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悪魔のキッス の変更点


作者:[[ウルラ]](旧:イノシア)
 
&color(red){※この作品には官能的表現が含まれています};
 
**悪魔のキッス [#j1ca6308]


 薄く空に張った雲の切れ間から、月明かりが淡く射し込む。夜の草原に広がるその光景は、まさに幻想的と言っても差し支えないほどに良い眺めだった。
 昼は鳥ポケモン達がさえずり、そして夜は静寂が辺りを支配する。その中を一人歩くと、草を踏む音が辺りに響く。しかし、小気味良いその音に耳を傾けながらも、何か別の音が聞こえてくる。……多分、あいつだろう。
「ふふふっ。また来たんだ……懲りないね」
 目の前の方向からしていた気配が突然消えて、後ろからそんな声が掛かる。少し高めで幼い、それでいてどこか艶のある声。だが、聞きなれた自分にとって、それは最悪『いやなおと』にしかなっていない。
「お前が、だろ? ここの夜景が綺麗で来てるのに、それを邪魔してるのはお前の方じゃないか」
 『たくっ……』と悪態をつくと、そこら辺のふかふかの草の上にドサっと座り込んだ。それに合わせるかのように、紫色の体をひらひらと揺り動かしながら隣にゆっくりと座り込んでくる。それに睨みを利かすと、『なにか?』というように平然とした顔でそう言ってくる。
 幽霊なのかポケモンなのか。今の自分にはよく分からないが、心を落ち着かせたいという欲求の邪魔にしかならない奴であることは確か。とにかくこいつの存在が『邪魔』だった。


 数分経ってもそこから消えようとしないそいつに、とうとう痺れが切れる。いつもこのパターンで、しかもこちらが言い負けてしまうことも忘れて。
「何でお前はここに居座るんだ」
「あなたがここにいる理由と、さして代わりは無いよ」
「邪魔なんだが」
「いつからここはあなたの所有地になったのかな」
「別の場所でもいいだろ」
「ならあなたが別の場所に行けばいいのに」
 ……もう返す言葉が無かった。
 ため息をつくこちらを見て、くすくすと笑うそいつ。……憎たらしい。
 ふとそいつはふわふわとこちらに近づいてきて、さわりと俺の頬を手のようなヒラヒラとしたもので撫で上げた。いきなりのことに驚きを隠せずに呆然としていたのを見て、そいつはくすくすとまた笑う。相変わらず弄られるのは俺の方が一枚上手なのかもしれない。
「それに私はお前じゃなくて、ムウマージ。前も言ったよね? いい加減覚えてほしいなぁ……」
 そいつ……つまるところムウマージがそう最後にぽつりと言った、その言葉が妙に頭に響く。何故だろうか、いつもは耳障りなムウマージの言葉が、そんな風に聞こえたのは。よくは分からない。ただ、妙に懐かしさを感じたのだけは覚えている。
「どしたの?」
「ちょっ! 顔近いって!」
 考え事をしていた時にそいつはいきなり目の前に顔を出す。横からとか後ろからとかそんなレベルじゃない。唐突に目の前に現れたのだ。勿論そんなことをされて驚かないわけにもいかず、後ろに手をついてしまう。そんな咄嗟の行動にはさすがのムウマージも驚いたらしく、目を見開いていた。だが、すぐに落ち着きを取り戻し、笑い出す。……今度は盛大に。
「あっはっは! ごめんップッ……まさかこんなことで驚くとは思わなかった、からさ……フフッ」
「るせぇ……」
 微妙に思い出し笑いをしながら謝るそいつ。顔が火照っていくのが自分でもよく分かった。捨て台詞のような一言を呟いた後、つくづくこいつには敵わないな、と思ってしまった自分がいたのだった。


