彼女は泣き出してしまった。
 今まで泣いたことのない彼女が一日に二度、初めて感じた嬉しさと、初めて感じた悲しさで泣いた。
「お願い……たった一晩だけでもいい……。アタシの恋人になって。それでアタシは納得できるから!」
 泣きながら彼に懇願した。
 それほどまでに彼女にとってアモルは魅力的だった。
 それが気休めにしかならないと分かっていてもそれでよかった。
「分かったよ……。しかし、抱いて欲しいって泣かれたのは初めてだよ。これじゃまるで僕が悪人じゃないか」
 ついに根負けしたのか、アモルが苦笑いしなからそう言った。
 結局、彼は押しに弱い。
 一日、この夜限り、そして子供ができないようにするために避妊をしっかりとすること。
 この条件で彼女は一夜の恋人になれた。
 それだけでよかった。
 だからこそ悔いのない一夜にしたかったからこそ、彼女はこう言ったのかもしれない。
「恋に恋したくないからね。アモル、必ずいい人見つけたらアンタに真っ先に報告するから、だから……好きなようにして」
 そう切なげな表情で。
 彼女は恐らく、初恋の幻想に別れを告げ、アモルの気持ちも考えてあげたのだろう。
 それでも最初で最後の初恋だけはしたかった。
 といったところだろう。
 そしてまた先程と同じシチュエーションまで戻った。
「あーもー……処女膜ってめちゃくちゃ痛いんでしょ? 本当に気が引けるなぁ……」
 結局何も変わらずアモルは彼女の心配ばかりしていた。
「個人差があるらしいぞ? アタシは逆に痛い方が嬉しいかもな」
 そんな一言にアモルはまたゾッとしていたが、彼女としてはどう転んでも良さそうだ。
 一度深く深呼吸をし、彼女の体を押さえるように前足で固定し
「挿れるよ?」
 最後の確認をとった。
 エイリーンはコクンと大きく頷き、心の準備が出来ていることを伝えた。
 アモルも覚悟を決め、腰に力を入れるとギチギチッというそれ以上進んではいけないような感覚を無理やり押し広げるように半ば強引に腰を突きこんだ。
 想像を絶する痛みだったのか、彼女はシーツをこれでもかというほど握りつぶしていた。
 声すら漏らせずに、その大きすぎるモノが通過する感覚を味わっていた。
 そしてあるところを超えると急にズンッと一気に奥まで進んでいった。
 途端にモノを全体から押さえつけるような締まる感覚が襲いかかった。
 鍛えているだけあってその膣圧は凄まじいものだ。
 だが、その大きすぎるモノには絶妙な刺激であり、同時にエイリーンにもこの上ない快感を与えていた。
「つはぁ……! お、奥まで届いたみたいだよ? ど、どう?」
 既に彼女の方は苦しさと気持ちよさに同時に襲われているようで、呻きのような吐息のようなよく分からない声を出していた。
 無論、彼の方は言うまでもなくかなり気持ちのいい刺激がほぼ休みなしにやってきていた。
 恐らく、このままじゃ持たないだろう。
「ごめん! 動くよ?」
 一応、彼女の体を気遣ってそう聞いたが
「突いて! もっと奥まで突いてぇ!! ぐちゃぐちゃにしてぇ!!」
 聞くまでもなかったようだった。
 流石に優しいアモルもこんな状態なら自制など効くはずがない。
 絡みつくような膣をめくり上げるように一気に半分ほどまで引き抜き、また一番奥まで一気に突きこんだ。
 気が付けば彼女に負担をかけないようにと少し体重をかけないようにしていたが、いつの間にか全体重を彼女に預け、ただ腰を振ることだけを考えていた。
 引き抜くたびに甘い息を漏らし、突きこむたびに少し苦しそうな押し殺したような声が彼女から漏れていた。
 彼女もついに頭が真っ白になったのか、腕の力が抜け、ベッドに突っ伏す形になった。
 それは同時にお尻を突き上げるような形になり、今までよりもさらに深く、既に子宮口の中にまでその先端が入り込んでいた。
 既に彼女は気持ちよすぎて逝っていたが、それを口に出すことも叶わずただただ快楽の虜になっていた。
 アモルもまた同じで、全力で突きこむモノに絡みつく程よい圧力はいつ暴発してもおかしくないような極上の刺激を与えていた。
 ただ二人の荒い息遣いだけが聞こえ、時折聞こえる甘い声だけが二人が快楽に浸っていることを告げていた。
「ハァ……ハァ! ハァ!! グッ!!」
 結局アモルは初めて相手に確認を取らずに中で果てていた。
 大量の白濁をエイリーンの中へ吐き出したが、その全ては収まりそうになかった。
 ビュルビュル! と音を立てて彼の精液は出口を求め、狭い膣口をさらに押し広げ外へと溢れ出していた。
「んぁぁあ!? だめ! 壊れるぅぅ!!」
 ようやく喋られるだけの余裕が出来たが、今までの快感全てを通り越すような感覚を味わい、文字通り逝っていた。
 膣はヒクヒクと痙攣を起こし、さらにアモルのモノを搾り出すような妙なうねりをしだし、耐えることのできないアモルもさらに残りの精液を大きく脈を打ちながら吐き出した。
 そのまま二人は暫く動くことができなかった。
 快楽の余韻は凄まじいもので、全身に力が入らなかったのだ。
 その荒い息のまま足りない酸素を全力で吸い込んでいた。
 ある程度息が整い始めると
「ご、ごめん……エイリーン。こんなこと言うの初めてだけど。一回じゃシ足りない!」
 そう言い、待ったがかかるよりも早くそのまま二回目を始めた。
「アタシもぉ!! お願い! もっと激しく! もっと壊れるまで!」
 彼女も止める気はなかったようだ。
 寧ろそれを喜んで受け入れた。
 二度目というのにも関わらず、アモルの動きは衰えるどころか先程よりも更に激しく、早く動いていた。
 甘く荒い息遣いも部屋に響き渡るような大きさになり、既に二度目ということもありさっき放った精液が潤滑剤として働き、滑りもよく、パチュン! という大きな水音も部屋に響いていた。
「ダメ……ダメェ……壊れる! 壊れるぅ!!」
 既にエイリーンは壊れていた。
 目から口から鼻から、至る所から自制が効かなくなった体液が溢れ出ていた。
 突かれる度に小さく嗚咽のような声を出し、既に呼吸すらも苦しい状態だった。
 だが、彼女にとってはこれ以上ない最高の状態だった。
 好きな人に好きなようにされて、これ以上何も考えることのできないその状況はとても気持ちのいいものだった。
 しかし、このまま長く続けば彼女は本当に苦しくなってその内呼吸困難で死んでしまうだろう。
 だが、二度目ということもありなかなか絶頂まで辿り着けなかった。
 既に何度も逝った彼女の膣は何度も彼のモノを締め上げたが、それでもまだ刺激が足りないのか更に早さを増していった。
 そして今度はアモルが何か言葉を発するよりも早く、完全に暴発のような形で二度目を中へ放った。
 ビュルル!! ビュル! と大きな音を立て最初から最後まで彼女の膣から溢れ出した精液は、先程よりも勢いがあり、さっき汚したシーツの部分よりも少し後ろの方へと落ちていた。
 そしてようやく満足したのか、アモルは大きく崩れるように横に転がりゼェゼェと荒い息をしていた。
 が、アモルのモノは彼女の膣がまだ絡め取って離さないため入りっぱなしだ。
 そのためまだ搾り取られる感覚に合わせて少しずつ脈を打って出ていた。
 彼女もアモルが横になった時につられるようにして横に倒れていた。
 そのため先ほどの体勢のまま横を向いているだけだ。
 アモルの前足の中でエイリーンは意識が朦朧としていた。
 今の今まで約四倍はある体重をかけられたまま、全力で後ろから突かれていたのだ。
 全身の細胞という細胞が酸欠になっているような感覚で、恐ろしい脱力感を味わっていた。
 今はただ酸素を吸うという事以外考えられなかった。
 それから暫く経つと、ようやく二人共興奮が治まったのか息遣いも元に戻り、アモルのモノも解放されていた。
「えっと……その……ごめん」
 ようやく我に返ったアモルがそう謝っていた。
 一応、彼女から許可があったとはいえ、間違いなく初めてアモルは自分の意志でもっとシたいと思って、行動に移してしまったからだ。
「謝るのはおかしいだろ? アタシがぶっ壊れるまでってお願いしたんだから。で、勿論、これで終わりじゃないよな?」
 残念ながらぶっ壊れるまで、ではなく実際にぶっ壊れてなおも継続していた。
 しかし、それほど苦しい目にあったとしてもアモルとの後尾が楽しめるのは今夜が最初で最後。
 そのため存分に味わいたかった。
「う……分かったよ。でも本当に大丈夫?」
 若干身震いもしたが、自分がした約束だ。
 というよりもアモルは毎回自分がした約束が原因で酷い目にあっている気がする。
 そして、エイリーンは勿論頭を縦に振って答えた。
「そうそう! この耳元の房、これ千切れるぐらい噛んでいいよ! アタイの弱点だからめちゃくちゃ気持ちいいし」
「だから……そういうのは無しだって。まあ、気持ちいいなら揉むぐらいはしてあげるよ」
 結局、こんな調子でまだまだ二人の一夜だけの初恋は続いていくのだった。

