**忠犬ポチエナ~進化?なにそれお(r~ [#xa4af29c] [[忠犬ポチエナ?]]の続きです。 いろいろと思いつくもんなんですねぇ・・・自分って。[[青浪]] #hr ヒノキの林に囲まれた1軒の小さな家。その中には住人と思しき身丈からして14,5歳くらいの少年が机に肘をついてうつむいている。 「ホームシックだ・・・ホームシックだ・・・ホームシックだ・・・ホームシックだ・・・」 もうダメだ・・・独り暮らし始めてまだ1週間・・・もう帰りたくて帰りたくて・・・ 「リョウ・・・うるさいよ・・・不気味だし・・・」 とことことやってきたポチエナが不機嫌そうに呟く。 「ごめん・・・コウ・・・聞こえてたか。」 コウっていうのは、僕のパートナーです。生まれたときからの付き合いで・・・はぁ・・・家帰りて・・・まあ自業自得ってやつだ。 独り暮らし始めたのはいいけど、5日目までずっとフィールドワークでバリバリ動いてたせいか疲れてこの2日ろくに動けず。 コウは僕を支えてはくれるけど・・・ 「わーいわーいたのしー!ごしゅじん!絵本読んでよ!」 ただ1匹元気なのがイーブイのハナ。引っ越して気兼ねが無くなったのか、飛び跳ねてどしどしと音を立てている。 「わかったぁ・・・えほんよむからまっててぇ・・・」 無意識のうちにふらふらと僕は足をハナのほうへ向ける。 「コウ!しっかりしろ!」 リョウは僕を元気づけてくれるけど、いまいち元気が出ない・・・・ 「リョウ!しっかりしろ!」 コウは僕を元気づけてくれるけど、いまいち元気が出ない・・・・ 「コウ、ちょっとハナに絵本読んでくるから待っててね。」 「早く元気出してよ。」 「ありがとう。」 励ましてくれるコウに礼を言うと、ハナの所へ向かい、絵本を一本調子で読む。 「ごしゅじん~。ちゃんと読んでよ~。」 「わかったってもう一回チャンス頂戴・・・・」 「はやくぅ。」 ハナはむすっとした顔で僕の提案を受け入れた。 本を読む間、独り暮らししてからのことをずっと考えてた。1日目は荷物の整理してたし・・・2日目から5日目まではずっとフィールドワークでこの林を動き回ってた。 ちゃんとデータも集まったし、昨日はずっとデータの整理をしてたんだけど・・・昨日の夕方から家が恋しくなってしまった。コウも気づいてるのかずっと励ましてくれてる。 「ごしゅじん!」 「ん?」 「もう終ったよ?なんでずっと後ろのページを読んでたの?」 手に持ってた本をみると一番後ろの出版社とかが書いてあるページを読んでたみたいだ。 「ああごめんごめん。どうだった?」 「よかったよ。心がこもってる感じ。」 ニコニコ笑顔で僕を見るけど、僕はずっと独り暮らししてからのこと考えてたからどこがどう心がこもってたのかと・・・まぁばれなくてよかった。 さてと、今までのデータを整理するか。自分用の部屋にこもってやれ植物のデータやら、生息する生き物のデータを丹念にノートに書き込んでいく。 「えーっとこの写真の木の実はウイの実か・・・渋いって有名だったけ確か・・・コウに試しに食べさせたら吐いたっけ・・・あの時は悪いことしたなぁ・・・」 試しに食べさせたっていってもつい2日前の出来事で、渋いって言ってそのまま吐いた。口直しにマゴの実をあげたんだっけ。 有名だからちゃんと知ってたはずなのにお互い忘れてたんだか、それともコウだけ憶えててとりあえず無害だからいっかって言って食べて吐いたのか。 「はぁ・・・」 キィという音がして僕の部屋のドアが開いた。それに続くようにトコトコという音が聞こえた。僕は椅子に座ったまま首だけ振りむいた。灰色の毛の身体に黒い毛の顔・・・ ポチエナ特有の身体・・・コウだ。 「コウ?」 「どしたの?廊下に響くため息なんてついて。」 コウはつぶらで純真さを兼ね備えた瞳を僕に向ける。 「おとといは・・・悪いことしたなって思って。ウイの実食べさせちゃったじゃん・・・あの時は本当にごめん。」 椅子に座ったままではダメだと思って、椅子から降りてコウの目の前で正座して謝る。土下座みたいな感じになった。 「おれもその・・・忘れてた。記憶そんなに良くないって自覚あったのに。でもマゴの実旨かったし、そのあとリョウがちゃんとおいしいご飯作ってくれたから・・・」 コウは少し恥ずかしそうに照れて前肢で頭を掻く動作をして言う。 「コウ~・・・」 うれしくなった僕は正座のまま向かい合うコウを抱き上げる。コウはわぁ、というリアクションをした後、少し笑って僕の胸に身体を預ける。毎日お風呂に入れてるからか石鹸のいい香りがすっと漂う。 ぎゅ~と抱き合うとコウのふさふさの毛が僕の身体のあちこちにあたってくすぐったい。コウの顔は僕の耳の横にあって、顔周りの毛が頬に当たる。 空いた右手で何度もコウの頭から背中を撫でる。コウも、ん・・・ん・・・という押し殺した声を出すけど、すごく気持ちよさそうだ。 このときに離すとちょっと嫌そうな顔するんだよね。だからコウがご満悦になるまでなかなか離せない。 安心しきって耳が寝たのか僕の耳の前に柔らかい感触が当たる。尻尾触ってみようか・・・いつも他の人が尻尾触るとすごい嫌な顔するし、たまに吠えるけどね・・・ 他の人って言ってもだいたい母さんと父さん、あと人じゃないけど実家に住んでるアブソルのソラくらい・・・ でも僕が触ると嫌そうな顔じゃなくて、すっごく恥ずかしそうに身体をくねくね動かすんだけど、その理由は言ってくれない。 ふにふに・・・尻尾を数回軽くつまむ。 「うきゃっ・・・」 抱いてるコウの体はいつもと同じようにくねくね動く。寝ていた耳がぴんと立つ。 「そこ触らないでよぉ・・・ほんとに。」 少し息が荒くなってる。顔もちょっと赤いし。 「なんで?・・・ひゃっ・・・こらっ・・・やめ・・・って」 ぺろぺろと耳の裏側をコウは舐めてるみたいだ。僕はそのくすぐったい感触を抑えられず声に出してしまった。 「こういうことだよ。」 「わかったからやめっ・・・やめなさい。」 しつこく耳の裏を舐めるコウを何とかやめさせる。耐えれなくなって腕を動かしてコウを遠ざける。 コウを身体から離したけど、僕にすっごくうれしそうにニヤニヤしてる。何かこう・・・やってやった・・・みたいな顔して。 「こういうことだよ?」 「わかりました。もうしません。」 僕はコウに宣言した。 「別にやってもいいんだけど・・・やりすぎないでね。ほんとくすぐったいんだって。」 「わかった。すごく不機嫌になったらやってあげる。」 「噛むと思うよ。不機嫌な時は。まぁ今みたいな時はいいかな。」 コウは人懐っこい笑顔をしてぴょん、と跳んで僕の手から離れた。 「元気出た?」 コウ・・・コウはホントによくできたパートナーだよね。こんないいパートナー持ってるのに凹んでたらダメだよね。元気出さないと。 「出た!がんばるよ。」 「がんばって!」 コウは今まで僕が抱いてたからなのかふにゃっとした目してたが、それをきりっとさせて言う。その言葉は僕の寝ていたやる気を起こさせてくれた。 僕は張りきってデータの整理をする。意欲がみなぎってきたのか、作業効率が2倍、3倍と早くなる。早い早い・・・って大したデータ集めてないな・・・ 「はぁぁ・・・結局無駄だったか・・・ま、いいや。なにが生息していたかよくわかったし。」 すこしがっかり・・・ちょっと珍しいものでも見つかればな・・・という僕の希望は打ち砕かれた。 「やっぱりもうちょっと遠くに行かないとダメか・・・」 ちょっと気分転換に遊びに行くか。コウとハナはどこ行ったのかな?僕は椅子から立ち上がるとふぁぁと背伸びをして部屋から出た。 「おーいハナ~・・・コウや~い・・・」 呼んだけどいまいち反応がない・・・もう一回呼んでみるかな・・ 「はーい・・・」 もう一度声を出す前にかすかな声が聞こえた。声がする部屋に行くとうきうきしてるハナとしんどそうなコウがいた。 