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 ドン、ドン、ドン、カラカッカ……と、祭り太鼓の音が聞こえてくる。
 結局あの場にいてもムウマージは退きそうにもなかったので、家に帰ろうかとも思った。でも、家には誰もいないだろう。静寂としてはいいが、閉鎖的な場所はあまり好きじゃない。それで草原の音でも聞いてようかとも思ったのだが、最近はムウマージがあのように占領していて落ち着けたものじゃない。
 「はぁ……」と、祭りの楽しそうな声の中で一人ため息をついた。
「もうお盆か……」
 誰に言うでもなくそう一人呟くと、星が少しだけ輝いている夜空を仰ぎ見る。そういえば、お盆は死んだ人が現世に降りてくるとかいう話を聞いたことがある。あのムウマージが現れたのもお盆に入ってから。そう考えると、あいつはお盆が終わればいなくなるのかもしれない。そうすればあの草原でやっとくつろげるはずだ、と思う。そう思いたい。
 そんな風に自信がもてないのは、単にあのムウマージがなかなかあそこから退いてくれない事だけではなかった。こういうことに関してだけではなく、昔から自信を持つこと自体が苦手で、引っ込み思案だった。今では『彼女』のおかげでこれでも大分緩和された方だ。昔の自分であれば、あのムウマージに反論することすら出来なかっただろう。しかし、反論してもあのムウマージには敵わないが……。
「さぁさぁ! 見てって見てってー! エーフィの綱渡りだよー!」
 どこからかそんな威勢の良い声が聞こえてくる。どうやらサーカスの真似事をして客を寄せているのかは定かではないが、どう見ても明らかにエーフィは震えていた。そりゃそうだ。高さが七メートルもあろう二つの三脚の間に吊るした、かなり不安定な綱。そんな場所を渡れとトレーナーに言われても、恐怖の方が先行して普通は拒むはずだろう。
 だが、トレーナーに怒られる方がはるかに恐いのだろうか、そのエーフィは観客の目の前で恐る恐る綱に足を踏み出していく。周りの観客はきっとエーフィが震えているのを分かっているのだろう。分かっていても誰もそれを止めようとはしない。そう、自分にその不幸が降りかからなければどうでもよいのだ。
「あっ……」
 途端、会場がざわめく。それはエーフィが足を踏み外した瞬間に起きたざわめきだった。ふと、自分の足が驚くほどに軽く動く。まわりの観客の一部が、こちらを見ている。でも、そんなことなどお構い無しに、綱の真下へと一気に駆けた。そして、腕に来た衝撃をしゃがみ込みながらゆっくりと受け止めた。
 それからほどなくして上がる歓声。止めろ、聞きたくもない。見ているようで見ていないような奴らの戯言なんか……。そんなことを思いながら、無意識に腕の中にいるエーフィを抱きしめた。
「坊主、ありがとうな」
 そう言って近づいてくる中年の男に、俺は睨みを利かせる。男はいかにも「なんだよ……」と言いたげな顔でこちらを見る。その顔で堪えていた怒りが爆発した。
「あんたはポケモンを何だと思ってるっ!」
「はぁ? 何言ってんだあんた……」
 その男の言葉に同調するかのように、周りの観客は頷く。エーフィは手の中で震えている。戻りたくないのだろう、この男の下に。なら、なおさら後には引けない。
「このエーフィが恐がっていたのが分からなかったのかっ!」
「分かっていたさ。でもだから何なんだ。ポケモンは人のために使われる。それが今の常識だろう?」
 こういうことを言われるのは分かっていた。だからこそ昔から俺は一人だった。引っ込み思案なのもこれを言われ続けたのが原因かもしれない。でも、俺は間違ったことをしているなんてこれっぽっちも思ったことはない。男はエーフィの方に手を伸ばしてなおも言った。
「ほら、さっさとエーフィをこちらに渡さんか。大切な商売道具なんだよ」
「渡すかよ!」
 俺はエーフィを離すと、逃げるように視線で促す。それを見てエーフィはすぐさまあの草原の方へと走り去っていった。それを見て怒り狂ったように男はこちらへと駆け寄って胸倉を掴んできた。
「なんてことしやがる! 俺の大切な商売道具を!」
 更に男は殴りつけてくる。顔に強い衝撃が来て、目の前で火花が飛んだのが見えた。ははは……本当に見えるんだな、星って。
 薄れ行く意識の中、俺はそんなのんきなことを考えていた。