**プリティウーマン? [#o70e1b06]

「アモルさん。僕を抱いてくれませんか!?」
 まず、なぜこうなったのかがよく分からない。
 彼女、オオタチのルミーユは何故かアモルにそう頼んでいた。
「えぇ……と、ちょ、ちょっと一旦落ち着こうか」
 これには勿論、アモルも驚いていた。

 話を一度遡ろう。
 今朝、アモルは心底後悔していた。
 『やっぱり……好きにしていいなんてもう二度と言わないようにしようかな……』
 今朝というよりは既に昼になっていたが、体中が悲鳴をあげて上体を起こすことすら叶わなくなっていた。
 昨晩、というよりも今朝の日が昇ってかなり明るくなるまでエイリーンは彼を求め続けた。
 ようやく解放された時は、二人共疲れきって自然に眠りに就いていたからだった。
 今ようやく目覚めると、横には満足そうな顔で眠るエイリーンの姿があるが、そのまま眠っているためそこらじゅう精液や愛液まみれなのだ。
 そしてひとまず彼女を起こしてシャワーでも浴びないとまずいが、そこで体の異変に気付いた。
 あまりにも激しい行為を一晩中続けていたので体が一切言う事を聞かなくなっていた。
 横にいるエイリーンを起こし、風呂場まで運んでもらうのも手だが、彼女はさらに体力を消耗しているのかまだ起きる気配すらなかった。
 このままでは何もできないため仕方なくメイドが一人でも来るのを期待しながら天井を眺めていた。
 『あ、そういえばまた昨日の仕事終わらせてないや……』
 そんなことを考えながら。
 一時間ほど経っただろうか、ようやく誰かが扉をノックする音が聞こえた。
「失礼するわよ~。うわ! 臭っ! せめてお風呂入りなさいよ!」
「やっぱり素直じゃないわね。そのルカリオ」
「すみません。失礼します」
 メイドが来たものだと思って安心していたが、実際に来たのは今回新たに奴隷の身から解放した残りの三人だった。
 嬉しいような悲しいような、というよりも横にエイリーンの寝ているこの状況は彼としてはとても恥ずかしかった。
 結局、シオンがメイドたちをすぐに呼びに行ってくれ、ルミーユがなんとかエイリーンを起こし、イツカがシーツを引っぺがしていた。
 複数人のメイドたちに担がれて、アモルは完全に介護されるような形でなんとか体を洗っていた。
「いいなーあの子たち。私もまたご主人様に抱いてもらいたいなー」
「また!? 私一度も抱いてもらったことないのに!」
 メイドたちもアモルの体を好き放題洗えたので、そんな惚気話に花を咲かせていた。
「たのむからもうやめておくれよ……僕ももう若くないんだから……」
 アモルとしてはこれ以上相手にするのは無理なため、たとえ冗談だったとしても聞きたくなかった。
 というよりも確かにそんなに若くはないが、介護が必要な程老いているわけでもないので結構恥ずかしくもあった。
 全身くまなく綺麗に洗ってもらい、毛を全て乾かして、また自室のベッドへと運ばれていったが
「なんでベッドごと総替えになってるの?」
 先程まで眠っていたはずのベッドが全く違う物になっていた。
 後々聞いた話によると、ベッドに大きな穴が開いていたそうだ。
 それは勿論アモルのせいではない。
 エイリーンの胸のトゲがベッドに刺さり、鋼と同等の硬さを持つそのトゲがバネも少し壊していたらしく、反発性が悪くなっていたそうだ。
 『そういうものを平気で折ろうとする彼女は一体何を考えているのか……』
 そんなことを一人心で呟いたが、当の本人は何事もなかったかのように元気にトレーニングルームで今日も体を鍛えているそうだ。
 そしてひとまずその新しくなったベッドに寝かせてもらったが
「ご主人様、お飲み物は必要ですか?」
「ご主人様、お食事をご用意しましょうか?」
 周りにメイド達がワラワラといるせいでどうも落ち着かない。
 勿論彼女たちの目的はアモルの介護ではなく、アモルと寝ることだ。
 アモルもそれに気付いているため、彼女達が鬱陶しくて仕方がなかった。
「とりあえずもう僕はいいから! 大体仕事だってあるんでしょ?」
 遠まわしにそう言うが、彼女たちも退かない。
 今回のチャンスを逃せば恐らく二度とないだろう。
「仕事は別に後でも大丈夫です! 120%全力でやりますので!」
 そのため彼女たちも必死だ。
 だが、これ以上体に負担をかければ彼もどうなるか分からないので彼も必死だ。
「分かったから! 僕のことを思ってくれてるなら頼むから全員出て行っておくれよ! 僕だって安静にしたいんだから!」
 数分間の口論の末、なんとか彼女達は諦めて部屋を出て行ってくれた。
 残り少ない体力をさらに消耗し、彼はみんなを追い出すとほぼ同士に意識を失った。
 疲れきった体では口論さえもできないほどに深刻なダメージを与えたようで、そのままいつものような寝息を立てていた。
「結局メイド達が原因でただ横で大人しくしてた私達まで追い出されちゃったわね」
 イツカが少し残念そうにそう言ったが
「何が大人しくよ。貴女隙あらば襲おうとしてたでしょ? もうちょっとアモルさんのこと考えてあげなさいよ」
 シオンが冷めた目でイツカを見てそう言った。
 彼女は間違いなくこの中では最年少だが、精神年齢で言えば恐らく一番高いだろう。
「なによ! あなただってアモルに抱いてもらったんでしょ? ならもうちょっと乙女チックになれないの?」
「貴女は乙女という年齢じゃないでしょ? 流石にただの夢見るオバサンはどうかと思うわよ?」
 彼女の言う通り、一番乙女チックな幻想を抱く最年長のイツカがそう言い、それに対して的確に痛いところを突く最年少であるシオンという不思議な光景になっていた。
 シオンの一言一言にいちいちキーキーなるイツカは確かに年相応の美しさはあるが、既にそういう事に反論するようなのを超えた年齢になっていることを自分で自覚しなければならないだろう。
「ひどっ! いくらなんでもオバサンはないでしょ! これでもまだ三十路過ぎよ!」
「十分じゃん」
 結局、彼女達は扉を出たところでこんな口論をしていたが、既にその頃にはアモルは夢の中へと旅立っていたので問題なかった。
 とはいえ、このままでは仲裁に入る者がいない。
「あの、二人共すみません。僕の話を聞いてもらってもいいですか?」
 そう思っていると意外なところに仲裁役がいた。
 口論の止まない二人を止めたのはルミーユだった。
 というよりも彼女達以外には他に誰もいない。
「どうしたの? そんな急にかしこまって」
 口論をやめ、イツカがそう彼女に聞いた。
「僕はルミーユって言います。お二人は?」
 するとルミーユはひとまず二人に名前を聞いた。
 互いの名前が分からなければ確かにやり取りはしにくい。
 これは今までの奴隷人生ではなかった自体だったため、イツカとシオンは紹介するのを忘れていた。
 というよりも既に紹介することすら意味がないと潜在的に思っていたため、聞かれないと答えないのだ。
 実を言うとルミーユ自身もそうだったのだが、流石に二人に聞きたいことがあったので自分から名乗ったのだった。
「イツカよ。よろしく」
「私はシオンよ。よろしくね」
 ひとまずは二人共そう言い、自己紹介を済ませた。
 二人の名前が分かった所で、ルミーユは本題に入っていった。
「その、お二方はアモルさんに抱かれてどうでした?」
 単刀直入、オブラートも何もない質問が二人に投げられた。
「どう……って言われても……ねぇ」
 これには流石にイツカもタジタジしていた。
 こんなことを急に聞かれて答えるのであればそれは只の変態だろう。
「私も……なんて言えばいいのか分からないけど……とりあえず嬉しかったかしら?」
 シオンも言葉に困っていた。
 抱かれた経験など両の指では足りないどころの数ではないが、そこには今まで何の感情もなかった。
 しかし、今回のアモルに関しては別だ。
 今までとは違い、本人が気付いているかいないかは分からないが、確かに恋心を抱いての初めての行為だ。
