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恋という名の願い1 の変更点


作者名:[[風見鶏]]
作品名:恋という名の願い

・官能、流血表現はありません。
・長編を予定しております。
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 星、それは人にも、ポケモンにも願いの対象とされている。
 あるものは好きな人への思いを、そしてまたあるものはこれからの発展を、
 いつの時代でも、星は人々の願いを乗せ、輝き続けてきた。


 これは、ある夏の物語。
 わずかな時間だったけど、この思い出は忘れない。
 僕たちの、永遠の思い出。
 これがあったからこそ、今の僕たちがいると思うんだ。
 きっと、そうだよね?




 ここはとある町、人間たちは、ここにはいない。
 純粋にポケモンたちが形成した街だ。
 決して文化も高くなく、機械なども少ないが、ポケモンたちは不自由なく
 暮らしていた。

 時は夕暮、
「それじゃあまた明日!」
 一匹のグレイシアが元気に別れを告げる。
「うん、また明日ね」
 それに返事をするのは、おっとりした口調のブースター、
 どこか大人な雰囲気が出ている。
「ねえねえ、明日は何するの?」
 早くも明日のことを考えているのは彼らの基本形、イーブイだ。
 むじゃきな性格だがどこか憎めない。
「イーブイ、明日のことは明日、今日は今日でしっかりと休んで決めよう?」
 グレイシアはしっかりとした口調でイーブイに言った。
 文章的には少々きつい言い方かもしれないが、
 その語気にはしっかりと彼女のことを気遣う気持ちがこもっていた。
「わかった、じゃあ明日ね!」
 彼女は素直にグレイシアの言うことに従う、
「よし、じゃあ解散! ね?」
 ブースターが横目で言う、グレイシアはそれに笑顔で合図した。
「うん、そうだね、できれば明日はほかの五匹も最後まで遊べるといいなぁ…。」
 ほかの五匹とは、イーブイ系の残りの五匹だ。
 シャワーズ、サンダース、エーフィ、ブラッキー、リーフィアの五匹…。
「わかった、じゃあ私が誘っとくね!」
 イーブイが満面の笑みで素早くこたえた。
「わかった、ありがとうね」
 グレイシアはもちろん笑顔で返す。
「ふふ、決まりね」
 つられてブースターも笑っている。
 その光景は最近見られなくなってきた和やかな日常だった。
 変わり映えのしない日常、だけどとても素敵な日常。
 グレイシアはそんな日々が大好きだった。
「それじゃあね」
「じゃ~ね~!」
 それを最後に二人の姿は見えなくなった。
 ちょうどグレイシアと彼女らの帰る方向は逆だからだ。
「少し寄り道しようかな」
 疲れていないわけではない、とりわけ今は夏だ、氷タイプのグレイシアに
 とっては帰りたいところだが、そんな気分ではなかった。
「きっと今日は、きれいなはずだ、きっと」
 グレイシアは夜空を見て考え事をするという趣味があった。
 オスがすることではないかわいらしい趣味が故に誰も言えない秘密だ。

「はぁ、なんか最近変だなぁ」
 ある小高い丘でグレイシアはため息をついた。
 いつもグレイシアが来ている、見晴らしのいい場所だ。
 最近妙に異性を意識しているのをグレイシアは感じていた。
 実は今日もかなり内心焦っていた。
 オスが自分一匹だけだったからだ。
 それゆえ、ほかの五匹を誘うように言ったのだ。
 オスは、自分と、サンダースとブラッキー、メスの比率がまだ多いが
 それでも同じ性別がいたほうが安心できる。
「いったいどうしちゃったんだろ」
 幼いころから自分たち八匹はよい仲間だった。
 だけど、いつからか自分は変わってしまった。
 いつからかは分からない、ただ、普通にふるまおうとすればするほど、
 なぜか恥ずかしくなってしまう。
「これは、恋なのかな」
 意識はないけど、きっとそうなのかもしれない。
 結局は幼馴染でも異性なのだ。
 僕が、彼女たちを好きでも……。

「そんなわけないよね。あっ、流れ星だ」
 満天の星空の中、一筋の流れ星が横切っていった。
 雪を散らしたような星空の中に、ただ一つ流れていった流れ星。
 時間にしてみればほんの数秒の光景だが、グレイシアにはそれは特別だった。
 流れ星が見える間に願い事をすれば願いが叶う。
 ただの言い伝えだが、グレイシアにとってはそれはとても心躍る楽しみの一つであった。
「夢でもいい、嘘でもいい、でも、これくらいはいいよね?」
 さあ、何を願おう?
 グレイシアは考える、また見えるとは限らない、
 でもそんな夢を見る時がグレイシアはたまらなく好きだった。
「あっ!」
 また、流れ星だ。
 何か言わなきゃ!
 そして反射的に言っていた。
「僕に、恋を教えてください!」

 そして、しばらく時間がたった後、自分のした言動に気づく。
「あはは、何言ってるんだろうな」
 もし、誰かに見られでもしたらそれこそ変人扱いだ。
「でも、恋か、考えてみようかな」
 正直、今まで本当に真剣に考えたことがなかった。
「帰ろうか、流れ星も見れたし、満足したよ」
 もう一度星空を見上げる、満天の星空は輝きを失うことなく
 輝き続けている。グレイシアはこの景色が大好きだ、いつまでも
 この澄んだ空であってほしい。
「ああ、今のを願ったほうが良かったかもね」
 こっちのほうがよっぽど現実的かもしれない。


