作者名:[[風見鶏]] 作品名:恋という名の願い2 前作:[[恋という名の願い1]] ・続きです、少しタイトルからずれた終わり方をしていますがそこはご了承ください。 ・流血表現があります。 ---- 朝日を見届けた二匹はいつもより早めにいつもの遊び場に来ていた。 「あっ! おはよう!」 イーブイだ、みるとほかのみんなはまだ来ていないようだ。 「おはよう、一体いつから来てたの?」 グレイシアは尋ねる。 「え? え~と、三十分ぐらい前かな……」 早い、三十分ぐらい前だと大体自分たちが丘から出た時ぐらいの時間だ。 「いったん何のためにそんな早く出てるの?」 ジラーチが尋ねる。 「細かいことはいいじゃない、ね、それよりもさ、あっち見てみてよ」 イーブイが見つめる方向を見てみる。 「……っ!」 「わぁ……きれい……」 太陽の光が木々の朝露を反射してまるで光の雪のような光景が二匹の目に入る。 「よく晴れた日にしか見れないんだよ、これ」 イーブイはうっとりしながら眺めている。 「あっ……」 しばらくするとその光景は嘘のように消えていってしまった。 「わずかな時間しか見れないんだ。だから、私はこの光景を見たくていつも早く来てるの」 「そうなんだ、眠くないの?」 グレイシアは聞く。 「ううん、もう慣れちゃった。それにさ、私、この景色が好きだから全然苦じゃないよ?」 イーブイは元気な笑顔で二匹に笑いかける。 「さ、もうすぐみんなが来るよ、待ちましょ?」 「そう、だね……」 グレイシアは小さくつぶやいた。 やがて、時間はばらばらだがいつものメンバーがそろう、 そして、いつもと同じように時間が進む。 それで、グレイシアは幸せのはずだった。しかし、心の一部でどこか満たされないものを感じる。 「……」 グレイシアはみんなから少し距離を置き考える。これ以上僕は何を望んでいるのだろう? みんなとの関係も悪くない。ジラーチも何不自由なく笑顔を絶やしていない。 僕自身は、今で十分だと思っている。なのに……どうして? 「ん? グレイシア、どうしたんだ?」 珍しくサンダースがこちらに気づく。 「あ、いや、ちょっと考え事をね……」 「おまえは悩みすぎなんだよ、聞かせてみな」 「えぇ……」 思わず声をあげてしまう。 「なんだよ、俺じゃ不満か?」 「いや、そういうわけじゃないけど……」 「俺だっておまえのことが心配なんだよ、好きだからな」 サンダースは少しそっけなく言う。 「……ありがと、サンダース」 グレイシアは素直にサンダースの気遣いを感謝する。 「べ、別にいいんだよ、友達だしな」 なぜかサンダースは動揺したような表情を見せる。 「さ、みんなに気づかれないようにこっちに来な」 「別に見つかるも何もこの時点で気づかれてると思うけど……」 「いいんだよ! とにかく来い!」 「わかったよ……」 どこか変だ、とりあえず二匹は水を飲む場所まで移動する。 「で、考え事って何だ?」 サンダースは水を浴びながら聞く。 「いや……その……」 実際面と向かって言われるとちょっと恥ずかしい。 「なんだよ、ここまで来てそれはないんじゃねえの?」 渋るグレイシアにサンダースはいらいらし始める。 「その……なんだかさ、何かが足りない気がするんだ」 耳を傾けてなければおそらくは聞こえないぐらいの声でグレイシアはつぶやく。 「……はぁ?」 サンダースはもちろんその抽象的な表現に疑問を示す。 「みんなとの関係も元に戻ったし、ジラーチもみんなに受け入れてもらえた。 だけど……何かがまだ、足りないように思うんだ。それがちょっと……頭に残っちゃって……」 サンダースは少し考えるような表情をする。 「おまえ……もしかして欲求不満じゃなねえのか?」 「ぶっ……! な、なんだよそれ!」 グレイシアはサンダースを睨む。 「まてまて、そんなに睨むなよ、でもさ、そうじゃないのか? 