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思い出の河原 の変更点


作者名 [[風見鶏]]
作品名 思い出の河原

・官能表現はありません
・軽い流血表現が含まれています。
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 どこの世界でも日は登り、そして沈む、
 そして一日というものが流れていく、
 でも、思い出というものは、どんな時をかけても変わらない。

 そこは静かな河原、
 ありふれた景色、どこにでもある河原、
 そんな場所であっても、思い出は刻まれる。



「ここが、僕たちの住む場所?」
「そう、結構いい場所だろ?」

 そこは現在世界のような都市とはあまりにもかけ離れた
 古風の小さな村だった。

 引っ越してきたのはスバメたち親子、
 彼らは都会から引っ越してきた。

「やあ来たね、オオスバメ」
 一匹のポケモンがはなしかけてきた。
「やあカモネギ、久しぶりだね」
 オオスバメは笑顔で返事をする、どうやら古い付き合いのようだ。

「君がスバメだね、俺はカモネギ、
 君の父さんから案内を頼まれてるんだ」
 そう言ってカモネギはスバメに話しかける。
「はい、よろしくお願いします」
 スバメはかしこまって返事をする、親からの教育をしっかり受けている証拠だ。
「ははっ、しっかりしてるなあ、えらいぞ、
 でもそんなにかしこまらなくていい、俺はこう見えても君より少し年上なだけだからな、
 普通に兄さんって読んでくれて構わないぞ?」
 カモネギは笑いながらスバメの頭をなでた。
 どうやらこのカモネギ、初対面の相手にもかなり馴れ馴れしいようだ。
「おいおい、あんまり困らせないでくれよ?」
 そんなカモネギをオオスバメは呆れたように注意する。
「わかったわかった、じゃあ行こうか、スバメ」
 カモネギはオオスバメに従う、
「いい子にしてるんだよ、スバメ」
 オオスバメはやさしくスバメにほほ笑んだ、
「うん、父さんも、早く帰ってきてね……」
 スバメの表情は、子供ながらどこか大人びて見えた。
「大丈夫、心配しなくていいよ」
 そう言うオオスバメの顔は笑顔ではなかった。
「……」
 スバメはその表情を見るとやはり悲しそうな顔をし、カモネギとともに立ち去った。

「ごめんな、スバメ……!」
 オオスバメは遠くなるわが子の背中に向かいそう言った。
 その言葉はスバメには聞こえない。
 でも、オオスバメはそういっておきたかった。

「スバメはこういう場所は初めてだよな?」
 広いあぜ道を二人は歩いていた。
 横には畑が広がっている、話によるとここのポケモンたちは簡単な農業なら知っているという話だ。
「はい、父から話は聞いていましたが、実際には初めてです」
 スバメは丁寧な口調で返事をする。
 カモネギはその受け答えに顔をしかめる。
「おまえなぁ……その話しかた何とかならないか? 固すぎるぞ?」
「でも――」
「いいんだよ、そんなかしこまった口調だと
 誰も相手にしてくれねえぞ?」
 カモネギは横目でスバメを見る、
「そんなこと――いたっ!」
 カモネギは持っているネギでスバメの頭をたたいた。
「な、な、なにするんですか!」
 当然スバメは怒る。
 だがカモネギは平然とした顔でスバメを無視する。
「はい、今から丁寧語、敬語、謙譲語禁止、もししゃべったらたたくよ?」
 カモネギは意地悪そうな顔をしてスバメを見る。
「そ、そんなぁ、ひどいで――いたぁ!」
 すかさずカモネギはスバメの頭をたたく。
「や、やめてくだ――いたたっ!」
 カモネギは容赦をしない、
「ちょ、ほんとに勘弁してく――あうっ!」
 スバメは泣きそうな顔をしている。
 カモネギは黙ってスバメをたたく。
「や……やめてってばぁ!」
 スバメはカモネギにつばさでうつを繰り出していた。
「なっ!」
 カモネギは大きく弾き飛ばされた。
「あっ!」
 スバメはすぐに自分のしたことに気づきカモネギに駆け寄る。
 カモネギは畑の中で倒れていた。
「カモネギ! 大丈夫!?」
 スバメは動揺してカモネギを乱暴に揺り動かす。
「ったく、大丈夫だよ」
 カモネギはスバメの頭を軽くたたいた後体の土を払う。
「ごめんなさい……」
 スバメは涙を見せないようにカモネギに謝る。
 それを見るとカモネギはまたスバメの頭をたたいた。
「ごめんでいいんだよ、ま、丁寧にしかしゃべれないかと思ったけど
 結構砕けた言い方できるじゃん」
 カモネギは笑いながらスバメに話す、
 どうやらあんまり気にしていないようだ。
「あっ、ご、ごめん」
 少し戸惑いながらスバメは何とか言う。
「何だ、言えるじゃん」
 カモネギは笑う、それをスバメは不思議そうに見ていた。
「さ、さっさと道に戻るよ、
 誰かに見られたりでもすれば厄介だからね」
 ボーっと見ているスバメを横にカモネギはサッサと道へ登ってしまう
「あっ、わ、わかった?」
 まだ慣れない言い方にスバメは戸惑ってしまう。
「そう、いいかんじだよ」