「どしたの、コウ?」 「はぁ・・はぁ・・・もてあそばれたぁ・・・はぁ・・・」 息も絶え絶えに答えてホントにしんどそうだ。ハナに声を掛けてみるけど、ハナは遊んでもらったんだよ、と悪気がなさそうに答える。 ハナに詳しく聞いてみるとどーやら身体の小さいハナがコウをほんろうするように追いかけっこしてたみたいだ。こういう小さい空間では動き回れるほうが有利だよね。 「そと行こっか?」 「わーいごしゅじん!いこういこう!」 相変わらずの元気さでハナは元気そうに答える。コウはしんどそうだけど・・・ 「行ける?」 「うーん・・・うん。行く。」 ちょっと行きたくなさそうだけど、行きたい、という返事をくれたぐったりしてるコウのそばで僕はコウの身体を優しくさする。 「だいじょうぶ・・・おれは行けるって。よっと・・・」 コウはびしっと立ちあがり元気そうに振舞うけど・・・耳が寝たまんまでちょっとしんどそう。それを見て僕は少し準備を多めにする。 準備って単にきずぐすりとか道具を用意するだけだけど。 一応独り暮らしだから大けがとかには対応できないけど出来るだけ道具を用意していざというときに対処できるようにしないと。コウたちに迷惑かけられないし。 いそいそと荷物を小さなショルダーバッグに詰めて僕は左肩にかける。 「よしいくぞっ。」 ぴょこぴょこハナが部屋を跳ねて回ってる。コウは抑えるのに躍起だ。ハナも息も絶え絶えに跳び回ってれば、コウももっと息を切らして追いかけてる。 「いくよ!」 大きな声を出すとハナは僕のほうに跳ねてきた。コウはよたよたと気力もなさそうに近づいてくる。 「なんで出かける前に息を切らしてるんだ?」 まっとうな疑問を僕はぶつけるけど2匹とも何も言わない。ハナは息を切らしてうれしそうにしてるし、コウはもう答える力がないといった感じだ。 「行くのか?」 「行くよぉ!おにいちゃん!さ、行くよ!」 「ひゃい・・・」 はぁ・・・こんなので何かに襲われたらどうするんだろ?一応逃げられる準備をしとくか。 山歩き用の靴を出して靴ひもを通すとしっかりと履いて履き心地を確かめる。少しでも違和感を感じると長距離を歩くのは難しくなるからだ。 「よし・・・鍵も閉めたし・・・窓も大丈夫だな・・・行くか。」 コウとハナは僕の後をとことこついてくる。少しコウは回復したのかトコトコ走るスピードを上げる。 青空の下、ヒノキの林が僕の今住んでいる家の背後には広がっている。ヒノキの林の面積は結構大きく、真ん中に川が流れていて、このあたりの水源になっている。 ぐしゃぐしゃと、背の低い草を踏み分けて林に入っていく。踏みしめるたびに草の緑の香りがする。奥に進むほど日の光もかなり遮られる。 あまり手の入ってないのか林道みたいなものはない。ただ川に行くために長年踏み固められた細い道のようなものがあるだけだ。 そこを踏むたびに自然を感じられる。じゃりじゃりと小道の石を踏みしめながら木々の枝葉を見ていく。 木々の先の異変・・・木の実の熟成度など・・・植物を研究する人間としてはこのような細かい点まで見なければ・・・というのが父さんの言いつけ。 実際父さんはいくつかの植物の病気の発見や、それを防止する植物の組み合わせなどで、成果をあげている。僕から見ると雲の上のような存在だ。 父さんは若い時の発見でたいした業績じゃない、って言ってるけど、その様子はどこか自慢げだった。 「ごしゅじん・・・暗いし、怖いよ。」 ハナは少し文句を言った。普通、女の子はこんなところに来たがらないからね。 「仕方ないよ。ここにはいろいろな植物があるんだから。」 GPSと地図で2回自分の位置を確認しながら進んでいく。 奥に入るほど背の高い草の本数が減っていき、木の間隔は少し広がっていく。日の光をよく当てるためにこうなったらしい。 木漏れ日が温かい。ハナがきゃっきゃと木漏れ日のあたる場所で日向ぼっこをしてる。ふと目を上にやると見たことのある木の実がなっていた。 そっと手を伸ばして木の実をプチっと取る。 「ほら・・・えーとこれは・・・オレンの実だぞ!食べたいか?」 僕は辞典を開いて自信満々に言う。ハナはすぐ飛びついて来たけど、コウは首をかしげてなかなか近寄ってこない。 「コウ、どうしたの?後ろになんかある?ほら、ハナあげる。」 ハナは黒い瞳を潤ませて木の実を見ている。 「いただきます。もしゃもしゃ・・・おいしい・・・」 おいしそうにかぶりつくハナ。その木の実の欠片からは甘いにおいが漂う。でもコウは相変わらず疑惑の瞳を向けてる。 「なんだよ?気になるじゃん。コウ?」 「えーっとね・・・なんで辞典を電子化しないのかなって。」 ん?どういうことだ?コウの言ってることの意味がわからない・・・人間なのに・・・ 「へ?ああ電子辞書みたいに辞典をするっていうこと?」 「そう。それで条件を入れて検索できるようにして、写真で見れるようになったらなーって・・・ポケモン図鑑見てて思ったんだけどね。」 す・・・すごい・・・なんなんだこのポチエナ・・・発明王か!?うーんでも自分は工業系に疎いしなーっ。 「そういえば父さんがトキワの町にそんなことを受託でやってくれる人がいるって聞いたな・・・父さんに聞いてみるかな・・・」 僕の話を聞いてハナは終始さっぱりな顔をしてるのにコウはすっかり満足げだ。 「さ、また行くか・・・」 草から次第に苔に変わっていく暗い森の中をゆっくり進んでいく。暗いと行っても視野は確保できてるし・・・まぁ昼間だからね。 苔の生えた大きな岩が見えてくる。今回の一応の目標だ。ここまで来ると林の5分の1くらいっていう合図。この辺は湿っぽいにおいのする場所だ。 この大きな岩は角が苔に覆われていて、不思議な力を持ってると言われてるらしい。 事実、この岩の周りにはほかの苔と全く異なる種の苔が生息しているし草も岩の周辺だけは整理したかのように全く生えていない。 ショルダーバッグを岩の近くにおいて水を飲んでいるとコウが姿勢を低くした。何かを感じてるみたいだ。ふと昔のコラッタのことを思い出した。 「がるるるるる・・・」 低いうなり声がこだまする・・・ 「コウ!ダメだよ。ここは自然の中。僕たちのほうが侵略者なんだから。」 いたって論理的な解釈でコウを説得しようとするけど、コウは一向にやめる気配はない。 ガサガサっという音とともに2匹のニドランのつがいが来た。コウは威嚇をする。その視線からはいつもの純真さはうかがい知れなかった。 「ニドランのつがい?おかしいな前に来た時はこの辺はニドランの縄張りじゃなかったはずなのに。生息数もわずかって・・・コウ落ち着いて、迷子の可能性がある。」 「リョウ!離れろ!」 「え?」 コウがニドランに近づこうとする僕を止める。ニドランのつがいも少しおびえてる。ニドランたちの茂みの後ろが揺れてる。僕はコウの言うとおりに少し下がることにした。 ガサッ!さっきよりも大きな音を立ててそいつは現れた。黒く長い巨体を存分にニドランたちに見せつけている。 「ハブネーク?」 「なんだ?人間がいるじゃねえかよ?まぁいいや全員倒す。」 そう言い放つとハブネークはおびえるニドランのつがいに向かって突進する。とっさのことで僕は反応できなかったが・・・ 「逃げろ!」 そう言うもニドランたちは震えあがって動けなさそうだ。ハブネークは♀を完全にターゲットにしているようだ。 ♀にその巨体がぶつかる刹那だった。♀の身体を素早くグレーの物体がつかみハブネークの攻撃圏から逃がす。コウだ・・・ 「ひううううう・・・」 助けられた♀は恐怖におののいている。 「コウ!」 コウは素早く♂にも下がるように言った。 「リョウ!交渉の余地はなさそうだけど・・・」 身体を僕のほうに向けたコウ・・・そんなこと言ってる場合じゃないよ。この場合は倒すか・・・交渉は望めなさそうだな。 「わかったコウ。