「ねぇ」
「っ! だ、誰!?」
 誰かに見られた!?
 振り返る、がそこには誰もいなかった。
「こっちこっち、上だよ」
 上を見上げる、
 するとそこにはグレイシアの見たことないポケモンがいた。
「ねぇ、願いをこめたのは君?」
 いきなりのことで少し動転している、
 グレイシアは状況が把握できていなかった。
「まあほかにいないよね、今日から私はあなたの恋人だよ」
 なんてことを突然言う。
「えっ? ちょっと待ってよ、まず君は誰?」
 いきなりの出来事だ。
 さっきまでのロマン溢れた気分は吹っ飛んでしまった。
「ものを尋ねるときはまず自分からだよ? まあいいや、わたしはジラーチ、
 君の願いをかなえるためにやってきたんだ」
 口調はボーイッシュだが、声音はメスそのものだ、
 グレイシアはできるだけ落ち着いて自己紹介をする。
「えと、僕はグレイシア、ごく普通のポケモン」
 あいまいな説明にジラーチは首をかしげる。
「と、とりあえず名前はグレイシアってことは覚えといて」
 なんでこんなにあわててるんだろう。
 自分でも不思議なぐらい動揺している。
 やはり、自分が恋について、それほど意識が強かったってことだろうか?

「ふふっ、かわいいね、グレイシア」
「なっ!」
 自分の顔が赤くなるのを感じる、
 ジラーチはそのようすを、いたずらな笑みで見ていた。
「グレイシアの住処はどこ? わたし、見てみたいな」
 どうやらジラーチは本気でグレイシアの恋人になろうとしているようだ。
「ちょっと待ってよ! あのね、ジラーチ、その願いって言うのは――」
「一度言った願いは取り消せないよ? 言葉にはそれなりの重みがあるの、
 まさか、うそってわけじゃないよね?」
 グレイシアの言葉は遮られ、
 ジラーチは笑みを浮かべながらこちらを見てくる。
「うっ、そ、そうなんだ」
 とんでもないことになってしまった。
「それより、グレイシアの住処に住んでいい?
 わたしたち、恋人なんだからそれくらい、いいよね?」
 その言葉の意味を理解するのに数秒かかった。
 ようは、同居するってことだ。
「えっ! えええっ!? そ、それは困るよ!」
 グレイシアの住処はもちろん一匹用だ、二人で住む様には確保されてはいない。
「わたし、来たばかりで住処とかないの、
 だからグレイシアに見捨てられたらわたしは一人ぼっちに――」
 ジラーチはそう言って泣きそうな表情になる、
「わ、わかったよ、だ、だから泣かないで! ね?」
 グレイシアにはそういうしかなかった。
「ありがとう! やっぱりグレイシアはわたしの恋人だね!」
 ジラーチは恋人の意味を知っているのだろうか?
 知ってか知らずかジラーチはこちらが恥ずかしくなるほど
 まばゆい笑みを見せ、恋人と平気で言ってくる。
「はぁ」
 溜息しか出なかった、
「早く行こう? グレイシア、わたし、楽しみだなぁ」
 そう言いながら、ジラーチは肩にすり寄ってきた。
「ち、近い! 近いよ、ジラーチ!」
 グレイシアはジラーチをはなす、
 内心グレイシアは腹が立ってき始めてきていた。
「そんなこと言わないで、わたしたち、恋人同士でしょ?」
 また恋人だ。
「ねぇ、ジラーチ、」
 はっきり言わないといけない。
「なに? グレイシア」
 ジラーチは、相変わらずまぶしい笑顔でグレイシアを見る。
 しかしひるむわけにはいかない。
「あのさ、恋人って言うの、まだ待ってもらえな――」
「なんでそんなこと言うの? 悪い冗談はやめてよ」
 言葉をかき消すようにジラーチは言う、
「冗談じゃない、本当だ」
 グレイシアは少し語気を荒くする、
「そんな……」
 どうやら本気だということが分かり、ジラーチの表情が暗くなる。
「ごめんね、やっぱり恋ってさ、教えられないから恋って言うんだと思うんだ。
 だからジラーチ、恋人にはなれない」
 そう、これでいい、
 ジラーチはただずっとうつむいていた。
「ジラーチ、願いってさ叶わないものもあるから願いって言うんじゃないかな?
 だから、僕の願いは叶わなかった、それでいいと思うんだ。
 無理してかなえる必要はないと思う、君が来てくれてうれしかったよ」
 グレイシアは今できる最大の笑顔でジラーチにほほ笑みかけた。
 ジラーチは何も言わなかった、
「さよなら、僕のために恋を教えてくれてありがとう」
 そっけないな、でも、これが一番いいのだろう。
「待って!」
 ジラーチが呼びとめる。
「なに?」
 できれば無視したい、ほんとはこんなことはしたくないのだ。
「……たしかに甘く見すぎていたかもしれない。でも、これだけは言いたい、
 私は、義務感でやってるわけじゃない。あなたの願いをかなえたいからここに来たんだ。
 だから……お願い、あなたの願いをかなえさせて!」
 グレイシアの足が止まる、……本気なんだな。でも……
「……恋人……にはなれない」
「……そう」
 ジラーチは途方に暮れたように肩をおとす。
「でも友達なら、いいよ、……きっとみんなも受け入れてくれるはず。
 変な願いをした僕にも責任があるからさ、面倒はちゃんと見るよ」
 正直これで根本的な解決になるのかは分からない。
 でもこれでとりあえずは問題は起きないだろう。
「……友達?」
「そう、友達、その……恋人はそれからでも遅くはないと思うんだ」
 この言葉については正直ウソだ。ジラーチを納得させるための言い訳に過ぎない。
「……うん、グレイシア、ありがとう!」
 ジラーチは安心した笑みでこちらを見る。
 それを見ていると、どうしても罪悪感は否めなかった。
「……それで、どうしよう……、私、寝るところがないんだ……」
 問題は起きないと言ったが、早くも問題が起きてしまった。
「……仕方ないか、ジラーチ、行くとこないんだよね、僕のとこにおいでよ」
「……ほんと?」