 そして、スバメは村の大まかな案内を受けた。
 スバメにわかったこと、
 それはここが都会のようにあわただしくないこと
 そして、ポケモン同士のかかわりが少ないこと……。


 そして時は夕暮れ、
「ここが、最後かな」
 カモネギはある場所にスバメを案内した。
「ここは?」
 スバメは河原というものがわからない、
 都会で過ごしたことが多いスバメは自然と縁遠いのだ。
「河原さ、結構きれいだろう?」
 そう言うカモネギの表情は遠くを見ているようだった。
「うん、とても」
 スバメの口調はまだおどおどしているが、
 確かにカモネギを信頼し始めていた。
「それじゃあ俺は帰るとするかな、帰り道は分かるだろ?」
 カモネギはスバメの頭をやさしくなでながら言った。
「うん、ありがとうカモネギ」
 スバメはカモネギに笑顔で答えた。その表情には
 朝の時のような暗い悲しみは見えなかった。
「よし、もう心配ないみたいだな。
 いつでも俺を頼ってくれていいからな、またどこかで会おう」
 そう言ってカモネギは飛び去って行った。

 風のようなポケモンだった。
 でも、カモネギはスバメに楽しさをくれた。
 やり方はむちゃくちゃで、理解できないところは多いけど
 スバメを思ってくれていることは十分に伝わった。
「カモネギは、ここまでしてくれるんだ、
 僕もしっかりしなくちゃあね」
 自分に言い聞かせるようにスバメはいった。

 スバメは川の中に入る、
「ああ、山の中の川は、こんなに冷たいんだ、気持ちいい……」
 流れはゆるやかでスバメの体格でも流される心配はない、
 スバメは水浴びを楽しんでいた。

 そして、スバメは川の中に小さな魚影を見つける。
「あれは、捕まえられるかなぁ?」
 捕まえたら父さんは驚くかもしれない、
 そんな子供心からの思い付きだった。
「それっ!」
 魚影はするするとスバメの攻撃をかわしてしまう。
「う~ん、早いなぁ、もう一度!」
 スバメはあきらめず挑戦する。
「えいっ! ……えいっ!」
 しかし捕まえることはできない、
「こうなったら絶対捕まえてやる!あっ!」
 熱くなりすぎた、次の瞬間スバメの視界は水一色になる。
「――っ!!」
 息が出来ないっ!
 スバメはパニックに陥る、案の定もがけばもがくほど、体制は崩れ酸素が消費される。

 誰か、助けて!

 その時、翼に鋭い痛みを感じた。
 そして、体が引っ張られるのを感じるが、
 ……どうやら力が足りないようだ、
 不安定で、スバメの力に負けてしまった。
「きゃあっ!」
 メスの声だ、しかし、今はそれも耳に入らなかった。

 あっ、誰かを巻き込んじゃったみたい、どうしよう……。

 酸欠で気が遠くなる、
 意識が切れる直前、体が何か力強い何かに引き上げられる。

「げほっ、げほっ……」
 せき込むと同時に新鮮な空気が肺に入ってくる。
 脳に酸素が入ってくるのを感じる。
 ふと横を見ると、ポッポがびしょぬれで僕の横に立っていた。
 目の前にはピジョットがいる。
「あ、ありがとうございます。おかげで助かりました……」
 荒い息でスバメはお礼を言う、本当に危なかった。
「おれいならポッポに言ってちょうだい、
この子が気づかなかったら私は助けられなかったわ」
 そう言ってピジョットはポッポのほうを向く。
「あ、あの、ありがとう」
 スバメは自信なさげにポッポにお礼を言う。
「どういたしまして、といっても、かっこ付かないけどね」
 遠慮しがちにポッポは笑う、とてもかわいらしい笑みだ。

「ところで、あなたはここに引っ越してきたの?」
 ピジョットがスバメにたずねる、よく見るとところどころ
 傷が見える、しかしその表情、体つきは傷を負うには
 縁遠いように思えた。
「はい、今日引っ越してきたのです、よろしくお願いします」
 スバメは二匹に丁寧にお辞儀をする、もう息も整っている、
「そう、わたしたちもつい最近引っ越してきたばかりなのよ、お互いよろしくね」
 ピジョットはやさしい笑みを絶やさない、
 とても心が落ち着く、
 だが、どこか物足りない気持ちを抱く、
「それで……、お願いがあるなだけど、
ポッポと友達になってくれないかしら?」
 さらりとピジョットは言う。
「えっ、ええっ!?」
 唐突に言われスバメはとりみだしてしまう。
「ふふっ、お似合いだと思うわよ?」
 ピジョットは少しおどけた口調で二匹に言う。
「ちょっとお母さん!」
 ポッポが察したのか赤くなって言う。
「うふふっ、冗談よ、でも、ポッポとぜひ友達になってもらいたいの、
引っ越してきたばかりで、頼れる人もいないから、
同じ引っ越してきたポケモン同士、仲良くなれると思うのよ」
 ピジョットの瞳には、スバメの姿が映っている。
 その瞳からスバメは目をそらせなくなっていた。
「お願い、いい?」
 スバメは考えられなくなる。
「はい……」
 無意識にこたえていた。
「ありがとう、ポッポを、よろしくね」
 ピジョットはまたあの優しい笑みでスバメに笑いかけた。
「あっ、よろしくお願いします」
 我に返ったスバメはあわてて挨拶を返す。