 そうなればシオンが言った通り、感想としては一番無難な『嬉しい』という感想にたどり着くだろう。
 まだ彼女達はそういった恋愛が絡んだような行為に関しては乏しい。
 そのため具体的な感想は言えないのだ。
「そういえば、どうしてそれが気になるの?」
 イツカがそう質問し返すとルミーユは真剣な顔をして
「僕は、女になりたいんです」
 そう言い切った。
「まあ確かにあなたもシオンと同じで可愛らしいものね。でも、焦る必要はないんじゃないの?」
 そこは流石に長く生きたイツカの方から的確なアドバイスが来た。
「今まで奴隷で少女として生きれたのなら大事にしなさいよ。私みたいになるわよ?」
 シオンの方も場数や自分の体験があるため、二の足を踏ませないようにそう言った。
 そう言うとルミーユは少し残念そうな顔をして
「そ、そういう意味じゃ……ただ、普通に気持ちいいのかな? って……」
 そう言うと、イツカがすぐに反応した
「なら尚更よ。初めてなんてたったの一度なのよ? 私は経験できなかったからもっと大事にしなさい」
 イツカとしてはそれはとても悲しい過去だ。
 だが、彼女を励ますためにはいい材料になってくれた。
「あ、成程。悪いけどそれは私たちじゃ分からないわね」
 と、シオンは何か気付いた様子でそう言った。
「え? どういうこと?」
 シオンの反応が気になったのかイツカがそう聞いたが、答えてはくれなかった。
「ルミーユにも色々とあるのよ。私達じゃ解決できないような事とか、私達に話したくないような事とか」
 その言葉にイツカの頭にはさらに? が浮かんでいくが、シオンは決して教える気がなさそうだ。
 シオンにも言いたくない過去があるのだから、彼女にもたとえバレたとしても言われたくないことがあるだろう。
 そう思ったシオンの計らいだった。
「そう……ですか……。ごめんなさい。僕の話を聞いてくれてありがとうございました」
 するとルミーユはそう言って頭を下げ、イツカたちの元から離れた。
 彼女にはもうひ一つだけ宛があったので、そちらに全てを託してイツカたちからは聞けないだろうと諦めたのだった。
 その宛とは勿論、残り一人の元奴隷仲間のエイリーンのことだった。
 彼女の居場所は既に知っていたので、トレーニングルームを目指して少し急ぎ目に移動した。
「すみません! ちょっとだけ話を聞いてもらってもいいですか?」
 トレーニングルームに着いたルミーユは開口一番にそう言った。
 勿論エイリーンはトレーニング中だ。
「どうした?」
 ルミーユの存在に気付き、一旦トレーニングを中断してルミーユの方へと歩み寄った。
「僕はルミーユっていいます。ひとまずよろしくお願いします」
「ああ。アタシはエイリーンだ。よろしくな。それで? 話ってなんだ?」
 ひとまず自己紹介をして、すぐにエイリーンが本題に戻った。
「いえ、他愛のないことなので中断してまで聞く必要はないですよ」
 エイリーンがトレーニングに打ち込んでいるのはこの数日で知っていたことなので、あまり邪魔はしたくなかったためルミーユはそう切り出した。
 エイリーンも昨日はキチンとトレーニングメニューをこなしていたわけではないのでここはお言葉に甘えてトレーニングに戻った。
 とはいえ、昨日一日のダメージはアモルだけではなくエイリーンの方にも蓄積している。
 筋肉痛などはないが、初めての痛みというのは案外長く残るもののようで、あまりお腹には力が入れられなかったのでベンチプレスの重りをいつもより軽めにしていた。
 とはいえ普通の人からすればかなり重たい60kg。
 これを軽々と持ち上げるのだから恐ろしい。
「で、聞いて欲しいことがあったんじゃないのか?」
 喋る余裕があるほどのエイリーンのトレーニングにルミーユはただボーッと眺めるだけになっていた。
 そこでエイリーンから言われて本来の用件を思い出す。
「えっと、聞いて欲しいことというより、僕がエイリーンさんに聞きたいことなんですけど……」
 そこまで言って少しルミーユは口篭った。
「別に構わないよ。なんだい?聞きたいことって」
 全くペースを落とさずにバーベルを上下させ続けながらエイリーンはそう聞いた。
 するとルミーユも決心がついたのか真剣な表情になり
「アモルさんに抱いてもらった時、どんな気持ちでした?」
 そう質問した。
 途端にガシャーン!! と大きな音を立ててペースを乱すことなく上下していたバーベルが崩れ落ちた。
 が、ギリギリの所で耐えて、なんとか台座にバーベルを置くことができた。
「ちゅ……注意その一、危険なトレーニングをしている人に気が動転するようなことを聞かない事」
「ごめんなさい! ごめんなさい!!」
 もう少しでひとりハサミギロチンになるところだったエイリーンが息を荒げながらそう言った。
 まさかこうなるとは思っていなかったためルミーユも全力で謝っていた。
「そうだねぇ……アタシは嬉しかったな。なんか渋々だったけどアモルがアタシのことを認めてくれたみたいで」
 思い出でも思い出すように遠くの方を見つめてエイリーンはそう言った。
 彼女にとっては最初で最後の一夜。
「とはいえアタシはもう振られちゃったんだけどね。アンタも抱いてもらえればチャンスがあるなんて思わない方がいいよ」
 だから自分の中では既に満足していたしそれでよかったが、彼女にとってもそう受け取れるかどうか定かではなかったのでエイリーンはそう言い、わざと先に釘を刺した。
「えっと……僕は気持ちいのかな? とか、女になったなっていう実感があったかを聞きたかったんです……」
 先程と同じく、ルミーユとしては的を得ていない返答だったので、自分の欲しい返答を先に言った。
 初めからそう質問すればいい話なのだが、彼女としては自分からそういった感想が欲しかったようだ。
「アタシはすごく気持ちよかったと思うよ。一生の思い出になるぐらいには。ただ……女になったって実感はないね」
 そう言うとルミーユはとても残念そうな表情をしていた。
 どうやら、彼女はなんとしても大人の女になりたいのだろう。
 そのために事をしたことが既に分かっている彼女たちに聞いて回ったのだろう。
「そう……ですか……」
「ただね」
 落ち込んでいるルミーユを見かねたのか、エイリーンが続けて口を開いた。
「アタシもアモルに言われて思ったけど、いつまでもそういった幻想を抱いてちゃいけないんじゃないのかな? って思ったね。
結局、抱いてもらったから、情事を経験したことがあるから大人になったってわけじゃないんだなって思った。
アタシもそろそろ技だけじゃなくて女を磨かないと婚期逃しちゃいそうだしね。
……って、体鍛えてる女が言っても説得力ないか! 悪いな」
 自分の思うことをそのまま口に出す。
 エイリーンの悪いところであり、一番良いところだ。
 彼女は良くも悪くも素直で、自分にも他人にも決して嘘を吐くのが許せない。
 元々のルカリオの気質のせいなのかは知らないが、彼女はそうだ。
 そのため、きつい言い方にはなるが、真実は必ず受け止められる人なら成長することができる。
「いいえ。確かにそうですね。でもやっぱりアモルさん本人に聞いてみますね。ありがとうございます!」
 ルミーユの方もようやく答えが落ち着いたようだ。
 確かに、こういったことはアモルに聞くのが一番手っ取り早いだろう。
 だが、そのアモルは眠っており、部屋には誰も入れない状況だ。
「それならいい案がある。どうせ今からアモルの部屋に行くんだろ?」
 エイリーンがルミーユの言葉を聞いた時点でなにか閃いたようだ。
 彼女が思った通り、ルミーユは今からアモルの部屋を尋ねるつもりだった。
「はい。でも、確か一人になりたいって言ってたんで、無理ならまた明日でも構わないので」
 そう言うと、エイリーンは首を横に振った。
「甘い。今からでもアイツが起きてりゃ入れる簡単な方法があるよ」
 そう言い、ルミーユに耳打ちした。