 確かジラーチのタイプはエスパーとはがね、
 氷タイプの住処はそこまで居心地悪いものではないだろう。
「ここが、グレイシアの家?」
「うん、そうだよ」
 実際ほかのポケモンが自分の住処に来ると少し恥ずかしいものだ。
「……と、寝床が一匹分しかなかったんだよね、準備しないといけないな」
 さすがに二匹一緒に寝るのは色々と問題がある。
 グレイシアはジラーチの分の寝床を作りにとりかかる。
「私、グレイシアと一緒に寝てもいいよ?」
「なっ……! そ、そっちがよくてもこっちが駄目だよ! 冗談じゃない!」
 グレイシアはジラーチの発言にひどく動揺をしてしまう、
 ジラーチはこっちをからかっているのだろうか?
「そんなひどく言わなくてもいいじゃない……」
 ジラーチは少し残念そうな声で言う、
「ジラーチは言葉の意味をもう少し考えるべきだって、……ってそこ僕の寝床なんだけど」
 ジラーチはいつの間にはグレイシアの寝床で横になっていた。
「いいじゃん、一緒に寝ようよ、ちょっと寒いしさ」
「ダメ」
「ええ~、お願い」
「ダメなものはダメ」
「そんなこと言わないでさ」
「じゃあ僕がこっちで寝るよ」
「……そう、残念だな」
 オイ! そこは食いつくとこじゃないの? ……まあいいや。

 そうこう考えているうちにジラーチのための寝床が完成した。
「ジラーチ、寝床ができたよ……」
 グレイシアが振り返ると、ジラーチはすでに寝息を立てていた。
「……はぁ、仕方ないなぁ」
 黙っているかと思えば、やっぱりこれだった。
 仕方ない、自分はこっち側で寝るか。
「はぁ……これからどうしよう」
 とりあえずイーブイ達に紹介はしたほうがいいだろう。
 もし下手に隠して変な誤解をされても困る、
 全員のことはよく知っているつもりだ、きっと紹介すれば悪いことにはならないだろう。
「……ねようか」
 グレイシアは考えることをやめ、深い眠りへと入った。



「ん……」
 朝日がグレイシアの顔を照らしだす。目覚めもさほど悪くはない。
 どうやらグレイシアの作った寝床もそれなりに寝やすかったようだ。
「おはよう、グレイシア」
「起きてたんだ、おはよう」
 ジラーチはグレイシアの本来の寝床の横で、朝日を浴びていた。
「何してるの?」
 グレイシアは尋ねる。
「ううん、ただ単に、朝日が昇るのってきれいなんだなぁって思ってね。
 私、ここに来るのは初めてで、朝日が昇るとこなんて見たことなかったの」
「……そっか」
 よく考えればそうだ、ジラーチは僕の願いをかなえにやってきた。
 だからこの世界を知らないのもよくうなずける事実。
「……ジラーチ、朝ごはんにしよう、僕が準備するよ」
 グレイシアは茂みの中から保存しておいた木の実を取り出す。
「いいの?」
「いいんだよ、仕方のないことだからね」
「わぁ、ありがとね!」
 ジラーチは満面の笑みで喜んでくれた。……よかった、とりあえずは笑顔になってくれて。
 誰に対してもそうだけど、やっぱりいやな顔は見たくはない。
「さあ、どうぞ、口に合わなかったらごめんね」
「……おいしいよ、ありがと、グレイシア」
「よかった」
 グレイシアは自然に笑顔になる。
「……ジラーチ、今日は僕の幼馴染に君を紹介しようと思うんだ。……仲良くできるよね?」
「うん、もちろん!」
 ジラーチは目を輝かせながら言う、
「あ、あと念のため言っとくけど、恋人だなんて誤解を招くようなこと言うのはやめてね」
「あ……うん、わかった」
 それを聞き、若干ジラーチは落ち込んだようなそぶりを見せる。
「……じゃ、いこうか」



「お? 来た来た、遅いよ! グレイシア!」
「ああ、ごめんね」
 真っ先に声をかけてきたのはサンダース、
「ん? グレイシア、その子は誰だい?」
「まって、事情は今から話すよ」
 グレイシアは全員がそろってからことの事情をはなした。
 ……もちろん、一部は変えているが。