 いったいさっきのは何だったのだろう?
 まるで意思を乗っ取られたようだった。
「スバメ、改めて、よろしくね」
 考える暇はなかった。
「うん、よろしくね」
 正直何を言えばいいかは分からない、

 二匹の間にしばしの沈黙ができる。

「今日はこれでいったん帰りましょう?
また明日、二匹だけでゆっくり話でもしたら?」
 みかねたピジョットが二人に言う、
 まるで二人にやり取りを楽しんでるようだ、
 しかし、その瞳は二匹を見ていなかった。
「そうしましょう、スバメ、私も……ほら、考えたいこともあるし」
 すこしそわそわした感じでポッポが言う、
 そのしぐさにスバメは何か胸に疼くものを感じた。


「ただいまぁ」
 スバメは新しい自分の家へと帰った。
 オオスバメもさっき帰ったばかりのようだ、夕飯の準備をしているところだった。
「お帰り、スバメ」
 オオスバメは器用に準備しながらスバメに言う。
「さ、できたよ、今日はいい子にしてたかい?」
「うん、カモネギはとても親切なポケモンだったよ」
 スバメは用意された夕飯を食べながら言う。
「そうか、それはよかった、あのカモネギは少し馴れ馴れしいから
 スバメが苦手なんじゃないかって心配してたんだよ」
 やはりオオスバメもそう思っていたらしい、
「ううん、とっても親切にしてくれたよ」
 スバメは正直な気持ちを答える。
「そうか、安心したよ、友達ができてよかったな」
 友達……か、
「もう一人友達ができたんだ」
「ほう、誰だい?」
 オオスバメは予想していなかったのだろう、
 若干期待しているのをスバメは感じていた。
「ポッポって言って、メスの友達なんだけど――」
「ほう! 異性の友達かぁ、スバメも大人になったなぁ」
 オオスバメは豪快に笑いながらそのフレーズを言う。
「ちょっ、どういう意味だよ」
 スバメは自分が照れているのを感じた、顔が熱い。
「ふふふっ、いいことだよ」
 オオスバメは完璧な笑顔で答える。
「もう……」
 スバメはそのまま黙り込んでしまった。

 そして、そのまま二匹は床についた。
 スバメは少し妙に思っていた。
 今日の父さんはなんだか自分を気遣ってくれていた。
 何か、あったのかなあ。
 考えるうちにスバメはだんだん不安になってくる。
 ある日突然父が消えてしまいそうな気がする。
 そんなことを幼いころはよく思っていた。その記憶がよみがえる…。
「ダメだよ、こんなこと考えたら」
 スバメは考えを必死に否定する。
 そうだよ、これまでも父さんは無事だったじゃないか、
 たまにけがする時があるけど、僕の前から消えたりしない。

 父さんは、僕の父さんだ。

 そのまま、僕は浅い眠りについた。
 夢の中で、ポッポが僕と一緒に飛んでいた。僕は、ポッポに共感しているのだろうか、
 ポッポとピジョット、
 僕は、知らない間に自分とポッポの姿を重ねているのかもしれない。
 仲良く、なれるかなぁ。
 そんなことを考えていた。

「……んっ」
 朝だ、日差しがスバメの目を覚まさせる。
 オオスバメはもういなかった。
「……」
 それに気づくと少しスバメは悲しくなる、
 朝一番にはやはり親の顔が見たいものなのだ。
「まあ、仕方ないよね、仕方ない……」
 スバメは自分に言い聞かせるようにその言葉をつぶやく、
 こうやっていつも自分の気持ちをごまかしてきたような気がする、

 それでもいい、

 いや、それしかできないのだ。

 スバメはオオスバメが用意してくれたらしき朝食をついばみながら、必死に今日のことを考える、
 今日はどうしよう?
 何か楽しいことを考えようかなぁ?
 ポッポは来てくれるのだろうか?
「そうだ、ポッポ、あの河原に行けばいんだ」
 少し安心した、これで今日の憂鬱感が紛わせれるのだ。
 それにポッポという相手もいる、