――――



 一方その頃、アモルはようやく目を覚ましていた。
 疲れはまだ重くのしかかっていたが、ようやく歩けるほどには回復していた。
 『やっぱり僕ってまだ若いのかな? でもあんまり持久力ないしどっちなんだろう……』
 そんなことを考えながら机に向かった。
 昨日の晩に一切することのできなかった仕事をひとまず終わらせようと思ったのだった。
 特に時間のかかるようなことではないので、忘れないうちに終わらせておきたかったのだ。
 それから数分後、コンコンと扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
 ちょうど仕事が終わったアモルは背中で鳴る扉の向こうの人に向かってそう言った。
「失礼します」
 そう言って入ってきたのはメイドだろうと思っていたアモルの予想を良い意味で裏切ってくれた。
 そこに居たのはルミーユ。
 先程のエイリーンのアドバイスを胸に一人ドキドキしながらやってきたのだ。
 アモルとしても彼女のことが気になっていたので呼びたかった。
 とはいっても他の3人に比べて何処かに影を感じたりなどはなかったので一番心配していなかった人物でもある。
 アモルが彼女をここに呼びたかった理由は今までの三人と同じで心の枷を外すこと。
 だが、彼女にはその心配がなかったのでただ社会に出ていった時のアドバイスをしたかっただけだ。
「僕はルミーユっていいます」
「僕の名前は知ってるんだっけ? まあいいや、僕はアモルだよ。よろしく」
 既に恒例行事のようになっている自己紹介を終え、アモルが本題を聞こうとしたがその前に彼女が切り出した。
「その……マッサージなんていかがですか?」
 これがエイリーンのアドバイスだった。
 アモルが疲れきっているため、その疲れを何らかの形で癒せばアモルの中で彼女の株が上がるだろうという寸法だった。
「本当に? 疲れてたからありがたいや。それじゃお言葉に甘えさせてもらおうかな?」
 そう言い、アモルはベッドにうつ伏せに伸びた。
 新しくなったベッドの方も心地が良く、これだけでも充分癒されていたが、彼女がマッサージをしてくれるというのだ、これ以上の極楽はないだろう。
 アモルの大きな体の上にルミーユがちょこんと乗る姿は親子亀のようだ。
「それじゃ失礼します」
 そう言い、背骨の辺りから重点的にその小さな前足でグリグリとほぐしていった。
 これがまた力加減と手の大きさが丁度良く、至高のマッサージになっていた。
「あー……気持ちいいよ……」
 それ以上の言葉が出なかった。
 というのも、疲れが蓄積しているのは事実なので、さっき起きたばかりだったのに、気持ちの良いマッサージまでしてもらってすぐに眠りに就いてしまったからだった。
 そのままアモルは寝息を立てていたが、ルミーユは献身的に体のコリをほぐしてあげていた。
 が、流石にルミーユにも疲れが来る。
 2時間ほどマッサージを続けてあげただろうか、そこでルミーユもアモルの横で眠りに就いた。
 そしてそのまま夜を迎えることになる。
 ここで時間帯はようやく冒頭の部分へと戻ってくる。
 先に起きたのはルミーユ。
 その後、数分も経たないうちに追いかけるようにしてアモルも目が覚めた。
「おはよう……って言っても夜か。とりあえずマッサージありがとう。大分疲れが取れたよ」
 ひとまず横にいたルミーユにお礼を言った。
 彼女も素直に喜んでいるようで、アモルはそれだけで充分嬉しかった。
 そして、彼女の様子を見ていて確信に変わったが、彼女には他の3人のような暗い過去がなさそうなのでさらに安心した。
「ルミーユちゃんだったっけ? 君は自由になったらまず何がしたい?」
 アモルはそう聞くと、彼女の様子を伺った。
 恐らく、まだ世間には興味と不安でいっぱいだろう。
 だから少しでも興味を持ったものに、できる限り不安を抱かないように言葉を選べるようにするためにそうした。
 ルミーユは少しもじもじした後、ゆっくり口を開いた。
「アモルさんに……抱いてもらいたいです」
 アモルの心の中ではそう来たか、と思ったが口に出すのは流石に可哀相だ。
 確かに彼女のおかげで疲れは大分マシにはなっていたので一度なら無理ではない。
「疲れも取ってもらったし、仕方がないかな?」
 そう言うと、ルミーユはとても嬉しそうだった。
 少し嬉しさではしゃいだ後、静かに目を閉じて口を尖らせていた。
 彼女もかなりロマンチストなのか、完全にキスを待つ乙女の状態でじっとしていた。
 アモルがそっと唇を重ねると、ルミーユはすぐに舌を滑り込ませた。
 意外とがっついていくタイプだった事に少し驚いたが、アモルはこの後もっと驚かされる。
 そのまま少しの間、二人舌を絡めあわせていた。
 そして口を、舌を離すと彼女がもじもじとしながらこんなことを言いだした。
「ごめんなさい……。勃起しちゃったみたいです……」
「ん? 勃起?」
 一瞬何のことか分からなかった。
 恐らくクリトリスの事だろうと解釈するが、目を下に落としたことによって瞬時に理解する。
 『生えている』のだ。
 つまり彼女……いや、彼はとても可愛らしい容姿ではあったが、男の子だったのだ。
「ちょっと待って! ちょっと待って……。ダメだ、頭の整理が追いつかない……」
「だから……えっと、その……僕を女にしてください!そのために……アモルさん。僕を抱いてくれませんか!?」
 つまり、最初のアモルの戸惑いはこのためであった。
 本当に今何が起こっているのか状況の整理が追いつかない。
 彼女……ではなく彼は誰もが見間違うほどに可愛らしかった。
 美しいと捉えても問題ないだろう。
 そして彼は男とは思えないほどに声も高かったため、誰も疑わなかったのだ。
 ならば彼の言う『女にして欲しい』とは一体どういう意味なのだろうか……。
 その答えは彼がアモルに買われる前まで遡る。



――――



 ルミーユは奴隷の子供としてこの世に生を受けた。
 奴隷が子供を産むことは本当に珍しいことで、基本的には避妊処理をキチンと施すからだ。
「可愛いわね……私の赤ちゃん……」
 衛生的とは言えない急ごしらえの分娩室で彼は取り出された。
 彼が生まれる原因となったのは、これまた変態的な性癖を持つ富豪が原因だった。
 その富豪は孕ませるのが趣味だったため、今までにも彼によって何人もの子供が生まれていた。
 普通の富豪は奴隷との間に子が生まれる事を嫌う。
 それは下手をすれば自分の弱みとなるからだ。
 しかし、その富豪は極めつけの変態であり、人でなしだった。
 たとえその子が弱みになったとしても、容赦なく殺すことができるのだ。
 奴隷商や親となった奴隷達はその富豪相手に確かに血の繋がった子を見せ、様々な要求をしたが母子諸共斬首に処す非道の限りを尽くす男だった。
 そのため、途中から誰も言わなくなり、ただただ泣き寝入りするしかなかった。
 そんな中、ルミーユの母は強かった。
「そんな奴に育てられなくてよかったじゃないか。私がこの子をまともな子に育てられるんだから」
 そう言ったが、彼女もまだ自分の間違いに気が付いていなかった。
 実の母親さえもルミーユの事を女の子だと思っていたのだった。
 それほどにルミーユは美しかった。
 女性として気高く生きるための心を教え、奴隷として生きていかなければいけないこれからのルミーユの人生を悲観させないために強く育てた。
 そこである程度大きくなった時に彼女もようやく気が付いた。
 ルミーユが男の子であることに。
 しかし、奴隷として売り買いされていた母親はそのままその事実を伝えることもできずに伝染病で他界した。
 ルミーユ自身も自分が女の子だと思って今まで生きてきていたので
「なんだ!? こいつ男じゃねぇか!!」
 とある富豪に買い取られた時のその言葉は彼自身が一番驚いた。
 今まで自分が女の子だと思って生きてきたのに、いきなり男の子だったなどと驚愕の事実を突きつけられて理解できるだろうか?
 勿論ルミーユも信じることができなかった。
 しかし、周りにいた女性たちと自分を見て、決定的な差がある事に気付いて落胆した。
 男なのだから、男性を受け入れる膣ではなく、そこへ入れる陰茎が生えていることに気付いてしまった。
 今まで気にしたことすらなかった身体の差、それが彼をどれほど苦しめただろうか……。
「男のくせにどれだけ力がないんだ! この役立たず!」
 初めて男として売りに出された時には今まで鍛えたことのない体では追いつくことのできない過酷な肉体労働もできずに捨てられた。
 女と偽って商人に売られた時には蹴り飛ばされたのだから、前の方がまだマシだったかもしれない。
 時折、男色家が彼を買い、愛でたことがあったが、それでもそういった人が求めるのはか弱い美少年よりもがっしりとした体格の男の方が圧倒的に多かった。
 そのため、彼は買い手のいない不良品のような扱いをされたのだ。
 男でもない、女でもないなら自分は一体何者なのか?
 それが彼が唯一抱えていた影だった。
 そのため、アモルに買われた時に彼は決意した。
 『彼に女として抱いてもらう』と。
 どっちつかずな自分の存在を彼に認めてもらうことによって『女』になろうと……。