考えてみろよ」 「……」 たしかに考えてみれば、サンダースの言う通り、今足りないものはないはずだ。 それなのに、まだ自分は何かを求めている、 ……欲求不満という言葉を当てはめるのが適切なのだろう。 「どうだ? そうだとは思わねえか?」 サンダースはグレイシアに怪しげな笑みを向ける。 「サンダース、その笑いかた怖いよ……。でも、確かにサンダースの言う通りだね」 グレイシアは若干たじろぎながら答える。 「な? でさ、おまえって、何がほしいわけ?」 「え……」 「たとえばさ、いろいろあるじゃん、もっとみんなに注目されたいとか、 もっといっぱい遊びたいとか……」 サンダースがこっちに近づく。 「好きな人に振り向いてもらいたい……とかさ」 「う……」 グレイシアは壁際まで追い詰められる。 「教えてよ、いや、教えろ」 サンダースの口元がつりあがる。 「ちょっと! 何してんのよ! サンダース!」 ブースターだ! これほどまでに、誰かの助けがうれしく思えたことはない。 「……ちぇ、いいとこだったのに」 サンダースはつまらなそうな表情をする。 「グレイシア、大丈夫だった? サンダース、何をするつもりだったのかしら?」 ブースターはサンダースを睨む。 「おいおい、一方的に悪者扱いかよ、グレイシアが考え事してたから、聞いてやっただけだぜ?」 サンダースは必要最低限の説明をする。 「じゃあ今のは何? グレイシアを襲おうとしてたじゃない!」 ブースターは珍しくサンダースに食いつく。 「お、襲うっておまえなぁ……」 なぜかサンダースはひるむ。 「に、二匹ともやめてよ! 喧嘩はよくないよ?」 グレイシアはあわてて止める、 「ほら、グレイシアもそう言ってる、おまえが考えてるようなことは俺はしてない、 もうちょっと考えてくれよ」 サンダースは少し引き目にブースターに言う。 「……そう、悪かったわね、グレイシア、あんまり無理はしないでね、私も相談に乗るから……」 そう言ってブースターは立ち去る、なぜかグレイシアは悪い気分をとりされなかった。 「やれやれ、どうなる事かと思ったぜ」 サンダースがめんどくさそうにブースターを見つめる。 「ま、おまえにまた詰め寄ると、次はただじゃすみそうにないからやめるか、 あんま無理すんなよ、じゃ、戻るわ」 そう言ってサンダースもまた戻って行った。 「……」 サンダースが言っていた自分の欲求不満……。 自分は何を求めているのだろう? やっぱり……サンダースの言う通り、 好きな人に振り向いてもらいたい……? 「……そんなはず、ないよね」 そもそも自分に好きなポケモンなどいないはず。 その上、僕の印象はそれほど目立たない、もしイーブイ達に好きなポケモンがいるはずなら、 積極的なサンダースや、義理堅いブラッキーを好きになるはずだ。 それに、僕にはジラーチという恋の先生的な存在までもがいる。 好きを語るには場違いなポケモンなのだ。 「おい、何ボーっとしてんだ? さっさと行かねえとまた心配すんぞ?」 サンダースがグレイシアを呼び掛ける。 「あ、うん、今いくよ」 グレイシアはその場で考えるのを断ち切り、みんなが待つ遊び場へ戻ることにした。 「おや? どこ行ってたんだい?」 ブラッキーが尋ねる。驚いた、気づいてないポケモンがいたよ……。 「いや、ちょっと気になることがあったからね」 グレイシアは適当な答え方をする。 「……」 視線を感じてその方向を見る。イーブイが物言いたげな表情で見つめていた。 「……ごめん、サンダースに相談してたんだ、ちょっと考え事があったから」 グレイシアは察して素直に言う。 「サンダースに? 大丈夫だった?」 シャワーズが心配そうに言う。 「おいおい、それひどくねえか?」 「だって、あなたが聞き役なんて似合わないんですもの」 どうやら長年つきあってきて慣れてしまったがシャワーズとサンダースは相性が悪い。 