「よし、いこう」
 スバメは昨日の河原へと飛び立った。


 朝の河原は夕暮の河原とはまた違ったすがすがしさを持っていた。
 朝露に濡れた草むら、まだ少し肌寒い、
 その中にポッポは一匹でさらさら流れる川を眺めていた。
「おはよう、ポッポ」
 スバメはできるだけ元気よく声をかける。
「――っ!」
 少しびっくりさせてしまっただろうか?
 ポッポは少しあわてたようなそぶりを見せ、下を向く。
「びっくりさせちゃった?」
 恐る恐るスバメはポッポに近づく、朝露に濡れた草むらが体をなでる。
「いや、そんなことないわよ、おはよう、スバメ」
 少し間をあけ、ポッポがスバメに向かってあいさつをする。
「……よかった、こういうの慣れてないからびっくりさせちゃったかと思ったよ」
 スバメは少し笑みを浮かべながらポッポに言う。
「ふふっ、ごめんなさいね、
まさか本当に来てくれるとは思わなかったから」
 その言葉が少し引っかかる。
「え? どういうこと?」
 反射的に聞き返していた。
「あっ、その……」
 すぐに失敗だと悟った、二人の間に気まずい沈黙ができてしまう。
「あぁ、ごめんね、言えるわけないよね、ほんとごめん」
 スバメはその場を何とか保とうとする、
 しかしそれはあまりにも不自然でその状況を変えることはできなかった。
「いいの、話すわ」
ポッポが切り出した、スバメはすぐに黙る。
「わたし、あなたが来ないかと思ってたの、
昔もこんなことがあってね、誰も来なかった」
 その瞳はスバメをとらえてはいなかった。
 どこか遠く、今という時間を見ていなかった。
「だからね、びっくりしたの、ありがとう、わたしを覚えてくれて」
 スバメは何も言うことはできなかった。
 言葉にできなかったのだ。
「さ、遊びましょう、ここ、結構きれいだからいろいろなことができるわよ」
 ポッポは気丈にふるまっている、しかし内心は泣きたいに決まっている。
 なぜならスバメも同じ気持ちだったからだ。
 彼女がどうしても自分と重なってしまう。
 ポッポを見てると自分を見ているようなのだ。
「どうしたの? 顔色が悪いわよ?」
 ポッポが心配そうな顔をする。
「あっ、ごめんね、大丈夫、心配しないで」
 スバメは笑顔を作る、
「そう? とてもそうには見えないわ、隠し事は嫌よ?」
 作り笑顔だということに気づかれてしまった。
「うぅ、ごめんね、ちょっと気分が悪くなっちゃって、どうも朝は弱いんだ。」
 今度はその場しのぎの嘘を考える、
「それも嘘ね、目が泳いでる」
 あっさりとポッポに見破られてしまった。
「スバメ、なんで嘘をつくの? そんなにわたしって信用できない?」
 ポッポは困ったような表情でスバメに問いかける。
「信用してないわけじゃないんだ、ポッポ、ほんとごめん」
 頭を下げる、ポッポは少しだけ表情を和らげた。
「なら、どうしてあんな顔したの?」
 スバメは返答に困ってしまった。このまま正直に言っていいのだろうか?
 それによってポッポは傷つくかもしれない、そう言うのは避けたいのだ。
「ポッポ、ごめん、話せないや」
「そうはいかないわ、話して」
 ポッポの声は少し鋭さを持っていた。
「う……」
 思わずスバメは口ごもってしまった。
「あっ、ご、ごめんなさい、その……」
 スバメのひるんだ様子にポッポは気付き、下を向く、
 そしてまた、気まずい沈黙が流れてしまった。
 もともと原因を作ってしまったのは自分だ、このまま黙っているわけにもいかない、
「ポッポ、ほんとのこと話すよ」
 勇気を出してスバメはポッポに話を振る。
「勝手な考えだけど、僕ね、ポッポを見てると、すごく不思議な気持ちになるんだ、
 ……変だよね、でもこんな言葉でしか表せない」
 ポッポは少し困ったような表情を見せる。
「ごめん、やっぱり変だよね」
 スバメは、苦笑いしながらポッポを見た、しかし、不思議なことに失敗したという気持ちは
 湧いてこなかった。
「……よかった」
「え?」
 ぽつりとポッポがつぶやく、
「スバメの素直な気持ちが聞けてよかった」
 ポッポは川のほうを向く。
「あのね、笑わないで聞いてほしいの、きっとスバメなら、わかってくれると思うけど……」
 スバメは黙ってポッポの隣に立つ、
「ポッポ、僕でよければ聞かせてもらうよ」
「ありがとう」
 そう言うポッポの目はすでに遠い目をしていた。
「わたしね、ここへ来る前はにぎやかな都会に住んでいたの」
「そうなんだ、僕もそう、都会のポケモンたちはとても元気だよね」
「うん、とってもにぎやかで楽しい毎日だったよ、でもね、そんな中でも心配事があったの」
「心配事?」
 スバメは何となくわかるような気がしていた、
 そして、それは当たっていた。
「わたしのお母さん……、たまにね、ひどいけがを負って帰ってくるの」
「……」
 黙るしかなかった、それにかける言葉がスバメにはなかったからだ。
 ポッポは話を続ける。
「そして引っ越してからもそれは変わらなかった、……昨日、お母さんは片目を失って帰ったきたの」
「なっ……!」
 思わず声をあげていた、
「スバメ、わたしの話、信じてくれる?」
 ポッポはスバメのほうに向きなおる、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。
「……」
 スバメはもう何と声をかければいいかわからなかった、
 慰めようにも言葉が見つからない、そもそも慰めるべきなのかどうかもわからない。
「……きっと私のことおかしいと思ってるよね、でもいいの、
 スバメは笑わないでわたしの話を最後まで聞いてくれた、それだけで十分、
 ごめんね、へんな話して」
 ポッポは涙をはらい、スバメに無理して笑いかける、
 その姿はどことなく痛々しく感じた。
「――っ」
 スバメはやさしくポッポの涙を払う、
「ポッポ、驚いたらごめん、でもどうしていいか僕にはわからなかったんだ」
 正直自分でもなんでこんなことをしたかは分からない、
「……ありがとね、本当に」
 少し恥ずかしいのだろうか、ポッポは抵抗はしないもののスバメから視線をそらしていた。
「あのね、ポッポ、何も言わないで聞いてほしい、やっぱりポッポは僕の思った通りの
ポケモンだったよ」
 ポッポはその言葉について聞こうとはしなかった。
「お互い、似てるのかもね」
「ふふっ、そうかもね」
「あははっ、なんだか不思議だね」
 二匹はお互い笑いあった、
「不思議……か、わたし、考えたことなかったな」
「僕もね、君に会うまではそんなこと全然考えたことなかったよ」
 スバメはポッポの隣から離れ、河原を歩き始めた。
「スバメ、もう一つだけいいかな」
 ポッポはスバメをその場で呼び止めた。
「なんだい?」
 スバメはその場で振り返る、
「気、遣わないでね、わたし平気だから、むしろ気を使われると居心地も悪いし、だから……ね?」
「そんなことわかってるよ、だから安心して……ね?」
 できるだけスバメは明るく声をかける、こういう気持ちは誰よりもわかってるつもりだからだ。
「うん、ありがとね」
 察したのかそれとも素直な気持ちなのかは分からない、
 だが現実、ポッポは笑顔でこちらを見てくれた。
「じゃあ、遊ぼう? 今日は天気もいいし、きっと気持ちいいと思うよ」
「うん!」