 これが今まで彼に尾を引いて回った忌まわしい過去だ。
 他の三人に比べれば他愛のないものかもしれないが、本人にとっては今後を左右するほどの大問題だ。
「とりあえず……君は、僕に『女性』として抱いてもらえれば女になれる……と。そう思ったわけか」
 一度、状況を整理するために彼の話を全て聞いた。
 そして話を聞き終わった時点でアモルは一度考え込んだ。
 彼の言い分は十二分に分かる。
 彼は既に、女として育てられたために、心は女になっていた。
 今から男として生きろという方が酷である。
 とはいえ、性別を変えることなどメタモンでない限りは無理な話だ。
 そういった兼ね合いから今回の4人の中で一番気にしていなかった子が一番大変な問題になっていた。
 簡単に結論を出すことのできない問題で今まで簡単に物事を解決していたアモルは久し振りに悩んでいた。
 恐らく、悩んだのは最初の方に助けた奴隷達以来だろう。
 結局アモル自身にも答えを出しあぐねて、うんうん唸るしかなくなっていた。
「やっぱり……僕じゃ駄目ですか……。結局、女にも男にもなれなかった……」
 悩み続けるアモルにルミーユはついにそう言い、諦めてしまった。
 だが、その一言が切欠でアモルは思いついた。
「そうだよ! 別に男だとか女だとかそれに絶対ならないといけないわけじゃないんだよ!」
 と閃いたままに口に出したが、このままでは何の解決にもならない。
 しかし、アモルはとても嬉しそうな顔をしてルミーユの方を見て
「別に女の子みたいな男の子がいてもいいじゃないか! 今の君、ありのままで生きても構わないじゃないか!」
 そう嬉しそうな顔で言った。
 『女の子のような男の子』……つまり男の娘をアモルは提唱したのだが、この世界にはそんな文化存在しない。
「でも……それでいいんですか?」
 ルミーユも心配になったのかそう聞いたが、アモルは大丈夫! と言い切った。
「格闘家にだって女性がいるんだ。
女性物のファッションデザインを手掛ける男性だっているんだ。
別に女の子みたいな男の子がいたって問題ないよ!
絶対にありのままを好きになってくれる子が君の前にだって現れてくれるさ!」
 先に言っておくが、アモルは決しておかしくなったわけではない。
 彼という存在を、彼自身が否定していたので見つからなかった答え。
 『ありのままに生きる』という答えだった。
 確かに、アモルの言う通り、彼の存在を否定することは誰にもできない。
 だからこそ悩んでいる彼を自分自身が認めなければ話は始まらないのだ。
 今まで否定され続けたからこそその答えが見つからなかったのだろう。
 そして、今までは体自体が商品だった。
 そのため、必ずどちらかでなければならなかったが、自由になったのであればそんなことを気にする必要がない。
 そこまで含めた答えだった。
 確かに唐突ではあったが、彼の心には届いたようだ。
「そう……ですよね! 別に僕は僕でもいいんですよね!」
 悩みというものは案外、誰かに話すだけで解決するようなこともある。
 今回のことはどうなのかは置いておいて、今はただ喜ぶアモルとルミーユの二人をそっと見守るだけにしよう。
「それじゃあ、改めて僕を抱いてくれませんか?」
 本人が見守るだけでは済まなかったようだ。
「何故に? 僕に抱いて欲しいのは女にならたかったからじゃ?」
 アモルがそう聞くと彼はニッコリと笑って
「ハイ! だから今度は男としてアモルさんに抱かれたいと思ったからです! アモルさんみたいな人になら自分の全てを捧げられると思ったからです!」
 本当に捧げる必要はないのだが、彼が思い立ってしまったのだから仕方がない。
 そして、アモルもそういった感情には答えるのを主義にしているので断るに断れない。
 『男色の趣味は無いんだけどなぁ……仕方がないか』
 心の中でそう呟いたが、目の前の興奮する彼は女性としてみれば無しではないのでそう受け取ることにした((要するに現実逃避))。
「分かったよ。その代わり、これが終わったら普通の恋愛をするんだよ?」
 そう言うとルミーユは嬉しそうに微笑みながら首を大きく縦に振って答えた。
 まだ答えには程遠いのかもしれないが、彼も今はこれで十分に納得できた証拠だ。
 そしてその『素』の状態の彼が『彼』としてアモルを求めたのだからもうそれに応えるしかない。
 もう一度、静かに唇を重ね、舌を絡め、禁断の愛が育まれていた。
 先程よりも長い間、舌を絡めていたが、ルミーユの方が苦しくなって先に口を離した。
 そのまま少しの間静かに見つめ合っていたが、恥ずかしくなったのかルミーユの方が先に目を逸らした。
 こういった仕草だけを見ていればまるで恥じらう乙女なのだが、間違いなく彼からは勃起したモノが元気に天を衝いていた。
「えっと……抱かれたいって言ってたけど大丈夫? 僕はかなり大きいけど」
 自慢などではなく、彼とは少し体格差がある。
 どちらかといえばアモルが受けになった方が彼は苦しくないだろう。
「はい……。あまり自慢にはなりませんけど既にお尻の方はバージンは卒業しているので……」
 忘れていたが、彼はそういった男色家に何度か買われているのだ。
 元々美少年目当ての少数派には大事にしてもらっていたが、漢が目当てだったような富豪には自分よりも圧倒的に大きい者が多かった。
 そして逆にアモルはお尻の経験は一度もない。
 そのため自分から切り出しておいてなんだが少しホッとしていた。
「じゃ、じゃあそこに四つん這いに……」
 アモルがそこまで言いかけた時にルミーユがさらに顔を赤くして
「こ、このままの体勢じゃダメですか!?」
 そう切り出した。
 なんでも、いつも後ろから覆い被さる正常位((アモルたちからすれば))でしかしたことがなく、折角なら他の体位、立ったまま向かい合わせがいいとの事だった。
 しかし、器用に直立することができるのはオオタチであるルミーユのみ。
 アモルは直立を続けることは難しい。
 そのためシオンの時のように背中を壁に預けてルミーユがアモルに抱きつくような体勢をとることにした。
 アモルの大きめのモノがルミーユのお尻に宛てがわれると、自分から向い合せがいいと言ったのにルミーユは顔を真っ赤にして逸らしていた。
「えっと……入れるよ?」
 アモルがそう聞くとそのままルミーユは頷いた。
 ルミーユの体を支える手にアモルが少し力を入れるとあまり無理なく彼の体は沈みだした。
 アモルが想像していたものとは違い、殆ど女性のそれと差がなく、寧ろ締りが良く刺激としてはこちらの方がよかった。
 アモルのモノが入ってくると彼も甘い吐息を漏らした。
 彼が男である事を除けば本当に可愛らしい限りだ。
 負担をかけないようにするためにゆっくりと体を落としていったが、気持ちがいいのかルミーユは僅かに体をくねらせていた。
 細長い体をくねらせるとゆっくりと落ちていた彼の体がするりと一番奥までアモルのモノを受け入れた。
 あまりにもスルッと入ったのでアモルが驚いていたが、その後の締まり方にさらに驚かされることになる。
 膣よりもかなり締めつけが強いのにも関わらず、彼の体を持ち上げるとスルスルと抜けるのだ。
 強めの締めつけがアモルのモノに刺激を与え、とても滑りのいいアナルの動きが二人に良い刺激を与えていた。
 アモルも自然とルミーユの体を支える前足の動きが早く、力強いものになっていた。
 二人共だんだんと息遣いが荒く、声も大きくなっていった。
「あぁ!! 出る! 出ちゃう! アモルさん!!」
 絶頂に達しそうになったルミーユがそう叫ぶと
「ぼ、僕も……もう出る!!」
 アモルも既に限界だったのかそう言い、二人でほとんど同時に絶頂に達した。
 アモルの放った精液は全てルミーユのお腹の中へ、そしてルミーユの精液は二人のお腹を白く汚していった。
 そのまま脱力したルミーユはアモルに凭れ掛かり、アモルも背中の壁に全体重を預けていた。
 そのまま少しの間、息が整うまでそうしていたが
「アモルさん……ありがとうございました。僕、頑張りますね」
 ルミーユは急にそう呟いて、少し疲れの見える顔で嬉しそうに微笑んだ。
 アモルが聞くまでもなく彼の迷いは吹っ切れたようだ。
 それが分かり、アモルも微笑むと
「じゃ、体を洗おう。このままじゃ折角の新品のベッドが汚れちゃうよ」
 そう言い、二人でシャワーを浴びに行った。
 体を綺麗にして風呂場を出ると、そこにはシオンの姿があった。
「あら、流石アモルさんね。その人も抱いてあげたんだ。貴方バイ((バイセクシュアル(両性愛者)の略))だったのかしら?」
 そう言いアモルの事を少しからかったが、アモルは胸を張って
「僕は頼まれたら断らない主義なだけだよ。たとえ男でも女でも」
 そう言って、少し恥ずかしそうなルミーユと共にその場を離れた。
 アモルの中でも何かの踏ん切りがついたのか、その場に居た三人の顔には何処か晴れ晴れとした表情が浮かんでいた。

**情事の事情 [#u3dc5389]

 結局その後、アモルは溜まりに溜まりきった疲れが全て跳ね返ってきたのか、丸二日疲労困憊が原因で寝たきりとなった。
 流石にこの間は誰もアモルを襲おうとはしなかった。
 それもそうだろう、まさか只の疲れだとか筋肉痛だとか思っていたもので倒れるとは思っていなかっただろう。
 すぐに医者を呼び、キチンと診てもらった結果は精神的ストレスから来る疲労と極度の肉体の酷使による栄養失調だった。
 流石にこんな状況の彼を襲おうなどと目論む者がいれば全員から敵視されることになる。
 しかし、原因がそういったものでよかったとアモルは安心していた。
 疲れて倒れただけなら安静にしていれば確実に治るのだから。
 そしてアモルが安心していた理由はもう一つある。
「アモルさんは歳の割には若々しいですね」
 医者が帰り際に放った一言だった。
 若々しさの秘訣なんてものを聞かれた時には答えに困るだろうが、それでも案外アモルなら堂々と言ってしまいそうだ。