「へぇ、宇宙から迷い込んでしまった……か、なんだか信じられない話だね」
 そう言って少し考え込んだ表情をするのはブラッキー。
「でも、伝説上にも語られているから、あながち嘘でもなさそうですよ」
 シャワーズが僕の嘘をカバーしてくれる。
 ……シャワーズ自身は僕の嘘を知らないから、ちょっと悪い気がするけどね。
「でも不思議だね、どうしてジラーチは、グレイシアのところに来たんだろうね」
「え……? さ、さあ、やっぱり偶然じゃないのかな?」
 全員の中で一番侮れないのがリーフィア、純情無垢な心はいつも鋭いところを突いてくる。
「いいんじゃない? 遊ぶ時はさ、やっぱ多いほうがいいと思うよ!」
 イーブイがその場を取り仕切ろうとする。
「……そうね、私も賛成」
 ブースターが続く、
「そうだな、俺もいいと思う」
 サンダース、
「いいの? ちゃんとなじめるかどうかがまず心配だけど……」
 シャワーズが少し渋る。
「そうだね、僕もちょっと心配かな」
 ブラッキーもシャワーズに同意見のようだ。
「おいおい、なじめるかどうかは俺たち自身の問題じゃないか?」
 サンダースがシャワーズに言う。
「そうかもしれないけど、ジラーチ自身はどう思ってるかがわからない限り、私は賛成できない」
 シャワーズの意見は筋が通っている。グレイシアも話を聞く限りでは納得だ。
「ほんとに慎重だな、シャワーズはいつも、そんなだと誰も相手してくれなくなるぞ?」
 サンダースは少し馬鹿にしたようにシャワーズに言う。
「……っ! 少なくとも向う見ずなあなたよりかはましだと思うわよ?」
 気にしていることだったのだろう、シャワーズの口調は少しとげが含まれていた。
「なんだと?」
 どうやらサンダースのほうも気に障ったらしい。
「ちょ、喧嘩はやめてよ?」
 あわててグレイシアは二人を諭す。
「グレイシアには関係ない、これは俺とシャワーズの問題だ!」
「ごめんなさい、グレイシア、どうやらわからず屋を黙らせないといけないみたい」
「ちょっとおっ!」
 全然聞いてくれそうもない、むしろ悪化の一歩をだどっている。
「……おぉ!?」
「――っ!」
 その直後、二匹は宙に浮く。
「喧嘩はダメ、……わかってるよね?」
「エーフィ! 助かった……ありがとね」
 エーフィのサイコキネシスだったのだ、
「いいの、ただ誰かが傷付くのはいやだったから」
 エーフィはゆっくりと二匹を地面へとおろす。
「冷静になって、ここは喧嘩する場所じゃないはずよ?」
 エーフィが静かな口調で二匹に言う、その言葉には警告の意味も込められている気がした。
「わ、わかったよ、……ごめん、シャワーズ」
「……わたしこそ、冷静さにかけていたわ、ごめんなさい」
 とりあえず場は落ち着いてくれたようだ、
「じゃあ本題に戻りましょう?」
 ブースターが言う、
「うん、たぶん自己紹介をしたほうが場がまとまるかもしれないね。
 ジラーチ、自己紹介、頼むよ」
「う、うん、わかった。えと……名前はジラーチで、
 宇宙からやってきました。よろしくお願いします」
 事前に僕がジラーチに教えておいた自己紹介だ。
 ……棒読みだね、でも受け入れられたら、自然な姿になるだろう。
「私はイーブイ、よろしくね! ジラーチ!」
 イーブイは満面の笑みでジラーチを見つめる。
「……うん、よろしく!」
 ……うん、よかった、とりあえずはなじめそうだね、
「リーフィアよ、よろしくね、ジラーチ」
 リーフィアは微笑を浮かべながらジラーチに言った。
「私はブースター、よろしくね」
 ブースターが自己紹介をする。
「俺はサンダース、さっきは見苦しいとこ見せてごめんな。気軽に声かけてくれよ」
 サンダースがちょっと申し訳なさそうな表情をして言う。
「エーフィよ、よろしくね」
 エーフィは少しそっけない。もともと引っ込み思案な性格なので緊張しているのだろう。
「私はシャワーズ、どうやらうまくやっていけそうね、よろしく」
 シャワーズが安心したような表情で言う。
「最後は僕かな、僕はブラッキー、よろしくね」
 ブラッキーが周りを見ながら言った。
「みんな賛成ってことでいいかな? それじゃあジラーチ、みんなと一緒に遊ぼうか」
「……うん! みんなよろしくね!」

 その後、グレイシア達は、ジラーチを中心とし、夕方まで楽しい時間を過ごした。

「日が暮れてくたね。そろそろ終わりかな」
 リーフィアが言う。
「今日は時間がたつのが早かったな、楽しかったよ」
 イーブイが笑顔でジラーチを見つめる。
「うん、わたしも楽しかったよ」
 ジラーチがイーブイに返す。どうやらジラーチはもう自分たちにはなれたようだ。
 これもイーブイのおかげだろう。
「……そろそろ帰ろうか、ジラーチ」
 グレイシアはジラーチに言う。
「そう言えば、ジラーチの住処ってどこなの?」
 リーフィアが言う。
「あ、いまは――」
「ジラーチの住処はちょっと遠いんだ。だから僕が途中まで案内してる。心配しなくていいよ」
 グレイシアはジラーチの言葉をさえぎるようにいう。
「へぇ……、そんな遠いところから来てるんだ。ちょっと不便かもしれないね」
 ブラッキーは少し空を見ながらジラーチに言う。
「……」
 ジラーチは少し暗い表情をしながらグレイシアを見る。
「じゃね、また明日、遊ぼうね」
「バイバイ、グレイシア、ジラーチ」
 ブースターが挨拶をする。