 その日、夕方まで二匹は時を忘れ、遊び続けた。
 気づけば昼食もとってなく、日は傾き、空は茜色に染まっていた。
「ふう……、今日は楽しかったね、ポッポ」
 空を見上げながらスバメは言う、
「そうね、わたしもとっても楽しかった。ありがと、スバメ」
 同じようにポッポも空を見上げた。
「ねえポッポ、また来て……いいよね?」
 一瞬ポッポの動きが止まる、その様子にスバメは言いようのない不安を覚えた。
「……ダメかな」
 力なくスバメはそのフレーズを言う。
「そんな、むしろスバメからそのフレーズが出てくれるとは思わなかった。
 こちらこそ、よろしくたのむわ」
 こちらを振り向きポッポは満面の笑みを浮かべた。
「……ふふっ、よかった」
 つられてスバメも笑顔になる。
「それじゃあ、また明日会おうね」
「ええ、さよなら」
 二匹はそれぞれの帰路へと帰って行った。


「ただいまぁ」
 スバメは自分の家に帰ってきた。……返事はない、父は帰ってきていないのだ。
 でもそれも慣れっこだった。スバメは黙って夕食の準備をする。

 ほどなくして父が帰ってきた、スバメは夕食の準備をほとんど済ませてしまっていた。
「ただいま、おや、もう準備しちゃってたか、ごめんな、スバメ」
 少し疲れた顔をして父が言う、
「ううん、全然いいんだよ、仕事お疲れ様」
 スバメはできるだけの笑顔を作り答える。
「ありがとう、スバメは強いな」
 父はやさしくスバメの頭をなでる、少し何か鼻につくにおいがした。
「……お父さん?」
 スバメは顔を上げる、父の脇腹に深い切り傷のようなものがあった。
 においの元は父の血のにおいだったのだ。
「お父さん、この傷……!」
 スバメはあわてて止血の道具を探す。
「大丈夫だよ、血はもう止まってる、ちょっと仕事でドジっちゃってね、
 心配しなくていいよ」
 ……ウソだ、直感的にそう思った。
 仕事をしていて脇腹なんかに傷を負うのだろうか?
 脇腹に傷を負うのならばよっぽど無防備な状態でない限り――
「どうした? なんだか顔色が悪いぞ?」
 父が少し心配そうな顔をして尋ねる。
「ううん、大丈夫」
 少し元気のない声でスバメは言った。聞かなければいかないだろう。
「ねえ、お父さん、どんな仕事してるの?」
「さあ、なんだろうね、当ててごらん?」
 恐ろしいほどの速さで質問は返される。
 それは何も言わなくても、聞かないでほしいという意思が伝わってくる。
 しかし、スバメにはこれ以上我慢できなかった。
「わかんないよ、だから聞いてるんだ」
 はぐらかすことのできない質問を父にぶつける。
「……」
 父は答えるそぶりを見せなかった。
「ねえ、答えて?」
 スバメはさらに追及する。
「……じゃあ逆に聞こう、スバメ、おまえに教えて何になる?」
「――っ!」
 それはスバメが初めて耳にした父の拒否の言葉だった。
 スバメは頭に血が上るのを実感した。
「なんで? どうしてそんなこと言うの? 僕は……僕はお父さんを心配して聞いただけなのに!」
 こんなこと言える立場じゃないのは分かっている、でも止まらなかった。
「僕たち家族じゃないのかよ! いつもいつもお父さんだけ何も教えてくれない!
 傷を負って帰ってくる父さんを見る僕が! どれだけ心配してるかお父さんは分からないんだ!」
 スバメは感情の赴くままに言葉をぶつける、その言葉の意味もわからずに、
 父は黙って聞いていた、その表情は子を責めることもなく、自分自身を自嘲しているように見えた。
 スバメは黙って家を出て行ってしまった。行くあてもなく……。



 どこを飛んでいたかもわからない、気づけばスバメはあの河原に来ていた。
 夜の河原はまた違う姿をスバメに見せた。川辺の草むらにホタルが光っている。
 その光景はスバメの心を落ち着かせた。