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 虫たちの声が聞こえる……。目を開けると、そこには静かないつもの広場があった。まだ屋台などの骨組みは残っているが、あらかた片付けてしまったらしい。祭りはもう終わり、ということらしい。何もなくなってしまった広場の片隅で、寝転がりながら俺は何をやっているんだろう。そして、あのエーフィは無事に逃げられただろうか。
「考えても、埒明かないか……」
 誰に言うでもなくそう呟くと、腫れぼったい顔を片手で抑えながらゆっくりと体を起こす。
 いつからこんな時代になってしまったのだろう。昔にあったポケモンと人との共存関係なんて本当にどこにも無い。ただ服従関係としてのみ、モンスターボールは機能するようになってしまった。最近ではポケモンの脳に直接指令を叩き込んで、トレーナーの指示には絶対に従うように作られているらしい。一部では反対派がそれに対して反発運動が起こったが、多数が正当化されるこの世界では意味を成さなかった。あるとすれば、朝刊紙の一面に大きく取り上げられたことだけだろうか。
 俺の母親はポケモンと共に生きるべきだということを訴え続けてきた、ライターだったらしい。だがその行動が災いしたのか、人々の反感を買い、何者かによって殺されてしまったらしい。でも、それと同時にそれを同じ考えを持つ人々も多くなったらしい。しかし、それがこの社会全体を変えるには至らず、今では収束の時を迎えていた。
 今家にいるのは母の妹。ポケモンとの共存関係を否定していて、主従関係を反対していた母親の息子だからと言うことで、俺に対するあたりは厳しいものだ。だからこそ俺は、少ない安息を求めてあの草原に通っていたのだが……。
(あのムウマージに場所をとられて……俺の居場所は)
 もう、無いに等しいのかもしれない。家に帰ったってきっと俺の居場所は残されてはいないだろう。
「ただいま……」
 今にも消え入りそうな声で家の中に入ると、そこには物凄い形相をして玄関口に立っている叔母さんの姿。何か言いたげな口をきゅっと結ぶと、俺の顔にはり手を飛ばしてきた。勿論それを避けるすべも無く、また顔に傷を増やしてしまうわけだが。叔母さんは口を開いて怒号を飛ばした。
「また騒ぎを起こしたね! あんたは本当にいつになれば分かるの! あんたの母親が目指した未来は幻想なの! だから殺されたの!」
 俺はただ黙りこむしかなかった。確かにそうかもしれない。結局今の時代を変えるには俺一人が頑張ったって変わらない。何かを変えることなんて所詮俺には無理なのだ。叔母さんは俺にこうも言った。
「もう……出てって。ここから」
 叔母さんはそういい捨てると、俺の体を突き飛ばして外に放り出し、そしてドアをぴしゃりと閉めた。そしてその後に鍵を掛けられる。
「ははは……」
 そう。……俺の居場所はもうどこにもない。