「ちょっと、また喧嘩になるようなことはやめてよ?」 グレイシアは一応二匹に言う。 「……そうね、強く言いすぎた。ごめんなさい」 「お? あ、ああ……」 シャワーズが引いたのでサンダースは拍子抜けしたようだ。 「……よかった」 「ん?」 「グレイシア、ちゃんと頼ってくれたんだね」 イーブイがこちらに微笑みかける。 「うん、なんだか気が楽になったよ」 グレイシアもイーブイに笑い返す。 「なんだなんだ? おまえらもしかして……」 サンダースが怪しむような眼で二匹を見つめる。 「サンダースが考えてるようなことなんてないよ! 変な想像しないで!」 「おおっ? わ、悪かったよ……どなることないだろ?」 サンダースはあまりの剣幕にのけぞる様な姿勢でそう言った。 「……」 しかしサンダースの言葉は周りのみんなに不信感を抱かせるのに十分だった。 「詳しく、聞かせてもらおうかな? イーブイ」 ブースターが静かな笑みを浮かべイーブイに聞く。 「こ、こわいよ、ブースター……」 「大丈夫、イーブイはちゃんと正直に話してくれればいいから、さ、みんなこっちに来て」 そう言ってイーブイは水飲み場のほうにつれて行かれてしまった。 残ったのはグレイシアとジラーチ、そしてリーフィアだ。 「あれ? リーフィアはいかないの?」 グレイシアは尋ねる。 「うん、だってわかるもん、イーブイは絶対に変なことはしない。 ブースターは嫉妬してるのよ。イーブイが知らないところでグレイシアと何かしてるのを」 リーフィアは微笑みながら言う。 「嫉妬……?」 ジラーチが首をかしげる。 「そう、嫉妬、特にブースターは怖いわよ、直感でわかる。 グレイシア、ブースターを傷つけることだけは、やめたほうがいいわよ?」 どこまで本気なのかは分からない、だが、リーフィアの直感は当たる。 「リーフィア、嫉妬って何?」 ジラーチは尋ねる。 「嫉妬はね、うらやましいとかの渇望の感情、ジラーチでいえばもっと一緒に遊びたいとか、 そんな感じかな」 リーフィアは答える。 「そっか、……じゃあ私も嫉妬してるな。グレイシアに」 「なっ……!」 グレイシアは反射的にジラーチから一歩引く。 「ふふっ、だって、グレイシア」 リーフィアは笑顔でグレイシアに言う。 「なんなんだよ……」 全くわけがわからない、自分は何か嫉妬される事でもしたのだろうか? 「……まったく、サンダースがあんな誤解を生むような言い方するからあんなことになったのよ?」 「あ、戻ってきちゃったみたいだね」 リーフィアがブースターたちのほうを見る。 「グレイシア、メスの嫉妬は怖いんだよ? 気をつけてね」 「う、うん……」 相変わらずリーフィアはグレイシアにとって予想ができない存在だ。 「グレイシア、ジラーチ、リーフィア、ごめんね、待たせちゃって」 ブースターが謝る。 「いやいや、いいよ、それよりも誤解は解けたの?」 念のため確認する。 「うん……、イーブイには悪いことしちゃったな」 ブースターの声音が少しだけ下がる。 「いいの、黙ってた私も悪いんだし」 イーブイはブースターを慰める。 「ありがと」 「……」 居心地悪そうにサンダースは少し離れたところにいる。 「サンダース、こっちにおいでよ」 「でもよ……」 珍しくサンダースはへこんでいるようだ。こっちに来るのを渋っている。 「いいんだよ、サンダースは悪くない。もとはと言えば誤解されるようなことをした僕が悪いんだ」 僕ってかばうの好きだよね……。客観的に見て初めて気づく。 「グレイシア、そう言ってもらえるとと救われるぜ……」 サンダースは少し自嘲気味に笑う。 「さ、いやなことは遊んで忘れましょ!」 イーブイが毎度のことのように取り仕切る。 「賛成!」 ジラーチもイーブイに乗る。 「ふふっ」 自然に笑い声が漏れる、 「初めてだな、グレイシアの自然な笑いって」 ジラーチがグレイシアを見つめながら言う。 