「ねぇ、グレイシア……」
「なんだい?」
「どうしてみんなには隠すの? 私のことを……」
 ジラーチは若干泣きそうな顔でグレイシアにたずねる。
「変な誤解を生みたくないからだよ」
 グレイシアは何も考えずその言葉を言う。
「……グレイシア……、私って……邪魔な存在なの?」
「え……?」
 ジラーチの反応に驚く。
「なんだかさ、グレイシア、わたしを嫌ってる気がしたから……」
「……」
 グレイシアは黙り込んでしまう、
「私のことがいやならさ、いやって言って、もう、無理言わないからさ」
 ジラーチは笑顔で言う……が、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
 僕が知らない間に……ジラーチはこんなに傷ついていたんだ……。
 グレイシアは初めて自分自身のしてきたことを思い返す。
 誤解されたくないから、ジラーチに嘘の自己紹介をさせた。
 誤解されたくないから、ジラーチは遠い所に住んでいると嘘をついた。
 誤解されたくないから、うそをついてその場をごまかすことが正しかったのだろうか?

 ……否、ただ自分は自分自身のメンツを保ちたかっただけだ。
 普通の日常が壊れてしまうのが怖かっただけだ。みんなに変な目で見られてしまうことが……。
「……ジラーチ、ごめんね」
 グレイシアは切り出す。
「僕、怖かったんだ。君との出会いをみんなに言うと、僕の存在が変わってしまう気がして」
 ジラーチは黙って聞いている。
「君を邪魔とは思わない、嫌いだとも思わない。ただ普通の友達として、
 君に、みんなに受け入れてもらいたかったんだ。
 ……でも間違っていた。それでウソの紹介をしても、友達なんかじゃない。
 ジラーチ、君にはつらい思いをさせてしまってごめんね……」
 みっともない姿かもしれない、でも、そんなのは関係なかった。
 きっとジラーチは、もっとつらい思いをしたはずだから。
「……よかった」
 ジラーチはグレイシアにくっつく。
「嫌われてるのかと思ってた。でも、そうじゃなかった。
 グレイシアはこんなにも私のことを考えてくれたのが、とてもうれしかったよ。
 グレイシア、ありがとう」
「……ふふ、みっともないところ見せちゃったかな」
「そんなことないよ」
 二匹は笑いあう。
「明日、ちゃんと自己紹介しよう、今度はジラーチ自身の言葉で……さ」
 グレイシアは申し訳なさそうに下を向きながら言う。
「その時はさ、僕から謝るよ」
「……うん」



 そして、グレイシアにとって憂鬱な朝が来た。
「おはよう、グレイシア」
「……おはよう」
「……元気、ないね、グレイシア」
「ううん、大丈夫だよ」
 グレイシアは少し疲れた笑顔でジラーチに笑いかける。
 実は寝られなかったのだ。今日この日を境に、みんなとの関係が壊れてしまう、
 それの不安、そして、もしジラーチを受け入れてもらえなかったら、
 ジラーチはどうなるのかというジラーチへの不安。
 それはすべて、自分自身の釈明の仕方にかかわってくる。
 グレイシアは一晩中、それを考えていた。
 とにかく、覚悟を決めるしかない。