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 草原の方へと歩みを進める。ただ、何も考えずに。
 でもどうして草原の方に向かっているのだろう。あの場所には、あいつが……。
 でももしかしたらもういないかもしれない。という淡い期待も虚しく。あいつはやっぱり草原にいた。
「ははっ……無様だろ? 笑いたいなら笑え。笑ってくれ!」
 腫れている俺の顔を見てあいつは笑うだろうと思った。でも、あいつはなぜか笑わなかった。ただ、無表情でこちらに近づいてきて……。
「馬鹿……」
 いつの間にか、俺はムウマージに抱きしめられていた。何故かはよく分からない。でも、何故だか懐かしいかおりがする。
「私が生きてるとき、無茶はしないでって言ったのにっ……!」
 生きてるとき……? ああ、そういうことか。
 その言葉の意味を理解したとき、何だか目から何か熱いものがこみ上げてくる。
「ごめん……約束、忘れてて」
「やっと気付いたの……? もうっ……馬鹿……」
 そうか。今まで感じていた懐かしい言葉遣いも、性格も。全ては幼馴染の彼女だからこそだった。昔、流行病にかかって亡くなってしまった、俺の考えに賛同してくれた数少ない友達の一人だった。いや、本当に俺のことをわかってくれていたのは彼女かもしれない。そう、そして彼女は目の前にいる。そして、この草原にいた理由も分かった。
「お前は、この草原の眺めが好きだったもんな……」
「うん。だからこそ、ここにいた。まさかあなたがくるとは思わなかったけどね」
「俺に来ないで欲しかったのか?」
 その言葉に何か突っかかりを感じて、俺は咄嗟に聞いた。すると彼女は少し困ったような表情をしたが、すぐに答えてくれた。
「そういうわけじゃないの。でも、今はポケモンだからさ。一緒にいるところ、町の人に見られたらまたあなたが軽蔑される。だからあえてああいう振る舞いをしてたの」
「そうか……。でも、もう意味ないけどな」
「ふふ……そうね」
 目の前にいる彼女はムウマージ。でも、確かに彼女は俺の幼馴染みだった。ポケモンに生まれ変わったのか。それとも魂がポケモンになったのか。詳しいことは分からない。本当は細かいことなんてどうでも良かった。ただ、ここにもう一度居場所が生まれたのだから……。
「ねぇ……」
「ん……?」
 ムウマージのとなりに座り込んでから少しして、彼女は口を開いた。彼女の紫色の顔は少し赤みを帯びていて、何だか話をするのに戸惑っているようでもあった。
「久しぶりにさ……アレ。やらない?」
 彼女の言いたいことが、そのときの俺には分からなかった。アレとは何なのだろうかとずっと首を捻らせていると、ムウマージは呆れたようにため息をついて言った。
「もう。ドギマギしながら言った私が馬鹿みたい。……性交のことよ」
「……っ」
 本当はその言葉を口にした彼女の方が、顔から火が出るほど恥ずかしいのだろう。でも何故か俺の方が恥ずかしかった。大分ご無沙汰だったとはいえ、雰囲気とかで『アレ』の意味を理解できなかったなんて。そんな様子を見かねてか、彼女はため息をついて言った。
「……で、答えは?」
「お前が……いいなら」
「こっちが聞いてるんだから勿論そのつもりでしょ? ……じゃ、やろうか」 