「え?」 「グレイシアのこんな嬉しそうな顔、はじめてみた。……かわいいね」 「――!」 グレイシアは自分の顔が赤面するのがわかった。 「あははっ、そんな表情も、やっぱりかわいい」 「ちょ、ちょっとジラーチ!」 グレイシアは恥ずかしさを紛らわすかのようにジラーチに怒鳴る。 「ふふふっ」 ジラーチはただグレイシアに笑うだけだ。 ……でも、こういうのも悪くない。むしろこんな日常は楽しい。 みんなが笑いあう日常、これが僕が望んでいたものなのだろうか? 「……もうっ!」 そう、今の僕にはこれは十分すぎる、これがたぶん、僕が望んでいるもの、なのだろう。 そしてまた日は沈む、いつまでもこうしていたい。しかし時は流れゆくものだ。 「あれ? もうこんな時間なんだ、……そろそろ帰らなきゃいけないね」 イーブイが少しさみしそうに言う。 「ほんとだね、じゃあ僕たちは帰るよ、また明日」 グレイシアは言う、ほんとはもう少しいたいけど、最後まで残るのは少し抵抗があった。 「じゃあまた明日、それじゃあね」 ジラーチもみんなにあいさつする。 そしてグレイシア達は広場から出る。 「ちょっと待って」 「……誰?」 グレイシアは声の方向を見る。 「……エーフィ、どうしたの?」 声の主はエーフィだった。 「……ちょっと……ね」 エーフィは二匹に近づく。 「ジラーチ、昨日のポケモン……誰?」 「……っ!」 「エーフィ……、昨日の、見てたの?」 ジラーチは急に険しい表情になる。 「ええ、私が思う限り、どう見ても知り合いではなさそうだけど、……危険な感じがする」 エーフィは静かだが、鋭い言葉で言う。 「……悪いけどいえない、ジラーチもそれを望んでいるし、僕も望まない」 グレイシアはできるだけはっきりという。 「……そう」 エーフィは少しうつむく、彼女なりに勇気を出して聞いてみたのだろう、少し悪い気がする。 「大丈夫、どうしてもだめになった時はさ、相談するから」 グレイシアはできるだけ明るく言った。 「気を……つけてね」 エーフィの表情は変わらなかった。 もしかしたら自分の思っている以上にエーフィはなにかを感じ取っているのだろうか? そう考えるとグレイシア自身も不安になってきた。 「見送るわ、それじゃあ二匹とも、おやすみ」 「あ、う、うん……」 見送るエーフィが小さくなり、やがて見えなくなる。 「……ジラーチ」 グレイシアは話しかける。 「何?」 ジラーチは明るくふるまうがさっきの不安は取りされてなく、少しぎこちない表情だった。 「やっぱり、話せないのかな」 グレイシアは少し遠慮しがちに言う、答えがわかっている質問だからだ。 「……うん、ごめんね」 ジラーチはこちらを見ずに言う。 「そう、ならいいんだ、いやなこと聞いてごめんね」 流すように言う、いやなことは早く忘れたい、それは誰でも考えることだろう。 そして二匹は無言で帰宅した。 「……?」 住処が何かおかしい、 「どうしたの? グレイシア」 「いや……」 グレイシアは少しだけ周りの気配を探る。いやに今日は住処の中の温度が高い……。 「――っ!」 反射的にグレイシアは振り返る。 「おっと、意外とやるもんだね」 ギャロップだ。 「勝手に住処に入ってきて何のつもり!?」 激しくグレイシアは言う、こいつは……危険だ! 本能が告げる。 「決まってるじゃないか、ジラーチを引き取りに来たんだよ」 「……っ!」 ジラーチはグレイシアをつかむ。 「さあ、おとなしく渡してくれれば何もしないから」 ギャロップは笑いかける。しかしその笑顔は身の毛のよだつような笑い方だった。 「……っ」 グレイシアは後ずさりする。 「……だよね、大人しく渡してくれるはずもないか」 ギャロップは身構える、と同時にグレイシアも同じく身構える。 「お互い考えてるのは同じってことかな? なら話は早い、実力行使と行きますよ!」 