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恋という名の願い3 の変更点


作者名:[[風見鶏]]
作品名:恋という名の願い3

前作:[[恋という名の願い1]]
   [[恋という名の願い2]]
・流血表現が若干含まれています。
・GW中に更新予定だったのですが、遅れてしまい申し訳ありませんでした。
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「……う」
 朝日がグレイシアの頬を照らす。決していい目覚めとは言えない。
 だがグレイシアは体をすぐに起こす。
「おはよう、グレイシア」
 イーブイがすでに起きていた。ほかのみんなはまだ寝ているようだ。
「みんなはまだ寝ているから、私たちで話しましょう? こっちにきて」
 イーブイはグレイシアを誘導する。
 そこはシャワーズがいつも泳いでいると見られる小さな池だった。

「――っ!」
 いきなりイーブイが抱きついてきた。そのままグレイシアは地面に倒される。
「な、何するの? 痛いよ……」
「ごめんね、でも、もう少しだけ、このままでいさせて……」
「……」
 グレイシアはそのまま受け入れた。もし断れば、イーブイは深く傷ついてしまうのだろう。
「グレイシア、死ななくてほんとによかった……、私、心配したんだよ?」
「……ごめん」
 グレイシアはそれ以外の言葉は思いつかなかった。
「黙って死んだら許さない、許さないんだから……」
 そう言ってイーブイは抱きしめる力を強くする。
「っ! い、痛いっ」
 やけどの傷がまだ痛む、グレイシアはイーブイを引きはがそうとする……が、
 予想以上にイーブイの力は強かった。
「は、放して、苦しいよ……」
 グレイシアはもがく。

 しばらくして、ようやくイーブイがグレイシアはら離れる。
「……ごめんね、こんなことしかできなくて」
 イーブイはグレイシアに背を向けていう、
「……」
 グレイシアは何も言うつもりはなかった。純粋にイーブイの気持ちは嬉しい。
 たとえどんな形であろうとも、イーブイが自分をどれほど思ってくれているか、
 それが伝わったから……。
「私、戻るね」
 それを言い終わると同時にイーブイは足早に立ち去って行ってしまった。

「……」
 グレイシアは湖面を見つめる。
 自分の姿はひどいものだった。やけどの跡が生々しく残り、
 フレアドライブを受けた個所は大きなあざとなっている。
 こんな傷でよく生きて帰れたものだ。今更だがそう思う。
「……そろそろ戻るか、みんなもたぶん起きてるだろう」
 グレイシアは寝床のほうへと戻る。

「あ、おはよう、グレイシア」
 ブースターがこちらに気づく。心なしか少し疲れた顔をしている。
「おはよう、みんなはまだ起きてないの?」
 グレイシアは尋ねる。
「うん、エーフィとブラッキーはまだ全然、よほど無理してたからね……」
 リーフィアが二匹を見ながら言う。
「う……、僕は大丈夫だよ……」
「ブ、ブラッキー! 大丈夫なの?」
 ブラッキーが声に反応したのか起き上がる。
「一晩休んだからだいぶ楽になったよ、さ、早く行こう」
 嘘だ、それは見た目からでもわかる、実際立ち上がるだけでもだいぶつらそうなのが見てわかる。
「無理しないで、ブラッキー」
 グレイシアは勇むブラッキーを諭す。
「大丈夫だよ、これくらいの傷……」
 そう言いながらブラッキーはその場にへたり込んでしまう。
「ブラッキー! ほら、やっぱり無理してるじゃないか」
 グレイシアはやさしくブラッキーを近くの寝床につれて行く。
「情けないな、グレイシアはこれだけの傷を負って動けるのに、
 僕は全然動けないなんて……」
 ブラッキーは自嘲した笑みを浮かべる。
「そんなことない、僕が動けるのはみんなのおかげなんだ」
 グレイシアはブラッキーにやさしく言う、
「その中に僕はいない、おまけにみんなの足を引っ張るような傷まで負って帰ってきた。
 やっぱり、情けないよ」
 ブラッキーはグレイシアから目をそらす、背中が時々痙攣するあたり、泣いているのだろう。
「ブラッキー……、もしブラッキー自身が何もできていないと思っているんだったらそれは違う。
 ブラッキーはジラーチの居場所を見つけてきてくれた。それも危険を顧みず一匹で、
 ブラッキーは十分に働いてくれたよ。それも一番重要な役を……」
 グレイシアは思いつく限りの慰めの言葉をブラッキーにかける。
 もう誰一人として失ってはいけない、悲しんではいけない。

 みんながいてからこその僕たちなのだから。

「そろそろエーフィも起こしたほうがいいかもしれないな」
 サンダースがみんなのほうを見る、
「そう、ね……」
 ブースターが静かな口調で言う、

「エーフィ、起きれる?」
 ブースターがエーフィを起こす。
「うぅ……」
 エーフィがうめき声とともに目をあける。どうやらあまりいい目覚めではないようだ。
「……私、倒れちゃったんだ」
「うん、相当無理していたのね」
 ブースターがエーフィの背中をなでる。
「ごめんなさい、回復が使えるのは私だけなのに、倒れてしまって」
「いいんだよ、おかげで立てるまでに回復した。十分だよ」
 グレイシアが言う。
「それよりも、立てる? エーフィ」
 リーフィアが聞く、
「大丈夫みたい、少し休んだらだいぶ回復したみたいね」
「なあ、そのあさのひざしで、ブラッキーの傷、何とか出来ねえかな、
 起きたばかりでこんなこと言うのもなんだけど、動けるまでは回復した方がいいと思ってな……」
 サンダースが恐る恐る言う、
「そうね、実際サンダースと同じことを考えていたわ、エーフィ、無理は言わない、
 もし余裕があれば頼めないかしら」
 シャワーズもブラッキーとエーフィを交互に見ながら言う。
「わかった」
 エーフィはそう一言だけ言うと目を閉じる。
 エーフィは強い、実際だいぶ回復したというのは嘘だろう。
 ただみんなを心配させたくないだけ、グレイシアにはそう見えた。
「ごめん、エーフィ、負担かけちゃって……」
 ブラッキーは申し訳なさそうにつぶやく。
「いいのよ、無事に帰ってきてくれただけで十分、じっとしてて」
 エーフィは目を閉じたまま言う、実際技を使いながら話すのは集中力がいるのかもしれない。
 だから大声を出した後、集中力が切れ、あのときは倒れてしまったのだろう。