「おや? スバメじゃないか」
「……っ!」
 声の主はカモネギだった。
「どうしたんだ? こんなところで、お遊びの時間にはもう遅いぞ?」
 カモネギは、持っているネギを器用に振り回しながらスバメに話しかける。
「あの……僕、お父さんと喧嘩しちゃって――」
 スバメはこれまでのいきさつをカモネギに話す、
 カモネギは深く問い詰めることなく、スバメの話を聞いてくれた。
「へぇ、おまえ、なかなかやるなぁ」
「え?」
 スバメは予想外の言葉に少し困惑する。
「確かにお前のやったことはあんまりいいとはいえんさ、でもな、
 正直初めて会ったときはおまえはもう少し大人しい奴かと思ってたよ、
 変わったな、スバメ」
 カモネギは少し遠い目をしながらスバメに笑いかける、
 スバメはどう反応していいかわからなかった。
「でもな、一つだけ言うとおまえはやっぱり考えすぎだよ。
 悔しいかもしれないがオオスバメの言う通りなんだ。
 今のおまえじゃオオスバメがはなしたとしても何の力にもなれない」
 その言葉を聞いてスバメはあの時のことを思い出す。
 何も考えずに言ってしまった、今頃父は悲しんでいるかもしれない。
「それにな、スバメ、おまえは今を楽しむべきだよ、
 今は分からないかもしれないが、大人になるとだな、楽しめなくなっちゃうんだ。
 今のおまえのように考え事ばかりになってしまう、だからさ、スバメ、
 おまえは今を楽しみなよ、きっとオオスバメもそれを望んでいるはずさ」
 カモネギは父と同じようにスバメの頭をやさしくなでた。
「カモネギ……、ありがとう」
「お礼なんかいらないさ、それより、オオスバメによろしくな」
 カモネギはスバメにウインクをするとそのまま飛び去って行った。


「……」
 スバメは無言で家の中へ入る。
「……おかえり」
 父はまだ起きていた。
「お父さん、その……ごめんなさい」
 謝るとなぜか自然に涙が出てきた。
「いいんだよ、謝るのは父さんのほうだ。おまえのことを考えず、心配かけてしまって……、
 ほんとに、ごめんな……!」
 スバメが顔を上げると父は涙を両目から流し、スバメを見つめていた。
「スバメ、いつか、いつか必ず遊ぼうな……! この仕事が終わったら必ず……!」
「父さん……」
 スバメはそれ以上何もいうことはなかった。
 父の言葉を聞けたから、理由はそれ以上いらないだろう。


 そして朝、スバメは今日もポッポの待つ河原へといく。
 そしてポッポと夕暮まで遊ぶ、それが日課となり始めていた。
 この時が、スバメにとっての楽しみとなっていた。
 ポッポにとって、スバメとの時がどうとらえられているかは分からない。
 だが少なくともスバメにとってはポッポとの時間はかけがえのない時間となりはじめていた。


 そしていく日かたったあと……
「そろそろ日が暮れてきたね」
 時は夕暮、今日も二匹は河原で一緒に時を過ごしていた。
「今日はもう帰るかい?」
 いつもポッポはこの時間になると帰ってしまう、
 それはスバメにとっては少し悲しい瞬間でもあった。
「ううん、今日は、もう少しいたいな」
「どうしたの?」
 いつもと違う反応にスバメは心配する。
「何でもない、ただね、いつまでもこんなふうに楽しい時間が続けばいいのになって思っただけ」
 その言葉にスバメは一瞬凍りつく。
「スバメ、わたし、あなたといるとつらいことが忘れられる。あなたの……、
 スバメの笑顔を見ると、なんだか私も笑顔になれるの」
 スバメは自分が赤面していることを感じた。
「いきなりこんなこと言ってごめんなさい、でもね、どうしてもスバメに伝えたかったの」
 そう言うポッポも少し赤面していることにスバメは気付いた。
「スバメ、もう少しだけ、今日はいていいかな……?」
「う、うん……」

 やがて河原に夜が訪れ、川辺にホタルが舞い始めた。
「私、夜の河原は初めてなの、……きれいだね」
 ポッポはその光景をうっとりと眺めていた。
「……そうだね」
 もしかしたら自分は初めからそうだったのかもしれない。
 ポッポの笑顔、ポッポの強さ、そのすべてに僕は――
「ポッポ一個だけ話してもいいかな」
「なに?」
「僕ね、君のことが……好きだな」
 何も不思議などではなかった、答えは単純だったのだ。
 出会ったときから、僕はポッポに恋をしていたんだ。
「スバメ……」
「返事はいいよ、ただ僕が伝えたかっただけ、困らせちゃったら……ごめん」
 別に拒否されてもいい、ただ素直な気持ち……それだけはポッポ、いや、彼女に伝えたかったから。
「……ありがとう、スバメ、わたしもね、スバメのこと、大好きだよ――」
 そう言うとポッポはスバメにキスをした。スバメはそれを黙って受け入れる。
「ポッポ、また明日、会えるよね?」
 スバメは少し不安げな声ポッポに言う、なんだかこのまま会えなくなってしまうんじゃないか、
 そんな気がしたからだ。
「うん、きっとくるよ」
 ポッポは満面の笑みを浮かべ、スバメに返した。