ギャロップの周囲に炎が上がる。 「ジラーチ、できるだけ遠くに逃げて、僕も必ず行くから」 グレイシアはジラーチに言う。 「そ、そんな! できないよ!」 ジラーチは必死に否定する。 「はやく!」 グレイシアはジラーチを突き飛ばす。 「っ! 逃がさない!」 「きゃあっ!」 二匹を取り囲むように炎が走る。……ほのおのうずだ。 「くっ……!」 まずい……、お互いほのおタイプは弱点だ。このまま持ち込まれれば二匹とも不利だ。 グレイシアの周囲にブリザードが巻き起こる。 「ほお……、ふぶきだね」 ギャロップは身構えようともしない。 「甘く見ると凍りつくよ……」 わざと挑発するような言葉を言う。 「子供の挑発には乗らないよ、そうやって自分に引きつけておきたいんだろ?」 「……っ!」 なるほど、すべてわかってるのか……。 「なら話は早いっ!」 グレイシアはふぶきをギャロップに向ける。 「それくらいじゃあ今の僕にも通用しないよ、……フレアドライブ」 「……っ!」 ものすごい勢いでギャロップが近付いてくる。……ジラーチ、ごめん、何もできなかった……。 「――っ!」 直後、息もできなくなるような衝撃とともにグレイシアは吹き飛ばされる。 そして、まだ燃えていない若木にたたきつけられる。 「う……」 どうやら、骨は折れなかったようだ、しかし、息をするのが苦しい…… 「ふふっ、これが実力の差ってやつだろうね」 ギャロップは背を向け、立ち去ろうとする。 「待て! まだ勝負は……げほっ……」 グレイシアはせき込む、 「……っ!」 血だ、おびただしい量の血がグレイシアの口から流れ出る。 「その様子だと長くは持たないかもね、……まあ炎に巻かれておしまいだけどね」 ギャロップの姿が炎の中にゆらゆらと浮かんでいる。 もしかしたら、自分の視点の焦点が合わなくなり始めたのかもしれないが。 「さよなら、ジラーチの王子様」 そして、視界が暗くなるとともにギャロップの姿は消えて行った。 熱い…… 痛い…… ここはどこなのだろう? 天国? 地獄? 天国は明るくて、たくさん生を終えたポケモンが集まっているという。 なら、ここは地獄かな。 今自分の目の前は真っ暗だ。自分の姿も見えない、そして、さみしくて、痛くて、苦しくて、 僕は何も守れなかったから、その罰で地獄に落ちたんだろう。 ああ、痛い……、苦しい……、楽になりたい……。 もっと深く、ここに堕ちて行けば何も感じなくなるのだろうか? 永遠の孤独の中、何も考えることもなく、やがて自分自身をも忘れて行く……。 熱い…… でも孤独はいやだ。 痛い…… でもなにも忘れたくはない。 僕の周りにいる友達は、親友は、たとえこの身が焼けただれようとも捨てられない。 僕が親友と過ごした日々は、たとえ永遠の痛みが伴おうとも忘れることなんてできない。 そして、なによりも、僕は見つけなければいけない。 答えを、 守らなければいけない。 約束を、 僕という存在は上へと向かう。 上にいくにつれ痛みは強くなってくる。でも、もうそれは苦なんかじゃなかった。 きっと僕の信じているものが待っている、そう確信していたから。 「……グレイシア!」 あ……なんだか懐かしい声、ブースターだ。 「……」 声は出ない、視線を下へと向ける。すると自分の体はひどいやけどを負っていて、 ほんのわずかでも動かそうとすれば、体中が痛む。 「よかった……! 死んだかと思っちゃったよう……」 そう言ってブースターは泣きだしてしまう。 みると、ブラッキーとシャワーズ以外の全員が自分の周りにいた。 「エーフィ、もう休みなよ、もうグレイシアは意識も回復した。 これ以上無理すると今度はエーフィが倒れちゃうよ?」 イーブイがエーフィに言う。 「いいえ、まだ、大丈夫、グレイシアには早くよくなってもらいたいから……」 「……」 それ以上イーブイは何も言わなかった。 