 ブラッキーが立てるようになるまではさほどかからなかった。
 とは言ったものの、実際はブラッキー自身、無理をしてるようにグレイシアには見えた。
 あさのひざしの効果は全体が対象なので、グレイシア自身も傷は回復してきていた。
「ブラッキー、今から行くとどれくらいかかりそう?」
 イーブイが聞く。
「さほどはかからないよ、でも、隠されているから見つけるのに時間がかかった。
 もし何もなければ同じ場所にあるはずだよ」
 ブラッキーが少し考えるような口調で答える。
「そう、ならさっそく行きましょう、……くれぐれも罠に気をつけて、ね」
 シャワーズが言う、この状況下でまだ冷静さを保てるところが彼女のいいところだ。
 これから頼りになるかもしれない。



 ブラッキーの言う通り、
 ジラーチの囚われている場所を見つけるまでにそれほど時間はかからなかった。
「ブラッキー、ここであってるか?」
「……うん、あってる」
 ブラッキーがうなずく。
「静かすぎないかしら、なんだか怖いわ……」
 リーフィアが不安そうな顔をする。
「ここからは敵の領域、気をつけましょう」
 エーフィが鋭いまなざしで周囲を見渡す。
「ブラッキー、相手はギャロップだけだったの?」
 ブースターが聞く。
「うん、でも勝てなかった。それどころか傷一つ負わせることができなかった。……悔しいよ」
 ブラッキーは唇をかみしめながら答える。
「大丈夫、今度は私たちがいるわ、絶対ジラーチを取り戻しましょう」
 ブースターが決意のまなざしを向ける。
「……うん!」
 グレイシアはうなずいた。



「敵がいないのなら、おそらくすんなりとギャロップを見つけられるはず。急ごう……!」
 グレイシアは周囲に気を配りつつも自然と早足になっていた。
 ほかの全員もグレイシアに続く。
「おやおや、挨拶もなしに入るなんてずいぶんですね、みなさん」
「……っ!」
 全員が一斉に周りを見る。だが、ギャロップの姿は見当たらない。
「探しても無駄さ、モニター越しに君たちの姿を見ているからね」
 声はスピーカーから出ていた。この世界にスピーカーは珍しい。
「機械? なるほどね、ジラーチの研究にはうってつけってことかしら!?」
 ブースターが殺気立つ、
「おちついて! 冷静さを失ったら、負けよ」
 シャワーズがブースターを諭す。
「う……ごめんなさい」
「正解、もう研究は最終段階に入っている。グレイシア、君に助けられるのかな?」
 挑発的な口調だ。こちらに冷静な判断をさせまいと考えているのか?
「相手にするな! 奴はいない、ほっといて先に進もう」
 ブラッキーが叫ぶ。
「そうね」
 エーフィがその後に続く。
「頼もしい仲間がいるみたいだね、少しは楽しませてもらえそうじゃないか。
 ……待ってるよ、ジラーチの王子様」
 それきり、ギャロップの声は聞こえなくなった。

「待ってるよ……罠じゃないかしら?」
 ブースターが低い声音で聞く。
「罠でも行かなきゃいけない、何とかするしかないね」
 グレイシアが押し殺した声で言う。
「罠はない、これは確実に言えそうね」
 シャワーズがはっきりした口調で言った。はったりではない確信じみたものを感じる。
「な、なんでそんなことがいえるの?」
 イーブイが少し驚いたような声音でシャワーズに問いかける。
「ギャロップは自分自身の力を過信している。わかるわね? 
 さっきの声だって、向けられたのはグレイシア、あなただけだった。
 悔しいけど私たちは、ギャロップの眼中には入っていない。
 でも、それがチャンスでもある、みすみすグレイシア一匹のために罠を張るとは思えないし、
 私たちの力を侮っている油断がギャロップを打ち負かすチャンスでもある。
 そこを、つきましょう」
 正直驚きしか浮かばなかった。シャワーズはどこからここまでの答えを見つけ出したのだろう?
 全員は黙ってシャワーズの後をついて行く。

 シャワーズの言う通り罠らしきものはなかった。そして研究室とみられる部屋が見えてくる。
「ここね」
 シャワーズが小声でささやいた。
「みて、ギャロップよ、まだこっちには気づいていないみたいね」
 リーフィアが小窓からなかを見る。グレイシアものぞいてみると、
 前足で何かを操作しながらモニター画面を見つめているのがわかる。

「奇襲をかけましょう、私がドアを開けるわ」
 ブースターが身構えドアに渾身の体当たりを繰り出す。
 いとも簡単にドアは外れ、ギャロップははっとしたように音の方向を見る。
「くらいなさい!」
 シャワーズがブースターの背後からハイドロポンプを打ち出す。
「ちぃっ!」
 ギャロップは高く飛び上がり回避を試みるが、間に合わない。
 そのまま水の勢いに流され壁にたたきつけられた。