「あっ! おっはよ~! グレイシア! ジラーチ!」
 今日はイーブイが出迎えてくれた。ほかの全員はもう来ているようだ。
「……ん? なんか顔色が悪いね、大丈夫?」
 真っ先にグレイシアの体調に気づいたのはブラッキーだった。
「大丈夫、ありがとね、……みんな少しいいかな」
 グレイシアは切り出す。
「あら? 何かしら? グレイシアから話すのって珍しいわね」
 ブースターが興味深々で聞いてくる。
「……実はみんなに謝らなきゃいけないんだ」
「……どういうことかしら?」
 明らかに全員の雰囲気が変わる。それだけでグレイシアは泣きたいほどつらかった。
 グレイシアはそれを押し殺し、話を続ける。
「僕は……ジラーチに嘘の自己紹介をさせたんだ」
「嘘の自己紹介?」
 イーブイが理解できないというふうに首をかしげる。
「ジラーチは偶然僕と出会ったわけじゃない。僕がある願いを言ったから来たんだ」
「願い……、どんな?」
 シャワーズがグレイシアを見据えながら言う。
 実際にシャワーズに問い詰められると反論ができない、
 サンダースの気持ちがわかる気がした。
「その……、恋を教えてください……って」
「はぁ? 何言ってんだよ! バカじゃねえの?」
 サンダースが苦笑しながら言う、
「ちょっと待って、……ということは、ジラーチは形式上、グレイシアの恋人ってこと……?」
 リーフィアが少し驚いたような表情をしながら言った。
「うん……」
「問題はそこじゃないわ、どうして今更そんなことを言ったのか、それを言ってもらえないかしら?
 ……まあ、少しは気になるけどね」
 シャワーズがいう、
「その……、気づいたんだ、嘘で築いた関係で、幸せなんかになれないって」
 グレイシアは下を向きながら答える。
「じゃあ、なんで? どうしてグレイシアは私たちに嘘をついたの?」
 イーブイがグレイシアの顔をのぞきながら言う。
「……怖かったんだ。きっと今みんな、僕のことを変な奴って思ってるよね。
 そう思われるのがいやで、僕はジラーチに嘘をつかせてしまった」
 誰も何も言おうとはしなかった。
「今更だけど、反省してる。ジラーチの気持ちも考えずこんなことをした僕って最低だよね……。
 もう僕を認めなくてもいい、でも、ジラーチは……ジラーチだけはさ、
 一緒に遊んでほしいんだ」
 ……なんでだろう、あれほど我慢できたのに、どうして今更涙が出てくるのかな……。
「……確かに最低ね、グレイシア」
 ブースターがグレイシアの目の前に立つ。
「それでもね、私はグレイシアを許す。だって自分の間違いに気付いたから、
 正直に話してくれたから」
「……ブースター」
「私も、確かに悪いことだし、このまま隠し通すつもりだったら私は許さなかった。
 でも、グレイシアはちゃんと反省してる、だから私もこれ以上責めるつもりはないわ」
 そういってリーフィアがグレイシアの隣に座る。
「僕も、別にグレイシアを許さない理由はない。確かに嘘をついたことは残念だったよ。
 でも、こうやって謝ってくれた。それで……プラスマイナスゼロじゃないかな?」
 ブラッキーはグレイシアを見つめながら言う。
「私も、誰だって間違いはある、それにグレイシアは気付いて謝ってくれた。
 それでいいんじゃないかしら……?」
 エーフィは空を見ながらその言葉を言った。
「……なんかさ、グレイシアって、すごく変わったよね、私、少しさみしいよ」
 流れを断ち切るようにイーブイが言う。
「イーブイ? どうしたのかしら?」
 ブースターが普段と違う様子に少し不安がる。
「信じてたんだよ? グレイシアはもっと私たちを信じてくれてると思った。
 ジラーチが恋人だからどうだっていうの? そんなの関係ないよ!
 それくらいで壊れる関係だったら、壊れてしまっていい!
 ……ねえ、そんな関係だったのかな? グレイシア……」
 ……ああ、またここにも、僕のせいで、傷ついたポケモンがいる。
「……確かにそうね、イーブイの言う通り、私もグレイシアを信じていた」
 シャワーズもイーブイに続きいう。
「なあ、俺達ってさ、友達じゃなかったのか? そりゃあ時には喧嘩もするさ、
 それでも、隠し事なんてしなかったぜ?」
 サンダースが不満そうにグレイシアを見つめる。
「……ゴメン、もっと僕がみんなを信用していれば、こんなことにはならなかったんだね……」
「もう、こんな思いはいやだよ……?」
 イーブイがこちらを見る。……泣いていた。
「大丈夫、誰もあなたから離れたりはしない。だって、私たちは友達でしょ?」
 ブースターがグレイシアに笑いかける。
「……もちろん、ジラーチも……ね」
 リーフィアはジラーチを見る。
 ジラーチは心配そうにグレイシアを見ていた。
「……ジラーチ、大丈夫だよ、心配かけてごめん」
 グレイシアは涙を払う、
「じゃあさ、遊ぼう? いつまでも暗い気分はいやだからさ」
 イーブイがその場を切ろうとする。
「そうだな、それでいいかい?」
 ブラッキーが同意を示す。
 グレイシアとジラーチ以外はばらばらだが黙ってうなずいた。


 それから時はたち夕方。
 あの後とあって盛り上がれるはずもなく、グレイシアはみんなから離れ休んでいた。
 しかし、ほかのみんなは疲れを知らずいまだにぶっ通しで遊んでいる。
 もちろんジラーチも一緒だ。
「とりあえずはよかったな……ジラーチがみんなに受け入れてもらえて……」
 
「グレイシア、どうしたの?」
 気づけばブースターがこちらへ来ていた。
「ああ、ちょっと休んでいるんだ、疲れちゃってね」
 そう言えば自分は寝ていなかった。疲れて当然だ。
「嘘、グレイシア、ほんとは気にしてるんでしょ?」
 見透かしたようにブースターが言う。
「……疲れてるのはほんとだよ、……でも、ブースターの言う通り、僕はみんなを怖がってる……」
 グレイシアは申し訳なさそうに下を向く。
「グレイシア、気にしなくていいのよ? 本当にみんなはグレイシアのことを悪く思ったりしてない、
 ほんとだよ? だってさ――」
 グレイシアはブースターを見る。
「もし……好きだったら、振り向かせればいいじゃない?」
「えっ……?」
 グレイシアは反射的に言葉を発していた。
「も、もしものことだよ?」
 ブースターは少し照れたようにグレイシアから目をそらした。
「……ありがとう」
 グレイシアはブースターにくっつく。
 ほのおタイプだからなのか、
 ブースターの体はこおりタイプのグレイシアにとっては燃えるように熱かった。
「……いいの、グレイシア、私はグレイシアがいつものグレイシアに戻ってくれればそれでいい、
 だからさ、一緒に楽しもう?」
 ブースターは少し照れくさそうにグレイシアに言う。
「……うん」
 今のグレイシアにはそう言って返事をするほかには思いつかなかった。


「あれ? 二匹ともどこ行ってたの?」
 イーブイがこっちに来るグレイシア達を見て言う。
「ちょっと休憩してたのよ」
 ブースターはイーブイにそう言う。
「そうなの? いつもは休憩とかしないのに?」
「ちょっと今日はね……疲れちゃったんだ」
「……」
 イーブイは思い出したのかそのまま黙りこんでしまった。
「……そろそろ日が暮れるから私は帰るわね」
 シャワーズは思い出したように言う。……おそらくこの話題に触れたくはないのだろう。
「そう……ね、私も帰ろうかしら」
 リーフィアも察したのか帰りだす。