せいぜい悪さしない程度にしなさい。」 「オッケー。じゃあ行くね。」 コウは身体を再びハブネークに向けて威嚇をする。助けられた♀は震えあがってなにが起きたか理解できてない。♂が必死に慰めてるみたい。 僕は必死にハナを捜してた。するとハナは苔の岩の近くでこっそり隠れてる。少し安堵してコウのほうを見るとハブネークがコウを睨みつけてる。 「てんめぇ、よくも邪魔しやがったな。絶対に許さねえ・・・」 「そんな巨体振りまわして森で勝てるとでも思ってるのか?」 コウはハブネークをどんどん挑発していく。ハブネークも挑発に乗ってどんどんヒートアップしていく。 「これでもくらえやこのクソ犬が!」 ハブネークはその大きな口をコウに向けて突進する。コウは全く動かない。 「コウ!危ないって。」 僕の声をコウは全く気にしていない。ハブネークがコウの目前に迫るとコウはひょいっと跳んで軽々とそれを避けた。 「さて・・・じゃあおれの番な。」 そう言うとコウはハブネークの頭付近を深く噛んだ。 「ぎゃああ・・・いてぇ・・・うう・・・なんだ・・・身体が・・・いてて・・・毒仕込んだなお前・・・」 「うん。じゃあ後はゆっくり毒がまわるのを待ったら?」 コウはハブネークの身体の上から降りてきた。 「にいちゃん!」 その声とともに苔の岩に隠れてたハナが出てきた。コウのほうに向かって走っていく。 「あぁ!ハナ危ないって!」 コウの制止も聞かずハナはハブネークに体当たりをかました。 「いで・・・いたぃ・・・」 「いたぁぃ!」 突っ込んでお互い痛がってる。お笑いみたいだ・・・ 「ハナ。帰っておいで。」 「ちょっと待ってわたし、身体が変なんだけど。」 「変?」 そう言うとハナの身体を光が包み込んだ。 「え?もう?早くね?」 コウの突っ込みをよそにそのまばゆい光は僕たちが直視出来ないほどに大きくなった。 「まぶしっ!」 その光は次第に小さくなっていく。そして収束した。 「キャ~!ちょっとぉ!ごしゅじん~!」 ハナが僕を呼んだ。僕は駆けつけるとそこにはイーブイの姿はどこにもなかった。代わり緑と優しいタン色に包まれたイーブイの進化系っぽいポケモンがいた。 「リーフィア・・・」 「え?」 コウがぼそっと呟いた言葉を聞いて急いでポケモン図鑑を取りだす。 ピッ!リーフィア・・・しょくぶつのように・・・ 説明を途中で切ると、僕は少し頭の中で考えた・・・進化したってことはさっきの一撃でハブネークが倒れたってことか?コウは? 「ごしゅじん!」 「はい?」 「どうしよう・・・これじゃおにいちゃんと追いかけっこして勝てない~・・・」 「そんなこと言われてもねぇ・・・」 コウはがっかりうなだれて僕のところに帰ってきた。 「おれのどりょく~・・・はぁ・・・助けたニドランのところにでも行ってくるか・・・」 そう言うとコウはニドランのつがいのところに行ってしまった。僕はリーフィアになってしまって落ち込んでるハナを慰める。 「まぁ、ハナ。いつかは進化するんだって。リーフィアでよかったじゃん。」 「ちがうのぉ・・・身体大きくなっちゃったらおにいちゃんと追いかけっこしたらすぐ捕まるの~・・・」 はぁ・・・ハナもまだまだ子供か・・・コウより先に進化しちゃったぞ?進化?前より大きなつぶらな瞳で僕を見るハナ。 「コウもいつか進化するから待ったら?」 僕はとっさに言う。 「へ?おにいちゃんも大きくなるの?」 「うん。いつかはわからないけどね、まぁそう遠くないいつか。」 「そうなんだ。よかった~。」 適当に説明して誤魔化す。でもいつ進化するんだろう・・・バトルもほとんどしない割に戦闘能力結構高いし・・・ 「リョウ!ニドランたち連れて来たぞ。」 コウが僕を呼んだので振り返ると、僕のすぐ後ろにコウがいてそのそばでニドランのつがいが仲よさそうにしている。僕も近寄っていく。 「どうだった?大丈夫だった?」 ニドランたちに話しかけると感謝からなのか、笑顔で僕の言葉に答える。 「ありがとうございました。あのイーブイさんには本当に感謝してます。」 え?あのイーブイ?コウのほうをちらっと見たけどべつになんとも、みたいな顔してる。拗ねてるというよりこの状況を楽しんでるみたいだ。 自分より強いイーブイがニドランたちの危機を救った・・・っていう成り行きを。 「元気で怪我無くてよかった。」 「はい。僕たちはハブネークに追われてここまで来てしまったんです。帰れるのは帰れるんですけど・・・」 「そうだな、おれより強いイーブイさんに護衛してもらったらいいんじゃないかな?」 コウは茶目っ気たっぷりに言う。こらこらと僕は突っ込んだ。 「ありがとうございます。あっちのほうなんですけど・・・」 ニドランたちも乗り気だ。指さしたほうを見たけどそう遠くはなさそうだ。僕たちはそのあと倒れたハブネークをそのまま残してニドランを送って行った。 ニドランたちはずっとリーフィアになったハナに敬語を使って会話をしてた。ハナは状況が読めてなくて完全に戸惑ってた。 送るとつかれたのか、ハナはすこしぐずり始めた。僕は今日の調査兼遊びを打ち切って家に帰ることにした。 家に到着するとご飯をさっさと作ってしまい、ハナとコウに食べさせた。 コウとハナがご飯を食べている間に僕はコウとの会話で出てきた電気屋さんの位置を確かめるべく実家に電話することにした。 プププ・・・プルルル・・・プルルル 「はい・・・リョウ?元気にしてる?え?父さん?ちょっと待ってね。」 「おおリョウか・・・で?あああの電気屋ね・・・確か・・・トキワの駅を出てすぐの商店街の右のアーケードの2番目のカドのところだよ。ところでどうだ?元気か?」 痛い質問を僕にぶつけてきた父さん。 「え?なんだてっきりホームシックになってると思ったのに。まぁまた電話してくれよな。ローもサナも気にかけてくれてるみたいだから。じゃ。」 ツー・・・ツー・・・ツー・・・ガチャ 僕は電話を切ると足元にコウがやってきた。 「どしたの?ホームシックのこと聞かれた?」 うぅ・・・読まれてた。 「んなわけないでしょ。そんな・・・ねぇ・・・さて僕もご飯食べるか・・・」 僕は木の実のスープを3杯掬うとそれを飲んだ。これで今日の晩御飯はおしまい。コウは僕が晩御飯のスープを飲んでる間ずっと僕のそばにいた。精神的に疲れてハナはもう寝たみたい。 「よっと・・・」 「わぅっ・・・」 コウを抱き上げて一緒にお風呂に入れているとふと進化しちゃったら一緒にお風呂入れないのかな・・・なんてことを考えてしまった。 コウの身体をしっかりと拭いて、乾いたのが確認できたら寝室で一緒に寝る。ハナは寝るスペースが少し離れている。コウが寂しがりのハナの性格を考えて離したようだ。 寂しがり屋だっていう意識とハナは♀で自分も♂だしっていう葛藤があったみたい。 僕は横になるとうつ伏せで寝ているコウを抱いた。コウは四肢をぷらぷらと揺らしてる。最初は嫌がってるのかなって思ったけどあとあと聞いたらコウは寝てるときに身体を浮かされるとこうなるみたい。 コウもすっかり瞳を閉じて熟睡したみたいだ。それに安心して僕も目を閉じる・・・疲れる1日がおわったなぁって思いながら・・・ 「ん・・・ふぁぁぁぁっ・・・」 もう朝か・・・窓からの光が目を瞑っていてもその温かな感触が心地よい。腕にはふさふさした・・・あれ・・・ 目を開いてがばっと身体を起こす。コウがすやすやと両脇に僕の両手を通す格好で抱えられた感じで眠ってる。ふつう仰向けで寝る生物っていないからね・・・反応速度的に考えて。 警戒してないのか、実は結構警戒してるのか。つま先から半分くらい黒い毛におおわれた四肢をくいくいと動かしてる。いい夢でも見てるのかな。ほのかに石鹸と僕の汗の匂いがする・・・ 起しちゃおうかな・・・僕が起きれないし・・・っていっても僕から抱きついたから起こさないように立つかな。