「決まった、の?」
 イーブイが注意深く見つめる。
「いたた、ったく、おてんばが過ぎる子供たちだ」
「そ、そんなっ!」
 ギャロップはいとも簡単に立ち上がる。これにはシャワーズも驚きを隠せなかった。
「み、みずタイプは弱点のはず、なのにどうして平気なの!?」
「ふふふっ、この部屋を見て気づかない? 王子様なら分かるんじゃないかな?」
 まるでこちらの動揺を楽しんでいるかのような笑い声、
 グレイシアは全身の毛が逆立つような怒りを感じる。
「……にほんばれ、間違いないな」
 怒りを押さえ、グレイシアは答える。
「ご名答、研究している僕がこの部屋を住みやすい環境に変えないはずないだろ?」
 ギャロップは嘲笑を浮かべる。シャワーズが歯ぎしりするのが見えた。
「それでも! この技は弱点には変わりない!」
 シャワーズはさっきよりも深く気を吸い込み、ハイドロポンプを打ち出した。
「あははっ! これこそ敵の思うつぼ、……なんてね」
 ギャロップはよけるそぶりもなく、シャワーズと同じように息を吸い込む。
「僕がほのおばかりだと思ったら大間違いだよ」
 直後、ギャロップからまばゆい光を放つ光線が打ち出される。
「これはっ! シャワーズ! よけて!」
 グレイシアは打ち出され気づく、あれはソーラービームだ。
 にほんばれの影響で威力、準備時間ともに強化されている。タイプはくさ……シャワーズが危ない!

「くっ!」
 サンダースがシャワーズを突き飛ばす。ソーラービームはサンダースに直撃した。
「くうぅっ!」
 サンダースが絞り出すような悲鳴を上げる。
「的確な判断だ。さすが、とだけ言っておこうか」
 ギャロップは相変わらず上から目線でこちらの怒りを引き立てようとする。
「だ、大丈夫? サンダース!」
 シャワーズがブースターに駆け寄る。
「……はっ、おまえに殴られるほうがよっぽど痛いぜ」
 サンダースは強がりを言う、本当は無事なわけがない。
「なによ、せっかく心配してあげたのに」
 シャワーズは軽くサンダースをはたく
「いつっ! な、なにすんだよ!」
「でも、ありがとね」
「……おたがいさまさ」
 シャワーズはサンダースを守るようにギャロップのほうに身構える。
「もう油断したりはしないわ!」
 啖呵を切る、それでもギャロップの反応は薄い。いや、むしろこちらの言動を楽しんでるようだ。

「あのさ、君たちの目的ってなんだったっけ?」
 ギャロップがまとわりつくような笑みで聞いてくる。
「な、なにさ、もちろんジラーチの救出――っ!」
 そうだ、肝心のジラーチ! 彼女はいったいどこにいるんだ?
 グレイシアはあわてて周りを見渡す。
「やっと気付いた? あっはははっ! 本当に君たちって幼いねぇ、全然周りが見えてない。
 それじゃあジラーチを助けるなんて無理だね。諦めなよ」
 グレイシアは自分の頭に血がのぼるのを感じた。
「まって! グレイシア! 挑発にのったらだめよ!」
 リーフィアがグレイシアを止める。
「くっ、わ、わかってる」
 本当に許せない、今この場所で八つ裂きにしてやりたい、

「ふふふっ、優秀な仲間がいてよかったね、王子様、じゃあそのお姫様にあわせてあげようじゃない」
 ギャロップが機械を操作する。
 すると、地面が開き、何かのシェルターのようなものがせりあがる。

「……っ! ジラーチ!」
 その中にはジラーチが力なく横たわっていた。
「あ、グ、グレイシア……」
 声に精気がない、よほどつらいことをされてきたのだろう。
「おまえ……、ジラーチに何をしたっ!」
 グレイシアは自分が不思議に思うほど憤っていた。
「言わなかったかな? 願いの力、ただそれを奪っただけさ、もちろんまだすべてじゃないけどね」
 ギャロップはさも当然のごとく答える。
「いったいなんなの? その願いの力って……」
 イーブイが尋ねる。
「いいよ、せっかくだから教えてあげる。ジラーチの目的ぐらいは知ってるよね?」
「願いをかなえるためにやってきた。それであってるはず」
 エーフィが答える。
「そう、正確に言うと願いの力って言うのはそれのことなんだ。願いを叶える力、
 どんな願いもかなえる力、それを集めたらどうなるか、想像できるよね?」
 ギャロップの瞳が怪しく輝いている。
「膨大な力、それは何よりもすばらしいものだと思わないかい? 
 富を権力も、すべて力で手に入れられる。ふふふっ、考えただけで鳥肌が立つ、
 もうすぐそれも実現するんだよ!」
 狂ってる。直感的にグレイシアは感じ取れた。
 周りのみんなも、沈黙したまま何もいおうとはしない。おそらく考えていることは同じなのだろう。

「ギャロップ、かわいそうだね」
 グレイシアはつぶやく。
「……っ? 何をいってるんだ? かわいそう? この僕が?」
 ギャロップはこちらをあざ笑うような表情でみる。
「富や権力よりも大切なものはあるはずだよ、まだ僕にはわからない、
 けど、そんなものよりも絶対素晴らしいものがあるはず」
 グレイシアは確信に似たようなものがあった。
 根拠はまだないはずなのに、僕はそれを信じている。
「へえ、甘ちゃんだね、なに? それは恋人とかでも言うの?」
 ギャロップはこちらの話をまともに聞こうともしない。
「あんたにはわからないだろうね! 少なくとも俺はそう思うよ!」
 サンダースが叫ぶ、こころなしか傷をかばっているように見える。
 やっぱり無理をしてるんだ。
「どうやら君たちとは分かり合えそうもないね」
「分かり合うつもりなんてないわ!」
 ブースターが突き放すように言う。
「やれやれ……、嫌われたもんだ、じゃあ、そろそろいいかな?」
 ギャロップが身構える。
「くっ!」
 一斉に全員は散らばる。固まっていてはまとめてやられる可能性があるからだ。