「エーフィはおまえが目覚めるまでの七日間、ずっと寝ずにあさのひざしをしてくれてたんだぜ、 ……感謝しろよ」 サンダースは少し苦い顔でグレイシアに言う。 「水を持ってきたわ……、グレイシア! 目を覚ましたのね!」 シャワーズだ。 「水を飲ませてやりな、きっとこれで声も出るはずだ」 サンダースは言う、 「……っ!」 水の飲むと体が潤うのを感じる。しかし、同時に体の中の痛みがうずく。 「……痛いのね、無理ないわ、たぶん内臓にも深刻なダメージを受けてたはずだから……」 リーフィアが心配そうな顔で見つめてくる。 「ごめんね……私もエーフィみたいに技が使えればいいのに……ごめんね……!」 イーブイがついに泣き出してしまった。 「いうな、それを言うなら俺だってそうだ。……すまねぇ」 サンダースがイーブイを慰める。 「み、みんな、ごめんね……」 グレイシアはかすれた声で言う。 「……っ! グレイシア! 声が出るようになったのね!」 リーフィアがはっとしたように立ち上がる。 「うん……みんなのおかげだよ」 グレイシアはみんなを見る。全員、疲れた表情をしていた。 「僕は……どうなったのかな」 グレイシアは気になることを一つずつ聞くことにした。 「……いいわ、私がはなす」 シャワーズが引き受けた。 「私はエーフィに呼ばれてあなたの住処のほうに行ったの、みんなも一緒だったわ。 エーフィがなぜあなたの住処に行ったのかは分からないけど……、 行ったらあなたの住処はすでに火の海だった。私は急いでハイドロポンプで消火をした。 けど、火の勢いは強すぎであなたを見つけた時、 あなたはすでに瀕死状態で呼吸も心臓も止まっていた。 ……正直あなたに代わって私が死にたい気分だった。 もう少し私に実力があれば、あなたがここまでダメージを負うことはなかったのに……」 シャワーズの頬に涙が伝う。リーフィアがシャワーズの肩をたたき、首を振る。 「……ごめんなさい、続きをはなすわね。瀕死状態のあなたを運んで私たちはここ、 一番近い私の住処まで来たわ、火は三日間消えることはなかった、 その間もエーフィはあなたにあさのひざしを浴びせ続け、 みんなはあなたの看病を交代でやり続けた。 そして、火が消えたのだけど、ジラーチは見つからなかった。 これがすべてよ……」 シャワーズはそう言うとその場から立ち去ってしまった。 「……シャワーズもつらいのよ、わかってあげて」 リーフィアが言う、グレイシアは黙ってうなずいた。 「そう言えば……ブラッキーはどこに行ったの?」 その瞬間、周りの空気が少し凍った。 「……ブラッキーはあの日からずっと行方不明なの」 「え……」 ブラッキーが、行方不明? 「あなたを助けだすまで、ブラッキーはいたわ、けど、それからブラッキーの姿は消えてしまった。」 リーフィアの声は何の感情もこもっていなかった。 「そんな……」 「私たちはあの日、たくさんのものを失ったのよ、 ……でも、グレイシアはそれ以上にすべてのものを失った。 教えてくれないかな、いったいあの日、グレイシアに何があったのか」 リーフィアはかつてないほどの真剣なまなざしをこちらに向ける。 「……わかった。みんなに聞かせたいからさ、シャワーズも呼んでよ……」 グレイシアは安定しない口調でそう言った。 そして、あの日起きた出来事を僕はすべて話した。 話すことは、今の自分にはとても体力を使うことだった。 たまに口調が安定せず、少し詰まるところもあったけど、みんなは黙って聞いてくれた。 「……そう、だったのね」 ブースターが静かに言う。実際かなり衝撃を受けていることは間違いない。 「じゃあ、ジラーチはどうなったの?」 イーブイが尋ねる。 「たぶん話によると、ギャロップに連れ去られたっていうのが一番妥当かしらね」 シャワーズが言う、 「でも、ジラーチを連れ去って何になるのかしら?」 