 そしてついに七日目、アモルが彼女たちに約束した完全な自由が訪れるまでの最後の日が訪れた。
 アモルとしてはもう心配事は一つもなかった。
「えーっと、今日が僕の家にいなきゃいけない最後の日だね。僕からは特にお願いもないから家からだけは出ないように今日も自由に過ごしてね」
 イツカ、シオン、エイリーン、ルミーユ、全員がアモルの前に並び、アモルからの最後のお願いを聞いていた。
「その事なんだけど……」
 イツカが急に深刻な表情を浮かべ話しだした。
 アモルは少し覚悟しながら彼女の話に耳を傾けていた。
「出来ればこのまま、この家に住むのはダメ?」
 彼女が切り出したのはそんなことだった。
 アモルは微笑んだ後
「別に構わないよ。
但し何かしろの仕事はしてもらうけどね。
あと、みんなにも言ってるけど最終的にはこの家を出て行ってもらいたいのが僕の本音。
いつかは自立してもらいたいからね」
 そう厳しい表情でそう言った。
 恐らく、ここが一番居心地がいいだろう。
 アモルも気付いていることだから、あまり強くは言わないがそれでもいつかは自分の想いで決起してもらいたいのだ。
 それに少なからず外の世界に対し恐怖している者もいるのを知っている。
 人攫いにあった者も少なくない。
 そんな世界にもう一度自分から足を踏み出したいとは普通の人なら思わないだろう。
 その後、彼女たちからは質問などはなく、その日もいつものように皆散っていった。
 アモルも二日振りにいつものように散歩気分で仕事をしに行くのだった。
 彼の一日は大体この散歩で終わる。
 まず朝食を食べに行き、食べ終わるとそのまま腹ごなしに屋敷をぐるりと散歩する。
 それが終わると工場へ出向き、給料日なら給料を渡す、それ以外の日ならただチラッと顔を出して出ていくだけだ。
 先程も言ったように、仕事ではなくほとんど散歩気分だ。
 次に行くのは食堂、早めの昼食を摂る。
 理由としては朝食の時も同じだったが、できる限りここに食べに来る従業員たちとぶつからないようにしている。
 前に何度か被ってしまったことがあるが、『奢らせてくれ』の嵐になったために避けて食べているのだ。
 その後は散歩をせずに真っ直ぐお店の方に向かう。
 ここではさっきとは違い、いつでもただ顔を出して出ていくだけだ。
 その後、アモルは屋敷を出て今度は町内を散歩する。
 ブラブラとするアモルがよく目撃される理由はこれが原因だ。
 というよりもこの男は散歩をするか食事をするかの二択しか行っていない。
 案外街の噂というものは当たるものだ。
 そして日が傾きだした頃に屋敷に戻り、夕食。
 その後、ここでアモルは初めて仕事らしいことをする。
 それは全員が帰った後の工場で一人機械の整備を行うことだ。
 これが元々キチンと働いている者の姿なら立派な社長なのだが、この整備や点検していないのだからこれでもまだマイナスだ。
 そして完全に日が落ちた後、子供達なら既に夢の世界にいる頃に自分の部屋へと戻る。
 そして彼がいつも行っている最後の仕事を行って眠るのだ。
 が、今日はそうはいかなくなった。
「あれ? みんな揃ってどうかしたの?」
 部屋に戻ると、そこには四人の姿があった。
 だが全員何処か表情が暗く、彼を襲うためにやってきたという雰囲気でもない。
「あの……その……ごめんなさい!!」
 急に全員が頭を深く下げて謝っていた。
 普通なら一体何のことなのか分からないが、アモルはすぐに気が付いた。
「あー……。見たんだね。僕の秘密」
 机の上に置いてあるアモルがいつも最後に行う『仕事』に使うノートが開かれているのに気が付いた。
 彼の言葉を最後にその部屋には沈黙が続いていた。
 そんななかアモルはゆっくりと机へ歩き出した。
 誰も喋ることができず、ただアモルの歩く足音だけが部屋に響いていた。
 アモルは開かれたノートのページを見て彼女たちの謝った意味がすぐに分かった。

 78年 12月 24日
 今日はいつもよりもよく冷えている。 雪はやっぱり僕には堪える。
 そして恐らくあの名前も知らないあの子にも堪えたのだろう。
 大切な者を自分のせいで失った僕にはこんなことをしても君にはなんの罪滅ぼしにもならないだろう。
 それでもせめてこの子の願いを叶えてくれる人が一人でもいたのなら、こんな罪のない子が涙を流さなくて済むだろう。
 だからこそ僕は約束する。 エラト、アイカ。 これが今の僕にできる最大限の罪滅しだから。
 この思いを忘れないため、これから救っていきたい人たちのために今日からこの日記を付けていく。

 そのページを見たまま、アモルは初めて見せる涙を流していた……。



――――



 ある所にとても仲睦まじい夫婦があった。
 元気で明るく、仕事をバリバリとこなすウインディ若手の工場経営者。
 そして彼を支える正義感の強いバクフーンの奥さん。
 彼らは多忙ではあったがそれなりに裕福な生活を送っていた。
 そんなある日、二人は念願の子供を授かった。
 二人はとても喜んだ。
 昔から欲しかった二人の子供、その子に二人の愛の花が咲いた、そう喩え『アイカ』と名付けた。
 アイカが生まれてからはその旦那、アモルはさらに働いた。
 アイカと彼の奥さん、エラトの二人にもっと楽をさせたくて。
 彼は昔、今では考えられないほどよく働いていた。
 朝起きてすぐに家族団欒の時間を済ませ、すぐに仕事場へと向かっていた。
 その頃のアモルには一つの信念があったからだ。
 『自分が働くことによって多くの人を幸せにしたい』
 彼は根っからの善人だったのだろう。
 働く理由は誰かの笑顔が見たいからだった。
 気が付けば彼は玩具の工場を建てて、一代でそれどころか数年で街で一番の大工場にしてしまったのだ。
 少ない従業員は全員にアモルの心意気が伝染ったのかとても向上心の高い者ばかり。
 決して良いとは言えない給料だったが誰も文句を言わなかった。
 所詮人の原動力とはお金ではなく心なのだろう。
 しかし、アモルにはお金が必要になった。
 二人の家族を養うためには心意気だけではどうしようもない。
 そのために従業員をさらに雇い、さらにお金を稼ぐために今まで以上にさらに働いた。
 自分が頑張れば頑張るほど家族は幸せになれる。
 そう信じ、従業員の誰一人よりも最後まで工場で働いていた。
 家にいる時間も家族と話す時間も殆どなかったが、それでも家族は幸せだった。
 エラトはそんながむしゃらに働く彼の姿が好きで彼と結婚したのだから。
 そしてそんな彼が最も嫌いなものが一つあった。
 それが奴隷だった。
 『働く事は手段であり、それが目的ではない。それを強制させるのは間違っている』
 彼は休みさえあればその街にあった大きな奴隷商相手に抗議を申し立てていた。
 奴隷という悪習が残っているのは半分は仕方の無いことだった。
 身寄りのない者、もう売る物も残っていない者、そう言った社会的な圧倒的弱者にとっては最後の手段だったからだ。
 それでもアモルは許せなかった。
 どんな理由であったとしても幸せでない者を見たくなかった。
 そんな彼の真摯な思いがついに悲劇を呼び起こしてしまう。
 そう、日記の付けられ始めた日にそれは起きた。
 彼の妻、エラトもアモル同様正義感が強く、アモルのように間違った事が嫌いだった。
 彼女はアモルの知らない間にも抗議に行くほどだった。
 そんな夫婦の姿は街ではとても有名な『正義夫婦』と呼ばれるほどだったほどだ。
 それが災いした。
 帰路を急ぐアモルは口にケーキの箱を咥えていたため、中身が揺れないように身長に走っていた。
 今日はクリスマスイブ、アモルの家庭でもささやかなお祝いが開かれるはずだった。
 帰宅したアモルは絶句した。
 そこに広がっていたのは帰りを待っていたはずのエラトの亡骸だった。
 部屋は滅茶苦茶になり、そこらじゅうに血が飛び散っていた。
 エラトは言うまでもなく目も当てられないほどの状態にされていた。
 そしてそこで娘の姿がない事に気付いた。
 誰がやったのかなど言うまでもなくアモルには分かっていた。
 故にアモルは初めて口から炎が吹き出るほどに激怒した。
「これがお前たち奴隷商のやり方か!! 一人残らず殺してやる!!」
 奴隷商の本拠地へ乗り込んだアモルはそう言い放ったが、そこで見た光景はその怒りさえも忘れてしまうほどのものだった。
 この街を治める町長の姿がそこにあった
「殺すとは随分な口を聞くな? アモル。たかだか街の玩具屋の分際で」
 いくら抗議に行っても奴隷商が消え去らないわけだ。
 町ぐるみの事なら彼が批判するに決まっている。
「そうだな……。アモル。お前も奴隷を買ってみたらどうだ? 丁度良い奴隷が入ったんだ気に入るぞ?」
 そう言い見せられた奴隷は実の娘、アイカの既に汚された姿だった。
 それからの事は彼も覚えていない。
 気が付けばその忌まわしき男は血の海に沈み、その場に居たはずの者達は一人残らず消えていた。
 ようやく触れた娘も既に冷たくなっていた。
 そこでアモルは生まれて初めての涙を流した。
 『自分がもっと家に居れば、もっと早くこの自体に気付けた。自分が奴隷商なんかを訴えなければこんなことにはならなかった』
 それは今までの自分の生き方を全て否定する涙だった。
 全てを失ったアモルはせめて二人の遺体を埋めてやりたくて、もう二度と動くことのない娘を初めて咥えて家へと帰った。
 娘と喋ったこともなかった。
 娘と遊んであげたこともなかった。
 娘と初めて一緒に帰った帰り道は雪の降る、彼の心までも冷やしていくような寒い夜だった。
 しかし、そこに他の小さな命を見つけた。
 今にも消えてしまいそうなその儚い命は雪の中で必死に生きようとしていた。
「大丈夫か!? どうしたんだこの傷は!」
 気が付いた時にはその見知らぬ子に声をかけていた。
 新雪が赤く染まっていることに気付き、必死に声を掛けていた。
「お腹が……裂けただけです……。まだ……私をお使いください」
 その言葉はこんな女の子が言う言葉ではない。
 彼女の言う通り、正確には腹ではなく、膣口が裂けていた。
 そこから溢れ出る血が雪を染めていたのだ。
 そんな子供が犯されて使い捨てられるかのように道でただ使われることを願う、そんな姿にアモルは絶句した。
 気が付けばアモルは自分の娘の亡骸を横に置き、その子を抱き上げていた。
「喋っちゃダメだ! すぐに助けるから……! 医者に連れて行くから気をしっかり持つんだ!」
 抱き上げたその子の体は降り積もる雪と差が感じられないほどに冷たくなっていた。
 しかし、その子は抱き上げられるとうっすらと微笑み
「ありがとう……。あなたみたいな人がもっといたら……」
 一筋、涙を流してそのまま動かなくなった。
 また目の前で一つの命が失われる瞬間を目の当たりにしたアモルは、泣き崩れていた。
 また救えなかった。
 それは彼の心に重くのしかかったが、同時に一つの言葉が心の中で小さく響いていた。
 『ありがとう……。あなたみたいな人がもっといたら……』
 彼女の思いは分からない。
 だが、それは救おうとしたアモルに気付いて出たものだとアモルはそう受け取ることにした。
 そうしなければ大きすぎる悲しみに押し潰されそうだったから。
 二人分の小さな亡骸を咥え、目覚めぬ妻の待つ家へと帰った。
 そしてその後、彼は三人の亡骸を埋め、彼女たちの亡骸へと誓った。
 どうしようもできない相手なら力づくではなく、正攻法で救う。
 それが、今の彼にできることだから……。