「へぇ、賢いね、少しはできるようになったんだ。でもそんなんじゃあ僕には勝てない。
 研究の成果、試させてもらおうかな」
 突如ギャロップは瞳を閉じる。
「……!?」
 グレイシアは足を止める。
「願いの力、まだ半分もものにしてないけど、途方もないパワーだ。……かえんほうしゃ!」
 ギャロップは赤々と燃え上がる炎を吹き出す。その標的は……ブースター!?
「えっ! わっ、私!?」
 特製のもらいびでダメージは受けないはず。当然ブースターはそれを受ける。
「……うっ!?」
 受けたブースターは急に崩れる。
「ブ、ブースター!?」
 グレイシアはブースターに駆け寄る。
「不思議がってるみたいだね」
 ギャロップが陰険な笑みでこちらを見つめてくる。
「まさか炎を受け切れなかった……?」
 ブースターが震える体を上げる。
「ご名答、君の保持できる許容量を超えたんだ。ふふふっ、自分には絶対の自信を持っていたかい?
 もはや力の前には相性も関係ないんだよ」
 目を細め、ギャロップは満足した表情をする、いや、恍惚としたというほうが正しいかもしれない。
「そ、そんなっ、グレイシア、ご、ごめんなさい」
 ブースターは立ち上がることすらできないようだ。
 これが俗に言うオーバーヒートというものなのだろうか、
「ブースター、物陰に隠れて、きっと何とかする」
 グレイシアはギャロップを見据える、
 だか、勝てるのか? 膨大な力を持つ今、こちらの攻撃は無力に等しい、
 よけるのにも精一杯だ、
「くそっ……」
 自然に悪態をつく。
「ふふふっ、その様子だと勝算はないみたいだね。大人しくしてくれれば、楽に殺してあげるよ?」
 ギャロップは不気味にほほ笑む、
「こ、殺されてなるもんですか……絶対に!」
 ブースターは反発する。
「じゃあ、痛い思いをしなくちゃならないね」
「なぜ殺されないといけないんだよ!」
 グレイシアは叫ぶ。
「いっただろ? 僕は願いの力をすべてものにはしていない。
 そのためには、君たちは邪魔なんだよ」
 何の感情もこもっていない、こいつは命をなんだと思っているんだ……。
「ジラーチの残りの力、それは生命と一つになっている。
 ジラーチから生きる希望を奪わない限り、その力はものにはできないんだ」
「……っ!」
 ま、まさか……!
 ギャロップの口元がさらにつりあがる。こちらの考えを呼んでいるのだろうか。
「理解できたかな? なぜそこの傷だらけの坊やを逃がした理由が……」
「私たち……、はめられたのね……」
 エーフィが言う。
「そう、すべてはグレイシア、君をここにおびき出すため、
 ジラーチは確信していた、君が生きていることをね、だから僕は力を奪うことができなかったんだ。
 だから……、今度はジラーチの目の前で君を殺す」
 最後のフレーズは、いやにグレイシアの頭に響いた。
「殺されない、僕は、ジラーチと一緒に帰るんだ」
 なぜだろう、どうして僕はこんなに守りたいと思うのだろう?
「へぇ……、熱心だね、どうして諦めたりしないのさ?」
 ギャロップはグレイシアにたずねる。
「わからない、でも、これが僕の本心だから、ジラーチを守りたい、それが僕の意志だから」
 グレイシアはためらいなく言う。
「わからないなぁ……、どうして死ぬとわかってそっちの道をいくのかね」
「君にはわからない、いや、わかるはずもないよ……」
「っ! ジ、ジラーチ! 無事なんだね!」
 壁に手をつきながらだか、ジラーチは実際立っている。
「うん、無事じゃないけどね、グレイシア、やっぱり助けに来てくれたんだ。ありがと」
 実際意識を保つのがやっとというような状態だ。
「ふうん……、なんか面白くないなぁ……」
 あからさまにギャロップの表情が険しくなる。
「絶対あなたなんかには屈しない、屈してなるもんか!」
 ジラーチはかつてないほどの怒りをあらわにしている。
「ジラーチ、必ず助け出すからね」
 グレイシアはそう言うとギャロップに身構える、
「気に入らない、気に入らないなぁ! どうしてさ! 
 どうしてそんなに根拠のない虚勢が張れるのさ!」
 心なしか焦っているようにグレイシアには見えた。
「こうなったら何もかもねじ伏せてやる! おまえたちを殺せば、
 だれもジラーチを助けてくれるポケモンなんていない! 覚悟しな!」
 人格が変わった!? こちらをあざ笑っていた瞳は、今や憤怒の瞳へと変貌していた。
「みんな、今ならまだ間に合う、逃げて」
 グレイシアは全員に言う。
「いまさら何言ってんだ! たとえ地獄の底でもついて行ってやるよ!」
 サンダースがグレイシアの肩をたたく。
「あら、死ぬ前提なんて暗いわね、生きて帰るにきまってるでしょ?」
 シャワーズはサンダースの頭をはたく、
「ちぇ、また上げ足とるのかよ」
「二匹とも……」
「もちろん、お付き合いするわ、みんなで力を合わせれば、絶対勝てる、
 直感じゃない、私自身がそう思うの」
 リーフィアがこちらを見て微笑む。
「当然、付き合うさ、あんなこと言われて黙ってるわけにはいかない。
 ……それに、グレイシアには借りもあるからね」
 ブラッキーはギャロップを見据えたまま言う。
「グレイシアに全力で協力する、ただそれだけ」
 エーフィはそっけなくただ一言そう言った。
「こんな私でよかったら、最後までお供させていただくわ」
 ブースターが震える体でグレイシアに語る。
「グレイシア、いつも一緒なんだからさ、そんなこと言うのはなしだよ。
 たとえどんな困難でも、私はついて行くよ」
 最後にイーブイ、
「みんな、ありがとう、そして、ごめん」
 グレイシアの口調は今までとは変わっていた。
「友情かい? そんなもの! 今に後悔させてやる!」
「くぅっ!」
 ギャロップは炎を纏い半狂乱で突進してくる。軌道が読めない分厄介だ。
 それぞれは物影を利用したり、回避行動に移ったりと何とか直撃を避ける。
 何とか動きを封じなければ、いずれ被害が出てしまう。
「ブラッキー、動ける?」
 グレイシアは小声でブラッキーに話しかける。
「なんとかね」
 あまり話すような余裕はなさそうだ。
「エーフィ!」
 エーフィはだまってうなずく、どうやら聞こえているようだ。
「そういうことね、わかったよ、ただ、やられたらすまん、それだけ言っておくよ」
 ブラッキーはそう言うとグレイシアから離れる。