----



 彼女は、草原のふかふかとしている草の上に身を投げ出すように仰向けになった。とはいっても今の彼女はゴースト。つまるところ幽霊なので、どさりという重たい音もしなければ、ただふさっという草が曲がる音しかしなかった。
 俺は服を脱いでからムウマージの上に覆いかぶさる。彼女のようになるべくゆっくりと伏せはしたものの、意外とこの体制は辛い。というか……。
「えと。何すればいいんだ」
「……前みたいにやってくれればいいの」
 ……そう彼女は気楽には言うものの、今の彼女はムウマージというポケモン。人の体とは決定的に何かが違うはずだし、何というかやりにくいものがあった。とりあえず前にやったように愛撫から始めればいいのだろうか……。
 そう思うより早く、俺は行動に出ていたのかもしれない。気付けば、俺はまるでムウマージの体を知っているかのように、いきなりスカートのようなヒラヒラの中に手を突っ込んで、弄(まさぐ)り始めていた。
「んっ……」
 何やら少し突起した軟らかいものに指が当たると、彼女は艶を帯びた、くぐもった声を上げる。つまるところここが彼女の乳房で尚且つその中心の突起はアレか。どうやら基本的な姿かたちに関してはあまり人とは大差がないらしく、これなら違和感無く行為を進められそうだ。
 今度はそのヒラヒラの中に顔を埋(うず)めると、彼女は「な、何するの」と慌てたように聞いてくるが、それを無視してそのまま顔をその乳房の方まで持っていく。
(少し冷たいな)
 彼女の体は案外ひんやりしていて、温かさとはちょっと無縁。それが少し残念に感じられたものの、彼女は目の前にいるし、ゴーストタイプだから仕方ないと、そういう考えで流すことにする。
 気を取り直して乳房のところに口を持っていくと、そのまま舌で突起を撫で上げた。
「んんっ……」
 不思議なヒラヒラで隠れているからか、前に彼女とやっていたときよりも結構感じているような気がする。その証拠に少し舐めただけで、彼女下の方の口は濡れそぼっている。おもむろにそこに指を入れた。
「あっ……ちょ……二つ同時には……」
 突起を舐めて、更には秘部を指で攻める。以前にもやっていたが、やっぱり反応が今回激しい。ご無沙汰だからだろうか。
「あっ……んくっ」
 指でそこを弄り続けていると、段々と水が指をつたって草の上に落ちる。
 ……もうそろそろ、いいだろうか。
「ちょっと待って。……まだ、そっちの準備が出来てないでしょ?」
 こちらが何を考えていたのかを悟ったのか、彼女は急に身を起こしてそう言ってくる。……確かに、こちらのモノはまだ一回も触れられてはいないが、個人的にはもう本番に入りたい。しかし、それはどうやら彼女が許してはくれないようだった。
「うっ……」
 手で扱きあげるのかと思いきや、彼女はいきなり逸物を口一杯に頬張り、舌で舐め上げていた。その刺激に耐えられずに思わず声を漏らす。それを聞いて彼女は口の端を吊り上げた。
「ふふふ……やっぱりいきなりだと弱いんだ」
 多分昔の行為のときに、いきなり触られて声を漏らしていたのを覚えていたのだろう。相変わらず彼女はこういうことにまで負けず嫌いの性格を持ち込んでくるから困る。いや、別に楽しければいいのだが。
「んっ……ふっ」
 あまり声をださないようにはしているのだが、どうも彼女の舌遣いが巧妙なもので。彼女はきっと感じやすいツボのようなものでも知っているのだろうか。もしそうだとしても、彼女は大分加減をしているように感じる。もっと本気を出せば、俺なんて簡単に果てさせることが出来るのに。
「んっ……じゃ、そろそろ……」
 いきなり逸物から口を離して彼女はそう言うと、再び自分から仰向けの体制を取る。そして、紫色のヒラヒラを手で退けると、こちらに手招きをした。
「本番にいこうか」
 俺は頷くと、彼女に近づいて行った。彼女の上にゆっくりと覆いかぶさると、片方の手でしっかりと狙いを定める。ゆっくりいれるか入れまいか微妙に悩んでいると、彼女はそれを知ってかしらずか、くすくすと笑う。
「何? 恐いの?」
 それは彼女からの催促のようなもの。しかし「早くして」とは彼女の性格から、絶対に言いたくはない言葉なのだろう。それを聞いてこちらも少し笑うと、首を横に振って言ってやった。
「そんなに急かさなくても俺は逃げないって」
「もうっ……」
 彼女は急かしているということを俺に悟られたのが恥ずかしかったのか、赤面してそっぽを向いてしまった。入れるなら今かもしれない。
「えい」
「ひゃん!」
 唐突に膣の中にモノを突っ込んだ所為か、彼女は大きく体を浮かして喘ぎ声を上げる。その後にこちらに涙目で睨むような視線を向けてくる。
「悪い悪い」
「……謝るなら動かして」
 はいはい……と生返事をしてから、腰を前後に振り出すと、彼女はふてくされた声を甲高い喘ぎ声に変える。それを聞いて更に興奮が高まり、動きを更に加速させた。
「うっ……あっ……はぁっ……!」
 力強く前後運動を繰り返す度、彼女は快楽に溺れ、体がそれに耐えようと動く。しかしどんなに動いてもこの繋がりが途切れることなんて無い。ただ、彼女のそこに着実に命を宿すために、俺は本能という人間が捨てかけたものに身を任せていた。
「あんっ……ふぁっ……んくっ……!」
 くちゅりくちゅりという淫らな水音も声に重なるようにして紡ぎ出される。……こういくら言葉で綺麗に取り繕ったところで、結局「交尾」をしていることには変わりはないのだが。それでも、自分自身の中にある恥というものを消し去るには、頭の中でこんなことを薄らと考えることが俺には必要だった。というよりも、そうしないとある意味没頭できないのかもしれない。
「ああっ……! もう……ダメっ……」
「んっ……くっ……」
 彼女も俺も限界を迎えて来ているようで、段々と下半身から何かが上がってくるような奇妙でいて心地良い感じがし始める。そろそろラストスパートとでもいこうか。
 そう考えるよりも先に、体の方が率先して腰をのふり幅を大きくしていた。そのスピードがだんだんと上がっていく中、俺は最後に向けて彼女と口付けを交わす。行為の最初にやったような深いものではなかったが、お互いの気持ちを再確認するには十分だ。
「んっ! ……あぁぁぁぁあ!」
「はぁんっ!」
 やがて俺は彼女のやや冷たい体を強く抱きしめると、彼女の中に熱い滾りを放った。逸物はこれでもかというほどに彼女の体にモノを注いでいるというのに、彼女の体は満足していないようで、膣を捩じ上げるように俺のものに纏わりついてくる。追い討ちをかけるかのようなその強烈な刺激に腰が砕けそうになったが、気を失っている彼女を下敷きにするわけにはいかないと、腕を張ってそのままの態勢を保つ。そして腕の限界を感じると、俺は彼女の横にそのまま倒れこむのであった。