 気づけば残ったのはイーブイとジラーチと自分だけだった。
「イーブイは帰らないの?」
 グレイシアは尋ねる。
「……ねえ、ジラーチ、ちょっとだけ、席をはずしてくれないかな?」
 イーブイはジラーチに聞く。
「……」
 ジラーチは黙ってこちらを見る。
「ジラーチ、僕からもお願いする。ちょっとだけ向こうに行ってて」
「……わかった。あんまり長く……待たせないでね」
 そう言うとジラーチは二匹から離れる。

「……やっぱり気にしてる?」
 主語がない……が、おそらくは今日のことには違いないだろう。
「気にしてないって言ったら君はやっぱり怒るんだろうね、……気にしてるよ」
 グレイシアは正直に言う。
「……ごめんね、あのときは熱くなってグレイシアのことを考えてなかった、
 今思えば、グレイシアにもグレイシアなりの考え方があったんだよね」
 イーブイはグレイシアはか少し目をそらしながら言う。
「いいんだよ、イーブイは正しい、イーブイが気にすることじゃないよ」
 そう言ってグレイシアはやさしくイーブイの頭をなでる。
「……子供扱いしないで」
「……!」
「なんでグレイシアはいつも私を子供扱いするの?」
 いつもは照れ臭そうに笑うイーブイの違う反応にグレイシアは驚く。
「いつもグレイシアは私を子供のように見ている、私だってみんなと同じ時間を生きてるんだよ?
 ちょっと子供っぽいところもあるかもしれない、
 でも私だって……ブースターと同じメスなんだよ?」
「……」
 グレイシアは何も言い返せなかった。
 なぜならイーブイの言っていることはすべて正しかったからだ。
「グレイシア、せめてさ、私にも頼ってくれたっていいじゃない。
 いつもグレイシアは一匹で悩んでる。私、知ってるんだよ?
 だってさ、一番グレイシアの近くにいるんだもん。
 なのに……グレイシアは私に振り向いてくれない。それがつらかった。
 このままいくと、グレイシアが消えちゃいそうで……、だから強く当たっちゃったの……」
「イーブイ……」
 僕の知らないところで、イーブイはずっと心配してくれていた。
「だから、頼っていいんだよ、みんなを、だって、それだけの時間を過ごしてきたんだから。
 ……ね?」
 イーブイはグレイシアに笑いかける。その姿は、いつも見ているイーブイとは違って見えた。
「イーブイ、君も、変わったね……」
 グレイシアはつぶやく。
「いや、もしかしたら変わらないものなんてないのかもね。
 みんな常に変ってる。それを僕は怖がってただけなんだ。
 ……ありがとう、イーブイ、なんだかすっきりしたよ」
 グレイシアは笑い返す。
「……よかった」
 イーブイは安堵した表情を見せる。
「ほんとはね、私も怖かったの、これを言ったら、
 グレイシアが私のことを嫌っちゃうんじゃないかって」
「そんなことないよ、……謝らなきゃいけないね、僕はイーブイの言う通り、
 イーブイを子供扱いしてたのだと思う、一緒の時間を過ごしてたのにね……」
 グレイシアは申し訳なさそうな表情でイーブイを見る。
「もういいの、その代わり、もう一匹では悩まないで、グレイシアには私たちがいるんだから……さ」
「……うん、ありがと」
 グレイシアはうなずいた。
「さ、私たちも帰ろ? ジラーチも待ってるしさ!」
 イーブイは本来の口調に戻る。
「……そうだね、さよなら! また明日ね!」
「ふふっ、また明日!」
 二匹は別れた。

「……ジラーチはどこ行ったのかな? ……!」
 誰かがいる、グレイシアは反射的に身を隠した。

「やあ、どうしたんだい? 君は」
「あ、こんばんは、えと、グレイシアを待ってるんです」
 ジラーチが誰かと話している。あの姿は……ギャロップだ。
「やっぱり願われて、やってきたのかな?」
「……っ!」
 ジラーチは驚いた表情を見せる。
「……なんてね、まあ気をつけて帰ってね。その力、狙うポケモンがいるかもしれないし」
 ギャロップは周りを見渡す。
「あなたはいったい……」
 ジラーチが警戒した表情を見せる。
「あんまり敵意をむき出しにしないほうがいいよ? 敵に狙われやすくなる。
 ……まあいいや、今日は引こうか、君の迎えも来ているみたいだしね」
 そう言うとギャロップはその場から立ち去ろうとする。
「待って! あなたはいったい何者なの!?」
 ジラーチが珍しく声を荒げる。
「ただのしがないポケモンだよ、今は……ね」
 そう最後に言い残すとギャロップは立ち去った。
「……っ」
 ジラーチはかつてないほどの不安な表情を見せる。
「……ジラーチ」
 グレイシアは声をかけずにはいられなかった。
「グレイシア……聞いてたの?」
 ジラーチがグレイシアにたずねる。
「……うん」
「そう……話さないといけないのかな……」
 ジラーチは少し苦い表情をする。
「無理に話さなくてもいい、その時が来たら聞かせて、それよりも、帰ろう、
 もう日も暮れてるから……ね」
 触れられたくない、それは誰から見てもわかるだろう、だから自分はそっとしておくことにした。