「はっぱカッター!」
 リーフィアは攻撃し、注意をひきつける。
「くさタイプの技なんてよけるまでもないね!」
 ギャロップはそれを無視し突進する。
「くっ、よ、よけきれない……っ!」
 ギャロップの背後にブラッキーが現れる。
「……っ!」
 すぐにギャロップは気配に気づき、攻撃を中断する。
「くそっ! 早いな! 普通気づくか!?」
 ブラッキーはすぐに飛びずさる。
「甘いんだよ! 終わりだ!」
 ギャロップは勝ち誇った笑みを浮かべる。
 そしてブラッキーめがけ、勢いよくフレアドライブを打ち出した。

「かかったね」
 ブラッキーの体があり得ない動きをする。
「なっ!?」
 ギャロップのフレアドライブは空しく空を切る。
「エーフィ、ありがとね」
「無茶するわね、つぎはないかもよ?」
 エーフィが念力でブラッキーを操作したのだ。
「よけただけで何になるんだい? 要はその操ってるのを攻撃すればいい話……っ!?」
 ギャロップはエーフィに標的を向ける。しかし、ギャロップの体は動かなかった。
「なんになるか、それは一瞬のすきだね、僕はそれがほしかっただけ」
 グレイシアの周りにはブリザードが渦巻いていた。
「い、いつの間に……!」
 ギャロップの右前脚が深く凍りついていた。
「そんでもってこれだっ!」

「ぐあっ!」
 サンダースは凍りついた足に向かいにどげりを繰り出す、
 すると、いとも簡単に足は砕けてしまった。
「肉体は普通のままのようだな、これで動けねえだろ、観念しな!」
 サンダースが勝ち誇った表情を見せる。
「く……くそ……、僕の負けだよ、……なんて言うと思ったかい?」
 ギャロップが紅蓮の炎を吐きだす。
「なっ! 呼び動作がねえぞっ!」
 サンダース高く飛び上がる、炎は壁を黒く焼く。
「フェイクにきまってるだろ?」
「なっ!」
 サンダースは飛び上がったばかりで動けない。
 エーフィもブラッキーを持ち上げているので頼れない……。
「サンダース! ……くそっ!」
 グレイシアがサンダースに向かい飛び上がる。
「予想通りだね。必ず君が助けに来ると思っていたよ」
「……!?」
 しまった、また、はめられた……?
「終わりだ! かえんほうしゃ!」
 赤々と燃え盛る炎がグレイシアに放たれる。
「うぐうぅっ!」

 グレイシアはそのまま壁にたたきつけられる。そして、力なく床へと崩れ落ちた。
 その体はやけどの跡などなく、皮膚が炭化するほどに焼けてしまっていた。
「……」
 その場のだれもが言葉を失った。

「終わったね、どうだい、ジラーチ、君の王子様の姿は?」
 ギャロップが震えた声でジラーチにたずねる。笑いをこらえるのに精一杯のようだ。
「待て……、勝手に終わらすな……」
「……っ! まだ、息があるのか?」
 さすがのギャロップも驚きを隠せないようだ。
「今の一撃、そのまま、いや、倍にして返すよ」
 グレイシアの周囲に光が収束する。
「……っ! ミラーコートか! くそっ!」
 ギャロップはその場から逃げようとする、がバランスを崩し、その場に倒れこんでしまった。
「これが僕の最後の攻撃だ!」
 ギャロップに向かってまばゆい光の束が発射される。直後、グレイシアは床に伏せる。
 立つことすらもうままならない、
 グレイシアが耐えた理由、それはこらえるで何とか耐えしのいだ結果なのだ。
 故に体には限界が訪れていた。

「う、うわああぁっ!」
 ギャロップの恐怖の叫び声とともに轟音がとどろく。
「終わったね」
 ブラッキーがグレイシアに駆け寄る。
「ジラーチを救出しましょう。……これね」
 エーフィが機械を操作する、エスパータイプだからなのか、何のためらいもなくボタンを押す。

「あっ……」
 ジラーチのシェルターのドアが開く。
「よかった……、これで、終わったのね」
 シャワーズが安堵の表情を浮かべる。
「でもグレイシアが……」
 イーブイが泣きそうな表情でグレイシアを見つめる。グレイシアは床に伏せたまま動けないでいた。
 皮膚を完全にやられたのだ。体温調節どころか、呼吸すら危なくなってきていた。
「大丈夫、まだ命の灯が消えてないなら、また私がよみがえらせる。……何度でも」
 エーフィがきっぱりという。
「その時は僕も協力させてもらうよ。必ずつきのひかりを覚える」
 ブラッキーもエーフィに同委の意向を示す。
「ご、ごめん、みんな、ありがとう」
 グレイシアがとぎれとぎれの声で言う。
 こんなに危ない思いをしたのに、なぜか後悔はなかった。
 ジラーチが無事である、その事実だけで、なぜか満足だった。

