注意 この小説は三部作"悲しき絆"の上篇です。 これは、イーブイのソラトとアリスが出逢って間もない頃の話……… 〜悲しき絆 上篇【嘆きの偽り】〜 Write by [[慶]] ---- ***第一節 無意識の出逢い [#g9e5f670] ねぇ、どうして此処に&ruby(い){存在};るの…? ねぇ誰か、教えて… 「………また、あの言葉だ。」 何度も繰り返されるソレに応える為に故郷のアルミアを飛び出したのはつい先程のように思える。 どれ位経ったのかな。 今日もあの言葉に目を覚まされ、その声の主を探す。 誰の声かも知らない。 自分に問いかけているのかも分からない。 でも、気がついたらお城を抜け出していた、無意識に。 「僕はここに居る! 君はどこにいるの?」 声が聴こえる度に同じ言葉を繰り返す。 此処は何処? 君は…誰? 何時もは遠く聴こえていた&ruby(こえ){嘆き};がはっきりと聞こえる。 近くに居る。 その声は確かに僕を呼んでいる! 僕は、ソレを頼りに声の主を探して草の根を掻き分けながら進む。 暫く進むと、目の前が一気に開けた。 その先に小さな小屋がぽつんとたたずんでいた。 早く来て……… 間違いない、この小屋に居る。 僕は、意を決して鍵の無いドアを開ける。 「うわぁ、可愛い。」 その部屋に居たのは、何も無い真っ白な部屋に小さな姿。 銀色だけど自分と同じ種族。 眠っているその横顔はとてもかわいく、僕は思わす見惚れてしまう。 でも、その仔は目を覚まさない。 「ねぇ起きてよ、なんで僕を呼んだの?」 何度も揺するけどその仔は起きない。 「その仔は覚めないわ。 彼女は眠り姫。 産まれてからずっと世界の『闇』を見続けているの。」 後ろから声が聞こえ、振り向くと見たこともないポケモンが僕の後ろにいた。 聞いた事がある。 アルミアの古い伝承に三日月を模したポケモンがいて、悪夢なんかを浄化する不思議な力を持ってるって。 確か名前は… 「どういう事? クレセリアさん」 「あら、私の事を知ってるとは、あなた、何者?」 怪訝な眼差しで見てくるクレセリア。 無理もない。 彼女の存在は幻であり、空想の産物とまで言われる程見たものが居なかったからだ。 しかし何故そんな彼女が此処に? 「アルミアの言い伝えに貴女の事が描いてあった。 僕はイーブイ。 その仔の声を聴いて来た。」 「…そう。」 短い返事を聞きながらも僕は話を続ける。 「そうだ、貴女なら夢から覚ます力があるんでしょ? 」 期待の眼差しで彼女をみつめるが、帰ってきたのはあまりにも哀しい言葉。 「残念ながら私ではその仔の目を覚ませる事は出来無いわ。 特別な進化の輝石に加え、その石の力を最大限に引き出す者が居なければ…」 クレセリアが言い掛けている時、ふと、僕は父さんの形見のある物を思い出し、懐から取り出す。 「もしかしたらこれのこと? ってうわ!?」 懐から取り出すなやいなや突然、進化の輝石が光りだした。 淡く優しい光はそのままあの仔を包む。 「まさか、あなたは…! まずい、早くアルセウス様に!」 「まさか。 空色の瞳に特別な力…。あなたは…! これは一刻も早くアルセウス様に伝えなければ。」 クレセリアが足早に立ち去ると同時に彼女を包んでいた光が消えた。 そして、ゆっくりと彼女が目を覚ました。 そう言い残し、クレセリアさんは足早に立ち去っていった。 それとほぼ同時に彼女を包んでいた光が消えてゆっくりと彼女が目を覚ます。 「…君は、誰?」 「僕はソラト。 君を助けに来たよ。」 それが、僕らの交わした最初の言葉だった。 ***芽生えた恋心 [#75S6auH] 「…ぇ ねぇってば!」 不意に聞こえてきた声に意識が戻り、視界がハッキリする。 「うわぁ! びっくりしたー。 ゴメン、うたた寝してたみたい。」 「もう、しっかりしてよー。 せっかくのお散歩がつまんなくなっちゃう。」 プゥっと頬を膨らませながら怒る彼女に心がドキドキする。 「そ、そうだね、君が体調良いから来たのに、勿体無いよね!」 彼女の鈴を転がす様な綺麗な声に、今居る処を認識する。 そう、僕らは今、この辺りで一番だと思える程の花畑に来ている。 彼女のいた小屋から少し離れた丘の上に有る此処は、辺りの景色が良く見えて、とても絶景だ。 長い眠りから覚めたからなのか、普段の彼女は体調が思わしくなく、不安を掻き立てられるけど… 何より此処に来れて良かった。 「あ、そうだ! ソラト、目を瞑って?」 ほんわかした感情に酔っている僕に、彼女が優しく声を掛けられる。 よく見ると、彼女は何かを隠しながら持っている。 「う、うん…」 そう答えながら、僕は目を閉じる。 暫くすると、花の良い香りと共に僕の頭の上にふんわりと乗っかった。 僕は、静かに目を開ける。 「はい、お花で作った花冠だよ♪」 そう言いながら頬を赤らめて照れる彼女が居た。 「あ、ありがとう…」 きっと、そう言ってる僕の顔も、赤いだろう。 「どういたしまして。 これからもずっと一緒にいようね、ソラト!」 そんな言葉を言われたら僕は… 「ソラト…? ん…」 彼女にキスをしていた。 彼女の柔らかい唇の感触と甘く妖艶な息遣い。 時間からしてほんの数秒だったけど、僕にとってはとても長い時間だった。 「ソラト…」 彼女から出たその言葉はとても甘美な声で、今まで味わったことの無い淫心を感じてしまう。 でもそんな感情とは別に、“この先に進んではいけない”と頭の中で響く。 「ゴメンねキミ… これ以上は出来ないよ。」 そう言って優しく彼女を引き離す。 「そう、だよね。 ゴメン、今のは忘れて…」 しょんぼりとする彼女を見て僕は、なんだか切ない気持ちと共に安堵を覚えた。」 「でも、‘キミ’はちょっと酷いかな。 そうだソラト。 ボクの名前を決めてよ!」 「えっ!? 僕なんかが決めちやっていいの?」 「貴方だから決めて欲しいの。 ボクの、恋したソラトだから。」 真剣な眼差しの彼女。 本気な事が判る。 でも、そう言われてもな、うーん… 暫く悩んでいる時ふと、父さんが幼い頃に読み聞かせてくれたおとぎ話を思い出す。 ある日、退屈していた少女が、ウサギを追いかけながら大きくなったり小さくなったり、お茶会をしたりはたまた女王さまに襲われたりする童話だ。 幼過ぎたから所々おぼえていないが、僕が唯一父さんに読み聞かせて貰った懐かしい御伽噺だ。 「…じゃあ、アリス! 今日から君の名前は"アリス"だよ。」 「ありす? アリス! ありがとうソラト。 ボクが貰ったこのアリスって名前、大事にするね!」 良かった、気に入ってくれたみたい。 ---- [[悲しき絆 中編【輪廻転生の絆】]]へと続きます。 #pcomment(コメント@嘆きの偽り,5,above)