――――



「僕はその後、その工場を畳み、一人、誰も僕の事を知らない街へと移り住んだ。
 その時の僕が殺めてしまった町長は奴隷商たちの反逆という形で片付けられたそうだ。
 みんなには悪いって思ってるけど……どうしても真面目に働こうとすると思い出して涙が溢れて止まらなくなるんだ……。
 結局、僕のやっていることは自己満足でしかない。
 助けた人たちに全てやらせて、僕が逃げるための口実にしているに過ぎないんだよ」
 アモルが涙を流しながらそう言うと
「そんなことを言わないで! あなたが助けてくれた人達は、決してあなたの自己満足ではないわ!!」
 イツカが涙を流しながらそう言った。
 イツカにとっては彼がどうであったにしろ確かに救われた。
 決してアモルが逃げるための口実だと言い張っても、イツカは確かにここにいたいと願った。
「分かってる……。でも、それでエラトとアイカが帰ってくるわけじゃない。そして二人が僕を許してくれるはずがない! 結局僕がやってることは他の奴隷を買い漁ってる奴らとなんら変わりがないんだよ!!」
 そう言い、アモルは机をドンッ!! と思い切り叩いた。
 その大きな音で全員の体が強ばるが、バリンという何かの割れる音で全員の視線がそちらへ向いた。
 そこにはひび割れた写真立てがあった。
 アモルは急いでそれを拾おうとするが、すぐにその動きが止まった。
 他の四人も恐る恐る近づくと、割れてバラバラになった写真立てとそこに貼ってあったであろう写真が裏返しで落ちていた。
「アモル……手、大丈夫?」
 動きが止まったことで心配したイツカがそう聞いたが、理由はそれではなかった。
「……なかった」
 アモルは写真を手に取りながら消え入りそうな声で何かを言っていた。
「なかったって何が?」
 シオンがそう聞くとアモルは脱力してただ泣いていた。
 手から滑り落ちたその写真にはアモルとエラトと思われる人物とアイカと思われる人物の写った、普通の家族写真だった。
 これはアモルが唯一持ち出した、思い出の品の一つだ。
 今も付け続けているノート、唯一の家族写真、そして彼女との結婚指輪。
 これ以外を全て売り払い、資金に換えて今の街へ移り住んだ。
 元々あった金も使い、すぐにまた工場を建てて、人を雇い仕事を始めた。
 始めの頃はなんとか彼も働こうとしていたが、どうしても仕事にならずにその時の従業員だった者たちに打ち明けると快く承諾してくれたのだった。
 彼らが今もアモルの元で現場を仕切っている者たちだ。
 働かない、否、働けなくなった彼はすぐに奴隷達を買い取り、開放しだした。
 初めはおぼつかないことも多々あったが、それでもなんとか救っていくことができていた。
 それでも彼は悩んでいた。
 『このままでいいのか? 本当は彼らも恨んでいるんじゃないのか?』
 そんな迷いを振り払うために彼は誰にも見せないようにその写真をいつも一人になった時に眺めていた。
 いつもは誰にもバレないようにするために、机の後ろの方に隠しているのだが、アモル自身もそれが落ちて壊れるまで気がつかなかった。

 あなたがすることは決して間違っていない。だから私はあなたに全てを捧げることができる。私はあなたの全てを肯定する エラト

 写真の裏にはそう書かれていた。
 先程のアモルは『間違っていなかった』そう言いたかったのである。
 忘れていたことだ、アモルがなぜ奴隷商たちに抗議をしていたのか。
 なぜがむしゃらに働いていたのか。
「僕は奴隷という制度がどうしても納得できないんだ。だからそんな人達を救いたいんだ。だから……君とは別れた方がいいと思う。」
「それで私が別れると思ってるの? あなたがそんな人だから好きになったのよ。そんな人たちを泣かせたら私が許さないわよ?」
 それが全ての答えだった。
 辛すぎて、悲しすぎて忘れていた、人を救いたいと思った原点だった。
 罪滅ぼしに行っていたと思っていた事が、今目の前にいる四人よりも、最愛の人、エラトよりも、自分自身が一番望んでいたことだった。
「ずっと迷っていた……。ずっと悩んでいた……でも、もう迷わないよ、エラト。だから……君なら笑ってくれるよね?」
 そう言い、アモルは涙で濡れた顔の中に、しっかりと決意を持った顔を浮かべていた。



――――



 その日から何週間か経ったある日、彼の屋敷は大規模な改装工事を行っていた。
 そしてそんな家の裏手にはいつものように荷車が止まっていた。
「いつもいつもご贔屓していただきありがとうございます」
 ズルズキンはゴマをすって得意先のご機嫌をとっていたが、アモルからすれば何の意味もない。
 いつものようにこの時だけは顰め面で対応する。
「こちらの六人が今回の買い取っていただいた商品ですね」
 そう言い、鎖に繋がれた六人の奴隷が荷車から降ろされ、屋敷の中へと運び込まれた。
「代金だ。次も頼むぞ」
 慣れない低い声を出して代金の入った袋をメイドの一人に持ってこさせ、それを渡した。
 代金を受け取ると彼らもそそくさと帰っていくのだ。
 あまり長居すればアモルが怒鳴るからだ。
 いつものように彼らの荷馬車が見えなくなったのを確認すると
「ようこそ! 我が家へ!」
 その声はいつもならアモル一人のものだった。
 だが今日からはそうではなくなっていた。
「枷外したらみんな自由だから、あんまやんちゃすんなよ? そん時はアタシが押さえ込むからな?」
 そう言い、枷を外しているのはエイリーン。
 枷を外してもらった新たな奴隷達は状況があまり理解できていなかった。
「僕がアモルで、彼女が僕の『妻』のイツカ。まあひとまずはこの家で色々と慣れていけばいいよ」
 アモルは確かにその六人に対してそう言った。
「慣れた頃には独り立ちしてもいいし、私たちの所でそのまま家族として暮らしてもいいわ。そこはあなたたちの自由よ」
 続けるようにイツカが説明をした。
 気が付けば賑やかなのはアモルやエイリーン、イツカだけではなかった。
「えー! 新しい人たち!? お名前教えて!」
「アモルさん! 工事の音がうるさくて昼寝できないよ!」
 気が付けばそこには今までメイド姿だったはずの人達がみんな自由な姿で歩き回っていた。
 アモルは考え方を変えたのだ。
 自分の信念は人を救っていくこと。
 しかし、それはアモルの中では自分の一番身近に置くことだった。
 また失うことが怖くてアモルはもう二度と家庭を持たないと決めていた。
 しかし、アモルは決めたのだ。
 『救っていく人たちを絶対に受け入れる』と。
 とはいえ恋人は一人しかいてはいけない。
 そのためあの四人の中で最も歳が近かったイツカを妻として迎え、それ以外の全員を家族として迎え入れた。
 勿論文句が殺到したがそれでもアモルは間違いなく彼女たちに助けてもらったことが一番大きいと思ったから文句は一切受け付けなかったのだった。
 今、この屋敷にはメイドはいない。
 みな、自由に働いたり、家の掃除をしたりしている。
 奴隷の子達に他に説明したいこともあったが、既に他の子達に連れ回されてるせいで一人も残っていなかった。
「そういえば本当に私でいいの? エラトさん怒らない?」
 誰もいなくなった時にイツカが聞いてきた。
「僕が決めたことだから。エラトも賛成してくれてるよ」
 そう言い、二人は仲良く何処かへ歩いて行った。