そっと起きたら大丈夫かな・・・ 「よっこいしょっと・・・」 僕はコウを抱いたままゆっくりと立ち上がる。ぴくっとコウの身体が震えた。 「んにゃ・・・ふぁぁぁぁぁっ・・・」 起こしちゃったみたいだな・・・目もすっかり開いちゃってるし。 「おはよ・・・コウ。起こしちゃった?ごめんね。」 「リョウ・・・おはよう・・・よく寝れたから大丈夫だよ。」 コウを抱いた姿勢のまま僕は洗面所へ向かう。グレーのふさふさがくすぐったいんだけど、それがすごく気持ちがいい。コウは身体を僕に預けてるから、僕もコウがいい気分になるように姿勢を工夫してる。 洗面所の鏡に映った顔を見るとすっかり疲労は吹き飛んだみたい。顔色もいいし。 「さ、降ろすよ。」 「うん・・・」 そういうと、僕はコウの身体をゆっくり床におろそうと屈むけど逆にコウは人懐っこい笑顔で胸に飛びついて来た。 「ちょっ!コウ!」 「えへへ。」 ぺろぺろと僕の顔を舐めるコウ。くすぐったくて避けようとするけど、コウは見逃してくれない。 「ちょ・・・やめ・・・コウ!もう・・・」 こうなりゃお返しだ。僕はコウの体を思いっきり抱き上げるとグレーのふさふさの尻尾を何度もふにふにと軽く掴む。 「うきゃっ・・・きゃぅっ・・・きゃぅぅ・・・」 途端に毛を逆立てる。甘い声を出すと何度も尻尾をぴくぴくと動かせて身体を僕の胸でくねらせるコウ。完全に僕が遊んでる格好になった。 「やめる?」 「し、尻尾は反則だよぉ・・・ほんとにぃ・・・」 声も少し震えてる。顔も少し照れてるのか赤らんでる。 僕は抱いたコウをゆっくりと床に下ろして、顔をバシャバシャと水で洗い始める。冷たい水が目覚めの顔にはすごく気持ちいい。 タオルで顔を拭いているとコウが僕のそばでおとなしく待ってた。さっき散々触った尻尾を少し振ってる。 「お腹すいた?」 「ちょっとね。」 「じゃあご飯作るから待っててね。」 「うん。」 ハナも起こさないとな・・・ 「コウ?ハナ起こしてもらってきていい?」 「わかった。」 コウは元気よく寝室に向かってトコトコと走って行った。 僕はその間に朝ごはんの用意をしないといけない。キッチンではザクザクと木の実を切る音が響く。 昨日の晩もスープだったっけ確か・・・今日は遠出するからスタミナがつくものにするか・・・僕はいろいろと考えて、結局米とサラダにすることにした。 お皿に炊いたご飯と、木の実と野菜のサラダを盛りつけていく。 「うぎゃっ!」 寝室のほうから悲鳴が響いた。僕はあわてて寝室に向かう。 「どうした?」 寝室に入るとハナがコウに覆いかぶさってる。 「ハナ!ちょっと離れなさいって。」 コウの上から退くハナ。怒られたと思ったのかしょんぼりしてる。 「ごめん、おにいちゃん、ごしゅじん。前と同じ感覚で遊んでたら・・・やっぱり・・・」 ハナはやっぱり進化したことがいたく気に入らないみたいだ。まだ落ち込んでる。僕はハナを必死に励ます。 「ハナもリーフィアになって魅力が増えたよ。ホントほんと。」 僕は屈んでハナのつぶらな瞳にじっと見入る。ハナは照れてるのか僕から視線を外す。 「ごしゅじん・・・はずかしいって・・・」 「ん~?そう?」 顔を次第に赤くしていくハナ。でも僕はまだじっと瞳をじっと見てる。頭の草をなでるとハナはすごくうれしそうに首をふるふると震わせた。 「ご飯食べよっか?」 「うん。」 「コウも早く起きて。」 「ひゃい・・・」 コウも潰されたグレーの身体をゆっくり起こして僕より先に寝室から出て行かせた。ハナもそのあとをゆっくりついていく。 やっぱりハナはまだまだあそびたいんだな・・・イーブイから進化して可愛いのになってもやっぱり戸惑うんだね・・・ コウとハナがご飯をがつがつ食べてる横で僕は一人用のテーブルに座ってむしゃむしゃとご飯を食べてる。 ちらっとコウとハナを見たけど、元気は一応あるみたいだ。ハナは身体が大きくなって食欲量が増えたのかコウよりも早いペースでご飯を食べてる。負けじと僕もあわててご飯を食べきった。 「食べ終わった?」 「うん!」 元気なハナの声が響く。そう言えば進化したけど、ハナって何食べるんだろう?水?太陽?まさかね・・・また調べとかないと。 「コウは?」 「ちょとまって・・・」 コウは普段から食べるペースそんなに早くないから急かしたらかわいそうだよな。 「ゆっくり食べていいよ。ちょっと僕もあわてて食べ過ぎて気分悪いし。」 その言葉でかえってあわてたコウは黒い顔に米粒をたくさんつけてがつがつと食べている。 「ほら~。顔に米粒たくさんついてるし。ゆっくり食べなって。」 「ごめん・・・」 ようやく落ち着いたのか、普段のゆっくりのペースでむしゃむしゃと食べてるけど・・・終わったら顔洗わせなきゃね。 「ごちそうさま。」 「ああ・・・ちょっとコウ待っててね。」 僕は急いで食器を洗うと、コウを連れて風呂場に向かった。 「ほら、コウ顔見てみなよ。米粒がついてるでしょ?」 「うん。」 「洗うよ。」 「うん。」 「きつかったら言ってね。」 僕はコウを抱えて頭の上からシャワーで顔を洗い流していく。コウも瞳を閉じ、時折顔をブルブルと振って終わるのを待ってる。一通り流れ落ちるとシャワーを止めてタオルで丁寧に拭いて乾かしていく。 「ふぅ・・・おしまいだよ。」 タオルをコウの顔から離すと、コウはすっきりした、といった顔で僕を見る。 「ありがと。」 コウは脱衣所から廊下にぴょんと跳び出していった。その様子をみた僕も少し汗をかいたみたいで、顔を洗って脱衣所から出ることにした。 ばしゃばしゃと顔を洗う。冷たい水は汗で火照った顔には気持ちがよく、ついつい何度もばしゃばしゃと水を掛けてしまう。 つんつん・・・誰かが脚をつっついてきた気がする。僕は水道を止めて顔が濡れたまま後ろを振り返った。少しぼやけているが脚をつっついてきたそいつの正体はすぐにわかった。 「ハナ・・・どうしたの?」 「ごしゅじん・・・私、不安なの。」 ハナはうつむきながら不安を吐露する。僕はハナと同じくらいの高さに頭が来るように屈んだ。 進化したことで周りが自分を見る目が変わっているんじゃないか、とか、あそんでくれなくなるんじゃないか、とか。 その内容はついこの間までミルクをちゅうちゅう吸っていたそのイーブイからは少し想像しがたいようなものだった。僕は少しでもその具体的な不安を取り除こうとした。 「ハナ、いい?ハナが仮に悩んでても、僕は、少なくとも僕とコウはそんなこと思ってないよ。」 「え?ほんとに?」 「うん。僕だってハナが絵本を読んでって言っても読むし、コウも変わらずに遊んでくれるよ。」 「ごしゅじん・・・」 ハナの目はキラキラ輝いている。どうやら説得に成功したみたいだ。ハナは頭をすりすりと屈んでいる僕の首元に擦りつけてくる。 耳の感触が気持ちいいし、何よりハナの周りにはさわやかな空気が流れてる気がした。イーブイの時の幼さと違う雰囲気に少しドキドキしてしまう。 「ごしゅじん?どしたの?」 「ん?なんでもないよ。何か気になった?」 「いやぁ、ごしゅじんがなんか顔赤くなってるから。」 「なってないです。」 「なってる。」 「なってません。」 「その割にむきになってるじゃん。」 「ぅぅ・・・まぁいろいろあるからね・・・ご飯なに食べるのかとか。どんな生活をするのかな~とか。」 僕はハナに思ってる限りの疑問をぶつけた。進化したばっかりのハナもちょっと疑問に思ってたみたいだ。 「わかんないな~。ごしゅじんがどうするか、だと思うけど。」 ハナは僕に疑問のこたえは僕自身が握ってる、そういうような答えを僕にした。 「そうかな?」 「うん。」 「ほんとに?」 「しつこい!」 ごんっ・・・という音とともに僕は意識が遠のく。ハナは僕に頭突きをしてきたみたい。あいたたた・・・・ ハナはため息をついて僕からとことこと離れて行った。