「ポッポ! こんなとこにいたのね!」
 ピジョットだ、おそらくポッポを心配してきたのだろう。
「お母さん……ごめんなさい、心配かけて」
 ポッポは申し訳なさそうに下を向く。
「いいのよ、それよりも、仕事がもうすぐ終わるの、
 ポッポ、長い間遊んであげられなくてごめんね、もう少しだけ、待ってね」
「ほんと!? ……でも、無理しないでね、お母さん」
 その光景をスバメは少し遠くから眺めていた。
 自分にもいつか、この日が来る、それを夢見ながら。


 そしてスバメとポッポ達はそれぞれの家路へとついた。
「だだいまぁ」
 おそらく父はもう寝てしまっているだろう、その証拠に反応がない。
「……あれ?」
 用意された夕食のそばに、父か書いたらしき置手紙があった。
「スバメへ、今日は仕事で帰れなくなってしまった。ごめんな、
 けど、これが最後の仕事、これが終わったらスバメ、思う存分遊ぼうな。
 それじゃあおやすみ、スバメ」
 スバメは置手紙を読み終えると黙って夕食を食べ、床についた。
「お父さん、僕待つよ、お父さんが帰ってくるの」



 朝日が昇り、スバメの顔を照らしだした。
「うん……」
 スバメはいつもより遅く目が覚めた。
 どうやら少し疲れがたまっているようだ。

 父はまだ帰ってこない、スバメは遅めの朝食をとりながら、
 いつも通り今日をどう過ごすかをかんがえていた。
「スバメ! いるかい?」
 カモネギの声だ。
「どうしたの?」
「黙ってついてきてくれないか?」
 雰囲気が違った。

 二匹が向かったのはこの村の外れにある古びた廃工場だった。
「……お、お父さん?」
 そこにいたのは冷たくなったオオスバメだった。
「君のお父さんはね、捜査官だったんだよ」
 カモネギが静かな口調で言う。
 スバメはただぼうぜんと立ち尽くしていた。涙すら出ない、頭の中にあるのは父の言葉、
「これがおわったら、思う存分遊ぼうな!」
 約束したよね、お父さん……、それなのに、いなくなっちゃうの?
「……片目のないピジョット」
 スバメの耳に、聞き覚えのあるフレーズが入る、
「それが、君のお父さんを殺した犯人だよ」
 カモネギはオオスバメの死体をスバメの目につかないところに持っていく。
「……うそ」
 信じたくない言葉、
「信じられないかもしれない、けど、君のお父さんが死んだのが、何よりの真実なんだよ」
 何もかもが信じられなくなっていた。
 スバメは何も言わず翼を広げ、空へとむかう、



 スバメが来たのはやはり、あの河原だった。
「スバメ!」
 ポッポがスバメに呼びかける、
「ポッポ……」
 様子がおかしいことをポッポは察したのだろうか、スバメにすぐさま駆け寄った。
「どうしたの?」
 スバメは答えなかった。カモネギのあの言葉が頭から離れない、
「ポッポ!」
 聞き覚えのある声……
「お母さん? どうしたの?」
 ピジョットだ、
「あら、スバメもいたのね」
 僕のお父さんを殺した……犯人、
「スバメ? 悩んでることがあれば言ってよ」
 ポッポが心配して声をかける。

「――」
「……っ!?」
 スバメは次の瞬間ピジョットに襲いかかっていた。
 ピジョットはスバメに組み伏せられる格好になる。
「ス、スバメ!?」
 ポッポはスバメの予想できない行動に、ただぼうぜんとしている。
「おまえが……! おまえが父さんを殺した!」
 スバメの理性は今やほとんど保たれていなかった。
「ちょっとスバメ! どういうこと!? 父さんを殺したって……」
「こいつは! 僕のたった一人の家族を奪ったんだ!」
「スバメ! 落ち着いて! そんなはずないわ!」
「うるさ――」

 次の瞬間、スバメは地面に組み伏せられていた。
「ぐぅ……!」
 体に鈍い痛みが走る、背中に何か生温かい液体がこぼれだしているのを感じる。
 これは……血?
「あれ、やっぱりかばうんだ、こんなことされても」
 その声は何ども聞いたことのある声、
「やはりあなたの差し金だったのね、カモネギ……!」
 体のおもりが取れ、自由になる、見ると、
 ピジョットの胸からおびただしい量の鮮血が流れ出している、
「ピジョット……?」
「スバメ、君はいい仕事をしてくれた。これで邪魔者はいなくなる、感謝するよ」
 カモネギのネギに鋭い刃がのぞいていた。
 仕込み刀というやつだろう、おそらくピジョットはそれで傷を負った……。
「ど、どういうこと?」
 状況が把握できない。
「いいだろう、教えてやるよ、……全部おれがやった。それ以外言うことはない」
 スバメはどうしようもない絶望感に襲われた。
「じゃあ、初めて会ったときから……?」
「ああ、そうだよ、おかげでおまえの父さんは完全に俺のことを信じきってた。
 奴の虚を突くのは楽勝だったね。そしてスバメ、君もまんまとだまされてくれた。
 おかげでピジョットに深い傷を与えることができたよ」
「……!」
 ピジョットを見ると傷を押さえ血の気のない顔でカモネギを睨んでいる。
「どうしてこんなことを!」
 尋ねずにはいられなかった、
「これのためさ」
 カモネギは小さなチップみたいなものを取り出す。
「……っ!」
 ピジョットがあからさまな反応を起こす。
「このITチップには膨大な情報が記録されている、これさえあれば、
 全世界の権力を意のままに操れるのだ!」
 スバメにはカモネギの高らかな笑い声の意味が全く分からなかった。
 ただ一つ分かったこと、それは父がくだらない野望のために殺されたということ。
 それを思うと涙がこらえきれなかった。
「じゃあそろそろお話も終わりにしようか、邪魔者もこれで消える、さようなら」