 その日の晩、食堂に全員が集まり夕食をしていたが、育ち盛りが少なくはないためちょこちょこ喧嘩が起きていたようだ。
 年長に当たる者達がなんとか彼らを止めて、みんなを食事に集中させていた。
「よし! みんな! テレビを見るんだ! エイリーンの応援をするぞ!」
 わざわざこのためだけに大きなテレビを買い、食堂に取り付けていた。
 今日は女格闘家、エイリーンの復活戦だからだ。
 初戦から衰えを感じさせない豪快な戦いっぷりで食堂は熱気に包まれていた。
 気が付けばそこにあったのは救った人と救われた人、救われた人同士の関係ではなかった。
 間違いなくその声援は大切な家族に向けて送られるものだ。
 アモルの思いは確かにみんなに伝わっていた。
 だからこそアモルはそんな熱気溢れる食堂をこっそりと出て、今回新しく入ってきた奴隷達六人をこっそり連れ出しこう言った。
「君たちはもう僕らの家族なんだ。気兼ねする必要はないよ。多分聞いてるだろうけど、彼らもみんな昔は奴隷だったんだ」
 そう言うと、彼らの顔には確かに笑顔が満ちていった。
「さ! 応援に戻ろう! といっても多分うちのエイリーンが勝つだろうけどね」
 そう言い、またこっそりと食堂へ戻っていった。
 これから先もアモルは奴隷達を救っていくだろう。
 その度に家族が増えていき、この屋敷はどんどん賑やかになっていくだろう。
 それとは別に、一つだけ街の噂が変わったことがある。
 最近、アモルの家によく出入りする人たちを見かけるようになった。
 彼らは何故かアモルのことを口々にお父さん、やパパなどと呼ぶのだ。
 そのため変な噂はなくなったが、彼の隠し子説が浮上するのだが、それをアモルは知るはずもない。
 どうであれ、アモルがいい人であることを知っている街の人たちは、決して彼を疑わないからだ。
 だから皆口々に言う
「きっと何かの事情があるんだろう」
 そう言って、ただ笑って流すのだった。

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**あとがき [#w5c0838e]

どうも初めましての方は初めまして。お久し振りの方はお久し振りです。
今回、沢山の方に投票いただき、恐縮ながら一位という栄えある順位をいただきました。
そのくせに大会に参加したのは既に何回もあるのに連絡板で初歩を聞きまくったり、ワンクッション入れ忘れるなど失態を晒してしまいました。
すみません。
今回は前からプロットだけ考えて温めていた書きたかった作品を書きました。
奴隷でも人並みの人生を歩む権利はある。それがただ書きたくて、それを救う人が至っていいじゃないかと思っただけです。
あと、気付いた人は何人かはいると思いますが、サブタイトルは全て映画のタイトルをもじったものにしています。
元の映画もとても素晴らしいものですので是非見てみることをお勧めします。
では最後に大会で頂いたコメントへの返信であとがきを終わらせたいと思います。

とても面白かったです!アモルさん幸せになってね! 

>>大丈夫ですよ、アモルさんは今確実に幸せですから。


登場人物の心情や気持ちの移り変わりなどがよくわかっていい作品だと思いました。

>>今回、沢山のポケモンが入れ替わるということで心情は特に気を付けました。


まさに変態選手権に相応しい作品だと思いました

>>ありがとうございますっ!!///


最後の最後まで本当に楽しく読めました。テーマも本来扱いにくいものでありながら暗くなりすぎず、またキャラごとの心象を上手く描いていて(でもってエロくて)最高でした!

>>シリアスにはなりましたが、決して最後まで不安にはさせないように明るく終始ハッピーでいかせてもらいました。
自分がハーピーエンドが大好きなもので。


とてもニヤニヤしながら読ませてもらいました
一票入れさせていただきます 

>>ニヤニヤw ありがとうございます。


プレイが多彩すぎて…
ごちそうさまでした 

>>星の数だけ女性がいるなら星の数ほど性癖も変わる…何を言ってるんでしょうね?


情事の事情が一番早く投稿されていて、大会の火付け役になっていたし、官能表現もよく出来ていてとても良かったです! 

>>大会の投稿終了3日前まで3作品しか出てなかったので他の作者さんたちが心配でした。
最終的には全員出せたようなので勿論全部読ませてもらいました。


お話はやさぐれた囚人の更生物語という感じで、心地良い読後感を感じました。
五匹分のエピソードを丸々入れて来る執筆パワーに感嘆しつつ、アモルの誰とでも分け隔て無く接する優しい性格がとても良かったです。

>>囚人の更生w なぜか頭の中にはヤンクミが思い浮かびました。
彼も誰かと繋がっていたかったんですよ。だから人との関係の全てを大事にしているだけです。


ストーリーも面白かったし、エロかったしで好きでした! 

>>ありがとうございます。


最後はハッピーエンドで良かったです

>>ハッピーエンドは世界を救う。勿論これからもハッピーです


好みの作品でしたー!

>>本当ですか!よかったです!


面白かったです

>>ありがとうございます


四者の異なったシチュがよかったです。また、それぞれのキャラも立っていて読んでいて飽きまずスラスラと入ってきました。末永くお幸せに頑張ってほしいものです 

>>奴隷なので様々な心境とその経緯があるだろうということを意識し、一人一人同じパターンでアモルとイチャコラするけど毎回違うように努力しました。


上下の長編を一気に読み進められて、読み終えた後心が温まりました。

>>一気読みですか! ありがとうございます


奴隷達と、それを『買う』という方法で開放する物語、楽しく読ませて頂きましたので1票を投じさせて頂きます。
しかしながら少々疑問に思ったのは、過去を捨てたアモルがまた工場を持てた経緯等でしょうか? 働く事を躊躇うアモルに、幾ら元奴隷達が働いているにしても、その基盤となった工場を持てたのかという疑問が沸いております。
些細な事かもしれませんが、この場をお借りして少しだけ疑問を投げかけさせて頂きました。不快に思われましたら、大変失礼致しました。

>>説明不足でしたね。奴隷というのは実際貴族とかしか買えないほど高価なものだったのでバカみたいにお金がいるんです。
なのでこれから先、たくさんの人を救うために自分の心と格闘し、仕事をしないけれど仕事を持たないことは克服させたんです。
不快なんてとんでもありません。とても参考になります


辛い過去を乗り越えて、奴隷たちを幸せにしようと活動を続けるアモルと、彼を支える女性たちの深い物語に感動しました。エロシーンもそれぞれ多彩で面白かったです。

>>これからはさらに救われる人が増えていくでしょう。
女性たちもアモルのことが心から好きなので


リア充爆しrゲフンゲフン
それぞれ別の事情を持つ雌ポケモンを落としていく構成が飽きない良い作品でした。

>>可愛らしいですよね。
あれ? でも一匹雄がいたような…


非常に感動したので、どうしても変態度にかかわらず1票入れずにはいられなかった。

>>書いていてルミーユ以外どストレートなエロじゃね?って思いましたが大事なのはエロさ!
大丈夫大丈夫…


すごく読みやすかったです!
アモルのいつもおしきられてしまうところが面白かったです!

>>お仕置きですかw まあ腰が立たなくなるほどヤられちゃってるので確かにお仕置きですねw

以上でコメント返信を終わります。
大会参加者、そして大会を読んで盛り上げてくださった皆様。
本当にお疲れ様です。

**コメント [#p1068bff]

#pcomment(コメントの事情,10,below)

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IP:61.22.97.57 TIME:"2013-09-08 (日) 19:56:03" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%83%85%E4%BA%8B%E3%81%AE%E4%BA%8B%E6%83%85%E3%80%80%E4%B8%8B" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/6.0)"

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