僕はふと壁に掛けてあった時計が目に入る。 「あれ?もうこんな時間か。今日は遠出するん・・・だった。」 屈んでた姿勢からさっと立ちあがると昨日、林に行ったときに持って行ったショルダーバッグを肩にかけるとモンスターボールを2つ取りだす。 そして見つからないようにボールを背後に隠すようにハナとコウのいるだろうリビングへ向かう。 「あれ?リョウどっか行くの?」 「まぁ遠出するから。ところで・・・」 僕はニヤリと笑ってモンスターボールをコウに向ける。コウは特に驚きもせず口元を閉めて僕を見る。 「どういうことかな?リョウ?」 変な小細工は通用しなかった。いっつもより怖い口調でコウは僕を問い詰める。 「ごめん・・・遠出したらどっちか置いていくか、2匹ともボールに入れないと喧嘩しそうだったから・・・電車にも乗らないといけないから・・・ごめん!」 素直に心情を吐露すると、コウはにこっと笑って僕を見た。 「わかった。リョウがそう判断したならおれはそれに従うから・・・ニヤニヤしないで。ほんとに。」 コウは物わかりがいいなぁ・・・感謝して向けていたモンスターボールを再びカバンに入れる。 「怖い?ニヤっとしてたら。」 「怖い・・・かな。おれは怖いとは思わなかったけど。でもハナは暴れると思うよ。」 「だよね~。取り抑えるの手伝って?」 「いいよ。出来たらだけどね。リーフィアに進化しちゃったから抑えるに抑えられないから。説得したほうが早いよ。」 コウの洞察力はなかなかだよね。早速僕たちは寝ているハナを挟み撃ちにするようにじりじりとハナとの距離を詰めていく。ハナが目を覚ました。 「キャッ!ごしゅじん・・・どうしたの?」 「あのね・・・落ち着いて聞いて、その~・・・」 コウにした説明をハナにもする。 「で、私にボールに入ってほしいってこと?」 「はい。誠に申し訳ないです。」 僕は接客のようにハナに接する。 「電車には一緒に乗れない、と。」 「はい、問題が起きる前に原因を排除できればいいかなと思いまして。」 「つまり・・・私が問題の原因だと?」 「いえいえ、そのようなことはありません。ただひとえに遠出ですのでそのリスクを回避出来れば・・・と思いまして。あくまで可能性の問題です。」 「ふ~ん・・・それでおにいちゃんはいい、って言ったんだ。」 「はい。さようでございます。」 「私を説得するのは簡単だ、とか思ったの?」 「いえいえ・・・将を射んとすればまず馬から、という言葉がございまして・・・」 「私がそのしょう?」 「はい。」 「で、なんで遠出するの?」 なかなか終わらない・・・コウを見たらもう寝てるし。結構時間たったみたいだし・・・そろそろ強硬策に出てもいいかな~・・・ ハナはかなり嫌がってるけど・・・ 「おとなしくしてくれたら、なんかしてあげるけど?」 「ほんと!?じゃあ、帰ってきたら・・・その・・・絵本読んで?」 ハナはあっさり食いついた。 「いいよ。3冊くらいまでならずっと読んであげる。」 「じゃあさ、さっさと行こう!」 時間かかった割に意外なところで落ちたな。僕はモンスターボールをハナにかざしてハナをボールに入れた。 「コウ!行くよ!」 「はいはい・・・」 コウにもボールをかざした。コウもあっさりとモンスターボールに入ってくれた。 時間がかかった僕はあわてて家を出る。駅まで走って5分くらい。歩いても10分という近場ながら、この辺は全くの未開の地。 駅までの道は実家とあの溺れた川と同じくらいの背の低い草に広がるあぜ道だ。 駅が見えてくる。駅の建物はレトロな木造の駅舎にコンクリのホームという世界観ぶち壊しもいいところだ。 そんな路線ながら、閑散時でも電車は12分に1本と恵まれている。夏場はこの辺は海水浴客で・・・って言ってもこの辺は真夏以外は春みたいな気候だから・・・ 冬って言っても雨ばっかり。保守も楽そう。まぁ僕が気にすることでもないけど。 切符を買うとホームで電車を待つ。運がよかったみたいでもうすぐ来るみたいだ。 ごぉぉぉぉという音とともに電車がホームに入ってきた。ステンレス地に細い赤帯・・・ってまあステンレス地がたまに日光が反射してまぶしいんですよ。 列車に乗って終点で乗り換えて・・・っていうことをしているうちに1時間。長かった。電車に乗る習慣がないと辛いよね。1時間は。 「トキワ・・・トキワ・・・ご乗車ありがとうございました。」 ふぅ・・・眠くて眠くて仕方ないな・・・まぁいいや・・・とりあえず目的を果たさないと・・・えっと駅を出てすぐの商店街か・・・ 改札を出ると確かに目の前に商店街?らしきものはある・・・商店街というより店がぽつぽつと連なってるだけだけど・・・ 商店街?を奥まですたすたと僕は進んでいく。確か場所は2番目の・・・ 「あれ?」 思い出さなくてもすぐ隣に怪しげな電気店が目に入った。直感でここに違いない、そう思えるくらいだ。 その電気店は怪しげなコードや機械があちこちにあり、普通の家電の店とかとは一線を画していた。僕はその店に入ることにした。 「すいませーん・・・」 コードをかきわけて進んでいくが・・・反応がない。ごちゃごちゃしてる割には清潔な匂いが漂う。 「すいませ・・・」 黄色い物体が見えた・・・デンリュウ?デンリュウが椅子に座って眠ってる・・・店番なのかな?声かけづらいし・・・店の奥からガサガサ音がした。 「はいはい!やぁ・・・いらっしゃい・・・」 奥からは白髪のメガネをかけたおじいさんが出てきた。服装は長そでのポロシャツにデニムというはたして店主なのかな?っていう感じの服装だ。 「あの~・・・実は製作をお願いしたいものがありまして・・・」 「はいはい・・・なにかな・・・ちょっと待ってね・・・仕様書を出すから・・・ちょっとたえちゃん!仕様書取って!」 たえちゃん?がさごそと音がしたので後ろを振り返るとさっきの眠ってたデンリュウが目を覚まして僕をちょっと不機嫌そうに見てる。 「はい、ご主人、仕様書です。なんなんですか?この子供?」 こ、こどもぉ?震える体をひっしに押しとどめて耐える。 「まぁまぁ。たえちゃん。この子はお客だから。」 「お客?そうだ!ポケモンなんか持ってるの?」 たえちゃん、という名のデンリュウはぼくに興味ありげに聞いてくる。 「まぁ・・・ポチエナとリーフィアだけ・・・」 それを聞いたデンリュウは少し嬉しそうな顔をした。 「ポチエナ?見せて!」 「いいよ。」 僕はモンスターボールをさっと出すとひょいっと投げた。地面に着く前にパカッと開いたボールからコウが出てきた。 「わぁ~本物だぁ~!ポチエナじゃん!」 「わわ・・・リョウ・・・どこだ?ここ?」 コウは状況がつかめてない、といった感じだ。 「どこって・・・コウ、目的地だよ。」 僕は答えるけど、コウは明らかにデンリュウに対してびっくりしていた。 「じゃあ、君、奥でいろいろ話を聞きたいからたえちゃん、店番よろしく。」 「はい!じゃあそこのポチエナ君!私と遊ぼうよ!」 「やだって・・・リョウ!助けてって!」 「ごめん。コウちょっと今からこのおじさんと話があるから。」 コウが嫌がるのがわかってたのでにさっさと用事を済ませようとその店主のおじさんと話をすることにした。 店の奥に案内されると明らかに普段使うようなコンピュータと違うコンピュータに大型の機械が数台置かれていた。 「そこに座って座って。」 おじさんの言うがままに座る。僕が座るとおじさんも仕様書を机に置いて座った。 「さて、なにを作ってほしいのかい?」 おじさんはさっきと変わらないような気さくな感じで僕に尋ねてくる。僕はあらかじめどういうのが必要か書きためておいたのでそれをカバンから出して手渡す。 それを受け取ったおじさんはメガネを外して僕のメモをじろじろと見ている。 「あれ?あんた植物の研究してるの?」 「はい・・・」 「じゃあちょっと見てもらいたいのがあるんだけど・・・」 そういうとおじさんは僕をさらに店の奥に案内する。