「グレイシア、私のために、ありがとう、そして、ごめんね」
 ジラーチがグレイシアに語りかける。
「ジラーチ、また君と会えて、よかった……」
「私もだよ」
 ジラーチが笑顔で笑いかける。……不思議な気分だ。
 こんなにもジラーチの笑顔が輝いて見えるなんて……。
「グレイシア、もうそれ以上しゃべったらだめ、傷に触るわ、ただでさえ瀕死の重体なのに……」
 リーフィアがグレイシアを気遣う、正直ここまできたら安静も何もないのだが。
「そう、瀕死だから君は生き残った」
「っ!」

 疾風のごとく、ギャロップがグレイシアに突進する。
 誰も反応することができなかった。
「だから今度は瀕死じゃない」
 グレイシアは宙に放り投げられる。
「即死だ」
 ギャロップの角がグレイシアを貫く。
 グレイシアは声も上げなかった。ただ、言葉の代わりに血がギャロップの体を深紅に染める。

「い、いやあぁっ! グレイシア!」
 ブースターが悲痛な叫び声を上げる。
「その悲痛な叫び声、いいねぇ」
 ギャロップはグレイシアの亡骸を無造作にほうり投げる。

「……だめだわ、心臓を貫いてる」
 リーフィアが顔をそらす、認めたくない事実なのは間違いない。
「グレイシア……? そんな」
 ジラーチが半分うわごとのようにつぶやく。
「ギャロップ! なんでお前が生きてるんだ……!」
 サンダースが鋭い形相でにらみつける。
「願いの力、それ以外のなにものでもないけど?」
 ギャロップはさも当然のごとく答える。
「ま、まさか……」
 エーフィはわなわなとふるえている、
「ふふっ、そうだよ、願いの力は不可能を可能にする。その証拠がこの僕さ」
 ギャロップの右前脚は元に戻っていた。
 いや、それどころかギャロップは傷一つ負っていなかった。
「そんな! じゃあグレイシアは何のために戦ったの!?」
 半ばヒステリックになりながらイーブイは叫ぶ。
「無駄じゃないさ、ジラーチに絶望感を与えるのに十分な働きをしてくれた」
 真っ赤に染まったギャロップの顔が邪悪にほほ笑む。
「あんたってやつは……!」
 ブラッキーが今にもとびかかりそうな勢いで身構える。
「だめよ! ブラッキー、あなた一匹で勝てる相手じゃない!」
 リーフィアが止める。

「ジラーチ、君の王子様は死んだ。もう、つらいことにこだわる理由なんてないんじゃないのかい?」
 ギャロップがジラーチにささやきかける。
「そっか、そうだよね……」
 ついにジラーチの心が折れ始める……、
「ジ、ジラーチ、だめだよ! 屈しないって言ったじゃない!」
 イーブイが必死にジラーチを諭す。
「じゃあ逆に聞くよ? 屈しない理由なんてあるのかい? もうないでしょ?
 いっそのこと全部捨てて、グレイシアと一緒にあの世で幸せに暮らしなよ?」
 ギャロップはやさしい口調でジラーチに語りかける。
 その声はいやに耳に残るささやき声、聞いている全員が身の毛のよだつような嫌悪感に襲われた。
「……」
 ジラーチはうつむいたまま何も言おうとはしない。
「さあ、シェルターの中にもう一度はいって、すべてをあきらめなよ、
 そしたら、楽になれるから……さ」
「……」
 ジラーチが一歩前に踏み出す。
「ジ、ジラーチ! 行っちゃだめよ!」
 リーフィアがジラーチの手をかむ。
「いたいよ、リーフィア、もう、私、楽になりたいや」
 ジラーチはリーフィアを払いのける。その目には精気は宿っていなかった。
「ジラー……チ?」
 茫然と見つめるしかなかった。
「ふふっ、そう、それで何もかもが解決する」
「待って、待ってよ! グレイシアは何のために頑張ったの?
 あなたを、ジラーチを救いたいから、命をかけたんじゃないの?
 その命を、簡単に捨てないでよ!」
 イーブイがジラーチに叫ぶ、
「……」
 その声にジラーチの歩みが止まる。
「グレイシアがいなくなったら、もう私の存在意義なんて、ないよ」
 その言葉を言うと、ジラーチはシェルターの中に入って行った。
「ジラーチ……もう、私たちのジラーチはいなくなっちゃったの?
 グレイシアだけじゃなく、ジラーチも消えちゃうの?」
 イーブイもリーフィアと同じようにただ立ち尽くすしかなかった。
 自分たちではジラーチを支えられることなどできなかったのだ。
「なんで……? どうして? グレイシア、目を覚ましてよ……っ、
 いつものように私たちに笑顔を見せてよ、ジラーチに、元気な姿を見せてあげてよ……、
 悔しいけど、あなただけしか、ジラーチにはもう届かないんだからさ……」
 ブースターの頬から涙が伝い、グレイシアの亡骸に滴り落ちる。
 当然のことながら、グレイシアが反応するはずもなかった。
「これで、すべてが終わる、長かった……。
 ジラーチ、せいぜい、あの世でグレイシアと仲良くするんだな」
 ギャロップは機械を操作する、すると、シェルターが不気味な作動音を立て、
 ジラーチはシェルターの中心部分につり上げられる。
「う……」
 ジラーチは小さくうめく、
「ふふっ、すぐ楽になるからね」
 ギャロップは手慣れた手つきで機械を操作する、