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 ……うるさい。
 けたたましく鳴くオニスズメの声に安眠を邪魔されると、俺は起き上がってからそう呟く。まだ寝ぼけ眼で辺りをゆっくりと舐めるように見回すと、ガバっと立ち上がって言った。
「あれ。ムウマージは?」
 風でそよぐ草原のどこを見ても、彼女の姿は見当たらない。いないと心の何処かで悟った瞬間、何かを水を全てひっくり返したかのように頭の中が真っ白になる。ひっくり返されたのは水じゃないかもしれない。真っ白なペンキをぶちまけられたのかもしれない。それ位、今の俺は心に中に大きく空虚な部分が出来上がってしまった。
 俺はこの草原という『居場所』を手に入れた。だから何なのだろうか。それはあくまでまやかしに過ぎない。それを今更になってようやく知った。何故俺は彼女に消えて欲しいなんて思ったのだろうか。もしかしたら、それが彼女を消してしまったのかもしれない。あまりそんな非現実的なことなんてあまり信じないが、人間であった『彼女』が『ポケモン』になっていた時点でそれは覆されている。
 もう、本当に彼女はいないのだろうか。
「……お前は」
 ふと、目の前に淡い紫色のほっそりとした体を持つポケモンが現れる。というよりも、さっきから居たのだろうか。よく見ると、昨日助けたエーフィだった。一体俺に何のようなんだろうか。恩返しでもしてくれるとでも言うのだろうか。
『恩返しと言えば、恩返しかもしれない』
「は……?」
 いきなり聞こえた声。それは彼女の声ではないものの、確かに聞こえた。だが、どこから聞こえたのかが分からない。頭の中に直接響いた声。まさかと思い、目の前にいるエーフィに目を凝らす。
『よく分かりました。私よ、今の声』
 ただ訳も分からずに、エーフィをじーっと眺めていると、そいつは溜息をついてから再び言葉を俺の頭の中に流し込んでくる。
『あの時、助けてくれてありがとう。ちょっと遅れたかもしれないけれど、恩返しがしたい』
 とりあえずこのエーフィの言っていることがよく分からない。あまり働かない頭で必死に考えているからだろうか。いまいち状況を把握できていない俺の様子を見て気付いたのか、エーフィはまた喋りだす。
『何が何だかよく分からないみたいだから、単刀直入に言うね』
「あ、ああ……」
 咄嗟に返事をしたので少し篭ったような生返事になってしまったが、エーフィはそれを気にせずに真剣な面持ちで言った。
『あのムウマージに、まだ会いたいと思うならついて来て』
 エーフィはそう告げると、他には何も言わずにただ踵を返して歩き出した。俺は迷うよりも先についていくしかなかった。今の俺には、あいつしかいないから。