僕は何か植物を育ててるのかな・・・って思ってついていく。なかなか汚い所で奥に進むのもなかなか面食らう。 「ほら・・・この仔なんだけどな・・・元気がなくて・・・」 僕が見てほしい・・・いや診てほしいって言ったのは可愛いベイリーフだったけど・・・ちょっと元気がない。 「この仔は?」 「捨てられてたんだよ・・・かわいそうに・・・たえちゃんがどうしてもって言ったから連れていろいろ介抱したんだけど・・・なかなか元気にならなくて・・・」 「そうですか・・・でも僕は植物は詳しいですけど・・・ポケモンのことは保障できませんけど・・・」 ちょっとおじさんはがっくりした様子だった。 「でも、一応診てくれるかい?」 「はい、もちろん。」 僕の返事をきいてそのおじさんはうれしそうな顔をしてくれた。僕は早速ショルダーバッグから植物図鑑とポケモン図鑑を取りだして調べ始める。 そのベイリーフはすごく苦しそうにうつむいてる・・・ 「葉が少し腐りかけてるのかな・・・ポケモンだと腐ることはないって言われてるけど・・・」 苦悩はなかなか続く・・・やっぱりそう簡単にはいかないよな・・・でも諦めるには早すぎる・・・ 「おじさん・・・この部屋ちょっと湿っぽくないですか?日光の入る量も少ないと思うんですけど・・・」 僕は推測をもとに仮定を立てた。 「え?そう言えばこの部屋は他の部屋に湿気がこもらないようにここに集まるようになってるんだけど・・・」 「一度この部屋から出して・・・屋上みたいな湿度も低く、日光の当たるところに出してあげたいんですけど。」 おじさんは少しびっくりしたような顔をした。 「そうかい?じゃあちょっと連れ出してみるかね・・・」 そう言うとおじさんはゆっくりとベイリーフを連れて階段をのぼりはじめた。 ・・・ぎゃっ!・・・ ん?何か聞こえたような・・・まぁいいやとりあえずこっち優先で。僕はおじさんをサポートするようにベイリーフを屋上へ連れ出した。 屋上といっても2階建ての小さな店の屋上でそこまで広くない。でもあたりには遮るものはないし・・・僕の考える条件としては十分。 「うっ・・・まぶしっ・・・」 日光もばっちりだ。ベイリーフは最初に比べてそう変化が認められないけど、日光を浴びて少しづつ葉の緑が鮮やかになっていきつつあった。 「おぉ・・・君・・・ちょっと色がよくなってきたけど・・・」 僕は注意深く経過を見守る。表情も少しづつ苦しそうな感じから変化してきた。 「ん?・・・ここどこですか?」 ベイリーフは少し苦しそうだけど懸命に声を出していた。おじさんはすっごく嬉しそうにその言葉を受けた。 「おお!ベイリーフ!元気になったか・・・ここは・・・わしの店だよ・・・」 「おじさん・・・助けてくれた人・・・ううん・・・はぁ・・・」 ゆっくりとベイリーフは伸びをして、その大きな瞳を見開いた。 「そうそう、君、さっきリーフィア持ってるって言ってたよね?」 「はい。」 「ちょっと遊ばせてやってくれないかな?」 おじさんはベイリーフが元気になったのがうれしいのか僕にいろいろ注文してくる。僕は勿論快諾した。 「いいですよ。ハナ!」 またボールをポンと投げてハナを呼び出した。 「ごしゅじん?」 「このベイリーフと遊んでくれない?」 「わかった!」 ハナは元気になったベイリーフと楽しそうに話している。 「君・・・名前を教えてくれないか?」 おじさんは少しして僕に名前を聞いてきた。 「え?リョウです。」 「リョウ?いい名前だな。このベイリーフ、名前がなくて・・・名前貰っていい?」 僕は戸惑う・・・僕の名前を?うれしいのか・・・恥ずかしいな・・・でもこんなことないもんな 「いいですよ。もちろん。納得してくれればですけど。」 そう言うとおじさんは笑顔でベイリーフのもとに駆け出していろいろ聞いてた。戻ってくるとOKだったようで、笑顔だ。 おじさんはリョウと名付けられたベイリーフとハナを屋上に置いて僕と元の部屋に戻った。 「一応仕様は望み以上のものにするから・・・」 おじさんは気さくにペンを動かしまくる。仕様書は汚い字と記号で埋め尽くされている。 「え?その最初のメモくらいの機能でいいですよ。」 「いいんだって。サービス、サービス。ベイリーフも元気になってくれたし。」 ペンを動かす音の後、少し沈黙が流れておじさんは仕様書を書き上げたみたいだ。 「よし、じゃあ出来あがったら電話するから。それまで待ってな。あとここに、リョウ君以外の連絡先を書いて。」 おじさんの指示通りに僕は実家の住所と電話番号を書いた。 「ありがとう。・・・あれ?君もしかして学者のタマゴの子か?」 もしかして父さんのこと知ってる? 「はい?」 「お父さんからここ聞いた?」 「はい。」 「やっぱり。お金足りなかったらあの学者のタマゴから取るから心配しないで。結構たまってるんだよね。学生時代のツケ。」 「ツケ?」 「そう。なんか変なものばっかり作らされたよ。実験用VTRのモザイクを消すから作ってくれ、とか言われてね。」 父さん・・・なに作らせてんの・・・ちょっとがっかりだ・・・ 僕はおじさんと屋上に上がってハナをボールにしまうとリョウちゃんと呼ばれてるベイリーフに少し挨拶をて店の入り口に向かった。 「たえちゃん、店番ありがとう。」 「あっおわったんだ!ポチエナくーん起きて?」 あっ・・・コウのことすっかり忘れてた・・・コウ・・・ 「いたた・・・リョウ・・・おれのこと忘れてたでしょ?」 どきっ・・・誤魔化さないと・・・・ 「そそそそんなわけないって。ほらボールだぞ。」 コウは目を潤ませて僕を凝視する。 「ほんとにひどかったんだよぉ・・・抵抗したらバチバチ電気流されるし・・・ずっと抱きつかれてたんだから・・・」 「ごめん・・・どおりで毛並みがぐちゃぐちゃなのか・・・」 すっごくコウに申し訳ない気持ちになって謝るけど、コウはずっと目から涙を流してる。僕は軽く抱いてボールにしまうと店を後にした。 「じゃあ連絡待ってます。」 「ああ3か月くらいで出来ると思うから、楽しみにしててね。」 「はい、ありがとうございました。」 僕はおじさんと軽く挨拶をすると駅に向かう。すっかり夕焼けだ。 家に着くころにはあたりは暗くなっていた。リビングの電気を付けると僕はボールから2匹を出した。 「ごしゅじん!ご飯!」 「リョウ・・・うぅっ・・・」 ハナとコウの感じは対照的で僕はさっさと晩御飯を作って食べさせた。ハナは相変わらず早く食べ終わったのか先に身体を洗って寝かせた。 約束をすっかり忘れてしまっている・・・ハナとの約束を。 コウはまだ冷めたご飯の前で涙を流していた。 「コウ・・・ごめん・・・でもご飯食べないと・・・」 「リョウは・・・リョウは・・・おれになにがあったか知らないでしょ・・・」 なにがあったか知らなかったのは事実で、そのことについて僕は何の言い訳もできない。嫌われても仕方ない。でも何かしてあげたい・・・その気持ちしかなかった。 「おれ・・・ずっとリョウが早く戻ってきたらってずっと考えてた・・・でも全然戻ってこない・・・これ見てよ・・・」 コウは背を僕に向けて前肢で毛の抜けた後を見せた。痛々しく、おそらく何か強い刺激を受けたんだろう・・・そう考えることができた。 「あのデンリュウ・・・おれが最初に逃げようとしたときに・・・」 僕はコウの傷を見て、コウとの絆に大きな傷が出来たと思った。でも何とかして僕はそれを引きとめたかった。僕が出来ることは一つだけだった。 コウも話すのをやめた。僕に失望したんだろうか・・・僕は黙ってコウの正面に回った。 「リョウ・・・リョウ!・・・」 コウが跳びついてくると思ったので僕はそれより早くコウにギュッと抱きついた。ガシャーンとご飯の入ったお皿がひっくり返る音がした。