ブースターが首をかしげる。 「……私が言うわ、たぶんギャロップの目的はジラーチの願いをかなえる力、 グレイシアの願いをかなえるためにジラーチやってきた、そこを、狙われたのだと思うわ」 エーフィが静かな口調で言う、心なしか声音が震えているような気がする。 「願いをかなえる力……それってもしかして危ないんじゃあ……」 リーフィアがエーフィにたずねる。 「ええ、危ない、このままいけば間違いなくジラーチは殺される」 「そんな! じゃあ今すぐにでも助けに行きましょうよ!」 ブースターが声を荒げ言う。 「いけるのなら既に行ってるわ、ブースター、落ち着いて」 シャワーズが諭す。 「じゃあ私が探しに行くわ!」 「待ちなさい!」 「……っ!」 声の主はエーフィだ、彼女がこんな大きな声を出すのは珍しい。 「あなたもグレイシアのようになりたいの? ギャロップは相当な実力を持っている。 悔しいけど私たちがジラーチ助けるには力を分散させる余裕はないのよ。 もう、グレイシアみたいな犠牲者を出したくないの……わかって……くれ――」 エーフィの体制が崩れる。 「……っ! エーフィ!?」 グレイシアが叫ぶ。 「……大丈夫、疲れて眠っているだけだわ、相当無理してたのよ、ゆっくり寝かせてあげましょう」 リーフィアが言う、 「これから、どうする……?」 サンダースがみんなに聞く、エーフィは倒れた後、グレイシアが元寝ていた場所に寝かされた。 グレイシアは何とか立てるぐらいまでは回復したのだ。 「エーフィは怒るかもしれないけど、やっぱり、ジラーチを僕は探しに行きたい」 グレイシアは言う。 「……それには俺も同意だ、少なくとも一緒の時を過ごした仲間だからな。 殺されるとわかってほっとくわけにはいかねぇ」 サンダースが同意を示す。 「私も、たとえ危険であろうとも、ジラーチを見捨てるわけにはいかない」 シャワーズも言う。 「私も、直感は助けることを否定している。でも、たとえ無駄であろうとも、 仲間を見捨てるほど落ちぶれてはいないわ」 リーフィアが決意のまなざしでグレイシアを見つめる。 「……」 ブースターはだまってうなずく、 「……グレイシアについて行く、だって、ジラーチはグレイシアの大切なポケモンだから」 イーブイが言う、 「みんな……ありがとう」 グレイシアは静かな口調で感謝を述べる。 「でも、どうするの? 場所の見当もついていないのに……」 シャワーズが言う、 「見当はつかないけど、周囲のポケモンに聞くしかないね……」 グレイシアは少し困ったように言う、それしか今は思いつかない。 「その……必要はない」 「……っ! ブラッキー!」 ブラッキーはふらついた足取りでこちらに来る。 よく見ると、ひどい傷を負っている、いったい何があったのだろうか? 「この傷……一体どうしたの!?」 ブースターが尋ねる。 「ジラーチの居場所を見つけた。ここからブースターの家の方角にまっすぐ行ったところだ……」 「しゃべったらダメ! この傷は……まずいわ!」 リーフィアが傷薬を探しに行く。 「悪い、少し休ませてもらうよ……」 そのままブラッキーはこと切れるかのように倒れる。 「ブラッキー!」 急いでグレイシアはブラッキーを安定したところに寝かせる。 「……とりあえずは大丈夫みたいね。一体この傷……どうしたのかしら……」 リーフィアが様態を見る。 「打たれづよいブラッキーがここまでひどい傷を負うってことは、 相当な実力の持ち主にやられたってことね……」 ブースターが心配そうな顔でブラッキーを見る。 ブラッキーは時折苦しそうは表情をするが、静かに眠っている。 「やっぱり、ギャロップ……かな」 グレイシアは言う。 「そうね、おそらく間違いないわ」 リーフィアがブラッキーのけがを見ながら言う。 「……どうして一匹で行ったりなんかしたんだよ……こんなけがまでして……!」 