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 エーフィについて行くと、やがて草原から森の中に入り込む。あんな明るい場所からきたとは思えないほど、暗い森の中を進んでいくと、目の前にある屋敷のようなものが見えてくる。それがみえたところで、エーフィは歩みを止め、こちらに振り返って沈黙を破った。
『彼女は普段、ここにいるの。夜になると度々あの草原に行くみたい』
「そう、だったのか」
 その古めかしさにもほどがある、ぼろぼろの屋敷をずっと眺めていると、エーフィは何も言わずに草原の方へと戻っていった。……行くか行かないかは自分で決めろと言うことなのか。
「よし……」
 答えは最初から決まっていた。俺の居場所があの町にないのならば、俺は彼女と共に住まうことを望む。つまるところ、俺は……。
 ――軋む扉を開け、抜けそうな床を踏みしめ、埃被った赤絨毯の上を歩いて、ムウマージの名前を呼ぶ。日が出ているというのに薄暗いこの屋敷のどこに、彼女はいるのだろうか。
「ん……?」
 ふと視界の隅に何か見覚えのあるものが横切る。もしかしたらという淡い気持ちを持ちながら、それが横切った方向へと足を進める。やがて両扉を開けると、そこには寝室があった。
「やっと来てくれたんだ。相変わらず朝は弱いのね」
「ここにいるならそう言ってくれてもいいと思うんだが」
 いきなり聞こえた声に少しうろたえはしたものの、それが彼女の声だと分かった途端、何だか気持ちが落ち着いていく。その場で半回転して振り返ると、そこには夜に見かけたままの彼女の姿があった。紫のひらひらした手で彼女は扉を閉めると、しばらくお互い目を合わせたままだった。その沈黙を破って、彼女は口を開いた。
「ここに来たってことは……覚悟したんだ」
「少なくとも、この選択肢しかないけどな。今の俺には……」
 そう皮肉っぽく返すと、彼女は目に涙を浮かべて言った。
「分かった。じゃあ……結婚しよ?」
 彼女にとっては嬉しいのだろう。普通の人間の結婚とは訳が違う。人とポケモンが婚姻を結ぶのにはそれなりに周りの目を気にしなくてはいけないし、何より、彼女はゴーストタイプであるからして。
「ああ。その前に、俺はそっちに逝かないとな」
 こういう覚悟が必要であることも、俺には何となくだが分かっていた。彼女は大きく息を吸うと、やがて俺を冷たいひらひらで包み込んだ。冷たいのだが、どこか温かかった。
「じゃあ、いくよ」
「ああ……」





 ――こうして俺たちは、婚姻の儀を結んだ。しかし、一つだけ気になることがある。


 逝く寸前に、彼女の口元がつり上がったのは何でだろうか……。


  
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 これ書いた時色々と鬱状態でした。
 感想がありましたらお気軽にどうぞ。

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