僕の履いてたズボンにご飯がべチャっとついた。 抱いたコウの身体はぶるぶると震えている。毛並みも尋常じゃないくらい乱れてた。僕にも身体の震えが伝わり涙が出てきた。視野はもはやぼやけてなにも見れない。 「リョ~ウ~・・・」 「コウほんとごめんゆるして・・・」 「おれは・・・おれはリョウのこと嫌いになんてなってないよぉ!」 ぼろぼろと溢れた涙はコウの身体に沁みついていく。コウも僕の涙が身体に沁みたのがわかったらしく、身体の震えがもっと大きくなった。 僕はコウの身体の震えと涙がおさまるまでずっと抱きしめてた。コウも僕の涙が止まるまでずっと僕のそばから離れようとしなかった。 「コウ・・・お風呂入れる?」 「うん、リョウ・・・ありがと・・・」 涙が止まったあと治療をし、風呂に入ると身体を綺麗にして乱れた毛並みをコウの気が済むまで直していた。コウも少し笑顔が戻ってくる。 僕はご飯を台無しにしたことをわびたけど、コウも食べなくてごめん、って謝った。寝るころには夜もすっかり更けて日付も変わってた。 あれから3カ月が過ぎ、僕の発注したものが出来たと、あのお店から連絡があった。僕は相変わらずコウとハナを連れてトキワに向かった。 コウはあれから結構の頻度で強くなりたいって言ってる。僕もいつ進化するのか、心待ちにしてる。ハナは僕と同じようにコウが進化するのを待ってる感じだ。 「さて・・・トキワに着いたけど・・・なんかやだなぁ・・・コウがすごく嫌がったから・・・絶対目を離さないようにしないと。」 てくてくとあの電気店を目指して歩く。ああ・・・あったあった。相変わらずの店構え・・・そしてあいかわらずのごちゃごちゃさ。 僕は意を決して中に入る。 「こんにちは~・・・」 「いらっしゃい。出来てるよ。」 この前相手してくれた白髪交じりのメガネをかけたおじさんが出てきた。相変わらず変な服装。そしてあのデンリュウは・・・いない。 「たえちゃん探してるの?たえちゃんは今設計をしてるよ。取ってくるからちょっと待っててね。」 設計?何のだろう?まぁわからなくてもいいし。おじさんはがちゃがちゃと何やら音を立てて店の奥に入って行った。 しばらく僕はカバンの中のモンスターボール2個をじっと見てた。コウとハナ・・・この2匹が僕のパートナーなんだ・・・ おじさんが出てきた。手には何やらシルバーの機械を持ってる。 「お待たせ!リョウ君。」 その声は作ったものに対する自信なのか・・・まぁ自信なんだろう・・・ おじさんはさっきから延々と僕に作ったものの説明をしている。なぜかGPS機能やら余計な機能もすっかり付けられちゃって・・・ 「そうそう、りょうちゃん元気になったよ。ぜひ見て見て!」 話が終わったのか、おじさんはベイリーフの話をし始めた。僕は見たかったのでお願いすることにする。 「本当ですか?ぜひ会わせてください。」 「いま連れてくるから。おーいりょうちゃん!りょうちゃん!」 店の奥に向けて大声でそのベイリーフを呼ぶ。奥からがさごそと大きな音がして緑のかだらの生きものがやってきた。 「こんにちはリョウさん!僕のこと憶えてる?」 「あたりまえじゃん!」 僕と同じ名前のベイリーフの頭を僕は優しく撫でる。そのベイリーフは僕まで元気にさせるくらいうれしそうな笑顔を浮かべる。 「そうだ。ハナ?出といで。」 モンスターボールを出してハナを呼び出す。ハナはどうやらリーフィアになって成長したっていう自覚が出てきたのか、少し自制をするようになった。っていってもまだまだ仔だけどね。 「この前遊んでくれてありがとう!」 「ううん。私も楽しかったから。」 笑顔でハナは答える。僕はその光景をみてやっぱりハナは外見だけじゃなくて中身も成長してきたな、なんて思えた。 のしのし・・・という音が響く。黄色い物体がこちらに近づいてきてるのを感じた。もしや・・・あのデンリュウかな・・・少し警戒した。 「なんだか騒がしいな?ご主人?ってこの前の子供じゃん・・・」 デンリュウは僕に気付くと少し申し訳なさそうな顔をしてる。身体も少し委縮してるような気がした。 「あの・・・この前は本当に済みませんでした。ポチエナ君は元気ですか?」 素直に謝ってきたので少し僕は面食らった。今まで僕に見せてきた態度と全く違うからだ。少し戸惑いながら僕は答える。 「元気だけど・・・見る?」 「すみません。お願いします。」 デンリュウの返事を受けると僕はもう一つのボールを出した。 「ふぁぁ・・・ってこの前の!」 コウはデンリュウに気がつくとすぐに僕の後ろに隠れた。デンリュウは屈んでコウに近づく。 「この前はほんとごめんなさい・・・」 「い・・・いいよ。別に・・・」 コウも少し戸惑ってるみたいだ。僕はぷいっと横を向いたコウの頭をなでるとコウはゆっくりと前に出た。 「もう、あんなことしないでね。」 「ほんと、ごめんなさい・・・」 デンリュウの態度を完全に受け入れたのかコウはおびえた表情をやめてにっこりとほほ笑んだ。 「いいの。ほんとに。それより身体の節々が痛くて・・・」 その言葉を聞くとデンリュウはいつもの笑顔に戻った。デンリュウはすこし照れてるけどね。 「さて、仲直りも済んだし、少しゆっくりしていかないか?」 おじさんはにっこり笑って、僕を見る。僕もそれに応えるようにはい、と返事をした。おじさんはお茶を持ってくるね、と僕に言って店の奥に消えてった。 キャッキャッとハナの楽しそうに騒ぐ声が耳に入った。そのあと僕たちはおじさんの昔話を聞いたり、僕が委託したもののお金は父さんに全て請求したりしたことを知った。 2時間くらい経っただろうか・・・僕はお店を後にした。駅からまた電車に乗る。どうも電車というのはめんどくさくて・・・ 「ふぁぁ・・・もう着いたのか・・・」 あたりはまだ明るい。家まであと2、3分というところでだろうか、僕は唐突にコウの言葉を思い出した。モンスターボールをひょいっと投げる。 「コウ!出といで!」 疲れたのかコウは眠そうに僕を見てる。でも尻尾は元気にぶんぶん振ってる。 「なに?」 「身体痛いって言ってなかった?」 「なんか痛いんだよ。2日前くらいからかな?」 「なんで言わないんだよぉ・・・心配じゃん。」 「心配するほどでもないと思ったし・・・リョウにも心配かけられないからね。」 「そんな我慢するような性格じゃなかったよね?」 「失礼でしょ?それは。」 ちょっとコウはむっとした。悪いこと言っちゃったかな? ガサガサと草むらから音が耳に入った。僕はさっと振り返ると・・・黒い巨体が現れた・・・蛇だ・・・ 「やぁ・・・久しぶりだな、お前ら。よくもこの前は・・・」 「誰?」 コウは僕に聞く。僕もわからない・・・適当にあしらうか。 「誰だろう・・・邪魔するなら帰ったほうがいいよ。こっちは殺鼠剤だってなんだって持ってるんだぞ!」 強がる僕をコウは少し冷たい目で見た。 「俺のこと忘れたのか?ったく仕方ねえなあ・・・じゃあ身をもって教えてやる!」 その蛇・・・思い出した。あの林で襲ってきた・・・そして返り討ちにあったハブネークだ!ハブネークはコウに突進してきた。 「コウ!危ない!」 「へ?」 どん!そっぽを向いていたコウにハブネークの体当たりが炸裂する。コウは耐えきれず身体を滑らせる。 「いでで・・・くっそ・・・」 ハブネークはすぐさま動けなくなったコウに巻きついた。ギュっとコウの身体を締め付けていく。 「ぅぐっ・・・ごほっ・・・ごほっ・・・」 ギュっという音はギシギシという音に変わり、苦しいのかコウは咳き込んでいる。 「コウ!ハブネークやめろ!」 「やめるもんか。こいつにやられてから俺は・・・血を吐くような努力を積み重ねてきたんだ。」 努力自慢をするハブネークにいらつく僕。 「やめないと目玉潰すぞ。」 脅迫にしてはあまりにも子供じみたものだと思ったけど・・・効果があったのかハブネークは僕から身体を遠ざけようとする。