「……おかしい、なぜ反応しない?」
 ギャロップの表情が曇る。
 ジラーチはただ瞳を閉じて、じっとしている。
「ジラーチ、聞いて! なぜ装置が反応しないか、その理由がわかる?
 それはあなたが生きる意志のある証拠! ジラーチ、お願い! 帰ってきて!」
 突然エーフィがジラーチに向かい叫ぶ、なぜかエーフィの表情はかつてないほど険しい、
「わたしが、まだ生きたがっている?」
「そう、あなただってわかってるはず、グレイシアがどんな気持ちでここまで来ていたのか!
 あんな傷を負ってまで、なぜあきらめなかったか!」
「エーフィ! ま、まさかあなた!」
 リーフィアが気づく、エーフィはサイコキネシスで機械の働きを押さえていたのだ。
「すべてはあなたという大切な存在を守りたかったからよ!」
 余裕はない、それは誰から見てもわかるほどエーフィは厳しい表情をしている。
「それ以上言うな!」
 ギャロップが呼び動作のないかえんほうしゃを打ち出す。
「させないっ!」
 ブラッキーがそれを受け止める。どうやら呼び動作がない分威力は低いようだ。
「僕たちは絶対にジラーチを助ける、それがグレイシアの願いだから。
 だからジラーチ、君もあきらめないで」
 ブラッキーはエーフィをかばうように前に構える。
「ブ、ブラッキーの言う通りよ、ジラーチ、グレイシアは生きている、
 こんなこと言うたちじゃないのかもしれないけど、私たちの思い出の中に、
 グレイシアはずっと存在するのよ、そ、それは私たちがいきてるかぎり、
 ずっと、ずっと永遠に……」
 それを言うと、エーフィはこと切れたかのように意識を失った。
「エ、エーフィ、ううっ!?」
 サイコキネシスが途切れ、本来の苦しみがジラーチを襲う。
「やってくれたね……、こうなれば、強行手段でやるしかないな」
 ギャロップはまた何かの操作を行う。

「っ! うああっ!?」
 ジラーチが苦痛の叫び声を漏らす。
「最大出力だ、そう長くは持たないはず、できればこんなことはしたくはなかったけどね、
 力をすべて奪えるわけじゃないから……」
 ギャロップはそう言いながら振り返る、そこにはイーブイ達がギャロップに身構えていた。
「さて、問題は君たちだね、絶対、許さない」
 ギャロップは冷たい表情で七匹を見つめる。
「もともと許してもらうつもりなんかないわ!」
 シャワーズが鋭い声を浴びせる。
「そうかい、まあ命乞いしても許さないけど、僕も全力を出させてもらうとするよ」

 すると、ギャロップの炎の色がオレンジから、闇色に変わる。
「なっ、なんだ……」
 その場のだれもがその姿にくぎ付けとなった。
「どうせ僕はこの力を使うんだ。今使っても何の支障もないだろう?」
 ギャロップの姿は言うならば闇、体色、炎、そのすべてが深い黒、
 瞳だけが血を思わせる深紅に染まっている。
「ふふっ、手始めに君たちを葬ろうか」
 そう言うと何の予兆もなくかえんほうしゃが飛んでくる。
 いや、それはもはやかえんほうしゃの域を超越していた。
 言うならばはかいこうせんに例えるのがふさわしいだろう。
「うおぉっ!」
 それはサンダースのすぐ頭上をかすめる。
「あれ、外れちゃった。まだ力を制御できていないのかな」
「非常識だろ……」
 サンダースが思わずつぶやく、さっきの一発で壁には巨大な穴ができていた。
「ふふ、やっぱり力は素晴らしいよ、これはまだ半分だとすれば、もっと素晴らしいのが……」
 ギャロップの赤い瞳があやしく細まる。

「この狂信者め! これでもくらいなっ!」
 サンダースは激しいかみなりを打ち出した。それは目にもとまらぬ速さでギャロップに直撃する。
「何かしたかい?」
 表情一つ変えない。
「マジかよ……」
 サンダースは毒づく。
「それじゃあこっちの番だね」
 踏み切りなくギャロップは風のような勢いでサンダースに突進する。
「ぐぅっ!」
 ギャロップが圧倒的に速い、
「サンダース!」
 イーブイが叫ぶ、

「……っ!」
 ギャロップの攻撃がサンダースに当たることはなかった。
 ギャロップはバランスを崩し、鉄製の壁に叩きつけられるようにして倒れこむ。
「な、なにがおこったの?」
 イーブイが倒れたギャロップから身を引きように跳ぶ。

「……っ! あ、あれっ!」
 ブースターが気づく、
「……っ! グレイシア……なの?」
 イーブイが感嘆ともとれる声でつぶやく。
「みんな……、ありがとう」
 死んだはずのグレイシアが立っている。それも傷一つない姿で。
「ぐ……、ばかな、なんで君がいるんだ」
 相当な衝撃でぶつかったようだ、さすがにギャロップもふらつきながら立ち上がる。
「私の力だよ」
「……っ! ジ、ジラーチの力なの?」
 ブースターがジラーチを見る。
「みんなの願い、それがグレイシアを生き返らせたんだよ」
 心なしかジラーチの顔色が優れない。
「で、でもそんなことしたら君も無事では済まないはずだ!」
 ギャロップが叫ぶ。
「奪われるぐらいなら、私は喜んで死を選ぶ……」
 苦しいはずだ、だがジラーチは笑みを浮かべている。
「くそっ! 時間をかけ……ごほっ! ……!?」
 ギャロップが突如吐血する。
「こ、これはいったい……」
 ギャロップの顔があからさまに不安の色を見せる。
「それはね、力が君の体の許容量を超えたんだよ」
「ば、バカな……! そんなことがあり得……ぐっ!」
 ギャロップが片膝をつく、
「おわりだよ、ギャロップ」
 グレイシアはつぶやく。
「まだ、まだこんなとこで終われないのに! 僕には、僕には――」
 そのまま、ギャロップは力を失ったように静かに床に倒れこむ。
「お、終わったの……?」
 イーブイがその場に座り込む、緊張が抜けたのだろう、
 座るというよりもへたり込むというような感じだった。
「ジラーチ!」
 グレイシアはジラーチに駆け寄る。しかし、シェルターのドアは開かない。
「……ならっ!」
 グレイシアは吹雪を機械に浴びせかける。当然、それは凍りつく。
「ブースター、かえんほうしゃをお願いできる?」
「え、わ、わかったわ」
 ブースターはかえんほうしゃを浴びせる、
「なるほど、ショートさせるってことか! さすがだな」
 サンダースは水の浸透した機械に雷を発射する。