グレイシアはやりきれない気持ちでいっぱいだった。 「……たぶん、許せなかったんじゃないかな、グレイシアを瀕死にまで追い込んだギャロップが」 イーブイが答える。 「ブラッキーはさ、ああ見えてグレイシアのことをとても慕ってたんだよ?」 「慕ってた? 僕を……?」 グレイシアは首をかしげる。 「……覚えていないんだね、昔、ブラッキーはいじめられていたんだ。ほかのポケモンに、 確かあのときは、まだ私たちは遊んでいなかったんじゃなかったかな。 ……連日ブラッキーはボロボロになるまでいじめられて、 その頃のブラッキーは誰も近づかなかった。そんな中でも声をかけてくれたのがグレイシア、 あなただったのよ」 「……っ!」 僕が……ブラッキーを? 「私も詳しいことは分からないわ、でも、これだけは言える。 ブラッキーはグレイシアに深い恩を感じているの、 だからここまで頑張ってくれたんじゃないかな。 だからさ、ブラッキーの働きを無駄にしないように、きっと助けだしましょう」 イーブイがブラッキーを見たあと、グレイシアを見る。その目には、迷いは感じられなかった。 「……うん」 グレイシアは小さくうなずいた。 「水を差すようで悪いけど、今すぐに行くのは得策とは言えないわ」 シャワーズが言う、 「寝床はよういするから、今日はゆっくり休みましょう、 そうしたら、きっとエーフィもブラッキーも目を覚ますはずだから……」 「わかったよ、シャワーズ、ありがとう」 そう言うとグレイシアはシャワーズを手伝う。 「……ちょっと狭くなっちゃったわね、でも、これで一応寝床には不自由しないはずよ」 全員が手伝ってくれたので寝床の準備にはそれほど時間はかからなかった。 「うっ……」 改めて横になるとまだ体が痛む、瀕死から回復したのだ、そうそう簡単に治るはずもない……か、 「大丈夫?」 イーブイが心配そうにのぞきこむ。 「うん、大丈夫だよ、明日、必ずジラーチを助け出そうね」 「……うん」 イーブイは返事をすると自分の寝る場所へと戻って行った。 グレイシアは目を閉じる。 正直、寝るのは少し怖い、もしかしたらこのまま永遠に戻ってこれないかと思えたからだ。 エーフィがいなければ、自分は間違いなく死んでいたのだろう。 そして、自分が目覚める前に見たあの暗い夢、あれは黄泉というものなのかもしれない。 少し前までは死というものがこんなに身近に感じることはなかった。 こんなにも簡単に生物というものは死んでしまうのだ。 ……明日、自分はジラーチに対して何かしてやれるのだろうか? 手遅れではないだろうか? ギャロップの妖しい笑い声が頭の中に残っている。 「……今考えても仕方ない、信じるしかないんだ」 グレイシアは自分にいい聞かせる。 ジラーチ、どうか僕たちが行くまで、無事でいてほしい。 そしてまた、あの時のように遊ぼう……。 決戦前夜、僕たちの体調は決して万全とはいえない。 でも、それぞれが大切な仲間を助けることを考えていた。 ---- ここで一区切りをつけさせていただきます。ここまで読んでいただきありがとうございました。 何かご感想などをいただけると嬉しく思います。 続き[[恋という名の願い3]] #pcomment(,,) IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:02:36" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%81%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E5%90%8D%E3%81%AE%E9%A1%98%E3%81%84%EF%BC%92" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"