 カモネギがゆっくりとピジョットとの間合いを詰めていく、
「く……、ポッポ、スバメ、二匹とも逃げなさい……! はやく!」
 かすれた声でピジョットが言う、
「お、お母さん……」
 ポッポはその場で硬直したまま動こうとしない、
「おいおい、死ぬのが怖くて気でも狂ったか? 逃がすはずないだろ」
 カモネギは邪悪な笑みを浮かべる、
 スバメの中でどうしようもない怒りが燃え上がる、
「――っ!?」
 カモネギは素早く、仕込み刀を振り払う、
「ぐっ!」
 するどい痛みとともに、スバメは薙ぎ払われ、肩口から鮮血があふれる。
「どうやら、早くお父さんの所に行きたいみたいだねっ!」
 カモネギはスバメに向かい仕込み刀の先端を振り下ろす。

「……っ!」
 はじめて死というものを覚悟した。
 しかし仕込み刀は振り下ろされなかった。代わりにあるのは生温かい液体の感覚。
「……?」
 スバメは顔を上げる。
「よくやったわ……、スバメ」
 ピジョットがカモネギののど元に鋭いナイフを貫通させていた。
「……ピジョット……きさ……ま……!」
 それからあとは言葉の代わりに血が流れ出るだけだった。
 仕込み刀が無機質な音を立てて河原の地面に落ちた。
 それと同時にカモネギ、ピジョットが地面に崩れる。
「お母さん!」
 ポッポが何かから解放されたように母に駆け寄る。
「ポッポ……、無事でよかった」
 相当無理をしていたのだろう、呼吸が荒くなっている。
「ごめんね、お母さん、もうダメみたい……」
「ダメよ! 死んだりしたら許さないんだから! すぐに医者を呼ぶわ!」
 悲しさを押さえながらポッポは飛び立とうとする。
「待って! ポッポ! もうわかるの、血を流しすぎた、それよりも、謝らして……、
 ポッポ、約束守れなくてごめん、こんなダメなお母さんで……ごめんね……!」
 ピジョットから一筋の涙が流れる、
「ううっ……」
 ポッポは泣き伏せてしまった。
「ポッポ……、せめて、わたしの分まで生きて……、それが、わたしの……」
 言葉は最後まで言われることはなかった。
 そしてそれは彼女の母の死を意味していた。
「ううっ……お母さん……」
 スバメは黙ってポッポの背中をさすってあげた、無論、スバメもやりきれない気持ちだった。


 カモネギ、ピジョット、オオスバメの死は、地元の警察のほうで処理がされた。
 親を失った二匹は村で世話を受けることとなった。
  


「うれしいことも、かなしいことも、全部ここにあるんだね」
「そう、ね」
 あれからいく年の時が過ぎ、二匹はオオスバメとピジョットになっていた。
 そして、河原にはポッポとスバメが元気に遊んでいる。
 そう、二匹とも、オオスバメとピジョットの子供だ。
「私たちが子供の頃、お母さんたちは失意のまま死んでしまった」
 ピジョットが遠い目をしながら遊んでいる子供たちを見る。
「そうだね、今でも思い出すとつらいよ」
「ねえ、オオスバメ」
 ピジョットがオオスバメを見る。
「子供たちは、幸せになれるかしら」
「……なれるさ、二度とあんなことは起こさせない」
 オオスバメは川辺に降りる、それにピジョットも続いた。
「父さん、子供たちは元気いっぱいに育ってるよ、僕、父さんの分まで子どもたちを幸せにする、
 だから、見守っててね」
 オオスバメはそれを言うとピジョットのほうを見る。
 ピジョットは黙ってうなずいた。
「お母さん、わたしたちの子供はけがなく順調に育ってるわ、
 私、お母さんの分まで生きて、子供たちを守る、だから、安心して眠ってね」
 それを言うと二匹は子供たちのもとへ向かう。

「さあ、ピジョット、子供たちと遊ぼうか!」
「そうね、二匹とも、今日も元気かしら?」
「元気さ! さあ、行こう!」
「……うん!」
 二匹の思い出の河原は、新しい世代に受け継がれ、また新たな思い出を刻んでいく。


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【原稿用紙(20×20行)】

62.4(枚)



【総文字数】

16418(字)



【行数】

819(行)



【台詞:地の文】

39:60(%)|6437:9981(字)



【漢字:かな:カナ:他】

23:54:10:11(%)|3793:9004:1714:1907(字)
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これで作品は終わりです、ここまで目を通していただき、ありがとうございました。
何かコメント等を残していただければありがたいです。
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IP:61.7.2.201 TIME:"2014-02-26 (水) 18:00:38" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%80%9D%E3%81%84%E5%87%BA%E3%81%AE%E6%B2%B3%E5%8E%9F" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64) AppleWebKit/537.36 (KHTML, like Gecko) Chrome/33.0.1750.117 Safari/537.36"

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