 激しく電気を帯びた機械は、ノイズを立てながらその動作を停止した。
 それと同時にシェルターのロックも解除される。
 ジラーチは拘束が解けると同時に床へと落下する、
「ジラーチ! だ、大丈夫?」
 いち早くグレイシアはジラーチを運び出す。
「大丈夫なわけないよ、グレイシア、また君にあえて、うれしいな」
 覇気のない声だ、だいぶ衰弱している。
「僕はいったい……どうなったんだ?」
 グレイシアは当然自分が生きている状況がわからない。
「ふふ、みんなの願いが、グレイシアを生き返らせたんだ。
 みんながグレイシアの生還を望んだ、それを私が叶えたんだ」
 力のない笑みをジラーチは浮かべる。
「みんな……ありがとう……!」
 グレイシアは全員を一瞥する。
「……ごめんね、グレイシア」
 ジラーチが意識しないと聞こえないほどの声でつぶやいた。
「……え?」
「わたし、力を使い過ぎたみたい」
「大丈夫だよ、みんながきっと何とかしてくれる」
 グレイシアはジラーチに元気な笑顔を見せる。
「……ごめんね、グレイシア、もうみんなの力じゃ何とかできないんだ」
 ジラーチの瞳に涙が浮かぶ。
「っ! そ、そんな!」
「願いの力は、いわば私の命、それがもう、残ってないんだ。
 ごめんね、グレイシアの願い、最後までかなえられなかったみたい……」
 それは、ジラーチの頬を伝い、グレイシアの前足にしずくとなって落ちた。
「そしてさ、ありがとう」
 ジラーチは笑う。それは作り笑顔ではない、何のまじりっ気もない純粋な笑顔。
「私、何も後悔してない、幸せだったよ。みんなに出会えたこと、
 そして何よりも、グレイシアに出会えたこと」
「ジラーチ……」
 グレイシアは涙が浮かんでくるのを感じた。
「大好きだよ、グレイシア」
 その言葉は、もしかしたらずっと求めていた言葉なのかもしれない。
「……もう眠くなっちゃったな」
 ゆっくりと、ジラーチは目を閉じる。
「ダメだって……ジラーチ、待ってくれるんじゃなかったの?」
 グレイシアは涙をこらえジラーチにつぶやく。
 しかし、その答えは帰ってこなかった。

 ジラーチ、答えはたった今、見つかったんだよ?

 僕は、ジラーチのことが好きなんだ。
 そして、恋は、教えられて気づくものじゃないんだ。
 僕は、気づけば君を受け入れていた。
 そして、気づいたら君をずっと心配して、気にかけていた。
 そして、次の時には……君を守りたいと思っていた。
 そして今、僕は君を好きだと思っている。大好きだと思っている。
 これが……恋だったんだ。

 なのに、君はいってしまう。
 僕の願いの結末を見ないまま、いってしまう。
 「大好き」
 その一言を聞くこともないまま、
 君だけがその言葉を僕に言った。

「そんなのってさ、ないよ……」
 苦々しくグレイシアはつぶやいた。

「グレイシア! ジラーチは……」
 イーブイの声だ。
 グレイシアは声の方向に振り返る。
「……っ! そんな……」
 イーブイはジラーチを見ずに気づいたらしい。
 今僕は、どんな顔をしているのだろう?
 イーブイの姿が見えない。たぶん、涙で濡れたひどい顔なんだろうな。
「……帰りましょう、もうここに用はないから」
 ブースターが気を使い研究所を後にする。



 その後、僕はどうやって帰ったかは覚えていない。
 気づけば日は流れ、僕はまた、ジラーチと会った丘に来ていた。

「ここが、僕とジラーチが初めて会った場所……」
 そして、この短い恋の発射点。
 思えば、出会いは本当に突然だった。
 初めは右も左もわからなかったっけ。
 いきなり、「恋人だよ」っとか言われてすごく戸惑ったな。
 それも今ではすごく懐かしい。
 そして、僕が突き放して、初めはしぶしぶ承諾したんだよね。

「今でも覚えているよ、君の無邪気な笑い声……」

 そして次にここに来た時、朝日を待ったよね。
 ジラーチは僕のことをずっと思っててくれていた。
 そして笑顔で、僕に語りかけてくれた。
「私、待つね、グレイシアが振り向いてくれる、その日まで」
 その言葉がどれだけ幸せな言葉か、今なら分かる。
 もうジラーチは遠く離れた所に行ってしまったのだから。

「ジラーチ」
 もし遠く離れたどこかで聞いているのなら。届いてほしい。
「ずっと、大好きだよ」
 もしほかの誰かを好きになったとしても、
 ジラーチ、君だけは……ずっと特別な存在だよ。




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 これで、この作品は終わりです。
 ここまで読んでくださりありがとうございました。
 なにかコメントをくださるのならうれしく思います。

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IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:02:55" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%81%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E5%90%8D%E3%81%AE%E9%A1%98%E3%81%84%EF%BC%93" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"

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