 そして、自分は床についた。いつの間にか自分の本来の寝床はジラーチに占領されてしまっていた。
 しかし、それも今となっては気にならなかった。
 明日はきっと、いつもと変わらない日々が戻ってるはず。
 もしまた、僕が悩む時が来たら、きっとみんなが支えてくれる。
 信頼できる友達……。


「おはよう、グレイシア」
 ん、もう朝か……。
「……わぁっ!」
 ジラーチが目の前にいてグレイシアは派手に驚いてしまった。
「あ、驚かせちゃった? ごめんね」
 ジラーチはいたずらな笑みを浮かべる。
「ど、どういうつもりだよ……」
 胸の鼓動が止まらない、
「……ってまだ朝日も登ってないじゃないか! もうちょっと寝るよ」
 そう言ってグレイシアはまた床につく。
「たまには朝日が昇るのを見届けてもいいと思うよ? ね、お願い」
 ジラーチが甘えてくっついてくる。
「……わかったよ」
 仕方がない、さっきの件ですっかり目が覚めてしまった。

「グレイシア、ここ、覚えてる?」
「覚えてるも何も、ここは僕のお気に入りの場所だよ」
「あっ、そうなんだ」
 二匹は初めて会った丘に来ていた。
「どうしてここに来たのさ?」
 グレイシアは尋ねる。
「わけなんてないよ、ただ、ここに来たかったから来ただけ」
「なんだよそれ……」
 グレイシアは苦笑する。
「それよりもさ、初めて会ったとき覚えてる?」
 ジラーチが話を振る。どういうつもりなのだろうか?
「覚えてるも何も……ジラーチがいる限り忘れようがないんじゃない?」
 グレイシアは当然のことをしつこく聞かれ少しじれったくこたえる。
「じゃあさ、私のことどう思ってる?」
「え……」
 思わず口ごもってしまう。
「普通の友達……じゃないの?」
 その答えにジラーチは少し悲しい表情を見せる。
「そうだよね、普通の友達、友達でしか今はない」
「……どういうこと?」
「私ね、不安なんだ、グレイシアは、このまま私を忘れてしまうんじゃないかって」
「ジラーチ、僕は君を忘れたりなんかしないよ?」
 グレイシアは首をかしげる。
「グレイシア、私は……グレイシアにとって、大切な存在なのかな?」
 ジラーチはこちらを見つめてくる、その目は誰から見てもわかるような不安の色で染まっていた。
「……あたりまえじゃないのかな? みんなが大切な存在、それが、あたりまえじゃない?」
 グレイシアは当然というように答える。
「……」
 ジラーチは黙ってしまう。
「……それじゃあいけないのかな? ――っ!」
 グレイシアはいきなりジラーチに押し倒される。
「ど、どういうつもり!?」
 グレイシアはすぐさまジラーチを蹴りつける。
 しかしはがねタイプのジラーチには打撃は効果が薄くジラーチのつかむ力は緩まなかった。
「わかってないよ、グレイシア」
「な、なにがだよ!」
 必死にもがくが両前足を掴まれては何もすることができない。
「……」
 ふいにジラーチはグレイシアの両足をはなす。
「どうしてあんなことをしたのさ!」
 グレイシアは口調荒く、ジラーチに詰め寄る。
「……ごめんね、グレイシア」
「――!」
 ジラーチの頬には涙が伝っていた。
「私じゃあ、グレイシアを振り向かせることなんて、できないのかな?」
 ジラーチは力なくグレイシアに笑いかける。
「……」
 グレイシアには何も言えなかった。
「ごめん、困らせちゃったね、それよりも、朝日を待とうか」
 ジラーチは涙を払い、何事もなかったかのように明るみ始めた空を見る。
 僕は……、これでいいのだろうか?
「ほら、グレイシア、空を見て、朝日が――」
 グレイシアはジラーチの頬にやさしくキスをする……。
「ジラーチ、今の僕にはこんなことしか思いつかなかったんだ。気を悪くしたならごめん」
「……」
 ジラーチはしばらくそのまま固まっていた。
「正直僕には好きって何なのかがわからない、ましてやメスの気持ちなんてわかるはずがない。
 だから、ジラーチをここまで追い詰めてしまったのかもしれない、……ごめんね」
 グレイシアは空を見つめながら言う、少し照れくさいのと、申し訳ないのが混じる、
 複雑な気持ちだった。
「グレイシア……、うれしかったよ」
 静かにジラーチは言う。
「そう、よかった……」
 グレイシアは安堵の表情を見せる。失敗じゃなかった。それだけで十分だ。
「あ、日が昇ってきたね」
「うん」
 星たちの瞬く空に、まばゆい太陽が昇る。
「グレイシア、わたし、待つね」
「ん?」
「いつかグレイシアから、振り向いてくれるその日まで」
 ジラーチはグレイシアを見て笑いかける。
「……うん、僕も探す。恋ってものを、そして、本当に大切なものを見つける。
 その日まで……待ってくれるよね?」
「……うん!」
 朝日が二匹の笑顔を照らしだした。二匹の瞳にはもう涙は映っていなかった。

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 これで一応一区切りをさせていただきます。
 ここまで目を通していただきありがとうございました。
 何かご感想をいただけるなら。うれしく思います。
 続き:[[恋という名の願い2]]

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IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:02:20" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%81%8B%E3%81%A8%E3%81%84%E3%81%86%E5%90%8D%E3%81%AE%E9%A1%98%E3%81%84%EF%BC%91" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"

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