でもコウを解放しようとはしない。 「ごほっ・・・りょ・・・りょ、うっ!・・・」 「コウ!」 黒い巨体はグレーの身体のコウを完全に覆っている。僕はコウを必死に呼ぶけど返事がない・・・ その時だったびくびくっとハブネークの身体が大きく震えると巻きついた巨体は弛緩しコウを解放した。コウはその場から動けない・・・ 僕はコウのもとへ駆け寄る。 「大丈夫か?コウ!」 「大丈夫だた・・・はぁはぁ・・・こいつが思った以上の馬鹿で助かった・・・」 「へ?」 ハブネークはどうやらコウの頭の締め付けをやめた瞬間があったみたいでその時にどくどくのキバで思いっきり噛んだらしい。 「あいだだ・・・また・・・やられた・・・」 「お前には戦闘は向いてないよ。」 僕はダサく動けないハブネークに冷たく言い放った。 「コウ、身体痛いよな?」 「まぁね・・・あれ・・・身体が熱いんだけど・・・」 「へ?」 コウが熱い、そう言うとコウの体はまばゆい光に包まれた。僕はまぶしくて目を瞑っていた。 光がおさまったのか僕はゆっくり目を開ける。でもそこにはコウの姿はない・・・1匹の大きな獣がいた。 その獣はコウのグレーの身体とはかなり違う・・・それでもグレーの身体をしてる・・・ ・・・でも顔もポチエナと違ってグレーの毛におおわれてる・・・頭の上から尻尾にかけての黒く太い2つの毛がふさふさとまるで髪の毛のように伸びてる・・・尻尾も黒く・・・太い。 「コウ?」 僕は呼び掛ける。その目の前の大きな獣も首をあれ?といった感じで傾げた。 「リョウ?」 獣は僕の名前を言う。にわかに信じがたい・・・ 「コウ?」 僕は思い出した。実家にいたローとサナの姿を。そう言えばポチエナの進化系ってグラエナって言うんだったな・・・抱いてみたらわかるよな。 そっとそのグラエナに近づいて首と顎を撫でる。 ぴょん!と跳んでそのグラエナが僕を押し倒した。僕は草むらに倒れこんだ。 「リョウ!俺、どしたの?」 「コウ!コウ!コウだよね!」 コウだっていう確信が持てた。コウも僕の上に乗ってくる。 「うん・・・俺どうなった?」 「家帰って鏡見て・・・事情はそれから・・・重い・・・」 ポチエナとは比較にならないその重量。コウは僕の体の上に乗ってる・・・図鑑だ・・・ポケモン図鑑で調べたらわかるだろ・・・ 大きくなったコウはひょいっと僕の上からどいた。起き上がった僕はすぐさま図鑑を取りだしてコウに向ける。 グラエナ・・・ 進化しちゃってる・・・獰猛って・・・一緒に生活してたら殺されるかなぁ・・・まぁローもサナも一緒に暮らしてたとはいえ家は別に住んでたからなぁ・・・ ハブネークにお詫び変わりにどくけしを飲ませるとその場を離れた。 僕たちは家にあわてて帰ると、寝室に置いてある鏡でコウは自分の姿を確認してる。 「こ、これが俺の姿?」 コウは身体をふるふると震わせて鏡に映った自分の姿をまじまじと見つめている。 「うん。」 「うわぁ・・・大きくなってる・・・」 「重いしね。」 ちょっとショックなのかな?ちなみにグラエナの標準は37キロだって。14・・・もうあと3日で15歳の僕は55キロだよ。今までみたいに乗っかられてきたら潰れちゃう。 「うぅ・・・一緒にリョウとお風呂に入れない・・・」 そんなことコウは気にしてたんだ。ちょっとびっくり。 「コウ・・・気にすることじゃないよ。お風呂くらいなら一緒に入れるって。」 「ほんと?」 コウは急に後ろを向くと僕にばっと跳びかかってきた。耐えきれず僕は仰向けにその場に倒れた。 「こら!コウやめなさい。」 「いやだ。」 コウは僕のお腹の上に乗っかるとぺろぺろと舌で僕の顔を舐めてきた。コウの舌のざらざらした感触が唾液と混じって気持ちいい。コウの匂いは汗と生まれたての赤ちゃんのような匂いだった。 「ひゃっ・・・こらっ・・・やめっ・・・て・・・コ・・ゥ・・・!」 コウはやめるどことかますますエスカレートしてくる。よっぽどうれしいのかな?僕も嫌とは言うけど本当は嫌じゃないし。 「嫌じゃない癖に~リョウは正直じゃないな~。」 「くすぐったいんだってほんと・・・ひゃっ・・・コウ・・・こいつぅ・・・」 僕はそっと手を伸ばしてコウの弱点・・・尻尾をふにふにと何度もつまむ。 「きゃぅっ・・・」 コウの動きが止まって僕をじっと見る。赤くつぶらな瞳は僕をずっととらえてる。怒られるかな? 「リョウのえっち。」 「なにがえっちじゃ!」 両手でコウの頭と首を何度も撫でる。コウも僕を舐めるのをやめて口元をゆるめて気持ちよさそうに首を軽く振っている。身体は大きくなっても中身は同じだ。僕の心を安堵が包む。 僕とコウはお互いの絆を確かめるように何度も撫でたり、舐めたりしあった。僕のTシャツはよだれでびしょびしょ。顔はねちょねちょ。お腹は重くて痛かったし。 顔を洗面所で丁寧に洗っているそばにはコウがずっと尻尾を振って待ってる。ポチエナの時よりも少し大人びた感じがした。ローやサナに感じてたのと同じ感覚をコウにも感じられた。 「そういえばハナのリアクションが気になるな。ごたごたで出すの忘れてたし。」 僕はモンスターボールをひょいっと投げてハナを呼び出す。 「もう!ごしゅじん!私のこと忘れてたでしょ・・・って誰この素敵な方は。」 「コウだよ。」 「おにいちゃん?」 「そう。」 ハナは目の前のグラエナがコウだとわかると途端に跳びついた。 「おにいちゃん!これで遊べるね!」 「体格差そんなにないんだから跳びつかないで・・・」 そうなんだな・・・リーフィアは体長1.1m・・・グラエナは1m。体重はリーフィアが25.5キロ。グラエナは37キロなんだな。 グラエナはがっしりしてるから重いんだよな・・・僕の目の前で繰り広げられる進化前と変わらない光景にしばし見入る。 コウはずっとこんな感じなのかな・・・お嫁さんが出来ても。ハナは変わりつつあるからね。なんとも言えない。 ところがどっこい。その後数か月でコウはすっかり今までとは違う姿を見せ始めた。ポチエナの時にちょっとだけ使ってた大人びた口調を今では普通に使ってる。 「リョウ。もうリョウの話はいいです。たまには俺の話も聞きなさい。」 「あ、ごめんごめん。にしてもすっかり成長したな。」 いつものように一緒に林を調べつつ、僕はコウの背中をなでる。コウは血走ることもないし、でも甘えてくるのは前と変わらないけど。 「コウ、コウはもう僕のパートナー以上の存在だけど、何かしたいこととかないの?」 「んにゃ?したいことか・・・そうだな。リョウの言う戦わずに相手の戦う意思をそぐっていう・・・それに興味がある。」 「コウ・・・僕から教えることはもうないかな。」 「でも今までので十分だ。でも俺はリョウから離れる気は全くないけどな。なんというか不安なんだな。俺も、リョウのことも。付き合い長いからさ。」 「コウ・・・」 僕は微笑んでコウを見た。 ガサガサ! 「来たぞ、リョウ。お客だ。」 「戦うのは避けて。これが実用の本試験かな?」 「わかった。」 茂みからはどこから現れたのかヘルガーが出てきた。 「おい、おまえら。痛い目にあいたくないなら、俺と闘え!」 痛い目に会いたくないなら戦えってか。矛盾じゃねぇか。 「コウ?」 「わかってる、リョウ。まぁしばし見てなって。」 コウはそう言うとヘルガーとの間合いを取り始めた。 コウは僕にとって人生そのもの。一緒に育って・・・一緒にいることが最大の幸せだ。コウもそう思ってるかな? まぁ、僕たちならできないことはなにもないかな?きっとそうだ。僕たちの前には可能性の未来が広がっている。 終わり #hr 最後まで読んでいただいてありがとうございます。 あまりにも書きすぎて、本題のグラエナに進化してからの話のほうが短くなってきた。 広げすぎてあれやこれやと詰めた感じは否めないな。これは。 #hr #pcomment(,,)